(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20230307BHJP
B22D 11/108 20060101ALI20230307BHJP
B22D 11/11 20060101ALI20230307BHJP
B22D 11/117 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
B22D11/10 310F
B22D11/108 A
B22D11/11 B
B22D11/117
(21)【出願番号】P 2018111216
(22)【出願日】2018-06-11
【審査請求日】2021-02-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】宮本 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 英二
(72)【発明者】
【氏名】小原 直也
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-300112(JP,A)
【文献】特開平04-224060(JP,A)
【文献】特開2011-143449(JP,A)
【文献】実開平04-022161(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2003-0015904(KR,A)
【文献】特開平10-193050(JP,A)
【文献】米国特許第06516870(US,B1)
【文献】特開2006-055889(JP,A)
【文献】特開平06-218504(JP,A)
【文献】特開2003-326341(JP,A)
【文献】特開2018-094613(JP,A)
【文献】特表2015-523465(JP,A)
【文献】特開2009-197285(JP,A)
【文献】特開2000-212628(JP,A)
【文献】特開昭58-116963(JP,A)
【文献】特開平09-122848(JP,A)
【文献】特開2018-066030(JP,A)
【文献】特開2017-128751(JP,A)
【文献】特開2008-264834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯を取鍋からタンディッシュを介して鋳型へ注入し鋳片を製造する連続鋳造方法において、
前記タンディッシュは、該タンディッシュ内を受湯室と出湯室とに区分し、かつ、前記受湯室から前記出湯室へ向けて溶湯が流れる1本以上4本以下の湯道を下部に備えた堰を有し、前記湯道はその断面形状を円形に換算して直径を100mm以上300mm以下の範囲に設定し、
塩基度=(質量%CaO)/{(質量%SiO
2)+(質量%Al
2O
3)}が1.0以上4.0以下、かつ、CaO量、SiO
2量、及び、Al
2O
3量の合計量に対するAl
2O
3量が10質量%以上であるフラックス
(但し、当該フラックスが、CaO:50~60質量%、Al
2
O
3
:30~40質量%、SiO
2
:5質量%以下、MgO:1~5質量%、残部は不純物、である場合を除く)を、前記受湯室の溶湯表面に配置することを特徴とする連続鋳造方法(但し、前記受湯室が、電磁力によって溶湯に水平回転流を生成させる円筒型である場合を除く)。
【請求項2】
請求項1記載の連続鋳造方法において、前記湯道を前記受湯室側から前記出湯室側へかけて下方に向けて傾斜させていることを特徴とする連続鋳造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の連続鋳造方法において、前記タンディッシュの前記出湯室の底部に、該出湯室内の溶湯を前記鋳型へ排出する排出孔を設け、前記湯道の前記出湯室側の開口部と前記排出孔とを直線状に結ぶ仮想溶湯流路に向けて、前記出湯室側の底部からガスを吹き込むことを特徴とする連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高清浄鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工用途の鋼材、例えば、ブリキ、IF鋼、棒鋼、線材等に用いられる鋼材には、加工時の割れ発生を抑制するため、鋼材に含まれるアルミナ等の介在物量を低減することが求められている。
このため、鋼材を溶製する際の製造工程においては、介在物の生成抑制や浮上除去が行われている。この製造工程の一つである連続鋳造工程では、溶湯(溶鋼)を取鍋(溶鋼鍋)からタンディッシュへ注入し、更にタンディッシュ内の溶湯を鋳型に注入することによって、鋳片を製造しているが、このタンディッシュにおいても介在物の生成抑制や浮上除去を行う技術が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、タンディッシュ内スラグの塩基度((CaO)/(SiO2))を0.5以上とすることにより、鋳型内溶鋼のT.[O]濃度を低減してアルミナ濃度を低減し、高清浄鋼を製造することが記載されている。
また、特許文献2には、タンディッシュ内に、溶鋼を通すための貫通孔(湯道)を有する堰を設け、この貫通孔に、貫通孔を通過する溶鋼を加熱するための加熱手段(例えば、誘導加熱手段)を設けることが記載されている。この加熱手段で貫通孔を通過する溶鋼を加熱することにより、貫通孔を通過した後の溶鋼は、その周囲の溶鋼よりも高温状態となるため強い浮力が働く。これにより、タンディッシュ内の溶鋼湯面に向かう溶鋼の流れが形成されるため、介在物の浮上分離が可能となる(例えば、段落[0018])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-212628号公報
【文献】特開2008-264834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1、2に記載の方法では、相応の溶湯の高清浄化は図れるものの、その効果は十分ではなかった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、溶湯の更なる高清浄化が可能な連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係る連続鋳造方法は、溶湯を取鍋からタンディッシュを介して鋳型へ注入し鋳片を製造する連続鋳造方法において、
前記タンディッシュは、該タンディッシュ内を受湯室と出湯室とに区分し、かつ、前記受湯室から前記出湯室へ向けて溶湯が流れる1本以上4本以下の湯道を下部に備えた堰を有し、前記湯道はその断面形状を円形に換算して直径を100mm以上300mm以下の範囲に設定し、
塩基度=(質量%CaO)/{(質量%SiO2)+(質量%Al2O3)}が1.0以上4.0以下、かつ、CaO量、SiO2量、及び、Al2O3量の合計量に対するAl2O3量が10質量%以上であるフラックス(但し、当該フラックスが、CaO:50~60質量%、Al
2
O
3
:30~40質量%、SiO
2
:5質量%以下、MgO:1~5質量%、残部は不純物、である場合を除く)を、前記受湯室の溶湯表面に配置する(但し、前記受湯室が、電磁力によって溶湯に水平回転流を生成させる円筒型である場合を除く)。
【0008】
本発明に係る連続鋳造方法において、前記湯道を前記受湯室側から前記出湯室側へかけて下方に向けて傾斜させていることが好ましい。
【0009】
本発明に係る連続鋳造方法において、前記タンディッシュの前記出湯室の底部に、該出湯室内の溶湯を前記鋳型へ排出する排出孔を設け、前記湯道の前記出湯室側の開口部と前記排出孔とを直線状に結ぶ仮想溶湯流路に向けて、前記出湯室側の底部からガスを吹き込むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る連続鋳造方法は、下部に湯道を備えた堰を有するタンディッシュを用い、塩基度=(質量%CaO)/{(質量%SiO2)+(質量%Al2O3)}が1.0以上4.0以下、かつ、CaO量、SiO2量、及び、Al2O3量の合計量に対するAl2O3量が10質量%以上であるフラックスを、タンディッシュの受湯室の溶湯表面に配置するので、フラックスの滓化状況を適切に制御できると共に、フラックスの低粘性を確保できる。
これにより、受湯室の溶湯表面のフラックスの巻き込みを抑制できるので、従来と比較して溶湯の更なる高清浄化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る連続鋳造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
まず、本発明の連続鋳造方法に想到した経緯について説明する。
【0013】
タンディッシュ内に湯道を備えた堰を配置して、タンディッシュ内を受湯室と出湯室に区分し、この湯道に溶湯(溶鋼)を流通させて鋳造を行う場合、介在物は溶湯内を浮上する特性を有するため、湯道を堰の下部に設けることで、清浄性のある溶湯を湯道に流通させることができる。なお、堰の内部に誘導加熱装置(加熱装置)を設けることで、湯道を流通する溶湯を加熱(誘導加熱)することも併せて行われる場合が多い。
湯道を流通する溶湯について、前記した特許文献2には、湯道で加熱された溶湯は、湯道出口からの噴出後、タンディッシュの出湯室内の上部(溶湯表面)に向かう流れとなるため、介在物の浮上除去が促されることが記載されている。
【0014】
しかし、本発明者らが、湯道を流通する溶湯の挙動を検討した結果、以下の通りであった。
(1)誘導加熱を適用する前提では、その配置の都合上、湯道は4本以下となる場合が多い。また、湯道は、加熱装置の都合により、その流路(開口部)の断面形状を円形に換算して直径が300mm以下となる場合が多い。
(2)この程度の直径を有する4本以下の湯道に、鋳造する溶湯を流通させる場合、湯道の出口からタンディッシュの出湯室に噴出された溶湯流(溶湯の流れ)は、直進性が高いことが判明した。更に、湯道の長さが長い場合(例えば、800mm以上、更には1000mm以上(近年は加熱装置の鉄心のコンパクト化が図られているため、鉄心の大きさを考慮すれば2000mm以下程度)の場合)は、この傾向が強いものと考えられた。
【0015】
(3)出湯室に噴出された溶湯流は、主として湯道を延長した先に存在するタンディッシュの内壁に衝突し(通常のタンディッシュの構成、即ち、溶湯を凝固させることなく鋳型へ注入可能な構成であれば、溶湯流が内壁に衝突する現象が発生)、その後、上向きや下向き等の流れに分岐する。また、衝突するまでには流れの分散も見られ、衝突前の溶湯の流れから上向きや下向きに分岐する流れも存在する。
(4)更に、湯道内で溶湯を加熱する場合は、加熱の程度に応じて上向きに分岐する流れも発生する。
そして、本発明者らは、湯道の出口から噴出された溶湯流(タンディッシュ内壁に衝突した後の溶湯流を含む)について、介在物の浮上効果はあるものの、上向きの流れが出湯室湯面の撹拌の原因にもなり得ることを知見した。
更に、受湯室の溶湯には、湯道の入口に向かう溶湯流が発生するが、湯道の入口近傍では溶湯に渦様の流れ等による撹拌が発生する場合があり、受湯室湯面上のフラックスを巻き込む場合があることも判明した。
【0016】
以上より、本発明者らは、湯道を持つ堰を配置したタンディッシュを用いて溶湯を鋳造する場合、湯道の入口近傍における溶湯の撹拌とこれに伴うフラックスの溶湯への巻き込み、そしてこの清浄性の低い溶湯が出湯室に供給され、更に湯道の出口以降の上向きの流れによる出湯室の溶湯の撹拌が、溶湯の高清浄化を抑制する因子になり得ることを知見した。
【0017】
以上の知見に基づき、本発明者らは、本発明の連続鋳造方法に想到した。
即ち、
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る連続鋳造方法は、溶湯を取鍋10からタンディッシュ11を介して鋳型(図示しない)へ注入し鋳片を製造する方法であり、
タンディッシュ11は、タンディッシュ11内を受湯室12と出湯室13とに区分し、かつ、受湯室12から出湯室13へ向けて溶湯が流れる1本以上4本以下の湯道14を下部に備えた堰15を有し、湯道14はその断面形状を円形に換算して直径を100mm以上300mm以下の範囲に設定し、
塩基度=(質量%CaO)/{(質量%SiO
2)+(質量%Al
2O
3)}が1.0以上4.0以下、かつ、CaO量、SiO
2量、及び、Al
2O
3量の合計量に対するAl
2O
3量が10質量%以上であるフラックスを、受湯室12の溶湯表面に配置する。
なお、
図1中の符号16はロングノズルであり、符号17は浸漬ノズルである。
以下、詳しく説明する。
【0018】
1)タンディッシュの構成について
湯道14を堰15の下部に設けたのは、前記したように、介在物が溶湯内を浮上する特性を有することによる。
具体的には、湯道14の受湯室12側(入口側)に位置する開口部18の下端の、受湯室12の底面19からの高さ位置が、受湯室12の最大溶湯深さ(浴深)Hの0.2倍(0.2×H)以下だと好ましい(下限は、例えば0倍(0×H)、即ち湯道14入口の開口部18が受湯室12の底面19に接する位置)。
ここで、開口部18の下端位置を溶湯深さHの0.2倍以下にしたのは、0.2倍を超えた場合、開口部18の高さ位置が高くなり過ぎることに伴って湯道14出口が高くなり、出湯室13における溶湯中の介在物の浮上時間を十分に確保できずに浮上不足を招く場合や、湯道14出側から噴出される溶湯流が出湯室13の湯面を撹拌して溶湯の清浄化を悪化させる場合があることによる。また、1チャージ(1つの取鍋)ごとの鋳造末期にタンディッシュ11の湯面が低下した際に、受湯室12湯面上のフラックスを巻き込み易くなる時期が、上記した0.2倍を超えた場合に早期となる。
【0019】
この湯道14は、通常考えられる連続鋳造の速度を考慮し、堰15に設ける湯道14の本数が1以上4以下、かつ、各湯道14の断面形状を円形に換算して直径が100mm以上300mm以下の範囲に、それぞれ設定されている。
ここで、湯道14の本数は、通常偶数(2又は4)であるが、奇数(1又は3)でもよく、特に、誘導加熱を行う場合は、通常1つの鉄心に対して2本の湯道14を設けている(鉄心を中心としてその両側に湯道14を設ける)。このため、タンディッシュ11は、誘導加熱装置が設置されたもの、設置されていないもの、のいずれでもよい。
なお、湯道14の断面形状は円形であり、湯道14の受湯室12側に位置する開口部18から出湯室13側(出口側)に位置する開口部20まで、同一形状となっているが、受湯室12側から出湯室13側へかけて徐々に大きくした形状(ラッパ状や逆テーパ状)等とすることもできる(この場合、出湯室側の開口部の最大直径が上記した範囲にある)。また、断面形状は、円形に限定されるものではなく、例えば、楕円形や多角形等とすることもできる。
【0020】
2)フラックス(シールフラックス)について
受湯室12の溶湯表面に配置するフラックスの組成を規定することにより、タンディッシュ11内溶鋼の再酸化防止とフラックスの溶湯への巻き込み防止を行う。
タンディッシュ11では、一般に、CaO-SiO2系やCaO-SiO2-Al2O3系のフラックスが用いられている。
前記したように、受湯室12では湯道14入口へ向かう溶湯流が発生するが、この溶湯流によって湯道14入口近傍の溶湯が撹拌され、受湯室12湯面上のフラックスが巻き込まれる場合がある。特に、鋳造しているチャージの末期は、受湯室12湯面の高さが低下する場合があり、この傾向が強くなる。
【0021】
そこで、本発明者らは種々の実験を行った結果、受湯室12側のフラックス組成を適正化し適度な配合を保つことにより、湯道14近傍で発生する撹拌渦への巻き込みを抑制することができ、溶湯の清浄化が図られることを知見した。
即ち、本発明者らは、溶湯へのフラックスの巻き込みを抑制するため、CaOの滓化(CaOを多く含むフラックスの溶融時の流動性)を適切に制御することに想到した。
具体的には、塩基度を1.0以上4.0以下(更には3.7以下)とするとよい。
塩基度の算出には、CaO、SiO2、及び、Al2O3(アルミナ)による(質量%CaO)/{(質量%SiO2)+(質量%Al2O3)}を用いる。ここで、CaOとSiO2のみによる塩基度指標=(質量%CaO)/(質量%SiO2)を用いた場合、Al2O3が含まれないことから、アルミナ介在物とフラックス中のCaOによって生成するCaO-Al2O3系の低融点酸化物の生成が考慮されず、Al2O3の高清浄化への影響が考慮されないことになる。
【0022】
上記した塩基度が1.0未満の場合、フラックスの滓化が過度に進行し、タンディッシュ11を構成する耐火物の溶損が進行して、耐火物粒子が溶湯表面のフラックス層に存在することにつながる。この耐火物粒子は受湯室12内の溶湯流の影響を受け易く、溶湯中への混入による清浄性の悪化が懸念される。
一方、塩基度が4.0を超える場合、滓化不足により、フラックス粒子が溶湯に巻き込まれる懸念がある。
なお、滓化状況を適切に制御しても粘性が高過ぎると、フラックスの擾乱が発生した場合に溶湯表面が露出し再酸化が促進されるため、フラックス中のAl2O3濃度(CaO量、SiO2量、及び、Al2O3量の合計量に対するAl2O3量)を10質量%以上とする。これにより、一定の低粘性を確保して、タンディッシュ11内雰囲気に溶湯表面が曝露されることを抑制できる。ここで、Al2O3濃度の上限値については、上記したように、塩基度の上限値と下限値を規定しているため、これに従って決まる(例えば、50質量%程度)。
【0023】
このように、フラックスの滓化や粘性を制御するには、フラックス中のCaO、SiO2、及び、Al2O3の合計濃度が、例えば、70質量%以上(100質量%でもよい)であればよい(残部は、フラックスの成分として使用可能な他の成分)。
言い換えると、CaO量、SiO2量、及び、Al2O3量の合計量に対するAl2O3量を10質量%以上とすることによる、上記した作用効果を得ようとすれば、フラックス中のCaO、SiO2、及び、Al2O3の合計濃度が70質量%以上であることが好ましい。即ち、合計濃度が70質量%未満になると、CaO、SiO2、及び、Al2O3の3成分による作用効果の顕著さが低下し易くなる。
【0024】
なお、塩基度等のフラックス組成は、受湯室12に添加するフラックスを対象に規定したが、取鍋10から混入するスラグ量が著しく増加することがある場合は、上記した作用効果が得にくいため、取鍋10のスラグも同様の組成としておくことが好ましい。このように、取鍋10からタンディッシュ11内にスラグが混入する場合は、このスラグも、湯道14の入口近傍における溶湯の撹拌に伴って、受湯室12の溶湯表面上のフラックスと共に巻き込まれる対象となる。
また、出湯室13側のフラックス組成については、受湯室12側のフラックス組成と同一組成のもの使用できるが、特に限定されるものではなく、異なる組成のフラックス(従来使用しているフラックス)を使用することもできる。
【0025】
以上に示した構成により、受湯室12の湯道14入口近傍における溶湯の撹拌に伴うフラックス巻き込みが抑制される。
図1に示すように、直線状の湯道14を受湯室12側から出湯室13側へかけて下方に向けて傾斜させた場合(湯道14の受湯室12側端面の中心位置C1を出湯室13側端面の中心位置C2よりも高くした場合)、湯道14の受湯室12側は湯面方向を向くため、受湯室12湯面上のフラックスを一層巻き込み易くなる。しかし、フラックスを前記した組成にする(フラックス巻き込みを抑制する)ことで、湯道14を傾斜させることが可能となる。
このように、湯道14を傾斜させることで、湯道14出側から出湯室13に噴出される溶湯流がタンディッシュ11内壁に衝突した後に発生する分岐流のうち、上向きの流れは緩和される。この結果、タンディッシュ11の出湯室13浴面に浮上した介在物が再度溶湯に巻き込まれることを抑制できる。
【0026】
なお、湯道14の長さ方向の中心線(軸心)を出湯室13に向けて延長して、この中心線が交差する出湯室13の耐火物壁(タンディッシュ11内壁)は、通常は直角よりも耐火物壁が外側へ開くように、角度θ(出湯室13の底面21(水平方向)に対する傾斜角θ)が例えば65~85度程度(90度未満)で傾斜している。
このため、湯道14出側から出湯室13に噴出される溶湯流(一般的な鋳造速度、鋳造サイズ、湯道内径、及び、湯道本数が1~4の場合、湯道1本あたりの溶湯の通過量を300~1800kg/分と想定)が、出湯室13の耐火物壁に衝突すると、上向きの流れが強い傾向となる。この流れは、溶湯中の介在物を浮上除去する作用よりも、出湯室13で浮上して溶湯表面に存在している介在物を再度溶湯へ巻き込む作用が強いものと推定される。
従って、湯道14の傾斜により、このように強くなった上向きの流れを緩和し、介在物の溶湯への再巻き込みを抑制することができる。
【0027】
湯道14の傾斜は、以下のように設定するのがよい。
誘導加熱の適用も可能とする堰15の厚み(湯道14の長さ)は800mm以上であり、湯道14の受湯室12側端面と出湯室13側端面の各中心(軸心)位置C1、C2の高低差(高さ方向の差:C1-C2)は、0mmを超え、タンディッシュ11の貯蔵量等により200mm以下程度である。
ここで、湯道14の傾斜を、{湯道の受湯室側端面と出湯室側端面の各中心位置の高低差(mm)}/{湯道の水平方向の長さ(mm)}で定義すると、下限値は0.0(水平)超がよく、0.5×10-2以上(水平に比べて差が明確に確認できる程度)が好ましい。一方、傾斜の上限値は、10.0×10-2未満がよく、好ましくは9.5×10-2以下、更に好ましくは9.0×10-2以下がよい。
なお、前記したように、湯道の傾斜の増加に伴って、前記した溶湯の上向きの流れが緩和される効果が得られるが、傾斜の増加が顕著になると、前記した受湯室湯面上のフラックスを巻き込む影響を受け易くなるため、湯道を傾斜させる場合の傾きの上限値は、フラックスの巻き込み抑制や製造する鋼に求められる清浄さに応じて決定するとよい。
【0028】
図1に示すように、湯道14出口から噴出された直進性の高い溶湯流からは、一部出湯室13の下部に向かう方向に分岐した溶湯流が発生する。この分岐した溶湯流は、出湯室13底部に設けられ、鋳型に浸漬ノズル17を介して溶湯を注湯(排出)する排出孔22に直接流入する流れの原因となるため、出湯室13における介在物の浮上作用について改善の余地が残る。特に、湯道14を傾斜させた場合は、この傾向が強くなる。
更に、鋳造しているチャージの末期は、出湯室13の湯面高さが低下する場合があるが、湯面高さの低下によって湯道14から噴出される溶湯流よりも上部に分岐する流れが減少し、下部に分岐する流れが強まるため、上記した排出孔22に直接流入する流れが発生する傾向が強まる。
このため、排出孔22に直接流入する溶湯流の流れ方向の変更や介在物の浮上促進を行う手段として、湯道14の出湯室13側の開口部20と排出孔22とを直線状に結ぶ仮想溶湯流路に向けて、出湯室13側の底部からガスを吹き込むのがよい(例えば、排出孔22の周囲から出湯室13にガスを吹き込む。)。
【0029】
吹き込むガスには、不活性ガス(例えば、アルゴンガス(Arガス))を使用する。
ガス吹き込み量の増加に応じて、排出孔22に直接流入する溶湯流の方向を変化させることや、介在物を浮上させることを促進できる。しかし、ガス吹き込み量が出湯室13溶湯の単位量及び単位時間あたりで0.9リットル(0.9L/(min・トン))を超えると効果が飽和し、更に大幅に超えるとガス吹き込み効果が減少するおそれがあるため、ガスを吹き込む場合は、その量を0超、0.9L/(min・トン)以下とするとよい。
なお、ガスの吹き込みは、鋳造中は継続して行うとよいが、チャージ末期にガスを吹き込む効果がより顕著に得られるため、少なくとも連々鋳(連々鋳造)のチャージ変更時の湯面低下時にガスを吹き込むことでも、相応の効果が得られる。なお、連々鋳は、複数の取鍋内の溶湯を連続的に順次鋳造する方法であり、鋳造する溶湯は、同一鋼種でもよく、また、異なる鋼種でもよい。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、以下の方法を基本として、実機水準にて各条件を変更し、鋳片の清浄性の評価を行った。なお、評価対象の鋼種は薄板容器材料(ブリキ材)系とした。
【0031】
(精錬条件)
350トンの転炉にて一次精錬を行った後、取鍋内に出鋼した溶鋼(炭素濃度:0.02~0.04質量%、溶鋼中の溶存酸素濃度:質量割合で600~800ppm程度で一定)を簡易取鍋精錬設備(CAS)に移動し、取鍋内の溶鋼に金属アルミニウムを、溶鋼1トンあたり1.2~2.4kg添加し、脱酸処理を行った。
【0032】
(鋳造条件)
上記方法で処理された取鍋内の溶鋼を、湯道を2本備えた堰で受湯室と出湯室に区分けされたタンディッシュの受湯室内に注湯し、受湯室にフラックスを添加した状態で、連続鋳造を実施した。なお、湯道1本あたりの溶鋼通過量(非定常部及び定常部)は、300~1800kg/分とした。
タンディッシュの湯道は、内径を150mm、中心線方向の水平長さを1200mmとした。
堰の高さ方向における湯道の位置(受湯室側の開口部の下端の高さ位置)は、受湯室の溶鋼の通常操業時の最大深さをH(m)として、0.2×H以下である。
湯道の長さ方向の中心線を出湯室に向けて延長して交差する出湯室の耐火物壁の傾きの角度θは、80度である。
実施例、比較例、従来例のいずれも、出湯室側には塩基度1.0(実施例1の受湯室に投入したフラックスと同一)のフラックスを予め投入して鋳造している。なお、受湯室に投入したフラックス中のCaO、SiO2、及び、Al2O3の合計濃度は、70質量%以上である。
従来法は、受湯室内にフラックスを添加せず、受湯室内をArガスでパージした操業である。
【0033】
(実験結果)
試験条件と、その結果及び評価とを、表1に示す。
表1において、「受湯室フラックス」の「塩基度」の欄には、受湯室内に添加したフラックスの塩基度「(質量%CaO)/{(質量%SiO2)+(質量%Al2O3)}」を記載している。
「受湯室フラックス」の「Al2O3濃度」の欄には、フラックス中に含有されるAl2O3濃度(即ち、CaO量、SiO2量、及び、Al2O3量の合計量に対するAl2O3量)を記載している。
「湯道の傾斜」の欄には、湯道の傾斜の有無を記載し、傾斜させた場合には、湯道の受湯室側端面と出湯室側端面の各中心位置の高低差(mm)を、湯道の水平方向の長さ(mm)で除すことによって算出した傾きも記載した。
「ガスの吹き込み」の欄には、ガスの吹き込みの有無を記載し、吹き込み有りの場合には、出湯室に貯蔵された溶鋼単位量あたり、かつ、単位時間あたりのガス流量も記載した。なお、出湯室に貯蔵された溶鋼量は、図面等より求めた出湯室の容積と湯面高さより、算出することができる。
【0034】
鋳片内の介在物検出個数指数については、以下の通りとした。
評価には、鋳造における定常部(タンディッシュの湯面高さは最大値で一定)と、非定常部(連々鋳での取鍋交換による継ぎ目近傍)の2箇所の鋳片を用いた。
詳細には、定常部の鋳片は、継ぎ目から50トン遡った部位を含む鋳片(この鋳片の特定の場所から50トン鋳造した後に取鍋交換)とした。また、非定常部の鋳片は、取鍋交換が近づき、タンディッシュの湯面高さを低下させ始めた(低下を開始させた)以降であって、継ぎ目から30トン遡った部位を含む鋳片(当該鋳片の特定の場所から30トン鋳造した後に取鍋交換)とした。
なお、タンディッシュの湯面高さの低下開始時期は、概ね継ぎ目から40トン遡った時点である。従って、40トン遡った時点以降は(40トン以下の範囲では)、湯面高さが低下し続ける。
上記した溶鋼のトン数は、鋳造条件(例えば、鋳造速度やタンディッシュの容積等)により、取鍋の残湯量により検出できる。
【0035】
これらの定常部の鋳片と非定常部の鋳片の各代表位置から切り出したサンプル(一辺が30mmの矩形)を、それぞれ鏡面研磨した後、光学顕微鏡にてアルミナ介在物個数を調査し、単位面積あたりのアルミナ介在物の検出個数に換算した。
更に、実施例1の条件における定常部と非定常部の各検出個数を1.00とし、他の実施例、比較例、及び、従来例の定常部と非定常部のそれぞれの検出個数を指数化した。
ここで、指数化した値の評価は、以下の通りである。
・指数化した値が実施例1の0.95倍以上、1.60倍未満:△評価
・指数化した値が実施例1の0.70倍以上、0.95倍未満:○評価
・指数化した値が実施例1の0.70倍未満 :◎評価
・指数化した値が実施例1の1.60倍以上 :×評価
なお、比較例1~3と従来例の指数化した値は、実施例1の1.70~2.99倍であり、評価は全て×であった。
【0036】
【0037】
表1に示すように、実施例1~9はいずれも、受湯室の溶鋼表面に配置するフラックスの組成を適正範囲(塩基度:1.0~4.0、Al2O3濃度:10質量%)に設定した場合の結果である。これにより、定常部と非定常部のいずれについても、鋳片内の介在物検出指数の評価が△、○、又は、◎となり、受湯室側のフラックスの巻き込み抑制効果が得られたことが判る。
なお、実施例1~9は、Al2O3濃度について10質量%のみ記載しているが、塩基度が1.0~4.0の範囲においてAl2O3濃度を10質量%超に高めた場合も、略同様の結果が得られた。
Al2O3濃度については、塩基度が1.0の場合はAl2O3濃度を50質量%まで、また、塩基度が4.0の場合はAl2O3濃度を20質量%まで、それぞれ高めることが可能である。
特に、実施例1の非定常部における鋳片内の介在物検出個数(指数化しない値)は、従来例の定常部と同等の値であった。これは、受湯室側のフラックスの巻き込みが発生し易いタンディッシュの湯面高さが低下する非定常部において、受湯室側のフラックスの巻き込み抑制効果が得られていることを示している。
【0038】
また、実施例4、6~9は、湯道の傾斜(傾斜が前記した好ましい範囲内)、及び/又は、ガスの吹き込みを実施した場合の結果である。これにより、湯道の傾斜による出湯室での分岐流の上向きの流れの緩和効果、及び/又は、ガスの吹き込みによる排出孔に直接流入する溶鋼流の流れ方向の変更や介在物の浮上促進の効果が得られた。このため、定常部と非定常部のいずれについても、湯道の傾斜とガスの吹き込みの双方を実施しなかった実施例1~3より、鋳片内の介在物検出指数の評価が向上した(評価:○又は◎)。
特に、非定常部において、ガスの吹き込みを行った実施例7、8は、実施例1よりも鋳片内の介在物検出個数指数が改善している。このため、継ぎ目部周辺の溶鋼の鋳造時(例えば、継ぎ目を中心としてその前後に40トンの範囲)においてガスを吹き込むことで、非定常部となる継ぎ目部近傍は、従来例の定常部と同等以上の介在物欠陥抑制効果が期待できる。
【0039】
一方、比較例1~3と従来例は、受湯室の溶鋼表面に配置するフラックスの塩基度及び/又はAl2O3濃度を、前記した適正範囲外に設定した場合の結果である。このため、定常部と非定常部のいずれについても、受湯室側のフラックスの巻き込みを抑制できず、鋳片内の介在物検出指数の評価が×となった。
【0040】
従って、本発明の連続鋳造方法を用いることで、従来よりも溶湯の更なる高清浄化が図れることを確認できた。
【0041】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の連続鋳造方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10:取鍋、11:タンディッシュ、12:受湯室、13:出湯室、14:湯道、15:堰、16:ロングノズル、17:浸漬ノズル、18:開口部、19:底面、20:開口部、21:底面、22:排出孔