(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】多層積層フィルム、それを用いた輝度向上部材および偏光板
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20230307BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230307BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20230307BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B7/023
G02B5/28
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2021192678
(22)【出願日】2021-11-29
(62)【分割の表示】P 2017222643の分割
【原出願日】2017-11-20
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 智子
(72)【発明者】
【氏名】中川 大
(72)【発明者】
【氏名】渡部 誉之
(72)【発明者】
【氏名】東條 光峰
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-118160(JP,A)
【文献】特開2016-024312(JP,A)
【文献】特開2016-024313(JP,A)
【文献】特表2002-509043(JP,A)
【文献】特表2000-506084(JP,A)
【文献】特開2016-024314(JP,A)
【文献】特開2017-206012(JP,A)
【文献】特開平04-105936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G02B 5/28
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂
を70質量%以上含有する複屈折性の第1層と樹脂
を70質量%以上含有する光学的に等方性の第2層とが交互に積層した多層積層構造を有する多層積層フィルムであって、
第1層を形成する樹脂が、当該樹脂を押出成形機を用いて、下記シート化条件にて作製された未延伸シートから、下記延伸条件にて一軸延伸フィルムを作成したときに、得られた1軸延伸フィルムの延伸方向の5%伸長時応力(F5値)が370MPa以上、415MPa以下であり、
第1層を構成する上記樹脂が、ナフタレンジカルボン酸成分
及びテレフタル酸成分
を含む共重合ポリエステル樹脂であり、
テレフタル酸成分の共重合量が当該共重合ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に対して10モル%以上、16モル%以下であり、
ナフタレンジカルボン酸成分の共重合量が当該共重合ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に対して84モル%以上、90モル%以下であり、
共重合ポリエステル樹脂の固有粘度が0.55dL/g以上、0.58dL/g以下であ
り、
第2層を構成する上記樹脂が、ナフタレンジカルボン酸成分、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分及びエチレングリコールを含む共重合ポリエステル樹脂であり、
テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分の共重合量が第2層の共重合ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に対して30モル%以上、60モル%以下であり、
ナフタレンジカルボン酸成分の共重合量が第2層の共重合ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に対して40モル%以上、70モル%以下であり、
第2層の共重合ポリエステル樹脂の固有粘度が0.52dL/g以上、0.65dL/g以下である、
多層積層フィルム。
シート化条件
設定温度300℃で当該樹脂を溶融させてダイからシート状に押出し、温度70℃に設定したキャストロール上に
接地させ、シートを固化させる。
延伸条件
延伸温度:第1層を形成する樹脂のガラス転移温度Tg+25℃
延伸速度:400%/分
延伸倍率:5.0倍
【請求項2】
多層積層構造に接する厚膜層を有する、請求項1に記載の多層積層フィルム。
【請求項3】
第1層を構成する上記樹脂が配向結晶性のポリエステル樹脂である、請求項1または2に記載の多層積層フィルム。
【請求項4】
第1層と第2層との光学干渉により波長380~780nmの光を
平均反射率85%以上で反射する、請求項1~3のいずれか1項に記載の多層積層フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の多層積層フィルムを用いた輝度向上部材。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の多層積層フィルムを用いた偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率の低い層(低屈折率層)と高い層(高屈折率層)とを交互に多数積層させた多層積層フィルムは、層間の構造的な光干渉によって特定波長の光を選択的に反射または透過する光学干渉フィルムとすることができる。
【0003】
このような多層積層フィルムは、各層の膜厚を厚み方向に沿って徐々に変化させたり、異なる反射ピークを有するフィルムを貼り合わせたりすることで、幅広い波長範囲に渡って光を反射または透過することができ、金属を使用したフィルムと同等の高い反射率を得ることもでき、金属光沢フィルムや反射ミラーとして使用することもできる。さらには、このような多層積層フィルムを1方向に延伸することで、特定の偏光成分のみを反射する反射偏光フィルムとしても使用でき、液晶ディスプレイなどの輝度向上部材等に使用できることが知られている(特許文献1~4など)。
【0004】
例えば、特許文献2などに記載されているポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(以下、PENと称することがある。)を高屈折率層に用い、熱可塑性エラストマーやテレフタル酸を30mol%共重合したPENを低屈折率層に用いた多層積層フィルムの場合、1軸延伸方向の層間の屈折率差を大きくして、P偏光(1軸延伸方向を含む入射面に平行な偏光のこと)の反射率を高め、一方フィルム面内方向において前記1軸延伸方向と直交する方向の層間の屈折率差を小さくして、S偏光(1軸延伸方向を含む入射面に垂直な偏光のこと)の透過率を高めることで、一定レベルの偏光性能が発現している。
【0005】
また、このような多層積層フィルムにおいては、フィルムの厚みをハンドリング性の良い厚みとする等のために、厚膜層を有する場合がある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平04-268505号公報
【文献】特表平9-506837号公報
【文献】特表平9-506984号公報
【文献】国際公開第01/47711号パンフレット
【文献】特開2003-251675号公報
【文献】特表2012-509496号公報
【文献】特表2002-509043号公報
【文献】特開2016-24313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来検討されているような多層積層フィルムでは、層間の密着性が十分でないことがあり、例えば後加工などを行う際に応力が掛かること等が原因となって層間で剥離してしまう問題があった。なお、ここで「層間」とは、主には高屈折率層(または複屈折性の層)と低屈折率層(または等方性の層)との間のことである。また、厚膜層を有する場合は、高屈折率層(または複屈折性の層)と低屈折率層(または等方性の層)とを含む多層積層構造と、厚膜層との間で剥離してしまう問題も考えられる。このような場合は、多層積層構造と厚膜層との間、より厳密には多層積層構造の表面を形成する層と厚膜層との間のことを、層間という場合がある。
【0008】
特許文献6には、等方性の層である第2光学層に、複屈折性の層である第1光学層の複屈折熱可塑性ポリマーを共重合ブレンドして含むことで層間密着性を向上する技術が開示されている。しかしながら、特許文献6のように複屈折性の層にPENを用いたまま等方性の層の樹脂を改変するのみでは、層間密着性の向上に関し限界がある。さらに、厚膜層を設けた場合に、多層積層構造と厚膜層との間の密着性向上については、考慮がされていない。
【0009】
また、特許文献7、8では、共重合成分により化学的に密着性を向上することが検討されているが、樹脂の機械的特性からの検討は何らなされていない。
【0010】
そこで本発明の目的は、多層積層フィルムを構成する多層積層構造内における層間密着性を向上した多層積層フィルムを提供することにある。
【0011】
また、本発明の望ましい目的は、厚膜層を有する多層積層フィルムにおいて、多層積層構造と厚膜層との層間密着性を向上した多層積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、層間の剥離に関し鋭意検討した結果、多層積層構造を構成する、特に複屈折性の層を形成する樹脂の機械的な特性が層間密着性に関係していることを見出し、これに着目した。すなわち、第1層の複屈折性は、通常、延伸により付与されることが多いが、これが延伸等により内部に残留応力を有すると、等方性であり内部に殆ど残留応力を有しない第2層との間で残留応力差を生じ、かかる差が大きいと剥離が生じ易くなるというメカニズムを検討した。
【0013】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用するものである。
1.樹脂から主になる複屈折性の第1層と樹脂から主になる等方性の第2層とが交互に積層した多層積層構造を有する多層積層フィルムであって、
第1層を形成する樹脂が、当該樹脂を用いて下記条件にて一軸延伸フィルムを作成したときに、得られた1軸延伸フィルムの延伸方向の5%伸長時応力(F5値)が370MPa以上、415MPa以下である、多層積層フィルム。
延伸温度:第1層を形成する樹脂のガラス転移温度Tg+25℃
延伸速度:400%/分
延伸倍率:5.0倍
2.多層積層構造に接する厚膜層を有する、上記1に記載の多層積層フィルム。
3.第1層を構成する上記樹脂が配向結晶性のポリエステル樹脂である、上記1または2に記載の多層積層フィルム。
4.第1層を構成する上記樹脂が、ナフタレンジカルボン酸成分を主成分としてイソフタル酸成分を共重合成分として含む共重合ポリエステル樹脂である、上記1~3のいずれか1に記載の多層積層フィルム。
5.第1層を構成する上記共重合ポリエステル樹脂が、
イソフタル酸成分の共重合量が当該共重合ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に対して4モル%以上、15モル%以下であり、
固有粘度が0.50dL/g以上、0.60dL/g以下である、上記4に記載の多層積層フィルム。
6.第1層を構成する上記樹脂が、ナフタレンジカルボン酸成分を主成分としてテレフタル酸成分を共重合成分として含む共重合ポリエステル樹脂である、上記1~3のいずれか1に記載の多層積層フィルム。
7.第1層を構成する上記共重合ポリエステル樹脂が、
テレフタル酸成分の共重合量が当該共重合ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に対して10モル%以上、16モル%以下であり、
固有粘度が0.52dL/g以上、0.59dL/g以下である、上記6に記載の多層積層フィルム。
8.第1層と第2層との光学干渉により波長380~780nmの光を幅広く反射可能である、上記1~7のいずれか1に記載の多層積層フィルム。
9.上記1~8のいずれか1に記載の多層積層フィルムを用いた輝度向上部材。
10.上記1~8のいずれか1に記載の多層積層フィルムを用いた偏光板。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多層積層構造内における層間密着性を向上した多層積層フィルムを提供することができる。
【0015】
また、本発明の好ましい態様によれば、厚膜層を備える多層積層フィルムにおいて、多層積層構造と厚膜層との層間密着性を向上した多層積層フィルムを提供することができる。
【0016】
本発明によれば、例えば液晶ディスプレイの輝度向上部材や反射型の偏光板などとして用いた場合に、他の部材との貼り合せ、液晶ディスプレイへの組み立て、使用時等に加わる外力によって層間剥離が生じ難いことから、より信頼性の高い輝度向上部材や偏光板などを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の多層積層フィルムの積層構造の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の各構成について以下に詳述する。
【0019】
[多層積層フィルム]
本発明の多層積層フィルムは、樹脂から主になる第1層と樹脂から主になる第2層とが交互に積層した多層積層構造を有する。なお、ここで「主になる」とは、各層において樹脂が70質量%以上を占めることをいい、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0020】
本発明においては、第1層と第2層とによる光の干渉効果が発現するような態様とし、任意の波長領域において反射可能である態様としてもよい。この場合、通常は第1層を複屈折性とし、第2層を等方性とすることが好ましい。また、干渉効果発現には、積層数は合計で30層以上とすることが好ましい。
【0021】
このような反射特性とするために、樹脂から主になり膜厚が10~1000nmの複屈折性の第1層と、樹脂から主になり膜厚が10~1000nmの等方性の第2層とが合計30層以上で厚み方向に交互に積層した構造を有することが好ましい。また、各層を構成する樹脂については、詳細は後述するが、第1層については特定の機械特性を奏し得る樹脂であって複屈折性の層を形成し得るもの、および第2層については等方性の層を形成し得るものであれば特に制限されない。いずれも、フィルムを製造し易い観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。なお、本発明においては、縦方向、横方向、厚み方向の屈折率につき、最大と最小の差が0.1以上のものを複屈折性、0.1未満のものを等方性とする。
【0022】
さらに本発明の多層積層フィルムは、前記多層積層構造に接した厚膜層を有することが好ましい。多層積層構造では、各層の厚みが光学特性に影響するため、求める光学特性がある場合、むやみに各層の厚みを変更することができない。そのため、厚膜層を有することで、多層積層フィルムの全体としての厚みを厚くし、例えばハンドリング性を向上する等ができるので好ましい。
【0023】
なお、
図1に本発明の多層積層フィルムの積層構造の一例の模式図を示す。
図1においては、多層積層構造3が、厚膜層1,2と接している。
【0024】
[多層積層フィルムの構成]
本発明による層間密着性向上の効果は、複屈折性の第1層と等方性の第2層との多層積
層構造を有する多層積層フィルムであれば、用途によらず奏されるものである。
【0025】
多層積層フィルムの好ましい用途として、第1層と第2層との光学干渉を利用する用途を挙げることができる。以下、このような光学干渉を利用する用途に適した多層積層フィルムの好ましい構成について説明する。
【0026】
[第1層]
本発明における第1層は、それを形成する樹脂が、当該樹脂を用いて後述の延伸条件にて一軸延伸フィルムを作成したときに、得られた一軸延伸フィルムの延伸方向の5%伸長時応力(F5値)が370MPa以上、415MPa以下となるものである。ここで延伸条件は、延伸温度は第1層を形成する樹脂のガラス転移温度Tg+25℃とし、延伸速度は400%/分とし、延伸倍率は5.0倍とする。なお、得られる一軸延伸フィルムの厚みは、製膜のし易さやF5値の測定のし易さを考慮して、50μm程度とするのが良い。
【0027】
F5値が上記範囲であることにより、第1層が複屈折性でありながら、第1層内の残留応力が適度となり、第2層内の残留応力とのバランスが取れ、第1層と第2層との層間密着性が向上する。すなわち、第1層の複屈折性は、通常、延伸等により付与されるが、これが延伸等により内部に残留応力を有すると、等方性であり内部に殆ど残留応力を有しない第2層との間で残留応力差を生じ、かかる差が大きいと剥離が生じ易くなるというメカニズムが推定される。本発明においては、第1層と第2層との成分が共通するという化学的性質の共通化による密着性向上よりも、第1層および第2層の残留応力という機械的性質に着目し、第1層は複屈折性を、第2層は等方性を有しながら、層間の密着性を向上しようというものである。
【0028】
F5値が上限を超える場合は、第1層内の残留応力が高くなるために、第1層と第2層との残留応力バランスが取れなくなり、それにより層間密着性が低下する。かかる観点から、上記F5値は、410MPa以下が好ましく、408MPa以下がより好ましく、405MPa以下が更に好ましい。F5値は、低すぎると、第1層の延伸時にかかる応力が低くなることにより、製膜が不安定となる傾向にあったり、所望の複屈折性が得られ難くなる傾向にある。そのため、F5値は、好ましくは380MPa以上であり、390MPa以上であることがより好ましく、395MPa以上であることが更に好ましい。
【0029】
F5値は、樹脂のヤング率を高くする方向で高くなり、ヤング率を低くする方向で低くなる傾向にある。例えば、樹脂が配向性や結晶性の樹脂である場合は、配向や結晶が生じ難くなる方向が、ヤング率を小さくする方向であり、F5値を低くする方向である。分子量を高くしたり、共重合をする等により分子の直線性を低下させたりすることが考えられる。特に、配向性や結晶性は分子量の影響を受けるため、共重合の成分や量だけでは定まらない点が重要である。より具体的には、後述するようなポリエステルを用いることが挙げられ、特に好ましい。
【0030】
本発明の多層積層フィルムを構成する第1層は、複屈折性の層である。この場合これを構成する樹脂は、複屈折性の層を形成し得るものである。従い、第1層を構成する樹脂としては配向結晶性の樹脂が好ましく、かかる配向結晶性の樹脂として特にポリエステル樹脂が好ましい。該ポリエステル樹脂は、それを構成する繰り返し単位を基準として好ましくはエチレンテレフタレート単位および/またはエチレンイソフタレート単位および/またはエチレンナフタレート単位を、より好ましくはエチレンナフタレート単位を主成分として、すなわち84モル%以上の範囲で含有することが、より高い屈折率の層とし易く、それにより第2層との屈折率差を大きくしやすいことから好ましい。ここで樹脂の併用の場合は、合計の含有量である。
【0031】
(第1層のポリエステル)
上述のように、本発明においては、屈折率の観点から第1層のポリエステルとしてはジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸成分を主成分として含有するものが好ましい。主成分としての含有量は、該ポリエステルを構成するジカルボン酸成分を基準として84モル%以上であることが好ましい。かかるナフタレンジカルボン酸成分としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、2,7-ナフタレンジカルボン酸成分、またはこれらの組み合わせから誘導される成分、もしくはそれらの誘導体成分が挙げられ、特に2,6-ナフタレンジカルボン酸成分もしくはその誘導体成分が好ましく例示される。ナフタレンジカルボン酸成分の含有量は、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは88モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは91モル%以上である。
【0032】
本発明においては、第1層を形成する樹脂が上述のF5値を満たすものであり、かかるF5値は、上述のように共重合の態様および分子量の態様で満たすことができる。共重合成分としては、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分等の酸成分が挙げられる。共重合量としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸成分を基準として16モル%以下の範囲とすることができ、15モル%以下、12モル%以下、10モル%以下、9モル%以下の範囲とすることができる。また、4モル%以上、5モル%以上、6モル%以上、7モル%以上の範囲とすることができる。
【0033】
また分子量は固有粘度として表すことができ、固有粘度(o-クロロフェノール溶液、35℃での値。以下同様。)としては、0.5dL/g以上、0.60dL/g以下の範囲とすることができる。これらから、共重合の成分としては化学構造上屈曲しているものの方が結晶性および配向性が低くなる傾向にあること、ガラス転移温度が低くなる傾向にあること、それにより常温でのヤング率が低くなる傾向にあること、共重合量の多い方が結晶性および配向性が低くなる傾向にあること、ガラス転移温度が低くなる傾向にあること、それにより常温でのヤング率が低くなる傾向にあること、分子量が高い方が結晶性および配向性が低くなる傾向にあること、ヤング率が高くなる傾向にあること等を踏まえ、複屈折性を奏しながら、規定のF5値となるようにすればよい。
【0034】
以下、本発明において特に好ましい態様である、共重合成分がイソフタル酸成分である場合と、テレフタル酸成分である場合とについて、説明する。
【0035】
(第1層のポリエステル:イソフタル酸成分共重合ポリエステル樹脂)
本発明における第1層を構成する樹脂の好ましい態様として、ナフタレンジカルボン酸成分を主成分として、イソフタル酸成分を共重合成分として含む共重合ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0036】
かかる共重合ポリエステル樹脂は、複屈折性を奏しながらF5値に係る規定を満たすものであれば限定されないが、これらを満たす具体的な態様として、イソフタル酸成分の共重合量が、当該共重合ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に対して4モル%以上、15モル%以下であり、且つ、固有粘度が0.50dL/g以上、0.60dL/g以下である態様が挙げられる。このとき、主成分としてナフタレンジカルボン酸成分は、85モル%以上、96モル%以下となる。
【0037】
共重合量は、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは6モル%以上、特に好ましくは7モル%以上であり、また、より好ましくは12モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下、特に好ましくは9モル%以下である。この時主成分としてのナフタレンジカルボン酸成分は、95モル%以下、94モル%以下、93モル%以下、また、88モル%以上、90モル%以上、91モル%以上となる。
【0038】
固有粘度は、より好ましくは0.51dL/g以上、さらに好ましくは0.53dL/g以上、特に好ましくは0.55dL/g以上であり、また、より好ましくは0.59dL/g以下、さらに好ましくは0.58dL/g以下である。
【0039】
上記の共重合量および固有粘度の範囲外であると、基本的には、複屈折性でありながら本発明におけるF5値に係る規定を満たすもの、とはならない。
【0040】
本発明においては、第1層の共重合成分としてのイソフタル酸成分は、化学構造上適度に屈曲している共重合ポリエステル樹脂が得られることから、F5値に係る規定をより満たし易く、同時に複屈折性も奏し易く、後述のテレフタル酸成分よりも特に好ましい共重合成分である。
【0041】
(第1層のポリエステル:テレフタル酸成分共重合ポリエステル樹脂)
本発明における第1層を構成する樹脂の好ましい態様として、ナフタレンジカルボン酸成分を主成分として、テレフタル酸成分を共重合成分として含む共重合ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0042】
かかる共重合ポリエステル樹脂は、複屈折性を奏しながらF5値に係る規定を満たすものであれば限定されないが、これらを満たす具体的な態様として、テレフタル酸成分の共重合量が、当該共重合ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に対して10モル%以上、16モル%以下であり、且つ、固有粘度が0.52dL/g以上、0.59dL/g以下である態様が挙げられる。このとき、主成分としてナフタレンジカルボン酸成分は、84モル%以上、90モル%以下となる。
【0043】
共重合量は、より好ましくは11モル%以上、さらに好ましくは12モル%以上、特に好ましくは13モル%以上であり、また、より好ましくは15モル%以下である。この時主成分としてのナフタレンジカルボン酸成分は、89モル%以下、88モル%以下、87モル%以下、また、85モル%以上となる。
【0044】
固有粘度は、より好ましくは0.53dL/g以上、さらに好ましくは0.54dL/g以上、特に好ましくは0.55dL/g以上であり、また、より好ましくは0.58dL/g以下、さらに好ましくは0.57dL/g以下である。
【0045】
上記の共重合量および固有粘度の範囲外であると、基本的には、複屈折性でありながら本発明におけるF5値に係る規定を満たすもの、とはならない。
【0046】
(第1層のポリエステル:ジオール成分)
第1層の好ましいポリエステルを構成するジオール成分としては、エチレングリコール成分が用いられ、その含有量は該ポリエステルを構成するシオール成分を基準として80モル%以上、100モル%以下であることが好ましく、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上であり、また、より好ましくは98モル%以下である。該ジオール成分の割合が下限値に満たない場合は、前述の1軸配向性が損なわれることがある。
【0047】
第1層のポリエステルを構成するジオール成分として、エチレングリコール成分以外に、さらに本発明の目的を損なわない範囲でトリメチレングリコール成分、テトラメチレングリコール成分、シクロヘキサンジメタノール成分、ジエチレングリコール成分などを含有してもよい。グリコール成分の共重合によるF5値への影響についても、上述の酸成分の共重合による影響と同様に考慮すればよい。
【0048】
(屈折率特性)
液晶ディスプレイ等に用いられる輝度向上部材や反射型偏光板として使用する場合、第1層が第2層よりも相対的に高屈折率特性を有する層であり、第2層が第1層よりも相対的に低屈折率特性を有する層であり、また1軸方向に延伸することが好ましい。なお、この場合、本発明においては、1軸延伸方向をTD方向、フィルム面内においてTD方向と直交する方向をMD方向(非延伸方向ともいう。)、フィルム面に対して垂直な方向をZ方向(厚み方向ともいう。)と称する場合がある。
【0049】
第1層に、上記のようにナフタレンジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステルを用いることで、TD方向に高屈折率を示すと同時に1軸配向性の高い複屈折率特性を実現でき、TD方向について第2層との屈折率差を大きくすることができ、高偏光度に寄与する。一方、ナフタレンジカルボン酸成分の含有量が下限値に満たないと、非晶性の特性が大きくなり、TD方向の屈折率nTDと、MD方向の屈折率nMDとの差異が小さくなる傾向にあるため、多層積層フィルムにおいて、フィルム面を反射面とし、1軸延伸方向(TD方向)を含む入射面に対して平行な偏光成分と定義される本発明におけるP偏光成分について十分な反射性能が得難くなる傾向にある。なお、本発明におけるS偏光成分とは、多層積層フィルムにおいて、フィルム面を反射面とし、1軸延伸方向(TD方向)を含む入射面に対して垂直な偏光成分と定義される。
【0050】
(第1層のポリエステルの特性)
第1層に用いられるポリエステルの融点は、好ましくは230~280℃の範囲、より好ましくは240~270℃の範囲、さらに好ましくは245~260℃の範囲である。融点は示差走査熱量計(DSC)で測定して求めることができる。該ポリエステルの融点が上限値を越えると、溶融押出して成形する際に流動性が劣る傾向にあり、吐出などが不均一化しやすくなることがある。一方、融点が下限値に満たないと、製膜性は優れるものの、輝度向上部材や反射型偏光板として使用される際の屈折率特性が発現し難い傾向にある。
【0051】
第1層に用いられるポリエステルのガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは105℃以上、さらに好ましくは108℃以上であり、また、好ましくは120℃以下、より好ましくは118℃以下、さらに好ましくは115℃以下である。Tgがこの範囲にあると、耐熱性および寸法安定性に優れ、また輝度向上部材や反射型偏光板として使用される際の屈折率特性を発現し易い。
【0052】
かかる融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物であるジエチレングリコールの制御などによって調整できる。
【0053】
[第2層]
本発明の多層積層フィルムを構成する第2層は、等方性の層である。この場合これを構成する樹脂は、等方性の層を形成し得るものである。従い、第2層を構成する樹脂としては非晶性の樹脂が好ましい。中でも非晶性であるポリエステル樹脂が好ましい。なおここで「非晶性」とは、僅かな結晶性を有することを排除するものではなく、本発明の多層積層フィルムが目的とする機能を奏する程度に第2層を等方性にできればよい。
【0054】
(第2層の共重合ポリエステル)
第2層を構成する樹脂としては、共重合ポリエステルが好ましく、特に、ナフタレンジカルボン酸成分、イソフタル酸成分、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分および、又はトリメチレングリコール成分、シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分等を共重合成分として含む共重合ポリエステルを用いることが好ましい。な
お、かかるナフタレンジカルボン酸成分としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、2,7-ナフタレンジカルボン酸成分、またはこれらの組み合わせから誘導される成分、もしくはそれらの誘導体成分が挙げられ、特に2,6-ナフタレンジカルボン酸成分もしくはその誘導体成分が好ましく例示される。なお、本発明における第2層の共重合成分とは、ポリエステルを構成するいずれかの成分であることを意味しており、従たる成分(共重合量として全酸成分または全ジオール成分に対して50モル%未満)としての共重合成分に限定されず、主たる成分(共重合量として全酸成分または全ジオール成分に対して50モル%以上)も含めて用いられる。
【0055】
本発明においては、第2層の樹脂として、酸成分がテレフタル酸成分を主たる成分とする共重合ポリエステルを用いることが好ましい。特に、第2層の樹脂として、テレフタル酸成分を主たる成分とし、ナフタレンジカルボン酸成分を従たる成分として含む共重合ポリエステルを用いることが好ましい。これにより、第1層でのポリエステルの態様に合わせて、第2層を等方性とし易い。また、化学的観点からの密着性向上効果を高める傾向にある。
【0056】
第2層の共重合ポリエステルは、ジオール成分がエチレングリコール成分を主たる成分とする共重合ポリエステルを用いることが好ましい。これによりフィルム製膜性が向上する傾向にある。また、トリメチレングリコール成分を従たる成分として含有することもでき、これにより、層間の密着性をより高くできることが期待される。
【0057】
ナフタレンジカルボン酸成分、好ましくは2,6-ナフタレンジカルボン酸成分は、第2層の共重合ポリエステルを構成する全カルボン酸成分の30モル%以上、100モル%以下であることが好ましく、より好ましくは30モル%以上、80モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上、70モル%以下である。これにより第1層との相溶性を高くできるとの化学的観点からの密着性向上効果をより高くできる傾向にある。ナフタレンジカルボン酸成分の含有量が下限に満たないとかかる相溶性の向上効果が低下することがある。また、ナフタレンジカルボン酸成分の含有量の上限は特に制限されないが、多すぎると第1層との屈折率差を発現し難くなる傾向にある。なお、第1層との屈折率の関係を調整するために他のジカルボン酸成分を共重合させてもよい。
【0058】
イソフタル酸成分やテレフタル酸成分は各々又は両方合わせた成分として、第2層の共重合ポリエステルを構成する全カルボン酸成分の5モル%以上、70モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以上、65モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上、60モル%以下である。これにより第1層との相溶性を高くできるとの化学的観点からの密着性向上効果をより高くできる傾向にある。含有量が下限に満たないとかかる相溶性の向上効果が低下することがある。さらに、第1層に使用する共重合ポリエステルのうち、同じジカルボン酸成分を共重合させた方が、層間の相溶性の観点から密着性がより向上しやすく好ましい。なかでもイソフタル酸成分が、第2層の共重合ポリエステルを構成する全カルボン酸成分の1モル%以上、15モル%以下であることが更に好ましい。第2層の樹脂のとしてイソフタル酸成分を含む共重合ポリエステルを用いることで、イソフタル酸の化学構造上の屈曲成分が存在することで、第1層との分子レベルでアンカー効果が発生し易く、層間密着性がより向上する傾向にあり、層間剥離がより生じ難くなる傾向にあるため更に好ましい。
【0059】
エチレングリコール成分は、第2層の共重合ポリエステルを構成する全ジオール成分の50モル%以上、95モル%以下であることが好ましく、より好ましくは50モル%以上、90モル%以下、さらに好ましくは50モル%以上、85モル%以下、特に好ましくは50モル%以上、80モル%以下である。これにより第1層との屈折率差を発現し易くなる傾向にある。
【0060】
トリメチレングリコール成分は、第2層の共重合ポリエステルを構成する全ジオール成分の3モル%以上、50モル%以下であることが好ましく、さらに5モル%以上、40モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以上、40モル%以下、特に好ましくは10モル%以上、30モル%以下である。これにより第1層との層間密着性をより高くできる。また、第1層との屈折率差を発現し易くなる傾向にある。トリメチレングリコール成分の含有量が下限に満たないと層間密着性の向上効果が低くなる傾向にあり、上限を超えると所望の屈折率とガラス転移温度の樹脂とすることがし難くなる傾向にある。
【0061】
第2層のポリエステルを構成するジオール成分として、エチレングリコール成分など上述成分以外に、さらに本発明の目的を損なわない範囲でテトラメチレングリコール成分、シクロヘキサンジメタノール成分、ジエチレングリコール成分、ネオペンチルグリコール成分などを含有してもよい。
【0062】
本発明における第2層は、本発明の目的を損ねない範囲であれば、第2層の質量を基準として10質量%以下の範囲内で該共重合ポリエステル以外の熱可塑性樹脂を第2のポリマー成分として含有してもよい。
【0063】
(第2層のポリエステルの特性)
本発明において、上述する第2層の共重合ポリエステルは、80℃以上のガラス転移温度を有することが好ましく、より好ましくは85℃以上、150℃以下、さらに好ましくは88℃以上、120℃以下である。これにより耐熱性により優れる。また、第1層との屈折率差を発現し易くなる傾向にある。第2層の共重合ポリエステルのガラス転移温度が下限に満たない場合、耐熱性が十分に得られないことがあり、例えばガラス転移温度近辺での熱処理などの工程を含むときに第2層の結晶化や脆化によってヘーズが上昇し、輝度向上部材や反射型偏光板として使用される際の偏光度の低下を伴うことがある。また、第2層の共重合ポリエステルのガラス転移温度が高すぎる場合には、延伸時に第2層のポリエステルも延伸による複屈折性が生じることがあり、それに伴い延伸方向において第1層との屈折率差が小さくなり、反射性能が低下することがある。
【0064】
上述した共重合ポリエステルの中でも、80℃×1000時間の熱処理で結晶化によるヘーズ上昇を極めて優れて抑制できる点から、非晶性の共重合ポリエステルであることが好ましい。ここでいう非晶性とは、DSCにおいて昇温速度20℃/分で昇温させたときの結晶融解熱量が0.1mJ/mg未満であることを指す。
【0065】
第2層の共重合ポリエステルの具体例として、(1)ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸成分およびイソフタル酸を含み、ジオール成分としてエチレングリコール成分およびトリメチレングリコール成分を含む共重合ポリエステル、(2)ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸成分およびテレフタル酸成分を含み、ジオール成分としてエチレングリコール成分およびトリメチレングリコール成分を含む共重合ポリエステル、が挙げられる。
【0066】
第2層の共重合ポリエステルは、o-クロロフェノール溶液を用いて35℃で測定した固有粘度が0.50~0.70dl/gであることが好ましく、さらに好ましくは0.52~0.65dl/gである。第2層に用いられる共重合ポリエステルが共重合成分としてトリメチレングリコール成分を有する場合、製膜性が低下することがあり、該共重合ポリエステルの固有粘度を上述の範囲とすることで製膜性をより高めることができる。第2層として上述する共重合ポリエステルを用いる場合の固有粘度は、製膜性の観点からはより高い方が好ましいものの、上限を超える範囲では第2層のポリエステルとの溶融粘度差
が大きくなり、各層の厚みが不均一になることがある。
【0067】
[屈折率]
本発明においては、第1層と第2層のそれぞれの屈折率の態様を設計して、光学干渉効果を奏することもできる。
【0068】
例えば第1層は、一軸延伸方向(TD方向)の屈折率nTDについて、1.80~1.90の高屈折率特性を有することが好ましい。第1層におけるTD方向の屈折率がかかる範囲にある場合、第2層との屈折率差が大きくなり、反射偏光性能を発揮することができる。また、MD方向の1軸延伸後の屈折率nMDとZ方向の1軸延伸後の屈折率nZとの差は0.05以下であることが好ましい。尚、このような屈折率特性は、上述したようなポリエステル樹脂を用いて、1軸延伸を施すこと等により得ることができる。
【0069】
また第2層は、平均屈折率1.55以上、1.65以下であることが好ましく、より好ましくは1.57以上、1.64以下、さらに好ましくは1.59以上、1.63以下、特に好ましくは1.60以上、1.63以下、最も好ましくは1.60以上、1.62以下である。
【0070】
第2層についての平均屈折率は、第2層を構成する共重合ポリエステルを単独で溶融させ、ダイより押出して未延伸フィルムを作成し、1軸方向に(第2層の共重合ポリエステルのガラス転移温度)+25℃で5.0倍延伸を行って1軸延伸フィルムを作成し、得られたフィルムのTD方向、MD方向、Z方向それぞれの方向について、メトリコン製プリズムカプラを用いて波長633nmにおける屈折率を測定し、それらの平均値を平均屈折率として規定したものである。
【0071】
[厚膜層]
本発明においては、多層積層フィルムが厚膜層を有していても良い。本発明における厚膜層としては、下記に記載する最外層や中間層が挙げられる。
【0072】
本発明の多層積層フィルムは、片方または両方の表面に厚膜の最外層を有していても良い。ここで厚膜とは、光学的に厚膜であることをいう。かかる最外層は、樹脂から主になる。なお、ここで「主になる」とは、層において樹脂が70質量%以上を占めることをいい、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。また、最外層は、等方性の層であることが好ましく、製造上の容易性の観点からは第2層と同一樹脂であってもよく、上述した第2層の共重合ポリエステルから構成することができ、そのような態様が好ましい。
【0073】
本発明の多層積層フィルムは、中間層を有していてもよい。該中間層は、本発明において内部厚膜層などと称することがあるが、多層構造の内部に存在する厚膜の層を指す。本発明においては、多層積層フィルムの製造の初期段階で交互積層構成の両側に膜厚の厚い層(厚み調整層、バッファ層と称することがある。)を形成し、その後ダブリングにより積層数を増やす方法が好ましく用いられるが、その場合は、かかる膜厚の厚い層同士が2層積層されて中間層が形成されることとなり、内部に形成された厚膜の層が中間層となり、外側に形成された厚膜の層が最外層となる。
【0074】
厚みについてより具体的には、最外層は、たとえば層厚みが好ましくは1μmを超える範囲であり、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上、また、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下の厚さであることが好ましい。中間層は、たとえば層厚みが好ましくは5μm以上、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下の厚さであることが好ましい。このような最外層および/または中間層
を多層構造の一部に有する場合、偏光機能等の光学機能に影響をおよぼすことなく、第1層および第2層を構成する各層厚みを均一に調整しやすくなる。最外層や中間層は、第1層、第2層のいずれかと同じ組成、またはこれらの組成を部分的に含む組成であってもよく、層厚みが光学的に厚いため、反射特性には寄与しない。一方、透過特性には影響することがあるため、層中に粒子を含める場合は光線透過率を考慮して粒子径や粒子濃度を選択すればよい。また、最外層や中間層により、フィルムの全体厚みを厚くすることができ、例えばハンドリング性を向上できる。
【0075】
最外層および/または中間層の厚さが下限に満たない場合は、製膜時や加工工程時のハンドリング性低下が生じることがある。一方、最外層および/または中間層の厚さが上限を超える場合は、多層積層フィルム全体の厚みが厚くなりすぎ、薄型の液晶ディスプレイの反射型偏光板や輝度向上部材として用いた場合に省スペース化しにくいことがある。また、多層積層フィルムの両表層に最外層を有する場合や、多層積層フィルム内に複数の中間層を含む場合には、それぞれの最外層および/または中間層の厚みは、上記それぞれの厚み範囲の下限以上であることが好ましく、また最外層の厚みの合計および/または中間層の厚みの合計は、上記それぞれの厚み範囲の上限以下であることが好ましい。
【0076】
最外層や中間層に用いられるポリマーは、本発明の多層積層フィルムの製造方法を用いて多層構造中に存在させることができれば、第1層あるいは第2層と異なる樹脂を用いてもよいが、層間接密着性をより高くする観点より、第1層または第2層のいずれかと同じ組成か、これらの組成を部分的に含む組成であることが好ましい。
【0077】
厚膜層に用いられるポリマーが第1層と同じ組成か、この組成を部分的に含む組成である場合は、かかる厚膜層に接する多層積層構造の表面を形成する層は第1層とすることが好ましく、厚膜層と多層積層構造との層間密着性をより向上できる。厚膜層に用いられるポリマーが第2層と同じ組成か、この組成を部分的に含む組成である場合は、かかる厚膜層に接する多層積層構造の表面を形成する層は第2層とすることが好ましく、厚膜層と多層積層構造との層間密着性をより向上できる。この場合においても、上述のように、厚膜層は光学的な影響が少ない方が好ましい為、等方性であることが好ましく、従い、第2層と同じ組成であることが好ましい。そしてその場合、多層積層構造は、表面を形成する層が第2層であることが好ましい。
【0078】
最外層および中間層の形成方法は特に限定されないが、例えばダブリングを行う前の交互積層構成の両側に膜厚の厚い層(バッファ層ともいう。)を設け、それをレイヤーダブリングブロックと呼ばれる分岐ブロックを用いて交互積層方向に垂直な方向に2分割し、それらを交互積層方向に再積層することで、最外層を2層と、中間層を1層設けることができる。中間層は、分割の数を増やしたり、分割する回数を増やしたり同様の手法で3分割、4分割することによりさらに複数設けることもできる。
【0079】
[その他の層]
(塗布層)
本発明の多層積層フィルムは、少なくとも一方の表面に塗布層を有することができる。かかる塗布層としては、滑り性を付与するための易滑層や、プリズム層や拡散層等との接着性を付与するためのプライマー層などが挙げられる。塗布層は、バインダー成分を含み、滑り性を付与するためにはたとえば粒子を含有させるとよい。易接着性を付与するためには、用いるバインダー成分を、接着したい層の成分と化学的に近いものとすることが挙げられる。また、塗布層を形成するための塗布液は、環境の観点から水を溶媒とする水系塗布液であることが好ましいが、特にそのような場合等において、積層多層フィルムに対する塗布液の濡れ性を向上させる目的で、界面活性剤を含有することができる。その他、塗布層の強度を高めるために架橋剤を添加したりなど、機能剤を添加してもよい。
【0080】
[多層積層フィルムの製造方法]
本発明の多層積層フィルムの製造方法について詳述する。なお、ここで以下に示す製造方法は一例であり、本発明はこれに限定されない。また、異なる態様についても、以下を参照して得ることができる。
【0081】
本発明の多層積層フィルムは、第1層を構成するポリマーと第2層を構成するポリマーとを、多層フィードブロック装置を用いて溶融状態で交互に重ね合わせて、例えば、合計で30層以上の交互積層構成を作成し、その両面にバッファ層を設けてもよい。その後レイヤーダブリングと呼ばれる装置を用いて交互積層構成を例えば2~4分割し、交互積層構成を1ブロックとしてブロックの積層数(ダブリング数)が2~4倍になるように再度積層する方法で積層数を増やすことで得ることができる。かかる方法によると、バッファ層があった場合、多層構造の内部にバッファ層同士が2層積層された中間層と、バッファ層1層からなる最外層を両面に有する多層積層フィルムを得ることができる。
【0082】
かかる交互積層構成は、第1層と第2層の各層の厚みが所望の傾斜構造を有するように積層される。これは、たとえば、多層フィードブロック装置においてスリットの間隔や長さを変化させることで得られる。例えば、幅広い波長範囲の光の反射をするように単調増加領域を形成する部分を有するようにスリットの間隔や長さを調整すればよい。
【0083】
上述した方法で所望の積層数に積層したのち、ダイより押出し、キャスティングドラム上で冷却し、多層未延伸フィルムを得る。多層未延伸フィルムは、製膜機械軸方向(縦方向または長手方向という場合がある。)、またはそれにフィルム面内で直交する方向(横方向または幅方向という場合がある)の少なくとも1軸方向(かかる1軸方向はフィルム面に沿った方向である。)に延伸されることが好ましい。延伸温度は、第1層のポリマーのガラス転移温度(Tg)~(Tg+25)℃の範囲で行うことが好ましい。従来よりも低めの温度で延伸を行うことにより、フィルムの配向特性をより高度に制御することができる。
【0084】
延伸倍率は2.0~7.0倍で行うことが好ましく、さらに好ましくは4.5~6.5倍である。かかる範囲内で延伸倍率が大きいほど、第1層および第2層における個々の層の面方向の屈折率のバラツキが延伸による薄層化により小さくなり、多層積層フィルムの光干渉が面方向に均一化され、また第1層と第2層の延伸方向の屈折率差が大きくなるので好ましい。このときの延伸方法は、棒状ヒータによる加熱延伸、ロール加熱延伸、テンター延伸など公知の延伸方法を用いることができるが、ロールとの接触によるキズの低減や延伸速度などの観点から、テンター延伸が好ましい。
【0085】
また、かかる延伸方向(TD方向)とフィルム面内で直交する方向(MD方向)にも延伸処理を施し、2軸延伸を行う場合は、用途にもよるが、反射偏光特性を具備させたいときは、1.01~1.20倍程度の延伸倍率にとどめることが好ましい。MD方向の延伸倍率をこれ以上高くすると、偏光性能が低下することがある。
【0086】
また、延伸後にさらに(Tg)~(Tg+30)℃の温度で熱固定を行いながら、5~15%の範囲で延伸方向にトーアウト(再延伸)させることにより、得られた多層積層フィルムの配向特性を高度に制御することができる。
【0087】
本発明において上述の塗布層を設ける場合、多層積層フィルムへの塗布は任意の段階で実施することができるが、フィルムの製造過程で実施することが好ましく、延伸前のフィルムに対して塗布することが好ましい。
かくして本発明の多層積層フィルムが得られる。
【0088】
なお、金属光沢フィルムや反射ミラーの用途に用いる多層積層フィルムである場合は、2軸延伸フィルムとすることが好ましく、この場合は、逐次2軸延伸法、同時2軸延伸法のいずれであってもよい。また、延伸倍率は、第1層および第2層の各層の屈折率および膜厚が、所望の反射特性を奏するように調整されるようにすればよいが、例えばこれら層を構成する樹脂の通常の屈折率を考慮すると、縦方向および横方向ともに2.5~6.5倍程度とすればよい。
【実施例】
【0089】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明は以下に示した実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の物性や特性は、下記の方法にて測定または評価した。
【0090】
(1)フィルム全体厚みと各層の厚み
フィルムサンプルをスピンドル検出器(安立電気(株)製K107C)にはさみ、デジタル差動電子マイクロメーター(安立電気(株)製K351)にて、異なる位置で厚みを10点測定し、平均値を求めフィルム全体厚みとした。
【0091】
多層積層フィルムをフィルム長手方向2mm、幅方向2cmに切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂(リファインテック(株)製エポマウント)にて包埋した。包埋されたサンプルをミクロトーム(LEICA製ULTRACUT UCT)で幅方向に垂直に切断し、5nm厚の薄膜切片にした。透過型電子顕微鏡(日立S-4300)を用いて加速電圧100kVにて観察撮影し、写真から各層の厚み(物理厚み)を測定した。
【0092】
1μmを超える厚さの層について、多層構造の内部に存在しているものを中間層、最表層に存在しているものを最外層とし、それぞれの厚みを測定した。
【0093】
なお、第1層か第2層かは、屈折率の態様により判断できるが、それが困難な場合は、NMRでの解析や、TEMでの解析による電子状態により判断することも可能である。また、各層の屈折率は、各層と同じ組成で厚みを厚くした単層フィルムから求めることもできる。
【0094】
(2)フィルムの応力特性確認用の一軸延伸フィルム作成
多層積層フィルムの第1層を形成する樹脂を、押出成形機(TOYO SEIKI製、ラボプラストミル)を用いて、未延伸シートを作製した。押出成形の条件は、設定温度300℃で樹脂を溶融させてからダイからシート状に押出し、温度70℃に設定したキャストロール上に設置させ、シートを固化させた。得られた未延伸シートは約250μmであった。
【0095】
上記で得られた未延伸シートを、延伸機(TOYO SEIKI製、バッチ延伸機)を用いて延伸し、一軸延伸フィルムを作製した。延伸は、第1層を形成する樹脂のガラス転移温度Tg+25℃で60秒保持後に、同温度にて延伸速度を400%/分、TD方向に一軸延伸倍率5倍となるように延伸し、同温度にて3秒保持して行った。得られた一軸延伸フィルムは約50μmであった。
【0096】
(3)F5値
フィルムの5%伸長時応力(F5値)は、引張試験機(東洋ボールドウィン社製、商品名「テンシロン」)を用いて、温度20℃、湿度50%に調節された室内において測定した。サンプルフィルムを幅10mm、長さ100mmに切り出し、チャック間30mmでサンプルを装着し、JIS-C2318 5.3.3(:2007年)に従って引張速度100mm/minの条件で引張試験を行い、荷伸曲線から5%伸長時の荷重を読み取っ
た。応力は、5%伸長時の荷重を試験前のサンプル断面積で割って算出した(単位;MPa)。応力測定はそれぞれサンプル数n=5で評価を行い、その平均値を用いた。
【0097】
(4)層間密着性
多層積層フィルムの端面部に針等で衝撃を与える等して、部分的に層間剥離したサンプルを作成した。その後、測定のばらつきを小さくするために、該サンプルを温度23℃、相対湿度55%RHの条件下で1日放置し、その後、幅25mm、長さ100mmの短冊状に切り取った。表面がきれいな厚み3mmのアクリル板に、両面テープでサンプルを貼り付け、直接ゴムローラーで押さえつけて密着させた。このとき、層間剥離したときに厚みの厚い側をアクリル板に貼り付けた。これを、引張試験機(東洋精機(株)製ストログラフ)にセットし、層間剥離したときに厚みの薄い側をチャックに固定し、引張速度300mm/分で90°剥離をして強度を測定した。この方法で多層積層フィルムのMD方向、TD方向における、それぞれの強度を測定し、その平均値を層間密着力とした。
【0098】
本発明においては、層間密着力としては、好ましくはMD方向とTD方向との平均値で100g/25mm以上であり、より好ましくは130g/25mm以上、さらに好ましくは150g/25mm以上、特に好ましくは170g/25mm以上であり、高いことが好ましい。また、MD方向とTD方向のいずれもが、100g/25mm以上であることが好ましく、より好ましくは120g/25mm以上、さらに好ましくは140g/25mm以上である。
【0099】
(5)樹脂の融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)
フィルムとする前の樹脂については、各層試料を10mgサンプリングし、DSC(パーキンエルマー社製、商品名:DSC8500)を用い、20℃/min.の昇温速度で室温から300℃まで昇温し、300℃で3分間保持し、その後取り出し、直ちに氷の上に移して急冷した。そして再び20℃/min.の昇温速度で昇温し、各層を構成するポリマーの融点およびガラス転移温度(補外開始温度)を測定した。
【0100】
フィルムとした後の樹脂については、各層試料をフィルムから削る等して1mgサンプリングし、DSC(パーキンエルマー社製、商品名:DSC8500)を用い、20℃/min.の昇温速度で、室温から300℃まで昇温し、300℃で3分間保持し、その後取り出し、直ちに氷の上に移して急冷した。そして再び20℃/min.の昇温速度で昇温し、各層を構成するポリマーの融点およびガラス転移温度(補外開始温度)を測定した。
【0101】
(6)ポリマーの特定ならびに共重合成分および各成分量の特定
フィルムの各層について、1H-NMR測定よりポリマー成分ならびに共重合成分および各成分量を特定した。
【0102】
(7)各方向の延伸後の屈折率
各層を構成する個々の樹脂について、それぞれ溶融させてダイより押出し、キャスティングドラム上にキャストしたフィルムをそれぞれ用意した。また、得られたフィルムを(樹脂のガラス転移温度)+25℃にて一軸方向に5.0倍延伸した延伸フィルムを用意した。得られたキャストフィルムと延伸フィルムについて、それぞれ延伸方向(TD方向)とその直交方向(MD方向)、厚み方向(Z方向)のそれぞれの屈折率(それぞれnX、nY、nZとする)を、メトリコン製プリズムカプラを用いて波長633nmで測定して求めた。第2層を構成するポリエステルの平均屈折率については、延伸後のそれぞれの方向の屈折率の平均値を平均屈折率とした。
【0103】
(8)平均反射率(反射スペクトル)
偏光フィルム測定装置(日本分光株式会社製「VAP7070S」)を用いて、得られた多層積層フィルムの反射スペクトルを測定した。なお、測定はスポット径調整用マスクΦ1.4mm、および偏角ステージを使用し、測定光の入射角は0度設定とし、クロスニコルサーチ(650nm)で定まる多層積層フィルムの透過軸と該透過軸と直行する軸の各波長における透過率を380~780nmの範囲で5nm間隔にて測定した。380~780nmの範囲で反射率の平均値をとり、これを法線入射における反射軸の平均反射率とした。平均反射率が50%以上であれば、測定した多層積層フィルムの反射軸において反射可能であると判断した。輝度向上部材等の光学用に用いる場合は、かかる平均反射率は85%以上、好ましくは87%以上、より好ましくは90%以上である。
【0104】
[製造例1]ポリエステルA
第1層用ポリエステルとして、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、そしてエチレングリコールを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、酸成分の96モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、4モル%がイソフタル酸成分、そして、グリコール成分がエチレングリコール成分である共重合ポリエステル(固有粘度0.56dl/g)(o-クロロフェノール、35℃、以下同様)(IA4PENと表す。)を準備した。
【0105】
[製造例2]ポリエステルB
第2層用ポリエステルとして、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、そしてエチレングリコールを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、酸成分の41モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、50モル%がテレフタル酸成分、9モル%がイソフタル酸成分、そして、グリコール成分がエチレングリコール成分である共重合ポリエステル(固有粘度0.55dl/g)(TA50IA9PENと表す。)を準備した。
【0106】
[実施例1]
第1層用にポリエステルAを170℃で5時間乾燥し、第2層用にポリエステルBを85℃で8時間乾燥した後、それぞれ第1、第2の押し出し機に供給し、300℃まで加熱して溶融状態とし、櫛歯を備える多層フィードブロック装置を使用して、第1層用ポリエステルを138層、第2層用ポリエステルを139層に分岐し、第1層と第2層とを交互に積層し、総数277層の積層状態の溶融体とした。このとき、最終的なフィルムにおいて第1層と第2層の平均層厚み比が1.0:1.3となるように押出量を調整した。また、第1層および第2層は、それぞれ一端から多端まで各層の厚み(物理厚み)が単調に増加する層厚みプロファイルとし、第1層において最大膜厚み/最小膜厚みの比が2.8となるように、第2層において最大膜厚み/最小膜厚みの比が2.6となるようにした。その積層状態を保持したまま、それとその両側に第3の押し出し機から第2層用ポリエステルと同じポリエステルを3層フィードブロックへと導き、層数277層の積層状態(両表層は第2層である)の溶融体の積層方向の両側にバッファ層を積層した。ここで、両側のバッファ層の厚みの合計が全体の厚みの30%となるよう第3の押し出し機の供給量を調整した。その積層状態をさらにレイヤーダブリングブロックにて2分岐して1:1の比率で積層し、内部に中間層、最表層に2つの最外層を含む全層数557層の未延伸多層積層フィルムを作製した。
【0107】
この未延伸多層積層フィルムを135℃の温度で幅方向に6.0倍に延伸した。得られた1軸延伸多層積層フィルムの厚みは66μmであった。また、屈折率測定の結果、第1層は複屈折性であり、第2層は等方性であった。
【0108】
[実施例2~4、実施例6、比較例1~2]
表1に示すように第1層および第2層のポリエステル樹脂を変更した以外は実施例1と同様にして、1軸延伸多層積層フィルムを得た。
【0109】
なお、
酸成分の92モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、8モル%がイソフタル酸成分、そして、グリコール成分がエチレングリコール成分である共重合ポリエステル(固有粘度0.57dl/g)(IA8PENと表す。)、酸成分の88モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、12モル%がイソフタル酸成分、そして、グリコール成分がエチレングリコール成分である共重合ポリエステル(固有粘度0.58dl/g)(IA12PENと表す。)、
酸成分の85モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、15モル%がテレフタル酸成分、そして、グリコール成分がエチレングリコール成分である共重合ポリエステル(固有粘度0.57dl/g)(TA15PENと表す。)、
酸成分が2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、そして、グリコール成分がエチレングリコール成分であるポリエステル(固有粘度0.57dl/g)(PENと表す。)、
酸成分の92モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、8モル%がテレフタル酸成分、そして、グリコール成分がエチレングリコール成分である共重合ポリエステル(固有粘度0.57dl/g)(TA8PENと表す。)
は、製造例1においてモノマー量を変更して得た。固有粘度は重縮合時間より調整した。
また、
酸成分の40モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、60モル%がテレフタル酸成分、そして、グリコール成分がエチレングリコール成分である共重合ポリエステル(固有粘度0.56l/g)(TA60PENと表す。)
は、製造例2においてモノマー量を変更して得た。固有粘度は重縮合時間により調整した。
【0110】
[実施例5]
第1層用にポリエステルAを170℃で5時間乾燥し、第2層用にポリエステルBを85℃で8時間乾燥した後、それぞれ第1、第2の押し出し機に供給し、300℃まで加熱して溶融状態とし、櫛歯を備える多層フィードブロック装置を使用して、第1層用ポリエステルを139層、第2層用ポリエステルを138層に分岐し、第1層と第2層とを交互に積層し、総数277層の積層状態の溶融体とし、その積層状態を保持した。その積層状態をさらにレイヤーダブリングブロックにて、2分岐して1:1の比率で積層し、全層数554層の未延伸多層積層フィルムを作製した以外は、実施例1と同様にして、1軸延伸多層積層フィルムを得た。
【0111】
【0112】
なお、いずれも、第1層は複屈折性であり、第2層は等方性であった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、本発明の多層積層フィルムは、層間剥離がしにくい多層積層フィルムを実現することが可能となる。そのため、例えば輝度向上部材、反射型偏光板などの光学部材として用いた場合に、他の部材との貼り合せ、液晶ディスプレイへの組み立て、使用時等に加わる外力によって層間剥離が生じないことから、より信頼性の高い輝度向上部材、液晶ディスプレイ用偏光板などを提供できる。
【符号の説明】
【0114】
1 厚膜層(最外層)
2 厚膜層(中間層)
3 多層積層構造