IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 味の素株式会社の特許一覧

特許7238299水中油型乳化組成物を含有する食品及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物を含有する食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/60 20160101AFI20230307BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20230307BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20230307BHJP
   A23D 7/00 20060101ALN20230307BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20230307BHJP
【FI】
A23L27/60 A
A23L5/00 L
A23L29/00
A23D7/00 504
C12N9/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018164827
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020036548
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】左座 貴雄
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-131119(JP,A)
【文献】特開2000-262222(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105852053(CN,A)
【文献】特開平05-252879(JP,A)
【文献】特開平11-332520(JP,A)
【文献】特開2001-046003(JP,A)
【文献】特開平10-004938(JP,A)
【文献】特開平10-042792(JP,A)
【文献】国際公開第96/011264(WO,A1)
【文献】特開平07-079707(JP,A)
【文献】特開2019-205378(JP,A)
【文献】特開2019-068744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスグルタミナーゼ、並びに、ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩を、水中油型乳化組成物と混合すること、及び
水性液を水中油型乳化組成物に加えること
を含む、水中油型乳化組成物を含有する食品の製造方法であって、
水中油型乳化組成物が、マヨネーズ又はマヨネーズ様組成物であり、
ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩の量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して5重量部以上であり、
前記食品が、凍結及び解凍されるものである、製造方法。
【請求項2】
トランスグルタミナーゼ、並びに、ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩の、水中油型乳化組成物との混合を、トランスグルタミナーゼとゼラチン又はカゼイン若しくはその塩とを混合し、得られた混合物を水中油型乳化組成物と混合することによって行う、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
増粘剤を水中油型乳化組成物に加えることを更に含む、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
ゼラチンの量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して30重量部以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
カゼイン若しくはその塩の量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して15重量部以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
トランスグルタミナーゼ、並びに、ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩と、水中油型乳化組成物との混合物を加熱することを更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記食品が、冷凍食品である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
水中油型乳化組成物の分離が抑制されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
トランスグルタミナーゼ処理されたゼラチン又はカゼイン若しくはその塩、並びに、水性液を加えられた水中油型乳化組成物を含有する食品であって、
水中油型乳化組成物が、マヨネーズ又はマヨネーズ様組成物であり、
ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩の量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して5重量部以上であり、
前記食品が、凍結及び解凍されるものである、食品。
【請求項10】
トランスグルタミナーゼ、並びに、ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩を、水中油型乳化組成物と混合するこ
含む、水性液を加えられて凍結及び解凍された水中油型乳化組成物の分離抑制方法であって、
水中油型乳化組成物が、マヨネーズ又はマヨネーズ様組成物であり、
ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩の量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して5重量部以上である、方法。
【請求項11】
トランスグルタミナーゼ処理されたゼラチン又はカゼイン若しくはその塩を含有する、水性液を加えられて凍結及び解凍された水中油型乳化組成物の分離抑制剤であって、
水中油型乳化組成物が、マヨネーズ又はマヨネーズ様組成物であり、
トランスグルタミナーゼ処理されたゼラチン又はカゼイン若しくはその塩の量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して5重量部以上となるように水中油型乳化組成物に添加される、剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化組成物を含有する食品及びその製造方法に関し、詳細には、水中油型乳化組成物を含有し、当該水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法に関する。また本発明は、水中油型乳化組成物の分離抑制方法に関する。さらに本発明は、水中油型乳化組成物の分離抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マヨネーズ等の水中油型乳化組成物は、野菜サラダ等に用いられる他、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等において販売される種々の総菜や冷凍食品にも使用される等、近年、その用途は拡大しているが、これに伴い、調理方法、保存条件、流通形態等が異なる各種食品において、分離せずに乳化状態を維持できることが求められるようになっている。具体的には、水中油型乳化組成物が使用される食品は、その種類等に応じて、水を加えられたり、加熱されたり、凍結及び解凍されたりする場合があり得るが、そのような場合であっても、水中油型乳化組成物が分離せず、各種食品に汎用的に使用し得ることが望ましい。
【0003】
水中油型乳化組成物の乳化安定性を向上するために、従来、種々の方法が提案されている。例えば、卵黄にトランスグルタミナーゼを作用させた卵黄乳化剤に水相原料及び油相原料を加えた後乳化することで、乳化安定性等が改善された、マヨネーズ等の水中油型エマルション食品を提供できることが報告されている(特許文献1)。また、冷凍耐性を有するマヨネーズ様食品を得るために、特定の油脂組成物を使用することが提案されている(特許文献2)。しかしながら水中油型乳化組成物が水を加えられた場合、水中油型乳化組成物が加熱された場合、水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合のいずれにおいても、水中油型乳化組成物の分離を抑制できる方法は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-78693号公報
【文献】特開2018-50584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、水中油型乳化組成物を含有し、当該水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供することにある。特に、本発明は、水中油型乳化組成物が水性液を加えられた場合、水中油型乳化組成物が加熱された場合、水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合においても、水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上述の課題を解決するべく鋭意検討した結果、トランスグルタミナーゼ及びたん白質を、水中油型乳化組成物と混合することにより、水中油型乳化組成物が水性液を加えられた場合、水中油型乳化組成物が加熱された場合、水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合において、水中油型乳化組成物の分離を抑制し得ることを見出し、さらに研究を重ねることによって、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1]トランスグルタミナーゼ及びたん白質を、水中油型乳化組成物と混合することを含む、水中油型乳化組成物を含有する食品の製造方法。
[2]トランスグルタミナーゼ及びたん白質の、水中油型乳化組成物との混合を、トランスグルタミナーゼとたん白質とを混合し、得られた混合物を水中油型乳化組成物と混合することによって行う、[1]記載の製造方法。
[3]増粘剤を水中油型乳化組成物に加えることを更に含む、[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]前記たん白質が、ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の製造方法。
[5]ゼラチンの量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して5重量部以上30重量部以下である、[4]記載の製造方法。
[6]カゼイン若しくはその塩の量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して1重量部以上15重量部以下である、[4]記載の製造方法。
[7]水性液を水中油型乳化組成物に加えることを更に含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の製造方法。
[8]トランスグルタミナーゼ及びたん白質と、水中油型乳化組成物との混合物を加熱することを更に含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法。
[9]前記食品が、冷凍食品である、[1]~[8]のいずれか一つに記載の製造方法。
[10]水中油型乳化組成物の分離が抑制されている、[1]~[9]のいずれか一つに記載の製造方法。
[11]トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質及び水中油型乳化組成物を含有する食品。
[12]前記食品が、増粘剤を更に含有する、[11]記載の食品。
[13]前記たん白質が、ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩である、[11]又は[12]記載の食品。
[14]トランスグルタミナーゼ処理されたゼラチンの含有量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して5重量部以上30重量部以下である、[13]記載の食品。
[15]トランスグルタミナーゼ処理されたカゼイン若しくはその塩の含有量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して1重量部以上15重量部以下である、[13]記載の食品。
[16]前記食品が、水性液を更に含有する、[11]~[15]のいずれか一つに記載の食品。
[17]前記食品が、加熱済み食品である、[11]~[16]のいずれか一つに記載の食品。
[18]前記食品が、冷凍食品である、[11]~[17]のいずれか一つに記載の食品。
[19]水中油型乳化組成物の分離が抑制されている、[11]~[18]のいずれか一つに記載の食品。
[20]トランスグルタミナーゼ及びたん白質を、水中油型乳化組成物と混合することを含む、水中油型乳化組成物の分離抑制方法。
[21]トランスグルタミナーゼ及びたん白質の、水中油型乳化組成物との混合を、トランスグルタミナーゼとたん白質とを混合し、得られた混合物を水中油型乳化組成物と混合することによって行う、[20]記載の方法。
[22]増粘剤を水中油型乳化組成物に加えることを更に含む、[20]又は[21]記載の方法。
[23]前記たん白質が、ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩である、[20]~[22]のいずれか一つに記載の方法。
[24]ゼラチンの量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して5重量部以上30重量部以下である、[23]記載の方法。
[25]カゼイン若しくはその塩の量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して1重量部以上15重量部以下である、[23]記載の方法。
[26]水性液を水中油型乳化組成物に加えることを更に含む、[20]~[25]のいずれか一つに記載の方法。
[27]トランスグルタミナーゼ及びたん白質と、水中油型乳化組成物との混合物を加熱することを更に含む、[20]~[26]のいずれか一つに記載の方法。
[28]トランスグルタミナーゼ及びたん白質と、水中油型乳化組成物との混合物を凍結することを更に含む、[20]~[27]のいずれか一つに記載の方法。
[29]トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質を含有する、水中油型乳化組成物の分離抑制剤。
[30]増粘剤を更に含有する、[29]記載の分離抑制剤。
[31]前記たん白質が、ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩である、[29]又は[30]記載の分離抑制剤。
[32]トランスグルタミナーゼ処理されたゼラチンの添加量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して5重量部以上30重量部以下となるように水中油型乳化組成物に添加される、[31]記載の分離抑制剤。
[33]トランスグルタミナーゼ処理されたカゼイン若しくはその塩の添加量が、水中油型乳化組成物100重量部に対して1重量部以上15重量部以下となるように水中油型乳化組成物に添加される、[31]記載の分離抑制剤。
[34]水性液を加えられた水中油型乳化組成物の分離抑制剤である、[29]~[33]のいずれか一つに記載の分離抑制剤。
[35]加熱された水中油型乳化組成物の分離抑制剤である、[29]~[34]のいずれか一つに記載の分離抑制剤。
[36]凍結された水中油型乳化組成物の分離抑制剤である、[29]~[35]のいずれか一つに記載の剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水中油型乳化組成物を含有し、当該水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供できる。
本発明によれば、水中油型乳化組成物が水性液(例、水等)を加えられた場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供できる。
本発明によれば、水中油型乳化組成物が加熱された場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供できる。
本発明によれば、水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供できる。
本発明によれば、水中油型乳化組成物が水性液(例、水等)を加えられた場合、水中油型乳化組成物が加熱された場合、水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合のいずれにおいても、水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供できる。
また本発明によれば、水中油型乳化組成物の分離抑制方法及び水中油型乳化組成物の分離抑制剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本発明の製造方法)
本発明における、水中油型乳化組成物を含有する食品の製造方法(本明細書において「本発明の製造方法」と称する場合がある)は、トランスグルタミナーゼ及びたん白質を、水中油型乳化組成物と混合することを含むことを、特徴の一つとする。
【0010】
トランスグルタミナーゼは、たん白質やペプチド中のグルタミン残基を供与体とし、リジン残基を受容体とするアシル転移反応を触媒する活性を有する酵素であり、例えば、哺乳動物由来のもの、魚類由来のもの、微生物由来のもの等、種々の起源のものが知られている。本発明において用いられるトランスグルタミナーゼは、上述の活性を有すればその起源は特に制限されず、いかなる起源のトランスグルタミナーゼであっても使用でき、また組み換え酵素を使用してもよい。本発明において用いられるトランスグルタミナーゼは市販品であってもよく、具体例としては、味の素株式会社より「アクティバ」TGという商品名で市販されている微生物由来のトランスグルタミナーゼ等が挙げられる。
【0011】
本発明においてトランスグルタミナーゼの活性単位は、次のように測定され、かつ、定義される。
すなわち、温度37℃、pH6.0のトリス緩衝液中、ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミルグリシン及びヒドロキシルアミンを基質とする反応系で、トランスグルタミナーゼを作用せしめ、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体を形成させた後、525nmにおける吸光度を測定し、ヒドロキサム酸量を検量線により求め、1分間に1μモルのヒドロキサム酸を生成せしめる酵素量を1ユニット(1U)とする(特開昭64-27471号公報参照)。
【0012】
本発明において用いられるトランスグルタミナーゼの量は、たん白質1g当たりの酵素活性が、好ましくは0.000001U以上であり、より好ましくは0.00001U以上であり、特に好ましくは0.0001U以上であり、最も好ましくは0.0005U以上である。また当該トランスグルタミナーゼの量は、たん白質1g当たりの酵素活性が、好ましくは10U以下であり、より好ましくは1U以下であり、特に好ましくは0.1U以下であり、最も好ましくは0.01U以下である。例えば、本発明において用いられるトランスグルタミナーゼの量は、たん白質1g当たり、好ましくは0.000001~10Uであり、より好ましくは0.00001~1Uであり、特に好ましくは0.0001~0.1Uであり、最も好ましくは0.0005~0.01Uである。
【0013】
本発明において用いられるたん白質は、トランスグルタミナーゼが反応し得るものであれば特に制限されないが、例えば、ゼラチン、カゼイン及びその塩、大豆タンパク質、卵タンパク質、肉タンパク質、乳清タンパク質、グルテン並びにコラーゲン等が挙げられ、中でも食感が滑らかであることから、好ましくは、ゼラチン、カゼイン及びその塩である。これらのタンパク質は、いずれか1種を単独で使用してよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明において用いられるゼラチンは、生体に含まれるコラーゲンを抽出して加熱し、不可逆的に水溶性に変性させた変性コラーゲンをいい、抽出時の前処理によって、例えば、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチン等に分類され得るが、本発明は可食性であれば、いずれのゼラチンを用いてもよい。本発明において用いられ得るゼラチンの起源は特に制限されないが、例えば、ウシ、ブタ、魚等の骨、皮膚、鱗等に由来するゼラチン等を用い得る。
【0015】
本発明において用いられるゼラチンの製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。また市販品を用いてもよく、簡便であることから好ましい。
【0016】
本発明の製造方法が、ゼラチンを水中油型乳化組成物と混合することを含む場合、ゼラチンの量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは5重量部以上であり、より好ましくは10重量部以上であり、特に好ましくは12重量部以上である。またゼラチンの量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは25重量部以下であり、特に好ましくは20重量部以下である。
【0017】
本発明において用いられるカゼインは、乳たん白質の主体をなすリンたん白質であり、乳に酸を加えてpH4.6にすると等電沈殿するものをいう。一般にカゼインは電気泳動的にα型、β型、γ型の三成分に分類し得るが、本発明のカゼインにはこれらが全て包含される。また本発明において用いられるカゼインの塩は、可食性であれば特に制限されないが、例えば、カゼインのアルカリ金属塩(例、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等)、アルカリ土類金属塩(例、カゼインカルシウム、カゼインマグネシウム等)等が挙げられ、好ましくはカゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウム、カゼインマグネシウムであり、より好ましくはカゼインナトリウムである。
【0018】
本発明において用いられるカゼイン若しくはその塩の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。また市販品を用いてもよく、簡便であることから好ましい。本発明において用いられるカゼインは完全に精製されたものでなくてよく、例えば、カゼインを含有する乳たん白質、乳、乳製品等を使用してもよい。
【0019】
本発明の製造方法が、カゼイン若しくはその塩を、水中油型乳化組成物と混合することを含む場合、カゼイン若しくはその塩の量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは1重量部以上であり、より好ましくは3重量部以上であり、特に好ましくは5重量部以上である。またカゼイン若しくはその塩の量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは15重量部以下であり、より好ましくは12重量部以下であり、特に好ましくは10重量部以下である。
【0020】
本発明において用いられる水中油型乳化組成物とは、水相原料と油相原料とが水中油型(O/W型)に乳化されてなる組成物をいい、具体例としては、日本農林規格(JAS規格)で定義される半固体状ドレッシング(例えば、マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング等)、乳化液状ドレッシング等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、水相原料と油相原料とが水中油型に乳化されてなるものであれば、JAS規格を満たさないドレッシング、調味料、食品(飲料を含む)等も広く包含する概念である。
【0021】
本発明において用いられる水中油型乳化組成物の水相原料は、可食性であれば特に制限されないが、例えば、水、酸味料(例、食酢、かんきつ類の果汁等)、食塩、醤油、味噌、卵(例、卵黄、卵白、全卵、液卵等)、調味料(例、たん白加水分解物、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム等)、乳化剤(例、レシチン等)、糖類(例、グラニュー糖等)、はちみつ、でん粉、糊料、香料、着色料、香辛料、香辛料抽出物等が挙げられる。これらの水相原料は、いずれか1種を単独で使用してよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明において用いられる水中油型乳化組成物の油相原料は、可食性であれば特に制限されないが、例えば、油脂(例、植物油脂、動物油脂等)、親油性のある着香料、香味油等が挙げられる。これらの油相原料は、いずれか1種を単独で使用してよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
本発明において用いられる水中油型乳化組成物の油脂含有率は特に制限されないが、例えば、JAS規格では、マヨネーズの油脂含有率は65%以上であること、サラダクリーミードレッシングの油脂含有率は10%以上50%未満であること、マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング以外の半固体状ドレッシングの油脂含有率及び乳化液状ドレッシングの油脂含有率は、それぞれ10%以上であることが定められ、本発明において用いられる水中油型乳化組成物の油脂含有率は、一態様として65%以上であってよく、別の一態様として10%以上50%未満であってよく、更に別の一態様として10%以上であってよい。
本発明において、水中油型乳化組成物の油脂含有率は、ドレッシングの日本農林規格に規定される、油脂含有率の測定方法によって測定される。
【0024】
本発明において用いられる水中油型乳化組成物の水分は特に制限されないが、例えば、JAS規格では、マヨネーズの水分は30%以下であること、サラダクリーミードレッシングの水分、マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング以外の半固体状ドレッシングの水分及び乳化液状ドレッシングの水分は、それぞれ85%以下であることが定められ、本発明において用いられる水中油型乳化組成物の水分は、一態様として30%以下であってよく、別の一態様として85%以下であってよい。
本発明において、水中油型乳化組成物の水分は、ドレッシングの日本農林規格に規定される、水分の測定方法によって測定される。
【0025】
本発明において用いられる水中油型乳化組成物は、マヨネーズ又はマヨネーズ様組成物であってよい。ここで「マヨネーズ」とは、JAS規格における「マヨネーズの規格」に適合する水中油型乳化組成物をいい、また「マヨネーズ様組成物」とは、JAS規格における「マヨネーズの規格」を満たさないが、当該「マヨネーズの規格」に適合する組成物と同等乃至類似の性状(例、外観、食感、呈味、風味等)を有する水中油型乳化組成物(例、半固体状ドレッシング、乳化液状ドレッシング等)をいう。
【0026】
本発明において用いられる水中油型乳化組成物の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。また市販品を用いてもよい。
【0027】
本発明の製造方法において、トランスグルタミナーゼ及びたん白質(例、ゼラチン、カゼイン若しくはその塩等)を、水中油型乳化組成物と混合する方法は特に制限されないが、例えば、トランスグルタミナーゼとたん白質とを混合し、得られた混合物を水中油型乳化組成物と混合すること等によって行い得る。トランスグルタミナーゼとたん白質とを混合する場合、たん白質にトランスグルタミナーゼが作用するように混合することが好ましく、混合時間は混合量や使用するトランスグルタミナーゼ製剤の種類等に応じて適宜調整すればよく特に制限されないが、通常30秒間~120分間、好ましくは1~60分間であり、混合温度は通常0~50℃、好ましくは5~30℃である。
本発明において、たん白質に「トランスグルタミナーゼを作用させること」を、「トランスグルタミナーゼ処理」と称する場合がある。
【0028】
本発明の製造方法は、増粘剤を水中油型乳化組成物に加えることを更に含んでよい。増粘剤を水中油型乳化組成物に加えることにより、本発明の製造方法によって得られる食品が、なめらかな好ましい食感となり得る。
【0029】
増粘剤としては、例えば、キサンタンガム、グアガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、モナトウガム、アラビアガム、トラガントガム、ぺクチン、カードラン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、でん粉、加工でん粉等が挙げられ、食感の観点から、好ましくはキサンタンガム、グアガムである。
【0030】
本発明の製造方法が、増粘剤を水中油型乳化組成物に加えることを含む場合、水中油型乳化組成物に加える増粘剤の量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上であり、より好ましくは1重量部以上であり、特に好ましくは1.5重量部以上である。また水中油型乳化組成物に加える増粘剤の量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは5重量部以下であり、より好ましくは3重量部以下であり、特に好ましくは2重量部以下である。ここで水中油型乳化組成物が、増粘剤を加えられる前に、元から増粘剤を含む場合、水中油型乳化組成物に加える増粘剤の量には、水中油型乳化組成物に元から含まれる増粘剤の量は含まれない。
【0031】
本発明の製造方法において、増粘剤を水中油型乳化組成物に加える方法は特に制限されず、例えば、増粘剤を水中油型乳化組成物に直接加えること等によって行い得る。あるいは、トランスグルタミナーゼ及びたん白質の、水中油型乳化組成物との混合を、トランスグルタミナーゼとたん白質とを混合し、得られた混合物を水中油型乳化組成物と混合することによって行う場合は、トランスグルタミナーゼとたん白質との混合物に、更に増粘剤を混合し、これを水中油型乳化組成物と混合することによっても、増粘剤を水中油型乳化組成物に加え得る。
【0032】
本発明は、水中油型乳化組成物が水性液を加えられたものであっても、その分離を抑制し得ることから、本発明の製造方法は、水性液を水中油型乳化組成物に加えることを更に含んでよい。本発明において「水性液」は、水性の液体をいい、典型的には水(例、水道水、蒸留水、純水等)をいうが、水の他に、液糖、液体調味料等も包含する概念である。
【0033】
本発明の製造方法が、水性液を水中油型乳化組成物に加えることを含む場合、水中油型乳化組成物に加える水性液の量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは150重量部以下であり、より好ましくは120重量部以下であり、特に好ましくは110重量部以下である。水中油型乳化組成物に加える水性液の量の下限は特に制限されない。ここで水中油型乳化組成物に加える水性液の量には、水中油型乳化組成物に元から含まれる水の量は含まれない。
【0034】
本発明の製造方法が、水性液として水を水中油型乳化組成物に加えることを含む場合、水中油型乳化組成物に加える水と水中油型乳化組成物に元から含まれる水との合計量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは200重量部以下であり、より好ましくは150重量部以下である。また、この場合、水中油型乳化組成物に加える水と水中油型乳化組成物に元から含まれる水との合計量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは20重量部以上であり、より好ましくは25重量部以上である。
【0035】
本発明の製造方法において、水性液を水中油型乳化組成物に加える方法は特に制限されず、例えば、水性液を水中油型乳化組成物に直接加えること等によって行い得る。あるいは、トランスグルタミナーゼ及びたん白質の、水中油型乳化組成物との混合を、トランスグルタミナーゼとたん白質とを混合し、得られた混合物を水中油型乳化組成物と混合することによって行う場合は、トランスグルタミナーゼとたん白質との混合物に、更に水性液を混合し、これを水中油型乳化組成物と混合することによっても、水性液を水中油型乳化組成物に加え得る。
【0036】
本発明は、水中油型乳化組成物が加熱されたものであっても、その分離を抑制し得ることから、本発明の製造方法は、トランスグルタミナーゼ及びたん白質と、水中油型乳化組成物との混合物を加熱することを更に含んでよい。
【0037】
本発明の製造方法において、トランスグルタミナーゼ及びたん白質と、水中油型乳化組成物との混合物を加熱する方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、電子レンジ加熱、オーブン加熱、過熱水蒸気加熱、蒸し加熱、焼き加熱、レトルト加熱等)又はそれに準ずる方法で行い得る。加熱温度は、加熱方法、加熱時間等に応じて調整されるが、通常40~120℃であり、好ましくは60~90℃である。加熱時間は、加熱方法、加熱温度等に応じて調整されるが、通常5秒間~60分間であり、好ましくは10秒間~30分間である。
【0038】
本発明の製造方法は、本発明の目的を損なわない限り、製造する食品の種類等に応じて、慣用の処理工程、調理工程を更に含んでよい。
【0039】
本発明の製造方法によって得られる食品は、水中油型乳化組成物を原材料として含み得るものであれば特に制限されないが、例えば、サラダ、おにぎり(例、ツナマヨネーズおにぎり、明太子マヨネーズおにぎり等)、サンドイッチ、ホットサンド、ピザ、焼き物(例、グリルチキン、ハンバーグ等)、揚げ物(例、フライ、さつま揚げ等)、炒め物(例、海老のマヨネーズ炒め等)、煮物、蒸し物、ソース類(例、タルタルソース、パスタソース等)等が挙げられる。本発明の製造方法によって得られる食品は、水中油型乳化組成物そのものであってもよい。
本発明において「食品」は、経口で摂取し得るものを広く包含する概念であり、飲料や調味料等も包含される。
【0040】
本発明は、水中油型乳化組成物が凍結され、解凍されたものであっても、その分離を抑制し得ることから、本発明の製造方法によって得られる食品は、冷凍食品であってよい。本発明の製造方法によって得られる食品を凍結する方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で行い得る。冷凍温度は、通常-15℃以下であり、好ましくは-18℃以下である。本発明の製造方法によって得られる食品の凍結物の解凍方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、電子レンジ加熱、オーブン加熱、過熱水蒸気加熱、自然解凍等)又はそれに準ずる方法で行い得る。
【0041】
本発明の製造方法によれば、水中油型乳化組成物を含有し、当該水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品を得ることができる。当該食品は、水中油型乳化組成物が水性液を加えられた場合、水中油型乳化組成物が加熱された場合、又は水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制されていることが好ましく、これらのいずれの場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制されていることがより好ましい。
本発明において「水中油型乳化組成物の分離が抑制されている」とは、水中油型乳化組成物を構成する水相原料と油相原料とが分離することなく、水中油型の乳化状態が維持されていることをいう。水中油型乳化組成物の分離が抑制されているか否かは、目視によって確認すればよい。
【0042】
(本発明の食品)
本発明は、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質及び水中油型乳化組成物を含有する食品(本明細書において「本発明の食品」と称する場合がある)も提供する。
【0043】
本発明の食品に含有されるたん白質(例、ゼラチン、カゼイン若しくはその塩等)、水中油型乳化組成物は、いずれも本発明の製造方法(上述)に用いられ得るものと同様のものを用いることができ、好ましい態様も同様である。
【0044】
本発明の食品が、トランスグルタミナーゼ処理されたゼラチンを含有する場合、トランスグルタミナーゼ処理されたゼラチンの含有量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは5重量部以上であり、より好ましくは10重量部以上であり、特に好ましくは12重量部以上である。またトランスグルタミナーゼ処理されたゼラチンの含有量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは25重量部以下であり、特に好ましくは20重量部以下である。
【0045】
本発明の食品が、トランスグルタミナーゼ処理されたカゼイン若しくはその塩を含有する場合、トランスグルタミナーゼ処理されたカゼイン若しくはその塩の含有量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは1重量部以上であり、より好ましくは3重量部以上であり、特に好ましくは5重量部以上である。またトランスグルタミナーゼ処理されたカゼイン若しくはその塩の含有量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは15重量部以下であり、より好ましくは12重量部以下であり、特に好ましくは10重量部以下である。
【0046】
本発明の食品に含有されるたん白質のトランスグルタミナーゼ処理に用いられるトランスグルタミナーゼは、本発明の製造方法(上述)に用いられるものと同様のものを用いることができ、好ましい態様や使用量も同様である。トランスグルタミナーゼ処理の処理時間は使用するトランスグルタミナーゼ製剤の種類等に応じて適宜調整すればよく特に制限されないが、通常30秒間~120分間、好ましくは1~60分間であり、処理温度は通常0~50℃、好ましくは5~30℃である。
【0047】
本発明の食品は、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質及び水中油型乳化組成物に加えて、増粘剤を更に含有してよい。本発明の食品は、増粘剤を含有することにより、なめらかな好ましい食感となり得る。
本発明の食品に含有され得る増粘剤は、本発明の製造方法(上述)に用いられ得るものと同様のものを用いることができ、好ましい態様も同様である。
【0048】
本発明の食品が、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質及び水中油型乳化組成物に加えて、増粘剤を更に含有する場合、当該増粘剤の量は、本発明の食品に含有される水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上であり、より好ましくは1重量部以上であり、特に好ましくは1.5重量部以上である。また当該増粘剤の量は、本発明の食品に含有される水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは5重量部以下であり、より好ましくは3重量部以下であり、特に好ましくは2重量部以下である。ここで当該増粘剤の量には、水中油型乳化組成物が元から増粘剤を含む場合、水中油型乳化組成物増粘剤の量は含まれない。
【0049】
本発明によれば、水中油型乳化組成物が水性液(例、水等)を加えられたものであっても、その分離を抑制し得ることから、本発明の食品は、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質及び水中油型乳化組成物に加えて、水性液を更に含有してよい。
【0050】
本発明の食品が、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質及び水中油型乳化組成物に加えて、水性液を更に含有する場合、当該水性液の量は、本発明の食品に含有される水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは150重量部以下であり、より好ましくは120重量部以下であり、特に好ましくは110重量部以下である。当該水性液の量の下限は特に制限されない。ここで当該水性液の量には、水中油型乳化組成物に元から含まれる水の量は含まれない。
【0051】
本発明の食品が、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質及び水中油型乳化組成物に加えて、水性液として水を更に含有する場合、更に含有する水と水中油型乳化組成物に元から含まれる水との合計量は、本発明の食品に含有される水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは200重量部以下であり、より好ましくは150重量部以下である。また、この場合、更に含有する水と水中油型乳化組成物に元から含まれる水との合計量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは20重量部以上であり、より好ましくは25重量部以上である。
【0052】
本発明の食品は、水中油型乳化組成物を原材料として含み得るものであれば特に制限されないが、その具体例としては、本発明の製造方法によって得られる食品の具体例と同様の食品が挙げられる。本発明の製造方法によって得られる食品は、水中油型乳化組成物そのものであってもよい。
【0053】
本発明によれば、水中油型乳化組成物が加熱されたものであっても、その分離を抑制し得ることから、本発明の食品は、加熱済み食品であってよい。本発明の食品を加熱する方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、電子レンジ加熱、オーブン加熱、過熱水蒸気加熱、蒸し加熱、焼き加熱、レトルト加熱等)又はそれに準ずる方法で行い得る。加熱温度は、加熱方法、加熱時間等に応じて調整されるが、通常40~120℃であり、好ましくは60~90℃である。加熱時間は、加熱方法、加熱温度等に応じて調整されるが、通常5秒間~60分間であり、好ましくは10秒間~30分間である。
【0054】
本発明によれば、水中油型乳化組成物が凍結され、解凍されたものであっても、その分離を抑制し得ることから、本発明の食品は、冷凍食品であってよい。本発明の食品を凍結する方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で行い得る。冷凍温度は、通常-15℃以下であり、好ましくは-18℃以下である。本発明の食品の凍結物の解凍方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、電子レンジ加熱、オーブン加熱、過熱水蒸気加熱、自然解凍等)又はそれに準ずる方法で行い得る。
【0055】
本発明の食品は、上述の本発明の製造方法によって得ることができる。
【0056】
本発明の食品は、含有する水中油型乳化組成物の分離を抑制し得る。本発明の食品は、水中油型乳化組成物が水性液を加えられた場合、水中油型乳化組成物が加熱された場合、又は水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制されていることが好ましく、これらのいずれの場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制されていることがより好ましい。
【0057】
(本発明の分離抑制方法)
本発明は、トランスグルタミナーゼ及びたん白質を、水中油型乳化組成物と混合することを含む、水中油型乳化組成物の分離抑制方法(本明細書において「本発明の分離抑制方法」と称する場合がある)も提供する。
本発明の分離抑制方法におけるトランスグルタミナーゼ及びたん白質と、水中油型乳化組成物との混合は、上述の本発明の製造方法と同様に行うことができ、好ましい態様も同様である。
【0058】
本発明の分離抑制方法は、増粘剤を水中油型乳化組成物に加えること、水性液を水中油型乳化組成物に加えること、トランスグルタミナーゼ及びたん白質と、水中油型乳化組成物との混合物を加熱又は凍結することを、更に含んでよい。これらの各工程は、上述の本発明の製造方法と同様に行うことができ、好ましい態様も同様である。また本発明の分離抑制方法は、本発明の目的を損なわない限り、これら以外の処理工程を更に含んでもよい。
【0059】
本発明の分離抑制方法によれば、水中油型乳化組成物の分離を抑制することができる。本発明の分離抑制方法は、好ましくは、水中油型乳化組成物が水性液を加えられた場合、水中油型乳化組成物が加熱された場合、又は水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合にも、水中油型乳化組成物の分離を抑制し得、より好ましくは、これらのいずれの場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制し得る。
【0060】
(本発明の分離抑制剤)
本発明は、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質を含有する、水中油型乳化組成物の分離抑制剤(本明細書において「本発明の分離抑制剤」と称する場合がある)も提供する。
【0061】
本発明の分離抑制剤に含有されるたん白質(例、ゼラチン、カゼイン若しくはその塩等)は、いずれも本発明の製造方法(上述)に用いられ得るものと同様のものを用いることができ、好ましい態様も同様である。
【0062】
本発明の分離抑制剤が、トランスグルタミナーゼ処理されたゼラチンを含有する場合、トランスグルタミナーゼ処理されたゼラチンの添加量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは5重量部以上であり、より好ましくは10重量部以上であり、特に好ましくは12重量部以上である。またトランスグルタミナーゼ処理されたゼラチンの添加量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは25重量部以下であり、特に好ましくは20重量部以下である。本発明の分離抑制剤は、トランスグルタミナーゼ処理されたゼラチンの添加量が上記の量となるように、水中油型乳化組成物に添加されることが好ましい。
【0063】
本発明の分離抑制剤が、トランスグルタミナーゼ処理されたカゼイン若しくはその塩を含有する場合、トランスグルタミナーゼ処理されたカゼイン若しくはその塩の添加量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは1重量部以上であり、より好ましくは3重量部以上であり、特に好ましくは5重量部以上である。またトランスグルタミナーゼ処理されたカゼイン若しくはその塩の添加量は、水中油型乳化組成物100重量部に対して、好ましくは15重量部以下であり、より好ましくは12重量部以下であり、特に好ましくは10重量部以下である。本発明の分離抑制剤は、トランスグルタミナーゼ処理されたカゼイン若しくはその塩の添加量が上記の量となるように、水中油型乳化組成物に添加されることが好ましい。
【0064】
本発明の分離抑制剤に含有されるたん白質のトランスグルタミナーゼ処理に用いられるトランスグルタミナーゼは、本発明の製造方法(上述)に用いられ得るものと同様のものを用いることができ、好ましい態様や使用量も同様である。トランスグルタミナーゼ処理の処理時間は使用するトランスグルタミナーゼ製剤の種類等に応じて適宜調整すればよく特に制限されないが、通常30秒間~120分間、好ましくは1~60分間であり、処理温度は通常0~50℃、好ましくは5~30℃である。
【0065】
本発明の分離抑制剤の形態は特に制限されず、例えば、固体状(粉末状、顆粒状等を含む)、液体状(スラリー状等を含む)、ゲル状、ペースト状等が挙げられる。
【0066】
本発明の分離抑制剤は、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質のみからなるものであってよいが、これに加えて慣用の基剤をさらに含有するものであってもよい。当該基剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、シクロデキストリン、糖類(例、乳糖、ショ糖、グルコース等)、蛋白質(例、動植物性蛋白質等)、塩類(塩化ナトリウム等)、水、油脂類等が挙げられる。
【0067】
本発明の分離抑制剤は、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質に加えて、増粘剤を更に含有してよい。
本発明の分離抑制剤に含有され得る増粘剤は、本発明の製造方法(上述)に用いられ得るものと同様のものを用いることができ、好ましい態様も同様である。
【0068】
本発明の分離抑制剤が、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質に加えて、増粘剤を更に含有する場合、増粘剤の添加は、本発明の製造方法(上述)が、増粘剤を水中油型乳化組成物に加えることを含む場合の、水中油型乳化組成物に加える増粘剤の量と、同様に設定し得る。
【0069】
本発明の分離抑制剤は、本発明の目的を損なわない限り、トランスグルタミナーゼ処理されたたん白質に加えて、増粘剤の他に、食品用の添加物に通常用いられる成分を更に含有してよく、そのような成分としては、例えば、賦形剤、pH調整剤、酸化防止剤、乳化剤、甘味料(例、砂糖等)、食塩、有機塩類、無機塩類、調味料、酸味料、香辛料、着色料、発色剤等が挙げられる。
【0070】
本発明の分離抑制剤の製造は、自体公知方法又はそれに準ずる方法により行い得る。
【0071】
本発明によれば、水中油型乳化組成物が水性液(例、水等)を加えられたものであっても、その分離を抑制し得ることから、本発明の分離抑制剤は、水性液を加えられた水中油型乳化組成物の分離抑制剤として用いられ得る。
【0072】
本発明の分離抑制剤が、水性液を加えられた水中油型乳化組成物の分離抑制剤として用いられる場合、水中油型乳化組成物に加えられる水性液の量は、本発明の製造方法(上述)が、水性液を水中油型乳化組成物に加えることを含む場合の、水中油型乳化組成物に加える水性液の量と、同様に設定し得る。
【0073】
本発明によれば、水中油型乳化組成物が加熱されたものであっても、その分離を抑制し得ることから、本発明の分離抑制剤は、加熱された水中油型乳化組成物の分離抑制剤として用いられ得る。
【0074】
本発明の分離抑制剤が、加熱された水中油型乳化組成物の分離抑制剤として用いられる場合、水中油型乳化組成物を加熱する方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、電子レンジ加熱、オーブン加熱、過熱水蒸気加熱、蒸し加熱、焼き加熱、レトルト加熱等)又はそれに準ずる方法で行い得る。加熱温度は、加熱方法、加熱時間等に応じて調整されるが、通常40~120℃であり、好ましくは60~90℃である。加熱時間は、加熱方法、加熱温度等に応じて調整されるが、通常5秒間~60分間であり、好ましくは10秒間~30分間である。
【0075】
本発明の分離抑制剤が、凍結された水中油型乳化組成物の分離抑制剤として用いられる場合、水中油型乳化組成物を凍結する方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で行い得る。冷凍温度は、通常-15℃以下であり、好ましくは-18℃以下である。本発明の食品の凍結物の解凍方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、電子レンジ加熱、オーブン加熱、過熱水蒸気加熱、自然解凍等)又はそれに準ずる方法で行い得る。
【0076】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0077】
(試験区1のサンプルの調製)
下表1に示す量の水、ゼラチン、トランスグルタミナーゼ製剤(味の素株式会社製、比活性:0.002U/g)及びキサンタンガムをビーカーに入れ、30~40℃で泡立て器にて10分間混ぜ、その後、ビーカーごと湯煎で加熱しながら、下表1に示す量のマヨネーズ(日本農林規格適合品、味の素株式会社製「味の素KK加工用LL惣菜用マヨネーズ」)を加えて混合し、85℃に達温後、得られた混合物をパウチに充填して、業務用冷凍庫で緩慢凍結し、凍結状態で3日間保管した。
【0078】
【表1】
【0079】
試験区1のサンプル(凍結物)を、パウチから取り出して容器に移した後、電子レンジ加熱(600W)し、その変化を経時的に観察した。
【0080】
試験区1のサンプルは、電子レンジ加熱開始から30秒後に少し柔らかくなり、40~50秒後に溶け始めるが分離せず、完全に解凍した後も分離は確認されなかった。
【0081】
(試験区2のサンプルの調製)
下表2に示す量の水及びマヨネーズ(日本農林規格適合品、味の素株式会社製「味の素KKマヨネーズライトタイプ」)を混合した後、下表2に示す量のトランスグルタミナーゼ製剤(味の素株式会社製、比活性:0.002U/g)、カゼインナトリウム及びキサンタンガムを加えて泡立て器で15~20分間混合した。ここでキサンタンガムは、微量のアルコールで溶解させたものを用いた。得られた混合物を湯煎で85℃、10分間加熱した後、パウチに充填して、業務用冷凍庫で緩慢凍結し、凍結状態で3日間保管した。
【0082】
(試験区3のサンプルの調製)
下表2に示す量の水及びマヨネーズ(日本農林規格適合品、味の素株式会社製「味の素KKマヨネーズライトタイプ」)を混合した後、下表2に示す量のトランスグルタミナーゼ製剤(味の素株式会社製、比活性:0.002U/g)、カゼインナトリウム及びキサンタンガムを加えて泡立て器で15~20分間混合した。ここでキサンタンガムは、微量のアルコールで溶解させたものを用いた。得られた混合物をパウチに充填して、業務用冷凍庫で緩慢凍結し、凍結状態で3日間保管した。
【0083】
【表2】
【0084】
(試験区4のサンプルの調製)
マヨネーズ(日本農林規格適合品、味の素株式会社製「味の素KKマヨネーズライトタイプ」)を、湯煎で85℃、10分間加熱した後、パウチに充填して、業務用冷凍庫で緩慢凍結し、凍結状態で3日間保管した。
【0085】
(試験区5のサンプルの調製)
マヨネーズ(日本農林規格適合品、味の素株式会社製「味の素KKマヨネーズライトタイプ」)をパウチに充填して、業務用冷凍庫で緩慢凍結し、凍結状態で3日間保管した。
【0086】
試験区2~4のサンプル(凍結物)を、それぞれパウチに充填したまま25℃程度の室内に30分間~1時間静置して自然解凍させ、解凍後の各サンプルの状態を観察した。
また試験区2~4のサンプル(凍結物)を、それぞれパウチから取り出して容器に移した後、電子レンジ加熱(600W)し、その変化を経時的に観察した。
【0087】
試験区4及び5のサンプルは、自然解凍させた場合及び電子レンジ加熱した場合のいずれにおいても、水分と油分とが完全に分離し、液状になった。
一方、試験区2及び3のサンプルは、自然解凍させた場合及び電子レンジ加熱した場合のいずれにおいても分離しなかった。食感は、試験区2のサンプルのほうが、試験区3のサンプルに比べて、若干なめらかであった。
試験区2及び3のサンプルは、電子レンジ加熱して完全に解凍した後、更に加熱し続けて過加熱状態としても、マヨネーズに近い物性(とろみ)、食感(なめらかさ)を維持していた。過加熱状態とした試験区2及び3のサンプルに、物性、食感の差違は、ほぼ無かった。
【0088】
以上の結果から明らかなように、トランスグルタミナーゼ及びたん白質(ゼラチン又はカゼイン若しくはその塩)を混合したマヨネーズは、水性液(水)を加えられ、加熱され、かつ、凍結及び解凍されても、マヨネーズの分離が抑制され、本発明によれば、水中油型乳化組成物が水性液を加えられた場合、水中油型乳化組成物が加熱された場合、水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合のいずれにおいても、水中油型乳化組成物の分離を抑制し得ることが示唆された。
また試験区1で使用したマヨネーズ(日本農林規格適合品、味の素株式会社製「味の素KK加工用LL惣菜用マヨネーズ」)は、試験区2~5で使用したマヨネーズ(日本農林規格適合品、味の素株式会社製「味の素KKマヨネーズライトタイプ」)に比べて耐熱性を有するが、本発明によれば、いずれのマヨネーズを用いた場合も分離を抑制し得、本発明の効果は水中油型乳化組成物の性質に拠らないものであることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、水中油型乳化組成物を含有し、当該水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供できる。
本発明によれば、水中油型乳化組成物が水性液(例、水等)を加えられた場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供できる。
本発明によれば、水中油型乳化組成物が加熱された場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供できる。
本発明によれば、水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合にも、水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供できる。
本発明によれば、水中油型乳化組成物が水性液(例、水等)を加えられた場合、水中油型乳化組成物が加熱された場合、水中油型乳化組成物が凍結され、解凍された場合のいずれにおいても、水中油型乳化組成物の分離が抑制されている食品及びその製造方法を提供できる。
また本発明によれば、水中油型乳化組成物の分離抑制方法及び水中油型乳化組成物の分離抑制剤を提供できる。