(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】電子源
(51)【国際特許分類】
H01J 49/14 20060101AFI20230307BHJP
H01J 1/142 20060101ALI20230307BHJP
H01J 1/144 20060101ALI20230307BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230307BHJP
H01J 1/20 20060101ALI20230307BHJP
H01J 27/20 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
H01J49/14 700
H01J1/142
H01J1/144
G01N27/62 G
H01J1/20
H01J27/20
(21)【出願番号】P 2020543409
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(86)【国際出願番号】 GB2018053117
(87)【国際公開番号】W WO2019081952
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-19
(32)【優先日】2017-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520146606
【氏名又は名称】アイソトープエックス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ISOTOPX LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】トゥーテル, ダミアン ポール
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ, アンソニー マイケル
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/132357(WO,A1)
【文献】特開2000-340097(JP,A)
【文献】Kim F. Haselmann, et al.,Advantages of External Accumulation for Electron Capture Dissociation in Fourier Transform Mass Spectrometry,Analytical Chemistry,米国,American Chemical Society,2001年05月24日,Volume 73, Number 13,Page 2998-3005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/14
H01J 49/08
H01J 1/20
G01N 27/62
H01J 27/20
H01J 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス源質量分析計における電子源であって、
前記ガス源質量分析計のガス源室と連通してそれに対して電子を提供するために熱電子放出面を提示する電子放出陰極と、
前記電子放出陰極から電気的に絶縁されており、中の電流によって加熱されるように、及び前記電子放出面から熱電子的に電子を解放するのに十分な熱を前記電子放出陰極に放射するように配置された加熱要素とを備え、それを用いて、前記ガス源室内のガスをイオン化する際に使用するための電子の発生源を提供する、電子源。
【請求項2】
前記ガス源質量分析計が、前記電子放出陰極が2000℃以下の温度に前記加熱要素によって加熱されることに応答して、少なくとも0.5mAの電流として前記ガス源室を横断した、電子を前記電子放出陰極から受け取るように動作可能な電子トラップを備える、請求項1に記載の電子源。
【請求項3】
前記ガス源室が、コリメータ磁石を使用せずに前記電子トラップの方に向けられている、前記ガス源室内の電子ビームを形成するように成形された電子入力開口において前記電子放出陰極から電子を受け取るように配置されている、請求項2に記載の電子源。
【請求項4】
前記電子放出陰極は、前記加熱要素へ
の電力入力が5Wを超えないとき、前記加熱要素によって2000℃以下の温度に加熱されるように動作可能である、請求項2又は3に記載の電子源。
【請求項5】
前記電子放出陰極が、酸化物陰極、I陰極又はBa含浸陰極から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の電子源。
【請求項6】
前記電子放出陰極が、前記電子放出面を提示する熱電子放出材料のコーティングを担持する基部を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の電子源。
【請求項7】
前記コーティングが、アルカリ性土壌酸化物、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)から選択された材料を備える請求項6に記載の電子源。
【請求項8】
前記基部が、タングステン又はニッケルを備える、請求項6に記載の電子源。
【請求項9】
前記基部が、酸化バリウム(BaO)を備えた化合物で含浸されたタングステンを備える、請求項8に記載の電子源。
【請求項10】
前記基部が、前記コーティングを前記加熱要素から分離する金属材料である、請求項6~9のいずれか一項に記載の電子源。
【請求項11】
前記加熱要素を囲むスリーブを備え、前記電子放出面が前記スリーブの端部に存在する、請求項1~10のいずれか一項に記載の電子源。
【請求項12】
前記加熱要素が、金属酸化物材料を備えたコーティングでコートされた金属フィラメントを備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の電子源。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の電子源を備える質量分析計用のガスイオン源。
【請求項14】
前記イオン源が、ニーア型ガスイオン源である、請求項13に記載のガスイオン源。
【請求項15】
請求項13又は14に記載のガスイオン源を備える質量分析計。
【請求項16】
ニーア型質量分析計として構成された、請求項15に記載の質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[分野]
[01]本発明は、質量分析計、例えば、ガス源質量分析計などにおいて、電子を提供するための電子源に関する。
【0002】
[背景]
[02]多くの科学機器が、後の操作に分子を用意するためにガス分子のイオン化に依存する。電子ビーム衝撃が、このプロセスに一般に使用される。電子は、陰極からの熱電子放出によって発生され、これらの電子は、ガス分子を含有する量を通じて加速され、電子とガス分子との衝突が、ある割合の分子をイオン化する。
【0003】
[03]従来のイオン源は、典型的には、様々な幾何配列(例えば、リボン、コイル線)で配置されたタングステンフィラメントを使用し、その場合、フィラメントは、陰極としても働き、電子がその表面から放射される。しかし、この設計は、製造するのが簡単ではあるが、その性能を制限する顕著な欠点を有する。これらの欠点は、以下を含むが、それに限定されない。
【0004】
機械的不安定性
[04]加熱フィラメントは、自立しており、形状の変化を起こしやすい。これにより、発生源の挙動に顕著な変動が生じ、それによって、データが危険にさらされ、補修作業のために発生源を開く必要がある可能性がある。
【0005】
電位勾配
[05]熱電子的に発生された電子のエネルギーを狭いエネルギー帯に抑制するために陰極が均一で安定した電圧で動作することが重要である。加熱線陰極が、加熱電流により、その長さに沿って固有の電圧勾配を有する。したがって、印加電圧は、必要な強度で放射を維持するように調整しなければならないので、一定ではない。
【0006】
動作温度
[06]これらの加熱フィラメントの高い仕事関数は、調査対象のガス種(すなわち、電子を使用するイオン化によって用意される)を妨害する炭化水素揮発性物質の形成を促進する高い動作温度を求める。
【0007】
限定された放出電流
[07]この技術を使用して達成可能な相対的に低い放出電流は、イオン化率を制限し、それによって、次いで、それを使用する計器の感度が制限される。これにより、ユーザは感度、動作温度及び計器を補修する間の時間を絶えず得失評価することが必要となる。
【0008】
限定された寿命
[08]ほとんどの真空計器におけるそのような電子源の許容可能な動作を確立するために顕著な努力が必要とされる。電子源の加熱フィラメント/陰極をより高い温度で動作させることは、フィラメントの寿命を短縮し、結果としてフィラメントのサービス/交換の過度の休止時間となる。
【0009】
[09]本発明は、これらの欠陥のうちの1つ又は複数に対処することを目的とする。
【0010】
[概要]
[10]本発明案は、電子放出陰極が陰極から電気的に絶縁されたフィラメントによって加熱される代替陰極構成である。陰極は、ガス源型質量分析計、又は分析のためにイオン化ガスを発生させるための他のガス源型計器に配置されるのが最も好ましい。一例としては、いわゆるニーア(Nier)発生源質量分析計がある。
【0011】
[11]第1の態様において、本発明は、ガス源質量分析計における電子源を提供し、電子源は、ガス源質量分析計のガス源室と連通してそれに対して電子を提供するために熱電子放出面を提示する電子放出陰極と、電子放出陰極から電気的に絶縁されており、中の電流によって加熱されるように、及び前記電子放出面から熱電子的に電子を解放するのに十分な熱を電子放出陰極に放射するように配置された加熱要素とを備え、それを用いて、ガス源室内のガスをイオン化する際に使用するための電子の発生源を提供する。
【0012】
[12]このようにして、電気加熱電流を電子放出面に通過させる必要はない。代わりに、電気加熱電流は、それが、放射された熱エネルギーを吸収し、それを遠隔で加熱することができるように、加熱要素に隣り合って位置決めされる電子放出陰極に熱を電磁的に放射するために、十分な温度まで、例えば、白熱する暑さまで加熱される別個の加熱要素中を通される。直接電気的に加熱された電子放出コイル全体にわたって電圧を印加する必要性をなくすことによって、上記に説明した電位勾配に関連した問題、及び結果として生じる、放出された電子エネルギーの変動が回避される。これによって、より均質の電子エネルギーが得られ、それによって、発生源内のイオン化確率に影響する状態をより大きく制御することが可能になる(ΔE
2の狭小化、
図8B)。
【0013】
[13]さらに、本発明における電子源の電気加熱態様と電子放出態様との分離により、電気的に加熱するのに適切でない熱電子放出のための、よりずっと最適な材料の使用が可能になる。実際に、電子放出が、同等の動作寿命にわたって動作する既存の電気的に加熱された電子源からの電子放出率に比較して、最大5~10倍に増加することが判明している。したがって、既存の電気的に加熱された電子源からの電子放出率を増加させることが可能であるが、多大な費用は、電気的に加熱された発生源が非常に急速に「燃え尽きる」ことである。次いで、それは質量分析計内の交換を必要とし、それによって、分光計を開ける(真空が失われる)ことが必要となり、場合により、数か月の休止時間を生じる。既存のシステムに比較して、本発明により、顕著により低い動作温度で高い電子放出率が達成可能であると判明している。温度の低減により、使用中の質量分析計の真空内の炭化水素揮発性物質の存在が低減するので、これは、顕著な実際の結果を有する。上記に論じたように、これらの炭化水素揮発性物質は、ガス源室内でイオン化することができ、結果として得られる、対象の同位体種を妨害するイオンになることができ、それを研究するために質量分析計が使用される場合がある。
【0014】
[14]例えば、電子のガス室内への、又はその全体にわたる流動率は、500μAを超えることができ、又は750μAを超えることができることが好ましく、又は1mAを超えることができることがより好ましく、又は2mAを超えることができることがさらにより好ましい。例えば、電子流動率は、500μA~1mAの間でもよく、又は1mA~2mAの間でもよい。これらの電子流動率は、電子放出陰極の温度が750℃~1000℃の間など、2000℃未満であるのが好ましく、又は1500℃未満であるのがより好ましく、又は1250℃未満であるのがさらにより好ましく、又は1000℃未満であるのがさらにより好ましいとき、達成可能である場合がある。例えば、ガス源質量分析計は、電子を電子放出陰極から受け取るように動作可能な電子トラップを備えることができ、電子は、電子放出陰極が加熱要素によって2000℃以下の温度まで加熱されることに応答して少なくとも0.5mAの電流としてガス源室を横断している。
【0015】
[15]ガス源室は、コリメータ磁石を使用せずに電子トラップの方に向けられるガス源室内の電子ビームを形成するように成形された電子入力開口において前記電子放出陰極から電子を受け取るように配置することができる。これは、本発明により達成可能な顕著により高い電子流動率のためである。本発明の実施形態は、所望の場合、コリメータ磁石を含むことができるが、電子ビーム強度(すなわち、ビームに対して横方向の単位面積当たりの流動率)を増加させるためにコリメータ磁石を使用するコリメーションは、もう必要ないことが判明している。本発明に従って、電子流動率の向上により十分な電子ビーム強度が達成可能である。
【0016】
[16]電子源は、電子源によって出力された電子のエネルギーを制御するように配置されたエネルギー制御器を含むことができる。エネルギー制御器は、熱電子放出面とガス源室との間に配設された陽極を含むことができる。エネルギー制御器は、ガス源室に向かった方向に熱電子放出面から放出された電子を加速させるために可変電位を陽極に印加するように配置された制御装置を含むことができる。エネルギー制御器は、熱電子放出面とガス源室との間に配設された1つ又は複数の電子引き出しグリッドを含むことができる。制御装置は、放射された熱電子をグリッドに向かって引き付けるために電子引き出しグリッドに電位を印加するように配置される。グリッドは電子源からの熱電子を通すことができ、網状にされるか、又は多孔性であるか、又はそうでない場合、電子引き出しグリッドに引き付けられた熱電子が電子引き出しグリッドを熱電子放出面に面するその側面からガス源室に面するその側面に通過することが可能になるように、熱電子放出面に連通して配置された貫通孔が設けられることが好ましい。陽極は、ガス源室とガス源室に面する電子引き出しグリッドの側面との間に配置されることが好ましい。これにより、陽極が、電子引き出しグリッドを通過した熱電子をガス源室に向かって加速させることが可能になる。エネルギー制御器は、熱電子放出面とガス源室との間に及び陽極に並行して配設された1つ又は複数の電子集束電極を含むことができる。1つ又は複数の集束電極は、例えば、アインツェルレンズ、又は他のイオン光学レンズ配置を画定し、又は含むことができる。1つ又は複数の電子集束電極は、陽極とガス源室との間に配設し、熱電子放出面からガス源室内に後者への入口を介して熱電子を集束させるように配置することができる。
【0017】
[17]加熱要素の所与の温度に対する、電子放出陰極からの電子の放出率の改善により、電気的に加熱された電子放出サービス/材料を採用した既存の電子放出システムに比較して十分な電子放出率をより低い電力入力レベルにおいて達成することができることが判明している。例えば、電子放出陰極は、加熱要素への電力入力が5Wを超えないとき、2000℃以下の温度まで加熱要素によって加熱されるように動作可能である場合がある。電力入力は、4Wを超えないことが好ましく、又は3Wを超えないことがより好ましく、2Wを超えないことがさらにより好ましく、又は1Wを超えないことがさらにもっとより好ましい。加熱要素への電力入力は、約0.5W~約1Wの間であってもよい。これらのより低い電源入力定格により、電子源が、より低い陰極劣化率により、より長く持続することが可能になり、より低い温度における動作が可能になり、付随する利点のすべてがそれから出てくる。より低い陰極劣化率は、電子源の一貫性を改善する電子出力の均一性の改善をもたらす。例えば、電気的に加熱された既存の電子放出陰極の相対的に高い劣化率は、結果として一貫性のない陰極性能及び機械的不安定性となる。何故なら、陰極が、使用中に材料を物理的に失い(「燃え尽き」)、それにより、特に加熱されることに応答して、しばしばそれに形状を次第に変更させ、それは電子出力性能を変化させる効果を有するからである。これらの問題は、本発明に従って顕著に低減される。
【0018】
[18]電子放出陰極は、酸化物陰極、I陰極又はBa含浸陰極から選択することができる。電子放出陰極は、電子放出面を提示する熱電子放出材料のコーティングを担持する基部を備えることができる。電子放出陰極がコーティングを担持する基部を備えるとき、コーティングは、アルカリ性土壌酸化物、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)から選択された材料を含むことができる。所与の温度における電子放出面の仕事関数は、コーティングの存在によって低減することができる。例えば、コーティング材料は、1000℃以下の温度において1.9eV未満の仕事関数を提供することができる。コーティングが何も使用されないとき、電子放出面の仕事関数は、1000℃以下の温度において1.9eV超でもよい。多くの他の種類の可能な放出材料(例えば、タングステン、W、酸化イットリウム、例えば、Y2O3、タンタル、Ta、ランタン/ホウ素化合物、例えば、LaB6)が利用可能である。
【0019】
[19]基部はタングステン又はニッケルを備えることができる。基部はコーティングを加熱要素から分離する金属材料でもよい。
【0020】
[20]酸化物陰極は生成するのが一般により安価である。それらは、例えばニッケル陰極基部上に炭酸(Ba、Sr、Ca)粒子又は炭酸(Ba、Sr)粒子を備えた吹付け塗装を備えることができる。これは、結果として、約75%の気孔率を有する相対的に多孔質の構造となる。吹付け塗装は、希土類酸化物、例えば、ユーロピア又はイットリアなどのドーパント含むことができる。これらの酸化物陰極は、良好な性能を提供する。しかし、大気にさらされること(例えば、質量分析計が開かれたとき)により堅牢である可能性がある他の種類の陰極を採用することができる。
【0021】
[21]いわゆる「I陰極」又は「Ba含浸」は、例えば、約20%の気孔率を有し、バリウム化合物を用いて含浸された多孔質タングステンからなる陰極基部を備えることができる。基部は、酸化バリウム(BaO)を備えた化合物で含浸されたタングステンを備えることができる。例えば、タングステンは、4BaO.CaO.Al2O3、又は他の適切な材料で含浸してもよい。
【0022】
[22]電子源は、加熱要素を囲むスリーブを備えることができ、電子放出面が、スリーブの端部に存在する。
【0023】
[23]加熱要素は、金属酸化物材料を備えたコーティングでコートされた金属フィラメントを備えることができる。
【0024】
[24]他の態様において、本発明は、上記に説明した電子源を備える質量分析計のためにイオン源を提供することができる。イオン源は、ガス源(イオンの)でもよく、例えば、ニーア型ガス源、例えば、ニーア型希ガスイオン源でもよい。
【0025】
[25]さらに他の態様において、本発明は、上記に説明したように、ガス源(イオンの)を備える質量分析計を提供することができる。質量分析計のガス源は、ガス源でもよく、例えば、ニーア型ガスイオン源、例えば、ニーア型希ガスイオン源でもよい。
【0026】
[26]別の態様において、本発明は、上記に説明したように、電子源を備えるガス源質量分析計を提供することができ、その場合、ガス源は、電子源からガス源室内に電子を受け取るための電子入力ポートと、電子源から電子を電子入力ポートに向かって付勢する/向ける(例えば、電子入力ポートに向かってコリメートし、又は収束させる)ために電子源と電子入力ポートとの間に配置された電子光学部分とを備えるガス源室を有する。電子光学部分は、静電レンズ(例えば、1つの又は2つ以上のアインツェルレンズを備える)などの電子光学レンズでもよい。電子光学部分は、ガス源室から離れて配設され、それから少なくとも1cm、又は少なくとも1.5cm、又は少なくとも2cm、又は少なくとも2.5cmの距離だけ間隔を空けることができる。電子光学部分の光軸線は、電子源の電子放出面の中心と同軸で(又は少なくともそれに合わせて)もよい。電子放出面は実質的に平坦でもよい。電子光学部分の光軸線は、電子入力ポートの中心と同軸でも(又は少なくともそれに合わせて)もよい。電子光学部分は、貫通開口又は穴を備え、それを通じて電子を電子源から透過させることができる。貫通開口又は穴の直径又は幅寸法は、電子放出面の直径又は幅寸法と実質的に同じか、又はそれよりも大きくてもよい。このようにして、電子を電子光学部分の穴に放出するため、実質的に電子放出面の全体を提示し、明らかにすることができる。
【0027】
[27]電子光学部分は、1つ又は複数の電圧を受け取るように配置された1つ又は複数の電極(例えば、レンズリング)を備えて、それを用いて電子源から放出された電子を電子入力ポートに向かって付勢し/向ける(例えば、コリメートし又は収束させる)ように構成された電界を発生させることができる。電子光学部分は、ガス源室内に配置された最小ビーム幅の領域に向かって収束する電子のビームを形成するために電子源から電子を付勢し/向けるように配置することができる。ガス源質量分析計は、調整可能に前記1つ又は複数の電圧(例えば、調整可能電圧値)を印加するように配置された制御装置を備えて、それを用いてガス源室内の最小ビーム幅の領域の位置を調整することができる。
【0028】
[28]ガス源質量分析計は、磁界(例えば、電子コリメーティング磁石)をガス源室全体にわたって印加するように配置された磁石を何も有さないことが好ましい。したがって、電子源からの電子の磁気コリメーションは欠如してもよい。電子コリメーションは、任意選択でそれが所望される場合、電子光学部分を使用して達成することができる。
【0029】
[29]最初はアルフレッドニーア(Alfred Nier)によって設計されたニーア型質量分析計は、よく知られた質量分析計のクラスであり、対象の試料のイオンを形成するイオン源と、それらのイオンの直接ビームを形成するための電気イオン加速器/光学機器と、イオンビーム中のイオンをそれらの質量対電荷比(m/z)に従って複数のイオンビームに分離するための磁気セクター機器と、各イオンビーム中の電流を測定するためのイオン捕集器とを備える。ニーア型質量分析計は、ニーア型ガスイオン源として知られるようになったものにおいて対象の気体試料(例えば、希ガス)をイオン化し、イオンをイオン源から数kVの電位差を通じて加速させることによって動作する。加速されたガスイオンは、力線をイオン軌道に対して垂直に向けて、それらを、扇形磁界領域中を通過させることによって移動中に分離される。結果として得られるイオンのビームは、イオンの質量対電荷比(m/z)による磁界によって分離される。より軽いイオンを有するビームは、より重いイオンを有するビームよりも扇形磁界領域内でより小さい半径で曲がる。次いで、各イオンビームの電流が、「ファラデーカップ」又は増倍管検出器を使用して測定される。本発明は、特定の適用例をニーア型ガスイオン源及びニーア型ガスイオン質量分析計に有するが、それに限定はされない。
【0030】
[30]一般的なニーア型ガスイオン源の構造及び性能の研究の例は、「Mapping changes in helium sensitivity and peak shape for varying parameters of Nier-type noble gas ion source」、Jennifer Mabry,et al.著、J.Anal.At.Spectrom.、2012、27、1012(DOI:10.1039/c2ja10339g)に見いだすことができる。これは、ニーア型ガス源設計内の電子の発生源として直熱(オーム的に)フィラメントを使用することの既存の先入観を例示している。この先入観の他の例は、「Applications of Inorganic Mass Spectrometry」、John R.de Laeter著、Chapter1.3.2、Fig1.8、p.22に見いだされ、それにおいて、回路図が、そのような直熱フィラメントだけを示す。さらに、「Geochronology and Thermochronology by the 40Ar/39Ar Method」、Ian McDougall & T.Mark Harrison著は、Chapter3.17.3において、「Ion Sources」p.78が「…熱フィラメントからの熱電子放出によって生成された電子が、最も一般的にタングステン製….」と説明している。書籍「Potassium-Argon dating:Principles, Techniques and Applications to Geochronology」G.Brent Dalrymple & Marvin A.Lanphere著は、chapter 5において、「Argon measurement,Mass spectrometers,Ion source」という見出しで、70ページに、「…電子衝撃イオン源において、電子がフィラメントによって生成され、フィラメントは一般にタングステンリボン又はワイヤであり…」と述べている。
【0031】
[31]本発明は、当技術分野におけるこの支配的な先入観に反対に作用するものである。
【0032】
[32]本発明を深く理解するために、及びその実施形態がどのように実行に移すことができるのかを示すために、次に、一例としてのみ、添付の線図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1A】先行技術のタングステンフィラメントコイル電子放出体を概略的に示す図である。
【
図1B】
図1Aの電子放出体を採用したガス源質量分析計のイオン源を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の好ましい実施形態の電子源を概略的に示す図である。
【
図3】
図2の電子源を採用したガス源質量分析計のイオン源を概略的に示す図である。
【
図4】既存の電気的に加熱されるフィラメント技術(
図1B参照)によって発生されたトラップ電流(「イオン化」電流)をフィラメント温度の関数として示す作図である。温度範囲全体にわたって安定した放出の領域が何もないことに留意されたい。
【
図5】本発明の実施形態(
図3参照)による、放射で加熱されたフィラメントによって発生されたトラップ電流(「イオン化」電流)を加熱フィラメント温度の関数として示す作図である。同じ放出レベルが
図4のフィラメントとして達成されているが、よりずっと低い温度においてであり、その800mAの動作電流において安定した放出の領域がさらにあることに留意されたい。
【
図6】動作の非常に異なる動作特性及び温度を明確にするために同じ尺度で
図4及び
図5を一緒に示すグラフである。
【
図7】
図2の電子源を採用したガス源質量分析計のイオン源を概略的に示す図である。
【
図8A】
図1Aに示す種類の加熱されたコイル電子源からの熱電子エネルギーの分布を概略的に示すグラフである。
【
図8B】
図2の加熱されたコイル電子源からの熱電子エネルギーの分布を概略的に示すグラフである。
【
図8C】熱電子エネルギーの関数として作図された、ガス源質量分析計によって発生された標的/試料ガスのイオンの数(熱電子当たり、電子移行のcm当たり、ガス圧力のmmHg当たり)の分布を概略的に示すグラフである。
【
図9】アルゴンガス試料に適用された、本明細書に説明する実施形態において例示される本発明を使用して得たデータを示すグラフである。
【
図10】アルゴンガス試料に適用された、本明細書に説明する実施形態において例示される本発明を使用して得たデータを示すグラフである。
【
図11】ニーア型発生源の数値シミュレーションの結果の正面図であり、ニーア型発生源内に採用された電子源は、電子コリメーション磁石(図示せず)あり及びなしの両方の、電子源として直熱フィラメントコイルを採用した従来のニーア型発生源設計である。
【
図12】ニーア型発生源の数値シミュレーションの結果の側面図であり、ニーア型発生源内に採用された電子源は、電子コリメーション磁石(図示せず)あり及びなしの両方の、電子源として直熱フィラメントコイルを採用した従来のニーア型発生源設計である。
【
図13】ニーア型発生源の数値シミュレーションの結果の正面図であり、ニーア型発生源内に採用された電子源は、本発明に従っており、電子コリメーション磁石(図示せず)あり及びなしの両方の、直熱コイルフィラメントではない。
【
図14】ニーア型発生源の数値シミュレーションの結果の側面図であり、ニーア型発生源内に採用された電子源は、本発明に従っており、電子コリメーション磁石(図示せず)あり及びなしの両方の、直熱コイルフィラメントではない。
【
図15】ニーア型発生源設計の数値シミュレーションの結果の正面図であり、ニーア型発生源内に採用された電子源は、本発明に従っており、電子コリメーション磁石(図示せず)の同時使用あり及びなしの両方の、アインツェルレンズ電子集束配置を採用している。
【
図16】ニーア型発生源設計の数値シミュレーションの結果の側面図であり、ニーア型発生源内に採用された電子源は、本発明に従っており、電子コリメーション磁石(図示せず)の同時使用あり及びなしの両方の、アインツェルレンズ電子集束配置を採用している。
【0034】
[実施形態の説明]
[48]
図1Aは、ガス源質量分析計用の、先行技術による電子源を概略的に示す。電子源は、第1の電位を有する電流入力端子4に電気的に接続された、対向するそれぞれの線端を有するタングステンワイヤフィラメントコイル1と、第1の電位と異なる第2の電位を有する電流出力端子5とを備え、以てフィラメントコイル1を通じて電流を流れさせる。タングステンフィラメントコイルを、フィラメントコイルの表面をその表面から電子を熱電子的に放出させるのに十分な温度まで加熱させる(例えば、発光して)のに十分な電流が流れる。すなわち、フィラメントコイル中を通過する電流の電熱効果によって獲得された熱エネルギーは、電子をフィラメントコイル中に注ぎ込んで、フィラメントコイルの表面仕事関数を超えるエネルギーを獲得するのに十分である。
【0035】
[49]電子は一般にフィラメントコイル1から全方向に放出されるが、好ましい方向に放出された電子(3)は、ガス源質量分析計のガス源室内への入力のために選択され、ガス源室に対して、フィラメントコイル1が、隣り合ってフィラメントコイル1が位置している室の側壁に形成された電子入力スリット2を介して連通している。
【0036】
[50]
図1Bは、フィラメントコイル1を採用したガス源質量分析計のガス源室の構造を示す。ガス源質量分析計は、壁内にガス源ブロック7を含み、壁の電子入力スリット2が、フィラメントコイル1に隣り合って形成される(ガス源ブロックの外部である)。フィラメントコイル1によって放出された電子は、熱電子を所望のエネルギーまで加速させるのに使用される電位差(発生源に対して負の)だけガス源ブロック7の方に引き付けられる。電子電位は、フィラメントとガス源ブロックとの電位差(ボルトで表す)である。その役割は、2重であり、電位場の方向により、電子がガス源ブロックに向かって加速するが、電位の大きさは、イオン化事象を生じるのに十分なエネルギーを提供する。
【0037】
[51]電子は、スリットを通過してガス源ブロックの室内に、中に圧入された発生源ガスのイオン化用電子ビームとして入る(ガス圧入手段、図示せず)。電子ビーム6からの電子は、ガス源ブロックの壁に形成され、電子入力開口に対向する電子出力開口15を通過した後、対向する側に収集される。電子は、発生源ブロックに対して正の電圧で維持される電子トラップユニット9によってそのように収集される。この電子ビームは、イオン出口スリット10のすぐ後ろに位置するビーム軸線に沿ってガス源ブロックの室を横断し、したがって、中性発生源ガス分子に対する電子の衝突によって形成されるイオンは、Y集束板11によって作り出された貫通する「引き出し」電界によって室から効率的に引き出すことができる。引き出されたイオンビームは、質量分析計内の以降の操作/使用のためにイオンビーム13をコリメートするように平板に形成された出力スリット12に向けられる。
【0038】
[52]イオン引き出し電界は、発生源ブロック室の内側のイオン反発電極板8の存在によって変更される。イオン反発電極板は、相対的に低い電界勾配の領域内の電子ビーム6の熱電子からの衝撃によってガスイオンが形成されることを確実にするために、通常負電位で動作される。イオン化電子ビーム6は、必要とする電子ビーム軸線に平行の200ガウス超の磁界を生成する2つのコリメーティング磁石14の存在によるフィラメントコイル1と電子トラップユニット9との間のその通過が制約される。この磁界は、ガスの原子/分子との衝突の確率及びそのイオン化を増加させる電子の経路長を増加させる働きもする。イオン化領域から引き出されたイオンは、Y集束板11の間を通り、画定スリット12の領域に集束するように運ばれる。形成された像は、通常スリット12の幅よりも小さい。これにより、発生源磁石からの磁界の存在による発生源における質量弁別が低減される。
【0039】
[53]ニーア型ガスイオン源は、一般にガス質量分析計におけるイオン化源に使用される。ニーア型ガス源は、
図1B、3及び7に示すように、それらに電子を衝突させることによって中性ガス原子又は分子をイオン化するように配置される。特に、電子流が生成され、ガス原子又は分子の分析物試料に流れ込むように向けられ、以てそれらをイオン化する。加熱フィラメントは、電子をフィラメントからイオン化室に向かって加速させるように、イオン化室に対して負の電圧(典型的には-50~-100V)に維持される。発生源電子のエネルギーは、分析物材料の中性ガス原子/分子から電子を取り外すのに十分に高い。このようにして生成されたイオンは、「半平面」11及び「ゼロ平面」12として知られている2つの組の平板によって、イオン化電子ビームの経路に垂直の方向にプッシュ/プルされる。半平面は、ガス源ブロック7の典型的には約85%である電圧に維持される。
【0040】
[54]
図1Bの装置がイオン源を形成する質量分析計の残りの部分は、本明細書には図示せず又は論じないが、しかし、電気的に加熱される電子源フィラメントを採用した、そのようなガス源質量分析計の詳細な例は、米国特許第2,490,278号(A.O.C.Nier)に、さらに以下の論文に、それにおける
図2を参照して説明される。
【0041】
[55]「A Mass Spectrometer for Isotope and Gas Analysis」、Alfred O.Nier.The Review of Scientific Instruments、Volume 16、Number 6,page 398、June 1947。
【0042】
[56]測定されるイオンビーム信号の精度の増加をもたらす、より多くのイオン化電子を作り出すことによって質量分析計の感度を増加させることが望ましい。質量分析計は、イオンビーム電流を正確に測定するのに使用することができる。精度の限界は、システムの雑音レベルに対してイオンビーム電流の大きさによって制御される。より大きいイオンビーム電流が、より高い信号/雑音比、したがって、より多くの正確なデータを発生させる。より大きいイオンビームは、より多くの試料を首尾よくイオン化することによって達成され、したがって、より多くの電子の存在がこのイオン化の増加を助長する。タングステンフィラメント1は、熱電子放出によって電子を放出する。より高い温度は、より高い電子収量を意味するが、これはフィラメントの寿命を大幅に低減し、発生源領域の局部温度を増加させる。これにより、揮発性炭化水素の妨害がより広くいきわたることになることがある。
【0043】
[57]質量分析計の標準動作状態は、安定した熱電子ビーム電流を電子トラップユニット9によって測定することを求める。電子トラップ電流の大きさ及び固有安定性により、イオンビームの大きさ及び安定性が決まる。タングステンフィラメントは、電流をワイヤに通すことによって動作され、200μAの典型的な動作電子トラップ電流を達成するのに必要な電流は、2.5Vで駆動されておおよそ2.4A(全出力約6W)である。タングステンフィラメントは、必要な放出を得るのにおおよそ2000℃で動作するのが典型的である。
【0044】
[58]本発明の実施形態による質量分析計を
図3に示す。それはタングステンコイルフィラメントが
図2に概略的に示す陰極フィラメント20(部分的断面図)に置き換えられるという点において
図1Bの配置と異なる。
図3に示す配置は、
図1Bのコリメーティング磁石14を含まないことに留意されたい。これは、本発明に従って達成可能な顕著により高い電子流動率のためである。電子ビーム強度(すなわち、ビームに対して横方向の単位面積当たりの流動率)を増加させるためにコリメータ磁石を使用するコリメーションは、もう必要ないことが判明しているが、本発明の実施形態は、所望の場合、コリメータ磁石を含むことができる。本発明に従って、電子流動率の向上により、十分な電子ビーム強度が達成可能である。
【0045】
[59]
図3の装置の動作は、
図2を参照して次に説明する陰極フィラメント20の動作、及びコリメーティング磁石14の欠如を除けば、その他の点では
図1Bのものと同じである。
【0046】
[60]陰極フィラメント電子源20は、別々になった、加熱要素24と陰極表面26とを備える。
【0047】
[61]電子源は、ガス源質量分析計のガス源室7と連通して、それに対して電子6を提供するための熱電子放出面25を提示する電子放出陰極(25、26)を含む。加熱要素24が、電子放出陰極(25、26)から電気的に絶縁されており、中の電流によって加熱されるように、及び電子放出面から電子を熱電子的に解放するのに十分な熱を電子放出陰極に放射するように配置されている。これにより、ガス源室内のガスをイオン化する際に使用するための電子6の発生源が得られる。
【0048】
[62]この配置の利益は、放出面がより均一な加速電位にさらされており、結果としてより狭い電子のエネルギー幅となることである。したがって、ほとんどの又はすべての熱電子が、加速電位内の同じ場所又は領域に存在し、以て標的ガスをイオン化する際に使用するための発生された熱電子の均一性を改善する。
【0049】
[63]電気加熱電流は、電子放出面26を通されない。代わりに、電気加熱電流は、十分な温度まで加熱されて、電子放出陰極(25、26)に熱を電磁的に放射する(例えば、IR放射)、別個の加熱要素24を通される。陰極は、放射された熱エネルギーを吸収し、それに応答して電子を熱電子的に放出する。
【0050】
[64]電子ビーム中の、ガス室全体にわたる電子の流動率は、500μA以上を超えることができる。電子ビーム中の、ガス室全体にわたる電子の流動率は、0.5mA~10mAの間、例えば、1mA又は数mAでもよい。これらの電子流動率は、電子放出陰極の温度が2000℃未満、例えば、約1000℃であるとき、達成可能でもよい。電子放出陰極(26、25)は、加熱要素への電力入力が5W未満であるとき、加熱要素24によって最大2000℃までの温度に加熱することができる。実際に、加熱要素24への電力入力が約0.5W~約1Wの間でもよいのが典型的である。
【0051】
[65]電子放出陰極(26、25)は酸化物陰極である。他の実施形態において、I陰極(Ba含浸陰極としても知られる)を使用することができる。I陰極は、電子放出面を提示する、熱電子放出材料26のコーティングを担持するNi基部25を備える。コーティングは、ニッケル陰極基部上に炭酸(Ba、Sr、Ca)粒子又は炭酸(Ba、Sr)粒子を備える。電子源20は、加熱要素24を囲むニクロムスリーブ23を備える。電子放出面26及び基部25は、スリーブの端部に集合的に存在する。基部25は、スリーブのタット端部を封入する蓋を形成する。スリーブは、加熱要素からの熱を基部25に対して集中させる働きをし、基部25は、放出体コーティング26に熱を伝導する。
【0052】
[66]加熱要素は、アルミナコーティングでコートされたタングステンフィラメント21を備える。これにより、加熱要素内の加熱電流と電子放出陰極(25、26)との間に電気的絶縁が得られる。
【0053】
[67]本発明は、タングステンフィラメントに比較して、より低い温度でより大きい電子放出を提供する。典型的な動作は105mAで6.3Vを必要とし、それは出力のおおよそ0.6Wである。次いで、陰極上の局部温度は約1000℃である。これにより、約1mAの電子トラップ電流、及び電子ビーム6を介して発生源ガスの電子衝撃イオン化によって生成された、結果として得られるイオンビームの対応する5倍の感度の増加が生じる。陰極フィラメント20の寿命は、10年超であると推定され、それは、同等の放出電流を生成しようとした場合、タングステンコイルフィラメント1の通常の動作寿命をはるかに超える。
【0054】
[68]タングステンフィラメント1の代わりとして陰極を使用する利益は、以下を含む。
【0055】
[69]より高い電子放出:約5~10倍であり、既存のタングステンフィラメント1と同等の寿命を有する。タングステンフィラメントコイル1は、同様の放出を生じることができるが、交換が必要になるまでの寿命が相当に低減される。フィラメント交換は、場合により数か月の休止時間を生じる。
【0056】
[70]より低い動作温度:これにより、イオン化され、対象の同位体種を妨害する、真空中の炭化水素揮発性物質の存在が低減される。
【0057】
[71]より高いレベルの放出:これは外部磁界(磁石14)を取り除くことができることを意味する。これにより、質量分析器に対するこの磁界の不要な影響が回避される。これは試料/標的材料の所与の範囲の分圧全体にわたって非線形である傾向があるので、同位体間のイオン質量弁別が可能である。
【0058】
[72]陰極全体にわたる電圧降下なし:タングステンフィラメントコイル1を使用するときは、これを回避することができない。これにより、感度に対する、より大きい制御をもたらす、より均質な電子エネルギーが得られる。
【0059】
[73]機械的安定性:これにより、電子源及びそれを使用するイオン源の一貫性が改善され、陰極の寿命の間の動作の段階変化が回避される。
【0060】
[74]寿命の延長:陰極20のより低い動作温度及び保守的な設計により、結果として、低フィラメント劣化率と相まって陰極の有用寿命の延長となる。
【0061】
[75]ニーア発生源希ガス質量分析計における比較テストの結果を
図4~6を参照して示す。これらは、
図1Bに示すものなど、既存のシステムと比較したときの、
図3に示すものなど、本発明の好ましい実施形態の電子源の利益のいくつかを示す。
【0062】
[76]
図4~6は、「トラップ電流」を陰極温度の関数として示す。トラップ電流は、陰極の全放出の固定的比率であり、ニーア発生源における、発生源ブロック7内のイオン化領域を流れる電子の数の大きさである。トラップ電流は、発生源における動作状態を安定化させるために、閉ループ制御において高い精度で測定された。
【0063】
[77]
図4は、フィラメント温度の関数として既存の電気的に加熱されるフィラメント技術(
図1B参照)によって発生されたトラップ電流(「イオン化」電流)の作図を示す。温度範囲全体にわたって安定した放出の領域がないことに留意されたい。
図5は、加熱フィラメント温度の関数として本発明の実施形態(
図2、
図3参照)による放射で加熱される陰極によって発生されたトラップ電流(「イオン化」電流)の作図を示す。同じ放出レベルが
図4のフィラメントとして達成されているが、ただし、よりずっと低い温度においてであり、さらに、その800μAの動作電流における安定した放出の領域がある。
図6は、動作の非常に異なる動作特性及び温度を明確にするために同じ尺度で
図4及び
図5を一緒に示すグラフである。
【0064】
[78]
図6において、陰極20がタングステンフィラメント1のものよりも低い、約1000℃の温度における同等のレベルの放出を生じることが分かる。これは、真空中の浮遊炭化水素による熱的に誘導された汚染物質からの妨害を低減する顕著な前進である。
【0065】
[79]
図4の作図を得るために、タングステンフィラメントコイル1が、典型的に使用されるよりも約400%激しく駆動された(すなわち、電子トラップ電流は、通常約200μAである)。
図1Bのシステムにおける200μAの電子トラップ電流は、許容レベルの感度(より高い電子密度がイオン化を増加させ、より低いレベルの試料が検出されることを可能にする)と長寿(より高いフィラメント電流がフィラメント1をより急速に低下させる)とを達成することの妥協策を提供する。
図1Bのシステムのユーザによっては、それらのフィラメント1を非常に高い温度で動作させて、小さい試料を検出し、フィラメント1を交換するための休止時間の費用及び混乱を受け入れるものもある。本発明による陰極20は、何年にもわたって、その特性のより高い「プラトー」領域(例えば、
図5の800μA)でも動作することができ、したがって、それは寿命で妥協することなく高い感度を達成する。
【0066】
[80]
図7は、
図2の電子源を採用した、ガス源質量分析計のイオン源を概略的に示す。これは、上記の
図3に関して説明した配置の変形である。
【0067】
[81]電子源(20、30、31、32)は、電子源によって出力された電子のエネルギーを制御するように配置されたエネルギー制御器を含む。エネルギー制御器は、陰極(20)の熱電子放出面とガス源室との間に配設された陽極(31)を含む。エネルギー制御器は、ガス源室に向かった方向に陰極の熱電子放出面から放出された電子を加速させるために、可変電位を陽極に印加するように配置された制御装置(図示せず)を含む。電子引き出しグリッド(30)が、陰極(20)の熱電子放出面とガス源室との間に配設される。制御装置は、放出された熱電子をグリッドに向かって引き付けるために電子引き出しグリッドに電位を印加するように配置される。電子引き出しグリッドに引き付けられた熱電子が熱電子放出面に面するその側面からガス源室に面するその側面に電子引き出しグリッドを通過することが許容されるように、グリッドは電子源からの熱電子を通すことができ、このために網状にされる。
【0068】
[82]陽極(31)は、ガス源室とガス源室に面する電子引き出しグリッドの側面との間に配置される。これにより、陽極は、電子引き出しグリッドを通過した熱電子をガス源室に向かって加速させることが可能になる。エネルギー制御器は、熱電子放出面とガス源室との間に陽極に並行して配設されたアインツェルレンズ(32)を画定する電子集束電極(複数可)を含む。アインツェルレンズは、陽極(31)とガス源室との間に配設され、熱電子をガス源室への入口を介して熱電子放出面からガス源室内に電子ビーム(6)として集束するように配置される。
【0069】
[83]エネルギー制御器は、陽極(31)に印加された又は引き出しグリッド(30)に印加された、又は両方に印加された加速電圧(複数可)を制御することによって、ガス源室への入力のために熱電子のエネルギーを制御するように配置される。この可制御性は、従来の加熱されたコイル放出体から放出された熱電子間の運動エネルギーの、よりずっと広い対応する分布に比較して、本発明の陰極(20)から放出された熱電子間の運動エネルギーの分布における相対的に狭い幅により、本発明において特に効果的であり、有益である。
【0070】
[84]
図8Aは、
図1Aに示す種類の加熱されたコイル電子源からの熱電子エネルギーの分布(40)を概略的に示す。これは、加熱されたコイルの長さに沿って不均一及び可変電圧分布によって生じた広いガウス状分布である。このエネルギー分布の幅ΔE
1(半値全幅(FWHM))は大きく、熱電子が広い範囲のエネルギーを有する。
【0071】
[85]
図8Bは、
図2の加熱されたコイル電子源からの熱電子エネルギーの分布(41)を概略的に示す。この狭い分布は、小さい幅ΔE
2(FWHM)を有し、熱電子は、相対的に小さい範囲のエネルギーだけを有する。結果は、エネルギー制御器の制御装置が、エネルギー分布の中心位置(E
0)を、異なる(例えば、より低い)中心位置(例えば、エネルギーE’
0を中心とするシフトされた分布42)に移動させるように調整することができることになる。したがって、エネルギー制御器の制御装置は、熱電子出力のエネルギー分布の位置を調整し、以て電子の効率/確率を最適化し、ガス源室内の標的/試料ガス内での原子のイオン化を生じるように動作可能である。
【0072】
[86]
図8Cは、標的/試料ガスの、熱電子当たり、ガス源室内の電子移行のcm当たり、中のガス圧力のmmHg当たりの生成されたイオンの数の分布(43)を概略的に示す。このイオン化率は、熱電子エネルギーの関数として作図される。図示するように、最大イオン化確率が、相対的にエネルギーが低く、極めて鋭いピークである熱電子エネルギー(E
peak)において起きる。イオン化確率は、このピークエネルギー上下の熱電子エネルギーに対して着実に及び急速に離れて落ちる。本発明の特定の利益は、例えば、エネルギーE’
0=E
peakとなるように、電子源からの電子の相対的に狭い(すなわち、密度の高い)熱電子エネルギー分布を、最大イオン化確率を包含する電子エネルギーに、又はその付近に位置決めする能力である。熱電子エネルギーの狭い分布(幅ΔE
2)により、イオン生成の効率をよりよく最適化することが可能になる。
【0073】
[87]ガス源質量分析において、イオンは、電子衝撃のプロセスによって発生源において形成される。このプロセスは、気相原子/分子と相互作用して、イオンを生成するエネルギー電子を使用する。従来、このプロセスに使用される電子の発生源は、電気的にフィラメントを加熱し、したがって、それが熱電子放出によって電子を生成する。「放出電流」とは、加熱フィラメントから出る全電流のことであるが、ガス試料を通過し、したがって、ガス試料をイオン化することができるエネルギー電子の流れは、しばしば「トラップ電流」と呼ばれる。
【0074】
[88]気体試料をイオン化するプロセスをより効率的にすることによってガス源質量分析計の感度を改善することは望ましい。しばしば、試料材料の量は、少なくても、又は非常に少なくてもよく、試料のイオン化を最大化することは有利である。感度は従来、装置全体にわたって印加される磁界を使用して電子ビームをコリメートすることによって、及び/又はトラップ電流を増加させること(すなわち、より多くのイオンを生成するためのより多くの電子)によって改善される。
【0075】
[89]しかし、トラップ電流を増加させることは、フィラメントをますます高い温度に加熱することを必要とする。これにより、フィラメントの寿命が低減し、それは文字通り「沸騰して蒸発する」。さらに、フィラメント温度の増加は、ガス源の装置がフィラメントからの放射熱によって、ますます大きい程度まで加熱されることを意味し、これにより、装置を形成する材料からの「背景種」の放出が促進される。すなわち、エネルギー電子がイオン化プロセスを実施するように向けられるガス室の構造部品(例えば、壁)の材料(例えば、鋼鉄やアルミニウムなど)は、ガス室が加熱されるとき、ガス室内に放出される原子又は分子の、いくつかの吸収された外来種を常に含有する。これらの外来種は、分析されている気体試料を汚染し、質量分析計から得られるデータの質を低下させる。
【0076】
[90]本発明により、電子源の寿命を損なわずに及び外来種の背景レベルを増加させずに、トラップ電流を増加させることが可能になる。
【0077】
[91]
図9及び10は、アルゴンガス試料に適用された、本明細書に説明する実施形態において例示される、本発明を使用して得たデータを示す。図は、典型的なレベルの感度及び既存の加熱フィラメント電子源を使用して達成可能な背景汚染物質レベルに比較して、本発明の好ましい実施形態によって提供される、汚染物質のより低い背景レベルと併せて達成されたより大きい感度を明確に示す。
【0078】
[92]特に、電子源(例えば、0.6W)の低い動作温度を用いて、最大7mA/Torrまでの感度が、約1mAよりも高いトラップ電流に対するアルゴンガス試料に対して達成され(
図9)、これはわずか約1x10
-14ccSTPまでの汚染物質(「質量36」)背景濃度を有する(
図10)。これらの感度及び背景濃度は、そのような大きさに対する標準産業レベル(「標準仕様」)よりもずっとよい。電子源の寿命は、これらの動作条件下で3.5年超である。これは典型的な加熱フィラメント電子源の予想寿命よりもはるかに長い。
【0079】
[93]従来のニーア型電子衝突/イオン化ガス源装置は、それらの電子の発生源として直熱フィラメントコイルを採用するのが典型的である。通常、
図1に示すように、陰極は、例えば、タングステンの、小さいワイヤのコイルであり、それは、適切な電流の印加によって熱電子放出温度まで加熱される。
【0080】
[94]フィラメント組立品は、バイアス電圧を印加させており、したがって、放出電子は、分析物ガス分子をイオン化するのに十分なエネルギーを有する。十分な電子放出を生じるために、フィラメントは、非常に高い温度(約1400℃)まで加熱される必要がある。高いフィラメント温度は、フィラメントをイオン化領域に極めて近接して位置決めする必要性と相まって、結果として、通常150~200℃の間の発生源組立品温度が高くなる。発生源組立品温度の増加は、汚染物質背景種のガス放出を増加させる。計器が静的真空下にある希ガス分析において、質量スペクトル内で背景種の任意の増加が観察され、特に、背景イオンが分析物イオンと等圧であるとき問題を生じる。分析物分子が温度に関係したプロセスとの関係を断つとき、さらに問題が生じることがある。
【0081】
[95]従来のニーア型電子衝突/イオン化ガス源において、熱電子は、加熱フィラメントコイルからすべての方向に放出され、ごく一部だけが、ガス源装置のイオン化領域内に透過される。このプロセスの効率は、最終的にイオン化領域に入る熱電子のわずか数パーセントである可能性があるのが典型的である。従来のニーア型発生源は、熱電子軌道を抑制するために、及び、らせん電子軌道を誘導することによって電子軌道の経路長を増加させるために、イオン化領域の周りに配置されたコリメーティング磁石を有する。残念ながら、コリメーション磁石によって生成された磁界は、イオン化領域で生成された分析物のイオンの軌道にも影響し、これにより、質量スペクトルの低い端部において最も目立つ、望ましくない質量バイアス効果が導入され、それによって、質量対電荷比スペクトルにおける分析物のスペクトル分析が複雑になる。
【0082】
[96]フィラメント全体にわたる電圧降下は、対応する電子エネルギー幅を有する電子ビームを生成する。電子エネルギー幅は、場合により分析物イオンに移動され、計器の質量分解能を低下させるおそれがある。
【0083】
[97]本発明において、陰極(電子放出面)のその表面の加熱器からの減結合により、その表面が薄く、平坦になることが可能になる。分析物イオン化用に表面から離れて放出電子を加速させるために電界内に配設されたとき、電子放出面の実質的にすべての部分(又は大部分)は、電界内の実質的に同じ電位に存在することができる。効果は、各(又は少なくともほとんどの)加速電子が受けた電位差(加速電圧)が実質的に同じであるということである。したがって、それらは、装置のイオン化領域に入ったとき、実質的に同じエネルギーを保有する。言い換えれば、陰極電圧は、その電子放出面の実質的に全域にわたって一貫性を有することができる。これにより、放出電子のエネルギー幅が最小限に抑えられる。さらに、電子源の加熱器は、DC電圧によって駆動されることをもはや必要とせず、適用例が必要とする場合、ACを使用することができる。
【0084】
[98]従来のニーア型ガス源に比較して、ニーア型ガス源装置に適用されたときの本発明の利点及び利益をよりよく示すために、
図11~16は、本発明の実施形態による、及びさらに従来のニーア型発生源設計による、ガスイオンのニーア型発生源内の電子軌道の数値シミュレーションの結果を示す。
【0085】
[99]直熱コイルフィラメント-磁気コリメーションあり又はなし
【0086】
[100]
図11及び12は、電子コリメーション磁石(図示せず)あり及びなし両方の、電子源として直熱フィラメントコイルを採用した従来のニーア型発生源設計の正面図(
図11)及び側面図(
図12)を示す。理解を深めるために、
図11及び12のそれぞれは、コリメーティング磁石の磁界が仮に「オフ」にされたとき(すなわち、ゼロ磁界)の熱電子の軌道並びに磁石が完全に働いている(すなわち、仮に「オン」に切り替えた)ときの結果を示す。これは、従来のニーア型発生源設計の磁石のコリメーティング効果を示すためである。シミュレーションしたニーア型発生源構造の要素に印加された電圧は、表1に示す通りであった。
【0087】
【0088】
[101]電子軌道がシミュレーションされた。300の電子の5つの群がシミュレーションにおいて作り出され、各群は1eVのエネルギーを用いて電子を構成し、フィラメント電極のコイル径に等しい直径の円の周りに等間隔に配置されたフィラメントコイルの表面の周りに配設された。シミュレーションした電子放出位置の円がそのコイルの1つの巻きを表すように、フィラメントコイル軸線が、
図11及び12の頁の平面に対して垂直の方向に概念上延びる。電子の5つの群は、等間隔でフィラメント電極のコイルの軸線に沿って配置されて配分された。表2に示すように、イオン化領域の端から端まで首尾よく透過され、トラップ電極において終了する、これらの電子のパーセンテージの推定が得られた。
【0089】
【0090】
[102]予想どおり、磁界が何もシミュレーションに含まれていない場合、電子がフィラメントコイルからすべての方向に放出され、ガス源室を通じて及びトラップ電極までずっと透過される割合は、非常に小さい。シミュレーション内の装置全体にわたるコリメーティング磁界の印加は、電子をらせん経路に従わせることに加えて電子ビーム抑制のレベルを提供する。トラップ電極に透過された電子の数は、このシミュレーションにおいて、コリメーティング磁石が適用されないときに比較して、コリメーティング磁石が適用されるとき、おおよそ10倍高い。
【0091】
[103]傍熱陰極-磁気コリメーションあり又はなし
【0092】
[104]
図13及び14は、数値シミュレーションの結果を示し、その場合、ニーア型発生源内に採用された電子源は、本発明に従い、直熱コイルフィラメントではない。電子源の電子放出面の陰極部分は、ガス源室/筐体の入口開口から1.5mmに位置決めされた。電圧は表3に示すように印加された。
【0093】
【0094】
[105]
図13及び14は、電子コリメーション磁石(図示せず)の同時使用あり及びなしの両方の新たなニーア型発生源設計の正面図(
図13)及び側面図(
図14)を示す。理解を深めるために、
図13及び14のそれぞれは、コリメーティング磁石が何も存在しないとき(すなわち、ゼロ磁界)の電子の軌道並びに磁石が存在し、完全に働いているときの結果を示す。これは、新たなニーア型発生源設計の磁石のコリメーティング効果を示すためである。
【0095】
[106]電子軌道は1500の電子の群の中の各電子に対してシミュレーションされた。各電子は、1eVエネルギーを用いて作り出され、その表面の円形の1mmの直径の周りに等間隔で配置された、電子放出面(陰極)上に配設された異なるそれぞれの点から放出された。表4に示すように、イオン化領域を通じてトラップ電極に首尾よく透過された電子のパーセンテージの推定が行われた。
【0096】
【0097】
[107]電子放出体の放出面の平面的な性質により、及びそれがガス源室の入口開口に合わせて(面して)向けられていることにより、放出電子のより大きい割合が、ガス源室を通じてトラップ電極に透過される。電子透過のレベルは、加熱されたコイルフィラメントが、コリメーション磁石と併せて電子源として使用された前の例(従来のニーア型発生源)において観察されたものと非常に類似している(わずかに良い)。コリメーティング磁界の追加は、電子ビームが抑制され、より大きい割合の電子が、ガス源室内に、及びそれを通じて、透過され、トラップ電極に達するように、予想どおりに、電子ビームに対してコリメーティング効果を有する。磁気コリメーションが何も使用されない場合に比較しておおよそ3倍の電子透過の増加がある。
【0098】
[108]傍熱陰極及びアインツェルレンズ-磁気コリメーションあり及びなし
【0099】
[109]新たなニーア型ガス源装置へのアインツェルレンズの追加をシミュレーションするために、2つの同軸分離レンズリング電極が、
図15及び16に示すように装置に追加された。各アインツェルレンズリングは、1.5mmの内径(ID)、2.5mmの外径及び0.5mmの厚さを有した。電子放出面(陰極)と第1のレンズリングとの間の距離は0.5mmであった。第1のレンズリングと第2のレンズリングとの間の距離は0.5mmであった。第2のレンズリングとガス源室/筐体(入口開口を含む)の対抗する外層との間の距離も0.5mmであった。電圧が、表5に示すようにこれらの構成部品に印加された。
【0100】
【0101】
[110]
図15及び16は、電子コリメーション磁石(図示せず)の同時使用あり及びなしの両方の新たなニーア型発生源設計の正面図(
図15)及び側面図(
図16)を示す。理解を深めるために、
図15及び16のそれぞれは、コリメーティング磁石が何も存在しないとき(すなわち、ゼロ磁界)の電子の軌道並びに磁石が存在し、完全に働いているときの結果を示す。これは、新たなニーア型発生源設計の磁石のコリメーティング効果を示すためである。
【0102】
[111]電子軌道が、1500の電子の群の中の各電子に対してシミュレーションされた。各電子は、1eVエネルギーを用いて作り出され、その表面の円形の1mmの直径の周りに等間隔で配置された、電子放出面(陰極)上に配設された異なるそれぞれの点から放出された。表6に示すように、イオン化領域を通じてトラップ電極に首尾よく透過された電子のパーセンテージの推定が行われた。
【0103】
【0104】
[112]図に明確に示すように、集束/収束効果がアインツェルレンズを使用することによって放出電子の軌道に課される。第1のアインツェルレンズリング(レンズ1)に印加された電圧の小さい変更は、焦点(又は電子ビームの最大収束点)を必要に応じてより近接して、又はさらに離れて陰極から移動させる効果を有する。上記に示した電圧値は、焦点が発生源筐体のガス源室のおおよそ中心にあるように選択された。
【0105】
[113]装置のガス源室内のエネルギー電子衝撃によって生成されたイオンは、実際に質量分析計内で使用されたとき、外部電極板(例えば、品目11:
図1B、
図3又は
図7)から発生源室内に延びる、貫通する「引き出し」電界を使用して、発生源室からイオン出口スリット(例えば、品目10:
図1B、
図3又は
図7)を通じて加速されて、出力イオンビーム(例えば、品目13:
図1B、
図3又は
図7)を形成する。反発電極板(例えば、品目8:
図1B、
図3又は
図7)が提供されるのが典型的であり、これは、発生源室に対して、発生源室のスリットを通じて正のイオンビームをはねのけるのに役立つ電圧をそれにも印加した可能性がある。ニーア型装置のこれらの構成部品は、発生源室のイオン出口スリットに対して具体的な位置を有し、その場合、イオンビームを形成するイオンを作り出すことが望ましい。
【0106】
[114]ニーア型発生源が分析物イオン化の領域を、出口スリット及び/又は反発電極に合わせて列を作っている、小さい位置によりよく抑制していればしているほど、より効果的に「引き出し」電界(及び/又は反発電極)がそれらのイオンを引き出している。これは、単にイオンが出口スリットを「外し」、発生源室の内壁に当たる可能性が小さいためであり、それらは出力イオンビームに寄与することができない。出力イオンビームの強度は、発生源室内のイオン化の位置が制御できる場合、増加され、そのイオン化電子はそこで集中される。
【0107】
[115]さらに、イオンが「引き出し」電界の大きく分離された領域で発生された場合、その電界によって加速されることからそれらが獲得するエネルギーは、その分離の程度に比例して変動する。これは、引き出されたイオンのエネルギースペクトルの分解能をそれが低減するので望ましくない。ニーア型発生源が分析物イオン化の領域を「引き出し」電界内の小さい位置によりよく抑制していればいるほど、それらのイオンを引き出すエネルギー幅は小さくなる(より高い分解能)。
【0108】
[116]傍熱電子源をアインツェル集束レンズと組み合わせ、コリメーション磁界を有さない新たなニーア型発生源の場合、装置全体を通ってトラップ電極までの電子の透過は、コリメーティング磁石とともに、ただし、アインツェルレンズなしの、直熱コイルフィラメントを備える従来のニーア型発生源の場合よりも顕著に大きいことが判明した。コリメーティング磁界の印加は、電子透過レベルを実際に減少させることが判明したことが留意される。磁界は、電子ビームを集束させるアインツェルレンズの能力を妨げる。
【0109】
[117]本発明による電子放出体の集中性及び方向性は、発生源室を通じてトラップ電極に透過される電子の数を増加させた。アインツェルレンズとして働く、電子放出体と発生源室/筐体との間の電気レンジング要素の追加により、電子ビームが首尾よく集束され、電子透過を増加させた。
【0110】
[118]電子ビーム強度の増加とともに、発生源室内のイオン化領域からのコリメーティング磁界の除去により、質量バイアス効果が低減/除去される。電子ビームの集束により、電子放出面を発生源室/筐体からさらに離れても位置決めすることが可能になる。これにより、電子源のより低い動作温度と相まって、加熱効果の低減を発生源室/筐体に生じさせることが可能になり、それによって汚染物質のガス放出が低減する。
【0111】
[119]本発明の少数の好ましい実施形態を示し、説明してきたが、添付の特許請求の範囲に定義されているように、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を加えることができることが当業者によって理解されよう。
【0112】
[120]本出願に関連して本明細書と同時に又は本明細書の前に出願される、及び本明細書の公衆閲覧を受け入れる、すべての論文及び文書に注意が向けられ、すべてのそのような論文及び文書の内容は参照により本明細書に組み込まれている。
【0113】
[121]本明細書に開示された特徴のすべて(任意の添付の特許請求の範囲、要約及び図面を含む)、及び/又はそのように開示された任意の方法又はプロセスのステップのすべては、任意の組合せで組み合わせることができるが、ただし、そのような特徴及び/又はステップの少なくともいくつかが相互排他的である組合せを除く。
【0114】
[122]本明細書に開示された各特徴(任意の添付の特許請求の範囲、要約及び図面を含む)は、明示的に別段の定めをした場合を除き、同じ、同等の又は同様の目的にかなう代替の特徴で置き換えることができる。したがって、明示的に別段の定めをした場合を除き、開示された各特徴は、同等の又は同様の特徴のジェネリックシリーズ(generic series)の一例に過ぎない。
【0115】
[123]本発明は、前述の実施形態(複数可)の詳細に限定されない。本発明は、本明細書に開示された特徴の任意の新規の1つ、又は任意の新規の組合せ(任意の添付の特許請求の範囲、要約及び図面を含む)、又はそのように開示された任意の方法又はプロセスのステップの任意の新規の1つ、又は任意の新規の組合せに及ぶ。