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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】アークスポット溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/00 20060101AFI20230307BHJP
   B23K 9/007 20060101ALI20230307BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20230307BHJP
   B23K 10/02 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
B23K9/00 109
B23K9/007
B23K9/173 E
B23K10/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019000981
(22)【出願日】2019-01-08
(65)【公開番号】P2020110807
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮原 寿朗
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-186809(JP,A)
【文献】特開2005-219095(JP,A)
【文献】実開昭51-068821(JP,U)
【文献】特開2004-314104(JP,A)
【文献】特開2005-081376(JP,A)
【文献】米国特許第06627839(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32、10/00 - 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非消耗電極が挿通される第1トーチ、および当該第1トーチと第1方向において並んで配置され、消耗電極が挿通される第2トーチ、を有するアークスポット溶接用の溶接トーチと、上記溶接トーチを上記第1方向に沿って直線移動させるシフト機構と、ショックセンサと、を備える、溶接トーチユニットと、
上記溶接トーチユニットを支持するマニピュレータと、を備え、
上記シフト機構は、上記マニピュレータの先端に支持されており、
上記溶接トーチは、上記ショックセンサを介して上記シフト機構に支持されている、アークスポット溶接装置。
【請求項2】
上記シフト機構は、上記溶接トーチを第1位置と第2位置との間で往復動させる、請求項1に記載のアークスポット溶接装置
【請求項3】
上記シフト機構は、エアシリンダを含んで構成される、請求項1または2に記載のアークスポット溶接装置
【請求項4】
記非消耗電極および被溶接物の間に電圧を印加する第1電源と、
上記消耗電極および上記被溶接物の間に電圧を印加する第2電源と、
上記第1電源、上記第2電源、および上記シフト機構を制御する制御部と、をさらに備える、請求項1ないし3のいずれかに記載のアークスポット溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アークスポット溶接用の溶接トーチを備えた溶接トーチユニット、およびこれを備えたアークスポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アークを用いて被溶接物に溶接等の処理を行う方法が知られている。特許文献1には、2つの電極を用いて構成された溶接トーチが開示されている。同文献に開示された溶接トーチは、2つの電極に対応する2つのトーチが並んで配置された構成とされており、当該2つのトーチには、非消耗電極および消耗電極がそれぞれ挿通される。このような溶接トーチは、たとえばロボットのマニピュレータに保持される。上記構成の溶接トーチを用いて、ライン状の溶接ビードを形成するアーク溶接や、アークスポット溶接が行われる。
【0003】
アークスポット溶接においては、まず、非消耗電極と被溶接物の間にプラズマアークを発生させ、当該被溶接物に貫通穴を形成する。次いで、消耗電極の先端と被溶接物との間に溶接アークを発生させ、スポット溶接を行う。ここで、被溶接物に貫通穴を形成した後、消耗電極の軸線が上記貫通穴と重なるように溶接トーチをシフトさせる。この溶接トーチのシフト動作は、ロボットのマニピュレータを駆動させることにより行う。このように被溶接物に貫通穴を形成した後の溶接トーチのシフト距離は、比較的短い。
【0004】
しかしながら、被溶接物に貫通穴を形成した後に溶接トーチをシフトさせる距離は、比較的短い。上述のようにロボットのマニピュレータによって溶接トーチをシフトさせる手法では、当該シフト距離が比較的短いにもかかわらず、駆動動作が大掛かりとなる。このため、当該溶接トーチのシフトに要する時間も長くなり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-116597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、アークスポット溶接用の溶接トーチのシフト動作を迅速に行うのに適した溶接トーチユニットを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される溶接トーチユニットは、非消耗電極が挿通される第1トーチ、および当該第1トーチと第1方向において並んで配置され、消耗電極が挿通される第2トーチ、を有するアークスポット溶接用の溶接トーチと、上記溶接トーチを上記第1方向においてシフトさせるシフト機構と、を備える。
【0009】
好ましい実施の形態においては、上記シフト機構は、上記溶接トーチを第1位置と第2位置との間で往復動させる。
【0010】
好ましい実施の形態においては、上記シフト機構は、上記溶接トーチを直線移動させる。
【0011】
好ましい実施の形態においては、上記シフト機構は、エアシリンダを含んで構成される。
【0012】
本発明の第2の側面によって提供されるアークスポット溶接装置は、本発明の第1の側面に係る溶接トーチユニットと、上記溶接トーチユニットを支持するマニピュレータと、上記非消耗電極および被溶接物の間に電圧を印加する第1電源と、上記消耗電極および上記被溶接物の間に電圧を印加する第2電源と、上記第1電源、上記第2電源、および上記シフト機構を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る溶接トーチユニットによれば、第1方向に並んだ第1トーチおよび第2トーチを有する溶接トーチが、シフト機構によって第1方向においてシフトさせられる。このような構成によれば、アークスポット溶接を行う際、シフト機構の作動によって溶接トーチのシフト動作を迅速に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るアークスポット溶接装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明に係る溶接トーチユニットが、ロボットに装着された一例を示す図である。
図3図2に示した溶接トーチユニットの斜視図である。
図4図3に示した溶接トーチユニットの部分断面図である。
図5】アークスポット溶接の手順を説明するための模式断面図である。
図6】アークスポット溶接の手順を説明するための模式断面図である。
図7】アークスポット溶接の手順を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係るアークスポット溶接装置の一例を示す概略構成図である。同図に示すアークスポット溶接装置B1は、被溶接物W1に対してアークスポット溶接を行うものである。被溶接物W1は、金属よりなる板材である。
【0017】
図1に示すアークスポット溶接装置B1は、ロボット1と、溶接トーチユニットA1と、第1電源41と、第2電源42と、制御部5と、を備える。
【0018】
図2は、本発明に係る溶接トーチユニットが、ロボットに装着された一例を示している。同図に示すロボット1は、マニピュレータ11と、アークスポット溶接用の溶接トーチユニットA1と、を備える。マニピュレータ11は、たとえば多関節ロボットである。溶接トーチユニットA1は、マニピュレータ11に支持されている。マニピュレータ11が駆動することにより、溶接トーチユニットA1が上下前後左右に自在に移動できる。
【0019】
図3は、溶接トーチユニットA1の斜視図である。図2図3に示すように、溶接トーチユニットA1は、溶接トーチ2と、シフト機構3と、ブラケット12と、ショックセンサ13と、を含む。ブラケット12は、マニピュレータ11の先端に取り付けられている。シフト機構3は、ブラケット12に支持されている。溶接トーチ2は、ショックセンサ13を介してシフト機構3に支持されている。
【0020】
図4は、溶接トーチ2を示す断面図である。同図に示した溶接トーチ2は、第1トーチ21と、第2トーチ22と、保持部材25と、整流部材27と、ノズル28と、を有する。
【0021】
図1図4に示すように、第1トーチ21には、非消耗電極23が挿通されている。第1トーチ21には、挿通孔211が形成されている。挿通孔211は、非消耗電極23の延びる方向に沿って延びており、第1トーチ21を貫通している。
【0022】
本実施形態では、たとえば第1トーチ21は、以下の構成となっている。図4に示すように、第1トーチ21は、トーチボディユニット21Aと、保持部21Bと、プラズマチップ21Cと、を有する。
【0023】
トーチボディユニット21Aは筒状を呈している。トーチボディユニット21Aは、導電性材料よりなる。トーチボディユニット21Aには、上述の挿通孔211が形成されている。
【0024】
保持部21Bは、トーチボディユニット21A内に配置されている。保持部21Bはトーチボディユニット21Aに固定されている。保持部21Bは、非消耗電極23を保持するためのものである。詳細な図示は省略するが、保持部21Bは、コレットおよびコレットボディを有する。コレットには非消耗電極23が挿通されており、コレットボディはコレットを非消耗電極23に対して締め付け、非消耗電極23を所望の位置に固定する役割を果たす。
【0025】
プラズマチップ21Cは、筒状を呈している。プラズマチップ21Cはトーチボディユニット21Aに固定されている。プラズマチップ21Cには、上述の挿通孔211が形成されている。挿通孔211にはプラズマガスG1が流れ、プラズマチップ21Cの先端開口から第1トーチ21の外部に流出する。
【0026】
非消耗電極23は、棒状の導体である。非消耗電極23は、たとえばタングステンからなる。アークスポット溶接装置B1の使用時においては、非消耗電極23および被溶接物W1の間に、プラズマアークa1が発生している状態となる。本実施形態では、非消耗電極23の中心軸線L1は、板材である被溶接物W1の上面に対して、直交している。
【0027】
図1図4等に示す第2トーチ22は、第1トーチ21に並列して配置されている。図4に示すように、第2トーチ22は、水平方向である第1方向xにおいて第1トーチ21と並んで配置されている。
【0028】
図1図4に示すように、第2トーチ22には、消耗電極24が挿通されている。消耗電極24は、ワイヤである。第2トーチ22は、送給装置(図示略)から送給された消耗電極24を、被溶接物W1に案内する。第2トーチ22には、挿通孔221が形成されている。挿通孔221は、消耗電極24の延びる方向(本実施形態では消耗電極24の送給方向)に沿って延びており、第2トーチ22を貫通している。第2トーチ22の先端開口から消耗電極24が送り出される。
【0029】
本実施形態では、たとえば第2トーチ22は、以下の構成となっている。図4に示すように、第2トーチ22は、トーチボディ22Aと、チップボディ22Bと、チップ22C、とを有する。
【0030】
トーチボディ22Aは筒状呈する。トーチボディ22Aは、導電性材料よりなる。トーチボディ22Aには、上述の挿通孔221が形成されている。トーチボディ22Aに形成された挿通孔221内を、シールドガスG2が流れる。シールドガスG2は不活性ガスである。このような不活性ガスとしては、たとえばAr、あるいは、ArとCO2との混合気体が挙げられる。
【0031】
チップボディ22Bは、筒状を呈している。チップボディ22Bは、トーチボディ22Aに固定されている。チップボディ22Bは、導電性材料よりなる。チップボディ22Bを構成する導電性材料としては、たとえば銅が挙げられる。チップボディ22Bには、上述の挿通孔221が形成されている。チップボディ22Bの筒状部分の適所にはガス流通穴が形成されている。トーチボディ22Aによって形成される挿通孔211内を流れてきたシールドガスG2は、上記ガス流通穴からチップボディ22Bの外部に流出する。
【0032】
チップ22Cは筒状を呈している。チップ22Cは、チップボディ22Bに固定されている。チップ22Cは、導電性材料よりなる。チップ22Cを構成する導電性材料としては、たとえば、銅タングステン等の硬度の高い焼結材や、クロム銅、ベリリウム銅等の銅合金が挙げられる。チップ22Cには、上述の挿通孔221が形成されている。チップ22Cは送給されている消耗電極24に接触し、この接触により当該消耗電極24に電力を供給する。
【0033】
アークスポット溶接装置B1の使用時においては、チップ22Cの先端から消耗電極24が送り出される。そして、チップ22Cから送り出された消耗電極24の先端と、被溶接物W1との間には、溶接アークa2が発生した状態となる。本実施形態では、消耗電極24の中心軸線L2は、被溶接物W1の上面に直交する方向に対して、傾斜している。
【0034】
図4に示した消耗電極24の中心軸線L2が被溶接物W1の上面と交差する点(交点P2)は、非消耗電極23の中心軸線L1が被溶接物W1の上面と交差する点(交点P1)から、第1方向xにおいて離間している。当該交点P1交点P2との距離D1は、たとえば3~15mm程度である。
【0035】
図1図4に示す保持部材25は、第1トーチ21および第2トーチ22を保持している。本実施形態では、保持部材25に第1トーチ21および第2トーチ22が挿通された状態で、保持部材25は第1トーチ21および第2トーチ22を保持している。保持部材25は、たとえば絶縁性材料よりなり、具体的には、樹脂よりなる。本実施形態では、保持部材25は、トーチボディユニット21Aおよびトーチボディ22Aを保持している。
【0036】
図1図4に示すノズル28は、保持部材25に固定されている。ノズル28は筒状である。ノズル28は第1トーチ21および第2トーチ22を囲んでいる。本実施形態では、ノズル28は、導電性材料よりなる。本実施形態とは異なり、ノズル28がセラミック等の絶縁性材料よりなっていてもよい。
【0037】
ノズル28には、ノズル内部空間281とノズル開口284とが形成されている。ノズル内部空間281は、ノズル28の内側に形成されている。ノズル開口284は、ノズル内部空間281に通じる。ノズル開口284は、図4の下方に開放している。ノズル28は、ノズル内側面282を有する。ノズル内側面282は、ノズル内部空間281を規定している。
【0038】
整流部材27は、保持部材25よりもノズル開口284側(図4における下方側)に配置されている。整流部材27には、第1トーチ21および第2トーチ22が挿通されている。図1図4に示すように、整流部材27と保持部材25とは、ガス流通空間29を規定している。すなわち、ガス流通空間29は、整流部材27および保持部材25の間に形成されている。ガス流通空間29には、挿通孔211内のシールドガスG2が、上述のガス流通穴から流れてくる。詳細な図示は省略するが、整流部材27には、複数のガス流出口が形成されている。これらガス流出口は、それぞれがガス流通空間29に通じており、かつノズル内部空間281に向けて開口している。これにより、ガス流通空間29内のシールドガスG2は、上記複数のガス流出口からノズル内部空間281に流出する。ノズル内部空間281内のシールドガスG2は、ノズル開口284から被溶接物W1に向けて噴出する。
【0039】
図3に示したシフト機構3は、溶接トーチ2を第1方向xにおいてシフトさせるものである。本実施形態では、シフト機構3は、たとえばエアシリンダを含んで構成される。図3に示したシフト機構3は、ベース部31およびスライド部32を有する。
【0040】
ベース部31は、ブラケット12に固定されている。詳細な図示は省略するが、スライド部32は、たとえばエアシリンダのピストンロッドに連結されている。スライド部32は、エアシリンダに供給されるガス圧等に応じて、第1方向xに沿って直線移動する。このスライド部32には、ショックセンサ13を介して溶接トーチ2が取り付けられている。これにより、本実施形態では、シフト機構3は溶接トーチ2を第1方向xに沿って直線移動させる。エアシリンダを含むシフト機構3の作動により、溶接トーチ2は2位置間で往復動する。
【0041】
なお、シフト機構3を構成するエアシリンダの作動方式は特に限定されず、たとえば2つのエア供給ポートを有する複動シリンダ、あるいは1つのエア供給ポートとバネによる復帰構造を有する単動シリンダのいずれであってもよい。
【0042】
制御部5は、アークスポット溶接装置B1により行うアークスポット溶接の作業工程全般を制御する。図1に示したアークスポット溶接装置B1において、制御部5は、ロボット1、第1電源41、第2電源42およびシフト機構3を、それぞれ制御する。ロボット1は、制御部5からの信号を受け、マニピュレータ11を駆動させる。溶接トーチユニットA1(溶接トーチ2)は、マニピュレータ11の駆動により、被溶接物W1における所定の溶接位置に移動する。
【0043】
第1電源41は、制御部5からの信号に基づき、非消耗電極23および被溶接物W1の間に電圧を印加し、非消耗電極23および被溶接物W1の間に電流を流す。第2電源42は、制御部5からの信号に基づき、消耗電極24および被溶接物W1の間に電圧を印加し、消耗電極24および被溶接物W1の間に電流を流す。シフト機構3は、制御部5からの信号に基づき、溶接トーチ2をシフトさせる。本実施形態では、たとえばエアシリンダへのガス供給を電磁弁等により制御し、エアシリンダを作動させる。
【0044】
制御部5は、上記の他にも、送給装置による消耗電極24の送給、プラズマガスG1やシールドガスG2の供給等を制御する。また、制御部5による各部の制御はいわゆるシーケンス制御であり、各種検出データ等を利用しつつ所定の処理フローを順次行う。
【0045】
なお、ショックセンサ13は、ロボット1の動作異常の際にロボット1を停止させるためのものである。溶接トーチユニットA1の外物との衝突等により過度な衝撃が加わると、ショックセンサ13により衝撃を検出し、制御部5はロボット1の動作を停止させる。
【0046】
次に、図5図7を参照して、アークスポット溶接装置B1を用いて行うアークスポット溶接の手順について説明する。
【0047】
まず、被溶接物W1を準備する。被溶接物W1は、複数枚の板材が互いに重ねられたものである。各板材の厚さは、たとえば0.6~4mm程度である。溶接トーチ2については、図5に示すように、非消耗電極23の中心軸線L1が被溶接物W1においてスポット溶接すべき箇所と重なる位置に配置する。このとき、たとえば溶接トーチ2は、本発明で言う第1位置に位置する。
【0048】
次に、第1電源41により非消耗電極23および被溶接物W1の間に電圧を印加し、非消耗電極23および被溶接物W1の間に電流が流れる。これにより、非消耗電極23および被溶接物W1の間にプラズマアークa1が発生する。プラズマアークa1の熱により被溶接物W1が溶融し、被溶接物W1には上面から下面まで貫通する貫通穴Wh(キーホール)が形成される。被溶接物W1への貫通穴Whの形成は、非消耗電極23および被溶接物W1の間の電圧値に基づいて検出される。被溶接物W1に貫通穴Whが形成されると、非消耗電極23および被溶接物W1の間の通電が停止される。非消耗電極23および被溶接物W1の間の通電によって被溶接物W1に貫通穴Whを形成するのに要する時間は、たとえば0.5~2秒程度である。当該貫通穴Whを形成するのに要する時間は、たとえば被溶接物W1(板材)の厚さや材質に応じて変化しうる。
【0049】
被溶接物W1に貫通穴Whが形成されると、シフト機構3の作動により、溶接トーチ2が第1方向xにおいてシフトさせられる。シフト機構3を構成するエアシリンダが複動シリンダの場合、一方のポートへのエア供給により、溶接トーチ2がシフトさせられる。本実施形態では、図6に示すように、溶接トーチ2は、第1方向xに沿って直線移動させられる。シフト機構3によって溶接トーチ2が移動させられる距離は、図4を参照して上述した交点P1と交点P2との距離D1に対応している。このとき、たとえば溶接トーチ2は、本発明で言う第2位置に位置する。溶接トーチ2が第2位置に位置することは、たとえばシフト機構3においてエアシリンダが往復動の片側端に到達したことを検出するセンサにより検出される。溶接トーチ2が第1位置から第2位置にシフトさせられるのに要する時間は、たとえば0.5~1秒程度である。
【0050】
次いで、第2電源42により消耗電極24および被溶接物W1の間に電圧を印加し、消耗電極24および被溶接物W1の間に電流が流れる。これとともに、上記の送給装置により消耗電極24を送給する。これにより、図7に示すように、消耗電極24および被溶接物W1の間に溶接アークa2が発生する。消耗電極24および被溶接物W1の間に発生する溶接アークa2によって、消耗電極24に由来する溶融金属が、被溶接物W1の上記貫通穴Whに充填される。溶接アークa2の発生する時間は、たとえば0.5~2秒程度である。これにより、貫通穴Whには、溶接部241が形成される。
【0051】
アークスポット溶接が終了すると、シフト機構3の作動により、溶接トーチ2が、図6図7に示した第2位置から図5に示した元の第1位置に移動させられる。シフト機構3を構成するエアシリンダが複動シリンダの場合、エア供給を他方のポートへ切り換えることにより、溶接トーチ2が第1位置に戻る。
【0052】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0053】
本実施形態の溶接トーチユニットA1においては、非消耗電極23が挿通される第1トーチ21と、消耗電極24が挿通される第2トーチ22とが、第1方向xにおいて並んで配置されている。これら第1トーチ21および第2トーチ22を有する溶接トーチ2が、シフト機構3によって第1方向xにおいてシフトさせられる。このような構成によれば、アークスポット溶接を行う際、シフト機構3の作動によって溶接トーチ2のシフト動作を迅速に行うことが可能となる。
【0054】
図5図7を参照して上述したように、シフト機構3は、溶接トーチ2を第1位置と第2位置との間で往復動させる。このような構成によれば、溶接トーチ2が第1位置にあるときに第1トーチ21によりプラズマアークa1を発生させ、溶接トーチ2が第2位置にあるときに第2トーチ22により溶接アークa2を発生させることが可能である。したがって、溶接トーチ2の往復動の動作端である第1位置および第2位置を所望のアーク発生位置に設定することで、溶接トーチ2をより迅速にシフトさせることが可能である。
【0055】
本実施形態において、シフト機構3は、溶接トーチ2を直線移動させる。このような構成によれば、たとえば本実施形態と異なりシフト機構が溶接トーチをスイングさせる構成と比べて、シフト機構3の可動範囲の省スペース化を図ることができる。また、本実施形態のように溶接トーチユニットA1がロボット1に装着される場合においては、シフト機構3の可動範囲の省スペース化によってロボット1の動作の制約を減じることができ、有利である。
【0056】
本実施形態では、シフト機構3はエアシリンダを含んで構成される。このような構成によれば、当該エアシリンダへのガス供給を適宜切り換えることにより、溶接トーチ2を迅速かつ適切にシフトさせることができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0058】
上記実施形態では、シフト機構3としてエアシリンダを含んだ構成の場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。シフト機構3として、その他の直線型アクチュエータを採用してもよい。また、シフト機構3として、溶接トーチ2を、そのノズル28の先端付近を中心に揺動(スイング)させる構成としてもよい。
【0059】
上記実施形態では、ロボット1に溶接トーチユニットA1を装着する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。本発明の溶接トーチユニットは、たとえば自動スポット溶接機に装着して使用することも可能である。
【符号の説明】
【0060】
A1:溶接トーチユニット、B1:アークスポット溶接装置、11:マニピュレータ、2:溶接トーチ、21:第1トーチ、22:第2トーチ、23:非消耗電極、24:消耗電極、3:シフト機構、41:第1電源、42:第2電源、5:制御部、x:第1方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7