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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】ラクチド回収方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 319/12 20060101AFI20230307BHJP
   B01D 9/02 20060101ALI20230307BHJP
   C08J 11/16 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C07D319/12
B01D9/02 601K
B01D9/02 602B
B01D9/02 602D
B01D9/02 603H
B01D9/02 604
B01D9/02 611A
B01D9/02 611B
B01D9/02 612
B01D9/02 617
B01D9/02 618A
C08J11/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019006776
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2020114806
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓郎
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0065732(US,A1)
【文献】特開2017-132730(JP,A)
【文献】特開2010-126490(JP,A)
【文献】特開2010-168415(JP,A)
【文献】特表2012-524712(JP,A)
【文献】特開平06-256340(JP,A)
【文献】特開2011-173844(JP,A)
【文献】国際公開第2014/139730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
B01D
C08J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸と解重合触媒とを溶融混練し、該溶融混練物をベント室内に供給し、減圧下に保持された該ベント室内でポリ乳酸の解重合を行い、生成したラクチドをガス化して該ベント室から回収し、回収したガス状ラクチドを液化し、液化した液状ラクチドを晶析タンク内に導入し、前記晶析タンクに導入された液状ラクチドを常圧から加圧の条件下に冷却することにより結晶化を行うと同時に、結晶化せずに残存している液状物を該晶析タンク内から除去し、結晶化したラクチドを得ることを特徴とするラクチド回収方法。
【請求項2】
前記結晶化したラクチドを加熱して液状で回収する請求項1に記載のラクチド回収方法。
【請求項3】
前記液状ラクチドの常圧から加圧の条件下での結晶化を一定時間行った後、該晶析タンク内を初期圧に戻し、この状態で結晶化されていない未結晶液状ラクチドを該晶析タンクから排出する請求項に記載のラクチド回収方法。
【請求項4】
前記未結晶液状ラクチドを排出した後、該晶析タンク内を加熱し、該結晶タンク内に存在している結晶化ラクチドを液化して回収する請求項に記載のラクチド回収方法。
【請求項5】
前記晶析タンクには、1または2以上の補助晶析タンクが直列に配置されており、前記晶析タンクから排出された未結晶液状ラクチドを、前記補助晶析タンクで順次結晶化させ且つ未結晶液状ラクチドを排出し、各補助晶析タンクで生成した結晶化ラクチドを液状で回収する請求項に記載のラクチド回収方法。
【請求項6】
前記補助晶析タンクが複数設けられているときには、各補助晶析タンクから排出された未結晶液状ラクチドは、順次、次の補助晶析タンクに導入されて結晶化が行われる請求項に記載のラクチド回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を解重合することにより生成するラクチドを回収する方法に関するものであり、特に光学的純度の高いラクチドを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック使用量の増大に伴うプラスチック廃棄物の異常な増大を解決する手段として、バクテリヤや真菌類が体外に放出する酵素の作用で崩壊する生分解性プラスチックが注目されている。このような生分解性プラスチックの中でも、工業的に量産され、入手が容易であり、環境にも優しい脂肪族ポリエステルとして、ポリ乳酸が注目され、広範囲の分野での適用が進められている。
【0003】
ポリ乳酸(PLA)は、トウモロコシなどの穀物でんぷんを原料とした樹脂であり、でんぷんの乳酸発酵物、L-乳酸をモノマーとする直接重縮合や、乳酸二量体(ダイマー)であるラクチドの開環重合で製造される。この重合体は、自然界に存在する微生物により、水と炭酸ガスに分解され、生物学的にも完全リサイクルシステム型の樹脂として、着目されている。
【0004】
リサイクルシステムとして、最近、ポリ乳酸を熱分解して再利用する、ポリ乳酸ケミカルリサイクル手法が注目を浴びている。この方法は、ポリ乳酸を解重合触媒の存在下、加熱することで、選択的にラクチドに解重合し、回収ラクチドを再度開環重合することで、ポリ乳酸として再利用するというものである。
【0005】
ポリ乳酸からラクチドを回収する回収装置は、例えば特許文献1及び2で提案されているが、これら特許文献で提案されている装置は、ポリ乳酸と解重合触媒、及び、キャリヤ樹脂を、二軸押出機に投入し、溶融混練し、この溶融混練物を、二軸押出機中のベント室(ベントゾーン)にスクリュー搬送(前走)し、このベント室でポリ乳酸の解重合を行い、生成したラクチドをガス化することで、ガス状ラクチドを回収している。即ち、ポリ乳酸の解重合で生成する低分子量ラクチド(分子量Mw=144)は、標準大気圧下(standard atmosphere)の沸点が255℃と高いが、上記解重合温度で、ベント室を所定の真空度に減圧にすることにより、生成ラクチドの沸点降下を誘引し、ラクチドのみを選択的にガス化し分離回収することができている。
【0006】
このような回収方法で実施されるラクチド回収は、実験室レベルの実験では問題なく行えるが、大量のポリ乳酸を連続投入する工業的なケミカルリサイクルの実施においては、解決すべき問題点が残されていた。
例えば、上記方法では、押出機中で解重合触媒の混合と解重合を実施しているため、ラクチド回収率の低下や光学純度の低下が生じていた。つまり、押出機内で解重合する場合は、押出機の温度制御が重要であるにもかかわらず、温度制御が難しく、高温に晒された場合など、ラセミ化を生じ、得られるラクチドの純度が低下するという問題があった。例えば、L-ラクチドの回収を目的とした場合、ラセミ化の進行により、meso-ラクチド、さらにはD-ラクチドへ光学異性転移を生じ、目的とするL-ラクチドの純度低下が生じていた。
また、上記方法では、キャリヤ樹脂を押出機内でスクリュー搬送(前走)させ、このキャリヤ樹脂の前走移動により溶融粘度の小さなポリ乳酸の溶融物や解重合触媒を搬送(前走)していた。しかしながら、キャリヤ樹脂は、減圧されているベント室に導入されたとき、圧力開放により膨張し、並びに、解重合ラクチドの膨張により、キャリヤ樹脂が樹脂塊となってスクリュー搬送路から浮いてしまうという現象が本発明者等の研究で確認されている。このように樹脂塊が大きく成長すると、キャリヤ樹脂がベント室全面を覆い、ガス状ラクチドの通路を閉塞し、ガス状ラクチドが揮発できなかったり、つまり、ラクチド回収効率が大幅に低下していた。
さらには、樹脂塊が飛散し、ベント室から捕集するラクチドに混入するという重大な問題を生じることもあった。
上記のようにキャリヤ樹脂の樹脂塊によりガス状ラクチドが揮発しにくい状態、あるいは揮発しなくなった状態を、一般に「ベントアップ」と呼んでいる。
【0007】
また、特許文献3には、ポリ乳酸と解重合触媒を押出機で溶融混練し、該溶融混練物をベント室内に供給し、減圧下に保持された該ベント室内でポリ乳酸の解重合を行い、生成したラクチドをガス化して、該ベント室からラクチドをガス回収し、更に、ガス回収したラクチドを液化させ、液状ラクチドとして回収する方法が、本発明者等により提案されている。
かかる方法は、ポリ乳酸の解重合により生成するラクチドを、短時間で大量に回収することができるばかりか、その回収されたラクチドの純度も高く、さらに、樹脂塊の生成を有効に回避することができ、ベントアップが生じることなく、ラクチドを回収することができる。
【0008】
ところで、ポリ乳酸は、光学純度の低下に伴い結晶性が低下し、耐熱性や機械的強度が低下する。そのため、耐熱性や機械的強度が要求される用途、例えば包装容器製品向けのポリ乳酸においては、光学純度の高い乳酸やラクチド(乳酸二量体)を原料としたポリ乳酸の製造がなされている。従って、本発明のように、ポリ乳酸から回収したラクチドについても、ポリ乳酸に再重合する場合においては、高い光学純度のラクチドに精製する必要がある。
【0009】
ところで、上述した特許文献3では、光学的純度の高いラクチドを短時間で大量に回収することができるが、上記ケミカルリサイクルのプロセスの中においても、つまり、回収プロセス中の熱履歴や配管内へのラクチド滞留などにより、わずかではあるが、エステル-ヘミアセタール互変異性化反応によりラセミ化を生じている。そのため、より光学純度の高いラクチドを得るためには、回収したラクチドの精製が必要であり。このような精製処理については、特許文献3で、全く検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-126490号公報
【文献】特許第5051729号公報
【文献】特開2017-132730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、ポリ乳酸の解重合により生成するラクチドをより高純度で、且つ、効率よく回収できるラクチドの回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ポリ乳酸と解重合触媒とを押出機で溶融混練し、該溶融混練物をベント室内に供給し、減圧下に保持された該ベント室内でポリ乳酸の解重合を行い、生成したラクチドを選択的にガス化して該ベント室から回収し、回収したガス状ラクチドを液化し、液化した液状ラクチドを晶析タンク内に導入し、前記晶析タンクに導入された液状ラクチドを常圧から加圧の条件下に冷却することにより結晶化を行うと同時に、該晶析タンクで結晶化せずに残存した液状物を該晶析タンク内から除去し、別の晶析出タンクに導入し、晶析処理を繰り返すことにより、光学純度の極めて高いラクチドに精製・回収するラクチド回収方法が提供される。
【0013】
本発明のラクチドの回収方法においては、
(1)前記結晶化したラクチドを加熱して液状で回収すること
(2)前記液状ラクチドの常圧~加圧下での結晶化を一定時間行った後、該晶析タンク内を初期圧に戻し、この状態で結晶化されていない未結晶液状ラクチドを該晶析タンクから排出すること、
)前記未結晶液状ラクチドを排出後、該晶析タンク内を加熱し、該結晶タンク内に存在している結晶化ラクチドを液化回収すること、
)前記晶析タンクには、1または2以上の補助の晶析タンクが直列に配置されており、前記晶析タンクから排出された未結晶液状ラクチドを、前記補助晶析タンクに導入し、順次結晶化させ且つ未結晶液状ラクチドを排出し、各補助晶析タンクで生成した結晶化ラクチドを液状で回収する操作を繰り返すこと、
)前記補助晶析タンクが複数設けられているときには、各補助晶析タンクから排出された未結晶液状ラクチドは、順次、次の補助晶析タンクに導入されて結晶化が行われること、
が好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、ポリ乳酸と解重合触媒との溶融混練を押出機中で行い、該押出機に連なるベント室でポリ乳酸の解重合と生成ラクチドのガス化を行う。
即ち、押出機内でポリ乳酸を解重合する場合は、押出機の温度調整が難しく、生成するラクチドはラセミ化が進行し易く、光学異性体を含まない高純度のラクチドを得にくい。つまり、ポリ乳酸の解重合そのものは吸熱反応であり、反応の進行に伴い、押出機の温度を低下させる、この押出機の温度の低下に対し、外部加熱装置のヒータで押出機温度を調整することになるが、このヒータ加熱(シリンダー壁)に加え、押出機のスクリューの回転による内部加熱(剪断発熱)も生じる。通常、剪断発熱による温度上昇は、~60℃が見込まれ、そのため、解重合による吸熱、ヒータによる外部加熱、及び、スクリュー回転で派生する内部加熱(剪断発熱)の熱バランスを調整していく必要があり、押出機内部で解重合する場合の温度調整は極めて難しい。表示温度が安定していても、局所的には剪断発熱で必要以上の高い温度に加熱されてしまう場合もあり、解重合でラクチドが生成し、そのラセミ化が進行している場合もある。
しかるに、本発明では、押出機中では、ポリ乳酸の解重合を行わず、温度制御が容易なベント室内で解重合を実施するため、生成ラクチドのラセミ化を有効に防止することができる。
【0015】
上記のようにしてベント室で生成したラクチド(ガス状ラクチド)を液化し、回収するが、ラセミ化が完全に防止されているわけではなく、少量ではあるが、光学異性体、及び、その他の不純物を含んでいる。そのため、本発明では、得られた液状ラクチド(粗ラクチド)を晶析タンクに導入し、晶析処理することで、光学異性体や他の不純物を除去し、高純度ラクチド(例えば L-ラクチド)を得ている。即ち、ベント室で生成したガス状ラクチドを液状化した液状粗ラクチドには、含有量は少ないものの光学異性体(例えば D-ラクチド)や他の不純物も少量含んでいるので、ここでは、晶析法により精製しており、即ち、組成比率の高いラクチド(例えばL-ラクチド)から優先的に結晶化していく結晶化挙動を利用し、組成比率の高いラクチド(例えばL-ラクチド)と、組成比率の低い光学異性ラクチド(例えば D-ラクチド)、及び、不純物を分離精製している。
このように、本発明では、一連の工程の中で光学異性体を含む粗ラクチドを精製することにより、ポリ乳酸のケミカルリサイクル全行程で、高い光学純度のラクチド(例えばL-ラクチド)を効率よく回収できるシステムとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の回収方法を好適に実施するために使用される回収装置の概略構造を示す図。
図2図1の回収装置における押出機及びベント室の断面構造の一例を示す図。
図3図1の回収装置における押出機及びベント室の断面構造の他の例を示す図。
図4図1の回収装置における晶析タンクの配置の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照して、本発明のラクチド回収方法を実施するために使用される回収装置は、大まかに言って、押出機(溶融混練装置)1、押出機1に連なるベント室3、ベント室3に連なる捕集装置5を含んでおり、捕集装置5側に設けられている真空ポンプ7により、ベント室3が所定の減圧度(真空度)に保持されるようになっている。
また、この捕集装置5では、凝集器53にて、ガス状ラクチドを液状ラクチド(粗ラクチド)に凝集(相転移)後、この液状粗ラクチドを回収しているが、この液状粗ラクチドを、精製装置80に導入し、結晶化でラクチドを精製している。精製されたラクチドのみを、回収室100に回収する構成となっている。
【0018】
本発明では、このような回収装置を使用し、ポリ乳酸、及び、解重合用触媒、さらには必要に応じキャリヤ樹脂を、押出機1に投入し、押出機1のシリンダー内で溶融混練し、この溶融混練物(溶融樹脂)をベント室3に供給し、このベント室3において、ポリ乳酸を解重合させ、ポリ乳酸の解重合により生成したラクチドをガス状化し、捕集管15を介してベント室3から捕集装置5に導入し、気液分離塔51と第1の凝集器53を経て液状化し、この液状ラクチドを、受け器59に一旦捕集後、この受け器59から精製装置80に供給される。
【0019】
ラクチド回収のために使用されるポリ乳酸としては、市場回収品(Post Consumer)や樹脂加工メーカー工場から排出される産業廃棄物、或いはポリ乳酸樹脂の製造工程で発生するスペックアウト品が使用される。さらに、L-乳酸(PLLA)とD-乳酸(PDLA)を溶融混合したステレオコンプレックス(Sc-PLA)でもよい。また、分子鎖中のL-乳酸単位とD-乳酸単位とが混在したメソタイプのものであっても差し支えない
勿論、バージンのポリ乳酸であっても問題はない。
また、用いるポリ乳酸は、少量の共重合単位が組みこまれているもの、例えば、50モル%以上が乳酸単位であることを条件として、ラクチドと共重合可能なラクトン類、環状エーテル類、環状アミド類、各種アルコール類、カルボン酸類などに由来する単位を含んでいてもよい。
【0020】
ポリ乳酸の解重合用触媒としては、MgOが代表的であり、最も好適に使用されるが、CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属酸化物なども使用し得る。更に、重合触媒に使用されるSn(II)2-ethyle hexanoateや難燃剤である水酸化アルミニウムAl(OH)も好適に使用することができる。またこれら触媒を混合して使用することもできる。この解重合触媒の使用により、ポリ乳酸の熱分解が促進され、ポリ乳酸の低分子量化が進行する。例えば、押出機1のホッパー投入時には約Mw=20万の分子量であったポリ乳酸が、分子量Mw=144のラクチドまで分解する。また、MgOは、解重合反応時のラセミ化現象を抑制する効果もあり、本発明では、最も好適に使用される。
【0021】
上記のポリ乳酸の解重合用触媒は、通常、ポリ乳酸100質量部当り、0.01~5質量部の量で使用される。
【0022】
また、必要により使用されるキャリヤ樹脂は、ポリ乳酸の解重合に悪影響を与えず、且つ、ポリ乳酸の解重合により生成するラクチドに対して反応性を示さない限りにおいて、種々の熱可塑性樹脂を使用することができる。一般的には、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート(PC)等のポリエーテル、ポリスチレン(PS)などのスチロール樹脂などが好適に使用される。なかでも溶融粘度の高い、HDPE、LDPE、PPを好適に使用できる。
【0023】
押出機1、及び、ベント室3の断面構造の一例を示す図2を参照して、上記で述べたポリ乳酸、解重合触媒、及び、必要により使用されるキャリヤ樹脂は、先端がベント室3に通じている押出機1内に投入される。
図2において、押出機1は、筒状のシリンダー壁20の内部に押出スクリュー21,23を備えた2軸構造を有しているが、勿論、押出スクリューが1本の単軸構造を有する一軸押出機を使用することもできる。
かかる押出機1は、2つのホッパー1a,1bを有し、押出スクリュー21,23の押出方向に対して、上流側にホッパー1aが位置し、下流側にホッパー1bが位置している。
尚、この押出機1の先端吐出口1’は、この形状に限定されるものではないが、テーパー状先細り形状を有しており、ベント室3内にまで延びている。これにより、溶融樹脂がスムーズにベント室3内に押し出される。
且つ、ポリ乳酸を含む溶融混練物は、解重合することなく押出スクリューとシリンダー壁間の狭い空隙を前走移動するので、押出スクリューとシリンダー壁との狭い空隙の真空シールをも効果的に実現できている。
【0024】
また、図示されていないが、シリンダー壁20にはヒータが装着されており、このヒータにより押出機1内部が加熱されるようになっている。本発明では、押出機1の内部温度は、押出機1内に投入されるポリ乳酸を溶融させる温度よりも高いが、解重合を生じない程度の温度に加熱しており、例えば、押出機1吐出口1’における樹脂温度が270℃以下に、特に170~270℃に、より好ましくは200~255℃の範囲に押出機1内部を加熱している。
【0025】
前述したポリ乳酸、解重合触媒、及び、必要により使用されるキャリヤ樹脂は、吐出口1’で樹脂温度が上記の範囲となるように、押出機1内で溶融混練され、押出スクリュー21,23により搬送されて吐出口1’から、減圧されているベント室3内に押し出される。
この場合、ポリ乳酸、及び、必要に応じて使用されるキャリヤ樹脂は、上流側のホッパー1aから投入されるが、解重合触媒は、下流側に位置しているホッパー1bから投入されることが望ましい。
【0026】
即ち、ポリ乳酸と解重合触媒が接触している状態で高温に加熱されると、解重合によりラクチドの生成とラクチドのラセミ化を生じ、回収されるラクチドの純度が低下するおそれがある。押出機1内の温度は、解重合が生じない程度の温度に設定されているため、原理的には解重合もラセミ化も生じないが、図2から理解されるように、押出機1内には押出スクリュー21,23が設けられており、シリンダー壁20と押出スクリュー21,23との間の非常に狭い空間にポリ乳酸等が投入されて溶融混練、及び、溶融押出が行われているため、特に、押出スクリュー21,23の回転による剪断発熱で、混練物が局部的にかなりの高温に達してしまうこともありうる。解重合触媒が存在した状態で、このような高温状態の晒されると、局部的に解重合が生じ、さらには解重合で生成したラクチドのラセミ化を生じてしまうわけである。
しかるに、解重合触媒を、後流側のホッパー1bから投入することにより、局部的な高温の剪断発熱が生じたとしても、押出機1内での滞留時間が短く、解重合触媒の存在下で高温状態に晒される時間が大幅に短縮されるため、ラクチドの生成や、そのラセミ化をより有効に回避することができる。
【0027】
尚、ラセミ化を確実に防止するために、解重合触媒をベント室3で供給する手法も考えられるが、かかる手段は採用できない。ベント室3での混合撹拌能力は、押出機1に比してかなり劣っているため、ポリ乳酸と解重合触媒とをムラなく均一に接触させることが困難となり、解重合を効果的に行うことが困難となってしまうからである。
【0028】
また、本発明においては、通常の回収方法で不可欠であるキャリヤ樹脂の使用量を低減させ、さらには、その使用を省略し、キャリヤレスとすることもできる。
【0029】
即ち、分子量によって異なるが、ポリ乳酸は、通常のポリマーに比し、溶融粘度が低く、一般的に、270℃以上の温度での押出成形にて、溶融ポリ乳酸のスクリュー搬送(前走)は困難である。スクリューが空回りに近い状態になってしまうからである。このため、通常、これらの高温度押出では、キャリヤ樹脂を併用することで、ポリ乳酸溶融物を含む溶融樹脂の粘性を高め、効率よく、ポリ乳酸溶融物をスクリュー搬送(前走)できるようにしている。つまり、ポリ乳酸に比し溶融粘度の高いキャリヤ樹脂をある程度以上の量でポリ乳酸と溶融混合することにより、押出機1のシリンダー20の内面とスクリュー21,23との間の空隙を溶融混合物が充満した状態を維持しながら、スクリュー搬送(前走)することができる。即ち、キャリヤ樹脂の使用により、シリンダー20の内面とスクリュー21,23との間の空隙が常に真空シールされている状態を保持することも可能となり、これにより、ベント室3の減圧も効果的に行うことができている。
このように、キャリヤ樹脂を用いることにより、ポリ乳酸溶融物のスクリュー搬送(前走:押出)が効果的に行うことができ、さらに、ベント室3の減圧度(真空度)も確保できるため、一般的な方法として、ポリ乳酸100質量部当り150質量部以上の量のキャリヤ樹脂が使用されるわけであるが、本発明では、押出機1中では解重合を行わないため、押出機1の吐出口1’での樹脂温が270℃以下となるように低く設定している。そのため、キャリヤ樹脂の使用量を低減させ、さらには、キャリヤ樹脂を使用しなくとも、ラクチドの回収装置を運転することができる。
即ち、押出機1内の温度を低く設定しているため、押出機1内で溶融したポリ乳酸の溶融粘度も高く、その結果、キャリヤ樹脂の使用量を、例えば20質量部未満に低減させ、さらにはキャリヤ樹脂を使用しなくとも、ポリ乳酸のスクリュー搬送(前走)を効果的に行うことができ、同時に押出機内の真空シール性も確保でき、ベント室3内の減圧度(真空度)の維持が可能となっている。
【0030】
さらに、本発明において、上記のようにキャリヤ樹脂の使用量を低減させ、さらにキャリヤ樹脂を全く使用しない場合は、稼働コストの低減に極めて有利であるばかりか、ベントアップの要因となる樹脂塊の生成を有効に防止することができ、工業的実施において極めて効果的な手法となる。
【0031】
ポリ乳酸及び解重合触媒を含む溶融樹脂は、減圧状態に保持されたベント室3内に押し出され、このベント室3内でポリ乳酸の解重合及び解重合により生成したラクチドのガス化が行われる。
【0032】
かかるベント室3は、ポリ乳酸の解重合及び解重合により生成したラクチドのガス化を効果的に行うために、全体として漏斗形状を有しており、ベント室3の外壁に装着されているヒータ(図示せず)により、ベント室3内の溶融樹脂(図2において33で示されている)の温度が250~330℃、特に270~320℃に保持されるように加熱され、さらに、真空ポンプ7の作動により、8kPaA以下、特に0.1~8kPaAに減圧されている。ベント室3内の樹脂温が上記範囲を下回ると、解重合反応が開始せず、ラクチドが生成しないおそれがあり、また、ベント室3内の樹脂温が上記範囲を上回ると、ラクチドのラセミ化が促進し、回収されるラクチドの光学的純度が低下するおそれがある。
【0033】
また、ベント室3には、その中心部分を上下方向に延びている撹拌軸30が設けられており、この撹拌軸30には螺旋状の撹拌羽根31が設けられており、押出機1から供給された溶融樹脂33を撹拌しながらポリ乳酸の解重合、及び、生成するラクチドのガス化が有効に行われるように構成されている。
【0034】
即ち、ベント室3内では、解重合によりポリ乳酸の低分子量化が進行し、ポリ乳酸の基本単位を形成しているラクチド(乳酸2量体)が得られるが、このラクチドは、標準大気圧下の沸点が255℃であるため、大気圧(常圧)下では、気液相分離の境界領域のため、安定したラクチドのガス化、及び、安定したガスラクチドの捕集が困難である。即ち、常圧下での液状ラクチドとガス状ラクチドが共存する状態では、他成分(キャリヤ樹脂を用いた場合のキャリヤ樹脂や不純物)とラクチドの分離も、効果的、且つ、安定的に行うことができない。そのため、ベント室3の温度範囲(250~330℃)で、ラクチドを沸点降下させ、ベント室3内部の温度・真空状態で、ラクチドを気化させ回収している。
【0035】
また、ベント室3には、2つの排出管3a,3bが連結されていることが好適である。
排出管3aは、ベント室3の底部に連結されており、ガス化によりラクチドが除去された後の溶融樹脂33の残渣(触媒残渣や必要により使用されるキャリヤ樹脂など)は、ベント室3の底部に設けられている排出管3aから排出されて廃棄されるようになっている。ベント室3は、溶融樹脂33の攪拌効率を高くするという点で、図2に示されているように全体として漏斗形状を有していることが好ましいが、かかる排出管3aからの残渣の排出を効果的に行うためにも、ベント室3は、漏斗形状を有していることが好ましい。
他方の排出管3bは、ベント室3の側壁に連結されており、溶融樹脂33の表面部に存在する低比重の不純物を除去するためのものである。即ち、本発明方法に使用されるポリ乳酸は、一般的には、種々の添加剤が配合されており、これらの中には、ポリ乳酸よりも比重の低いものも存在する。また、必要により使用されるキャリヤ樹脂の中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)などはポリ乳酸よりも比重が高く重いが、オレフィン系樹脂などはポリ乳酸よりも比重が低く軽い。このような低比重の不純物は、ベント室3内の溶融樹脂33の表面に浮いてくるおそれがある。生成したラクチドのガス化は溶融樹脂33を撹拌しながら行われるため、このような低比重の不純物の存在はさほど問題とはならないが、表面に浮いた低比重不純物の量が多くなってしまうと、ラクチドのガス化が阻害されるおそれがある。このため、ベント室3の側壁部の上方に排出管3bを設け、溶融樹脂33の表面に浮いた低比重不純物を適宜除去し得るようにしておくことが好適となる。
【0036】
従来から行われている一般的な方法で、キャリヤ樹脂を用いて解重合、及び、ラクチドのガス化を行う場合、前述したように、キャリヤ樹脂の塊状物が形成され、この塊状物がラクチドのガス化を妨げたり、或いは、捕集管15内に入り込んでしまうなど、ベントアップを生じせしめることがあるが、本発明ではキャリヤ樹脂の使用量を低減させ、さらにはキャリヤ樹脂の使用を省略することができ、このような問題を有効に或いは確実に回避することができる。
【0037】
さらに、ベント室3によりガス化されたラクチドは、ベント室3の上部壁(或いは天井壁)に設けられている捕集管15を介して捕集装置5に導入されるが、図2に示されているように、この捕集管15は、上方に傾斜して延びており且つ、真空ブレイク防止弁50が設けられており、異常時等に、この弁50を開閉し得るようになっている。
【0038】
また、この捕集管15の入り口部分には、還流液を受けるための受け槽15aを設けておくことが望ましい。即ち、捕集管15内で液化したラクチドは、この受け槽15aで捕集し、ベント室3内に流れ落ちないような構造にしておくことがラクチドのラセミ化を防止する上で好適である。ラクチドが液化、及び、ガス化を繰り返すと(還流が繰り返される)と、ラセミ化反応が進行する。
尚、この受け槽15aには、真空ブレイク/復旧ライン15b及び回収ライン15cが設けられており、ベント室3の減圧度(真空度)を保持し、受け槽15aに還流したラクチドを回収し得るようにしておくことが望ましい。
【0039】
尚、ベント室3の天井壁は、図2に示されているように、径方向外方に向かって下方に傾斜した傾斜壁としておくことが好ましく、このような傾斜壁に、ベント室3内を観察するための覗き窓35を設けておくことが望ましい。即ち、覗き窓35によってガス状ラクチドと液状ラクチドの還流状態を目視確認することができる。
覗き窓35は、二重窓とし、保温性を高めてガス化されたラクチドの液化を防止する構造とすることが好ましく、また、図2では省略されているが、ベント室3の側壁部分には、上記の捕集管15と同様、このような還流液を回収するための受け槽を設けておくことが好ましい。
【0040】
図1に戻って、上述した捕集管15が連結している捕集装置5においては、気液分離塔51、第1の凝縮器53、第2の凝縮器55及び深冷トラップ57を備えており、これにより、ベント室3から捕集されたガス状ラクチドと他不純物を有効に分離することができる。即ち、ライン真空度、凝縮器温度により、ラクチドのみを選択的に回収することができる。即ち、ベント室3で捕集されたガス状ラクチドは、ラクチド以外に、乳酸オリゴマー、或いはキャリヤ樹脂に配合されていた滑剤等の各種の低分子化合物などが含まれているため、これらの分離・除去を行う必要がある。
【0041】
具体的には、ガス回収したラクチドを、気液分離塔(整流塔)51に通し気液分離塔内のデミスターで高分子量オリゴマー成分を除去後、第1の凝縮器(熱交換器)53の熱交換(冷却)により、ガス状ラクチドを液体ラクチドに相転移(Phase change)させ、液状物ラクチドとして回収する。
【0042】
凝集器53による熱交換相転換温度は、ライン真空度にも依存するが、一般に、標準大気圧下のラクチド(L-ラクチド/D-ラクチド)沸点、及び、融点がそれぞれ、255℃、及び、92℃~94℃であり、ラインの真空度0.1KPaA~8KPaAの範囲では、凝集器53の熱交換温度は60℃~140℃が好ましく、真空度範囲が0.5PaA~4KPaAでは、凝集器53の熱交換温度は80℃~100℃がより好ましい。
尚、捕集装置ラインが0.1KPaAよりも低い、言い換えれば、真空度の高い状態では、気液分離塔51や第1の凝縮器53を通過するガス状ラクチドの流速(風速)が速く、十分な熱交換が行われず、ラクチド回収率を低下させるおそれがある。また、捕集装置ラインが8KPaAよりも高い、言い換えれば、真空度の低い状況では、ラクチドの沸点降下を誘引できず、ラクチドのガス化が不十分となり、ラクチド回収率が低下するおそれがある。
また、凝集器53の熱交換温度が上記範囲より低いと、低沸点の不純物成分も凝集・液状化させてしまい、回収ラクチドの純度が落ちる虞があり、逆に、凝集器53の熱交換温度が上記範囲より高いと、ラクチドの液状化が起こりにくく、ラクチドの回収効率が低下する虞がある。
【0043】
また、ポリ乳酸解重合物(ラクチド)をガス回収するため、捕集装置5内の設備(気液分離塔51,第1の凝集器53、第2の凝集器55など)はベント室3よりも高い位置に設置することが好ましい。
【0044】
このように回収されたガス状ラクチドは、第1の凝縮器(熱交換器)53で、90℃程度に冷却され、これにより、ラクチドが液状に相転移され、受け器59に液状ラクチドが回収される。残留ガス状成分は、第2の凝縮器(熱交換機)55で5℃程度に冷却され、低沸点の化合物(低分子)を選択的に除去することになる。最後に、-50℃程度まで冷却した深冷トラップ57により、高揮発性成分の残存化合物を液化し除去することになる。
【0045】
尚、前記、受け槽15aの底部に溜まった液は、そのまま廃棄することもできるし、問題が無ければ、受け器59で回収された液状ラクチドと合わせて、精製工程に導入することもできる。
【0046】
上述した図1、及び、図2の例では、押出機1が水平方向に延びているが、この押出機1は、傾斜して延びてベント室3に連結されていてもよいし、上下方向(垂直方向)に延びてベント室3に連結されていてもよい。図3には、押出機1が上下方向に延びている例が示されている。
即ち、押出機1の吐出口1’からは、溶融樹脂33が紐状に押し出されるが、押出機1が傾斜して設けられている場合、或いは図3に示されているように、垂直方向に延びている場合は、紐状に押し出される溶融樹脂33が、ベント室3の側壁に沿って垂れ落ちることなく、スムーズにベント室3内に供給できるという利点がある。
【0047】
また、図3においては、基本的な構造は図2に示されている装置と同じであり、全て同じ数字で各部材が示されている。例えば、図3の例では、覗き窓35が垂直方向に延びている側壁に設けられているが、この場合においても、捕集管15と同様、ラクチドの還流状態を目視観測するために有効で有り、且つ、覗き窓35の下方の側壁には、捕集管15と同様、ラクチド還流液を回収するための受け槽を設けておくことが好ましい。
【0048】
また、上述した装置を用いて行われる本発明のラクチド回収方法においては、押出機1からポリ乳酸を含む溶融樹脂をベント室3内に供給しながら、ベント室3内で解重合、及び、ラクチドのガス状化を連続的に行うことが好ましいが、勿論、バッチ式でラクチドの回収を行うこともできる。即ち、一定量の溶融樹脂をベント室3内に供給した後、押出機1を停止し、ベント室3内で解重合及びラクチドのガス状化を実施することもできる。
【0049】
本発明においては、上記のように受け器59に捕集された液状粗ラクチドを精製装置(晶析タンク)80に導入し、晶析を行い、不純物や光学異性体を除去することで、高い光学純度の精製ラクチドを回収室100に回収する。即ち、受け器59に捕集された液状粗ラクチドは、この段階では、ラセミ化が完全に防止されているわけではなく、少量の光学異性体や不純物が含まれている。尚、ポリ乳酸により耐熱性や機械的強度に優れた成形体に成形するためには、光学純度の高いポリ乳酸が必要とされ、受け器59の捕集された粗ラクチドも、ポリ乳酸の重合に供給するためには、精製し光学純度を高める必要がある。
従って、受け器59に回収された液状ラクチドを精製装置(晶析タンク)80に導入し、組成比率の高い成分(例えばL-ラクチド)から優先的に結晶化していく晶析挙動を適用し、初期の結晶成分(この場合L-ラクチド)と結晶化しにくい光学異性体(この場合 D-ラクチド)と他不純物の混合物を、固・液分離法で、分離精製する。
【0050】
本発明において、上記の精製装置80は、晶析タンク90を含んでおり、この晶析タンク90に上記液状粗ラクチドを導入し、その晶析法にて、不純物である光学異性体と不純物を除去する。即ち、液状ラクチドを結晶化すると、組成比率の高いラクチド(例えばL-ラクチド)の結晶化が優先的に進み、組成比率の低い光学異性体のラクチド(この場合D-ラクチド)やその他不純物は結晶化が進まないため、固・液分離により組成比率の高い高純度ラクチドのみを単離・抽出することになる。
このような結晶挙動を用いた光学異性体の除去については、例えば、以下のようにして行われる。
【0051】
晶析による結晶化が行われる晶析タンク90は、冷媒と熱媒の循環により冷却・加熱が可能な外套を備え、内部にもやはり冷媒と熱媒の循環により冷却・加熱可能な羽根板を備えている。また、底部には、結晶化されずに残る未結晶の液状ラクチド(不純ラクチド)を排出しやすくする貯留部を備え、この貯留部も個別に冷媒と熱媒の循環可能で冷却・加熱可能な構成になっている。
尚、図1の、晶析タンク90内を加圧するためのガス供給口や排気口は省略されている。同様に、図4の補助晶析タンク91も、補助晶析タンク91内を加圧するためのガス供給口や排気口が省略されている。
【0052】
上記外套や冷却板を、90~20℃の温度範囲に冷却・保持し、貯留部の不純ラクチドの排出口周辺部のみを90℃程度に加熱しておく。この晶析タンク90に、受け器59に溜まった粗ラクチドを導入後密封し、タンク90内に不活性ガス等のガス流体導入し、101~250kPa程度に加圧(常圧~2.5気圧範囲)する。即ち、標準大気圧下の圧力条件での融点が92~94℃のラクチドを、上記加圧(常圧を含む)条件にて、凝固しやすい環境条件にする。
【0053】
晶析タンク90内に導入された粗ラクチドは、上記の条件下、静置、或いは、撹拌で一定時間保持され、常圧~加圧条件下の冷却により、組成比率の高いラクチド(例えば L-ラクチド)が優先的に結晶化し始める。初期に組成比率の高いラクチドのみが結晶粒を形成し、晶析タンク内面や冷却板の表面に析出する一方、組成比率の低い光学異性体ラクチド(例えば D-ラクチド)は、結晶化が進まず液状のまま晶析出タンク90内に貯留することになる。
【0054】
このようにして、結晶化速度を利用した晶析処理後、晶析タンク90を開放し、常圧に戻し、はじめに貯留部に蓄積した未結晶液状ラクチド(この場合 D-ラクチドや不純物混合物)を晶析タンク90下部の不純ラクチド排出口から排出する。
不純ラクチドを排出後、晶析タンクの外套や冷却板に熱媒を供給し、外套や冷却板を加熱し、結晶ラクチドを融解させ、晶析タンク90下部の精製ラクチド排出口から取り出し、回収タンク100に回収する。
【0055】
本発明では、上記のようにして、ポリ乳酸の解重合によるラクチドの生成、及び、該ラクチドの結晶化挙動を利用した精製を行い、極めて高い光学的純度のラクチドを得ることができる。
【0056】
かかる本発明において、晶析タンク90内への粗ラクチドの導入は、受け器59内に液状粗ラクチド(粗ラクチド)が満杯となる前に行われることが必要であり、この作業手順を満たすことで、ポリ乳酸の解重合からラクチドの回収・精製の一連の工程を、ポリ乳酸の解重合を停止させることなく、連続して効率よく行うことができる。
【0057】
そのため、本発明では、図4に示すように、晶析タンク90と同様の構造を有した補助晶析タンク91を別途設け、晶析タンク90で結晶しにくい、不純ラクチド(例として D-ラクチド、及び、不純物)を含む液状の不純ラクチドを、この補助晶析タンク91に導入し、晶析タンク90同様に、常圧~加圧下の冷却により晶析処理を行う。この晶析処理により、晶析タンク同様、高い光学純度のラクチド(例えば L-ラクチド)は結晶化が進み、不純ラクチド(この場合 D-ラクチドと不純物質の混合物)を分離することができる。結晶化した結晶ラクチドは、前記晶析タンク同様、再度加熱融解させ、補助晶析タンクから回収後、精製ラクチドとして回収タンク100に回収する。
【0058】
さらに、図4の例では、補助晶析タンク91が1個しか設けられていないが、このような補助晶析タンク91を複数配置することができる。即ち、複数の補助晶析タンク91は、直列に配置され、各補助晶析タンク91で排出される未結晶の液状ラクチドを、次の補助晶析タンク91‘に導入し、さらに常圧~加圧下の冷却による晶析処理を繰り返す。各補助晶析タンク91で結晶析出したラクチドは、再度融解させ、精製ラクチドとして回収タンク100に回収する。
【0059】
このように、ポリ乳酸の解重合からラクチドの精製までの工程を連続的に行う上で、補助晶析タンク91を用いた晶析回収法は、極めて好適で、重要である。
即ち、ポリ乳酸の解重合により生成するラクチドをガス化し、ガス状ラクチドを凝縮して液状ラクチドとして受け器59に捕集する段階で、短時間に大量の液状粗ラクチドが捕集されるため、晶析タンク90内での常圧か~加圧下の冷却による晶析処理時間を短縮する必要がある。即ち、受け器59に捕集するラクチド捕集時間と晶析タンク90を用いた結晶化はその工程の時間がそれぞれ異なるため、単純に同期させると、歩留りを低下が生じる。しかるに、上記のように、補助晶析タンク91を併設し、結晶化処理を多段階で行うとことにより、タンク90の晶析時間に拘束されることなく、粗ラクチドを受け器59に捕集できる。そのため、補助晶析タンク91を用い、晶析処理を多段階で行うことで、歩留まりを有効に回避することができる。
【0060】
このような受け器59、精製装置(晶析タンク90)、及び、補助晶析タンク91を用いた晶析法によるラクチド精製は、それぞれのタンク容積が異なっていてもよく、特に、晶析タンク90、補助晶析タンク容量を大型化し、常圧~加圧下の圧力条件の冷却による熱交換率を向上させる方が好適である。
受け器59に溜った粗ラクチドを晶析タンク90へ転送する場合、晶析タンク90から補助晶析タンク91への不純ラクチドの移動は、それぞれのタンク圧力を調整することで速やかに行え、高純度ラクチド(例として L-ラクチド)は、晶析タンク90、及び、補助晶析タンク91を熱媒体で加熱し溶かす必要があるものの、晶析した高純度ラクチドは完全溶解させて回収する必要もなく、外套、冷却羽板に晶析した高純度ラクチド粒を一部析出したままで、次の液状粗ラクチドを導入してもより、むしろその方が、残留結晶粒が高純度ラクチドの結晶化の種となり、晶析結晶化が促進する、(優先晶析と同手法)ので好ましい。
【0061】
本発明において、上記のようにして得られた精製ラクチドは、光学的純度が極めて高いため、これに限定されるものではないが、耐熱性や機械的強度が要求されるポリ乳酸(例えば、包装分野に適用されるポリ乳酸)の用の樹脂としてポリマー重合に供給される。
また、結晶化されずに排出された不純ラクチドについても、そのまま廃棄することもできるが、別タンクに回収し、光学的純度が要求されない用途(漁業・農業用途の)抗菌剤・水生生物回避材や、エステル化し、化学製品として工業利用することができる。また、例えば光学純度の低いラクチドを用いたポリ乳酸を重合し、生体内生分解性製品などの医療分野の製品にも用いることもできる。
【符号の説明】
【0062】
1:押出機
1’:押出機の吐出口
3:ベント室
5:捕集装置
7:真空ポンプ
15:捕集管
15a:受け槽
20:シリンダー壁
21,23:押出スクリュー
30:撹拌軸
33:溶融樹脂
51:気液分離塔
53:第1の凝縮器
55:第2の凝縮器
59:受け器
80:精製装置
90:晶析タンク
91:補助晶析タンク
図1
図2
図3
図4