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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】サラダの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/12 20160101AFI20230307BHJP
   A23L 19/10 20160101ALI20230307BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20230307BHJP
【FI】
A23L19/12 A
A23L19/10
A23L19/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018239566
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020099239
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100085109
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】上村 佳嗣
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-523620(JP,A)
【文献】特開2006-149384(JP,A)
【文献】特開昭62-143672(JP,A)
【文献】特開2015-195788(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0004085(US,A1)
【文献】特開昭48-001511(JP,A)
【文献】飯淵貞明,グルコース-グルコースオキシダーゼ混合系による細菌生育の抑制,日本農芸化学会誌,日本農芸化学会,1994年,第68巻、第1号,41-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00-19/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角切りにし加熱処理したじゃがいも、カボチャ又はサツマイモを主成分とするサラダに、風味及び食感の改善剤として前記主成分100g当り50~1000ユニットのグルコースオキシダーゼを配合し、密封し、その後、加熱殺菌することを特徴とするロングライフサラダの製造方法。
【請求項2】
グルコースオキシダーゼを配合後5~30℃で1~60分間放置する請求項記載の製造方法。
【請求項3】
サラダがじゃがいもサラダである請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポテトサラダ、カボチャサラダ、サツマイモサラダ等のサラダの風味及び食感を改善するサラダの製造方法、特に、ロングライフサラダの風味や食感を改善するロングライフサラダの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポテトサラダ、カボチャサラダ、サツマイモサラダ等の、いわゆるロングライフサラダは、コンビニエンスストアー、スーパーマーケット、ファミリーレストラン等で取扱われており、冷蔵することによって7日~60日間程度の長い賞味期間を有するものである。このロングライフサラダの品質向上に関しては、初期品質向上、品質劣化抑制、の2点が重要である。初期品質としては、主に具材や使用する配合面が重要であるが、嗜好性に左右されやすい側面を有する。一方、品質劣化については、保存中にイモの食感がボソボソになったり、風味が悪化することに起因しており、いずれも共通認識できる変化である。従って、ロングライフサラダについては、品質劣化抑制が大きな研究課題となっている。
【0003】
さて、ロングライフサラダに関して、長い賞味期間を得る手段として、現在は密封包装、加熱殺菌および低温保存を組み合わせた方法が用いられている。しかし、この方法は、保存時間の経過に伴い、風味や食感が劣化するという課題がある。この課題を改善する方法として、蒸煮後に調味液、例えば食塩水を噴霧したじゃがいもとマヨネーズを一定割合で混合し、加熱殺菌する方法が開発されている(特許文献1)。
【0004】
また、加熱処理したじゃがいもに、マルトースおよび/またはマルトトリオースを0.001~5重量%配合する方法も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-60420号公報
【文献】特開2002-101840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サラダは製造後に時間の経過とともに風味、食感が劣化する。特に、ロングライフサラダは、基本的に密封包装、加熱殺菌及び低温保存だけでは、保存時間の経過と共に風味等が劣化するという大きな問題がある。特許文献1、2の方法は、ロングライフサラダの風味等を改善するためのものであるが、まだ充分とは言えず、一層風味等の良好なロングライフサラダの製造方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討の結果、グルコースオキシダーゼがサラダ、特に、ロングライフサラダの風味や食感の劣化の改善に大きな効果があることを見出した。グルコースオキシダーゼは、豆乳(特許第2653150号)やレトルト米飯(特許第2808060号)の風味改善に効果があることは知られているが、ロングライフサラダ等のサラダについて適用された例はない。
【0008】
すなわち、本発明は、加熱処理したじゃがいも、カボチャ又はサツマイモを主成分とするサラダにグルコースオキシダーゼを配合することを特徴とする、ロングライフサラダ等のサラダの製造方法と、グルコースオキシダーゼを有効成分とするロングライフサラダ等のサラダの風味及び/又は食感の改善剤を提供するものである。
【0009】
より詳細に記すと本発明は以下の技術的事項から構成される。
(1)加熱処理したじゃがいも、カボチャ又はサツマイモを主成分とするサラダにグルコースオキシダーゼを配合することを特徴とする、サラダの製造方法。(2)加熱処理したじゃがいも、カボチャ又はサツマイモを主成分とするサラダを容器に入れ、グルコースオキシダーゼを配合し、密封し、その後、加熱殺菌することを特徴とするロングライフサラダの製造方法。
(3)グルコースオキシダーゼを前記主成分100g当り10U~1000U配合する(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)サラダがじゃがいもサラダである(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)グルコースオキシダーゼを有効成分とするサラダの風味及び/又は食感の改善剤。
(6)サラダがロングライフサラダである(5)に記載の改善剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ロングライフサラダ等のサラダの風味及び食感を良好にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明はサラダ全般に広く使用できるが、優れた効果を奏するロングライフサラダについて、まずは説明する。
【0012】
ロングライフサラダとは、密封状態で1~10℃の低温で保存することによって7日~60日間程度の賞味期間が得られるものである。具体的には、じゃがいもサラダ(本発明に於いてはポテトサラダと称する場合もある)、カボチャサラダ、サツマイモサラダのように、蒸煮等の加熱処理した、じゃがいも、カボチャ、サツマイモ等を主成分とするものである。本発明に於いては、じゃがいも、カボチャ、サツマイモ以外の根菜、果菜も主成分として用いることが出来るが、じゃがいも、カボチャ、又はサツマイモを主成分とするのが好ましい。
【0013】
また、必要によりじゃがいも等を適当な大きさに角切り等にカットしたものを用いてもよい
【0014】
これに副具材として、ニンジン、キュウリ、たまねぎ、コーン等が所望により添加され、さらにドレッシングと調味料が必要により加えられる。調味料としては、例えば、食塩、酢、ブイヨン、チキンエキス、ビーフエキス、酵母エキス、香辛料、糖類、アミノ酸、核酸、酒等が用いられる。尚、ドレッシングとは本発明に於いてはマヨネーズも含む概念である。
【0015】
これらの原料の配合割合は、公知のポテトサラダ、カボチャサラダ、サツマイモサラダと同様でよく、特に限定されないが、一般的に加熱処理したじゃがいも、カボチャ、サツマイモ等の主成分をサラダ全重量当たり、通常30~90重量%程度、副具材を0~30重量%程度、ドレッシングを0~30重量%程度、調味料を0~10重量%程度配合する。
【0016】
本発明のロングライフサラダの製造にあたっては、上記原料に、さらにグルコースオキシダーゼを配合することを特徴としている。
【0017】
本発明者らは種々の酵素による風味等の改質を研究する過程でグルコースオキシダーゼによりロングライフサラダの風味及び食感の改善効果があることを確認している。
【0018】
さて、グルコースオキシダーゼはβ-D-グルコース、酸素、水を基質としてD-グルコノ-1.5-ラクトン(D-グルコノ-1.5-ラクトンは非酵素的にグルコン酸に加水分解される)と過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素である。グルコースオキシダーゼとしては、麹菌等の微生物由来のもの、植物由来のものなどが知られているが、いずれのグルコースオキシダーゼを用いても構わない。また、微生物等から自ら取得したものを用いても良いし、又、市販されているものを用いても良い。尚、微生物由来のグルコースオキシダーゼは「スミチームPGO」という商品名で新日本化学工業株式会社から市販されている。グルコースオキシダーゼ活性は常法に従って測定することができる。例えば、以下の方法が例示できる。
【0019】
グルコースオキシダーゼの活性の測定方法はグルコースを基質として、酸素存在下でグルコースオキシダーゼ作用させることで過酸化水素水を生成させる。生成した過酸化水素にアミノアンチピリン及びフェノール存在下でペルオキシダーゼを作用させることでキノンイミン色素を生成させる。生成したキノンイミン色素を波長500nmで測定し、1分間に1μmolのグルコースを酸化するのに必要な酵素量を1ユニット(U)と定義する。活性測定法の詳細はWO2016/136904号公報等を参照することができる。
【0020】
さて、グルコースオキシダーゼの配合量は、主成分であるじゃがいも、カボチャ、又はサツマイモ100gに対し10ユニット~1000ユニット、好ましくは50ユニット~300ユニットを配合すればよい(本発明においてはユニットをUと簡略して記載する場合がある)。配合の仕方は特に拘らないが、例えば、グルコースオキシダーゼの粉末をじゃがいも等の主成分に添加する等の方法で行えばよい。また、少量の水にグルコースオキシダーゼを溶かした後に配合するなどの方法も用いても構わない。
【0021】
本発明のロングライフサラダの製造であるが、まずは上記した原料成分100重量部に対し、水を0~30重量部程度加えて混合する。混合はスプーンやゴムベラ等を用いて手動で混合してもよいし、また、カイ式撹拌機などの撹拌機を使用して行ってもよい。混合時の温度条件等は特に制限はないが、例えば、5~30℃で1~10分間混合すればよい。
【0022】
また、混合後に必要により暫く放置してもよい。放置する時の条件は特に制限はないが、例えば1~95℃、好ましくは5~30℃で1分~60分間放置すればよい。尚、グルコースオキシダーゼは配合後から殺菌工程の間でじゃがいも等の主成分に作用する。
【0023】
次に、混合したロングライフサラダは、袋や容器に入れて密封包装する。袋の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の通常の材質のものでよく、ガスバリヤー性の高いものが望ましい。容器は箱形、皿型など、どのような形状のものを用いても構わない。必要により、その上からフィルムで覆って密封する。
【0024】
次に、密封したロングライフサラダを加熱殺菌する。加熱殺菌の条件も特に限定されないが、通常は65~100℃、好ましくは65~90℃で4分~150分間、好ましくは4~120分間行えばよい。
【0025】
殺菌後は冷却して低温保存する。保存温度は1~10℃程度、好ましくは1~6℃程度が適当である。
【0026】
尚、本発明の製造方法は広くロングサラダに使用できるが、特にじゃがいも、カボチャ又はサツマイモを主成分とするロングライフサラダに用いると著しい効果を奏する。更に、じゃがいもを主成分とするじゃがいもサラダ(ポテトサラダ)に用いると最も効果が発揮される。
【0027】
また、本発明は上記したようにロングライフサラダに用いた場合に著しい効果を奏するが、加熱殺菌をしない賞味期限が短いショートライフサラダにも用いることが出来る。ショートライフサラダ全般に広く用いることが出来るが、特に、じゃがいも、カボチャ又はサツマイモを主成分とするショートライフサラダに用いるのが好ましく、更には、じゃがいもを主成分とするじゃがいもサラダ(ポテトサラダ)に用いるのがより好ましい。
【0028】
ショートライフサラダについては、加熱殺菌を行わない以外は上記したロングライフサラダと同じ条件、同じプロセスで製造すれればよい。
【0029】
また、本発明の風味及び食感の改善剤は、広くサラダ全般に用いられるが、特に、ロングライフサラダの製造に使用するのがより好ましい。本発明の風味及び食感の改善剤はグルコースオキシダーゼを有効成分として当該改善剤当たり、0.01ユニット以上含有させればよい。通常はグルコースオキシダーゼを0.1ユニット~100000ユニット、好ましくは1ユニット~10000ユニット含有させればよい。
【0030】
当該改善剤はグルコースオキシダーゼのみを含有させてもよく、グルコースオキシダーゼに賦形剤(例えば、グルコース、ラクトース等の糖類、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール等)等を加えたり、あるいは、グルコースオキシダーゼ反応で生成するHを除去するために例えばカタラーゼの他の酵素等も配合しても構わない。
【実施例
【0031】
以下に本発明を実施例に基づいて説明する。尚、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
じゃがいもを15mm×15mm×15mmに角切りして蒸し器で蒸煮して可食可能にした。蒸煮条件は98℃で30分であった。この蒸煮したじゃがいもに、表1記載の配合割合で、ドレッシング、調味料(アミノ酸、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム)、食塩、砂糖、グルコースオキシダーゼ(酵素)、水、副具材(たまねぎ、にんじん)の順に加え、室温(25℃)で5分間混合した。尚、副具材のうち、たまねぎは10mm×10mm×10mmに、にんじんは5mm×5mm×5mmにそれぞれ角切りにし、たまねぎは、98℃で3分間、にんじんは、98℃で4分間、茹でたものを使用した。
【0033】
【表1】
【0034】
使用したグルコースオキシダーゼの比活性は400ユニット/gであった。
【0035】
混合後、各500gを500g用のパウチ袋に充填して密封し(ヒートシール)、室温(25℃)で30分間置いてから、75℃の湯浴中で40分間加熱殺菌した。次いで、冷却水に30分間浸けて10℃以下になるよう冷却した。
【0036】
これを5℃の冷蔵庫に保存し、保存15日目、30日目、45日目、60日目に取り出して、食感と風味を8名のパネルメンバーで官能評価した。尚、コントロールは、グルコースオキシダーゼを添加しない以外は全く同じ配合、同じ製造条件で調製した。官能評価はロングライフサラダの官能評価については少なくとも5年以上の経験のあるパネラー8名で行った。評価点は官能評価後にパネラー全員で協議して決定した。得られた結果を表2~5に示す。表2~5から分かるようにグルコースオキシダーゼを配合したロングライフサラダは好ましい風味や食感を有した。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
尚、評価の基準は表6の通りである。
【0042】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、ポテトサラダ等のロングライフサラダに効果があり、ロングライフサラダの風味や食感を長期にわたって好ましく維持できるので、ロングライフサラダについて幅広く利用できる。また、賞味期限が短いショートライフサラダの風味や食感も改善することが出来るので、ショートライフサラダについても利用できる。