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  • 特許-壁面への弾性チップ施工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】壁面への弾性チップ施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/02 20060101AFI20230307BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20230307BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230307BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
E04F13/02 B
B32B5/28 Z
B05D7/00 L
B05D5/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018206241
(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公開番号】P2020070646
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】592160607
【氏名又は名称】日進ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518388052
【氏名又は名称】有限会社E.C.O
(73)【特許権者】
【識別番号】399088740
【氏名又は名称】エッチ・アンド・ケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】和氣 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 史夫
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 國博
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-019303(JP,A)
【文献】特開2010-046928(JP,A)
【文献】特開平06-256057(JP,A)
【文献】特開2000-303651(JP,A)
【文献】特開平10-036660(JP,A)
【文献】特開2013-124540(JP,A)
【文献】実開平05-085930(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/02
B32B 5/28
B05D 7/00
B05D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性チップを含む弾性チップ混合材を壁面に塗布することにより弾性層を形成する壁面への弾性チップ施工方法であって、
壁面にプライマーを塗布してプライマー層を形成するプライマー層形成工程と、
弾性チップをポリオール系前処理剤と混合して前処理済弾性チップを得る前処理工程と、
前処理済弾性チップをバインダーと混合して弾性チップ混合材を得る混合工程と、
弾性チップ混合材をプライマー層の外面に塗布して弾性層を形成する弾性層形成工程と
を経るとともに、
前記壁面は、略鉛直な面を有し、
弾性チップ混合材の、JIS K7117-2に準拠して25°Cで測定された粘度が、2900mPa・s以上である
壁面への弾性チップ施工方法。
【請求項2】
プライマー層形成工程が、
有機溶剤を30質量%以上含む第一プライマーを壁面に塗布して第一プライマー層を形成した後、
第一プライマー層の外面に、第一プライマーよりも高い粘度を有する第二プライマーを塗布して第二プライマー層を形成する
ものとされた請求項1記載の壁面への弾性チップ施工方法。
【請求項3】
バインダーが硬化した後における弾性層の、JIS K6253に準拠してタイプEデュロメータを用いて25°Cで測定されたゴム硬度が、80以下である請求項1又は2記載の壁面への弾性チップ施工方法。
【請求項4】
バインダーが硬化した後における弾性層の厚みが3mm以上である請求項1~3いずれか記載の壁面への弾性チップ施工方法。
【請求項5】
弾性チップが、発泡孔を有する発泡弾性チップを含むものとされた請求項1~4いずれか記載の壁面への弾性チップ施工方法。
【請求項6】
混合工程で用いるバインダーが、ポリオールとイソシアネートとを含むウレタン系バインダーとされ、
前記イソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート又は3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル=イソシアネートのいずれか若しくはこれらの混合物である
請求項1~5いずれか記載の壁面への弾性チップ施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート壁等の硬い壁面に弾性チップを含む弾性層を形成する壁面への弾性チップ施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート壁等は、地震等によって崩れ落ちることがあり、これに人が巻き込まれると怪我をする危険性がある。また、コンクリート壁等に頭等をぶつけた場合にも怪我をするおそれがある。このような実状に鑑みてか、特許文献1には、ゴムチップ等の軟質骨材を含む混合材を建物の壁面等に塗布施工する方法が開示されている。このような混合材は、建物の壁面等、水平でない施工面に対してコテ等で直接塗布しようとしても、はがれ落ちてしまう。この点、同文献1に記載の方法では、混合材にフュームドシリカを混合させることにより、混合材にチキソトロピー性を付与して、混合材を壁面にコテ等で塗布しても混合材がはがれ落ちないようにしている。これにより、作業効率が大きく改善するとともに、複雑な形状の壁面に対しても容易に混合材を塗布することが可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-202651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法は、上記のように混合材にフュームドシリカを含ませるものであるところ、このフュームドシリカの影響で施工後の混合材が硬くなってしまい、混合材の緩衝性が損なわれるという問題があった。また、同文献の図2等に示されるように、混合材を厚く施工しようとすると、フュームドシリカの添加量を多くする必要があり、施工後の混合材がますます硬くなるという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、水平でない壁面に弾性チップを含む弾性層を容易に形成することができるだけでなく、施工後の弾性層が柔らかさを失わないようにすることができる壁面への弾性チップ施工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、
弾性チップを含む弾性チップ混合材を壁面に塗布することにより弾性層を形成する壁面への弾性チップ施工方法であって、
壁面にプライマーを塗布してプライマー層を形成するプライマー層形成工程と、
弾性チップをポリオール系前処理剤と混合して前処理済弾性チップを得る前処理工程と、
前処理済弾性チップをバインダーと混合して弾性チップ混合材を得る混合工程と、
弾性チップ混合材をプライマー層の外面に塗布して弾性層を形成する弾性層形成工程と
を経ることを特徴とする壁面への弾性チップ施工方法。
を提供することによって解決される。
【0007】
本発明は、弾性チップをバインダーと混合する前にポリオール系前処理剤で前処理することで、フュームドシリカ等を混合しなくとも、水平でない壁面に対して塗布により弾性層を形成することを可能とするものである。すなわち、後の実施例で示すように、弾性チップをあらかじめ前処理剤と混合することで、弾性チップ混合材の粘度を高めて、水平でない壁面に対して弾性チップ混合材を塗布したとしても、弾性チップ混合材がはがれ落ちにくくすることができる。これにより、施工後も柔らかさを失わず、緩衝材として優れた効果を奏する弾性層を塗布により容易に形成することができる。また、複雑な形状を有する壁面に対しても弾性チップを容易に施工することができる。
【0008】
本発明の壁面への弾性チップ施工方法におけるプライマー層形成工程では、1種類のプライマーを壁面に塗布するだけにしてもよい。しかし、プライマー層形成工程においては、有機溶剤を30質量%以上含む第一プライマーを壁面に塗布して第一プライマー層を形成した後、第一プライマー層の外面に第一プライマーよりも高い粘度を有する第二プライマーを塗布して第二プライマー層を形成するようにすると好ましい。これにより、プライマー層の壁面への接着性を高めることができる。というのも、有機溶剤を多く含む第一プライマーを壁面に最初に塗布することによって、壁面の微細な表面構造に第一プライマーが入り込み、その後硬化して、いわゆる投錨効果(アンカー効果)が得られるからである。
【0009】
本発明の壁面への弾性チップ施工方法において、弾性層形成工程で形成される弾性層の硬さは、施工箇所や施工目的等によっても異なり、特に限定されない。しかし、弾性層が硬くなりすぎると、弾性層が緩衝材としての効果を十分に発揮できないおそれがある。このため、バインダーが硬化した後における弾性層のゴム硬度が、80以下となるようにすると好ましい。ここで、弾性層の「ゴム硬度」とは、JIS K6253に準拠して、タイプEデュロメータを用いて25°Cで測定されたゴム硬度(以下、単に「タイプE硬度」と記載することがある。)のことを言う。
【0010】
本発明の壁面への弾性チップ施工方法において、弾性層形成工程で形成される弾性層の厚みは、施工箇所や施工目的等によっても異なり、特に限定されない。しかし、弾性層を薄くしすぎると、弾性層が緩衝材としての効果を十分に発揮できないおそれがある。このため、バインダーが硬化した後における弾性層の厚みは、3mm以上となるようにすると好ましい。本発明の壁面への弾性チップ施工方法を用いた場合には、特許文献1に記載の方法を用いた場合と異なり、弾性層を厚く施工したとしても弾性層の柔らかさが失われず、緩衝性能に優れた弾性層を形成することが可能である。
【0011】
本発明の壁面への弾性チップ施工方法において、壁面に施工する弾性チップは、弾性を有するチップ状のものであれば特に限定されないが、発泡孔を有する発泡弾性チップを含むものとすると好ましい。これにより、発泡弾性チップ表面の微細な発泡孔にプライマーや前処理剤やバインダーが入り込み、その後硬化することによって、投錨効果が得られるようになり、施工後(バインダーが硬化し、弾性層が壁面に定着した後のこと。以下同じ。)の弾性層を、より崩れにくくすることができる。また、発泡弾性チップを加えることで、施工後の弾性層のクッション性を高めることもできる。更に、弾性チップ混合材が重くなりすぎると、水平でない壁面に対して塗布した弾性チップ混合材がはがれ落ちやすくなり、施工時の作業性が低下するおそれがあるところ、弾性チップに発泡弾性チップを加えることで弾性チップ混合材を軽くすることができ、作業性をより向上させることができる。
【0012】
本発明の壁面への弾性チップ施工方法において、混合工程で用いるバインダーは、その具体的な組成を特に限定されないが、ポリオールとイソシアネートとを含むウレタン系バインダーとすると好ましい。一般的なバインダーに用いられるイソシアネートは、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)やトリレンジイソシアネート(TDI)等であることが多いところ、本発明の壁面への弾性チップ施工方法では、前記イソシアネートを、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)又は3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル=イソシアネート(イソホロンジイソシアネート、IPDI)のいずれか若しくはこれらの混合物とすると好ましい。というのも、MDIやTDI等を用いた場合には硬化後のバインダーが紫外線等によって黄変しやすく、弾性層の色調が施工後に変わってしまうおそれがある。しかし、施工箇所によっては、弾性層を特定の色に仕上げたい場合や、色の異なる複数種類の弾性チップを用いて弾性層に絵柄を施したい場合等も想定されるため、弾性層の色調が施工後に変化することは好ましくない。この点、イソシアネートとしてHDIやIPDIを用いると、硬化後のバインダーが黄変しにくくすることができるからである。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によって、水平でない壁面に弾性チップを含む弾性層を容易に施工することができるだけでなく、施工後の弾性層が柔らかさを失わないようにすることができる壁面への弾性チップ施工方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の弾性チップ施工方法を用いて壁面に弾性層を形成した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.概要
本発明の好適な実施態様について、図面を用いてより詳細に説明する。図1は、本発明の弾性チップ施工方法を用いて壁面10に弾性層200を形成した状態を示す断面図である。本実施態様の弾性チップ施工方法によって壁面10に弾性層200を形成した場合には、図1の拡大図に示すように、壁面10上にプライマー層100が形成され、その上に弾性チップ201を含む弾性層200が形成される。本実施態様においては、弾性チップ201としてゴムチップを用いている。このゴムチップ201は、発泡孔を有しない無発泡ゴムチップ201aと、発泡孔を有する発泡ゴムチップ201bとを混合したものとなっている。
【0016】
プライマー層100は、弾性層200の壁面10への定着性を高めるためのものとなっている。本実施態様におけるプライマー層100は、第一プライマー層101と、第二プライマー層102との2層で構成されている。弾性層200は、ゴムチップ201をバインダーによって互いに結合させて形成されるものであり、弾性を有している。この弾性層200により、地震等の際にも壁面10が崩れにくくすることができる。また、壁面10にクッション性を付与して、人等がぶつかった際に怪我をすることを防ぐこともできる。
【0017】
本実施態様の壁面への弾性チップ施工方法は、プライマー層100を形成するプライマー層形成工程と、ゴムチップ201を前処理して前処理済ゴムチップを得る前処理工程と、前処理済ゴムチップをバインダーと混合してゴムチップ混合材を得る混合工程と、ゴムチップ混合材をプライマー層100の外面に塗布して弾性層200を形成する弾性層形成工程とで構成されている。以下、これらの各工程について詳しく説明する。
【0018】
2.プライマー層形成工程
プライマー層形成工程は、壁面10にプライマーを塗布してプライマー層100を形成する工程である。本実施態様におけるプライマー層形成工程は、壁面10に第一プライマー層101を形成する第一プライマー層形成工程と、第一プライマー層101の外面に第二プライマー層102を形成する第二プライマー層形成工程とで構成されている。
【0019】
2.1 第一プライマー層形成工程
第一プライマー層形成工程では、有機溶剤を多く含む低粘度の第一プライマーを壁面10に塗布する。これにより形成される第一プライマー層101は、既に述べたように、第一プライマーが壁面10の微細構造に入り込んで硬化したものであるため、投錨効果によって壁面10にしっかりと接着した状態となる。第一プライマーを壁面10に塗布する方法は特に限定されないが、通常、刷毛やローラー等が用いられる。
【0020】
第一プライマーは、有機溶剤を30質量%以上含み、塗布後硬化するものであれば、その具体的な組成を限定されないが、通常、ウレタン系原料(ポリオール若しくはイソシアネート又はこれらの混合物若しくは重合体。以下同じ。)と有機溶剤との混合物とされる。第一プライマーには、これに加えて、各種の充填剤や、可塑剤や、硬化剤や、難燃剤や、安定剤や、触媒等を添加してもよい。
【0021】
ウレタン系原料として用いられるポリオールは、ウレタン樹脂の原料として一般的に用いられるものであれば、その種類を特に限定されない。ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオールや、ポリマーポリオールや、ポリエステルポリオール等を用いることができる。ポリオールとしては、より具体的には、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)、ポリカーボネートジオール(PCD)、ポリブタジエンポリオール(PBP)、ひまし油ポリオール等が例示される。ポリオールは、1種類のみを用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
ウレタン系原料として用いられるイソシアネートも、ウレタン樹脂の原料として一般的に用いられるものであれば、その種類を特に限定されない。イソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル=イソシアネート(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(1,5-PDI)等が例示される。イソシアネートは、1種類のみを用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
第一プライマーに含まれる有機溶剤は、常温において液状であり、ウレタン系原料を分散又は溶解させることができるものであれば、その種類を特に限定されない。第一プライマーに含まれる有機溶剤としては、例えば、炭化水素や、アルコールや、ケトンや、エステルや、エーテルや、有機窒素化合物や、有機硫黄化合物や、有機塩素化合物等を用いることができる。有機溶剤としては、より具体的には、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、炭酸ジメチル、キシレン(オルト、メタ若しくはパラ又はこれらの混合物)、エチルベンゼン、アセトン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノン、イソホロン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸セロソルブ、ジメチルホルムアミド、ミネラルスピリット等が例示される。有機溶剤は、1種類のみを用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
第一プライマーにおける有機溶剤の含有量は、30質量%以上とされる。第一プライマーにおける有機溶剤の含有量は、多ければ多いほど、第一プライマーの粘度を下げることができ、第一プライマーが壁面10の微細構造に入り込みやすくすることができる。このため、第一プライマーにおける有機溶剤の含有量は、40質量%以上とするとより好ましく、45質量%以上とすると更に好ましい。しかし、有機溶剤の含有量を多くしすぎると、相対的にウレタン系原料の含有量が少なくなりすぎて、有機溶剤が蒸発した後に十分な強度の第一プライマー層101を形成することができなくなるおそれがある。このため、第一プライマーにおける有機溶剤の含有量は、80質量%以下とすることが好ましく、70質量%以下とするとより好ましく、65質量%以下とすると更に好ましい。
【0025】
本実施態様において使用する第一プライマーは、ウレタン系原料として、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートと高分子量のポリイソシアネートの混合物)及びウレタンプレポリマー(ポリオールとイソシアネートとを混合し、ウレタン化反応をある程度まで進行させた液状高分子。以下同じ。)を含んだものとなっている。また、有機溶剤として、酢酸エチルとキシレン(異性体混合物)とを含んだものとなっている。有機溶剤の含有量は、酢酸エチルが38質量%、キシレンが13質量%となっている。
【0026】
第一プライマー層形成工程は、施工条件によっては、省略することもできる。しかし、第一プライマー層形成工程によって壁面10にしっかりと接着した第一プライマー層101を形成してから、その外面に第二プライマー層102を形成するようにすると、プライマー層100の壁面10への接着性を高め、ひいては、弾性層200を壁面10にしっかりと定着させることができるため好ましい。
【0027】
壁面10に塗布した第一プライマーの有機溶剤がある程度蒸発し、第一プライマー層101が壁面10に定着した時点で、第一プライマー層形成工程を終了し、次の第二プライマー層形成工程に移行する。
【0028】
2.2 第二プライマー層形成工程
第二プライマー層形成工程では、第一プライマー層101の外面に高粘度の第二プライマーを塗布して、第二プライマー層102を形成する。これにより、第二プライマー層102の外面に塗布するゴムチップ混合材を壁面10に定着しやすくして、ゴムチップ混合材を塗布により施工しやすくすることができる。第二プライマーを第一プライマー層101の外面に塗布する方法は特に限定されないが、刷毛やローラーのほか、第二プライマーの粘度によっては、ヘラやコテ等を用いてもよい。
【0029】
第二プライマーは、ある程度の粘度及び硬化性を有するものであれば、その具体的な組成を特に限定されないが、通常、ウレタン系原料と有機溶剤とを含むものとされる。ウレタン系原料としては、「2.1 第一プライマー層形成工程」において既に説明したポリオールやイソシアネートを用いることができる。有機溶剤も、「2.1 第一プライマー層形成工程」において既に説明したものを用いることができる。第二プライマーには、各種の充填剤や、可塑剤や、硬化剤や、難燃剤や、安定剤や、触媒等を添加してもよい。本実施態様において使用する第二プライマーは、ウレタンプレポリマーと、有機溶剤と、無機系充填剤とを含むものとなっている。
【0030】
第二プライマーの粘度は、施工環境(特に気温)等によっても左右され、特に限定されない。しかし、第二プライマーの粘度が低すぎると、後の弾性層形成工程において、第二プライマー層102の外面に塗布したゴムチップ混合材がはがれ落ちてしまうおそれがある。このため、第二プライマーは、25°Cにおける粘度が7000mPa・s以上となるものとすると好ましい。第二プライマーの25°Cにおける粘度は、10000mPa・s以上となるようにするとより好ましく、12000mPa・s以上となるようにすると更に好ましい。一方、第二プライマーの粘度が高すぎると、第二プライマー自体を塗布施工しにくくなるおそれがある。このため、第二プライマーは、通常、25°Cにおける粘度が30000mPa・s以下となるものが用いられる。本実施態様において使用する第二プライマーの25°Cにおける粘度は、15000mPa・s程度となっている。
【0031】
第一プライマー層101の外面に第二プライマーを塗布し終わると、第二プライマー層形成工程が終了するとともに、プライマー層形成工程が終了する。プライマー層形成工程の終了後は、第二プライマーが完全に硬化する前に弾性層形成工程を行って、第二プライマー層102の外面にゴムチップ混合材を塗布することが好ましい。これにより、プライマー層100に対する弾性層200の密着性をより高めることができる。このため、ゴムチップ混合材を調製する工程である前処理工程と混合工程とは、プライマー層形成工程が完了してから行ってもよいが、プライマー層形成工程と同時並行で行うか、プライマー層形成工程よりも前に行っておくとより好ましい。
【0032】
3.前処理工程
前処理工程は、ゴムチップ201をポリオール系の前処理剤と混合して、前処理済ゴムチップを得る工程である。後の実施例において示すように、この前処理工程を経ることにより、ゴムチップ201とバインダーとを混合して得られるゴムチップ混合材の粘度を高めることができ、水平でない壁面10に対してゴムチップ混合材を塗布により施工したとしても、ゴムチップ混合材がはがれ落ちにくくすることができる。
【0033】
前処理工程で用いるポリオール系の前処理剤は、ポリオールを含有するものとなっていれば、その具体的な組成を特に限定されない。前処理剤に含まれるポリオールとしては、「2.1 第一プライマー層形成工程」において既に説明したポリオールを用いることができる。前処理剤には、各種の可塑剤や、有機溶剤や、イソシアネートや、充填剤や、硬化剤や、難燃剤や、安定剤や、触媒等を添加してもよい。本実施態様で用いる前処理剤は、ポリエーテルポリオールと、可塑剤であるフタル酸ジ2エチルヘキシルとを含むものとなっている。
【0034】
前処理剤におけるポリオールの含有量も特に限定されないが、ポリオールの含有量が少なすぎると、ゴムチップ混合材の粘度を十分に高めることができないおそれがある。このため、前処理剤におけるポリオールの含有量は、通常、40質量%以上とされる。前処理剤におけるポリオールの含有量は、50質量%以上とするとより好ましい。前処理剤は、その全量をポリオールで構成してもよい。本実施態様で用いる前処理剤に含まれるポリエーテルポリオールの含有量は、60質量%程度となっている。
【0035】
ゴムチップ201に対する前処理剤の添加量は、前処理剤の種類等によっても異なり、特に限定されない。前処理剤の添加量は、特に、施工する季節によって大きく異なる。というのも、冬季(平均気温が、10°C以下である時期。以下同じ。)は気温が低く、ゴムチップ混合材の粘度が高くなりがちであるため、比較的少ない量の前処理剤を加えれば足りるのに対し、夏季(平均気温が、20°C以上である時期。以下同じ。)は気温が高く、ゴムチップ混合材の粘度が低くなりがちであるため、比較的多い量の前処理剤を加える必要があるからである。このため、以下においては、前処理剤の添加量につき、冬季と夏季とに分けて説明する。なお、春季や秋季に本発明の壁面への弾性チップ施工方法を用いて弾性チップを施工する場合には、冬季と夏季の中間程度の条件を用いることが好ましい。以下においても同じとする。
【0036】
ゴムチップ201に対する前処理剤の添加量は、少なすぎると、ゴムチップ混合材の粘度を十分に高めることができないおそれがある。このため、冬季に施工する場合には、100質量部のゴムチップ201に対する前処理剤の添加量は、1質量部以上とすると好ましく、1.2質量部以上とするとより好ましく、1.5質量部以上とすると更に好ましい。夏季に施工する場合には、100質量部のゴムチップ201に対する前処理剤の添加量は、2質量部以上とすると好ましく、2.5質量部以上とするとより好ましく、3質量部以上とすると更に好ましい。一方、前処理剤の量が多すぎると、ゴムチップ混合材の粘度が高くなりすぎて、却ってゴムチップ混合材を塗布施工しにくくなるおそれがある。このため、冬季に施工する場合には、100質量部のゴムチップ201に対する前処理剤の添加量は、4質量部以下とすると好ましく、3質量部以下とするとより好ましい。夏季に施工する場合には、100質量部のゴムチップ201に対する前処理剤の添加量は、6質量部以下とすると好ましく、5質量部以下とするとより好ましい。
【0037】
ところで、本実施態様のように、ゴムチップ201が発泡ゴムチップ201bを含むものである場合には、ゴムチップ201を前処理剤と混合した際に、前処理剤の一部が発泡ゴムチップ201aの発泡孔に吸収される。このため、このような場合には、前処理剤の添加量を、ゴムチップ201が無発泡ゴムチップ201aのみで構成される場合に比べて多くすることが好ましい。前処理剤の添加量をどの程度多くするかは、ゴムチップ201に含まれる発泡ゴムチップ201bの割合によっても異なり、特に限定されないが、概ね、ゴムチップ201全体に対する発泡ゴムチップ201bの割合が10質量%増えるごとに、前処理剤の添加量を1割程度増加させるようにすると好ましい。本実施態様においては、100質量部のゴムチップ201に対する前処理剤の添加量を、冬季においては2質量部程度、夏季においては4質量部程度としている。
【0038】
ゴムチップ201と前処理剤との混合が完了すると、前処理工程を終了し、次の混合工程に移行する。
【0039】
4.混合工程
混合工程は、前処理工程で得られた前処理済ゴムチップをバインダーと混合してゴムチップ混合材を得る工程である。このゴムチップ混合材を、後の弾性層形成工程においてプライマー層100の外面に塗布することにより、弾性層200が形成される。
【0040】
混合工程で用いるバインダーは、ゴムチップ201を互いに結合させることができる接着性のものであれば、その具体的な組成を限定されないが、通常、ウレタン系原料を含むものとされる。ウレタン系原料としては、「2.1 第一プライマー層形成工程」において既に説明したポリオールやイソシアネートを用いることができる。バインダーには、各種の可塑剤や、有機溶剤や、充填剤や、硬化剤や、難燃剤や、安定剤や、触媒等を添加してもよい。バインダーは、使用直前に2種類の液体を混合することによって硬化が開始される、いわゆる2液型のものとしてもよいが、空気中の水分や紫外線等によって硬化する、いわゆる1液型のものとすると、取り扱いが容易であるため好ましい。本実施態様において使用するバインダーは、ウレタン系原料として、ウレタンプレポリマーと、HDIと、IPDIとを含み、添加物として、錫及びその化合物と、可塑剤である2-エチルヘキサン酸とを含むものとなっている。
【0041】
ゴムチップ201に対するバインダーの添加量は、バインダーの種類によっても異なり、特に限定されない。しかし、バインダーの量が少なすぎると、ゴムチップ201同士を十分に結合することができず、後の弾性層形成工程で形成される弾性層200が崩れやすくなるおそれがある。このため、100質量部のゴムチップ201に対するバインダーの添加量は、10質量部以上とすると好ましく、15質量部以上とするとより好ましい。しかし、バインダーを多く加えすぎると、施工後の弾性層200が硬くなってしまい、十分な緩衝性能を得られないおそれがある。このため、100質量部のゴムチップ201に対するバインダーの添加量は、40質量部以下とすると好ましく、35質量部以下とするとより好ましい。
【0042】
ところで、本実施態様のように、ゴムチップ201が発泡ゴムチップ201bを含むものである場合には、前処理剤と同様、バインダーも、その一部が発泡ゴムチップ201aの発泡孔に吸収される。このため、このような場合には、バインダーの添加量を、ゴムチップ201が無発泡ゴムチップ201aのみで構成される場合に比べて多くすることが好ましい。バインダーの添加量をどの程度多くするかは、ゴムチップ201に含まれる発泡ゴムチップ201bの割合によっても異なり、特に限定されないが、概ね、ゴムチップ201全体に対する発泡ゴムチップ201bの割合が10質量%増えるごとに、バインダーの添加量を1割程度増加させるようにすると好ましい。本実施態様においては、100質量部のゴムチップ201に対するバインダーの添加量を、30質量部程度としている。なお、本実施態様と同様の条件において、ゴムチップ201を無発泡ゴムチップ201aのみで構成した場合には、100質量部のゴムチップ201に対するバインダーの添加量は、20質量部程度とされる。
【0043】
前処理済ゴムチップとバインダーとの混合が完了すると、混合工程を終了し、次の弾性層形成工程に移行する。
【0044】
5.弾性層形成工程
弾性層形成工程は、混合工程で得られたゴムチップ混合材をプライマー層100の外面に塗布して弾性層200を形成する工程である。ゴムチップ混合材をプライマー層100の外面に塗布する方法は、特に限定されないが、通常、コテ等を用いた、いわゆる「左官」と呼ばれる施工方法が用いられる。このとき、ゴムチップ混合材を、プライマー層100の外面に塗り広げるというよりは、コテ等で叩きつけるようにすると、プライマー層100の外面に弾性層200をより密着させることができるため好ましい。
【0045】
施工後の弾性層200が、どの程度柔らかいものとなるようにするかは、施工目的等によっても異なり、特に限定されない。しかし、上述したように、本発明の壁面への弾性チップ施工方法は、施工後も弾性層200が柔らかさを失わないことに特徴があるため、施工後の弾性層200がより柔らかくなるようにすると、本発明を用いる意義がより高まるため好ましい。このため、施工後の弾性層200のタイプE硬度は、80以下となるようにすると好ましく、75以下となるようにするとより好ましく、70以下となるようにすると更に好ましい。しかし、施工後の弾性層200を柔らかくしすぎると、弾性層200が崩れやすくなるおそれがある。このため、施工後の弾性層200のタイプE硬度は、通常、30以上とされる。本実施態様おいて施工した弾性層200のタイプE硬度は、50~60程度となっていた。
【0046】
弾性層200を、どの程度の厚みで施工するのかも特に限定されない。しかし、弾性層200が薄すぎると、弾性層200が緩衝材としての効果を十分に発揮できないおそれがある。このため、施工後の弾性層200の厚みt(図1)は、3mm以上とすることが好ましい。弾性層200の厚みtは、5mm以上とするとより好ましく、7mm以上とすると更に好ましい。しかし、弾性層200を厚くしすぎると、施工後の弾性層200が崩れやすくなるおそれがある。このため、施工後の弾性層200の厚みtは、20mm以下とすることが好ましい。弾性層200の厚みtは、15mm以下とするとより好ましく、12mm以下とすると更に好ましい。本実施態様における弾性層の厚みtは、10mm程度となっている。
【0047】
6.弾性チップ
本発明の壁面への弾性チップ施工方法において用いられる弾性チップ201は、弾性を有するチップ(小片)状のものであれば、その具体的な組成を特に限定されない。弾性チップ201としては、ゴムチップや、熱可塑性エラストマーをチップ状に成形したもの等を採用することができる。
【0048】
ゴムチップの原料ゴムとしては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、エピクロルヒドリンゴム(ECO)、ウレタンゴム(AU、EU)、シリコンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FEPM)等を採用することができる。ゴムチップは、1種類のみを用いて製造されたものであってもよいし、複数種類の原料をブレンドして製造されたものであってもよい。あるいは、互いに異なる原料ゴムによって製造された複数種類のゴムチップを混合して使用してもよい。さらには、廃タイヤを破砕したもの等をゴムチップとして用いることもできる。
【0049】
一方、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩ビ系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、クロロスルフォン化エチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、シリコン系エラストマー、アクリル系エラストマー、フッ素系エラストマー等を採用することができる。熱可塑性エラストマーも、ゴムチップの原料ゴムと同様、1種類のみを用いても、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
本実施態様においては、弾性チップ201として、反発弾性に優れるとともに高い耐候性や耐寒性、耐水性を有するエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を原料とするゴムチップを採用している。
【0051】
弾性チップ201の材質も、特に限定されない。しかし、弾性チップ201が硬すぎると、施工後の弾性層200が十分な弾性を得られないおそれがある。このため、弾性チップ201は、JIS K6253に準拠して、タイプAデュロメータを用いて25°Cで測定されたゴム硬度(以下、単に「タイプA硬度」と記載することがある。)が80以下のものとすると好ましい。一方、弾性チップ201が柔らかすぎると、施工後の弾性層200が崩れやすくなるおそれがある。このため、弾性チップ201は、タイプA硬度が30以上のものとすると好ましい。本実施態様においては、タイプA硬度が60程度のゴムチップ201を用いている。
【0052】
弾性チップ201の大きさも特に限定されないが、弾性チップ201が小さすぎると、弾性チップ201自体の弾性が発揮されにくくなり、施工後の弾性層200が硬くなってしまうおそれがある。このため、弾性チップ201の粒径(直径)は、0.5mm以上とすることが好ましい。弾性チップ201の粒径は、0.7mm以上とするとより好ましい。一方、弾性チップ201が大きすぎると、弾性チップ201同士の結合面積が相対的に小さくなり、施工後の弾性層200が崩れやすくなるおそれがある。このため、弾性チップ201の粒径は、5mm以下とすると好ましい。弾性チップ201の粒径は、4mm以下とするとより好ましい。本実施態様においては、粒径が1~3mm程度のゴムチップ201を用いている。
【0053】
弾性チップ201は、発泡孔を有しない無発泡弾性チップのみで構成してもよいが、本実施態様においては、無発泡弾性チップと発泡孔を有する発泡弾性チップとの混合物としている。これにより、既に述べたように、プライマーやバインダーが発泡弾性チップの発泡孔に入り込んで硬化することによる投錨効果を得ることができ、弾性層200が壁面10に定着しやすくすることができるとともに、施工後の弾性層200を、より崩れにくくすることができる。発泡弾性チップは、発泡孔が互いに連通した連泡タイプのものを使用することもできるが、発泡孔が互いに独立した独立泡タイプのものを採用すると、投錨効果をより得やすくなるため好ましい。
【0054】
弾性チップ201を無発泡弾性チップと発泡弾性チップとの混合物とする場合に、弾性チップ201のうちどの程度の割合を発泡弾性チップとするかは特に限定されない。しかし、発泡弾性チップを少なくしすぎると、上記の投錨効果が得られにくくなるおそれがある。このため、弾性チップ201全体に対する発泡弾性チップの割合は、10質量%以上とすると好ましい。弾性チップ201全体に対する発泡弾性チップの割合は、20質量%以上とするとより好ましく、30質量%以上とすると更に好ましい。一方、発泡弾性チップを多くしすぎると、却って施工後の弾性層200が崩れやすくなるおそれがある。というのも、発泡弾性チップを多くしすぎると、発泡弾性チップの発泡孔にバインダーが多く吸収されてしまい、弾性チップ201同士をしっかりと結合することができなくなるおそれがあるからである。このため、弾性チップ201全体に対する発泡弾性チップの割合は、50質量%以下とすると好ましい。弾性チップ201全体に対する発泡弾性チップの割合は、45質量%以下とするとより好ましい。本実施態様においては、ゴムチップ201のうち40質量%程度を発泡ゴムチップ201bとしている。
【0055】
7.施工箇所
以上においては、図1に示すように、地面20に対して略垂直(鉛直)に設けられた壁面10に弾性チップ201を施工する場合について説明した。しかし、本発明の壁面への弾性チップ施工方法を用いて弾性チップ201を施工する壁面10は、鉛直である必要はなく、鉛直方向に対して傾斜した状態のものであってもよい。また、壁面10は、平らである必要もなく、凹凸を有するものであってもよい。壁面10の材質も特に限定されず、コンクリートや、モルタルや、石材や、木材や、金属等とすることができる。このような壁面10の例としては、建物の壁のほか、塀の表面(特に、ブロック塀の表面)や、公園等に設置される遊具等の表面(特に、遊具を地面に固定するための基礎部分の表面)や、道路上に設置される車止め又は柵等の表面や、土手面や、崖面等が挙げられる。
【実施例
【0056】
[実験]
前処理工程を設けてゴムチップに前処理剤を混合することにより、ゴムチップ混合材の粘度がどのように変化するかを検討するため、下記の方法により実験を行った。
【0057】
〈ゴムチップ混合材の調製〉
上記「3.前処理工程」及び「4.混合工程」の要領でゴムチップ混合材を調製した。比較例1については、前処理工程を行わなかった。ゴムチップは、粒径が1~3mm程度の無発泡ゴムチップを使用した。前処理剤としては、エッチ・アンド・ケー株式会社製の「前処理剤 NF-P」を使用した。前処理剤 NF-Pは、60質量%程度のポリエーテルポリオールと、40質量%程度のフタル酸ジ2エチルヘキシルとを含むものである。バインダーとしては、三井化学株式会社製の「ハイプレンXLB-5111A」を使用した。ハイプレンXLB-5111Aは、97質量%のウレタンプレポリマーと、0.3質量%のHDIと、0.4質量%のIPDIと、0.2質量%の錫及びその化合物と、0.3質量%の2-エチルヘキサン酸とを含むものである。
【0058】
前処理剤の添加量は、実施例1~5においてそれぞれ、ゴムチップ100質量部に対し1~5質量部とした。バインダーの添加量は、比較例1を含むすべての試料において、ゴムチップ100質量部に対し20質量部とした。
【0059】
〈粘度の測定〉
ゴムチップ混合材の粘度の測定は、JIS K7117-2に準拠して、25°Cにおいて行った。粘度計は、東機産業株式会社製の「コーン・プレート型粘度計 TPE-100形」を使用した。
【0060】
[結果]
実験結果を表1に示す。なお、表1における「粘度比」とは、比較例1のゴムチップ混合材の粘度を1として、各実施例のゴムチップ混合材の粘度を表した比のことである。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示されるように、ゴムチップを前処理剤と混合することで、ゴムチップ混合材の粘度が高くなるという結果が得られた。また、前処理剤の添加量を多くすればするほど、ゴムチップ混合材の粘度はより高くなるという傾向があった。すなわち、前処理工程を設けることによって、増粘剤等を添加しなくとも、ゴムチップ混合材の粘度を高めることができることが示された。
【0063】
加えて、本実験においては、前処理剤を多く加えたとしても、ゴムチップ混合材のポットライフ(ゴムチップ混合材を調製してから、ゴムチップ混合材に含まれるウレタン樹脂の硬化が進んでゴムチップ混合材を塗布することが難しくなるまでの時間のこと。以下同じ。)もほとんど変化しないことが示された。この点、仮に、バインダーに含まれるウレタン系原料を変えることや、バインダーに添加材を加えること等によりゴムチップ混合材の粘度を高めようとした場合には、ゴムチップ混合材のポットライフが短くなり、施工可能な時間が限られることが予測される。すなわち、本発明の壁面への弾性チップ施工方法は、ゴムチップ混合材のポットライフを維持したまま、水平でない壁面に対してゴムチップを塗布により施工することが可能なものであることが示された。このため、本発明の壁面への弾性チップ施工方法を用いると、広い施工面に施工する場合であっても、ゴムチップ混合材を頻繁に調製し直す必要がなく、効率的に作業を行うことが可能となることが明らかになった。
【符号の説明】
【0064】
10 壁面
20 地面
100 プライマー層
101 第一プライマー層
102 第二プライマー層
200 弾性層
201 弾性チップ(ゴムチップ)
201a 無発泡ゴムチップ
201b 発泡ゴムチップ
図1