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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】アデノ随伴ウイルスの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/02 20060101AFI20230307BHJP
【FI】
C12N7/02
【請求項の数】 5
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021087531
(22)【出願日】2021-05-25
(65)【公開番号】P2022027465
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】16/942,156
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596064112
【氏名又は名称】ポール・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Pall Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ヘジュモウスキ, アダム
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518164(JP,A)
【文献】特表2018-507707(JP,A)
【文献】国際公開第2019/133677(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/006390(WO,A1)
【文献】Molecular Therapy,2006年,vol.13, no.4, p.823-828
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全なアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドと空のAAVカプシドとの混合物から完全なAAVカプシドを濃縮する方法であって、
完全なAAVカプシドと空のAAVカプシドとの混合物を含む試料を用意するステップ
.5mS/cm~10mS/cmの範囲内の初期伝導率をもたらす初期比で平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液を含む溶出緩衝液を含む陰イオン交換クロマトグラフィーに前記試料を供するステップ、及び
段階勾配の伝導率増加が各段階で0.5~2.0mS/cmとなるように前記平衡化緩衝液と前記塩含有緩衝液の比を変化させて、空のAAVカプシドを溶出させ、完全なAAVカプシドが濃縮された流体をもたらすステップ
を含む方法。
【請求項2】
陰イオン交換クロマトグラフィーに前記試料を供するステップが、正に帯電した微多孔膜に前記試料を接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
最終段階が20mS/cmの伝導率をもたらす、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の初期比が98.3:1.7である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の最終比が81.5:18.5である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子療法のベクターとして使用することができる、一本鎖DNAのゲノムを有する小さなウイルスである。AAVベクターの製造中には、所望のDNAが欠如した不完全な粒子が生成される。試料中に空のAAV粒子(empty AAV particle)が存在すると、遺伝子療法に必要とされる用量が増加し、望ましくない免疫応答が引き起こされることがある。空のAAV粒子と完全なAAV粒子(full AAV particle)を分離する現在の方法には、密度勾配超遠心分離及びカラムクロマトグラフィーが含まれる。しかし、そのような方法は、大規模な操作においては、改善された分離を得ることが難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
[0002]よって、一貫性があって高品質な遺伝子療法用治療剤を提供するための、空のAAV粒子と完全なAAV粒子との分離の改善に対する需要が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0003】
[0003]本発明は、完全なアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドと空のAAVカプシド(empty AAV capsid)との混合物から完全なAAVカプシド(full AAV capsid)を濃縮する方法を提供する。該方法は、完全なAAVカプシドと空のAAVカプシドとの混合物を含む試料を用意するステップ、約0.5mS/cm~約10mS/cmの範囲内の初期伝導率をもたらす初期比で平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液を含む溶出緩衝液を用いる陰イオン交換クロマトグラフィーに該試料を供するステップ、段階勾配の伝導率増加が各段階で約0.5~2.0mS/cmとなるように該平衡化緩衝液と該塩含有緩衝液の比を変化させて、空のAAVカプシドを溶出させ、完全なAAVカプシドが濃縮された流体をもたらすステップを含む。
【0004】
[0004]該方法は、例えば、直線勾配を含めた公知のクロマトグラフィー分離方法に優る利点を提供して、一貫して濃縮された比の完全なAAVカプシドを有する生成物(流体)をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】正に帯電した膜カラムでの1mS/cmの段階勾配陰イオン交換カラムクロマトグラフィー法を使用した、空のAAV5粒子と完全なAAV5粒子との分離のグラフである。
図2】完全なAAV5粒子が後の方のピーク(ピーク3及び4)に見出されることを示す、生じた各ピークのカプシドに対するゲノムコピーの比率に関するデータを含有する位置合わせした表の上にある、空のAAV5粒子と完全なAAV5粒子とが分離されたクロマトグラムである。
図3】別の正に帯電した膜カラムでの1mS/cmの段階勾配陰イオン交換カラムクロマトグラフィー法を使用した、空のAAV5粒子と完全なAAV5粒子との分離のクロマトグラムである。
図4】正に帯電したモノリスカラムでの1mS/cmの段階勾配陰イオン交換カラムクロマトグラフィー法を使用した、空のAAV5粒子と完全なAAV5粒子との分離のクロマトグラムである。
図5】正に帯電した膜カラムで空のAAV5標準を使用して生じたピークを示す図である。空のAAV5粒子は、280nmでの吸光度の方が260nmと比較して高く、そして10mS/cm及び11mS/cm付近の伝導率で溶出する。
図6】正に帯電した膜カラムで完全なAAV5標準を使用して生じたピークを示す図である。完全な粒子は、280nmと260nmの両方で同等な吸光強度を有しており、そして11~13mS/cm付近の伝導率で溶出する。
図7】空のAAV5標準の分離クロマトグラム(図5)と完全なAAV5標準の分離クロマトグラム(図6)とを重ね合わせた図である。
図8】正に帯電した膜カラムでの直線勾配陰イオン交換カラムクロマトグラフィー法を使用した、空のAAV5粒子と完全なAAV5粒子との分離の失敗を示す図である。
図9】正に帯電したモノリスカラムでの直線勾配陰イオン交換カラムクロマトグラフィー法を使用した、空のAAV5粒子と完全なAAV5粒子との分離の失敗を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[0014]本発明は、空アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドと完全なAAVカプシドとを不均一な試料から分離するための陰イオン交換クロマトグラフィー法を対象とする。本発明は、少なくとも部分的に、空のAAV粒子が完全なAAV粒子より低い伝導率で溶出するという発見に依拠している。特に、完全なAAV粒子は、260nmで空のAAV粒子よりも大きいUV吸光度を有する(図1)。この分離は、空のAAV粒子の方が大きい280/260シグナル比を生じ、一方、完全なAAV粒子は1に近い280/260シグナル比を生じるというように、280nm及び260nmでのUV吸光度を比較することによっても観察することができる。空のAAV粒子と完全なAAV粒子との分離の改善をもたらすのに加え、この方法は、超遠心分離などの公知の方法と比較して、製造のニーズに合わせた規模の拡大縮小を可能にする。本発明の方法の他の利益には、例えば、迅速な処理、血清型に依存しない試料の使用、及び様々なタイプのクロマトグラフィー媒体及び緩衝液組成物の使用が含まれる。
【0007】
[0015]特に、本発明は、完全なAAVカプシドと空のAAVカプシドとの混合物から完全なAAVカプシドを濃縮する方法であって、
完全なアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドと空のAAVカプシドとの混合物を含む試料を用意するステップ、
約0.5mS/cm~約10mS/cmの範囲内の初期伝導率をもたらす初期比で平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液を含む溶出緩衝液を含む陰イオン交換クロマトグラフィーに該試料を供するステップ、及び
段階勾配の伝導率増加が各段階で約0.5~2.0mS/cmとなるように該平衡化緩衝液と該塩含有緩衝液の比を変化させて、空のAAVカプシドを溶出させ、完全なAAVカプシドが濃縮された流体をもたらすステップ
を含む、完全なAAVカプシドと空のAAVカプシドとの混合物から完全なAAVカプシドを濃縮する方法を提供する。
【0008】
[0016]該方法は、任意の血清型、偽型、及び/又はバリアントのAAVカプシドに適している。適切な血清型には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、及びそれらの組合せが含まれる。ある特定の実施形態では、試料は、AAV血清型2(AAV2)、AAV血清型5(AAV5)、又はそれらの組合せを含む。偽型のAAV粒子も使用することができ、偽型では、ある特定の型のゲノムが、異なる血清型のカプシド内に配置されている。例えば、試料は、血清型5のカプシド内に配置された血清型2のゲノムを含む、AAV2/5を含むことができる。
【0009】
[0017]分離しようとする試料は、任意の適切な濃度を有することができる。例えば、試料は、少なくとも約1×1011カプシド/mL(例えば、少なくとも約1.5×1011カプシド/mL、少なくとも約1×1012カプシド/mL、少なくとも約1.5×1012カプシド/mL、少なくとも約1×1013カプシド/mL)のクロマトグラフィー媒体を含有することができる。好ましくは、開始ウイルス量は、少なくとも約1×1012カプシド/mLのクロマトグラフィー媒体である。
【0010】
[0018]陰イオン交換クロマトグラフィーは、イオン交換膜(例えば、正に帯電した膜)、イオン交換樹脂(例えば、正に帯電した樹脂)、又はモノリスを含めた任意の適切な分離方法を使用することができる。一部の実施形態では、試料を陰イオン交換クロマトグラフィーに供するステップは、試料と正に帯電した微多孔膜とを接触させることを含む。陰イオンクロマトグラフィー用のクロマトグラフィー媒体は、例えば、ムスタング(MUSTANG)(商標)Q XTアクロディスク(Q XT ACRODISC)(商標)(Pall、ポートワシントン、NY)、シーマック(CIMac)(商標)(BIA Separations、スロベニア)、ポロスHQ(POROS HQ)(ThermoFisher、ウォルサム、MA)、又はポロスXQ(POROS XQ)(ThermoFisher、ウォルサム、MA)であり得る。
【0011】
[0019]ある特定の実施形態では、分離方法の最終段階は、約20mS/cmの電気伝導率をもたらす。初期伝導率は、任意の所望の値であり、AAV粒子の血清型及び緩衝液の組成に依存することとなる。典型的には、初期伝導率は、0.5mS/cm以上~10mS/cm以下の範囲(例えば、約0.5mS/cm、約0.75mS/cm、約1mS/cm、約1.5mS/cm、約2mS/cm、約2.5mS/cm、約3mS/cm、約3.5mS/cm、約4mS/cm、約4.5mS/cm、約5mS/cm、約5.5mS/cm、約6mS/cm、約6.5mS/cm、約7mS/cm、約7.5mS/cm、約8mS/cm、約8.5mS/cm、約9mS/cm、約9.5mS/cm、又は約10mS/cm)である。例えば、初期伝導率は約1mS/cmであってもよく、伝導率は、約20mS/cmに達するまで各段階で増加する。一般に、段階勾配は、典型的には各増分で約0.5~2.0mS/cmの範囲の、伝導率の漸増的変化を含む。最終伝導率をもたらす増分の数は、電気伝導率の増分の大きさに応じて変動することとなる。好ましくは、各増分は各々約1mS/cmである。該方法の中での増分は、同じ長さであっても、異なる長さであってもよい。本明細書に記載する実施形態のいずれかでは、勾配段階は、段階終了時に紫外線(UV)強度をベースラインシグナルの25%以内(例えば、20%以内、15%以内)にすることを可能とする長さのものである。好ましくは、UV強度は、段階終了時にベースラインシグナルの20%以内である。
【0012】
[0020]該分離方法は、平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液を含む溶出緩衝液の混合物を必要とする。平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液を含む溶出緩衝液は、任意の適切なpHを有することができる。好ましくは、平衡化緩衝液のpHと塩含有緩衝液のpHとを含む溶出緩衝液のpHは塩基性である(例えば、7より大きいpH)。一部の実施形態では、該pHは、7.5以上、8以上、8.5以上、9以上、9.5以上、又は10以上である。幾つかの好ましい実施形態では、該pHは、約7~10、約7~9、約7.5~10.5、約8~10.5、約8~10、約8.5~9.5、又は約9である。
【0013】
[0021]平衡化緩衝液は、約15mS/cm以下(例えば、約12mS/cm以下、約10mS/cm以下、約8mS/cm以下、約6mS/cm以下、約5mS/cm以下、約4mS/cm以下、約3mS/cm以下、約2mS/cm以下、約1mS/cm)の伝導率を有する、任意の適切な緩衝液である。一部の実施形態では、平衡化緩衝液は、約1mS/cmの伝導率を有する。
【0014】
[0022]一般に、平衡化緩衝液は、本明細書に記載するように、塩基性のpH(例えば、少なくとも7)で作動範囲を有することとなる。平衡化緩衝液は、例えば、ビス-トリスプロパン(BTP)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、TRIS-Cl、TRIS-HCl、ビス-6TRISプロパン、酢酸アンモニウム、2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸(TES)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸(HEPES)、3-(N,N-ビス[2-ヒドロキシエチル]アミノ)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、4-(N-モルホリノ)ブタンスルホン酸(MOBS)、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)水和物(HEPPSO)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸(EPPS)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(ビシン)、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(トリシン)、ジグリシン(グリシルグリシン)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(4-ブタンスルホン酸)(HEPBS)、3-{[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ}プロパン-1-スルホン酸(TAPS)、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMPD)、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)、3-(シクロヘキシルアミノ)-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸(CAPSO)、3-(シクロヘキシルアミノ)-1-プロパンスルホン酸(CAPS)、4-(シクロヘキシルアミノ)-1-ブタンスルホン酸(CABS)、又は2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)であり得る。
【0015】
[0023]塩含有緩衝液(例えば、高塩濃度含有緩衝液)は、本明細書に記載するものなどの任意の適切な平衡化緩衝液であるが、無機塩が添加されたものである。好ましい実施形態では、塩含有緩衝液は、平衡化緩衝液(例えば、BTP)と同じである。ある特定の実施形態では、塩は、約15mS/cm以上(例えば、約20mS/cm以上、約30mS/cm以上、約40mS/cm以上、約50mS/cm以上、約60mS/cm以上、約65mS/cm以上、約70mS/cm以上、約75mS/cm以上、約80mS/cm以上、又は約85mS/cm以上)の伝導率をもたらす量で緩衝液中に存在する。幾つかの好ましい実施形態では、塩含有緩衝液の電気伝導率は、約50mS/cm以上、好ましくは約80mS/cm以上である。一般に、該緩衝液中の塩の濃度は、少なくとも100mM(例えば、少なくとも200mM、少なくとも300mM、少なくとも500mM、少なくとも600mM、少なくとも800mM、少なくとも900mM、少なくとも1M、少なくとも1.1M、少なくとも1.2M、少なくとも1.3M、少なくとも1.5M、少なくとも1.6M、少なくとも1.8M、少なくとも1.9M)である。一部の実施形態では、該緩衝液中の塩の濃度は、2M以下(例えば、1.9M以下、1.8M以下、1.6M以下、1.5M以下、1.3M以下、1.2M以下、1.1M以下、1M以下、900mM以下、800mM以下、600mM以下、500mM以下、300mM以下、又は200mM同様未満である。前述の端点のいずれか2つを使用して制限的な範囲を定義することも、又は単一の端点を使用して非制限的な範囲を定義することもできる。例えば、塩濃度は、200mM~2M、500mM~1.5M、900mM~1.2M、又は約1Mであり得る。
【0016】
[0024]該塩は、任意の無機塩、例えば、第I族金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウム)、第II族金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、又はバリウム)、アンモニウム、又はアルミニウムの陽イオンを含有する任意の塩である。対陰イオンは、ハロゲン化物、炭酸イオン、炭酸水素イオン、硫酸イオン、チオ硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオン、臭素酸イオン、塩素酸イオン、ヨウ素酸イオンなどであり得る。塩の具体例として、臭化リチウム、塩化リチウム、ヨウ素酸リチウム、ヨウ化リチウム、水酸化リチウム、硫酸リチウム、リン酸リチウム、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、重硫酸ナトリウム、臭素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、硫化水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸水素カリウム、臭素酸カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、塩素酸カリウム、水酸化カリウム、ヨウ化カリウム、リン酸カリウム、チオ硫酸カリウム、臭化ルビジウム、塩化ルビジウム、フッ化ルビジウム、ヨウ化ルビジウム、硝酸ルビジウム、硫酸ルビジウム、臭化セシウム、塩化セシウム、炭酸セシウム、硝酸セシウム、硝酸ベリリウム、硫酸ベリリウム、酢酸マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化マグネシウム、ヨウ素酸マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸カルシウム、臭化カルシウム、塩化カルシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ素酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、臭化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、リン酸水素ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、酢酸バリウム、臭化バリウム、塩化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、リン酸バリウム、硫酸バリウム、チオ硫酸バリウム、酢酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アルミニウム、リン酸アルミニウム、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。一部の実施形態では、該塩は、第I族-ハロゲン化物又は第I族-酢酸塩、例えば、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カリウム、又は酢酸カリウムである。
【0017】
[0025]平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液の濃度は、任意の適切な濃度で使用される。ある特定の実施形態では、平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液は各々、少なくとも5mM(例えば、少なくとも10mM、少なくとも15mM、少なくとも20mM、少なくとも25mM、少なくとも30mM、少なくとも35mM、少なくとも40mM、少なくとも45mM、又は少なくとも50mM)の濃度で使用される。典型的には、平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液は各々、100mM以下(例えば、90mM以下、85mM以下、80mM以下、75mM以下、70mM以下、65mM以下、60mM以下、55mM以下、50mM以下、45mM以下、40mM以下、35mM以下、30mM以下、25mM以下、又は20mM以下)の濃度で使用される。前述の端点のいずれか2つを使用して制限的な範囲を定義することも、又は単一の端点を使用して非制限的な範囲を定義することもできる。平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液の濃度は、典型的には異なることとなり、所望の伝導率レベルに基づいて変動することとなる。一部の実施形態では、平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液の濃度は各々、10~100mMの間、好ましくは20~50mMの間になることとなる。
【0018】
[0026]分離方法中に伝導率を漸増的に変化させることは、平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の比を変えることによって行われる。よって、溶出緩衝液中の緩衝液の比率は、所望の段階勾配の増分(例えば、約1mS/cm)に従って変化することとなる。緩衝液の混合物は、クロマトグラフィー系内で予混合又は混合することができる。平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の初期比は、所望の初期伝導率(例えば、約1mS/cm)をもたらす任意の比であり、例えば、90:10~100:0の範囲内の初期比である。一部の実施形態では、平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の初期比は約98.3:1.7である。平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の最終比は、所望の最終伝導率(例えば、約20mS/cm)をもたらす任意の比であり、例えば、70:30~85:15の範囲内の最終比である。一部の実施形態では、平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の最終比は約81.5:18.5である。好ましい実施形態では、平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の初期比は約98.3:1.7であり、平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の最終比は約81.5:18.5である。
【0019】
[0027]本明細書で使用する場合、「約」という用語は、典型的には値の±1%、値の±5%、又は値の±10%を指す。
【0020】
[0028]溶出容量は、試料の容量及びカラムのサイズによって変動することとなる。勾配の各段階で、異なる容量を生成することができる。溶出段階の容量が不十分である場合(例えば、クロマトグラフィーデバイスの2容量未満)、溶出段階中でピークは不完全に溶出され、分離が損なわれる。
【0021】
[0029]該分離方法が進行するときに、タンパク質濃度(空の及び完全なカプシド)をモニタリングするために280nmのUV波長によって、及びDNA濃度(完全なカプシド)をモニタリングするために260nmのUV波長によって、クロマトグラフィーピークの分解能をモニタリングすることができる。本明細書における実施形態のいずれかでは、各伝導率段階からの流体は収集され、タンパク質及びDNAを含有する試料(UVによって特定される)がさらに分析される。分析は、典型的には、試料中のカプシド(すなわちタンパク質)の総数を算出する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって、及びゲノムコピーの数を特定することができるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(例えば、ドロップレットデジタル(DROPLET DIGITAL)(商標)PCT(ddPCR)又は定量的PCR(qPCR))によって実施する。ELISAのPCRに対する比率は、完全なカプシドの量を示すことができ、それは引き続き、透過型電子顕微鏡及び/又は分析用超遠心分離などのさらなる分析法によって確認することができる。
【0022】
[0030]該分離方法は、空のAAVカプシドを低伝導率で溶出させて完全なAAVカプシドが濃縮された流体をもたらすという分解能をもたらす。「濃縮された」という用語は、本発明の方法を実施した後に、流体が、開始試料と比較して空のAAV粒子より多くの完全なAAV粒子を含有することを意味する。ある特定の実施形態では、分離された試料(流体)は、空のAAVカプシドに対して完全なAAVカプシドが少なくとも50%(例えば、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、又は少なくとも85%)濃縮されている。好ましくは、該方法によって、最終生成物(流体)中で空のAAVカプシドに対して完全なAAVが少なくとも70%濃縮される。
【0023】
[0031]本明細書に記載する方法は、典型的には、より大きい製造工程の一部である。よって、製造工程のさらなる過程では、例えば、AAV試料の作製(上流の細胞培養)、AAVの初期ろ過(浄化/タンジェンシャルフローろ過(TFF))、及び/又はAAVの精製(例えば、アフィニティークロマトグラフィーによる)が含まれる場合がある。そのようなステップは、本発明の伝導率勾配溶出を使用して空のAAV粒子と完全なAAV粒子とを分離する陰イオン交換クロマトグラフィー法に先行することとなる。本発明の分離方法は、カラム(例えば、膜)の平衡化、AAV含有試料の適用、及び/又はカラム(例えば、膜)の洗浄を含めた初期ステップをさらに含むことができ、その後、伝導率段階勾配が行われる。
【0024】
[0032]本発明を以下の実施形態によってさらに説明する。
【0025】
[0033](実施形態1)完全なアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドと空のAAVカプシドとの混合物から完全なAAVカプシドを濃縮する方法であって、完全なAAVカプシドと空のAAVカプシドとの混合物を含む試料を用意するステップ、約0.5mS/cm~約10mS/cmの範囲内の初期伝導率をもたらす初期比で平衡化緩衝液及び塩含有緩衝液を含む溶出緩衝液を含む陰イオン交換クロマトグラフィーに該試料を供するステップ、及び段階勾配の伝導率増加が各段階で約0.5~2.0mS/cmとなるように該平衡化緩衝液と該塩含有緩衝液の比を変化させて、空のAAVカプシドを溶出させ、完全なAAVカプシドが濃縮された流体をもたらすステップを含む方法。
【0026】
[0034](実施形態2)陰イオン交換クロマトグラフィーに該試料を供するステップが、正に帯電した微多孔膜に該試料を接触させることを含む、実施形態(1)に記載の方法。
【0027】
[0035](実施形態3)最終段階が約20mS/cmの伝導率をもたらす、実施形態(1)又は(2)に記載の方法。
【0028】
[0036](実施形態4)平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の初期比が約98.3:1.7である、実施形態(1)~(3)のいずれか一つに記載の方法。
【0029】
[0037](実施形態5)平衡化緩衝液と塩含有緩衝液の最終比が約81.5:18.5である、実施形態(1)~(4)のいずれか一つに記載の方法。
【0030】
[0038]以下の実施例は本発明をさらに説明するが、当然のことながら、本発明の範囲をいかなる方法であれ限定すると解釈されるべきではない。
【実施例
【0031】
実施例1
[0039]この実施例は、伝導率段階勾配を使用して空のAAV粒子と完全なAAV粒子との分離を実現するためのプロトコルを実証する。そのステップを表1に示す。
【表1】
【0032】
実施例2
[0040]この実施例は、空のAAV粒子と完全なAAV粒子との分離を実現するためのAKTA(商標)アヴァント(Avant)プロトコルについて記載する。
【0033】
[0041]空の及び完全なウイルス粒子を含有するアフィニティー精製されたAAV試料溶液を得て、自動高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)システム(ポール(PALL)ムスタング(商標)Qアクロディスク(商標)(0.86mL CV))での陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに適用した。溶出緩衝液は、以下を含んでいた:
8.5~9.5のpH範囲で低伝導率(<5mS/cm)の平衡化緩衝液
8.5~9.5のpH範囲でより高い伝導率(>80mS/cm)の高塩濃度緩衝液
【0034】
[0042]分離を実現するために使用した方法を表2に示す。
【表2】
【0035】
[0043]空のカプシドと完全なカプシドの分離は、タンパク質含有量については280nmの波長、DNA含有量については260nmの波長での吸光度によってモニタリングした。より高い比率の完全なAAVカプシドを含有する最終溶出は、ドロップレットデジタル(商標)法ポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)(Bio-Rad、ハーキュリーズ、CA)を実施して、溶出されたウイルス粒子中に存在するゲノムコピーの数を測定することによって確認した。カプシド酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用して、溶出されたウイルス粒子中に存在する形成されたAAVカプシドの総数を測定した。図2は、高い方の伝導率段階で生じた溶出ピークが、早い方の溶出ピークに対して多くの量のゲノムコピーを含有していたことを示している。
【0036】
実施例3
[0044]この実施例は、膜での陰イオンクロマトグラフィーを使用して空のAAV粒子と完全なAAV粒子とを分離するための方法について記載する。
【0037】
[0045]AAV5粒子を含む試料を負荷したザルトバインド(SARTOBIND)(商標)Q(Sartorius、フランス)1mL膜カラムを使用した1mS/cmの溶出方法を使用して、実施例2を繰り返した。その結果を図3に示す。
【0038】
実施例4
[0046]この実施例は、モノリスカラムでの陰イオンクロマトグラフィーを使用して空のAAV粒子と完全なAAV粒子を分離するための方法について記載する。
【0039】
[0047]AAV5粒子を含む試料を負荷したシーマック(商標)(BIA Separations、スロベニア)0.1mLモノリスカラムを使用した1mS/cmの溶出方法を使用して、実施例2を繰り返した。その結果を図4に示す。
【0040】
実施例5
[0048]この実施例は、空のAAV5粒子と、それに対する完全なAAV5粒子の、別個のクロマトグラフィーパターンを示す。
【0041】
[0049]空のAAV粒子と完全なAAV粒子とを分離する業界の一般的な手法である超遠心分離によって、AAV5の空の及び完全な粒子の標準を得た。本発明の伝導率段階勾配溶出方法を、空の及び完全なAAV5標準に対して実施した。図5は、空のAAV5標準を使用して生じたピークを示しており、それにおいて、空のAAV粒子は、280nmでの吸光度の方が260nmと比較して高く、そして10mS/cm及び11mS/cm付近の伝導率で溶出する。図6は、完全なAAV5標準を使用して生じたピークを示しており、それにおいて、完全な粒子は、280nmと260nmの両方で同等の吸光度を有しており、そして11~13mS/cm付近の伝導率で溶出する。
【0042】
[0050]図7は、空の標準の分離クロマトグラムと完全な標準の分離クロマトグラムとの重ね合わせを示す。空のAAV5粒子は、完全なAAV5粒子と比較して低い伝導率で溶出する。これらのクロマトグラムによって、AAV5の空の粒子と完全な粒子の分離がこの伝導率段階手法を使用して実現できることが実証される。
【0043】
比較例1
[0051]この実施例は、直線勾配陰イオン交換カラムクロマトグラフィー法を使用して空のAAV粒子と完全なAAV粒子とを分離する方法について記載する。
【0044】
[0052]この方法は、(a)ムスタング(商標)Q XT0.86mLアクロディスク(商標)(Pall、ポートワシントン、NY)(図8)、又は(b)0.1mL分析用シーマック(商標)モノリスカラム(BIA Separations、スロベニア)(図9)のいずれかを使用するときに、空のAAV5粒子と完全なAAV5粒子との一般的なAAVカプシド分離のために、直線塩勾配溶出(0~200mM)を使用した。図8及び9から分かるように、汎用される直線勾配溶出は、ポールムスタング(商標)Q膜又はシーマック(商標)モノリス(BIA Separations)のいずれにおいても、空のAAV5ウイルスベクターと完全なAAV5ウイルスベクターとの分離を示さなかった。
【0045】
[0053]本明細書に引用する、刊行物、特許出願、及び特許を含めた全ての参考文献は、各々の参考文献が参照により組み込まれると個々に且つ具体的に示され、その全体が本明細書に記述されているのと同程度に、本明細書に参照により組み込まれる。
【0046】
[0054]本発明を記載する文脈での(とりわけ、以下の特許請求の範囲の文脈での)「ある(a)」及び「ある(an)」及び「その(the)」及び「少なくとも1つ」という用語並びに同様の指示語の使用は、本明細書に特に示さない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形と複数形の両方に及ぶと解釈されるべきである。1つ又は複数の項目の列挙が後に続く「少なくとも1つ」という用語の使用は(例えば、「A及びBの少なくとも1つ」)、本明細書に特に示さない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、列挙された項目から選択された1つの項目(A又はB)、又は列挙された項目の2つ以上の任意の組合せ(A及びB)を意味すると解釈されるべきである。「含む(comprising)」、「有する」、「含む(including)」、及び「含有する)」という用語は、特に断りのない限り、非制限用語(すなわち、「含むが、これらに限定されない」を意味する)と解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書に特に示さない限り、範囲内の別々の各値を個々に指す簡略な方法としての役割を果たすことが意図されるに過ぎず、別々の各値は、本明細書に個々に列挙されたもののごとく本明細書に組み込まれる。本明細書に記載する全ての方法は、本明細書で特に示さない限り、又は他に文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供するあらゆる実施例又は例示的な言葉(例えば、「など」)の使用は、本発明をより良く明瞭にすることを意図するに過ぎず、特に請求項に記載されない限り、本発明の範囲に限定をもたらすものではない。本明細書中のいかなる言葉も、特許請求されていない任意の要素が本発明の実践に不可欠であると示していると解釈されるべきではない。
【0047】
[0055]本発明者らの知る本発明を実施するための最良の形態を含む、本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載されている。これらの好ましい実施形態の変法は、当業者であれば前述の記載を読めば明白になるであろう。本発明者らは、当業者がそのような変法を適宜用いることを予期し、また本発明者らは、本明細書に具体的に記載したもの以外で本発明が実践されることを意図している。したがって、本発明は、適用法で許可されている通り、本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙される主題の全ての改変及び等価物を含む。さらに、その全ての可能な変法における上記の要素のいずれの組合せも、本明細書に特に示さない限り、又は他に文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明により包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9