(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】押出成形用熱可塑性エラストマー組成物、押出成形体及び医療用チューブ
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20230307BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20230307BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20230307BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20230307BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L23/10
A61L31/04 110
A61L31/14 100
A61L31/06
A61L31/04 100
(21)【出願番号】P 2021144813
(22)【出願日】2021-09-06
(62)【分割の表示】P 2017238824の分割
【原出願日】2017-12-13
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2016242366
(32)【優先日】2016-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】軽部 可奈絵
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-526388(JP,A)
【文献】特表2007-526387(JP,A)
【文献】特表2000-514123(JP,A)
【文献】特表2016-530355(JP,A)
【文献】特表2015-513584(JP,A)
【文献】特開2016-145303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/00 - 53/02
C08L 23/00 - 23/36
A61L 31/00 - 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水添ブロック共重合体(A)と、プロピレン系重合体(B)とを含む押出成形用熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記水添ブロック共重合体(A)が、少なくとも2個の、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックPと、少なくとも1個の、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQとを有するブロック共重合体の水素添加物であり、
前記水添ブロック共重合体(A)として、ISO 1133に準拠して230℃、荷重2.16kgにて測定されたメルトフローレート(MFR)が80~250g/10分である高MFR水添ブロック共重合体と、ISO 1133に準拠して230℃、荷重2.16kgにて測定されたメルトフローレート(MFR)が0.5~39g/10分である低MFR水添ブロック共重合体とを含む、
医療用チューブの成形材料である、押出成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記水添ブロック共重合体(A)における芳香族ビニル化合物単位の合計の含有量が8~25質量%である、請求項1に記載の押出成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記高MFR水添ブロック共重合体の重合体ブロックPがスチレン単位を主要構成単位として含有し、重合体ブロックQがブタジエン単位を主要構成単位として含有し、且つ、該ブタジエン単位における1,2-結合の割合が60質量%以上である請求項
1に記載の押出成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記低MFR水添ブロック共重合体のISO 1133に準拠して230℃、荷重2.16kgにて測定されたメルトフローレート(MFR)が1.5~35g/10分である請求項1~3のいずれか1項に記載の押出成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記高MFR水添ブロック共重合体100質量部に対する前記低MFR水添ブロック共
重合体の含有量が10~500質量部である請求項1~4のいずれか1項に記載の押出成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記水添ブロック共重合体(A)と前記プロピレン系重合体(B)との合計100質量部に対し、前記水添ブロック共重合体(A)の含有量が30~95質量部であり、プロピレン系重合体(B)の含有量が5~70質量部である請求項1~5のいずれか1項に記載の押出成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記水添ブロック共重合体(A)に含まれる共役ジエン化合物単位のうち80モル%以上が水素添加されている請求項1~6のいずれか1項に記載の押出成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の押出成形用熱可塑性エラストマー組成物の押出成形体。
【請求項9】
チューブ状である請求項
8に記載の押出成形体。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の押出成形用熱可塑性エラストマー組成物よりなる医療用チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液セット用チューブ、エクステンションチューブ、血液回路用チューブ、栄養チューブ、連結チューブ、カテーテル等の医療用チューブの材料として好適な熱可塑性エラストマー組成物と、この熱可塑性エラストマー組成物よりなる押出成形体及び医療用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
輸液セット用チューブ、エクステンションチューブ、血液回路用チューブ、栄養チューブ、連結チューブ、カテーテルといった医療用チューブには柔軟性が要求される一方で、彎曲させた時、折曲して内部を流れる液体を塞き止めることがないよう、耐キンク性(耐折曲性)を有することが必要とされる。この耐キンク性については、彎曲させるために要する力(キンク力)が大きく、かつキンク半径(彎曲可能な半径)が小さいことが望まれる。
【0003】
医療用チューブにはまた、見た目の清潔感、衛生性に加え、内部を流れる液体の種類(色)や、流動状況、液体の存在の有無等を目視で容易に確認することができるように、透明性に優れることが望まれる。
【0004】
従来、医療用チューブの材料としては、軟質塩化ビニル系樹脂が使用されていたが、軟質塩化ビニル系樹脂にはジオクチルフタレート等の可塑剤が多量に含まれるため、医療用チューブ中の可塑剤が溶出して医療用チューブ内を流れる液体を汚染する問題がある。
【0005】
そこで、近年では、軟質塩化ビニル系樹脂に代わるものとして、スチレン系エラストマーの使用が検討され、特許文献1には、特定の条件を満たす水添ブロック共重合体とオレフィン系樹脂とを配合してなる医療用樹脂組成物が提案されている。特許文献1には用いる水添ブロック共重合体のMFRの好適範囲についての記載はないが、実施例ではMFR(JIS K7210)が3.5~10g/10分のものが使用されている。また、この特許文献1では、耐キンク性の評価は行われているが、透明性の評価は行われていない。
【0006】
特許文献2には、柔軟性、透明性及び低べたつき性のバランスに優れたプロピレン系ランダム共重合体組成物として、特定のプロピレン系ランダム共重合体と水添ブロック共重合体を含むものが提案され、この組成物を医療用チューブに適用できることが記載されている。また、特許文献2には、用いる水添ブロック共重合体のMFR(ISO 1133)は、0.1~12g/10分であり、最も好ましくは1.0~5g/10分であると記載されている。
【0007】
特許文献2では、透明性をヘーズで評価しているが、医療用チューブとしての透明性は、ヘーズのみの評価では十分ではなく、表面粗さが高いことによるチューブ表面での光の乱反射で、見掛けの透明性が低下する場合もあることから、透明性については表面粗さで評価することも重要である。
【0008】
また、耐キンク性についても、特許文献1,2の評価方法ではなく、後掲の実施例の項に記載の引張試験機を用いた方法で評価するのが、医療用チューブとしての耐キンク性の評価には適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-247895号公報
【文献】特開2016-145303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者による検討の結果、特許文献1,2に記載の組成物では、いずれも表面粗さで評価した透明性についても引張試験機を用いて評価した耐キンクについても、十分な結果が得られないことが判明した。
これは、特許文献1,2に記載の組成物では、用いた水添ブロック共重合体のMFRが低く、押出成形時に表面荒れが発生してしまうために、見掛けの透明性が低下し、また、表面荒れを起点とした屈曲時のキンク発生によると考えられる。
【0011】
本発明は上記従来の医療用チューブ用熱可塑性エラストマー組成物の課題を解決し、透明性と耐キンク性に優れた医療用チューブを成形することができる熱可塑性エラストマー組成物と、この熱可塑性エラストマー組成物よりなる押出成形体及び医療用チューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ね、熱可塑性エラストマー組成物に含まれる水添ブロック共重合体として、MFRの高いものを用い、これにプロピレン系重合体を配合して用いることにより、透明性と耐キンク性に優れた医療用チューブを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0013】
[1] 水添ブロック共重合体(A)と、プロピレン系重合体(B)とを含む熱可塑性エラストマー組成物であって、前記水添ブロック共重合体(A)が、少なくとも2個の、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックPと、少なくとも1個の、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQとを有するブロック共重合体の水素添加物であり、前記水添ブロック共重合体(A)における芳香族ビニル化合物単位の合計の含有量が8~25質量%であり、且つ、前記水添ブロック共重合体(A)として、ISO 1133に準拠して230℃、荷重2.16kgにて測定されたメルトフローレート(MFR)が40~300g/10分である高MFR水添ブロック共重合体を含む、熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
[2] 前記高MFR水添ブロック共重合体の重合体ブロックPがスチレン単位を主要構成単位として含有し、重合体ブロックQがブタジエン単位を主要構成単位として含有し、且つ、該ブタジエン単位における1,2-結合の割合が60質量%以上である[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[3] 前記水添ブロック共重合体(A)として、ISO 1133に準拠して230℃、荷重2.16kgにて測定されたメルトフローレート(MFR)が0.5~39g/10分である低MFR水添ブロック共重合体を更に含む[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[4] 前記高MFR水添ブロック共重合体100質量部に対する前記低MFR水添ブロック共重合体の含有量が10~500質量部である[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[5] 前記水添ブロック共重合体(A)と前記プロピレン系重合体(B)との合計100質量部に対し、前記水添ブロック共重合体(A)の含有量が30~95質量部であり、プロピレン系重合体(B)の含有量が5~70質量部である[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0018】
[6] 前記水添ブロック共重合体(A)に含まれる共役ジエン化合物単位のうち80モル%以上が水素添加されている[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0019】
[7] 医療用チューブの成形材料である、[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0020】
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の押出成形体。
【0021】
[9] チューブ状である[8]に記載の押出成形体。
【0022】
[10] [1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物よりなる医療用チューブ。
【発明の効果】
【0023】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物によれば、透明性と耐キンク性に優れた押出成形体及び医療用チューブが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、“重量%”と“質量%”、“重量部”と“質量部”とは、それぞれ同義である。
【0025】
本発明において、メルトフローレート(MFR)及び曲げ弾性率は、以下のようにして測定された値である。
【0026】
<MFR>
水添ブロック共重合体(A)のMFRは、ISO 1133に準拠して、温度230℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定される。
プロピレン系重合体(B)のMFRは、JIS K7210:1999年に準拠して、温度230℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定される。
【0027】
<曲げ弾性率>
プロピレン系重合体(B)の曲げ弾性率は、JIS K7171:2008年に準拠して測定される。
【0028】
また、本発明において、重合体又は重合体ブロックにおける「単位」とは、原料化合物が重合した結果、得られる重合体に形成される当該原料化合物由来の構成単位をさす。例えば、芳香族ビニル化合物単位とは、芳香族ビニル化合物が重合した結果生じる、芳香族ビニル化合物1個当たりの単位であり、共役ジエン化合物単位とは、共役ジエン化合物が重合した結果生じる、共役ジエン化合物1個当たりの単位である。
【0029】
〔熱可塑性エラストマー組成物〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、水添ブロック共重合体(A)と、プロピレン系重合体(B)とを含む熱可塑性エラストマー組成物であって、該水添ブロック共重合体(A)が、少なくとも2個の、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックPと、少なくとも1個の、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQと、を有するブロック共重合体の水素添加物であって、前記水添ブロック共重合体(A)における芳香族ビニル化合物単位の合計の含有量が8~25質量%であり、かつ該水添ブロック共重合体(A)として、ISO 1133に準拠して230℃、荷重2.16kgにて測定されたメルトフローレート(MFR)が40~300g/10分である高MFR水添ブロック共重合体を含む。また、好ましくはこの高MFR水添ブロック共重合体と、ISO 1133に準拠して230℃、荷重2.16kgにて測定されたメルトフローレート(MFR)が0.5~39g/10分である低MFR水添ブロック共重合体とを更に含むことを特徴とする。
【0030】
[メカニズム]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、水添ブロック共重合体(A)として、MFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)が40~300g/10分の高MFR水添ブロック共重合体を含むことにより、押出成形時の樹脂の流動が安定するため、押出成形品表面を平滑にする効果がある。また、この高MFR水添ブロック共重合体と共に、MFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)が0.5~39g/10分の低MFR水添ブロック共重合体を含むことにより、押出成形品の賦形性を向上させることが可能である。
更に、高MFR水添ブロック共重合体を含み、好ましくは低MFR水添ブロック共重合体を更に含む水添ブロック共重合体(A)と共に、プロピレン系重合体(B)を含むことにより、成形品の透明性を維持しながら、押出成形時の賦形性の付与、ならびに医療用チューブの滅菌前後で形状や表面状態・ベタツキ等が変化しない耐滅菌性を付与することが可能である。
このようなことから、本発明の熱可塑性エラストマー組成物によれば、透明性及び耐キンク性に優れた医療用チューブを成形することができる。
【0031】
[水添ブロック共重合体(A)]
本発明で用いる水添ブロック共重合体(A)(以下「成分(A)」と称す場合がある。)は、少なくとも2個の、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックP(以下、単に「ブロックP」と称す場合がある。)、及び、少なくとも1個の、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQ(以下、単に「ブロックQ」と称す場合がある。)を有する。すなわち、水添ブロック共重合体(A)は、少なくとも2個のブロックPと少なくとも1個のブロックQを有するブロック共重合体が水素添加された水添ブロック共重合体である。
【0032】
ここで、「主体とする」とは、対象の単量体単位を対象の重合体ブロック中に、50モル%以上含むことをいう。
【0033】
ブロックPを構成する芳香族ビニル化合物としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンが好ましく用いられる。特に好ましくはスチレンである。
ブロックPは、1種の芳香族ビニル化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の芳香族ビニル化合物単位から構成されていてもよい。また、ブロックPには、ビニル芳香族化合物単位以外の単量体単位が含まれていてもよい。
【0034】
ブロックQを構成する共役ジエン化合物とは、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、以下に限定されないが、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく用いられる。特に好ましくは1,3-ブタジエンである。ブロックQは、1種の共役ジエン化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の共役ジエン化合物単位から構成されていてもよい。また、ブロックQには、共役ジエン化合物単位以外の単量体単位が含まれていてもよい。
【0035】
ブロックPの少なくとも2個と、ブロックQを少なくとも1個有する水添前のブロック重合体は、直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体である場合が好ましい。
P-(Q-P)m (1)
(P-Q)n (2)
(式中PはブロックPを、QはブロックQをそれぞれ表し、mは1~5の整数を表し、nは2~5の整数を表す。また、ブロックP、ブロックQがそれぞれ複数存在する場合には、それらの化合物単位はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序-無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
【0036】
本発明で用いる水添ブロック共重合体(A)は、組成物のゴム弾性および成形品の耐キンク性の観点から、式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物がより好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物が更に好ましく、mが1である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物が最も好ましい。
【0037】
また、水添ブロック共重合体(A)中の、全芳香族ビニル化合物単位の含有量(芳香族ビニル化合物単位の合計の含有量)は、8~25質量%であるが、9~21質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがより好ましく、10~19質量%であることが特に好ましい。水添ブロック共重合体(A)における全芳香族ビニル化合物単位の含有量は、得られる熱可塑性エラストマー組成物及びそれを用いた押出成形体、医療用チューブの低べたつき性及び引裂き強さを保持する必要があるため、8質量%以上である。一方、得られる熱可塑性エラストマー組成物及びそれを用いた押出成形体、医療用チューブの柔軟性、透明性、耐キンク性の観点、とりわけ透明性については、25質量%を超えると本発明の耐キンク性と透明性の両立という効果が発現しないことから、25質量%以下としなければならない。
【0038】
水添ブロック共重合体(A)中の、ブロックPの含有量(ブロックPの合計量)は、得られる熱可塑性エラストマー組成物及びそれを用いた押出成形体、医療用チューブの柔軟性、透明性、低べたつき性、歪回復性の観点から8~25質量%であることが好ましく、9~20質量%であることがより好ましく、10~18質量%であることがさらに好ましい。また、水添ブロック共重合体(A)中の、ブロックQの含有量(重合体ブロックQの合計量)は75~92質量%であることが好ましく、80~91質量%であることがより好ましく、82~90質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明で用いる水添ブロック共重合体(A)は、水添ブロック共重合体(A)中の全共役ジエン化合物単位の80モル%以上が水素添加されていることが好ましい。
水添ブロック共重合体(A)に含まれる全共役ジエン化合物単位の水素添加率(以下、この水素添加率を単に「水素添加率」と称す場合がある。)、すなわち共役ジエン化合物単位の炭素-炭素二重結合の水素添加率は80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが更に好ましい。
水素添加率が80モル%以上の場合は、プロピレン系共重体(B)との溶解パラメータ値が近づき、分散が良好になるため、得られる熱可塑性エラストマー組成物及びそれを用いた押出成形体、医療用チューブの柔軟性、透明性、低べたつき性、耐キンク性、歪回復性が向上する傾向にある。この水素添加率は、プロトン核磁気共鳴(H1-NMR)法により測定できる。
なお、本明細書中、共役ジエン化合物単位は、水添前後に係らず「共役ジエン化合物単位」と称する。
【0040】
水添ブロック共重合体(A)の水素添加前のブロック共重合体に含まれる全共役ジエン化合物単位中の1,2-結合量(以下「ビニル結合量」と称す場合がある。)は、得られる熱可塑性エラストマー組成物及びそれを用いた押出成形体、医療用チューブの柔軟性、透明性、耐キンク性、歪回復性の観点から60質量%以上であることが好ましく、63質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることが更に好ましい。生産性の観点から、ビニル結合量の上限値としては95質量%以下であり、93質量%以下がより好ましい。
とりわけ、水添ブロック共重合体(A)としては、上記ビニル結合量が70~93質量%であり、かつ、水添ブロック共重合体(A)に含まれる全共役ジエン化合物単位の90モル%以上が水素添加されていること、即ち、水素添加率90モル%以上であることが好ましい。
【0041】
ここで、ビニル結合量とは、水添前の共役ジエン化合物の1,2-結合及び1,4-結合の結合様式で組み込まれているうち、1,2-結合で組み込まれているものの割合とする。水素添加前に含まれる全共役ジエン化合物単位中のビニル結合量は、プロトン核磁気共鳴(H1-NMR)法により測定できる。
【0042】
本発明における成分(A)の製造方法は、上述の構造と物性が得られる方法であればどのような方法でもよく、特に限定されない。水素添加前のブロック共重合体は、例えば、特公昭40-23798号公報に記載された方法によりリチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行うことによって得ることができる。また、ブロック共重合体の水素添加は、例えば、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特開昭59-133203号公報及び特開昭60―79005号公報などに記載された方法により、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行うことができる。
【0043】
本発明においては、成分(A)として、上述のような水添ブロック共重合体のうち、MFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)が40~300g/10分の高MFR水添ブロック共重合体を含み、好ましくはこの高MFR水添ブロック共重合体と、MFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)が0.5~39g/10分の低MFR水添ブロック共重合体とを併用することを特徴とする。
【0044】
高MFR水添ブロック共重合体のMFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)は、前述の高MFR水添ブロック共重合体に基づく効果、更には低MFR水添ブロック共重合体との併用による効果をより有効に得る観点から、50~280g/10分であることが好ましく、80~250g/10分であることがより好ましい。
この高MFR水添ブロック共重合体は、特に、重合体ブロックPがスチレン単位を主要構成単位として含有し、重合体ブロックQがブタジエン単位を主要構成単位として含有し、該ブタジエン単位における1,2-結合の割合(ビニル結合量)が60質量%以上であることが好ましい。
【0045】
また、低MFR水添ブロック共重合体のMFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)は、前述の低MFR水添ブロック共重合体に基づく効果、更には高MFR水添ブロック共重合体との併用による効果をより有効に得る観点から、0.5~39g/10分であることがより好ましく、更に好ましくは、1.5~35g/10分であり、更により好ましくは、2.0~30g/10分である。また、高MFR水添ブロック共重合体と低MFR水添ブロック共重合体のMFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)の差は15~250g/10分であることが好ましく、より好ましくは、30~240g/10分であり、更により好ましくは、50~220g/10分である。
【0046】
なお、水添ブロック共重合体(A)のMFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)は、水添ブロック共重合体の製造において、単量体モノマーの添加量、重合時温度、重合時間等の諸条件を適切に設定して重合体の分子量を制御することにより制御することができる。
【0047】
上記の高MFR水添ブロック共重合体と低MFR水添ブロック共重合体とは、高MFR水添ブロック共重合体100質量部に対する低MFR水添ブロック共重合体の割合が10~500質量部、特に30~400質量部、とりわけ50~350質量部となるように用いることが好ましい。高MFR水添ブロック共重合体に対する低MFR水添ブロック共重合体の含有割合が上記範囲内であることにより、高MFR水添ブロック共重合体と低MFR水添ブロック共重合体とを併用することによる本発明の効果をより一層確実に得ることができる。
【0048】
なお、高MFR水添ブロック共重合体及び低MFR水添ブロック共重合体は、それぞれ1種ずつ用いてもよく、それぞれ、MFRや共重合成分、水素添加率等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
このような高MFR水添ブロック共重合体、低MFR水添ブロック共重合体としては、市販品を用いることができ、例えば、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)」シリーズや、クラレ社製「ハイブラー(登録商標)」シリーズ、旭化成社製「タフテック(登録商標)」シリーズから該当品を選択して使用することができる。
【0050】
[プロピレン系重合体(B)]
本発明で用いるプロピレン系重合体(B)(以下「成分(B)」と称す場合がある。)としては、プロピレン単位を主成分としてプロピレン系重合体(B)を構成する単量体単位中に50質量%以上含有するものであればよく、プロピレンの単独重合体でも共重合体でもよいが、プロピレンとプロピレン以外の単量体を共重合したもので、プロピレン以外の単量体単位がプロピレン単位連鎖中にランダムに取り込まれ、実質的にプロピレン以外の単量体単位が連鎖しないプロピレン系ランダム共重合体が好ましい。
【0051】
プロピレン系ランダム共重合体としては、プロピレン単位の含有量が98質量%未満のものが好ましく、プロピレン系重合体(B)の好適な例としては、プロピレンとエチレンのランダム共重合体又はプロピレンと炭素数4~20のα-オレフィンのランダム共重合体などが挙げられる。プロピレン系ランダム共重合体としてプロピレンとエチレンのランダム共重合体又はプロピレンと炭素数4~20のα-オレフィンのランダム共重合体を用いる場合、柔軟性、透明性、耐衝撃性、耐熱性及び耐キンク性がより良好となる傾向にある。上記α-オレフィンとしては、以下に限定されないが、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。好ましくは、炭素数4~8のα-オレフィンであり、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンが挙げられる。エチレンやα-オレフィンは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
上記プロピレン系ランダム共重合体の中でも、得られる熱可塑性エラストマー組成物及びそれを用いた押出成形体、医療用チューブの柔軟性、透明性、耐衝撃性、耐熱性、耐キンク性の観点から、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体及びプロピレン・エチレン・1-ブテン三元ランダム共重合体がより好ましく、特にプロピレン・エチレンランダム共重合体を用いることが好ましい。
【0053】
柔軟性、透明性、低べたつき性、耐衝撃性、耐熱性、耐キンク性の観点から、成分(B)のプロピレン系ランダム共重合体としては、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4~12のα-オレフィンとのランダム共重合体であり、プロピレン系重合体(B)中の、エチレン及び/又はα-オレフィン単位の含有量が2~40質量%で、プロピレン単位の含有量が60~98質量%のものが好ましい。上記同様の観点から、エチレン及び/又はα-オレフィン単位の含有量は2~30質量%がより好ましく、2.5~25質量%が更に好ましく、3~20質量%がより更に好ましい。また、プロピレン単位の含有量は70~98質量%がより好ましく、75~97.5質量%が更に好ましく、80~97質量%がより更に好ましい。
【0054】
プロピレン系重合体(B)中のプロピレン単位の含有量、エチレン単位の含有量、α-オレフィン単位の含有量は、カーボン核磁気共鳴(C13-NMR)法より測定できる。
【0055】
プロピレン系重合体(B)のMFR(JIS K7210:1999年(230℃、荷重2.16kg)は、得られる熱可塑性エラストマー組成物の加工性の観点から、0.1~100g/10分が好ましく、0.5~50g/10分がより好ましく、0.8~40g/10分が更に好ましく、1~30g/10分が特に好ましい。
【0056】
プロピレン系重合体(B)を製造するに際して使用される触媒については特に限定されないが、例えば、立体規則性触媒を使用する重合法が好ましい。立体規則性触媒としては、以下に限定されないが、例えば、チーグラー触媒やメタロセン触媒などが挙げられる。これら触媒の中でも、得られる熱可塑性エラストマー組成物及び押出成形体、医療用チューブの溶出性、衛生性の観点から、メタロセン触媒が好ましい。
【0057】
チーグラー触媒としては、以下に限定されないが、例えば、三塩化チタン、四塩化チタン、トリクロロエトキシチタン等のハロゲン化チタン化合物、前記ハロゲン化チタン化合物とハロゲン化マグネシウムに代表されるマグネシウム化合物との接触物等の遷移金属成分とアルキルアルミニウム化合物又はそれらのハロゲン化物、水素化物、アルコキシド等の有機金属成分との2成分系触媒、更にそれらの成分に窒素、炭素、リン、硫黄、酸素、ケイ素等を含む電子供与性化合物を加えた3成分系触媒が挙げられる。
【0058】
メタロセン触媒としては、以下に限定されないが、例えば、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(いわゆるメタロセン化合物)と、メタロセン化合物と反応して安定なイオン状態に活性化しうる助触媒と、必要により、有機アルミニウム化合物とからなる触媒であり、公知の触媒はいずれも使用できる。メタロセン化合物は、好ましくはプロピレンの立体規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物であり、より好ましくはプロピレンのアイソ規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物である。
【0059】
プロピレン系重合体(B)の製造方法としては、例えば、上記触媒の存在下に、不活性溶媒を用いたスラリー法、溶液法、実質的に溶媒を用いない気相法、あるいは重合モノマーを溶媒とするバルク重合法等が挙げられる。例えば、スラリー重合法の場合には、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素又は液状モノマー中で行うことができる。重合温度は、通常-80~150℃であり、好ましくは40~120℃である。重合圧力は、1~60気圧が好ましく、また得られるプロピレン系重合体(B)の分子量の調節は、水素又は他の公知の分子量調整剤で行うことができる。重合は連続式又はバッチ式反応で行い、その条件は通常用いられている条件でよい。さらに重合反応は一段で行ってもよく、多段で行ってもよい。
【0060】
プロピレン系重合体(B)は1種のみを用いてもよく、共重合組成や物性等の異なる2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0061】
成分(B)のプロピレン系ランダム共重合体としては、市販品を用いることができ、例えば、Lotte Chemical社製「RANPLEN」や、日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)PP」「ウィンテック(登録商標)」「ウェルネクス(登録商標)」シリーズなどから該当品を選択して使用することができる。
【0062】
[成分(A)と成分(B)の割合]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)の水添ブロック共重合体(A)と成分(B)のプロピレン系重合体(B)との合計100質量部中に、成分(A)を30~95質量部、成分(B)を5~70質量部含むことが好ましい。得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度、耐熱性、押出成形時の賦形性の観点から、成分(A)の含有量は上記範囲の上限以下であり、成分(B)の含有量は上記範囲の下限以上であることが好ましい。一方、得られる熱可塑性エラストマー組成物の透明性、耐滅菌性、チューブ成形品の柔軟性、耐キンク性の観点から、成分(A)の含有量は上記範囲の下限以上であり、成分(B)の含有量は上記範囲の上限以下であることが好ましい。要求特性をより一層良好なものとするために、成分(A)と成分(B)の合計100質量部中の成分(A)の含有量が32~92質量部であり、成分(B)の含有量が8~68質量部であることがより好ましく、成分(A)の含有量が35~90質量部であり、成分(B)の含有量が10~65質量部であることがさらに好ましい。
【0063】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記の成分(A)及び成分(B)以外に、必要に応じて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、特に限定されず、例えば、難燃剤、安定剤、着色剤、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、分散剤、流れ増強剤、ステアリン酸金属塩やアミドといった離型剤、シリコーンオイル、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤、銅害防止剤、架橋剤、核剤、ペレットのブロッキング防止剤などの樹脂用添加剤等が挙げられる。その他の成分は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して、通常1質量部以下の範囲で、その必要量が添加配合される。
【0064】
[熱可塑性エラストマー組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、水添ブロック共重合体(A)、プロピレン系重合体(B)及び必要に応じて加えられる他の成分を、その各成分の組成比に応じてドライブレンドする方法、通常の高分子物質の混合に供される装置によって調製する方法等によって製造することができる。その際に用いられる混合装置としては、特に限定されないが、例えば、バンバリーミキサー、ラボプラストミル、単軸押出機、二軸押出機等の混練装置が挙げられる。このうち、押出機を用いた溶融混合法により製造することが生産性、良混練性の点から好ましい。混練時の溶融温度は、適宜設定することができるが、通常130~300℃の範囲内であり、150~250℃の範囲であることが好ましい。
【0065】
〔押出成形体〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を溶融押出成形することにより、チューブ状の押出成形体(以後、チューブ状成形体、押出チューブとも称する)を得ることができる。
ただし、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、チューブ状に溶融押出成形する用途に何ら限定されず、溶融押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、プレス成形等によりシート状ないしはフィルム状成形体とする用途にも適用可能である。
【0066】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物による透明性及び耐キンク性の効果から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、チューブ状成形体の成形材料としてより有効である。
チューブ 状成形体の透明性の評価として、表面粗さ形状測定機を用いて後述する実施例に記載の条件で測定した、押出チューブの表面粗さ(算術平均粗さRa、十点平均粗さRz)の値を用いることができる。表面粗さの値が大きい場合、チューブ表面で光が乱反射されやすくなるためチューブの透明性が低くなる。
医療用チューブとして用いるには、内容物の視認性の観点から透明性が高いことが望ましく、Raが0.5以下およびRzが1以下であることが好ましい。
【0067】
チューブ状成形体の耐キンク性の評価として、引張試験機を用いて後述する実施例に記載の条件測定した、押出チューブのキンク力及びキンク半径の値を用いることができる。
医療用チューブとして用いるには、キンクさせるために必要な力が大きいこと、およびキンク径が小さいことが望ましく、キンク時の試験力が0.3N以上で、キンク径が30mm以下であることが好ましい。
【0068】
本発明のチューブ状成形体は、透明性、耐キンク性に優れ、この特性を活かして、家電用品、自動車内外装部品、日用品、レジャー用品、玩具、文具、工業用品、食品製造機器、医療用具等の幅広い用途に好適に用いることができる。
【0069】
〔医療用チューブ〕
本発明の医療用チューブは、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の溶融押出成形、射出成形等、公知の成形方法に従って製造することができる。あるいは成分(A)及び成分(B)のペレットを直接単軸押出成形機などでドライブレンドしたものをチューブ状に押出成形してもよい。
成形時の加工条件は、適宜設定することができるが、好ましくは、成形時の溶融温度は通常150~250℃の範囲内であり、170~230℃の範囲であることがより好ましい。また、その他の加工条件として、例えば成形速度やダイ及びマンドレルスの大きさ等についても、適宜好ましい条件に変更することができる。
【0070】
医療用チューブの内径、外径、長さなどに制限はなく、用途に応じて適宜設計すればよい。また、これらのチューブは単層に限らず、各種樹脂との多層構造としてもよく、多層の場合は本発明の熱可塑性エラストマー組成物を外層・内層・中間層のいずれにも好適に用いることができる。
【0071】
本発明の医療用チューブは、輸液セット用チューブ、エクステンションチューブ、薬剤投与チューブ、血液回路用チューブ、栄養チューブ、連結チューブ、翼付静脈針用チューブ、さらには、吸引用カテーテル、排液用カテーテル、経腸栄養カテーテル、胃管カテーテル、薬液投与カテーテル等としても好適に使用できる。
なお、本発明の医療用チューブを構成する本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、医療用チューブをGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)等の分析機器を使って、公知の方法で分析することによって、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成分(A)と成分(B)の種類や量、構成などを特定することができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を用いて本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0073】
[原料]
実施例及び比較例で使用した材料を以下に示す。
【0074】
(成分(A))
<高MFR水添ブロック共重合体>
A-1: クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)MD1648」(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物)〔MFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)):220g/10分、スチレン単位含有量:20質量%、ブタジエンのビニル結合量:70質量%〕
【0075】
<低MFR水添ブロック共重合体>
a-1: クラレ社製「ハイブラー(登録商標)7311F」(スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物)〔MFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)):2g/10分、スチレン単位含有量:12質量%〕
a-2: 旭化成社製「タフテック(登録商標)H1221」(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物)〔MFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)):4.5g/10分、スチレン単位含有量:12質量%、ブタジエンのビニル結合量:78質量%〕
a-3: クラレ社製「ハイブラー(登録商標)7125F」(スチレン-イソプレンブロック共重合体の水素添加物)〔MFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)):4g/10分、スチレン単位含有量:12質量%〕
a-4: クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G1643MS」(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物)〔MFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kg)):18g/10分、スチレン単位含有量:18質量%、ブタジエンのビニル結合量:70質量%〕
a-5: クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G1657MS」(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物70質量%とスチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物30質量%の混合物)〔MFR(ISO 1133(230℃、荷重5kg)):22g/10分、スチレン単位含有量:13質量%、ブタジエンのビニル結合量:30質量%〕
【0076】
(成分(B))
B-1:Lotte Chemical社製「RANPLEN SB-520Y」(プロピレン・エチレンランダム共重合体)〔MFR(JIS K7210:1999年(230℃、荷重2.16kg)):2.4g/10分、曲げ弾性率(JIS K7171:2008年):833MPa〕
B-2:日本ポリプロ社製「ウィンテック(登録商標)WMG03」(プロピレン・エチレンランダム共重合体)〔MFR(JIS K7210:1999年(230℃、荷重2.16kg)):30g/10分、曲げ弾性率(JIS K7171:2008年):1,250MPa〕
B-3:日本ポリプロ社製「ウィンテック(登録商標)WFX6MC」(プロピレン・エチレンランダム共重合体)〔MFR(JIS K7210:1999年(230℃、荷重2.16kg)):2g/10分、曲げ弾性率(JIS K7171):700MPa〕
B-4:日本ポリプロ社製「ウェルネクス(登録商標)RFG4MC」(プロピレン・エチレンランダム共重合体)〔MFR(JIS K7210:2008年(230℃、荷重2.16kg)):6g/10分、曲げ弾性率(JIS K7171):280MPa〕
B-5:サンアロマー社製「PWH00N」(プロピレン重合体)〔MFR(JIS K7210:1999年(230℃、荷重2.16kg)):1,750g/10分、曲げ弾性率(JIS K7171:2008年):1,600MPa〕
【0077】
[実施例1~5及び比較例1~7]
表-1に示す各原料を、同方向二軸押出機(池貝社製「PCM30-30-2V」、シリンダー口径:30mm)に10kg/時の速度で投入し、180~240℃の範囲で昇温させて溶融混練を行い、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットを、押出成形機(アイ・ケー・ジー社製「PMS40-28」)を用いてチューブ状に成形した。押出成形の条件は、ダイ内径:3.85mm、マンドレル外径:2.70mm、スクリュー回転数:10rpm、引取速度:3.5m/分、樹脂温度:180~210℃の範囲とした。得られた押出チューブを用いて、以下の(1)~(2)の評価を行った。これらの評価結果を表-1に示す。
【0078】
[評価方法]
熱可塑性エラストマー組成物を用いた押出チューブの評価方法は次の通りである。
【0079】
(1)透明性(表面粗さ)
表面粗さ形状測定機(東京精密社製「サーフコム480A」)を用いて押出チューブの表面粗さ(算術平均粗さRa、十点平均粗さRz)を測定した。表面粗さの値が大きい場合、チューブ表面で光が乱反射されやすくなるためチューブの透明性が低くなる。医療用チューブとして用いるには、内容物の視認性の観点から透明性が高いことが望ましく、Raが0.5以下およびRzが1以下であることが好ましい。
【0080】
(2)耐キンク性
引張試験機(島津製作所社製「オートグラフ AG-2000A」)を用いて押出チューブの耐キンク性(キンク力、キンク半径)を測定した。引張試験機に2枚の平板状の治具を平行に設置し、この治具間に、長さ16cmの押出チューブをU字型に湾曲させてテープで固定した。押出チューブは、一端側の約5cmが、一方の治具の板面に沿い、他端側の約5cmが他方の治具の板面に沿い、治具間から突出している半円弧状の部分のチューブ長さが6cmとなるように取り付けた。2枚の平板状の治具間の初期間隔は60mmに設定した。20mm/分の速度で治具を近づけながら試験力および治具間距離を測定した。チューブのキンクを確認した時点で治具の移動を止め、試験力の最大値をキンク力、試験力が最大値をとった時点での治具間間隔をキンク径とした。
医療用チューブとして用いるには、キンクさせるために必要な力が大きいこと、およびキンク径が小さいことが望ましく、キンク時の試験力が0.3N以上で、キンク径が30mm以下であることが好ましい。
【0081】
【0082】
表1より、本発明の熱可塑性エラストマー組成物によれば、透明で耐キンク性に優れた医療用チューブを提供することができることが分かる。