(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】合金のマトリックス中に分散したセラミック核燃料
(51)【国際特許分類】
G21C 3/64 20060101AFI20230306BHJP
G21C 3/62 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
G21C3/64
G21C3/62 500
G21C3/62 300
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022019605
(22)【出願日】2022-02-10
(62)【分割の表示】P 2020037388の分割
【原出願日】2015-04-07
【審査請求日】2022-03-11
(32)【優先日】2014-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511292208
【氏名又は名称】アドバンスト・リアクター・コンセプツ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】ウォルターズ,レオン・シー
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-529051(JP,A)
【文献】特表2013-517479(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0257707(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/64
G21C 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンを製造する方法であって、次の各工程:
1種以上の金属核燃料の原料を溶解し、それにより溶融した金属の溶融物を形成させること;
溶融した金属の溶融物の中に
粉砕したセラミック粒子を添加し、それにより混合物を形成させること;
混合物を激しく攪拌すること
;および
混合物を鋳型の中で凝固させ、それによりサーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンを形成すること;
を含
み、
前記1種以上の金属核燃料の原料は、粉末冶金プロセスによって製造された金属燃料の粒子と混合される、前記方法。
【請求項2】
前記粉砕したセラミック粒子は、90%を超える酸化ウラン、6%の核分裂性生成物、及び1.5%の超ウラン元素を含む組成を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
セラミック粒子には、粉砕し
た使用済み核燃料、酸化トリウム、酸化アメリシウム、およびこれらの組み合わせが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
セラミック粒子には、酸化トリウム、酸化アメリシウム、およびこれらの組み合わせが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
鋳型は円柱状の穴を有し、この円柱状の穴のほぼ中心に棒がある、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
得られるサーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンは、環状のサーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
鋳型は、この鋳型の中の穴の中にぴったり合うように据え付けられた1つ以上のジルコニウム管を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
得られる燃料ピンは、ジルコニウムシースサーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
サーメット金属燃料マトリックスの中のセラミック粒子の分布は、混合物を急速冷却によって凝固させた後にも均一なままである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
1種以上の金属核燃料の原料は、ウランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
1種以上の金属核燃料の原料は、(i)ウラン、および(ii)ジルコニウムまたはモリブデンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
1種以上の金属核燃料の原料は、ウランと超ウラン元素の混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記セラミック粒子は主としてU238である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記セラミック粒子は、Pu240およびPu241の同位体を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核燃料に関し、特に、金属の核燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の電力需要は2030年までに2倍程度になり、そして2050年までには4倍程度になると予想される。世界の電力需要の増加は先進国から生じ、かなりの程度までは発展途上国から生じると予測される。需要のこの急速な増加を満たすためには、原子力は現実的かつ費用対効果が高いエネルギー源であろう。
【0003】
天然ガスの電力生成からの寄与などの、他の源からの増大するエネルギーの供給は、高くおよび変動しやすいガスの価格、温室効果ガスの排出、および不安定な供給源への長期間の依存に対する懸念によって制約を受けるだろう。一方、代替エネルギー(太陽熱、風力、バイオマス、水力発電など)の形態は、増大する需要の幾分かを満たすのに有用であるかもしれない。しかし、それらは十分には増大せず、新たな電力需要の幾ばくかの重要な部分を満たすために、大部分の市場における十分な追加の電力生成能力を提供することはできない。
【0004】
石炭発電所は幾ばくかの追加の供給を提供するであろうが、しかし、石炭の燃焼質量は、有害な環境への影響がある場合には、重大な政治上の障害をもたらす。
在来型の原子力発電所も追加の需要の一部を満たすかもしれない。しかし、在来型の原子力発電所は、技術上かつ社会一般に受け入れられるために克服すべき多くの障害を伴っている。新しいタイプの核燃料も必要とされるだろう。
【0005】
特定の高速炉をベースとする発電所は、高温冶金リサイクル技術に基づく閉じた燃料サイクルによって維持される20年の燃料交換間隔を有していてもよい。初期の炉心への充填(loading)のために、ウラン(U)/プルトニウム(Pu)/ジルコニウム(Zr) 組成物または濃縮したU/Zr組成物からなる合金燃料の形態を用いることができる。燃料ピン(
燃料棒)を製造するために、遠隔射出鋳造プロセスを用いることができる。燃料の定常状態、過渡状態(transient)および安全性能についての極めて広範囲にわたる照射のデー
タベースが存在する。3元合金のリサイクルピンは高度に放射性の場合があり、それらの製造のために1500~1600℃の温度において遮蔽の後ろで遠隔操作を用いる技術は十分に確立されている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の態様は、セラミック粒子を組み入れた金属の核燃料を製造するための方法を含むだろう。特定の態様において、そのセラミック粒子は、粉砕した軽水炉(LWR)使用済み核燃料(SNF)を含むことができる。特定の態様において、セラミック粒子は酸化トリウムおよび/または酸化アメリシウムを含むことができる。特定の態様において、使用済み原子炉燃料からの材料を合金混合物に添加することができる。例えば、軽水炉使用済み核燃料のようなセラミック粒子を粉砕して、合金のマトリックス中に分散させることができる。
【0007】
米国特許第8,571,167号明細書、米国特許出願公開第2011/019466
6号明細書、および米国特許出願公開第2011/0206173号明細書はそれぞれ、
それらの全体が引用文献として本明細書に取り込まれる。
【0008】
特定の態様において、以下の三つのプロセスのうちのいずれかで、セラミック酸化物の
LWR-SNF粒子を金属の高速炉燃料と合体させることができる:
1.下注ぎ鋳造(bottom pour casting)燃料スラッグ。環状(または円柱状)の燃料の
スラッグの下注ぎ鋳造を行う前に、溶融した金属燃料の仕込み原料にSNF燃料粒子を添加することができる。二重の周波数を用いて仕込み原料を誘導加熱することができ、周波数の変化が溶融物の中でのSNF粒子の混合をもたらすだろう。
2.中実燃料スラッグの射出鋳造(injection casting)。中実で円柱状の燃料スラッグ
の射出鋳造を行う前に、溶融した金属燃料の仕込み原料にSNF燃料粒子を添加することができる。仕込み原料は1で説明したようにして加熱されるだろう。
3.粉末冶金プロセス。粉末冶金プロセスによって製造された金属燃料の粒子とSNF燃料粒子を合体(混合)することができる。
【0009】
金属燃料に添加することができるSNF燃料粒子の最大限の量は、金属燃料の連続したマトリックスをもたらす量でなければならない。
短時間の照射の後、いずれの製造プロセスを用いたかに関わらず、燃料のミクロ組織を、粉砕したセラミック粒子を含まない場合の射出鋳造した燃料のミクロ組織と同一、実質的に同一、および/または機能上同一にすることができる。従って、SNF粒子を含まない場合の射出鋳造した燃料についての広範囲にわたるデータベースは、予想される照射処理能についての優れた指針となるだろう。
【0010】
プロセスの詳細および燃料棒を製造するためのそれぞれのプロセスの特質について以下で説明する。それぞれのプロセスは、複数回のリサイクルにわたって超ウラン元素を焼却することによるSNFの問題の解決に寄与し、また、それらの全てがプロセスにおいてPu239を変性させるだろう。特定の態様において、燃料棒は再処理した金属燃料を用いて製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
下注ぎ鋳造
特定の装置において、鋼クラッド燃料ピンの中に挿入するためのスラッグを製造するために下注ぎ鋳造技術を用いることができる。スラッグは、環状のジルコニウム(Zr)シース(sheathed)スラッグとすることができる。照射を行うと、製造したままのピンを、元々の射出鋳造の製造プロセスによって生成される慣用の形態(traditional morphology)へと迅速に再構築することができ、そのため、そのような燃料ピンのための現行の広範囲にわたる性能のデータベースが引き続き適用される。
【0012】
以下の説明は環状の燃料ピンを製造するための典型的な態様に関するものであるが、円柱状またはその他の形状の燃料ピンを含めた任意の様々な燃料ピンを製造するために下注ぎ鋳造を用いることができることを理解されたい。
【0013】
環状の燃料ピンのための原料を下注ぎ用の坩堝の中に仕込み、そして誘導炉の中で溶解させることができる。溶解時間、温度、圧力、およびその他の操作条件は、投入する原料に基づいて選択することができる。原料は、金属ウラン(U)および超ウラン元素に加えてモリブデン(Mo)および/またはジルコニウム(Zr)についての所望の組成が得られるように選択することができる。特定の態様において、原料には、例えば、ウラン、ジルコニウム、超ウラン元素、再処理した金属燃料、およびこれらの組み合わせが含まれる。特定の態様において、予備成形した薄い壁のジルコニウム管を、黒鉛鋳型の中の締り嵌めされる穴の中にぴったり合うように挿入することができる。黒鉛鋳型の穴の中心に棒を配置することができる。坩堝の底にある栓を上げると、合金の溶融物が鋳型の中に流入して凝固するだろう。
【0014】
このようにして、特定の態様において半径方向でZrの被覆に取り囲まれた環状の燃料
ピンのスラッグを製造することができる。環状の燃料ピンのスラッグを鋳型から取り出して、締り嵌めされる鋼のクラッドの中に挿入することができる。エンドキャップ(end cap)を溶接することができる。このようなピンの束を組み立てて、複数のピンの燃料集合
体にすることができる。
【0015】
特定の態様において、金属の溶融物が溶融状態になった後に、粉砕したセラミック粒子の仕込み原料を溶融物に添加することができる。溶融した金属の乱流動様式(roiling flow regime)が形成されるように、誘導炉の周波数を調整することができる。乱流動様式
は、溶融した金属相の中にセラミック粒子が均一に混合するのに役立つだろう。ウラン(
U)/プルトニウム(Pu)/ジルコニウム(Zr) およびウラン(U)/ジルコニウム(Zr) の誘導加熱は現行の射出鋳造プロセスによって知られていて、周波数を調整することによって乱流動様式を形成することができることも知られている。
【0016】
一定の時間が経過した後、撹乱を停止させることができる。撹乱を行う時間の長さは、混合物の均一な混合またはほぼ均一な混合が達成されるように選択することができる。上で説明したようにして、下注ぎを行うことができる。
【0017】
混合物の冷却(freezing)(好ましくは、急速冷却)が、金属相からの比較的低い密度のセラミックの再偏析を防ぐだろう。冷却の時間と温度は、再偏析が防がれるように選択することができる。
【0018】
得られた燃料スラッグはサーメットの組成のZrシース環状スラッグであり、核分裂性の合金が連続したマトリックスを形成していて、核分裂性物質(fissile mass)の大部分は金属相として存在するだろう。照射を行うと、燃料ピンが金属燃料の連続したマトリックスを生成することによって十分な熱伝導性が確保されるように、金属燃料とセラミックの比率を選択することができる。特定の態様において、分散したセラミック粒子は、約90%を超える酸化ウランと約6%の核分裂性生成物および約1.5%の超ウラン元素を含む組成を有するだろう。これらの鋳造操作は遠隔操作で行うことができ、これは典型的に、軽水炉使用済み核燃料を用いて製造を行う場合に必要とされる。
【0019】
環状の燃料の成形体については多くの操作上の利点がある可能性があり、また、使用済み核燃料を管理する能力を与えることはさらなる利益をもたらすだろう。
射出鋳造
特定の装置において、鋼被覆燃料ピンの中に挿入するための中実の(すなわち、非環状の)スラッグを製造するために公知の射出鋳造技術が用いられてきた。スラッグは中実の燃料スラッグとすることができ、これは、隙間嵌めされる鋼のクラッドとナトリウムの中に挿入され、スラッグと被覆との間で良好な熱伝導性が得られるようにナトリウムに接合される。照射を行うと、製造したままのピンを、射出鋳造の製造プロセスによって生成される慣用の核分裂気体で満たされた多孔質の形態へと迅速に再構築することができ、これに対しては、現行の広範囲にわたる性能のデータベースが適用される。
【0020】
特定の態様において、粉砕した軽水炉使用済み核燃料などのセラミックの微粒子を金属の燃料ピンの中に組み入れるように、射出鋳造方法を修正することができる。燃料ピンのための原料を坩堝の中に仕込み、そして誘導炉の中で溶解させることができる。原料は、金属ウラン(U)、超ウラン元素、および/またはジルコニウム(Zr)についての所望の組成が得られるように選択することができる。
【0021】
特定の態様において、金属の溶融物が溶融状態になった後に、粉砕したセラミック粒子の仕込み原料を溶融物に添加することができる。溶融した金属の乱流動様式が形成されるように、誘導炉の周波数を調整することができる。乱流動様式は、金属相の中にセラミッ
ク粒子が均一に混合するのに役立つだろう。
【0022】
一定の時間が経過した後、撹乱を停止させることができる。撹乱を行う時間の長さは、混合物の均一な混合またはほぼ均一な混合が達成されるように選択することができる。射出成形プロセスは、溶融物を鋳型の中に強制的に注入するために行うことができる。
【0023】
鋳型の中の混合物の冷却(好ましくは、急速冷却)が、金属相からの比較的低い密度のセラミックの再偏析を防ぐだろう。冷却の時間と温度は、再偏析が防がれるように選択することができる。
【0024】
得られた燃料スラッグはサーメットの組成の中実の燃料ピンであり、核分裂性の(fissile bearing)金属のマトリックスがおよそ50容積%を超え、核分裂性物質の大部分は
金属相として存在するだろう。照射を行うと、燃料ピンが(核分裂気体が浸透した)金属燃料の連続したマトリックスを生成することによって十分な熱伝導性が確保されるように、金属燃料とセラミックの比率を選択することができる。特定の態様において、分散したセラミック粒子は、約90%を超える酸化ウランと約6%の核分裂性生成物および約1.5%の超ウラン元素の組成を有するだろう。これらの射出鋳造操作は遠隔操作で行うことができ、これは典型的に、軽水炉使用済み核燃料を用いて製造を行う場合に必要とされる。
【0025】
粉末燃料の冶金
粉末冶金はサーメットの燃料組成物の製造を容易にし、これによれば、金属相のマトリックスの中にセラミック粒子を埋め込むことができる。これの能力は、下注ぎ鋳造および射出鋳造によるサーメット燃料ピンの製造方法と同様に、軽水炉使用済み核燃料のような粉砕したセラミックの燃料を選択することを可能にし、そして高速炉をベースとする発電所を維持する閉じた燃料サイクルの中に粉砕したセラミック燃料を導入する。これは、困難な軽水炉使用済み核燃料の処分の問題を処理するための有効な解決策を提供するだろう。セラミック相の体積分率を制限することによって、以前の燃料性能のデータベースの適用可能性を維持することが可能であろう。
【0026】
燃料の特性
三つの全ての態様において、金属燃料に関する以前のデータベースの適用可能性を維持し、熱伝導性の許容範囲を維持し、そして核分裂密度の必要なレベルを達成するために、確保しなければならないセラミックの体積分率の範囲が存在するだろう。濃縮したU/Z
rの初期の燃料充填について、セラミックの体積分率は、連続した金属のマトリックスが存在するようにされるだろう。U/Pu/Zrのリサイクル燃料充填について、セラミックの重量分率はおよそ10重量%であろう(これは、燃焼した重金属の重量分率を回復するのにちょうど十分な量である)。
【0027】
軽水炉使用済み核燃料の粉砕、放出された気体の核分裂生成物の捕捉、および粒子サイズ分布の調整のための、すでに確立された方法が知られている。粒子サイズは、平均して約1ミクロンから約100ミクロンの間であろう。鋳造されたままのピンの中でのセラミック粒子の均一な分布は、本開示について関連する検討事項であろう。
【0028】
ぬれ性(wetting)に関して、現行の射出鋳造の製造プロセスによって製造された燃料
ピンにおいて、不純物による少量のセラミックの混入が、従来は見いだされた。ぬれ性は、これらのプロセスによって達成できるだろう。
【0029】
粒子の凝集に関して、製造の過程でセラミック粒子の凝集が起こったとしても、ある程度の凝集は炉心性能をそれほどには低下させないだろう。何故ならば、軽水炉使用済み核
燃料粒子の富化はおよそ1~2%であり、一方、金属のマトリックスにおける富化はおよそ10%よりも大きいであろうから、粒子の凝集による燃料中での高い核分裂密度の「ホットスポット」の形成は起こりえないからである。凝集は局所的な「クールスポット」を形成させるかもしれないが、それは性能の問題を提起しない。製造プロセスが完全な均質さを決してもたらさないものであるとしても、ホットスポットの問題は起こらないだろう。
【0030】
さらに、炉心の膨張(swelling)は粒子の凝集をもたらさないだろう。炉心の燃焼の初期のおよそ1~1.5%の間に、核分裂気体の微小な気泡が形成し、延性金属相のマトリックスがおよそ25%の自由容積(free volume)に流入するだろう。自由容積は、環状
のピンについては中心の穴に、射出鋳造したピンについては燃料スラッグと被覆材の間の間隙に、そして粉末冶金によって製造した燃料においては開放気孔に存在する。金属のマトリックスの流れは埋め込まれたセラミック粒子を同伴し、それにより粒子どうしの平均の分離距離が増大するだろう。凝集は誘起されないだろう。
【0031】
セラミック粒子は主としてU238であろう。U238は、出力上昇過渡状態での負のドップラー反応度のフィードバックの原因となりうる。幾つかの原子炉の構成において、低熱伝導性のセラミック粒子の熱時定数は、負の反応度のフィードバックの迅速さを阻害するだろう。しかし、他の種類の高速炉過渡状態性能に及ぼす影響は、幾つかの理由から無視できるだろう。第一に、ドップラーは(小さな)高速炉においては支配的な反応度のフィードバックにはならないだろう。それよりも、半径方向の熱膨張が支配的になるだろう。第二に、リサイクル充填において、約80%を超えるU238(初期の燃料仕込みにおいては約65%を超えるU238)はサーメット燃料の金属相のマトリックスの中に存在し、この場合、加熱は瞬間的になるか、またはほぼ瞬間的になるだろう。金属相からの迅速なフィードバックは、セラミック相からのわずかに遅延するフィードバックよりも支配的であろう。加えて、セラミック粒子は極めて小さく、約1ミクロンから約数百ミクロンまでであり、周囲の金属相に良好に結合しているだろう。従って、セラミック粒子の熱的な時間の遅延は極めて小さいだろう。
【0032】
保障措置および核不拡散の利益
粉砕した軽水炉使用済み核燃料粒子を合金の燃料ピンの中に導入することは、核不拡散の利益をもたらすだろう。この利益は特に、ウランが20%未満で濃縮されていて(それ自体では非放射性の)超ウラン元素を含まない最初の炉心充填について有利であろう。初期の炉心については、照射を行った後、生じる燃料の組成はPu239に富むプルトニウムを含んでいるけれども、Pu240およびPu241による実質的な汚染がなく、一方、それとは反対に、リサイクルの炉心は、兵器に使用するためには魅力のないプルトニウムの同位元素の混合物を形成するだろう。従って、最初の充填に粉砕したLWR-SNF
を添加することにより、幾つかの核不拡散の利益を提供することができる。
【0033】
第一に、粉砕した軽水炉使用済み核燃料からの酸化物粒子は核分裂生成物を含み、これは、最初の炉心仕込み原料を自己保護する放射線の場を与えるが、その最初の炉心仕込み原料は、初期には非放射性である合金が濃縮したウランU/Zrの新たな燃料であり、こ
れは原子炉に運航する間は放射線の場によって保護されていないのである。
【0034】
重要なこととして、セラミック粒子はPu240およびPu241の同位体を含むことができる。原子炉内で放射線の衝撃を受けたときに、全ての粒子とマトリックスの境界面に渡って同位体の著しい移動が起こるほどに、粒子サイズは十分に小さく、また燃料の温度は十分に高いだろう。従って、Pu240およびPu241の原子は金属のマトリックスに入ることができ、そして金属のマトリックスの中で新たに増殖したPu239と密接に混合することができる(逆もまた同様である)。(金属相へ移動するあらゆる酸素はZ
rによって「吸収(gettered)」されるだろう。)従って、新たに増殖したPu239は、原子炉内でほんの短時間曝露されると、Pu240およびPu241で汚染されることになり、このことは、それを核兵器において用いることを魅力的でないものにするだろう。
【0035】
初期の炉心の充填においてPu240およびPu241による「変性」は重要なことであろう。何故ならば、その初期の充填(load)において、セラミックの体積分率は約50%に近づき、そして重金属の重量分率は約35%になるからである。軽水炉使用済み核燃料において、プルトニウムの重量分率は約1.5%であり、そしてプルトニウムの重量分率およびPu239の(240+241)/(239+240+241)同位体汚染は約
40%であろう。一方、複数回のリサイクルの後に得られる、対応する高速炉の漸近的な組成物の割合は、約25%になるだろう。
【0036】
約8原子%の燃焼を達成する最初の20年の照射期間の後に、初期の燃料仕込み原料は、核分裂性組成物の全てがU235からPuになる過程の約10%を漸次進行するだろう。Pu239の組成物は、239で富んだ状態からPu239の漸近的な(240+241)汚染へと進展するだろう。
【0037】
最初の20年の照射期間の後に、金属相における初期の燃料仕込み原料は、燃料中のPu239原子の増殖仕込み原料に対して、例えば、(100-35重量%の燃料)×(燃料
中の13重量%の核分裂性物質(fissile))×(核分裂性物質(fissile)中の1/10P
u) =0.00845の寄与となるだろう。
【0038】
セラミックは、例えば、燃料中のPuの各々の原子についての(240+241)原子の仕込み原料に対して、例えば、(35重量%の燃料)×(燃料中の1.5%Pu)×(Pu
中の40%の240+241) =0.00845の寄与となるだろう。
【0039】
従って、完全な混合が行われた場合、排出時のサーメット燃料の(240+241)/
(239+240+241)の比率は、例えば、およそ(0.0021)/(0.008
45+0.0021)=0.199であろう。これは、漸近的な数値としてすでに変性したものと考えられてもよい。同位体の混合は、燃料ピンの温度と温度勾配、強い放射線の場、およびこれらの条件に曝される時間の長さを考慮して行うことができる。セラミックと金属の境界面にまたがる同位体の移動は、増殖したPu239を伴う均一な混合を生じさせるだろう。従って、最初の燃料充填についてさえも、かなりの本質的な変性が得られるだろう。その影響はリサイクル燃料充填について少なくなるだろう。何故ならば、セラミックの重量分率は約8~10重量%まで低下するが、しかし、そのときまでにはPuはすでに変性していて、リサイクル燃料はリサイクルのプロセスにおいて保持された放射性の核分裂生成物とともに充填することができるからである。
【0040】
以上の説明は本発明の好ましい態様を対象としているが、当業者にとっては他の変形や修正も自明であり、それらは本発明の精神または範囲から逸脱することなく成されうる、ということに留意されたい。さらに、上で明確に述べられていなくても、本発明の一つの態様に関して説明した態様は、他の態様と結合させて用いることができる。以下に、本願の出願時の特許請求の範囲の記載を転記する。
[1]サーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンを製造する方法であって、次の各工程:
1種以上の金属核燃料の原料を溶解し、それにより溶融した金属の溶融物を形成させること;
溶融した金属の溶融物の中にセラミック粒子を添加し、それにより混合物を形成させること;
混合物を激しく攪拌すること;
混合物を鋳型の中に下注ぎすること;および
混合物を鋳型の中で凝固させ、それによりサーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンを形成すること;
を含む前記方法。
[2]攪拌することは、混合物を撹乱させ、それにより粒子の実質的に均一な分布状態を達成することを含む、[1]に記載の方法。
[3]セラミック粒子には、粉砕した軽水炉使用済み核燃料、酸化トリウム、酸化アメリシウム、およびこれらの組み合わせが含まれる、[1]に記載の方法。
[4]セラミック粒子には、酸化トリウム、酸化アメリシウム、およびこれらの組み合わせが含まれる、[1]に記載の方法。
[5]鋳型は円柱状の穴を有し、この円柱状の穴のほぼ中心に棒がある、[1]に記載の方法。
[6]得られるサーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンは、環状のサーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンである、[5]に記載の方法。
[7]鋳型は、この鋳型の中の穴の中にぴったり合うように据え付けられた1つ以上のジルコニウム管を含む、[1]に記載の方法。
[8]得られる燃料ピンは、ジルコニウムシースサーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンである、[7]に記載の方法。
[9]サーメット金属燃料マトリックスの中のセラミック粒子の分布は、混合物を急速冷却によって凝固させた後にも均一なままである、[1]に記載の方法。
[10]1種以上の金属核燃料の原料は、ウランを含む、[1]に記載の方法。
[11]1種以上の金属核燃料の原料は、(i)ウラン、および(ii)ジルコニウムまたはモリブデンを含む、[1]に記載の方法。
[12]1種以上の金属核燃料の原料は、ウランと超ウラン元素の混合物を含む、[1]に記載の方法。
[13]サーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンを製造する方法であって、次の各工程:
1種以上の金属核燃料の原料を溶解し、それにより溶融した金属の溶融物を形成させること;
溶融した金属の溶融物の中にセラミック粒子を添加し、それにより混合物を形成させること;
混合物を激しく攪拌すること;
混合物を鋳型の中に射出鋳造すること;および
混合物を鋳型の中で凝固させ、それによりサーメット金属燃料マトリックス核燃料ピンを形成すること;
を含む前記方法。
[14]攪拌することは、溶融した金属の溶融物を撹乱させ、それにより溶融した金属の溶融物の中でのセラミック粒子の均一な混合を達成することを含む、[13]に記載の方法。
[15]粉砕したセラミック粒子は、軽水炉使用済み核燃料を含む、[13]に記載の方法。
[16]粉砕したセラミック粒子は、酸化トリウムを含む、[13]に記載の方法。
[17]混合物を凝固させることは、冷却させることによる、[13]に記載の方法。
[18]1種以上の金属核燃料の原料は、ウランを含む、[13]に記載の方法。
[19]1種以上の金属核燃料の原料は、ウランとジルコニウムを含む、[13]に記載の方法。
[20]1種以上の金属核燃料の原料は、ウランと超ウラン元素の混合物を含む、[13]に記載の方法。
[21]金属核燃料ピンを製造する方法であって、次の各工程:
粒状の金属核燃料の原料を添加すること;
粒状の金属核燃料の原料にセラミック粒子を添加すること;
粒状の金属核燃料の原料に対して粉砕したセラミック粒子を混合し、それにより均一な混合物を形成させること;および
混合物を鋼の被覆の中に入れて固めること;
を含む前記方法。
[22]セラミック粒子には、粉砕した軽水炉使用済み核燃料が含まれる、[21]に記載の方法。
[23]粉砕したセラミック粒子には、酸化トリウム、酸化アメリシウム、およびこれらの組み合わせが含まれる、[21]に記載の方法。
[24]1種以上の金属核燃料の原料は、ウランの粒子を含む、[21]に記載の方法。
[25]1種以上の金属核燃料の原料は、ウランとジルコニウムの粒子を含む、[21]に記載の方法。
[26]1種以上の金属核燃料の原料は、ウランと超ウラン元素の粒子の混合物を含む、[21]に記載の方法。