(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】撥水剤、撥水処理された繊維基材の製造方法、撥水性繊維物品、コーティング膜付き撥水性繊維物品、及びコーティング膜付き撥水性繊維物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20230307BHJP
D06M 15/27 20060101ALI20230307BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20230307BHJP
D06M 13/395 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C09K3/18 101
C09K3/18 104
D06M15/27
D06M15/564
D06M13/395
(21)【出願番号】P 2019015411
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】591018051
【氏名又は名称】明成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】新田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】松村 達也
(72)【発明者】
【氏名】森川 周作
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴史
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199726(WO,A1)
【文献】特開2018-119250(JP,A)
【文献】特開2017-222827(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080060(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
D06M 15/27
D06M 15/564
D06M 13/395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記重合体(I)と下記成分(III)との合計100質量部に対して、前記重合体(I)の割合が0~55質量部、下記重合体(II)の割合が10~85質量部であり、
フッ素を含有する成分を含まない、撥水剤。
<重合体(I)>
下記一般式(1)で表される、モノエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(Ia)の少なくとも1種から誘導された繰り返し単位を有する重合体。
【化1】
[一般式(1)中、R
11は水素原子、メチル基、又は塩素原子であり、R
12は炭素数16~30の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基である。]
<重合体(II)>
下記一般式(2)で表される、ビニル単量体(IIa)の少なくとも1種から誘導された繰り返し単位を有する重合体
であって、前記重合体(II)における前記ビニル単量体(IIa)の割合は、前記重合体(II)100質量%を基準として、30質量%以上100質量%以下である。
【化2】
[一般式(2)中、R
21は水素原子、メチル基または塩素原子であり、R
22は塩素原子、または置換もしくは無置換の、フェニル
基であり、1つ以上の
塩素原子または炭素数1~10のアルキル基で置換されていてもよい。]
<成分(III)>
下記一般式(3)で表されるアルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)とを含む組成物、及び、上記アルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)との反応生成物の少なくとも一方である。
【化3】
[一般式(3)中、n
31は3~8の整数であり、n
31-n
32はn
31からn
32を引いた値を表し、1~7の整数であり、n
32は1~7の整数であり、R
31は炭素数16~32の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基、または炭素数15~31の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有するアシル基であり、Aは3~6価の炭素数6以下の多価アルコールから水酸基を除いた残基、3~6価の炭素数6以下の多価アルコールの2~4量体から水酸基を除いた残基、単糖または二糖から水酸基を除いた残基、および5~6価の多価アルコールの分子内脱水環化物から水酸基を除いた残基からなる群より選択される少なくとも1種である。]
【請求項2】
前記アルコール(IIIa)のn
32が、2以上である、請求項1に記載の撥水剤。
【請求項3】
前記イソシアネート化合物(IIIb)が、ブロックイソシアネートである、請求項1または2に記載の撥水剤。
【請求項4】
前記重合体(II)が、単独重合体のガラス転移点が60℃以下のエチレン性不飽和単量体(IIb)から誘導された繰り返し単位をさらに有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の撥水剤。
【請求項5】
前記重合体(I)が、水酸基、エポキシ基、アセトアセチル基、カルボニル基、クロロメチル基、アミド基、N-アルコキシメチルアミド基、ブロックドイソシアネート基、オキサゾリン基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、アルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する架橋性のエチレン性不飽和単量体(Ib)から誘導された繰り返し単位をさらに有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の撥水剤。
【請求項6】
前記重合体(I)が、下記一般式(4)で表される、オルガノポリシロキサン骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体(Ic)から誘導された繰り返し単位をさらに有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の撥水剤。
【化4】
[一般式(4)中、Xはエチレン性不飽和基と炭素数1~10のアルキレン基とを有する基であり、Yは一般式(4)で表されるシリコーン鎖またはR
41であり、R
41は互いに同一でも異なっていてもよい炭素数が1~32であるアルキル基又はアリール基であり、n
41は0~200の整数であり、式中にn
41が複数存在する場合、n
41は互いに同一でも異なっていてもよく、合計が200を超えない。]
【請求項7】
前記重合体(I)が、ポリオキシエチレン基を有するモノエチレン性不飽和単量体(Id)から誘導された繰り返し単位をさらに有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の撥水剤。
【請求項8】
水を含む液状媒体と界面活性剤をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の撥水剤。
【請求項9】
少なくとも
下記重合体(I)を含む第1剤と、少なくとも
下記重合体(II)を含む第2剤と、少なくとも
下記成分(III)を含む第3剤とを備える撥水剤を調製するためのキットであって、前記重合体(I)と前記成分(III)との合計100質量部に対して、前記重合体(I)の割合が0~55質量部、前記重合体(II)の割合が10~85質量部であり、フッ素を含有する成分を含まない、キット。
<重合体(I)>
下記一般式(1)で表される、モノエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(Ia)の少なくとも1種から誘導された繰り返し単位を有する重合体。
【化5】
[一般式(1)中、R
11
は水素原子、メチル基、又は塩素原子であり、R
12
は炭素数16~30の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基である。]
<重合体(II)>
下記一般式(2)で表される、ビニル単量体(IIa)の少なくとも1種から誘導された繰り返し単位を有する重合体であって、前記重合体(II)における前記ビニル単量体(IIa)の割合は、前記重合体(II)100質量%を基準として、30質量%以上100質量%以下である。
【化6】
[一般式(2)中、R
21
は水素原子、メチル基または塩素原子であり、R
22
は塩素原子、または置換もしくは無置換の、フェニル基であり、1つ以上の塩素原子または炭素数1~10のアルキル基で置換されていてもよい。]
<成分(III)>
下記一般式(3)で表されるアルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)とを含む組成物、及び、上記アルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)との反応生成物の少なくとも一方である。
【化7】
[一般式(3)中、n
31
は3~8の整数であり、n
31
-n
32
はn
31
からn
32
を引いた値を表し、1~7の整数であり、n
32
は1~7の整数であり、R
31
は炭素数16~32の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基、または炭素数15~31の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有するアシル基であり、Aは3~6価の炭素数6以下の多価アルコールから水酸基を除いた残基、3~6価の炭素数6以下の多価アルコールの2~4量体から水酸基を除いた残基、単糖または二糖から水酸基を除いた残基、および5~6価の多価アルコールの分子内脱水環化物から水酸基を除いた残基からなる群より選択される少なくとも1種である。]
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の撥水剤または請求項9に記載のキットで繊維基材を処理する、繊維基材の処理方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の撥水剤または請求項9に記載のキットを繊維基材に適用することを含む、撥水処理された繊維基材の製造方法。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の撥水剤または請求項9に記載のキットによって処理されてなる、繊維物品。
【請求項13】
繊維物品の少なくとも一方面に、請求項1~8のいずれかに記載の撥水剤または請求項9に記載のキットによって処理された撥水処理面を有し、前記繊維物品の一方面がさらにコーティング膜を有する、繊維物品。
【請求項14】
繊維物品の少なくとも一方面を、請求項1~8のいずれかに記載の撥水剤または請求項9に記載のキットによって処理して撥水処理面を形成し、前記繊維物品の一方面がさらにコーティング膜を形成する、繊維物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水剤、繊維基材の処理方法、撥水処理された繊維基材の製造方法、繊維物品、及び繊維物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維に撥水性を付与するために、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、フッ素系化合物や塩素系化合物等を繊維表面上に配向させ、繊維表面の表面張力を水の表面張力よりも下げることが周知である。これらの中でもフッ素系化合物は、繊維に高い撥水性を付与できる撥水成分として多用されてきたが、環境や人体に影響を及ぼすPFOA(パーフルオロオクタン酸)が含まれている場合があるため、PFOAを含まない、さらには、フッ素系化合物を含まない撥水剤(フッ素フリー撥水剤)の開発が進められている。
【0003】
フッ素フリー撥水剤の例として、下記特許文献1には、エステル部分の炭素数が12以上の(メタ)アクリル酸エステルを単量体単位として含む特定の非フッ素系ポリマーからなる撥水剤が提案されている。また、特許文献2には、エステル部分の炭素数が12以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位と、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体に由来する構成単位とを含有するポリマーが提案されている。
【0004】
撥水剤によって処理された布帛は撥水性に加えて、毛羽抜け防止性、中綿抜け防止性、防風性、防水性、透湿防水性、耐水性、高耐水圧性の少なくとも1つ以上の性能向上を目的に布帛の少なくとも一部(特に少なくとも片面)にコーティング膜を設けることがあるが、特許文献2のようなフッ素フリー撥水剤では、該撥水剤によって処理された布帛の片面(通常こちら側を裏面とする)にコーティング膜を形成するためにコーティング液を塗布すると、布帛の反対側(表面側)にコーティング液が浸透し、布帛の表面側にもコーティング膜が形成されて物品の外観品位を損ねる(裏抜け)問題がある。また、特許文献1のようなフッ素系化合物を含まない撥水剤では、上記のような外観品位を損ねる問題に加え、該撥水剤によって処理された布帛とコーティング膜との密着性が不充分であり、コーティング膜が剥離しやすいという問題がある。
【0005】
コーティング時の剥離強度に優れる撥水剤として、エステル部分の炭素数が12以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体と塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体の共重合物(特許文献2)が提案されているが、実際のコーティング膜を設けたときの剥離強度は評価されていない。また、裏抜けについては言及されていない。
【0006】
また、非フッ素系ポリマーと疎水性化合物を含む撥水剤組成物(特許文献3)が提案されているが、実際のコーティング膜を設けたときの剥離強度は評価されていない。また、裏抜けについては言及されていない。
【0007】
また、長鎖アルキルアクリレートを主としたポリマー存在下に塩化ビニルを重合した共重合体(特許文献4、5)が提案されているが、コーティング膜を設けたときの剥離強度・裏抜けの言及はない。むしろ、剥離強度が低下するとの記述がある。
【0008】
以上から、現状、十分な剥離強度と十分な耐裏抜け性と十分な撥水性を与える撥水剤は実現されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-328624号公報
【文献】特開2017-025440号公報
【文献】特開2017-222827号公報
【文献】特開2017-165872号公報
【文献】特開2017-165873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、繊維に対して優れた撥水性を付与し、さらに、撥水処理後の繊維基材(布帛など)にコーティング膜を形成せしめたときに、コーティング液の塗布面の反対側への浸透に由来する外観品位の悪化が抑えられ、かつコーティング膜の剥離が抑えられた繊維基材を得ることができ、フッ素系化合物を含まず環境負荷が低い撥水剤を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該撥水剤を利用した繊維基材の処理方法、撥水処理された繊維基材の製造方法、繊維物品、及び繊維物品の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、後述する特定の重合体(I)と成分(III)との合計100質量部に対して、重合体(I)の割合が0~55質量部、特定の重合体(II)の割合が10~85質量部であり、フッ素を含有する成分を含まない撥水剤は、繊維に対して優れた撥水性を付与し、さらに、撥水処理後の繊維基材にコーティング膜を形成せしめたときに、コーティング液の塗布面の反対側への浸透に由来する外観品位の悪化が抑えられ、かつコーティング膜の剥離が抑えられた繊維基材が得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記の態様を有する。
項1. 下記重合体(I)と下記成分(III)との合計100質量部に対して、前記重合体(I)の割合が0~55質量部、下記重合体(II)の割合が10~85質量部であり、
フッ素を含有する成分を含まない、撥水剤。
<重合体(I)>
下記一般式(1)で表される、モノエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(Ia)の少なくとも1種から誘導された繰り返し単位を有する重合体。
【化1】
[一般式(1)中、R
11は水素原子、メチル基、又は塩素原子であり、R
12は炭素数16~30の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基である。]
<重合体(II)>
下記一般式(2)で表される、ビニル単量体(IIa)の少なくとも1種から誘導された繰り返し単位を有する重合体。
【化2】
[一般式(2)中、R
21は水素原子、メチル基または塩素原子であり、R
22は塩素原子、または置換もしくは無置換の、フェニル基、またはシクロヘキシル基であり、1つ以上のフッ素ではないハロゲン原子または炭素数1~10のアルキル基で置換されていてもよい。]
<成分(III)>
下記一般式(3)で表されるアルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)とを含む組成物、及び、上記アルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)との反応生成物の少なくとも一方である。
【化3】
[一般式(3)中、n
31は3~8の整数であり、n
31-n
32はn
31からn
32を引いた値を表し、1~7の整数であり、n
32は1~7の整数であり、R
31は炭素数16~32の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基、または炭素数15~31の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有するアシル基であり、Aは3~6価の炭素数6以下の多価アルコールから水酸基を除いた残基、3~6価の炭素数6以下の多価アルコールの2~4量体から水酸基を除いた残基、単糖または二糖から水酸基を除いた残基、および5~6価の多価アルコールの分子内脱水環化物から水酸基を除いた残基からなる群より選択される少なくとも1種である。]
項2. 前記アルコール(IIIa)のn
32が、2以上である、項1に記載の撥水剤。
項3. 前記イソシアネート化合物(IIIb)が、ブロックイソシアネートである、項1または2に記載の撥水剤。
項4. 前記重合体(II)が、単独重合体のガラス転移点が60℃以下のエチレン性不飽和単量体(IIb)から誘導された繰り返し単位をさらに有する、項1~3のいずれか1項に記載の撥水剤。
項5. 前記重合体(I)が、水酸基、エポキシ基、アセトアセチル基、カルボニル基、クロロメチル基、アミド基、N-アルコキシメチルアミド基、ブロックドイソシアネート基、オキサゾリン基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、アルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する架橋性のエチレン性不飽和単量体(Ib)から誘導された繰り返し単位をさらに有する、項1~4のいずれか1項に記載の撥水剤。
項6. 前記重合体(I)が、下記一般式(4)で表される、オルガノポリシロキサン骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体(Ic)から誘導された繰り返し単位をさらに有する、項1~5のいずれか1項に記載の撥水剤。
【化4】
[一般式(4)中、Xはエチレン性不飽和基と炭素数1~10のアルキレン基とを有する基であり、Yは一般式(4)で表されるシリコーン鎖またはR
41であり、R
41は互いに同一でも異なっていてもよい炭素数が1~32であるアルキル基又はアリール基であり、n
41は0~200の整数であり、式中にn
41が複数存在する場合、n
41は互いに同一でも異なっていてもよく、合計が200を超えない。]
項7. 前記重合体(I)が、ポリオキシエチレン基を有するモノエチレン性不飽和単量体(Id)から誘導された繰り返し単位をさらに有する、項1~6のいずれか1項に記載の撥水剤。
項8. 水を含む液状媒体と界面活性剤をさらに含む、項1~7のいずれか1項に記載の撥水剤。
項9. 少なくとも前記重合体(I)を含む第1剤と、少なくとも前記重合体(II)を含む第2剤と、少なくとも前記成分(III)を含む第3剤とを備える撥水剤を調製するためのキットであって、前記重合体(I)と前記成分(III)との合計100質量部に対して、前記重合体(I)の割合が0~55質量部、前記重合体(II)の割合が10~85質量部であり、フッ素を含有する成分を含まない、キット。
項10. 項1~8のいずれか1項に記載の撥水剤または項9に記載のキットで繊維基材を処理する、繊維基材の処理方法。
項11. 項1~8のいずれか1項に記載の撥水剤または項9に記載のキットを繊維基材に適用することを含む、撥水処理された繊維基材の製造方法。
項12. 項1~8のいずれか1項に記載の撥水剤または項9に記載のキットによって処理されてなる、繊維物品。
項13. 繊維物品の少なくとも一方面に、項1~8のいずれかに記載の撥水剤または項9に記載のキットによって処理された撥水処理面を有し、前記繊維物品の一方面がさらにコーティング膜を有する、繊維物品。
項14. 繊維物品の少なくとも一方面を、項1~8のいずれかに記載の撥水剤または項9に記載のキットによって処理して撥水処理面を形成し、前記繊維物品の一方面がさらにコーティング膜を形成する、繊維物品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維に対して優れた撥水性を付与し、さらに、撥水処理後の繊維基材にコーティング膜を形成せしめたときに、コーティング液の塗布面の反対側への浸透に由来する外観品位の悪化が抑えられ、かつコーティング膜の剥離が抑えられた繊維基材を得ることができ、フッ素系化合物を含まず環境負荷が低い撥水剤を提供することができる。また、本発明によれば、当該撥水剤を利用した繊維基材の処理方法、撥水処理された繊維基材の製造方法、繊維物品、及び繊維物品の製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、撥水剤がフッ素を含有する成分を含まないとは、撥水剤をフッ素分析(燃焼-イオンクロマトグラフ法)に供した場合に、フッ素原子の含有量が検出限界値以下(50ppm以下)であることを意味している。
【0015】
本明細書において、乳化分散とは、媒体中で乳化あるいは分散させることを意味する。
【0016】
本明細書において、乳化分散体とは、媒体中での乳化体または分散体を意味する。
【0017】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートまたはメタクリレート」を意味し、他の類する表現についても同様である。
【0018】
本明細書において、単独重合体のガラス転移点は、文献(Polymer Handbook Third Edition 1990年発行 発行者ジョン・ワイリー・アンド・サンズ)等または独立行政法人「物質・材料研究機構」提供のデータベース PolyInfo(http://polymer.nims.go.jp)に記載の値であり、文献およびデータベースに単独重合体のガラス転移点が記載されていない単量体については、単独重合体を合成し(GPCによる重量平均分子量は10000~10000000の範囲とする)、示差走査熱量計(DSC)により測定した値を採用する。
【0019】
(撥水剤)
本発明の撥水剤は、後述する重合体(I)と後述する成分(III)との合計100質量部に対して、当該重合体(I)の割合が0~55質量部、後述する重合体(II)の割合が10~85質量部であり、フッ素を含有する成分を含まないことを特徴としている。本発明の撥水剤は、このような特定の組成を備えていることにより、繊維に対して優れた撥水性を付与することができる。さらに、本発明の撥水剤を用いた撥水処理後の繊維基材(布帛など)に、コーティング液の塗布面の反対側への浸透に由来する外観品位の悪化が抑えられ、コーティング膜の剥離が抑えられた繊維基材を得ることができる。また、本発明の撥水剤は、フッ素系化合物を含まないため、環境負荷が低い。
【0020】
<重合体(I)>
重合体(I)は、単量体(Ia)から誘導された繰り返し単位を有し、必要に応じて単量体(Ib)、後述する単量体(Ic)、後述する単量体(Id)、後述する単量体(Ie)、後述する単量体(If)、後述する単量体(Ig)、後述する単量体(Ih)からなる群より選択される1つ以上から誘導された繰り返し単位を有する重合体である。また重合体(I)は、後述する重合開始剤、分子量調整剤の残基を重合体中に有していてもよい。
【0021】
[単量体(Ia)]
単量体(Ia)は、下記一般式(1)で表されるモノエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体である。重合体(I)を構成する単量体(Ia)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0022】
【0023】
一般式(1)中、R11は水素原子、メチル基、又は塩素原子であり、R12は炭素数16~30の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基である。
【0024】
単量体(Ia)において、R11は、水素原子、メチル基、塩素原子のいずれであってもよいが、撥水性の観点からは、水素原子または塩素原子(すなわち、単量体(Ia)がアクリレートエステル単量体またはα-クロロアクリレートエステル単量体)が好ましい。また、処理後の繊維の風合いの観点からは、水素原子又はメチル基(すなわち、単量体(Ia)が(メタ)アクリレートエステル単量体)が好ましい。単量体(1a)としては、アクリレートエステル単量体とメタクリレートエステル単量体を併用することが好ましい。
【0025】
また、単量体(Ia)において、R12は、炭素数16~30の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素数16~30の直鎖状の脂肪族炭化水素基である。また、炭素数は、18~30であることがより好ましい。脂肪族炭化水素基は飽和でも不飽和でもよいが、飽和の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0026】
単量体(Ia)の好ましい具体例としては、セチル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、ヘキサコシル(メタ)アクリレート、トリアコンチル(メタ)アクリレート、セチルαクロロアクリレート、ヘプタデシルαクロロアクリレート、ステアリルαクロロアクリレート、ノナデシルαクロロアクリレート、イコシルαクロロアクリレート、ヘンイコシルαクロロアクリレート、ベヘニルαクロロアクリレート、テトラコシルαクロロアクリレート、ヘキサコシルαクロロアクリレート、トリアコンチルαクロロアクリレート等が挙げられる。
【0027】
[単量体(Ib)]
単量体(Ib)は、架橋性の官能基を有する単量体である。重合体(I)が単量体(Ib)に由来する構成単位を含む場合、重合体(I)を構成する単量体(Ib)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。架橋性の官能基としては、水酸基、エポキシ基、アセトアセチル基、カルボニル基、クロロメチル基、アミノ基(1級又は2級のアミノ基)、アミド基、N-アルコキシメチルアミド基、ブロックドイソシアネート基、オキサゾリン基、カルボキシル基、スルホン酸基、アルコキシシリル基等が挙げられ、水酸基、エポキシ基、アセトアセチル基、カルボニル基、クロロメチル基、1級又は2級のアミノ基、アミド基、N-アルコキシメチルアミド基、ブロックドイソシアネート基が好ましく、水酸基、エポキシ基、アセトアセチル基、N-アルコキシメチルアミド基、ブロックドイソシアネート基が特に好ましい。
【0028】
単量体(Ib)としては、(メタ)アクリレート類、アクリルアミド類、ビニルエーテル類、またはビニルエステル類が好ましい。
【0029】
重合体(I)が、単量体(Ib)に由来する構成単位を有することにより、撥水剤と繊維との密着性が向上し、洗濯時の撥水剤の脱落が好適に抑制される。
【0030】
単量体(Ib)の好ましい具体例としては、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのポリカプロラクトンエステル、グリセロール(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、モノクロロ酢酸ビニル、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、フェニルグリシジルエチルアクリレートトリレンジイソシアナート、3-(メチルエチルケトオキシム)イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)シアナート、tert-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0031】
[単量体Ic]
単量体(Ic)は、下記一般式(4)で表される、オルガノポリシロキサン骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体(Ic)である。重合体(I)が単量体(Ic)に由来する構成単位を含む場合、重合体(I)を構成する単量体(Ic)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0032】
【0033】
一般式(4)において、Xは、エチレン性不飽和基と炭素数1~10のアルキレン基とを有する基であり、エチレン性不飽和基としては、ビニル基、スチリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等が挙げられ、共重合のし易さや合成のし易さ、市販品の入手のし易さから、(メタ)アクリロイルオキシ基が好ましく、アルキレン基としては、炭素数1~10の範囲であれば特に制限されない。
【0034】
一般式(4)において、Yは、一般式(4)に示されるシリコーン鎖またはR41である。R41は互いに同一でも異なっていてもよい炭素数が1~32であるアルキル基又はアリール基であり、炭素数1~6であるアルキル基又はアリール基であることが好ましく、メチル基又はアラルキル基であることがより好ましい。また、n41は0~200の整数であり、好ましくは0~100の整数である。一般式(4)中にn41が複数存在する場合(すなわち、-Si(R41)2O-で示される繰り返し単位が複数種類含まれている場合)、n41は互いに同一でも異なっていてもよく、合計が200を超えない。
【0035】
単量体(Ic)の好ましい製品例としては、信越化学工業株式会社製のX-22-174ASX、X-22-174BX、KF-2012、X-22-2426、X-22-2404、JNC株式会社製のサイラプレーンFM-0711、サイラプレーンFM-0721、サイラプレーンFM-0725、サイラプレーンTM-0701T等が挙げられる。
【0036】
[単量体(Id)]
単量体(Id)は、ポリオキシエチレン基を有するモノエチレン性不飽和単量体(Id)である。重合体(I)が単量体(Id)に由来する構成単位を含む場合、重合体(I)を構成する単量体(Id)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。単量体(Id)は、ポリオキシエチレン基とは別に炭素数3~10のアルキレン基からなる(ポリ)オキシアルキレン基を有していてもよい。
【0037】
単量体(Id)の具体的製品としては、花王株式会社製のラテムルPD-420、ラテムルPD-430、ラテムルPD-450、日油株式会社製のユニオックスPKA-5001、ユニオックスPKA-5002、ユニオックスPKA-5003、ユニオックスPKA-5004、ユニオックスPKA-5005、ユニオックスPKA-5006、ユニオックスPKA-5007、ユニオックスPKA-5008、ユニオックスPKA-5009、ユニオックスPKA-5010、ユニセーフ PKA-5011、ユニセーフ PKA-5012、ユニルーブPKA-5013、ユニセーフPKA-5015、ユニセーフPKA-5016、ユニセーフPKA-5017、ブレンマーPE-90、ブレンマーPE-200、ブレンマーPE-350、ブレンマー50PEP-300、ブレンマー70PEP-350B、ブレンマー55PET-800、ブレンマーAE-90U、ブレンマーAE-200、ブレンマーAE-400、ブレンマーPME-100、ブレンマーPME-200、ブレンマーPME-400、ブレンマーPME-1000、ブレンマーPME-4000、ブレンマー50POEP-800B、ブレンマーPLE-200、ブレンマーPLE-1300、ブレンマーPSE-1300、ブレンマー43PAPE-600B、ブレンマーAME-400、ブレンマーALE-200、ブレンマー75ANEP-600、ブレンマーAAE-300、株式会社ADEKA製のアデカリアソープER-10、アデカリアソープER-20、アデカリアソープER-30、アデカリアソープNE-10、アデカリアソープNE-20、アデカリアソープNE-30、第一工業製薬株式会社製のアクアロンRN-20、アクアロンRN-2025、アクアロンRN-30、アクアロンRN-50、日本乳化剤株式会社製のアントックスLMA-10、アントックスLMA-20、アントックスLMA-27等が挙げられる。
【0038】
[単量体(Ie)]
単量体(Ie)は後述の単量体(IIa)と同一の単量体であり、詳細は後述の通りである。重合体(I)が単量体(Ie)に由来する構成単位を含む場合、重合体(I)を構成する単量体(Ie)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0039】
[単量体(If)]
単量体(If)は、側鎖に炭素数1~15の脂肪族炭化水素基のみを有するモノエチレン性不飽和単量体(If)である。重合体(I)が単量体(If)に由来する構成単位を含む場合、重合体(I)を構成する単量体(If)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0040】
単量体(If)としては、側鎖に直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有するモノエチレン性不飽和単量体、側鎖に環状の脂肪族炭化水素基を有するモノエチレン性不飽和単量体、が挙げられ、単量体(Ia)との共重合性の点から、(メタ)アクリレート類、αクロロアクリレート類、アクリルアミド類、ビニルエーテル類、またはビニルエステル類が好ましく、(メタ)アクリレート類が特に好ましい。
【0041】
側鎖に直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有するモノエチレン性不飽和単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、メチルαクロロアクリレート、エチルαクロロアクリレート、プロピルαクロロアクリレート、ブチルαクロロアクリレート、ヘキシルαクロロアクリレート、オクチルαクロロアクリレート、デシルαクロロアクリレート、ドデシルαクロロアクリレートなどが挙げられる。
【0042】
また、側鎖に環状の脂肪族炭化水素基を有するモノエチレン性不飽和単量体の具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチルアダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチルアダマンチル(メタ)アクリレート、トリシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルαクロロアクリレート、tert-ブチルシクロヘキシルαクロロアクリレート、イソボロニルαクロロアクリレート、ジシクロペンテニルαクロロアクリレート、ジシクロペンタニルαクロロアクリレート、アダマンチルαクロロアクリレート、2-メチルアダマンチルαクロロアクリレート、2-エチルアダマンチルαクロロアクリレート、トリシクロペンタニルαクロロアクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0043】
[単量体(Ig)]
単量体(Ig)は、単量体(Ib)とは異なる、側鎖がO、N原子の少なくとも1つを含むモノエチレン性不飽和単量体である。重合体(I)が単量体(Ig)に由来する構成単位を含む場合、重合体(I)を構成する単量体(Ig)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0044】
単量体(Ig)の具体例としては、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリロイルモルフォリンなどが挙げられる。
【0045】
[単量体(Ih)]
単量体(Ih)は、単量体(Ia)~(Ig)とは異なる他の単量体である。
重合体(I)が単量体(Ih)に由来する構成単位を含む場合、重合体(I)を構成する単量体(Ih)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。単量体(Ih)としては、例えば、エチレン性不飽和基を2つ以上有する単量体を使用してもよい。
【0046】
単量体(Ih)は例えば、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの反応生成物等の2官能以上 の(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0047】
重合体(I)における上記単量体(Ia)の割合は、重合体(I)100質量%を基準として、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、また、好ましくは、100質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下である。
【0048】
また、重合体(I)が、単量体(Ib)~(Ih)の少なくとも1種に由来する構成単位を含んでいる場合、単量体(Ia)100質量部に対して、単量体(Ib)の割合は、例えば0~30質量部、好ましくは0.5~6質量部であり、単量体(Ic)の割合は、例えば0~100質量部、好ましくは1~50質量部であり、単量体(Id)の割合は、例えば0~100質量部、好ましくは0.5~10質量部であり、単量体(Ie)の割合は、例えば0~80質量部、好ましくは1~30質量部であり、単量体(If)の割合は、例えば0~50質量部、好ましくは1~30質量部であり、単量体(Ig)の割合は、例えば0~12質量部、好ましくは1~10質量部であり、単量体(Ih)の割合は、例えば0~12質量部、好ましくは1~10質量部である。
【0049】
重合体(I)の重量平均分子量(Mw)は、10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、100,000以上が特に好ましい。これらの下限値以上であれば、撥水剤による撥水性を好適に高めることができる。また、重合体(I)の重量平均分子量(Mw)の上限値に関しては特に制限されないが、例えば、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、300,000以下が特に好ましい。これらの上限値以下であれば、撥水剤を繊維基材に適用した際の造膜性を向上し得る。重合体(I)の数平均分子量(Mn)は、10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、25,000以上が特に好ましい。これらの下限値以上であれば、撥水剤による撥水性を好適に高めることができる。該数平均分子量(Mn)の上限値に関しては特に制限されないが、例えば、200,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、80,000以下が特に好ましい。これらの上限値以下であれば、撥水剤を繊維基材に適用した際の造膜性を向上し得る。重合体(I)は、前記の重量平均分子量(Mw)の範囲および前記の数平均分子量(Mn)の範囲の少なくとも一方を満たすことが好ましく、両方を満たすことがより好ましい。
【0050】
<重合体(II)>
重合体(II)は、単量体(IIa)から誘導された繰り返し単位を有し、必要に応じて単量体(IIb)、単量体(IIc)、単量体(IId)、単量体(IIe)、及び単量体(IIf)からなる群より選択される少なくとも1つ以上から誘導された繰り返し単位を有する重合体である。また、重合体(II)は、後述する重合開始剤、分子量調整剤の残基を重合体中に有していてもよい。
【0051】
[単量体(IIa)]
単量体(IIa)は、下記一般式(2)で表される、フッ素原子ではないハロゲン原子及び置換基を有していてもよい芳香族基の少なくとも一方を有するビニル単量体である。重合体(II)を構成する単量体(IIa)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0052】
【0053】
一般式(2)中、R21は水素原子、メチル基または塩素原子である。また、R22は塩素原子または置換もしくは無置換の、フェニル基、またはシクロヘキシル基であり、1つ以上のフッ素ではないハロゲン原子または炭素数1~10のアルキル基で置換されていてもよい。置換基としては、例えば、フッ素でないハロゲン原子、またはフッ素でないハロゲン化メチル基が挙げられる。
【0054】
単量体(IIa)の好ましい具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、クロロエチレン、1,1-ジクロロエチレンなどが挙げられ、特にクロロスチレン、クロロメチルスチレン、クロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン等が好ましい。
【0055】
[単量体(IIb)]
単量体(IIb)は、後述する単量体(IIc)、単量体(IId)、単量体(IIe)、単量体(IIf)でない単量体であって、単独重合体のガラス転移点が60℃以下のエチレン性不飽和単量体である。単量体(IIb)は、後述する単量体(IIc)、単量体(IId)、単量体(IIe)、単量体(IIf)でなく、単独重合体のガラス転移点が60℃以下であれば特に制限はないが、単量体(IIa)との共重合性の点から、(メタ)アクリレート類、アクリルアミド類、共役ジエン類、ビニルエーテル類、またはビニルエステル類が好ましく、(メタ)アクリレート類、共役ジエン類が特に好ましい。
【0056】
単量体(IIb)は、後述する単量体(IIc)、単量体(IId)、単量体(IIe)、単量体(IIf)でなく、単独重合体のガラス転移点が60℃以下であれば特に制限されないが、重合体(I)及び成分(III)と、重合体(II)との相溶性、繊維基材との密着性の観点から、上記ガラス転移点の上限については、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、特に好ましくは20℃以下が挙げられる。
【0057】
単量体(IIb)としては、例えば、側鎖に直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有する共役ジエン、側鎖がO、N原子の少なくとも1つを含む(メタ)アクリレートが挙げられる。単独重合体のガラス転移点が60℃以下であればその炭素数は特に制限されない。
【0058】
単量体(IIb)の好ましい具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-オクチルドデシル(メタ)アクリレート、2-デシルテトラデシル(メタ)アクリレート、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどが挙げられる。
【0059】
[単量体(IIc)]
単量体(IIc)は、架橋性の官能基を有する単量体である。単量体(IIc)は、前述の単量体(Ib)と同一の単量体であり、詳細は前述の通りである。重合体(II)が単量体(IIc)に由来する構成単位を含む場合、重合体(II)を構成する単量体(IIc)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0060】
[単量体(IId)]
単量体(IId)は、上記一般式(4)で表される、オルガノポリシロキサン骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体である。単量体(IId)は、前述の単量体(Ic)と同一の単量体であり、詳細は前述の通りである。重合体(II)が単量体(IId)に由来する構成単位を含む場合、重合体(II)を構成する単量体(IId)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0061】
[単量体(IIe)]
単量体(IIe)は、ポリオキシエチレン基を有するモノエチレン性不飽和単量体である。単量体(IIe)は、前述の単量体(Id)と同一の単量体であり、詳細は前述の通りである。重合体(II)が単量体(IIe)に由来する構成単位を含む場合、重合体(II)を構成する単量体(IIe)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0062】
[単量体(IIf)]
単量体(IIf)は、側鎖に環状の脂肪族炭化水素基を有するモノエチレン性不飽和単量体である。詳細は前述の単量体(If)の当該記載の通りである。
重合体(II)が単量体(IIf)に由来する構成単位を含む場合、重合体(II)を構成する単量体(IIf)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0063】
[単量体(IIg)]
単量体(IIg)は、単量体(IIa)~(IIf)とは異なる他の単量体である。重合体(II)が単量体(IIg)に由来する構成単位を含む場合、重合体(II)を構成する単量体(IIg)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0064】
重合体(II)における単量体(IIa)の割合は、重合体(II)100質量%を基準として、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、また、好ましくは、100質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下である。
【0065】
また、重合体(II)が、単量体(IIb)~(IIg)の少なくとも1種に由来する構成単位を含んでいる場合、単量体(IIa)100質量部に対して、単量体(IIb)の割合は、例えば0~150質量部、好ましくは10~120質量部であり、単量体(IIc)の割合は、例えば0~30質量部、好ましくは0.5~6質量部であり、単量体(IId)の割合は、例えば0~10質量部、好ましくは0.5~6質量部であり、単量体(IIe)の割合は、例えば0~100質量部、好ましくは0.5~10質量部であり、単量体(IIf)の割合は、例えば0~50質量部、好ましくは1~30質量部であり、単量体(IIg)の割合は、例えば0~12質量部、好ましくは1~10質量部である。
【0066】
重合体(II)の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が特に好ましい。これらの下限値以上であれば、撥水剤による撥水性を好適に高めることができる。また、重合体(II)の重量平均分子量(Mw)の上限値に関しては特に制限されないが、例えば、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、300,000以下が特に好ましい。これらの上限値以下であれば、撥水剤を繊維基材に適用した際の造膜性を向上し得る。重合体(III)の数平均分子量(Mn)は、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、25,000以上が特に好ましい。これらの下限値以上であれば、撥水剤の繊維への密着性を高めることができる。該数平均分子量(Mn)の上限値に関しては特に制限されないが、例えば、200,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、80,000以下が特に好ましい。これらの上限値以下であれば、撥水剤を繊維基材に適用した際の造膜性を向上し得る。重合体(II)は、前記の重量平均分子量(Mw)の範囲および前記の数平均分子量(Mn)の範囲の少なくとも一方を満たすことが好ましく、両方を満たすことがより好ましい。
【0067】
<成分(III)>
成分(III)は、下記一般式(3)で表されるアルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)とを含む組成物、及び、アルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)との反応生成物の少なくとも一方である。前記イソシアネート化合物は、イソシアネート基及びブロックイソシアネート基の少なくとも一方を有する化合物である。また、アルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)との反応生成物について、イソシアネート化合物上の反応性官能基はアルコール(IIIa)と完全に反応していてもよく、部分的に反応していてもよい。部分的に反応している場合、反応生成物はイソシアネート基及びブロックイソシアネート基の少なくとも一方を有していてもよい。ここで、アルコール(IIIa)は撥水性の発現に関与し、またイソシアネート化合物(IIIb)はアルコール(IIIa)及び/又は重合体(I)及び/又は重合体(II)及び/又は繊維と反応し、初期撥水性や撥水性の洗濯耐久性の向上に関与している。
【0068】
アルコール(IIIa)は下記一般式(3)で表される水酸基を有する化合物である。成分(III)を構成するアルコール(IIIa)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0069】
【0070】
一般式(3)中、n31は3~8の整数である。n31-n32はn31からn32を引いた値を表し、1~7の整数である。n32は1~7の整数である。R31は、炭素数16~32の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基、または炭素数15~31の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有するアシル基である。Aは、3~6価の炭素数6以下の多価アルコールから水酸基を除いた残基、3~6価の炭素数6以下の多価アルコールの2~4量体から水酸基を除いた残基、単糖または二糖から水酸基を除いた残基、および5~6価の多価アルコールの分子内脱水環化物から水酸基を除いた残基からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0071】
アルコール(IIIa)において、R31は、炭素数16~32の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基、または炭素数15~31の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有するアシル基であり、原料の入手のし易さから、上記炭素数は前記脂肪族炭化水素基のとき16~22、前記脂肪族炭化水素基を有するアシル基のとき15~21であることが好ましく、アシル基であることが特に好ましい。
【0072】
アルコール(IIIa)の残基Aになる多価アルコールの例としては、三価アルコールとして、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール(トリメチロールエタン)、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(トリメチロールプロパン)、3-ヒドロキシエチル-3-メチル-1,5-ペンタンジオール(トリエチロールエタン)、3-エチル-3-ヒドロキシエチル-1,5-ペンタンジオール(トリエチロールプロパン)等、四価アルコールとして、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール(ペンタエリスリトール)等が挙げられ、上記以外の三価以上の多価アルコールとして糖アルコールがあり、グリセリン、エリトリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、アリトール、ガラクチトール、グルシトール(ソルビトール)、マンニトール、タリトール、イノシトール、ボレミトール、ペルセイトール等が挙げられる。中でも、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-エチル-3-ヒドロキシエチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、エリトリトールが好ましい。
【0073】
アルコール(IIIa)の残基Aになる多価アルコールの多量体の例としては、前述した三価~六価の多価アルコールを任意に組み合わせ2~4量体にしたものが挙げられるが、多価アルコールは同一である方が好ましい。中でも、ペンタエリスリトールの2量体、トリメチロールプロパンの2量体、グリセリンの2量体、グリセリンの3量体、グリセリンの4量体、が好ましい。
【0074】
アルコール(IIIa)の残基Aになる単糖の例としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボースが挙げられる。中でも、グルコースが好ましい。
【0075】
アルコール(IIIa)の残基Aになる二糖の例としては、ラクトース、スクロース、マルトースが挙げられる。中でも、スクロースが好ましい
【0076】
アルコール(IIIa)の残基Aになる多価アルコールの脱水環化物の例としては、ソルビトールの脱水環化物として1,4-アンヒドロソルビトール、1,5-アンヒドロソルビトール、1,4,3,6-ジアンヒドロソルビトールが挙げられる。中でも、1,4-アンヒドロソルビトール、1,5-アンヒドロソルビトールが好ましい。
【0077】
アルコール(IIIa)の例としては、前記したR31と前記したAを任意に組み合わせたものが挙げられる。例としてはグリセリンと長鎖脂肪酸のエステル、ペンタエリスリトールと長鎖脂肪酸のエステル、トリメチロールプロパンの2量体と長鎖脂肪酸のエステル、ペンタエリスリトールの2量体と長鎖脂肪酸のエステル、グリセリンの4量体と長鎖脂肪酸のエステル、スクロースと長鎖脂肪酸のエステル、ソルビタンと長鎖脂肪酸のエステルが挙げられ、具体的には、グリセリンジステアレート、グリセリンジオレエート、ペンタエリスリトールジステアレート、テトラグリセリントリステアレート、テトラグリセリンペンタステアレート、スクローストリステアレート、スクローステトラステアレート、スクロースペンタステアレート、スクロースヘキサステアレート、スクロースヘプタステアレート、スクローストリベヘネート、スクローステトラベヘネート、スクロースペンタベヘネート、スクロースヘキサベヘネート、スクロースヘプタベヘネート、ソルビタンジパルミテート、ソルビタントリパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノベヘネート、ソルビタンジベヘネート、ソルビタントリベヘネート等を用いることができる。中でもn32が2以上であるものが好ましい。
【0078】
[イソシアネート化合物(IIIb)]
イソシアネート化合物(IIIb)としては、公知のものが使用でき、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するものが好ましい。イソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられ、脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3-イソシアナトメチル-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられ、芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、粗製MDI、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート等が挙げられ、芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられ、これらの化合物の反応、例えばアダクト型ポリイソシアネートやウレトジオン化反応、イソシアヌレート化反応、カルボジイミド化反応、ウレトンイミン化反応、ビウレット化反応などによるイソシアネート変性体、およびこれらの混合物を好ましく用いることが出来る。
【0079】
製品安定性の点から、ブロックイソシアネートを用いることが好ましく、前記イソシアネート化合物のイソシアネート基の50mol%以上がブロック剤で封鎖されたブロックイソシアネートを、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。ブロックイソシアネートとしては、前記各種のイソシアネート化合物と公知の各種ブロック剤とを反応せしめることにより調製することができる。
【0080】
ブロック剤としては、活性水素を分子内に1個以上有する化合物であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、例えば、アルコール系化合物、アルキルフェノール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、メルカプタン系化合物、酸アミド系化合物、酸イミド系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、トリアゾール系化合物、カルバミン酸系化合物、尿素系化合物、オキシム系化合物、アミン系化合物、イミド系化合物、イミン系化合物、ピラゾール系化合物、重亜硫酸塩等が挙げられる。中でも、酸アミド系化合物、活性メチレン系化合物、オキシム系化合物、ピラゾール系化合物が好ましく、ε-カプロラクタム、アセチルアセトン、マロン酸ジエチル、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、3-メチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール等を好ましく用いることができる。
【0081】
前記イソシアネート化合物(ブロックイソシアネートを含む)は自己乳化性を有していてもよく、自己乳化性を付与するために例えば、イソシアネート化合物の一部にノニオン性親水基、カチオン性親水基、アニオン性親水基を導入することができ、撥水性の観点から、好ましくはオキシエチレン基を有するノニオン性親水基を導入することができる。自己乳化性を付与するためにイソシアネート化合物と反応される親水性化合物としては例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールモノブチルエーテル等のポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル類;エチレングリコール、または、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の(ポリ)エチレングリコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールのブロック共重合体、ランダム共重合体、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとブチレンオキサイドのランダム共重合体やブロック共重合体;ポリオキシアルキレンモノアミン類、ポリオキシアルキレンジアミン類;などが挙げられ、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル等が好ましく用いられる。上記ノニオン性親水性化合物は、1種単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの化合物を、イソシアネート基に対して1~50mol%程度導入することにより、イソシアネート化合物に自己乳化性を付与することができる。イソシアネート基を有する自己乳化性イソシアネート化合物は、水に対する安定性の点から撥水処理の直前に、処理浴に添加されることがより好ましい。
【0082】
成分(III)中のアルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)との比は、アルコール(IIIa)が20~90質量%、イソシアネート化合物(IIIb)が10~80質量%であることが好ましく、より好ましくはアルコール(IIIa)が30~85質量%、イソシアネート化合物(IIIb)が15~70質量
%、更に好ましくはアルコール(IIIa)が40~80質量%、イソシアネート化合物(IIIb)が20~60質量%、特に好ましくはアルコール(IIIa)が55~80質量%、イソシアネート化合物(IIIb)が20~45質量%である。アルコール(IIIa)が前記範囲であれば十分な撥水性が得られ、イソシアネート化合物(IIIb)が前記範囲であれば、撥水性を損なうことなく、優れた撥水性の洗濯耐久性を得ることができる。
【0083】
<重合体(I)、重合体(I)の乳化分散体の製造方法>
本発明の重合体(I)は、例えば、下記の方法で製造できる。
界面活性剤、重合開始剤、必要に応じて加えられる撥水助剤の存在下、媒体中にて前記単量体(Ia)を含む単量体成分(Ix)を連鎖重合して、重合体(I)の溶液、乳化分散体を得る方法。単量体成分(Ix)は、必要に応じて前記単量体(Ib)、前記単量体(Ic)、前記単量体(Id)、前記単量体(Ie)、前記単量体(If)、前記単量体(Ig)、および前記単量体(Ih)からなる群より選ばれる1種以上を含んでもよい。重合法としては、乳化重合法、分散重合法、懸濁重合法等が挙げられる。また、一括重合であってよく、連添重合、または多段重合であってもよい。
【0084】
重合体(I)の製造方法としては、界面活性剤、重合開始剤の存在下、水系媒体中で単量体成分(Ix)を乳化重合して重合体(I)の乳化分散体を得る方法が好ましい。重合体(I)の収率が向上する点から、乳化重合の前に、単量体、界面活性剤、水系媒体および必要に応じて加えられる撥水助剤からなる混合物を前乳化することが好ましい。たとえば、単量体、界面活性剤、水系媒体および必要に応じて加えられる撥水助剤からなる混合物を、ホモミキサーまたは高圧乳化機で混合乳化分散する。
【0085】
混合乳化分散時の温度は、単量体、界面活性剤、水系媒体および必要に応じて加えられる撥水助剤の全てが溶融あるいは軟化する温度以上であることが好ましい。
【0086】
単量体成分(Ix)における各単量体の含有割合は、重合後に残存する単量体がほとんど検出されないことから、それぞれ上述した各単量体に基づく構成単位の含有割合と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0087】
<重合体(II)、重合体(II)の乳化分散体の製造方法>
本発明の重合体(II)は、例えば、下記の方法で製造できる。重合開始剤、必要に応じて加えられる有機溶媒の存在下、前記単量体(IIa)を含む単量体成分(IIx)を重合して、重合体(II)または重合体(II)の溶液を得る方法、前記方法で得られた重合体(II)または重合体(II)の溶液、必要に応じて加えられる界面活性剤、水を加えて混合し、必要に応じて後に有機溶媒と残存する単量体を除去することによって重合体(II)の乳化分散体を得る方法。単量体成分(IIx)は、必要に応じて前記単量体(IIb)、前記単量体(IIc)、前記単量体(IId)、前記単量体(IIe)、前記単量体(IIf)、および前記単量体(IIg)からなる群より選ばれる1種以上を含んでもよい。例えば、少なくとも前記単量体(IIa)と、前記単量体(IIb)のうち3級アミノ基を有する単量体とを重合して得られた重合体(II)を酸中和してなる重合体に水を加えて混合することで界面活性剤を用いずに重合体(II)の乳化分散体を得ても良い。また、前記した例の前記単量体(IIb)のうち3級アミノ基を有する単量体と中和酸の代わりに、単量体(IIe)を用いることで同様の手順で界面活性剤を用いずに重合体(II)の乳化分散体を得ても良い。前記方法で得られた重合体(II)の乳化分散体、重合開始剤の存在下、媒体中にて前記単量体(IIa)を含む単量体成分(IIx)を重合して、重合体(II)の乳化分散体を得る方法。この場合、2種類の重合体(II)を含む乳化分散体が得られる。前記方法で得られた重合体(II)の乳化分散体の代わりに界面活性剤を用いて同様の手順で重合体(II)の乳化分散体を得ても良い。その場合、重合法としては、乳化重合法、分散重合法、懸濁重合法等が挙げられる。また、一括重合であってよく、連添重合、または多段重合であってもよい。
【0088】
重合体(II)の製造方法としては、前述する重合体(II)を酸中和してなる乳化分散体、重合開始剤の存在下、媒体中で単量体成分(IIx)を添加した後、重合して2種類の重合体(II)を含む乳化分散体を得る方法が好ましい。残存する単量体は除去することが好ましい。乳化分散体の製造時の安定性が向上する点から、乳化重合の前に、第一の重合体(II)を酸中和してなる乳化分散体が有する3級アミノ基の少なくとも一部分をあらかじめ4級化することが好ましい。
【0089】
(連鎖重合用重合開始剤)
単量体成分(Ix)または単量体成分(IIx)の重合の際には重合開始剤を用いる。重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤、放射線重合開始剤、ラジカル重合開始剤、イオン性重合開始剤等が挙げられ、水溶性または油溶性のラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、レドックス系開始剤等の汎用の開始剤が、重合温度に応じて用いられる。ラジカル重合開始剤としては、アゾ系化合物が特に好ましく、水系媒体中で重合を行う場合、アゾ系化合物の塩がより好ましい。重合温度は20~150℃が好ましい。重合開始剤の添加量は、単量体成分(Ix)100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.1~3質量部がより好ましい。
【0090】
(連鎖重合用分子量調整剤)
単量体成分(Ix)または単量体成分(IIx)の重合の際には、分子量調整剤を用いてもよい。分子量調整剤としては、芳香族系化合物、メルカプトアルコール類、メルカプトカルボン酸類またはメルカプタン類が好ましく、メルカプトカルボン酸類またはアルキルメルカプタン類が特に好ましい。分子量調整剤としては、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマ(CH2=C(Ph)CH2C(CH3)2Ph、Phはフェニル基である。)等が挙げられる。分子量調整剤の添加量は、単量体成分(Ix)100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.1~2質量部がより好ましい。
【0091】
(撥水助剤)
撥水助剤として、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、αオレフィンワックス、ポリイソブチレン、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーン、長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーン、高級脂肪酸アミド変性シリコーン、疎水性シリカ、疎水性シリコーンレジン等を用いることが出来る。これらは重合体(I)、重合体(II)、および成分(III)のいずれか1つ以上の乳化分散体の製造過程で加えてもよいし、撥水助剤単独の乳化分散体を製造し、撥水剤に配合してもよい。
【0092】
<成分(III)、成分(III)の乳化分散体の製造方法>
公知の方法で製造されてよく、例えば、各種成分と界面活性剤を混合後、水を添加して分散させる方法や、公知の分散機等を使用して機械的に分散させる方法が挙げられる。分散機としては、ホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル、ラインミキサー、ビーズミル等を用いることができる。また、水系分散させる場合に公知の有機溶媒を添加してもよい。
【0093】
アルコール(IIIa)及びイソシアネート化合物(IIIb)は、水中に分散した水系分散体であればよく、前記の通り、アルコール(IIIa)の粒子と、イソシアネート化合物(IIIb)の粒子とが水中に分散した水系分散体は、アルコール(IIIa)の水系分散体と、イソシアネート化合物(IIIb)の水系分散体とを混合することによって、容易に製造することができる。アルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)とが1粒子中に含まれる粒子の水系分散体は、アルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)と有機溶媒と場合によっては界面活性剤とを含む液体中に水を加えて混合し、後に有機溶媒を除去することによって製造することができる。
【0094】
アルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)との反応生成物は、アルコール(IIIa)と、ブロックされていないあるいは部分的にブロックされたイソシアネート化合物(IIIb)とをNCO含有率が0%となるまで反応させることで容易に製造することができる。前記アルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)との反応生成物は、水中に分散した水系分散体であればよく、前記アルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)との反応生成物と有機溶媒と場合によっては界面活性剤とを含む液体中に水を加えて混合し、後に有機溶媒を除去することによって製造することができる。
【0095】
<撥水剤の製造方法>
本発明における撥水剤は、前記重合体(I)と前記成分(III)との合計100質量部に対して、当該重合体(I)の割合が0~55質量部、前記重合体(II)の割合が10~85質量部であり、フッ素を含有する成分を含まない組成物になるように適宜調製することで製造できるが、その形態としては乳化分散体であることが好ましい。
【0096】
本発明における撥水剤が乳化分散体のとき、重合体(I)、重合体(II)および成分(III)の形態は特に制限されない。
【0097】
例えば、乳化分散体は、重合体(I)と重合体(II)および成分(III)から選ばれる群から2つ以上が同一粒子中に存在している粒子を含んでいてもよい。このような乳化分散体は、例えば下記の手順で製造することができる。
(ア)重合体(I)、重合体(II)および成分(III)からなる群から選ばれるいずれか1つを含む乳化分散体中に、重合体(I)と重合体(II)のいずれかの成分を構成する単量体、または成分(III)を加える。前記単量体または成分(III)は必要に応じて媒体または界面活性剤を含んでいてもよい。
(イ)必要に応じて加えられた前記単量体を重合する。また、必要に応じて有機溶媒を除去する。
【0098】
このようにして乳化分散体を得ることにより、重合体(I)、重合体(II)および成分(III)から選ばれる群から2つ以上が同一粒子中に存在している粒子を含む乳化分散体からなる撥水剤が好適に得られる。
【0099】
また、乳化分散体は、重合体(I)により構成された粒子と、重合体(II)により構成された粒子と成分(III)により構成された粒子とを含んでいてもよい。この形態においては、重合体(I)と重合体(II)と成分(v)とは、別々の粒子に含まれており、3種類の粒子が乳化分散体中に存在している。このような乳化分散体は、例えば、重合体(I)の乳化分散体と、重合体(II)の乳化分散体と、成分(III)の乳化分散体とを混合することにより好適に得られる
【0100】
本発明においては、重合体(I)と重合体(II)と成分(III)を2~3液タイプのキットとし、それぞれ用時に水に分散し、水系分散体として本発明の撥水剤を調製するキットの形態としてもよい。さらに、重合体(I)と重合体(II)とアルコール(IIIa)とイソシアネート化合物(IIIb)を2~4液タイプのキットとし、それぞれ用時に水に分散し、水系分散体として本発明の撥水剤を調製するキットの形態としてもよい。本発明の2~4液タイプのキットは、それぞれ、前述の本発明の撥水剤を調製するために用いられるものである。従って、重合体(I)と重合体(II)と成分(III)、その他の成分の種類や含有量などについても、前述の本発明の撥水剤と同じである。
【0101】
なお、本発明のキットを用いる場合には、本発明のキットから本発明の撥水剤を予め調製してから、繊維基材に撥水剤(より具体的には、撥水剤を水で希釈した加工液)を適用して、繊維基材を撥水剤で処理してもよいし、本発明のキットを構成する重合体(I)、重合体(II)、及び成分(III)を、任意の順に繊維基材に適用(すなわち、本発明のキットを繊維基材に適用)して、繊維基材の存在下にキットから撥水剤を調製してもよい。後者の方法においては、本発明のキットによる繊維基材の処理と共に、本発明のキットを用いた本発明の撥水剤の調製、さらには本発明の撥水剤による繊維基材の処理が行われる。
【0102】
本発明の撥水剤は、液状媒体を含有していてもよい。液状媒体としては、例えば、水、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル、ハロゲン化合物、炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、窒素化合物、硫黄化合物、無機溶剤、有機酸等が挙げられ、環境への負荷低減、取扱いの容易さの点から、水性媒体が好ましく、特に水が好ましい。水性媒体とは、水、水溶性有機溶媒およびそれらの混合媒体を意味する。水溶性有機溶媒としては、水溶性モノアルコール、水溶性グリコール、水溶性グリコールエーテルおよび水溶性グリコールエステルからなる群より選ばれた1種以上の水溶性有機溶媒が好ましい。
【0103】
本発明の撥水剤における液状媒体の含有量は、例えば30~99.9質量%、好ましくは50~99質量%、より好ましくは55~95質量%が挙げられる。なお、本発明においては、重合体(I)、重合体(II)、成分(III)を乳化分散体として調製した場合に、乳化分散体に含まれる液状媒体が撥水剤に含まれてもよく、さらに別途、液状媒体を添加して撥水剤としてもよい。後述の通り、本発明の撥水剤を繊維などの被処理物に適用する際には、液状媒体の量を調整(例えば、水で希釈するなど)して加工液とすることができる。
【0104】
本発明の撥水剤は、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、特に限定はなく、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等を使用することができる。これらの界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。カチオン性界面活性剤のみ、または、ノニオン性界面活性剤のみ、もしくはカチオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤を併用することが水性乳化分散体を繊維物品に処理する上で特に好ましい。
【0105】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、各種の脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレン置換フェニルエーテルサルフェート、ポリカルボン酸塩等を使用することができ、対イオンはナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等が挙げられるが、これに限ったものではない。
【0106】
ノニオン性界面活性剤の例としては、(ポリ)オキシエチレン基を有さないノニオン性界面活性剤と(ポリ)オキシエチレン基を有するノニオン性界面活性剤が挙げられる。(ポリ)オキシエチレン基を有さないノニオン性界面活性剤として、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセライド、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられ、(ポリ)オキシエチレン基を有するノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンアルキルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンアルケニルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシアルキレンアルケニルエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、プルロニック型活性剤等を使用することができるが、これに限ったものではない。
【0107】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、各種のアルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウムクロライド塩、ポリオキシエチレンアルキルアミンの四級化物等の四級塩のほか、アルキルアミン塩、アルキルジメチルアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩等の様なアミンを適当な酸で中和したアミン塩を使用することができる。対イオンとしては塩素イオン、臭素イオン、硫酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン等が挙げられるが、これに限ったものではない。
【0108】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミンオキシド類、アラニン類、イミダゾリニウムベタイン類、アミドベタイン類、酢酸ベタイン等が挙げられ、具体的には、長鎖アミンオキシド、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられるが、これに限ったものではない。
【0109】
本発明の撥水剤の固形分(液状媒体以外の成分)に占める界面活性剤の割合としては、特に制限されないが、例えば0~20質量%、好ましくは0~10質量%、より好ましくは2~8質量%が挙げられる。
【0110】
本発明の撥水剤は、必要に応じて、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、架橋剤、造膜助剤、風合い調整剤(柔軟剤や硬仕上げ剤)、すべり性調整剤(すべり性向上剤、防滑剤)、耐摩耗性向上剤、引き裂き強度向上剤、帯電防止剤、難燃剤、芳香剤、消泡剤、粘度調整剤(減粘剤や増粘剤)、pH調整剤、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤、防カビ剤、防腐剤、防藻剤、抗菌剤、殺菌剤、凍結防止剤)が挙げられる。本発明の撥水剤に含まれる添加剤は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0111】
本発明の撥水剤の固形分濃度としては、特に制限されず、例えば3~80質量%、好ましくは10~60質量%、より好ましくは15~50質量%が挙げられる。
【0112】
(撥水処理)
本発明の撥水剤を用いて、公知の方法で繊維基材(繊維により構成された布帛など)を被処理物として、撥水処理を行うことができる。処理方法としては例えば、連続法又はバッチ法等が挙げられる。
【0113】
連続法としては、まず、本発明の撥水剤を水に希釈して加工液を調製する。加工液を調製する際、水の他にも任意的に各種の薬剤、例えば架橋剤等を添加することも好ましい。次に、加工液で満たされた含浸装置に、被処理物(繊維基材)を連続的に送り込み、被処理物に加工液を含浸させた後、不要な加工液を除去する。含浸装置としては特に限定されず、パッダ、キスロール式付与装置、グラビアコーター式付与装置、スプレー式付与装置、フォーム式付与装置、コーティング式付与装置等が好ましく採用でき、特にパッダ式が好ましい。続いて、乾燥機を用いて被処理物に残存する水を除去する操作を行う。乾燥機としては、特に限定されず、ホットフルー、テンター等の拡布乾燥機が好ましい。該連続法は、被処理物が織物等の布帛状の場合に採用するのが好ましい。
【0114】
バッチ法は、被処理物を加工液に浸漬する工程、処理を行った被処理物に残存する水を除去する工程からなる。該バッチ法は、被処理物が布帛状でない場合、たとえばバラ毛、トップ、スライバ、かせ、トウ、糸等の場合、または編物等連続法に適さない場合に採用するのが好ましい。浸漬する工程においては、たとえば、ワタ染機、チーズ染色機、液流染色機、工業用洗濯機、ビーム染色機等を用いることができる。水を除去する操作においては、チーズ乾燥機、ビーム乾燥機、タンブルドライヤー等の温風乾燥機、高周波乾燥機等を用いることができる。本発明の撥水剤を付着させた被処理物には、乾熱処理を行うことが好ましい。乾熱処理の温度としては、120~180℃が好ましく、特に160~180℃が好ましい。該乾熱処理の時間としては、10秒間~3分間が好ましく、特に1~2分間が好ましい。乾熱処理の方法としては、特に限定されないが、被処理物が布帛状である場合にはテンターが好ましい。熱処理工程において、ブロックイソシアネートのブロック剤が熱解離し、再生したイソシアネート基と撥水剤ないし繊維とが反応し、結合するものと考えられている。
【0115】
(コーティング膜付き繊維物品)
本発明の繊維物品は少なくとも一面に前記撥水剤によって処理された撥水処理面を有しているが、更に一方の面にコーティング膜を設けたコーティング膜付き繊維物品であってよい。たとえば、一方の面が撥水処理面であり、他方の撥水処理されていない面にコーティング膜を有する布帛やその布帛を使用して得られた衣料物品などが挙げられる。また、布帛の両面が撥水処理面であり、一方の撥水処理面の上にコーティング膜を有する布帛やその布帛を使用して得られた衣料物品などであってもよい。本発明の繊維物品としては、特に、処理された繊維物品が両面に撥水処理面を有し、その一方の撥水処理面上に前記コーティング膜を有する繊維物品が好ましい。コーティング膜としては、微孔質ポリウレタン樹脂膜や無孔質ポリウレタン樹脂薄膜、アクリル樹脂皮膜等が挙げられ、透湿防水性を有していても有していなくてもよい。
【0116】
さらに、本発明は、前記撥水剤によって繊維物品の少なくとも一面を処理して撥水処理面を形成し、次いで、前記繊維物品の一方の面に、透湿防水膜の材料を含むコーティング液を塗布してコーティング膜を形成する、繊維物品の製造方法である。該方法によれば、撥水処理面とコーティング膜とを有する繊維物品が得られる。具体的には、例えば、繊維物品の一面を撥水処理し、次いで撥水処理されていない面にコーティング膜を形成する方法、繊維物品の両面を撥水処理し、次いで一方の撥水処理された面にコーティング膜を形成する方法、などにより撥水処理面とコーティング膜とを有する繊維物品を製造する。特に、繊維物品の両面に撥水処理面を形成し、次いで一方の撥水処理面上にコーティング膜を形成する方法が好ましい。コーティング膜としては微孔質ポリウレタン樹脂膜、無孔質ポリウレタン樹脂膜が好ましい。
【0117】
(コーティング液)
コーティング液は、コーティング膜の材料と溶媒を含み、必要に応じて、充填剤、架橋剤、顔料、粘度調整剤等を含むものである。コーティング膜の形成に使用する樹脂については特に限定されないが、例を挙げると、ポリエステル共重合系、ポリエーテル共重合系、あるいはポリカーボネート共重合系のポリウレタン樹脂、シリコーン、フッ素、アミノ酸等を共重合したポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、合成ゴム、ポリ塩化ビニルの如きビニル系樹脂等を好ましく用いることができる。
本発明においては、加工が容易であることから、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応させて得られる従来公知のポリウレタン樹脂が好ましい。ポリイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等が単独でまたは混合して用いられる。具体的には、トリレン-2,4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6-ヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート等を主成分として用い、必要に応じて3官能以上のポリイソシアネートを用いてもよい。ポリオール成分としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等が用いられる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラエチレングリコール等が用いられる。ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオールと、アジピン酸、セバチン酸等の二塩基酸との反応生成物、またはカプロラクトン等の開環重合物を用いることができ、勿論、オキシ酸モノマーまたはそのプレポリマーの重合物も用いることができる。
【0118】
コーティング液の溶媒としては、トルエンやメチルエチルケトンのほか、極性有機溶媒が好ましく用いられ、たとえば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチレンホスホンアミド等が挙げられる。コーティング樹脂溶液中に助剤、たとえば、撥水剤や架橋剤を添加してもよい。
【0119】
コーティング液はコーティング樹脂と水を含む乳化分散体であってもよく、粘度調整剤(特に増粘剤)を含むのが好ましい。必要に応じて親水性あるいは乳化分散された充填剤、架橋剤、または顔料を含んでもよい。コーティング樹脂と水を含む乳化分散体としては、従来公知の水性ポリウレタン樹脂や水性アクリル樹脂が挙げられ、乳化分散体の放置安定性やコーティング樹脂の被着材との密着性の観点から、親水性の官能基(特に3~4級アミノ基やカルボキシル基)が導入されているものが好ましい。
【0120】
コーティング膜は、たとえば、布帛である繊維基材の一方の表面にコーティング液を塗布し、ついで所定時間静置し、ついで所定時間水に浸漬して溶媒を除去し、ついで乾燥することによって形成できる。また、コーティング膜は、たとえば、布帛である繊維基材の一方の表面にコーティング液を塗布し、ついで乾燥することによっても形成できる。コーティング膜が透湿防水膜の場合、前者の方法が好ましい。コーティング方法としては、ナイフコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、リバースロールコーティング等の各種のコーティング方法を用いることができる。
【0121】
本発明の撥水剤は、繊維基材(好ましくは、繊維により構成された布帛)に撥水性を付与するために好適に使用される。より具体的には、撥水剤で繊維基材を処理し、さらに前記コーティング処理が施される、コーティング用撥水剤として特に好適である。本発明の撥水剤は、繊維に対して優れた撥水性を付与することができ、さらに、コーティング液の塗布面の反対側への浸透に由来する外観品位の悪化が抑えられ、かつコーティング膜の剥離が抑えられた繊維基材を得ることができる。また、本発明の撥水剤は、フッ素系化合物を含まず環境負荷が低い撥水剤を提供することができる。
【0122】
本発明の撥水剤は、綿、絹、麻、ウール等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、スパンデックス等の合成繊維に対して、幅広く撥水性を付与することができる。繊維の形態、形状に特に制限はなく、ステープル、フィラメント、トウ、糸等の様な原材料形状に限らず、織物、編み物、詰め綿、不織布、紙、シート、フィルム等の多様な加工形態の繊維基材、さらには繊維基材を加工して衣服などの最終形態となった繊維物品が、本発明の撥水剤の処理可能な対象となる。
【0123】
本発明の繊維基材の処理方法は、本発明の撥水剤で繊維基材を処理する方法であり、撥水剤及び繊維基材の詳細、並びに撥水剤を用いた繊維基材の処理方法の詳細は前述の通りである。
【0124】
また、本発明の撥水処理された繊維基材の製造方法は、本発明の撥水剤を繊維基材に適用することを含んでおり、撥水剤及び繊維基材の詳細、並びに撥水剤の繊維基材への適用方法の詳細は前述の通りである。
【0125】
本発明の繊維物品は、本発明の撥水剤によって繊維物品が処理されたものであり、撥水剤及び繊維基材の詳細や、繊維基材により構成された繊維物品については前述の通りである。また、本発明の繊維物品は、繊維物品の少なくとも一方面に、本発明の撥水剤によって処理された撥水処理面を有し、前記繊維物品の一方面がさらにコーティング膜を有するものであってもよい。コーティング膜の詳細についても前記の通りである。コーティング膜を備える本発明の繊維物品は、繊維の少なくとも一方面を、本発明の撥水剤によって処理して撥水処理面を形成し、前記繊維物品の一方面がさらにコーティング膜を形成する方法によって製造することができる。
【実施例】
【0126】
以下に実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0127】
各表などにおける略号は以下の通りである。
[略号]
STA:ステアリルアクリレート
BeA:ベヘニルアクリレート
GMA:グリシジルメタクリレート
AAEM:アセトアセトキシエチルメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
MS1:官能基等量420g/molの片末端メタクリル変性シリコーン(信越化学工業社製、X-22-2404)
MS2:官能基等量4600g/molの片末端メタクリル変性シリコーン(信越化学工業社製、KF-2012)
BMA:ブチルメタクリレート
STMAC:ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド
PEO-9:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(エチレンオキシド平均9モル付加物)
PEO-13:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(エチレンオキシド平均13モル付加物)
DPG:ジプロピレングリコール
nDoSH:n-ドデシルメルカプタン
VA-086:2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](富士フイルム和光純薬社製、VA-086)
St:スチレン
DMAEMA:ジメチルアミノエチルメタクリレート、単独重合体のガラス転移点19℃
IPA:イソプロパノール
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
ECH:エピクロルヒドリン
VC:塩化ビニル
EA:エチルアクリレート、単独重合体のガラス転移点-40℃
V-50:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩(富士フイルム和光純薬社製、V-50)
TGPS:テトラグリセリンペンタステアリン酸エステル(坂本薬品工業社製、SYグリスターPS-3S)
STS:ソルビタントリステアレート(花王社製、エマゾールS-30V、水酸基価68.6mgKOH/g)
SMS:ソルビタンモノステアレート(花王社製、レオドールSP-10V、水酸基価247.5mgKOH/g)
HBR-P:ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体の3,5-ジメチルピラゾールによる完全ブロック体
PEOSA-30:ステアリルアミンエチレンオキシド平均30モル付加物
AcOH:酢酸(90質量%水溶液)
MIBK:メチルイソブチルケトン
【0128】
[重合体(I)を含む乳化分散体の合成]
[乳化分散体I-1]
500mLフラスコに、STAの117.6g、GMAの2.4g、STMACの1.2g、PEO-9の3.0g、PEO-13の3.0g、DPGの20g及びイオン交換水の225gを入れ、60℃にて高速撹拌により乳化分散させ混合液を得た。その後、40℃に保ちながら高圧ホモジナイザーを用いて、40MPaにて処理し乳化液を得た。得られた乳化液を500mLフラスコに移し、気相を窒素置換した後、撹拌しながら80℃まで昇温した。nDoSHの0.16gを入れ、更に5分後にVA-086の0.44gを加え、窒素雰囲気下撹拌しながら80℃にて15時間重合反応を行い、40℃以下となるまで冷却した。イオン交換水で固形分調整を行い、固形分濃度が30質量%の重合体(I)を含む乳化分散体I-1を得た。
【0129】
[乳化分散体I-2~I-12]
各原料の仕込み量を、表1に示す量に変更した以外は、例I-1と同様にして重合体(I)を含む乳化分散体(I-2)~(I-12)を得た。なお、重合体(I)を構成する単量体の比率(質量比)を表2に示す。
【0130】
【0131】
【0132】
[重合体(II)を含む乳化分散体II-1の合成]
500mLフラスコに、Stの75g、DMAEMAの15.8、及びIPAの25gを入れ、窒素置換をした後に85℃に昇温した。窒素雰囲気下撹拌しながらAIBNの1.0gを入れ、85℃にて6時間重合反応を行った後に、更にAIBNの1.0gを入れ、85℃にて8時間重合反応を行った。次に、撹拌しながら90%酢酸の7.3g、イオン交換水の250gを順に入れた後、IPAを減圧下留去した。次いでECHの9.2gを入れて80℃にて2時間反応を行った。得られた乳化分散体をオートクレーブに移し、イオン交換水の220gを入れた後に窒素置換した。窒素雰囲気下撹拌しながら60℃に昇温後、VCの50g、EAの50g、V-50の2.4gを順に入れ、内圧が0MPaになるまで重合反応を行った。重合後に残存しているモノマーを減圧下留去し、その後40℃以下となるまで冷却した。イオン交換水で固形分調整を行い、固形分濃度が25質量%の重合体(II)を含む乳化分散体II-1を得た。
【0133】
[成分(III)を含む乳化分散体の合成]
[乳化分散体III-1]
1Lフラスコに、HBR-Pの25.2g、STSの71.0gおよびMIBKの40gを加え60℃で溶融させた。PEOSA-30の4.0g、AcOHの1.3gをイオン交換水256gに60℃で溶解させ滴下した。温度を保ち高圧ホモジナイザー(400bar)にて乳化させた。その後MIBKを減圧下留去し、イオン交換水を加え固形分濃度が25質量%の成分(III)を含む乳化分散体III-1を得た。
【0134】
[乳化分散体III-2~III-3]
各原料の仕込み量を、表3に示す量に変更した以外は、乳化分散体III-1と同様にして成分(III)を含む乳化分散体III-2~III-3を得た。
【0135】
【0136】
【0137】
<加工液の調製>
前記で得られた重合体(I)の乳化分散体、重合体(II)の乳化分散体、成分(III)の乳化分散体をキットとして用意した後、それぞれ、表5~7に示される質量比となるようにして、各乳化分散体を混合して撥水剤とし、さらに、撥水剤を表5~7に示す量の水で薄めて、加工液を調製した。
【0138】
実施例及び比較例について得られた各加工液を用いて、下記の各種試験を行った。結果を表5~7に示す。
【0139】
[繊維基材]
ポリエステルタフタ布1(目付:60g/m2、使用糸:56dtex(50d))
ナイロンタフタ布1(目付:57.5g/m2、使用糸:44dtex(40d))
ナイロンタフタ布2(目付:61.4g/m2、使用糸:44dtex(40d))
【0140】
[撥水剤による加工条件]
連続法にて、前記の各種繊維基材を、それぞれ、各加工液(撥水剤を表1に示される組成となるように水で薄めたもの)に通し、一定圧のマングルで不要な溶液を絞り、110℃で1.5分乾燥、170℃で1分キュアした。ピックアップは、ポリエステルタフタ布1が30%、ナイロンタフタ布1が42%、ナイロンタフタ布2が52%であった。なお、表1に示される通り、条件によっては架橋剤(メイカネートPRO:ブロックイソシアネート、明成化学工業社製、固形分20%)をさらに併用した。
【0141】
[コーティング液の調製]
コーティング液1の調製:ポリウレタン樹脂1のDMF溶液の170g、白色顔料の8.5g、架橋剤の2.55g、DMFの73gを混合し、コーティング液1を得た。
コーティング液2の調製:ウレタンプレポリマー(製品名:レザミンCU-4700、大日精化工業社製、ポリエチレンアジペート/MDI プレポリマー)の50g、架橋剤(製品名:コロネートHL、日本ポリウレタン工業社製)の0.5g、着色剤(製品名:セイカセブンALT#8000、大日精化工業社製)の1.0g、およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の25gを混合し、透湿防水膜を形成するためのコーティング液2を得た。
【0142】
[コーティング加工条件]
(コーティング液1、2)
ベーカー式アプリケータ(塗布厚0~254μm)を用いて、乾燥後の厚さが100μmとなるように、コーティング速度:0.4m/秒、コーティング液温度25℃の条件にて、撥水剤による加工を施した繊維基材の裏面にコーティング液を塗布した。コーティング後の繊維基材を30または45秒間静置した後、20℃の水に2分間浸漬し、ついで40℃の水に2分間浸漬し、110℃で60秒間乾燥後、更に150℃で60秒間乾燥し、80℃で1晩エージング処理したものをコーティング膜付き試験布とした。該試験布を下記の目視耐裏抜け性、耐裏抜け性、剥離強度、撥水性(初期撥水性及び耐久撥水性)の各評価に供した。
【0143】
[目視耐裏抜け性]
コーティング膜を形成した後に、コーティング膜が形成されていない側の試験布の表面へのコーティング液の浸透の程度を目視で評価した。評価は下記の基準に従って行い、性能がわずかに劣る場合には等級に「-」をつけた。
〇:全くコーティング液の浸透が認められない。
△:全体にうっすらとコーティング液の浸透が認められる。
×:全体に明らかにコーティング液の浸透が認められる。
【0144】
[耐裏抜け性]
色差計(コニカミノルタ社製、CR310)を用い、コーティング膜を形成する前に、コーティング膜が形成されない側の試験布の表面の明度を測定し、コーティング膜を形成した後に、コーティング膜が形成されていない側の試験布の表面の明度を測定し、それらの差(ΔL)を求めた。
【0145】
[剥離強度]
試験布のコーティング膜に熱融着テープを熱プレスにて張りつけた。テンシロン万能試験機(島津製作所社製、AGS-X)を用いて2.5cmのテープが剥がれる時にかかる力(剥離強度)を測定した。測定を合計で3回行い、剥離強度の平均値を求めた。剥離強度が大きいほど、コーティング液によって形成されたコーティング膜が剥がれにくいことを示す。
【0146】
[撥水性]
コーティング膜を形成する前の繊維基材についての撥水性(初期撥水性)をJIS L 1092:2009の7.2はっ水度試験(スプレー試験)に準拠して評価した。評価は下記の基準に従って行い、性能がわずかに良好な場合は等級に「+」をつけ、性能がわずかに劣る場合には等級に「-」をつけた。
5:表面に湿潤や水滴の付着がないもの
4:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの
3:表面に小さな個々の水滴上の湿潤を示すもの
2:表面の半分に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態のもの
1:表面全体に湿潤を示すもの
【0147】
[撥水性の洗濯耐久性の評価]
初期撥水性評価後の繊維基材を、JIS L 1092(2009)に記載の洗濯方法に準じて洗濯を10回行った後に80℃で40分間タンブラー乾燥し、同様に撥水性(耐久撥水性)を評価した。
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
表5~7に示される結果から明らかな通り、実施例1~23の撥水剤は、重合体(I)と成分(III)との合計100質量部に対して、重合体(I)の割合が0~55質量部、重合体(II)の割合が10~85質量部であり、フッ素を含有する成分を含まない撥水剤である。実施例1~23の撥水剤は、繊維に対して優れた撥水性を付与し、さらに、コーティング液の塗布面の反対側への浸透に由来する外観品位の悪化が抑えられ、かつコーティング膜の剥離が抑えられていることが分かる。また、実施例1~23の撥水剤は、フッ素系化合物を含まないことから、環境負荷が低い。