(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】巻鉄心
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20230307BHJP
【FI】
H01F27/245 157
(21)【出願番号】P 2023501763
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2022037138
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2021163557
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】水村 崇人
(72)【発明者】
【氏名】茂木 尚
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-109533(JP,A)
【文献】特開2019-117155(JP,A)
【文献】登録実用新案第3081863(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/245
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に中空部を有し、長手方向に平面部と屈曲部とが交互に連続する方向性電磁鋼板が板厚方向に積み重ねられた部分を含む巻鉄心であって、個別に折り曲げ加工された前記方向性電磁鋼板を層状に積み重ねて巻回状態に組み付けることにより、前記屈曲部を含む4つのコーナー部を有する矩形状に形成され、一巻ごとに少なくとも1箇所の接合部を介して複数枚の方向性電磁鋼板が互いに接続され、前記各コーナー部の前記屈曲部による曲げ角度の合計が90度である巻鉄心において、
前記各方向性電磁鋼板の対応する屈曲部同士が板厚方向に層状に積み重ねられることにより1つの屈曲領域が形成され、
前記巻鉄心の側面視において、複数ある前記コーナー部の前記屈曲領域のうちの少なくとも任意の1つに関し、層状に積み重ねられる複数の前記方向性電磁鋼板のうち最も内側に位置される方向性電磁鋼板における、前記平面部の内側表面に沿って前記コーナー部へと延びる延在線と、前記コーナー部を形成する前記屈曲部間の前記平面部の内側表面に沿って延びる延在線との交点をP、層状に積み重ねられる複数の前記方向性電磁鋼板のうち最も外側に位置される方向性電磁鋼板における、前記平面部の外側表面に沿って前記コーナー部へと延びる延在線と、前記コーナー部を形成する前記屈曲部間の前記平面部の外側表面に沿って延びる延在線との交点をQ、前記点Pを通るとともに前記コーナー部へと延びる前記各方向性電磁鋼板の延在方向に対して垂直な方向に延びる直線が前記最も外側の方向性電磁鋼板の外側表面と交わる点をRとすると、直線PQと直線PRとが成す角θが、23°≦θ≦50°を満たすことを特徴とする巻鉄心。
【請求項2】
前記巻鉄心の厚さ方向に隣接する2枚の前記方向性電磁鋼板を対比した場合に、前記コーナー部を形成する前記屈曲部間の前記平面部の長さが異なっていることを特徴とする、請求項1記載の巻鉄心。
【請求項3】
最も内側に位置される前記方向性電磁鋼板から数えてm枚目の前記方向性電磁鋼板の長さと(m+1)枚目の方向性電磁鋼板の長さとの差分を△L
mとし、全てのmについて△L
mを平均した値を<△L>としたときに、<△L>が以下の数式(1)を満たすことを特徴とする、請求項2記載の巻鉄心。
<△L>=10×t×{(πθ/180)
3+(πθ/180)} (1)
前記数式(1)において、tは前記各方向性電磁鋼板の厚さである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻鉄心に関する。
本願は、2021年10月4日に、日本に出願された特願2021-163557号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
トランスの鉄心には積鉄心と巻鉄心とがある。そのうち、巻鉄心は、一般に、方向性電磁鋼板を層状に積み重ねて、ドーナツ状(巻回形状)に巻回し、その後、その巻回体を加圧してほぼ角型に成形することにより製造される(本明細書中では、このようにして製造される巻鉄心をトランココアと称する場合がある)。この成形工程によって方向性電磁鋼板全体に機械的な加工歪(塑性変形歪)が入り、その加工歪が方向性電磁鋼板の鉄損を大きく劣化させる要因となるため、歪取り焼鈍を行なう必要がある。
【0003】
一方、巻鉄心の別の製造方法として、巻鉄心のコーナー部となる鋼板の部分を曲率半径が3mm以下の比較的小さな屈曲領域が形成されるように予め曲げ加工し、当該曲げ加工された鋼板を積層して巻鉄心とする、特許文献1及び引用文献2に開示されるような技術が開示されている(本明細書中では、このようにして製造される巻鉄心をユニコア(登録商標)と称する場合がある)。当該製造方法によれば、従来のような大掛かりな成形工程が不要で、鋼板は精緻に折り曲げられて鉄心形状が保持され、加工歪も曲げ部(角部)のみに集中するため上記焼鈍工程による歪除去の省略も可能となり、工業的なメリットは大きく(例えば、設備投資も容易)適用が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-148036号公報
【文献】特開2015-141930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ユニコアのコーナー部となる鋼板の部分を鋼板折り曲げ加工により曲げ成形する際には、折り曲げ部に歪が導入される。そのため、コアを未焼鈍で使用する際には、折り曲げ部及びその周辺部において歪が残留したままとなり、コア鉄損(鉄心の損失)が劣位になる問題があった。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、未焼鈍で使用する場合でも低鉄損な巻鉄心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、中心に中空部を有し、長手方向に平面部と屈曲部とが交互に連続する方向性電磁鋼板が板厚方向に積み重ねられた部分を含む巻鉄心であって、個別に折り曲げ加工された前記方向性電磁鋼板を層状に積み重ねて巻回状態に組み付けることにより、前記屈曲部を含む4つのコーナー部を有する矩形状に形成され、一巻ごとに少なくとも1箇所の接合部を介して複数枚の方向性電磁鋼板が互いに接続され、前記各コーナー部の前記屈曲部による曲げ角度の合計が90度である巻鉄心において、前記各方向性電磁鋼板の対応する屈曲部同士が板厚方向に層状に積み重ねられることにより1つの屈曲領域が形成され、前記巻鉄心の側面視において、複数ある前記コーナー部の前記屈曲領域のうちの少なくとも任意の1つに関し、層状に積み重ねられる複数の前記方向性電磁鋼板のうち最も内側に位置される方向性電磁鋼板における、前記平面部の内側表面に沿って前記コーナー部へと延びる延在線と、前記コーナー部を形成する前記屈曲部間の前記平面部の内側表面に沿って延びる延在線との交点をP、層状に積み重ねられる複数の前記方向性電磁鋼板のうち最も外側に位置される方向性電磁鋼板における、前記平面部の外側表面に沿って前記コーナー部へと延びる延在線と、前記コーナー部を形成する前記屈曲部間の前記平面部の外側表面に沿って延びる延在線との交点をQ、前記点Pを通るとともに前記コーナー部へと延びる前記各方向性電磁鋼板の延在方向に対して垂直な方向に延びる直線が前記最も外側の方向性電磁鋼板の外側表面と交わる点をRとすると、直線PQと直線PRとが成す角θが、23°≦θ≦50°を満たすことを特徴とする。
【0008】
ここで、本発明において、点P,Q,Rは、具体的には、
図13に示されるように、長手方向に平面部4(4a)と屈曲部5とが交互に連続する方向性電磁鋼板1が板厚方向に積み重ねられた部分を含む巻鉄心を紙面100の上に置き、例えば鉛筆やマジックペン等の筆記具を用い、巻鉄心の側面視(
図13に示される視野方向)において、複数あるコーナー部3の屈曲領域5Aのうちの少なくとも任意の1つに関し、方向性電磁鋼板1の表面に沿って紙面100上に線を引いて求めていく。この場合、筆記具は、紙面100の色とは異なる色のものを用い、紙面100上で線が認識できるようにする。なお、
図13の(a)は、4つあるコーナー部3のうちの1つの周辺における巻鉄心の部位を側面視で示しており、また、
図13の(b)は、各方向性電磁鋼板1の対応する屈曲部5同士が板厚方向に層状に積み重ねられることにより1つの屈曲領域5Aが形成されることを明確に示している。
【0009】
点P,Q,Rのより具体的な求め方としては、まず最初に、層状に積み重ねられる複数の方向性電磁鋼板1のうち最も外側に位置される方向性電磁鋼板1aにおいて、その平面部4の外側表面に沿ってコーナー部3へと延びる延在線L’1を筆記具で紙面100上に描く。また、同じ方向性電磁鋼板1aにおいて、コーナー部3を形成する屈曲部5,5間の平面部4aの外側表面に沿って延びる延在線L’2を筆記具で紙面100上に描く。そして、延在線L’1と延在線L’2との交点をQとする。一方、層状に積み重ねられる複数の方向性電磁鋼板1のうち最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bにおいて、その平面部4の内側表面に沿ってコーナー部3へと延びる延在線L’3を筆記具で紙面100上に描く。また、同じ方向性電磁鋼板1bにおいて、コーナー部3を形成する屈曲部5,5間の平面部4aの内側表面に沿って延びる延在線L’4を筆記具で紙面100上に描く。そして、延在線L’3と延在線L’4との交点をPとする。なお、「内側表面」とは、巻き鉄芯の内側に面する表面のことであり、「外側表面」とは、巻き鉄芯の外側に面する表面のことである。
【0010】
また、点Rは、点Pを通るとともにコーナー部3へと延びる各方向性電磁鋼板1の延在方向に対して垂直な方向に延びる直線L’5が最も外側の方向性電磁鋼板1aの外側表面と交わる点として規定する。そして、角度θは、直線PQと直線PRとが成す角度であり、本発明では、23°≦θ≦50°に設定される。
なお、同じコーナー部3を構成する他の屈曲領域(5A)に関して点(P),(Q),(R)を求める場合も以上と同様にして行なう。
【0011】
本発明者らは、ユニコアの形態を成す巻鉄心において、ユニコアのコーナー部となる鋼板の部分を鋼板折り曲げ加工により曲げ成形する際には、折り曲げ部となる屈曲部に歪が導入されて、この歪によりコア鉄損が劣位になるという実情を踏まえ、コア鉄損が劣位になる一因として、屈曲部を含むコーナー部の形態に着目し、角度θが小さく設定されてコーナー部が巻鉄心の内側に引き込んだ状態にあると、すなわち、例えば
図12に示されるように、角度θが22.5度(従来において一般的な角度)に設定されて(
図12には、θ=22.5度を規定する最も外側の方向性電磁鋼板1aの屈曲部における前記交点がQ’で示される)コーナー部3を形成する屈曲部5,5間の平面部4aが破線で示されるように幅D1(小さい厚みT1)で延びると、
図11に示されるように巻鉄心中で流れる磁束80がコーナー部3で曲がりきれずに外側に飛び出して空気中に漏れ、鉄損が悪化するのに対し、角度θを22.5度よりも大きく設定してコーナー部を巻鉄心の外側に突き出させるようにすると、すなわち、例えば
図12に示されるように、角度θを22.5度よりも大きく設定して、コーナー部3を形成する屈曲部5,5間の平面部4aが実線で示されるように幅D2(大きい厚みT2)で延びるようにすると、空気中に飛び出す前記磁束80が減少して鉄損が良好になるという知見を得た。
【0012】
そして、本発明者らは、コーナー部の外側への突き出し度合い関し、鋭意検討した結果、各方向性電磁鋼板の対応する屈曲部同士が板厚方向に層状に積み重ねられることにより形成されるコーナー部の複数ある屈曲領域のうちの少なくとも任意の1つに関し、層状に積み重ねられる複数の方向性電磁鋼板のうち最も内側に位置される方向性電磁鋼板における、平面部の内側表面に沿ってコーナー部へと延びる延在線と、コーナー部を形成する屈曲部間の平面部の内側表面に沿って延びる延在線との交点をP、層状に積み重ねられる複数の方向性電磁鋼板のうち最も外側に位置される方向性電磁鋼板における、平面部の外側表面に沿ってコーナー部へと延びる延在線と、コーナー部を形成する屈曲部間の平面部の外側表面に沿って延びる延在線との交点をQ、点Pを通るとともにコーナー部へと延びる各方向性電磁鋼板の延在方向に対して垂直な方向に延びる直線が最も外側の方向性電磁鋼板の外側表面と交わる点をRとしたときに、直線PQと直線PRとが成す角θが、23°≦θ≦50°を満たすようにして、コーナー部の外側への突き出し度合いを最適化すると、コーナー部で空気中に飛び出す磁束を効果的に減少させて鉄損を低く抑えることができることを突き止めた。
【0013】
ここで、θが23°を下回ると、巻鉄心中で流れる磁束がコーナー部で曲がりきれずに外側に飛び出すような状態にコーナー部が巻鉄心の内側に向けて引き込んだ(沈んだ)形態となって、磁束が空気中に漏れ、鉄損が悪化する。これに対し、θを23°以上に大きくしていくと、巻鉄心中で流れる磁束を閉じ込めるようにコーナー部が外側に膨出していくため、空気中に飛び出す磁束が減少し、鉄損が良好になる。一方、θが50°を上回ると、各方向性電磁鋼板においてその隣り合う屈曲部同士の間の間隔(平面部を挟んで隣り合う屈曲部同士の間の間隔)が狭くなり、それに伴って、曲げ歪により形状が歪んだ屈曲部及びその周辺部同士が同じ方向性電磁鋼板において近接するのみならず、板厚方向で積み重ねられる別個の方向性電磁鋼板間においても形状が歪んだ屈曲部及びその周辺部同士が密に接触することとなり、結果として、歪みの積層により弾性応力が大きくなり、鉄損が劣位になる。さらには、騒音が大きくなる。
【0014】
このように、少なくとも任意の1つのコーナー部における少なくとも任意の1つの屈曲領域に関し、直線PQと直線PRとが成す角θが23°≦θ≦50°を満たすようにして、コーナー部の最適な外側膨出形態を実現すると、コアを未焼鈍で使用する場合であっても、残留歪が少ないコア(鉄損劣化の小さいコア)を得ることができるようになる。
【0015】
なお、本発明において、23°≦θ≦50°という条件は、少なくとも任意の1つのコーナー部における少なくとも任意の1つの屈曲領域で満たされていればよいが、巻鉄心に存在する可能な限り多くの屈曲領域で満たされることが好ましく、巻鉄心に存在する全ての屈曲領域で満たされていることが更に好ましい。これに関し、例えば、1つのコーナー部に3つ以上の屈曲領域が存在する場合には、少なくとも、コーナー部へと延びる各方向性電磁鋼板がコーナー部において最初に屈曲部を形成する屈曲領域で、23°≦θ≦50°という条件が満たされていればよい。
【0016】
また、巻鉄心の厚さ方向に隣接する2枚の方向性電磁鋼板を対比した場合に、コーナー部を形成する屈曲部間の平面部の長さが異なっていることが好ましい。例えば、コーナー部を形成する屈曲部間の平面部が、外側に向かうほど長くなっていることが好ましい。すなわち、最も内側に位置される方向性電磁鋼板から外側にm枚目(mは1~M-1の整数。Mは最外層の方向性電磁鋼板を示す。)に積層される方向性電磁鋼板の長さと(m+1)枚目に積層される方向性電磁鋼板の長さとを比較した場合に、(m+1)枚目の方向性電磁鋼板は、m枚目の方向性電磁鋼板よりも長くなることが好ましい。この条件が満たされる場合、方向性電磁鋼板を積層する作業が容易になる。つまり、m枚目の方向性電磁鋼板の外側に(m+1)枚目の方向性電磁鋼板をはめ込みやすくなる。
【0017】
さらに、m枚目の方向性電磁鋼板の長さと(m+1)枚目の方向性電磁鋼板の長さとの差分を△Lmとし、全てのmについて△Lmを平均した値を<△L>としたときに、<△L>が以下の数式(1)を満たすことが好ましい。
<△L>=10×t×{(πθ/180)3+(πθ/180)} (1)
数式(1)において、tは各方向性電磁鋼板の厚さである。数式(1)が満たされる場合、全てのコーナー部においてθが同一であり、tは全ての方向性電磁鋼板で同一であるものとする。この条件が満たされる場合、巻鉄心の騒音が低減される。
【0018】
方向性電磁鋼板の厚さtの評価方法については、以下の通りとする。ユニコア作製時に使用した方向性電磁鋼板から、長手方向に30mm以上、巾方向に30mm以上の寸法の単板を10枚切り出し、これら10枚を積層してマイクロメータ(Mitutoyo製 高精度デジマチックマイクロメータ MDH―25MB)を用いて積層体の総厚さを測定する。測定は以下の方法で行う。すなわち、積層体の10箇所で積層体の厚さを測定し、最も大きい値の1/10を方向性電磁鋼板の厚さtと定義する。長手方向に30mm以上、巾方向に30mm以上の寸法の単板については、ユニコアから採取しても構わない。この場合、屈曲部を除いた平面部から採取するが、先に鋼板切断用のハサミ等で屈曲部を落としておくことが望ましい。長手方向30mm以上、巾方向30mm以上の寸法の単板を切り出すためにはせん断機を使用するが、当該単板の寸法精度を担保して切り出すため、方向性電磁鋼板の公称板厚がせん断機の仕様の範囲内であることが必要であり、該せん断機として例えば相澤鐵工製の精密せん断機で型式がABH―512が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、未焼鈍で使用する場合でも低鉄損な巻鉄心を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る巻鉄心を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1の実施形態に示される巻鉄心の側面図である。
【
図3】本発明の他の実施の形態に係る巻鉄心を模式的に示す側面図である。
【
図4】巻鉄心を構成する1層の方向性電磁鋼板の一例を模式的に示す側面図である。
【
図5】巻鉄心を構成する1層の方向性電磁鋼板の他の一例を模式的に示す側面図である。
【
図6】本発明の巻鉄心を構成する方向性電磁鋼板の屈曲部の一例を模式的に示す側面図である。
【
図7】(a)本発明に係る巻鉄心を製造するための製造装置の折り曲げ加工部の概略的な全体図、(b)は(a)の折り曲げ加工部の加工機の概略的な詳細斜視図である。
【
図8】ユニコアの形態を成す本発明に係る巻鉄心の製造装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図9】1つのコーナー部が2つの屈曲部を有する場合の23°≦θ≦50°設定のための鋼板の長さ制御を説明するための図である。
【
図10】1つのコーナー部が3つの屈曲部を有する場合の23°≦θ≦50°設定のための鋼板の長さ制御を説明するための図である。
【
図11】巻鉄心中で流れる磁束がコーナー部で曲がりきれずに外側に飛び出して空気中に漏れている状態を示す、巻鉄心の4つあるコーナー部のうちの1つの周辺における部位を側面視で示す概略図である。
【
図12】
図11の状態から巻鉄心中で流れる磁束を閉じ込めるようにコーナー部を外側に膨出させた状態を示す、巻鉄心の4つあるコーナー部のうちの1つの周辺における部位を側面視で示す概略図である。
【
図13】巻鉄心の4つあるコーナー部のうちの1つの周辺における部位を側面視で示す概略図であり、角度θの規定の仕方を示す図である。
【
図14】特性評価の際に製造した巻鉄心の寸法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態に係る巻鉄心について順に詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。なお、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」又は「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。また、化学組成に関する「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「垂直」、「同一」、「直角」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
また、本明細書において「方向性電磁鋼板」のことを単に「鋼板」又は「電磁鋼板」と記載し、「巻鉄心」のことを単に「鉄心」と記載する場合もある。
【0022】
本発明の一実施の形態に係る巻鉄心は、側面視において略矩形状の巻鉄心本体を備える巻鉄心であって、該巻鉄心本体は、長手方向に平面部と屈曲部とが交互に連続した方向性電磁鋼板が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略多角形状の積層構造を有する。前記屈曲部の側面視における内面側曲率半径rは、例えば、1.0mm以上5.0mm以下である。前記方向性電磁鋼板は、一例として、質量%で、Si:2.0~7.0%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、Goss方位に配向する集合組織を有する。
【0023】
次に、本発明の一実施の形態に係る巻鉄心及び方向性電磁鋼板の形状について具体的に説明する。ここで説明する巻鉄心及び方向性電磁鋼板の形状自体は、特に目新しいものではなく、公知の巻鉄心及び方向性電磁鋼板の形状に準じたものに過ぎない。
図1は、巻鉄心の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1の実施形態に示される巻鉄心の側面図である。また、
図3は、巻鉄心の別の一実施形態を模式的に示す側面図である。
なお、本発明において側面視とは、巻鉄心を構成する長尺状の方向性電磁鋼板の幅方向(
図1におけるY軸方向)に視ることをいい、側面図とは側面視により視認される形状を表わした図(
図1のY軸方向の図)である。
【0024】
本発明の一実施の形態に係る巻鉄心は、側面視において略多角形状の巻鉄心本体を備える。当該巻鉄心本体は、方向性電磁鋼板が、板厚方向に積み重ねられ、側面視において略矩形状の積層構造を有する。当該巻鉄心本体を、そのまま巻鉄心として使用してもよいし、必要に応じて積み重ねられた複数の方向性電磁鋼板を一体的に固定するために、結束バンド等、公知の締付具等を備えていてもよい。
【0025】
本実施の形態において、巻鉄心本体の鉄心長に特に制限はないが、鉄心において鉄心長が変化しても、屈曲部体積は一定であるため屈曲部で発生する鉄損は一定であり、鉄心長が長いほうが屈曲部の体積率は小さくなるため、鉄損劣化への影響も小さいことから1.5m以上であることが好ましく、1.7m以上であるとより好ましい。なお、本発明において、巻鉄心本体の鉄心長とは、側面視による巻鉄心本体の積層方向の中心点における周長をいう。
【0026】
このような巻鉄心は、従来公知のいずれの用途にも好適に用いることができる。
【0027】
本実施の形態に係る鉄心は、側面視において略多角形状であることを特徴とする。以下の図を用いた説明においては、図示及び説明を単純にするため、一般的な形状でもある略矩形状(四角形)の鉄心で説明するが、屈曲部の角度や数、平面部の長さによって、様々な形状の鉄心が製造可能である。例えば、全ての屈曲部の角度が45°で平面部の長さが等しければ、側面視は八角形になる。また、角度が60°で6個の屈曲部を有し、平面部の長さが等しければ側面視は六角形となる。
図1及び
図2に示されるように、巻鉄心本体10は、長手方向に平面部4と屈曲部5とが交互に連続する方向性電磁鋼板1が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において中空部15を有する略矩形状の積層構造2を有する。屈曲部5を含むコーナー部3は、側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部5を2つ以上有しており、1つのコーナー部3に存在する屈曲部5のそれぞれの曲げ角度の合計が例えば90°となっている。コーナー部3は、隣り合う屈曲部5,5間に、前記平面部4よりも短い平面部4aを有している。したがって、コーナー部3は、2以上の屈曲部5と、1つ以上の平面部4aとを有する形態となっている。なお、
図2の実施形態は1つの屈曲部5が45°である(1つのコーナー部3に2つの屈曲部5を有する)。
図3の実施形態は1つの屈曲部5が30°である(1つのコーナー部3に3つの屈曲部5を有する)。
【0028】
これらの例に示されるように、本実施の形態の鉄心は、様々な角度を有する屈曲部により構成できるが、加工時の変形による歪み発生を抑制して鉄損を抑える点からは、屈曲部5の曲げ角度φ(φ1、φ2、φ3)は60°以下であることが好ましく、45°以下であることがより好ましい。1つの鉄心が有する屈曲部の曲げ角度φは任意に構成することが可能である。例えば、φ1=60°且つφ2=30°とすることができる。生産効率の点からは折り曲げ角度が等しいことが好ましく、ある一定以上の変形箇所を少なくすれば用いる鋼板の鉄損により作成する鉄心の鉄損を小さくできる場合は、異なる角度の組み合わせの加工としてもよい。設計は鉄心加工にて重視するポイントから任意に選択することができる。
【0029】
図6を参照しながら、屈曲部5について更に詳細に説明する。
図6は、方向性電磁鋼板1の屈曲部(曲線部分)5の一例を模式的に示す図である。屈曲部5の曲げ角度とは、方向性電磁鋼板屈曲部において、折り曲げ方向の後方側の直線部と前方側の直線部との間に生じた角度差を意味し、方向性電磁鋼板1の外面において、屈曲部5を挟む両側の平面部4の表面である直線部分を延長して得られる2つの仮想線Lb-elongation1、Lb-elongation2がなす角の補角の角度φとして表わされる。この際、延長する直線が鋼板表面から離脱する点が、鋼板外面側の表面における平面部と屈曲部の境界であり、
図6においては、点F及び点Gである。また、2つの仮想線Lb-elongation1、Lb-elongation2の交点が点Bである。
【0030】
さらに、点F及び点Gのそれぞれから鋼板外表面に垂直な直線を延長し、鋼板内面側の表面との交点をそれぞれ点E及び点Dとする。この点E及び点Dが鋼板内面側の表面における平面部4と屈曲部5との境界である。
そして、本発明において屈曲部5とは、方向性電磁鋼板1の側面視において、上記点D、点E、点F、点Gにより囲まれる方向性電磁鋼板1の部位である。
図6においては、点Dと点Eとの間の鋼板表面、すなわち、屈曲部5の内側表面をLa、点Fと点Gとの間の鋼板表面、すなわち、屈曲部5の外側表面をLbとして示している。
【0031】
また、この図には、屈曲部5の側面視における内面側曲率半径rが表わされている。上記Laを点E及び点Dを通過する円弧で近似することで、屈曲部5の曲率半径rを得る。曲率半径rが小さいほど屈曲部5の曲線部分の曲がりは急であり、曲率半径rが大きいほど屈曲部5の曲線部分の曲がりは緩やかになる。
本発明の巻鉄心では、板厚方向に積層された各方向性電磁鋼板1の各屈曲部5における曲率半径rは、ある程度の変動を有するものであってもよい。この変動は、成形精度に起因する変動であることもあり、積層時の取り扱いなどで意図せぬ変動が発生することも考えられる。このような意図せぬ誤差は、現在の通常の工業的な製造であれば0.2mm程度以下に抑制することが可能である。このような変動が大きい場合は、十分に多数の鋼板について曲率半径を測定し、平均することで代表的な値を得ることができる。また、何らかの理由で意図的に変化させることも考えられるが、本発明はそのような形態を除外するものではない。
【0032】
なお、屈曲部5の曲率半径rの測定方法にも特に制限はないが、例えば、市販の顕微鏡(Nikon ECLIPSE LV150)を用いて200倍で観察することにより測定することができる。具体的には、観察結果から、曲率中心A点を求めるが、この求め方として、例えば、線分EFと線分DGを点Bとは反対側の内側に延長させた交点をA、点Aと点Bを直前で結んだ際に鋼板内面側との交点(円弧La上の点)をCと規定すれば、曲率半径rの大きさは、線分ACの長さに該当する。
【0033】
図4及び
図5は巻鉄心本体における1層分の方向性電磁鋼板1の一例を模式的に示す図である。
図4及び
図5の例で用いられる方向性電磁鋼板1は、ユニコア形態の巻鉄心を実現するべく、折り曲げ加工されたものであって、2つ以上の屈曲部5と、平面部4とを有し、1つ以上の方向性電磁鋼板1の長手方向(図中X方向)端面の接合部6を介して側面視において略多角形の環を形成する。
本実施の形態においては、巻鉄心本体が、全体として側面視が略多角形状の積層構造を有していればよい。
図4の例に示されるように、1つの接合部6を介して1枚の方向性電磁鋼板が巻鉄心本体の1層分を構成する(一巻ごとに1箇所の接合部6を介して1枚の方向性電磁鋼板が接続される)ものであってもよく、
図5の例に示されるように1枚の方向性電磁鋼板1が巻鉄心の約半周分を構成し、2つの接合部6を介して2枚の方向性電磁鋼板1が巻鉄心本体の1層分を構成する(一巻ごとに2箇所の接合部6を介して2枚の方向性電磁鋼板が互いに接続される)ものするものであってもよい。
【0034】
本実施の形態において用いられる方向性電磁鋼板1の板厚は、特に限定されず、用途等に応じて適宜選択すればよいものであるが、通常0.15mm~0.35mmの範囲内であり、好ましくは0.18mm~0.27mmの範囲である。
【0035】
また、方向性電磁鋼板を製造する方法は、特に限定されず、従来公知の方向性電磁鋼板の製造方法を適宜選択することができる。製造方法の好ましい具体例としては、例えば、Cを0.04~0.1質量%とし、その他は上記方向性電磁鋼板の化学組成を有するスラブを1000℃以上に加熱して熱間圧延を行った後、必要に応じて熱延板焼鈍を行ない、次いで、1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷延により冷延鋼板とし、当該冷延鋼板を、例えば湿水素-不活性ガス雰囲気中で700~900℃に加熱して脱炭焼鈍し、必要に応じて更に窒化焼鈍し、焼鈍分離剤を塗布した上で、1000℃程度で仕上げ焼鈍し、900℃程度で絶縁被膜を形成する方法が挙げられる。さらに、その後、摩擦係数を調整するための塗装などを実施しても良い。
また、一般的に例えば、レーザー照射、電子ビーム照射、ショットピーニング、超音波振動法、鋼板表面をナイフ等の金属やセラミック片等で罫書く機械加工法、鋼板表面へのイオン注入法、ドーピング法、放電加工法、メッキと熱処理を組み合わせた方法等を適用し、歪や溝等を導入した「磁区制御」と呼ばれる処理を鋼板の製造工程において公知の方法で施した鋼板であっても本発明効果を享受できる。
【0036】
また、本実施の形態において、以上のような形態を備える方向性電磁鋼板1から構成される巻鉄心(巻鉄心本体10)は、個別に折り曲げ加工された方向性電磁鋼板1を層状に積み重ねて巻回形状に組み付けることにより、屈曲部5を含む4つのコーナー部3を有する矩形状に形成され、一巻ごとに少なくとも1箇所の接合部6を介して複数枚の方向性電磁鋼板1が互いに接続され、各コーナー部3の屈曲部5による曲げ角度の合計が90度となっている。この場合、前述した
図13の(b)に示されるように、各方向性電磁鋼板1の対応する屈曲部5同士が板厚方向に層状に積み重ねられることにより1つの屈曲領域5Aが形成される(
図2も参照)。そして、このような巻鉄心(巻鉄心本体10)は、その側面視において、複数あるコーナー部3の屈曲領域5Aのうちの少なくとも任意の1つに関し、特に本実施形態では全ての屈曲領域5Aに関し、
図12に示されるように、層状に積み重ねられる複数の方向性電磁鋼板1のうち最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bにおける、平面部4の内側表面に沿ってコーナー部3へと延びる延在線L’3と、コーナー部3を形成する屈曲部5,5間の平面部4aの内側表面に沿って延びる延在線L’4との交点をP、層状に積み重ねられる複数の方向性電磁鋼板1のうち最も外側に位置される方向性電磁鋼板1aにおける、平面部4の外側表面に沿ってコーナー部3へと延びる延在線L’1と、コーナー部3を形成する屈曲部5,5間の平面部4aの外側表面に沿って延びる延在線L’2との交点をQ、点Pを通るとともにコーナー部3へと延びる各方向性電磁鋼板1の延在方向に対して垂直な方向に延びる直線L’5が最も外側の方向性電磁鋼板1aの外側表面と交わる点をRとすると、直線PQと直線PRとが成す角θが、23°≦θ≦50°を満たすことを特徴としている。これにより、平面部4での巻鉄心の一定の厚み(積層厚さ)Tに対してコーナー部3での巻鉄心の厚みT2が大きくなり、巻鉄心中で流れる磁束80を閉じ込めるようにコーナー部3が外側に膨出するようになる。なお、点P,Q,Rのより具体的な求め方については、
図13に関連して既に説明したので、ここでは繰り返し説明しない。
【0037】
このように23°≦θ≦50°を満たすように各方向性電磁鋼板1を折り曲げて巻回形状に組み付けるためには、一巻ごとに各方向性電磁鋼板1の長さ(長手方向の寸法)を変化させることが好ましい。具体的には、層状に積み重ねられる板厚tの複数の各方向性電磁鋼板1のうち最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bから外側にm枚目(mは1~M-1の整数。Mは最外層の方向性電磁鋼板を示す。)に積層される方向性電磁鋼板1の長さを、最も内側の方向性電磁鋼板1bの長さよりも、m、θ、板厚tの関数である所定の大きさだけ長くするように制御することが好ましい。この場合、(m+1)枚目の方向性電磁鋼板1は、m枚目の方向性電磁鋼板1よりも長くなる。すなわち、コーナー部3を形成する屈曲部5間の平面部4aが、外側に向かうほど長くなる。これにより、方向性電磁鋼板を積層する作業が容易になる。つまり、m枚目の方向性電磁鋼板の外側に(m+1)枚目の方向性電磁鋼板をはめ込みやすくなる。そのような制御を可能にする折り曲げ加工機52の一例が
図7に示される。
【0038】
図7の(a)に示されるように、この折り曲げ加工機52には、方向性電磁鋼板1をロール状に巻き回して形成されたフープ材を保持する鋼板供給部としてのデコイラー75から方向性電磁鋼板1が所定の搬送速度で繰り出されることによって供給される。このようにして供給された方向性電磁鋼板1は、折り曲げ加工機52において、適宜適当なサイズに切断されるとともに、1枚ずつといったように、少数枚毎に個別に折り曲げられる、折り曲げ加工を受ける。具体的に、折り曲げ加工機52は、
図7の(b)に示されるように、供給された方向性電磁鋼板1を上下から挟み込むように保持しつつ送り出す送りロール55と、そのようにして送られる方向性電磁鋼板1を適当なサイズに切断するギロチン56と、切断された方向性電磁鋼板1を折り曲げて屈曲部5を形成する屈曲形成部60とを有する。屈曲形成部60は、方向性電磁鋼板1を下側から支持するダイス59と、ダイス59上の方向性電磁鋼板1を上側から押えるパッド57と、破線矢印で示されるように所定の加工速度で所定量だけ下方に押し下げられることによりダイス59から突出する方向性電磁鋼板1の自由端を折り曲げて屈曲部5を形成するパンチ58とを有する。そして、本実施形態では、このような折り曲げ加工機52を用いて、方向性電磁鋼板1の送り長さを(例えば送りロール55の送り速度を変えるなどして)1巻きごとに変えることによって、一巻ごとに各方向性電磁鋼板1の長さ(長手方向の寸法)を変化させて、前述した23°≦θ≦50°を満たすようにし、
図12に示されるような外側に膨出するコ-ナー部3を得るようになっている。
【0039】
そのような鋼板1の長さ制御は、例えば以下のようにして行なわれる。すなわち、
図9に示されるように、1つのコーナー部3が2つの屈曲領域5Aを有する(各鋼板1が2つの屈曲部5により1つのコーナー部3を形成する)場合、1枚の鋼板1の厚さをt(ここでは、全ての鋼板1の厚さtが同一であるものとする。)とすると、1つのコーナー部3において、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bから外側にm枚目に積層される方向性電磁鋼板1の長さは、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bの長さよりも、幾何学的には2×(x+y)だけ長くなっている。したがって、コーナー部3が4つあることを考えると(ここでは、全てのコーナー部3が同一の形状を有する(θが同一である)ものとする。)、鉄心全体において、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bから外側にm枚目に積層される方向性電磁鋼板1の長さは、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bの長さよりも、幾何学的には8×(x+y)だけ長くなっている。
【0040】
ここで、(x+y)に関して、xを1辺に有する三角形PMN、及び、yを1辺に有する三角形PNSを考えると、1つのコーナー部3における屈曲領域5Aの数をn、∠SPN=αと、線分PNの長さをzとして、
θ’=(π/180)θ
x=m×t×tanθ’
y=z×sinα
が成り立つ。
ここで、
cosθ’=mt/z
α=(π/2n)-θ’
であるから、
y=z×sinα=mt×sin((π/2n)-θ’)/cosθ’
となる。
したがって、
図9では、n=2であることから、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bから外側にm枚目に積層される方向性電磁鋼板1の長さを、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bの長さよりも、8×(x+y)=8×mt(tanθ’+sin((π/4)-θ’)/cosθ’)だけ長くなるように制御して23°≦θ≦50°を満たすようにする。ただし、m=1の場合(着目している方向性電磁鋼板1が方向性電磁鋼板1bとなる場合)、方向性電磁鋼板1の長さは任意に決定される。
【0041】
一方、
図10に示されるように、1つのコーナー部3が3つの屈曲領域5Aを有する(各鋼板1が3つの屈曲部5により1つのコーナー部3を形成する)場合にも、1枚の鋼板1の厚さをtとすると、1つのコーナー部3において、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bから外側にm枚目に積層される方向性電磁鋼板1の長さは、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bの長さよりも、幾何学的には2×(x+y)だけ長くなっている。したがって、コーナー部3が4つあることを考えると、鉄心全体において、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bから外側にm枚目に積層される方向性電磁鋼板1の長さは、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bの長さよりも、幾何学的には8×(x+y)だけ長くなっている。
【0042】
ここで、(x+y)に関して、xを1辺に有する三角形PMN、及び、yを1辺に有する三角形VWZを考えると、1つのコーナー部3における屈曲領域5Aの数をn、∠ZVW=αと、線分PNの長さをzとして、
θ’=(π/180)θ
x=m×t×tanθ’
y=z×tanα
が成り立つ。
ここで、
cosθ’=mt/z
α=π/4n
であるから、
y=z×tanα=mt×tan(π/4n)/cosθ’
となる。
したがって、
図10では、n=3であることから、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bから外側にm枚目に積層される方向性電磁鋼板1の長さを、最も内側に位置される方向性電磁鋼板1bの長さよりも、8×(x+y)=8×mt(tanθ’+tan(π/12)/cosθ’)だけ長くなるように制御して23°≦θ≦50°を満たすようにする。ただし、m=1の場合(着目している方向性電磁鋼板1が方向性電磁鋼板1bとなる場合)、方向性電磁鋼板1の長さは任意に決定される。
【0043】
ここで、上述した例では、m枚目の方向性電磁鋼板1の長さを幾何学的に決定したが、他の方法によりm枚目の方向性電磁鋼板1の長さを決定してもよい。例えば、m枚目の方向性電磁鋼板1の長さと(m+1)枚目の方向性電磁鋼板1の長さとの差分を△Lmとし、全てのmについて△Lmを平均した値を<△L>としたときに、<△L>が以下の数式(1)を満たすように、m枚目の方向性電磁鋼板1の長さを決定してもよい。ただし、m=1の場合(着目している方向性電磁鋼板1が方向性電磁鋼板1bとなる場合)、方向性電磁鋼板1の長さは任意に決定される。
<△L>=10×t×{(πθ/180)3+(πθ/180)} (1)
この条件が満たされる場合、巻鉄心の騒音が低減される。
【0044】
また、以上のような鋼板長さ制御及び折り曲げ加工を伴う巻鉄心の製造を可能にする装置が
図8にブロック図で概略的に示されている。
図8は、ユニコアの形態を成す巻鉄心の製造装置70を概略的に示しており、この製造装置70は、方向性電磁鋼板1を個別に折り曲げ加工する折り曲げ加工部71を備えており、また、折り曲げ加工された方向性電磁鋼板1を層状に積み重ねて巻回形状に組み付けることにより、長手方向に平面部4と屈曲部5とが交互に連続する方向性電磁鋼板1が板厚方向に積み重ねられた部分を含む巻回形状の巻鉄心を形成する、組み付け部72を備えてもよい。
【0045】
折り曲げ加工部71には、前述したように、方向性電磁鋼板1をロール状に巻き回して形成されたフープ材を保持するデコイラー75から方向性電磁鋼板1が所定の搬送速度で繰り出されることによって供給される。このようにして供給された方向性電磁鋼板1は、折り曲げ加工部71において、適宜適当なサイズに切断されるとともに、1枚ずつといったように、少数枚毎に個別に折り曲げられる、折り曲げ加工を受ける。こうして得られた方向性電磁鋼板1では、折り曲げ加工で生じる屈曲部5の曲率半径が極めて小さくなるため、折り曲げ加工によって方向性電磁鋼板1に付与される加工歪は極めて小さいものとなる。このように、加工歪の密度が大きくなると想定される一方で、加工歪の影響がある体積を小さくすることができれば、焼鈍工程を省くことができる。
【0046】
また、折り曲げ加工部71は、前述したような鋼板長さ制御及び折り曲げ加工を伴う折り曲げ加工機52を含む。
【0047】
(実施例)
以下、本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について更に説明する。以下に示す実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した条件例であり、本発明は、この条件例に限定されるものではない。また本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
この実施例では、表1に示す方向性電磁鋼板(鋼種(鋼板No.)A~E)を用いて、表2に示す鉄心を作成し、鉄心特性を測定した。詳細な製造条件および特性を表3A~3Cに示す。
【0048】
具体的に、表1には、各鋼種A~Eに関して、方向性電磁鋼板の板厚(mm)及び磁気特性が示されている。方向性電磁鋼板の磁気特性は、JIS C 2556:2015に規定された単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)に基づいて測定した。磁気特性として、800A/mで励磁したときの鋼板の圧延方向の磁束密度B8(T)、更に、交流周波数:50Hz、励磁磁束密度:1.7Tでの鉄損(W/kg)を測定した。
【0049】
【0050】
また、本発明者らは、各鋼種A~Eを素材として、表2および
図14に示す形状を有する鉄心a-1,a-2,b-1,b-2を製造した。ここで、L1は巻鉄心の一方の互いに平行な内面側平面部間距離、L2は巻鉄心の他方の互いに平行な内面側平面部間距離、L3は巻鉄心の積層厚さ、L4は巻鉄心の積層鋼板幅、L5は巻鉄心の最内部の互いに直角に配置された平面部間距離、rは巻鉄心の内面側の屈曲部5の曲率半径(rは表2中に記さない)、φは巻鉄心の前述した屈曲部5の曲げ角度である。略矩形状の鉄心a-1は、
図2及び
図14に示されるように1つのコーナー部3における屈曲部5の個数が2つであって、
図4に示されるように1巻きごとの接合部6の数が1つである。略矩形状の鉄心a-2は、
図2及び
図14に示されるように1つのコーナー部3における屈曲部5の個数が2つであって、
図5に示されるように1巻きごとの接合部6の数が2つである。略矩形状の鉄心b-1は、
図3に示されるように1つのコーナー部3における屈曲部5の個数が3つであって、
図4に示されるように1巻きごとの接合部6の数が1つである。略矩形状の鉄心b-2は、
図3に示されるように1つのコーナー部3における屈曲部5の個数が3つであって、
図5に示されるように1巻きごとの接合部6の数が2つである。
【0051】
【0052】
そして、本発明者らは、表3A~3Cに示されるように、各鋼種(鋼板No.)A~Eを素材として製造した鉄心a-1,a-2,b-1,b-2における95個の試験品に関し、前述した折り曲げ加工法を適用して、コーナー部3の外側への突き出し度合い、すなわち、角度θを様々に変え、さらには、各層を構成する(すなわちm枚目の)方向性電磁鋼板の長さを様々に変え、鉄心の鉄損(W/kg)及び素材(鋼板)の鉄損(W/kg)に基づき鉄損比(=鉄心鉄損/素材鉄損)を測定して評価した。評価において、Dは鉄損比が1.25以上を示し、Cは鉄損比が1.17以上で1.24以下を示し、Bは鉄損比が1.15以上で1.16以下を示し、Aは鉄損比が1.14以下を示している。
【0053】
さらに、以下の方法により鉄心の騒音を評価した。すなわち、鉄心を励磁し、騒音を測定した。この騒音測定は暗騒音が16dBAの無響室内で、騒音計を鉄心表面から0.3mの位置に設置し、聴感補正としてA特性を使用して行った。また励磁では周波数を50Hz、磁束密度を1.7Tとした。結果を表3A~3Cに示す。
【0054】
表3A~3Cにおいて、試験No.2-a、5-a、6-a、7-a、14-a、15-a、17-a、20-a、21-a、25-a、27-a、30-a、32-a、35-a、37-a、39-a、42-a、45-a、47-a、48-a、49-a、50-a、51-a、52-a、54-a、57-a、59-a、64-aでは、m枚目の方向性電磁鋼板の長さを幾何学的に(すなわち
図9に示すように)決定した。他の試験No.では、m枚目の方向性電磁鋼板の長さを、数式(1)が満たされるように決定した。すなわち、m枚目の方向性電磁鋼板の長さと(m+1)枚目の方向性電磁鋼板の長さとの差分の全平均値<△L>を求め、<△L>が数式(1)を満たすようにm枚目の方向性電磁鋼板の長さL
mを調整した。結果を表3A~3Cに示す。
【0055】
各方向性電磁鋼板(m枚目の方向性電磁鋼板)の長手方向の長さLmを所望の値にするためには、上述した製造装置70において、送り長さを制御して目的の長さに設定しておく必要がある。一方で、出来上がったユニコアからm枚目の方向性電磁鋼板を抜き取って当該方向性電磁鋼板の長手方向の長さLm(cm)を以下の通り求めることで方向性電磁鋼板の長さLmの評価ができる。
【0056】
まずユニコアから抜き取ったm枚目と(m+1)枚目の2枚の方向性電磁鋼板の重量を測定する。測定は上皿天秤(島津製作所製 UP1023X)を用いて、小数第3桁までの1枚毎の重量Κ(g)を測定する。次に方向性電磁鋼板の巾w(cm)を定規で測定する。これは小数第1位までとする。最後に該方向性電磁鋼板の厚さtであるが、これは上述した方法で求める。そして鉄の密度を7.65g/cm3を用いて、m枚目の方向性電磁鋼板の長さLmを以下から求める。(m+1)枚目の方向性電磁鋼板の長さLm+1も同様の方法で求める。
Lm=Κ/(7.65×w×t)
次に、以下の数式によりm枚目の方向性電磁鋼板の長さLmと(m+1)枚目の方向性電磁鋼板の長さLm+1との差分△Lmを求める。
△Lm(mm)=10*(Lm+1―Lm)
【0057】
このようにして最内側の方向性電磁鋼板(m=1)から1枚外側の方向性電磁鋼板の長さの差分△L1、1枚外側の方向性電磁鋼板(m=2)の長さと2枚外側の方向性電磁鋼板の長さの差分△L2、同様に△L3、△L4、・・・△LM-1最外側までこれを求める。ただしMは最外側の積層枚数を指す。そしてこれらを平均したものを全平均値<△L>とする。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
表3A~3Cから分かるように、鋼板の厚さ、1つのコーナー部3における屈曲部5の個数、1巻きごとの接合部6の数にかかわらず、θを23°以上50°以下に設定することにより、鉄損比が1.24以下に抑えられている(巻鉄心の鉄損が抑制されている)。特に、θが30°を超えると、鉄損比が1.14以下となり、鉄損が十分に抑えられている。
【0062】
さらには、全平均値<△L>を数式(1)が満たされるように決定することで、騒音を低減することができる。
【0063】
以上の結果により、本実施の形態を含む本発明の巻鉄心は、ユニコア形態を成すとともに、23°≦θ≦50°を満たすことで、鉄損劣化が小さくなることが明らかになった。
【符号の説明】
【0064】
1 方向性電磁鋼板
4 平面部
5 屈曲部
5A 屈曲領域
6 接合部
10 巻鉄心(巻鉄心本体)
【要約】
本発明の巻鉄心は、複数あるコーナー部(3)の屈曲領域5Aのうちの少なくとも任意の1つに関し、直線PQと直線PRとが成す角θが、23°≦θ≦50°を満たすようにして、巻鉄心中で流れる磁束を閉じ込めるようにコーナー部(3)が外側に膨出されている。