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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】バリア性積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20230307BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230307BHJP
   D21H 19/82 20060101ALI20230307BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B27/20 Z
D21H19/82
D21H19/20 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020084595
(22)【出願日】2020-05-13
(65)【公開番号】P2020189489
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2019094858
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】社本 裕太
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 友史
(72)【発明者】
【氏名】鶴原 正啓
(72)【発明者】
【氏名】野一色 泰友
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170462(WO,A1)
【文献】特開2010-125814(JP,A)
【文献】特開2003-154609(JP,A)
【文献】特開平10-249978(JP,A)
【文献】特開2012-200990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
D21H 11/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層およびガスバリア層をこの順に有するバリア性積層体であって、
前記紙基材を離解したパルプ繊維の変則フリーネスが100mL以上600mL以下であり、
前記水蒸気バリア層が層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有し、
前記層状無機化合物は、厚さが200nm以下、アスペクト比が50以上であり、
前記ガスバリア層が水溶性高分子を含有し、
透湿度が50g/(m・24h・atm)以下であり、
全光線透過率が60%以上であることを特徴とするバリア性積層体。
【請求項2】
前記層状無機化合物の含有量が前記水蒸気バリア層の全固形分中0.1質量%以上80質量%以下である、請求項1に記載のバリア性積層体。
【請求項3】
水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成した側のヘイズが95%以下である、請求項1または請求項2に記載のバリア性積層体。
【請求項4】
酸素透過度が10cc/(m・24h・atm)以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項5】
前記アニオン性バインダーが、酸基を有するスチレン・ブタジエン系共重合体、酸基を有するスチレン・アクリル系共重合体およびオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体のうち1種以上を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項6】
前記カチオン性樹脂は、表面電荷が0.1meq/g以上10meq/g以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項7】
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールである、請求項1~6のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項8】
前記水蒸気バリア層が層状無機化合物として、マイカ、ベントナイトおよびカオリンのうち1種以上を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項9】
少なくとも一方の最外層にシーラント層を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項10】
前記シーラント層が生分解性樹脂を含有する、請求項9に記載のバリア性積層体。
【請求項11】
包装用材料である、請求項1~10のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙を基材とするバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
紙を基材とし、水蒸気バリア性やガスバリア性(とくに、酸素バリア性)を有する包装材料は、食品、医療品、電子部品等の包装用として、従来から用いられてきている。紙基材に水蒸気バリア性やガスバリア性を付与する方法としては、合成樹脂フィルムや金属箔を紙基材に積層する方法が一般的である。
【0003】
従来のバリア性包装材料は、不透明であるため、外部から内容物を認識することが困難であった。そのため、外部から内容物を認識することができるように、透明性を有したバリア性包装材料が望まれていた。
【0004】
そこで、透明性を有し、紙を基材としたバリア性材料の開発が進められている。例えば、特許文献1には、紙支持体上に、酸素バリア層およびヒートシール層とが順次積層されてなる積層体であって、酸素透過度、透湿度および不透明度を規定した透明バリア性積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-154609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された透明バリア性積層体は、紙支持体、酸素バリア層、ヒートシール層(防湿層)という順の構成を有するものであり、ヒートシール等によって層の厚さも変動するため、バリア性能においてさらに改良の余地を有するものであった。
【0007】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、紙を基材とし、水蒸気バリア性、ガスバリア性および透明性に優れたバリア性積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、積層体を構成する材料について鋭意検討したところ、基材として、離解したパルプ繊維の変則フリーネスが特定の範囲である紙基材を選定し、特定の形状の層状無機化合物を水蒸気バリア層に含有させることが水蒸気バリア性や透明性を発現する上で有効であることを見出した。また、紙基材、水蒸気バリア層およびガスバリア層の順の層構成とすることがバリア性の向上に有効であることを見出した。本発明はこのような知見を踏まえて完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、以下のような構成を有している。
【0009】
(1)紙基材の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層およびガスバリア層をこの順に有するバリア性積層体であって、前記紙基材を離解したパルプ繊維の変則フリーネスが100mL以上600mL以下であり、前記水蒸気バリア層が層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有し、前記層状無機化合物は、厚さが200nm以下、アスペクト比が50以上であり、前記ガスバリア層が水溶性高分子を含有し、透湿度が50g/(m・24h・atm)以下であり、全光線透過率が60%以上であることを特徴とするバリア性積層体。
【0010】
(2)前記層状無機化合物の含有量が前記水蒸気バリア層の全固形分中0.1質量%以上80質量%以下である、前記(1)に記載のバリア性積層体。
(3)水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成した側のヘイズが95%以下である、前記(1)または前記(2)に記載のバリア性積層体。
(4)酸素透過度が10cc/(m・24h・atm)以下である、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【0011】
(5)前記アニオン性バインダーが、酸基を有するスチレン・ブタジエン系共重合体、酸基を有するスチレン・アクリル系共重合体およびオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体のうち1種以上を含有する、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【0012】
(6)前記カチオン性樹脂は、表面電荷が0.1meq/g以上10meq/g以下である、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(7)前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールである、前記(1)~(6)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【0013】
(8)前記水蒸気バリア層が層状無機化合物として、マイカ、ベントナイトおよびカオリンのうち1種以上を含有する、前記(1)~(7)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(9)少なくとも一方の最外層にシーラント層を有する、前記(1)~(8)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(10)前記シーラント層が生分解性樹脂を含有する、前記(9)に記載のバリア性積層体。
(11)包装用材料である、前記(1)~(10)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、紙を基材とし、水蒸気バリア性、ガスバリア性および透明性にすぐれたバリア性積層体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態のバリア性積層体は、紙基材の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層およびガスバリア層をこの順に有している。紙基材の片面のみに水蒸気バリア層およびガスバリア層を設けてもよいし、紙基材の両面に水蒸気バリア層およびガスバリア層を設けてもよい。
以下、本実施形態のバリア性積層体を構成する各層について説明する。
【0017】
[紙基材]
本実施形態の紙基材においては、木材パルプのパルプ繊維を主成分とする。ここで、パルプ繊維が主成分とは、紙基材のうちパルプ繊維が50質量%以上であることを意味する。紙基材におけるパルプ繊維の含有割合は50質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、70質量%以上99.5質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上99質量%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
紙基材に使用される木材パルプは、とくに限定されず、製紙用として使用されるあらゆる木材パルプが使用できる。木材パルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(GP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の未晒、半晒、あるいは晒の機械パルプ;亜硫酸パルプ;古紙パルプ等が挙げられる。紙の強度を考慮すると、NBKPの比率が高い方が好ましい。また、必要に応じて合成繊維や非木材繊維などを木材パルプに混合することが可能である。
【0019】
パルプ繊維は一般に、叩解処理を進めることにより、透明性が向上する。そこで、本実施形態の紙基材は、透明性を向上させる観点から、離解したパルプ繊維の変則フリーネスが100mL以上600mL以下である。ここで、変則フリーネスとは、JIS P 8121:2012に規定のカナダ標準ろ水度法において、パルプ採取量を3gから0.3gに変更し、JIS規格スクリーンプレートを80メッシュワイヤーに変更して測定したフリーネス(濾水度)である。また、紙基材は、JIS P 8220-1:2012に準拠して離解し、離解により得られたパルプ繊維の変則フリーネスを測定する。
紙基材を離解したパルプ繊維の変則フリーネスが前記下限値以上であると、紙基材の寸法安定性が高くなり、ボコツキが生じにくく、前記上限値以下であると、紙基材の透明性を維持できる。前記パルプ繊維の変則フリーネスは、150mL以上500mL以下であることがより好ましく、200mL以上400mL以下であることがさらに好ましい。変則フリーネスを調整するために、パルプを叩解する方法については、公知の方法を使用することができる。
【0020】
紙基材の透明性を向上させるために、さらに加工を加えた紙を用いることが好ましい。具体的には、グラシン紙やグラファン紙を用いることが好ましい。グラシン紙とは、パルプ繊維を高度に叩解してから抄紙し、カレンダー等による加工をして製造された紙をいう。グラファン紙とはパルプ繊維をグラシン紙よりもさらに高度に叩解してから抄紙し、カレンダー等による加工をして製造された紙をいう。紙基材としては、透明性の観点から、グラシン紙、グラファン紙が好ましく、グラファン紙がより好ましい。
【0021】
紙基材には、サイズ剤、紙力増強剤、着色料等の内添薬品を必要に応じて配合することができる。これらの原料を抄紙工程に供して得られた原紙は、さらにカレンダー処理され、透明性に優れた紙基材が得られる。また、必要に応じて透明化剤を塗布することができる。抄紙工程は、適宜公知の方法を使用することができる。また、カレンダー処理に使用されるカレンダー設備も、とくに限定されるものではなく、マシンカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダー、グロスカレンダー等、公知のものを適宜使用することができる。透明化剤の塗布はサイズプレスやコーター等の公知のものを適宜使用することができる。
【0022】
紙基材の坪量は、とくに限定されないが、20g/m以上400g/m以下であることが好ましく、25g/m以上320g/m以下がより好ましい。また、紙基材の厚さは20μm以上150μm以下が好ましい。
紙基材の密度としては1.0g/cm以上であることが好ましい。
【0023】
紙基材のJIS P 8117:2009による透気度は、1000秒/100mL以上が好ましく、10000秒/100mL以上がより好ましく、100000秒/100mL以上がさらに好ましい。
【0024】
[水蒸気バリア層]
水蒸気バリア層は、水蒸気の透過を阻止する機能を有する層であり、紙基材の面上に積層されている。水蒸気バリア層は、層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有する。
【0025】
(層状無機化合物)
層状無機化合物の形態は、平板状である。層状無機化合物とカチオン性樹脂とアニオン性バインダーバインダーとの混合溶液を作製し、紙基材上に塗工すると、水蒸気バリア層が形成される。水蒸気バリア層内においては、平板状の層状無機化合物が紙基材の平面(表面)とほぼ平行に積層した状態に配列する。そうすると、平面方向では層状無機化合物が存在していない面積が小さくなることから、水蒸気の透過が抑制される。また、厚さ方向では平板状の層状無機化合物が紙基材平面に対して平行に配列して存在するため、層中の水蒸気は層状無機化合物を迂回しながら透過することとなり、迷路効果により、水蒸気の透過が抑制される。その結果、水蒸気バリア層は優れた水蒸気バリア性を発現することができる。
【0026】
層状無機化合物は、厚さが200nm以下である。層状無機化合物の厚さは、120nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、25nm以下であることがさらに好ましく、10nm以下であることがとくに好ましい。層状無機化合物の厚さが小さい方が、水蒸気バリア層中における層状無機化合物の積層数が大きくなるため、高い水蒸気バリア性を発揮することができる。ここで、水蒸気バリア層中に含まれている状態での層状無機化合物の厚さは、以下のようにして求められる。水蒸気バリア層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影する。このとき、画面内に層状無機化合物が20~30個程度含まれる倍率とする。画面内の層状無機化合物の個々の層状無機化合物の厚さを測定する。そして、得られた厚さの平均値を算出して、層状無機化合物の厚さとする。
【0027】
層状無機化合物は、長さが1μm以上100μm以下であることが好ましい。長さが1μm以上であると、層状無機化合物が紙基材に対して平行に配列し易い。また、長さが100μm以下であると層状無機化合物の一部が水蒸気バリア層から突出する懸念が少ない。層状無機化合物の長さは、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましく、15μm以下であることがとくに好ましい。ここで、水蒸気バリア層中に含まれている状態での層状無機化合物の長さは、以下のようにして求められる。水蒸気バリア層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影する。このとき、画面内に層状無機化合物が20~30個程度含まれる倍率とする。画面内の層状無機化合物の個々の層状無機化合物の長さを測定する。そして、得られた長さの平均値を算出して、層状無機化合物の長さとする。なお、層状無機化合物の長さは、粒子径という表現で記載されることもある。
【0028】
層状無機化合物は、アスペクト比が50以上である。アスペクト比が50以上であると、所定の水蒸気バリア性を達成することが可能となる。層状無機化合物のアスペクト比は、80以上が好ましく、300以上がより好ましく、500以上がとくに好ましい。アスペクト比が大きいほど、水蒸気の透過が抑制され、水蒸気バリア性が向上する。また、アスペクト比が大きいほど、層状無機化合物の添加量を低減させることができる。アスペクト比の上限はとくに限定されず、塗工液の粘度の観点から10000以下程度が好ましい。ここで、アスペクト比とは、上記したように、水蒸気バリア層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影し、得られた層状無機化合物の平均長さをその平均厚さで除した値である。
【0029】
層状無機化合物の具体例としては、雲母族、脆雲母族等のマイカ、ベントナイト、カオリナイト(カオリン鉱物)、パイロフィライト、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、緑泥石、セプテ緑泥石、蛇紋石、スチルプノメレーン、モンモリロナイトなどが挙げられる。
【0030】
これらの中でもとくに、バリア性を向上させる観点から、マイカ、ベントナイトおよびカオリンのうち1種以上を含有することが好ましく、マイカまたはベントナイトがより好ましい。マイカの具体例としては、合成マイカ(例えば、膨潤性マイカ、非膨潤性マイカ)、白雲母(マスコバイト)、絹雲母(セリサイト)、金雲母(フロコパイト)、黒雲母(バイオタイト)、フッ素金雲母(人造雲母)、紅マイカ、ソーダマイカ、バナジンマイカ、イライト、チンマイカ、パラゴナイト、ブリトル雲母などが挙げられる。また、ベントナイトの具体例としては、モンモリロナイトが挙げられる。
【0031】
層状無機化合物の含有量は、水蒸気バリア層の全固形分中80質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下がとくに好ましい。一方、層状無機化合物の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。層状無機化合物のアスペクト比を大きくし、厚さを小さくすることによって、層状無機化合物の含有量を低減させることができる。また、水蒸気バリア層の強度を高めて、層状無機化合物の水蒸気バリア層からの脱落を抑えることができる。
【0032】
(カチオン性樹脂)
水蒸気バリア層は、カチオン性樹脂を含有する。水蒸気バリア層はカチオン性樹脂を含有することによって、水蒸気バリア性が大きく向上する。その理由として、以下のように考えている。
(1)層状無機化合物は、平板状の形態の平面部分がアニオン性、エッジ部分がカチオン性に帯電し易いため、層状無機化合物が相互に立体的に凝集した、いわゆるカードハウス構造をとることが知られている。このカードハウス構造のために、層状無機化合物の水分散液は粘度が非常に高くなる。
(2)一方、カードハウス構造は撹拌などにより力を加えると簡単に壊れるため、層状無機化合物の水分散液はチキソトロピー性を示す。
(3)層状無機化合物の水分散液に、適切なカチオン性樹脂を添加すると、層状無機化合物のアニオン性の平面部分にカチオン性樹脂が吸着することによって、カードハウス構造が破壊される。その結果、層状無機化合物が立体的に凝集することが抑制され、平板状の層状無機化合物が紙基材平面に対して平行に積層し易くなり、水蒸気バリア性の向上につながる。
【0033】
カチオン性樹脂の具体例としては、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミド化合物、変性ポリアミド系化合物、ポリアミドアミン-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミン-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミンポリ尿素-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドアミンポリ尿素-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素化合物、ポリアミンポリ尿素化合物、ポリアミドアミンポリ尿素化合物およびポリアミドアミン化合物、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、アミノ変性アクリルアミド系化合物、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどを挙げることができる。
【0034】
カチオン性樹脂は、表面電荷が0.1meq/g以上10meq/g以下であることが好ましく、0.2meq/g以上5meq/g以下であることがより好ましい。カチオン性樹脂の表面電荷が前記範囲内であると、カードハウス構造を破壊することが可能であり、後記するアニオン性バインダーとも適度に共存することができる。なお、カチオン性樹脂の表面電荷は、以下に記載する方法で測定する。
【0035】
試料となる重合体を水に溶解して、重合体濃度1ppmの溶液を得る。その溶液に対し、チャージアナライザーMutek PCD-04型(BTG社製)を用いて、0.001Nポリエチレンスルホン酸ナトリウムを滴下して電荷量を測定する。
【0036】
水蒸気バリア層におけるカチオン性樹脂の含有量は、水蒸気バリア層に使用される層状無機化合物とアニオン性バインダーの種類に応じて適宜選択すればよいが、バリア性を向上させる観点から、層状無機化合物100質量部に対して、1質量部以上300質量部以下が好ましく、3質量部以上250質量部以下がより好ましく、5質量部以上200質量部以下がさらに好ましく、10質量部以上150質量部以下がとくに好ましく、20質量部以上100質量部以下が最も好ましい。
【0037】
また、カチオン性樹脂の含有量は、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下が好ましく、0.3質量部以上15質量部以下がより好ましく、1質量部以上10質量部以下がさらに好ましい。
【0038】
(アニオン性バインダー)
水蒸気バリア層におけるバインダーは、アニオン性であることにより、水蒸気バリア性がより向上する。前記したように、層状無機化合物の平面部分はアニオン性であるが、カチオン性樹脂が吸着すると表面がカチオン性になる。そのため、アニオン性であるバインダーとの親和性が高まることとなる。
【0039】
アニオン性のバインダーとしては、カルボン酸基を含む単量体で変性されたバインダーが好ましい。アニオン性バインダーの骨格となるポリマーとしては、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体、メタクリレート・ブタジエン系共重合体、アクリルニトリル・ブタジエン系共重合体、オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体、アクリルエステル系重合体などが挙げられる。これらの中では、耐水性が良好で、伸びがよく、折割れによる塗工層の亀裂が生じにくいことから、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体およびオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体のうち1種以上を含有することが好ましい。
【0040】
スチレン・ブタジエン系共重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系化合物と、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどのブタジエン系化合物、およびこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。スチレン系化合物としてはスチレン、またブタジエン系化合物としては1,3-ブタジエンが好適である。
【0041】
スチレン・アクリル系共重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系化合物と、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、(メタ)アクリル酸スルホアルキルナトリウム塩(アルキル基の炭素数が2以上3以下)などのアクリル系化合物およびこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。スチレン系化合物としてはスチレンが好適であり、またアクリル系化合物としてはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルが好適であり、アクリル酸、アクリル酸エステルがより好適である。(メタ)アクリル酸エステルとしてはアクリル酸アルキルエステルが好ましくは、アルキル基の炭素数は好ましくは1~6である。
【0042】
オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体は、オレフィン、とりわけ、プロピレン等のα-オレフィンまたはエチレンと、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステルおよびマレイン酸モノブチルエステルなどの、少なくとも1個のカルボキシ基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステルおよびこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。
オレフィンとしては、エチレンまたはα-オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
また不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などが好適である。
オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体の具体例としては、例えばエチレン・アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液が、ザイクセン(登録商標)AC等(アクリル酸の共重合比率20%、住友精化社製)として市販されており、容易に入手し利用することができる。
【0043】
アニオン性バインダーは、骨格となるポリマーが酸基を有していない場合には、上記の骨格となるポリマーにカルボキシ基等の酸基を含む単量体を共重合して、変性させることにより得ることができる。
アニオン性バインダーにおけるカルボキシ基等の酸基を含む単量体の共重合比率は、1mol以上50mol%以下であることが好ましい。
【0044】
アニオン性バインダーの重量平均分子量は、塗工液粘度の観点から、1万以上1000万以下が好ましく、10万以上500万以下がより好ましい。
【0045】
アニオン性バインダーの含有割合は、とくに限定されないが、水蒸気バリア層の全固形分中20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がとくに好ましく、80質量%以上が最も好ましい。
【0046】
水蒸気バリア層は、層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダー以外に、必要に応じて適宜、分散剤、界面活性剤、消泡剤、濡れ剤、染料、色合い調整剤、増粘剤などを添加することが可能である。
【0047】
水蒸気バリア層の厚さは、1μm以上30μm以下であることが好ましく、3μm以上20μm以下であることがより好ましい。また、水蒸気バリア層の塗工量は、固形分として、1g/m以上30g/m以下であることが好ましく、3g/m以上20g/m以下であることがより好ましい。
【0048】
[ガスバリア層]
ガスバリア層は、主として酸素ガスの透過を阻止する機能を有する層であり、水蒸気バリア層の上に積層されている。ガスバリア層は、水溶性高分子を含有している。
【0049】
(水溶性高分子)
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、デンプンおよびその誘導体、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ウレタン系樹脂、ポリアクリル酸およびその塩、カゼイン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、ガスバリア性がより優れていることから、完全ケン化もしくは部分ケン化したポリビニルアルコール、または変性ポリビニルアルコールが好ましい。変性ポリビニルアルコールとしては、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0051】
水溶性高分子の含有量は、ガスバリア層の全固形分中50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
ガスバリア層には、水蒸気バリア層と同様に、前記した層状無機化合物を含有させてもよい。層状無機化合物をガスバリア層に含有させる場合、層状無機化合物の含有量は、とくに限定されないが、ガスバリア層の水溶性高分子100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下程度が好ましく、5質量部以上15質量部以下がより好ましい。層状無機化合物としては、バリア性を向上させる観点から、マイカ、ベントナイトおよびカオリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。ガスバリア層に含有させる層状無機化合物は、水蒸気バリア層に含有させる層状無機化合物と同一の種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0053】
ガスバリア層は、水溶性高分子と層状無機化合物以外に、必要に応じて適宜、顔料、分散剤、界面活性剤、消泡剤、濡れ剤、染料、色合い調整剤、増粘剤などを添加することが可能である。
【0054】
ガスバリア層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましい。また、ガスバリア層の塗工量は、固形分として、0.1g/m以上10g/m以下であることが好ましく、0.5g/m以上5g/m以下であることがより好ましい。
【0055】
[バリア性積層体]
本実施形態のバリア性積層体は、紙基材の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層およびガスバリア層をこの順に有している。ガスバリア層は比較的薄い層であるため、紙基材上に直接形成するよりは、水蒸気バリア層の平坦な表面上に形成する方が膜が均一となり、水溶性高分子が本来有するガスバリア機能を効果的に発揮することができる。また、上記したように、水蒸気バリア層中には、平板状の層状無機化合物が紙基材の平面とほぼ平行に積層した状態に配列していることによって、水蒸気の透過を物理的に抑制するだけでなく、酸素等のガスの透過も抑制することができる。そのため、水蒸気バリア層の上にガスバリア層を形成することにより、酸素等に対するガスバリア性能をより効果的に向上させることできる。
【0056】
バリア性積層体は、酸素ガスバリア性を有する包装材料としての観点から、酸素透過度が10cc/(m・24h・atm)以下であることが好ましく、5cc/(m・24h・atm)以下であることがより好ましい。
また、バリア性積層体は、水蒸気バリア性を有する包装材料としての観点から、透湿度が50g/(m・24h・atm)以下であることが好ましく、40g/(m・24h・atm)以下であることがより好ましい。透湿度は、JIS Z 0208:1976に準じて測定することができる。
【0057】
バリア性積層体は、透明性を有する包装材料としての観点から、全光線透過率が60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。全光線透過率は、JIS K 7361-1:1997に準じて測定することができる。
また、バリア性積層体は、透明性を有する包装材料としての観点から、水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成した側のヘイズが95%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましい。ヘイズは、JIS K 7136:2000に準じて、水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成した側から測定することができる。
【0058】
(バリア性積層体の製造方法)
バリア性積層体は、紙基材上に、まず水蒸気バリア層形成用塗工液を塗工して、水蒸気バリア層を形成した後、ガスバリア層形成用塗工液を塗工して、ガスバリア層を形成することにより、製造することができる。各層は、塗工液を逐次塗工および乾燥させて形成してもよく、同時多層塗工した後に乾燥させて形成してもよい。
【0059】
塗工液の溶媒としては、とくに制限はなく、水またはエタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンもしくはトルエンなどの有機溶媒を用いることができる。
【0060】
塗工液を紙基材に塗工するための塗工設備には、とくに限定はなく、公知の設備を用いることができる。塗工設備としては、例えば、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ゲートロールコーターなどが挙げられる。とくに水蒸気バリア層の形成には、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーターなどの塗工表面をスクレイプするコーターが層状無機化合物の配向を促すという点で好ましい。
【0061】
[シーラント層]
バリア性積層体は、紙基材の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層およびガスバリア層をこの順に有しているが、さらに、当該バリア性積層体の少なくとも一方の最外層にシーラント層を形成してもよい。すなわち、シーラント層は、水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成した側の当該ガスバリア層の上に形成してもよいし、水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成していない側の紙基材の上に形成してもよいし、両方の上に形成してもよい。
シーラント層は、加熱や超音波で溶融し接着する層であり、バリア性積層体同士をヒートシール等により相互に結合させることができる層である。
【0062】
シーラント層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル系重合体、ポリ酢酸ビニル重合体などの合成樹脂を溶融押出ラミ法やドライラミ法によって積層することによって形成することができる。また、シーラント層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル系重合体、ポリ酢酸ビニル重合体などの合成樹脂の乳化分散液を塗工することによって形成することもできる。
【0063】
シーラント層は、生分解性樹脂を含有することが好ましい。生分解性樹脂の具体例としては、とくに限定されず、例えばポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、3-ヒドロキシブタン酸・3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)等が挙げられる。
【0064】
シーラント層の厚さは、1~50μmであることが好ましく、3~35μmであることがより好ましい。また、シーラント層の形成量は、固形分として、1~50g/mであることが好ましく、3~30g/mであることがより好ましい。
【0065】
本実施形態のバリア性積層体は、水蒸気バリア層に層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有していることから、水蒸気バリア層中の層状無機化合物がカードハウス構造を形成せず、均一に分散された状態で積層されるため、水蒸気バリア性に優れている。さらに、水蒸気バリア層の表面が平滑に形成されるため、その上のガスバリア層も均一に形成することが可能であり、ガスバリア性に優れている。
【0066】
本実施形態のバリア性積層体は、上記の優れた水蒸気バリア性およびガスバリア性を生かして、食品、医療品、電子部品等の包装用材料として好適に用いることができる。また、本実施形態のバリア性積層体は、折割れに耐性を有することから、軟包装用材料として好適に用いることができる。
【実施例
【0067】
以下に実施例を挙げて本発明のバリア性積層体をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、とくに断らない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
【0068】
実施例・比較例に用いた原材料は以下のとおりである。
(1)紙基材
グラファン紙:坪量30g/m、厚さ25.6μm、密度1.17g/m、透気度99999秒以上/100mL、王子エフテックス社製、JIS P 8220-1:2012に準拠して離解したパルプ繊維の変則フリーネス250mL
晒クラフト紙:坪量60g/m、厚さ75.9μm、密度0.79g/m、透気度16秒/100mL、王子マテリア社製、JIS P 8220-1:2012に準拠して離解したパルプ繊維の変則フリーネス700mL
(2)層状無機化合物
マイカ:膨潤性マイカ、粒子径6.3μm、アスペクト比約1000、厚さ約5nm、固形分7%、製品名:NTO-05、トピー工業社製
カオリン:エンジニアードカオリン、粒子径9.0μm、アスペクト比80~100、厚さ約100nm、固形分100%、製品名:バリサーフHX、イメリスミネラルズ社製(3)カチオン性樹脂
変性ポリアミド系樹脂:固形分53%、製品名:SPI203(50)、田岡化学工業社製、表面電荷0.4meq/g
(4)アニオン性バインダー
オレフィン・不飽和カルボン酸系樹脂:エチレン-アクリル酸共重合体の水系エマルジョン、固形分29.3%、製品名:ザイクセンAC、住友精化社製
スチレン・ブタジエン系共重合体:酸変性SBRラテックスの水系エマルジョン、固形分47.3%、製品名:LX407S12、日本ゼオン社製
スチレン・アクリル系共重合体:スチレン-アクリル系樹脂の水系エマルジョン、固形分53.8%、製品名:ハービルC-3、第一塗料製造所製
(5)水溶性高分子
エチレン共重合ポリビニルアルコール:エクセバールAQ4104、クラレ社製
ポリビニルアルコール:完全ケン化型ポリビニルアルコール、製品名:ポバールPVA117、クラレ社製
(6)シーラント層
低密度ポリエチレンフィルム:LLDPEフィルム、T.U.X FCS、30μm厚、三井化学東セロ社製
ポリブチレンサクシネート:PBS、製品名:Bio PBS FZ71、三菱ケミカル社製、厚さ30μm
【0069】
(実施例1)
<水蒸気バリア層用塗工液>
層状無機化合物(膨潤性マイカ)の水分散液29.3部に、撹拌しながらエチレン-アクリル酸共重合体の水系エマルジョン(ザイクセンAC)100部を加えた。これに、変性ポリアミド系樹脂(SPI203(50))2.93部を加え、撹拌した。さらに、25%アンモニア水溶液0.35部を加えて撹拌した。さらに、希釈水を加え、固形分濃度25%とし、水蒸気バリア層用塗工液とした。
【0070】
<ガスバリア層用塗工液>
エチレン共重合ポリビニルアルコール(エクセバールAQ4104)の10%水溶液を調製し、ガスバリア層用塗工液とした。
【0071】
紙基材をグラファン紙とし、水蒸気バリア層用塗工液を塗工量が6g/mとなるように、メイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥した。さらにその上にガスバリア層用塗工液を2g/mとなるように、メイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥して、バリア性積層体を得た。
【0072】
(実施例2)
水蒸気バリア層用塗工液の塗工量を12g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、バリア性積層体を作製した。
【0073】
(実施例3)
水蒸気バリア層用塗工液およびガスバリア層用塗工液を両面に塗工したこと以外は実施例1と同様にして、バリア性積層体(層構成:ガスバリア層/水蒸気バリア層/紙基材/水蒸気バリア層/ガスバリア層)を作製した。
【0074】
(実施例4)
エチレン-アクリル酸共重合体エマルジョン100部を酸変性SBRラテックスエマルジョン(LX407S12)61.9部に変更して水蒸気バリア層用塗工液を調製し、かつガスバリア層用塗工液をポリビニルアルコール(ポバールPVA117)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、バリア性積層体を作製した。
【0075】
(実施例5)
膨潤性マイカの水分散液29.3部をエンジニアードカオリン(バリサーフHX)の41%水溶液71.5部に変更し、変性ポリアミド系樹脂2.93部を2.26部に変更して水蒸気バリア層用塗工液を調製した以外は実施例1と同様にして、バリア性積層体を作製した。
【0076】
(実施例6)
水溶性高分子としてエチレン共重合ポリビニルアルコール(エクセバールAQ4104)40部に、層状無機化合物(膨潤性マイカ)の水分散液(NTO-05)66.7部と希釈水を加えて撹拌し、固形分濃度10%水溶液を調製し、ガスバリア層用塗工液としたこと以外は実施例1と同様にして、バリア性積層体を得た。
【0077】
(実施例7)
シーラント層として、ドライラミネートによりLLDPEフィルムを積層して付与したこと以外は実施例1と同様にして、バリア性積層体を作製した。
【0078】
(実施例8)
シーラント層として、溶融押出ラミネートによりポリブチレンサクシネートを積層して付与した以外は実施例1と同様にして、バリア性積層体を得た。
【0079】
(比較例1)
紙基材を晒クラフト紙とした以外は実施例1と同様にして、バリア性積層体を作製した。
【0080】
(比較例2)
水蒸気バリア層用塗工液およびガスバリア層用塗工液を塗工しなかったこと以外は実施例1と同様にして、バリア性積層体を作製した。
【0081】
[評価方法]
実施例、比較例で得られたバリア性積層体を用いて、以下の各性能を評価した。
(1)透湿度(水蒸気透過度)
JIS Z 0208:1976(カップ法)B法(40℃±0.5℃、相対湿度90%±2%)で水蒸気バリア層およびガスバリア層を内側にして測定した。なお、透湿度の判断基準としては、50g/m・24h・atm以下であれば、水蒸気バリア層として実用性があると判定した。
【0082】
(2)酸素透過度
酸素透過率測定装置(MOCON社製、OX-TRAN2/20)を使用し、23℃、50%RH条件にて測定した。なお、酸素透過度の判断基準として、10cc/m・24h・atm以下であれば、ガスバリア層として実用性があると判定した。
【0083】
(3)全光線透過率
JIS K 7361-1:1997に準じて、バリア性積層体の全光線透過率を測定し、透明性の指標とした。全光線透過率が60%以上であれば良好であると判定した。
【0084】
(4)ヘイズ
JIS K 7136:2000に準じて、水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成した側のバリア性積層体のヘイズを測定し、透明性の指標とした。さらにシーラント層を有しているときは、シーラント層を形成した側で測定した。ヘイズが95%以下であれば、良好であると判定した。
【0085】
実施例1~8ならびに比較例1~2のバリア性積層体についての評価結果を表1に示した。
【0086】
【表1】
【0087】
表1から明らかなように、実施例1~8のバリア性積層体は、水蒸気バリア性、ガスバリア性および透明性に優れていた。一方、比較例1のバリア性積層体は、紙基材に変則フリーネスが600mLを超える晒クラフト紙を用いているため、透明性に劣るものであった。また、比較例2のバリア性積層体は、水蒸気バリア層およびガスバリア層を有していないものであり、バリア性能に劣るものであった。