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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】接合継手、及び自動車用部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20230307BHJP
   B23K 11/00 20060101ALI20230307BHJP
   B62D 27/02 20060101ALI20230307BHJP
   B60R 19/04 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
B23K20/12 Z
B23K20/12 G
B23K20/12 D
B23K11/00 570
B62D27/02
B60R19/04 M
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021526852
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023839
(87)【国際公開番号】W WO2020256031
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019112000
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020011621
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】松井 翔
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
(72)【発明者】
【氏名】吉永 千智
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022184(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110531(WO,A1)
【文献】特表2012-509178(JP,A)
【文献】特開2011-062748(JP,A)
【文献】特開2012-041601(JP,A)
【文献】SBALCHIERO, Jeferson Andre et al.,Replacement of Gas Metal Arc Welding by Friction Welding for Joining Tubes in the Hydraulic Cylinders Industry,Mat. Res. [online],vol.21, n.4,2018年,Retrieved from the Internet: <URL: http://www.scielo.br/scielo.php?script=sci_arttex&pid=S1516-14392018000400226&lng=en&nrm=iso>,ISSN 1980-5373, <DOI: 10.1590/1980-5373-mr-2018-0015>, 全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
B23K 11/00
B62D 27/02
B60R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の鋼材および第2の鋼材を含む2個以上の鋼材が接合された接合継手であって、
前記第1の鋼材と前記第2の鋼材は、摩擦圧接により接合されており、
前記第2の鋼材は、接合対象面の面積が前記第1の鋼材の接合対象面の面積よりも大きく、前記第2の鋼材の接合部において二相域加熱部を有しており、
当該二相域加熱部は、複数の針状軟質相が分散しており、前記針状軟質相は長辺と短辺の平均アスペクト比が4.0以上であることを特徴とする、接合継手。
【請求項2】
前記複数の針状軟質相は、前記二相域加熱部の全体に分散している、請求項1に記載の接合継手。
【請求項3】
前記第2の鋼材の接合部以外の部分の組織が、ベイナイト、焼戻しベイナイト、マルテンサイト、及び焼戻しマルテンサイトから選択される1種以上を、合計で、60%以上含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の接合継手。
【請求項4】
前記第2の鋼材が鋼板からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項5】
前記鋼板からなる前記第2の鋼材の上面に、樹脂板および金属板のうちの少なくとも1枚の板材が重ね合わされており、
前記第1の鋼材は、前記板材を貫通して前記第2の鋼材と摩擦圧接により接合されている、請求項4に記載の接合継手。
【請求項6】
前記第1の鋼材は、前記接合部とは反対側の端部に、軸部よりも断面径が大きい頭部を有しており、
前記板材は、前記第2の鋼材と前記第1の鋼材の前記頭部とによって挟持されている、請求項5に記載の接合継手。
【請求項7】
前記第2の鋼材と前記板材との間に配された接着剤をさらに備える、請求項5又は6に記載の接合継手。
【請求項8】
前記板材の数が2以上であり、
前記板材の間に配された接着剤をさらに備える、請求項5~7のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項9】
前記板材と、前記第2の鋼材とを接合する、スポット溶接部、レーザー溶接部、及びアーク溶接部からなる群から選択される一種以上の溶接部をさらに備える、請求項5~8のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項10】
前記第2の鋼材は、引張強さが1180MPa以上の鋼板からなる、請求項1~9のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項11】
前記針状軟質相は、長辺と短辺の平均アスペクト比が5.0以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の接合継手を有する自動車用部材。
【請求項13】
バンパーリンフォース、Aピラー、Bピラー、ルーフレール、サイドシル、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、トンネルリンフォース若しくはバッテリーケース、又は自動車フロアを構成する部材であることを特徴とする請求項12に記載の自動車用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦圧接接合により接合された接合継手、及び自動車用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚の金属板を接合する手段として、重ね合わされた複数枚の金属板を、リベットなどの接続部材を用いて接合する技術が知られている。
特に近年では、重ね合わされた上板と下板に対して、接続部材を回転させながら上板の上面に押圧し、上板を貫通させて、接続部材と下板とを摩擦圧接する接合技術などが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム板と鋼板のような強度の異なる2枚の板材を、リベット等の接合要素(すなわち、頭部および軸部を有する接続部材)を用いて、摩擦圧接のプロセスにより接合する技術が開示されている。具体的には、次のようなプロセスを経て、強度の異なる2枚の板材を接合する技術が開示されている。
すなわち、2枚の板材を、強度の低い方の板材を上板にして重ね合わせ、上板の上面に、ホルダーに支持された接続部材をセットし、接続部材を回転させながら下方に移動させて、上板の内部に向けて押圧する。このとき、接続部材と上板との間には、接続部材の回転によって強い摩擦が生じ、接続部材の先端部が加熱されるため、上板が軟化して、接続部材が上板内に進入することが可能となる。
このようにして、回転しながら上板内に進入する接続部材の先端部が、下板の上面に到達すると、接続部材の軸部と下板との間で摩擦圧接のプロセスが進行し、接続部材の軸部と下板が摩擦圧接される。これにより、接続部材と下板が摩擦圧接部(接合部)で接合されるとともに、上板が接続部材の頭部と下板との間で固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-62748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような特許文献1の技術に限らず、鋼製の丸棒を鋼板に摩擦圧接する技術(摩擦スタッド)などによって形成された接合継手においては、特に高い炭素量の鋼板(すなわち、高強度の鋼板)を用いると、摩擦圧接部(接合部)の強度が低下してしまい、結果的に接合継手としての継手強度も低下してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、複数の鋼材が摩擦圧接によって接合された接合継手及び自動車用部材に関し、継手強度に優れた接合継手及び自動車用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、摩擦圧接によって接合された接合継手の継手強度が低下する原因について詳細に調べたところ、接合部近傍の二相域(フェライト相およびオーステナイト相)に加熱された領域(以下、「二相域加熱部」と称する。)における軟質相(主にフェライト相)と硬質相(主にマルテンサイト相)との高い硬度差が、軟質相と硬質相の界面などにひずみを集中させることが原因と考えられた。ここで、軟質相とは、二相域加熱部において、硬質相(主にマルテンサイト相)よりも硬さが低い組織を指す。
また、二相域加熱部の組織、特に軟質相の形状が、母材組織の影響を受けていることが明らかになり、特に、接合継手の二相域加熱部の軟質相がアスペクト比の小さい塊状の形状であると、継手強度が低下することが明らかになった。
そこで、本発明者らは、接合部に生じる二相域加熱部の軟質相を所定の形状(針状の形状)に制御することで、局所的なひずみ集中を緩和し、接合継手としての継手強度が向上することを見出した。
さらに、本発明者らは、接合部近傍部分の大きさが異なる(棒状の鋼材の場合は、直径が異なる)鋼材同士が摩擦圧接により接合された接合継手に対して、外部から応力が付加されると、両鋼材の接合部のうち、上記接合部近傍部分の大きさの大きい方の鋼材の接合部から破断が開始することを実験により明らかにした。そして、この部位に上述の針状の形状の軟質相(針状軟質相)が分散していると、接合継手の継手強度が高くなることを実験的に見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の具体的な態様は、以下のとおりである。
【0009】
(1)第1の鋼材および第2の鋼材を含む2個以上の鋼材が接合された接合継手であって、前記第1の鋼材と前記第2の鋼材は、摩擦圧接により接合されており、前記第2の鋼材は、接合対象面の面積が前記第1の鋼材の接合対象面の面積よりも大きく、前記第2の鋼材の接合部において二相域加熱部を有しており、当該二相域加熱部は、複数の針状軟質相が分散しており、前記針状軟質相は長辺と短辺の平均アスペクト比が4.0以上であることを特徴とする、接合継手。
【0010】
(2)前記複数の針状軟質相は、前記二相域加熱部の全体に分散している、前記(1)に記載の接合継手。
【0011】
(3)前記第2の鋼材の接合部以外の部分の組織が、ベイナイト、焼戻しベイナイト、マルテンサイト、及び焼戻しマルテンサイトから選択される1種以上を、合計で、60%以上含むことを特徴とする前記(1)又は(2)の接合継手。
【0012】
(4)前記第2の鋼材が鋼板からなる、前記(1)~(3)のいずれかの接合継手。
【0013】
(5)前記鋼板からなる前記第2の鋼材の上面に、樹脂板および金属板のうちの少なくとも1枚の板材が重ね合わされており、前記第1の鋼材は、前記板材を貫通して前記第2の鋼材と摩擦圧接により接合されている、前記(4)の接合継手。
【0014】
(6)前記第1の鋼材は、前記接合部とは反対側の端部に、軸部よりも断面径が大きい頭部を有しており、前記板材は、前記第2の鋼材と前記第1の鋼材の前記頭部とによって挟持されている、前記(5)の接合継手。
【0015】
(7)前記第2の鋼材と前記板材との間に配された接着剤をさらに備える、前記(5)又は(6)の接合継手。
【0016】
(8)前記板材の数が2以上であり、前記板材の間に配された接着剤をさらに備える、前記(5)~(7)のいずれかの接合継手。
【0017】
(9)前記板材と、前記第2の鋼材とを接合する、スポット溶接部、レーザー溶接部、及びアーク溶接部からなる群から選択される一種以上の溶接部をさらに備える、前記(5)~(8)のいずれかの接合継手。
【0018】
(10)前記第2の鋼材は、引張強さが1180MPa以上の鋼板からなる、前記(1)~(9)のいずれかの接合継手。
【0019】
(11)前記針状軟質相は、長辺と短辺の平均アスペクト比が5.0以上である、前記(1)~(10)のいずれかの接合継手。
【0020】
(12)前記(1)~(11)のいずれかの接合継手を有する自動車用部材。
【0021】
(13)バンパーリンフォース、Aピラー、Bピラー、ルーフレール、サイドシル、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、トンネルリンフォース若しくはバッテリーケース、又は自動車フロアを構成する部材であることを特徴とする前記(12)の自動車用部材。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、複数の鋼材が摩擦圧接によって接合された接合継手に関し、継手強度に優れた接合継手、及び自動車用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、棒状の第1の鋼材1と、当該第1の鋼材1よりも接合対象面の面積が大きい棒状の第2の鋼材2とが摩擦圧接により接合されてなる、本発明の一実施形態に係る接合継手10の要部を表す断面図である。なお、図1中の右側の3枚の写真は、焼入れ部P、二相域加熱部Pおよび焼戻し部Pの各金属組織の電子顕微鏡写真である。
図2図2は、接合対象面の面積の例を説明するための模式図である。
図3図3は、接合対象面の面積の他の例を説明するための模式図である。
図4図4は、接合継手10の二相域加熱部Pにおける複数の針状軟質相の分散状態を説明するための模式図である。
図5図5は、棒状の第1の鋼材1と棒状の第2の鋼材2とを摩擦圧接により接合する方法を説明するための模式図である。
図6図6は、リベット状の第1の鋼材1Bと板状の第2の鋼材2Bとが摩擦圧接により接合されてなる、本発明の別の実施形態に係る接合継手10’の断面図である。なお、図6では、接合部付近で鋼材が塑性変形している様子は、省略して図示している。
図7図7は、棒状の第1の鋼材1と板状の第2の鋼材2Bとが摩擦圧接により接合されてなる、本発明の更に別の実施形態に係る接合継手10’’の断面図である。
図8図8は、本発明の更に別の実施形態に係る接合継手10A、10Bの断面図である。図8(a)は、上板として配置された板材3を貫通した棒状の第1の鋼材1と、下板として配置された板状の第2の鋼材2Bとを摩擦圧接により接合してなる、接合継手10Aを示し、図8(b)は、上板として配置された板材3の貫通孔31Bを貫通したリベット状の第1の鋼材1Bと、下板として配置された板状の第2の鋼材2Bとを摩擦圧接により接合してなる、接合継手10Bを示す。
図9図9は、本発明の接合継手に用い得る第1の鋼材の例として、接合対象面側の軸部先端が円錐形状である場合の第1の鋼材を模式的に示す断面図である。
図10図10は、本発明の接合継手に用い得る第1の鋼材の他の例として、接合対象面側の軸部先端が球面形状である場合の第1の鋼材を模式的に示す断面図である。
図11図11は、本発明の自動車用部材の一例であるバンパーリンフォースを模式的に示す図である。
図12図12は、本発明の自動車用部材の一例であるバンパーリンフォースの断面模式図である。
図13図13は、本発明の自動車用部材の一例であるルーフレール、Aピラー、およびBピラーを模式的に示す図である。
図14図14は、本発明の自動車用部材の一例であるBピラーを模式的に示す図である。
図15図15は、本発明の自動車用部材の一例であるBピラーの断面模式図である。
図16図16は、実施例における、炭素量と継手強度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の接合継手の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
(接合継手)
図1は、本発明の一実施形態に係る接合継手10である。この接合継手10は、棒状の第1の鋼材1と、当該第1の鋼材1よりも接合対象面の面積が大きい棒状の第2の鋼材2とが突き合わされて、摩擦圧接により接合されている。なお、後述するように、本発明においては、第1の鋼材と第2の鋼材は、それぞれ棒状である必要はなく、少なくとも一方の鋼材が板状であってもよい。
そして、上述の接合継手10では、第2の鋼材2は、図1に示すように、第1の鋼材1との接合部Pにおいて二相域に加熱された二相域加熱部Pを有しており、さらに、この二相域加熱部Pには、断面形状が針状である複数の針状軟質相Pが分散している。分散している針状軟質相の長辺と短辺の平均アスペクト比は4.0以上、好ましくは5.0以上である。
このように、本実施形態の接合継手10は、第1の鋼材1よりも接合対象面の面積が大きい(すなわち、接合部近傍部分の大きさが大きい)第2の鋼材2の接合部に生じる二相域加熱部Pにおいて、複数の針状軟質相Pが分散しているため、当該複数の針状軟質相Pによって局所的なひずみ集中が緩和され、優れた継手強度を発揮することができる。
【0026】
ここで、二相域加熱部とは、フェライト相およびオーステナイト相の二相域に加熱された領域を指す。この二相域加熱部は、鋼材を切断し、その切断面を研磨してエッチングした後、その表面を走査型電子顕微鏡で拡大観察することにより、確認することができる。なお、第2の鋼材が鋼板の場合は、鋼板表面が脱炭している可能性があるので、鋼板表面から0.1mm以上内側の鋼材(鋼板)内の位置における二相域に加熱された領域を指す。
【0027】
ここで、接合対象面の面積は、以下のようにして求められる。
【0028】
まず第1の鋼材1が円柱状である場合には、「接合対象面の面積」は、第1の鋼材1、及び第2の鋼材2のいずれにおいても、摩擦圧接により塑性変形している箇所と、塑性変形していない箇所の境界における、第1の鋼材1の長手方向に直交する方向の断面での断面積と定義する。
まず、図2を用いて、第1の鋼材1が円柱状且つ中実の場合について説明する。図2には、第1の鋼材1、第2の鋼材2を、第1の鋼材1の長手方向の中心軸を通り第1の鋼材1の長手方向に切った断面であって、接合対象面から第1の鋼材1の長手方向に3mmの位置での幅(つまり長手方向に直交する方向での第1の鋼材1の長さ)が最大となる平面で切った断面を示している。
図2においては、第1の鋼材1において、摩擦圧接により塑性変形している箇所と塑性変形していない箇所の境界での幅をdとし、このdを直径とした円の面積を第1の鋼材1の接合対象面の面積とする。また、第2の鋼材2の接合対象面において、摩擦圧接により塑性変形している箇所と塑性変形していない箇所の境界での幅、つまり観察された端部(図2中のC)間の距離d2を直径とした円の面積を第2の鋼材2の接合対象面の面積とする。
図2の継手形状の場合、第2の鋼材2の接合対象面における端部(図2中のC)に応力が集中し、第2の鋼材2が破壊の起点となる。
【0029】
次いで、図3を用いて、第1の鋼材1が円柱状且つ中空の場合について説明する。図3には、図2と同様に、第1の鋼材1、第2の鋼材2を、第1の鋼材1の長手方向の中心軸を通り第1の鋼材1の長手方向に切った断面であって、接合対象面から第1の鋼材1の長手方向に3mmの位置での幅が最大となる平面で切った断面を示している。
第1の鋼材1が中空の場合は、外側の塑性変形有無の境界から幅dおよび幅d2を求める。つまり、第1の鋼材1において、摩擦圧接により塑性変形している箇所と塑性変形していない箇所の外側の境界での幅をdとする。また、第2の鋼材2の接合対象面において、摩擦圧接により塑性変形している箇所と塑性変形していない箇所の外側の境界での幅、つまり観察された端部間の距離をd2とする。そして、dを直径とした円の面積を第1の鋼材1の接合対象面の面積とし、d2を直径とした円の面積を第2の鋼材2の接合対象面の面積とする。
【0030】
次いで、第1の鋼材が多角柱状である場合について説明する。
第1の鋼材が多角形である場合、切断する方向によって観察されるdが変わることになる。そのため、前述のように第1の鋼材の長手方向の中心軸を通り、接合対象面から3mmの位置での幅が最大となる平面で切った断面を観察する。そして、この断面において、第1の鋼材、及び第2の鋼材のいずれにおいても、摩擦圧接により塑性変形している箇所と塑性変形していない箇所の境界での幅を、それぞれdおよびd2とする。このdおよびd2を直径とする円の面積を、第1の鋼材及び第2の鋼材の接合対象面の面積として比較すれば、接合対象面の面積の大小関係を得ることができる。
【0031】
次いで、第1の鋼材の形状が、長手方向の位置に応じて断面積の変化がある形状(例えば長手方向に向かってテーパを有する形状)である場合について説明する。
前述のように第1の鋼材の長手方向の中心軸を通り、接合対象面から3mmの位置での幅が最大となる平面で切った断面を観察する。そして、この断面において、第1の鋼材、及び第2の鋼材のいずれにおいても、摩擦圧接により塑性変形している箇所と塑性変形していない箇所の境界での幅を、それぞれdおよびd2とする。このdおよびd2を直径とする円の面積を、第1の鋼材及び第2の鋼材の接合対象面の面積として比較すれば、接合対象面の面積の大小関係を得ることができる。
【0032】
なお、第1の鋼材1の長手方向での長さが3mm未満の場合は、接合対象面から第1の鋼材1の長手方向に2.5mmの位置での幅が最大となる平面で切った断面を観察することとする。
また、第1の鋼材1の長手方向での長さが2.5mm未満の場合は、接合対象面から第1の鋼材1の長手方向に2.0mmの位置での幅が最大となる平面で切った断面を観察することとする。さらに、第1の鋼材1の長手方向での長さが2.0mm未満の場合は、接合対象面から第1の鋼材1の長手方向に1.5mmの位置での幅が最大となる平面で切った断面を観察することとする。
なお、接合対象面から第1の鋼材の長手方向に3mm、2.5mm、2.0mm、または1.5mmの位置が塑性変形している場合もあるが、その塑性変形量は第1の鋼材の幅を大きく変えて、切断方向が意図しない向きになるほど大きくはない。そのため、接合対象面から3mm、2.5mm、2.0mm、または1.5mmの位置での幅が最大となる断面を観察することとする。
【0033】
本発明の接合継手は、母材(本明細書においては、第1の鋼材と第2の鋼材のうち、接合部以外の部分を指す。)と、接合部(本明細書においては、第1の鋼材と第2の鋼材の塑性変形部およびその周辺の熱影響部を指す。)と、によって構成される。
さらに、上記接合部における熱影響部は、摩擦圧接によって、母材に熱が加わった部位である。この熱影響部の中で、周辺に近い部位(母材に隣接する部位)は、摩擦圧接により上昇した母材の温度がAC1点以下の部位であり、焼戻し部Pという(図1を参照)。かかる焼戻し部Pは、後述する焼入れ部Pや二相域加熱部Pと比べて硬さが低い。このような焼戻し部は、第1の鋼材と第2の鋼材の両方の鋼材に存在し得るため、図1においては、第1の鋼材の焼戻し部をP’で表す。
【0034】
焼戻し部Pの、母材とは反対側の隣接部は、より温度の高い熱影響部である。このうち、AC1~AC3の温度、すなわちフェライトとオーステナイトの二相域に加熱された領域が、二相域加熱部Pである。この二相域加熱部Pは、図1に示すように、接合時にオーステナイト変態して焼入れられた、主にマルテンサイトからなる硬質相(主にマルテンサイト相P)と、該硬質相よりも柔らかい軟質相(主にフェライト相P)との、主に二相からなる領域である。なお、二相域加熱部Pは、これらの二相のほかに、残留オーステナイト、焼戻しマルテンサイト等を含み得る。また、このような二相域加熱部は、第1の鋼材と第2の鋼材の両方の鋼材に存在し得るため、図1においては、第1の鋼材の二相域加熱部をP’で表す。但し、この第1の鋼材の二相域加熱部P’は、後述するように第1の鋼材の組成等によっては、存在しない場合もある。
【0035】
そして、二相域加熱部Pの、さらに母材とは反対側の隣接部は、摩擦圧接によりAC3点以上の温度に昇温された熱影響部であり、焼入れ部Pという(図1を参照)。かかる焼入れ部Pは、主にマルテンサイトからなる領域であり、残留オーステナイト等を含み得る。また、このような焼入れ部は、第1の鋼材と第2の鋼材の両方の鋼材に存在し得るため、図1においては、第1の鋼材の焼入れ部をP’で表す。
【0036】
なお、図1中の符号Fは、摩擦圧接界面を示し、この摩擦圧接界面Fの上側が第1の鋼材1であり、下側が第2の鋼材2である。
また、上述の焼入れ部P、P’、二相域加熱部P、P’および焼戻し部P、P’は、接合継手を切断し、その切断面を研磨して、ナイタールを用いてエッチングした後、走査型電子顕微鏡により視認することができる。なお、焼戻し部P、P’と母材との境界面Fが不明瞭な場合は、ビッカース硬さを測定することにより識別することができる。例えば、母材がマルテンサイト相の場合、焼戻し部P、P’は焼戻されているので、硬さが低くなっている。なお、焼戻し部P、P’と母材との境界面Fを厳密に識別できなくても、本発明を実施する上で何ら支障はない。
【0037】
また、上記の接合継手10において、二相域加熱部Pの針状軟質相Pは、接合継手10の接合部Pを板厚方向に沿って切断し、その切断面を拡大観察したときに確認される、平均アスペクト比(長辺/短辺)が4.0以上となる断面形状を有する軟質相である。
ここで、軟質相の断面形状のアスペクト比は、当該断面形状の外縁線に外接する長方形の長辺の長さ(μm)と短辺の長さ(μm)との比(長辺/短辺)として、算出することができる。このとき、軟質相に外接する長方形は短辺の長さが最小となるように描く。
【0038】
フェライト相(軟質相)の平均アスペクト比の具体的な算出方法は、以下のとおりである。
まず、接合継手の接合部を板厚方向に沿って切断し、走査型電子顕微鏡を用いて、切断面の組織の拡大観察を行う。このときの観察視野は、20μm×20μm以上の広さの領域であって、硬質相の分率が40%~90%となる領域である。硬質相の分率は、断面で観察される観察視野内の硬質相の面積率で求めることができる。
次いで、測定対象領域(すなわち、二相域加熱部)において観察される軟質相に対し、断面形状の外縁線に外接する長方形を描き、その長方形の長辺の長さ(μm)および短辺の長さ(μm)をそれぞれ測定し、それらの長さの比(長辺/短辺)をアスペクト比として算出する。このとき、アスペクト比を算出する軟質相は、当該軟質相の断面形状の外縁線に外接する長方形の長辺の長さが1μm以上の軟質相を対象とする。また、観察視野の外縁に接触している軟質相は測定の対象外とする。
このようなアスペクト比の算出を、測定対象領域において観察されるアスペクト比の測定対象全てに行い、その平均値を二相域加熱部に含まれるフェライト相(軟質相)の平均アスペクト比とする。この測定は20個以上の軟質相について行う。
なお、測定対象領域において測定対象となる軟質相が20個もない場合は、接合継手内で同様の領域を再度観察し、観察される軟質相が20個以上ある領域を見つけて、その領域において、上記の平均アスペクト比を算出する。
【0039】
そして、本明細書において、複数の針状軟質相が二相域加熱部に「分散している」とは、図4に示す接合継手10の接合部断面において、摩擦圧接した第1の鋼材の幅(図2図3に示すd)に対する5種類の所定幅0.1d、0.3d、0.5d、0.7dおよび0.9dに対応する各位置から第1の鋼材の軸方向に延びる各延長線上の、二相域加熱部P内の5箇所の測定点P0.1、P0.3、P0.5、P0.7およびP0.9で、上記の平均アスペクト比を算出したときに、少なくとも3箇所の測定点で平均アスペクト比が4.0以上である針状軟質相を確認できることをいう。特に、5箇所すべての測定点で平均アスペクト比が4.0以上である針状軟質相を確認できる場合を、複数の針状軟質相が二相域加熱部の「全体に分散している」という。
なお、本発明では、より優れた継手強度が得られるという点から、複数の針状軟質相は、第2の鋼材の接合部における二相域加熱部の全体に分散していることが好ましい。
【0040】
本発明において、針状軟質相の平均アスペクト比は4.0以上であるが、好ましくは5.0以上であり、更に好ましくは6.0以上であり、更に好ましくは7.0以上である。針状軟質相の平均アスペクト比が7.0以上であると、優れた継手強度をより確実に得ることができる。一方で、特に限定されないが、針状軟質相の平均アスペクト比の上限値は、針状軟質相の粗大化を防止する理由から、20.0以下であることが好ましい。
【0041】
このような二相域加熱部内に分散する針状軟質相は、鋼材の母材組織として、ベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、及び焼戻しマルテンサイトから選択される1種以上を含む組織を採用することで得ることができる。なお、母材の組織がマルテンサイト及び焼戻しマルテンサイトの一方又は両方が主体となる構成である場合は、炭素量を0.27質量%以上とすることで、前記のような二相域加熱部内に分散する針状軟質相を得ることができる。
【0042】
これらの組織単体でなくても、前述した組織の内2種類以上の組織が含まれる鋼板であってもよい。これらの組織の合計分率が60%以上となる鋼板を用いることで、針状軟質相を二相域加熱部内に分散させることができる。したがって、接合後の接合継手においては、第2の鋼材の接合部以外の部分の組織が、ベイナイト、焼戻しベイナイト、マルテンサイト、及び焼戻しマルテンサイトから選択される1種以上を、合計で、60%以上含むことが好ましい。
これらの組織の合計分率は高いほど、安定して針状軟質相を分散させることができることから、これらの組織の合計分率は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。これらの組織の合計分率の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
【0043】
さらに、母材組織が、板厚方向や板の長手方向、幅方向等に組織の分布(ここで、分布とは、ある組織の分率が多いところと少ないところがあることをいう。)を有する場合であっても、接合時に二相域に加熱される領域の組織がベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、及び焼戻しマルテンサイトから選択される1種以上を含む組織であれば、上述の針状軟質相を得ることができる。
【0044】
ベイナイト主体の組織は、鋼板を900℃に加熱した後にベイナイト変態可能な温度(約400℃)まで冷却し、さらに、その温度で500秒保持した後、急冷することで作製することができる。
また、マルテンサイト主体の組織は、鋼板を900℃に加熱した後に金型冷却によって急冷することで作製することができる。
【0045】
鋼材には、ZnやAlの少なくとも一方を含むめっき層が形成されていてもよい。また、非金属の被膜が形成されていてもよい。
【0046】
上述のとおり、本発明においては、二相域加熱部は、少なくとも第2の鋼材に含まれている必要があり、さらに、この二相域加熱部には、複数の針状軟質相が分散している必要がある。それにより、本発明の効果(接合継手強度の向上)が得られる。
なお、鋼材が二相域加熱部を有するか否かは、鋼材の成分によって決まり、状態図を見れば、判断することができる。本発明においては、第2の鋼材は、少なくとも二相域加熱部を生じ得る組成の鋼材を選択する必要がある。一方、第1の鋼材は、二相域加熱部を生じ得る組成の鋼材である必要はないので、例えば、オーステナイト単相組織の鋼材であってもよい。
【0047】
(摩擦圧接手段)
本発明の接合継手を得るのに用いられる摩擦圧接手段は、当分野において公知の手段を採用することができる。
本発明の実施形態の1つである接合継手10が得られる一例を次に示す。
【0048】
上述の接合継手10は、図5に示すように、棒状の第1の鋼材1と、当該第1の鋼材1よりも接合対象面の面積が大きい棒状の第2の鋼材2とを、両者の接合対象面同士が対向するように配置した後、第1の鋼材1を回転させながら第2の鋼材2に押圧して、両鋼材を摩擦圧接により接合することで、得ることができる。
なお、図5に示す方法は一例であり、本発明では、第1の鋼材および第2の鋼材のいずれの鋼材を回転させてもよい。例えば、上述の接合継手10のように、第1の鋼材および第2の鋼材の両方の鋼材が棒状であれば、いずれの鋼材を回転させることも容易である。
【0049】
一方の鋼材(例えば、第1の鋼材)を回転させながら他方の鋼材(例えば、第2の鋼材)に押圧する際の加圧力F(kN)は、両鋼材が摩擦圧接し得る加圧力であれば特に限定されず、例えば5kN以上の加圧力が挙げられる。
【0050】
さらに、一方の鋼材を回転させながら他方の鋼材に押圧する際の回転数R(rpm)も、両鋼材が摩擦圧接し得る回転数であれば特に限定されず、例えば1000rpm~8000rpmの回転数が挙げられる。
【0051】
なお、これらの加圧力および回転数は、一方の鋼材が棒状以外の種々の形態(例えば、リベット状等の形態)でも同様である。
また、後述する図8(a)、(b)に示す実施形態のように、接合継手が上板3として板材を含む場合においても、上記と同様にして一方の鋼材を回転させながら他方の鋼材に押圧することで、接合継手を得ることができる。
【0052】
以下、本発明の接合継手に用いられる各種構成部材について説明する。
【0053】
(第1の鋼材)
上述の実施形態の接合継手10では、第1の鋼材1として、円柱状または多角柱状の軸部を有する棒状の鋼材が例示されている。この棒状の鋼材の軸部は、少なくとも接合部に隣接する部分において、円柱状または多角柱状の形状を有していることが好ましい。その場合、第1の鋼材は、少なくとも上記接合部に隣接する部分が円柱状または多角柱状の形状であれば、第1の鋼材の全体が円柱状または多角柱状の形状を有していてもよい。摩擦圧接を安定して行うためには、第1の鋼材の形状は円柱または五角形以上の正多角柱であることが好ましい。
なお、本発明においては、接合前の第1の鋼材の軸部先端(接合対象面)が円柱状または多角柱状の形状を有していることが好ましいため、接合後の第1の鋼材の上記接合部に隣接する部分は、必ずしも円柱状または多角柱状の形状を有していなくてもよい。
【0054】
本発明において、第1の鋼材の形態はこのような棒状の形態に限定されず、例えば、図6に示す本発明の別の実施形態である接合継手10’のように、円柱状または多角柱状の軸部11と、該軸部11の上方側端部に設けられた、該軸部11よりも断面径が大きい頭部12と、を有するリベット状の第1の鋼材1Bを用いてもよい。
すなわち、第1の鋼材は、当分野において一般的に接続部材として使用されている丸棒やリベットなどを採用することができ、例えば、上述の特許文献1などに開示されている中実構造または中空構造のものを採用することができる。
なお、図6に示す接合継手10’においては、第2の鋼材として、板状の第2の鋼材2B(すなわち、鋼板)が用いられている。
【0055】
また、図8(b)に示す本発明の更に別の実施形態である接合継手10Bでは、第1の鋼材としてリベット状の第1の鋼材1Bが用いられ、さらに、板状の第2の鋼材2B(下板)の上面に、上板として板材3が重ね合わされている。
この接合継手10Bにおいては、リベット状の第1の鋼材1Bが、接合部Pから延びる軸部11と、該軸部11の上方側端部に位置し、該軸部11よりも断面径が大きい頭部12と、を有しているため、上板として配置された板材3を、リベット状の第1の鋼材1Bの頭部12と板状の第2の鋼材2B(下板)とによって挟持して、より強固に固定することができ、板材3と板状の第2の鋼材2Bとの接合継手としてより優れた継手強度を発揮することができる。
【0056】
第1の鋼材として、このようなリベット状の鋼材を用いる場合、頭部の直径は、軸部の直径の1.5倍以上であることが好ましく、また、軸部の長さは、第2の鋼材(下板)との圧接のしやすさなどの点から、板材(上板)の板厚(上板が複数枚ある場合は、その総板厚)の1.5倍以上であることが好ましい。ここで、軸部および頭部の直径は、軸部の延びる方向に対して直交する平面方向の断面形状が、円形の場合はその直径を意味し、多角形の場合はその外接円の直径を意味する。
なお、第1の鋼材の軸部の直径としては、例えば30mm未満の直径が挙げられる。
【0057】
本発明において、第1の鋼材は、第2の鋼材と摩擦圧接により接合し得るものであれば、上述の棒状の鋼材やリベット状の鋼材に限定されないが、第1の鋼材が、少なくとも接合部に隣接する部分において円柱状または多角柱状の軸部を有する鋼材からなり、かつ、第2の鋼材が第1の鋼材よりも接合対象面の面積が大きい鋼材(例えば、第1の鋼材の軸部よりも直径の大きい軸部を有する鋼材や接合対象面が面状となる板状の鋼材(すなわち、鋼板)など)からなる場合は、摩擦圧接の際に、第2の鋼材において接合部の二相域加熱部およびそれに分散される複数の針状軟質相が形成されやすく、本発明の効果がより確実に得られるため、特に有利である。
【0058】
なお、第1の鋼材の材質については、鋼であればその種類や強度などは特に限定されない。
【0059】
(第2の鋼材)
本発明において、第2の鋼材は、接合対象面の面積が第1の鋼材の接合対象面の面積よりも大きく、かつ、第1の鋼材との摩擦圧接により生じる接合部の二相域加熱部に、複数の針状軟質相が分散形成され得る鋼材(例えば、上述のベイナイト主体の組織を有する鋼材など)であれば、それ以外の要件は特に限定されず、例えば、円柱状または多角柱状の軸部を有する棒状の鋼材や板状の鋼材(すなわち、鋼板)などを好適に用いることができる。
例えば、図7に示す本発明の更に別の実施形態に係る接合継手10’’では、棒状の第1の鋼材1と板状の第2の鋼材2B(鋼板)とが摩擦圧接により接合されており、さらに、図8(a)および(b)に示す実施形態においても、第2の鋼材として板状の第2の鋼材2Bが用いられている。
【0060】
また、第1の鋼材と第2の鋼材がともに軸部を有する棒状の鋼材である場合は、第2の鋼材の軸部の接合対象面における直径が、第1の鋼材の軸部の接合対象面における直径よりも大きければよい。
なお、第1の鋼材と第2の鋼材の接合対象面の面積は、接合対象面の形状(例えば、円形、多角形等)における各種寸法を実測して、算出することができる。
【0061】
また、図8に示す実施形態のように上板として板材を用いる場合には、第2の鋼材は、板材の引張強度以上の引張強度を有する鋼板であることが好ましいが、上板に貫通孔を設けるなどして上板を貫通することができれば、第2の鋼材の引張強度は板材より低くてもよい。
【0062】
第2の鋼材として用い得る鋼板の強度は、特に限定されないが、引張強さが1180MPa以上となる高強度の鋼板(高炭素量の鋼板)を用いた場合は、継手強度が低下しやすいため、本発明はこのような高強度の鋼板を用いる場合に、特に有利である。
【0063】
なお、第2の鋼材として、めっき鋼板や塗装鋼板などの表面処理鋼板を用いてもよい。
また、第2の鋼材として用い得る鋼板は、少なくとも接合対象部分が板状の構造を有していればよく、鋼板全体が板状の構造を有していなくてもよい。
【0064】
(板材)
図8(a)および(b)に示す本発明の更に別の実施形態である接合継手10A、10Bでは、板状の第2の鋼材2B(下板)の上面に上板として板材3が重ね合わされており、第1の鋼材1の軸部やリベット状の第1の鋼材1Bの軸部11が当該板材3を貫通して、板状の第2の鋼材2Bと摩擦圧接により接合されている。なお、図8(b)に示す接合継手10Bにおいては、板材3は、リベット状の第1の鋼材1Bの頭部12と第2の鋼材2とによって挟持されている。
【0065】
板状の第2の鋼材の上面に重ね合わされる板材(上板)は、第1の鋼材(具体的には、第1の鋼材の軸部)が第2の鋼材と摩擦圧接し得るものであれば特に限定されず、例えば、樹脂板や金属板等を用いることができる。ここで、樹脂としては、例えば、CFRPが挙げられる。金属板としては、例えば、アルミニウム板やアルミニウム合金板等の軽金属板、鋼板などが挙げられる。板材と第2の鋼材の間もしくは、複数の板材の間には接着剤が塗布されていてもよい。即ち、接合継手は、第2の鋼材と板材との間に配された接着剤をさらに備えてもよい。さらに、接合継手は、板材の枚数が2以上である場合に、板材の間に配された接着剤をさらに備えてもよい。
さらに、摩擦圧接と、別の種類の接合手段との両方によって、第2の鋼材と板材とが接合されていてもよい。即ち接合継手は、板材と、第2の鋼材とを接合する、別の接合手段をさらに有してもよい。別の接合手段として、スポット溶接部、レーザー溶接部、及びアーク溶接部からなる群から選択される一種以上の溶接部が例示される。
なお、このような板材は、同種または異種の板材を複数枚重ね合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明の接合継手は、このような多種多様の板材(上板)を含むものであっても、第1の鋼材と第2の鋼材(下板)の摩擦圧接部(接合部)の継手強度が優れることから、板材(上板)と第2の鋼材(下板)の継手として優れた継手強度を発揮することができる。
【0067】
なお、板材(上板)として鋼板を用いる場合は、第1の鋼材と第2の鋼材(下板)との摩擦圧接をより確実に行わせるために、下板となる第2の鋼材の鋼板よりも引張強度が低い鋼板を、板材(上板)として用いることが好ましい。
【0068】
また、板材においても、少なくとも接合対象部分が板状の構造を有していればよく、板材全体が板状の構造を有していなくてもよい。
【0069】
さらに、板材は、接合強度や接合精度などの点から、第1の鋼材が貫通する予定の箇所に、貫通孔を有していてもよい。なお、板材が複数枚の場合は、すべての板材がこのような貫通孔を有していてもよく、一部の板材のみが貫通孔を有していてもよい。
なお、板材に貫通孔を設ける場合、当該貫通孔の直径は、摩擦圧接の際に第1の鋼材の軸部が貫通できれば、第1の鋼材の軸部の直径よりも大きくても、小さくてもよい。
【0070】
例えば、図8(a)に示す実施形態では、接合継手10Aは、円柱状または多角柱状の軸部を有する棒状の第1の鋼材1と、板状の第2の鋼材2B(下板)と、樹脂板または金属板からなる板材3(上板)と、によって構成されていて、かかる接合継手10Aは、板状の第2の鋼材2Bの上面に板材3が重ね合わされて、その上方側から棒状の第1の鋼材1が板材3を貫通して、第1の鋼材1の下方側先端部(底面)と板状の第2の鋼材2Bとが摩擦圧接により接合されている。
一方、図8(b)に示す実施形態では、接合継手10Bは、円柱状または多角柱状の軸部11および当該軸部11よりも断面径が大きい頭部12を有するリベット状の第1の鋼材1Bと、板状の第2の鋼材2B(下板)と、リベット状の第1の鋼材1Bの軸部11が貫通する箇所に、軸部11よりも小さい直径を有する貫通孔31Bが設けられた板材3(上板)と、によって構成されていて、かかる接合継手10Bは、板状の第2の鋼材2Bの上面に板材3が重ね合わされて、その上方側からリベット状の第1の鋼材1Bの軸部11が板材3の貫通孔31B内を貫通して、リベット状の第1の鋼材1Bの軸部11の下方側先端部(底面)と板状の第2の鋼材2Bとが摩擦圧接により接合されている。
【0071】
また、本発明においては、第1の鋼材および第2の鋼材の接合対象面側の軸部先端が、円錐形状や角錐形状を有していてもよく、あるいは、球面形状のような曲面を有していてもよい。ここで、図9は、本発明の接合継手に用い得る第1の鋼材の例として、接合対象面側の軸部先端が円錐形状である場合の第1の鋼材を模式的に示し、図10は、第1の鋼材の他の例として、接合対象面側の軸部先端が球面形状である場合の第1の鋼材を模式的に示す。
なお、鋼材の接合対象面側の軸部先端がこのような立体形状(すなわち、円錐形状や角錐形状、球面形状などの形状)を有している場合、接合対象面の面積は、軸部先端の立体形状部近傍における軸部の径方向の断面積(図9における円錐形状部近傍および図10における球面形状部近傍の符号14で示す位置で切断した場合の断面積)を指す。
また、軸部先端の形状がこのような立体形状の場合、当該立体形状の頂点16の位置は、図9および図10に示すように、軸部の中心軸線15上にあることが望ましい。頂点の位置が軸部の中心軸線15上にあると、安定して摩擦熱を発生させることができ、摩擦圧接が行いやすくなる。
【0072】
これらの実施形態の接合継手10A、10Bにおいても、棒状の第1の鋼材1またはリベット状の第1の鋼材1Bよりも接合対象面の面積が大きい板状の第2の鋼材2Bが、接合部Pにおいて二相域に加熱された二相域加熱部Pを有し、さらに、この二相域加熱部Pには複数の針状軟質相Pが分散しているため、上述の接合継手10と同様に局所的なひずみ集中が緩和され、優れた継手強度を発揮することができる。
【0073】
本発明の別の態様に係る自動車用部材は、上述された実施形態に係る接合継手を有する。これにより、本実施形態に係る自動車用部材は、継手強度に優れる。自動車用部材の種類は特に限定されない。本実施形態に係る自動車用部材の例として、バンパーリンフォース(図11及び図12参照)、Aピラー(図13参照)、Bピラー(図13図15参照)、又はバッテリーケース、ルーフレール、サイドシル、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、トンネルリンフォースを挙げることができる。自動車フロアを構成する部材を、本実施形態に係る自動車用部材としてもよい。
図11及び図12は、バンパーリンフォースの斜視図及び断面図である。バンパーリンフォースは、平板形状を有するアウターリンフォースと、ハット型形状を有するインナリンフォースと、これらをフランジ部で接合する接合部とから構成される。本実施形態に係るバンパーリンフォースでは、接合部の位置が第1の鋼材1の位置に相当し、インナリンフォースが第2の鋼材2に相当し、アウターリンフォースが板材3に相当する。本実施形態に係るバンパーリンフォースでは、第1の鋼材1は、板材3たるアウターリンフォースを貫通して、第2の鋼材2たるインナリンフォースと摩擦圧接により接合されている。
図13は、ルーフレールおよび、Aピラー、およびBピラーを模式的に示す図である。図14は、これらのうちBピラーのみを示す斜視図であり、図15は、BピラーのXIII-XIII断面図である。これらの図に例示されるBピラーは、2つの突部を有するインナリンフォースと、ハット型形状を有するアウターリンフォースとが、フランジ部で接合された構成を有する。また、このBピラーは、アウターリンフォースの内面に沿って配されて、アウターリンフォースと接合されたヒンジリンフォースをさらに有する。
これらの図に例示されるBピラーは、フランジ部、及び内部において、2つの接合継手構造を有している。フランジ部においては、接合部の位置が第1の鋼材1の位置に相当し、アウターリンフォースが第2の鋼材2に相当し、インナリンフォースが板材3に相当する。フランジ部においては、第1の鋼材1は、板材3たるインナリンフォースを貫通して、第2の鋼材2たるアウターリンフォースと摩擦圧接により接合されている。また、内部においては、接合部の位置が第1の鋼材1の位置に相当し、アウターリンフォースが第2の鋼材2に相当し、ヒンジリンフォースが板材3に相当する。フランジ部においては、第1の鋼材1は、板材3たるヒンジリンフォースを貫通して、第2の鋼材2たるアウターリンフォースと摩擦圧接により接合されている。
また、これらの図に例示されるBピラーは、さらにスポット溶接部4を有している。このように、本実施形態に係る接合継手の構造と、スポット溶接部とを併用することも当然ながら妨げられない。
なお、本発明の接合継手及び自動車用部材は、上述した各実施形態や後述する実施例等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。
【実施例
【0074】
以下、本発明の発明例及び比較例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこのような発明例のみに限定されるものではない。
【0075】
第1の鋼材として1000MPa級の鋼製の丸棒(直径4.5mm、長さ7mm)を用い、第2の鋼材として下記の表1に示す炭素量の異なる鋼板(板厚は、すべて1.6mm)を用いて、摩擦圧接により第1の鋼材と第2の鋼材とを接合し、本発明の発明例1~5および比較例1~4の接合継手を作製した。
【0076】
なお、第2の鋼材として用いた鋼板の主な組織は、以下のようにして作製した。
ベイナイト主体の組織は、鋼板を900℃に加熱した後にベイナイト変態可能な温度(約400℃)まで冷却し、更にその温度で500秒保持した後、急冷することで作製した。
また、マルテンサイト主体の組織は、鋼板を900℃に加熱した後に金型冷却によって急冷することで作製した。
さらに、マルテンサイト+フェライト主体の組織(マルテンサイトとフェライトの2つの相の合計の組織が主な組織)は、冷延後の鋼板をフェライトとオーステナイトの二相域に加熱した後、金型冷却により急冷することで作製した。このマルテンサイト+フェライト主体の組織に関しては、走査型電子顕微鏡により断面観察し、マルテンサイトの面積率を求め、これをマルテンサイト分率として求めた。
【0077】
作製した発明例1~5および比較例1~4の接合継手を用いて、軟質相(フェライト相)形状と継手強度との関係について検証した。
なお、摩擦圧接の条件は、いずれも回転数7000rpm、加圧力7kN、押込み量1.5mmとした。
【0078】
接合継手の第2の鋼材の接合部における二相域加熱部の軟質相形状は、図4に示すように、接合継手の接合部断面において、鋼製の丸棒(第1の鋼材)の直径(第1の鋼材の幅d=4.5mm)に対する5種類の所定幅、0.45mm(=0.1d)、1.35mm(=0.3d)、2.25mm(=0.5d)、3.15mm(=0.7d)および4.05mm(=0.9d)に対応する各位置から丸棒の軸方向に延びる各延長線上の、二相域加熱部内の5箇所の測定点P0.1、P0.3、P0.5、P0.7およびP0.9で、走査型電子顕微鏡を用いて上記のアスペクト比(長辺/短辺)を算出した。そして、各測定箇所の平均アスペクト比を算出し、3箇所以上の測定点で平均アスペクト比が4.0以上であった場合に、表1に示す「軟質相形状」を「針状」とした。一方、3箇所以上の測定点で平均アスペクト比が4.0未満であった場合に「非針状」とした。なお、アスペクト比を算出する対象とする軟質相は、当該軟質相の断面形状の外縁線に外接する長方形の長辺の長さが1μm以上の軟質相とし、また、観察視野の外縁に接触している軟質相は測定の対象外とした。
また、上記5箇所の測定点それぞれにおける軟質相の平均アスペクト比の測定結果、および上記5箇所の測定点それぞれにおいて平均アスペクト比を算出した軟質相の個数を、表1に示す。さらに、上記平均アスペクト比の5箇所の測定点での平均値、及び上記軟質相の個数の5箇所の測定点での平均値を、表1に示す。
【0079】
また、接合継手の継手強度は、上記の発明例1~5および比較例1~4で用いた鋼板と同じ鋼板および同じ接合条件により作製した接合継手を用いて、それぞれの継手強度を測定した。具体的には、接合継手の継手強度は、接合した丸棒を鋼板から垂直方向に引っ張ることで接合部を破断させた際の最大荷重(kN)を測定した。
なお、鋼板の炭素量、軟質相形状および継手強度の測定結果は、以下の表1に示すとおりである。
【0080】
【表1】
【0081】
図16に、炭素量と継手強度の関係を示す。図16に示すように、同じ炭素量における発明例と比較例を比べると鋼板(第2の鋼材)の接合部の二相域加熱部における軟質相形状が「針状」であり、平均アスペクト比が4.0以上である発明例の接合継手においては、同じ炭素量で軟質相形状が「非針状」である比較例の接合継手よりも高い継手強度を示した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、複数の鋼材が摩擦圧接によって接合された接合継手において、優れた継手強度を得ることができるため、例えば、自動車の車体部品や建築物の構造体などの様々な構造部品の製造に適用することが可能である。
したがって、本発明は、産業上の利用可能性が高いものである。
【符号の説明】
【0083】
1 第1の鋼材
2 第2の鋼材
3 板材
4 スポット溶接部
接合部
焼入れ部
二相域加熱部
焼戻し部
針状軟質相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
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図12
図13
図14
図15
図16