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特許7238715水性グラビアまたはフレキソインキ、印刷物および積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】水性グラビアまたはフレキソインキ、印刷物および積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20230307BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230307BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C09D11/102
B32B27/00 E
B32B27/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019169931
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2020180271
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2018175219
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019084881
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】猪股 大貴
(72)【発明者】
【氏名】星野 友美
(72)【発明者】
【氏名】小藤 通久
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 紀人
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-155560(JP,A)
【文献】特開2013-249401(JP,A)
【文献】特開平6-206972(JP,A)
【文献】特開平11-293191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B32B 27/00,27/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリウレタン樹脂を含有するラミネート用の水性グラビアまたはフレキソインキであって、
前記水性ポリウレタン樹脂の、ガラス転移温度は、-40~0℃、水酸基価は、0.1~15mgKOH/g、酸価は、15~60mgKOH/gであり、
かつ、前記水性ポリウレタン樹脂は、脂肪族ポリカーボネートポリオール由来の構成単位を含有し、前記脂肪族ポリカーボネートポリオールは、25℃で液状である、
水性グラビアまたはフレキソインキ。
【請求項2】
前記脂肪族ポリカーボネートポリオールは、3級炭素および/または4級炭素を有する分岐ジオールに由来する構成単位を含有する、請求項1に記載の水性グラビアまたはフレキソインキ。
【請求項3】
脂肪族ポリカーボネートポリオールは、3級炭素および/または4級炭素を有する分岐ジオールと、直鎖構造を有する脂肪族ジオールとを構成単位として有する、請求項2に記載の水性グラビアまたはフレキソインキ。
【請求項4】
3級炭素および/または4級炭素を有する分岐ジオールと、直鎖構造を有する脂肪族ジオールとの質量比(前者:後者)は、95:5~30:70である、請求項3に記載の水性グラビアまたはフレキソインキ。
【請求項5】
前記水性ポリウレタン樹脂は、水性ポリウレタン樹脂総質量中にポリエチレングリコール由来の構成単位を2~30質量%含有する、請求項1~4いずれかに記載の水性グラビアまたはフレキソインキ。
【請求項6】
基材1上に、請求項1~5いずれかに記載の水性グラビアまたはフレキソインキからなる印刷層を有する印刷物。
【請求項7】
請求項6に記載の印刷物の印刷層上に、接着剤層および基材2をこの順に有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性グラビアまたはフレキソインキ、印刷物および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷インキ、特にグラビアまたはフレキソインキ(以下、インキと略記する)においてインキの媒体である有機溶剤に起因する作業時の安全衛生性、作業環境適性、更には当該インキを使用した際の包装材の残留溶剤の低減等の見地から、インキの水性化の要望が従来よりも強まっている。水性インキにおいては、主たるバインダー樹脂として水性ポリウレタン樹脂が用いられており、それは特にプラスチック基材での印刷において、基材密着性が良好であるためである。このような印刷物は更にラミネート工程を経て積層体とし、食品、医薬品その他に用いられる包装袋となることが多い。例えば特許文献1~3ではインキ用の水性ポリウレタン樹脂に関する技術開発が開示されている。
【0003】
近年では上記包装袋の多様化、包装技術の高度化が為されており高い機能(防湿性、酸素遮断性、耐熱性、耐レトルト性など)は溶剤系のみらならず、水性インキを用いた場合でも求められている。従来の水性インキでは、基材となるプラスチック基材に対して、接着性、ラミネート適性、および印刷適性を満たしたとしても、耐ボイル適性、耐レトルト適性までも満足するに至らない場合が多くあった。例えば、特許文献4では、ポリエステル構造を主骨格としたポリウレタン樹脂を用いているが、エステル結合の加水分解のために耐レトルト適性が劣る場合が考えられる。なお、耐ボイル適性、耐レトルト適性は、積層体の層構成または包装袋の適用範囲および種類によっては必須とされる重要な物性である。
【0004】
また、近年では上記積層体や包装袋は、長期保存性を必要とする食品(従来の缶または瓶の内容物)にも使用される場合が多くなっている。ゴミ削減やVOC削減を目的とする為である。長期保存する製品は、店頭や家等で長期にわたり室内光や日光の暴露を受け続けるため、積層体および包装袋には耐光性が求められ、同じく上記インキにおいても耐光性が求められている。例えば、特許文献5では、水性ポリウレタン樹脂の原料としてエーテル構造を有するポリオールを多く用いているため、ポリウレタン樹脂中のエーテル骨格が紫外線により開裂してしまい耐光性が劣る可能性が高い。紫外線により包装袋のインキ層が劣化した場合にはインキ層の色調が損なわれ、包装袋のラミネート状態にも悪影響が出る。引用文献6は、液状の脂肪族ポリカーボネートポリオールを用いていないため紫外線照射12時間後の耐光性が充分でない。
【0005】
一般的に従来の水性インキは溶剤系インキよりもボイル性、耐レトルト性および耐光性が劣る傾向がある。そのため、使用できるプラスチック基材の種類や、ラミネート積層体の積層構成が限定され、水性インキを用いた場合における包装袋の高度化の妨げとなる場合が多い。
更に、従来の水性インキでは、耐水性や耐レトルト性を向上させると耐光性が劣る、もしくは耐光性を向上させると耐水性や耐レトルト性が劣る傾向があり、これら物性は両立させることが難しい。したがって、上記耐ボイル性、耐レトルト性および耐光性を満足する、水性グラビアインキまたはフレキソインキは未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-49706号公報
【文献】特開2001-40057号公報
【文献】特開2005-272587号公報
【文献】特開2013-234214号公報
【文献】特開2004-189968号公報
【文献】特開平11-293191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐光性、耐レトルト適性、及びラミネート強度並びに印刷適性に優れた水性グラビアまたはフレキソインキと、これを用いた印刷物、及び積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは鋭意検討を行い、以下の手段を用いることで当該課題を解決できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち本発明は、水性ポリウレタン樹脂を含有するラミネート用の水性グラビアまたはフレキソインキであって、
前記水性ポリウレタン樹脂の、ガラス転移温度は、-40~0℃、水酸基価は、0.1~15mgKOH/g、酸価は、15~60mgKOH/gであり、
かつ、前記水性ポリウレタン樹脂は、脂肪族ポリカーボネートポリオール由来の構成単位を含有し、前記脂肪族ポリカーボネートポリオールは、25℃で液状である、水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0010】
また、本発明は、前記脂肪族ポリカーボネートポリオールは、3級炭素および/または4級炭素を有する分岐ジオールに由来する構成単位を含有する、上記水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0011】
また、本発明は、脂肪族ポリカーボネートポリオールは、3級炭素および/または4級炭素を有する分岐ジオールと、直鎖構造を有する脂肪族ジオールとを構成単位として有する、上記水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0012】
また、本発明は、3級炭素および/または4級炭素を有する分岐ジオールと、直鎖構造を有する脂肪族ジオールとの質量比(前者:後者)は、95:5~30:70である、上記水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0013】
また、本発明は、前記水性ポリウレタン樹脂は、水性ポリウレタン樹脂総質量中にポリエチレングリコール由来の構成単位を2~30質量%含有する、上記水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0014】
また、本発明は、基材1上に、上記水性グラビアまたはフレキソインキからなる印刷層を有する印刷物に関する。
【0015】
また、本発明は、上記印刷物の印刷層上に、接着剤層および基材2をこの順に有する積層体に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、耐光性、耐レトルト適性、及びラミネート強度並びに印刷適性に優れた水性グラビアまたはフレキソインキと、これを用いた印刷物、及び積層体を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施形態について説明するが、以下は本発明における実施形態の一例であり、これらの実施形態に限定されることはない。
【0018】
本明細書において「水性グラビアまたはフレキソインキ」を単に「インキ」または「印刷インキ」と記述する場合があるが同義である。また、水性グラビアまたはフレキソインキからなる印刷層は「インキ層」、「インキ被膜」または「印刷層」と記述する場合があるが同義である。
【0019】
<水性ポリウレタン樹脂>
本発明において、水性ポリウレタン樹脂はバインダー樹脂として機能するものであり、脂肪族ポリカーボネートポリオール由来の構成単位を含有し、ガラス転移温度が-40~0℃であり、水酸基価が0.1~15mgKOH/gであり、酸価が15~60mgKOH/gであるポリウレタン樹脂を含有する。脂肪族ポリカーボネートポリオール構造により耐光性、耐レトルト適性を両立させる効果を奏し、ガラス転移温度が当該範囲であることでラミネート強度に優れる効果を奏する。更に水酸基価が当該範囲であることにより、ポリウレタン樹脂の水への分散性・溶解性と耐レトルト適性の両立の効果を奏するので、それぞれの構成が相乗効果として耐光性、耐レトルト適性、ラミネート強度の特性が良化・両立するものと推察される。ただし本発明はこれら推察により何ら限定されるものではない。
【0020】
上記水性ポリウレタン樹脂は、ガラス転移温度は-40~0℃であり、-25~0℃であることが好ましく、-20~-5℃であることが更に好ましい。なお、本明細書においてガラス転移温度とは、動的粘弾性測定においてtanδの極大値における温度をいう。例えば、水性ポリウレタン樹脂を乾燥させ乾燥塗膜にしたのち、アイティー計測制御株式会社製動的粘弾性測定装置DVA-200にて測定することができる。ガラス転移温度を該当範囲にすることで、耐ブロッキング性とラミネート適性を両立することができる。
【0021】
本実施形態における水性ポリウレタン樹脂の水酸基価は、0.1~15mgKOH/gであればよく、0.1~10mgKOH/gであることが好ましく、0.5~8mgKOH/gであることがなお好ましい。2~7mgKOH/gであることが更に好ましい。水性ポリウレタン樹脂の水への分散性、また、顔料分散性や基材密着性が良好となるためである。なお、水酸基価は樹脂中の水酸基をエステル化またはアセチル化し、残存する酸をアルカリで逆滴定して算出した樹脂1g中の水酸基量を、水酸化カリウムのmg数に換算した値で、JISK0070に従って行った値である。
【0022】
上記水性ポリウレタン樹脂の酸価は、15~60mgKOH/gであればよく、15~55mgKOH/gであることが好ましく、15~45mgKOH/gであることがなお好ましい。15~40mgKOH/gであることが更に好ましい。水性ポリウレタン樹脂は、その酸価が15mgKOH/g以上であり、酸性官能基が塩基性化合物で中和されることで、水への分散性及び溶解性が充分となりインキの顔料分散性及び再溶解性更に印刷適性の良化を促す。また、水性ポリウレタン樹脂の酸価が65mgKOH/g以下であれば、バインダーとして用いた場合のインキ被膜の耐水性が損なわれることはない。酸性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基等が好適に挙げられる。
【0023】
(塩基性化合物)
上記ポリウレタン樹脂は、有する酸性官能基が塩基性化合物により中和されて水性化される。当該塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、及びモルホリン等が挙げられ、これらは1種、又は2種以上の組み合わせで用いられる。塩基性化合物の種類によっては、ポリウレタン樹脂溶液へのなじみ易さ、又は水性化後の安定性が異なる場合があるので適宜選択する必要がある。これらのうち、印刷物の耐水性、及び残留臭気等の点からアンモニア、アルキル置換アミンなどが好ましく、アンモニアであることがなお好ましい。
【0024】
(水性ポリウレタン樹脂の構成)
なお上記水性ポリウレタン樹脂は、以下に限定されるものではないが、例えば、少なくとも脂肪族ポリカーボネートポリオールを含有するポリオール、分子内にカルボキシル基と少なくとも2個の活性水素含有基を有する化合物およびポリイソシアネートの反応物である水性ポリウレタン樹脂が好適である。
【0025】
(ポリオール)
水性ポリウレタン樹脂で用いるポリオールとしては、脂肪族ポリカーボネートポリオールを含むものであるが、更にポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等を含有してよい。これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0026】
(脂肪族ポリカーボネートポリオール)
本実施形態における脂肪族ポリカーボネートポリオールは、2つ以上の水酸基を有し、分子内に2つ以上のカーボネート結合を有するものである。脂肪族ポリカーボネートポリオールの有する水酸基数の平均個数は1.5~2.5であってもよい。また、2つ以上の水酸基を有し、分子内に1つのカーボネート結合を有するものが含まれていてもよい。
当該脂肪族ポリカーボネートポリオールは製造方法により限定されるものではないが、例えば脂肪族ジオールとカーボネート化合物との、エステル交換反応による重縮合物であることが好ましい。
本発明において、「脂肪族ジオール」は脂環式を含まない。脂肪族ジオールは、置換もしくは未置換のアルキレングリコールである形態が好ましい。また、脂肪族ジオールとして、複数のアルキレングリコールが、エーテル結合やエステル結合などを介して縮合したものも挙げられる。なお、前記脂肪族ジオールのうちアルキレングリコールのアルキレン基の少なくとも一つの水素原子が水素原子以外で置換された脂肪族ジオールを、分岐ジオールと称呼する。そのため、当該脂肪族ポリカーボネートポリオールは、シクロアルキレン基その他の脂環構造を有するものとは区別される。分岐ジオールは置換基を有する炭素として3級炭素および/または4級炭素を含むことが好ましく、3級炭素を含むことがなお好ましい。
当該脂肪族ジオールは炭素数4~10であるもので構成されることが好ましく、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブチンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどが好適であり、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。なお、アルキレングリコールの有する置換基は炭素数10以下のアルキル基であることが好ましい。
前記脂肪族ポリカーボネートポリオールは、数平均分子量が500~5000であることが好ましく、800~4000であることがなお好ましい。1000~3000であることが更に好ましい。なお、脂肪族ポリカーボネートジオールであることが好ましい。
【0027】
上記したカーボネート化合物は、特に限定されないが、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、またはアルキレンカーボネートが挙げられる。カーボネート化合物の具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート、エチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートが挙げられる。置換もしくは未置換のアルキレングリコールとのエステル交換反応での重縮合物となり置換されるため、カーボネート化合物の構造は限定されなく、反応性において良好なものを適宜選択すればよい。
なお、ジアリールカーボネートまたはアルキルアリールカーボネートを原料とする場合、未反応の原料が残ったり、末端にアリール基を有するカーボネートモノオールが副生する可能性がある。本発明の技術思想範囲内で、脂肪族以外のカーボネートが、インキ中に存在することを排除するものではない。
【0028】
上記脂肪族ポリカーボネートポリオールは25℃において液状であることが好ましい。液状の脂肪族ポリカーボネートポリオールを使用することで、水性ポリウレタン樹脂を含有するインキ被膜の柔軟性を得ることができるため、ラミネート適性が向上する。また、液状であるため顔料への濡れが良好であることと、カーボネート結合の高い凝集力で顔料から脱着しにくいことから顔料分散に優れ、希釈インキ安定性などが向上する。例えば、脂肪族ジオール成分として、炭素数が奇数であり直鎖構造を有する脂肪族ジオールと、炭素数が偶数である直鎖構造を有する脂肪族ジオールを用いた脂肪族ポリカーボネートポリオールや、アルキル置換基(アルキル基)を有するアルキレングリコール(分岐ジオール)を構成単位として有する脂肪族ポリカーボネートポリオール等が好適に挙げられる。また、分岐ジオールと直鎖構造を有する脂肪族ジオールに由来する構成単位を含有する脂肪族ポリカーボネートポリオールが好ましい。
なお、分岐ジオールにおいて、アルキル基は、炭素数6以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数4以下のアルキル基であることがなお好ましい。メチル基であることがなお好ましい。
【0029】
なお脂肪族ポリカーボネートポリオールは、以下の分岐ジオールを含む脂肪族ジオールを構成単位として有する脂肪族ポリカーボネートポリオールであることが好ましい。
かかる分岐ジオールとしては3級炭素および/または4級炭素を有する分岐ジオールが好ましい。ラミネート適性等が良好となるためである。3級炭素を有する分岐ジオールは、例えば、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール等が好適に挙げられるが、好ましくは3-メチル-1,5-ペンタンジオールである。また、4級炭素を有する分岐ジオールは、例えば、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等が好適に挙げられる。なお、これら分岐ジオールは例示されるものに限定されない。
【0030】
また、脂肪族ポリカーボネートポリオールは以下の態様が好ましく、例えば、上記の様な3級炭素および/または4級炭素を有する脂肪族ジオール(分岐ジオール)と、直鎖構造を有する脂肪族ジオールに由来する構成単位を有することが好ましく、脂肪族ポリカーボネートポリオール総質量中の質量比(前者:後者)は95:5~30:70であることが好ましく、95:5~40:60であることがなお好ましい。90:10~50:50であることが更に好ましい。
脂肪族ポリカーボネートポリオールの構成単位としては、3級炭素を有する分岐ジオールおよび直鎖構造を有する脂肪族ジオールを含有することが好ましい。当該質量比は上記と同様であることが好ましい。なお、分岐ジオールとしては3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含有することが好ましく、直鎖構造を有するジオールとしては1,6-ヘキサンジオール含有することが好ましい。
【0031】
耐光性および耐レトルト性をより高いレベルで両立できるため、水性ポリウレタン樹脂は、水性ポリウレタン樹脂総質量中に脂肪族ポリカーボネートポリオール由来の構成単位を30~75質量%含有することが好ましく、40~65質量%であることがなお好ましく、50~65質量%であることが更に好ましい。
【0032】
(ポリエーテルポリオール)
上記水性ポリウレタン樹脂は、ポリエーテルポリオールに由来する構成単位を含有することが好ましく、ポリエーテルポリオールは、酸化メチレン、酸化エチレン、酸化プロピレン、テトラヒドロフランなどの重合体または共重合体が挙げられ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールおよびこれらの共重合体が好ましい。これらは単独または2種以上を混合して用いることができ、水性ポリウレタン樹脂は総水性ポリウレタン樹脂質量中にポリエチレングリコール由来の構成単位を2~30質量%含有することが好ましく、さらに好ましくは2~10質量%である。ポリエチレングリコール由来の構成単位を含有することで水への溶解性を上げ、含有率を2~30質量%にすることで耐水性を確保することができる。
【0033】
(ポリエステルポリオール)
上記水性ポリウレタン樹脂にポリエステルポリオールを用いる場合は、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,9-ノナンンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブチンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子ポリオール類と、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸など多価カルボン酸あるいはこれらの無水物との脱水縮合体または重合体が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
本発明におけるポリカプロラクトンポリオールは、ε-カプロラクトンの開環重合により得られる。
【0034】
(ポリイソシアネート)
本発明の水性ポリウレタン樹脂で用いるポリイソシアネートとしては、芳香族、脂肪族または脂環族の各種公知のジイソシアネート類を使用することができる。例えば、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4、4’-ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネートやダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が代表例として挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。反応性等の面から、イソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0035】
(分子内にカルボキシル基および少なくとも2個の活性水素含有基を有する化合物)
本発明の水性ポリウレタン樹脂で用いる分子内にカルボキシル基および少なくとも2個の活性水素含有基を有する化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のジメチロールアルカン酸等が挙げられ、これらの1種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、他のウレタン原料との相溶性及び反応性から、2,2-ジメチロールプロピオン酸、及び/又は、2,2-ジメチロールブタン酸を用いることが好ましい。活性水素含有基とは水酸基であることが好ましい。カルボキシル基はポリウレタン樹脂の合成過程において反応性が低いため、そのほとんどが中和されるための酸価としてポリウレタン樹脂中に含有する。
【0036】
本実施形態における水性ポリウレタン樹脂は、例えば、特開2013-234214公報に記載の方法で適宜製造できる。好ましくは、有機溶剤を用いたアセトン法である。
【0037】
上記水性ポリウレタン樹脂はポリアミンにより鎖延長されてウレア結合を有することが好ましい。ウレア結合を有する水性ポリウレタン樹脂は例えば、少なくとも脂肪族ポリカーボネートポリオールを含有するポリオール、分子内にカルボキシル基と少なくとも2個の活性水素含有基を有する化合物およびポリイソシアネートの反応物として、末端にイソシアネート基を含有するウレタンプレポリマーをあらかじめ製造しておき、更にポリアミンにより鎖延長させることで製造できる。
【0038】
(ポリアミン)
当該ポリアミンは、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、さらにダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等を用いることができ、好ましくは水酸基を有するポリアミンである。ポリウレタン樹脂が、水酸基を有するポリアミンからなる構成単位を有することで、水への分散性・溶解性の向上に寄与する。また、水酸基を有するポリアミンは優先的にアミノ基が反応するのでポリウレタン樹脂に所定の水酸基を含有させることが可能である。
ポリアミンこれらは単独または2種以上を混合して用いることができる。さらに好ましくは、イソホロンジアミン、及び2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン(2-アミノエチルエタノールアミン)である。
【0039】
水性ポリウレタン樹脂の重量平均分子量(GPC測定、標準ポリスチレン換算)は、特に限定はされないが、10,000~100,000であることが好ましく、20,000~60,000であることがより好ましい。
【0040】
上記水性ポリウレタン樹脂はインキ総質量中に4~25質量%含有することが好ましく、5~18質量%含有することがなお好ましく、5~15質量%含有することが更に好ましい。
【0041】
(媒体)
本実施形態における水性インキは媒体として水を含有するが、アルコ-ル系、ケトン系、及びエステル系等の有機溶剤を含んでもよく、環境対応および水との混和性の点から、アルコール系有機溶剤が好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどが挙げられ、中でもn-プロパノール、及び/またはイソプロピルアルコールが好ましい。有機溶剤はインキ総質量中に20質量%以下で含有することが好ましく、10質量%以下で含有することがなお好ましい。
【0042】
(着色剤)
本発明の水性印刷インキに必要とされる機能を有するために配合される着色剤としては、一般のインキ、塗料、および記録剤などに使用されている有機、無機顔料や染料を挙げることができる。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジクトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が挙げられる。無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、ベンガラ、アルミニウム、マイカ(雲母)などが挙げられる。白インキには酸化チタン、墨インキにはカーボンブラック、金、銀インキにはアルミニウム、パールインキにはマイカ(雲母)を使用することがコストや着色力の点から好ましい。
【0043】
着色剤はインキの濃度・着色力を確保するのに充分な量、すなわちインキの総質量に対して1~50質量%の割合で含まれることが好ましい。また、着色剤は単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0044】
(添加剤)
本実施形態における水性インキは、必要に応じて消泡剤、増粘剤、レベリング剤、顔料分散剤、硬化剤及び紫外線吸収剤等の公知の添加剤を含むことができる。
【0045】
顔料を水性媒体中に安定に分散させるには、本発明の水性ポリウレタン樹脂単独でも分散可能であるが、さらに顔料を安定に分散するため分散剤を併用することもできる。分散剤としては、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両イオン性などの界面活性剤を使用することができる。分散剤は、インキの保存安定性の観点からインキの総質量に対して0.05質量%以上、ラミネート強度の観点から5質量%以下でインキ中に含まれることが好ましく、さらに好ましくは、0.1~2質量%の範囲である。
【0046】
(硬化剤)
本発明の水性グラビアまたはフレキソインキには、水性ポリウレタン樹脂に対して硬化剤を用いて架橋させることで基材への密着性向上、ラミネート強度、耐水性向上させることができる。当該水性ポリウレタン樹脂はカルボキシル基を有するので、硬化剤としてはヒドラジン系化合物、カルボジイミド化合物またはエポキシ化合物を使用することが好ましい。
ヒドラジン系化合物としてはアジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドその他のジヒドラジド化合物が好ましい。
カルボジイミド化合物とは、カルボジイミド基を有する化合物であり、例えば日清紡社製カルボジライトE-02、E-03A、SV-02、V-02、V02-L2、V-04等が挙げられる。
エポキシ化合物とはエポキシ基を有する化合物をいい、例えばADEKA社製アデカレジンEP-4000、EP-4005、7001などの脂環式エポキシが挙げられる。
当該硬化剤はインキ総質量に対して0.05~5質量%で使用することが好ましく、0.1~3質量%で使用することがより好ましい。
【0047】
(その他樹脂)
また、本発明の作用や効果等を損なわない範囲で上記水性ポリウレタン樹脂以外の水性樹脂を含んでもよい。当該樹脂としては、例えば、上記水性ポリウレタン樹脂以外の従来の水性ポリウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性アクリル樹脂、水性スチレン-アクリル樹脂、水性スチレン-無水マレイン酸樹脂、水性ロジン変性マレイン酸樹脂、水性セルロース系樹脂、水性塩化ビニル共重合樹脂及び水性塩素化ポリオレフィン等の水性樹脂が挙げられ、これらの複数種を併用することもできる。
【0048】
(水性グラビアまたはフレキソインキの製造)
水性グラビアまたはフレキソインキの製造方法は、特に限定されないが、配合成分を、例えばボールミル、アトライター、又はビーズミル等を使用して混合または分散することにより、好ましく製造できる。例えば、顔料、水性ポリウレタン樹脂、および水をディスパーで20分程度混合したのち、サンドミルその他のビーズミルを用いて10~60分程度分散することで製造できる。
【0049】
前記方法で製造された水性インキのインキ粘度は、顔料の沈降を防ぎ、適度に分散させる観点から10mPa・s以上、インキ製造時や印刷時の作業性効率の観点から1000mPa・s以下の範囲であることが好ましい。尚、上記粘度はB型粘度計で25℃において測定された粘度などを採用することができる。
【0050】
本実施形態における印刷物は、プラスチック基材の表面に、上述の水性インキを用いて形成される印刷層を有するものである。目的とする印刷物に応じて、グラビア印刷法またはフレキソ印刷法のどちらの版方式にも用いることができる。
【0051】
(基材1)
基材の種類及び厚み等は特に限定されないがプラスチックのフィルム状であることが好ましく、基材の種類としては、ポリエステル系基材、ナイロン(ポリアミド)基材、及びポリオレフィン基材、並びにこれらの金属酸化物の蒸着物等が挙げられる。ポリオレフィン基材の場合、水酸基又はカルボニル基等の官能基を有するコロナ放電処理ポリオレフィン基材を用いると、良好な印刷物を得ることができる。プラスチック基材としては1軸もしくは2軸延伸された基材であることが好ましい。印刷物は常時巻取り物として扱われ、必要に応じてその後ラミネート工程、スリット工程等を経て特定のサイズにカットされる。
【0052】
本実施形態におけるプラスチック基材印刷物の製造方法は、巻取りプラスチック基材の表面に、上述の水性インキを用いて印刷することを含むものである。印刷後は、ラミネート、スリット(幅部分の不要部をカット)、製袋(切り取ってヒートシールして袋にする)等の工程を行うことができる。
【0053】
グラビア印刷法またはフレキソ印刷法は両者ともに印刷は巻き取り方式であり、高速印刷が可能であり、生産性に優れる。
グラビア印刷は、通常、円筒状のシリンダーの周面に絵柄及び/又は文字などを表現するセル(凹部)を設けたグラビア版を用い、このセルに印刷インキが充填され、被印刷体(プラスチック基材)をグラビア版と圧胴との間を圧接通過させることにより、前記セルに充填した印刷インキを被印刷体に転移させて、被印刷体に絵柄及び/又は文字などを再現する印刷方式である。
フレキソ印刷では、印刷インキを溜める容器からインキを直接、又はインキ供給用ポンプ等を介して、表面に凹凸形状を有するアニロックスローラに供給し、このアニロックスローラに供給されたインキが、版面の凸部との接触により版面に転移し、さらに版面とプラスチック基材との接触により最終的にプラスチック基材に転移して、絵柄及び/又は文字が形成される。
【0054】
プラスチック基材は巻取方式であるため規定の幅に揃えられたロール状のものである。従って、1枚1枚が予め切り離されている枚葉紙の形態とは異なる。基材の幅は、使用する印刷機の版幅、及びグラビア版の画像(絵柄)部分の幅を基準として適宜選択される。複数色の印刷インキを重ねて印刷する場合、当該インキはそれらの印刷の順番について特に限定されない。
【0055】
グラビア印刷及びフレキソ印刷方式において印刷を行う場合、ラミネートするために好適に用いられる裏刷り印刷方式の場合では、巻取りプラスチック基材に、先に色インキを印刷し、次に白インキを印刷するのが一般的である。色インキが複数色の場合、例えばブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローの順に印刷することができるが、特に制限されるものではない。なお、大型印刷機では更に、前記基本色に加えて特色等を用いることができる。すなわち、大型印刷機には5~10色に対応する複数の印刷ユニットがあり、1印刷ユニットには1色のインキが備えられ、5~10色の重ね印刷を一度に行うことができる。
【0056】
(積層体)
本発明における積層体は、上記印刷物の印刷層上に、更に基材をラミネートする工程を経て得ることができる。印刷層上にアンカーコート剤、溶融樹脂または接着剤等を塗布し、乾燥後、基材2と貼り合せることで得られる。当該基材2は上記の基材1と同一でもよいし、異なっていてもよい。なお当該積層体において水性グラビアまたはフレキソインキからなる印刷層は中間層(例えば、基材1/印刷層/接着剤層/基材2)として位置する。
【0057】
上記ラミネ-トの方法としては、1)得られた印刷物の印刷層上に、必要に応じてアンカーコート剤を塗布後、溶融樹脂および基材2をこの順に積層する押し出しラミネート法、又は、2)得られた印刷物の印刷層上に、接着剤を塗布後、必要に応じて乾燥させ、基材2を積層するドライラミネート法等が挙げられる。溶融樹脂としては、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体等が使用でき、アンカーコート剤としてはイミン系、イソシアネート系、ポリブタジエン系、及びチタネート系の接着剤等が挙げられる。接着剤としてはウレタン接着剤が好適であり、2液の接着剤が更に好適である。例えば、エーテル系ウレタン接着剤、エステル系ウレタン接着剤等がそれにあたる。
【0058】
ラミネートされた積層体は、包装材料として好ましく使用することができ、一般の包装材料のほか、特には食品用途の包装材料として好適に用いられる。
【実施例
【0059】
以下に本発明の具体的な実施例を比較例と併せて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、特段の断りの無い限り実施例および比較例中、「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を表す。
なお、以下に示す「インキ」は水性グラビアまたはフレキソインキの略称である。
【0060】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社製DVA-200)を用いてtanδ極大値における温度を測定した。下記に測定条件を示す。
測定サンプル:膜厚150μmの乾燥させた樹脂被膜
測定温度範囲:-90~200℃
昇温温度:5℃/分
測定周波数:10Hz
【0061】
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値。乾燥させた水性ポリウレタン樹脂をテトラヒドロフランに溶解させ、0.1%の溶液を調製し、東ソー製HLC-8320-GPC(カラム番号M-0053分子量測定範囲約2千~約400万)により重量平均分子量を測定した。
【0062】
(水酸基価および酸価)
JISK0070に記載の方法に従って求めた。
【0063】
<水性ポリウレタン樹脂の合成>
(比較合成例7)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、及び温度計を備えた反応器中で窒素ガスを導入しながら、PC(HD)2000(1,6-ヘキサンジオール「HD」成分を含む数平均分子量2000のポリカーボネートジオール 25℃において固体)235.7部、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)30.0部、及びメチルエチルケトン(MEK)250部を混合、撹拌しながらイソホロンジイソシアネート(IPDI)91.6部を1時間かけて滴下し、80℃で4時間反応させて末端イソシアネートプレポリマーとし、その後30℃まで冷却してからイソプロピルアルコール100部を加えて、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液を得た。得られた末端イソシアネートプレポリマーに対し、2-アミノエチルエタノールアミン(AEA)2.7部及びイソプロピルアルコール(IPA)150部を混合したものを室温で徐々に添加して、40℃で2時間反応させ、溶剤型ポリウレタン樹脂溶液を得た。次に、28%アンモニア水13.6部及びイオン交換水1080部を上記溶剤型ポリウレタン樹脂溶液に徐々に添加して中和することにより水溶化し、さらにメチルエチルケトン及びイソプロピルアルコールを減圧留去した後、水を加えて固形分調整を行ない、酸価35mgKOH/g、水酸基価4.1mgKOH/g、ガラス転移温度-22℃、重量平均分子量30,000である、固形分25%の水性ポリウレタン樹脂(PP7)水溶液を得た。
【0064】
(合成例1~13および比較合成例1~6、8)
表1に示す原料化合物を用いた以外は上記比較合成例7と同様の手法にて、水性ポリウレタン樹脂P1~P13および比較水性ポリウレタン樹脂PP1~PP6、PP8を合成した。
なお、表1の各原料化合物の略号は、それぞれ以下の化合物を示す。
【0065】
(脂肪族ポリカーボネートジオールを構成するジオール)
PD:1,5-ペンタンジオール
MPD:3-メチル-1,5-ペンタンジオール
NPG:ネオペンチルグリコール
BD:1,4-ブタンジオール
【0066】
(脂肪族ポリカーボネートジオール)
PC(MPD/HD=9/1)2000:上記ジオール比率MPD/HDが9/1である、数平均分子量2000のポリカーボネートジオール 25℃において液体
PC(MPD/HD=5/5)2000:上記ジオール比率MPD/HDが5/5である、数平均分子量2000のポリカーボネートジオール 25℃において液体
PC(MPD/HD=7/3)2000:上記ジオール比率MPD/HDが7/3である、数平均分子量2000のポリカーボネートジオール 25℃において液体
PC(HD/PD=5/5)2000:上記ジオール比率HD/PDが5/5である、数平均分子量2000のポリカーボネートジオール 25℃において液体
PC(BD/NPG=5/5)2000:上記ジオール比率BD/NPGが5/5である、数平均分子量2000のポリカーボネートジオール 25℃において液体
PEG2000:数平均分子量2000のポリエチレングリコール
PTG2000:数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール
PMPA2000:数平均分子量2000のポリ(3-メチル-1,5-ペンタンアジペート)ジオール
UC-100:宇部興産社製 環状ジオールを主骨格に有する数平均分子量1000のポリカーボネートジオール 25℃において固体
DMBA:ジメチロールブタン酸
DMPA:ジメチロールプロピオン酸
【0067】
(水性ポリウレタン樹脂の性状)
表1に水性ポリウレタン樹脂P1~P13(実施例)およびPP1~PP8(比較例)の酸価(mgKOH/g)、水酸基価(mgKOH/g)、水性ポリウレタン樹脂固形分中のポリエチレングリコール量(構成単位の質量%)、固形分中のポリカーボネート量(構成単位の質量%)、ガラス転移温度(℃)、および重量平均分子量を示した。
【0068】
(比較例7)(インキT7の製造)
銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー社製 藍顔料 C.I.ピグメントブルー15:3)15部、ポリウレタン樹脂PP7水溶液30部、消泡剤0.1部、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)0.2部、n-プロパノール5部および水19.7部を撹拌混合しビーズミルであるサンドミルで20分間分散した後、ポリウレタン樹脂P1水溶液20部、n-プロパノール5部、水5部を攪拌混合し、インキT7を得た。(なお表2には各成分をそれぞれの合計量で示した。)
【0069】
インキT7を用いた印刷物、積層体および包装袋の比較例7を以下に示す。
【0070】
(インキT7を用いた積層体用の印刷物作成)(OPP基材)
グラビア印刷:上記で得られたインキT7を、水/n-プロパノール混合溶剤(質量比1/1)の混合溶剤を用いて、ザーンカップ#3(離合社製)で16秒になるように調整し、岩瀬印刷機械社製のグラビア印刷機を用い、プラスチック基材(ポリプロピレン(OPP)基材 P-2161 膜厚20μm)に速度50m/minで印刷して60℃で乾燥し、印刷物を得た。版は、腐食250線版深15μmベタ版を用いた。
(インキT7を用いた積層体作成)
上記OPP印刷物の印刷層上に、イソシアネート系アンカーコート剤(東洋モ-トン株式会社製、EL557A/B)を塗工後、低密度ポリエチレンを溶融させて押し出し、更にプラスチック基材(未延伸ポリエチレン(LLDPE)基材 TUX-FCD 膜厚40μm)と貼りあわせてラミネート加工を行い、積層体を得た。本積層体を用いてラミネート強度評価を行った。
【0071】
(インキT7を用いた包装袋用の印刷物作成)(PET基材)
上記OPP基材に替えてポリエチレンテレフタレート(PET)基材(ポリエステル基材 E5100 膜厚12μm)を用いた以外は上記と同様に印刷物を作成した。
(インキT7を用いた包装袋作成)
上記PET印刷物の印刷層上にウレタン系接着剤として東洋モートン社製TM250-HVを、2g/mで塗布し、アルミ箔基材(東洋アルミ社製 膜厚7μ)と貼りあわせ、更に続いてZK-207(東レ社製 未延伸ポリプロピレン基材 膜厚60μm)と貼りあわせて積層体を得た。この積層体を未延伸ポリプロピレン面同士の縁を190℃にて熱融着することで製袋し、包装袋を得た。なお、内容物は水とした。本包装袋を用いて以下の耐光性および耐レトルト性試験を行った。
【0072】
(実施例1~16)(インキS1~S16)
表2に記載のインキおよび組成を用いた以外はT7と同様の手法にてインキS1~S16(実施例)およびその印刷物、積層体および包装袋をそれぞれ得た。
【0073】
(比較例1~6、8)(インキT1~T6、T8)
表2に記載のインキおよび組成を用いた以外はT7と同様の手法にてインキT1~T6、T8(比較例)およびその印刷物、積層体および包装袋をそれぞれ得た。
【0074】
[特性評価]
上記インキS1~S16(実施例)およびT1~T8(比較例)およびそれを使用した印刷物、積層体および包装袋を用いて以下の特定評価を行い、その結果を表2に示した。なお表中において、比較例3の※1とは以下を表す。
※1:インキの分散状態が悪く、評価をすることが不可能であった。
【0075】
[ラミネート強度]
S1~S16(実施例)およびT1~T8(比較例)を用いた積層体について幅15mmで裁断し、インキ面と溶融樹脂層の間で剥離させた際の剥離強度を、インテスコ製201万能引張り試験機を用いて測定した。評価基準を下記に示す。実用レベルは3~5である。
5:剥離強度が1.0N/15mm以上のもの
4:剥離強度が0.7N/15mm以上、1.0N/15mm未満のもの
3:剥離強度が0.5N/15mm以上、0.7N/15mm未満のもの
2:剥離強度が0.3N/15mm以上、0.5N/15mm未満のもの
1:剥離強度が0.3N/15mm未満のもの
【0076】
[耐光性]
S1~S16(実施例)およびT1~T8(比較例)を用いた包装袋について紫外線オートフェドメーター(スガ試験機株式会社製 型式:UA48AUHB)にて紫外線を6時間および12時間照射した。照射後のラミネート強度を測定し、照射前後でのラミネート強度の比較を行った。評価基準を下記に示す。実用レベルは3~5である。
5:紫外線照射前後で剥離強度低下が全くみられず、照射後の剥離強度が2.0N/15mm以上のもの
4:紫外線照射前後で1.0N/15mm未満の剥離強度低下がみられるが、照射後の剥離強度が2.0N/15mm以上のもの
3:紫外線照射前後で1.0N/15mm以上の剥離強度低下がみられるが、照射後の剥離強度が1.0N/15mm以上、2.0N/15mm未満のもの
2:紫外線照射前後で1.0N/15mm以上の剥離強度低下がみられ、照射後の剥離強度が0.5N/15mm以上、1.0N/15mm未満のもの
1:紫外線照射前後で1.0N/15mm以上の剥離強度低下がみられ、照射後の剥離強度が0.5N/15mm未満のもの
【0077】
[耐レトルト適性〕
S1~S16(実施例)およびT1~T8(比較例)を用いた包装袋について、120℃、80分のレトルト試験を行い、レトルト直後のラミネート強度をレトルト試験前のラミネート強度を比較した。評価基準を下記に示す。実用レベルは3~5である。
5:レトルト前後で剥離強度低下が全くみられず、レトルト後の剥離強度が2.0N/15mm以上のもの
4:レトルト前後で1.0N/15mm未満の剥離強度低下がみられるが、レトルト後の剥離強度が2.0N/15mm以上のもの
3:レトルト前後で1.0N/15mm以上の剥離強度低下がみられるが、レトルト後の剥離強度が1.0N/15mm以上、2.0N/15mm未満のもの
2:レトルト前後で1.0N/15mm以上の剥離強度低下がみられ、レトルト後の剥離強度が0.5N/15mm以上、1.0N/15mm未満のもの
1:レトルト前後で1.0N/15mm以上の剥離強度低下がみられ、レトルト後の剥離強度が0.5N/15mm未満のもの
【0078】
[希釈インキ安定性]
上記でグラビア印刷用にザーンカップ#3で16秒へ調整した希釈インキの、40℃7日間保管後の粘度を測定し、増粘の程度を以下の評価基準で測定した。
5:増粘が無いもの
4:増粘が2秒以内のもの
3:増粘が5秒以内のもの
2:増粘が10秒以内のもの
1:増粘が著しく、粘度が測定できないもの
【0079】
実施例1~16のインキは、比較例1~8のインキと比較して紫外線照射12時間後の耐光性に優れ、およびラミネート強度、耐レトルト性も実用レベルである優れたインキを提供することができた。
【0080】
上記で示されたとおり、実施例では、耐ブロッキング性、耐水性、及びラミネート強度の全てが実用レベル以上であるインキが得られ、プラスチック基材上への印刷に適したインキであることが確認できた。一方、比較例のインキは、紫外線照射12時間後の耐光性が充分でないか、耐レトルト性がなかった。
【0081】
[実施例17](フレキソ印刷による評価)
フレキソ版(感光性樹脂版 版厚1mm 版線数150線)及びアニロックスロールを具備したフレキソ印刷機にてフレキソ印刷法により印刷を行った以外は実施例1と同様の方法でインキS1に関する印刷物、積層体および包装袋を得た。更に上記と同様の特性評価を行ったところ、上記実施例1における評価結果と同一であった。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】