(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】高分子電解質、その製造方法、それを用いた高分子電解質膜、触媒層、膜/電極接合体、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
C08G 61/02 20060101AFI20230307BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20230307BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20230307BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20230307BHJP
H01M 8/1025 20160101ALI20230307BHJP
H01M 8/1027 20160101ALI20230307BHJP
H01M 8/1032 20160101ALI20230307BHJP
H01M 8/103 20160101ALI20230307BHJP
H01M 8/1072 20160101ALI20230307BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230307BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C08G61/02
H01M8/10 101
H01M8/1023
H01M8/1039
H01M8/1025
H01M8/1027
H01M8/1032
H01M8/103
H01M8/1072
H01M4/86 B
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2020530896
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2019015658
(87)【国際公開番号】W WO2020017113
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2018135622
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業/普及拡大化基盤技術開発/セルスタックに関わる材料コンセプト創出(高出力・高耐久・高効率燃料電池材料のコンセプト創出)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健治
(72)【発明者】
【氏名】内田 誠
(72)【発明者】
【氏名】三宅 純平
(72)【発明者】
【氏名】安 眞住
(72)【発明者】
【氏名】日下部 正人
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0108944(US,A1)
【文献】特開2017-179345(JP,A)
【文献】特開2015-214617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G61/00-61/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有する疎水性セグメント、及びスルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメント
のみで構成され、疎水性セグメントと親水性セグメントが芳香環の直接結合で連結されていることを特徴とする高分子電解質。
【化1】
(前記一般式(1)中、R
a及びR
bは、それぞれ、独立にフッ素又はパーフルオロアルキル基を表し、yは1~2000の整数を表し、ベンゼン環上の水素はフッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びシアノ基からなる群から選ばれる一つ以上で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)中、R
a及びR
bが、いずれもトリフルオロメチル基である請求項1に記載の高分子電解質。
【請求項3】
前記一般式中、yが6~500の整数である請求項1又は2に記載の高分子電解質。
【請求項4】
前記親水性セグメントが、下記式群(2)で表される構造群から選択される1以上の構造を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の高分子電解質。
【化2】
(前記式群(2)中、wは1~4の整数を表し、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Aは、-CO-、-SO
2-、及び-C(CF
3)
2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Dは、-CO-、-SO
2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF
2)
t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF
3)
2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Eは直接結合、又は、-(CH
2)
j-(jは1~10の整数)、-C(CH
3)
2-、-O-、及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar
1は、-SO
3H又は-O(CH
2)
zSO
3H(zは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。)
【請求項5】
前記親水性セグメントが、下記式群(15)で表される構造群から選択される1以上の構造を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の高分子電解質。
【化3】
(前記式群(15)中、wは1~4の整数を表し、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。)
【請求項6】
下記一般式(3)で表される構造を有する請求項1~5のいずれか1項に記載の高分子電解質。
【化4】
(前記一般式(3)中、xは1~2000の整数、yは1~2000の整数を表す。)
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の高分子電解質の製造方法であって、
下記一般式(4)で表される構造を有する化合物と、下記式群(5)で表される構造群から選択される構造を有する1以上の化合物を、遷移金属化合物の存在下に共重合することを特徴とする高分子電解質の製造方法。
【化5】
(前記一般式(4)中、Halは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、R
a、R
bは、それぞれ、独立にフッ素又はパーフルオロアルキル基を表し、ベンゼン環上の水素はフッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びシアノ基からなる群から選ばれる一つ以上で置換されていてもよい。)
【化6】
(前記式群(5)中、Halは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、wは1~4の整数を表し、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Aは、-CO-、-SO
2-、及び-C(CF
3)
2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Dは、-CO-、-SO
2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF
2)
t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF
3)
2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Eは直接結合、又は、-(CH
2)
j-(jは1~10の整数)、-C(CH
3)
2-、-O-、及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar
1は、-SO
3H、又は-O(CH
2)
zSO
3H(zは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。Mは水素、アルカリ金属、炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~18のアリール基、又は炭素数7~20のアラルキル基を表す。)
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の高分子電解質を用いた高分子電解質膜。
【請求項9】
イオン交換容量(IEC)が2.0~3.6meq./gである請求項8に記載の高分子電解質膜。
【請求項10】
フェントン溶液(2ppmのFeSO
4を含む3%H
2O
2)中において80℃で1時間処理するフェントン試験における重量保持率が95%以上である請求項8又は9記載の高分子電解質膜。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の高分子電解質を用いた燃料電池用触媒層。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか1項に記載の高分子電解質を用いた燃料電池用膜/電極接合体。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載の高分子電解質を用いた燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に好適な高分子電解質、その製造方法、それを用いた高分子電解質膜、燃料電池用触媒層、燃料電池用膜/電極接合体、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化等の環境問題等の観点から、高効率でクリーンなエネルギー源の開発が求められている。その要求に対する一つの候補として燃料電池が注目されている。特に、高分子電解質を用いた固体高分子形燃料電池は、新エネルギー技術の柱の一つとして期待されている。固体高分子形燃料電池に使用される電解質膜としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が広く検討されている。パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、高いプロトン伝導性を有し、耐酸性、耐酸化性等の化学的安定性に優れているとされているが、ガス遮断性が十分ではなかった。
【0003】
このような背景から、固体高分子型燃料電池用電解質膜として、近年、スルホン酸基を有する親水性セグメントと、スルホン酸基を実質的に有さない疎水性セグメントからなる共重合体で構成された炭化水素系電解質膜が注目されている。このような高分子電解質の製造法としては、水酸基やスルフィド基等の求核性官能基を有するユニットと、ハロゲン等の脱離性置換基を有するユニットを予め用意し、それらの求核置換反応を利用する方法が挙げられる(特許文献1)。この製造方法は簡便であるが、樹脂骨格にエーテル結合や、チオエーテル結合が生成するため、燃料電池用電解質膜として利用した場合、酸化劣化しやすい(非特許文献1)という問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2及び3では、親水性セグメントと疎水性セグメントを炭素-炭素直接結合で連結し、スルホン酸基の近傍からエーテル結合やチオエーテル結合を排除するという試みがなされている。特許文献4には、親水性セグメントと疎水性セグメントの主鎖構造からエーテル結合やチオエーテル結合等のヘテロ結合を完全に排除し、炭素-炭素直接結合で連結したポリフェニレン型の高分子電解質として、親水性モノマーと疎水性モノマーを炭素-炭素直接結合でランダムに連結したポリフェニレン型の高分子電解質が記載されている。特許文献5には、スルホン酸基が導入され、主鎖が芳香環からなる親水性セグメントと、スルホン酸基を有さず、主鎖が芳香環からなる疎水性セグメントが芳香環の炭素-炭素直接結合で連結され、さらに、疎水性セグメントの芳香環も炭素-炭素直接結合で連結された高分子電解質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-126684号公報
【文献】特開2008-88420号公報
【文献】特開2012-229418号公報
【文献】特開2013-191375号公報
【文献】特開2017-179345号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「Polymer」、2009年3月、第50巻、第7号、p.1671-1681
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2及び3に記載の高分子電解質では、疎水性セグメントにポリエーテルスルホンや、ポリエーテルケトン等のユニットを有する骨格が用いられる場合があり、フェントン試験(Fenton試験)で評価した高分子電解質膜の耐酸化性はまだ十分と言える水準には達していなかった。特許文献4に記載の高分子電解質において、親水性モノマーのスルホン酸基は電子供与性基を含む連結基で芳香環に接続されていることから、その製造プロセスは煩雑である。特許文献5に記載の高分子電解質においても、疎水性セグメントの製造が煩雑な場合がある。さらに、従来の芳香環を多数含む炭化水素系高分子電解質は、沸点の高い非プロトン性極性溶媒(例えばジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等)にしか溶解せず、製膜する際、乾燥に高温で長時間を要し、また、乾燥後にも膜中に溶媒が残留するので、水洗等の後処理により除去する必要があった。
【0008】
本発明は、高いプロトン伝導度を発現し、酸化劣化に対する耐性が高く、ガス遮断性が良好な高分子電解質膜として使用でき、製造が容易であり、低沸点のアルコール類にも溶解する高分子電解質、その製造方法、それを用いた高分子電解質膜、燃料電池用触媒層、燃料電池用膜/電極接合体、及び燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で表される構造を有する疎水性セグメント、及びスルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントで構成され、疎水性セグメントと親水性セグメントが芳香環の直接結合で連結されていることを特徴とする高分子電解質に関する。
【化1】
(前記一般式(1)中、R
a、R
bはそれぞれ独立にフッ素、又はパーフルオロアルキル基を表し、yは1~2000の整数を表し、ベンゼン環上の水素はフッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びシアノ基からなる群から選ばれる一つ以上で置換されていてもよい。)
【0010】
本発明の1以上の好ましい態様において、前記一般式(1)中、Ra及びRbが、いずれもトリフルオロメチル基である。本発明の1以上の好ましい態様において、前記一般式(1)中、yが6~500の整数である。
【0011】
本発明の1以上の好ましい態様において、前記親水性セグメントが、下記式群(2)で表される構造群から選択される1以上の構造を有する。本発明の1以上のさらに好ましい態様において、前記親水性セグメントが、下記式群(15)で表される構造群から選択される1以上の構造を有する。
【化2】
(前記式群(2)中、wは1~4の整数を表し、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Aは、-CO-、-SO
2-、及び-C(CF
3)
2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Dは、-CO-、-SO
2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF
2)
t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF
3)
2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Eは直接結合、又は、-(CH
2)
j-(jは1~10の整数)、-C(CH
3)
2-、-O-、及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar
1は、-SO
3H又は-O(CH
2)
zSO
3H(zは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。)
【化3】
(前記式群(15)中、wは1~4の整数を表し、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。)
【0012】
本発明の1以上のさらに好ましい態様において、前記高分子電解質は下記一般式(3)で表される構造を有する。
【化4】
(前記一般式(3)中、xは1~2000の整数、yは1~2000の整数を表す。)
【0013】
また、本発明は、前記の高分子電解質の製造方法であって、下記一般式(4)で表される構造を有する化合物と、下記式群(5)で表される構造群から選択される構造を有する1以上の化合物を、遷移金属化合物の存在下に共重合することを特徴とする高分子電解質の製造方法に関する。
【化5】
(前記一般式(4)中、Halは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、R
a、R
bはそれぞれ独立にフッ素、又はパーフルオロアルキル基を表し、ベンゼン環上の水素はフッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びシアノ基からなる群から選ばれる一つ以上で置換されていてもよい。)
【化6】
(前記式群(5)中、Halは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、wは1~4の整数を表し、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Aは、-CO-、-SO
2-、及び-C(CF
3)
2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Dは、-CO-、-SO
2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF
2)
t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF
3)
2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Eは直接結合、又は、-(CH
2)
j-(jは1~10の整数)、-C(CH
3)
2-、-O-、及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar
1は、-SO
3H又は-O(CH
2)
zSO
3H(zは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。Mは水素、アルカリ金属、炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~18のアリール基、又は炭素数7~20のアラルキル基を表す。)
【0014】
また、本発明は、前記の高分子電解質を用いた高分子電解質膜に関する。
【0015】
本発明の1以上のさらに好ましい態様において、前記高分子電解質膜のイオン交換容量(IEC)が2.0~3.6meq./gである。また、本発明の1以上のさらに好ましい態様において、前記高分子電解質膜のフェントン溶液(2ppmのFeSO4を含む3%H2O2)中において80℃で1時間処理するフェントン試験における重量保持率が95%以上である。
【0016】
また、本発明は、前記の高分子電解質を用いた燃料電池用触媒層に関する。
【0017】
また、本発明は、前記の高分子電解質を用いた燃料電池用膜/電極接合体に関する。
【0018】
また、本発明は、前記の高分子電解質を用いた燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高いプロトン伝導度を発現し、酸化劣化に対する耐性が高く、ガス遮断性が良好な高分子電解質膜として使用でき、入手容易な原料から簡便な反応を用いて製造することができ、高沸点の非プロトン性極性溶媒のみならず、アルコール類のような低沸点の溶媒に高い溶解性を有するため、製膜等の成形が容易である高分子電解質を提供することができる。また、該高分子電解質を用いた高いプロトン伝導度を発現し、酸化劣化に対する耐性が高く、ガス遮断性が良好な高分子電解質膜を提供することができる。また、本発明によれば、簡便かつ容易に、高いプロトン伝導度を発現し、燃料電池の運転条件下においても酸化劣化に対する耐性が高く、ガス遮断性が良好な高分子電解質膜として使用し得る高分子電解質を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、高分子電解質膜のプロトン伝導度を示すグラフである。
【
図2】
図2は、高分子電解質膜の粘弾性を示すグラフであり、(a)は貯蔵弾性率を示し、(b)は損失弾性率を示し、(c)は損失正接を示す。
【
図3】
図3は、高分子電解質膜のFenton試験前後のプロトン伝導度を示すグラフである。
【
図4】
図4は、高分子電解質膜のFenton試験前後の粘弾性を示すグラフであり、(a)は貯蔵弾性率を示し、(b)は損失弾性率を示し、(c)は損失正接を示す。
【
図5】
図5は、高分子電解質膜の開回路電圧耐久試験の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、高分子電解質膜のガス透過性を示すグラフであり、(a)は水素透過性を示し、(b)は酸素透過性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、下記一般式(1)で表される疎水性セグメント、及び、スルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントで構成され、疎水性セグメントと親水性セグメントが芳香環の直接結合で連結した高分子電解質は、入手容易な原料を用いて簡便に製造することができる上、溶媒への高い溶解性を有するため、製膜等の成形が容易であること、並びに該高分子電解質を用いた高分子電解質膜が、高プロトン伝導度を有し、酸化劣化に対する耐性が高く、ガス遮断性が良好であることを見出した。
【0022】
【0023】
前記一般式(1)中、Ra、Rbはそれぞれ独立にフッ素、又はパーフルオロアルキル基を表し、yは1~2000の整数を表し、ベンゼン環上の水素はフッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びシアノ基からなる群から選ばれる一つ以上で置換されていてもよい。
【0024】
本発明の1以上の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
前記一般式(1)中、yは1~2000の整数であり、好ましくは5~1500であり、より好ましくは6~600であり、さらに好ましくは8~500であり、さらにより好ましくは8~250である。yが2000を超えると、高分子電解質が高粘度で溶媒に溶解しにくく、成形が困難になる。
【0026】
前記一般式(1)中、ベンゼン環の水素は、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びシアノ基からなる群から選ばれる一つ以上で置換されていてもよいが、入手の容易性から、すべて水素であることが好ましい。
【0027】
前記一般式(1)中、Ra及びRbは、それぞれ独立にフッ素又はパーフルオロアルキル基である。パーフルオロアルキル基の種類としては特に限定はないが、例えば、炭素数が1~10であってもよく、炭素数が1~5であってもよく、炭素数が1~3であってもよい。パーフルオロアルキル基としては、具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等が例示され、入手の容易さから、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0028】
前記一般式(1)で表される構造を有する疎水性セグメントとして、特に限定されないが、具体的には、下記式群(6)で表される構造等が挙げられる。下記式群(6)中、yは1~2000の整数であり、好ましくは5~1500であり、より好ましくは6~600であり、さらに好ましくは8~500であり、さらにより好ましくは8~250である。yが2000を超えると、高分子電解質が高粘度で溶解しにくく、成形が困難になる。
【0029】
【0030】
一般式(1)で表される構造を有する疎水セグメントにおいて、2つの芳香環が、-C(Ra)(Rb)-で表される基で連結されているため、疎水性セグメントは屈曲した構造を有し、高沸点の非プロトン性極性溶媒のみならず、アルコール類のような低沸点の溶媒への溶解性が高くなり、フィルム等への成形が容易になる。
【0031】
本発明の1以上の実施態様の高分子電解質において、疎水性セグメントは、前記一般式(1)で表される構造を有するセグメントに加え、本発明の効果を損なわない範囲で他のセグメントを有していてもよい。他のセグメントは特に限定されないが、一般式(1)で表される構造を有するセグメント及びスルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントと芳香環の直接結合で連結する構造を有するものが好ましく、例えば、下記一般式(7)で表されるメタフェニレンセグメント、下記一般式(8)で表されるパラフェニレンセグメント等が例示される。他のセグメントは、一つであってもよく、一つ以上であってもよい。
【0032】
【0033】
前記一般式(7)中、R1~R4はそれぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はシアノ基を表す。uは1~1500の整数を表す。原料の入手性から、R1~R4はすべて水素であることが好ましい。uは、好ましくは5~500であり、さらに好ましくは6~250である。uが1500を越えると高分子電解質が溶解しにくく、高粘度となり成形が困難になるおそれがある。
【0034】
【0035】
前記一般式(8)中、R5~R8はそれぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はシアノ基を表す。vは1~1500の整数を表す。原料の入手性から、R5~R8はすべて水素であることが好ましい。vは、好ましくは5~500であり、さらに好ましくは6~250である。vが1500を越えると高分子電解質が溶解しにくく、高粘度となり成形が困難になるおそれがある。
【0036】
一般式(7)で表される構造を有するメタフェニレンセグメント、及び/又は、一般式(8)で表される構造を有するパラフェニレンセグメントを導入することにより、分子鎖の屈曲性を制御し、電解質膜としての剛直性及び/又は柔軟性を調整することができる。
【0037】
疎水性セグメント、具体的には、一般式(1)で表される構造を有するセグメント、並びに、必要に応じて用いる一般式(7)で表される構造を有するメタフェニレンセグメント、及び/又は、一般式(8)で表される構造を有するパラフェニレンセグメントの主鎖を構成する芳香環が、脂肪族の炭素-水素結合を含まないパーフルオロアルキル基又は直接結合で連結され、エーテル結合やチオエーテル結合等のヘテロ結合を含まず、また、疎水性セグメントと親水性セグメントも芳香環の炭素-炭素直接結合で連結されていると、燃料電池運転下の厳しい酸化条件に対し、高い耐久性を発現する。
【0038】
前記スルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメント(以下、スルホン酸基含有親水性セグメントともいう。)は、スルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなり、かつ、スルホン酸基が芳香環に直接結合しているものである。当該セグメントがスルホン酸基を有するので、高分子電解質がプロトン伝導性を発現し、主鎖が主に芳香環からなるので、耐熱性及び化学的耐久性に優れるものになる。
【0039】
前記スルホン酸基としては、例えば、スルホン酸基、スルホン酸基の塩、スルホン酸エステル基等が挙げられる。すなわち、スルホン酸基は、例えば、ナトリウム、カリウム等の塩になっていてもよいし、ネオペンチルエステル、メチルエステル、プロピルエステル等のエステル基で保護されていてもよい。特にスルホン酸基含有親水性セグメント前駆体の合成中や合成後は、塩やエステル等の保護基を有する状態になっているのが好ましいことが多いが、当該高分子電解質が、例えば燃料電池の電解質膜として用いられる場合は、無機酸の水溶液等に浸漬することにより、スルホン酸基に変換して使用されることが多い。よって、本発明においては、スルホン酸基としては、容易にスルホン酸基になる状態の基であれば、塩やエステル等の保護基を有する状態の基も含まれる。
【0040】
スルホン酸基の量は、スルホン酸基含有親水性セグメントを形成する繰り返し単位当たり、1~6個が好ましく、1~4個がより好ましい。6個よりスルホン酸基の量が多くなると、当該セグメントの水溶性が高くなり、合成中の取り扱いが難しくなる傾向がある。1個より少ないと十分なプロトン伝導性が発現しにくくなる傾向がある。
【0041】
前記スルホン酸基含有親水性セグメントは、主鎖が主に芳香環からなるものである。ここで「主に芳香環からなる」とは、スルホン酸基含有親水性セグメントにおける主鎖の連結基(エーテル基、チオエーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等)以外の部分の分子量を100%とした場合、その70%以上が芳香環からなるということを意味する。芳香環としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、硫黄や窒素等を含む芳香族複素環等が挙げられる。主鎖が主に芳香環からなると、化学的熱的な安定性が高い。このような主鎖構造としては、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリケトン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレン、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール等が例示される。
【0042】
前記スルホン酸基含有親水性セグメントは、下記式群(2)で表される構造群から選択される1以上の構造を有するものが好ましい。
【0043】
【0044】
前記式群(2)中、wは1~4の整数、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Aは、-CO-、-SO2-、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表し、好ましくは、-SO2-、及び、-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造であり、より好ましくは-C(CF3)2-である。Dは、-CO-、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF2)t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表し、好ましくは、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF2)t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表し、より好ましくは、-(CF2)t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Eは直接結合、又は、-(CH2)j-(jは1~10の整数)、-C(CH3)2-、-O-、及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar1は、-SO3H又は-O(CH2)zSO3H(zは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。
【0045】
前記スルホン酸基含有親水性セグメントは、原料が入手しやすい、および、構造中にヘテロ結合がなく、化学的耐久性に優れるという観点から、下記式群(15)で表される構造群から選択される1以上の構造を有することが好ましい。
【化12】
(前記式群(15)中、wは1~4の整数を表し、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。)
【0046】
前記式群(2)で表される構造を有するスルホン酸基含有親水性セグメントは、特に限定されないが、具体的には、下記式群(9)で表される構造等が挙げられる。
【0047】
【0048】
本発明の1以上の実施形態において、高分子電解質は、下記一般式(3)で表される構造を有することが特に好ましい。
【化14】
(一般式(3)中、xは1~2000の整数、yは1~2000の整数を表す。)
【0049】
前記一般式(3)で表される構造を有する高分子電解質におけるスルホン酸基含有親水性セグメントは、原料が入手しやすいとともに、当該セグメントにおけるスルホン酸基当量が高く、他のスルホン酸基含有親水性セグメントに比較して、より少ない使用量で、高いプロトン伝導率が得られるというメリットがある。また、前記一般式(3)で表される構造を有する高分子電解質において、疎水性セグメントとしてのヘキサフルオロイソプロピリデンジフェニル構造は、その前駆体が比較的安価な原料から簡便に合成することができ、好ましい。
【0050】
前記一般式(3)において、xは1~2000の整数、yは1~2000の整数であり、好ましくは、xは2~800の整数、yは5~1500の整数であり、より好ましくは、xは3~800の整数、yは6~600の整数であり、さらに好ましくは、xは4~600の整数、yは8~500の整数であり、さらにより好ましくは、xは4~400の整数、yは8~250の整数である。xが2000を越えると、高分子電解質の親水性が高くなりすぎ、膨潤耐性が低くなったり、水に溶解してしまう可能性がある。一方、yの値が2000より大きいと、溶媒に溶解しにくく、製膜時の成形性が低下する。
【0051】
次に、本発明の高分子電解質の製造方法について説明する。本発明の高分子電解質の製造方法に特に制約はないが、スルホン酸基含有親水性セグメントの前駆体と、及び一般式(1)で表される構造を有する疎水性セグメントの前駆体を連結する方法が好ましく用いられる。ここで、前駆体とは、後述する共重合反応により、それぞれ、スルホン酸基含有親水性セグメント、一般式(1)で表される構造を有する疎水性セグメントとなる、反応部位を持つ化合物のことをいう。本発明においては、スルホン酸基含有親水性セグメントと一般式(1)で表される構造を有する疎水性セグメントが芳香環の直接結合で連結されるので、それぞれのセグメントの前駆体は、芳香環が直接結合で連結されるための官能基を有する必要がある。
【0052】
例えば、前記一般式(1)で表される構造を有する疎水性セグメントの前駆体として下記一般式(4)で表される構造を有する化合物と、スルホン酸基含有親水性セグメントの前駆体として下記式群(5)で表される構造群から選択される構造を有する1以上の化合物を、金属銅を用いたUllmannカップリング反応や、特許文献3に記載されている方法に従い、遷移金属化合物を用いてカップリングする方法等を用いて連結することができる。
【0053】
【0054】
前記一般式(4)中、Halは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、Ra、Rbはそれぞれ独立にフッ素、又はパーフルオロアルキル基を表し、ベンゼン環上の水素はフッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びシアノ基からなる群から選ばれる一つ以上で置換されていてもよい。入手しやすい観点から、前記一般式(4)中、ベンゼン環上の水素は置換されていない、すなわち全て水素であることが好ましい。
【0055】
【0056】
前記式群(5)中、Halは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、wは1~4の整数を表し、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Aは、-CO-、-SO2-、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表し、好ましくは、-SO2-、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造であり、より好ましくは-C(CF3)2-である。Dは、-CO-、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF2)t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表し、好ましくは、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF2)t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表し、より好ましくは、-(CF2)t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Eは直接結合又は、-(CH2)j-(jは1~10の整数)、-C(CH3)2-、-O-、及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar1は、-SO3H又は-O(CH2)zSO3H(zは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。Mは水素、アルカリ金属、炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~18のアリール基、又は炭素数7~20のアラルキル基を表す。
【0057】
前記一般式(4)で表される構造を有する化合物として、特に限定されないが、具体的には、下記式群(10)で表される化合物等が挙げられる。
【0058】
【0059】
前記式群(10)で表される化合物群において、塩素原子が臭素又はヨウ素に置き換わった化合物も好適に用いることができる。これらの中でも原料の入手性の点から以下の式群(11)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0060】
【0061】
前記一般式(4)で表される構造を有する化合物の製造法としては特に限定はないが、例えば、Macromolecules 1999、32、6418や、米国特許4503254号公報に記載されているように、対応するフェノール系化合物の水酸基をハロゲンに変換することにより合成することができる。
【0062】
前記式群(5)で表される構造を有する化合物の具体例としては、下記式群(12)で表される構造を有する化合物などが挙げられる。
【0063】
【0064】
前記式群(12)で表される構造を有する化合物群において、塩素原子が臭素又はヨウ素に置き換わった化合物も好適に用いることができる。また、Mは、前記式群(5)で説明したように、水素、アルカリ金属、炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~18のアリール基、又は炭素数7~20を表し、重合条件に応じて、適切に選択される。
【0065】
スルホン酸基含有親水性セグメントの前駆体は、対応する芳香族系化合物に、スルホン酸化剤を作用させることにより製造することができる。スルホン酸化剤としては公知のものを使用することができ、例示するならば、硫酸、無水硫酸、クロロスルホン酸、アセチル硫酸、発煙硫酸等が挙げられる。クロロスルホン酸、及び/又は発煙硫酸が適度な反応性を有しているために好ましい。スルホン酸化反応において、溶媒は用いてもよく、用いなくてもよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては、スルホン酸化剤に対して不活性なものであればよく、例えば、炭化水素系溶媒、及びハロゲン化炭化水素等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、飽和脂肪族炭化水素等が挙げられ、特に炭素数5~15の直鎖状又は分岐状の炭化水素が好ましく、溶解度の点から、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びデカン等がより好ましい。ハロゲン化炭化水素としては、ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素、及びハロゲン化芳香族炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等が挙げられ、取り扱いの容易さからジクロロメタンが好ましい。ハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等が挙げられ、取り扱いの容易さからクロロベンゼンが好ましい。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
スルホン酸化反応時の反応温度は、反応に応じて適宜設定すればよく、具体的にはスルホン酸化剤の最適使用範囲である-80℃~200℃に設定すればよく、より好ましくは-50℃~150℃であり、さらに好ましくは-20℃から130℃である。-80℃よりも低温であれば反応が遅くなり、目的とするスルホン酸化が100%まで進行しない傾向があり、200℃よりも高温であれば副反応が起こる傾向がある。スルホン酸化反応時の反応時間は、原料となる芳香族系化合物の構造により適宜選択され得るが、通常1分間~50時間程度の範囲内であればよい。1分間より短いと均一なスルホン酸化が進行しない傾向があり、50時間より長いと副反応が起こる傾向がある。
【0067】
スルホン酸化反応におけるスルホン酸化剤の添加量は、原料の芳香族系化合物に含まれるスルホン酸化される部位の全量を1当量とした場合、1~50当量であることが好ましい。1当量より少ないと、スルホン酸化される部位が不均一になる傾向があり、一方、50当量より多いと副反応が起こる傾向がある。
【0068】
スルホン酸化反応における原料の芳香族系化合物の濃度は、スルホン酸化剤と接触させた場合に均一に反応が進行すれば特に限定されないが、副反応が起きにくくすることと、溶媒量抑制によるコスト優位性の観点から、スルホン酸化反応に用いた化合物全体の重量に対して1~30重量%であることが好ましい。
【0069】
スルホン酸基含有親水性セグメントのみのイオン交換容量(以下、イオン交換容量をIECと示すこともある。)は、高分子電解質膜としてのIECが高く設定でき、また低加湿下で高いプロトン伝導性を発現することができる点から、2.0meq./g以上であることが好ましい。meq./gは、ミリ当量/gを意味する。スルホン酸基含有親水性セグメントのIECは、NMRの分析による計算や、共重合により得られた電解質のIEC(従来公知の方法、例えば滴定等により容易に求められる。)を、スルホン酸基含有親水性セグメントの重量割合で除すること等により求めることができる。
【0070】
スルホン酸基含有親水性セグメントの前駆体のスルホン酸基は保護された形態であってもよい。
【0071】
高分子電解質の主鎖の剛直性及び/又は柔軟性を調整するために、前記一般式(7)で表される構造を有するメタフェニレンセグメント、及び/又は、前記一般式(8)で表される構造を有するパラフェニレンセグメントを導入する場合は、一般式(7)で表される構造を有するメタフェニレンセグメントの前駆体として、例えば、下記一般式(13)で表される構造を有する化合物、前記一般式(8)で表される構造を有するパラフェニレンセグメントとして、例えば、下記一般式(14)で表される化合物を用いることができる。
【0072】
【0073】
前記一般式(13)中、Halは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、R1~R4はそれぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はシアノ基を表す。
【0074】
【0075】
前記一般式(14)中、Halは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、R5~R8はそれぞれ独立に、水素、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はシアノ基を表す。
【0076】
前記一般式(13)で表される構造を有する化合物の具体例としては、1,3-ジクロロベンゼン、1,3-ジブロモベンゼン、1,3-ジヨードベンゼン、2,6-ジクロロトルエン、2,6-ジブロモトルエン、2,6-ジヨードトルエン、2,6-ジクロロ-1,4-ジメチルベンゼン、2,6-ジブロモ-1,4-ジメチルベンゼン、2,6-ジヨード-1,4-ジメチルベンゼン、2,6-ジクロロ-1,3-ジメチルベンゼン、2,6-ジブロモ-1,3-ジメチルベンゼン、2,6-ジヨード-1,3-ジメチルベンゼン、2,6-ジクロロベンゾニトリル、2,4-ジクロロベンゾニトリル、2,6-ジクロロフルオロベンゼン、及び3,5-ジクロロフルオロベンゼン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらのうち、入手が容易である点で、1,3-ジクロロベンゼン、2,6-ジクロロトルエン、及び2,6-ジクロロベンゾニトリルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、安価である点で1,3-ジクロロベンゼンがより好ましい。
【0077】
前記一般式(14)で表される化合物の具体例としては、1,4-ジクロロベンゼン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジブロモトルエン、2,5-ジヨードトルエン、2,5-ジクロロ-1,4-ジメチルベンゼン、2,5-ジブロモ-1,4-ジメチルベンゼン、2,5-ジヨード-1,4-ジメチルベンゼン、2,5-ジクロロ-1,3-ジメチルベンゼン、2,5-ジブロモ-1,3-ジメチルベンゼン、2,5-ジヨード-1,3-ジメチルベンゼン、2,5-ジクロロベンゾニトリル、及び2,5-ジクロロフルオロベンゼン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、入手が容易である点で、1,4-ジクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロベンゾニトリルが好ましく、安価である点で、1,4-ジクロロベンゼンがより好ましい。
【0078】
遷移金属化合物としては、ニッケル系化合物、及びパラジウム系化合物が好ましく用いられ、より好ましくは、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル、及びテトラキストリフェニルホスフィンニッケル等の0価ニッケル錯体が用いられる。また、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ジクロロビストリフェニルホスフィンニッケル等の2価のニッケル化合物を、亜鉛等の還元剤の存在下に使用してもよい。0価ニッケル錯体は、カップリング反応の活性が高い半面、高価であり、水分や酸素に対して敏感で取り扱いに注意を要する。一方、2価ニッケル化合物は、活性はやや低いものの安価であり、水分や酸素に対して安定であるため、取り扱いは容易である。
【0079】
また、スルホン酸基含有親水性セグメントの前駆体と、疎水性セグメントの前駆体の一方にボロン酸官能基を導入し、他方にハロゲンを導入しておき、パラジウム触媒を用いた鈴木-宮浦カップリング反応を用いることもできる。
【0080】
重合反応用溶媒としては、疎水性セグメントの前駆体、及びスルホン酸基含有親水性セグメントの前駆体等の反応物質、並びに生成する高分子電解質を溶解するものが好ましく、具体例としては、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、生成する高分子電解質の溶解度の観点から、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、ジメチルスルホキシド等の硫黄系溶媒が好ましい。これら重合反応溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0081】
遷移金属化合物を用いるカップリング反応を行う場合は、反応系を脱水することが好ましい。脱水の方法は特に限定されないが、上記の溶媒に共沸溶媒を混合し、加熱して共沸脱水する方法が好ましく用いられる。
【0082】
共沸溶媒としては特に限定はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、及びテトラヒドロフラン等を用いることができ、重合反応用溶媒に応じて、適宜選択される。
【0083】
共沸脱水は、共沸溶媒の沸点に依存するが、100~200℃の範囲で行うことが好ましい。100℃未満では脱水速度が遅く実用的でなく、200℃を超えると重合反応用溶媒も留去されてしまうので好ましくない。
【0084】
前記一般式(13)で表される構造を有する化合物及び/又は前記一般式(14)で表される構造を有する化合物を使用する場合、脱水温度によってはそれらの化合物が一部蒸発してしまい、重合収率が低下したり、設定値よりも大きなイオン交換容量を有する高分子電解質が得られることがある。このような場合、他の成分を脱水した後に混合物を冷却してから、これらの化合物を添加すると、高分子電解質が高収率で得られることから好ましい。
【0085】
また、カップリングに使用する遷移金属化合物として2価ニッケル化合物等を使用する場合は、スルホン酸基がアルキル基等で保護されたスルホン酸基含有親水性セグメントの前駆体を用いることが好ましいが、共沸脱水時の温度が高すぎると、保護基が脱離してしまい、重合を阻害することがある。このような場合も、他の成分を脱水した後に混合物を冷却し、当該スルホン酸基含有親水性セグメント前駆体を添加すると、高い収率で高分子量の重合体が得られるので好ましい。
【0086】
本発明の1以上の実施形態において、前記高分子電解質の数平均分子量は、1,000~500,000が好ましく、より好ましくは5,000~200,000であり、さらに好ましくは、7,000~150,000であり、さらにより好ましくは7,000~100,000である。数平均分子量が1,000より小さいと膜にした場合の強度が不足する傾向があり、一方、500,000より大きいと、溶媒への溶解性が低下し、ハンドリング性が悪化する傾向がある。高分子電解質の数平均分子量は、後述の実施例に記載の方法から求めることができる。
【0087】
本発明の1以上の実施形態において、前記高分子電解質には、スルホン酸基が0.5~4.0meq./gの割合で含まれることが好ましく、1.2~3.8meq./gがより好ましく、1.4~3.6meq./gがさらに好ましく、2.0~3.6meq./gがさらにより好ましい。0.5meq./g未満であると、プロトン伝導度が不十分となる傾向があり、4.0meq./gを超えると、膜とした場合に強度を維持することが困難となる傾向がある。
【0088】
本発明の1以上の実施形態において、前記高分子電解質におけるスルホン酸基の当量を上述した範囲にするためには、前記高分子電解質における親水性セグメントの繰り返し単位に対する疎水性セグメントの繰り返し単位のモル比、例えば、前記高分子電解質が一般式(3)で表される構造を有する場合、x/yが、0.15~3.5であることが好ましく、0.40~3.0であることがより好ましく、0.80~2.5であることがさらに好ましい。
【0089】
本発明の高分子電解質は、様々な産業上の利用が考えられ、その利用(用途)については、特に制限されるものではないが、高分子電解質膜、燃料電池用触媒層、燃料電池用膜/電極接合体、燃料電池に好適である。
【0090】
本発明の1以上の実施形態において、高分子電解質膜は、前記の高分子電解質を任意の方法で膜状に成形したものである。このような製膜方法としては、公知の方法が適宜使用され得る。上記公知の方法としては、例えば、ホットプレス法、インフレーション法、Tダイ法等の溶融押出成形、キャスト法、エマルション法等の溶液からの製膜方法が例示され得る。例えばキャスト法は、粘度を調整した高分子電解質の溶液を、ガラス板等の平板上に、バーコーター、ブレードコーター等を用いて塗布し、溶媒を気化させて膜を得る方法である。工業的には溶液を連続的にコートダイからベルト上に塗布し、溶媒を気化させて長尺物を得る方法も一般的なキャスト法である。
【0091】
炭化水素系電解質のキャスト法製膜には、従来、高沸点の非プロトン性極性溶媒が用いられており、代表例として、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が使用されてきた。これらは、炭化水素系電解質の良溶媒であるが、高沸点であるために、キャスト後の乾燥に高温かつ長時間を要するという問題があった。また、乾燥後にも膜中に一定量の溶媒が残留するため、膜を水洗するなどして、除去する必要があった。本発明における高分子電解質は、上記のような非プロトン性溶媒に溶解するのみならず、メタノール、エタノール、及びイソプロパノール等の低沸点アルコール類にも溶解する。このため、キャスト後の乾燥は比較的低温、短時間で完了し、ほとんど膜中に残留しないので、水洗などの後工程を省略できる。
【0092】
高分子電解質膜の分子配向等を制御するために、得られた高分子電解質膜に対して二軸延伸等の処理を施したり、結晶化度を制御するための熱処理を施したりしてもよい。また、高分子電解質膜の機械的強度を向上させるために各種フィラーを添加したり、ガラス不織布等の補強剤と高分子電解質膜とをプレスにより複合化させてもよい。
【0093】
高分子電解質膜の厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、得られる高分子電解質膜の内部抵抗を低減することを考慮した場合、高分子電解質膜の厚みは薄い程よい。一方、得られた高分子電解質膜のガス遮断性やハンドリング性を考慮すると、高分子電解質膜の厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子電解質膜の厚みは、5~300μmが好ましく、10~100μmがより好ましく、また、燃料電池として出力を重視する場合等は10~50μmが特に好ましい。高分子電解質膜の厚さが5~300μmであれば、製造が容易であり、膜抵抗と機械物性のバランスが取れており、燃料電池材料として加工する際のハンドリング性にも優れる。
【0094】
なお、前記高分子電解質膜の特性をさらに向上させるために、電子線、γ線、イオンビーム等の放射線を照射させることも可能である。これらにより、高分子電解質膜中に架橋構造等が導入でき、さらに性能が向上する場合がある。またプラズマ処理やコロナ処理等の各種表面処理により、高分子電解質膜表面の触媒層との接着性を上げる等の特性向上を図ることもできる。
【0095】
前記高分子電解質膜は、イオン交換容量(IEC)が0.5~4.0meq./gであることが好ましく、1.2~3.8meq./gであることがより好ましく、1.4~3.6meq./gであることがさらに好ましく、2.0~3.6meq./gであることがさらにより好ましい。0.5meq./g未満であるとプロトン伝導性が低くなりすぎる傾向があり、4.0meq./gを超えると水による膨潤で機械強度が著しく低下する傾向がある。
【0096】
本発明の1以上の実施形態において、高分子電解質のイオン交換容量(IEC)を上述した範囲にするためには、前記高分子電解質における親水性セグメントの繰り返し単位に対する疎水性セグメントの繰り返し単位のモル比、例えば、前記高分子電解質が一般式(3)で表される構造を有する場合、x/yが、0.15~3.5であることが好ましく、0.40~3.0であることがより好ましく、0.80~2.5であることがさらに好ましい。
【0097】
以上のようにして得られる本発明の高分子電解質膜は、一般式(1)で表される構造を有する疎水性セグメント、及びスルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメントが、芳香環の直接結合で連結されている高分子電解質から得られるので、高い化学的耐久性を有し、燃料電池運転時の過酷な酸化条件に耐えることができる。
【0098】
高分子電解質膜の化学的耐久性は各種の試験法で評価することができるが、酸化劣化に対する耐性を評価する試験である、過酸化水素水を用いたフェントン試験(Fenton試験)が簡便で好ましく用いられる。Fenton試験は後述の実施例の中に具体的な試験条件を示すが、適当なサイズの電解質膜を、微量の硫酸鉄(II)を含む一定濃度の過酸化水素水に浸漬し、一定時間加熱した後に、試験片の重量、分子量、イオン交換容量等を測定して、試験前からの保持率を記録するものである。
【0099】
従来の炭化水素系電解質膜は、主鎖中にエーテル基、カルボニル基、スルホン基等を含んでいるものが多く、Fenton試験後の物性保持率はきわめて低いものであった。これに対し、本発明の高分子電解質膜は、前記の構造を有するためにFenton試験後も高い保持率を示す。燃料電池の運転条件に耐えるためには、Fenton試験後、具体的にはフェントン溶液(2ppmのFeSO4を含む3%H2O2)中において80℃で1時間処理するFenton試験後の重量保持率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。重量保持率が80%より小さい場合、膜の分解が進み、プロトン伝導度が低くなったり、破膜により燃料ガスのクロスオーバーが起こる等、燃料電池の運転に支障が出る恐れがある。
【0100】
本発明の1以上の実施形態において、燃料電池用触媒層は、前記の高分子電解質を含有してなるものである。具体的には、当該燃料電池用触媒層は、前記の高分子電解質、燃料電池用触媒、必要に応じて撥水剤やバインダー樹脂から構成されるものである。本発明の高分子電解質を使用することにより、固体高分子形燃料電池や直接メタノール型燃料電池のアノード又はカソード触媒層に好適な、優れた発電特性を示すことができる。
【0101】
燃料電池用触媒は、当業者にとって従来公知の燃料電池用触媒であればよく、導電性触媒担体と当該導電性触媒担体に担持された触媒活性物質を含むものであればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。具体的には、燃料電池の電極反応に対して活性な触媒が使用される。アノード側では、燃料(水素やメタノール等)の酸化能を有する触媒が使用される。カソード側では、酸化剤(酸素等)の還元能を有する触媒が使用される。
【0102】
導電性触媒担体としては、具体的には、カーボンブラック、ケッチェンブラック(商品名)、活性炭、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブ等の高表面積のカーボン担体が挙げられ、触媒担持能や電子伝導性、電気化学的安定性等から、これらの材料が好ましい。
【0103】
触媒活性物質としては、具体的には、白金、コバルト、ルテニウム等が例示でき、これらを1種を単独で、あるいはこれらの少なくとも1種を含んだ合金、さらには任意の混合物として使用しても構わない。特に燃料の酸化能、酸化剤の還元能、耐久性を考慮すると、白金又は白金を含む合金であることが好ましい。これらは必要に応じて、安定化や長寿命化のために、鉄、錫、希土類元素等を用い、3成分以上で構成してもよい。
【0104】
本発明の1以上の実施形態において、燃料電池用触媒層は、前記の高分子電解質、燃料電池用触媒及び溶媒を含む触媒インクを支持体上に塗布し、溶媒を除去することによって調製することができる。溶媒としては、高分子電解質を溶解でき、燃料電池用触媒を被毒しないものであれば何ら制限なく使用可能である。当該触媒インクは、必要に応じて非電解質バインダー、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤等の添加剤を含んでいても構わない。また、これらの添加剤は、当業者にとって従来公知のものが使用可能であり、その他の具体的な構成については特に限定されない。
【0105】
前記触媒インクは、粘度や基材の種類に応じて、下記に示すような塗布方法が利用できる。前記触媒インクの基材への塗布方法としては、当業者にとって従来公知の塗布方法であればよく、特に限定されない。例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等を利用する方法が列挙できるが、これらに限定されるものではない
【0106】
上記において、基材として高分子フィルムを使用した場合には、燃料電池用触媒層転写シートが、基材として導電性多孔質シートを使用した場合には、燃料電池用ガス拡散電極が、それぞれ製造できる。
【0107】
本発明の1以上の実施形態において、燃料電池用膜/電極接合体(以下、「MEA」と表記する。)は、前記の高分子電解質又は前記の高分子電解質膜を用いてなる。かかるMEAは、例えば、固体高分子形燃料電池に好適に用いることができる。MEAを作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン酸化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン酸化ポリエーテルスルホン、スルホン酸化ポリスルホン、スルホン酸化ポリイミド、スルホン酸化ポリフェニレンサルファイド等)で行われる公知の方法が適用可能である。
【0108】
上述した例以外にも、前記の高分子電解質は、例えば特開2006-179298号公報等で公知になっている固体高分子形燃料電池の電解質として、使用可能である。これらの公知の特許文献に基づけば、当業者であれば、本発明の高分子電解質を用いて容易に固体高分子形燃料電池を構成することができる。
【実施例】
【0109】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0110】
各測定は以下のように行った。
【0111】
(分子量の測定)
分子量は、GPC法により、下記の条件で測定した。
カラム:KF-805L(昭和電工株式会社製)
検出器:Jasco805UV検出器
移動相溶媒:DMF(ジメチルホルムアミド、LiBrを0.05Mとなるように添加)
標準物質:標準ポリスチレン
以下、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量をMnと表記し、標準ポリスチレンで換算した重量平均分子量をMwと表記する。
【0112】
(イオン交換容量の測定)
高分子電解質膜の切片を2MのNaCl水溶液に24時間浸漬した。イオン交換により放出された塩酸を0.01MのNaOH水溶液により定量し、以下の式を用いてイオン交換容量IEC値を算出した。下記式で、NaOH(l)は、定量に用いたNaOH水溶液の体積(L)であり、W
dry(g)は、測定に用いた高分子電解質膜(乾燥後)の切片の重量(g)である。
【数1】
【0113】
(Fenton試験)
約1×3cmの高分子電解質膜(約30mg)を用意した。該高分子電解質膜を50mLのFenton溶液(2ppmのFeSO4を含む3%H2O2)中に入れて、80℃で1時間浸漬し、Fenton試験を実施した。Fenton試験後の高分子電解質膜を乾燥し、重量、分子量、及びイオン交換容量を測定し、Fenton試験前の値からの保持率を計算した。
【0114】
(プロトン伝導度)
高分子電解質膜のプロトン伝導度測定は、日本ベル株式会社製の電解質評価装置「MSB-AD-V-FC」を用いて行った。チャンバー内温度は80℃一定で、相対湿度(RH)20%、RH40%、RH60%、RH80%、及び、RH90%の条件下で行った。測定は、RH20%→RH40%→RH60%→RH80%→RH90%→RH80%→RH60%→RH40%→RH20%を1サイクルとして、2サイクル目の湿度降下時の値を測定結果として用いた。高分子電解質膜のサンプルのサイズは1.0cm×3.0cm、Auプローブ間の距離は1.0cmとし、Solartron 1255B/1287(株式会社東陽テクニカ製)を用いて、交流4端子法(300mV、1-100000Hz)により測定を行った。インピーダンスZはボードプロットにより位相角が0°に近い値でかつ1000Hzに近い値を用いた。導電率σ(S/cm)は次式により計算した。
σ=(L/Z)×1/A
ここでLはAuプローブ間の距離(1.0cm)、Aはサンプルの断面積(1cm×膜厚Xcm)である。
【0115】
(動的粘弾性)
高分子電解質膜(0.5cm×3cm)の動的粘弾性を、アイティー計測制御株式会社製の動的粘弾性測定装置「DVA-225」を用いて行った。測定周波数10Hz、80℃一定での1%RH/minの湿度上昇速度における相対湿度0%RHから90%RHの貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)、及び、損失正接(tanδ)の各データを取得した。測定は3サイクル行い、3サイクル目のデータを使用した。
【0116】
(開回路電圧耐久試験(OCV耐久試験))
試験に使用する燃料電池セルを以下のようにして作製した。Pt/CB触媒(田中貴金属工業製の「TEC10E50E」)、Nafion(登録商標)分散液(Dupont製の「D-521」、IEC=0.95~1.03mmol/g)、脱イオン水、エタノールを、ボールミルを用いて30分混合し、触媒ペーストを得た。Nafion(登録商標)バインダーと、炭素担体の重量比は、0.7に調整した。高分子電解質膜の両面に、触媒ペーストをスプレー塗布し、60℃で12時間乾燥させ、さらに140℃、10kgfの条件で3分間ホットプレスして触媒塗布電解質膜(CCM)とした。触媒層の有効面積、及び白金担持量は、それぞれ、4.41cm2、0.50±0.02mg/cm2とした。CCMをガス拡散層(SGLカーボン製の「29BC」)ではさみ、アノード、カソード両極ともサーペンタイン型ガス流路を有するカーボンセパレーターを有するセルに組み込んだ。上記のセルを用いてOCV耐久試験を80℃、相対湿度30%で1000時間行った。純水素と空気の流量は、それぞれ100mL/minとした。
【0117】
(ガス透過性)
水素及び酸素透過性は、GTR-tech製のガス透過性試験機「GTR-20XFYC」を用い、Porapak Qカラムと熱伝導検知器を備えたYanaco製のガスクロマトグラフ試験機「G2700T」を検出器として測定した。アルゴンとヘリウムを、それぞれ水素及び酸素透過性測定のキャリアガスとして用いた。高分子電解質膜をガス入り口と出口を有するセルの中心部に設置し、テストガスを高分子電解質膜の一方の面に、キャリアガスを他方の面に供給した。高分子電解質膜の湿度を均一に保つために、テストガスとキャリアガスの湿度条件は同一に設定した。フローガスのサンプルを採取し、高分子電解質膜を透過したテストガスをガスクロマトグラフを用いて定量した。高分子電解質膜のガス透過係数Q[cm3(STD)cm・cm-2・S-1・cmHg-1]は、以下の式に従い計算した。
Q=273/T×1/A×B×1/t×l×1/(76-PH2O)
ここでT(K)は絶対温度、A(cm2)は透過面積、B(cm3)は透過したガスの体積、t(s)はサンプリング時間、l(cm)は膜厚、PH2O(cmHg)は水蒸気圧を表す。
【0118】
(エタノールへの溶解性)
約1×3cmの高分子電解質膜(約30mg)をスクリュー管に入れ、エタノール約10mLを加えて密閉し、室温(20±5℃)で24時間放置した。電解質の溶解性を目視で下記の基準で判定した。
A:完全に溶解
B:不溶
【0119】
<疎水性セグメント前駆体の合成例1>
2,2-ビス(4-クロロフェニル)ヘキサフルオロプロパンは文献記載の方法(Macromolecules 1999、32、6418)に従い合成した。具体的には、250mLのフラスコにジクロロトリフェニルホスホラン(35.7g、107mmol、PPh
3Cl
2)と4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノール(18.1g、53.6mmol)を仕込んだ。反応容器をマントルヒーターを用いて350℃で4時間加熱した。茶色の反応生成物を室温まで冷却し、塩化メチレンに溶解した。当該溶液を、ヘキサンを溶出液として酸化アルミニウムの短いカラムを通過させた。溶媒を留去して目的とする化合物を得た(12.4g、62%)。反応式は、下記の通りである。
【化22】
【0120】
<実施例1>
リービッヒ冷却器とディーン・スタックトラップを備えた100mLの三口フラスコに、窒素雰囲気下、合成例1で得られた2,2-ビス(4-クロロフェニル)ヘキサフルオロプロパン(0.298g、0.8mmol)、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸(0.50g、1.9mmol)、炭酸カリウム(0.316g、2.28mmol)、2,2’-ビピリジル(1.78g、11.34mmol)、ジメチルスルホキシド(6mL)、及びトルエン(6mL)を加えた。混合物を170℃で2時間、共沸脱水した後、トルエンを留去し、混合物を80℃に冷却した。ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(1.56g、5.67mmol)を加え、80℃で3時間、撹拌した。混合物を大過剰の6M塩酸に加え、再沈殿した。粗生成物を濃塩酸、さらにイオン交換水で数回洗浄し、80℃の真空乾燥機で一晩乾燥することにより、高分子電解質を94%の収率で得た。反応式は、下記の通りである。
【化23】
【0121】
上記で得られた高分子電解質をDMSO中で加熱撹拌することにより溶解させ、ガラスフィルターG3により不純物を取り除き、ポリマー溶液をシリコンゴムで縁取りしたガラス板に流し込み、60℃のホットプレート上で加熱乾燥した。得られた膜を1mol/Lの硫酸水溶液中で一晩処理し、その後純水で洗浄して膜厚が約25μmの膜を得た。この膜をメンブレンフィルターとガラス板を用いてはさみ、重しをのせて、水がなくなるまで大気中で乾燥し、高分子電解質膜を得た。
【0122】
<実施例2>
使用する化合物の量を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして重合を行うことで高分子電解質を作製し、実施例1と同様にして乾燥する前の膜厚が約25μmの高分子電解質膜を得た。合成例1で得られた2,2-ビス(4-クロロフェニル)ヘキサフルオロプロパン(0.298g、0.8mmol)、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸(0.368g、1.4mmol)、炭酸カリウム(0.232g、1.68mmol)、2,2’-ビピリジル(1.45g、9.24mmol)、ジメチルスルホキシド(6mL)、トルエン(6mL)、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(1.27g、4.62mmol)。
【0123】
<実施例3>
使用する化合物の量を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして重合を行うことで高分子電解質を作製し、実施例1と同様にして乾燥する前の膜厚が約25μmの高分子電解質膜を得た。合成例1で得られた2,2-ビス(4-クロロフェニル)ヘキサフルオロプロパン(0.560g、1.5mmol)、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸(0.289g、1.1mmol)、炭酸カリウム(0.182g、1.32mmol)、2,2’-ビピリジル(1.71g、10.92mmol)、ジメチルスルホキシド(6mL)、トルエン(6mL)、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(1.50g、5.46mmol)。
【0124】
<比較例1>
リービッヒ冷却器を備え、窒素パージしている1L一口フラスコ中に、1,4-フェニレンジボロン酸(9.76g、58.9mmol)、1-ブロモ-3-ヨードベンゼン(50.0g、177mmol)、トリ(o-トリル)ホスフィン(1.34g、4.42mmol)、2M炭酸カリウム水溶液(100mL、200mmol)、トルエン(320mL)及びエタノール(120mL)を加えた。次いで得られた懸濁液中に酢酸パラジウム(198mg、0.883mmol)を加えて80℃で18時間撹拌した。反応混合物を室温まで放冷し、超純水及びトルエンで希釈後不溶物をセライト(登録商標)でろ別した。ろ液2層を分離後、水層をトルエンで抽出し合わせた有機層を減圧下濃縮した。得られた残渣にメタノールを加えて超音波をかけると、固体が析出した。生じた固体をろ過により回収し、メタノール洗浄及び60℃にて減圧乾燥することで中間体である3,3''-ジブロモ-p-ターフェニルを淡黄色固体として得た(15.6g、68%収率)。反応式は、下記のとおりである。
【化24】
【0125】
リービッヒ冷却器を備え、窒素パージしている500mL一口フラスコ中に、先に得られた3,3''-ジブロモ-p-ターフェニル(15.6g、40.2mmol)、3-クロロフェニルボロン酸(25.2g、161mmol)、炭酸ナトリウム(17.1g、161mmol)、DMF(120mL)及び超純水(160mL)を加えた。次いで得られた懸濁液中に酢酸パラジウム(903mg、4.02mmol)を加えて60℃で24時間撹拌した。反応混合物を室温まで放冷し、超純水及びトルエンで希釈後不溶物をセライト(登録商標)でろ別した。ろ液を超純水で洗浄し、減圧下濃縮した。得られた残渣にメタノールを加えて超音波をかけ、生じた灰色固体をろ取、メタノール洗浄し、さらに得られた固体を酢酸エチル/ジクロロメタン(体積比:1/2、約700mL)中に再度溶かし、活性炭素(約2g)を加えることで不純物を除去した。活性炭素をろ別後、ろ液を減圧下乾燥することで、3,3''''-ジクロロー1,1':3',1'':4'',1''':3''',1''''-キンクフェニルを白色固体として得た(14.2g、収率78%)。反応式は、下記のとおりである。
【化25】
【0126】
リービッヒ冷却器とディーン・スタックトラップを備え、窒素パージしている100mLの三口フラスコ中へ、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸2水和物(2.5mmol)と上記で得られたキンクフェニルジクロロモノマー(1.1mmol)、2,2'-ビピリジル(11mmol)、炭酸カリウム(2.8mmol)を加え、ジメチルスルホキシド(DMSO)(22mL)へ溶解した。脱水操作のために、共沸剤として脱水トルエン(4mL)を加えた。最初に170℃へと昇温し、脱水操作を2時間行った。水とトルエンを除去後、80℃へと温度を下げ、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(11mmol)を加えてカップリング重合反応を開始した。3時間反応後放冷し、メタノール中へと滴下した。得られた黒色固体を塩酸洗浄2回、純水洗浄3回行い、真空乾燥することで黄色の重合体を収率97%で得た。反応式は、下記のとおりである。
【化26】
【0127】
上記で得られた重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして乾燥する前の膜厚が約25μmの高分子電解質膜を得た。
【0128】
<比較例2>
還流管とDeanStark管を取り付けた500mLの4つ口フラスコに、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(31.6g,110mmol)、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン(21.4g,100mmol)、炭酸カリウム(20.7g,150mmol)、ジメチルアセトアミド(200mL)、及びトルエン(50mL)を加えた。混合物を170℃に加熱し、生成した水を除去しながら35時間、攪拌を続けた。4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(0.5g)を追加し、さらに5時間攪拌した。混合物を、濾紙を用いて濾過し、過剰の炭酸カリウムを除去した後、濾液を500mLのメタノールに注いで、生成物を再沈殿させた。生成物を減圧下、70℃で4時間乾燥させた後、500mLの純水で、60℃で2回洗浄、さらに500mLのメタノールで60℃で1回洗浄し、減圧下、70℃で一晩乾燥させ、下記反応式で示される反応によって疎水部オリゴマーを41.5g得た。GPC法で測定した分子量はMn=5400、Mw=13900であった。
【化27】
【0129】
リービッヒ冷却器とディーン・スタックトラップを備え、窒素パージしている2Lの三口フラスコ中へ、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム(31.36g,126mmol)、上記で得られた疎水部オリゴマー(16g,3.5mmol)、2,2’-ビピリジル(47.68g,306mmol)、ジメチルスルホキシド(704mL)、トルエン(176mL)を仕込み、170℃で2時間脱水を行なった。水とトルエンを除去後、80℃へと温度を下げ、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(40g,145.6mmol)を加えて重合を開始した。2時間反応後、放冷し、反応物をメタノール(2L)に注いで再沈殿させた。得られた固体を6mol/L塩酸(2×2L)で洗浄し、さらに濾液が中性になるまで水で繰り返し洗浄した。減圧下、105℃で乾燥し、目的の重合体を29.9g得た(粗生成物の収率84%)。反応式は下記のとおりである。
【化28】
【0130】
上記で得られた重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして乾燥する前の膜厚が約25μmの高分子電解質膜を得た。
【0131】
<比較例3>
市販されてるパーフルオロスルホン酸系電解質膜「Nafion(登録商標)NRE212」(膜厚50μm)を比較例3として用いた。
【0132】
実施例1~3及び比較例1~2で得られた乾燥後の高分子電解質膜を用いて、平均分子量、イオン交換容量(IEC)、耐酸化性(Fenton試験)、およびエタノールへの溶解性の評価を、上記の方法に従い実施した。また、親水性セグメントの繰り返し単位の繰り返し数(x)、疎水性セグメントの繰り返し単位の繰り返し数(y)、およびそのモル比(x/y)を、高分子電解質の数平均分子量(Mn)とIECから計算した。それらの結果を下記表1に示した。
【0133】
【0134】
表1のデータから、実施例1~3の電解質膜は、原料の仕込み比を調整することにより、IECを広い範囲で制御できることが確認された。また、耐酸化性が高いことが知られている比較例1の電解質膜(特許文献5)と同様に、Fenton試験に対して高い耐性、すなわち酸化劣化に対する耐性が高いことが分かった。一方、分子鎖中にエーテル結合等のヘテロ結合を有する比較例2の電解質膜は、Fenton試験で分子鎖が分解し、平均分子量やIECの保持率が極めて低かった。また、実施例1~3の電解質はエタノールに溶解するが、比較例の電解質はいずれもエタノールに溶解しなかった。
【0135】
実施例1~3及び比較例1~3の高分子電解質膜のプロトン伝導度を、上述した方法のとおりに測定した。その結果を
図1に示した。
【0136】
図1から分かるように、実施例1~3の高分子電解質膜は、IECが高くなるとともにプロトン伝導度は高くなり、実施例2の高分子電解質膜は、同等のIECを有する比較例1の高分子電解質膜と同等の高いプロトン伝導度を有していた。また、実施例1及び2の高分子電解質膜は、市販品である比較例3の高分子電解質膜と比べて、相対湿度が40%以上の領域において、より高いプロトン伝導度を示した。
【0137】
実施例1及び2、並びに比較例1及び3の高分子電解質膜の粘弾性を、上述した方法のとおりに測定した。その結果を
図2に示した。
図2(a)は貯蔵弾性率を示し、
図2(b)は損失弾性率を示し、
図2(c)は損失正接を示している。
【0138】
図2のデータから、実施例の高分子電解質膜は、比較例の高分子電解質膜と同様、粘弾性の湿度依存性が小さく、燃料電池運転時の乾燥湿潤が繰り返される条件においても機械的に安定であることが示唆された。
【0139】
実施例1及び2の高分子電解質膜のFenton試験前後のプロトン伝導度を上述した方法のとおりに測定し、その結果を
図3に示した。
【0140】
図3から分かるように、実施例1及び2の電解質膜は、Fenton試験後も試験前(初期)と比べてプロトン伝導度にほとんど変化はなく、高い耐酸化性を有していた。
【0141】
実施例1及び2の高分子電解質膜のFenton試験前後の粘弾性を測定し、その結果を
図4に示した。
図4(a)は貯蔵弾性率を示し、
図4(b)は損失弾性率を示し、
図4(c)は損失正接を示している。
【0142】
図4から分かるように、実施例1及び2の電解質膜のFenton試験後の動的粘弾性は、初期と比べてほとんど変化がなく、化学的耐久性が高かった。
【0143】
実施例2及び比較例1の高分子電解質膜を用いて上述したとおりにOCV耐久試験を実施した。結果を
図5に示した。
【0144】
図5から分かるように、実施例2の高分子電解質膜の開回路電圧は、比較例1に比較して経時での低下が小さく、化学的な耐久性がより高かった。
【0145】
実施例2、比較例1及び3の高分子電解質膜のガス透過性を上述したとおりに測定した。その結果を
図6に示した。
図6(a)は水素透過性を示し、
図6(b)は酸素透過性を示している。
【0146】
図6から分かるように、実施例2の高分子電解質膜のガス透過性は、比較例1の電解質膜に比較してやや高いものの、比較例3のパーフルオロスルホン酸系電解質膜よりも低い(ガス遮断性が高い)結果となった。
【0147】
以上のように、本発明の高分子電解質は、プロトン伝導性が高く、耐酸化性及び化学的耐久性に優れ、機械物性の湿度依存性が小さく、さらに高いガス遮断性を有する。製造が容易で、沸点が低いアルコール類溶媒への溶解性が良好なため製膜等の成形性に優れ、燃料電池の電解質膜等に好適である。