(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】錠
(51)【国際特許分類】
E05B 17/00 20060101AFI20230307BHJP
E05B 55/00 20060101ALI20230307BHJP
E05B 17/18 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
E05B17/00 Z
E05B55/00
E05B17/18 Z
(21)【出願番号】P 2020178000
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000152169
【氏名又は名称】株式会社栃木屋
(74)【代理人】
【識別番号】110002882
【氏名又は名称】弁理士法人白浜国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高倉 浩
(72)【発明者】
【氏名】織田 達之
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-159257(JP,A)
【文献】特開2018-76727(JP,A)
【文献】特開2004-250877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 17/00-17/22
E05B 55/00-55/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定枠に対して開閉する扉に取り付けられ、鍵の往復回転操作に伴って、ラッチが前記固定枠に対する前進と後退との往復運動を反復することによって、前記扉の施錠状態と解錠状態とが反復される錠であって、
前記錠は、前記ラッチを収納するケース部と、前記ケース部に取り付けられたシリンダー錠の鍵穴に挿入した前記鍵の前記往復回転操作に伴う前記ラッチの前記往復運動を可能にする操作部と、前記操作部に対して前記ケース部とは反対側の位置で前記操作部に取り付けられていて、前記シリンダー錠が延びる方向と交差した方向へ延びる軸を中心にして前記鍵穴を開閉するように往復旋回運動するキャップを有するとともに、
前記操作部にはアシストバーを組み込み、前記アシストバーはその長さ方向が前記キャップの前記往復旋回運動するための前記軸に直交するとともに前記シリンダー錠が延びる方向に並行して延びており、
前記アシストバーはまた、前記長さ方向において、前記ラッチに当接可能な内端部と、前記内端部の反対端部であって前記キャップに当接可能な外端部とを有していて、閉じた状態にあるときの前記キャップに当接する方向へバネ付勢されており、
前記キャップが開いた状態にあるとともに前記ラッチが後退して前記錠が解錠状態にあるときの前記アシストバーは、前記内端部が前記ラッチに接触しているか接触可能な状態にあり、前記キャップを閉じる方向へ旋回させると、前記キャップが前記アシストバーの前記外端部に当接するとともに、前記アシストバーの前記内端部が前記ラッチに当接して、前記キャップの前記閉じる方向へのさらなる旋回が阻止され、
前記ラッチが前進して前記錠が所定の施錠状態となるときの位置にあると、前記開いた状態にある前記キャップを前記閉じる方向へ旋回させたときに、前記キャップが前記アシストバーの前記外端部を前記バネ付勢に抗して押して、前記アシストバーの前記内端部を前記アシストバーの前記長さ方向において前記ケース部から進出させながら前記キャップが閉じた状態となり、
前記錠が前記所定の施錠状態となるときの位置と前記解錠状態となるときの位置との中間の位置にあって前記ラッチが半掛りの状態にあるときには、前記キャップを前記開いた状態から前記閉じた状態に向かって旋回させると、前記キャップが前記アシストバーの前記外端部を押圧することに伴って、前記アシストバーの前記内端部が前記内端部に対向するように形成されている前記ラッチにおいての傾斜面を押圧して、前記ラッチをさらに前進させて、前記錠が前記所定の施錠状態になることを前記アシストバーがアシストすることを特徴とする前記錠。
【請求項2】
前記ラッチにおける前記傾斜面は、前記前進する方向に対して鋭角を成している請求項1記載の錠。
【請求項3】
前記アシストバーの前記内端部において前記ラッチの前記傾斜面を押圧する部位は、前記傾斜面に沿うように傾斜している請求項2記載の錠。
【請求項4】
前記アシストバーでは、前記外端部と前記内端部とが径の大きい部位であって、前記外端部と前記内端部との間には前記外端部と前記内端部よりも径が小さい中間部が存在し、前記外端部と前記内端部との間にはまた前記中間部が挿通されているコイルバネが存在する請求項1~3のいずれかに記載の錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵の往復回転運動に伴って、ラッチが固定枠に対しての前進と後退とを反復する錠に関する。
【背景技術】
【0002】
錠の鍵穴に挿入した鍵の往復回転運動に伴って、ラッチが固定枠に向かっての前進と後退とを反復し、固定枠に対しての施錠と解錠とを行うシリンダー錠は周知である。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の扉の開閉識別装置は、シリンダー錠をその使用の一例とするもので、鍵穴に挿入した鍵の往復回転運動によってラッチが前進と後退を反復して施錠と解錠とを行う錠が、その鍵穴を開閉することのできる蓋を有している。また、この錠は、ラッチの前進、後退に伴って、一方向において往復運動するストッパを有している。蓋を開き、鍵を操作してラッチを後退させ、錠が解錠状態になっているときには、ストッパが開いた蓋に接近する位置にあって、蓋が閉じる方向へ動くことを阻止する。したがって、この錠では、扉の閉じ方が不完全で、固定枠に向かって前進したラッチが固定枠に衝接してしまい、たとえ鍵を鍵穴から抜くことができても、正常な施錠状態にはないということであれば、ストッパが未だ蓋の閉じる方向への動きを阻止する状態にあって蓋を閉じることができず、鍵を操作する者に対して施錠が不完全であることを知らせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記先行技術に開示の如き錠が屋外で使用される場合には、ラッチの摺動部に例えば黄砂等の塵埃が入り、ラッチがスムーズに前進、後退運動をしないという場合がある。例えば、固定枠に対して扉は正常な状態で閉じていて、施錠操作をした後の鍵を鍵穴から抜き取ることができ、鍵穴に対する蓋を閉じることもできたとしても、固定枠に向かってのラッチの前進が途中で止まって、いわゆる半掛りの状態になってしまい、扉が正規の施錠状態にはない、という問題の生じることがある。
本発明は、そのような問題を未然に防ぐことのできる錠の提供を課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明が対象とするのは、固定枠に対して開閉する扉に取り付けられ、鍵の往復回転操作に伴って、ラッチが前記固定枠に対する前進と後退との往復運動を反復することによって、前記扉の施錠状態と解錠状態とが反復される錠である。
【0007】
かかる錠において、本発明が特徴とするところは、以下のとおりである。すなわち、前記錠は、前記ラッチを収納するケース部と、前記ケース部に取り付けられたシリンダー錠の鍵穴に挿入した前記鍵の前記往復回転操作に伴う前記ラッチの前記往復運動を可能にする操作部と、前記操作部に対して前記ケース部とは反対側の位置で前記操作部に取り付けられていて、前記シリンダー錠が延びる方向と交差した方向へ延びる軸を中心にして前記鍵穴を開閉するように往復旋回運動するキャップを有する。前記操作部にはアシストバーを組み込み、前記アシストバーはその長さ方向が前記キャップの前記往復旋回運動するための前記軸に直交するとともに前記シリンダー錠が延びる方向に並行して延びている。前記アシストバーはまた、前記長さ方向において、前記ラッチに当接可能な内端部と、前記内端部の反対端部であって前記キャップに当接可能な外端部とを有していて、閉じた状態にあるときの前記キャップに当接する方向へバネ付勢されている。前記キャップが開いた状態にあるとともに前記ラッチが後退して前記錠が解錠状態にあるときの前記アシストバーは、前記内端部が前記ラッチに接触しているか接触可能な状態にあり、前記キャップを閉じる方向へ旋回させると、前記キャップが前記アシストバーの前記外端部に当接するとともに、前記アシストバーの前記内端部が前記ラッチに当接して、前記キャップの前記閉じる方向へのさらなる旋回が阻止される。前記ラッチが前進して前記錠が所定の施錠状態となるときの位置にあると、前記開いた状態にある前記キャップを前記閉じる方向へ旋回させたときに、前記キャップが前記アシストバーの前記外端部を前記バネ付勢に抗して押して、前記アシストバーの前記内端部を前記アシストバーの前記長さ方向において前記ケース部から進出させながら前記キャップが閉じた状態となる。前記錠が前記所定の施錠状態となるときの位置と前記解錠状態となるときの位置との中間の位置にあって前記ラッチが半掛りの状態にあるときには、前記キャップを前記開いた状態から前記閉じた状態に向かって旋回させると、前記キャップが前記アシストバーの前記外端部を押圧することに伴って、前記アシストバーの前記内端部が前記内端部に対向するように形成されている前記ラッチにおいての傾斜面を押圧して、前記ラッチをさらに前進させて、前記錠が前記所定の施錠状態になる。
【0008】
本発明の実施態様の一つにおいて、前記ラッチにおける前記傾斜面は、前記前進する方向に対して鋭角を成している。
【0009】
本発明の実施態様の他の一つにおいて、前記アシストバーの前記内端部において前記ラッチの前記傾斜面を押圧する部位は、前記傾斜面に沿うように傾斜している。
【0010】
本発明の実施態様の他の一つにおいて、前記アシストバーでは、前記外端部と前記内端部とが径の大きい部位であって、前記外端部と前記内端部との間には前記外端部と前記内端部よりも径が小さい中間部が存在し、前記外端部と前記内端部との間にはまた前記中間部が挿通されているコイルバネが存在する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る錠によれば、ラッチが固定枠に向かってスムーズに前進せずに、半掛りの状態にあるときには、キャップを閉じようとすると、キャップはアシストバーに当接して、そのアシストバーがラッチの後端部をラッチが前進するように押圧するので、ラッチは半掛りの状態が解消して、錠が所定の施錠状態になるところまで前進することができる。アシストバーのこのような作用によって、本発明に係る錠では、キャップが閉じていれば錠が所定の施錠状態にあると認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図面は、本開示に係る本発明の特定の実施の形態を示し、発明の不可欠な構成ばかりでなく、選択的及び好ましい実施の形態を含む。
【
図6】ラッチが手前側にあるときの
図5と同様な図。
【
図9】(a)はラッチとアシストバーとの位置関係を例示する
図6のVIII-VIII線矢視図、(b)は(a)の状態にあるときの錠の側面図。
【
図10】(a),(b)は、アシストバーのラッチに対する作用状態を例示する
図9(a)と同様な図。
【
図11】
図10(a)の状態にある錠についての、キャップが閉じているときの状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付の図面を参照して、本発明に係る錠の詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0014】
図1は、使用状態にある錠10の斜視図である。錠10は、仮想線で示す固定枠1に対して開閉する仮想線の扉2に取り付けられている。
図1において、錠10は施錠状態にあるが、解錠状態にあるときの扉2は、固定枠1と扉2との間に介在するヒンジ(図示せず)の作用によって往復旋回運動をし、固定枠1に対して開閉することができる。錠10は、ラッチ15を前進、後退可能に収納して、ねじ穴9aに通すネジ(図示せず)によって扉2に取り付けられるケース部11と、ケース部11に取り付けられていて、扉2の前方(外側)に向かって延びる操作部12と、操作部12にねじ9b(
図2参照)によって取り付けられているキャップ部13とを有する。ケース部11では、ラッチ15が固定枠1に向かって前進して、固定枠1における所定の施錠部位(図示せず)に納まっている。キャップ部13は、操作部12に固定されている基部16と、基部16にヒンジ機構18を介して取り付けられていて、往復旋回運動をして操作部12における後記鍵穴22を開閉することができるキャップ17とを有する。
【0015】
図2は、キャップ17が開いた状態にあるときの
図1と同様な図である。キャップ部13における基部16は、ねじ9bによって操作部12に取り付けられている。基部16の中央部には、操作部12に組み込まれたシリンダー錠20におけるプラグ21と鍵穴22とが見えている。基部16にはまた、キャップ17が閉じたときにキャップ17に形成された係合枠部17aの内側に対して進入、退却可能な小ラッチ25が組み込まれていて、その小ラッチ25が基部16に形成されている矩形の穴部23の内側に進出している。基部16の側面部16aにはまた、小ラッチ25を穴部23から一時的に退却させることのできる一対の押しボタン24が見えている。押しボタン24は、所要形状の押し具を使用して、例えば鍵5の摘み部5aに形成されている小突起5bを使用して押すと、それに連動するように小ラッチ25を退却させることができる。図において開いているキャップ17が閉じるときには、キャップ17の係合枠部17aが小ラッチ25を押して、小ラッチ25を穴部23から一時的に退却させる。キャップ17が閉じると、小ラッチ25が付勢バネ(図示せず)の作用によって
図2の状態に戻るが、このときの小ラッチ25はキャップ17の係合枠部17aの内側に進入してキャップ17を施錠状態にすることができる。施錠状態にあるキャップ17は、押しボタン24を押すと、それに連動して小ラッチ25が係合枠部17aから退却するので、キャップ17を再び開いて
図2の状態にすることができる。キャップ部13の基部16ではまた、アシストバー30が図の上方に向かって延びている。
【0016】
図3は、
図2と同様な図であるが、キャップ部13が取り外されている。ただし、ねじ9bは、そのためのネジ穴の存在を明示する意味で操作部12に取り付けられている。操作部12は、シリンダー錠20におけるプラグ21等の機構部を内蔵していて、ケース部11におけるカバー板11aに後記ネジ9cによって取り付けられている。操作部12ではまた、アシストバー30が操作部12を貫通する態様で図の上方へ延びている。
【0017】
図4,5において、
図4は、ねじ9cをゆるめて、カバー板11aから操作部12を外したときの状態を示し、
図5は、
図4において、ねじ9eをゆるめてカバー板11aをケース部11から外したときのケース部11、つまりケース部11の内部構造を示している。
図4では、カバー板11aの中央部分に形成された透孔26の内側に、操作部12のプラグ21の端部に小ネジ9dを使用して取り付けられる回転角度規制板21bが見えている。
図4にはまた、アシストバー30も示されている。アシストバー30は、操作部12とカバー板11aとに対して抜き取ることができないように組み付けられているものであるが、
図4においては、その存在位置の理解を容易にするという目的の下に、仮想のものが示されている。
図5において、ケース部11の内側には、ラッチ15がコイルバネ27に付勢されて、ラッチ15の前端部15aがケース部11から固定枠1に向かって延出している。
図5にもまた、アシストバー30が、その存在位置の理解を容易にするために、仮想のものが示されている。
【0018】
図6,7において、
図6はラッチ15の位置が
図5とは反対に、図の手前側に来るようにして見たときの
図5と同様な図であり、
図7は
図6におけるケース部11とラッチ15との頂面図である。ラッチ15は、コイルバネ27に付勢されて、一部分が厚肉に形成されている前端部15aがケース部11における溝部11bから仮想線で示す固定枠1の所定部位3に向かって進出している。ラッチ15において、前端部15aの後方に位置する薄肉の後端部15bでは、カバー板11a(
図4参照)を介して操作部12と対向する面に、すなわちラッチ15の上面15cに、カムフォロアとして作用するように弧を画いて延びる作用面40aを含む凹部40が形成されている。シリンダー錠20におけるプラグ21に取り付けられて、プラグ21の回転角度を規制する回転角度規制板21bには、シリンダー錠20の往復回転運動に伴って作用面40aを摺動しながら往復運動をして、ラッチ15を前進、後退させるピン状のカム用突起21cが取り付けられている。ただし、図のカム用突起21cでは、作用面40aに接触する作用端部ではなくて、その反対端部である回転角度規制板21bに対しての固定用端部が見えている。ラッチ15は、
図7において明らかなように、平面形状が矩形のもので、互いに平行して前進方向Aへ延びる側縁部41,42を有し、側縁部41,42のそれぞれはケース部11においてラッチ15を収容するための矩形の溝部43を画成している互いに平行な長辺45,46のそれぞれを摺動しながら前進方向Aとその反対方向である後退方向Bとへの往復運動が可能である。前進方向Aは、固定枠1に向かう方向である。
【0019】
図7において明らかなように、ラッチ15の側縁部41には、ラッチ15の長さ方向、すなわち前後方向へ延びる切欠き部50が、ラッチ15の後方の部分に形成されている。その切欠き部50は、ラッチ15の前進方向Aの側に位置する前端部51と、後退方向Bの側に位置する後端部52と、前端部51と後端部52との間にあって溝部43の長辺45に平行な直線部53と、直線部53と後端部52との間にあって弧を画いて延びる凹状部54とを有する。
図7においてはまた、固定枠1の所定部位に対して所定通りに嵌合するところまで十分に前進しているときのラッチ15においての切欠き部50の凹状部54には、図示の如くアシストバー30が収まる。また、直線部53の一部分には、
図6においてその凹状部54に向かって下り勾配となる傾斜面55が形成されている(
図6および後記
図9(a)参照)。さらにはまた、
図6におけるアシストバー30は、後記するように、長径の上端部31と、それと同じように長径の下端部32と、上端部31と下端部32との間に介在して、これら両部31,32よりも径が小さい短径の中間部33とを有し、中間部33の外側には付勢バネとして作用するコイルバネ34が存在している。いいかえると、中間部33はコイルバネ34に挿通された状態にある。
図6,7において、長径の下端部32はラッチ15における凹状部54に位置している。
【0020】
図8は、
図6におけるVIII―VIII線矢視図であるが、アシストバー30と、操作部12と、ケース部11のカバー板11aのみが示されている。操作部12には、プラグ21に平行するように貫通孔60が形成され、その貫通孔60は図において上方に位置する大径部61と、下方に位置する小径部62とを有し、大径部61と小径部62との間には段差部63が形成されている。貫通孔60において、アシストバー30は、上端部31が大径部61にアシストバー30の長さ方向と周方向とに摺動可能に嵌合し、下端部32がカバー板11aの下方にあり、下端部32はカバー板11aを通り抜けて上昇するということがない。アシストバー30の中間部33は、貫通孔60の大径部61と小径部62とにあって、小径部62に対してはアシストバー30の長さ方向と周方向とに摺動可能に嵌合している。コイルバネ34は、大径部61においてアシストバー30の上端部31と貫通孔60の段差部63との間にあり、段差部63に支えられてアシストバー30を図の上方に向かって付勢している。アシストバー30の下端部32には、ラッチ15が前進する方向に対して鋭角で交差する下向きの傾斜面32aが形成されている。その傾斜面32aは、ラッチ15における傾斜面55に沿うように傾斜していることが特に好ましい部位である。
【0021】
図9(a),(b)において、
図9(a)は
図6のVIII-VIII線矢視図であるが、
図8とは異なり、錠10の全体を示している。
図9(b)は、錠10の側面図である。
【0022】
図9(a),(b)において、錠10はキャップ17が開いた状態にあり、ラッチ15はその全体がケース部11に収納されるところまで十分に後退した状態にあって、アシストバー30はコイルバネ34の付勢作用によって上端部31が
図9(a)の上方へ押し上げられて、下端部32がケース部11のカバー板11aに下方から当接または接近している。その下端部32はまた、ラッチ15の後端部15bに対して接近または接触した状態にある。この状態にある錠10では、開いているキャップ17を閉じる方向へ旋回させると、
図9(b)に示すように、キャップ17はアシストバー30に衝接して、閉じることができない。
【0023】
図10(a),(b)は、アシストバー30のラッチ15に対する作用状態を示す
図9(a)と同様な図である。ここで、一例として、
図9(a)において、鍵5(
図1参照)を使用してシリンダー錠のプラグ21を施錠状態になるところまで回転させてその鍵5をプラグ21から抜き取ったときに、正常であるならば、固定枠1の所定部位にまで前進して錠10を所定の施錠状態に至らせるべきラッチ15の前端部15aは、例えば、ラッチ15とケース部11との間に侵入している黄砂等の塵埃によってケース部11とラッチ15との間の摺動に対する摩擦抵抗が大きくて、前端部15aの一部分しか固定枠1に進入しておらず、錠10が所定の施錠状態にはないという、いわゆる半掛りの状態になることがある。そのときに、錠10を操作する者が施錠操作は終了したと理解してキャップ17を閉じる方向へ旋回させると、キャップ17はアシストバー30に当接するが、そのときのアシストバー30では、
図10(a),(b)に示すように、下端部32がラッチ15の後端部15bに形成されている傾斜面55(
図6参照)に図の上方から当接して、ラッチ15を固定枠1に向かって前進するように駆動して、施錠操作を完了させることができる。
【0024】
図11は、
図10(a)の錠10においてキャップ17を閉じたときの状態を示している。
図11に示すようにキャップ17が所定通りに閉じたときには、ラッチ15の前端部15aも固定枠1に対して所定の距離だけ、つまり十分な長さだけ進入していて、錠10と扉2とが所定の施錠状態になっており、半掛りの状態は解消している。このときのアシストバー30の下端部32は、ケース部11の底部11cに形成されている貫通孔11dを通り、ケース部11の外側に出ることが可能である(
図10(b)参照)。
【0025】
所定の施錠状態にある錠10では、扉2を開けることに先立って、閉じた状態にあるキャップ17(
図1参照)を開く方向に旋回させると、アシストバー30は、コイルバネ34の復元力によって、その全体が上昇して、ラッチ15の後退を可能にする。そこで、鍵5を使用して解錠操作をすると、ラッチ15は
図9(a)の状態にまで後退して、扉2を開けることができるようになる。
【0026】
このように作用する錠10において、ラッチ15に形成される傾斜面55は、ラッチ15の後端部15bの厚さ(高さ)やラッチ15のストローク(移動距離)、傾斜面55の傾斜角度等を考慮してその形状が決められるべき部位である。そのような傾斜面55の一例において、ラッチ15が固定枠1に向かって前進して錠10が所定の施錠状態となるところまでの前進距離に対して、その距離のうちの例えば1/3までラッチ15が前進すると、下降するアシストバー30の下端部32がラッチ15の傾斜面55に接触し始めるように設計するという場合があり得る。また、傾斜面55は、アシストバー30によって押圧されるときの力の強弱を考慮して、ラッチ15の前後方向との間の角度を例えば30~50度の範囲に設定するという場合もあり得る。アシストバー30の一例においては、下端部32と中間部33とを一体的に作って、中間部33をその頂部から、コイルバネ34に挿通する一方、上端部31を別体のものとして用意しておいて、その上端部31の下端部分にはねじ穴を形成しておき、コイルバネ34に挿通してある中間部33の頂部をそのねじ穴に螺合させることによって、アシストバー30を組み立てることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 固定枠
2 扉
5 鍵
10 錠
11 ケース部
11a カバー板
12 操作部
13 キャップ部
15 ラッチ
15a 前端部
16 基部
17 キャップ
20 シリンダー錠
21 プラグ
22 鍵穴
30 アシストバー
31 上端部
32 下端部
33 中間部
34 コイルバネ
50 切欠き部
55 傾斜面
60 貫通孔
61 大径部
62 小径部
63 段差部