IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

特許7238215エネルギーマネジメントシステムおよびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】エネルギーマネジメントシステムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20230306BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20230306BHJP
   H02J 3/28 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
H02J3/00 180
G06Q50/06
H02J3/00 170
H02J3/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022580535
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2022007027
【審査請求日】2022-12-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良幸
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-087330(JP,A)
【文献】特開2021-149282(JP,A)
【文献】M. Ortega-Vazquez,D. Kirschen,Economic impact assessment of load forecast errors considering the cost of interruptions,Power Engineering Society General Meeting,米国,IEEE,2006年,Vol.100, No.7,P50-P60
【文献】K. Wada.,A. Yokoyama,Load frequency control using distributed batteries on the demand side with communication characteris,2012 3rd IEEE PES Conference on Innovative Smart Grid Technologies Europe,米国,IEEE,2012年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
G06Q 50/06
H02J 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力の小売事業者が調達する電力の需要家への供給を管理するエネルギーマネジメントシステムであって、
コントローラとメモリを有し、当該コントローラが前記メモリに記録されたエネルギーマネジメントプログラムを実行する計算機システムを備え、
前記コントローラは、
前記需要家の電力需要を管理する需要管理モジュールと、
前記小売事業者による電力の調達を管理する調達管理モジュールと、
前記小売事業者が調達した電力を充電し、そして、充電された電力を前記需要家に放電する産業用蓄電池を管理する蓄電池管理モジュールと、
前記小売事業者の発電装置を管理する発電管理モジュールと、
を備え、
前記調達管理モジュールは、
前記需要家の電力需要と、前記調達する電力量と、前記発電装置によって発電される電力量と、に基づいて、前記蓄電池管理モジュールに前記産業用蓄電池の状態情報に応じて当該産業用蓄電池の充放電を制御させることにより、
前記電力の調達に伴うコストを管理し、
前記需要管理モジュールは、
前記需要家の複数夫々の電力需要パターンを複数の分類に振り分け、
前記複数の需要家夫々の電力需要パターンを合成し、
当該合成後の電力需要パターンと発電事業者との契約条件とを比較し、
当該比較結果に基づいて、前記合成後の電力需要パターンに追加される需要家の電力需要パターンを前記複数の分類から選択し、当該選択された分類を前記小売電気事業者に助言する、
エネルギーマネジメントシステム。
【請求項2】
前記調達管理モジュールは、
前記需要家の電力需要と前記発電装置の発電量との差分を発電事業者から調達し、
当該差分のうち、前記発電事業者からの調達できない不足分を電力取引市場から調達する、
請求項1記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項3】
前記調達管理モジュールは、前記取引市場からの電力調達価格が低い時間帯に電力を調達し、前記蓄電池管理モジュールは、当該調達された電力を当該時間帯に充電し、当該充電された電力を前記不足分が生じる時間帯に放電する運転パターンを設定する、
請求項2記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項4】
前記蓄電池管理モジュールは、前記運転パターンを前記蓄電池の状態情報に基づいて制限する、
請求項3記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項5】
前記調達管理モジュールは前記運転パターンの制限に基づいて前記電力取引市場からの調達計画を変更する、
請求項4記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項6】
前記需要管理モジュールは、前記複数の分類に振り分けることを、前記電力需要パターンのピークの時間分布に基づいて実行する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項7】
電力の小売事業者が調達する電力の需要家への供給を管理するエネルギーマネジメントシステムであって、
コントローラとメモリを有し、当該コントローラが前記メモリに記録されたエネルギーマネジメントプログラムを実行する計算機システムを備え、
前記コントローラは、
前記需要家の電力需要を管理する需要管理モジュールと、
前記小売事業者による電力の調達を管理する調達管理モジュールと、
前記小売事業者が調達した電力を充電し、そして、充電された電力を前記需要家に放電する産業用蓄電池を管理する蓄電池管理モジュールと、
前記小売事業者の発電装置を管理する発電管理モジュールと、
を備え、
前記調達管理モジュールは、
前記需要家の電力需要と、前記調達する電力量と、前記発電装置によって発電される電力量と、に基づいて、前記蓄電池管理モジュールに前記産業用蓄電池の状態情報に応じて当該産業用蓄電池の充放電を制御させるとともに、
前記需要家の電力需要と前記発電装置の発電量との差分を発電事業者から調達し、
当該差分のうち、前記発電事業者からの調達できない不足分を電力取引市場から調達することにより、
前記電力の調達に伴うコストを管理し、
前記発電管理モジュールは、前記発電装置の発電情報に基づいて当該発電装置の実績を 評価し、
前記蓄電池管理モジュールは、前記産業用蓄電池の状態情報に基づいて当該産業用蓄電池の状態を評価し、
前記需要管理モジュールは、前記不足分を判定すると前記発電装置の評価の結果と前記産業用蓄電池の評価の結果とに基づいて、当該発電装置、及び/又は、当該産業用蓄電池の増設を前記小売事業者に助言する、
エネルギーマネジメントシステム。
【請求項8】
電力の小売事業者が調達する電力の需要家への供給を管理するエネルギーマネジメントをコンピュータに実現させるプログラムであって、コンピュータに、
前記需要家の電力需要を管理する需要管理機能と、
前記小売事業者による電力の調達を管理する調達管理機能と、
前記小売事業者が調達した電力を充電し、そして、充電された電力を前記需要家に放電する産業用蓄電池を管理する蓄電池管理機能と、
前記小売事業者の発電装置を管理する発電管理機能と、を実現させ、
前記調達管理機能は、前記需要家の電力需要と、前記調達する電力量と、前記発電装置によって発電される電力量と、に基づいて、前記蓄電池管理機能に前記産業用蓄電池の状態情報に応じて当該産業用蓄電池の充放電を制御させることにより、前記電力の調達に伴うコストを管理し、
前記需要管理機能は、
前記需要家の複数夫々の電力需要パターンを複数の分類に振り分け、
前記複数の需要家夫々の電力需要パターンを合成し、
当該合成後の電力需要パターンと発電事業者との契約条件とを比較し、
当該比較結果に基づいて、前記合成後の電力需要パターンに追加される需要家の電力需要パターンを前記複数の分類から選択し、当該選択された分類を前記小売電気事業者に助言する、
プログラム。
【請求項9】
電力の小売事業者が調達する電力の需要家への供給を管理するエネルギーマネジメントをコンピュータに実現させるプログラムであって、コンピュータに、
前記需要家の電力需要を管理する需要管理機能と、
前記小売事業者による電力の調達を管理する調達管理機能と、
前記小売事業者が調達した電力を充電し、そして、充電された電力を前記需要家に放電する産業用蓄電池を管理する蓄電池管理機能と、
前記小売事業者の発電装置を管理する発電管理機能と、を実現させ、
前記調達管理機能は、前記需要家の電力需要と、前記調達する電力量と、前記発電装置によって発電される電力量と、に基づいて、前記蓄電池管理機能に前記産業用蓄電池の状態情報に応じて当該産業用蓄電池の充放電を制御させるとともに、
前記需要家の電力需要と前記発電装置の発電量との差分を発電事業者から調達し、
当該差分のうち、前記発電事業者からの調達できない不足分を電力取引市場から調達することにより、前記電力の調達に伴うコストを管理し、
前記発電管理機能は、前記発電装置の発電情報に基づいて当該発電装置の実績を評価し、
前記蓄電池管理機能は、前記産業用蓄電池の状態情報に基づいて当該産業用蓄電池の状態を評価し、
前記需要管理機能は、前記不足分を判定すると前記発電装置の評価の結果と前記産業用蓄電池の評価の結果とに基づいて、当該発電装置、及び/又は、当該産業用蓄電池の増設を前記小売事業者に助言する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気の小売事業者が調達する電力の需要家への供給を管理するエネルギーマネジメントに関する。
【背景技術】
【0002】
電気の小売事業者は、発電事業者や電力卸売市場から電力を調達し、自身で太陽光発電、バイオマス発電、ガスコジェネレーション等の発電設備を有する場合には、発電によって得られた電力と合わせて調達した電力を需要家に供給する。そして、電気の小売事業者の電力の取引を管理するエネルギーマネジメントシステムに、蓄電池を組み込むことによって電力の調達コストを抑制する取り組みも行われている。
【0003】
この種のエネルギーマネジメントシステムとして、特許文献1には、需要家(工場、企業、一般家庭)毎の需要電力量の予測と、PV50(太陽光発電装置)の想定出力量の予測と、電力市場の価格の予測とにより、電力小売り事業の収益性の評価を行うことが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、自然エネルギーを利用する発電システムに接続された蓄電池において、過去の電力価格・発電量を分析することで、定められた充電量の上限を満たしつつ、適切な充放電時期を制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-206027号公報
【文献】特開2015-156195号公報
【発明の概要】
【0006】
従来、電力の小売事業者のエネルギーマネジメントシステムには、蓄電池として家庭用蓄電池が利用されていたが、蓄電池の容量が小さいことと、複数の蓄電池を組み合わせて使用しなければならないことから、システム構成上、並びに、電池の制御上の煩雑さから、家庭用蓄電池の利用は現実的なものではなかった。一方、大出力、大容量の産業用蓄電池を利用しようとしても、これの特徴を活用しながらの電力の取引制御をエネルギーマネジメントシステムにおいて実現できていなかった。そこで、この出願は、産業用蓄電池を電力の小売取引の制御に有効利用可能なエネルギーマネジメントに係る発明を提供することを目的とする。
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の一態様に係るエネルギーマネジメントシステムは、電力の小売事業者が調達する電力の需要家への供給を管理するエネルギーマネジメントシステムであって、コントローラとメモリを有し、当該コントローラが前記メモリに記録されたエネルギーマネジメントプログラムを実行する計算機システムを備え、前記コントローラは、前記需要家の電力需要を管理する需要管理モジュールと、前記小売事業者による電力の調達を管理する調達管理モジュールと、前記小売事業者が調達した電力を充電し、そして、充電された電力を前記需要家に放電する産業用蓄電池を管理する蓄電池管理モジュールと、前記小売事業者の発電装置を管理する発電管理モジュールと、を備え、前記調達管理モジュールは、前記需要家の電力需要と、前記調達する電力量と、前記発電装置によって発電される電力量と、に基づいて、前記蓄電池管理モジュールに前記産業用蓄電池の状態情報に応じて当該産業用蓄電池の充放電を制御させることにより、前記電力の調達に伴うコストを管理し、前記需要管理モジュールは、前記需要家の複数夫々の電力需要パターンを複数の分類に振り分け、前記複数の需要家夫々の電力需要パターンを合成し、当該合成後の電力需要パターンと発電事業者との契約条件とを比較し、当該比較結果に基づいて、前記合成後の電力需要パターンに追加される需要家の電力需要パターンを前記複数の分類から選択し、当該選択された分類を前記小売電気事業者に助言する、というものである。
【0008】
本発明の別の一態様に係るエネルギーマネジメントシステムは、電力の小売事業者が調達する電力の需要家への供給を管理するエネルギーマネジメントシステムであって、コントローラとメモリを有し、当該コントローラが前記メモリに記録されたエネルギーマネジメントプログラムを実行する計算機システムを備え、前記コントローラは、前記需要家の電力需要を管理する需要管理モジュールと、前記小売事業者による電力の調達を管理する調達管理モジュールと、前記小売事業者が調達した電力を充電し、そして、充電された電力を前記需要家に放電する産業用蓄電池を管理する蓄電池管理モジュールと、前記小売事業者の発電装置を管理する発電管理モジュールと、を備え、前記調達管理モジュールは、前記需要家の電力需要と、前記調達する電力量と、前記発電装置によって発電される電力量と、に基づいて、前記蓄電池管理モジュールに前記産業用蓄電池の状態情報に応じて当該産業用蓄電池の充放電を制御させるとともに、前記需要家の電力需要と前記発電装置の発電量との差分を発電事業者から調達し、当該差分のうち、前記発電事業者からの調達できない不足分を電力取引市場から調達することにより、前記電力の調達に伴うコストを管理し、前記発電管理モジュールは、前記発電装置の発電情報に基づいて当該発電装置の実績を評価し、前記蓄電池管理モジュールは、前記産業用蓄電池の状態情報に基づいて当該産業用蓄電池の状態を評価し、前記需要管理モジュールは、前記不足分を判定すると前記発電装置の評価の結果と前記産業用蓄電池の評価の結果とに基づいて、当該発電装置、及び/又は、当該産業用蓄電池の増設を前記小売事業者に助言する、というものである。
【0009】
さらにまた、本発明の一態様に係るプログラムは、電力の小売事業者が調達する電力の需要家への供給を管理するエネルギーマネジメントをコンピュータに実現させるプログラムであって、コンピュータに前記需要家の電力需要を管理する需要管理機能と、前記小売事業者による電力の調達を管理する調達管理機能と、前記小売事業者が調達した電力を充電し、そして、充電された電力を前記需要家に放電する産業用蓄電池を管理する蓄電池管理機能と、前記小売事業者の発電装置を管理する発電管理機能と、を実現させ、前記調達管理機能は、前記需要家の電力需要と、前記調達する電力量と、前記発電装置によって発電される電力量と、に基づいて、前記蓄電池管理機能に前記産業用蓄電池の状態情報に応じて当該産業用蓄電池の充放電を制御させることにより、前記電力の調達に伴うコストを管理し、前記需要管理機能は、前記需要家の複数夫々の電力需要パターンを複数の分類に振り分け、前記複数の需要家夫々の電力需要パターンを合成し、当該合成後の電力需要パターンと発電事業者との契約条件とを比較し、当該比較結果に基づいて、前記合成後の電力需要パターンに追加される需要家の電力需要パターンを前記複数の分類から選択し、当該選択された分類を前記小売電気事業者に助言する、というものである。
また、本発明の別の一態様に係るプログラムは、電力の小売事業者が調達する電力の需要家への供給を管理するエネルギーマネジメントをコンピュータに実現させるプログラムであって、コンピュータに、前記需要家の電力需要を管理する需要管理機能と、前記小売事業者による電力の調達を管理する調達管理機能と、前記小売事業者が調達した電力を充電し、そして、充電された電力を前記需要家に放電する産業用蓄電池を管理する蓄電池管理機能と、前記小売事業者の発電装置を管理する発電管理機能と、を実現させ、前記調達管理機能は、前記需要家の電力需要と、前記調達する電力量と、前記発電装置によって発電される電力量と、に基づいて、前記蓄電池管理機能に前記産業用蓄電池の状態情報に応じて当該産業用蓄電池の充放電を制御させるとともに、前記需要家の電力需要と前記発電装置の発電量との差分を発電事業者から調達し、当該差分のうち、前記発電事業者からの調達できない不足分を電力取引市場から調達することにより、前記電力の調達に伴うコストを管理し、前記発電管理機能は、前記発電装置の発電情報に基づいて当該発電装置の実績を評価し、前記蓄電池管理機能は、前記産業用蓄電池の状態情報に基づいて当該産業用蓄電池の状態を評価し、前記需要管理機能は、前記不足分を判定すると前記発電装置の評価の結果と前記産業用蓄電池の評価の結果とに基づいて、当該発電装置、及び/又は、当該産業用蓄電池の増設を前記小売事業者に助言する、というものである。
【0010】
発明の実施の態様によれば、産業用蓄電池を電力の小売取引の制御に有効利用可能なエネルギーマネジメントを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】小売電気事業者の電力取扱システムのブロック図である。
図2】電力取扱システムの計算機システム(エネルギーマネジメントシステム)のコントローラがメモリに記録されたEMSプログラムを実行することによって実現される電力の取引管理のための複数のモジュールのブロック図である。
図3】コントローラによるエネルギーマネジメントの一例に係るフローチャートである。
図4】全需要家の予測電力需要を合計した合成需要の一日の変動を示す波形図である。
図5】予測された太陽光発電の一日の変動を示す波形図である。
図6】小売電気事業者が調達すべき電力量の一日の変動を示す波形図である。
図7図6の波形図において、電力の不足分を示す図である。
図8】電力取引市場に於ける、電力のスポット価格の一日の変動を示す波形図である。
図9】蓄電池の充放電パターンの一例である。
図10A】電力需要予測の24時間変化パターンの第1の例を示す波形図である。
図10B】電力需要予測の24時間変化パターンの第2の例を示す波形図である。
図10C】電力需要予測の24時間の変化パターンの第3の例を示す波形図である。
図10D】電力需要予測の24時間の変化パターンの第4の例を示す波形図である。
図11】合成需要の現在値と修正後との前後の変化を示す波形図である。
図12】エネルギーマネジメントシステムが小売電気事業者に、不足電力量を蓄電池、及び/又は、太陽光発電装置の容量増設によって賄うことをアドバイスするためのフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について説明する。図1は、電力の小売事業者としての小売電気事業者の電力取扱システム10の概要を示すブロック図である。電力取扱システム10は、小売電気事業者が発電事業者20から調達する電力10A、そして、電力取引所21から調達する電力10Eを電力の需要家22,24,26に供給する(10B-10D)。電力取引所21としては日本卸電力取引所(JEPX)でよい。需要家としては、学校、官公庁、病院等の公共施設22、工場24、防災拠点施設26等、数、種類において特に限定されるものではない。
【0013】
12は小売電気事業者によって管理、運用される、自家消費型の再生可能エネルギー発電装置としての太陽光発電装置を示し、14は、小売電気事業者によって管理、運用される産業用蓄電池を示す。産業用蓄電池としては、メガワット級の大出力を発揮でき、そして、6-7時間にも及ぶ大容量の電力を貯蔵できる、定置型二次電池としてのNAS電池(ナトリウム硫黄電池)が好適である。
【0014】
NAS電池は充電時吸熱反応を呈し、放電時には発熱反応を呈する。電池反応に於ける至適温度は、摂氏280度-摂氏340度である。NAS電池はヒータによって当該温度範囲に保温され、一方、当該温度域を超える場合には、電池の放電運転を抑制すればよい。停電時には、産業用蓄電池14から防災拠点施設26に電力が供給する機能を具備することも可能である。
【0015】
16は、小売電気事業者の電力調達、電力の小売、そして、その管理のためのエネルギーマネジメントシステム(EMS)であって、計算機システムを備える。計算機システム16のコントローラ(CPU等のプロセッサ)はメモリに記録されたEMSプログラムを実行することによって電力の取引管理のための複数のモジュールを実現する。メモリは、ハードディスク、SSD等非可搬タイプのものでよい。なお、計算機システム16を複数の小売電気事業者に接続するクラウド上に構築してもよい。
【0016】
図2に示すように、複数のモジュールとして、複数の需要家22,24,26夫々の電力需要を管理する需要管理モジュール16Aと、発電事業者20とJEPX21とからの電力の調達を管理する調達管理モジュール16Bと、蓄電池14を管理する蓄電池管理モジュール16Cと、太陽光発電装置12を管理する発電管理モジュール16Dと、がある。「モジュール」とは、コントローラがプログラムを実行することによって達成される技術的な機能であり、「モジュール」を「手段」、「部」、「ユニット」、「パート」、又は、「機能」と言い換えてもよい。複数のモジュールは、後述のとおり、互いに連携して、電力取引を実現する。なお、モジュールを専用ハードウェアによって実現してもよい。
【0017】
需要管理モジュール16Aは、複数の需要家夫々の名称、業種等の需要家情報の管理、さらに、各需要家の電力需要の時系列データを管理する。調達管理モジュール16Bは、発電事業者20と電力取引市場21との電力調達のプランの策定、契約情報の管理、調達の実行等を管理する。蓄電池管理モジュール16Cは、蓄電池14に備わったセンサからの時系列情報に基づいて、蓄電池の温度、等価サイクル数、SOC、SOH等の電池の状態情報の監視、蓄電池の充放電の制御等を実行する。発電管理モジュール16Dは、太陽光発電装置12の装置情報の管理、発電情報等を管理する。
【0018】
次に、コントローラによるエネルギーマネジメントの一例を図3のフローチャートを用いて説明する。コントローラは、毎日定時刻にこのフローチャートを実行して翌日の電力調達プランを策定する。需要管理モジュール16Aは、メモリに記録されている電力需要の管理テーブルを参照する。管理テーブルには、複数の需要家毎に、電力需要実績の時系列データが記録されている。需要管理モジュール16Aは、複数の需要家毎の翌日の電力需要を時系列解析という手法を用いて予測する(S200)。この手法は時間経過ごとに記録された数値列からモデルを作成し,将来の予測を行う分析手法である。

【0019】
需要管理モジュール16Aは、複数の需要家毎の予測需要を加算して、全需要家の予測電力需要を合計した合成需要を計算する(S202)。図4に合成需要のパターン、即ち、合成需要の一日の変動を示す。
【0020】
次に、発電管理モジュール16Dは、メモリの管理テーブルに記録された、太陽光発電の時系列情報を参照して、翌日の太陽光発電の電力を電力需要の予測と同様に予測する(S204)。図5に、予測された太陽光発電の発電パターン、即ち、太陽光発電一日の変動を示す。
【0021】
調達管理モジュール16Bは、合成需要の予測パターン(図4)と太陽光発電の予測パターン(図5)との差分を計算する(S206)。この差分が、小売電気事業者が調達すべき電力量、即ち、必要な調達量の変動パターンである。図6にこのパターンを示す。
【0022】
次に、調達管理モジュール16Bは、発電事業者との契約内容と調達すべき電力パターン(図6)とを比較して、調達量が契約に対して過不足があるか否かをチェックする(S208)。そこで、調達管理モジュール16Bは、メモリを参照して、契約情報を読み込む。小売電気事業者と発電事業者との契約は、kW(ピーク電力の値)、kWh(消費電力量の最大値)、供給パターン(消費電力の変動パターン)によって定められる。
【0023】
調達管理モジュール16Bは、過不足が無いことを判定(S208:No)すると、蓄電池14の現在の運転パターンを変更する必要はないとしてフローチャートを終了する。一方、調達管理モジュール16Bは、過不足があることを判定(S208:Yes)すると、蓄電池14の運転パターンを変更するために、必要な調達量(図6)が発電事業者との契約の範囲を越えてしまう場合、即ち、調達しようとしている電力(図6)を確保できない場合には、蓄電池14からの放電によって不足分を賄うようにするため、不足分に必要な、即ち、放電量分の電力充電量を算出する(S210)。図7において、調達量のうち、発電事業者からの供給上限60を超える電力量62が不足する電力量である。
【0024】
不足分の電力を一般的に発電事業者から契約外の取引によって調達すると、市場から調達することよりもコストが高く、発電事業者との将来の契約にも影響が生じるために、市場から調達することを優先してもよい。
【0025】
調達管理モジュール16Bは、翌日の市場での電力価格の予測情報を取得し、価格が低価格になる時間帯に電力を調達して蓄電池が放電分の容量を充電する計画を策定する(S212)。図8において、72が最低価格の時間帯であり、調達管理モジュール16Bは、この時間帯72の電力を余分に調達して、蓄電池管理モジュール16Cは、その電力を蓄電池14に充電する運転パターンを設定する。
【0026】
蓄電池には出力値の制限があることから、必要な充電容量を電力の取引価格が最低価格である時間帯72での充電だけで達成できない場合は、調達管理モジュール16Bは、電力の取引価格が次に低い時間帯70でも充電する計画を作成する。したがって、蓄電池管理モジュール16Cは、図9に示すパターンで充放電を行うように蓄電池を運用する。即ち、蓄電池管理モジュール16Cは、符号70,72の時間帯で充電し、電力が不足する時間帯62で充電した電力量を放電するように蓄電池14を運用する。
【0027】
蓄電池管理モジュール16Cは、調達管理モジュール16Bが作成した計画に基づいて蓄電池の充放電に伴う運転パターンを設定する。次いで、蓄電池管理モジュール16Cは、この運転パターンに基づいてシミュレーションを実行して、この運転パターンを実現できない制約、制限が蓄電池に存在するか否かチェックする(S214)。そこで、蓄電池管理モジュール16Cは、メモリの蓄電池状態情報テーブルを参照して、蓄電池の出力、温度、SOC、SOH、等価サイクル数をリードして、これ等に基づいて運転パターンの実現可能性をチェックする。
【0028】
例えば、蓄電池管理モジュール16Cは、蓄電池の温度が上限値を超えている場合、或いは、放電によって上限値を超えることが想定される場合には制限が存在すると判定し(S214:Yes)、放電によってさらに蓄電池の温度が上昇することを避けるために、蓄電池の運転パターンを制限するように見直して(S218)、蓄電池の放電をキャンセルするか、蓄電池の放電量を少なくする。制限としては、蓄電池14の温度の他、蓄電池の劣化度がある。
【0029】
調達管理モジュール16Bは、放電できない分の電力を市場から調達できるように電力の調達計画を変更する。蓄電池14に、不足分の充電可能容量がない場合には、蓄電池管理モジュール16Cは充電を制限した上で、放電するか、或いは、調達管理モジュール16Bは放電しない分の電力を市場から調達してもよい。
【0030】
このように、S216では、蓄電池管理モジュール16Cが蓄電池14の充放電の運転パターンを決定する。蓄電池管理モジュール16Cは、この運転パターンに基づいて翌日に蓄電池を運転する。
【0031】
既述のフローチャートの説明では、需要家に必要な電力調達量(kW)が発電事業者からの供給上限を超えている場合について説明したが、必要な電力調達量(図5)が発電事業者からの供給下限を下回っている部分を有している場合(S208:Yes)には、蓄電池管理モジュール16Cは両者の差分(過剰分)を充電する運転パターンを設定し、調達管理モジュール16Bはこの充電分を市場価格が最も高い時間帯で市場に売電すればよい。
【0032】
コントローラは、図3のフローチャートを、電力を調達する前日の市場入札時間前に実行するが、必要に応じて、当日30分毎にフローチャートを実行して、スポット市場ではなく時間前市場の取引価格で電力の調達を行ってもよい。なお、充電容量は放電容量を蓄電池の充放電効率で除した値になる。
【0033】
次に本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は複数の需要家を分類し、需要家の組み合わせを最適化して電力の調達コストを抑制することに特徴を有する。需要管理モジュール16Aは、メモリの需要家データベースを参照する。需要家データベースには、複数の需要家毎の名称、規模、業種名、電力需要の時系列情報等が記録されている。
【0034】
需要管理モジュール16Aは、複数の需要家の情報を教師あり機械学習による分類、あるいは、教師無し機械学習によるクラスタリングの手法によって複数の類型に振り分ける。
【0035】
図10A図10Dはこの振り分けの例を示すものであり、複数の需要家は、下記の類型A-Dに振り分けられる。各類型の業種名は次のとおりである。
【0036】
類型A:市役所、学校、オフィス 等
類型B:下水処理場、鉄道 等
類型C:データセンター 等
類型D:ホール、グラウンド 等
【0037】
図10A図10Dは類型毎の電力需要予測の24時間の変化パターンを示す。図10Aは類型Aの電力需要の予測であり、日中に電力需要のピークがあることを示している。図10Bは類型Bの電力需要予測であり、朝夕に電力需要のピークがあることを示している。図10Cは類型Cの電力需要予測であり、24時間一定した電力需要があることを示している。図10Dは類型Dの電力需要予測であり、特定の時間帯に電力需要のピークがあることを示している。このように、複数の分類に振り分けることは、電力需要パターンのピークの時間分布に基づく。
【0038】
次いで、需要管理モジュール16Aは、複数の需要家の電力需要を合成して合成需要(図4)を計算する。さらに需要管理モジュール16Aは、メモリの発電事業者との契約条件を参照し、両者を比較する。その比較の結果を受けて、需要管理モジュール16Aは合成需要のピークの時間帯とは異なる時間帯にピークを持つ電力需要の類型を特定して、これを小売電気事業者に、現在の顧客層(需要家)に新規の需要家として追加することにより発電事業者との契約条件により近づく電力需要実態を実現できるものとして助言する。
【0039】
例えば、図11のように、合成需要が日中に電力需要のピークを有するパターン(図11(1))であれば、これに、朝と晩とにピークを有する類型の需要を持つ需要家(類型B:図10B)の所定数(▲)の合成需要を加算すると共に、さらに、加算後の合成需要を嵩上げするために、24時間一定した電力需要を持つ需要家(類型C:図10C)の所定数(●)の合成需要を加算すると、図11(2)に示すように、修正前の電力需要(図11(1))のピーク高さ100が修正後の電力需要のピーク高さ102まで小さくなるなど、修正後の合成電力需要が契約条件に近づき、小売電気事業者は電力の調達コストを抑制でき、したがって、電力の効率的な利用に貢献することができる。
【0040】
需要管理モジュール16Aは、図11の(1)と(2)とを小売電気事業者に報知して、現在の需要家グループに加えるべき需要家のタイプを助言する。小売電気事業者は、この助言を集客活動に利用することができる。
【0041】
既述の説明では契約条件を小売電気事業者が発電事業者と契約済みのものとして説明したが、契約条件を、小売電気事業者が適宜変更したものとしてもよい。こうすることによって、契約変更に関連させて電力の需要家の拡大を、電力調達費用の削減の観点からシミュレーションをすることができる。さらに、需要管理モジュール16Aは、電力需要の24時間変化の標準偏差を、合成需要(現在)と合成需要(修正後)とについてそれぞれ計算し、両者の差分を電力調達改善率として、小売電気事業者に提示してもよい。
【0042】
次に本発明の第3の実施形態について説明する。第1の実施形態では、複数の需要家の合成需要を発電事業者から調達する電力量では賄いきれないとき、市場から電力を調達することを説明することに留めたが、第3の実施形態では、エネルギーマネジメントシステム16が小売電気事業者にさらに、不足電力量を蓄電池14、及び/又は、太陽光発電装置12の容量増設によって賄うことをアドバイスすることとした。
【0043】
調達管理モジュール16Bが、調達が必要な電力の不足(図7:62)を判定すると、発電管理モジュール16Dは、図12のフローチャートをスタートして、メモリの太陽光発電装置データベースにアクセスし、太陽光発電の電力量の時系列データを参照して、太陽光発電の発電電力量の実績を評価する(S1100)。発電管理モジュール16Dは、太陽光発電の実績が所定の閾値を超えると(S1102)、メモリの太陽光発電評価フラグF1に「1(発電実績:〇)」をセットし(S1104)、太陽光発電実績が所定の閾値以下の場合はF1を「0」(発電実績:×)に維持する(S1106)。
【0044】
次いで、蓄電池管理モジュール16Cは、メモリの蓄電池データベースにアクセスして、蓄電池の状態情報(等価サイクル数、SOH)を参照して蓄電池の劣化度を評価する(S1108)。蓄電池管理モジュール16Cは蓄電池の劣化度が所定の閾値を超える(S1110:Yes)とメモリの蓄電池判定フラグF2に「1」(劣化度:大)をセットし(S1112)、劣化度が所定の閾値以下の場合(S1110:No)はF2を「0」(劣化度:小)を維持する(S1114)。
【0045】
次に、需要管理モジュール16Aは、二つのフラグの組み合わせ(F1,F2)を判定し、
(F1,F2)=(1,0)の場合、太陽光発電の効率が良いので太陽光発電の増設を小売電気事業者に助言し、蓄電池は劣化していないので蓄電池の増設を助言しない(S1116)、
(F1,F2)=(1,1)の場合、太陽光発電の効率が良いので太陽光発電の増設を助言し、蓄電池は劣化しているので蓄電池の増設を助言する(S1116)、
(F1,F2)=(0,1)の場合、太陽光発電の効率が良くないので太陽光発電の増設を助言しない、蓄電池は劣化しているので蓄電池の増設を助言する(S1116)、
(F1,F2)=(0,0)の場合、太陽光発電の効率が良くないので太陽光発電の増設を助言しない、蓄電池は劣化していないので蓄電池の増設を助言しない(S1116)。次いで、需要管理モジュール16Aは助言の内容を小売電気事業者に報知する(S1118)。
【0046】
このように、エネルギーマネジメントシステム16は電源増設に係る助言を小売電気事業者に迅速に与えることができるために、小売電気事業者は電力の調達のコストを抑制することができる。
【0047】
なお、エネルギーマネジメントシステム16が助言する際に、太陽光発電、蓄電池毎に増設すべき規模を助言することもできる。小売電気事業者は太陽光発電と蓄電池のどちらを優先すべきか、その比率をエネルギーマネジメントシステムに指定しておいてもよい。
【0048】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【要約】
計算機システムのコントローラは、需要家の電力需要を管理する需要管理モジュールと、小売事業者による電力の調達を管理する調達管理モジュールと、小売事業者が調達した電力の蓄電池の管理モジュールと、小売事業者の発電装置を管理する発電管理モジュールと、を備え、調達管理モジュールは、需要家の電力需要と、調達する電力量と、発電装置によって発電される電力量と、に基づいて、蓄電池管理モジュールに産業用蓄電池の状態情報に応じて産業用蓄電池の充放電を制御させることにより、電力の調達に伴うコストを管理する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11
図12