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特許7238129高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230306BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20230306BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C21D9/46 G
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021531024
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 CN2019121868
(87)【国際公開番号】W WO2020108597
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】201811444049.0
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薛 鵬
(72)【発明者】
【氏名】朱 曉 東
(72)【発明者】
【氏名】李 偉
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152163(WO,A1)
【文献】特開2006-219741(JP,A)
【文献】特表2010-526935(JP,A)
【文献】特開2011-132602(JP,A)
【文献】国際公開第2015/162849(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0041024(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105734410(CN,A)
【文献】特開2004-068050(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193787(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分の質量百分率が、C:0.08%~0.12%、Si:0.1%~1.0%、Mn:1.9%~2.6%、Al:0.01%~0.05%、Cr:0.1~0.55%、Mo:0.1~0.5%、Ti:0.01~0.1%であり、残部がFe及び不可避不純物であり、さらに、以下の関係:
1.8≧5×[C]+0.4×[Si]+0.1×([Mn]+[Cr]+[Mo])≧1.3,[Mo]≧3×[Ti]
を満足し、
前記冷間圧延鋼板のミクロ組織がフェライト+ベイナイト+マルテンサイトであり、前記ミクロ組織中に残留オーステナイトを含まず、そのうち、フェライトの体積分率含有量が10%超え、ベイナイトの体積分率含有量が30%超え、マルテンサイトの体積分率含有量が15%超えであり、前記ミクロ組織には、均一かつ分散して分布するナノスケールの析出物がさらに含まれており、析出物の平均サイズが20nm未満であり、
前記冷間圧延鋼板は、降伏強度が600MPa超え、引張強度が980MPa超え、伸び率が11%超え、穴拡げ率が45%以上であることを特徴とする、高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板。
【請求項2】
前記Cの含有量が0.09%~0.11%であることを特徴とする請求項1に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板。
【請求項3】
前記Siの含有量が0.4%~0.8%であることを特徴とする請求項1に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板。
【請求項4】
前記Mnの含有量が2.1%~2.4%であることを特徴とする請求項1に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板。
【請求項5】
前記Alの含有量が0.015~0.045%であることを特徴とする請求項1に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板。
【請求項6】
前記Crの含有量が0.2%~0.4%であることを特徴とする請求項1に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板。
【請求項7】
前記Moの含有量が0.2%~0.3%であることを特徴とする請求項1に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板。
【請求項8】
前記Ti含有量が0.02%~0.05%であることを特徴とする請求項1に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板。
【請求項9】
1.45≦5×[C]+0.4×[Si]+0.1×([Mn]+[Cr]+[Mo])≦1.7を満足することを特徴とする請求項1に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板。
【請求項10】
前記冷間圧延鋼板のミクロ組織がフェライト+ベイナイト+マルテンサイトであり、そのうち、フェライトの体積分率含有量が10%超えかつ30%以下であり、ベイナイトの体積分率含有量が35%~75%であり、マルテンサイトの体積分率含有量が15%超えかつ35%以下であることを特徴とする請求項1に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板。
【請求項11】
以下の工程:
1)製錬、鋳造:請求項1~のいずれか一項に記載の組成に従って製錬し、ビレットに鋳造する;
2)熱間圧延:最初に1150~1250℃に加熱し、0.5時間以上保持してから、Ar3以上の温度で熱間圧延し、圧延後に30~100℃/sの速度で急速に冷却し、巻取り温度が600~750℃である;
3)冷間圧延:冷間圧延の圧下率が30~70%に制御される;
4)焼鈍:焼鈍均熱温度が810~870℃であり、均熱保持時間が50~100秒であり、その後、3~10℃/秒の速度で660~730℃である急冷開始温度まで冷却し、その後に30~200℃/sの速度で200~460℃まで冷却する;
5)過時効:過時効温度が320~460℃、過時効時間が100~400秒である、
を含むことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板の製造方法。
【請求項12】
0.05~0.3%のレベリング率で行う工程6)レベリングをさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板の製造方法。
【請求項13】
工程2)において、保持時間が0.5~3時間であり;
工程3)において、冷間圧延の圧下率が50~70%に制御され;
工程4)において、焼鈍温度が820~870℃であり、均熱保持時間が50~90秒であり、50~200℃/sの速度で320~460℃まで冷却されることを特徴とする請求項11に記載の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延鋼板及びその製造方法に関し、特に、高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的なエネルギー危機と環境問題の深刻化に伴い、省エネと安全性は自動車製造業の主要な発展の方向性となっている。高強度の鋼は、優れた機械的特性と使用性を備えており、構造部品の製造に適している。
【0003】
従来の冷間圧延鋼板では、高穴拡げ率を得るための一般的な方法は、連続焼鈍+中温過時効のプロセスルートを通じてマトリックスに最終的にベイナイト組織を高い割合で得る(一般にベイナイト含有量が70%以上である複相鋼)ことで、組織の強度差を減らし、穴拡げ率を増加させる。このタイプの高穴拡げ性鋼板には、以下のような固有の欠点がある:ベイナイト組織の比率が高いと、高穴拡げ率を確保できるが、ベイナイト組織の比率が高いマトリックスの伸び率は高くなく、材料の加工性能が低下する。
【0004】
その他、穴拡げ率が高い冷間圧延高強度鋼は、次のものが挙げられる。
米国特許公開第US20180023155A1号は、伸び率および穴拡げ率が優れた980MPa以上級の超高強度冷間圧延鋼板およびその製造方法を開示している。そのうち、C:0.1-0.5%、Si:0.8-4.0%、Mn:1.0-4.0%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0-2%、N:0.01%以下、Ti:0.02-0.15%であり、さらに他の元素も添加できる。最終組織には、フェライト相、ベイナイト相、及びマルテンサイト相が含まれている必要があり、かつ10~25%の残留オーステナイト相が含まれている必要がある。その独自性は、Siの添加によって残留オーステナイトを得て優れた伸び率および穴拡げ率が得られ、かつ980MPaの穴拡げ率が30%以上にしか到達できないことにある。
【0005】
韓国特許公開第KR1858852B1は、高伸び率、高靭性、穴拡げ率が優れた980MPa以上級の超高強度冷間圧延鋼板およびその製造方法を開示している。そのうち、C:0.06-0.2%、Si:0.3-2.5%、Mn:1.5-3.0%、Al:0.01-0.2%、Mo:0-0.2%、Ti:0.01-0.05%、Ni:0.01-3.0%、Sb:0.02-0.05%、B:0.0005-0.003%、N:0.01%以下であり、残部がFe及び他の不可避不純物である。その独自性は、プロセスを通じて焼戻しマルテンサイトとマルテンサイトの比率を制御し、且つ、Siの添加を増やすことにより最終組織に20%以上の残留オーステナイトを含み、最終的に、良い総合的な成形性が得られることにある。
【0006】
上記の2つの特許出願は両方とも、Siを添加することにより残留オーステナイトを得ることで、比較的に良い穴拡げ率が得られる方法について紹介しており、両方の出願は、高いSi含有量の添加に依存している。
【0007】
現在、超高強度DP鋼及びQP鋼は強度と塑性に優れているが、穴拡げ率(約20%~35%)は従来の自動車用軟鋼の穴拡げ率よりもはるかに低く、CP鋼の穴拡げ率が高いであるが、伸び率が低すぎる。従って、DP鋼の伸び率よりも低くないとともに、穴拡げ率が改善される製品の開発は、幅広い適用の見通しがあるだろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板およびその製造方法を提供することであり、当該鋼板は、降伏強度が600MPa超え、引張強度が980MPa超え、伸び率が11%超え、穴拡げ率が45%以上であり、鋼板の強度が980MPa級に達し、最終組織に30%以上のバイナイトを含むことで、より高い穴拡げ率が得られ、マルテンサイトの体積比率を15%以上とすることで、強度を確保し、残りの組織を10%以上のフェライトとすることで、より高い伸び率を確保し、且つ、組織中に均一かつ分散して分布するナノスケールの析出物を得ることで、より高い析出強化効果が得られ、相間の強度差が減少するため、優れた穴拡げ率が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の技術案は以下のようである。
本発明の鋼設計の組成は、主にC+Mn+Cr+Mo+Tiで構成される組成系であり、C、Mn、Cr、およびMoの協調設計により、熱間圧延と巻き取りの後に拡散型相変態-フェライト変態を確実に発生させ、多数の相間ナノ析出物を生成するとともに、ベイナイトC曲線が左にシフトし、最終的なベイナイトの体積分率含有量が30%を超えることを確保しながら、特定の焼入れ性を確保して最終組織のマルテンサイトの体積分率含有量が15%を超えることを確保する。
【0010】
具体的には、本発明の高穴拡げ率と高伸び率を有する980MPa級冷間圧延鋼板は、化学成分の質量百分率が、C:0.08%~0.12%、Si:0.1%~1.0%、Mn:1.9%~2.6%、Al:0.01%~0.05%、Cr:0.1~0.55%、Mo:0.1~0.5%、Ti:0.01~0.1%であり、残部がFe及び不可避不純物であり、さらに、以下の関係を満足する。
【0011】
1.8≧5×[C]+0.4×[Si]+0.1×([Mn]+[Cr]+[Mo])≧1.3,[Mo]≧3×[Ti]
本発明の冷間圧延鋼板のミクロ組織はフェライト+ベイナイト+マルテンサイトに加えて、均一かつ分散して(即ち、散らばって)分布するナノスケールの析出物が含まれ、そのうち、ベイナイトの体積分率含有量が30%超え、マルテンサイトの体積分率含有量が15%超え、析出物の平均サイズが20nm未満である。一般に、本発明の冷間圧延鋼板のミクロ組織において、マルテンサイトの体積分率含有量の上限が35%、フェライトの体積分率含有量の上限が30%、ベイナイトの体積分率含有量の上限が75%である。好ましくは、本発明の鋼板のミクロ組織において、ベイナイトの体積分率含有量が35%超え、マルテンサイトの体積分率含有量が20%超えである。いくつかの実施形態では、本発明の冷間圧延鋼板のミクロ組織におけるベイナイトの体積分率含有量が35%超え、マルテンサイトの体積分率含有量が15%超えである。好ましくは、本発明の冷間圧延鋼板のミクロ組織において、マルテンサイトの体積分率含有量が15%超えかつ35%以下、より好ましくは20~35%であり;フェライトの体積分率含有量が10%超えかつ30%以下であり;ベイナイトの体積分率含有量が30%超えかつ75%以下、より好ましくは35~75%である。本発明の冷間圧延鋼板は、ミクロ組織中に残留オーステナイトを含まない。
【0012】
本発明の鋼板の降伏強度は、600MPa以上、好ましくは650MPa以上、より好ましくは700MPa以上である。いくつかの実施形態では、本発明の鋼板の降伏強度は、600~850MPaの範囲内であり、例えば、700~850MPaの範囲内であってもよい。本発明の鋼板の引張強度は、980MPa以上、好ましくは1000MPa以上、より好ましくは1020MPa以上である。いくつかの実施形態では、本発明の鋼板の引張強度は、980~1100MPaの範囲内であり、例えば、1000~1100MPaの範囲内である。本発明の鋼板の伸び率は、11%以上、好ましくは11.5%以上、より好ましくは12.0%以上である。本発明の鋼板の穴拡げ率は、45%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上である。
【0013】
本発明の鋼板の成分設計において、
C:本発明の鋼板において、C元素の添加は、鋼の強度を高め、マルテンサイト相変態の発生およびナノ析出物の生成を確保するように機能する。C含有量は、0.08%~0.12%の間で選択され、その理由は、C含有量が0.08%未満であると、焼鈍過程中に十分なベイナイトとマルテンサイトが生成されることを確保できないためであり、十分なナノ析出物が析出することを確保できないと、鋼板の強度に影響する。一方、C含有量が0.12%を超えると、マルテンサイト硬度が高すぎて結晶粒径が粗くなり、鋼板の成形性に不利であり、熱間圧延と巻き取り後にフェライト相変態が起こりにくくなり、ナノ析出物が生成することができない。好ましくは、C含有量は、0.08%~0.1%、または0.09~0.11%である。
【0014】
Si:Siの添加は、鋼の焼入れ性を向上させる。さらに、鋼中において固溶されるSiは、転位の相互作用に影響を与え、加工硬化率を高め、伸び率を適切に高めることができ、良好な成形性を得るのに寄与する。Si含有量は、0.1%~1.0%、好ましくは0.4%~0.8%に制御される。
【0015】
Mn:Mn元素の添加は、鋼の焼入れ性の改善に有利であり、鋼板の強度を効果的に高める。Mnの質量百分率は1.9%~2.6%の間で選択され、その理由は、Mnの質量百分率が1.9%未満であると、焼入れ性が不十分であり、焼鈍過程中に十分なマルテンサイトを生成できないため、鋼板の強度が不十分になる。一方、Mnの質量百分率が2.6%を超えると、熱間圧延と巻き取りの過程中にベイナイト相変態が発生し、相間で析出したナノ析出物を生成できなくなる。従って、本発明では、Mnの質量百分率は、Mn:1.9~2.6%、好ましくは2.1%~2.4%に制御される。
【0016】
Cr:MnとCrは、いずれも炭化物形成元素(固溶して炭素をドラッグするもの)であり、焼入れ性を考慮する場合、強度を確保するために互いに交換することができる。ただし、Crの添加は、パーライトの相変態をより遅らせ、ベイナイトの変態ゾーンを左にシフトすることができ、且つ、そのMs点を低下させる効果がMnより小さいため、Crの適切な添加は、ベイナイトの含有量を30%より大きく、マルテンサイトの含有量を20%より大きくなるように制御することに対し、より直接的な影響を及ぼす。従って、本発明では、Crの質量百分率は、Cr:0.1~0.55%、好ましくは0.2%~0.4%に制御される。
【0017】
Al:Alの添加は、脱酸および結晶粒微細化の効果があるため、Alの質量百分率は、Al:0.01%~0.05%、好ましくは0.015~0.045%に制御される。
【0018】
Mo:Moは、0.1~0.5%で添加され、その理由として、まず、Moはナノ析出物の生成に影響を与える最も重要な化合物元素である。Moはオーステナイト中のTi(C、N)の固溶度を高め、固溶体中に大量のTiを保持し、低温変態時に分散・析出し、より高い強化効果を発揮する。Mo炭化物は低温でTi炭窒化物と一緒に複合析出し、微細なナノスケールの析出相を形成する。好ましくは、0.2%~0.3%で添加される。
【0019】
Ti:Tiは、0.01~0.1%で添加され、その理由として、Tiは、ナノ析出物の主な複合元素であると同時に、高温でオーステナイト結晶粒の成長を抑制して結晶粒を微細化する強い効果を示す。しかし、低炭素鋼では、Nb、Tiなどの炭窒化物生成元素が多すぎるとその後の相変態に影響を与えるため、合金元素の含有量の上限を制御する必要があり、好ましくはTi:0.02%~0.05%に制御する。
【0020】
本発明の技術案において、不純物元素は、P、N、Sを含み、不純物の含有量が低く制御されるほど、実施効果が向上する。Pの質量百分率は、P≦0.015%に制御される。Sにより形成されたMnSは成形性能に深刻な影響を与えるため、Sの質量百分率がS≦0.003%に制御される。Nはビレットの表面に亀裂や気泡を発生させる可能性があるため、N≦0.005%に制御される。
【0021】
上記の組成設計では、ナノ析出物生成の主な段階は熱間圧延であり、熱間圧延と巻き取りの後に、拡散型相変態-フェライト相変態が発生することにより、十分な相間ナノ析出物が確実に生成されるため、C、Mn、Cr、Moの含有量は、熱間圧延と巻き取りの後に拡散型相変態-フェライト相変態が確実に発生するように、巻き取り温度の合理的な設計と組み合わせて合理的に設計する必要がある。C、Mn、Cr、Moの含有量は、式5×[C]+0.4×[Si]+0.1×([Mn]+[Cr]+[Mo])に従って計算されて、1.8より大きくなると、熱間圧延中にフェライト相変態が発生する可能性が低くなり、ナノ析出物の生成に不利である。好ましくは、1.45≦5×[C]+0.4×[Si]+0.1×([Mn]+[Cr]+[Mo])≦1.7である。
【0022】
同時に、冷間圧延および連続焼鈍後の鋼板の最終組織は、フェライト+ベイナイト+マルテンサイトであり、C、Mn、Cr、Moの含有量を、ベイナイトC曲線が左にシフトし、最終的なベイナイトの体積分率含有量が30%超え、好ましくは、35%以上であることを確保しながら、一定の焼入れ性を確保して最終組織のマルテンサイトの体積分率含有量が15%超え、好ましくは20%以上であることを確保し、そして、980MPa以上の引張強度を確保するように、合理的な設計が必要である。C、Mn、Cr、Moの含有量は、式5×[C]+0.4×[Si]+0.1×([Mn]+[Cr]+[Mo])に従って計算されて、1.3より小さくなると、最終組織におけるベイナイトとマルテンサイトの比率が不十分であり、980MPa級の引張強度を得ることに不利である。
【0023】
従って、さらに、本発明のC、Mn、Siの含有量は、式:1.8≧5×[C]+0.4×[Si]+0.1×([Mn]+[Cr]+[Mo])≧1.3を満足する必要があり、これにより、最終組織におけるベイナイトの体積分率含有量が30%超え、好ましくは35%以上であり、マルテンサイトの体積分率含有量が15%超え、好ましくは20%以上であり、および大量のナノ析出物が均一かつ分散して分布することを確保する。
【0024】
また、本発明の鋼板の製造工程において、Mo含有量が多いほど、オーステナイトにおけるTiの固溶体量への影響が大きくなり、相変態の時にオーステナイトに固溶されるTi(C、N)がより多く析出し、相間に析出したナノスケールの析出物も多くなる。本発明の最終組織に必要な十分な量の均一かつ分散して分布するナノスケールの析出物を達成するために、本発明のMo、Tiの含有量はまた、式[Mo]≧3×[Ti]、好ましくは[Mo]/[Ti]≧5を満足する必要がある。
【0025】
本発明の低コストで成形性の高い980MPa級冷間圧延鋼板の製造方法は、以下の工程を含む。
【0026】
1)製錬、鋳造:上記の組成に従って製錬し、ビレットに鋳造する;
2)熱間圧延:最初に1150~1250℃に加熱し、0.5時間以上保持してから、
Ar3以上の温度で熱間圧延し、圧延後に30~100℃/sの速度で急速に冷却し、巻取り温度:600~750℃である;
3)冷間圧延:冷間圧延の圧下率が30~70%、好ましくは50~70%に制御される;
4)焼鈍:焼鈍均熱温度が810~870℃、好ましくは830~860℃であり、均熱保持時間が50~100秒であり、その後、3~10℃/秒の速度で急冷開始温度である660~730℃まで冷却し、その後に30~200℃/sの速度で200~460℃(急冷終了温度)まで冷却する;
5)過時効:過時効温度が320~460℃、過時効時間が100~400秒である。
【0027】
好ましくは、本発明の低コストで成形性の高い980MPa級冷間圧延鋼板の製造方法は、さらに工程6)、即ち、レベリング工程を含む。好ましくは、レベリング工程が実施される場合、レベリング率は、好ましくは、0.05~0.3%である。
【0028】
いくつかの実施形態では、焼鈍の均熱温度は、好ましくは820~870℃、より好ましくは840~860℃である。
【0029】
本発明の鋼板の製造方法において、
熱間圧延工程において、保持時間は通常0.5時間以上、好ましくは0.5~3時間である。いくつかの実施形態では、保持時間は0.8~1.5時間である。
【0030】
熱間圧延工程では、特定の巻き取り温度を使用し、フェライト相変態域(600~750℃)で巻き取る。熱間圧延と巻き取りの後に拡散型相変態-フェライト相変態が発生することにより、相間に十分な量の均一かつ分散して分布するナノ析出物の析出を確実にすることができる。当該組成系のフェライト相変態域の温度は600~750℃であり、巻き取り温度が600℃未満であると、ベイナイト相変態域に入り、十分なナノ析出物の生成を確保することはできない。
【0031】
上記焼鈍工程では、焼鈍均熱温度は810~870℃に制限され、均熱保持時間は50~100秒である。これは、当該焼鈍温度で980MPaの引張強度を確保できるとともに、十分な量の均一かつ分散して分布するナノ析出物を維持できるためである。焼鈍均熱温度が810℃未満または均熱保持時間が50秒未満であると、材料のオーステナイト化率が不十分であり、最終組織に十分な量のマルテンサイトを生成できず、980MPaの引張強度を確保できない。焼鈍均熱温度が870℃超、または均熱保持時間が100秒超であると、熱間圧延と巻き取りの後に生成されたナノ析出物が成長し、オーステナイトへの再固溶を引き起こし、十分な量のナノ析出物が最終組織に残ることを確保できず、析出強化と穴拡げ率の向上の効果を確保できない。いくつかの実施形態では、均熱保持時間は50~90秒である。
【0032】
上記の焼鈍工程では、急冷開始温度は660~730℃である。徐冷過程は、連続焼鈍過程中に生成されるフェライトの量に関連している。急冷開始温度は660℃未満であり、フェライトの生成量が高すぎると、ベイナイトとマルテンサイトの最小含有量を確保できない。急冷開始温度は730℃を超えると、十分なフェライトの生成量を確保できず、最終に高い伸び率を得ることを確保できない。徐冷過程には拡散型相変態-フェライト相変態が発生し、ナノ析出物の二次析出が発生し、これにより、最終的なフェライト組織に二回で析出したナノ析出物が含まれて、ベイナイト相、マルテンサイト相の強度との差が低減する。幾つかの実施形態において、急冷終了温度は200~400℃である。幾つかの実施形態において、急冷終了温度は320~460℃である。
【0033】
上記の過時効工程において、過時効温度を320~460℃の範囲内とすることで、最終組織に30%以上のベイナイトを含むことを確保できる。
【0034】
従来技術と比較して、本発明で採用される技術的ルートは、フェライト+ベイナイト+マルテンサイトの最終組織であって、かつ微細で分散したナノ析出物を含む最終組織を得ることで、高穴拡げ率と高伸び率を得る。
【0035】
本発明は、ベイナイトを導入することで、プロトタイプの二相鋼フェライト+マルテンサイト二相組織の相間強度差を改善し、穴拡げ率を向上させることができる。犠牲された引張強度は、ナノ析出物の析出強化効果によって強化される。最終的なフェライト組織にはナノ析出物が含まれることにより、最終的なマトリックスにフェライト組織を強化し、マトリックスにおけるベイナイト、マルテンサイト組織との強度差を低減し、最終的に高い穴拡げ率を得る。
【0036】
さらに、組織内のマルテンサイト及び微細で分散したナノ析出物は、材料のより高い強度を確保でき、フェライト組織及び微細化された結晶粒は、伸びがより高く、材料の総合特性が優れることを確保できる。
【0037】
本発明の鋼板組織は、10%以上のフェライト+30%以上のベイナイト+15%以上のマルテンサイト+平均直径20nm未満の均一かつ分散して分布するナノ析出物であり、その結果、高強度を確保する前提の下で、穴拡げ率が優れており、降伏強度が600MPa超え、引張強度が980MPa超え、伸び率が11%超え、穴拡げ率が45%以上であり、穴拡げ率が高く、伸び率が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、具体的な実施例に基づいて本発明についてさらに解釈と説明をするが、当該解釈と説明は、本発明の技術案を不適当に限定するものではない。
【0039】
本発明の実施例の鋼の組成は表1を参照し、その組成の残部がFeである。表2は、実施例の鋼板のプロセスパラメータを示す。引張試験は標準ASTM A370-2017法に従って実施され、穴拡げ率試験はISO/TS 16630-2017法に従って実施される。表3は、実施例の鋼板の関連する性能パラメータを示す。
【0040】
本発明の実施例の鋼の製造方法は、以下の通りである。
(1)製錬と鋳造:必要な合金組成を取得し、S及びPの含有量を最大限度に低減した。
【0041】
(2)熱間圧延:最初に1150~1250℃に加熱し、0.5時間以上保持してから、Ar3以上の温度で熱間圧延し、圧延後に30~100℃/sの速度で急速に冷却し、熱間圧延工程で巻取り温度が600~750℃であった。
【0042】
(3)冷間圧延:冷間圧延の圧下率を30~70%に制御した。
(4)焼鈍:焼鈍均熱温度が810~870℃、好ましくは830~860℃であり、均熱保持時間が50~100秒であり、その後、v1=3~10℃/秒の速度で急冷開始温度である660~730℃まで冷却し、その後にv2=30~200℃/sの速度で200~460℃まで冷却した。
【0043】
(5)過時効:過時効温度が320~460℃、過時効時間が100~400秒であった。
【0044】
任意的に、各実施例の製造方法は、0.05~0.3%のレベリング率で行う工程(6)レベリングをさらに含む。
【0045】
表3から分かるように、実施例1~12は、本発明の組成およびプロセスで得られた冷間圧延鋼板の機械的特性を示しており、それらの降伏強度が600MPaを超え、引張強度が980MPaを超え、伸び率が11%を超え、穴広げ率が45%以上である。
【0046】
これは、本願発明の980MPa級冷間圧延鋼板が980MPa超えの引張強度、及び優れた穴広げ率を有することを表明している。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】