(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】核酸の回収方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20230307BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230307BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20230307BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230307BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230307BHJP
【FI】
C12N15/10 110Z
C08L71/02 ZNA
C08K3/20
C12N15/113 Z
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2019505536
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047845
(87)【国際公開番号】W WO2019131760
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2017250916
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】荒井 大河
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正照
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152763(WO,A1)
【文献】特開2003-235555(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0177855(US,A1)
【文献】国際公開第2017/159763(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液試料から核酸を回収する方法であって、以下の工程:
工程a)カオトロピック試薬、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体および核酸を含む溶液を混合し、担体に核酸を吸着させる工程、
工程b)工程a)において混合した溶液から、前記核酸が吸着した担体を分離する工程、
工程c)工程b)において分離した担体を、アニオン性界面活性剤を含む溶液と混合する工程、
工程d)工程c)において混合した溶液から、前記核酸が吸着した担体を分離する工程、
工程e)工程d)において分離した担体に、溶出液を加えて核酸を回収する工程、
を含
み、
前記中性ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである核酸の回収方法。
【請求項2】
前記核酸が、マイクロRNAまたはセルフリーDNAであることを特徴とする請求項1に記載の核酸の回収方法。
【請求項3】
前記体液試料が、全血、血清、血しょう、尿または唾液であることを特徴とする請求項1または2に記載の核酸の回収方法。
【請求項4】
前記アニオン性界面活性剤が、カルボン酸型、スルホン酸型または硫酸エステル型である請求項1から3のいずれかに記載の核酸の回収方法。
【請求項5】
前記カルボン酸型のアニオン性界面活性剤が、カプリル酸塩、ペラルゴン酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、N-デカノイルサルコシン塩またはN-ラウロイルサルコシン塩である請求項4に記載の核酸の回収方法。
【請求項6】
前記スルホン酸型のアニオン性界面活性剤が、オクチルベンゼンスルホン酸塩またはドデシルベンゼンスルホン酸塩である請求項4に記載の核酸の回収方法。
【請求項7】
前記硫酸エステル型のアニオン性界面活性剤が、オクチル硫酸塩、デシル硫酸塩またはドデシル硫酸塩である請求項4に記載の核酸の回収方法。
【請求項8】
前記水溶性の中性ポリマーが、pH7の溶液中で-10mV以上+10mV以下のゼータ電位を有するポリマーであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の核酸の回収方法。
【請求項9】
前記溶出液が緩衝液であることを特徴とする請求項1から
8のいずれかに記載の核酸の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体により、体液試料から高収量に核酸を回収する方法及び核酸回収用のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸を用いた実験技術の発展により新規遺伝子探索やその解析が可能となった。がんなどの疾患を特定するためにヒトのゲノムが解析され、病原体の感染を特定するためにそれらのゲノムが解析されるなど、医療現場においても遺伝子解析を利用したスクリーニング検査や臨床検査などが行われている。特に近年では、血液や尿などの体液試料から遺伝子を回収して検出することが低侵襲な検査として期待されている。
【0003】
このような体液中の遺伝子解析の標的としては、ゲノムのような長鎖核酸ばかりではなく、1000塩基以下の短鎖核酸も注目されている。近年発見されたmiRNAは、一般に、18塩基以上25塩基以下の1本鎖RNAであり、60塩基以上90塩基以下のpre-miRNAから生合成される。これらは、タンパク質の合成や遺伝子の発現を調節する機能を持っていることから疾患と関連があるとされ、遺伝子解析の標的として注目されている。また、近年注目されるセルフリーDNA(cfDNA)は、ヒストン1単位に相当する166塩基の1~4倍程度の長さを有する2本鎖DNAであり、細胞が死滅し、分解する過程で生成する。セルフリーDNAの中でも特にがん細胞由来のものは血中循環腫瘍DNA(ctDNA)と呼ばれ、がん特有の遺伝子変異を有していることから、治療薬に対する効果の有無を判定したり、がんの有無を検査する標的として注目されている。
【0004】
特許文献1には、水溶性の中性ポリマーが吸着した酸化アルミニウムの担体を用いることを特徴とする核酸の回収方法が開示されており、その方法によれば高い収量で核酸を回収できることが示されている。具体的には、後述する
図2に示すように、カオトロピック試薬が存在する条件下で担体に核酸を吸着させ、核酸が吸着した担体に対して溶出液を加えて核酸を溶出して回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は、高い収量で核酸を回収することができるが、体液中に極微量存在する核酸を回収する場合には、回収量の更なる向上が望まれる。例えば、上記のがん特有の遺伝子変異は、体液中に極微量しか存在していない場合が多い。また、従来方法では回収できていない微量核酸が、体液中はまだ存在していると予想される。このような核酸を解析するためには、より高い収量で核酸を回収する方法が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特許文献1に開示されている核酸の回収方法を基に、より高い収量で核酸を回収可能な方法を検討した。本発明者らは、核酸が吸着した担体に溶出液を添加する前の工程として、核酸が吸着した担体を、アニオン性界面活性剤を含む溶液と混合する工程を追加することによって、核酸の回収量がさらに向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は以下のとおりである。
(1)体液試料から核酸を回収する方法であって、以下の工程:
工程a)カオトロピック試薬、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体および核酸を含む溶液を混合し、担体に核酸を吸着させる工程、
工程b)工程a)において混合した溶液から、前記核酸が吸着した担体を分離する工程、
工程c)工程b)において分離した担体を、アニオン性界面活性剤を含む溶液と混合する工程、
工程d)工程c)において混合した溶液から、前記核酸が吸着した担体を分離する工程、
工程e)工程d)において分離した担体に、溶出液を加えて核酸を回収する工程、
を含む、核酸の回収方法。
(2)前記核酸が、マイクロRNAまたはセルフリーDNAであることを特徴とする(1)に記載の核酸の回収方法。
(3)前記体液試料が、全血、血清、血しょう、尿または唾液であることを特徴とする(1)または(2)に記載の核酸の回収方法。
(4)前記アニオン性界面活性剤が、カルボン酸型、スルホン酸型または硫酸エステル型である(1)から(3)のいずれかに記載の核酸の回収方法。
(5)前記カルボン酸型のアニオン性界面活性剤が、カプリル酸塩、ペラルゴン酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、N-デカノイルサルコシン塩またはN-ラウロイルサルコシン塩である(4)に記載の核酸の回収方法。
(6)前記スルホン酸型のアニオン性界面活性剤が、オクチルベンゼンスルホン酸塩またはドデシルベンゼンスルホン酸塩である(4)に記載の核酸の回収方法。
(7)前記硫酸エステル型のアニオン性界面活性剤が、オクチル硫酸塩デシル硫酸塩またはドデシル硫酸塩である(4)に記載の核酸の回収方法。
(8)前記水溶性の中性ポリマーが、pH7の溶液中で-10mV以上+10mV以下のゼータ電位を有するポリマーであることを特徴とする(1)から(7)のいずれかに記載の核酸の回収方法。
(9)前記ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであることを特徴とする(8)に記載の核酸の回収方法。
(10)前記溶出液が緩衝液であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の核酸の回収方法。
(11)水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体、カオトロピック試薬を含む溶液およびアニオン性界面活性剤を含む溶液を備えることを特徴とする核酸回収用のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来方法よりも高い収率で核酸を回収することが可能となるため、体液中に極微量存在する核酸の回収や、新規な核酸の回収が可能になると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の核酸の回収方法の各工程の概要を示す。
【
図2】特許文献1に記載の核酸の回収方法の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、体液試料から核酸を回収する方法であって、以下の工程:
工程a)カオトロピック試薬、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体および核酸を含む溶液を混合し、担体に核酸を吸着させる工程、
工程b)工程a)において混合した溶液から、前記核酸が吸着した担体を分離する工程、
工程c)工程b)において分離した担体を、アニオン性界面活性剤を含む溶液と混合する工程、
工程d)工程c)において混合した溶液から、前記核酸が吸着した担体を分離する工程、
工程e)工程d)において分離した担体に、溶出液を加えて核酸を回収する工程、
を含む、核酸の回収方法である。
【0012】
本明細書中では、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体を本発明の担体と記載する場合がある。
【0013】
特許文献1の記載の核酸の回収方法は、
図2に示すとおり、以下の工程a)、工程b)および工程e)を基本工程する方法である。
工程a)カオトロピック試薬、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体および核酸を含む溶液を混合し、担体に核酸を吸着させる工程、
工程b)工程a)において混合した溶液から、前記核酸が吸着した担体を分離する工程、
工程e)工程b)において分離した担体に、溶出液を加えて核酸を回収する工程。
【0014】
本発明者らは、
図1に示すとおり、工程e)の核酸が吸着した担体に、溶出液を加える工程の前工程として、核酸が吸着した担体をアニオン性界面活性剤と混合する工程c)を追加することによって、核酸の回収量がさらに向上することを見出した。以下、本発明を工程毎に説明する。
【0015】
工程a)は、カオトロピック試薬、本発明の担体および核酸を含む溶液を混合し、本発明の担体に核酸を吸着させる工程である。工程a)では、カオトロピック試薬の存在下で、担体と、核酸を含む溶液を混合し、本発明の担体に核酸を吸着させる。
【0016】
カオトロピック試薬、本発明の担体及び核酸を含む溶液の混合方法は特に限定されないが、例えばピペッティングや転倒混合により行ってもよく、ミキサー、ボルテックスなどの装置を使用してもよい。混合時間は、特に限定されないが、5分程度であればよく、それ以上の時間混合してもよい。また、カオトロピック試薬、本発明の担体及び核酸を含む溶液を混合する順番は特に限定されない。例えば、本発明の担体をカラムに充填し、カオトロピック試薬と核酸を含む溶液を通過させてもよい。
【0017】
本発明で用いるカオトロピック試薬は、カオトロピックイオンを生じる物質の総称であり、タンパク質などの分子構造を不安定化する性質を持つ化学物質である。カオトロピックイオンは、カオトロープとも呼ばれる。カオトロピック試薬の具体例としては、例えば、グアニジン塩、イソチアン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、尿素、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化アンモニウム、過塩素酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、アンモニウムイソチオシアネート、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムなどが挙げられる。これらの中でも、グアニジン塩または尿素が好ましい。グアニジン塩としては、塩酸グアニジン、グアニジンチオシアン酸塩(チオシアン酸グアニジン)、グアニジン硫酸塩、イソチオシアン酸グアニジンが挙げられ、これらの中でも、塩酸グアニジンまたはグアニジンチオシアン酸塩が好ましい。これらの塩は、単独で用いても複数組み合わせて用いてもよい。
【0018】
カオトロピック試薬、本発明の担体および核酸を含む溶液を混合液において、カオトロピック試薬の濃度は、0.5M以上8M以下であればよく、好ましくは1M以上8M以下、更に好ましくは2M以上8M以下、最も好ましくは4M以上7M以下である。
【0019】
工程b)は、工程a)において混合した混合物から、前記核酸が吸着した担体を分離する工程である。分離の方法としては、工程a)で得られる混合物を遠心分離し、核酸が吸着した担体を沈殿させ、上清を除く方法が挙げられる。核酸が吸着した担体の比重は水より重いため、遠心操作により容易に沈殿させることができる。遠心分離の条件は、6000Gで1分間処理すればよく、10000Gで1分間処理することがより好ましい。他の分離方法としては、限外ろ過膜やメッシュを用いる方法が挙げられる。核酸が吸着した担体の粒径より小さな孔径を持つ限外ろ過膜やメッシュに対し、工程a)で得られた混合物を通過させ、核酸が吸着した担体を分離する。このような限外ろ過膜はキット化されており、メルク株式会社のウルトラフリー(登録商標)やPall Corporationのナノセップ(登録商標)に代表される遠心ろ過キットを入手して利用することができる。
【0020】
また、工程b)の操作の後に、必要に応じて以下のような洗浄処理をしてもよい。これは、工程a)の後に、本発明の担体の表面に目的となる核酸以外の体液試料由来物が吸着している可能性があるためである。例えば、より高純度に核酸を単離するため、洗浄や分解の処理を行うことができる。具体的には、非特異的に吸着した化合物を除去するために水で洗浄する、非特異的に吸着したタンパク質を除去するために界面活性剤で洗浄する、イオンや低分子化合物を除去するために非イオン性の界面活性剤を含む溶液で洗浄する、非特異的に吸着した疎水性化合物を除去するために有機溶媒で洗浄する、非特異的に吸着したタンパク質を分解するためにタンパク質分解酵素を添加する、DNAのみを単離するためにRNA分解酵素を添加する及びRNAのみを単離するためにDNA分解酵素を添加する、などの様々な処理をすることができる。本洗浄処理は、
図1中で洗浄工程1として示す。
【0021】
工程c)は、工程b)において分離した担体を、アニオン性界面活性剤を含む溶液と混合する工程である。
【0022】
本発明で用いるアニオン性界面活性剤は、界面活性を示す原子団が陰イオンとなる界面活性剤の総称であり、陰イオン性界面活性剤とも呼ばれる。陰イオンは、そのカウンタ-イオンである陽イオンと共に塩を形成している。例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、ヒドロキシアンモニウム塩(アミノアルコール塩)を好ましく用いることができる。
【0023】
アニオン性界面活性剤は、イオン性官能基の種類で分類することができ、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型などに分類される。本発明では、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型のアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0024】
カルボン酸型のアニオン性界面活性剤の具体例は、カプリル酸塩、ペラルゴン酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、ペンタデシル酸塩、パルミチン酸塩、パルミトレイン酸塩、マルガリン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、バクセン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、エレオステアリン酸塩、アラキジン酸塩、ベヘン酸塩、リグノセリン酸塩、コール酸塩、N-デカノイルサルコシン塩、N-ラウロイルサルコシン塩などが挙げられ、これらの中でも、カプリル酸塩、ペラルゴン酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、N-デカノイルサルコシン塩またはN-ラウロイルサルコシン塩が好ましい。これらカルボン酸塩の好ましい具体例としては、カプリル酸ナトリウム、ペラルゴン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、N-デカノイルサルコシンナトリウムおよびN-ラウロイルサルコシンナトリウムが挙げられる。
【0025】
スルホン酸型のアニオン性界面活性剤の具体例は、1-ノナンスルホン酸1-デカンスルホン酸塩、1-ドデカンスルホン酸塩、1-オクタデカンスルホン酸塩、1-ウンデカンスルホン酸塩、クメンスルホン酸ナトリウム塩、オクチルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、1-テトラデカンスルホン酸塩、1-ペンタデカンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ブチルナフタレンスルホン酸塩、1-ヘキサデカンスルホン酸塩、スルホコハク酸ビス(2-エチルヘキシル)エステル塩、5-スルホイソフタル酸ジメチルエステル塩などが挙げられ、これらの中でもオクチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸が好ましい。これらスルホン酸塩の好ましい具体例としてはオクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。ドデシルベンゼンスルホン酸は、ハード型、ソフト型、混合型などの種類があるが、いずれも好ましく用いることができる。
【0026】
硫酸エステル型のアニオン性界面活性剤の具体例は、オクチル硫酸塩、デシル硫酸塩、ドデシル硫酸塩、テトラデシル硫酸塩、ヘキサデシル硫酸塩などが挙げられ、これらの中でもオクチル硫酸、デシル硫酸、ドデシル硫酸が好ましい。これら硫酸エステル塩の好ましい具体例としては、オクチル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0027】
また、本発明で用いるアニオン性界面活性剤は、上記化合物のアルキル側鎖にエーテル結合を含んでいてもよい。
【0028】
上記に挙げた界面活性剤は1種類のみを使用してもよく、複数種を混合して用いても良い。
【0029】
アニオン性界面活性剤は、工程c)の混合液に対して終濃度として0.01重量%以上2重量%以下が好ましく、0.05重量%以上2重量%以下がより好ましく、0.075重量%以上2重量%以下がさらに好ましく、0.075重量%以上1.5重量%以下が特に好ましい。アニオン性界面活性剤の濃度は、水や緩衝液に添加することで調整できる。
【0030】
アニオン性界面活性剤を含む溶液は、アニオン性の界面活性剤を溶解させた溶液を用いることができる。溶媒には、水、中性からアルカリ性の水溶液や緩衝液を用いることができる。また、アニオン性界面活性剤のフリー体を中和して塩を形成させることにより、アニオン性界面活性剤を含む溶液を調製することもできる。例えば、ドデシル硫酸を水酸化ナトリウム水溶液やナトリウムを含む緩衝液に溶解させて、ドデシル硫酸ナトリウムを含む溶液を調製することができる。
【0031】
アニオン性界面活性剤と担体との接触は任意のタイミングで行うことができる。アニオン性界面活性剤を含む溶液を調製したあと、担体を添加して混合してもよいし、担体を添加した状態でアニオン性界面活性剤を含む溶液を調製してもよい。
【0032】
担体と、アニオン性界面活性剤を含む溶液とを混合する方法は、具体的には、担体を、アニオン性界面活性剤を含む溶液に浸漬することができる。浸漬後は、静置してもよいし、撹拌してもよい。撹拌は、ピペッティングや転倒撹拌により行ってもよく、ミキサー、ボルテックスなどの装置を使用して行ってもよい。混合時間は、特に限定されないが、1分程度であればよく、それ以上の時間混合してもよい。また、本発明の担体をカラムに充填し、核酸を含む溶液を通過させてもよい。
【0033】
工程d)は、工程c)において混合した混合物から、前記核酸が吸着した担体を分離する工程である。分離の方法は、工程b)と同様の条件、方法で行うことができる。
【0034】
さらに、工程d)の操作の後に、必要に応じて、上記の洗浄工程1と同様の方法で洗浄処理をしてもよい。これは、工程c)の際に使用したアニオン性界面活性剤が系中に残存していると、回収した核酸をその後の測定系に影響する可能性があるためである。本洗浄処理は、
図1中で洗浄工程2として示す。
【0035】
工程e)は、工程d)において分離した前記核酸が吸着した本発明の担体に溶出液を加えて核酸を回収する工程である。
【0036】
上記溶出液を加えて核酸を回収するにあたって、本発明の担体と、核酸を溶出させた溶液を分離したい場合には、工程b)と同様の条件、方法で行うことができる。
【0037】
核酸が吸着した担体と溶出液との混合方法は特に限定されないが、例えばピペッティングや転倒混合により行ってもよく、ミキサー、ボルテックスなどの装置を使用してもよい。混合時間は、特に限定されないが、5分程度であればよく、それ以上の時間混合してもよい。
【0038】
回収された核酸は、必要に応じて、化学修飾を行うことができる。化学修飾には、核酸の末端に対する蛍光色素修飾、消光剤修飾、ビオチン修飾、アミノ化、カルボキシル化、マレインイミド化、スクシンイミド化、リン酸化及び脱リン酸化などが挙げられ、他にはインターカレーターによる染色が挙げられる。これらの修飾は化学反応により導入されてもよく、酵素反応により導入されてもよい。上記定量の前にこれらの修飾基を導入し、回収された核酸自身を定量するのではなく、化学修飾を経て導入された修飾基を定量することで、間接的に核酸を定量することができる。本発明により核酸が回収され、特に短鎖核酸においては高収率に回収されるため、上記定量において高感度に定量することが可能となる。
【0039】
本発明の担体は、酸化アルミニウムの表面に水溶性の中性ポリマーを吸着させることにより作製する。ポリマーによる表面の被覆率は、7%以上が好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、特に好ましくは30%以上、最も好ましくは40%以上である。また、水溶性の中性ポリマーは、均一の厚さで吸着していなくてもよい。
【0040】
本発明の担体における、ポリマーによるアルミナの被覆率は、表面電位顕微鏡(別名ケルビンプローブフォース顕微鏡;KFM)によって取得した電位分布図を解析することで算出する。表面電位顕微鏡は、例えば、Bruker AXS社のDigital Instruments製のNanoScope Iva AFM Dimension 3100 ステージAFMシステム等が利用できる。
【0041】
表面電位顕微鏡から表面被覆率を算出するにあたり、測定の視野スケールは、0.5μm×1μmの範囲で行う。表面被覆率の算出方法は、まず酸化アルミニウムの表面電位画像を取得し視野内の平均電位を求める。次に水溶性の中性ポリマーの表面電位画像を取得し視野内の平均電位を求める。そして、水溶性の中性ポリマーが吸着した酸化アルミニウムの表面電位画像を取得し視野内の平均電位を求める。酸化アルミニウムのみの被覆率を0%、水溶性の中性ポリマーのみの被覆率を100%とし、水溶性の中性ポリマーが吸着した酸化アルミニウムの平均電位と水溶性の中性ポリマーの平均電位の比をとることで、水溶性の中性ポリマーが吸着した酸化アルミニウムの表面被覆率を算出する。表面被覆率を求めるにあたり、使用する視野内の平均電位は、本発明の担体の粒子をランダムに3つ選んで、それぞれの測定値の平均値を使用する。
【0042】
また、本発明では、表面被覆率を算出する際の画像解析ソフトとして、Adobe社のPhotoshopを使用できる。この場合、画像解析にあたって、酸化アルミニウムの表面電位の平均値をスケール下端、水溶性の中性ポリマーの表面電位の平均値をスケール上端とし、下端の色を黒(8bit、RGB値0)、上端の色を赤(R値255)または緑(G値255)または青(B値255)などに設定する。設定したスケールで水溶性の中性ポリマーが吸着した酸化アルミニウムの表面電位画像を表示し、R値、G値またはB値のいずれかの値を255で割り、その比を表面被覆率とする。
【0043】
水溶性の中性ポリマーを表面に吸着させる前段階として、予め酸化アルミニウムを水やエタノールなどの溶液で洗浄し、表面に吸着している不純物を除いておいてもよく、本洗浄操作を省略してもよい。
【0044】
水溶性の中性ポリマーを酸化アルミニウムの表面に吸着させる方法は、例えば、水溶性の中性ポリマーを溶解させて水溶性の中性ポリマー溶液を調製し、酸化アルミニウムに接触させる方法が挙げられる。具体的には、水溶性の中性ポリマー溶液に酸化アルミニウムを浸漬させたり、水溶性の中性ポリマー溶液を酸化アルミニウムに滴下したり、水溶性の中性ポリマー溶液を酸化アルミニウムに塗布したり、水溶性の中性ポリマー溶液を霧状にして酸化アルミニウムに吹き付けたりすることができる。
【0045】
水溶性の中性ポリマー溶液に、酸化アルミニウムを浸漬させる方法は特に限定されない。例えば、ピペッティング、転倒混合、スターラー、ミキサー、ボルテックス、ミル等の分散機や超音波処理装置などで撹拌してもよい。
【0046】
水溶性の中性ポリマー濃度は、特に限定されないが、0.01wt%以上が好ましく、より好ましくは、0.1wt%以上である。
【0047】
攪拌する際の混合時間は、水溶性の中性ポリマーと酸化アルミニウムが均一に混合されれば、特に混合時間は限定されないが、ボルテックスの場合1分以上、好ましくは5分以上撹拌することが好ましい。
【0048】
また、ふるいや、ざる等を用いて水溶性の中性ポリマーを酸化アルミニウムにディップコートすることもできる。溶液に浸す際の混合時間は、0.1wt%以上のポリマー濃度であれば5分以上であればよく、30分以上であることが好ましい。
【0049】
水溶性の中性ポリマー溶液を滴下する場合には、スポイト、滴下漏斗などを用いることができる。ポリマー溶液を滴下する際には、酸化アルミニウムを振動させたり、回転させたりしてもよく、スピンコーターなどを用いてもよい。
【0050】
水溶性の中性ポリマー溶液を塗布する場合には、刷毛、ローラー、ワイヤーバーを用いることができる。
【0051】
水溶性の中性ポリマー溶液を霧状にして吹き付ける場合には、エアースプレーやエアブラシなどを用いることができる。
【0052】
上記に例示した方法で、酸化アルミニウムに水溶性の中性ポリマーを吸着させた後は、遠心分離操作を行って、上清となるポリマー溶液を取り除いてもよいし、遠心分離操作を行わずにそのまま核酸の回収に用いてもよい。また、ポリマー溶液を溶媒に溶解させている場合、酸化アルミニウムに水溶性の中性ポリマーを吸着させ、溶媒を取り除いた後、乾燥させてもよいし、乾燥させずに、核酸の回収に用いてもよい。
【0053】
本発明の担体は、事前に作製して保存しておいたものを使用してもよく、用時調製して使用してもよい。
【0054】
水溶性の中性ポリマー溶液は、入手した水溶性の中性ポリマーが固体であれば水や有機溶媒に溶解することで調製でき、溶液であれば希釈することで調製できる。ポリマーが溶解しにくい場合や、溶液の粘度が高く混合しにくい場合、加熱処理や超音波処理を行ってもよい。有機溶媒は、例えば、エタノール、アセトニトリル、メタノール、プロパノール、tert-ブタノール、DMF、DMSO、アセトン、エチレングリコール、グリセロールなど、水と双溶性のあるものを使用することが好ましい。また、水に溶解しにくい場合には、上記の有機溶媒を添加してもよい。
【0055】
酸化アルミニウムと水溶性の中性ポリマーを、リンカー分子などによって共有結合させて作製した担体は、本発明の担体に該当しない。具体的なリンカー分子には、シランカップリング剤などが挙げられる。このようなシランカップリング剤による官能化の後に、アミド結合、エステル結合、チオールとマレインイミドのマイケル付加反応物、ジスルフィド結合、トリアゾール環などを形成させ、ポリマー等を固定化して作製した担体も、本発明の担体に該当しない。
【0056】
本発明の核酸回収用のキットは、体液試料から、核酸を効率的に回収するために利用することができる。本発明の核酸回収用のキットは、その構成成分として、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体、カオトロピック試薬を含む溶液、アニオン性界面活性剤を含む溶液が含まれ、さらに緩衝液が含まれてもよい。また、キットには、これらの他に、キットの仕様書や説明書などが含まれていてもよい。
【0057】
本発明の核酸回収用のキットに含まれる、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体は、乾燥させた状態であってもよいし、水溶性の中性ポリマーの溶液中に浸漬された状態であってもよい。
【0058】
本発明の核酸回収用のキットに含まれる緩衝液には、上記工程e)の溶出液に用いることができる緩衝液が利用できる。
【0059】
本発明で用いる体液試料は、核酸を含む任意の体液試料を使用できる。核酸には、例えば、RNA、DNA、RNA/DNA(キメラ)及び人工核酸などが挙げられる。DNAには、cDNA、マイクロDNA(miDNA)、ゲノムDNA、及び合成DNA、セルフリーDNA(cfDNA)、ctDNA、ミトコンドリアDNA(mtDNA)などが挙げられる。また、RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、miRNA、siRNA、snoRNA、snRNAもしくはnon-coding RNA、それらの前駆体又は合成RNAなどが挙げられる。合成DNA及び合成RNAは、所定の塩基配列(天然型配列又は非天然型配列のいずれでもよい)に基づいて、例えば自動核酸合成機を用いて、人工的に作製できる。
【0060】
体液試料としては、例えば血液、尿、唾液、粘膜、汗、痰、精液などの体液などを利用することができる。上記体液試料は、好ましくは血液、尿、唾液である。血液には全血、血漿、血清、血球などが含まれる。
【0061】
これらの体液試料は、採取後そのまま本発明を適用してもよいし、採取後に溶液を加えて希釈してもよい。体液試料に沈殿物や浮遊物が多い場合には、遠心操作によってこれらをペレットにし、上清のみを使用してもよい。また、フィルターなどを通過させてから使用してもよい。この上清や通過後の体液試料は、水や緩衝液で希釈してから本発明に用いてもよい。
【0062】
体液試料は、必要に応じて、以下のような処理をしてもよい。これは、一般に、体液を含む生物学的試料において、核酸が細胞膜、細胞壁、小胞、リポソーム、ミセル、リボソーム、ヒストン、核膜、ミトコンドリア、ウイルスのキャプシド、エンベロープ、エンドソームまたはエキソソームなどに内包されていたり、これらが相互作用していたりすることが多いためである。より収率よく核酸を回収するために、これらから遊離させることを目的とした処理を行ってもよい。
【0063】
具体的には、大腸菌が含まれている体液試料から核酸の回収効率を高めるために、以下のような処理を行うことができる。例えば、大腸菌が含まれる体液試料に対して0.2Mの水酸化ナトリウムと1%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の混合液を加えることができ(アルカリ変性法)、また、10%のサルコシル溶液を加えることもできる(サルコシルによる非変性法)。また、これらの溶液にリゾチームを添加しておいてもよい。また、プロテイナーゼKにより37℃で1時間処理を行うこともできる。他の方法として超音波処理を行うこともできる。
【0064】
酵母が含まれている体液試料から核酸の回収効率を高めるために、以下のような処理を行うことができる。例えば、生化学工業株式会社から市販されているザイモリエースで処理した後に10%のSDSを加えることもできる。
【0065】
細胞が含まれている体液試料から核酸の回収効率を高めるために、以下のような処理を行うことができる。例えば、1%のSDSやTritonXを加えることができる。他の方法として、塩化グアニジニウム、グアニジンチオシアン酸塩、及び尿素などを、例えば各終濃度が4M以上になるように加えてもよい。この溶液に対して、サルコシルを0.5%以上になるよう加えてもよい。また、メルカプトエタノールを50mM以上の濃度になるよう加えてもよい。
【0066】
上記の操作において、体液試料に含まれる核酸の分解を抑制するために、核酸の分解酵素の阻害剤を添加してもよい。DNA分解酵素の阻害剤として、EDTAを1mM以下の濃度で添加することができる。また、RNA分解酵素の阻害剤として市販されているRNasin Plus Ribonuclease Inhibitor(プロメガ株式会社)、Ribonuclease Inhibitor(タカラバイオ株式会社)、RNase inhibitor(東洋紡株式会社)などを使用することができる。
【0067】
体液試料にDNAとRNAが混在している場合には、フェノール・クロロホルム抽出によって分離することもできる。例えば、フェノール・クロロホルム抽出を酸性条件で行えばRNAは水層、DNAはクロロホルム層に分離され、中性条件で行えばRNAとDNAは水相に分配される。この性質を利用して、取得したい核酸の種類に応じて条件を選択できる。上記のクロロホルムは、p-ブロモアニソールに置換することもできる。
【0068】
フェノール・クロロホルム抽出は、市販試薬であるISOGEN(登録商標:株式会社ニッポンジーン)、TRIzol(登録商標:ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、RNAiso(タカラバイオ株式会社)、3D-Gene(登録商標) RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ株式会社)を利用することもできる。以上の処理は、その一工程のみを行ってもよく、他の操作における工程と組み合わせることもできる。また、それに用いる溶液の濃度は、必要に応じて変えることもできる。
【0069】
本発明において核酸を含む溶液としては、体液試料やその希釈液を用いることができる。また、核酸、人工核酸、色素やリン酸基等の修飾が施された核酸を溶解させた溶液と体液試料とを混合した溶液を用いることもできる。体液試料に対し、上記のいずれかの処理を行った後に得られる溶液をそのまま用いてもよいし、必要に応じて希釈してもよい。希釈する溶液は特に限定されないが、水やHEPES緩衝液、Tris-塩酸緩衝液などの核酸を含む溶液に汎用される溶液を使用することが好ましい。
【0070】
本発明において、回収する核酸の長さは特に限定されないが、1000塩基対以下であることが好ましい。また、本発明は、従来技術では難しかったセルフリーDNAやctDNAなどの300塩基対以下の核酸も高収率で回収することができ、100塩基対以下のpre-miRNAやmiRNAも高収率で回収することができる。
【0071】
核酸の回収量は、以下のように測定することができる。例えば、吸光度測定、蛍光測定、発光測定、電気泳動、PCR、RT-PCR、マイクロアレイを使用した解析、シーケンサーを使った解析などが挙げられる。非修飾の核酸であれば、260nmにおける吸光度を測定することで核酸量を定量することができる。また、蛍光色素が修飾された核酸であれば、その蛍光色素に由来する蛍光強度を、濃度既知の溶液における蛍光強度と比較することで核酸量を定量できる。その他、電気泳動により行うことができる。電気泳動による回収率の算出方法は、濃度既知のサンプルと同時に回収操作を行ったサンプルを泳動し、ゲルを染色してバンドの濃度を画像解析により比較することで決定することができる。
【0072】
核酸量が極微量で定量が難しい場合は、DNAチップ、リアルタイムPCRなどの核酸の検出方法を用い、検出値を比較することによって、核酸の収量を比較することができる。例えば、DNAチップのような検出反応において、蛍光測定や発光測定を原理とした測定系であればそのシグナル値が高いほうが高収量であると判断できる。例えば、DNAチップであれば、スキャナーを用いて蛍光画像を取得し、遺伝子ごとの蛍光シグナル強度を数値化することで収量を比較することができる。miRNAやmRNAのような発現量の網羅解析であれば、遺伝子ごとの蛍光シグナル強度を比較することができ、異なる手法を比較したときそのシグナル値が高いほうが高収量であると判断できる。また、複数種類の遺伝子を解析する場合は、遺伝子ごとの蛍光シグナルの総和(蛍光シグナル総和値)をとり、異なる手法を比較したときそのシグナル値が高いほうが高収量であると判断できる。リアルタイムPCRでは、横軸にサイクル数、縦軸に蛍光強度をプロットした増幅曲線が得られる。この増幅曲線において一定のシグナル強度に達したときのサイクル数(Cq値、Ct値)をそれぞれ求める。この場合、Ct値やCq値が小さいほうが高収量であると判断できる。cfDNAやゲノムDNAであれば、測定対象の遺伝子に対するプライマーを設計し、同一のプライマーで異なる回収方法を比較したときCt値やCq値が小さいほうが高収量であると判断できる。miRNAやmRNAのようなRNAである場合、逆転写の工程を加える以外はDNAと同様に測定、検出することができ、その際のCt値やCq値が小さいほうが高収量であると判断できる。
【0073】
本発明においてポリマーは、基本単位である単量体やモノマーと呼ばれる繰り返し単位が多数繋がった化合物の総称である。本発明の担体に用いるポリマーは、1種類の単量体からなるホモポリマーと2種類以上の単量体からなるコポリマーのいずれもが含まれ、任意の重合度のポリマーも含まれる。また、天然ポリマーと合成ポリマーのいずれもが含まれる。
【0074】
本発明の担体に用いる水溶性の中性ポリマーは、水に対して溶解可能な性質を有し、水に対する溶解度が、少なくとも0.0001wt%以上であり、好ましくは、0.001wt%以上、より好ましくは0.01wt%以上、さらに好ましくは0.1wt%以上のポリマーである。
【0075】
本発明の担体に用いる水溶性の中性ポリマーは、好ましくは、pH7の溶液中でゼータ電位が-10mV以上+10mV以下のポリマーである。より好ましくは-8mV以上+8mV以下であり、さらに好ましくは-6mV以上+6mV以下、特に好ましくは-4.0mV以上+1.1mV以下のポリマーである。
【0076】
ゼータ電位とは、溶液中におけるコロイドの界面の電気的性質を表す値の1つである。荷電したコロイドが溶液に分散していると、コロイドの表面ではコロイドの表面荷電に対する対イオンにより電気二重層が形成されている。このときのコロイド表面の電位を表面電位と呼ぶ。電気二重層は、コロイドの表面電荷の静電相互作用により形成されているため、コロイド側ほどイオンが強く固定されている。電気二重層の中でも静電相互作用により対イオンがコロイド表面に強く固定されている層を固定層、固定層の電位を固定電位と呼ぶ。溶液に対してコロイドを移動させると固定層はコロイドと共に移動する。このとき、コロイドから見て固定層よりも外側に、溶液が持つ粘性のためにコロイドと共に移動する境界面がある。これを、すべり面、または、ずり面と呼ぶ。コロイドから充分に離れた地点の電位をゼロ点としたときの、このすべり面の電位はゼータ電位と定義されている。このように、ゼータ電位はコロイドの表面電荷に依存して変化し、表面電荷はpHに依存するプロトンの着脱によって変化するため、本発明ではpH7の溶液中での値を基準とする。また、一般にコロイドのサイズと比べてすべり面までの距離は小さいので、コロイドの表面をすべり面と近似的に表現することもできる。本発明で用いる水溶性の中性ポリマーの場合も同様に、溶液中に分散したコロイドの表面電位をゼータ電位とみなすことができる。
【0077】
ゼータ電位は、電気泳動、電気浸透、逆流電位、沈殿電位などの界面動電現象を利用して求めることができ、顕微鏡電気泳動法、回転回折格子法による電気泳動法、レーザー・ドップラー電気泳動法、超音波振動電位法、動電音響法などの方法により測定できる。これらの測定は、ゼータ電位測定装置を使用することで行うことができる。ゼータ電位測定装置は、大塚電子株式会社、Malvern Instruments Ltd.、Ranku Brother Ltd.、PenKem Inc.などから市販されている。
【0078】
上記のいずれの装置を用いても、ゼータ電位を測定することができるが、レーザー・ドップラー電気泳動法が一般的である。レーザー・ドップラー電気泳動法は、光や音波が電気泳動により運動している物体に当たり、散乱あるいは反射するとその周波数が変化するドップラー効果を利用した測定方法である。
【0079】
ポリマーのゼータ電位を測定する場合には、コロイド分散溶液としてポリマー溶液を調製し、ゼータ電位を測定することができる。ポリマーを例えば、リン酸緩衝液や、塩化ナトリウム溶液、クエン酸緩衝液などの電解質に溶解させてポリマー溶液を調製し、溶液中に分散したポリマーの散乱光や、反射光を検出して測定を行う。コロイドのサイズが大きいほど、低い濃度で散乱光や反射光を検出することが可能となる。
【0080】
ポリマーのゼータ電位をレーザー・ドップラー法で測定する具体的な条件は特に限定されないが、例えば、ポリマーの濃度を1wt%以上10wt%以下となるようにリン酸緩衝液(10mM, pH7)に溶解し、この溶液を測定用セルに入れて、レーザー・ドップラー電気泳動法を原理とするゼータ電位測定装置に設置して室温で測定することができる。ゼータ電位測定装置は例えば、大塚電子株式会社のELS-Z等が利用できる。
【0081】
本発明の担体に用いる水溶性の中性ポリマーとしては、具体的には、以下のものが挙げられる。例えば、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンなどのポリビニル系ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)又はポリ(N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミドなどのポリアクリルアミド系ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリアルキレングリコール系のポリマー、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、(ヒドロキシプロピル)メチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、2-ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース等を用いることができる。また、上記のポリマーが含まれる共重合体も用いることができる。
【0082】
また、フィコール、アガロース、キチン、デキストランなどのポリサッカライド、これらポリサッカライドの類縁体、アルブミンなどのタンパク質やペプチドも本発明の担体に用いる水溶性の中性ポリマーに含まれる。
【0083】
水溶性の中性ポリマーの官能基の一部をイオン化させたり、陽性や陰性を示す官能基に置換したり、側鎖にアセチル基など水溶性を発現する官能基を導入してもよい。
【0084】
水溶性の中性ポリマーの分子量としては、例えば、0.4kD以上のポリマーを好ましく用いることができ、より好ましくは6kD以上である。
【0085】
本発明の担体に用いる酸化アルミニウムは、Al2O3の組成式で表される両性酸化物であり、アルミナとも呼ばれる。
【0086】
酸化アルミニウムは、天然に産出するものを用いてもよいし、工業的に作製したものを用いてもよい。酸化アルミニウムを作製する方法としては、例えば、ギブサイトを出発原料とするバイヤー法や、ベーマイト形態の水酸化物を経由するアルコキシド法(ゾルーゲル法とも呼ばれる)・中和法・オイルドロップレット法、アルミニウム塩熱分解法や陽極酸化法などが挙げられる。
【0087】
工業的に作製した酸化アルミニウムは、試薬メーカーや、触媒化学メーカー、一般社団法人触媒学会の参照触媒部会などから入手することができる。
【0088】
酸化アルミニウムは、それらが持つ結晶構造によって、アルファ酸化アルミニウム、ロー酸化アルミニウム、カイ酸化アルミニウム、カッパ酸化アルミニウム、イータ酸化アルミニウム、ガンマ酸化アルミニウム、デルタ酸化アルミニウム、シータ酸化アルミニウムなどに分類される。本発明では、高比表面積を持つガンマ酸化アルミニウムが好ましい。
【0089】
酸化アルミニウムは、作製時の焼成温度に応じて、酸点(Al+、Al-OH2
+)と塩基点(Al-O-)が変化する。酸化アルミニウムはこの酸点と塩基点の数に応じて、酸点が多ければ酸性アルミナ、塩基点が多ければ塩基性アルミナ、酸点と塩基点が同程度の中性アルミナと分類される。この特性の違いは、pH指示薬であるBTB溶液を添加することで確認できる。BTB溶液を加えて、酸化アルミニウムが黄色に呈色すれば酸性アルミナ、緑色に呈色すれば中性アルミナ、青色に呈色すれば塩基性アルミナであることが確認できる。このような特性上の違いがあるが、本発明においては、いずれの酸化アルミニウムも使用することができる。
【0090】
酸化アルミニウムは粒状のものがよい。粒径はそろっていても、異なる粒径を混合して利用してもよい。粒径は、例えば、212μm未満の酸化アルミニウムを好ましく用いることができ、より好ましくは100μm未満の酸化アルミニウムを用いることができる。
【0091】
粒径は、本発明では日本工業規格に規格するJIS Z-8801-1:2006に基づいたふるい目開きの寸法で定義する。例えば、上記JIS標準による目開きにして40μmのふるいを通過し、32μmのふるいを通過できない粒子は、32μm以上40μm未満の粒径となる。
【0092】
工程e)で用いる溶出液は、本発明の担体に吸着した核酸を溶出させることができれば、特に限定されないが、緩衝液が好ましく、緩衝液にはキレート剤が含まれていてもよい。具体的には、クエン酸とクエン酸ナトリウムを含むクエン酸緩衝液、リン酸とリン酸ナトリウムを含むリン酸緩衝液や、トリスヒドロキシアミノメタンと塩酸を含むTris-塩酸緩衝液にEDTAを添加したTris-EDTA緩衝液などが挙げられる。
【0093】
緩衝液のpHはpH4以上pH9以下が好ましく、より好ましくはpH5以上pH8以下である。
【0094】
工程e)で用いる溶出液には、水や緩衝液を用いることができ、緩衝液が好ましい。
【0095】
緩衝液は、リン酸とリン酸ナトリウムを含むリン酸緩衝液や、クエン酸とクエン酸ナトリウムを含むクエン酸緩衝液、トリスヒドロキシアミノメタンと塩酸を含むTris-塩酸緩衝液にEDTAを添加したTris-EDTA緩衝液などを好ましく用いることができる。これらのうち、クエン酸とクエン酸ナトリウムを含むクエン酸緩衝液、トリスヒドロキシアミノメタンと塩酸を含むTris-塩酸緩衝液にEDTAを添加したTris-EDTA緩衝液は、キレート作用を有する緩衝液であるため特に好ましい。緩衝液のpHはpH4以上pH9以下が好ましく、pH5以上pH8以下がより好ましい。
【0096】
緩衝液には、キレート剤を添加して、緩衝液にキレート作用を付与しても良い。キレート剤は、複数の配位座を持つ配位子を持っており、金属イオンへ結合し、錯体を形成する物質を用いることができる物質であり、キレート剤が含まれる緩衝液は、キレート作用を有する。
【0097】
緩衝液に添加する具体的なキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、リン酸、ポリリン酸、トリリン酸、メタリン酸、フィチン酸及び/又はそれらの塩などが挙げられる。キレート剤の終濃度は、50mM以上が好ましく、より好ましくは100mM以上、さらに好ましくは500mM以上である。
【0098】
また、上記以外のキレート剤となる化合物として、陰イオン性のポリマーを挙げることができる。カルボン酸を側鎖に持つポリマーは金属イオンを配位するため、これらが緩衝液に含まれていてもよい。このような機能を有するポリマーとして、ポリビニルスルホン酸および/またはそれらの塩が挙げられる。その終濃度は特に限定されないが、1wt%以上であればよく、好ましくは10wt%以上である。
【0099】
上記キレート剤はその1種類を使用してもよく、混合して使ってもよい。本発明においては、リン酸―ポリリン酸混合液、リン酸―トリリン酸混合液、リン酸―メタリン酸混合液、リン酸―フィチン酸混合液を使用することが好ましい。
【実施例】
【0100】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。
【0101】
<材料と方法>
ポリエチレングリコールはメルク株式会社より、ガンマ酸化アルミニウム(N613N)は日揮触媒化成株式会社より、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は10%水溶液としてインビトロジェン株式会社より、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシンナトリウムは東京化成株式会社より入手した。
【0102】
その他の試薬については、和光純薬株式会社、東京化成株式会社、シグマーアルドリッチジャパン合同会社から購入し、特に精製することなくそのまま用いた。
【0103】
ミキサーは東京理化器械株式会社のCUTE MIXER CM-1000を、遠心機は日立のCT15REを用いた。
【0104】
ヒト血清およびヒト血漿は、インフォームドコンセントを得た健常者からベノジェクトII真空採血管VP-AS109K60(テルモ株式会社製)を用いて採取した。
【0105】
本発明の担体は以下のとおり調製し、以降の実施例および比較例に用いた。1.5mlチューブに、0.5mgずつ酸化アルミニウムを量り取った。これに、ポリマー水溶液として、水溶性の中性ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG, 10kD)を10wt%の濃度で50μl加えてミキサーで10分間攪拌した。遠心機で遠心(10000G, 1min)して上清45μlを除き、水溶性の中性ポリマーであるポリエチレングリコールが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体を得た。
【0106】
<実施例1、2>
アニオン製界面活性剤として、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いて核酸の回収を行った。以下、工程毎に実験方法を説明する。
【0107】
工程a)
カオトロピック試薬として7Mグアニジンチオシアン酸塩(GTN)を用いた。核酸を含む溶液としてヒト血清を用いた。7M GTN、25mM HEPES(pH7)溶液450μl、ヒト血清100μl、上記で調製した酸化アルミニウムの担体とを混合し、15分間ミキサーで攪拌した。
【0108】
工程b)
工程a)において混合した溶液を遠心(10000G,1min)して上清を除き、当該核酸が吸着した担体を分離した。
【0109】
洗浄工程1
工程b)で得られた核酸が吸着した担体に対して、25mM HEPES水溶液(pH7)(実施例1)または0.05% Tween20水溶液(実施例2)を400μl加え、ボルテックスした。溶液を遠心(10000G,1min)して上清を除き、担体を分離した。
【0110】
工程c)
分離した担体に、アニオン性界面活性剤を含む溶液として、0.5% SDS、25mM HEPES(pH7)を400μl加えボルテックスした。
【0111】
工程d)
工程c)で混合した溶液を遠心(10000G,1min)して上清を捨て、当該核酸が吸着した担体を分離した。
【0112】
洗浄工程2
工程d)で得られた核酸が吸着した担体に対して25mM HEPES水溶液(pH7)(実施例1)または0.05% Tween20水溶液(実施例2)を400μl加え、ボルテックスした。溶液を遠心(10000G,1min)して上清を除き、担体を分離した。
【0113】
工程e)
分離した担体に、溶出液として10μlの125mMリン酸-125mMポリリン酸緩衝液(pH7)を加え、15分間ミキサーで攪拌した。次に、攪拌した溶液を遠心(10000G, 1min)して、上清を核酸溶液として回収した。
【0114】
核酸の回収量(蛍光シグナル総和値)の測定
上記の工程を経て血清から回収した核酸に対して、3D-Gene(登録商標) miRNA Labeling kit(東レ株式会社)を用いて同社が定めるプロトコールに基づいてmiRNAを蛍光標識した。オリゴDNAチップとして、miRBase release 21に登録されているmiRNAの中で、2565種のmiRNAと相補的な配列を有するプローブを搭載した3D?Gene(登録商標) Human miRNA Oligo chip(東レ株式会社)を用い、同社が定めるプロトコールに基づいてストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーション後の洗浄を行った。DNAチップを3D-Gene(登録商標)スキャナー(東レ株式会社)を用いてスキャンし、画像を取得して3D-Gene(登録商標)Extraction(東レ株式会社)にてそれぞれのmiRNA量の蛍光シグナル強度を数値化した。数値化されたそれぞれの蛍光シグナル強度をブランク値で割り、この値をS/N値とした。S/N値が1.5以上の蛍光シグナル強度に関して総和を取った(蛍光シグナル総和値)。実施例1、2の結果を表1に示す。
【0115】
<実施例3>
実施例1の回収工程から洗浄工程1を除いた工程で核酸の回収を行った。その他の条件・操作は実施例1と同様に行い、DNAチップを使って血液中のmiRNA蛍光強度の総和を取った。結果を表1に示す。
【0116】
これらの結果から、洗浄工程1を除いた工程で核酸を回収した場合にも、実施例1と同程度に核酸を回収できることがわかった。
【0117】
<比較例1、2>
本比較例1、2では、工程c)と工程d)を除いた以外は、実施例1、2と同様の条件および操作で核酸を回収した。つまり、本比較例は、特許文献1に記載の核酸の回収方法に対応する。結果を表1に示す。
【0118】
実施例1、2と比較例1、2の結果から、アニオン性界面活性剤を添加する工程c)を実施する実施例1、2の方法によれば、比較例1、2すなわち特許文献1の方法よりも、蛍光シグナル総和値が向上し、核酸回収量が増加することがわかった。
【0119】
【0120】
<比較例3>
実施例1の工程a)において、カオトロピック試薬を用いない条件で核酸の回収を行った。工程a)では、核酸を含む溶液としてヒト血清100μlと25mM HEPES(pH7)溶液450μlの混合液を用いた。その他の条件・操作は、実施例1と同様に行い、DNAチップを使って血液中のmiRNA蛍光強度の総和を取った。結果を表2に示す。
【0121】
これらの結果から、工程a)においてカオトロピック試薬を用いない場合、工程c)を実施しても体液試料からの核酸回収量が低く、蛍光シグナル総和値も低いことが分かった。
【0122】
<比較例4>
大腸菌、酵母、細胞などが体液試料に含まれている場合、核酸の回収効率を高めるために、核酸の遊離処理を行っている場合がある。このようなとき、工程a)においてSDS等のアニオン性界面活性剤が核酸を含む溶液に含まれることになる。そこで、工程a)でアニオン性界面活性剤を用い、工程c)でカオトロピック試薬を用いて以下のように核酸の回収を行った。
【0123】
実施例1の回収工程のうち、工程a)では、7Mグアニジンチオシアン酸塩(GTN)の代わりに0.5% SDS、25mM HEPES(pH7)を用いた。工程c)では、0.5% SDS、25mM HEPES(pH7)の代わりに7Mグアニジンチオシアン酸塩(GTN)、25mM HEPES(pH7)を用いた。そのほかの条件・操作は、実施例1と同様に行い、DNAチップを使って血液中のmiRNA蛍光強度の総和を取った。結果を表2に示す。
【0124】
これらの結果から、カオトロピック試薬の存在下で核酸を担体に吸着させること、そして担体に核酸を吸着させた後、アニオン性界面活性剤を添加する方法によらない場合には、核酸回収量、蛍光シグナル総和値の向上が確認できなかった。
【0125】
<比較例5>
実施例1の工程a)において、カオトロピック試薬とアニオン性界面活性剤の両方を用いて核酸を本発明の担体に吸着させ、さらに工程c)と工程d)を除いて核酸の回収を行った。工程a)においては、7Mグアニジンチオシアン酸塩(GTN)と0.5% SDS、25mM HEPES(pH7)を混合した溶液を用いた。その他の条件・操作は、比較例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0126】
これらの結果から、工程a)でアニオン性界面活性剤を用いても、工程c)、工程d)を実施しない場合は、体液試料からの核酸回収量が低いく、蛍光シグナル総和値が低いことが分かった。
【0127】
【0128】
<実施例4、5、6>
実施例1における工程c)の0.5% SDSを、アニオン性界面活性剤である、0.5%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(実施例4)、0.5% N-ラウロイルサルコシンナトリウム(実施例5)、0.25%ラウリン酸ナトリウム(実施例6)にそれぞれ置換しこれ以外の条件・操作は実施例1と同様にして、核酸の回収を行った。結果を表3に示す。
【0129】
これらの結果から、工程c)において各種アニオン性界面活性を使用することで核酸回収量は増加し、蛍光シグナル総和値が向上することが分かった。
【0130】
【0131】
<実施例7、8、9>
実施例1における工程c)のSDS濃度を、1%(実施例7)、0.1%(実施例8)、0.075%(実施例9)とし、それぞれ核酸の回収を行った。その他の条件・操作は実施例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0132】
これらの結果から、いずれのアニオン性界面活性剤の濃度においても核酸回収量は増加し、蛍光シグナル総和値が向上することが分かった。
【0133】
【0134】
<実施例10、11>
実施例1における工程a)において、7Mグアニジンチオシアン酸塩の代わりに、7Mグアニジン塩酸塩(実施例10)または8M尿素(実施例11)をそれぞれ用い、これ以外の条件・操作は、実施例1と同様にして、核酸の回収を行った。結果を表5に示す。
【0135】
これらの結果から、工程a)において各種のカオトロピック試薬を使用することで体液試料からの核酸回収量は増加し、蛍光シグナル総和値が向上することが分かった。
【0136】
【0137】
<実施例12、13、14、15>
実施例1の工程a)で用いたカオトロピック試薬のグアニジンチオシアン酸塩濃度を、4M(実施例12)、2M(実施例13)、1M(実施例14)、0.5M(実施例15)とし、これ以外の条件・操作は、実施例1と同様にして、それぞれ核酸を回収した。結果を表6に示す。
【0138】
これらの結果から、いずれのカオトロピック試薬の濃度においても体液試料からの核酸回収量は増加し、蛍光シグナル総和値が向上することが分かった。
【0139】
【0140】
<実施例16>
体液試料として300μlの血漿を用い、カオトロピック試薬として450μlの7Mグアニジンチオシアン酸塩(GTN)を用い、溶出液として50μlの0.5Mリン酸緩衝液(pH7)を用いた以外は、実施例2と同様の条件及び操作で核酸を回収した。続いて回収した核酸にセルフリーDNAが含まれているかを、以下の方法で確認した。
【0141】
セルフリーDNAが回収できているかを確認する手段として、血漿中に含まれるセルフリーDNAのアクチン-βをコードする遺伝子配列の一部からなる核酸をリアルタイムPCRにより測定する方法(W.SUNら、The role of plasma cell-freeDNA detection in predicting operative chemoradiotherapy response in rectal cancer patients.ONCOLOGY REPORTS 31:1466-1472,2014)が知られている。本実施例では、同文献中に記載されるアクチン-βをコードする遺伝子のうち100bp分の遺伝子配列を増幅してセルフリーDNAを検出する方法に基づき、アクチン-βをコードする遺伝子配列のうち、93bp分の塩基配列を増幅するプライマー1および2を設計し、リアルタイムPCRによる測定に用いた。
【0142】
リアルタイムPCR測定には、タカラバイオ株式会社のSYBR(商標登録) Premix Ex TaqII、バイオラッド社のCFX96-Real Time Systemを用いた。アクチン-βをコードする遺伝子配列のうち、93bp分の核酸を増幅させ、増幅サイクル数(Cq値)として解析した。この核酸を増幅させるためのプライマーとして、PrimePCR Assays,Panels,and Controls Instruction Manual (バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社)の記載を基に、配列番号1および2で示される核酸を設計し、これらをユーロフィンジェノミクス株式会社より購入し、特に精製することなくそのまま用いた。
【0143】
まず、氷上にてSYBR Premix Ex Taqを12.5μL、0.5μMに調製した配列番号1および2で示されるプライマーを1.0μL、滅菌蒸留水8.5μL、本実施例で回収した核酸のサンプルを滅菌蒸留水で10倍希釈したもの2μLを、1.5mLチューブ内で混合して全量25μLとした。この全量をリアルタイムPCR用プレートに添加し、プレートシートで蓋をし、装置へセットした。リアルタイムPCRの測定条件は、95℃30secで2本鎖DNAを1本鎖DNAに分かれさせた後、95℃5secでアプライマーをアニーリングさせ、56℃1minで伸長反応を行うサイクルを40サイクル行った。得られたAmplification Curveから、増幅サイクル数を得た。PCR反応後、反応液の温度を60℃から95℃まで徐々に上昇させ融解曲線分析を行い、得られたMeltCurveからプライマーダイマーができていないことを確認した。また、リアルタイムPCRでの測定後のサンプルを電気泳動して、100bp付近にメインバンドがあることで、アクチン-βをコードする遺伝子配列のうち、93bp分の塩基配列を増幅させたことを確認した。
【0144】
結果を表7に示す。Cq値は、28.6であった。
【0145】
<比較例6>
工程c)および工程d)を除いた以外は、実施例2と同様の条件および操作で核酸を回収し、実施例16と同様の方法でセルフリーDNAの回収量をリアルタイムPCRのCq値として解析した。
【0146】
結果を表7に示す。この結果、Cq値は、30.1であった。
【0147】
実施例16と比較して、工程c)、工程d)を実施しない場合は、血漿試料からのセルフリーDNAの回収量が低く、Cq値が大きいことが分かった。
【0148】
【配列表】