(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】光送受信器、これを用いた光トランシーバモジュール、及び光送受信器の試験方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/073 20130101AFI20230307BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20230307BHJP
G02F 1/313 20060101ALI20230307BHJP
G02F 1/315 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
H04B10/073
G02B6/12 363
G02F1/313
G02F1/315 A
(21)【出願番号】P 2018204258
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌樹
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533259(JP,A)
【文献】特開平06-082847(JP,A)
【文献】特開2006-178225(JP,A)
【文献】特開2015-055840(JP,A)
【文献】特開2018-042104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
G02B 6/12-6/14
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号光を入
力する入力ポートに接続される
第1導波路と、送信信号光を出力する出力ポートに接続される第2導波路とを含む第1の光導波路と、
外部のテスト用光源で生成されたテスト光を入
力する第3導波路と、前記テスト光を変調した変調テスト光を出力する第4導波路とを含む第2の光導波路と、
光電気変換または電気光変換を行
い、前記変調テスト光を生成する光回路と、
前記光回路
と前記第1
導波路及び前記第3導波路の間に配置されて、前記第
1導波路と前記光回路を接続する第1パスと、前記第
3導波路と前記光回路を接続する第2パスを切り替える
第1の光スイッチと、
前記光回路と前記第2導波路及び前記第4導波路の間に配置されて、前記第2導波路と前記光回路を接続する第3パスと、前記第4導波路と前記光回路を接続する第4パスを切り替える第2の光スイッチと、
を有し、
前記
第1の光スイッチは、前記
第1の光スイッチに
第1電圧が印加されるオン状態で前記第2パスを選択し、前記
第1の光スイッチに
前記第1電圧が印加されないオフ状態で前記第1パスを選択
し、前記第2の光スイッチは、前記第2の光スイッチに第2電圧が印加されるオン状態で前記第4パスを選択し、前記第2の光スイッチに前記第2電圧が印加されないオフ状態で前記第3パスを選択することを特徴とする光送受信器。
【請求項2】
前記
第1の光スイッチ及び前記第2の光スイッチはマッハツェンダ型、ダブルリング型、マルチモード干渉型、または全反射型の光スイッチであることを特徴とする請求項1に記載の光送受信器。
【請求項3】
前記
第1の光スイッチ及び前記第2の光スイッチは、前記オフ状態でクロス出力が選択され、前記オン状態でバー出力が選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の光送受信器。
【請求項4】
前記
第1の光スイッチ及び前記第2の光スイッチには電極パッドが設けられており、前記電極パッドは
前記第2の光導波路を用いた試験後に電気的に短絡されて
前記第1の光スイッチ及び前記第2の光スイッチへの電圧印加をオフにすることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光送受信器。
【請求項5】
前記
第1の光スイッチ及び前記第2の光スイッチのオン電圧は、前記光回路の駆動電圧よりも高く設定されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の光送受信器。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の光送受信器と、
前記光送受信器を収容するパッケージと、
前記パッケージ内に配置される光源と、
前記パッケージ内で前記光送受信器に接続されるデジタル信号プロセッサと、
を有することを特徴とする光トランシーバモジュール。
【請求項7】
ウェハ上の所定の領域に、光回路と、
受信信号光を入
力する入力ポートに接続される
第1導波路と送信信号光を出力する出力ポートに接続される第2導波路とを含む第1の光導波路と、外部のテスト用光源で生成されたテスト光を入
力する第3導波路と前記テスト光を変調した変調テスト光を出力する第4導波路とを含む第2の光導波路と、前記光回路と前記第
1導波路及び前記第3導波路の間に配置され
て前記第1導波路と前記光回路を接続する第1パスと前記第3導波路と前記光回路を接続する第2パスを切り替える第1の光スイッチと、
前記光回路と前記第2導波路及び前記第4導波路の間に配置されて前記第2導波路と前記光回路を接続する第3パスと前記第4導波路と前記光回路を接続する第4パスを切り替える第2の光スイッチと、を有する光送受信器を形成し、
前記
第3導波路を用いて前記テスト光を入力
し、前記第4導波路を用いて前記変調テスト光を出力し、
前記
第1の光スイッチ及び前記第2の光スイッチに電圧を印加してスイッチをオン状態にして、前記第2の光導波路を前記光回路に接続して前記テスト光
及び前記変調テスト光を測定し、
前記測定の後に、前記
第1の光スイッチ及び前記第2の光スイッチに印加される前記電圧をオフにする、
ことを特徴とする光送受信器の試験方法。
【請求項8】
前記電圧をオフにした後に、前記
第1の光スイッチ及び前記第2の光スイッチに設けられている電極を電気的に短絡することを特徴とする請求項7に記載の光送受信器の試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送受信器、これを用いた光トランシーバモジュール、及び光送受信器の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンに代表される情報通信端末の普及、IoT(Internet of Things)技術の進展などにより、大容量の光通信ネットワークへの要求が高まっている。光通信のフロントエンドデバイスとして、光信号を送受信する集積光回路チップ(フォトニックIC)が用いられている。フォトニックICはシリコンフォトニクス技術を用いて作製され、シリコンチップ上に、電気/光変換と光/電気変換を行う種々の光素子が集積されている。
【0003】
シリコンフォトニクス技術で作製される個々のフォトニックICのチップサイズは小さく、一般に300mm径といった大きなウェハで量産される。個々のフォトニックICをチップ状態で試験するのは効率が悪いので、ウェハ上でフォトニックICの試験が行われる。ウェハ上で試験を行う場合、フォトニックICの各チップ領域にグレーティングカプラを設け、光ファイバを用いて、ウェハと垂直な方向でテスト光をグレーティングカプラに入出力する。グレーティングカプラに入力されたテスト光は、方向性光結合器などで光回路の入力導波路にカップリングされ、光回路から出力されるテスト光は方向性光結合器などでグレーティングカプラにカップリングされる。
【0004】
ウェハレベルでテストを行うフォトニックシステム(たとえば、特許文献1参照)や、ウェハ上の任意の箇所にグレーティングカプラを一時的に形成するグレーティングカプラ形成方法(たとえば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2016/016133号
【文献】特開2016-24425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
方向性光結合器は特定の方向に導波する光の一部を別の導波路に結合するものである。方向性光結合器を用いてテスト光を導入または取り出す場合、光回路との間でテスト光の一部しか入出力できず、測定精度が落ちる。また、実際の動作時には、信号光の一部が方向性結合器によって試験用の空きポートに放射され、挿入損失が増える。
【0007】
公知のフォトニックシステムでは、光入出力ポートとグレーティングカプラの間を、1入力2出力、または2入力1出力の光スイッチで切り換えて、試験時と動作時で光パスを切り替えている。しかし、このフォトニックシステムでは、試験時と動作時のそれぞれで光スイッチに制御信号を与えるため、フォトニックICチップの電気出力と光出力を常時モニタして制御信号を決めなければならない。光スイッチを制御するための回路、光出力をモニタするためのタップ及びフォトダイオード(PD)などが必要になり、モジュールサイズと製造コストが増大する。また、タップが増えた分、光出力が減衰する。
【0008】
本発明は、ウェハレベル試験時の測定精度の劣化と、動作時の挿入損失の増大を抑制することのできる光送受信器の構成と、試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの態様では、光送受信器は、
信号光の入出力ポートに接続される第1の光導波路と、
テスト光を入出力する第2の光導波路と、
光電気変換または電気光変換を行う光回路と、
前記光回路と、前記第1の光導波路及び前記第2の光導波路の間に配置されて、前記第1の光導波路と前記光回路を接続する第1パスと、前記第2の光導波路と前記光回路を接続する第2パスを切り替える光スイッチと、
を有し、
前記光スイッチは、前記光スイッチに電圧が印加されるオン状態で前記第2パスを選択し、前記光スイッチに電圧が印加されないオフ状態で前記第1パスを選択する。
【発明の効果】
【0010】
光送受信器のウェハレベル試験時の測定精度の低下が抑制され、動作時の挿入損失の増大が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】実施形態の光送受信器の基本構成を示す図であり、試験時の状態を示す図である。
【
図1B】実施形態の光送受信器の基本構成を示す図であり、動作時の状態を示す図である。
【
図2】実施形態で用いられる光スイッチの構成例を示す図である。
【
図3】実施形態の光送受信器の変形例を示す図である。
【
図4】実施形態の光送受信器の別の変形例を示す図である。
【
図5】実施形態の光送受信器のさらに別の変形例を示す図である。
【
図6】実施形態の光送受信器の試験方法のフローチャートである。
【
図7】試験時と動作時の光パス切り替え用の光スイッチと、光回路内で用いられる光スイッチを比較して示す図である。
【
図8】実施形態の光送受信器のさらに別の変形例を示す図である。
【
図10】光送受信器を用いた光トランシーバモジュールの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態では、ウェハ上で光送受信器の試験を行う際に、テスト光の損失を抑制して測定精度を維持し、チップ化された光送受信器の動作時には挿入損失の増大を抑制する。これを実現するために、試験時にテスト光を入出力する光パスと、動作時に信号光を入出力する光パスとを切り替える光スイッチの構成を工夫する。
【0013】
図1Aは、実施形態の光送受信器10のウェハレベルでの試験時の状態を示す図、
図1Bは、チップ化された光送受信器10の動作時の状態を示す図である。
【0014】
光送受信器10は、基板101上に、光回路11と、光スイッチ13と、複数の光導波路を有する。光回路11には、合分波器、光変調器、90°ハイブリッド光ミキサなど、基板101上に形成された種々の光素子が集積されており、光電気変換と電気光変換を行う。光回路11が形成された基板101を、フォトニックICと呼んでもよい。
【0015】
基板101には、信号光の光入力ポートPinと、信号光の光出力ポートPoutと、テスト光の入力インタフェースであるグレーティングカプラ(以下、「GC」と称する)14と、テスト光の出力インタフェースであるGC16が設けられている。光入力ポートPinから受信側の第1の光導波路121が延び、GC14から受信側の第2の光導波路122が延びている。光出力ポートPoutから送信側の第1の光導波路123が延び、GC16から送信側の第2の光導波路124が延びている。
【0016】
光入力ポートPinと光出力ポートPoutの構成に限定はなく、基板101の端面に露出する第1の光導波路121、123の端面であってもよいし、第1の光導波路121、123に接続されるスポットサイズコンバータ(SSC)が設けられていてもよい。
【0017】
テスト光の入出力インタフェースの構成にも限定はなく、GC以外にも、ミラー、斜め導波路など、テスト光をウェハ状態で第2の光導波路122,124と外部の光ファイバの間で結合させることのできる任意の構成をとることができる。
【0018】
光回路11と、光入力ポートPin及びGC14の間に、光スイッチ13Rが配置されている。光回路11と、光出力ポートPout及びGC16の間に、光スイッチ13Tが配置されている。この例では、光スイッチ13Rと光スイッチ13Tはマッハツェンダ干渉計型の構成をとっているが、後述するように光スイッチ13の構成はこの例に限定されない。
【0019】
光スイッチ13Rは、光カプラ133rと134rの間に延びる2本の光導波路131r、132rで形成される。光スイッチ13Rの第1入力は、受信側の第1の光導波路121に接続され、第2入力は、GC14から延びる第2の光導波路122に接続されている。光スイッチ13Rの出力は光導波路126によって光回路11に接続される。光カプラ133rから延びるもうひとつの光導波路127は、どこにも接続されない。
【0020】
光スイッチ13Tは、光カプラ133tと134tの間に延びる2本の光導波路131t、132tで形成される。光スイッチ13Tの第1出力は、送信側の第1の光導波路123に接続され、第2出力は、GC16へと延びる第2の光導波路124に接続されている。光スイッチ13Tの入力は、光導波路128によって光回路11の出力に接続されている。光カプラ133tから延びるもうひとつの光導波路128は、どこにも接続されていない。
【0021】
光スイッチ13Rには電極パッド18rと電極パッド19rが設けられ、光スイッチ13Rへの電圧の印加が可能である。実施形態の特徴として、光スイッチ13Rに電圧が印加された状態(ON状態)で、GC14から入力されるテスト光が光回路11に入射し、光スイッチ13Rに電圧が印加されない状態(OFF状態)で、光入力ポートPinから入力される受信光信号が光回路11に入射する。
【0022】
同様に、光スイッチ13Tには電極パッド18tと電極パッド19tが設けられ、光スイッチ13Tへの電圧の印加が可能である。光スイッチ13Tに電圧が印加された状態(ON状態)で、光回路11から出力されるテスト光はGC16に接続される。光スイッチ13Tに電圧が印加されない状態(OFF状態)で、光回路11から出力される送信光信号が光出力ポートPoutに接続される。
【0023】
図1Aは、チップに切断される前の状態を示しており、光送受信器10はウェハ上の所定の領域に形成されている。ウェハ状態で試験を行うときに、光スイッチ13Rと光スイッチ13Tに電圧が印加される。
【0024】
光源31から出力されるテスト光は、光ファイバ21によってGC14に入力される。光スイッチ13Rには電圧が印加されており(ON状態)、GC14から延びる第2の光導波路122で形成される光パスが、光回路11に接続される。電圧ON時に光スイッチ13Rによって接続されるテスト光の光パスを、第2の光パスとする。
【0025】
テスト光は光回路11に入力され、外部から光回路11に供給される高速の駆動信号で変調されて、変調テスト光が光回路11から出力される。光スイッチ13Tに電圧が印加されており、変調テスト光は送信側の第2の光導波路124に導波する。光スイッチ13Tにより接続されるテスト光の光パスを、第2の光パスとする。変調テスト光は、GC16から出力され、光ファイバ22を伝搬してパワーメータ32で測定される。
【0026】
光源31からのテスト光として連続光を光回路11に入力することの他に、所定のパターンのテスト用のデータ信号をGC14から光回路11に入力してもよい。この場合も、光スイッチ13Rには電圧が印加されてオン状態となっている。光回路11で復調されて出力される電気信号をモニタして、光回路11の受信動作を試験してもよい。
【0027】
図1Bでは、光送受信器10は、チップに切断された後の状態であり、実際に光信号の送受信が行われる。光スイッチ13Rと光スイッチ13Tには電圧が印加されておらず、OFF状態となっている。光スイッチ13R及び13Tに電圧が印加されないOFF状態で光回路11と光導波路121及び123の間に形成される光パスを、第1の光パスとする。光スイッチ13Rに設けられた電極パッド18rと19rは、ボンディングワイヤ35rによって短絡されている。光スイッチ13Tに設けられた電極パッド18tと19tは、ボンディングワイヤ35tによって短絡されている。
【0028】
動作時に、電極パッド18r、19r、18t、及び19tを解放状態にしておくと、光回路11に入力される高周波の駆動信号の一部がクロストークとなって、光スイッチ13Rの電極パッド18r、19r、あるいは光スイッチ13Tの電極パッド18t、19tに入り込んで、ノイズの原因となり得る。そこで、試験終了後に電極パッド18r、18t、19r、及び19tをワイヤボンディングによって電気的に短絡する。
【0029】
光スイッチ13Rの電極パッド18r、19rと、光スイッチ13Tの電極パッド18t、19tは、試験後にワイヤボンディングが可能になる程度に大きく形成しておくのが望ましい。電極パッド18r、18t、19r、19tを大きくすることで、試験時に光スイッチ13R、13Tに電圧を印加するためのプローブピンの接触も容易になる。
【0030】
ノイズ耐性を上げるために、光スイッチ13R、13Tの駆動電圧を、光回路11に入力される入力電気信号の電圧よりも大きく設定してもよい。このように設定することで、たとえば、光回路11に入力される高速駆動信号の光スイッチ13へのクロストークが-40dBであった場合、光スイッチ13の出力光に発生するノイズを-40dB以下に抑えることができる。
【0031】
図2は、光送受信器10で用いられる光スイッチ13の構成例を示す図である。光スイッチ13は、長さの等しい2本の導波路131、132を有するマッハツェンダ型のスイッチである。導波路131と導波路132で形成される光スイッチ13は、たとえば2入力2出力の光カプラ133と134によって、それぞれ2本の入力導波路と2本の出力導波路に接続されている。
【0032】
導波路131には電極141が設けられ、導波路132には電極142が設けられている。電極141は配線143によって電極パッド18に電気的に接続されている。電極142は配線144によって電極パッド19に電気的に接続されている。
【0033】
マッハツェンダ型の光スイッチ13の2本の導波路131と132の長さと幅、及び屈折率が同じ場合、電圧印加のないOFF状態では、波長にかかわらずクロス出力が得られる。一方の入力導波路から2入力2出力の光カプラ134に入射した光は、ほぼ同じ強度の2つの光に分岐されて、光スイッチ13の導波路131と導波路132を伝搬する。導波路131と導波路132を伝搬した光は、2入力2出力の光カプラ133で合波されてクロス出力側に結合する。
【0034】
光スイッチ13に電圧が印加されると、印加の仕方によって、導波路131と導波路132の少なくとも一方の屈折率が変化し、導波路131と導波路132の伝搬定数差が変化する。2つの光の干渉作用が変化して、光カプラ133で合波された光は、バー出力側に結合する。
【0035】
この構成により、動作時は光スイッチ13に電圧を印加せずにクロス出力を取得し、試験時には光スイッチ13に電圧を印加してバー出力を得ることで、消光比の高い光スイッチが実現される。試験時は、光スイッチ13のバー出力からテスト光のほとんどが光回路11に入射するので、測定精度を高く維持することができる。動作時にも、光スイッチ13のクロス出力から、受信信号光のほとんどが光回路11に入射するので、挿入損失が抑制される。
【0036】
<変形例1>
図3は、
図1Aと
図1Bの変形例である光送受信器10Aの模式図である。図示の便宜上、光スイッチ13Rと13Tの光導波路131、132に設けられる電極141,142は省略されている。光送受信器10Aでは、光スイッチ13Rへの電圧印加に用いられる電極パッド18r、19r、及び光スイッチ13Tへの電圧印加に用いられる電極パッド18t、19tが、互いに隣接して一列に配置され、試験後に電極パッド間が導電性接着剤41で短絡されている。
【0037】
試験時には、導電性接着剤41は適用されておらず、電極パッド18rと19rから光スイッチ13Rに電圧が印加され、電極パッド18tと19tから光スイッチ13Tに電圧が印加される。電圧印加により、GC14から入力されるテスト光が光回路11に導かれ、光回路11からの出力テスト光がGC16から取り出される。
【0038】
導電性接着剤41の層が形成された後は、光スイッチ13Rと光スイッチ13Tには電圧が印加されず、OFF状態となる。光入力ポートPinからの入力される受信信号光が光回路11に入力され、光回路11で生成された信号光が、光出力ポートPoutから出力される。このとき、光回路11に入力される高速の駆動信号がクロストークとなって電極パッド18r、18t、19r、19tに入り込むことが抑制され、光信号の品質の劣化を防止することができる。
【0039】
図3の構成は、ワイヤボンディングが不要になり、電極を配置するための面積を低減することができる。
【0040】
<変形例2>
図4は、さらに別の変形例として、光送受信器10Bを示す。光送受信器10Bでは、光回路11が形成された基板101は、グランド端子203とともにパッケージ201内に配置される。基板101上に一列に配置された電極パッド18r、18t、19r、19tのそれぞれ、ボンディングワイヤ235によってグランド端子203に接続されている。
【0041】
グランド端子203は、インタポーザ基板、パッケージ基板、キャリア等の基板202上に設けられている。光スイッチ13Rと13Tの動作は、
図1A及び
図1Bを参照して説明したとおりである。すなわち、光送受信器10Bの動作時には光スイッチ13Rと13Tには電圧が印加されず、光入力ポートPinと光出力ポートPoutが光回路11に接続され、GC14とGC16は用いられない。
図4の構成例でも、電圧印加がない状態で、光スイッチ13Rと13Tのクロス出力が光回路11に接続されて、高い消光比で試験時の測定精度を維持し、動作時の挿入損失を低減している。グランド端子203を用いることで、光信号へのノイズの影響をより確実に防止することができる。
【0042】
<変形例3>
図5は、さらに別の変形例として、光送受信器10Cを示す。光送受信器10Cでは、
光スイッチ13Rの電極パッド18r、19rと、光スイッチ13Tの電極パッド18t、19tは、グランドパッド108とともに、互いに隣接して一列に配置される。電極パッド18r、18t、19r、19tは、導電性接着剤でグランドパッド108に電気的に接続されている。グランドパッド108は、基板202に設けられたグランド端子203にボンディングワイヤ235で接続されている。
【0043】
電極パッド18、19の数が多い場合は、
図5の構成が有利である。電極パッドを導電性接着剤41でグランドパッド108に接続し、グランドパッド108をグランド端子203に接続することで、ボンディングワイヤの数を低減し、かつ、光スイッチ13Rの電極パッド18r、19rと、光スイッチ13Tの電極パッド18t、19tを確実に短絡することができる。
【0044】
<試験方法>
図6は、光送受信器10の試験方法のフローチャートである。試験は、
図1Aのようにウェハ状態で行われる。ウェハの所定の領域に、光回路11、光スイッチ13、光導波路121、122、123、124等を有する光送受信器10が形成されている。
【0045】
光スイッチ13に電圧を印加して、テスト光をGC14から光回路11に入力し、または光回路11からの出力テスト光をGC16から取り出す(S11)。光スイッチ13への印加電圧は、光回路11の駆動電圧よりも大きく設定されていてもよい。
【0046】
電圧印加下で、テスト結果をモニタする(S12)。より具体的には、GC16から取り出された出力テスト光を、パワーメータ32で測定する。あるいは、光回路11から出力される復調電気信号を測定してもよい。
【0047】
試験後に、光スイッチ13への電圧印加をオフにする(S13)。光送受信器10の実際の動作時には光スイッチ13への電圧の印加はないので、試験の終了後は、光スイッチ13に設けられた電極パッド18、19を電気的に短絡するのが望ましい(S14)。
【0048】
この試験方法により、試験時にテスト光の損失を抑制して測定精度を維持することができる。また、動作時の挿入損失の増大を抑制し、光信号へのノイズの影響を防止することができる。
【0049】
<その他の変形例>
図7は、光スイッチ13の駆動電圧を光回路11の駆動電圧よりも大きくするときの構成例を示す。上述のように、光回路11に入力される高周波の電気駆動信号の光スイッチ13へのクロストークを低減するために、光スイッチ13の駆動電圧を、光回路11の駆動電圧よりも大きく設定するのが望ましい。これを実現するために、たとえば、光スイッチ13の電極長L1を、光回路11内の光スイッチの電極長L2よりも小さくする。光回路11内のスイッチは、たとえば、光変調器や光路を切り替えるスイッチ等を含む。
【0050】
光スイッチの駆動電圧は電極長に反比例するので、たとえば、試験用の光パスを切り換える光スイッチ13の電極長L1を、光回路11内の光スイッチの電極長L2の半分にすることで、光スイッチ13の駆動電圧を2倍にすることができる。
【0051】
図8は、光送受信器10のさらに別の変形例として光送受信器10Dの構成を示す。
図3~
図5では、チップに切断された光送受信器10の表面にGC14、16が残されていたが、必ずしもチップ化された光送受信器10にGC14,16がなくてもよい。
【0052】
図8のように、ウェハの状態でチップ領域を区画するスクライブラインの一部を拡張して、破線で示すスクライブライン領域にGCを形成してもよい。この場合、ウェハレベルの試験時には、光スイッチ13Rと13Tに電圧を印加してオン状態し、スクライブ領域に形成されたGCを用いて光ファイバでテスト光を入出力する。
【0053】
試験終了後は、光スイッチ13Rと13Tに印加される電圧をオフにして、ウェハを各チップに切断する。このとき、スクライブ領域に形成されたGCは切り離される。切断後の状態で、光スイッチ13Rの入力側に接続される光導波路121と122のうち、光導波路121は光入力ポートPinに接続され、試験に用いられた光導波路122はチップの端面に露出する。
【0054】
同様に、光スイッチ13Tの出力側に接続される光導波路123と124のうち、光導波路123は光出力ポートPoutに接続され、試験に用いられた光導波路124はチップの端面に露出する。
【0055】
光スイッチ13Rと13Tは、一例としてマッハツェンダ型の光スイッチであり、電圧印加がオフのときは、光導波路121に入力された受信光信号のほとんどは光スイッチ13Rのクロス出力側に結合し、送信光信号のほとんどはクロス出力側の光導波路123側に結合する。したがって、光導波路122と124のチップ端面での反射の影響はほとんどないか、無視できる程度である。
【0056】
図9は、光スイッチ13の変形例を示す。上述した構成例では、マッハツェンダ型の光スイッチを用いたが、その他のスイッチ構成を採用してもよい。
【0057】
図9の(A)は、ダブルリング型の光スイッチ13Aである。2本の光導波路WG1とWG2の間に径の異なるリング135とリング136が直列に配置されている。リング135とリング136の周長と間隔、光導波路WG1とリング135の結合長と間隔、リング136と光導波路WG2の結合長と間隔等は、光スイッチ13Aに電圧が印加されない状態で、光導波路WG1に入力された光のほぼすべてが光導波路WG2に結合するように設計されている。
【0058】
すなわち、光導波路WG1を伝搬する光のほぼすべてがリング135に結合して周回する。リング135を周回する光が別のモードでリング136の共振条件を満たすようになると、リング136に結合する。リング136を周回する光が光導波路WG2の共振条件に一致すると、光導波路WG2に結合し、光の入力方向と同じ方向に出力される(出力2)。
【0059】
試験時に、光スイッチ13Aに電圧が印加されると、リング135とリング136の屈折率が変化して共振条件が変化し、WG1に入力された光は、リング135に結合しないで直進する(出力1)。
【0060】
この構成によっても、試験時に、ほぼすべてのテスト光を光回路11との間で入出力して測定精度を維持し、動作時には、ほぼすべての信号光を光入力ポートPin及び光出力ポートPoutと光回路11との間で入出力して、挿入損失の増大を抑制することができる。光スイッチ13Aは、単一波長の光を用いる場合に好適に用いられる。
【0061】
図9の(B)は、マルチモード干渉(MMI:multimode interference)型の光スイッチ13Bである。光スイッチ13Bは、電圧が印加されていない状態で、入力導波路から入力された光がスラブ導波路137を多数の励振モードで反射しながら伝搬し、Lsの位置でモード間の位相差がπとなって、反転したプロファイルで出力1の出力導波路に結像するように設計されている。
【0062】
試験時に、光スイッチ13Bに電圧が印加されると、屈折率が変化してスラブ導波路137の実効長Lsがたとえば2倍に変化し、モード間の位相差が2πになって、入射プロファイルと同じプロファイルで、出力2の出力導波路に結像する。
【0063】
この構成によっても、試験時に、ほぼすべてのテスト光を光回路11との間で入出力して測定精度を維持し、動作時には、ほぼすべての信号光を光入力ポートPin及び光出力ポートPoutと光回路11との間で入出力して、挿入損失の増大を抑制することができる。光スイッチ13Bは、単一波長の光を用いる場合に好適に用いられる。
【0064】
図9の(C)は、全反射型の光スイッチ13Cである。光スイッチ13Cに電圧が印加されていない状態で、入力光は交差部139をそのまま透過して、クロス側の出力1となる。光スイッチ13Cの交差部139に電圧が印加されると、交差部139の屈折率が変化(低下)し、入射光が全反射してバー側の出力2となる。
【0065】
この構成によっても、試験時に、ほぼすべてのテスト光を光回路11との間で入出力して測定精度を維持し、動作時には、ほぼすべての信号光を光入力ポートPin及び光出力ポートPoutと光回路11との間で入出力して、挿入損失の増大を抑制することができる。光スイッチ13Cは、波長にかかわらず損失を抑制することができる。
【0066】
<光送受器の適用例>
図10は、実施形態の光送受信器10の適用例である光トランシーバモジュール100の模式図である。光トランシーバモジュール100は、パッケージ120内に、光送受信フロントエンド回路チップである光送受信器10と、光源(「LD」と表記)150と、デジタル信号プロセッサ(「DSP」と表記)160が配置されている。
【0067】
光送受信器10は、
図3~
図5のようにチップ用のパッケージ201に収容されて、光スイッチ13の電極パッドがグランド端子に短絡されていてもよい。また、チップ用のパッケージ201内で、グランド端子が設けられる中継基板に、光回路11を駆動するドライバ回路や、光回路11から出力される光電流を電圧に変換するトランスインピーダンス増幅(TIA)回路が形成された電子回路チップが搭載されていてもよい。
【0068】
光トランシーバモジュール100で用いられる光送受信器10は、ウェハ状態で送受信の特性が検査されており、かつ光スイッチ13を用いて試験時の光損失と、動作時の挿入損失が抑制されているので、低損失で高品質の光トランシーバが実現される。
【0069】
上述した実施形態は一例であり、種々の変形が可能である。たとえば、テスト光の入出力インタフェースとしてのGCの数は2個に限定されず、テスト用のデータ信号を入力する第3のGCを形成してもよい。この場合は、第3のGCから入力されるテスト用のデータ信号はそのまま光回路11に入力され、GC14から入力されるテスト光を局発光として用いてテスト信号を検波してもよい。
【0070】
この場合、第3のGCを含めた複数のGCを、基板101のエッジの近傍に一列に配置してもよい。このような配置をとることで、ファイバアレイを用いた試験・評価が容易になる。また、複数のGCのピッチを光入出力ポートの配列ピッチよりも狭くすることで、狭ピッチのファイバアレイを用いることができ、調芯が容易になる。
【0071】
以上の説明に対し、以下の付記を呈示する。
(付記1)
信号光の入出力ポートに接続される第1の光導波路と、
テスト光を入出力する第2の光導波路と、
光電気変換または電気光変換を行う光回路と、
前記光回路と、前記第1の光導波路及び前記第2の光導波路の間に配置されて、前記第1の光導波路と前記光回路を接続する第1パスと、前記第2の光導波路と前記光回路を接続する第2パスを切り替える光スイッチと、
を有し、
前記光スイッチは、前記光スイッチに電圧が印加されるオン状態で前記第2パスを選択し、前記光スイッチに電圧が印加されないオフ状態で前記第1パスを選択することを特徴とする光送受信器。
(付記2)
前記光スイッチはマッハツェンダ型、ダブルリング型、マルチモード干渉型、または全反射型の光スイッチであることを特徴とする付記1に記載の光送受信器。
(付記3)
前記光スイッチは、前記オフ状態でクロス出力が選択され、前記オン状態でバー出力が選択されることを特徴とする付記1または2に記載の光送受信器。
(付記4)
前記光スイッチには電極パッドが設けられており、前記電極パッドは電気的に短絡されていることを特徴とする付記1~3のいずれかに記載の光送受信器。
(付記5)
前記光スイッチの前記電極パッドはワイヤボンディングにより短絡されることを特徴とする付記4に記載の光送受信器。
(付記6)
前記光スイッチに複数の前記電極パッドが設けられ、複数の前記電極パッドは互いに隣接して配列され、導電性接着剤で短絡されていることを特徴とする付記4に記載の光送受信器。
(付記7)
グランド端子が設けられた基板、
をさらに有し、
前記光スイッチの前記電極パッドは前記グランド端子に接続されていることを特徴とする付記4に記載の光送受信器。
(付記8)
前記光スイッチの前記電極パッドに隣接して配置されるグランドパッドと、
グランド端子が形成された基板と、
をさらに有し、
前記電極パッドと前記グランドパッドは導電性接着剤で接続されており、前記グランドパッドと前記グランド端子はワイヤボンディングで接続されていることを特徴とする付記4に記載の光送受信器。
(付記9)
前記光スイッチのオン電圧は、前記光回路の駆動電圧よりも高く設定されていることを特徴とする付記1~8のいずれか記載の光送受信器。
(付記10)
前記光スイッチの電極長は、前記光回路で用いられるスイッチの電極長よりも短いことを特徴とする付記9に記載の光送受信器。
(付記11)
付記1~10のいずれかに記載の光送受信器と、
前記光送受信器を収容するパッケージと、
前記パッケージ内に配置される光源と、
前記パッケージ内で前記光送受信器に接続されるデジタル信号プロセッサと、
を有することを特徴とする光トランシーバモジュール。
(付記12)
ウェハ上の所定の領域に、光回路と、信号光の入出力ポートに接続される第1の光導波路と、テスト光を入出力する入出力インタフェースに接続される第2の光導波路と、前記光回路と前記第1の光導波路及び前記第2の光導波路の間に配置される光スイッチとを有する光送受信器を形成し、
前記入出力インタフェースを用いて前記テスト光を入出力し、
前記光スイッチに電圧を印加してスイッチをオン状態にして、前記第2の光導波路を前記光回路に接続して前記テスト光を測定し、
前記測定の後に、前記光スイッチに印加される前記電圧をオフにする、
ことを特徴とする光送受信器の試験方法。
(付記13)
前記電圧をオフにした後に、前記光スイッチに設けられている電極パッドを電気的に短絡することを特徴とする付記12に記載の光送受信器の試験方法。
【符号の説明】
【0072】
10、10A~10D 光送受信器
11 光回路
13、13A~13C 光スイッチ
13R 受信側の光スイッチ
13T 送信側の光スイッチ
14、16 グレーティングカプラ(入出力インタフェース)
18、18r、18t、19、19r、19t 電極パッド
35、35r、35t、235 ボンディングワイヤ
41 導電性接着剤
100 光トランシーバモジュール
108 グランドパッド
121、122、123、124 光導波路
131、131r、131t、132、132r、132t 光スイッチの光導波路
133、133r、133t、134、134r、134t 光カプラ
141、142 電極
143、144 配線
203 グランド端子