(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20230307BHJP
【FI】
A63B37/00 122
A63B37/00 140
(21)【出願番号】P 2018237054
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐嶌 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】田窪 敏之
【審査官】早川 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-155013(JP,A)
【文献】米国特許第04830378(US,A)
【文献】特開昭63-309282(JP,A)
【文献】特開2005-192951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00-47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のディンプルを有するゴルフボールであって、
上記ゴルフボールの表面が三角形の形状を有する複数の仮想平面で覆われており、
それぞれの仮想平面に対応して一又は複数のディンプルが配置されており、
上記仮想平面は上記ゴルフボールの仮想球に内接するジオデシック多面体の面であって、
各ディンプルの縁部は直線状に形成されている、ゴルフボール。
【請求項2】
各ディンプルの形状が三角錐又は三角錐台である、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
上記仮想平面の頂点は、上記ゴルフボールの仮想球の表面に位置する、請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
上記ゴルフボールの仮想球の体積V1と上記ゴルフボールの体積V2との差(V1-V2)の、上記ゴルフボールの仮想球の体積V1に対する比率が、2%以上14%以下である、請求項1から3のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項5】
各ディンプルの縁部は三角形の形状を有しており、
1つ又は複数のディンプルの縁部で形成された三角形の辺が、上記ジオデシック多面体の面の輪郭と一致する、
請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項6】
4つのディンプルの縁部で形成された三角形の辺が、上記ゴルフボールの仮想球に内接するジオデシック八十面体の面の輪郭と一致する、
請求項5に記載のゴルフボール。
【請求項7】
2つのディンプルの縁部で形成された三角形の辺が、上記ゴルフボールの仮想球に内接するジオデシック百八十面体の面の輪郭と一致する、
請求項5に記載のゴルフボール。
【請求項8】
1つのディンプルの縁部で形成された三角形の辺が、上記ゴルフボールの仮想球に内接するジオデシック三百二十面体の面の輪郭と一致する、
請求項5に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関する。詳細には、本発明は、その表面にディンプルを有するゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールは、その表面に多数のディンプルを備えている。ディンプルは、飛行時のゴルフボール周りの空気の流れを乱し、乱流剥離を起こさせる。この現象は、「乱流化」と称される。乱流化によって空気のゴルフボールからの剥離点が後方にシフトし、抗力が低減される。乱流化によってバックスピンに起因するゴルフボールの上側剥離点と下側剥離点とのズレが助長され、ゴルフボールに作用する揚力が高められる。抗力の低減及び揚力の向上は、「ディンプル効果」と称される。優れたディンプルは、よりよく空気の流れを乱す。優れたディンプルは、大きな飛距離を生む。
【0003】
一般的にディンプルの縁部(輪郭)は円形であるが、特開2005-185341号公報(特許文献1)にはディンプルの縁部が多角形であるゴルフボールが開示されている。この特許文献1では、ディンプルの縁部を多角形とすることで、ゴルフボール表面全体に対するディンプルの占有率を高めることができ、飛翔中の空気抵抗を小さくできる結果、十分な飛距離を実現することができると説明されている。なお、特許文献1に記載のディンプルの縁部は、多角形ではあるものの各辺は曲線状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、女性や高齢者など比較的非力なゴルファーは、ヘッド速度が遅いため、ボール速度が遅くなる。このようにボール速度が遅いと、飛距離を得ようとするあまり、ゴルフボールの打出角が高くなり、スピン回転数が大きくなる傾向にある。その結果、弾道が高くなりすぎて、むしろ飛距離が伸びなくなってしまう。
【0006】
前述したディンプルの縁部が多角形であるゴルフボールは、デザイン性及び空力特性に優れているが、各ゴルファーの打球の特性、特に比較的非力のゴルファーの飛距離について十分検討されていない。
【0007】
本発明の目的は、デザイン性に優れ、かつ、比較的非力のゴルファーの飛距離を伸ばすことができるゴルフボールの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るゴルフボールは、多数のディンプルを有するゴルフボールであって、上記ゴルフボールの表面が三角形の形状を有する複数の仮想平面で覆われており、それぞれの仮想平面に対応して一又は複数のディンプルが配置されており、各ディンプルの縁部は直線状に形成されている。
【0009】
このゴルフボールは、各ディンプルの縁部が直線状に形成されているため、ゴルフボール全体が直線的にカットされた宝石であるような印象を観者に与え、デザイン性に優れる。また、各ディンプルの縁部が曲線状である場合に比べて、ゴルフボールに作用する揚力が抑えられる一方、抗力が低減する。そのため、特に弾道が高くなる傾向にある比較的非力のゴルファーの飛距離を伸ばすことができる。
【0010】
上記のゴルフボールにおいて、各ディンプルの形状が三角錐又は三角錐台であってもよい。
【0011】
このように、ディンプルを三角錐又は三角錐台とすれば、ディンプルに谷線(三角錐又は三角錐台の側辺に相当する部分)が形成され、ディンプルの縁部が直線であることと相まって、デザイン性をさらに向上させることができる。
【0012】
上記のゴルフボールにおいて、上記仮想平面の頂点は、上記ゴルフボールの仮想球の表面に位置するようにしてもよい。
【0013】
この構成によれば、ゴルフボールは球形に近づくため、転がりやすくなる。その結果、ゴルフボールの落下地点から静止地点までの距離であるランが大きくなって、ゴルフボールの飛距離が伸びる。
【0014】
上記のゴルフボールにおいて、上記ゴルフボールの仮想球の体積V1と上記ゴルフボールの体積V2との差(V1-V2)の、上記ゴルフボールの仮想球の体積V1に対する比率が、2%以上14%以下となるようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、飛行時におけるゴルフボールの弾道が最適化される。つまり、ゴルフボールの過剰なドロップやホップを防ぐことができる。
【0016】
上記のゴルフボールにおいて、上記仮想平面は上記ゴルフボールの仮想球に内接するジオデシック多面体の面であってもよい。
【0017】
ジオデシック多面体は、面積が同程度である多数の三角形で形成されている。そのため、上記の構成によれば、ゴルフボールの表面に多数のディンプルを均等に配置することができる。
【0018】
上記のゴルフボールにおいて、各ディンプルの縁部は三角形の形状を有しており、1つ又は複数のディンプルの縁部で形成された三角形の辺が、上記ジオデシック多面体の面の輪郭と一致するようにしてもよい。
【0019】
この構成によれば、各ディンプルを互いに同じような大きさ及び同じような形状に形成することができる。つまり、同じような大きさ及び形状のディンプルを、ゴルフボールの表面に均等に配置することができる。
【0020】
上記のゴルフボールにおいて、4つのディンプルの縁部で形成された三角形の辺が、上記ゴルフボールの仮想球に内接するジオデシック八十面体の面の輪郭と一致するようにしてもよい。
【0021】
この構成によれば、ゴルフボールの表面に320のディンプルを形成することができる。これにより、適切な数のディンプルがゴルフボールの表面に形成されることになり、十分な飛距離を確保することができる。なお、十分な飛距離を確保することができるディンプルの数は、150以上600以下である。
【0022】
上記のゴルフボールにおいて、2つのディンプルの縁部で形成された三角形の辺が、上記ゴルフボールの仮想球に内接するジオデシック百八十面体の面の輪郭と一致するようにしてもよい。
【0023】
この構成によれば、ゴルフボールの表面に360のディンプルを形成することができる。これにより、適切な数のディンプルがゴルフボールの表面に形成されることになり、十分な飛距離を確保することができる。
【0024】
上記のゴルフボールにおいて、1つのディンプルの縁部で形成された三角形の辺が、上記ゴルフボールの仮想球に内接するジオデシック三百二十面体の面の輪郭と一致するようにしてもよい。
【0025】
この構成によれば、ゴルフボールの表面に320のディンプルを形成することができる。これにより、適切な数のディンプルがゴルフボールの表面に形成されることになり、十分な飛距離を確保することができる。
【発明の効果】
【0026】
上記の構成によれば、デザイン性に優れ、かつ、比較的非力のゴルファーの飛距離を伸ばすことができるゴルフボールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るゴルフボールの概略断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るゴルフボールを示す図である。
【
図3】
図3は、ジオデシック八十面体を示す図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係るゴルフボールを示す図である。
【
図5】
図5は、ジオデシック百八十面体を示す図である。
【
図6】
図6は、第3実施形態に係るゴルフボールを示す図である。
【
図7】
図7は、ジオデシック三百二十面体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0029】
(第1実施形態)
はじめに、第1実施形態に係るゴルフボール2について説明する。以下では、ゴルフボール2の構造を説明した後、ディンプル10の形状及び配置について説明する。
【0030】
<ゴルフボールの構造>
図1は、第1実施形態に係るゴルフボール2の概略断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るゴルフボール2は、球状のコア4と、このコア4の外側に位置する中間層6と、この中間層6の外側に位置するカバー8とを備えている。このゴルフボール2は、その表面に多数のディンプル10を有している。ゴルフボール2の表面のうちディンプル10以外の部分は、ランド12である。このゴルフボール2は、カバー8の外側にペイント層及びマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。
【0031】
このゴルフボール2の直径は、40mm以上45mm以下が好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。本実施形態に係るゴルフボール2では、その直径は、42.7mmである。
【0032】
このゴルフボール2の質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0033】
コア4は、ゴム組成物が架橋されることによって形成されている。ゴム組成物の基材ゴムとして、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体及び天然ゴムが例示される。2種以上のゴムが併用されてもよい。反発性能の観点から、ポリブタジエンが好ましく、特にハイシスポリブタジエンが好ましい。
【0034】
コア4のゴム組成物は、共架橋剤を含んでいる。反発性能の観点から好ましい共架橋剤は、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛及びメタクリル酸マグネシウムである。ゴム組成物が、共架橋剤と共に有機過酸化物を含むことが好ましい。好ましい有機過酸化物として、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン及びジ-t-ブチルパーオキサイドが挙げられる。
【0035】
コア4のゴム組成物が、充填剤、硫黄、加硫促進剤、硫黄化合物、老化防止剤、着色剤、可塑剤及び分散剤のような添加剤を含んでもよい。ゴム組成物が、カルボン酸又はカルボン酸塩を含んでもよい。ゴム組成物が、合成樹脂粉末又は架橋されたゴム粉末を含んでもよい。
【0036】
コア4の直径は30.0mm以上が好ましく、38.0mm以上が特に好ましい。コア4の直径は42.0mm以下が好ましく、41.5mm以下が特に好ましい。コア4が、2以上の層を有してもよい。コア4が、その表面にリブを有してもよい。コア4が中空であってもよい。
【0037】
中間層6は、樹脂組成物からなる。この樹脂組成物の好ましい基材ポリマーは、アイオノマー樹脂である。好ましいアイオノマー樹脂として、α-オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。好ましい他のアイオノマー樹脂として、α-オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β-不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。この二元共重合体及び三元共重合体において、好ましいα-オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β-不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。この二元共重合体及び三元共重合体において、カルボキシル基の一部は金属イオンで中和されている。中和のための金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジウムイオンが例示される。
【0038】
アイオノマー樹脂に代えて、又はアイオノマー樹脂と共に、中間層6の樹脂組成物が他のポリマーを含んでもよい。他のポリマーとして、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン及びポリウレタンが例示される。樹脂組成物が、2種以上のポリマーを含んでもよい。
【0039】
中間層6の樹脂組成物が、二酸化チタンのような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を含んでもよい。比重調整の目的で、この樹脂組成物がタングステン、モリブデン等の高比重金属の粉末を含んでもよい。
【0040】
中間層6の厚みは0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上が特に好ましい。中間層6の厚みは2.5mm以下が好ましく、2.2mm以下が特に好ましい。中間層6の比重は0.90以上が好ましく、0.95以上が特に好ましい。中間層6の比重は1.10以下が好ましく、1.05以下が特に好ましい。中間層6が、2以上の層を有してもよい。
【0041】
カバー8は、樹脂組成物からなる。好ましくは、熱可塑性樹脂組成物から成形されている。この樹脂組成物の基材ポリマーとして、アイオノマー樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー及び熱可塑性ポリスチレンエラストマーが例示される。特に、アイオノマー樹脂が好ましい。アイオノマー樹脂は、高弾性である。アイオノマー樹脂を含むカバー8を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。このゴルフボール2は、ドライバーショットでの飛距離に優れる。中間層6に関して前述されたアイオノマー樹脂が、カバー8に用いられうる。
【0042】
アイオノマー樹脂と他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合は、反発性能の観点から、アイオノマー樹脂が基材ポリマーの主成分とされる。全基材ポリマーに対するアイオノマー樹脂の比率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましい。
【0043】
カバー8の樹脂組成物が、着色剤、充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を適量含んでもよい。ゴルフボール2の色相が白である場合、典型的な着色剤は二酸化チタンである。
【0044】
カバー8の厚みは0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上が特に好ましい。カバー8の厚みは2.5mm以下が好ましく、2.2mm以下が特に好ましい。カバー8の比重は0.90以上が好ましく、0.95以上が特に好ましい。カバー8の比重は1.10以下が好ましく、1.05以下が特に好ましい。カバー8が、2以上の層を有してもよい。
【0045】
なお、
図1において、ゴルフボール2の仮想球14を破線で示している。仮想球14は、ゴルフボール2が内接する球である。つまり、仮想球14の直径は、ゴルフボール2の直径と一致する。
【0046】
<ディンプルの形状及び配置>
図2は、第1実施形態に係るゴルフボール2を示す図である。前述の通り、ゴルフボール2は、表面に多数のディンプル10を有している。ディンプル10は、ゴルフボール2の中心側に向かって窪んでおり、ゴルフボール2の外側に向かって開口している。ディンプル10は互いに隣接しており、境界部分に稜線16が形成されている。稜線16は、
図1で示すランド12に相当する。この稜線16が、各ディンプル10の縁部18を構成し、各ディンプル10の開口部分の外郭(輪郭)を形成している。
【0047】
本実施形態では、稜線16は所定寸法の幅を有している。効果的に空力特性を向上させるという観点から、稜線16の幅は0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましく、0.3mm以下が特に好ましい。また、製造が容易であるとの観点から、稜線16の幅は0.02mm以上が好ましい。さらに、稜線16の長さは、3mm以上16mm以下が好ましく、4mm以上15mm以下がより好ましく、5mm以上14mm以下が特に好ましい。また、稜線16を拡大したとき、稜線16の表面は平らであって、稜線16の幅方向両端はいわゆるシャープエッジである(つまり、過度な面取りがない)ことが望ましい。
【0048】
図2に示すように、各ディンプル10の縁部18は、三角形の形状を有している。そして、各ディンプル10の縁部18の三角形の辺にあたる部分は、直線状に形成されている。ここでいう「直線状」とは、ゴルフボール2の半径方向から見て直線状であって、かつ、縁部18の延在方向に沿って切断した断面視において直線状という意味である。
【0049】
また、各ディンプル10は、縁部18で囲まれた部分、すなわち開口部分を底面とする三角錐の形状を有している。ただし、各ディンプル10は、三角錐台の形状を有していてもよい。これにより、各ディンプル10は、内面に直線状の谷線20(三角錐又は三角錐台の側辺に相当する部分)を有することになる。上記のとおり、本実施形態では、各ディンプル10の縁部18の三角形の辺にあたる部分が直線状であり、また、各ディンプル10の内面に直線状の谷線20が形成されるため、ゴルフボール2全体が直線的にカットされた宝石であるかのような印象を観者に与え、デザイン性に優れている。
【0050】
なお、効果的に空力特性を向上させるという観点から、谷線20の幅は0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましく、0.3mm以下が特に好ましい。さらに、谷線20の長さは、3mm以上16mm以下が好ましく、4mm以上15mm以下がより好ましく、5mm以上14mm以下が特に好ましい。
【0051】
また、本実施形態では、ゴルフボール2の仮想球14に内接するジオデシック多面体に基づいて、ディンプル10が配置されている。
図3は、ジオデシック多面体の1つであるジオデシック八十面体を示す図である。ジオデシック多面体とは、正二十面体などの正多面体の各面を正三角形に近い三角形に細分割し、細分割した三角形の各頂点が同一球面上に位置するように形成した多面体である。
図3に示すジオデシック八十面体は、正二十面体の各面を4つの三角形に細分割したジオデシック多面体である。
【0052】
本実施形態では、ジオデシック八十面体の各面をさらに4つの三角形に分割し、分割した各三角形に対応してディンプル10を配置している。例えば、
図3において符号Aを付したジオデシック八十面体の1つの面に着目すると、符号Aを付した面を4つの三角形に分割し、分割した各三角形に対応して配置したのが
図2の符号A1-A4を付したディンプル10である。なお、上記の4つのディンプル10の縁部18は、同一平面上に位置している。
【0053】
このように、本実施形態では、ジオデシック八十面体の面を分割した三角形の各辺とディンプル10の縁部18とが一致するように各ディンプル10を配置している。別の言い方をすれば、4つのディンプル10(上記の例では符号A1-A4を付したディンプル10)の縁部18は1つの大きな三角形を形成しており、その三角形の辺がジオデシック八十面体の面(上記の例では符号Aを付した面)の輪郭と一致している。ジオデシック多面体は、面積が同程度の多数の三角形で形成されている。そのため、本実施形態によれば、ゴルフボール2の表面に多数のディンプル10を均等に配置することができる。
【0054】
また、本実施形態では以上のようにディンプル10が配置されるため、ゴルフボール2の表面に320のディンプル10を形成することができる。これにより、適切な数のディンプル10がゴルフボール2の表面に形成されることになり、十分な飛距離を確保することができる。なお、十分な飛距離を確保することができるディンプル10の数は、150以上600以下である。
【0055】
また、本実施形態では、ジオデシック八十面体の各面を分割するにあたり、ジオデシック八十面体の面の3つの頂点にそれぞれ対応して三角形(上記の例では符号A1-A3に相当する三角形)が形成されるとともに、それらの三角形の間に残りの1つの三角形(上記の例では符号A4に相当する三角形)が形成されるように分割している。このように分割することにより、各ディンプル10が三角錐の形状を有していること、つまりディンプル10に谷線20が形成されることと相まって、ゴルフボール2の表面に星形の模様が形成される。その結果、ゴルフボール2のデザイン性をさらに向上させることができる。
【0056】
また、前述のとおり、ジオデシック八十面体の各面の頂点は、ゴルフボール2の仮想球14の表面に位置している。そのため、ディンプル10の縁部18のうちジオデシック八十面体の各面の頂点に対応する部分は、ゴルフボール2の仮想球14の表面に位置することになる。つまり、ディンプル10の縁部18の三角形の頂点にあたる部分の一部が、ゴルフボール2の仮想球14の表面に位置することになる。これにより、ゴルフボール2は球形に近い形状を有することになって転がりやすくなる結果、ゴルフボール2の落下地点から静止地点までの距離であるランが大きくなって、ゴルフボール2の飛距離が伸びる。
【0057】
さらに、本実施形態では、ゴルフボール2の仮想球14の体積V1とゴルフボール2の体積V2との差を差分体積ΔV(V1-V2)とすると、差分体積ΔVのゴルフボール2の仮想球14の体積V1に対する比率(ΔV/V1×100)が、2%以上14%以下となるようにディンプル10が形成されている。差分体積ΔVのゴルフボール2の仮想球14の体積V1に対する比率が2%以上14%以下であれば、飛行時におけるゴルフボール2の弾道が最適化される。つまり、ゴルフボール2の過剰なドロップやホップを防ぐことができる。この弾道の最適化の観点から、差分体積ΔVのゴルフボール2の仮想球14の体積V1に対する比率は2.5%以上13.5%以下であることがより好ましく、3%以上13%以下であることが特に好ましい。
【0058】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るゴルフボール22について説明する。第2実施形態に係るゴルフボール22は、ディンプル10の配置が第1実施形態に係るゴルフボール2と相違する。それ以外の点については、第1実施形態に係るゴルフボール2と基本的に同じ構成を備えている。以下、本実施形態に係るゴルフボール22について、ディンプル10の配置を中心に説明し、第1実施形態に係るゴルフボール2と共通する点については説明を省略する。
【0059】
図4は、第2実施形態に係るゴルフボール22を示す図である。本実施形態においても各ディンプル10は、縁部18が三角形の形状を有しており、その縁部18の三角形の辺にあたる部分が直線状に形成されている。また、各ディンプル10は三角錐の形状を有している。本実施形態のディンブル10は、ゴルフボール22の仮想球14に内接するジオデシック「八十面体」ではなく、ゴルフボール22の仮想球14に内接するジオデシック「百八十面体」に基づいて配置されている。
図5は、ジオデシック百八十面体を示す図である。このジオデシック百八十面体は、正二十面体の各面を9つの三角形に細分割したジオデシック多面体である。
【0060】
本実施形態では、ジオデシック百八十面体の各面をさらに2つの三角形に分割し、分割した各三角形に対応してディンプル10を配置している。例えば、
図5において符号Bを付したジオデシック百八十面体の1つの面に着目すると、符号Bを付した面を2つの三角形に分割し、分割した各三角形に対応して配置したのが
図4において符号B1、B2を付したディンプル10である。なお、上記の2つのディンプル10の縁部18は、同一平面上に位置している。
【0061】
このように、本実施形態では、ジオデシック百八十面体の面を分割した三角形の各辺とディンプル10の縁部18とが一致するように各ディンプル10を配置している。別の言い方をすれば、2つのディンプル10(上記の例では符号B1、B2を付したディンプル10)の縁部18で1つの三角形を形成しており、その三角形の辺がオデシック百八十面体の面(上記の例では符号Bを付した面)の輪郭と一致している。本実施形態では以上のようにディンプル10が配置されるため、ゴルフボール22は360のディンプル10を有することになる。これにより、適切な数のディンプル10がゴルフボール22の表面に形成されることになり、十分な飛距離を確保することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、ジオデシック百八十面体の各面を対称である2つの直角三角形(上記の例では符号B1、B2に相当する三角形)が形成されるように分割している。さらに、ジオデシック百八十面体の各面を分割するにあたり、ジオデシック百八十面体を構成する各面を、頂点が共通する5つの面ごとにグループ(例えば、
図5の符号B-Fを付した面で構成されるグループ)を形成し、各グループにおいて上記の2つの直角三角形の境界部分の稜線16がそのグループの共通する頂点から放射線状に延びるように分割している。このように分割することにより、各ディンプル10が三角錐の形状を有していること、つまりディンプル10に谷線20が形成されることと相まって、ゴルフボール22の表面に星形の模様が形成される。
【0063】
また、前述のとおり、ジオデシック百八十面体の各面の頂点は、ゴルフボール22の仮想球14の表面に位置している。そのため、ディンプル10の縁部18のうちジオデシック百八十面体の各面の頂点に対応する部分は、ゴルフボール22の仮想球14の表面に位置することになる。つまり、ディンプル10の縁部18の三角形の頂点にあたる部分の一部が、ゴルフボール22の仮想球14の表面に位置することになる。さらに、本実施形態では、ジオデシック八十面体よりも面の数が多いジオデシック百八十面体に基づいてディンプル10が配置されている。そのため、ゴルフボール22を一層球体に近づけることができる。
【0064】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係るゴルフボール32について説明する。第3実施形態に係るゴルフボール32は、ディンプル10の配置が第1実施形態に係るゴルフボール2と相違する。それ以外の点については、第1実施形態に係るゴルフボール2と基本的に同じ構成を備えている。以下、本実施形態に係るゴルフボール32について、ディンプル10の配置を中心に説明し、第1実施形態に係るゴルフボール2と共通する点については説明を省略する。
【0065】
図6は、第3実施形態に係るゴルフボール32を示す図である。本実施形態においても各ディンプル10は、縁部18が三角形の形状を有しており、その縁部18の三角形の辺にあたる部分が直線状に形成されている。また、各ディンプル10は三角錐の形状を有している。本実施形態のディンブル10は、ゴルフボール32の仮想球14に内接するジオデシック「八十面体」やジオデシック「百八十面体」ではなく、ゴルフボール32の仮想球14に内接するジオデシック「三百二十面体」に基づいて配置されている。
図7は、ジオデシック三百二十面体を示す図である。このジオデシック三百二十面体は、正二十面体の各面を16の三角形に細分割したジオデシック多面体である。
【0066】
本実施形態では、ジオデシック三百二十面体の各面に対応してディンプル10を配置している。例えば、
図7において符号Gを付したジオデシック三百二十面体の1つの面に着目すると、この面に対応して配置したのが
図6において符号G1を付したディンプル10である。
【0067】
このように、本実施形態では、ジオデシック三百二十面体の各面の辺とディンプル10の縁部18とが一致するように各ディンプル10を配置している。別の言い方をすれば、1つのディンプル10(上記の例では符号G1を付したディンプル10)の縁部18で1つの三角形を形成しており、その三角形の辺がオデシック三百二十面体の面(上記の例では符号Gを付した面)の輪郭と一致している。本実施形態では以上のようにディンプル10が配置されるため、ゴルフボール32は320のディンプル10を有することになる。これにより、適切な数のディンプル10がゴルフボール32の表面に形成されることになり、十分な飛距離を確保することができる。
【0068】
本実施形態では、上記のようにディンプル10を配置することにより、各ディンプル10が三角錐の形状を有していること、つまりディンプル10に谷線20が形成されることと相まって、ゴルフボール32の表面に星形の模様が形成される。
【0069】
また、前述のとおり、ジオデシック三百二十面体の各面の頂点は、ゴルフボール32の仮想球14の表面に位置している。そのため、ディンプル10の縁部18のうちジオデシック三百二十面体の各面の頂点に対応する部分、つまりディンプル10の縁部18の三角形の頂点にあたる部分は全てゴルフボール32の仮想球14の表面に位置することになる。そのため、本実施形態では、ゴルフボール32を一層球体に近づけることができる。
【0070】
以上で説明した第1乃至第3実施形態では、ゴルブボールに内接するジオデシック多面体の各面を仮想平面とし、この仮想平面に対応して一又は複数のディンプルを配置している。ただし、この仮想平面は、ゴルフボールを覆う面であればよく、ジオデシック多面体の面以外の面であってもよい。また、各ディンプルの縁部は三角形の形状を有しているが、三角形以外の多角形の形状を有していてもよく、例えば星形等の形状を有していてもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0072】
[実施例1]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR-730」)、27.4質量部のアクリル酸亜鉛、5質量部の酸化亜鉛、適量の硫酸バリウム、0.5質量部のジフェニルジスルフィド及び0.9質量部のジクミルパーオキサイドを混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、160℃で20分間加熱して、直径が38.20mmであるコアを得た。所定の質量のコアが得られるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0073】
26質量部のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミランAM7337」)、26質量部の他のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミランAM7329」)、48質量部のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマー(三菱化学社の商品名「ラバロンT3221C」)、4質量部の二酸化チタン(A220)及び0.2質量部の光安定剤(城北化学工業社の商品名「JF-90」)を二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を射出成形法にてコアの周りに被覆し、中間層を形成した。この中間層の厚みは、1.00mmであった。
【0074】
47質量部のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」)、46質量部の他のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1557」)、7質量部のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマー(前述の「ラバロンT3221C」)、4質量部の二酸化チタン(A220)及び0.2質量部の光安定剤(前述の「JF-90」)を二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物を得た。キャビティ面に多数のピンプルを有するファイナル金型に、コア及び中間層からなる球を投入した。上記樹脂組成物を射出成形法にて中間層の周りに被覆し、カバーを形成した。このカバーの厚みは、1.25mmであった。カバーには、ピンプルの形状が反転した形状を有するディンプルが形成された。
【0075】
このカバーの周りに二液硬化型ポリウレタンを基材とするクリアー塗料を塗装し、直径が約42.7mmであり質量が約45.6gである実施例1のゴルフボールを得た。このゴルフボールは、前述した第1実施形態に係るゴルフボール2に相当し、その仕様は表1に記載のとおりである。
【0076】
[実施例2-5及び比較例1]
ファイナル金型を変更し、ディンプルの形状及び配置以外は実施例1と同様にして、実施例2-5及び比較例1のゴルフボールを得た。実施例2のゴルフボールは、前述した第2実施形態に係るゴルフボール22に相当する。また、実施例3-5のゴルフボールは、いずれも第3実施形態に係るゴルフボール32に相当し、稜線16及び谷線20におけるフィレット(角部における丸み)の程度が異なる点を除き互いに同じように形成されている。実施例2-5及び比較例1のゴルフボールの仕様は、表1に記載のとおりである。
【0077】
[フライトテスト]
ここでは、女性や比較的高齢のプレイヤーを想定して、以下のとおり性能評価を行った。ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、ドライバー(住友ゴム工業株式会社の商品名「XXIO10」、シャフト硬度:R、ロフト角:10.5°)を装着した。ヘッド速度が32.5m/secである条件でゴルフボールを打撃して、キャリー及びランの合計である飛距離を測定した。同様に、ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、7番アイアン(住友ゴム工業株式会社の商品名「XXIO10」、シャフト硬度:R、ロフト角:29°)を装着した。ヘッド速度が27m/secである条件でゴルフボールを打撃して、キャリー及びランの合計である飛距離を測定した。テスト時は、ほぼ無風であった。20回の測定で得られたデータの平均値が、表1に示されている。
【0078】
【0079】
表1に示されるように、ヘッド速度が比較的遅い場合(平均的なゴルファーのヘッド速度は40m/secである)において、各実施例のゴルフボールは、ドライバーショット及びアイアンショットの飛行性能が優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。つまり、比較的非力のゴルファーの飛距離を伸ばすという点において、本発明の優位性は明らかである。
【符号の説明】
【0080】
2・・・ゴルフボール
4・・・コア
6・・・中間層
8・・・カバー
10・・・ディンプル
12・・・ランド
14・・・仮想球
16・・・稜線
18・・・縁部
20・・・谷線
22・・・ゴルフボール
32・・・ゴルフボール