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特許7238777電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20230307BHJP
   H02P 25/22 20060101ALI20230307BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230307BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P25/22
H02M7/48 M
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019541919
(86)(22)【出願日】2018-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2018026001
(87)【国際公開番号】W WO2019054026
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2017176129
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小池上 貴
(72)【発明者】
【氏名】中田 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】菊一 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】勝俣 純
(72)【発明者】
【氏名】高野 弘徳
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123222(JP,A)
【文献】特開2006-160030(JP,A)
【文献】特開2017-063571(JP,A)
【文献】特開平11-008992(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156090(WO,A1)
【文献】特開2015-089292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 25/22
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からの電力を、n相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換する電力変換装置であって、



前記モータの各相の巻線の一端に接続される第1インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有するn個のレグを有する第1インバータと、



前記第1インバータにおけるn個のローサイドスイッチ素子およびn個のハイサイドスイッチ素子のオン・オフ動作を制御し、かつ、前記n相の巻線の断線故障を診断する制御回路と、



を備え、



前記制御回路は、



前記第1インバータにおける前記n個のローサイドスイッチ素子のうちの第1特定相の1個をオンして、残りのn-1個をオフし、かつ、前記n個のハイサイドスイッチ素子を全てオフする制御信号を生成し、



前記モータの中性点が構成された状態で、前記n個のローサイドスイッチ素子および前記n個のハイサイドスイッチ素子に前記制御信号を与え、前記n相の巻線の前記断線故障のパターンに応じて変化するn相電圧を測定し、



前記断線故障のパターンとn相電圧レベルとを関連付けるテーブルを参照して、測定した前記n相電圧に基づいて前記断線故障を診断する、第1故障診断を実行する、電力変換装置。
【請求項2】
前記第1特定相は、前記n相のうちの任意の一相である、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記テーブルに従って、



前記n相電圧の各々は第1レベルを示す場合、前記n相の巻線は断線していないと判定し、



n相のうちの一相の相電圧は前記第1レベルを示し、かつ、残りのn-1相の相電圧は第2レベルを示す場合、前記第1特定相の巻線の断線を検知し、



前記第1特定相以外の相のうちの一相の相電圧は前記第2レベルを示し、かつ、残りのn-1相の相電圧は前記第1レベルを示す場合、相電圧が前記第2レベルを示す相の巻線の断線を検知し、



ここで、前記第1レベルはグランドレベルよりも高く、前記第2レベルは前記第1レベルよりも高く、第3レベルは前記第2レベルよりも高く、かつ、前記電源の電圧レベルよりも低い、請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電源と前記第1インバータとの接続・非接続を切替える電源遮断回路をさらに備え、
前記制御回路は、前記第1故障診断を実行するとき前記電源遮断回路をオンする、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記モータの各相の巻線の他端同士はY結線されており、前記巻線の他端同士を接続するノードが前記モータの前記中性点として機能し、



前記第1インバータの前記n個のレグと前記巻線の一端との接続・非接続を切替えるn個の相分離リレーをさらに備え、



前記制御回路は、前記n個の相分離リレーのオフ故障をさらに診断する、請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記断線故障の診断において、前記第1特定相の相電圧は前記第1レベルを示し、かつ、残りのn-1相の相電圧は前記第2レベルを示す場合、前記制御回路は、前記第1特定相の巻線の断線または前記第1特定相の相分離リレーのオフ故障を検知する、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御回路は、前記第1故障診断を実行して前記断線故障を診断した後で、



前記第1インバータにおける前記n個のハイサイドスイッチ素子のうちの、前記第1特定相と同じ第2特定相の1個をオンし、残りのn-1個をオフし、かつ、前記n個のローサイドスイッチ素子を全てオフし、かつ、前記n個の相分離リレーをオンし、かつ、前記電源遮断回路をオンする制御信号を生成し、



前記モータの中性点が構成された状態で、前記n個のローサイドスイッチ素子、前記n個のハイサイドスイッチ素子、前記n個の相分離リレーおよび前記電源遮断回路に前記制御信号を与えて、前記n個の相分離リレーのオフ故障のパターンに応じて変化するn相電圧を測定し、



前記オフ故障のパターンとn相電圧レベルとをさらに関連付ける前記テーブルを参照して、測定した前記n相電圧に基づいて、前記n個の相分離リレーのうちの前記第2特定相以外のn-1個の相分離リレーのオフ故障を診断する、第2故障診断を実行する、請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御回路は、前記テーブルに従って、



前記n相電圧の各々は前記第3レベルを示す場合、前記n-1個の相分離リレーはオフ故障していないと判定し、



前記第2特定相以外の相のうちの一相の相電圧は前記第2レベルを示し、かつ、残りのn-1相の相電圧は前記第3レベルを示す場合、相電圧が前記第2レベルを示す相の相分離リレーのオフ故障を検知する、請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記モータの各相の巻線の他端に接続される第2インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有するn個のレグを有する第2インバータをさらに備え、



前記第2インバータのn個のレグにおける前記ハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子の間のn個のノードの電位を等しくすることによって、前記第2インバータ内のノードを前記モータの前記中性点として機能させる、請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記電源遮断回路は、



前記第1インバータとグランドとの接続・非接続を切替える第1スイッチ素子と、



前記第1インバータと前記電源との接続・非接続を切替える第2スイッチ素子と、



前記第2インバータと前記グランドとの接続・非接続を切替える第3スイッチ素子と、



前記第2インバータと前記電源との接続・非接続を切替える第4スイッチ素子と、



を有する、請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記制御回路は、前記断線故障の診断において、



前記第1および第2スイッチ素子をオンし、前記第3および第4スイッチ素子をオフする制御信号をさらに生成し、



前記第2インバータ内のノードを前記モータの前記中性点として機能させた状態で、前記第1インバータにおける前記n個のローサイドスイッチ素子、前記n個のハイサイドスイッチ素子および前記電源遮断回路に前記制御信号を与えて、前記第1故障診断を実行する、請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記第1インバータにおいて、前記n個のローサイドスイッチ素子および前記n個のハイサイドスイッチ素子のうちの1個がオン故障またはオフ故障している場合、または、前記第3および第4スイッチ素子の少なくとも1個がオン故障している場合、前記制御回路は、前記第1故障診断を前記第2インバータに適用することによって、前記第1インバータ内のノードを前記モータの前記中性点として機能させた状態で、前記第2インバータにおける前記n個のローサイドスイッチ素子、前記n個のハイサイドスイッチ素子および前記電源遮断回路に前記制御信号を与えて、前記第1故障診断を実行する、請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記第2インバータにおいて、n個のローサイドスイッチ素子およびn個のハイサイドスイッチ素子を全てオンすること、前記n個のローサイドスイッチ素子を全てオンすること、または、前記n個のハイサイドスイッチ素子を全てオンすることにより、前記第2インバータ内のノードを前記モータの前記中性点として機能させる、請求項9から12のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項14】
モータと、



請求項1から13のいずれかに記載の電力変換装置と、



を備える、モータモジュール。
【請求項15】
請求項14に記載のモータモジュールを備える電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電源からの電力を電動モータに供給する電力に変換する電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動モータ(以下、単に「モータ」と表記する。)およびECU(Electrical Control Unit)が一体化された機電一体型モータが開発されている。特に車載分野において、安全性の観点から高い品質保証が要求される。そのため、部品の一部が故障した場合でも安全動作を継続できる冗長設計が取り入れられている。冗長設計の一例として、1つのモータに対して2つのインバータを設けることが検討されている。他の一例として、メインのマイクロコントローラにバックアップ用マイクロコントローラを設けることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-063571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2つのインバータを用いてモータを駆動する装置において、インバータに故障が発生した場合、その故障箇所を可能な限り短い時間で特定することが求められる。
【0005】
特許文献1は、Y結線された巻線を有するモータを1つのインバータで駆動する装置(以降、「シングルインバータタイプの装置」と表記する。)を開示している。特許文献1では、予め定められた通電パターンにおいて検出された信号を、予め定められた異常種類対応表に照合して、配線の断線および短絡を検出することが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、インバータが備えるスイッチ素子に故障が発生した場合に、複数のスイッチ素子のうちのどのスイッチ素子が故障したのかを特定することはできない。また、測定した電流値および電圧値を用いて、配線の断線などの故障検知がなされるため、故障検知および故障個所の特定に時間がより費やされることとなる。
【0007】
本開示の実施形態は、相電圧の測定結果に基づいて通電経路の故障診断を実行することが可能な電力変換装置、当該電力変換装置を備えるモータモジュールおよび当該モータモジュールを備える電動パワーステアリング装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の例示的な電力変換装置は、電源からの電力を、n相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換する電力変換装置であって、前記モータの各相の巻線の一端に接続される第1インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有するn個のレグを有する第1インバータと、前記第1インバータにおけるn個のローサイドスイッチ素子およびn個のハイサイドスイッチ素子のオン・オフ動作を制御し、かつ、前記n相の巻線の断線故障を診断する制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記第1インバータにおける前記n個のローサイドスイッチ素子のうちの第1特定相の1個をオンして、残りのn-1個をオフし、かつ、前記n個のハイサイドスイッチ素子を全てオフする制御信号を生成し、前記モータの中性点が構成された状態で、前記n個のローサイドスイッチ素子および前記n個のハイサイドスイッチ素子に前記制御信号を与え、前記n相の巻線の前記断線故障のパターンに応じて変化するn相電圧を測定し、前記断線故障のパターンとn相電圧レベルとを関連付けるテーブルを参照して、測定した前記n相電圧に基づいて前記断線故障を診断する、第1故障診断を実行する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の例示的な実施形態によると、相電圧の測定結果に基づいて通電経路の故障診断を実行することが可能な電力変換装置、当該電力変換装置を備えるモータモジュールおよび当該モータモジュールを備える電動パワーステアリング装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、例示的な実施形態1によるインバータユニット100の回路構成を示す回路図である。
図2図2は、例示的な実施形態1によるモータモジュール2000のブロック構成を示し、主として電力変換装置1000のブロック構成を示すブロック構成図である。
図3図3は、三相通電制御に従って電力変換装置1000を制御したときにモータ200のU相、V相およびW相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形(正弦波)を例示するグラフである。
図4図4は、例示的な実施形態1による、各種の故障パターンと三相電圧レベルとを関連付けるルックアップテーブルの内容を示す表である。
図5図5は、巻線M1が断線した場合、二相通電制御に従って電力変換装置1000を制御したときにモータ200のV相、W相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示するグラフである。
図6図6は、巻線M2が断線した場合、二相通電制御に従って電力変換装置1000を制御したときにモータ200のU相、W相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示するグラフである。
図7図7は、巻線M3が断線した場合、二相通電制御に従って電力変換装置1000を制御したときにモータ200のU相、V相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示するグラフである。
図8図8は、例示的な実施形態2によるインバータユニット100Aの回路構成を示す回路図である。
図9図9は、例示的な実施形態2による、各種の故障パターンと三相電圧レベルとを関連付けるルックアップテーブルの内容を示す表である。
図10図10は、例示的な実施形態3による電動パワーステアリング装置3000の典型的な構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付の図面を参照しながら、本開示の電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置の実施形態を詳細に説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0012】
本明細書において、電源からの電力を、三相(U相、V相、W相)の巻線を有する三相モータに供給する電力に変換する電力変換装置を例にして、本開示の実施形態を説明する。ただし、電源からの電力を、四相または五相などのn相(nは4以上の整数)の巻線を有するn相モータに供給する電力に変換する電力変換装置も本開示の範疇である。
【0013】
(実施形態1)図1は、本実施形態によるインバータユニット100の回路構成を模式的に示している。
【0014】
インバータユニット100は、電源遮断回路110、第1インバータ120および第2インバータ130を備える。インバータユニット100は、電源101A、101Bからの電力を、モータ200に供給する電力に変換することができる。例えば、第1および第2インバータ120、130は、直流電力を、U相、V相およびW相の擬似正弦波である三相交流電力に変換することが可能である。
【0015】
モータ200は、例えば、三相交流モータである。モータ200は、U相の巻線M1、V相の巻線M2およびW相の巻線M3を備え、第1インバータ120と第2インバータ130とに接続される。具体的に説明すると、第1インバータ120はモータ200の各相の巻線の一端に接続され、第2インバータ130は各相の巻線の他端に接続される。本明細書において、部品(構成要素)同士の間の「接続」は、主に電気的な接続を意味する。
【0016】
第1インバータ120は、各相に対応した端子U_L、V_LおよびW_Lを有する。第2インバータ130は、各相に対応した端子U_R、V_RおよびW_Rを有する。第1インバータ120の端子U_Lは、U相の巻線M1の一端に接続され、端子V_Lは、V相の巻線M2の一端に接続され、端子W_Lは、W相の巻線M3の一端に接続される。第1インバータ120と同様に、第2インバータ130の端子U_Rは、U相の巻線M1の他端に接続され、端子V_Rは、V相の巻線M2の他端に接続され、端子W_Rは、W相の巻線M3の他端に接続される。このようなモータ結線は、いわゆるスター結線およびデルタ結線とは異なる。
【0017】
電源遮断回路110は、第1から第4スイッチ素子111、112、113および114を有する。インバータユニット100において、第1インバータ120は、電源遮断回路110によって電源101AとGNDとに電気的に接続可能である。第2インバータ130は、電源遮断回路110によって電源101BとGNDとに電気的に接続可能である。具体的に説明すると、第1スイッチ素子111は、第1インバータ120とGNDとの接続・非接続を切替える。第2スイッチ素子112は、電源101と第1インバータ120との接続・非接続を切替える。第3スイッチ素子113は、第2インバータ130とGNDとの接続・非接続を切替える。第4スイッチ素子114は、電源101と第2インバータ130との接続・非接続を切替える。
【0018】
第1から第4スイッチ素子111、112、113および114のオン・オフは、例えばマイクロコントローラまたは専用ドライバによって制御され得る。第1から第4スイッチ素子111、112、113および114は、双方向の電流を遮断することが可能である。第1から第4スイッチ素子111、112、113および114として、例えば、サイリスタ、アナログスイッチIC、または寄生ダイオードが内部に形成された電界効果トランジスタ(典型的にはMOSFET)などの半導体スイッチ、および、メカニカルリレーなどを用いることができる。ダイオードおよび絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などの組み合わせを用いても構わない。本明細書の図面には、第1から第4スイッチ素子111、112、113および114として、MOSFETを用いる例を例示する。以降、第1から第4スイッチ素子111、112、113および114を、SW111、112、113および114とそれぞれ表記する場合がある。
【0019】
SW111は、内部の寄生ダイオードに順方向電流が第1インバータ120に向けて流れるよう配置される。SW112は、寄生ダイオードに順方向電流が電源101Aに向けて流れるよう配置される。SW113は、寄生ダイオードに順方向電流が第2インバータ130に向けて流れるよう配置される。SW114は、寄生ダイオードに順方向電流が電源101Bに向けて流れるよう配置される。
【0020】
電源遮断回路110は、図示するように、逆接続保護用の第5および第6スイッチ素子115、116をさらに有していることが好ましい。第5および第6スイッチ素子115、116は、典型的に、寄生ダイオードを有するMOSFETの半導体スイッチである。第5スイッチ素子115は、SW112に直列に接続され、寄生ダイオードにおいて第1インバータ120に向けて順方向電流が流れるよう配置される。第6スイッチ素子116は、SW114に直列に接続され、寄生ダイオードにおいて第2インバータ130に向けて順方向電流が流れるよう配置される。電源101A、101Bが逆向きに接続された場合でも、逆接続保護用の2つのスイッチ素子によって逆電流を遮断することができる。
【0021】
図示する例に限られず、使用するスイッチ素子の個数は、設計仕様などを考慮して適宜決定される。特に車載分野においては、安全性の観点から高い品質保証が要求されるので、各インバータ用として複数のスイッチ素子を設けておくことが好ましい。
【0022】
電源は、第1インバータ120用の電源101Aおよび第2インバータ130用の電源101Bを備えることができる。電源101A、101Bは所定の電源電圧(例えば、12V)を生成する。電源として、例えば直流電源が用いられる。ただし、電源は、AC-DCコンバータおよびDC-DCコンバータであってもよいし、バッテ
リー(蓄電池)であっても良い。また、電源101は、第1および第2インバータ120、130に共通の単一電源であってもよい。


【0023】
電源101A、101Bと電源遮断回路110との間にコイル102が設けられている。コイル102は、ノイズフィルタとして機能し、各インバータに供給する電圧波形に含まれる高周波ノイズ、または各インバータで発生する高周波ノイズを電源側に流出させないように平滑化する。
【0024】
各インバータの電源端子には、コンデンサ103が接続される。コンデンサ103は、いわゆるバイパスコンデンサであり、電圧リプルを抑制する。コンデンサ103は、例えば電解コンデンサであり、容量および使用する個数は設計仕様などによって適宜決定される。
【0025】
第1インバータ120は、3個のレグを有するブリッジ回路を備える。各レグは、ローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有する。U相レグは、ローサイドスイッチ素子121Lおよびハイサイドスイッチ素子121Hを有する。V相レグは、ローサイドスイッチ素子122Lおよびハイサイドスイッチ素子122Hを有する。W相レグは、ローサイドスイッチ素子123Lおよびハイサイドスイッチ素子123Hを有する。スイッチ素子として、例えばFETまたはIGBTを用いることができる。以下、スイッチ素子としてMOSFETを用いる例を説明し、スイッチ素子をSWと表記する場合がある。例えば、スイッチ素子121L、122Lおよび123Lは、SW121L、122Lおよび123Lと表記される。
【0026】
第1インバータ120は、U相、V相およびW相の各相の巻線に流れる電流を検出するための電流センサ150(図3を参照)として、3個のシャント抵抗121R、122Rおよび123Rを備える。電流センサ150は、各シャント抵抗に流れる電流を検出する電流検出回路(不図示)を含む。例えば、シャント抵抗121R、122Rおよび123Rは、第1インバータ120の3個のレグに含まれる3個のローサイドスイッチ素子とGNDとの間にそれぞれ接続される。具体的には、シャント抵抗121RはSW121LとSW111との間に電気的に接続され、シャント抵抗122RはSW122LとSW111との間に電気的に接続され、シャント抵抗123RはSW123LとSW111との間に電気的に接続される。シャント抵抗の抵抗値は、例えば0.5mΩ~1.0mΩ程度である。
【0027】
第2インバータ130は、第1インバータ120と同様に、3個のレグを有するブリッジ回路を備える。U相レグは、ローサイドスイッチ素子131Lおよびハイサイドスイッチ素子131Hを有する。V相レグは、ローサイドスイッチ素子132Lおよびハイサイドスイッチ素子132Hを有する。W相レグは、ローサイドスイッチ素子133Lおよびハイサイドスイッチ素子133Hを有する。第2インバータ130は、3個のシャント抵抗131R、132Rおよび133Rを備える。それらのシャント抵抗は、3個のレグに含まれる3個のローサイドスイッチ素子とGNDとの間に接続される。
【0028】
各インバータに対し、シャント抵抗の数は3つに限られない。例えば、U相、V相用の2つのシャント抵抗、V相、W相用の2つのシャント抵抗、および、U相、W相用の2つのシャント抵抗を用いることが可能である。使用するシャント抵抗の数およびシャント抵抗の配置は、製品コストおよび設計仕様などを考慮して適宜決定される。
【0029】
上述したとおり、第2インバータ130は、第1インバータ120の構造と実質的に同じ構造を備える。図1では、説明の便宜上、紙面の左側のインバータを第1インバータ120と表記し、右側のインバータを第2インバータ130と表記している。ただし、このような表記は、本開示を限定する意図で解釈されてはならない。第1および第2インバータ120、130は、インバータユニット100の構成要素として区別なく用いられ得る。
【0030】

図2は本実施形態によるモータモジュール2000のブロック構成を模式的に示し、主として電力変換装置1000のブロック構成を模式的に示す。
【0031】
モータモジュール2000は、インバータユニット100および制御回路300を有する電力変換装置1000と、モータ200とを備える。
【0032】
モータモジュール2000は、モジュール化され、例えば、モータ、センサ、ドライバおよびコントローラを有する機電一体型モータとして製造および販売され得る。また、モータ200以外の電力変換装置1000もモジュール化されて製造および販売され得る。
【0033】
制御回路300は、例えば、電源回路310と、角度センサ320と、入力回路330と、コントローラ340と、駆動回路350と、ROM360とを備える。制御回路300は、インバータユニット100に接続され、インバータユニット100を制御することによりモータ200を駆動する。
【0034】
具体的には、制御回路300は、目的とするモータ200のロータの位置、回転速度、および電流などを制御してクローズドループ制御を実現することができる。なお、制御回路300は、角度センサ320に代えてトルクセンサを備えてもよい。この場合、制御回路300は、目的とするモータトルクを制御することができる。
【0035】
電源回路310は、回路内の各ブロックに必要なDC電圧(例えば3V、5V)を生成する。角度センサ320は、例えばレゾルバまたはホールICである。または、角度センサ320は、磁気抵抗(MR)素子を有するMRセンサとセンサマグネットとの組み合わせによっても実現される。角度センサ320は、ロータの回転角(以下、「回転信号」と表記する。)を検出し、回転信号をコントローラ340に出力する。
【0036】
入力回路330は、電流センサ150によって検出されたモータ電流値(以下「実電流値」とする。)を受け取り、実電流値のレベルをコントローラ340の入力レベルに必要に応じて変換し、実電流値をコントローラ340に出力する。入力回路330は例えばアナログデジタル変換回路である。
【0037】
コントローラ340は、電力変換装置1000の全体を制御する集積回路であり、例えば、マイクロコントローラまたはFPGA(Field Programmable Gate Array)である。
【0038】
コントローラ340は、インバータユニット100の第1および第2インバータ120、130における各SWのスイッチング動作(ターンオンまたはターンオフ)を制御する。コントローラ340は、実電流値およびロータの回転信号などに従って目標電流値を設定してPWM信号を生成し、それを駆動回路350に出力する。また、コントローラ340は、インバータユニット100の電源遮断回路110における各SWのオン・オフを制御することができる。
【0039】
駆動回路350は、典型的にはゲートドライバ(またはプリドライバ)である。駆動回路350は、第1および第2インバータ120、130における各SWのMOSFETのスイッチング動作を制御する制御信号(ゲート制御信号)をPWM信号に従って生成し、各SWのゲートに制御信号を与える。また、駆動回路350は、電源遮断回路110における各SWのオン・オフを制御する制御信号を、コントローラ340からの指示に従って生成することができる。駆動対象が低電圧で駆動可能なモータであるとき、ゲートドライバは必ずしも必要とされない場合がある。その場合、ゲートドライバの機能は、コントローラ340に実装され得る。
【0040】
ROM360は、例えば書き込み可能なメモリ(例えばPROM)、書き換え可能なメモリ(例えばフラッシュメモリ)または読み出し専用のメモリである。ROM360は、コントローラ340に電力変換装置1000を制御させるための命令群、および、後述する各種の故障診断を実行させるための命令群を含む制御プログラムを格納している。例えば、制御プログラムはブート時にRAM(不図示)に一旦展開される。
【0041】
電力変換装置1000の正常時の制御方法の具体例を説明する。正常とは、第1インバータ120、第2インバータ130および電源遮断回路110の各SWは故障しておらず、モータ200の三相の巻線M1、M2およびM3のいずれも故障していない状態を指す。本明細書では、電源遮断回路110の逆接続保護用のSW115、116は常時オン状態であるとする。
【0042】
正常時において、制御回路300は、電源遮断回路110のSW111、112、113および114を全てオンする。これにより、電源101Aと第1インバータ120とが電気的に接続され、かつ、電源101Bと第2インバータ130とが電気的に接続される。また、第1インバータ120とGNDとが電気的に接続され、かつ、第2インバータ130とGNDとが電気的に接続される。この接続状態において、制御回路300は、第1および第2インバータ120、130の両方を用いて巻線M1、M2およびM3を通電することによりモータ200を駆動する。本明細書において、三相の巻線を通電することを「三相通電制御」と呼び、二相の巻線を通電することを「二相通電制御」と呼ぶこととする。
【0043】
図3は、三相通電制御に従って電力変換装置1000を制御したときにモータ200のU相、V相およびW相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形(正弦波)を例示している。横軸は、モータ電気角(deg)を示し、縦軸は電流値(A)を示す。図3の電流波形において、電気角30°毎に電流値をプロットしている。Ipkは各相の最大電流値(ピーク電流値)を表す。
【0044】
図3に示される電流波形において、電流の向きを考慮した三相の巻線に流れる電流の総和は電気角毎に「0」となる。ただし、電力変換装置1000の回路構成によれば、三相の巻線に流れる電流を独立に制御することができるため、電流の総和が「0」とはならない制御を行うことも可能である。例えば、制御回路300は、図3に示される電流波形が得られるPWM制御によって第1および第2インバータ120、130の各スイッチ素子のスイッチング動作を制御する。
【0045】
異常とは、主として、(1)各インバータのスイッチ素子の故障、および、(2)モータ200の巻線の故障を意味する。(1)各インバータのスイッチ素子の故障には、大きく分けて「オフ故障(オープン故障)」と「オン故障(ショート故障)」とがある。「オフ故障」は、FETのソース-ドレイン間が開放する故障(換言すると、ソース-ドレイン間の抵抗rdsがハイインピーダンスになること)を指し、「オン故障」は、FETのソース-ドレイン間が短絡する故障を指す。(2)モータ200の巻線の故障は、主に、巻線の断線を指す。
【0046】
電力変換装置1000を長期間使用すると、2つのインバータの複数のSWおよび三相の巻線の中で少なくとも1つが故障する可能性がある。これらの故障は、製造時に発生し得る製造故障とは異なる。複数のスイッチ素子のうちの1つでも故障すると、正常時の三相通電制御は不可能となる。また、巻線M1、M2およびM3のうちの1つでも断線すると、正常時の三相通電制御は不可能となる。
【0047】
制御回路300(主にコントローラ340)は、駆動回路(ゲートドライバ)350が故障していないことを前提に、巻線の断線故障およびインバータ内のSWのオンまたはオフ故障を診断することができる。コントローラ340は、典型的には、電力変換装置1000に電源が投入されて制御回路300が起動するときにSW故障および巻線故障の初期診断を行うことが好ましい。ただし、コントローラ340は、正常時の制御において、SW故障および巻線故障の診断を定期的に行ってもよい。その場合、モータ制御に影響を与えないよう、診断時間を可能な限り短くすることが望ましい。例えば、診断時間を30ms以下に抑えるとよい。
【0048】



コントローラ340は、インバータのSW故障の診断を行う。具体的には、コントローラ340は、第1および第2インバータ120、130の12個のSWの中からオンまたはオフ故障したSWを特定することができる。SW故障診断は、SWのオン故障を診断する第1故障診断およびSWのオフ故障を診断する第2故障診断を有する。
【0049】
例えば、コントローラ340は、第1インバータ120に対して第1故障診断を実行し、次に、第2インバータ130に対して第1故障診断を実行する。第1故障診断が完了すると、コントローラ340は、第1インバータ120に対して第2故障診断を実行し、次に、第2インバータ130に対して第2故障診断を実行する。
【0050】
第1故障診断は、以下のステップを包含する。(1)コントローラ340は、第1および第2インバータ120、130の一方(診断対象のインバータ)における3個のローサイドスイッチ素子および3個のハイサイドスイッチ、他方(診断非対象のインバータ)における3個のローサイドスイッチ素子および3個のハイサイドスイッチを全てオフする制御信号を生成する。
【0051】
(2)駆動回路350はコントローラ340の制御の下で、第1および第2インバータ120、130の全てのSWに制御信号を与える。コントローラ340は、巻線M1、M2およびM3の一端に現れる三相電圧Vu、VvおよびVwを測定する。例えば、コントローラ340は、診断対象であるインバータの端子(例えば、端子U_L、V_LおよびW_L)の端子電圧を測定することにより、三相電圧Vu、VvおよびVwを取得することができる。第1故障診断では、三相電圧Vu、VvおよびVwは、SWのオン故障のパターンに応じて変化する。
【0052】
(3)コントローラ340は、SWのオン故障のパターンと三相電圧レベルとを関連付けるルックアップテーブル(以下、「LUT」と表記する。)を参照して、測定した三相電圧Vu、VvおよびVwに基づいて診断対象のインバータにおける3個のローサイドスイッチ素子および3個のハイサイドスイッチのオン故障を診断する。
【0053】
以下、第1インバータ120を診断対象とする場合を例に、第1故障診断を詳細に説明する。図4は、各種の故障パターンと三相電圧レベルとを関連付けるLUTの具体例を示す。
【0054】
LUTはSWのオン故障のパターンと三相電圧レベルVu、VvおよびVwとを関連付ける、例えば図4に示す故障診断情報を有する。SWのオン故障のパターンは主に3パターンである:インバータのU相レグのハイサイドスイッチ素子またはローサイドスイッチ素子のオン故障、V相レグのハイサイドスイッチ素子またはローサイドスイッチ素子のオン故障、および、W相レグのハイサイドスイッチ素子またはローサイドスイッチ素子のオン故障。
【0055】
三相電圧Vu、VvおよびVwの各々のレベルは、第1レベル(低レベル:Lレベル)、第2レベル(中間レベル:Mレベル)および第3レベル(高レベル:Hレベル)のいずれかのレベルであり得る。電源電圧を12.0Vとした場合、第1レベルはGNDレベルよりも高く、例えば1.0V程度である。第2レベルは第1レベルよりも高く、例えば9.0V程度である。第3レベルは第2レベルよりも高く、かつ、電源の電圧レベル以下である。第3レベルは、例えば12.0V程度である。
【0056】
コントローラ340は、第1故障診断時は、電源遮断回路110のSW111、112をオンする制御信号を生成する。駆動回路350からSW111、112に制御信号が与えられ、SW111、112はオン状態となる。ここで、第1故障診断時にSW111、112をオンすることを「電源遮断回路110をオンする」と呼ぶ場合がある。一方、コントローラ340は、電源遮断回路110のSW113、114をオフする制御信号を生成する。駆動回路350からSW113、114に制御信号が与えられ、SW113、114はオフ状態となる。これにより、第1インバータ120は電源101AおよびGNDに接続され、第2インバータ130は電源101BおよびGNDから切り離される。なお、第1故障診断では、SW111、112、113および114は故障していないことが前提条件である。
【0057】
コントローラ340は、第1および第2インバータ120、130の全てのSWをオフする制御信号を生成する。駆動回路350からSW121L、122L、123L、121H、122H、123H、131L、132L、133L、131H、132Hおよび133Hにそれらをオフするゲート制御信号が与えられる。
【0058】
測定した三相電圧Vu、VvおよびVwの各々が中間レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータ120のSW121L、122L、123L、121H、122Hおよび123Hの全てはオン故障していないと判定することができる。
【0059】
図示していないが、第1インバータ120の端子U_L、V_L、W_L、第2インバータ130の端子U_R、V_RおよびW_Rのそれぞれには分圧抵抗が設けられている。その分圧抵抗は、各相のレグのハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子が共にオフ状態であるとき、端子電圧が電源電圧の中間電圧(例えば6V)付近になる抵抗値を有する。そのため、第1および第2インバータ120、130の全てのSWはオフ状態である場合、つまり、オン故障していな場合、第1インバータ120の端子U_L、V_LおよびW_Lの端子電圧は、中間レベルを示す。
【0060】
三相のうちの一相の相電圧は低レベルを示し、かつ、残りの二相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、低レベルを示す相電圧の相のローサイドスイッチ素子のオン故障を検知することができる。これは、ローサイドスイッチ素子がオン故障すると、低レベルの電圧はそのSWを介して、オン故障した相のインバータの端子に現れるためである。
【0061】
U相の相電圧は低レベルを示し、かつ、V、W相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのU相レグのSW121Lのオン故障を検知する。U相と同様に、V相の相電圧は低レベルを示し、かつ、U、W相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのV相レグのSW122Lのオン故障を検知する。W相の相電圧は低レベルを示し、かつ、U、V相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのW相レグのSW123Lのオン故障を検知する。
【0062】
三相のうちの一相の相電圧は高レベルを示し、かつ、残りの二相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、高レベルを示す相電圧の相のハイサイドスイッチ素子のオン故障を検知することができる。これは、ハイサイドスイッチ素子がオン故障すると、高レベルの電圧はそのSWを介して、オン故障した相のインバータの端子に現れるためである。
【0063】
U相の相電圧は高レベルを示し、かつ、V、W相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのU相レグのSW121Hのオン故障を検知する。U相と同様に、V相の相電圧は高レベルを示し、かつ、U、W相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのV相レグのSW122Hのオン故障を検知する。W相の相電圧は高レベルを示し、かつ、U、V相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのW相レグのSW123Hのオン故障を検知する。
【0064】
第2故障診断は、ローサイドスイッチ素子のオフ故障を診断するための以下のステップを包含する。(1)コントローラ340は、第1および第2インバータ120、130の一方(診断対象のインバータ)における3個のローサイドスイッチ素子をオンして3個のハイサイドスイッチをオフする制御信号を生成し、かつ、他方(診断非対象のインバータ)における3個のローサイドスイッチ素子および3個のハイサイドスイッチを全てオフする制御信号を生成する。
【0065】
(2)駆動回路350はコントローラ340の制御の下で、第1および第2インバータ120、130の全てのSWに制御信号を与える。コントローラ340は、巻線M1、M2およびM3の一端に現れる三相電圧Vu、VvおよびVwを測定する。例えば、コントローラ340は、診断対象のインバータの端子(例えば、端子U_L、V_LおよびW_L)の端子電圧を測定することにより、三相電圧Vu、VvおよびVwを取得することができる。
【0066】
(3)コントローラ340は、ローサイド側のSWのオフ故障のパターンと三相電圧レベルとを関連付けるLUTを参照して、測定した三相電圧Vu、VvおよびVwに基づいて診断対象のインバータにおける3個のローサイドスイッチ素子のオフ故障を診断する。
【0067】
第2故障診断は、さらに、ハイサイドスイッチ素子のオフ故障を診断するための以下のステップを包含する。(4)コントローラ340は、第1および第2インバータ120、130の一方(診断対象のインバータ)における3個のハイサイドスイッチ素子をオンして3個のローサイドスイッチをオフする制御信号を生成し、かつ、他方(診断非対象のインバータ)における3個のローサイドスイッチ素子および3個のハイサイドスイッチを全てオフする制御信号を生成する。
【0068】
(5)駆動回路350はコントローラ340の制御の下で、第1および第2インバータ120、130の全てのSWに制御信号を与える。コントローラ340は、巻線M1、M2およびM3の一端に現れる三相電圧Vu、VvおよびVwを測定する。
【0069】
(6)コントローラ340は、ハイサイド側のSWのオフ故障のパターンと三相電圧レベルとをさらに関連付けるLUTを参照して、測定した三相電圧Vu、VvおよびVwに基づいて診断対象のインバータにおける3個のハイサイドスイッチ素子のオフ故障を診断する。第2故障診断では、三相電圧Vu、VvおよびVwは、SWのオフ故障のパターンに応じて変化する。
【0070】
以下、第1インバータ120を診断対象とする場合を例に、第2故障診断を詳細に説明する。LUTは、SWのオフ故障のパターンと三相電圧レベルVu、VvおよびVwとをさらに関連付ける、例えば図4に示す故障診断情報を有する。SWのオフ故障のパターンは、主に3パターンである:インバータのU相レグのハイサイドスイッチ素子またはローサイドスイッチ素子のオフ故障、V相レグのハイサイドスイッチ素子またはローサイドスイッチ素子のオフ故障、および、W相レグのハイサイドスイッチ素子またはローサイドスイッチ素子のオフ故障。
【0071】
コントローラ340は、第2故障診断時は、電源遮断回路110のSW111、112をオンする制御信号を生成する。駆動回路350からSW111、112に制御信号が与えられ、SW111、112はオン状態となる。一方、コントローラ340は、電源遮断回路110のSW113、114をオフする制御信号を生成する。駆動回路350からSW113、114に制御信号が与えられ、SW113、114はオフ状態となる。なお、第2故障診断においても、SW111、112、113および114は故障していないことが前提条件である。


【0072】
先ず、コントローラ340は、第1および第2インバータ120、130のSWの中で第1インバータ120のSW121L、122L、123Lのみをオンし、残りのSWをオフする制御信号を生成する。駆動回路350からSW121L、122Lおよび123Lにそれらをオンするゲート制御信号が与えられる。駆動回路350からSW121H、122H、123H、131L、132L、133L、131H、132Hおよび133Hにそれらをオフするゲート制御信号が与えられる。
【0073】
測定した三相電圧Vu、VvおよびVwの各々が低レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータ120のSW121L、122Lおよび123Lはオフ故障していないと判定することができる。これは、全てのローサイドスイッチ素子がオン状態になると、低レベルの電圧はそれらのSWを介して、第1インバータ120の三相の端子U_L、V_L、W_Lに現れるためである。
【0074】
三相のうちの一相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、残りの二相の相電圧は低レベルを示す場合、コントローラ340は、中間レベルを示す相電圧の相のローサイドスイッチ素子のオフ故障を検知することができる。これは、ローサイドスイッチ素子がオフ故障すると、低レベルの電圧ではなく上述した分圧抵抗の電圧が、第1インバータ120のオフ故障した相の端子に現れるためである。
【0075】
U相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、V、W相の相電圧は低レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのU相レグのSW121Lのオフ故障を検知する。U相と同様に、V相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、U、W相の相電圧は低レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのV相レグのSW122Lのオフ故障を検知する。W相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、U、V相の相電圧は低レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのW相レグのSW123Lのオフ故障を検知する。
【0076】
次に、コントローラ340は、第1および第2インバータ120、130のSWの中で第1インバータ120のSW121H、122H、123Hのみをオンし、残りのSWをオフする制御信号を生成する。駆動回路350からSW121H、122Hおよび123Hにそれらをオンするゲート制御信号が与えられる。駆動回路350からSW121L、122L、123L、131L、132L、133L、131H、132Hおよび133Hにそれらをオフするゲート制御信号が与えられる。
【0077】
測定した三相電圧Vu、VvおよびVwの各々が高レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータ120のSW121H、122Hおよび123Hはオフ故障していないと判定することができる。これは、全てのハイサイドスイッチ素子がオン状態になると、高レベルの電圧はそれらのSWを介して、第1インバータ120の三相の端子U_L、V_L、W_Lに現れるためである。
【0078】
三相のうちの一相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、残りの二相の相電圧は高レベルを示す場合、コントローラ340は、中間レベルを示す相電圧の相のハイサイドスイッチ素子のオフ故障を検知することができる。これは、ハイサイドスイッチ素子がオフ故障すると、高レベルの電圧ではなく上述した分圧抵抗の電圧が、第1インバータ120のオフ故障した相の端子に現れるためである。
【0079】
U相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、V、W相の相電圧は高レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのU相レグのSW121Hのオフ故障を検知する。U相と同様に、V相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、U、W相の相電圧は高レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのV相レグのSW122Hのオフ故障を検知する。W相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、U、V相の相電圧は高レベルを示す場合、コントローラ340は、第1インバータのW相レグのSW123Hのオフ故障を検知する。
【0080】
オン故障の診断を先に行ってからオフ故障の診断を行うことが好ましい。例えば、第1インバータ120のU相レグのSW121Hがオン故障していたと仮定する。その場合、オフ故障の診断においてSW121Lをオンすると、U相レグのハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子が共にオンになり、通電経路はショートする可能性がある。上記の診断順番によりこれを避けることができる。
【0081】
オフ故障診断はオン故障診断においてSWのオン故障が2箇所以上ないことが前提である。ただし、診断非対象のインバータにおける遮断用のスイッチ素子がオン故障していても、ハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子の全てをオフ状態にできればオン故障診断を行うことができる。
【0082】
コントローラ340は、SWのオンまたはオフ故障の診断を完了すると、モータ200の中性点を利用して巻線の断線故障の診断を行う。具体的には、コントローラ340は、巻線M1、M2およびM3の中から断線した巻線を特定することができる。SWのオン・オフ故障の診断が完了していることが、巻線の断線故障の診断の前提条件となる。
【0083】
巻線の断線故障の診断は、第3故障診断を有する。コントローラ340は、第1および第2インバータ120、130の一方(例えば第2インバータ130)にあるノードをモータ200の中性点として機能させた状態で、他方(例えば第1インバータ120)のスイッチ素子を所定のパターンでオンまたはオフすることにより、第3故障診断を実行する。
【0084】
第3故障診断は、以下のステップを包含する。(1)コントローラ340は、当該他方のインバータにおける3個のローサイドスイッチ素子のうちの第1特定相の1個をオンして、残りの2個をオフし、かつ、3個のハイサイドスイッチ素子を全てオフする制御信号を生成する。第1特定相は、U、VおよびW相のうちの任意の一相であってよい。
【0085】
(2)駆動回路350はコントローラ340の制御の下で、当該一方のインバータにモータ200の中性点が構成された状態で、当該他方のインバータの3個のローサイドスイッチ素子および3個のハイサイドスイッチ素子に制御信号を与える。コントローラ340は、巻線M1、M2、M3の一端に現れる三相電圧Vu、Vv、Vwを測定する。第3故障診断では、三相電圧Vu、Vv、Vwは巻線の断線故障パターンに応じて変化する。
【0086】
コントローラ340は、当該一方のインバータのスイッチ素子を所定のパターンでオンまたはオフすることによって、そのインバータ内のノードをモータ200の中性点として機能させる。所定のパターンによると、当該一方のインバータの3個のレグにおけるハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子の間の3個のノード(例えば図1における第2インバータ130の中のノードn1、n2およびn3)の電位は等しくなる。
【0087】
(3)コントローラ340は、巻線の断線故障のパターンと三相電圧Vu、VvおよびVwのレベルとを関連付けるLUTを参照して、測定した三相電圧Vu、VvおよびVwに基づいて断線故障を診断する。
【0088】
再び図4を参照する。LUTは、巻線の断線故障のパターンと三相電圧Vu、VvおよびVwのレベルとを関連付ける故障診断情報をさらに有する。巻線の断線故障のパターンは、主に3パターンである:U相の巻線M1の断線、V相の巻線M2の断線およびW相の巻線M3の断線。
【0089】
以下、第2インバータ130内のノードをモータ200の中性点として機能させて第3故障診断を実行する具体的な診断ステップを説明する。第1インバータ120内のノードをモータ200の中性点として機能させて第3故障診断を実行することも可能である。
【0090】
コントローラ340は、電源遮断回路110のSW111、112をオンし、SW113、114をオフする制御信号を生成する。ここで、第3故障診断を実行するときにSW111、112をオンすることを「電源遮断回路110をオンする」と呼ぶ場合がある。駆動回路350からSW111、112、113および114に制御信号が与えられ、SW111、112はオン状態となり、SW113、114はオフ状態となる。これにより、第1インバータ120は電源101AおよびGNDに接続され、第2インバータ130は電源101BおよびGNDから切り離される。なお、第3故障診断においても、SW111、112、113および114は故障していないことが前提条件である。
【0091】
コントローラ340は所定のパターンで第2インバータ130のスイッチ素子をオンまたはオフすることにより、インバータのノードをモータ200の中性点として機能させる。所定のパターンは、例えば、第2インバータ130のハイサイド側のSW131H、132Hおよび133Hをオンしてローサイド側のSW131L、132Lおよび133LをオフするパターンAと、ハイサイド側のSW131H、132Hおよび133Hをオフしてローサイド側のSW131L、132Lおよび133LをオンするパターンBと、第2インバータ130の全てのSWをオンするパターンCとを含み得る。
【0092】
本実施形態では、コントローラ340は、パターンAを用いて第2インバータ130内のノードを中性点として機能させる。換言すると、コントローラ340は、パターンAを用いて第2インバータ130のノードn1、n2およびn3の電位を等しくする。駆動回路350から第2インバータのSWにゲート制御信号が与えられる。
【0093】
コントローラ340は、第1インバータ120のハイサイド側のSW121H、122Hおよび123Hをオフする制御信号を生成する。本実施形態では、第1特定相はU相である。上述したように、第1特性相は、VまたはW相であってもよい。コントローラ340は、さらに、第1インバータ120のU相のローサイド側のSW121Lをオンし、かつ、残り二相のSW122L、123Lをオフする。駆動回路350からSW121Lにオンするゲート制御信号が与えられ、SW122L、123L、121H、122Hおよび123Hにそれらをオフするゲート制御信号が与えられる。
【0094】
測定した三相電圧Vu、VvおよびVwの各々が低レベルを示す場合、コントローラ340は、巻線M1、M2およびM3は断線していないと判定する。換言すると、三相の通電経路は正常であると判定することができる。第2インバータ130内のノードが中性点として機能した状態で、第1特定相であるU相のSW121Lがオンすると、低レベルの電圧は、巻線M2、M3を介して第1インバータ120の端子L_V、L_Wに現れる。
【0095】
三相のうちの一相の相電圧は低レベルを示し、かつ、残りの二相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、第1特定相の巻線の断線故障を検知する。具体的には、コントローラ340は、第1特定相であるU相の相電圧は低レベルを示し、V、W相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、U相の巻線M1の断線故障を検知することができる。これは、U相の巻線M1が断線すると、U相のSW121Lがオンしても、低レベルの電圧は、巻線M1、M2、M3を介して第1インバータ120の端子L_V、L_Wに現れないためである。代わりに、上述した分圧抵抗の電圧が、端子L_V、L_Wに現れる。


【0096】
第1特定相以外の相のうちの一相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、残りの二相の相電圧は低レベルを示す場合、コントローラ340は、中間レベルを示す相の巻線の断線を検知する。具体的には、コントローラ340は、V相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、U、W相の相電圧は低レベルを示す場合、V相の巻線M2の故障を検知することができる。コントローラ340は、W相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、U、V相の相電圧は低レベルを示す場合、W相の巻線M3の故障を検知することができる。例えば、V相の巻線M2が断線すると、U相のSW121Lがオンすると、低レベルの電圧は、巻線M1、M3を介して第1インバータ120の端子L_Wには現れ、一方、巻線M1、M2を介して端子L_Vには現れないためである。
【0097】
例えば、コントローラ340は、SWのオンまたはオフ故障の診断において、第2インバータのハイサイド側のSW131Hがオフ故障している、または、ローサイド側のSW131Lがオン故障していると判定した場合、ローサイド側のSW131L、132Lおよび133Lをオンすることにより、第2インバータ内のノードを中性点として機能させることができる。このように、コントローラ340は、例えば上述した3つのパターンの中からいずれを用いるかをSWのオンまたはオフ故障のパターンに基づいて選択することができる。
【0098】
例えば、第1インバータ120において、SW121L、122L、123L、121L、122Lおよび123Lのうちの1個がオン故障若しくはオフ故障し、または、第3および第4スイッチ素子113、114の少なくとも1個がオン故障しているとする。その場合、コントローラ340は、第3故障診断を第2インバータ130に適用することによって、第1インバータ120内のノードをモータ200の前記中性点として機能させた状態で、巻線M1、M2およびM3の他端に現れる三相電圧Vu、VvおよびVwを測定することができる。
【0099】
第1から第3故障診断において、SWのオンまたはオフ故障および巻線の断線故障の少なくとも1つが検知された場合、コントローラ340は、モータの通電制御を三相通電制御から二相通電制御に切替えることができる。
【0100】
図5は、巻線M1が断線した場合、二相通電制御に従って電力変換装置1000を制御したときにモータ200のV相、W相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示している。図6は、巻線M2が断線した場合、二相通電制御に従って電力変換装置1000を制御したときにモータ200のU相、W相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示している。図7は、巻線M3が断線した場合、二相通電制御に従って電力変換装置1000を制御したときにモータ200のU相、V相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示している。横軸は、モータ電気角(deg)を示し、縦軸は電流値(A)を示す。図5から図7の電流波形において、電気角30°毎に電流値をプロットしている。Ipkは各相の最大電流値(ピーク電流値)を表す。
【0101】
例えば、コントローラ340は、第1インバータ120のSW121Lのオン故障を特定した場合、または、巻線M1の断線故障を特定した場合、U相のHブリッジは用いることができない。そこで、コントローラ340は、U相のHブリッジ以外のV相、W相のHブリッジを用いて二相通電制御を行うことができる。
【0102】
U、VおよびW相のHブリッジを備える電力変換装置1000には、複数の通電経路があり、その選択の自由度が存在する。そのため、オンまたはオフ故障したSW、断線した巻線を特定できれば、利用可能な通電経路を選択してモータ駆動を継続することが可能となる。本実施形態の故障診断手法によれば、オンまたはオフ故障したSW、断線した巻線を特定することができる。コントローラ340は、その診断結果に基づいて適切な通電経路を選択することが可能となる。
【0103】
本実施形態によれば、各種の故障診断は相電圧を必要とし、電流値を必要としない。そのため、電流値および電圧値に基づく従来の故障診断に比べ、故障診断(具体的には故障検知および故障箇所の特定)をより短時間で実行することが可能となる。
【0104】
(実施形態2)本実施形態による電力変換装置1000は、第1インバータ120を有し、かつ、第2インバータ130を有しないインバータユニット100Aを備える、シングルインバータタイプの装置である。以下、実施形態1による電力変換装置1000との差異点を主に説明する。
【0105】



図8は、本実施形態によるインバータユニット100Aの回路構成を模式的に示している。モータ200の巻線M1、M2およびM3の他端同士はY結線されている。巻線M1、M2およびM3の他端同士を接続するノードNPはモータの中性点として機能する。
【0106】
インバータユニット100Aは、電源遮断回路110Aと、第1インバータ120と、3個の相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWと、を備える。電源遮断回路110Aは、第2および第5スイッチ素子112、115を有する。
【0107】
相分離リレー121_ISWは、巻線M1の一端と第1インバータ120のU相レグとの間に接続され、巻線M1の一端とU相レグとの接続・非接続を切替える。相分離リレー122_ISWは、巻線M2の一端と第1インバータ120のV相レグとの間に接続され、巻線M2の一端とV相レグとの接続・非接続を切替える。相分離リレー123_ISWは、巻線M3の一端と第1インバータ120のW相レグとの間に接続され、巻線M3の一端とW相レグとの接続・非接続を切替える。
【0108】
相分離リレーとして、例えば、MOSFETなどの半導体スイッチを用いることができる。サイリスタ、アナログスイッチICなどの他の半導体スイッチまたはメカニカルリレーを用いても構わない。また、IGBTおよびダイオードの組み合わせを用いることができる。相分離リレーをオン・オフする制御信号は、例えばコントローラ340の制御の下で駆動回路350によって生成され得る。
【0109】
相分離リレーを設けることにより、例えばモータが回転しているときに故障診断を行う場合、部品の故障により及び得るモータの逆起電力の影響を抑制することが可能となる。また、後述する電動パワーステアリング装置に本実施形態による電力変換装置1000を実装することを想定すると、巻線の相間短絡故障が発生した場合、モータが電気ブレーキとして機能し、ステアリングがロックされるおそれがある。相分離リレーを設けることにより、そのロックを防止することができる。
【0110】
制御回路300は、正常時の制御において、SW112をオンし、かつ、3個の相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWをオンした状態で、例えば、第1インバータ120のスイッチ素子をPWM制御することにより、三相通電制御を行うことができる。
【0111】
コントローラ340は、SWのオンまたはオフ故障、巻線の断線故障を検知すると、例えばモータ制御をシャットダウンする。これは、実施形態1とは異なり、三相のうちの一相のレグが故障し、または、巻線が断線すると、二相通電制御によってモータ駆動を継続することは困難となるためである。
【0112】
コントローラ340は、第1インバータ120の6個のSWの中からオンまたはオフ故障したSWを特定することができる。実施形態1と同様に、SW故障診断は、SWのオン故障を診断する第1故障診断およびSWのオフ故障を診断する第2故障診断を有する。コントローラ340は、上述した診断手順に従って第1および第2故障診断を実行する。
【0113】
コントローラ340は、第1故障診断において、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWをオフする制御信号する。コントローラ340は、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWをオフした状態で、第1故障診断を実行する。第1故障診断の上記のステップ(2)において、例えば、コントローラ340は、各相のレグにおけるハイサイドスイッチ素子とローサイドスイッチ素子の間のノード電位(または、レグと相分離リレーの間のノード電位)を測定することによって、三相電圧Vu、VvおよびVwを取得する。
【0114】
図9は、各種の故障パターンと三相電圧レベルとを関連付けるLUTの具体例を示す。LUTは、SWのオン故障のパターンと三相電圧レベルVu、VvおよびVwとを関連付ける、例えば図9に示す故障診断情報を有する。SWのオン故障のパターンは、実施形態1で説明したとおりである。
【0115】
コントローラ340は実施形態1と同様に、第1故障診断を実行した後、第2故障診断を実行する。コントローラ340は、第2故障診断において、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWをオフする制御信号する。コントローラ340は、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWをオフした状態で、第2故障診断を実行する。SWのオフ故障のパターンは、実施形態1で説明した通りである。
【0116】
コントローラ340は、SWのオン・オフ故障の診断が完了すると、巻線の断線故障の診断を行う。SWのオン・オフ故障の診断が完了していることが、巻線の断線故障の診断の前提条件となる。
【0117】
本実施形態では、上述したように、巻線のノードNPはモータ200の中性点として機能する。コントローラ340は、巻線のノードNP、つまりモータ200の中性点を利用して、上述した診断手順に従って第3故障診断を実行する。コントローラ340は、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWをオンした状態で、第3故障診断を実行する。
【0118】
シングルインバータタイプの装置において、巻線の断線故障の診断のシーケンスだけでは相分離リレーのオフ故障を検出できない場合がある。そのため、相分離リレーのオフ故障の診断のシーケンスを以下で説明するように追加的に実施することが好ましい。
【0119】
コントローラ340は、巻線の断線故障の診断を完了すると、相分離リレーのオフ故障の診断をさらに行うことができる。具体的には、コントローラ340は、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWの中からオフ故障した相分離リレーを特定することができる。巻線の断線故障の診断が完了していることが、相分離リレーのオフ故障の診断の前提条件となる。
【0120】
相分離リレーのオフ故障の診断は、第4故障診断を有する。コントローラ340は、モータ200の中性点を用いて、第1インバータ120のスイッチ素子を所定のパターンでオンまたはオフすることにより、第4故障診断を実行する。
【0121】
第4故障診断は、以下のステップを包含する。(1)コントローラ340は、第1インバータ120におけるハイサイドスイッチ素子121H、122Hおよび123Hのうちの、第2特定相の1個をオンして、残りの2個をオフし、かつ、ローサイドスイッチ素子121L、122Lおよび123Lを全てオフし、かつ、電源遮断回路110Aをオンする制御信号を生成する。コントローラ340は、さらに、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWをオンする制御信号を生成する。相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWは、共通の制御信号線に接続され、共通の制御信号によって制御され得る。第2特定相は、第1特定相と同様に、U、VおよびW相のうちの任意の一相であってよい。ただし、第2特定相は、第1特定相と同じ相である。
【0122】
(2)駆動回路350は、モータ200の中性点が構成された状態で、ローサイドスイッチ素子121L、122L、123L、ハイサイドスイッチ素子121H、122H、123H、相分離リレー121_ISW、122_ISW、123_ISW、および、電源遮断回路110AのSW112に制御信号を与える。コントローラ340は、三相電圧Vu、VvおよびVwを測定する。例えば、コントローラ340は、各相のレグにおけるハイサイドスイッチ素子とローサイドスイッチ素子の間のノード電位を測定することによって、三相電圧Vu、VvおよびVwを取得する。第4故障診断では、三相電圧Vu、VvおよびVwは、相分離リレーのオフ故障のパターンに応じて変化する。
【0123】
(3)コントローラ340は、相分離リレーのオフ故障のパターンとn相電圧レベルとをさらに関連付けるLUTを参照して、測定した三相電圧に基づいて、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWのうちの第2特定相以外の2個の相分離リレーのオフ故障を診断する。
【0124】
再び図9を参照する。LUTは、相分離リレーのオフ故障のパターンと三相電圧Vu、VvおよびVwのレベルとを関連付ける故障診断情報をさらに有する。相分離リレーのオフ故障のパターンは、主に3パターンである:U相の相分離リレー121_ISWのオフ故障、V相の相分離リレー122_ISWのオフ故障およびW相の相分離リレー123_ISWのオフ故障。
【0125】
コントローラ340は、巻線のノードNPを利用して、第4故障診断を実行する。コントローラ340は、電源遮断回路110のSW112をオンし、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWをオンする制御信号を生成する。駆動回路350からSW112、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWに制御信号が与えられ、これらのSWは全てオンする。
【0126】
コントローラ340は、第1インバータ120のローサイド側のSW121L、122Lおよび123Lをオフする制御信号を生成する。本実施形態では、第1および第2特定相はU相である。ただし、第2特定相は、第1特定相とは異なっていてもよい。コントローラ340は、さらに、第1インバータ120のU相のハイサイド側のSW121Hをオンし、かつ、残り二相のSW122H、123Hをオフする。駆動回路350からSW121Hにオンするゲート制御信号が与えられ、SW122H、123H、121L、122Lおよび123Lにそれらをオフするゲート制御信号が与えられる。
【0127】
測定した三相電圧Vu、VvおよびVwの各々が高レベルを示す場合、コントローラ340は、相分離リレー121_ISW、122_ISWおよび123_ISWはオフ故障していないと判定する。第2特定相であるU相のSW121Hがオンすると、高レベルの電圧は、巻線M2、相分離リレー122_ISWを介して、V相レグにおけるハイサイドスイッチ素子とローサイドスイッチ素子の間のノードに現れる。さらに、高レベルの電圧は、巻線M3、相分離リレー123_ISWを介して、W相レグにおけるハイサイドスイッチ素子とローサイドスイッチ素子の間のノードに現れる。
【0128】
第2特定相以外の相のうちの一相の相電圧は中間レベルを示し、かつ、残りの二相の相電圧は高レベルを示す場合、コントローラ340は、相電圧が中間レベルを示す相の相分離リレーのオフ故障を検知する。具体的には、コントローラ340は、U相およびW相の相電圧は高レベルを示し、V相の相電圧は中間レベルを示す場合、コントローラ340は、V相の相分離リレー122_ISWのオフ故障を検知することができる。これは、相分離リレー122_ISWがオフ故障した場合、SW121Hがオンしても、高レベルの電圧は、巻線M2、相分離リレー122_ISWを介して、V相レグにおけるハイサイドスイッチ素子とローサイドスイッチ素子の間のノードに現れないためである。
【0129】
第2特定相の相分離リレーのオフ故障は、上述した巻線の断線故障の診断、つまり第3故障診断において検知することができる。第3故障診断における特定相が例えばU相である場合、V、W相の相電圧Vv、Vwとして確認される中間レベルは、U相の巻線M1の断線故障またはU相の相分離リレー121_ISWのオフ故障の可能性を示唆している。これは、特定相における巻線の故障と相分離リレーのオフ故障を区別することは困難となるためである。このように、コントローラ340は、特定相の相分離リレーのオフ故障の可能性を第3故障診断において検知することができる。
【0130】
本実施形態によると、シングルインバータタイプの装置において、オンまたはオフ故障したSW、断線した巻線、および、オフ故障した相分離リレーの少なくとも1つを特定することができる。コントローラ340は、上記のいずれかの故障を検知した場合、モータ制御をシャット
ダウンすることができる。または、例えば、四相モータに電力を供給する、四相のレグを有するシングルインバータの装置において故障した相を特定できれば、故障した相以外の三相のレグを用いて三相通電制御を行うことができる。
【0131】
(実施形態3)図10は、本実施形態による電動パワーステアリング装置3000の典型的な構成を模式的に示している。
【0132】
自動車等の車両は一般に、電動パワーステアリング(EPS)装置を有する。本実施形態による電動パワーステアリング装置3000は、ステアリングシステム520、および補助トルクを生成する補助トルク機構540を有する。電動パワーステアリング装置3000は、運転者がステアリングハンドルを操作することによって発生するステアリングシステムの操舵トルクを補助する補助トルクを生成する。補助トルクにより、運転者の操作の負担は軽減される。
【0133】
ステアリングシステム520は、例えば、ステアリングハンドル521、ステアリングシャフト522、自在軸継手523A、523B、回転軸524、ラックアンドピニオン機構525、ラック軸526、左右のボールジョイント552A、552B、タイロッド527A、527B、ナックル528A、528B、および左右の操舵車輪529A、529Bを備える。
【0134】
補助トルク機構540は、例えば、操舵トルクセンサ541、自動車用電子制御ユニット(ECU)542、モータ543および減速機構544を備える。操舵トルクセンサ541は、ステアリングシステム520における操舵トルクを検出する。ECU542は、操舵トルクセンサ541の検出信号に基づいて駆動信号を生成する。モータ543は、駆動信号に基づいて操舵トルクに応じた補助トルクを生成する。モータ543は、減速機構544を介してステアリングシステム520に、生成した補助トルクを伝達する。
【0135】
ECU542は、例えば、実施形態1によるコントローラ340および駆動回路350などを有する。自動車ではECUを核とした電子制御システムが構築される。電動パワーステアリング装置3000では、例えば、ECU542、モータ543およびインバータ545によって、モータ駆動ユニットが構築される。そのユニットに、実施形態1または2によるモータモジュール2000を好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本開示の実施形態は、掃除機、ドライヤ、シーリングファン、洗濯機、冷蔵庫および電動パワーステアリング装置などの、各種モータを備える多様な機器に幅広く利用され得る。
図1
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図10