(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】分光測定装置及び分光測定方法
(51)【国際特許分類】
G01J 3/433 20060101AFI20230307BHJP
G02F 1/365 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
G01J3/433
G02F1/365
(21)【出願番号】P 2019062010
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】横山 拓馬
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-205390(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014097(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/065257(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0122806(US,A1)
【文献】特表2006-517677(JP,A)
【文献】特開平09-015661(JP,A)
【文献】特開2003-279480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 3/52
G01N 21/00 - G01N 21/74
G02F 1/365
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源からの広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長する伸長素子と、
伸長素子でパルス幅が伸長された広帯域パルス光を二つに分割する分割素子と、
分割素子で分割されたうちの一方の光が照射された対象物からの光を受光する第一の受光器と、
分割素子で分割されたうちの他方の光が照射された対象物からの光を受光する第二の受光器と、
第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段と
を備えており、
第一第二の受光器は、分光感度特性が互いに異なるものであ
って、第一の受光器は第一の波長範囲に亘って感度を有し、第二の受光器は第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に亘って感度を有し、
演算手段は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する演算処理を行う手段であることを特徴とする分光測定装置。
【請求項2】
前記第一の受光器は、
前記第一の波長範囲において前記第二の受光器よりも分光感度が高い受光器であり、前記第二の受光器は、
前記第二の波長範囲において前記第一の受光器よりも分光感度が高い受光器
であることを特徴とする請求項1記載の分光測定装置。
【請求項3】
広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源からの広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長する伸長素子と、
伸長素子でパルス幅が伸長された広帯域パルス光を、分割波長を境にして
長波長側である第一の波長範囲においてスペクトルが連続している光と短波長側である第二の波長範囲においてスペクトルが連続している光とに分割する分割素子と、
分割素子で分割されたうちの
第一の波長範囲の光が照射された対象物からの光を受光する第一の受光器と、
分割素子で分割されたうちの
第二の波長範囲の光が照射された対象物からの光を受光する第二の受光器と、
第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段と
を備えており、
演算手段は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する演算処理を行う手段であることを特徴とする分光測定装置。
【請求項4】
広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源から出射された広帯域パルス光を、分割波長を境にして
長波長側である第一の波長範囲においてスペクトルが連続している光と短波長側である第二の波長範囲においてスペクトルが連続している光とに分割する分割素子と、
分割素子で分割されたうちの
第一の波長範囲の光についてパルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるようにパルス幅を伸長する第一の伸長素子と、
分割素子で分割されたうちの
第二の波長範囲の光についてパルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるようにパルス幅を伸長する第二の伸長素子と、
第一の伸長素子でパルス幅が伸長された光が照射された対象物からの光を受光する第一の受光器と、
第二の伸長素子でパルス幅が伸長された光が照射された対象物からの光を受光する第二の受光器と、
第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段と
を備えて
おり、
演算手段は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する演算処理を行う手段であることを特徴とする分光測定装置。
【請求項5】
広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源からの広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長する伸長素子と、
伸長素子で伸長された広帯域パルス光が照射された対象物からの光を二つに分割する分割素子と、
分割素子で分割されたうちの一方の光を受光する第一の受光器と、
分割素子で分割されたうちの他方の光を受光する第二の受光器と、
第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段と
を備えており、
第一第二の受光器は、分光感度特性が互いに異なるものであ
って、第一の受光器は第一の波長範囲に亘って感度を有し、第二の受光器は第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に亘って感度を有し、
演算手段は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する演算処理を行う手段であることを特徴とする分光測定装置。
【請求項6】
前記第一の受光器は、
前記第一の波長範囲において前記第二の受光器よりも分光感度が高い受光器であり、前記第二の受光器は、
前記第二の波長範囲において前記第一の受光器よりも分光感度が高い受光器で
あることを特徴とする請求項5記載の分光測定装置。
【請求項7】
広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源からの広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長する伸長素子と、
伸長素子で伸長された広帯域パルス光が照射された対象物からの光を、分割波長を境にして
長波長側である第一の波長範囲の光と短波長側である第二の波長範囲の光とに分割する分割素子と、
分割素子で分割されたうちの
第一の波長範囲の光を受光する第一の受光器と、
分割素子で分割されたうちの
第二の波長範囲の光を受光する第二の受光器と、
第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段と
を備えて
おり、
演算手段は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する演算処理を行う手段であることを特徴とする分光測定装置。
【請求項8】
前記伸長素子は、シングルモードファイバ、シングルモードのマルチコアファイバ、シングルモードファイバのバンドルファイバ、マルチモードファイバ、回折格子、チャープドファイバブラッググレーティング又はプリズムであることを特徴とする請求項1、2、3、5、6又は7記載の分光測定装置。
【請求項9】
前記第一の伸長素子及び前記第二の伸長素子は、シングルモードファイバ、シングルモードのマルチコアファイバ、シングルモードファイバのバンドルファイバ、マルチモードファイバ、回折格子、チャープドファイバブラッググレーティング又はプリズムであることを特徴とする請求項4記載の分光測定装置。
【請求項10】
前記第一の伸長素子及び前記第二の伸長素子は、互いに異なる伸長特性の素子であることを特徴とする請求項4又は9記載の分光測定装置。
【請求項11】
前記分割素子は、ダイクロイックミラー、波長分割多重カプラ、回折格子、アレイ導波路グレーティングのいずれかであることを特徴とする請求項3、4又は7記載の分光測定装置。
【請求項12】
前記パルス光源は、スーパーコンティニウム光源であることを特徴とする請求項1乃至11に記載の分光測定装置。
【請求項13】
前記パルス光源は、900nm以上1300nm以下の波長域において少なくとも10nmの波長幅に亘って
スペクトルが連続している光を出力するスーパーコンティニウム光源であることを特徴とする請求項12に記載の分光測定装置。
【請求項14】
前記第一の受光器は、InGaAsフォトダイオード受光器であることを特徴とする請求項1乃至13いずれかに記載の分光測定装置。
【請求項15】
前記第二の受光器は、Siフォトダイオード受光器であることを特徴とする請求項1乃至14いずれかに記載の分光測定装置。
【請求項16】
前記対象物を、前記分割素子で分割されたうちの一方の光が照射される位置と、前記分割素子で分割されたうちの他方の光が照射される位置との間で移動させる移動機構を備えていることを特徴とする請求項
1又は2記載の分光測定装置。
【請求項17】
前記対象物を、前記分割素子で分割されたうちの
第一の波長範囲の光が照射される位置と、前記分割素子で分割されたうちの
第二の波長範囲の光が照射される位置との間で移動させる移動機構を備えていることを特徴とする請求項
3記載の分光測定装置。
【請求項18】
前記対象物を、前記第一の伸長素子でパルス幅が伸長された光が照射される位置と、前記第二の伸長素子でパルス幅が伸長された光が照射される位置との間で移動させる移動機構を備えていることを特徴とする請求項4記載の分光測定装置。
【請求項19】
広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる出射工程と、
出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子で伸長するパルス伸長工程と、
パルス伸長工程においてパルス幅が伸長された広帯域パルス光を分割素子で二つに分割する分割工程と、
分割工程において分割されたうちの一方の光が照射された対象物からの光を第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
分割工程において分割されたうちの他方の波長の光が照射された対象物からの光を第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化を演算手段によりスペクトルに変換する演算工程とを備えて
おり、
第一第二の受光器は、分光感度特性が互いに異なるものであって、第一の受光器は第一の波長範囲に亘って感度を有し、第二の受光器は第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に亘って感度を有し、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であることを特徴とする分光測定方法。
【請求項20】
前記第一の受光器は、前記第一の波長範囲において前記第二の受光器よりも分光感度が高い受光器であり、前記第二の受光器は、
前記第二の波長範囲において前記第一の受光器よりも分光感度が高い受光器で
あることを特徴とする請求項19記載の分光測定方法。
【請求項21】
広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる出射工程と、
出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子で伸長するパルス伸長工程と、
パルス伸長工程においてパルス幅が伸長された広帯域パルス光を、分割波長を境にして
長波長側である第一の波長範囲においてスペクトルが連続している光と短波長側である第二の波長範囲においてスペクトルが連続している光とに分割素子で分割する分割工程と、
分割工程において分割されたうちの
第一の波長範囲の光が照射された対象物からの光を第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
分割工程において分割されたうちの
第二の波長範囲の光が照射された対象物からの光を第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化を演算手段によりスペクトルに変換する演算工程と
を備えて
おり、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であることを特徴とする分光測定方法。
【請求項22】
広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる出射工程と、
出射工程において出射された広帯域パルス光を、分割波長を境にして
長波長側である第一の波長範囲においてスペクトルが連続している光と短波長側である第二の波長範囲においてスペクトルが連続している光とに分割素子で分割する
分割工程と、
分割工程において分割され
たうちの
第一の波長範囲の光についてパルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように第一の伸長素子でパルス伸長する第一のパルス伸長工程と、
分割工程において分割されたうちの
第二の波長範囲の光についてパルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように第二の伸長素子でパルス伸長する第二のパルス伸長工程と、
第一のパルス伸長工程においてパルス伸長された光が照射された対象物からの光を第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
第二のパルス伸長工程においてパルス伸長された光が照射された対象物からの光を第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算工程と
を備えて
おり、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であることを特徴とする分光測定方法。
【請求項23】
広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる出射工程と、
出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子で伸長するパルス伸長工程と、
パルス伸長工程においてパルス幅が伸長された広帯域パルス光が照射された対象物からの光を分割素子で二つに分割する分割工程と、
分割工程において分割されたうちの一方の光を第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
分割工程において分割されたうちの他方の光を第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化を演算手段によりスペクトルに変換する演算工程と
を備えて
おり、
第一第二の受光器は、分光感度特性が互いに異なるものであって、第一の受光器は第一の波長範囲に亘って感度を有し、第二の受光器は第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に亘って感度を有し、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であることを特徴とする分光測定方法。
【請求項24】
前記第一の受光器は、
前記第一の波長範囲において前記第二の受光器よりも分光感度が高い受光器であり、前記第二の受光器は、
前記第二の波長範囲において前記第一の受光器よりも分光感度が高い受光器で
あることを特徴とする請求項23記載の分光測定方法。
【請求項25】
広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる出射工程と、
出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子でパルス伸長する伸長工程と、
伸長工程において伸長された広帯域パルス光が照射された対象物からの光を、分割波長を境にして
長波長側である第一の波長範囲においてスペクトルが連続している光と短波長側である第二の波長範囲においてスペクトルが連続している光とに分割素子で分割する分割工程と、
分割工程において分割されたうちの
第一の波長範囲の光を第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
分割工程において分割されたうちの
第二の波長範囲の光を第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算工程とを備えて
おり、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であることを特徴とする分光測定方法。
【請求項26】
前記伸長素子は、シングルモードファイバ、シングルモードのマルチコアファイバ、シングルモードファイバのバンドルファイバ、マルチモードファイバ、回折格子、チャープドファイバブラッググレーティング又はプリズムであることを特徴とする請求項19、20、21、23、24又は25記載の分光測定方法。
【請求項27】
前記第一の伸長素子及び前記第二の伸長素子は、シングルモードファイバ、シングルモードのマルチコアファイバ、シングルモードファイバのバンドルファイバ、マルチモードファイバ、回折格子、チャープドファイバブラッググレーティング又はプリズムであることを特徴とする請求項22記載の分光測定方法。
【請求項28】
前記第一の伸長素子及び前記第二の伸長素子は、互いに異なる伸長特性の素子であることを特徴とする請求項22又は27記載の分光測定方法。
【請求項29】
前記分割素子は、ダイクロイックミラー、波長分割多重カプラ、回折格子、アレイ導波路グレーティングのいずれかであることを特徴とする請求項21、22又は25いずれかに記載の分光測定方法。
【請求項30】
前記広帯域パルス光はスーパーコンティニウム光であることを特徴とする請求項19乃至29いずれかに記載の分光測定方法。
【請求項31】
前記広帯域パルス光は、900nm以上1300nm以下の波長域において少なくとも10nmの波長幅に亘って
スペクトルが連続しているスーパーコンティニウム光であることを特徴とする請求項30に記載の分光測定方法。
【請求項32】
前記第一の受光器は、InGaAsフォトダイオード受光器であることを特徴とする請求項19乃至31いずれかに記載の分光測定方法。
【請求項33】
前記第二の受光器は、Siフォトダイオード受光器であることを特徴とする請求項19乃至32いずれかに記載の分光測定方法。
【請求項34】
第一の波長範囲においてスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる第一の出射工程と、
第一の出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子で伸長する第一のパルス伸長工程と、
第一のパルス伸長工程においてパルス伸長された広帯域パルス光を対象物に照射する第一の照射工程と、
第一の照射工程において照射された対象物からの光を、第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲においてスペクトルが連続している別の広帯域パルス光をパルス光源から出射させる第二の出射工程と、
第二の出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子で伸長する第二のパルス伸長工程と、
第二のパルス伸長工程においてパルス伸長された広帯域パルス光を前記対象物に照射する第二の照射工程と、
第二の照射工程において照射された対象物からの光を、第一の受光器とは分光感度特性が異なる第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化を演算手段によりスペクトルに変換する演算工程と
を備えて
おり、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であることを特徴とする分光測定方法。
【請求項35】
前記演算手段が行う演算処理において、前記第一の波長範囲と前記第二の波長範囲とは波長分解能を隔てて連続していることを特徴とする請求項1乃至18いずれかに記載の分光測定装置。
【請求項36】
前記演算工程において、前記第一の波長範囲と前記第二の波長範囲とは波長分解能を隔てて連続していることを特徴とする請求項19乃至34いずれかに記載の分光測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、分光測定の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
対象物に光を照射し、その対象物からの光(透過光、反射光、散乱光等)のスペクトルを測定する分光測定の技術は、対象物の組成や性質を分析する技術として代表的なものである。典型的な分光測定の手法は、回折格子を用いる手法である。入射スリットから入射する被測定光を凹面鏡によって平行光にして回折格子に照射し、回折格子からの分散光を同様に凹面鏡で集光し、集光位置に受光器を配置して検出する。回折格子の姿勢を変化(スキャン)させることで、受光器には順次異なった波長の光が入射し、受光器の出力がスペクトルとなる。
【0003】
このような回折格子を使用した分光測定では、回折格子のスキャンが必要なため、高速の測定ができない。また、入射スリットにおいて光を限定するため、測定のSN比を高くすることができない。このため、スキャンを何回か繰り返して受光器に入射する光の総量(光量)を多くすることが必要で、この点も高速測定ができない要因となっている。
【0004】
近年、多数の光電変換素子を一列に配列したエリアセンサを使用するマルチチャンネル型の分光計が開発されている。マルチチャンネル型の場合、回折格子のスキャンは不要であるため、高速化が期待できる。しかしながら、入射スリットで光を限定して凹面鏡で回折格子に照射するという基本構造はそのままであるため、SN比が小さいという問題は解決されず、光量をかせぐために測定時間が長くなる欠点は解消されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、光源技術の分野では、パルス光源から出射されるパルス光の波長を広帯域化させる研究が盛んに行われている。パルス光源の典型的なものは、パルス発振のレーザ(パルスレーザ)である。特に、超短パルスのレーザ光をファイバ等の非線形素子に通すと、自己位相変調のような非線形光学効果によって広帯域化する。この光は、スーパーコンティニウム光(以下、SC光という。)と呼ばれている。
【0007】
SC光のような広帯域パルス光は、波長域としては伸長されているが、パルス幅(時間幅)としては狭いままである。しかし、波長間に適宜の伝送遅延差を生じさせると、パルス幅も伸長することができる。例えば、分散補償ファイバ(DCF)のような適宜の群遅延特性を有するファイバに広帯域パルス光を通すと、波長間の伝送遅延差のため、パルス幅が伸長される。パルス伸長の際、適切な波長分散特性を持つ素子を選択すると、パルス内の経過時間(時刻)と波長とが1対1に対応した状態でパルス伸長することができる。
【0008】
このようにパルス伸長させた広帯域パルス光(以下、広帯域伸長パルス光という。)における経過時間と波長との対応関係は、分光測定に効果的に利用することが可能である。つまり、広帯域伸長パルス光をある受光器で受光した場合、受光器が検出した光強度の時間的変化は、各波長の光強度即ちスペクトルに対応している。したがって、受光器の出力データの時間的変化をスペクトルに変換することができ、回折格子のような特別な分散素子を用いなくても分光測定が可能になる。つまり、広帯域伸長パルス光を試料に照射してその試料からの光を受光器で受光してその時間的変化を測定することで、その試料の分光特性(例えば分光透過率)を知ることができるようになる。
【0009】
しかしながら、発明者の研究によると、実際には、パルス伸長を行う素子の特性の問題や広帯域伸長パルス光を検出する受光器の特性の問題があり、分光測定系全体として考えると実用上の課題が存在している。
この出願の発明は、広帯域伸長パルス光を分光測定に利用する際の上記課題を解決するために為されたものであり、広い波長帯域に亘って十分な精度で高速に分光測定が行える実用的な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願の分光測定装置の発明は、広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源からの広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長する伸長素子と、
伸長素子でパルス幅が伸長された広帯域パルス光を二つに分割する分割素子と、
分割素子で分割されたうちの一方の光が照射された対象物からの光を受光する第一の受光器と、
分割素子で分割されたうちの他方の光が照射された対象物からの光を受光する第二の受光器と、
第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段と
を備えており、
第一第二の受光器は、分光感度特性が互いに異なるものであって、第一の受光器は第一の波長範囲に亘って感度を有し、第二の受光器は第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に亘って感度を有し、
演算手段は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する演算処理を行う手段であるという構成を有する。
また、この分光測定装置は、第一の受光器が、第一の波長範囲において第二の受光器よりも分光感度が高い受光器であり、第二の受光器は、第二の波長範囲において第一の受光器よりも分光感度が高い受光器であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定装置の発明は、広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源からの広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長する伸長素子と、
伸長素子でパルス幅が伸長された広帯域パルス光を、分割波長を境にして長波長側である第一の波長範囲においてスペクトルが連続している光と短波長側である第二の波長範囲においてスペクトルが連続している光とに分割する分割素子と、
分割素子で分割されたうちの第一の波長範囲の光が照射された対象物からの光を受光する第一の受光器と、
分割素子で分割されたうちの第二の波長範囲の光が照射された対象物からの光を受光する第二の受光器と、
第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段と
を備えており、
演算手段は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する演算処理を行う手段であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定装置の発明は、広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源から出射された広帯域パルス光を、分割波長を境にして長波長側である第一の波長範囲においてスペクトルが連続している光と短波長側である第二の波長範囲においてスペクトルが連続している光とに分割する分割素子と、
分割素子で分割されたうちの第一の波長範囲の光についてパルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるようにパルス幅を伸長する第一の伸長素子と、
分割素子で分割されたうちの第二の波長範囲の光についてパルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるようにパルス幅を伸長する第二の伸長素子と、
第一の伸長素子でパルス幅が伸長された光が照射された対象物からの光を受光する第一の受光器と、
第二の伸長素子でパルス幅が伸長された光が照射された対象物からの光を受光する第二の受光器と、
第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段と
を備えており、
演算手段は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する演算処理を行う手段であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定装置は、広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源からの広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長する伸長素子と、
伸長素子で伸長された広帯域パルス光が照射された対象物からの光を二つに分割する分割素子と、
分割素子で分割されたうちの一方の光を受光する第一の受光器と、
分割素子で分割されたうちの他方の光を受光する第二の受光器と、
第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段と
を備えており、
第一第二の受光器は、分光感度特性が互いに異なるものであって、第一の受光器は第一の波長範囲に亘って感度を有し、第二の受光器は第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に亘って感度を有し、
演算手段は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する演算処理を行う手段であるという構成を有する。
また、この分光測定装置は、第一の受光器が、第一の波長範囲において第二の受光器よりも分光感度が高い受光器であり、第二の受光器は、第二の波長範囲において第一の受光器よりも分光感度が高い受光器であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定装置は、広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源からの広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長する伸長素子と、
伸長素子で伸長された広帯域パルス光が照射された対象物からの光を、分割波長を境にして長波長側である第一の波長範囲の光と短波長側である第二の波長範囲の光とに分割する分割素子と、
分割素子で分割されたうちの第一の波長範囲の光を受光する第一の受光器と、
分割素子で分割されたうちの第二の波長範囲の光を受光する第二の受光器と、
第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段とを備えており、
演算手段は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する演算処理を行う手段であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定方法は、広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる出射工程と、
出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子で伸長するパルス伸長工程と、
パルス伸長工程においてパルス幅が伸長された広帯域パルス光を分割素子で二つに分割する分割工程と、
分割工程において分割されたうちの一方の光が照射された対象物からの光を第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
分割工程において分割されたうちの他方の波長の光が照射された対象物からの光を第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化を演算手段によりスペクトルに変換する演算工程とを備えており、
第一第二の受光器は、分光感度特性が互いに異なるものであって、第一の受光器は第一の波長範囲に亘って感度を有し、第二の受光器は第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に亘って感度を有し、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であるという構成を有する。
また、この分光測定方法は、第一の受光器が、第一の波長範囲において第二の受光器よりも分光感度が高い受光器であり、第二の受光器は、第二の波長範囲において第一の受光器よりも分光感度が高い受光器であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定方法は、広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる出射工程と、
出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子で伸長するパルス伸長工程と、
パルス伸長工程においてパルス幅が伸長された広帯域パルス光を、分割波長を境にして長波長側である第一の波長範囲においてスペクトルが連続している光と短波長側である第二の波長範囲においてスペクトルが連続している光とに分割素子で分割する分割工程と、
分割工程において分割されたうちの第一の波長範囲の光が照射された対象物からの光を第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
分割工程において分割されたうちの第二の波長範囲の光が照射された対象物からの光を第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化を演算手段によりスペクトルに変換する演算工程とを備えており、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定方法は、広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる出射工程と、
出射工程において出射された広帯域パルス光を、分割波長を境にして長波長側である第一の波長範囲においてスペクトルが連続している光と短波長側である第二の波長範囲においてスペクトルが連続している光とに分割する分割素子と、
分割工程において分割されたうちの第一の波長範囲の光についてパルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように第一の伸長素子でパルス伸長する第一のパルス伸長工程と、
分割工程において分割されたうちの第二の波長範囲の光についてパルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように第二の伸長素子でパルス伸長する第二のパルス伸長工程と、
第一のパルス伸長工程においてパルス伸長された光が照射された対象物からの光を第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
第二のパルス伸長工程においてパルス伸長された光が照射された対象物からの光を第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算手段とを備えており、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定方法の発明は、広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる出射工程と、
出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子で伸長するパルス伸長工程と、
パルス伸長工程においてパルス幅が伸長された広帯域パルス光が照射された対象物からの光を分割素子で二つに分割する分割工程と、
分割工程において分割されたうちの一方の光を第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
分割工程において分割されたうちの他方の光を第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化を演算手段によりスペクトルに変換する演算工程とを備えており、
第一第二の受光器は、分光感度特性が互いに異なるものであって、第一の受光器は第一の波長範囲に亘って感度を有し、第二の受光器は第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲に亘って感度を有し、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であるという構成を有する。
また、この分光測定方法は、第一の受光器が、第一の波長範囲において第二の受光器よりも分光感度が高い受光器であり、第二の受光器は、第二の波長範囲において第一の受光器よりも分光感度が高い受光器であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定方法の発明は、広帯域でスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる出射工程と、
出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子でパルス伸長する伸長工程と、
伸長工程において伸長された広帯域パルス光が照射された対象物からの光を、分割波長を境にして長波長側である第一の波長範囲においてスペクトルが連続している光と短波長側である第二の波長範囲においてスペクトルが連続している光とに分割素子で分割する分割工程と、
分割工程において分割されたうちの第一の波長範囲の光を第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
分割工程において分割されたうちの第二の波長範囲の光を第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化をスペクトルに変換する演算工程とを備えており、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定方法は、第一の波長範囲においてスペクトルが連続している広帯域パルス光をパルス光源から出射させる第一の出射工程と、
第一の出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子で伸長する第一のパルス伸長工程と、
第一のパルス伸長工程においてパルス伸長された広帯域パルス光を対象物に照射する第一の照射工程と、
第一の照射工程において照射された対象物からの光を、第一の受光器で受光する第一の受光工程と、
第一の波長範囲には一致しない第二の波長範囲においてスペクトルが連続している別の広帯域パルス光をパルス光源から出射させる第二の出射工程と、
第二の出射工程において出射された広帯域パルス光のパルス幅を、パルス内における経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長素子で伸長する第二のパルス伸長工程と、
第二のパルス伸長工程においてパルス伸長された広帯域パルス光を前記対象物に照射する第二の照射工程と、
第二の照射工程において照射された対象物からの光を、第一の受光器とは分光感度特性が異なる第二の受光器で受光する第二の受光工程と、
第一の受光工程において受光した第一の受光器からの出力の時間的変化及び第二の受光工程において受光した第二の受光器からの出力の時間的変化を演算手段によりスペクトルに変換する演算工程とを備えており、
演算工程は、第一の受光器からの出力のうち第一の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第一の波長範囲のスペクトルに変換し、第二の受光器からの出力のうち第二の波長範囲に対応した時間帯における出力の時間的変化を第二の波長範囲のスペクトルに変換する工程であるという構成を有する。
上記各構成において、伸長素子は、シングルモードファイバ、シングルモードのマルチコアファイバ、シングルモードファイバのバンドルファイバ、マルチモードファイバ、回折格子、チャープドファイバブラッググレーティング又はプリズムであり得る。
上記各構成において、第一の伸長素子及び第二の伸長素子は、互いに異なる伸長特性の素子であり得る。
上記各構成において、分割素子は、ダイクロイックミラー、波長分割多重カプラ、回折格子、アレイ導波路グレーティングのいずれかであり得る。
上記各構成において、パルス光源はスーパーコンティニウム光源であり得る。
上記各構成において、パルス光源は、900nm以上1300nm以下の波長域において少なくとも10nmの波長幅に亘ってスペクトルが連続している光を出力するスーパーコンティニウム光源であり得る。
上記各構成において、第一の受光器は、InGaAsフォトダイオード受光器であり得る。
上記各構成において、第二の受光器は、Siフォトダイオード受光器であり得る。
上記各構成において、分光測定装置は、対象物を、分割素子で分割されたうちの一方の光又は長い波長の光が照射される位置と、分割素子で分割されたうちの他方の光又は短い波長の光が照射される位置との間で移動させる移動機構を備え得る。
上記各構成において、分光測定装置は、対象物を、第一の伸長素子でパルス幅が伸長された光が照射される位置と、第二の伸長素子でパルス幅が伸長された光が照射される位置との間で移動させる移動機構を備え得る。
上記各構成の分光測定装置が備える演算手段が行う演算処理において、第一の波長範囲と第二の波長範囲とは波長分解能を隔てて連続し得る。
上記各構成の分光測定方法が備える演算工程において、第一の波長範囲と第二の波長範囲とは波長分解能を隔てて連続し得る。
【発明の効果】
【0011】
以下に説明する通り、本願の分光測定装置又は分光測定方法によれば、パルス伸長された広帯域パルス光の時間波長一意性を利用した分光測定において、二つの検出系に分けて測定を行うので、伸長素子の特性や受光器の特性に応じて各波長域の光の検出が最適化することができる。このため、広い波長帯域に亘って十分な精度で高速に分光測定が行えるようになる。
また、本願の分光測定装置又は分光測定方法によれば、パルス伸長された広帯域パルス光の時間波長一意性を利用した分光測定において、波長域に応じて二つの検出系に分けて測定を行うので、伸長素子の特性や受光器の特性に応じて各波長域の光の検出が最適化することができる。このため、広い波長帯域に亘って十分な精度で高速に分光測定が行えるようになる。
また、広帯域パルス光を分割素子が波長分割した後にパルス伸長を行う構成において、第一第二の伸長素子が異なる伸長特性のものであると、波長域に応じてパルス伸長を最適化することができる。
また、対象物からの光を二つに分けて二つの検出系で測定する装置又は方法によれば、構造的によりシンプルになり、また広帯域パルス光の再現性が万が一低下した場合でも測定精度が低下することがないという効果が得られる。
また、パルス光源が900nm以上1300nm以下の波長域において少なくとも10nmの波長幅に亘ってスペクトルが連続している光を出力するスーパーコンティニウム光源であると、固相や液相の対象物の分光分析に特に有意義となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第一の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【
図2】広帯域パルス光のパルス伸長の原理について示した概略図である。
【
図3】各受光器の分光感度特性の一例を示した概略図である。
【
図4】伸長素子として用いたあるファイバの伝送特性を示した図である。
【
図5】測定プログラムが取り扱うデータについて示した概略図である。
【
図6】測定プログラムの概略図を示したフローチャートである。
【
図7】第二の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【
図8】第三の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【
図9】第四の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【
図10】第五の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【
図11】他の分割素子の例について示した概略図である。
【
図12】第六の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【
図13】第七の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【
図14】第八の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【
図15】伸長素子の他の例について示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、第一の実施形態の分光測定装置の概略図である。
図1に示す分光測定装置は、対象物Sにパルス光を照射して分光測定する装置であり、前述したように、パルス内における時間と波長との関係が1対1であるパルス光を照射して分光測定する装置となっている。
具体的には、
図1に示す分光装置は、広帯域パルス光を出射するパルス光源1と、パルス光源1からの広帯域パルス光のパルス幅を伸長させる伸長素子2と、パルス幅が伸長されたパルス光を対象物Sに照射する照射光学系3と、パルス光が照射された対象物Sからの光を受光する受光器41,42と、受光器41,42からの出力に従ってスペクトルを算出する演算手段5とを備えている。
【0014】
パルス光源1としては、この実施形態では、SC光を出射するものとなっている。SC光源であるパルス光源1は、超短パルスレーザ源11と、非線形素子12とを備えている。
超短パルスレーザ源11には、ゲインスイッチレーザ、マイクロチップレーザ、ファイバレーザ等を用いることができる。また、非線形素子12としては、ファイバが使用される場合が多い。例えば、フォトニッククリスタルファイバやその他の非線形ファイバが非線形素子12として使用できる。ファイバのモードとしてはシングルモードの場合が多いが、マルチモードであっても十分な非線形性を示すものであれば、非線形素子12として使用できる。
【0015】
広帯域パルス光の波長域としては、特に限定はされない。SC光については、例えば500~2000nm程度までの非常に広い波長域に亘って連続したスペクトルとすることも可能であり、この程度まで広帯域のパルス光とされる場合もある。これほど広くはなく、必要な範囲で広帯域とされたパルス光を出射するものがパルス光源1として使用される場合もある。例えば、近赤外域での分光測定用の場合、900~1300nm程度の範囲において少なくとも10nm、50nm又は100nmに亘って連続スペクトルであるパルス光を出射する光源がパルス光源1として使用され得る。
伸長素子2としては、この実施形態ではシングルモードのファイバ20が使用されている。例えば、光通信分野で分散補償ファイバ(DCF)として使用されているような所定の群遅延特性を有するファイバが伸長素子2として使用できる。
【0016】
図2は、広帯域パルス光のパルス伸長の原理について示した概略図である。SC光のような広帯域パルス光のパルス幅を伸長させる手段としては、例えば、ある波長範囲において連続スペクトルであるSC光L1を当該波長範囲で正の分散特性を有するファイバ20に通すと、パルス幅が効果的に伸長される。即ち、
図2に示すように、SC光L1においては、超短パルスではあるものの、1パルスの初期に最も長い波長λ
1の光が存在し、時間が経過すると徐々に短い波長の光が存在し、パルスの終期には最も短い波長λ
nの光が存在する。この光を、正常分散のファイバ20に通すと、正常分散のファイバ20では、波長の短い光ほど遅れて伝搬するので、1パルス内の時間差が増長され、ファイバ20を出射する際には、短い波長の光は長い波長の光に比べてさらに遅れるようになる。この結果、出射するSC光L2は、時間対波長の一意性が確保された状態でパルス幅が伸長された光となる。即ち、
図2の下側に示すように、時刻t
1~t
nは、波長λ
1~λ
nに対してそれぞれ1対1で対応した状態でパルス伸長される。
【0017】
尚、パルス伸長のためのファイバ20には、異常分散ファイバを使用することも可能である。この場合は、SC光においてパルスの初期に存在していた長波長側の光が遅れ、後の時刻に存在していた短波長側の光が進む状態で分散するので、1パルス内での時間的関係が逆転し、1パルスの初期に短波長側の光が存在し、時間経過とともにより長波長側の光が存在する状態でパルス伸長されることになる。但し、正常分散の場合に比べると、パルス伸長のための伝搬距離をより長くすることが必要になる場合が多く、損失が大きくなり易い。したがって、この点で正常分散の方が好ましい。
【0018】
照射光学系3は、この実施形態では、ビームエキスパンダ30を含んでいる。伸長素子2としてのファイバ20からの光は、時間伸長された広帯域パルス光ではあるものの、超短パルスレーザ源11からの光であり、ビーム径が小さいことを考慮したものである。この他、ガルバノミラーのようなスキャン機構を設け、ビームスキャンにより広い照射領域をカバーする場合もある。
【0019】
この実施形態では、対象物Sの吸収スペクトルを測定することを想定しており、したがって受光器41,42は、対象物Sからの透過光が入射する位置に設けられている。尚、照射光学系3による広帯域パルス光の照射位置には、受け板61,62が設けられている。受け板61,62は、測定波長域において透明である。対象物Sは、受け板61,62上に載置される。照射光学系3は上側から光照射するようになっており、受光器41,42は受け板61,62の出射側(この例では下方)に位置する。
【0020】
演算手段5としては、この実施形態では汎用PCが使用されている。受光器41,42と演算手段5の間にはAD変換器7が設けられており、受光器41,42の出力はAD変換器7によりデジタル化されて演算手段に入力される。
演算手段5は、プロセッサ51や記憶部(ハードディスク、メモリ等)52を備えている。記憶部52には、受光器41,42からの出力データを処理してスペクトルを算出する測定プログラム53やその他の必要なプログラムがインストールされている。
【0021】
このような実施形態の分光測定装置において、伸長素子2の特性や受光器41,42の特性を考慮し、分光測定系全体が最適化されている。具体的には、実施形態の装置における分光測定系は、広帯域パルス光を二つに分け、それぞれ個別に検出する系となっており、第一第二の二つの異なる検出系が設けられている。
【0022】
より具体的に説明すると、
図1に示すように、照射光学系3は、分割素子を含んでいる。分割素子としては、この実施形態でビームスプリッタ31が使用されている。ビームスプリッタ31は、1/2分割のミラーであり、1/2ずつの光束に分割する素子である。
分割素子としてのビームスプリッタ31が配置されているため、
図1に示すように、伸長素子2からの光路は、第一の光路P1と、第二の光路P2に分岐する。そして、各光路P1,P2上に、それぞれ受け板61,62が設けられており、受け板61,62の出射側にそれぞれ受光器41,42が配置されている。
【0023】
異なる検出系を構成するものとして、この実施形態では、分光感度特性が互いに異なる受光器41,42を採用している。即ち、測定波長域に応じて分光感度特性が異なる受光器41,42が使用されている。受光器41,42を第一の受光器41、第二の受光器42とすると、第一の受光器41は、第一の波長範囲において第二の受光器42よりも分光感度が高く、第二の受光器42は、第一の波長範囲と異なる第二の波長範囲において第一の受光器41よりも分光感度が高いものが使用されている。一例を示すと、第一の受光器41としてはInGaAsダイオードを受光セルとして採用したInGaAsダイオード受光器が使用でき、第二の受光器42には、Siダイオードを受光セルとして採用したSiダイオード受光器が使用できる。
【0024】
図3は、各受光器の分光感度特性の一例を示した概略図である。
図3の例では、同様に、第一の受光器41としてのInGaAsダイオード受光器の分光感度特性と、第二の受光器42としてのSiダイオード受光器の分光感度特性が示されている。
図3に示すように、InGaAsダイオード受光器は1000~1700nm程度の範囲に良好な感度を有し、Siダイオード受光器は500~1000nm程度の範囲に良好な感度を有する。
【0025】
実施形態の分光測定装置がこのように二つの異なる検出系を備えているのは、伸長素子2として使用したファイバの伝送特性及び受光器自体の感度特性を考慮したためである。以下、この点について説明する。
図4は、伸長素子2として用いたあるファイバの伝送特性を示した図である。
図4に伝送特性が示されたファイバは、正の分散特性を有する石英系のシングルモードファイバである。
図4において、横軸は波長、縦軸は1kmあたりの減衰率(dB)を示す。
図4に示すように、このファイバは、波長が短くなるに従って減衰率が高くなる伝送特性を有している。
【0026】
一方、実施形態のように伸長素子2として
ファイバを用いる場合、ある程度の長さが必要である。これは、時間波長一意性における勾配(
図2に示すΔλ/Δt)をある程度緩やかにする必要があるからである。勾配がきついと、受光器の応答速度(信号払い出し周期)との関係から、波長分解能が低くなってしまうからである。勾配Δλ/Δtを緩やかにするには、伸長量を大きくすることが必要で、そのためにはファイバを長くする必要がある。
【0027】
しかしながら、
図4から解るように、ファイバを長くすれば光の減衰が多くなり、減衰量は特に短波長側で多くなる。つまり、波長分解能を高くすべくファイバを長くすると、特に短波長側で減衰が多くなってしまう。この結果、パルス光源1が波長間でフラットな強度特性の広帯域パルス光を出射するものであったとしても、パルス伸長後には短波長域での強度低下により波長間での強度バランスが低下した状態となり得る。
【0028】
また、別の問題として、受光器は広帯域の光に対して均一な感度特性を持つことが難しいという事情も存在する。例えば、近赤外域の分光測定をする場合、InGaAsを受光セルとして採用したInGaAsダイオード受光器を好適に使用できる。しかしながら、可視域から近赤外域の広い帯域に亘って分光測定をしようとした場合、InGaAsダイオード受光器は、
図3に示すように、900nm未満の短波長域では十分な感度を持っていない。
【0029】
実施形態の分光測定装置は、これらを考慮し、検出系を二つの波長帯に分け、それぞれに最適な受光器を使用している。即ち、前述したように、第一の波長範囲(長波長域)では第一の受光器41としてInGaAsダイオード受光器を使用し、第二の波長範囲(短波長域)では第二の受光器42としてSiダイオード受光器を使用している。
図3に示すように、Siダイオード受光器は、1050nm程度までの短波長域で良好な感度を有しており、伸長素子2としてのファイバにおける減衰が原因で短波長域で強度が低下したとしても、十分な光電変換出力を得ることができ、この波長域での分光測定を支障なく行うことができる。
【0030】
次に、演算手段に実装されている測定プログラム53について説明する。
図5は、測定プログラム53が取り扱うデータについて示した概略図、
図6は、測定プログラム53の概略図を示したフローチャートである。
図5及び
図6の例は、測定プログラム53が分光特性として吸収スペクトル(分光吸収率)を測定するプログラムの例となっている。前述したように、各受光器41,42からの出力は、AD変換器7を介してそれぞれ演算手段5に入力される。これは、各受光器41,42における信号払い出し周期毎のデータ(光電変換値)の集まりであり、データセットである。以下、第一の受光器41からAD変換器7を介して入力されるデータセットを第一のデータセットとし、第二の受光器42からAD変換器7を介して入力されるデータセットを第二のデータセットとする。
上記のように第一の受光器41は、第一の波長範囲についての測定用であり、第二の受光器42は、第二の波長範囲についての測定用である。以下、説明の都合上、第一の波長範囲をλ
1~λ
mとする。また、第二の波長範囲を、λ
m+1~λ
nとする。
【0031】
吸収スペクトルの算出に際しては、基準スペクトルデータが使用される。基準スペクトルデータは、吸収スペクトルを算出するための基準となる波長毎の値である。基準スペクトルデータは、広帯域パルス伸長光を対象物Sを経ない状態で各受光器41,42に入射させることで予め取得しておく。即ち、対象物Sを経ないで光を各受光器41,42に直接入射させ、各受光器41,42の出力を同様に各AD変換器7経由で入力させる。以下、このようにして入力されるデータセットを、第一の基準データセット、第二の基準データセットと呼ぶ。各基準データセットは、それぞれファイルに記録され、各ファイルは記憶部52に記憶される。
【0032】
各基準データセットは、時間分解能Δtごとの各時刻t1,t2,t3,・・・の基準強度である(V1,V2,V3,・・・)。時間分解能Δtとは、検出器5の応答速度(信号払い出し周期)であり、信号を出力する時間間隔である。以下、第一の基準データセットは、第一の波長範囲についての基準データセットであり、時刻t1~tmにおける基準強度V1,V2,V3,・・・,Vmである。第二の基準データセットは、第二の波長範囲についての基準データセットであり、時刻tm+1~tnにおける基準強度Vm+1,Vm+2,Vm+3,・・・,Vnである。
【0033】
第一の基準データセットについて1パルス内の時刻t1,t2,t3,・・・,tmと波長との関係が予め調べられており、各時刻の値V1,V2,V3,・・・,Vmが各λ1,λ2,λ3,・・・,λmでの光強度であると取り扱われる。第二の基準データセットについても同様であり、1パルス内の各時刻の値Vm+1,Vm+2,Vm;3,・・・,Vnが各λm+1,λm+2,λm+3,・・・,λnでの光強度であると取り扱われる。
【0034】
図6に示すように、測定プログラム53は、まず、第一のデータセットと第一の基準データセットとをそれぞれファイルから取得する。そして、第一のデータセット内の各測定値を第一の基準データセット内の各基準値と比較し(v
1/V
1,v
2/V
2,v
3/V
3,・・・,v
m/V
m)、その結果を一時的に変数(配列変数)に格納する。
次に、測定プログラム53は、第二のデータセット及び第二の基準データセットをそれぞれファイルから取得する。
そして、第二のデータセット内の各測定値を第二の基準データセット内の各基準値と比較し(v
m+1/V
m+1,v
m+2/V
m+2,v
m+3/V
m+3,・・・,v
n/V
n)、その結果を一時的に別の変数(配列変数)に格納する。
【0035】
次に、測定プログラム53は、各変数から算出結果を取得し、それを連続した算出結果であるとして吸収スペクトルSAの算出結果とする。即ち、v1/V1をλ1での吸収率とし、v2/V2をλ2での吸収率とし、・・・vm/Vmをλmでの吸収率とする。また、vm+1/Vm+1をλm+1での吸収率とし、vm+2/Vm+2をλm+2での吸収率とし、・・・vn/Vnをλnでの吸収率とする。尚、必要に応じて各逆数の対数を取って吸収率とする。これにより、λ1~λnの各吸収率即ち吸収スペクトルSAが得られる。測定プログラム53は、得られた吸収スペクトルSAをプログラムの実行結果であるとして終了する。
【0036】
このような実施形態の分光測定装置の動作について、以下に説明する。以下の説明は、実施形態の分光測定方法の説明でもある。
まず、対象物Sを第一の受け板61の上に置き、パルス光源1を動作させる。パルス光源1において、超短パルスレーザ源11からの超短パルス光は、非線形素子12に入射し、非線形光学効果によって広帯域化して広帯域パルス光として出射する。広帯域パルス光は、伸長素子2に入射し、伸長素子2によってパルス幅が伸長される。
【0037】
パルス幅が伸長されたパルス光は、分割素子としてのビームスプリッタ31で分割され、一方の光は第一の光路P1に沿って進み、他方の光は第二の光路P2に沿って進む。第一の光路P1に沿って進んだ光は、対象物Sに照射される。そして、対象物Sを透過した光は、第一の受光器41に入射する。第一の受光器41からの出力は、AD変換器7を介して演算手段5に入力され、一時的にファイルに記録されて記憶部52に記憶される。
【0038】
次に、パルス光源1の動作をいったん止め、当該(同一の)対象物S(第一の光路P1を進んだ光で測定がされた対象物S)を第二の受け板62に移載する(例えば測定者が手で移載する)。この状態で、再びパルス光源1を動作させる。同様に、広帯域パルス光が伸長素子2で伸長され、分割素子としてのビームスプリッタ31で分割される。今度は、第二の光路P2を進んだ他方の光が対象物Sに照射され、対象物Sを透過した光が第二の受光器42で受光される。第二の受光器42の出力は、AD変換器7を介して演算手段5に入力される。そして、同様に一時的にファイルに記録されて記憶部52に記憶される。
このようにして、二つの検出系による透過光の検出が完了すると、測定プログラム53が動作し、前述したように吸収スペクトルが算出される。算出された吸収スペクトルは、適宜ディスプレイへの表示等がされる。
【0039】
尚、上記動作において、第一の受光器41からの出力にはtm+1~tnまでの値vm+1~vnが含まれ、第二の受光器42からの出力にはt1~tmまでの値v1~vmが含まれるが、これらは最終的な測定結果には含まれない。但し、第二の受光器42からの出力データについては、tm+1の時刻を特定する上でt1の時刻(パルスの立ち上がり)を特定する必要がある。その部分ではtm+1以前の時刻のデータも測定に使用している。即ち、t1の時刻を基準にし、それに対してtm+1の時間が経過した時刻をλm+1の波長の強度であるとしてスペクトルを求める。λm+2以降も同様である。
【0040】
このような実施形態の分光測定装置及び分光測定方法によれば、パルス伸長された広帯域パルス光の時間波長一意性を利用した分光測定において、二つの検出系に分けているので、伸長素子2の特性や受光器41,42の特性に応じて各波長域の光の検出が最適化することができる。このため、広い波長帯域に亘って十分な精度で高速に分光測定が行える分光測定装置及び分光測定方法が提供される。
上記実施形態では、二つの検出系に分けた構成が採用されているが、三つ以上の検出系に分けても良いことは勿論である。
【0041】
尚、上記動作及び方法はいずれかの検出系を選択的に使用して測定を行う構成であるため、選択されていない検出系における測定をキャンセルする構成を採用すると好適である。例えば、各受け板61,62には、対象物Sが載置されているかどうかを検出するセンサが設けられ、対象物Sが載置されていない場合、対応する受光器41,42の出力は演算手段5には入力されない(又は入力されてもキャンセルされる)構成があり得る。もしくは、各検出系において適宜シャッタが設けられ、使用していない検出系においてはシャッタにより光が受光器41,42に入射しない構成としても良い。
【0042】
上記実施形態では、パルス光源1からの広帯域パルス光の波長帯域や二つの受光器41,42のトータルの有感波長帯域は、900~1300nmの近赤外域に亘っている。この点は、対象物Sが固相や液相であり、吸収によって対象物Sの分析を行うのに好適であるという意義を有する。900~1300nmの帯域には、多くの材料が吸収波長を持っており、二つの検出系によってこの帯域を広くカバーすることは、固相や液相の対象物Sの分光分析に特に有意義である。例えば、薬剤(錠剤等)の分析に、実施形態の分光測定装置、分光測定方法を利用することができる。
【0043】
上記説明では、パルス光源1から出射された1パルスの広帯域パルス光により分光測定が行われるように説明したが、実際には、複数パルスの広帯域パルス光により分光測定が行われる場合が多い。この場合、上記各データセットは複数のデータセットということになるが、各データセットによる測定値の平均によってスペクトルが算出される。
また、上記の例では吸収スペクトルを分光特性として測定したが、反射スペクトル、散乱スペクトル等の他のスペクトルであっても良い。反射スペクトルを測定する場合には対象物Sからの反射光を受光する位置に各受光器41,42が配置され、散乱スペクトルを測定する場合に散乱光を受光する位置に各受光器41,42が配置される。
【0044】
次に、第二の実施形態の分光測定装置及び分光測定方法について説明する。
図7は、第二の実施形態の分光測定装置の概略図である。
第二の実施形態においても、第一第二の二つの検出系が設けられている。第二の実施形態が第一の実施形態と異なるは、分割素子が伸長素子よりも手前の光路上に設けられており、この結果、第一第二の二つの伸長素子21,22が設けられている点である。この実施形態においても、分割素子としてはビームスプリッタ31が使用されている。
【0045】
ビームスプリッタ31を透過した一方の光の光路P1上には、第一の伸長素子21としてのファイバ(以下、第一のファイバ)210の入射端が配置され、ビームスプリッタ31に反射した他方の光の光路P2上には、第二の伸長素子22としてのファイバ(以下、第二のファイバ)220の入射端が配置される。そして、第一のファイバ210から出射する光の照射位置に第一の受け板61が配置され、第二のファイバ220から出射する光の照射位置に第二の受け板62が配置されている。さらに、第一の実施形態と同様、第一の受け板61の出射側には第一の受光器41が配置され、第二の受け板62の出射側には第二の受光器42が配置されている。
【0046】
第一の実施形態と第二の実施形態の違いは、パルス伸長をした後に光を波長分割するかパルス伸長の前にパルス伸長をするかの違いであり、他の部分では基本的に同様である。分割素子としてのビームスプリッタ31を透過した一方の光は、第一のファイバ210で伝送されてパルス幅が伸長され、その後、対象物Sに照射される。そして、対象物Sを透過した光が第一の受光器41で検出される。また、ビームスプリッタ31に反射した他方の光は、第二のファイバ220で伝送されてパルス幅が伸長され、その後、対象物Sに照射される。そして、対象物Sを透過した光が第二の受光器42で検出される。そして、各受光器41,42からの出力はAD変換器7を介して演算手段5に入力され、測定プログラム53によってスペクトルが算出される。
【0047】
第二の実施形態の構成は、パルス伸長素子が各検出系に組み込まれた構成ということができる。この構成には、検出系の特性に応じて最適な伸長素子を採用することができるという優位性がある。即ち、異なる分散特性の伸長素子21,22を適宜使用することで所望の分散を得る使用することで全体としてパルス伸長を最適化することができる。例えば、第一のファイバ210と第二のファイバ220について異なる群分散特性のものを使用することができる。また、第一のファイバ210と第二のファイバ220について長さの異なるものを使用することもできる。
【0048】
より好適な構成を示すと、
図2に示すパルス伸長において、伸長後の時間対波長の傾き(Δλ/Δt)は、波長域の全域に亘って一定であることが望ましい。その方が、時間と波長とを対応させるのが容易になり、スペクトルの算出精度が高まるからである。この場合、伸長素子21,22として用いたファイバ210,220は、例えば同じ正の分散であっても波長によって遅延の大きさが異なる場合が多い。このため、第一の受光器41を備えて第一の波長範囲の測定を目的する第一の検出系と第二の受光器42を備えて第二の波長範囲の測定を目的とする第二の検出系において別々のファイバでパルス伸長を行い、それぞれの遅延量を最適化する。これによって、パルス伸長後のΔλ/Δtを全体として均一化することができる。このようなことが可能になる点で、第二の実施形態の構成は第一の実施形態に比べて優位性がある。
但し、2個の伸長素子2が必要になるため、その点では高コストとなる。逆にいえば、パルス伸長を行ってから波長分割する第一の実施形態の方がコスト的には有利である。
【0049】
次に、第三の実施形態について説明する。
図8は、第三の実施形態の分光測定装置の概略図である。
第三の実施形態は、第一の実施形態の構成において、分割素子としてビームスプリッタ31ではなくダイクロイックミラー32を使用した構成となっている。他の構成は、第一の実施形態と同様である。
ダイクロイックミラー32は、光を波長に応じて二つの光に分割する素子である。例えば、
図9に示すように、分割波長λcよりも長波長の光を透過し、λcよりも短い波長の光を透過するものが使用される。そして、長波長用の第一の光路P1上に第一の受光器41が配置され、短波長用の第二の光路P2に第二の受光器42が配置されている。
【0050】
この実施形態では、波長に応じて分割素子で光を分割した上で波長範囲ごとに異なる検出系としているので、波長範囲に応じて検出系を最適化する際、損失を少なくすることができ、この点でより好適な分光測定装置となっている。以下、この点について説明する。
第一の実施形態では、特に波長に応じた分割はせずにビームスプリッタ31により光を二つに分け、対象物Sを介して第一第二の受光器41,42で受光している。そして、第一第二の受光器41,42からの出力のうち、より分光感度が高い波長範囲についてそれぞれ選択して波長に換算し、測定結果としている。この構成では、分光感度が低い波長範囲については測定に使用しておらず、その分はある意味で損失となっている。
【0051】
一方、第三の実施形態では、波長に応じて光を分割するダイクロイックミラー32を分割素子として使用しているので、第一第二の受光器41,42の分光感度特性に応じて分割波長λcを適宜選定しておけば、より分光感度が高い波長範囲を選択して波長に変換する際に損失がなくなる。このため、広い波長帯域に亘って十分な精度で高速に且つ効率良く分光測定が行える分光測定装置及び分光測定方法が提供される。
【0052】
分割波長は、第一の実施形態における第一の波長範囲と第二の波長範囲の境界波長とすることができる。即ち、上記のようにInGaAsダイオード受光器とSiダイオード受光器とを使用する場合、両者は、900~1100nm程度の範囲で共に感度を有している(有感波長域が重なっている)。したがって、この範囲内で分割波長が選択され、例えば1050nm程度とすることができる。即ち、分割素子としてのダイクロイックミラー32は、1050nm以上透過、1050nm未満反射のミラーとされ得る。
【0053】
尚、演算手段の構成は、基本的には第一第二の実施形態の構成と同様であるが、第二の受光器42からの出力データの処理が若干異なる。第一第二の実施形態では、第二の受光器42からの出力データの処理において、最初の波長λm+1の時刻tm+1を特定するのに、第二の受光器42の出力データにおけるt1(パルスの立ち上がり)の時刻を基準にした。第三の実施形態では、t1に対応するλ1の波長の光は第二の受光器42には入ってこない。第二の受光器42に入射する最初の波長の光は、λcよりも短く且つ実効的な強度(例えば、パルスのピークに対して5%以上の強度)を有する光のうちλcに最も近い波長(以下、分割基準波長という。)の光である。分割基準波長の時刻が、第二の受光器42からの出力データの処理における基準時刻となり、これに対するΔtごとの経過時間により、各波長の光の強度が取得される。分割基準波長は、予め調べられており、第二の受光器42からの出力データのうち実効的な強度を最初に観測した時刻を分割基準波長の時刻とする。そして、以降は、Δtごとの対応関係により各波長の強度とする。
【0054】
次に、第四の実施形態について説明する。
図9は、第四の実施形態の分光測定装置の概略図である。
第四の実施形態の分光測定装置は、第ニの実施形態の構成において、分割素子としてビームスプリッタ31ではなくダイクロイックミラー32を使用した構成となっている。他の構成は、第二の実施形態と同様である。
【0055】
ダイクロイックミラー32は、同様に広帯域パルス光を波長に応じて二つの光に分割する素子であり、
図9に示すように、分割波長よりも長波長の光を透過し、分割波長よりも短い波長の光を
反射するものが使用される。そして、長波長用の第一の光路P1上には、第一の伸長素子21としての第一のファイバ210の入射端が配置され、短波長用の第二の光路P2には第二の伸長素子22としての第二のファイバ220の入射端が配置される。そして、同様に、第一のファイバ210から出射する光を対象物Sを介して受光する位置に第一の受光器41が配置され、第二のファイバ220から出射する光を対象物Sを介して受光する位置に第二の受光器42が配置されている。
尚、第四の実施形態においても、第二の受光器42には、λ1の光は入ってこないので、第三の実施形態と同様、分割基準波長を予め調べておき、最初に実効的な強度を観測した時刻を分割基準波長であるとする。そして、以降は、Δtごとの対応関係により各波長の光の強度を取得する。
【0056】
第四の実施形態においても、検出系の特性に応じて最適な伸長素子を採用することができるという優位性がある。即ち、異なる分散特性の伸長素子21,22を適宜使用することで所望の分散を得ることができ、全体としてパルス伸長を最適化することができる。この際、波長に応じて光を分割するダイクロイックミラー32を分割素子として使用しているので、伸長素子21,22の各特性をより活かすことができる。そして、第三の実施形態と同様、測定に使用しない分の光はなく、高効率の分光測定装置及び分光測定方法となる。
【0057】
次に、第五の実施形態について説明する。
図10は、第五の実施形態の分光測定装置の概略図である。
図10に示す第五の実施形態は、分割素子としてWDM(波長分割多重)カプラ33を使用している。その他の構成は、
図8に示す第三の実施形態と同様である。
この実施形態では、WDMカプラ33はファイバ型であり、シングルモード又はマルチモードの二本のファイバを融着延伸したものが使用されている。
図10に示すように、入射側の一端は終端されており、伸長素子2からの光は他方の入射端331から入射する。二つに分岐した一方の出射端332からは、分割波長よりも長い波長の光が出射し、他方の出射端333からは、分割波長よりも短い波長が出射する。
【0058】
第五の実施形態では、ファイバ型のWDMカプラ33をしているため、伸長素子2としてファイバ20が使用される場合、相互に親和性が高いので好適となる。即ち、ファイバ同士との接続になるため、コネクタ等を適宜使用して低損失で接続、伝送することができ、高効率の分光測定装置とすることができる。
尚、同様に対象物Sへの照射の際にはビームエキスパンダ30を設けることが好ましく、ビームエキスパンダ30は、
図10に示すように、分割素子としてのWDMカプラ33の出射側にそれぞれ設けられる。
【0059】
また、ファイバ型のWDMカプラ33は、
図9に示す第四の実施形態においても分割素子として使用することが可能である。この場合は、WDMカプラ33の入射端331には非線形素子12としてのファイバの出射端が接続される。また、分岐した出射端の一方332が第一のファイバ210に接続され、他方333が第二のファイバ220に接続される。ここでも、それぞれファイバ同士の接続となるため、低損失の接続、伝送となり、高効率の分光測定装置とすることができる。
【0060】
図11は、他の分割素子の例について示した概略図である。
図11に示すように、分割素子としては、上記の他、回折格子やAWG(アレイ導波路グレーティング)等を使用することができる。
例えば、
図11(1)に示すように、伸張素子2からの光を回折格子35で波長分散させ、分割波長に応じてレンズ363でそれぞれ集光して補助ファイバ361,362に入射させる。第一の補助ファイバ361は、第一の受け板61上の対象物Sに対して光照射するよう出射端が配置され、第二の補助ファイバ362は、第二の受け板62上の対象物Sに対して光照射するよう出射端が配置される。この際、各補助ファイバ361,362をパルス伸長用のファイバ(第一第二のファイバ210,220)とすることも可能である。
【0061】
また、
図11(2)に示すように、分割素子としてAWG37を使用することができる。AWG37は、基板371上に各機能導波路372~37
6を形成することで構成されている。各機能導波路は、光路長が僅かずつ異なる多数のアレイ導波路372と、アレイ導波路372の両端(入射側と出射側)に接続されたスラブ導波路373,374と、入射側スラブ導波路373に光を入射させる入射側導波路375と、出射側スラブ導波路374から各波長の光を取り出す各出射側導波路376となっている。
【0062】
スラブ導波路373,374は自由空間であり、入射側導波路375を通って入射した光は、入射側スラブ導波路373において広がり、各アレイ導波路372に入射する。各アレイ導波路372は、僅かずつ長さが異なっているので、各アレイ導波路372の終端に達した光は、この差分だけ位相がそれぞれずれる(シフトする)。各アレイ導波路372からは光が回折して出射するが、回折光は互いに干渉しながら出射側スラブ導波路374を通り、出射側導波路376の入射端に達する。この際、位相シフトのため、干渉光は波長に応じた位置で最も強度が高くなる。つまり、各出射端導波路376には波長が順次異なる光が入射するようになり、光が空間的に分光される。厳密には、そのように分光される位置に各入射端が位置するよう各出射側導波路376が形成される。
【0063】
出射側導波路376に対して、分割波長に応じて二つの補助ファイバ377,378が接続される。即ち、分割波長より長い波長を出射する出射側導波路376に対して第一の補助ファイバ377が接続され、分割波長より短い波長を出射する出射側導波路376に対して第二の補助ファイバ378が接続される。各補助ファイバ377,378の接続には、不図示のレンズを介在させたり、ファンインファンアウトデバイスが使用されたりする。この場合も、各補助ファイバ377,378は、それぞれ受け板61,62上の対象物Sに対して光照射するものであり、また同様にパルス伸長用のファイバとすることができる。
尚、
図11(1)(2)の例についても、ファイバとの親和性が高いため、非線形素子12としてのファイバに対して低損失で容易に接続することができ、高効率の分光測定装置とすることができる。
【0064】
次に、第六の実施形態について説明する。
図12は、第六の実施形態の分光測定装置の概略図である。
上述した第一の実施形態において、第一の受け板61から第二の受け板62への対象物Sの移載は、測定者が行うようなイメージで説明したが、ロボット等の移載機構を別途設けて自動的に行っても良い。第六の実施形態では、このような観点で第三の実施形態を変形した実施形態となっている。
【0065】
この実施形態では、第一の検出系での測定と第二の検出系での測定とを連続して高速に行うため、対象物Sを移動させる移動機構8が設けられている。具体的に説明すると、この実施形態では、多数の受け板63が水平方向に一列に並んで設けられている。移動機構8は、各受け板63が並んでいる方向(以下、移動方向)に各受け板63を直線移動させる機構である。例えば、移動方向に垂直な水平方向を左右とすると、左右の一方の側にリニアガイドを設け、他方の側にリニアモータのような直線駆動源を設けた構成が採用され得る。各受け板63は相互に連結され、直線駆動源によりリニアガイドにガイドされながら直線移動する。
この実施形態では、受け板63には対象物Sがずれないように不図示の凹部が設けられている。各対象物Sは、凹部に落とし込まれた状態で各受け板63に載置される。
【0066】
移動機構8には、制御部81が設けられている。制御部81は、各受光器41,42の上方に設定されている照射位置に各受け板63を順次位置させるよう構成される。制御部81は、直線駆動源に対して各受け板63が一体に所定のストロークで移動するよう制御する。装置において、第一の光路P1を進んだ光が照射される位置(以下、第一の照射位置)と、第二の光路P2を進んだ光が照射される位置(以下、第二の照射位置)とが設定されており、所定のストロークとは、第一第二の照射位置の離間間隔である。制御部81は、演算手段5からの信号が入力されるようになっている。演算手段5には、制御部81を含む装置の各部を所定のシーケンスで動作させるシーケンスプログラム54が実装されている。
【0067】
このような第六の実施形態の分光測定装置は、大量の対象物Sについて順次高速に分光測定する用途に向いている。例えば、分光測定は、製造ラインにおいて製品の検査の際に行われ得る。良品である場合の基準吸収スペクトルが予め調べられており、各製品の吸収スペクトルを分光測定により求めて基準吸収スペクトルと比較することで製品の合否が判断される。第六の実施形態の装置は、このような用途に好適に使用される。この用途では、
図12に示すように、演算手段5に合否判定プログラム55が実装され、基準吸収スペクトルを記録した不図示のファイルが記憶部52に記憶される。
【0068】
具体的には、各対象物Sは、各受け板63の凹部に落とし込まれて保持される。そして、移動機構8により、各受け板63上の対象物Sは、第一の照射位置と第二の照射位置に順次移動する。そして、第一の照射位置に位置した際、パルス光源1が動作して長波長側の光が対象物Sに照射されてその透過光が第一の受光器41で受光される。そして、当該対象物Sについて長波長側のデータセット(第一のデータセット)がファイルに一時的に記録される。
【0069】
この受け板63は、次に第二の照射位置に移動し、この状態でパルス光源1が動作して短波長側の光が当該対象物Sに照射される。そして、当該対象物Sについての短波長側のデータセット(第二のデータセット)がファイルに一時的に記録される。
その後、測定プログラム53が動作し、当該対象物Sについての吸収スペクトルが算出される。次に、合否判定プログラム55が動作し、合否判定を行う。即ち、算出した吸収スペクトルを基準吸収スペクトルと比較し、その乖離が所定の範囲内であるかどうか判断する。所定の範囲内であれば合格とし、範囲外であれば不合格とする。
【0070】
移動機構8は、各受け板63上の対象物Sを第一第二の照射位置に順次位置させ、その位置でそれぞれ光照射がされて第一第二のデータセットが取得される。そして、測定プログラム53が順次吸収スペクトルを算出し、合否判定プログラムが合否を判定する。合否判定の結果、製品の検査情報として記憶部52に記憶される。尚、不合格とされた製品を製造ラインから除外して出荷されないようにする除外機構が設けられると、より好ましい。
また、第六の実施形態において、第二の照射位置に対象物Sが載置されて測定が行われる際には第一の照射位置に次の対象物Sが載置されて同時に測定が行われる。つまり、1回の照射において第一のデータセットと第二のデータセットとが同時に取得される。この場合、演算手段5における測定プログラム53は、ある回の照射における第一のデータセットと次の回の照射における第二のデータセットとをまとめて当該対象物Sについての全体の吸収スペクトルの算出結果とするようプログラミングされる。各データセットについてそれぞれ基準吸収スペクトルと比較して吸収スペクトルを算出してからそれらをまとめても良いし、各データセットをまとめて全体のデータセットとしてから基準吸収スペクトルと比較して吸収スペクトルの測定結果としても良い。
【0071】
このような第六の実施形態の分光測定装置、分光測定方法は、各対象物Sが移動機構8により移動して第一第二の照射位置に順次位置するので、大量の対象物Sを高速に分光測定することでき、そのような必要性のある用途に好適に使用できる。
図12では、第三の実施形態の構成に対して移動機構8を設けた構成となっているが、第一の実施形態等の他の実施形態の構成に対して移動機構8を設けても良いことは勿論である。
【0072】
次に、基準スペクトルデータの取得について補足して説明する。
前述したように、対象物Sの分光特性の算出に際しては、予め基準スペクトルデータが取得される。この場合、パルス光源1や各受光器41,42の経時的な特性変化を考慮し、基準スペクトルデータの取得(対象物Sを配置しない状態での測定)は校正作業として定期的に行われる。
【0073】
より信頼性の高い分光測定のためには、基準スペクトルデータの取得は頻繁に行うことが好ましい。測定の能率を低下させないでこれを行う方法として、一方の受光器を使用してデータセットを取得する際、他方の受光器で基準データセットの取得を行うようにすることが好ましい。即ち、第一乃至第五の各実施形態において、第一の受け板61に対象物Sを載置して第一のデータセットを取得する際、第二の受け板62には対象物Sは載置されていないから、この際に第二の受光器42から出力されるデータで第二の受光器42についての基準スペクトルデータを取得する。また、第二の受け板62に対象物Sを載置して第二の受光器42からの出力で第二のデータセットを取得する際、第一の受け板61には対象物Sは載置されていないから、この際に第一の受光器41から出力されるデータで第二の受光器42についての基準データセットを取得する。このようにすると、各基準データセットの取得が実際の測定と時間的に近い状態で頻繁に行えるようになる。このため、より信頼性の高い分光測定装置、分光測定方法となる。
【0074】
次に、第七の実施形態の分光測定装置について説明する。
図13は、第七の実施形態の分光測定装置の概略図である。
分光測定の信頼性をさらに高めるには、各データセットの取得と各基準データセットの取得をそれぞれ同時に(リアルタイムに)行う構成が考えられる。この構成を備えているのが、
図13に示す第七の実施形態である。
図13に示す第七の実施形態は、
図8の第三の実施形態の構成においてリアルタイムの校正を行う実施形態となっている。具体的には、分割素子としてのダイクロイックミラー
32から延びる第一第二の光路P1,P2には、第一第二のビームスプリッタ341,342がそれぞれ設けられている。
【0075】
第一のビームスプリッタ33は、第一の光路P1をさらに二つに分岐させる。以下、この二つの光路P11,P12を、第一の測定用光路、第一の参照用光路と呼ぶ。第一の測定用光路P11には、第一の実施形態と同様に第一の受け板61が配置されており、その出射側に第一の受光器41が配置されている。第一の参照用光路P12には、第一の参照用受光器43が配置されている。第一の参照用光路P12には受け板は配置されておらず、光は対象物Sを経ることなく第一の参照用受光器43に入射する。
【0076】
第二のビームスプリッタ34も、第二の光路P2をさらに二つの光路P21,P22に分岐させる。以下、この二つの光路P21,P22を、第二の測定用光路、第二の参照用光路と呼ぶ。第二の測定用光路P21には、同様に第二の受け板62が配置されており、その出射側に第二の受光器42が配置されている。第二の参照用光路P22には、第二の参照用受光器44が配置されている。第二の参照用光路P22には受け板は配置されておらず、光は対象物Sを経ることなく第二の参照用受光器44に入射する。
【0077】
各受光器41~44からの出力は、AD変換器7を介して演算手段5に入力される。各受光器41~44からの出力は、第一のデータセット、第一の基準データセット、第二のデータセット、第二の基準データセットとして、それぞれ別のファイルに記録され、記憶部52に一時的に記憶される。そして、測定プログラム53により読み込まれ、スペクトルが取得される。測定プログラム53自体は、前述したのと同様であるので、説明は割愛する。
第七の実施形態では、各ビームスプリッタ33,34で分割された一方の光が測定用とされ、他方の光が参照用とされており、リアルタイムで各基準データセットが取得される。このため、さらに信頼性の高い分光測定が行える。
【0078】
次に、第八の実施形態について説明する。
図14は、第八の実施形態の分光測定装置の概略図である。
第八の実施形態の分光測定装置は、
図8に示す第三の実施形態を変型した構成となっている。具体的には、この分光測定装置は、対象物Sからの光を分割する位置に分割素子が配置されており、対象物Sからの光を二つに分割して各受光器41,42で受光する構成となっている。この実施形態では、分割素子はダイクロイックミラー32となっているが、ビームスプリッタ31であっても良い。
【0079】
伸長素子2からの光は、そのまま対象物Sに照射され、対象物Sからの光はダイクロイックミラー32によって分割される。そして、分割された長波長側の光は第一の受光器41で受光され、短波長側の光は第二の受光器42で受光される。各受光器41,42からの出力データを処理してスペクトルを取得する演算手段の構成は、第三の実施形態と同様である。
【0080】
第八の実施形態では、一つの対象物2について一つのパルスの照射のみで全体のスペクトルを取得することができるので、この点でより精度の高い分光測定が行える。上記各実施形態のように、一つの対象物Sについて第一の波長範囲の測定と第二の波長範囲の測定とで別のパルスを照射して分光測定を行う場合、広帯域パルス光の再現性が万が一低下すると、測定精度が低下する原因となる。しかし、第八の実施形態では、このような問題はない。第三の実施形態以外の他の実施形態についても、このように変型することが可能である。
【0081】
尚、
図14では、対象物Sは、液相又は気相のものが想定されており、透明なセル中に入れられて測定がされる。このような構成は、第一乃至第七の実施形態でも採用されることがあり得る。また、第八の実施形態において、水平な姿勢の受け板を設け、受け板上の対象物からの光を分割する構成を採用することも勿論可能である。広帯域パルス光が照射された対象物Sからの光を分割素子で分割するので、受け板は一つで足りる。このため、構造的によりシンプルになる。
【0082】
次に、伸長素子2の他の例について
図15を参照して説明する。
図15は、伸長素子2の他の例について示した概略図である。伸長素子2としては、シングルモードファイバの他、シングルモードのマルチコアファイバ、シングルモードのバンドルファイバ、マルチモードファイバ等が使用できる。さらに、伸長素子2は、回折格子、チャープドファイバブラッググレーティング(CFBG)、プリズム等を使用して構成することができる。
例えば、
図15(1)に示すように、2個の回折格子23を使用して波長分散させる。この際、波長に応じて光路差を形成し、時間波長一意性を達成した状態でパルス伸長する。この例では、長波長の光ほど光路が短くなるようにしている。尚、前述したように、回折格子を分割素子として使用することも可能であるから、回折格子によってパルス伸長と波長分割の双方を行う構成も採用できる。
【0083】
また、
図15(2)に示すように、CFBG24を使用してパルス伸長することも可能である。FBGは、コアの長さ方向に屈折率が変化する部位を周期的に設けて回折格子を構成したファイバであるが、このうち、CFBGは、チャープミラーの機能をファイバを使って実現されるように反射位置が波長に応じて異なる位置となるようにしたものということができる。伸長素子2として用いる場合、CFBG24において、入射した光のうち、例えば長波長側の光はファイバ中の進行方向の手前側で反射して戻り、短波長側になるにつれて奥側で反射して戻るようコア内の屈折率変化層を形成する。これは、正常分散ファイバと同等の構成である。短波長側ほど遅れて戻ってくるので、同様に時間波長一意性が確保される。
【0084】
さらに、
図15(3)に示すように、プリズム25を使用してパルス伸長することもできる。この例では、4個のプリズム25を使用し、短波長側ほど光路が長くなるように配置することで伸長素子2を構成している。この例でも、短波長側ほど遅れて出射されるので、時間波長一意性が確保される。
尚、
図15(1)~(3)の例では、光を折り返す際に光路差を形成している。復路の光を取り出す構成としては、偏光ビームスプリッタと1/4波長板を組み合わせたものを伸長素子2の手前の光路上に配置する構成が採用できる。往路については偏光ビームスプリッタ、1/4波長板の順に光が進んで伸長素子2に入射し、復路については伸長素子2から戻った光が1/4波長板、偏光ビームスプリッタの順に進むように構成する。
【0085】
尚、上記各実施形態では、長波長側の光を検出する一方の検出系ではInGaAsダイオード受光器を使用し、短波長側の光を検出する他方の検出系ではSiダイオード受光器を使用したが、これは一例であり、他の種類の受光器を使用することができる。例えば可視域であればCdS受光器等が使用できるし、近赤外域であれば、PbS受光器やInSb受光器等が使用できる。
分光測定の波長域についても、可視域であっても良く、近赤外よりも長い赤外域であっても良い。
また、パルス光源1としてはSC光源である例を採り上げたが、この他、ASE(Amplified Spontaneous Emission)光源やSLD(Superluminescent Diode)光源のような他の広帯域のパルス光源が使用されることもある。
【0086】
尚、本願発明において、分割素子を備えることは必ずしも必須ではない。分割素子がない場合には、第一第二の光路P1,P2には分かれていないので、時間的に分割して第一第二の検出系を構成することになる。即ち、受け板上の対象物に対して第一第二の2回の照射工程を行う。各照射工程において受け板及び対象物は同じ位置を保持するが、第一の照射工程では第一の受光器41が受光位置に配置されて測定が行われ、第二の照射工程では第二の受光器42が受光位置に配置されて測定が行われる。測定プログラム53は、同様に各受光器41,42からのデータセットに基づいてスペクトルを算出する。受光器41,42の入れ替えのための機構(例えばレボルバのような機構)を設けても良い。
また、各実施形態では、受け板61~63は水平な姿勢であり、上側から対象物Sに光が照射されているが、これは一例であり、横から対象物Sに光が照射されたり、斜めから光が照射されたりする場合もあり得る。
【符号の説明】
【0087】
1 パルス光源
11 超短パルスレーザ源
12 非線形素子
2 伸長素子
21 ファイバ
210 第一のファイバ
220 第二のファイバ
3 照射光学系
31 ビームスプリッタ
32 ダイクロイックミラー
33 波長分割多重カプラ
41~44 受光器
5 演算手段
51 プロセッサ
52 記憶部
53 測定プログラム
61~63 受け板
7 AD変換器
8 移動機構
81 制御部