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特許7239203IgE媒介型アレルギー性疾患治療のための、膜結合型IgEを標的とするペプチド免疫原及びそれらの製剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】IgE媒介型アレルギー性疾患治療のための、膜結合型IgEを標的とするペプチド免疫原及びそれらの製剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20230307BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20230307BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K14/705
C07K16/00
A61K39/00 Z
A61P37/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C12N15/62 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020536658
(86)(22)【出願日】2017-12-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 US2017069174
(87)【国際公開番号】W WO2019133024
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-12-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591015142
【氏名又は名称】ユナイテッド・バイオメディカル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】UNITED BIOMEDICAL INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チャン イ
(72)【発明者】
【氏名】リン、フェン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ジウン ボ
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第96/012740(WO,A1)
【文献】特表2002-518038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0052592(US,A1)
【文献】特表2004-508028(JP,A)
【文献】The Journal of Clinical Investigation,2010年,Vol.120, No.6,pp.2218-2229
【文献】The Journal of Immunology,Vol.184,2010年,pp.1748-1756
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 19/00
C07K 14/705
C07K 16/00
A61K 39/00
A61P 37/08
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
(Th)-(A)-(IgE EMPD断片)-X
または
(IgE EMPD断片)-(A)-(Th)-X
または
(Th)-(A)-(IgE EMPD断片)-(A)-(Th)-X
[式中、Thは異種Tヘルパーエピトープであり、該Thエピトープが配列番号72であり、
Aは異種スペーサーであり、
(IgE EMPD断片)は、配列番号5及び6からなる群から選択されるいずれかであり、
Xはアミノ酸のα-COOHまたはα-CONHであり、
mは1~4であり、
nは0~10である]で表される、IgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【請求項2】
前記ペプチド免疫原構築物が、配列番号88~94からなる群から選択される、請求項1に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【請求項3】
配列番号5及び6からなる群から選択されるいずれかであるB細胞エピトープ、
配列番号72のアミノ酸配列を含むTヘルパーエピトープ、ならびに
アミノ酸Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、及びε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号129)からなる群から選択される任意選択の異種スペーサーを含む、IgE EMPDペプチド免疫原構築物であって、前記B細胞エピトープが直接、または前記任意選択の異種スペーサーによって、前記Tヘルパーエピトープに共有結合している、前記IgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【請求項4】
前記任意選択の異種スペーサーが、(α,ε-N)Lys、またはε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号129)である、請求項に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【請求項5】
前記Tヘルパーエピトープが前記B細胞エピトープのアミノ末端に共有結合している、請求項に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【請求項6】
前記Tヘルパーエピトープが前記任意選択の異種スペーサーによって前記B細胞エピトープのアミノ末端に共有結合している、請求項に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載のペプチド免疫原構築物を含む組成物。
【請求項8】
a.請求項1~のいずれかに記載のペプチド免疫原構築物と、
b.薬学的に許容される送達ビヒクル及び/またはアジュバントと、を含む、医薬組成物。
【請求項9】
a.前記IgE EMPDペプチド免疫原構築物が、配列番号88~94からなる群から選択され、
b.前記IgE EMPDペプチド免疫原構築物が、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)と混合されて安定化免疫刺激性複合体を形成している、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、IgE媒介型アレルギー性疾患の治療及び/または予防のための、膜結合型IgE(すなわちIgE EMPD)の細胞外膜近位ドメインを標的とするペプチド免疫原構築物及びそのユニバーサルワクチンとしての製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンE(IgE)媒介型アレルギー性疾患としても知られるアレルギーは、環境内の何かに対する免疫系の過敏症によって誘起される数多くの病態であり、大半の人々には問題がほとんど生じないか皆無であるのが一般的である。これらの疾患として、薬物アレルギー、食物アレルギー、及び昆虫アレルギー、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アトピー性皮膚炎、アレルギー性喘息、結膜炎、湿疹、蕁麻疹(発疹)、ならびにアナフィラキシーが挙げられる(ウェブサイト:en.wikipedia.org/wiki/Allergy)。多様な症状は多くの場合アレルギーに起因するものであり、目の充血、かゆみを伴う発疹、くしゃみ、鼻水、息切れ、または腫れを含み得る。
【0003】
アレルギー性疾患の有病率は増加している。20世紀初頭、アレルギーは稀な病気であると見られていた。しかしながら、それ以降、いくつかの要因がきっかけとなり、アレルギー性疾患の有病率は飛躍的に増加した。最も一般的なものは呼吸器系の症状であり、集団全体の最大30%が罹患している。世界保健機関(WHO)の統計によると、鼻炎の罹患者は世界中で何億人にものぼり、喘息の罹患者は2億3,500万人と推定されている(ウェブサイト:www.who.int/mediacentre/factsheets/fs307/en/index.html)。アレルギー性疾患の社会的コストは相当なものであるが、その主たる原因は、アレルギー性鼻結膜炎の有病率の高さと、それに伴う生産性の損失による。スウェーデンの研究では、鼻炎に起因する生産性損失のコストは、スウェーデン単独で年間27億ユーロと推定され、またアメリカの研究では、鼻炎がアメリカの雇用者にとって最も費用のかかる疾患であることが立証された(Larsen JN, et al., 2016)。
【0004】
アレルギー反応は異常に活発な免疫応答であり、本来は身体に無害である種類の抗原、すなわちアレルゲンを免疫系が脅威と知覚して撃退する(ウェブサイト:en.wikipedia.org/wiki/Allergen)。具体的にアレルゲンとは、IgE応答によってアトピー性個体のI型過敏症反応を刺激することが可能な抗原である。チリダニの排泄物、花粉、ペットのフケ、特定の食品、または化学的/物理的刺激物などのさまざまな起源にアレルゲンを認めることができる。食物アレルギーは食物過敏症ほど一般的ではないが、ピーナッツ(マメ科植物)、ナッツ、シーフード、及び貝などの一部の食品は、多数の人にとって深刻なアレルギーの原因となる。
【0005】
アレルギーは、一般的なアレルゲンに対する適応免疫応答の初回刺激によって起こる全身性免疫疾患である。IgEは、IgE媒介型アレルギー性疾患の誘発に関与するI型過敏症反応の媒介において中心的な役割を果たす。IgE媒介型アレルギー性疾患は、アレルゲン特異的IgE抗体と好酸球性炎症の存在を特徴とする。アレルギー反応は、アレルゲン曝露後数分以内に発生する即時反応と、数時間後に発生する後期反応との二相性である。即時反応は、細胞表面の高親和性受容体に結合したIgEの架橋時に、事前形成された伝達物質(例えば、ヒスタミン、プロテアーゼ、ケモカイン、ヘパリン)が好塩基球及びマスト細胞から放出されることによって誘起される。後期アレルギー反応は、好酸球、好塩基球、好中球、及び単核細胞などの炎症細胞の動員及び誘引によって誘起される。
【0006】
アレルギー傾向のある個体では、アレルゲンにより血清中の遊離免疫グロブリンE(IgE)とアレルゲン特異的IgE合計のレベル上昇が生じる。アレルゲン特異的IgE媒介型I型過敏症は、IgE媒介型アレルギー性疾患の病因の中心をなす(図1)。IgEは、マスト細胞及び好塩基球といったエフェクター細胞の表面にある高親和性受容体IgE受容体FcεRIに結合することにより、これらの細胞を感作する。マスト細胞のFcεRIにすでに結合しているIgEに抗原が結合すると、結合したIgEの架橋、及び下層のFcεRIの凝集を誘起する。架橋された受容体は、シグナル伝達カスケード及び急速な脱顆粒を起こす。マスト細胞及び好塩基球は貯蔵されたヒスタミンを放出し、続いてブラジキニン、プロスタグランジン、ロイコトリエン、サイトカイン、及びその他の炎症性伝達物質を合成及び放出する。これらはさらに、アレルギーの症状を生じさせる炎症細胞を誘引して活性化し、B細胞によるIgEの生合成を上方制御して、感受性の増強を促進する。IgE-FcεRI相互作用及び脱顆粒事象は、I型アレルギー反応及びアトピー性喘息の発症にとって重要である。
【0007】
他の免疫グロブリンアイソタイプと同様に、IgEには分泌型血清免疫グロブリン形態と膜結合型形態(mIgE)の2つの形態が存在する。マウス及びヒトのmIgEの膜アンカーペプチドをコードする遺伝子セグメントに関する研究によれば、mIgEと分泌型IgEとの違いは、(1)形質膜に広がる25の疎水性非荷電アミノ酸残基からなる中央の保存的ストレッチ;(2)C末端側の細胞質尾部;及び(3)mIgEの膜アンカーセグメントのN末端細胞外部分という3つの余剰領域がmIgEに含まれていることにある。ヒトでは、Bリンパ球の表面にあるmIgEのイプシロン鎖には、短鎖アイソフォームと長鎖アイソフォームの両方が存在する。短鎖アイソフォームは、IgE EMPDと称するmIgEの細胞外膜近位ドメインにある15のアミノ酸で構成され、長鎖アイソフォームは、52のアミノ酸残基からなる追加セグメントで構成されており、EMPD内のアミノ酸は合計67である。これらの2種のアイソフォームは、CH4エキソンの3´末端側のドナー部位と、CH4エキソンの約2000ヌクレオチド下流に位置する、156bp離れた2つのアクセプター部位の間の選択的スプライシングの結果として生成される。長鎖型の転写産物は、IL-4とCD40で処理したIgE産生骨髄腫細胞及び扁桃腺B細胞において短鎖型の100倍のレベルで検出されているが(Peng et al. 1992及びZhang et al 1992)、短鎖型はタンパク質レベルでは検出されなかった(Peng et al, 1992)。IgE EMPDはmIgE型に特異的であり、分泌された血清IgEには認められなかった(図2)。
【0008】
IgE媒介型アレルギー性疾患の治療に関する現行の臨床ガイドラインには、患者教育、アレルゲン回避、薬物療法、アレルゲンを用いた免疫療法、及びIgEの治療標的の組合せが含まれるが、このような治療選択肢には限界がある。例えば、アレルゲン回避は、実行可能ならば適応があるが、実際には、アレルゲン回避単独では適切な症状制御の達成は困難である。また、安全かつ安価な薬物がアレルギー症状の治療に利用可能であるが、このような薬物による症状制御は不十分であることが多くの患者で報告されている。重要な点として、薬物療法は疾患の進行には効果がなく、症状が収まらない限り、繰り返し治療を投与する必要がある(多くの場合、一生涯を意味する)。古典的なアレルゲンを用いた免疫療法のみが疾患を緩和する可能性があり、最適な治療戦略であると考えられている。
【0009】
アレルゲンを用いた免疫療法(AIT)は、その後のアレルゲンへの再曝露時に症状を抑制するため漸増用量のアレルゲンの皮下注射を伴う。自然曝露条件下では粘膜の免疫系に提示されるアレルゲンの量は比較的少ないが、効率的にアレルギー反応が刺激され、数分以内にアレルギー症状が現れる。対照的に、免疫療法としてアレルゲンが投与される場合、アレルゲンの量は比較的多く、免疫療法で投与される1回の用量は、自然曝露による推定最大年間摂取量の約100倍に相当する。体内への異なる侵入経路と異なる量を組み合わせると、アレルゲンに対する免疫寛容の誘導により応答する免疫系に大幅な影響を及ぼす。
【0010】
AITの本来の投与形態は皮下注射によるものであり、この治療計画は従来から(1)初期の増量期と(2)後続の維持期という2段階で実施される。増量期は、寛容性を徐々に高め、患者の感受性を注意深く評価する目的で、漸増用量を投与する個別の滴定である。次に、最大許容用量または推奨最大用量のうち、最初に到達した方のいずれかを維持期全体にわたり投与する。
【0011】
AITにおいて(1)免疫偏向と(2)制御性T細胞の誘導という2つのメカニズムが主要な役割を果たすと考えられている。免疫偏向と制御性T細胞による相対的な寄与は確定されていないが、最終結果として、アレルゲンへの曝露に応答してアレルギー反応を起こす能力の減少、場合によっては排除も生じる。
【0012】
免疫偏向とは、Th2細胞を抑制してアレルゲン特異的Tヘルパー1型(Th1)細胞を動員し、刺激するという、アレルゲン曝露に対する改変された免疫学的応答を表す用語である。Th1細胞は、B細胞を刺激してIgEではなくIgGを生成するインターフェロンガンマ(IFN-γ)を生成するが、IgGはアレルギー反応の誘因にはなり得ない。
【0013】
制御性T細胞は、免疫応答の調節に作用する多様なT細胞群である。AIT後に、末梢血中のアレルゲン特異的CD4+CD25+制御性T細胞の増加が実証されている。これらの細胞は、インターロイキン(IL)-10及びトランスフォーミング増殖因子(TGF)-βを生成し、また局所Th2細胞応答を抑制し、かつIgG4(IL10アイソタイプスイッチ因子)及びIgA(TGF-βアイソタイプスイッチ因子)に有利になるように抗体のクラススイッチを誘導する可能性をもつ。アレルゲン特異的IgG4抗体は、Th2細胞へのアレルゲン提示を妨害し、さらにマスト細胞及び好塩基球のアレルゲン誘導活性化を遮断し、それによりアレルギー反応を著しく減衰させる。
【0014】
抗原を用いた免疫療法は効果的であり得るが、IgE媒介型アレルギー性疾患のAITに関連する重大な問題と未充足ニーズが存在する。第1に、AITの注射は、迅速かつ適切に治療しないと、重症、さらには致命的となり得るようなアレルギー反応を誘発するリスクは小さいため、すべて診療室で行われる。第2に、AITによる疾患緩和の態様は、少数のアレルゲン製品についてのみ臨床的に実証されているにすぎない。第3に、特異的アレルゲンの構造はごくわずかしか示されておらず、アレルゲンの定義は主に、感受性の高い個体でIgE応答の誘発が可能であるという機能的基準に基づいている。したがって、アレルギー患者の大半は比較的限られた数の主要なアレルゲンに特異的なIgE抗体を有しているとはいえ、アレルゲンは一般に、個々の患者の免疫系によって定義され、そのような何らかの免疫原性タンパク質(抗原)が潜在的なアレルゲンとなる。第4に、あらゆる患者がアレルゲン分子及びエピトープに関して独特の感作パターンを有している。第5に、市販されているアレルゲン製品はすべて、花粉、ハウスダストのダニ培養物、動物の毛及び/またはフケ、または昆虫の毒などの天然原料に由来するアレルゲン源物質の水抽出によって製造されており、そのような天然原料の組成は本質的に変動する。したがって、AITに使用されるアレルゲン製品は汎用的なものではなく、その組成、IgE結合力価、及び製造業者間の品質管理の程度が異なる。有効な国際基準はない。これは、製造業者の製品の効果が患者によって異なる可能性があり、その結果、アレルゲン製品ごとに臨床結果を直接推定することはできない。
【0015】
アレルゲンを用いた免疫療法:アレルギー治療の未来に関する最新版レビューは参照により本明細書に含まれ(Drug Discovery Today Volume 21, Issue 1, January 2016, p. 26-37)、本背景技術の項で行った主張については全付属書類で参照することができる。
【0016】
IgE媒介型アレルギー性疾患の治療に関しては、AITに加えて、IgE分子の治療標的が研究されてきた。
【0017】
抗IgEモノクローナル抗体を用いた血清可溶性IgEの治療標的は、IgE媒介型アレルギー性疾患の治療に効果的であることが示されている。現在、組換えヒト化モノクローナル抗体であるオマリズマブ(XOLAIR(登録商標))が、成人及び青年における中等度から重度の持続性アレルギー性喘息の治療用に承認されている。オマリズマブは、循環する未結合の遊離IgEに結合することでアレルギーカスケードを停止し、免疫エフェクター細胞の表面にあるIgE FcεRIへの結合を防止する。オマリズマブを使用した治療は、遊離IgEレベルの顕著な低下と細胞性IgE受容体の下方制御をもたらす(Chang et al, 2007)。オマリズマブによる治療は有効であることが示されているが、限界がある。具体的には、オマリズマブは血清中の遊離IgEを中和することはできるが、IgE生成には影響を与えない。したがって、血清IgEの十分な抑制を維持するには、頻繁かつ慢性的にオマリズマブを投与する必要がある。
【0018】
IgE媒介型アレルギー性疾患の治療については、膜結合型IgEの細胞外膜近位ドメイン(IgE EMPD)の治療標的も研究されている。追加の共刺激シグナルがない状態でB細胞受容体(BCR)が架橋されると、B細胞アポトーシスを生じさせることができる。BCRの架橋によるB細胞のアポトーシス減少は、未成熟B細胞のメカニズムを広範に説明するものであり、このメカニズムによって自己反応性B細胞はB細胞レパートリーから除去される。47H4(Brightbill et al. 2010)、4B12及び26H2(Chen et al. 2010)などの抗IgE EMPDモノクローナル抗体は、IgE BCRを架橋させ、mIgEを発現するB細胞のアポトーシスを誘起することが示されている(図2)。Brightbill et alはまた、N.brasiliensis感染症及びアレルギー性喘息モデル(Chen et al. 2010)で観察されるように、47H4の治療的in vivo送達が、所定のIgE応答を低下させる可能性があることも発見した。IgE系統B細胞を減少させ、血清IgEを低下させるため、IgE-EMPD、特に追加の52アミノ酸の長鎖領域内のものを標的とするいくつかの抗体及びエピトープが研究及び同定されている(Chen et al. 2010、Chang et al. 2015、Chen et al. 2002)。あるグループは、IgE EMPD断片をインサートとして保持する担体としてB型肝炎ウイルスコア抗原(HBcAg)を使用した、BALB/cマウスでの特異的IgE EMPD抗体反応の誘導を報告した。クローニング構築物は自発的にウイルス様粒子(VPL)に組み立てられ、VLPの「スパイク」の先端に種々のIgE EMPD断片が提示され、免疫原性を獲得する。免疫されたマウスの血清から精製したIgG抗体は、BCR依存性カスパーゼ経路を介したmIgE.FcLを発現するRamos細胞のアポトーシス、ならびに精製したマウス脾臓NK細胞をエフェクター細胞として使用したmIgE.FcL発現A20細胞における抗体依存性細胞媒介型細胞傷害(ADCC)を誘起することができた(Lin et al. 2012)。上記の手法は、アレルギー治療用のワクチン開発に一定の関心を生み出した。しかしながら、抗原及び送達系による、担体VLPを標的とする抗体のほとんどを生成する抗原発現系は煩雑であり、産業用途及び臨床用途に適用可能である有効なワクチン開発に最適であるとは言い難い。
【0019】
上記の観点から、IgE媒介型アレルギー性疾患を治療及び/または予防するための免疫治療的手法の開発には、アレルゲン非依存性である、IgEに対して非常に特異的な免疫応答を誘発できる、患者に簡単に投与される、厳格な適正製造基準(GMP)に基づいて製造できる、及び過去100年間のAIT診療に代わる世界規模での利用に対応する費用対効果があるといった未充足のニーズが存在する。
【0020】
参考文献:
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3. ZHANG, K., et al. “Two unusual forms of human immunoglobulin E encoded by alternative RNA splicing of epsilon heavy chain membrane exons”, J. Exp. Med., 176: 233-243 (1992).
4. CHEN, J. B., et al. “Unique epitopes on CεmX in IgE-B cell receptors are potentially applicable for targeting IgE-committed B cells”, J. Immunol, 184: 1748-1756 (2010).
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13. “Asthma Fact Sheet” World Health Organization website, website address: www.who.int/mediacentre/factsheets/fs307/en/index.html (accessed August 18, 2017).
14.“2016 Appendix to GINA Report” Global Initiative For Asthma website, website address: ginasthma.org/wp-content/uploads/2016/04/GINA-Appendix-2016-final.pdf (accessed August 18, 2017).
15. “Allergy” Wikipedia, The Free Encyclopedia, website address: en.wikipedia.org/wiki/Allergy (accessed August 18, 2017).
16. website: en.wikipedia.org/wiki/Allergen)
【発明の概要】
【0021】
本開示は、IgE媒介型アレルギー性疾患の治療及び/または予防のための、膜結合型IgE(IgE EMPD)の細胞外膜近位ドメインを標的とする個々のペプチド免疫原構築物に関する。本開示はまた、ペプチド免疫原構築物を含有する組成物、ペプチド免疫原構築物を製造及び使用する方法、ならびにペプチド免疫原構築物によって生成する抗体に関する。
【0022】
本開示のペプチド免疫原構築物は、約20アミノ酸以上を含有する。ペプチド免疫原構築物は、完全長IgE EMPDの67アミノ酸の配列(配列番号1)からのB細胞エピトープを含む。B細胞エピトープは、病原体タンパク質に由来する異種Tヘルパー細胞(Th)エピトープに任意選択の異種スペーサーによって結合し得る。本開示のペプチド免疫原構築物は、IgE EMPDを指向する高特異性抗体の生成を刺激し、組換えIgE EMPD含有タンパク質、mIgEを保持するB細胞上のIgE EMPD、及び/またはヒトIgG1のFc部分及びヒト膜結合型IgEのIgE EMPDを含有する組換え可溶性IgE EMPDタンパク質(「γ1-em67」と称する)に結合することができる。本開示のペプチド免疫原構築物は、アレルゲン非依存性であり費用対効果の高いユニバーサル免疫療法として、IgE媒介型アレルギー性疾患に罹患している患者全般に使用することができる。
【0023】
ペプチド免疫原構築物のB細胞エピトープ部分は、完全長IgE EMPD配列(配列番号1)からのアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、B細胞エピトープは、完全長IgE EMPD配列(配列番号1)の付番に従い、内因性システイン(C18~C39)によって形成される内部分子内ループを含む配列を有する。特定の具体的な実施形態では、B細胞エピトープは、IgE EMPD-1-39(配列番号5)、IgE EMPD-7-40(配列番号6)、IgE EMPD-19-38(配列番号8)、またはIgE EMPD-1-40(配列番号9)のアミノ酸配列を有する。
【0024】
本開示のペプチド免疫原構築物は、病原性タンパク質に由来する異種Thエピトープアミノ酸配列(例えば配列番号59~87)を含有し得る。特定の実施形態では、異種Thエピトープは、天然の病原体、例えば、ジフテリア毒素(配列番号63)、Plasmodium Falciparum(配列番号64)、コレラ毒素(配列番号66)に由来するものである。他の実施形態では、異種Thエピトープは、麻疹ウイルス融合タンパク質(MVF1~5)またはB型肝炎表面抗原(HBsAg1~3)に由来し、単一配列か混成配列(例えば配列番号70、69及び71)かのどちらかの形態にある理想人工Thエピトープである。
【0025】
いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原構築物は、任意選択の異種スペーサーによって異種Tヘルパー細胞(Th)エピトープに結合された、IgE EMPDからのB細胞エピトープを含有する。特定の実施形態では、ペプチド免疫原構築物は、病原性タンパク質に由来する異種Thエピトープ(配列番号59~87)に任意選択の異種スペーサーによって結合された、IgE EMPD-1-40からの約20超のアミノ酸(例えば配列番号9)を有するB細胞抗原性部位を含有する。いくつかの実施形態では、任意選択の異種スペーサーは、2つのアミノ酸及び/またはペプチドを一緒に結合できる分子または化学構造である。特定の実施形態では、スペーサーは、天然に存在するアミノ酸、天然に存在しないアミノ酸またはその組合せである。具体的な実施形態では、ペプチド免疫原構築物は、配列番号88~95、98~124、及び130のアミノ酸配列を有する。
【0026】
本開示はさらに、IgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する組成物に関する。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、1つより多いIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する。特定の実施形態では、組成物は、患者の広範な遺伝的背景を対象範囲に含めるためにIgE EMPD G1-C39ペプチド免疫原構築物の混合物(例えば、配列番号88~95、98~124、及び130の任意の組合せ)を含有する。ペプチド免疫原構築物の混合物を含有する組成物は、単一のペプチド免疫原構築物のみを含有する組成物と比較して、IgE媒介型アレルギー性疾患の治療のためにワクチンで免疫付与したときのレスポンダー率より高い百分率につながり得る。
【0027】
本開示はさらに、IgE媒介型アレルギー性疾患の治療及び/または予防のための、ワクチン製剤を含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、CpGオリゴマーと、ペプチド免疫原複合体を含有する組成物とを混合することで静電会合によって形成された安定化免疫刺激性複合体の形態で本開示のペプチド免疫原構築物を含有する。そのような安定化免疫刺激性複合体は、ペプチド免疫原構築物の免疫原性をさらに増強することができる。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、アジュバント、例えば、ミョウバンゲル(ALHYDROGEL)、リン酸アルミニウム(ADJUPHOS)を含めた無機塩、またはMONTANIDE ISA 51もしくは720を含めた油中水型エマルションを含有する。
【0028】
本開示はさらに、本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物を指向する抗体に関する。特に、本開示のペプチド免疫原構築物は、対象に投与されると、IgE EMPD-1-52アミノ配配列(配列番号2)、IgE EMPD 1-67アミノ酸配列(配列番号1)、及びそれらの断片(例えば配列番号5及び6)に関して交差反応性である高特異性抗体の生成を刺激することができる。ペプチド免疫原構築物によって生成する高特異性抗体は、組換えIgE EMPD含有タンパク質、γ1-em67、及び/または膜結合型IgEを保持するB細胞上のIgE EMPDに関して交差反応性である。本開示の抗体は、免疫原性増強のために採用される異種Thエピトープを指向することがあったとしてもあまりなく、高い特異性でIgE EMPDに結合するが、このことは、そのようなペプチド抗原性増強のために使用される従来のタンパク質または他の生物学的担体とは極めて対照的である。
【0029】
本開示には、本開示のペプチド免疫原構築物及び/またはペプチド免疫原構築物を指向する抗体を使用してIgE媒介型アレルギー性疾患を治療及び/または予防する方法も含まれる。いくつかの実施形態では、IgE媒介型アレルギー性疾患を治療及び/または予防する方法は、本開示のペプチド免疫原構築物を含有する組成物を宿主に投与することを含む。特定の実施形態では、本方法に利用される組成物は本開示のペプチド免疫原構築物を、CpGオリゴマーなどの負に帯電したオリゴヌクレオチドとの静電会合による安定な免疫刺激性複合体の形態で含有し、この複合体にはIgE媒介型アレルギー性疾患を有する患者への投与のために、任意選択的にアジュバントとしての無機塩または油がさらに補充されている。本開示の方法はさらに、投薬計画、剤形、及びIgE媒介型アレルギー性疾患の危険性があるかまたはそれを有する宿主にペプチド免疫原構築物を投与するための投与経路を含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、IgE媒介型アレルギー性疾患経路のメカニズムを示す図である。ナイーブ成熟B細胞は、膜結合型IgM(mIgE)の発現により生じる。アレルゲンに遭遇すると、これらの細胞は、必要な共刺激シグナル及びサイトカインをB細胞に提供する同種ヘルパーT(TH)細胞の補助により活性状態になる。IL-4及びIL-13などの過剰のサイトカインに補助され、活性化されたアレルゲン特異的B細胞は、クラススイッチング組換えにより、mIgEを発現するIgE関与型B細胞になる。このようなIgE関与型B細胞は、最終的にIgE分泌型形質細胞に分化する。IgE分泌型形質細胞のほとんどは短命であり、炎症部位に移動した後、消滅するが、いくつかの長命の細胞は骨髄の対応するニッチに移動する。形質細胞から分泌されるアレルゲン特異的IgEは、血液の好塩基球及び組織のマスト細胞の表面にある高親和性IgE.Fc受容体、FcεRIに結合する。FcεRIに結合したIgEのアレルゲン誘導凝集は、好塩基球またはマスト細胞の脱顆粒、ならびにヒスタミン、ロイコトリエン、PGD2、トリプターゼ、及び種々のサイトカインなどの伝達物質の放出を刺激し、即時過敏症を誘発し、TH2細胞及び好酸球などの種々の細胞型の動員を促進する。
図2図2A及び図2Bは、分泌型IgEと膜結合型IgE(mIgE)との構造的差異、及びIgE EMPDの標的化によりmIgE B細胞が減少する原理を示す図である。図2Aは、IgEが分泌型IgEと膜結合型IgE(mIgE)という2つの形態で表されることを示す。分泌型IgEは、FcεRIによって好塩基球及びマスト細胞の細胞表面に捕捉されるが、mIgEはB細胞受容体の一部としてIgE関与型B細胞にのみ存在する。mIgEの細胞外膜近位ドメイン(EMPD)は、CH4ドメインと膜貫通領域との間の67アミノ酸のペプチドセグメント(配列番号1)であり、mIgE B細胞にのみ存在する。下線のアミノ酸は、EMPDの短鎖アイソフォームに認められる残基を表す。IgE EMPDの独自性により、mIgE及びmIgE B細胞を標的とする誘引部位が与えられた。図2Bは、IgE EMPDを標的とすることによりmIgE B細胞を減少させ、新しいIgE分泌型形質細胞へと分化する前に、アレルゲン特異的IgE生成の抑制が誘起されるメカニズムを示す。生存期間が限定される既存のIgE分泌型形質細胞は最終的に消滅し、その結果、総IgE及びアレルゲン特異的IgEは徐々に低下する。
図3図3は、本明細書に開示される特定の実施形態に従うワクチン製剤の発見から商品化(工業化)までの開発過程を示すフローチャートである。本開示は、本図に要約するような、ペプチド免疫原設計、ペプチド組成物設計、ワクチン製剤設計、in vitro機能的抗原性試験設計、in vivo免疫原性及び有効性試験設計、ならびに臨床プロトコール設計を含む。各工程の詳細な評価及び分析から一連の実験へと進み、安全かつ有効なワクチン製剤の商品化に到達する。
図4図4は、種々のIgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号88~94、96、及び97)で免疫したモルモットにおける8週間にわたる抗体反応の動態を示すグラフである。血清は10倍段階希釈により1:100~1:100000に希釈した。ELISAプレートを、ウェルあたり0.5μgペプチドのIgE EMPD1-39ペプチド(配列番号5)で被覆した。Log10で表される試験した血清の力価を、カットオフA450を0.5に設定したA450の線形回帰分析によって算出した。
図5図5は、種々のIgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号88~94、96、及び97)で産生される種々の精製ポリクローナル抗IgE EMPD抗体の滴定曲線を示すグラフである。ELISAプレートを、組換えIgE EMPD(配列番号1)を含むタンパク質、γ1-em67(配列番号1)で被覆した。プロテインAクロマトグラフィーによってモルモット血清から精製したポリクローナル抗IgE EMPD抗体を4倍段階希釈により100μg/mLから0.0238ng/mLまで希釈した。各ポリクローナル抗IgE EMPD抗体のEC50を、最大の結合有効性を示す免疫原構築物、配列番号89及び93を用いて、4パラメータロジスティック曲線近似による非線形回帰によって算出した。
図6A図6A図6Cには、IgE EMPD免疫原構築物で免疫した動物からプールした、モルモット血清から精製したポリクローナル抗体の、mIgE.FcL(左側)またはmIgE.FcS(右側)を発現するRamos細胞株細胞への結合を示すフローサイトメトリーヒストグラムが記載されている。プロテインAクロマトグラフィーによってモルモット血清から精製したポリクローナル抗IgE EMPD抗体を10μg/mLで使用した。配列番号88~94を有する免疫原構築物は、20アミノ酸残基より小さいIgE EMPD Bエピトープペプチドサイズを有する免疫原構築物96及び97と比較したとき、mIgEL B細胞に相当な結合を示した。図6Aには、配列番号88~90のIgE EMPD免疫原構築物を指向するポリクローナル抗体からのヒストグラムが記載されている。
図6B図6Bには、配列番号91~93のIgE EMPD免疫原構築物を指向するポリクローナル抗体からのヒストグラムが記載されている。
図6C図6Cには、配列番号94、96、及び97のIgE EMPD免疫原構築物を指向するポリクローナル抗体からのヒストグラムが記載されている。
図7図7は、IgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号88~93)を指向する種々のポリクローナル抗IgE EMPD抗体によって誘導される、mIgE.FcLを発現するRamos細胞のアポトーシスを示すグラフである。アポトーシスのレベルはアネキシンV/PI%で表す。プロテインAクロマトグラフィーによってモルモット血清から精製したポリクローナル抗IgE EMPD抗体を2倍段階希釈により1000から62.5ng/mLまで希釈した。ヒト化抗IgEモノクローナル抗体であるXOLAIR(登録商標)を陽性対照として使用した。グラフの下にポリクローナル抗IgE EMPD抗体の各組のEC50を示しており、これは、mIgEL B細胞のアポトーシス誘導で最大の有効性を示す配列番号88、90、及び93を有する免疫原構築物を用いて、4パラメータロジスティック曲線近似による非線形回帰によって算出した。
図8図8は、エフェクター/標的比1/30で、IgE EMPD免疫原構築物(配列番号88~93)を指向するポリクローナル抗IgE EMPD抗体によって誘導される、mIgE.FcLを発現するRamos細胞の抗体依存性細胞媒介型細胞傷害(ADCC)を示す棒グラフである。プロテインAクロマトグラフィーによってモルモット血清から精製したポリクローナル抗IgE EMPD抗体を10μg/mLで使用した。IL-2刺激マウス脾臓細胞をエフェクター細胞として使用し、マウス抗IgEモノクローナル抗体5D5を陽性対照として使用した。
図9図9は、モルモットからの免疫血清による、IgE EMPDのアミノ酸9~50を対象範囲とする重複10merペプチドを使用したELISAによる精密特異性分析のためのエピトープマッピングを示す模式図である。血清試料中の抗体が認識する優勢なエピトープは、IgE EMPDのループ構造を表す領域に特異的であった。この模式図は、天然のIgE EMPDのアミノ酸C18とC39との間の分子内ジスルフィド架橋によって形成される内部ループを示す。血清を1:1000に希釈し、エピトープマッピングを行った。ELISAプレートを、10merペプチド(ウェルあたり0.5μgペプチド)で被覆した。反応部位は、配列番号88、89、93、96、及び97の免疫原構築物で過去に免疫され、それに応じて標識されたモルモットから採取した免疫血清試料を使用してエピトープマッピング試験によって同定した。
図10図10は、本開示のペプチド免疫原構築物による免疫付与に続く、パパイン誘導一次及び二次免疫応答を評価するための実験計画を示す模式図である。ヒトIGHEノックインハイブリッドマウスに、0週目、3週目、及び5週目の3回、IgE EMPDペプチド免疫原構築物を筋肉内(im)接種した。一次IgE応答モデルでは、10週目にパパイン/TiterMax Goldでマウスに皮下(sc)攻撃接種し、12週目にパパイン特異的ヒトIgE(hIgE)を測定した(図13に示す)。二次IgE応答では、16週目に再度パパイン/TiterMax Goldでマウスに皮下攻撃接種し、18週目にパパイン特異的ヒトIgE(hIgE)を測定した(図14に示す)。免疫されたマウスの血清をさらに、抗IgE抗体生成(図11)及び血清IgEの変化(図12)についての試験を通じて試験した。
図11図11は、図10に示す実験計画を使用した20週間の抗IgE抗体生成の動態を示すグラフである。具体的には、グラフは、指定用量(免疫付与あたり100μL)でIgE EMPD免疫原構築物(配列番号88または93)を0週目、3週目、及び5週目の3回、筋肉内接種し、10週目及び16週目にパパイン/TiterMaxで皮下に攻撃接種したヒトIGHEノックインハイブリッドマウス(hIGHE×Balb/c、n=群あたり8匹)における抗体反応を示す。マウス血清は4倍段階希釈により1:100~1:(4.19×10)に希釈した。ELISAプレートを、組換えIgE EMPDを含むタンパク質、γ1-em67で被覆した。希釈係数のLog(EC50)で表される試験した血清の力価を、4パラメータロジスティック曲線近似による非線形回帰によって算出した。
図12図12は、図10に示す実験計画を使用した20週間の血清IgEの変化を示すグラフである。具体的には、グラフは、指定用量(免疫付与あたり100μL)でIgE EMPD免疫原構築物(配列番号88または93)を0週目、3週目、及び5週目の3回、筋肉内接種し、10週目及び16週目にパパイン/TiterMaxで皮下に攻撃接種したヒトIGHEノックインハイブリッドマウス(hIGHE×Balb/c、n=群あたり8匹)におけるIgEの血清レベルを示す。血清IgEはヒトIgE(hIgE)定量ELISAで測定した。マウス血清は1:20に希釈した。U266骨髄腫細胞から精製したhIgEを使用して、標準曲線を作成した。IgE濃度は、4パラメータロジスティック曲線近似を使用して、非線形回帰により生成した標準曲線にA450を内挿することにより算出した。
図13図13は、図10に示す実験計画を使用して12週目に測定された一次IgE応答におけるパパイン特異的ヒトIgE(hIgE)生成の抑制を示すグラフである。具体的には、ヒトIGHEノックインハイブリッドマウス(hIGHE×Balb/c、n=群あたり8匹)に、指定用量(免疫付与あたり100μL)でIgE EMPD免疫原構築物(配列番号88または93)を0週目、3週目、及び5週目の3回、筋肉内接種した。血清パパイン特異的hIgEは定量ELISAで測定した。マウス血清は1:10に希釈した。モノクローナルキメラパパイン特異的hIgEを使用して、標準曲線を作成した。パパイン特異的hIgE濃度は、4パラメータロジスティック曲線近似を使用して、非線形回帰により生成した標準曲線にA450を内挿することにより算出した。
図14図14は、図10に示す実験計画を使用して18週目に測定された二次IgE応答におけるパパイン特異的ヒトIgE(hIgE)生成の抑制を示す。具体的には、ヒトIGHEノックインハイブリッドマウス(hIGHE×Balb/c、n=群あたり8匹)に、指定用量(免疫付与あたり100μL)でIgE EMPD免疫原構築物(配列番号88または93)を0週目、3週目、及び5週目の3回、筋肉内接種した。血清パパイン特異的hIgEは定量ELISAで測定した。マウス血清は1:10に希釈した。モノクローナルキメラパパイン特異的hIgEを使用して、標準曲線を作成した。パパイン特異的hIgE濃度は、4パラメータロジスティック曲線近似を使用して、非線形回帰により生成した標準曲線にA450を内挿することにより算出した。
図15図15は、本開示のペプチド免疫原構築物による免疫付与に続く、パパイン誘導感作及びリコール免疫応答を評価するための実験計画を示す模式図である。ヒトIGHEノックインハイブリッドマウスを、0週目にパパイン/TiterMax Goldで皮下(sc)感作させた後、3週目、6週目、及び8週目の3回、IgE EMPDペプチド免疫原構築物により筋肉内接種した。12週目にPBS溶液中のパパインを皮内足蹠注射することにより、パパイン特異的免疫リコール応答を誘発した。実験の0~6週目に総IgE及びパパイン特異的IgE/IgGのレベルを評価し(図16)、12週目、13週目、及び14週目にパパイン特異的IgEのレベルを評価した(図17)。
図16図16は、図15に示す実験計画を使用した、ヒトIGHEノックインハイブリッドマウスすべてのパパインによる感作転帰を示すグラフが記載されている。Log(EC50)とヒトIgE(ng/mL)で表されるパパイン特異的マウスIgG力価を、6週間にわたり検出した。加えて、バイスタンダーの活性化により、総IgEレベル(ng/mL)が増加した。
図17図17は、図15に示す実験計画を使用した、12週目、13週目、及び14週目のパパイン特異的ヒトIgE(hIgE)生成の抑制を示すグラフである。具体的には、グラフは、400μg/mL(免疫付与あたり100μL)の配列番号88または93を3週目、6週目、及び8週目の3回、筋肉内接種し、感作されたヒトIGHEノックインハイブリッドマウス(hIGHE×Balb/c、n=群あたり8匹)におけるパパイン特異的リコール応答を示す。血清パパイン特異的hIgEは定量ELISAで測定した。マウス血清は1:10に希釈した。モノクローナルキメラパパイン特異的hIgE(ng/mL)を使用して、標準曲線を作成した。パパイン特異的hIgE濃度は、4パラメータロジスティック曲線近似を使用して、非線形回帰により生成した標準曲線にA450を内挿することにより算出した。
図18図18A及び図18Bは、投与あたり30、100、300、及び1000μgという4通りの投薬量のIgE EMPD免疫原構築物(配列番号88)とプラセボ対照製剤を指定用量で0週目、3週目、及び6週目に接種したカニクイザルにおけるプロトタイプ免疫療法アレルギーワクチン製剤の免疫原性を示すグラフである。これはELISAにより抗IgE EMPD力価ついてアッセイしたものである。図18Aは、Montanide(商標)ISA 51及びCpG ODNを含有する製剤で免疫したマカクにおける抗体反応を示している。図18Bは、ADJUPHOS及びCpG ODNを含有する製剤で免疫したマカクにおける抗体反応を示している。
図19図19は、300μg/mL(免疫付与あたり500μL)の免疫原構築物(配列番号125または126)を0週目、3週目、6週目の3回、筋肉内接種されたカニクイザル(群あたり雄2及び雌2)における20週間にわたる抗体反応の動態を示すグラフである。マカク血清は4倍段階希釈により1:100~1:(4.19×10)に希釈した。ELISAプレートを、配列番号5で被覆した。希釈係数のLog10で表される試験した血清の力価を、4パラメータロジスティック曲線近似による非線形回帰によって算出した。カットオフは、1:100希釈の血清試料すべての平均A450の2倍に設定した。
図20図20は、300μg/mL(免疫付与あたり500μL)のIgE EMPD免疫原構築物(配列番号125または126)を0週目、3週目、6週目の3回、筋肉内接種されたカニクイザル(群あたり雄2及び雌2)における20週間にわたるIgG、IgA、及びIgM抗体反応の動態を示す。マカク血清は4倍段階希釈により1:100~1:(4.19×10)に希釈した。ELISAプレートを、IgE EMPD1-39ペプチド(配列番号5)で被覆した。Log10で表される力価は、試験した各血清のデータから作成された4パラメータロジスティック曲線にカットオフを内挿することにより算出した。カットオフは、1:100希釈の血清試料すべての平均A450の2倍に設定した。
図21図21は、300μg/mL(免疫付与あたり500μL)のIgE EMPD免疫原構築物(配列番号125または126)を0週目、3週目、6週目の3回、筋肉内接種されたカニクイザル(群あたり雄2及び雌2)における20週間にわたる血清IgEレベルの変化を示すグラフである。血清IgEレベルはマカクIgE定量ELISAで測定した。マカク血清は1:20に希釈した。マカクIgEを使用して、標準曲線を作成した。IgE濃度は、4パラメータロジスティック曲線近似を使用して、非線形回帰により生成した標準曲線にA450を内挿することにより算出した。結果は平均±SDである。両側仮説による対応のあるt検定を使用して、0週目までの統計的差異を特定した:P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示は、膜結合型IgEの細胞外膜近位ドメイン(EMPD)(すなわちIgE EMPD)を標的とするペプチド免疫原構築物に関する。本開示はまた、ペプチド免疫原構築物を含有する組成物、ペプチド免疫原構築物を製造及び使用する方法、ならびにペプチド免疫原構築物によって免疫付与される宿主が生成する抗体に関する。
【0032】
本開示のペプチド免疫原構築物は、約20アミノ酸以上を含有する。ペプチド免疫原構築物は、完全長IgE EMPDの67アミノ酸の配列(配列番号1)からのB細胞エピトープを含む。B細胞エピトープは、病原体タンパク質に由来する異種Tヘルパー細胞(Th)エピトープに任意選択の異種スペーサーによって結合し得る。本開示のペプチド免疫原構築物は、IgE EMPDを指向する高特異性抗体の生成を刺激し、組換えIgE EMPD含有タンパク質γ1-em67、及び/またはmIgEを保持するB細胞上のIgE EMPDに結合することができる。本開示のペプチド免疫原構築物は、アレルゲン非依存性であり費用対効果の高いユニバーサル免疫療法として、IgE媒介型アレルギー性疾患に罹患している患者全般に使用することができる。
【0033】
ペプチド免疫原構築物のB細胞エピトープ部分は、完全長IgE EMPD配列(配列番号1)からのアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、B細胞エピトープは、完全長IgE EMPD配列(配列番号1)の付番に従い、内因性システイン(C18~C39)によって形成されるIgE EMPDの内部分子内ループを含む配列を有する。特定の具体的な実施形態では、B細胞エピトープは、IgE EMPD-1-39(配列番号5)、IgE EMPD-7-40(配列番号6)、IgE EMPD-19-38(配列番号8)、またはIgE EMPD-1-40(配列番号9)のアミノ酸配列を有する。
【0034】
本開示のペプチド免疫原構築物は、病原性タンパク質に由来する異種Thエピトープアミノ酸配列(例えば配列番号59~87)を含有し得る。特定の実施形態では、異種Thエピトープは、天然の病原体、例えば、ジフテリア毒素(配列番号63)、Plasmodium Falciparum(配列番号64)、コレラ毒素(配列番号66)に由来するものである。他の実施形態では、異種Thエピトープは、麻疹ウイルス融合タンパク質(MVF1~5)またはB型肝炎表面抗原(HBsAg1~3)に由来し、単一配列(例えば、配列番号60、67、72、及び73)か混成配列(例えば、配列番号70、69及び71)かのどちらかの形態にある理想人工Thエピトープである。
【0035】
いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原構築物は、任意選択の異種スペーサーによって異種Tヘルパー細胞(Th)エピトープに結合された、IgE EMPDからのB細胞エピトープを含有する。任意選択の異種スペーサーは、2つのアミノ酸及び/またはペプチドを一緒に結合できる分子または化学構造であり得る。特定の実施形態では、スペーサーは、天然に存在するアミノ酸、天然に存在しないアミノ酸またはその組合せである。
【0036】
特定の実施形態では、ペプチド免疫原構築物は、病原性タンパク質に由来する異種Thエピトープ(配列番号59~87)に任意選択の異種スペーサーによって結合された、IgE EMPD-1-40からの約20超のアミノ酸(例えば配列番号9)を有するB細胞抗原性部位を含有する。具体的な実施形態では、ペプチド免疫原構築物は、配列番号88~95、98~124、及び130のアミノ酸配列を有する。
【0037】
本開示はさらに、IgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する組成物に関する。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、1つより多いIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する。特定の実施形態では、組成物は、患者の広範な遺伝的背景を対象範囲に含めるために、異なるThエピトープに結合したIgE EMPD-1-39のB細胞エピトープ部分を含むペプチド免疫原構築物の混合物(例えば、配列番号98~124の任意の組合せ)を含有する。ペプチド免疫原構築物の混合物を含有する組成物は、単一のペプチド免疫原構築物のみを含有する組成物と比較して、IgE媒介型アレルギー性疾患の治療のためにワクチンで免疫付与したときのレスポンダー率より高い百分率につながり得る。
【0038】
本開示はさらに、IgE媒介型アレルギー性疾患の治療及び/または予防のための、ワクチン製剤を含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、CpGオリゴマーと、ペプチド免疫原複合体を含有する組成物とを混合することで静電会合によって形成された安定化免疫刺激性複合体の形態で本開示のペプチド免疫原構築物を含有する。そのような安定化免疫刺激性複合体は、ペプチド免疫原構築物の免疫原性をさらに増強することができる。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、アジュバント、例えば、ミョウバンゲル(ALHYDROGEL)、リン酸アルミニウム(ADJUPHOS)を含めた無機塩、またはMONTANIDE ISA 51もしくは720を含めた油中水型エマルションを含有する。
【0039】
本開示はさらに、本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物を指向する抗体に関する。特に、本開示のペプチド免疫原構築物は、ペプチド免疫原構築物のIgE EMPD B細胞エピトープ部分に関して交差反応性である高特異性抗体の生成を刺激することができる。本開示の抗体は、免疫原性増強のために採用される異種Thエピトープを指向することがあったとしてもあまりなく、高い特異性でIgE EMPDに結合するが、このことは、そのようなペプチド抗原性増強のために使用される従来のタンパク質または他の生物学的担体を使用して製造される抗体とは極めて対照的である。したがって、本開示のペプチド免疫原構築物は、他のペプチドまたはタンパク質免疫原と比較して、高いレスポンダー率で、自己抗原に対する免疫寛容を破壊することができる。
【0040】
特定の実施形態では、ペプチド免疫原構築物が対象に投与されると、抗体は、IgE EMPD-1-52アミノ配配列(配列番号2)、IgE EMPD-1-67アミノ酸配列(配列番号1)、及びそれらの断片(例えば配列番号5及び6)を指向し、特異的に結合する。ペプチド免疫原構築物によって生成する高特異性抗体は、可溶性IgE EMPD含有ペプチド及びタンパク質、IgE EMPD含有融合ペプチド及びタンパク質γ1-em67、及び/または膜結合型IgEを保持するB細胞上のIgE EMPDに関して交差反応性である。生成された抗体は、mIgEを発現するBリンパ球上のIgE B細胞受容体(BCR)に結合し、架橋させることができる。このような架橋は、アポトーシス及び抗体依存性細胞媒介型細胞傷害(ADCC)などの細胞溶解効果を誘導し、血清IgE生成の低減をもたらす。
【0041】
それらの独特の特徴及び特性に基づいて、本開示の抗体は、原因となるアレルゲン(複数可)に関係なく、IgE媒介型アレルギー性疾患を治療するユニバーサルな免疫治療的手法を提供することができる。
【0042】
本開示はさらに、本開示のペプチド免疫原構築物、組成物、及び抗体の製造方法に関する。本開示の方法は、原因となるアレルゲン(複数可)に関係なくIgE媒介型アレルギー性疾患を治療する方法に使用できるペプチド免疫原構築物及び構築物を含有する組成物の低コストの製造及び品質管理を提供する。
【0043】
本開示にはさらに、本開示のペプチド免疫原構築物及び/またはペプチド免疫原構築物を指向する抗体を使用して、原因となるアレルゲン(複数可)に関係なくIgE媒介型アレルギー性疾患を治療及び/または予防する方法も含まれる。いくつかの実施形態では、IgE媒介型アレルギー性疾患を治療及び/または予防する方法は、本開示のペプチド免疫原構築物を含有する組成物を宿主に投与することを含む。特定の実施形態では、本方法において利用される組成物は本開示のペプチド免疫原構築物を、CpGオリゴマーなどの負に帯電したオリゴヌクレオチドとの静電会合による安定な免疫刺激性複合体の形態で含有し、さらにIgE媒介型アレルギー性疾患を有する患者への投与のためにアジュバントを補充することができる。本開示の方法はさらに、投薬計画、剤形、及びIgE媒介型アレルギー性疾患の危険性があるかまたはそれを有する宿主にペプチド免疫原構築物を投与するための投与経路を含む。
【0044】
本明細書中で使用される節の見出しは、単なる構成上の目的のためのものにすぎず、記載されている主題を限定していると解釈すべきでない。本願中で引用される全ての参考文献または参考文献の一部は、参照によりそれらの全体があらゆる目的のために本明細書に明示的に援用される。
【0045】
特に説明がない限り、本明細書中で使用する全ての科学技術用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。単数形「a」、「an」及び「the」には複数形の意味が含まれており、但し、そうでないことが文脈によって明らかに示されている場合を除く。同様に、「または」という単語には「及び」を含むことを意図しており、但し、そうでないことが文脈によって明らかに示されている場合を除く。したがって、「AまたはBを含む」という語句は、A、またはB、またはAとBを含むことを意味する。さらに、ポリペプチドに対して与えられる全てのアミノ酸サイズ及び全ての分子量または分子質量値がおおよそのものであり説明のために提供されていることは理解される。本明細書に記載のものと類似するまたは等価である方法及び材料を本開示の方法の実施または検査に使用することはできるが、以下では好適な方法及び材料が記載されている。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は参照によりそれらの全体が本明細書に援用される。対立がある場合には用語の説明を含めて本明細書が優先されることになる。加えて、本明細書に開示される材料、方法及び実施例は例示であるにすぎず、限定を意図していない。
【0046】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物
本開示は、直接、または任意選択の異種スペーサーによって、異種Tヘルパー細胞(Th)エピトープに共有結合された、IgE EMPDからのアミノ酸配列を有するB細胞エピトープを含有するペプチド免疫原構築物を提供する。
【0047】
「IgE EMPDペプチド免疫原構築物」または「ペプチド免疫原構築物」という語句は、本明細書中で使用される場合、(a)67アミノ酸配列の完全長IgE EMPD(配列番号1)からの約20アミノ酸残基以上を有するB細胞エピトープ;(b)異種Thエピトープ;及び(c)任意選択の異種スペーサーを含有する、ペプチドを指す。
【0048】
特定の実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物は、以下の式で表すことができる。
【0049】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物は、式:
(Th)-(A)-(IgE EMPD断片)-X
または
(IgE EMPD断片)-(A)-(Th)-X
または
(Th)-(A)-(IgE EMPD断片)-(A)-(Th)-X
[式中、
Thは異種Tヘルパーエピトープであり、
Aは異種スペーサーであり、
(IgE EMPD断片)は、IgE EMPDからの約20~約40アミノ酸残基を有するB細胞エピトープであり、
Xはアミノ酸のα-COOHまたはα-CONHであり、
mは1~約4であり、
nは0~約10である]で表すことができる。
【0050】
本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物は、いくつかの原理に基づいて設計及び選択された。これらの原理のいくつかは、以下のIgE EMPDペプチド免疫原構築物の採用を含む:
i.自己分子であるため、それ自体は非免疫原性である;
ii.タンパク質担体または強力なTヘルパーエピトープ(複数可)によって免疫原性を付与することができる;
iii.免疫原性が付与され宿主に投与されたとき、
a.IgE EMPDペプチド配列(B細胞エピトープ)に対するが、タンパク質担体またはTヘルパーエピトープ(複数可)に対するものではない高力価抗体を誘発する;
b.免疫された宿主の免疫寛容を破壊し、mIgE.FcLを発現するCHO細胞から精製された組換えタンパク質として、またはmIgE.FcLをコードする組換えDNAでトランスフェクトされた、mIgEを保持するB細胞(例えば、Ramos)の膜上のいずれかで、IgE EMPD(配列番号1)と交差反応性の高い特異性抗体を生成する;
c.in vitroでの抗体依存性細胞傷害(ADCC)及びIgEを発現するBリンパ球のアポトーシスを誘導可能な高特異性抗体を生成する(実施例6);
d.血液中のIgE基礎レベルのin vivo低下と、アレルゲンの攻撃接種による初回免疫及び追加免疫時に抗原特異的IgEレベルの大幅な低下をもたらすことが可能な高特異性抗体を生成する(実施例8~11)。
【0051】
本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物及びその製剤は、IgE媒介型アレルギー性疾患に罹患している患者におけるIgE媒介型アレルギー性病理を緩和または排除するワクチンとして効果的に機能することができる。
【0052】
本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物の種々の構成要素について以下でさらに詳細に説明する。
【0053】
a.IgE EMPDのB細胞エピトープ
本開示は、IgE EMPDペプチドに特異性であり、IgEの分泌に関与するヒトB細胞上で発現される膜結合型IgEに交差反応性である、高力価ポリクローナル抗体の生成のための新規ペプチド組成物に関する。合理的な設計努力によるペプチド組成物の部位特異性は、担体タンパク質上の無関係な部位を指向する抗体の生成を最小限に抑える。
【0054】
「IgE」という用語は、本明細書中で使用される場合、分泌型IgE、膜結合型IgE、及びそれらの断片を含む、任意の形態の免疫グロブリンEを指す。分泌型及び膜結合型のIgEを図2Aに示す。
【0055】
「mIgE」という用語は、本明細書中で使用される場合、特に、膜結合型のIgE及びその断片を指す。いくつかの実施形態では、mIgEは、Igイプシロン鎖C領域2型-ヒト(断片);アクセッション番号PH1215として報告されたアミノ酸配列を有する、ヒトにおける膜結合型のIgEである。膜結合型IgEを図2A(右側)に示す。
【0056】
「IgE EMPD」という用語は、本明細書中で使用される場合、膜結合型IgE(mIgE)の細胞外膜近位ドメイン(EMPD)及びその断片を指す。IgE EMPDはCεmXとも称され、CH4ドメインとC末端膜アンカー膜貫通ペプチドとの間に位置し、mIgE B細胞にのみ認められる。IgEのEMPDは、「短鎖」アイソフォームが使用するスプライシングアクセプター部位の156-bp上流でのεRNA転写産物の選択的スプライシングから生じる。ヒトIgEの完全長「長鎖」EMPDアイソフォームは、67アミノ酸長(配列番号1)であり、「短鎖」アイソフォームには存在しない52アミノ酸(配列番号2)を含む。膜結合型IgEを、EMPD部分を拡大した図2Aに示す。完全長IgE EMPDのアミノ酸配列(配列番号1)及びその断片(配列番号2~58及び127)を表1に示す。
【0057】
IgE EMPDは、IgE EMPDの67アミノ酸配列及び52アミノ酸配列(それぞれ配列番号1及び2)のアミノ酸付番に基づいて、内因性システイン(C18~C39)間の分子内ループを含む。IgEの内部分子内ループを図9に示す。
【0058】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物のB細胞エピトープは、IgE EMPDまたはその一部の分子内ループ構造を含む。特定の実施形態では、B細胞エピトープは、IgE EMPDの約20~約40アミノ酸を含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物のB細胞エピトープ部分のアミノ酸配列は、完全長IgE EMPD(配列番号1)からの約20~約40アミノ酸残基を含む。特定の実施形態では、B細胞エピトープは、完全長IgE EMPD(配列番号1)の付番に従い、内因性システイン(C18~C39)によって形成されるIgE EMPDの内部分子内ループからのアミノ酸配列を含む。具体的な実施形態では、B細胞エピトープの配列は、IgE EMPDの分子内ループ構造のC末端側の残基38のArg(R)、39のCys(C)、または40のHis(H)で終わる。
【0060】
いくつかの実施形態では、B細胞エピトープは、表1に示すように、IgE EMPD-1-39(配列番号5)、IgE EMPD-7-40(配列番号6)、IgE EMPD-19-38(配列番号8)、またはIgE EMPD-1-40(配列番号9)のアミノ酸配列を有する。
【0061】
本開示のIgE EMPD断片にはさらに、IgE EMPDペプチド(配列番号5、6、8、及び9)及びそれらの20超のアミノ酸断片の免疫学的機能性類縁体または相同体も含まれる。IgE EMPDペプチドの免疫学的機能性類縁体または相同体及びその20超のアミノ酸断片には、元のペプチドと実質的に同じ免疫原性を保持する変異体が含まれる。免疫学的機能性類縁体は、アミノ酸位置における保存的置換;全体電荷の変更;別の部分との共有結合;またはアミノ酸の付加、挿入、もしくは欠失;及び/またはその任意の組合せを有し得る。
【0062】
b.異種Tヘルパー細胞エピトープ(Thエピトープ)
本開示は、直接、または任意選択の異種スペーサーによって、異種Tヘルパー細胞(Th)エピトープに共有結合された、IgE EMPDからのB細胞エピトープを含有する、ペプチド免疫原構築物を提供する。
【0063】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物中の異種ThエピトープはIgE EMPD断片の免疫原性を増強し、これが、合理的なデザインによって最適化された標的B細胞エピトープ(すなわち、IgE EMPD断片)を指向する特異的な高力価抗体の生成を促進する。
【0064】
本明細書中で使用する「異種」という用語は、IgE EMPDの野生型配列の一部でないまたはそれと相同的でないアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を指す。したがって、異種Thエピトープは、IgE EMPD中に天然に認められないアミノ酸配列に由来するThエピトープである(つまり、ThエピトープはIgE EMPDに対して自家ではない)。ThエピトープはIgE EMPDに対して異種であるため、異種ThエピトープをIgE EMPD断片に共有結合される場合にIgE EMPDの天然アミノ酸配列はN末端側またはC末端側のどちらの方向にも伸長されない。
【0065】
本開示の異種Thエピトープは、IgE EMPD中に天然に認められるアミノ酸配列を有さない任意のThエピトープであり得る。Thエピトープは、複数の種のMHCクラスII分子に対する無差別的結合モチーフを有する場合もある。特定の実施形態では、Tヘルパー細胞を最大限に活性化させて免疫応答の開始及び調節をもたらすべく、Thエピトープは複数の無差別的MHCクラスII結合モチーフを含む。Thエピトープは好ましくはそれ自体では免疫サイレントであり、つまり、IgE EMPDペプチド免疫原構築物によって生成した抗体のうちThエピトープに向かって指向することになるものがあったとしてもほとんどなく、それゆえ、標的とするIgE EMPD断片のB細胞エピトープを指向する非常に集中的な免疫応答が可能になる。
【0066】
本開示のThエピトープとしては、限定されないが、表2中に例示されているような外来病原体に由来するアミノ酸配列(配列番号59~87)が挙げられる。さらに、エピトープには、理想人工Thエピトープ及び混成理想人工Thエピトープ(例えば配列番号60及び配列番号67~73)が含まれる。混成配列(例えば配列番号68~71)として提示される異種Thエピトープペプチドは、その特定ペプチドの相同体の可変残基を基準としてペプチドの枠組み内での特定位置に表されるアミノ酸残基の混合物を含有する。混成ペプチドの組立体は、合成工程中に1つの特定のアミノ酸の代わりに指定の保護されたアミノ酸の混合物を特定位置に加えることによって1工程で合成され得る。そのような混成異種Thエピトープペプチド組立体は、多様な遺伝的背景を有する動物に対する広いThエピトープ対象範囲を可能にすることができる。異種Thエピトープペプチドの代表的な混成配列としては、表2に示される配列番号68~71が挙げられる。本発明のエピトープペプチドは、遺伝的に多様な個体群からの動物及び患者に対して広範な反応性及び免疫原性を示す。
【0067】
Thエピトープを含むIgE EMPDペプチド免疫原構築物は、IgE EMPD断片と一緒に単一の固相ペプチド合成において同時に製造される。Thエピトープには、Thエピトープの免疫学的類縁体も含まれる。免疫学的Th類縁体としては、免疫増強性類縁体、交差反応性類縁体、及びIgE EMPD断片に対する免疫応答を増強または刺激するのに十分なこれらのThエピトープのいずれかのセグメントが挙げられる。
【0068】
Thエピトープペプチドの機能性免疫学的類縁体も有効であり、本発明の一部として含まれる。機能性免疫学的Th類縁体は、ThエピトープのTh刺激機能を本質的に変化させないThエピトープにおける1~約5アミノ酸残基の保存的置換、追加、欠失及び挿入を含み得る。保護的置換、追加及び挿入は、IgE EMPD断片について上述した天然または非天然アミノ酸を使用して成し遂げられ得る。表2には、Thエピトープペプチドの機能性類縁体の別の変形形態が特定されている。特にMvF1及びMvF2 Thの配列番号60及び配列番号67は、各々N及びC末端における2つのアミノ酸の欠失(配列番号60及び配列番号67)または包含(配列番号70及び配列番号72)によってアミノ酸フレームに差異があるという点で、MvF4及びMvF5の配列番号70及び配列番号72の機能性類縁体である。これらの2つの類似配列系列間での差異は、これらの配列の中に含まれているThエピトープの機能に影響を与えないものである。したがって、機能性免疫学的Th類縁体には、麻疹ウイルス融合タンパク質MvF1~4 Th(配列番号60、67、68、70及び72)に由来する及び肝炎表面タンパク質HBsAg1~3 Th(配列番号69、71及び73)に由来するThエピトープのいくつかの変異型が含まれる。
【0069】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物中のThエピトープは、IgE EMPDペプチド断片のNまたはC末端側において共有結合し得る。いくつかの実施形態では、ThエピトープはIgE EMPDペプチド断片のN末端側に共有結合している。他の実施形態では、ThエピトープはIgE EMPDペプチド断片のC末端側に共有結合している。特定の実施形態では、1つより多いThエピトープがIgE EMPD断片に共有結合している。1つより多いThエピトープがIgE EMPD断片に結合している場合、各Thエピトープは同じアミノ酸配列または異なるアミノ酸配列を有し得る。加えて、1つより多いThエピトープがIgE EMPD断片に結合している場合にThエピトープは任意の順序で配置できる。例えば、Thエピトープが連続的にIgE EMPD断片のN末端側に結合し得るか、もしくは連続的にIgE EMPD断片のC末端側に結合し得るか、または1つのThエピトープがIgE EMPD断片のN末端側に共有結合し得るが、一方で別のThエピトープがIgE EMPD断片のC末端側に共有結合する。IgE EMPD断片と関連するThエピトープの並び方に制限はない。
【0070】
いくつかの実施形態では、Thエピトープは直接IgE EMPD断片に共有結合している。他の実施形態では、Thエピトープは、以下にさらに詳しく説明する異種スペーサーによってIgE EMPD断片に共有結合している。
【0071】
c.異種スペーサー
本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物は、任意選択で、IgE EMPDからのB細胞エピトープを異種Tヘルパー細胞(Th)エピトープに共有結合する異種スペーサーを含有する。
【0072】
上に述べたとおり、「異種」という用語は、IgE EMPDの天然型配列の一部でない、またはそれと相同的でないアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を指す。したがって、異種スペーサーをIgE EMPDからのB細胞エピトープに共有結合する場合、スペーサーがIgE EMPD配列に対して異種であるためIgE EMPDの天然アミノ酸配列はN末端側またはC末端側のどちらの方向にも伸長されない。
【0073】
スペーサーは、2つのアミノ酸及び/またはペプチド同士を結合することができる任意の分子または化学構造である。スペーサーは用途によって長さまたは極性が様々であり得る。スペーサーの結合は、アミドまたはカルボニル結合によるものであり得るが、他の官能性も同様に可能である。スペーサーは化合物、天然に存在するアミノ酸、または天然に存在しないアミノ酸を含み得る。
【0074】
スペーサーはIgE EMPDペプチド免疫原構築物に構造的特徴を提供することができる。構造的にスペーサーはThエピトープとIgE EMPD断片のB細胞エピトープとの物理的に分離する。スペーサーによる物理的分離は、ThエピトープをB細胞エピトープと結合することによって作り出される何らかの人工的二次構造を妨害することができる。加えて、スペーサーによるエピトープの物理的分離はTh細胞及び/またはB細胞応答間の干渉をなくすことができる。さらに、スペーサーを、ペプチド免疫原構築物の二次構造を作り出すまたは改変するように設計することができる。例えば、ThエピトープとB細胞エピトープとの分離を強化するために、柔軟なヒンジとして機能するようにスペーサーを設計できる。柔軟なヒンジスペーサーは、提示されたペプチド免疫原と適切なTh細胞及びB細胞とのより効率的な相互作用を可能にしてThエピトープ及びB細胞エピトープに対する免疫応答を強化することもできる。屈曲性ヒンジをコードする配列の例は免疫グロブリン重鎖ヒンジ領域にみられ、これはプロリンに富むことが多い。スペーサーとして使用することができる特に有用な1つの屈曲性ヒンジは、配列Pro-Pro-Xaa-Pro-Xaa-Pro(配列番号128)によって提供され、式中、Xaaは任意のアミノ酸、好ましくはアスパラギン酸である。
【0075】
スペーサーはIgE EMPDペプチド免疫原構築物に機能的特徴も提供することができる。例えば、スペーサーは、ペプチド免疫原構築物の溶解性に影響を与え得るものであるIgE EMPDペプチド免疫原構築物の全体電荷を変更させるように設計され得る。加えて、IgE EMPDペプチド免疫原構築物の全体電荷を変更させることで他の化合物及び試薬とのペプチド免疫原構築物の結合能力に影響を及ぼす可能性がある。以下にさらに詳しく述べているが、IgE EMPDペプチド免疫原構築物から静電結合によってCpGオリゴマーなどの高荷電オリゴヌクレオチドとの安定な免疫刺激性複合体を形成することができる。IgE EMPDペプチド免疫原構築物の全体電荷は、これらの安定な免疫刺激性複合体の形成にとって重要である。
【0076】
スペーサーとして使用することができる化合物としては、限定されないが、(2-アミノエトキシ)酢酸(AEA)、5-アミノ吉草酸(AVA)、6-アミノカプリン酸(Ahx)、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸(AEEA、ミニ-PEG1)、12-アミノ-4,7,10-トリオキサドデカン酸(ミニ-PEG2)、15-アミノ-4,7,10,13-テトラオキサペンタ-デカン酸(ミニ-PEG3)、トリオキサトリデカン-スクシンアミド酸(Ttds)、12-アミノ-ドデカン酸、Fmoc-5-アミノ-3-オキサペンタン酸(O1Pen)などが挙げられる。
【0077】
天然に存在するアミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリンが挙げられる。
【0078】
天然に存在しないアミノ酸としては、限定されないが、ε-Nリジン、β-アラニン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サイロキシン、γ-アミノ酪酸、ホモセリン、シトルリン、アミノ安息香酸、6-アミノカプリン酸(Aca;6-アミノヘキサン酸)、ヒドロキシプロリン、メルカプトプロピオン酸(MPA)、3-ニトロ-チロシン、ピログルタミン酸などが挙げられる。
【0079】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物中のスペーサーは、Thエピトープ及びIgE EMPDペプチドのNまたはC末端側のどちらかに共有結合し得る。いくつかの実施形態では、スペーサーはThエピトープのC末端及びIgE EMPDペプチドのN末端側に共有結合している。他の実施形態では、スペーサーはIgE EMPDペプチドのC末端側及びThエピトープのN末端側に共有結合している。特定の実施形態では、例えば1つ以上のThエピトープがペプチド免疫原構築物中に存在する場合に、1つより多いスペーサーが使用され得る。1つより多いスペーサーを使用する場合、各スペーサーは互いに同じものまたは異なるものであってよい。加えて、1つより多いThエピトープがペプチド免疫原構築物中に存在する場合、Thエピトープはスペーサーで分離することができ、Thエピトープは、ThエピトープをB細胞エピトープから分離するために使用されるスペーサーと同じまたは異なるものであってよい。ThエピトープまたはIgE EMPD断片に関するスペーサーの配置に制限はない。
【0080】
特定の実施形態では、異種スペーサーは、天然に存在するアミノ酸または天然に存在しないアミノ酸である。他の実施形態では、スペーサーは天然に存在するまたは天然に存在しないアミノ酸を1つより多く含有する。具体的な実施形態では、スペーサーは、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、またはε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号129)である。
【0081】
d.IgE EMPDペプチド免疫原構築物の具体的な実施形態
特定の実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物は、以下の式:
(Th)-(A)-(IgE EMPD断片)-X
または
(IgE EMPD断片)-(A)-(Th)-X
または
(Th)-(A)-(IgE EMPD断片)-(A)-(Th)-X
[式中、
Thは異種Tヘルパーエピトープであり、
Aは異種スペーサーであり、
(IgE EMPD断片)は、IgE EMPDからの約20~約40アミノ酸残基を有するB細胞エピトープであり、
Xはアミノ酸のα-COOHまたはα-CONHであり、
mは1~約4であり、
nは0~約10である]で表すことができる。
【0082】
特定の実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物中の異種Thエピトープは、表2に示される配列番号59~87及びその組合せのいずれかから選択されるアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物は、1つより多いThエピトープを含有する。
【0083】
特定の実施形態では、任意選択の異種スペーサーは、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号129)及びその組合せのいずれかから選択される。具体的な実施形態では、異種スペーサーはε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号129)である。
【0084】
特定の実施形態では、IgE EMPD断片は配列番号1または2からの約20~約40アミノ酸残基を有する。具体的な実施形態では、IgE EMPD断片は、完全長IgE EMPD(配列番号1)の付番に従い、内因性システイン(C18~C39)によって形成されるIgE EMPDの内部分子内ループからのアミノ酸配列を含む。具体的な実施形態では、IgE EMPD断片は、表1に示すように、IgE EMPD-1-39(配列番号5)、IgE EMPD-7-40(配列番号6)、IgE EMPD-19-38(配列番号8)、またはIgE EMPD-1-40(配列番号9)のアミノ酸配列を有する。
【0085】
特定の実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物は、表3に示される配列番号88~130のいずれかから選択されるアミノ酸配列を有する。具体的な実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物は、配列番号88~95、98~124、及び130のいずれかから選択されるアミノ酸配列を有する。
【0086】
e.変異体、相同体、及び機能性類縁体
IgE EMPDタンパク質の望ましいエピトープに対する抗体を誘導する及び/またはそれと交差反応する上記免疫原性ペプチドの変異体及び類縁体を使用することもできる。対立形質に関する、種に関する及び誘導される変異体を含めて類縁体は、しばしば保存的置換によって、1つ、2つまたはいくつかの位置において天然に存在するペプチドとは異なっているのが典型的である。類縁体は典型的には天然ペプチドとの少なくとも80%または90%の配列同一性を呈する。いくつかの類縁体は、1つ、2つまたはいくつかの位置に非天然アミノ酸またはNもしくはC末端アミノ酸の改変も含む。
【0087】
機能性類縁体である変異体は、アミノ酸位置での保存的置換;全体電荷の変更;別の部分との共有結合;またはアミノ酸の付加、挿入もしくは欠失;及び/またはその任意の組合せを有し得る。
【0088】
保存的置換とは、1つのアミノ酸残基が、類似する化学的性質を有する別のアミノ酸残基の代わりに用いられている場合をいう。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンが含まれ、極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンが含まれ、正に帯電した(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジン及びヒスチジンが含まれ、負に帯電した(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。
【0089】
特定の実施形態では、機能性類縁体は、元のアミノ酸配列との少なくとも50%の同一性を有する。別の実施形態では、機能性類縁体は、元のアミノ酸配列との少なくとも80%の同一性を有する。さらに別の実施形態では、機能性類縁体は、元のアミノ酸配列との少なくとも85%の同一性を有する。さらに別の実施形態では、機能性類縁体は、元のアミノ酸配列との少なくとも90%の同一性を有する。
【0090】
変異体には、リン酸化された残基に対する変形形態も含まれる。例えば、変異体はリン酸化ペプチド内に異なる残基を含み得る。変異体である免疫原性IgE EMPDペプチドには、偽リン酸化ペプチドも含まれ得る。偽リン酸化ペプチドは、IgE EMPDペプチドのリン酸化されたセリン、スレオニン及びチロシン残基のうちの1つ以上を酸性アミノ酸残基、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸で置き換えることによって生成する。
【0091】
組成物
本開示はさらに、本開示のIgE EMPD免疫原構築物を含む組成物を提供する。
【0092】
a.ペプチド組成物
本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する組成物は、液体または固体の形態であり得る。液体組成物は、水、緩衝剤、溶媒、塩及び/またはIgE EMPDペプチド免疫原構築物の構造的もしくは機能的特性を変化させない他の任意の許容される試薬を含み得る。ペプチド組成物は、本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物の1つ以上を含有し得る。
【0093】
b.医薬組成物
本開示はさらに、本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する医薬組成物に関する。
【0094】
医薬組成物は、薬学的に許容される送達システムの中に担体及び/または他の添加物を含有し得る。したがって、医薬組成物は、薬学的有効量のIgE EMPDペプチド免疫原構築物と共に、薬学的に許容される担体、アジュバント及び/または他の賦形剤、例えば、希釈剤、添加剤、安定化剤、保存剤、可溶化剤、緩衝剤などを含有し得る。
【0095】
医薬組成物は、何ら特異的抗原作用を自ら有することなくIgE EMPDペプチド免疫原構築物に対する免疫応答を加速させる、延長するまたは増強させるように作用する1つ以上のアジュバントを含有し得る。医薬組成物に使用されるアジュバントには、油、油エマルション、アルミニウム塩、カルシウム塩、免疫刺激性複合体、細菌派生体及びウイルス派生体、ビロソーム、炭水化物、サイトカイン、ポリマー微粒子が含まれ得る。特定の実施形態では、アジュバントは、ミョウバン(リン酸アルミニウムカリウム)、リン酸アルミニウム(例えば、ADJU-PHOS(登録商標))、水酸化アルミニウム(例えばALHYDROGEL(登録商標))、リン酸カルシウム、不完全フロイントアジュバント(IFA)、フロイント完全アジュバント、MF59、アジュバント65、Lipovant、ISCOM、リポシン、サポニン、スクアレン、L121、Emulsigen(登録商標)、モノホスホリルリピドA(MPL)、Quil A、QS21、MONTANIDE(登録商標)ISA35、ISA50V、ISA50V2、ISA51、ISA206、ISA720、リポソーム、リン脂質、ペプチドグリカン、リポ多糖(LPS)、ASO1、ASO2、ASO3、ASO4、AF03、親油性リン脂質(リピドA)、ガンマイヌリン、アルガムリン、グルカン、デキストラン、グルコマンノン、ガラクトマンナン、レバン、キシラン、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)ならびにその他のアジュバント及び乳化剤から選択され得る。
【0096】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、Montanide(商標)ISA51(油中水エマルションの製造のための植物油及びモノオレイン酸マンニドからなる油系アジュバント組成物)、Tween(登録商標)80(ポリソルベート80またはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートとしても知られる)、CpGオリゴヌクレオチド及び/またはその任意の組合せを含有する。他の実施形態では、医薬組成物は、EmulsigenまたはEmulsigen Dをアジュバントとする水中油中水型(すなわちw/o/w)エマルションである。
【0097】
医薬組成物は、薬学的に許容される添加剤または賦形剤を含むこともある。例えば、医薬組成物は、酸化防止剤、結合剤、緩衝剤、増量剤、担体、キレート剤、着色剤、希釈剤、崩壊剤、乳化剤、フィラー、ゲル化剤、pH緩衝剤、保存剤、可溶化剤、安定化剤などを含有し得る。
【0098】
医薬組成物は、即放性または持続放出性製剤として製剤化され得る。加えて、医薬組成物は、免疫原捕捉及び微粒子との共投与によって全身の、または局所粘膜の免疫性を誘導するために製剤化され得る。そのような送達システムは当業者によって容易に決定される。
【0099】
医薬組成物は、液体溶液か懸濁液かのどちらかとしての注射剤として調製され得る。IgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する液体ビヒクルを注射前に調製することもできる。医薬組成物は、任意の好適な適用様式、例えば、i.d.、i.v.、i.p.、i.m.、鼻腔内、経口、皮下などで、及び任意の好適な送達装置で投与され得る。特定の実施形態では、医薬組成物は、静脈内、皮下、皮内または筋肉内投与のために製剤化される。経口及び鼻腔内適用を含めた他の投与様式に適した医薬組成物を調製することもできる。
【0100】
医薬組成物はまた、好適な単位剤形で製剤化され得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、体重1kgあたり約0.1μg~約1mgのIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する。医薬組成物の有効量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるのかまたは動物であるのか、投与される他の医薬、及び治療が予防的であるのかまたは治療的であるのかを含めた多種多様な因子によって様々である。通常、患者はヒトであるが、遺伝子導入哺乳動物を含めた非ヒト哺乳動物を治療することもできる。医薬組成物は、多回用量で送達される場合、便宜的に単位剤形ごとに適切な量に分割されてもよい。投与する投薬量は、治療分野でよく知られているように対象の年齢、体重及び全身の健康によって決まるであろう。
【0101】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は1つより多いIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する。1つより多いIgE EMPDペプチド免疫原構築物の混合物を含有する医薬組成物は、構築物の免疫効果の相乗的増強を可能にする。1つより多いIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する医薬組成物は、MHCクラスII対象範囲が広いのでより大きな遺伝的個体群においてより有効であり得、したがってIgE EMPDペプチド免疫原構築物に対する免疫応答の改善をもたらすことができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、配列番号88~95、98~124、及び130(表3)ならびにその相同体、類縁体及び/または組合せから選択されるIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する。
【0103】
特定の実施形態では、MVF及びHBsAgに由来する混成形態の異種Thエピトープ(配列番号68及び69)を有するIgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号107及び108)を、等モル比で混合し、ワクチン製剤に使用することで、多様な遺伝的背景をもつワクチン宿主集団に対象範囲を最大化することができる。本発明のペプチド組成物にIgE EMPD G1-C39及びA7-C40免疫原構築物(配列番号88~95)の相乗的増強が観察され、そのような構築物(例えば、配列番号95)によって誘発される抗体反応は、大部分(90%超)がIgE EMPDのB細胞エピトープペプチド(配列番号2)に対する望ましい交差反応に集中しており、免疫原性増強のために採用される異種Thエピトープを指向することがあったとしてもほとんどない(実施例7、表7)。このことは、そのようなペプチド抗原性増強のために使用されるKLHなどの従来のタンパク質または他の生物学的担体とは極めて対照的である。
【0104】
他の実施形態では、例えば、アジュバントとしてミョウバンゲル(ALHYDROGEL)またはリン酸アルミニウム(ADJUPHOS)を含めた無機塩と接触させ、懸濁ワクチン製剤を形成した、IgE EMPDペプチド免疫原構築物の混合物であるペプチド組成物を含む医薬組成物をワクチン宿主への投与に使用した。
【0105】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する医薬組成物は、投与時に宿主において免疫応答を誘発し、抗体を生成するために使用することができる。
【0106】
c.免疫刺激性複合体
本開示はさらに、IgE EMPDペプチド免疫原構築物をCpGオリゴヌクレオチドとの免疫刺激性複合体の形態で含有する医薬組成物に関する。そのような免疫刺激性複合体は、アジュバントとして及びペプチド免疫原安定化剤として作用するのに特に適合している。免疫刺激性複合体は微粒子の形態にあり、これがIgE EMPDペプチド免疫原を免疫系の細胞に効率的に提示して免疫応答を生むことができる。免疫刺激性複合体を非経口投与のための懸濁液として製剤化してもよい。また、非経口投与後に宿主の免疫系の細胞へIgE EMPDペプチド免疫原を効率的に送達するために、免疫刺激性複合体を、無機塩または系中でゲル化するポリマーと組み合わせた懸濁液としてのw/oエマルジョンの形態で製剤化してもよい。
【0107】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物と、アニオン性分子、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたはその組合せとを静電会合によって複合化させることによって、安定化免疫刺激性複合体を形成することができる。安定化免疫刺激性複合体を免疫原送達システムとしての医薬組成物の中に組み込んでもよい。
【0108】
特定の実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物は、5.0~8.0の範囲のpHにおいて正に帯電しているカチオン性部分を含有するように設計される。IgE EMPDペプチド免疫原構築物または構築物の混合物のカチオン性部分の正味の電荷は、配列内でリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)の各々に電荷a+1を割り当て、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)に電荷a-1を割り当て、他のアミノ酸に0の電荷を割り当てることによって算出される。電荷をIgE EMPDペプチド免疫原構築物のカチオン性部分の中で加算し、正味の平均電荷として表す。好適なペプチド免疫原は、正味の平均正電荷が+1であるカチオン性部分を有する。好ましくは、ペプチド免疫原は+2よりも大きい範囲の正味の正電荷を有する。いくつかの実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物のカチオン性部分は異種スペーサーである。特定の実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物のカチオン性部分は、スペーサー配列が(α,ε-N)Lys、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号129)である場合に+4の電荷を有する。
【0109】
本明細書に記載の「アニオン性分子」は、5.0~8.0の範囲のpHにおいて負に帯電している任意の分子を指す。特定の実施形態では、アニオン性分子はオリゴマーまたはポリマーである。オリゴマー上またはポリマー上の正味の負電荷は、オリゴマー中のホスホジエステルまたはホスホロチオエート基の各々に電荷a-1を割り当てることによって算出される。好適なアニオン性オリゴヌクレオチドは、8~64ヌクレオチド塩基を有する一本鎖DNA分子であり、CpGモチーフの繰り返し回数が1~10の範囲である。好ましくは、CpG免疫刺激性一本鎖DNA分子は18~48ヌクレオチド塩基を含有し、CpGモチーフの繰り返し回数が3~8の範囲である。
【0110】
より好ましくは、アニオン性オリゴヌクレオチドは式:5’XCGX3’で表され、式中、C及びGはメチル化されておらず、Xは、A(アデニン)、G(グアニン)及びT(チミン)からなる群から選択され、XはC(シトシン)またはT(チミン)である。あるいは、アニオン性オリゴヌクレオチドは式:5’(XCG(X3’で表され、式中、C及びGはメチル化されておらず、Xは、A、TまたはGからなる群から選択され、XはCまたはTである。
【0111】
得られる免疫刺激性複合体は、大きさが典型的には1~50ミクロンの範囲である粒子の形態にあり、相対電荷化学量論及び相互作用種の分子量を含めた多くの因子の関数である。微粒子化された免疫刺激性複合体は、生体内での特異的免疫応答のアジュバント化及び上方制御をもたらすという利点を有する。加えて、安定化免疫刺激性複合体は、油中水エマルション、無機塩懸濁液及びポリマーゲルを含めて様々なプロセスで医薬組成物を調製するのに適している。
【0112】
本開示はさらに、IgE媒介型アレルギー性疾患の治療及び予防のための、ワクチン製剤を含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態では、CpGオリゴマーと、IgE EMPDペプチド免疫原構築物(例えば、配列番号88~95、98~124、及び130)の混合物を含有するペプチド組成物とを混合することで静電会合によって形成された安定化免疫刺激性複合体を含む医薬組成物は、IgE EMPDペプチド免疫原性をさらに増強し、配列番号1または2のIgE EMPDペプチドに対する抗体を誘発して、mIgEを発現するB細胞に結合し、それらの抗体依存性細胞傷害(ADCC)及びアポトーシスを誘導する(実施例6)。
【0113】
さらに他の実施形態では、医薬組成物は、任意選択的に、ワクチン宿主への投与用に安全性要素の高いアジュバントとしてミョウバンゲル(ALHYDROGEL)またはリン酸アルミニウム(ADJUPHOS)を含めた無機塩と混合し、懸濁ワクチン製剤を形成した、CpGオリゴマーとの安定化免疫刺激性複合体形態であるIgE EMPDペプチド免疫原構築物の混合物(例えば、配列番号8~90、94、95、98~124、及び130の任意の組合せ)を含有する。
【0114】
抗体
本開示はさらに、IgE EMPDペプチド免疫原構築物によって誘発される抗体を提供する。
【0115】
本開示は、ワクチン接種宿主におけるレスポンダー率が高く、自己抗原に対する免疫寛容を破壊できる膜結合型IgEを標的とする高力価抗体を誘発可能である、設計が最適で、製造における費用効果が高いIgE EMPDペプチド免疫原構築物及びその製剤を提供する。IgE EMPDペプチド免疫原構築物によって生成される抗体は、可溶性ペプチド、融合タンパク質、またはIgEを保持するB細胞に存在するIgEのいずれかであるIgE-EMPDタンパク質に対して高親和性を有する。生成された抗体は、mIgEを発現するBリンパ球上のIgE BCRに結合し、架橋させ、アポトーシス及びADCCなどの細胞溶解効果を誘導することができる。膜結合型IgE Bリンパ球のアポトーシス減少により、血清IgEの生成がさらに低下する。したがって、本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物及びその製剤によって生成されるアポトーシス誘導IgE EMPD特異性抗体によるヒトmIgE B細胞の標的化は、IgE媒介型アレルギー性疾患に対する新規治療及びワクチンを提供する。
【0116】
いくつかの実施形態では、抗体を誘発するためのIgE EMPDペプチド免疫原構築物は、麻疹ウイルス融合(MVF)タンパク質(配列番号73)及びその他(配列番号59~87)などの病原性タンパク質に由来する異種Thエピトープに任意選択のスペーサーによって結合された、IgE EMPDペプチド(配列番号1)に由来する中央分子内ループ構造を対象範囲とする20~40のアミノ酸を含有するB細胞エピトープをもつIgE EMPDペプチド(例えば、IgE EMPD G1-C39(配列番号5)、IgE EMPD A7-H40(配列番号6)、IgE EMPD H19-R38(配列番号8)、及びIgE EMPDのIgE EMPD G1-H40(配列番号9)のIgE EMPDペプチド)のハイブリットを含む。IgE EMPDペプチド免疫原構築物のB細胞エピトープとThエピトープは共に作用して、組換えIgE EMPD含有タンパク質(例えば、ヒトIgG1のFc部分とヒト膜結合型IgEのIgE EMPD、γ1-em67をコードする組換えDNAをトランスフェクトした安定Flp-In CHO細胞株から精製)として、または膜結合型IgEを保持する細胞の膜(例えば、mIgE.FcLをコードする組換えDNAをトランスフェクトしたRamos細胞株)のいずれかで、IgE EMPD1-52(配列番号2)、IgE EMPD1-67タンパク質(配列番号1)と交差反応性である高特異性抗体の生成を刺激する。
【0117】
例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などの担体タンパク質、またはジフテリアトキソイド(DT)及び破傷風トキソイド(TT)タンパク質などの他の担体タンパク質への化学結合など、ペプチドを免疫増強する従来の方法では、通常、担体タンパク質を指向する大量の抗体を生成させる。したがって、そのようなペプチド-担体タンパク質ワクチンの主な欠陥は、免疫原によって生成される抗体の大半(90%超)が、担体タンパク質KLH、DT、またはTTを指向する非機能性抗体であり、エピトープ抑制を引き起こし得ることである。
【0118】
ペプチドを免疫増強する従来の方法とは異なり、本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物によって生成される抗体は、IgE EMPD断片に高特異性で結合し、異種Thエピトープまたは任意選択の異種スペーサーを指向する抗体があったとしてもほとんどない。特に、ワクチン接種動物において誘発されるポリクローナル抗体は、図9に示すように、IgE EMPDのループ構造を対象範囲とする中央領域に高特異性で結合する。
【0119】
方法
本開示はまた、IgE EMPDペプチド免疫原構築物、組成物及び医薬組成物を製造及び使用する方法に関する。
【0120】
a.IgE EMPDペプチド免疫原構築物を製造する方法
本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物は、当業者によく知られている化学合成法によって作ることができる(例えば、Fields et al., Chapter 3 in Synthetic Peptides: A User’s Guide, ed. Grant, W. H. Freeman &Co., New York, NY, 1992, p.77を参照されたい)。IgE EMPDペプチド免疫原構築物は、例えばApplied Biosystemsペプチド合成装置モデル430Aまたは431において側鎖保護アミノ酸を使用して、t-BocかF-mocかのどちらかの化学で保護されたα-NH2による固相合成の自動Merrifield技術を用いて合成され得る。Thエピトープのためのコンビナトリアルライブラリーペプチドを含むIgE EMPDペプチド免疫原構築物の調製は、所与の可変位置での結合のための代替アミノ酸の混合物を提供することによって成し遂げられ得る。
【0121】
所望のIgE EMPDペプチド免疫原構築物の完全な組立て後に、樹脂からペプチドを切り離すための標準的手順に従って樹脂を処理することができ、アミノ酸側鎖上の官能基をデブロッキングすることができる。遊離ペプチドをHPLCで精製することができ、生化学的に、例えばアミノ酸分析または配列決定によって、特性評価することができる。ペプチドのための精製及び特性評価の方法は当業者によく知られている。
【0122】
この化学プロセスによって生成するペプチドの質を制御及び規定することができ、その結果、IgE EMPDペプチド免疫原構築物の再現性、免疫原性及び収率を保証することができる。固相ペプチド合成によるIgE EMPDペプチド免疫原構築物の製造についての詳細な説明は実施例1に示される。
【0123】
意図する免疫学的活性の保持を可能にする構造可変性の範囲は、低分子薬による特異的薬物活性、または生物由来薬物と共に生成する大型分子に認められる所望の活性及び不要な毒性の保持のために許容される構造可変性の範囲よりもはるかに順応性があることが見出された。それゆえ、ペプチド類縁体は、意図的に設計されたものであっても、合成プロセスの誤りによって意図したペプチドに類似するクロマトグラフィー上及び免疫学上の特性を有する欠失配列副生成物の混合物として不可避的に生成したものであっても、所望のペプチドの精製された調製物と同じくらい有効であることが多い。設計された類縁体及び意図しない類縁体混合物は、これらのペプチドを採用する最終製品の再現性及び有効性を保証すべく製造プロセスと生成物評価プロセスとの両方を監視するために鑑識的品質管理手順が展開される限りにおいて、有効である。
【0124】
核酸分子、ベクター及び/または宿主細胞を含む組換えDNA技術を用いてIgE EMPDペプチド免疫原構築物を作ることもできる。したがって、IgE EMPDペプチド免疫原構築物及びその免疫学的機能性類縁体をコードする核酸分子も本発明の一部として本開示に包含される。同様に、核酸分子を含んでいる発現ベクターを含めたベクター、及びベクターを含有する宿主細胞も本発明の一部として本開示に包含される。
【0125】
様々な例示的実施形態は、IgE EMPDペプチド免疫原構築物及びその免疫学的機能性類縁体を製造する方法も包含する。例えば、方法は、IgE EMPDペプチド免疫原構築物及び/またはその免疫学的機能性類縁体をコードする核酸分子を含有する発現ベクターを含有する宿主細胞を、ペプチド及び/または類縁体が発現する条件の下でインキュベートするステップを含み得る。より長い合成ペプチド免疫原をよく知られている組換えDNA技術で合成することができる。そのような技術は、よく知られている標準的マニュアルに詳細なプロトコールと共に示されている。本発明のペプチドをコードする遺伝子を構築するには、アミノ酸配列を逆翻訳して、好ましくは遺伝子を発現させる生物に最適なコドンを有するアミノ酸配列をコードする核酸配列を得る。次に、合成遺伝子を、典型的にはペプチド及び必要に応じた任意の調節エレメントをコードするオリゴヌクレオチドを合成することによって作る。合成遺伝子を好適なクローニングベクターに挿入し、宿主細胞にトランスフェクトする。その後、選択された発現システム及び宿主に適した好適な条件の下でペプチドを発現させる。ペプチドは、精製され、標準的方法で特徴づけられる。
【0126】
b.免疫刺激性複合体を製造する方法
様々な例示的実施形態は、IgE EMPDペプチド免疫原構築物とCpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)分子とを含んでいる免疫刺激性複合体を製造する方法も包含する。安定化免疫刺激性複合体(ISC)は、IgE EMPDペプチド免疫原構築物のカチオン性部分とポリアニオン性CpG ODN分子とに由来する。自己組織化システムは電荷の静電中和によって推し進められる。アニオン性オリゴマーに対するIgE EMPDペプチド免疫原構築物のカチオン性部分の分子電荷比率の化学量論によって会合の程度が決まる。IgE EMPDペプチド免疫原構築物とCpG ODNとの非共有結合性静電会合は完全に再現可能なプロセスである。ペプチド/CpG ODN免疫刺激性複合体は凝集するが、これが免疫系の「プロフェッショナル」抗原提示細胞(APC)への提示を促し、かくして複合体の免疫原性がさらに増強される。これらの複合体は、製造中の品質管理のために特徴づけするのが簡単である。ペプチド/CpG ISCは生体内で十分に許容される。CpG ODNとIgE EMPD断片由来のペプチド免疫原構築物とを含むこの新規微粒子システムは、CpG ODN使用に関連する全般的なB細胞分裂促進性を活用しながらも均衡のとれたTh-1/Th-2型応答を増進するように設計された。
【0127】
本開示の医薬組成物の中のCpG ODNは、相反する電荷の静電中和によって媒介されるプロセスにおいて免疫原に100%結合してミクロンサイズの微粒子を形成している。微粒子形態は、CpG投薬量を従来のCpGアジュバント使用と比較して著しく低減し、有害な自然免疫応答の可能性をより低くし、抗原提示細胞(APC)を含む代替の免疫原プロセシング経路を促進する。結果としてそのような製剤は概念上新規なものであり、代替機序による免疫応答の刺激を促進することによる潜在的利点を提供する。
【0128】
c.医薬組成物を製造する方法
様々な例示的実施形態は、IgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する医薬組成物も包含する。特定の実施形態では、医薬組成物は、油中水エマルション及び無機塩との懸濁を使用する。
【0129】
IgE EMPD凝集の防止も投与のための目標の一部としながら医薬組成物を大きな個体群によって使用されるものにするためには、安全性はもう1つの考慮すべき重要な因子となる。臨床試験中の多くの製剤のためにヒトにおいて油中水エマルションが使用されているとはいえ、ミョウバンはその安全性ゆえに製剤に使用するための主要なアジュバントであり続けている。それゆえ、ミョウバン及びその無機塩であるリン酸アルミニウム(ADJUPHOS)は臨床応用のための配合物においてアジュバントとして頻繁に使用される。
【0130】
他のアジュバント及び免疫刺激剤としては、3脱-O-アシル化モノホスホリルリピドA(MPL)または3-DMP、多量体型または単量体型アミノ酸、例えばポリグルタミン酸またはポリリジンが挙げられる。そのようなアジュバントは、他の特異的免疫刺激剤、例えばムラミルペプチド(例えば、N-アセチルムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-ノルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(nor-MDP)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1’-2’ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(MTP-PE)、N-アセチルグルコサミニル-N-アセチルムラミル-L-Al-D-イソグル-L-Ala-ジパルミトキシプロピルアミド(DTP-DPP)Theramide(商標)または他の細菌細胞壁成分と共に使用することもできるし、またはそれなしで使用することもできる。水中油エマルションとしては、5%のスクアレンと0.5%のTween80と0.5%のSpan85とを含有し(場合によって様々な量のMTP-PEを含有し)マイクロフルイダイザーを使用してサブミクロン粒子に製剤化したものであるMF59(Van Nest et al.のWO90/14837を参照されたく、これをもって参照によりその全体を援用する);10%のスクアレンと0.4%のTween80と5%のプルロニックブロックポリマーL121とthr-MDPとを含有しサブミクロンのエマルションに微小流体化したかあるいはボルテックスに掛けてより大きな粒径のエマルションを生成したものであるSAF;及び2%のスクアレンと0.2%のTween80と、モノホスホリピドA(MPL)、トレハロースジミコラート(TDM)及び細胞壁骨格(CWS)、好ましくはMPL+CWS(Detox(商標))からなる群から選択される1つ以上の細菌細胞壁成分とを含有する、Ribi(商標)アジュバントシステム(RAS)(Ribi ImmunoChem,Hamilton,Mont.)が挙げられる。他のアジュバントとしては、完全フロイントアジュバント(CFA)、不完全フロイントアジュバント(IFA)ならびにサイトカイン、例えば、インターロイキン(IL-1、IL-2及びIL-12)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)及び腫瘍壊死因子(TNF)が挙げられる。
【0131】
アジュバントの選択は、アジュバントを含有する免疫原性製剤の安定性、投与経路、投薬スケジュール、ワクチン接種する種におけるアジュバントの有効性によって決まり、ヒトにおいて薬学的に許容されるアジュバントは、関係する規制機関によってヒトへの投与が承認されているまたは承認されるものである。例えば、ミョウバン、MPLまたは不完全フロイントアジュバント(Chang et al., Advanced Drug Delivery Reviews 32: 173-186 (1998)、これをもって参照によりその全体を援用する)は、単独で、または場合によってそのあらゆる組合せがヒト投与に適している。
【0132】
組成物は、動物またはヒトへの投与のための医薬組成物を製剤化するために一般的に使用されるビヒクルとして定義される薬学的に許容される無毒性の担体または希釈剤を含み得る。希釈剤は、合剤の生物学的活性に影響を及ぼさないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理リン酸緩衝食塩水、リンガー液、デキストロース溶液及びハンクス液である。加えて、医薬組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または無毒性の非治療的非免疫原性安定化剤などをさらに含んでもよい。
【0133】
医薬組成物はさらに、大きなゆっくりと代謝される巨大分子、例えば、タンパク質、キトサンのような多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びコポリマー(例えば、ラテックス官能化セファロース、アガロース、セルロースなど)、多量体型アミノ酸、アミノ酸コポリマー、ならびに脂質凝集物(例えば油滴またはリポソーム)を含み得る。加えて、これらの担体は免疫刺激剤(すなわちアジュバント)として機能し得る。
【0134】
本発明の医薬組成物はさらに、好適な送達ビヒクルを含み得る。好適な送達ビヒクルとしては、限定されないが、ウイルス、細菌、生分解性微小球、微粒子、ナノ粒子、リポソーム、コラーゲン、ミニペレット及び渦巻体(cochleates)が挙げられる。
【0135】
d.医薬組成物を使用する方法
本開示には、IgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する医薬組成物を使用する方法も含まれる。
【0136】
特定の実施形態では、薬物アレルギー、食物アレルギー、及び昆虫アレルギー、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アトピー性皮膚炎、アレルギー性喘息、結膜炎、湿疹、蕁麻疹(発疹)、ならびにアナフィラキシーを含むが、それに限定されるわけではない免疫グロブリンE(IgE)媒介型アレルギー性疾患の治療及び/または予防のために、IgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する医薬組成物を使用することができる。
【0137】
いくつかの実施形態では、本方法は、薬理学的有効量のIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含む医薬組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含む。特定の実施形態では、本方法は、薬理学的有効量のIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含む医薬組成物を、温血動物(例えば、ヒト、カニクイザル、マウス)に投与し、組換えIgE EMPD含有タンパク質(例えば、ヒトIgG1のFc部分とヒト膜結合型IgEのIgE EMPD、γ1-em67をコードする組換えDNAをトランスフェクトした安定Flp-In CHO細胞株から精製)として、または膜結合型IgEを保持する細胞の膜(例えば、mIgE.FcLをコードする組換えDNAをトランスフェクトしたRamos細胞株)のいずれかで、IgE EMPD1-52ペプチド(配列番号2)、IgE EMPD 1-67タンパク質(配列番号1)と交差反応性である高特異性抗体を誘発することを含む。
【0138】
特定の実施形態では、IgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する医薬組成物を使用して、IgE EMPDを指向する抗体を誘発することにより、IgE媒介型疾患を治療及び/または予防することができる。このような抗体は、(a)mIgEを発現するB細胞に結合し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)及びアポトーシスを誘導する;(b)in vivoで血液中のIgE基礎レベルを低下させる;(c)in vivoで血液中の抗原特異的IgEレベルを低下させる;及び(d)IgE媒介型アレルギー性疾患に罹患している患者におけるIgE媒介型アレルギー性病理を緩和または排除することができる。
【0139】
e.in vitro機能アッセイ及びin vivo有効性の概念実証試験
IgE EMPDペプチド免疫原構築物によって生成される抗体をin vitro機能アッセイに使用することができる。このような機能アッセイとして、以下が挙げられるが、それに限定されるわけではない:
(a)mIgE.FcLを発現するCHO細胞から精製した組換えタンパク質としてのIgE EMPD1-52ペプチド(配列番号1)へのin vitro結合(実施例3);
(b)IgE.FcLをコードする組換えDNAをトランスフェクトしたB細胞株Ramos由来の膜結合型IgEを保持する細胞へのin vitro結合(実施例3);
(c)in vitroの抗体依存性細胞傷害(ADCC)(実施例6);
(d)in vitroにおける、IgEを保持するBリンパ球のアポトーシスの誘導(実施例6);
(e)ワクチン接種宿主の血液中のIgE基礎レベルが低下を示すことによる有効性のin vivo実証(実施例8~10);
(f)アレルゲンの攻撃接種による初回免疫及び追加免疫時に抗原特異的IgEレベルが低下を示すことによる有効性のin vivo実証(実施例8~10)。
【0140】
本開示により、IgE EMPDペプチド免疫原構築物及びその製剤は、IgE媒介型アレルギー性疾患に罹患している患者におけるIgE媒介型アレルギー性病理を緩和または排除するワクチンとして効果的に機能することができる。
【0141】
具体的な実施形態
(1)式:
(Th)-(A)-(IgE EMPD断片)-X
または
(IgE EMPD断片)-(A)-(Th)-X
または
(Th)-(A)-(IgE EMPD断片)-(A)-(Th)-X
[式中、
Thは異種Tヘルパーエピトープであり、
Aは異種スペーサーであり、
(IgE EMPD断片)は、IgE EMPDの中央分子内ループからの約20~約40アミノ酸残基を有するB細胞エピトープであり、
Xはアミノ酸のα-COOHまたはα-CONHであり、
mは1~約4であり、
nは0~約10である]で表される、IgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【0142】
(2)前記IgE EMPD断片が、配列番号5、6、8、及び9からなる群から選択される、(1)に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【0143】
(3)前記Thエピトープが、配列番号59~87からなる群から選択される、(1)または(2)のいずれかに記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【0144】
(4)前記ペプチド免疫原構築物が、配列番号88~95、98~124、及び130からなる群から選択される、(1)に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【0145】
(5)
配列番号1または配列番号2のIgE EMPD配列からの約20~約40アミノ酸残基を含むB細胞エピトープ、
配列番号59~87からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むTヘルパーエピトープ、ならびに
アミノ酸Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、及びε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号129)からなる群から選択される任意選択の異種スペーサーを含む、IgE EMPDペプチド免疫原構築物であって、
前記B細胞エピトープが直接、または前記任意選択の異種スペーサーによって、前記Tヘルパーエピトープに共有結合している、前記IgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【0146】
(6)前記B細胞エピトープが、配列番号5、6、8、及び9からなる群から選択される、(5)に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【0147】
(7)前記Tヘルパーエピトープが、配列番号59~87からなる群から選択される、(5)に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【0148】
(8)前記任意選択の異種スペーサーが、(α,ε-N)Lys、またはε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号129)である、(5)に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【0149】
(9)前記Tヘルパーエピトープが前記B細胞エピトープのアミノ末端に共有結合している、(5)に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【0150】
(10)前記Tヘルパーエピトープが前記任意選択の異種スペーサーによって前記B細胞エピトープのアミノ末端に共有結合している、(5)に記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物。
【0151】
(11)(1)~(10)のいずれかに記載のペプチド免疫原構築物を含む組成物。
【0152】
(12)a.(1)~(10)のいずれかに記載のペプチド免疫原構築物と、
b.薬学的に許容される送達ビヒクル及び/またはアジュバントと、を含む、医薬組成物。
【0153】
(13)a.前記IgE EMPDペプチド免疫原構築物が、配列番号88~95、98~124、及び130からなる群から選択され、
b.前記IgE EMPDペプチド免疫原構築物が、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)と混合されて安定化免疫刺激性複合体を形成している、(12)に記載の医薬組成物。
【0154】
(14)(1)~(10)のいずれかに記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物の前記B細胞エピトープに特異的に結合する、単離された抗体またはそのエピトープ結合性断片。
【0155】
(15)前記IgE EMPDペプチド免疫原構築物に結合している、(14)に記載の単離された抗体またはそのエピトープ結合性断片。
【0156】
(16)(1)~(10)のいずれかに記載のIgE EMPDペプチド免疫原構築物の前記B細胞エピトープに特異的に結合する、単離された抗体またはそのエピトープ結合性断片。
【0157】
(17)(14)~(16)のいずれかに記載の単離された抗体またはそのエピトープ結合性断片を含む、組成物。
【0158】
使用される手順の詳細な説明を、以下の実施例に示す。以下の実施例は、本発明を例示するために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するために利用されるべきではない。
【実施例
【0159】
実施例1
IgE EMPD関連ペプチドの合成及びその製剤の調製
a.IgE EMPD関連ペプチドの合成
IgE EMPDペプチド免疫原構築物の開発成果に含まれる、デザイナーIgE EMPD関連ペプチドの合成方法について記載する。血清学アッセイ、実験室試験研究及び現場研究に有用な小スケール量、ならびに医薬組成物の工業/商業生産に有用な大スケール(キログラム)量でペプチドを合成した。有効なIgE系アレルギーワクチンの使用に最適なペプチド構築物のスクリーニング及び選択のために、長さ約20~約70アミノ酸の配列を有する広いレパートリーのIgE EMPD関連抗原性ペプチドを設計した。
【0160】
様々な血清学アッセイにおいてエピトープマッピングのために採用した代表的な完全長IgE EMPD1-67(配列番号1)、IgE EMPD1-52(配列番号2)、ならびにIgE EMPD1-17(配列番号7)、IgE EMPD19-38(配列番号8)、及び種々の10-merペプチド(配列番号10~58)を含むIgE EMPDセグメントを表1に示す(配列番号1~58)。
【0161】
選択されたIgE EMPD B細胞エピトープペプチドを、表2(配列番号59~87)で特定される麻疹ウイルス融合タンパク質(MVF)、B型肝炎表面抗原タンパク質(HBsAg)インフルエンザ、Clostridum tetani、及びEpstein-Barrウイルスを含む病原体タンパク質に由来する注意深く設計されたヘルパーT細胞(Th)エピトープに合成的に結合することによってIgE EMPDペプチド免疫原構築物を作製した。Thエピトープを単一配列(配列番号59~67及び72~87)かコンビナトリアルライブラリー(配列番号68~71)かのどちらかに使用してそれらの各々のIgE EMPDペプチド免疫原構築物の免疫原性を増強した。
【0162】
100超のペプチド構築物から選択された代表的なIgE EMPDペプチド免疫原構築物は表3で特定される(配列番号88~124及び130)。
【0163】
抗IgE EMPD抗体の検出及び/または測定のための免疫原性試験または関連する血清学検査のために使用されるペプチドはすべて、Applied BioSystems Models 430A、431及び/または433のペプチド合成装置によってF-moc化学を用いて小スケールで合成した。各ペプチドは独立した合成によって固相担体上で、N末端のF-moc保護及び三官能性アミノ酸の側鎖保護基を有して製造した。完成したペプチドを固体担体から切り離し、側鎖保護基を90%のトリフルオロ酢酸(TFA)で除去した。合成ペプチド調製物をマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間(MALDI-TOF)質量分析で評価して、アミノ酸が正しく含まれていることを確認した。各合成ペプチドを逆相HPLC(RP-HPLC)でも評価して合成プロファイル及び調製物の濃度を確認した。合成プロセスの厳密な制御(カップリング効率のステップごとの追跡を含む)にもかかわらず、アミノ酸の挿入、欠失、置換及び中途停止を含めた伸長サイクル中の意図しない事象のためにペプチド類縁体も生成した。このため、合成された調製物は典型的には目的とするペプチドと一緒に複数のペプチド類縁体を含んでいた。
【0164】
そのような意図しないペプチド類縁体を含んでいるにもかかわらず、得られる合成されたペプチド調製物はなおも、免疫診断(抗体捕捉抗原として)及び医薬組成物(ペプチド免疫原として)を含めた免疫学的用途における使用に適していた。典型的にはそのようなペプチド類縁体は、意図的に設計されたものであっても、副生成物の混合物として合成プロセスによって生成したものであっても、これらのペプチドを採用する最終製品の再現性及び有効性を保証すべく製造プロセスと生成物評価プロセスとの両方を監視するために鑑識的品質管理手順が展開される限りにおいて、所望のペプチドの精製された調製物と同じくらい有効であることが多い。数百~数千グラム量での大スケールペプチド合成を、カスタマイズされた自動ペプチド合成装置UBI2003などで15~50ミリモルスケールで行った。
【0165】
活性成分を臨床試験のための最終医薬組成物に使用するために、IgE EMPD関連ペプチド構築物を分取RP-HPLCによって浅い溶離勾配の下で精製し、MALDI-TOF質量分析、アミノ酸分析及びRP-HPLCによって純度及び同一性に関して特性評価した。
【0166】
b.IgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有する組成物の調製
油中水型エマルション及び無機塩との懸濁液を採用する製剤を調製した。大規模集団によって使用され、かつ予防も投与の目的の一部である医薬組成物を設計するには、安全性も考慮すべき重要な要素になる。臨床試験では医薬組成物の多くで油中水型エマルションをヒトに使用しているが、未だ安全性の理由からミョウバンが医薬組成物で使用される主要アジュバントである。したがって、臨床用途向け調製において、アジュバントとしてミョウバンまたはその無機塩ADJUPHOS(リン酸アルミニウム)が頻繁に使用される。
【0167】
簡潔には、以下に記載する各試験群で指定されている製剤は一般に、全種類のデザイナーIgE EMPDペプチド免疫原構築物を含有していた。100超のデザイナーIgE EMPDペプチド免疫原構築物を最初にモルモットで、免疫原のB細胞エピトープペプチドを表す対応するIgE EMPDペプチドとの相対免疫原性について評価し、さらに配列番号1~126のものから選択された異なるペプチドで被覆したプレートを用いたELISAアッセイにより種々の相同ペプチド間の血清学的交差反応性の評価を行った。
【0168】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物は、指定したような可変量のペプチド構築物で、(i)ヒト用途の承認済み油Seppic Montanide(商標)ISA 51との油中水型エマルションに調製するか、または(ii)無機塩ADJUPHOS(リン酸アルミニウム)またはALHYDROGEL(ミョウバン)と混合して調製した。組成物は、典型的にはIgE EMPDペプチド免疫原構築物を約20~800μg/mLの水に溶解することにより調製し、Montanide(商標)ISA 51を用いて油中水型エマルション(1:1体積)に製剤化するか、またはミネラル塩もしくはALHYDROGEL(ミョウバン)(1:1体積)と製剤化した。組成物を室温で約30分間維持し、免疫付与前にボルテックスで約10~15秒間混合した。一部の動物を2~3用量の特異的組成物で免疫付与した。これは、0週目(初回免疫)及び初回免疫後週数(wpi)3(追加免疫)で投与し、任意選択的に5または6wpiに筋肉内経路で2回目の追加免疫を行った。次に、選択したB細胞エピトープペプチド(複数可)を用いて、これらの免疫された動物を試験し、製剤に存在する種々のIgE EMPDペプチド免疫原構築物の免疫原性を評価し、加えて関連する標的ペプチドまたはタンパク質との交差反応性を評価した。次に、モルモットにおける初回スクリーニングで免疫原性が強力であったこれらのIgE EMPDペプチド免疫原構築物を、油中水型エマルション、無機塩及びミョウバン系製剤の両方で、霊長類において免疫付与プロトコールに示す指定期間にわたる投薬計画を実施してさらに試験した。
【0169】
最も有望なIgE EMPDペプチド免疫原構築物のみをさらに広範に評価した後、最終製剤に組み込んで、IgE媒介型疾患患者における治験薬の申請及び臨床試験に備え、GLP基準前臨床試験の免疫原性試験、持続期間試験、毒性試験、及び有効性試験を行った。
【0170】
実施例2
血清学アッセイ及び試薬
合成ペプチド構築物及びその製剤の機能的免疫原性を評価するための血清学アッセイ及び試薬を以下に詳細に記載する。
【0171】
a.抗体特異性分析のための、IgE EMPD1-52、IgE EMPD1-39、IgE EMPD1-17、IgE EMPD19-38、IgE EMPD7-40ペプチドに基づくELISA試験
以下の実施例に記載の免疫血清試料を評価するためのELISAアッセイを開発した。これを以下で説明する。pH9.5の10mM NaHCO緩衝液中(特に記載がない限り)2μg/mL(特に記載がない限り)の標的ペプチドIgE EMPD1-52、IgE EMPD1-39、IgE EMPD1-17、IgE EMPD19-38、IgE EMPD7-40など(例えば、配列番号2及び5~8)100μLにより、96ウェルプレートのウェルを37℃で1時間、個別に被覆した。
【0172】
ペプチド被覆したウェルをPBS中3重量%のゼラチン250μLと共に37℃で1時間インキュベートして非特異的なタンパク質結合部位をブロッキングし、続いて0.05体積%のTWEEN(登録商標)20を含有するPBSで3回洗浄し、乾燥させた。分析対象の血清を、20体積%の標準ヤギ血清、1重量%のゼラチン、及び0.05体積%のTWEEN(登録商標)20を含有するPBSで1:20(特に記載のない限り)に希釈した。希釈した検体(例えば、血清、血漿)100マイクロリットル(100μL)を各ウェルに加え、37℃で60分間反応させた。次に、未結合抗体を除去するために、PBS中0.05体積%のTWEEN(登録商標)20でウェルを6回洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合種(例えば、マウス、モルモット、またはヒト)特異的ヤギ抗IgG、IgA、またはIgMを、陽性ウェルに形成された抗体/ペプチド抗原複合体と結合する標識トレーサーとして使用した。PBS中0.05体積%のTWEEN(登録商標)20を含有する1体積%の標準ヤギ血清にて、事前に滴定した最適希釈でペルオキシダーゼ標識ヤギ抗IgG100マイクロリットルを各ウェルに加え、37℃でさらに30分間インキュベートした。PBS中0.05体積%のTWEEN(登録商標)20でウェルを6回洗浄し、未結合抗体を除去して、クエン酸ナトリウム緩衝液中0.04重量%の3´,3´,5´,5´-テトラメチルベンジジン(TMB)と0.12体積%の過酸化水素を含有する基質混合物100μLとさらに15分間反応させた。この基質混合物を使用して、着色生成物を形成することによりペルオキシダーゼ標識を検出した。100μLの1.0M HSOの添加により反応を停止し、450nmでの吸光度(A450)を決定した。種々のIgE EMPDペプチドワクチン製剤を与えたワクチン接種動物の抗体価の決定では、1:100から1:10,000までの10倍段階希釈の血清、または1:100~1:4.19x10の4倍段階希釈の血清を試験し、Log10で表される試験血清の力価を、カットオフA450を0.5に設定したA450の線形回帰分析によって算出した。
【0173】
b.Thペプチドに基づくELISA試験によるThペプチドに対する抗体反応性の評価
pH9.5の10mM NaHCO緩衝液中(特に記載がない限り)2μg/mL(特に記載がない限り)のThペプチド100μLにより、96ウェルELISAプレートのウェルを、類似するELISA法において37℃で1時間個別に被覆し、上記の通り実施した。種々のIgE EMPDペプチドワクチン製剤を与えたワクチン接種動物の抗体価の決定では、1:100~1:10,000の10倍段階希釈の血清を試験し、Log10で表される試験血清の力価を、カットオフA450を0.5に設定したA450の線形回帰分析によって算出した。
【0174】
c.B細胞エピトープクラスター10merペプチドに基づくELISA試験による、IgE EMPD及びIgE CH4に対する(膜に対するヒトIgE CH4)精密特異性分析及びエピトープマッピングの評価
免疫された宿主における抗IgE EMPD抗体の精密特異性分析は、エピトープマッピングによって決定した。簡潔には、96ウェルプレートのウェルを、ウェルごとに0.1mLあたり0.5μgのIgE EMPD 10merペプチド(配列番号10~58)で個別に被覆した後、100μLの血清試料(PBSで1:100に希釈)を上記の抗体ELISA法の工程に従って2連の10merプレートウェル中でインキュベートした。IgE EMPDペプチド免疫原構築物のB細胞エピトープ、及び免疫された宿主の免疫血清からの抗IgE EMPD抗体の関連する精密特異性分析を、スペーサーまたはTh配列(配列番号1)のない対応するIgE EMPD1-52ペプチド、または関連性のない対照ペプチドで試験し、追加の反応性と特異性を確認した。
【0175】
d.免疫原性評価
実験的ワクチン接種プロトコールに従って、免疫前及び免疫血清試料を動物対象もしくはヒト対象または動物から採取し、56℃で30分間加熱して血清補体因子を不活化した。ワクチン製剤の投与後、プロトコールに従って血液試料を得て、特異的標的部位(複数可)に対する免疫原性を評価した。段階希釈した血清を試験し、陽性力価を希釈度の逆数のLog10で表した。標的抗原内の目的のB細胞エピトープ配列を指向する高力価抗体を誘発すると同時に、望ましいB細胞応答の増強をもたらすために採用されるヘルパーT細胞エピトープ配列に対する抗体反応性を低度から無視できる程度に維持する能力によって、個々のワクチン製剤の免疫原性を評価した。
【0176】
e.マウス血清中のヒトIgEレベルを評価するためのイムノアッセイ
捕捉抗体である抗ヒトIgE、HP6061(Abcam)と検出抗体であるビオチン標識抗ヒトIgE、HP6029(Abcam)を使用したサンドイッチELISAでhuIGHEノックインマウスのヒトIgEレベルを測定した。簡潔には、HP6061を被覆用緩衝液(15mM NaCO、35mM NaHCO、pH9.6)中100ng/ウェルで96ウェルプレートに固定し、4℃で一晩インキュベートした。被覆したウェルを200μL/ウェルのアッセイ用希釈液(PBS中0.5%のBSA、0.05%のTween-20、0.02%のProClin 300)で室温にて1時間ブロッキングした。プレートを200μL/ウェルの洗浄用緩衝液(0.05%のTween-20を含むPBS)で3回洗浄した。精製したU266 IgEを使用して、5%マウス血清を含むアッセイ用希釈液における標準曲線(2倍段階希釈で0~800ng/mLの範囲)を作成した。50μLの希釈血清(1:20)と標準物質を被覆したウェルに加えた。室温で1時間インキュベートを実施した。全てのウェルを吸引し、200μL/ウェルの洗浄用緩衝液で6回洗浄した。捕捉されたヒトIgEを100μLの検出抗体溶液(アッセイ用希釈液中50ng/mlのビオチン標識HP6029)と共に室温で1時間インキュベートした。その後、結合したビオチン-HP6029を、ストレプトアビジンポリ-HRP(1:10,000希釈、Thermo Pierce)を使用して1時間検出した(100μL/ウェル)。全てのウェルを吸引し、200μL/ウェルの洗浄用緩衝液で6回洗浄した。最後に、ウェルを100μL/ウェルのNeA-Blue TMB基質(Clinical Scientific Products)で発色させ、100μL/ウェルの1M HSOの添加によって反応を停止させた。SoftMax Proソフトウェア(Molecular Devices)を使用して、4パラメータロジスティック曲線近似を生成することにより標準曲線を作成し、試験した全試料のIgE濃度を算出するために使用した。Prismソフトウェアを使用したデータ比較にはスチューデントのt検定を使用した。
【0177】
f.マウス血清中のパパイン特異的IgEレベルを評価するためのイムノアッセイ
被覆材料であるパパインと検出抗体であるビオチン標識抗ヒトIgE、HP6029(Abcam)を使用した直接ELISAでhuIGHEノックインマウスに出現するパパイン特異的IgEを測定した。簡潔には、パパインを被覆用緩衝液(15mM NaCO、35mM NaHCO、pH9.6)中500ng/ウェルで96ウェルプレートに固定し、4℃で一晩インキュベートした。被覆したウェルを200μL/ウェルのアッセイ用希釈液(PBS中0.5%のBSA、0.05%のTween-20、0.02%のProClin 300)で室温にて1時間ブロッキングした。プレートを200μL/ウェルの洗浄用緩衝液(0.05%のTween-20を含むPBS)で3回洗浄した。モノクローナルヒトキメラパパイン特異的IgE(AllerMAbs Co.,Ltd.)を使用して、10%マウス血清を含むアッセイ用希釈液における標準曲線(2倍段階希釈で0~30ng/mLの範囲)を作成した。50μLの希釈血清(1:10)と標準物質を被覆したウェルに加えた。室温で1時間インキュベートを実施した。全てのウェルを吸引し、200μL/ウェルの洗浄用緩衝液で6回洗浄した。捕捉されたヒトIgEを100μLの検出抗体溶液(アッセイ用希釈液中50ng/mlのビオチン標識HP6029)と共に室温で1時間インキュベートした。その後、結合したビオチン-HP6029を、ストレプトアビジンポリ-HRP(1:10,000希釈、Thermo Pierce)を使用して1時間検出した(100μL/ウェル)。全てのウェルを吸引し、200μL/ウェルの洗浄用緩衝液で6回洗浄した。最後に、ウェルを100μL/ウェルのNeA-Blue TMB基質(Clinical Science Products)で発色させ、100μL/ウェルの1M HSOの添加によって反応を停止させた。SoftMax Proソフトウェア(Molecular Devices)を使用して、4パラメータロジスティック曲線近似を生成することにより標準曲線を作成し、試験した全試料のパパイン特異的IgE濃度を算出するために使用した。Prismソフトウェアを使用したデータ比較にはスチューデントのt検定を使用した。
【0178】
g.マカク血清中のIgEレベルを評価するためのイムノアッセイ
捕捉抗体である抗ヒトIgE、MB10-5C4(Miltenyi Biotec)と検出抗体であるビオチン標識ポリクローナル抗マカクIgE(Alpha Diagnostic International Inc.)を使用したサンドイッチELISAでカニクイザルのマカクIgEレベルを測定した。簡潔には、MB10-5C4を被覆用緩衝液(15mM NaCO、35mM NaHCO、pH9.6)中100ng/ウェルで96ウェルプレートに固定し、4℃で一晩インキュベートした。被覆したウェルを200μL/ウェルのアッセイ用希釈液(PBS中0.5%のBSA、0.05%のTween-20、0.02%のProClin 300)で室温にて1時間ブロッキングした。プレートを200μL/ウェルの洗浄用緩衝液(0.05%のTween-20を含むPBS)で3回洗浄した。精製したマカクIgEを使用して、10%マカク血清を含むアッセイ用希釈液における標準曲線(2倍段階希釈で0~10,000ng/mLの範囲)を作成した。100μLの希釈血清(1:10)と標準物質を被覆したウェルに加えた。室温で1時間インキュベートを実施した。全てのウェルを吸引し、200μL/ウェルの洗浄用緩衝液で6回洗浄した。捕捉されたヒトIgEを100μLの検出抗体溶液(アッセイ用希釈液中50ng/mlのビオチン標識HP6029)と共に室温で1時間インキュベートした。その後、結合したビオチン-HP6029を、ストレプトアビジンポリ-HRP(1:10,000希釈、Thermo Pierce)を使用して1時間検出した(100μL/ウェル)。全てのウェルを吸引し、200μL/ウェルの洗浄用緩衝液で6回洗浄した。最後に、ウェルを100μL/ウェルのNeA-Blue TMB基質(Clinical Science Products)で発色させ、100μL/ウェルの1M HSOの添加によって反応を停止させた。SoftMax Proソフトウェア(Molecular Devices)を使用して、4パラメータロジスティック曲線近似を生成することにより標準曲線を作成し、試験した全試料のIgE濃度を算出するために使用した。Prismソフトウェアを使用したデータ比較にはスチューデントのt検定を使用した。
【0179】
実施例3
動物におけるIgE EMPDペプチド免疫原構築物及びその製剤によって誘発される抗体の機能的特性の評価
免疫された宿主からの免疫血清または精製抗IgE EMPD抗体を、組換え可溶性IgE EMPDタンパク質への結合能、及びmIgE.Fc(CH2からCMまで、EMPDを含む)またはmIgE.Fc(CH2からCMまで、EMPDなし)のいずれかをコードする組換えDNAをトランスフェクトしたRamos細胞株への結合能について試験した。
【0180】
a.細胞
Ramos細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC、Manassas,VA)から購入し、10%の加熱不活化FBS(Invitrogen)、4mMのL-グルタミン、25mMのHEPES、及び1mMのピルビン酸ナトリウム(Invitrogen;完全RPMI培地)を補充したRPMI1640培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)中で増殖させた。Ramos細胞に、mIgE.FcまたはmIgE.Fcをコードする組換えDNAをトランスフェクトした。mIgE.Fcを発現するRamos細胞に、EMPDを含めた、CH2から細胞質ペプチドに及ぶmIgEε鎖である長鎖アイソフォームのセグメントをコードするDNAセグメントをトランスフェクトした。mIgE.Fcを発現するRamos細胞に、EMPDを除いた、CH2から細胞質ペプチドに及ぶmIgEε鎖である短鎖すなわち通常アイソフォームのセグメントをコードするDNAセグメントをトランスフェクトした。mIgE.FcまたはmIgE.Fcを発現するRamos細胞の安定なトランスフェクタントを、400mg/mlのZeocin(Invitrogen)を補充した完全なRMPI1640培地中に維持した。
【0181】
b.ELISA試験のための組換え可溶性IgE EMPDタンパク質の調製
組換え可溶性IgE EMPDタンパク質を発現するFlp-In CHO細胞に、ヒトIgG1のFc部分及びヒト膜結合型IgEのIgE EMPD、γ1-em67をコードするDNAセグメントをトランスフェクトした。安定なFlp-In CHOトランスフェクタントを、10%の加熱不活化FBS(Invitrogen)、4mMのL-グルタミン、25mMのHEPES、及び1mMのピルビン酸ナトリウム(Invitrogen;完全IMDM培地)を補充したIMDM培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)中に維持した。γ1-em67タンパク質を、製造業者の指示に従い、プロテインAセファロース(GE Healthcare)を使用して培養培地から精製した。
【0182】
c.免疫血清からのポリクローナル抗体の精製
種々の免疫血清からのポリクローナルIgGを、製造業者の指示に従い、プロテインAセファロース(GE Healthcare)を使用して精製した。
【0183】
d.B細胞上での可溶性IgE EMPDタンパク質またはmIgE.Fc へのポリクローナル抗体による結合
免疫された各動物からの精製ポリクローナル抗体が(a)組換えγ1-em67タンパク質(上記)に結合する相対活性をELISAによって、または(b)mIgE.Fcを発現するRamos細胞に結合する相対活性を蛍光フローサイトメトリー分析によって調べた。96ウェルマイクロプレートはNalge NUNC International製であり、光学測定用は平底(Cat.442404)、細胞インキュベート用はV底(Cat.249570)を使用した。光学密度をVersaMaxマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)で読み取った。蛍光染色剤をBD FACSCanto IIサイトメーター(DB Biosciences)で検出し、結果データを付属のFACSDivaソフトウェアで取得した。ELISAとFACSからの結合データをPrism 6ソフトウェアにインポートして定量分析を行った。より具体的には、ウェルあたり0.1mL中2×10細胞のアリコートをV底マイクロプレートに加え、遠心分離し、液体を廃棄した。種々の濃度の抗体試料100μLアリコートと共に細胞を氷上で1時間インキュベートした。細胞を1回洗浄し、300gで5分間遠心分離し、100μLのヤギF(ab)抗種特異的IgG Fc-FITC(250ng/mL)と共に氷上で30分間染色した。細胞を1回洗浄し、遠心分離後に液体を廃棄した。各ウェルに200μLアリコートの結合用緩衝液を加え、微量希釈チューブに移し、フローサイトメトリー分析を行った。試料あたり10,000細胞の注入量を基準として、結合強度(蛍光強度の幾何平均、GeoMFI)をFACSで読み取った。
【0184】
e.アポトーシスアッセイ
mIgE.Fc(5×10細胞/mL)を安定的に発現するRamos細胞を、完全RPMI1640培地中の精製免疫抗体または対照抗体と共に37℃で1時間インキュベートした。次に、最終濃度10μg/mLの二次抗体、モルモットIgGのFcに特異的なヤギF(ab´)(Jackson ImmunoResearch Laboratories,West Grove,PA)で細胞を処理し、37℃でさらに24時間インキュベートした。細胞のアポトーシスの程度を以下の方法で分析した。アネキシンVを用いたアッセイでは、細胞を染色溶液に15分間、暗所、室温で再懸濁することでホスファチジルセリン(PS)の曝露を測定した。染色液には、1/200に希釈したFITC標識アネキシンV(Biovision,Mountain View,CA)、ならびに10mMのHEPES/NaOH(pH7.4)、140mMのNaCl、及び5mMのCaClを含む緩衝液中2.5μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI)が含有されてた。染色細胞をFACSCanto IIフローサイトメーター(BD Biosciences,San Jose,CA)で分析した。アネキシンV陽性及びPI陰性と定義されるアポトーシス細胞の比率をドットプロット分析で取得した。
【0185】
f.抗体依存性細胞傷害アッセイ(ADCC)
RBC溶解用緩衝液(Thermo Fisher Scientific Inc.)を使用して、赤血球の低浸透圧ショックを繰り返すことにより、Balb/cマウス(雌、6~8週齢)の脾臓から脾臓リンパ球を単離した。赤血球を除去した後、脾臓リンパ球を3×10細胞/mLで、50μMの2-ME及び100U/mLの組換えヒトIL-2(PeproTech,Inc)を補充した完全RPMI培地中にて3日間培養した。mIgE.Fcを発現するRamos細胞(標的細胞)をPBS/0.1%BSA中のCFSE(Invitrogen)により37℃で10分間標識した。低温完全RPMI1640培地で3回洗浄した後、10細胞/mLに細胞を調整した。完全RPMI培地200μl中標識細胞20,000個のアリコートを、対応する免疫血清から精製したポリクローナルIgG抗体10μg/mLにより37℃で30分間被覆した後、IL-2活性化脾臓リンパ球(エフェクター細胞)とE/T比30で混合した。24時間のインキュベート後、全細胞を2.5μg/mLの7アミノアクチノマイシンD(7-AAD,Invitrogen)により氷上で15分間染色した後、Becton Dickinson FACS Canto IIフローサイトメーター(BD Biosciences)で分析した。生存標的細胞は、ドットプロット分析でCFSE陽性及び7-AAD陰性と定義された。所定のE/T比での溶解標的細胞の比率は、100×[(抗体非依存性対照中の生存標的細胞の比率-試料中の生存標的細胞の比率)/抗体非依存性対照中の生存標的細胞の比率]であった。
【0186】
実施例4
安全性試験、免疫原性試験、毒性試験、及び有効性試験に使用する動物
a.モルモット:
雌雄の成熟ナイーブ成体Duncan-Hartleyモルモット(300~350g/BW)で免疫原性試験を実施した。実験には群あたり少なくとも3匹のモルモットを使用した。Duncan-Hartleyモルモット(8~12週齢;Covance Research Laboratories,Denver,PA,USA)に関わるプロトコールを、IACUC申請の承認下で、委託動物施設及び責任者であるUnited Biomedical,Inc.(UBI)で実施した。
【0187】
b.カニクイザル:
雌雄の成体サル(Macaca fascicularis、約4齢;Joinn Laboratories,Suzhou,China)における免疫原性試験及び反復投与毒性試験を、IACUC申請の承認下で、委託動物施設及び責任者であるUBIで実施した。
【0188】
c.hIGHEノックインマウス:
C57BL/B6遺伝的背景の相同遺伝子ターゲティングにより、IGHG1遺伝子をヒトIGHE遺伝子に置換したマウス系統は、ヒトの分泌型及び膜結合型のIgEを発現する(Lu,el al.,2015)。hIGHEマウスは、マウスIGHG1転写要素の調節制御下でヒトIgEを発現し、ヒト調節要素の選択的RNAスプライシングによってヒト膜結合型IgEを発現する。8~10週齢という早期に、血液中に血清IgEが検出された。一次/記憶免疫応答の予防モデル、及び感作/リコール免疫応答の治療モデルには、混合hIGHE×Balb/c背景の幼若仔(10~12週齢)を使用した。いずれの試験も、IACUC申請の承認下で、委託動物施設(National Health Research Institute,Taiwan)及び責任者であるUBIで実施した。
【0189】
血清ヒトIgEのELISAアッセイによる抗体反応、ならびに抗原攻撃接種時の血清総IgEレベル及び抗原特異的IgEの低下の証拠に関して、16週間にわたる筋肉内ワクチン接種の効果が観察された。
【0190】
免疫付与する前に、本実施例で上記した方法に従って、個々の動物からの血清試料を血清ヒトIgEの存在について試験した。種及びプロトコールに応じて、ワクチン製剤の用量あたりのIgE EMPDペプチド免疫原構築物で各動物を免疫した。
【0191】
実施例5
モルモット、トランスジェニックノックインマウス、及びカニクイザルにおける、IgE EMPDペプチド構築物の最終製品を選択する免疫原性評価のためのワクチン製剤
各実験に使用される医薬組成物及びワクチン製剤について以下でさらに詳細に説明する。簡潔には、各試験群に指定された製剤は一般に、種類の異なるスペーサー(例えば、ペプチド構築物の溶解度を増強するεKまたはKKK)によってIgE EMPDペプチドのセグメントが結合されたあらゆる種類のデザイナーIgE EMPDペプチド構築物と、デザイナーペプチド構築物のN末端側でIgE EMPDペプチドセグメント(複数可)と結合される麻疹ウイルス融合タンパク質及びB型肝炎表面抗原に由来する2組の人工Tヘルパーエピトープを含む無差別的ヘルパーT細胞エピトープの変形とを含んでいた。100超のデザイナーIgE EMPDペプチド構築物を最初にモルモットでIgE EMPD1-52との相対免疫原性について、さらにIgEを保持するB細胞(Ramos細胞株)上の膜IgEとの交差反応性について評価した。IgE EMPDペプチド構築物は、指定したような可変量のペプチド構築物で、ヒトワクチン用途の承認済み油であるSeppic Montanide(商標)ISA 51との油中水型エマルションに調製するか、または無機塩ADJUPHOSまたはALHYDROGEL(ミョウバン)と混合して調製した。ワクチンは通常、IgE EMPDペプチド構築物を約20~800μg/mLの水に溶解することにより調製し、Montanide(商標)ISA 51を用いて油中水型エマルション(1:1体積)に製剤化するか、または無機塩ADJUPHOSもしくはALHYDROGEL(ミョウバン)(1:1体積)と製剤化した。ワクチン製剤を室温で約30分間維持し、免疫前にボルテックスで約10~15秒間混合した。
【0192】
動物を2~3用量の特異的ワクチン製剤で免疫付与した。これは、0週目(初回免疫)及び初回免疫後週数(wpi)3(追加免疫)で投与し、任意選択的に5または6wpiに筋肉内経路で2回目の追加免疫を行った。次に、これらの免疫された動物を試験し、ワクチン製剤に存在する種々の合成IgE EMPDペプチド免疫原の免疫原性を評価し、加えてIgE EMPD1-52との交差反応性を評価した。次に、モルモットにおける初回スクリーニングで免疫原性が強力であったこれらのIgE EMPDペプチド免疫原を、油中水型エマルション、無機塩及びミョウバン系製剤の両方で、マカク属において免疫付与プロトコールに示す指定期間にわたる投薬計画を実施してさらに試験した。
【0193】
最も有望なIgE EMPDペプチド免疫原候補のみを、ADCCを媒介する免疫血清の能力、mIgEを保持するB細胞のアポトーシス、トランスジェニックノックインマウス及びマカクにおける、自己IgE EMPD抗原をもつ同じ種の寛容性を破壊する能力によってさらに広範に評価した後、最終ワクチン製剤に組み込んで、IgE媒介型アレルギー性疾患患者における治験薬の申請及び臨床試験に備え、GLP基準免疫原性試験、持続期間試験、毒性試験、及び概念関連有効性試験を行った。
【0194】
実施例6
IgE媒介型アレルギー性疾患の治療のためのIgE EMPD1-39ペプチド免疫原構築物を組み込んだ多成分ワクチン製剤の設計原理、スクリーニング、同定、機能的特性の評価、及び最適化
図2A及び図2Bは、IgE EMPDの標的化によりmIgE B細胞が減少する原理を示している。IgEは、分泌型IgEと膜結合型IgE(mIgE)という2つの形態で表される(図2A、それぞれ左と右)。分泌型IgEは、FcRIによって好塩基球及びマスト細胞の細胞表面に捕捉されるが、mIgEはB細胞受容体(BCR)の一部としてIgE関与型B細胞にのみ存在する。mIgEの細胞外膜近位ドメイン(EMPD)は、mIgE B細胞にのみ存在する、CH4ドメインと膜貫通領域との間の67アミノ酸のペプチドセグメント(配列番号1)である。IgE EMPDの独自性により、mIgEを保持するB細胞を標的とする誘引部位が与えられた。IgE EMPDの標的化によるmIgE B細胞の減少により、新しいIgE分泌型形質細胞へと分化する前に、アレルゲン特異的IgE生成の抑制が可能になる(図2B)。生存期間が限定される既存のIgE分泌型形質細胞は徐々に消滅し、その結果、総IgE及びアレルゲン特異的IgEは徐々に低下する。
【0195】
図3は、本明細書に開示される特定の実施形態に従うワクチン製剤の発見から商品化(工業化)までの開発過程を示すフローチャートである。本開示は、ここに要約するような、ペプチド免疫原設計、ペプチド組成物設計、ワクチン製剤設計、in vitro機能的抗原性設計、in vivo免疫原性及び有効性試験設計、ならびに臨床プロトコール設計を含む。驚くべきことに、各工程の詳細な評価から一連の実験を進めることで、安全かつ有効なワクチン製剤の最終的な商品化に到達する。
【0196】
工程の全体概要を以下に記載する。
【0197】
a.設計履歴
各ペプチド免疫原構築物または免疫療法生成物には、その特異的疾患メカニズム及び治療介入に必要となる標的タンパク質(複数可)に基づいた固有の設計重点と手法が必要とされる。設計の判断材料とする標的には、疾患経路に関与する細胞タンパク質、または病原体に由来するいくつかのタンパク質が関与し得る感染作用物質を含み得る。研究から商品化までの過程は非常に長期にわたり、通常は完了までに10年以上を要する。
【0198】
標的分子を選択した後は、広範な血清学的検証過程が必要である。治療介入の対象となる標的分子内のB細胞及びT細胞のエピトープならびに機能的部位(複数可)の同定は、免疫原構築物の設計にとって重要である。標的B細胞エピトープを認識した後、種々のTヘルパー支持体(担体タンパク質または好適なTヘルパーペプチド)を導入した小動物における連続したパイロット免疫原性試験を実施し、デザイナーペプチドの医薬組成物によって誘発される抗体の機能的特性を評価する。次に、標的種の動物においてそのような血清学的応用を実施し、誘発される抗体の免疫原性及び機能的特性をさらに検証する。すべての試験は、免疫された宿主から採取した血清を用いて複数の並行群で実施し、評価する。免疫原性及び設計方針をさらに検証するため、標的種、またはヒト医薬組成物の場合には非ヒト霊長類における初期免疫原性試験もさらに実施する。次に、ペプチド構築物を組合せて使用し、それぞれの製剤設計に合わせて調製する場合、標的ペプチドを種々の混合物に調製し、ペプチド構築物間のそれぞれの相互作用に関連する機能的特性の微妙な相違を評価する。追加評価の後、最終的なペプチド構築物、ペプチド組成物、及びそれらの製剤を、各製剤それぞれの物理的パラメータと併せて確定してから最終的な製品開発過程に進む。
【0199】
b.IgE媒介型アレルギー性疾患患者を治療する可能性のある医薬組成物のためのIgE EMPD由来ペプチド免疫原構築物の設計及び検証
医薬組成物に組み込むための最も強力なペプチド構築物を生成するには、IgE EMPD B細胞エピトープペプチド(配列番号5~8)(表1)、及び種々の病原体に由来する無差別Tヘルパーエピトープまたはさらに設計された人工Tヘルパーエピトープ(配列番号59~87)(表2)の広いレパートリーから、モルモットにおける免疫原性試験のためのIgE EMPDペプチド免疫原構築物を作製した。
【0200】
i)免疫原設計の標的領域としてのIgE EMPD G1-H40の選択。
IgEは、分泌型IgEと膜結合型IgE(mIgE)という2つの形態で表される。分泌型IgEは、FcRIによって好塩基球及びマスト細胞の細胞表面に捕捉されるが、mIgEはB細胞受容体(BCR)の一部としてIgE関与型B細胞にのみ存在する。mIgEの完全長細胞外膜近位ドメイン(EMPD)は、mIgE B細胞にのみ存在する、CH4ドメインと膜貫通領域との間の67アミノ酸のペプチドセグメント(配列番号1)である。生存期間が限定される既存のIgE分泌型形質細胞は徐々に消滅し、その結果、総IgE及びアレルゲン特異的IgEは徐々に低下する。モルモットの免疫原性について試験した多数のペプチド免疫原構築物のうち、一連のIgE EMPD由来ペプチド免疫原構築物(配列番号88~93)を作製して、IgE EMPD1-52(配列番号2)に由来する代表的なIgE EMPD B細胞エピトープペプチドと、代表的なThエピトープペプチドUBITh(登録商標)1(配列番号72)とを組み込み、表4に示す、プレート被覆したIgE EMPD1-39(配列番号5)ペプチドを使用してモルモットにおける免疫原性試験を行った。3方向の6種のIgE EMPDペプチド免疫原構築物で高免疫原性が認められた。そのうち、UBITh(登録商標)1 Thエピトープペプチドは、C末端側(配列番号88及び91)もしくはN末端側(配列番号89、90、及び92)のいずれかで、またはスペーサーリンカーのεKをもつIgE EMPD B細胞エピトープペプチドのC末端側とN末端側の両方で(配列番号93)IgE EMPD B細胞エピトープペプチドに結合されている。構築物設計において高免疫原性を可能にするために、より長鎖のリンカーεK-KKK(配列番号129)を含むIgE EMPDペプチド免疫原構築物も採用した(例えば配列番号94~97)。
【0201】
IgE EMPD B細胞エピトープペプチドの短い方の断片(配列番号7及び8)はさらに、免疫原性のためにUBITh(登録商標)1(それぞれ配列番号96及び97)などのTヘルパーエピトープペプチドによって増強した。しかしながら、これらの構築物が誘発する抗体は、表5に示すように、IgE EMPDへの結合能が弱かった(例えば、配列番号5、6、7、及び8をもつ長い断片に対して)。配列番号96及び97の構築物はさらに、線形エピトープマッピング試験で示されるように、非常に制限された結合プロファイルをもつ抗体を誘発した。これは、それぞれ配列番号25(アミノ酸8~17)及び配列番号39(アミノ酸22~31)の10merペプチドにのみ反応性が認められた。さらに、配列番号96及び97の構築物の誘発された抗体は、mIgE-B細胞アポトーシスの誘導に不可欠である、最小限のmIgE-B細胞結合効果(図6Cに示す)を有することが認められた。
【0202】
ii)病原体に由来する異種Tヘルパーエピトープのランク付け、及び選択されたIgE EMPD B細胞エピトープペプチドの免疫原性を増強するIgE EMPDペプチド免疫原構築物設計へのその包含
表2には、マウス、ラット、モルモット、ヒヒ、マカクなどからの多種において、B細胞エピトープの免疫原性を増強する相対力価について試験した合計29の異種Thエピトープ(配列番号59~87)が列挙されている。
【0203】
εKスペーサーによって個々の無差別Tヘルパーエピトープ(配列番号88、98~124、及び130)と結合されたIgE EMPD1-39 B細胞エピトープペプチド(配列番号5)を含むIgE EMPDペプチド免疫原構築物の代表的な試験を、モルモットにおける免疫原性試験について実施し、表6に示すように、それぞれの異種Tヘルパーエピトープの相対有効性をランク付けした。いくつかのThエピトープの高いBエピトープ増強能により、モルモットの単回免疫付与のみを行った後の初回免疫後3週(3wpi)で得られる結果を用いて、29の異なるIgE EMPDペプチド免疫原構築物をランク付けした。選択したThエピトープはすべてIgE EMPD B-エピトープペプチドの免疫原性を増強する能力を有していたが、最も強力な構築物は配列番号88の構築物であり、最小は配列番号101の構築物であることが認められた。
【0204】
霊長類を含む異なる種において、あらゆるIgE EMPDペプチド免疫原構築物の免疫原性を綿密に調整することで、Thペプチドの最終的な選択と最終ワクチン製剤開発の成功が確保される。
【0205】
iii)対応する完全長及びIgE EMPD G1-C39ペプチドとの抗体反応性に関するIgE EMPD G1-C39ペプチド免疫原構築物の免疫原性の評価。
【0206】
図4は、種々のIgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号88~94、96、及び97)で免疫したモルモットにおける8週間にわたる抗体反応の動態を示している。血清は10倍段階希釈により1:100~1:10,000,000に希釈した。ELISAプレートを、ウェルあたり0.5μgペプチドのIgE EMPD1-39ペプチド(配列番号5)で被覆した。Log10で表される試験血清の力価を、カットオフA450を0.5に設定したA450nmの線形回帰分析によって算出した。
【0207】
図5は、種々のIgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号88~94、96、及び97)で産生される種々の精製ポリクローナル抗IgE EMPD抗体の滴定曲線を示す。ELISAプレートを、配列番号1の配列を含む組換えIgE EMPDを含むタンパク質、γ1-em67で被覆した。プロテインAクロマトグラフィーによってモルモット血清から精製したポリクローナル抗IgE EMPD抗体を4倍段階希釈により100μg/mLから0.0238ng/mLまで希釈した。ポリクローナル抗IgE EMPD抗体の各調製物のEC50を、4パラメータロジスティック曲線近似による非線形回帰によって算出した。
【0208】
図4と5の両方に示されているように、他の多くの設計から選択された配列番号88~94のペプチド免疫原構築物は、大半が4より高いLog10力価という高免疫原性を示した。図5に示すように、各群からの精製抗体を使用したEC50の正確な測定値は、0.02111~0.08892μg/mLであり、IgE EMPD1-39及びIgE EMPD7-40の長鎖B細胞エピトープペプチドを含むIgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号88~94)は、IgE EMPD1-17またはIgE EMPD19-38などのIgE EMPDの短鎖B細胞エピトープペプチド(20残基長未満)を含むペプチド免疫原構築物(配列番号96及び97)と比較してかなり高い免疫原性を示す。
【0209】
B細胞とThエピトープの間に長鎖スペーサーを含むIgE EMPDペプチド免疫原構築物はさらに、IgE EMPD B細胞エピトープペプチド設計の場合と同様に免疫原性を著しく低下させた(配列番号94対89それぞれのEC50は0.08892対0.02368)。20残基長より長いB細胞エピトープペプチドのうち、IgE EMPD1-39が設計上、最適であることが判明したため、以下の実施例では、代表的なペプチド免疫原の設計にB細胞エピトープペプチドとしてこれを使用し、種々のin vitro機能アッセイ及びin vivo有効性評価によりさらなる評価を行った。
【0210】
iv)IgE分泌へのB細胞分化に関与する、IgEを保持するB細胞に抗体結合するためのIgE EMPDペプチド免疫原構築物の免疫原性の評価。
図6A~6Cは、IgE EMPD免疫原構築物(配列番号88~97)で免疫した動物群ごとにプールした、モルモット血清からの精製ポリクローナル抗体による、mIgE.FcまたはmIgE.Fcを発現するRamos細胞株に由来するB細胞への結合を示している(サイトフルログラフ染色の方法については、実施例2を参照)。プロテインAクロマトグラフィーによってモルモット血清から精製したポリクローナル抗IgE EMPD抗体を10μg/mLで使用した。
【0211】
標的配列のEMPD断片を欠失するmIgE.Fs Ramos細胞株由来の細胞とのバックグラウンド結合の低さが、全群からの精製抗体に認められ、これはこの細胞結合アッセイの高特異性を示す。図6A~6Cに示すように、配列番号88~94、96、及び97のIgE EMPDペプチド免疫原構築物で免疫された動物から生成される抗体は、mIgE.FCL Ramos細胞株の細胞に対して異なる結合親和性を有した。特に、長鎖B細胞エピトープペプチドIgE EMPD1-39(配列番号88~94)を含むIgE EMPDペプチド免疫原構築物から生成される抗体は、20残基未満のB細胞エピトープペプチドを含むIgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号96~97)から生成される抗体と比較して、mIgE.FCL Ramos細胞株細胞の高いmIgE結合を示した。加えて、短鎖スペーサー(εK)をもつIgE EMPDペプチド免疫原構築物から生成される抗体は、長鎖スペーサー(εK-KKK;配列番号129)をもつ構築物と比較して、mIgE.FCL Ramos細胞株細胞のmIgE結合性が高かった。これは図6Aの配列番号89の結果を図6Cの配列番号94の結果と比較することで認識することができる。
【0212】
ポリクローナル抗体群のEC50値とIgEを保持する細胞の陽性結合比率(%)との間に負の相関が認められた。IgEを保持するB細胞結合の比率は、IgE EMPDペプチド免疫原構築物の免疫原性の抗体交差反応性と機能的有効性の両方を評価するための重要な機能パラメータである。
【0213】
v)IgE分泌へのB細胞分化に関与するIgEを保持するB細胞のアポトーシスを誘導する高力価の抗体を生成する能力についてのIgE EMPDペプチド免疫原構築物の免疫原性の評価。
図7は、mIgE.Fcを発現するRamos細胞の細胞表面上で、用量依存的にIgE EMPD免疫原構築物(配列番号88~93)で産出されるポリクローナル抗IgE EMPD抗体の種々の調製物によりアポトーシスが誘導されることを示す。プロテインAクロマトグラフィーによってモルモット血清から精製したポリクローナル抗IgE EMPD抗体を2倍段階希釈により1000から62.5ng/mLまで希釈した。ヒト化抗IgEモノクローナル抗体であるXolair(登録商標)を陽性対照として使用した。ポリクローナル抗IgE EMPD抗体の各組のEC50を、4パラメータロジスティック曲線近似による非線形回帰によって算出した。
【0214】
図7に示すように、Xolair(登録商標)(IgE分子のFc受容体結合CH3ドメインを標的とする抗IgEモノクローナル抗体)は、有効性が最も高いことを示す最低EC50値(121.4ng/mL)を示す一方、血清中に存在すると、血清IgEによる中和により、このようなアポトーシスを誘導する力価がすべて中和される。選択された試験済みIgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号88~93)には、固有のEMPD標的領域配列への結合により、血清IgE干渉のない高アポトーシス誘導力価を示す277.5~536ng/mLのEC50値が観察された。このようなIgEを保持するB細胞は、IgE分泌へのB細胞分化に関与する細胞である。
【0215】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物(例えば、配列番号88~93)を用いた宿主の免疫付与によるこれらの細胞のアポトーシスの誘導は、アレルギー性疾患の主因であるIgEの血清減少をもたらすIgE合成の抑制を誘発する。
【0216】
vi)IgE分泌へのB細胞分化に関与するIgEを保持するB細胞の抗体依存性細胞媒介型細胞傷害(ADCC)を誘発する高力価の抗体を生成する能力についてのIgE EMPDペプチド免疫原構築物の免疫原性の評価。
図8は、IgE EMPDの異なる免疫原構築物(配列番号88~93)によって生成されるポリクローナル抗IgE EMPD抗体の種々の調製物が、エフェクター/標的比30で、mIgE.Fcを発現するRamos細胞に対してADCCを誘導できたことを示している。プロテインAクロマトグラフィーによってモルモット血清から精製したポリクローナル抗IgE EMPD抗体を10μg/mLで使用した。IL-2刺激マウス脾臓細胞をエフェクター細胞として使用した。マウス抗IgEモノクローナル抗体5D5分泌型を陽性対照として使用した。
【0217】
図8に示すように、20超のアミノ酸残基(配列番号88~93)を有する長鎖B細胞エピトープペプチドをもつペプチド免疫原構築物はすべて、IgE分泌へのB細胞分化に関与しているIgEを保持するB細胞のADCCを誘導した。これはそのようなペプチド免疫原構築物による宿主の免疫付与時にIgE血清レベルが減少及び抑制したことを示す。
【0218】
vii)種々の無差別TヘルパーエピトープをもつIgE EMPD由来ペプチド免疫原構築物を使用することによるMHC対象範囲の拡張。
多様な遺伝的背景の患者を治療するための医薬組成物を設計する場合、多様な遺伝的背景をもつ最大限の集団を対象範囲とする設計が可能であることが重要である。MVFまたはHBsAgに由来する無差別Tヘルパーエピトープは、このような免疫原性の増強を提供する最も強力なものの一つであるため、このような2つのヘルパーTエピトープを含むペプチド構築物の組合せを設計することで、相乗的な免疫原性効果が可能になる。同じB細胞エピトープをもつ2つのペプチド免疫原構築物の混合物は、それぞれの個々のペプチド構築物によって誘発される免疫応答と比較した場合、相当な免疫応答を誘発すると予測される。
【0219】
viii)種々のIgE EMPDペプチド免疫原構築物によって誘発される免疫血清(9wpi)による精密な特異性分析のためのエピトープマッピング
IgE EMPDペプチド免疫原構築物を含むIgE-EMPDワクチンの設計は、機能的及び構造的標的である、IgE-EMPDの中央領域にあるC18-C39の特別なループ構造を中心とした。この構造に基づく設計は、免疫原性標的として天然細胞外ループ構造を保持することを目的としている。
【0220】
1-17(配列番号7)、19-38(配列番号8)、1-39(配列番号5)、及び7-40(配列番号6)という4つの代表的なIgE-EMPDペプチド断片を使用して、B細胞エピトープペプチドのN末端側またはC末端側でUBITh(登録商標)1(配列番号72)またはUBITh(登録商標)2(配列番号73)と結合されたB細胞エピトープペプチドを設計し、プロトタイプのペプチド免疫原を形成した。εKリンカーまたはεK-KKK(配列番号129)スペーサーをB細胞とThエピトープの間に使用して、表3に示すペプチド免疫原構築物(配列番号88~97)を形成した。アミノ酸(aa)1-39及び7-40のペプチド断片はすべて、環化によるC18~C39拘束ループ構造で設計した。
【0221】
1-17(配列番号7)、19-38(配列番号8)、1-39(配列番号5)、及び7-40(配列番号6)の個々のIgE-EMPD B細胞エピトープペプチドをプレート被覆に使用したELISA試験で、対応するペプチド免疫原構築物(配列番号96、97、88、89、93)で免疫したモルモットから得た高免疫血清の抗体反応性を評価した。配列番号88、89、及び93の構築物が、4つすべてのIGE EMPD B細胞エピトープペプチドに対して高力価抗体を誘導したが、IgE-EMPD1-17(配列番号96)及びIgE-EMPD19-38(配列番号97)ペプチド免疫原構築物によって誘導されるモルモット抗血清は、対応するB細胞エピトープペプチド(例えば、配列番号7または8)との抗体反応性のみを有する一方、対応しない隣接エピトープからのIgE EMPD B細胞エピトープペプチド(配列番号8または7)に対する交差反応性がなかった。これは、免疫原性の高特異性、すなわち設計された免疫原構築物がIgE-EMPDの対応するB細胞エピトープドメインと反応する特異性抗体を誘導可能であることを示す(表5)。
【0222】
抗体結合部位(複数可)を標的領域内の特異的残基に配置する精密エピトープマッピング試験(表5)では、IgE CH4のC末端から最初の8アミノ酸及びIgE-EMPDの1~50アミノ酸配列領域を対象範囲とする、50種の重複する10merペプチド(配列番号10~58)を合成した。これらの10merペプチドを固相免疫吸着剤として96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに個別に被覆した。プールしたモルモット抗血清を検体希釈用緩衝液にて希釈率1:100にし、10merペプチドで被覆したプレートウェルに2.0μg/mL加えた後、37℃で1時間インキュベートした。洗浄用緩衝液でプレートウェルを洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ複合rProteinA/Gを加え、30分間インキュベートした。再度PBSで洗浄後、基質をウェルに追加して、ELISAプレートリーダーで吸光度450nmを測定し、試料を2連で分析した。IgE-EMPDペプチド免疫原が誘発した免疫血清と、対応するIgE EMPD B細胞エピトープペプチドで被覆したウェルとの結合が最大の抗体結合シグナルを表す。
【0223】
精密エピトープマッピングの結果は、IgE-EMPD19-38由来のペプチド免疫原構築物(配列番号97、非環化線状B細胞エピトープ、H19-R38を含む)からのプールされたモルモット血清が、IgE-EMPDの中央領域に位置するIgE EMPD22-31ペプチド(配列番号39)を認識することを示した。また、IgE EMPDペプチド19-38(配列番号8)、1-39(配列番号5)、及び7-40(配列番号6)とも反応したが、1-17(配列番号7)とは反応しなかった。
【0224】
IgE EMPD1-17(配列番号96、非環化線状B細胞エピトープ、G1-L17)によって誘導される抗血清は、IgEのN末端領域のIgE EMPD8-17(配列番号25)、ならびにIgE EMPD1-17(配列番号7)、1-39(配列番号5)、及び7-40(配列番号6)を認識したが、19-38(配列番号8)ペプチドは認識しなかった。IgE EMPD1-17(配列番号96)及びIgE EMPD19-38(配列番号97)免疫原構築物によって誘導される抗血清は交差反応性がなかった。
【0225】
興味深いことに、N末端側(配列番号89)またはC末端側(配列番号88)いずれかでIgE EMPD B細胞エピトープペプチドに結合されたUBITh(登録商標)1エピトープをもつ2つの対応するIgE-EMPD1-39免疫原構築物は、まったく異なるエピトープ結合パターンを認識する免疫血清を生成した。免疫原構築物(配列番号89、UBTh1がペプチドのN末端側に位置する)によって誘導される免疫血清は、IgE-EMPDのC末端領域近傍にあるaa30-39の1種の10merペプチド(配列番号47)とのみ強く反応した。また、N末端領域(配列番号27)のIgE EMPD9-18と弱く反応した。
【0226】
しかしながら、他のIgE-EMPD1-39免疫原構築物(配列番号88、UBTh1がC末端側に位置する)では、誘導される抗血清は、IgE EMPD9-19(配列番号27及び28);IgE EMPD19-31(配列番号37、38、39、及び40)及びIgE EMPD30-43(配列番号48、49、50、51、及び52)で表される3つの不連続な線状エピトープと強く反応した。ペプチド免疫原構築物(配列番号88)ははるかに強い免疫原性を示し、IgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号89)よりもはるかに広い表面と反応した。ペプチド免疫原構築物(配列番号88)がはるかに強い免疫原性を伴うという知見は、IgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号89)よりもIgEを発現するリンパ球に対してADCC及びアポトーシス活性がはるかに強いことも明らかにした。
【0227】
IgE-EMPD7-40免疫原構築物(配列番号93、2つのUBTh1がIgE EMPD B細胞エピトープペプチドのN末端側とC末端側の両方に位置する)に関しては、配列番号35~41のペプチドが対象範囲とするIgE EMPD18-33と、IgE EMPD29-43(配列番号45~51)の領域にあるペプチドと強く反応するという点でIgE-EMPD1-39によって認識されるものと類似する2つの主要な抗原領域を、誘導される抗血清が認識した。IgE-EMPD7-40免疫原構築物(配列番号93)は、IgE-EMPD1-39免疫原構築物(配列番号88、UBTh1がIgE EMPD B細胞エピトープペプチドのC末端側にある)と類似する抗原決定基領域を共有する。IgE- EMPD1-39(配列番号88)は、複数の機能アッセイによって示されるように、設計された全ペプチド免疫原構築物の中で最大の有効性を示した。このことは、IgE-EMPDの細胞外膜タンパク質上の3つ以上のB細胞エピトープペプチドが対象範囲である広い表面を認識する高結合ポリクローナル抗体をこの免疫原構築物が誘発するという点で、精密エピトープマッピングで示された結果と相関する。IgE EMPD30-43(配列番号47~51)エピトープ領域は、非常に重要なB細胞エピトープ領域を表し、抗体媒介型アポトーシス及びADCCに感受性である、IgEを保持するB細胞基底膜に近接するループ構造のC末端領域に位置する。加えて、環状ループ構造は、その非環状対応物よりも高品質の免疫原構築物を提示する(表5、配列番号88対配列番号88非環状)。
【0228】
要約すると、設計された合成IgE-EMPDペプチド免疫原構築物(IgE EMPD1-39、配列番号88)と(IgE EMPD7-40、配列番号93)のいずれも、IgE EMPD内のループ構造で表されるB細胞エピトープペプチドをもち、これには、頑強な免疫応答を誘導するUBITh(登録商標)1エピトープペプチドが結合され、中央ループ構造のC末端領域に位置することから細胞膜に近接する、IgE EMPDタンパク質の新たなエピトープ領域(aa29-43)を標的とするポリクローナル抗体を生成し、可能な限り多くの膜IgEの架橋により、IgEを発現するBリンパ球を減少させるADCC及びアポトーシスの誘導が可能である(表5)。
【0229】
実施例7
IgE EMPDペプチド免疫原構築物のB細胞エピトープを限定的に指向することが認められた集中型抗体反応
標的B細胞エピトープペプチドのそれぞれの担体タンパク質への化学的結合によって、そのようなB細胞エピトープペプチドを指向する免疫応答を増強するために使用される担体タンパク質(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)またはジフテリアトキソイド(DT)及び破傷風トキソイド(TT)タンパク質などの他の担体タンパク質)はすべて、免疫される宿主において、増強する担体タンパク質を指向する抗体の90%超を誘発し、標的B細胞エピトープを指向する抗体の10%未満を誘発することはよく知られている。
【0230】
したがって、本発明のIgE EMPDペプチド免疫原構築物によって誘発される抗体の特異性を評価することは関心の対象である。B細胞エピトープ(配列番号5)がスペーサー配列εK-KKK(配列番号129)によって異種T細胞エピトープUBITh(登録商標)1(配列番号72)に結合された代表的なIgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号94)を調製し、免疫原性評価を行った。UBITh(登録商標)1(Bエピトープ免疫増強に使用されるTヘルパーペプチド)をプレートに被覆し、免疫されたモルモットの血清を用いて、免疫増強に使用されるUBITh(登録商標)1ペプチドとの交差反応性を試験した。表7は、IgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号94)から生成される抗体が、IgE EMPD(配列番号5)の対応する標的Bエピトープに対して高免疫原性を有し、すべてではないものの大半の免疫血清がUBITh(登録商標)1ペプチド(配列番号72)に対して非反応性であることが認められたことを示す。
【0231】
要約すると、注意深く選択されたTヘルパーエピトープと結合された標的B細胞エピトープを組み込んだ免疫原の設計により、IgE EMPD B細胞エピトープのみを標的とし、免疫応答の増強にThエピトープを使用しない抗体を誘発する集中的かつ無害な免疫応答が生成される。医薬組成物の設計では、免疫原が生成する免疫応答がより特異的であるほど、それが組成物に与える安全性プロファイルは高くなる。したがって、本発明のIgE EMPDペプチド免疫原構築物は、その標的に対する特異性は高いが極めて強力である。
【0232】
実施例8
予防的モデルと治療的モデル両方の免疫療法アレルギーワクチンが遺伝子改変ノックインマウスの血清IgEレベルに与える効果
HuIGHE×Balb/cノックインマウスのF1子孫である、ヒトIgEを発現する遺伝子操作マウスを使用した概念実証試験において、配列番号88及び配列番号93のIgE EMPDペプチド免疫原構築物を選択し、一次及び二次/記憶応答でのIgE生成を評価した。
【0233】
最初にIgE EMPDペプチド免疫原の初回-追加免疫を実施した後、アレルゲン(例えば、パパイン)攻撃接種による感作を行った。8匹の動物(n=8)をそれぞれ6つの治療群と1つのプラセボ群、合計7群に割り付けた。2つのペプチド免疫原のそれぞれについて、0週目、3週目、及び5週目にi.m.経路により、9(低)、18(中)、及び40(高)μg/用量という用量の異なる3つの下位群を設計した。ペプチド免疫原をISA 51VG及びCpGのアジュバントと製剤化し、免疫応答を増強する。プラセボ群のマウスには、0週目、3週目、及び5週目に製剤溶液のビヒクルのみを筋肉内に注射した。10週目と16週目に、プラセボ群を含む全動物群を皮下経路により50μgのパパインとTiterMax Goldアジュバントで感作させた(図10)。
【0234】
2つのペプチド免疫原による抗体反応(γ1-εm67融合タンパク質に対するIgG力価)を、実施例2に記載するようなELISAアッセイにより決定した。0週目、3週目、5週目に種々の用量で免疫した6つの治療群において、全マウスが頑強な抗体反応を示した。ELISAデータは、抗体価が高い全治療群からの血清試料が3週目から組換えγ1-εm67融合タンパク質に特異的に結合し、20週目まで高力価を維持したことを示している(図11)。対照的に、プラセボ群のマウスは、組換えγ1-εm67融合タンパク質に対する特異性抗体を生成しなかった。これらの結果は、全治療群が、IgEを発現するBリンパ球を標的とする潜在的な能力をもつ抗IgE-EMPD抗体を生成し、IgE生成の阻害をもたらすことを示している。図11は、20週間の全試験期間を通じて高抗体価が維持されたことを示している。これらの結果はさらに、ペプチド免疫原(配列番号88及び配列番号93)が特異的免疫応答を誘導する点で非常に免疫原性が高く、低用量群(9μg/用量)でも2つのワクチン免疫原のそれぞれから高力価の抗IgE EMPD抗体を生成することも示している。
【0235】
実施例2に記載のアッセイ手順を用いて、血清基礎IgEレベル及びアレルゲン特異的IgEレベルを測定することにより、免疫マウスからの一次応答及び記憶応答でのIgE生成に与える免疫付与効果を調べた。ワクチン接種前及び接種後の血清基礎IgEレベルを図12に示す。これは、全治療群のマウス血清基礎IgEレベルが、プラセボ群の対応する時点のものと比較して徐々に低下することを実証した。感作前の10週目に、6つの治療群すべてで基礎IgEレベルが最低レベルまで低下したが、プラセボ群の基礎血清IgEレベルは顕著には変化しなかった。この結果は、10週目に、IgE EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号88または93のいずれか)を含有するワクチン製剤を投与された動物において、全治療群における基礎IgE生成が、プラセボ群と比較した場合に著しく抑制されたことを示す。図12はさらに、10週目と16週目に2回のアレルゲン感作を行った後も、20週の試験期間にわたって全治療群の基礎血清IgEレベルが抑制されたことも示している。
【0236】
12週目の初回免疫と18週目の2回目の感作でパパインにより誘導されたアレルゲン特異的IgE生成をそれぞれ図13及び図14に示す。これらの結果は、両方のペプチド免疫原構築物(配列番号88及び93)が、プラセボ群と比較した場合、初回免疫後及び二次アレルゲン感作後の両方で、パパイン特異的IgEレベルを著しく抑制できたことを示している。2つのペプチド免疫原のいずれにおいても、3つの用量レベル間に実質的な差異は観察されなかった。図13に示すように、本試験において、12週目の一次応答でのアレルゲン特異的IgEの生成時、ペプチド免疫原(配列番号88)は(配列番号93)よりもわずかに優る機能を示した。両方のIgE EMPDペプチド免疫原構築物は、一次応答と記憶応答の両方でプラセボ群と比較した場合、アレルゲン特異的IgE生成の著しい抑制を示した(図13及び14)。
【0237】
IgEを発現するB細胞を標的としてIgE生成を抑制し、IgE媒介型アレルギー性疾患を治療するIgE-EMPDペプチド免疫原構築物(配列番号88及び配列番号93)の潜在的な治療効果をさらに調べるために、これら2つのペプチド免疫原構築物がHuIGHEノックインマウスの感作/リコール応答に与える効果を評価する追加のプロトコールを設計した。6匹の動物を2つの治療群(N=6)それぞれに、4匹の動物をプラセボ群(N=4)に割り付け、合計3群にした。ペプチドワクチン接種前と接種後の2回、それぞれ50μgパパイン/TiterMax Goldアジュバントを0週目に皮下経路で12週目に足蹠経路で全群のマウスに与え感作させた。3週目、6週目、及び8週目に、2つのペプチド免疫原構築物のうち1つを含有する製剤40μg/0.1mLによる初回-追加免疫付与計画を両方の治療群で評価し、プラセボ群にはアジュバントビヒクルのみを投与した(図15を参照)。
【0238】
結果は、パパインに感作させたプラセボを含む全群が、2週間後に全3群で高力価のパパイン特異的IgGを誘発し、6週目(観察期間の最後)まで高力価を維持することを示した。総血清IgEとパパイン特異的IgEのレベルはいずれも2週目で最大レベルに達し、その後3週目まで徐々に減少し、6週目でベースラインに戻った(図16)。
【0239】
IgE EMPDペプチド免疫原構築物によるワクチン接種は、γ1-εm67融合タンパク質を特異的に認識する高力価抗体を誘発した。3週目、6週目、及び8週目にペプチド免疫原を3回注射した後、誘発される抗体IgG力価(抗γ1-εm67または抗IgE-EMPDに対するもの)は着実に上昇し、10週目で最大レベルに達した(データは示さず)。12週目の2回目のパパイン感作時には、2つの治療群はいずれもパパイン特異的IgEレベルの上昇を示さなかったが、プラセボ群ではパパイン特異的IgEレベルが12週目及び13週目に著しく増加した後、14週目に低下した(データは示さず)。
【0240】
試験結果は、配列番号88及び93のIgE EMPDペプチド免疫原が、in vivoでの記憶B細胞のリコール増殖応答を防止する特異的体液性免疫応答を誘導でき、それにより、プラセボ群と比較した場合に12週目のパパインのリコールによって引き起こされるパパイン特異的IgE生成が完全に遮断されたことを示している(図17)。全体的に本試験は、本開示のIgE EMPDペプチド免疫原構築物が抗体反応を誘導して、一次感作からのアレルゲン特異的血清IgEの生成を阻害するだけでなく、二次アレルゲン攻撃接種によりリコールされるアレルゲン特異的血清IgEを着実に抑制することを示している。本試験結果は、本開示の発明が、喘息などのIgE媒介型アレルギー性疾患の治療に対して有効な可能性のある治療ワクチンを提供することを実証している。アレルゲン特異的IgEを減衰させる治療効果を綿密に検討したところ、両方のペプチド免疫原(配列番号88及び配列番号93)は、アレルゲン特異的IgE生成の阻害において類似する有効性を示した。
【0241】
実施例9
カニクイザルにおけるプロトタイプの免疫療法アレルギーワクチン製剤の免疫原性評価による用量及び製剤試験
a.全体目標:
本試験の目的は、選択したIgE EMPDペプチド免疫原構築物、配列番号88による筋肉内免疫付与が、20週間にわたり免疫原性に与える効果を評価することであった。ヒト試験の実施前に、プロトタイプのIgE-EMPDペプチドワクチン製剤及び投薬計画の免疫原性を評価するため、動物モデルとしてカニクイザルを選択した。代表的なペプチド免疫原構築物(配列番号88)を、2つの一般的に使用される製剤に製剤化した。第1の製剤では、配列番号88のIgE EMPDペプチド免疫原構築物をCpGで安定化免疫刺激性複合体にした後、Montanide(商標)ISA51と混合して油中水型エマルションを形成した(試験パートA)。第2の製剤では、配列番号88のIgE EMPDペプチド免疫原構築物をCpGで安定化免疫刺激性複合体にした後、ADJUPHOSで懸濁製剤を形成した(試験パートB)。この包括的な免疫原性試験では、各製剤で、30μg、100μg、300μg、1000μg/用量からなる4通りの投薬を評価した。
【0242】
b.プロトコールの概要
2.5~4.0kgの成体カニクイザルを選択し、IgE EMPDペプチド免疫原が免疫原性及びマカク血清IgEレベルに与える効果を評価した。合計20匹のマカクを10群に分け、プラセボ対照動物(n=2)にはアジュバントのみ(Montanide(商標)ISA 51とCpGオリゴデオキシヌクレオチド)または(ADJUPHOSとCpGオリゴデオキシヌクレオチド)を注射した。実験動物に、IgE EMPDペプチド免疫原(配列番号88)を群あたり30、100、300、及び1,000μgの用量で注射した(動物あたりワクチン体積合計500μL;n=群あたり2匹、雄1及び雌1)。0週目、3週目、及び6週目に合計3回の筋肉内免疫付与を施した。0週目、3週目、6週目、8週目、10週目、12週目、14週目、16週目、20週目、及び24週目の免疫原性及び血清IgEレベルについて全マカクを監視した。
【0243】
c.抗IgE EMPD抗体価の決定
0週目、3週目、6週目、8週目、10週目、12週目、14週目、16週目、20週目、及び24週目に全動物から採血した。採血ごとに血清を分離し、γ1-cyno em67 ELISAを使用して抗IgE EMPD抗体価を決定した。プラセボ治療した動物は、検出可能な抗IgE EMPD抗体価がほとんどないか、皆無であった(図18A及び18B)。しかし、3回の免疫付与を受けた動物はすべて、IgE EMPD Bエピトープに対して検出可能なIgG抗体価を示し、8~12週目にピーク力価が得られた。このような特異的反応性は、24週間の試験全体を通じて用量依存的に維持された(図18A及び18B)。1000μg用量の製剤は、それぞれの製剤でペプチド免疫原がISA51VまたはADJUPHOSアジュバントよりも過剰になるため、いずれの製剤でもγ1-cyno εm67組換えタンパク質に対する抗血清力価が高い、用量あたり0.5mL中300μgが最も至適であることが全動物で認められた。この結果は、ISA51/CpG ODNを含有する製剤が、ADJUPHOS/CpG ODNを含有する製剤と比較して、免疫原性の結果が高いことを示している。IgE EMPD B細胞エピトープに対する抗体反応は、各ペプチド免疫原の追加免疫に伴って増強され、その後、抗IgE EMPD力価は経時的に徐々に低下した。著しく高い抗血清力価が、24週間の試験全体を通じて維持された(図18A及び18B)。
【0244】
実施例10
カニクイザルにおける代用免疫療法アレルギーワクチンの有効性実証
a.全体目標:
本試験の目的は、ヒトIgE生成を綿密に模倣した動物モデルであるカニクイザルにおいて、自己mIgEに由来する配列であるIgE EMPDペプチド免疫原による筋肉内免疫付与が、20週間にわたり免疫原性及び血清IgEレベルに与える効果を評価することであった。非ヒト霊長類(例えば、新世界及び旧世界ザル、ならびに類人猿)のmIgEのIgE EMPDは進化的に保存されており、他の種(例えば、齧歯類、ウサギ、及びイヌ)において当該IgE EMPD対応配列は認められなかった。カニクイザルのIgE EMPDのアミノ酸配列(配列番号127)は、ヒトIgE EMPDのアミノ酸配列(配列番号2)と高い配列同一性(90%)を有している。
【0245】
b.プロトコールの概要
2.5~4.0kgの成体カニクイザルを選択し、IgE EMPDペプチド免疫原が免疫原性及びマカク血清IgEレベルに与える効果を評価した。合計12匹のマカクを3群に分け、プラセボ対照動物(n=4、雄2及び雌2)にはアジュバントのみ(Montanide(商標)ISA 51とCpGオリゴデオキシヌクレオチド)を注射した。実験動物に、IgE EMPDペプチド免疫原(配列番号125または126)を動物あたり300μgの用量で注射した(動物あたりワクチン体積合計500μL;n=群あたり4匹、雄2及び雌2)。0週目、3週目、及び6週目に合計3回の筋肉内免疫付与を施した。0週目、3週目、6週目、8週目、10週目、12週目、14週目、16週目、18週目、及び20週目の免疫原性及び血清IgEレベルについて全マカクを監視した。
【0246】
c.抗IgE EMPD抗体価の決定
0週目、3週目、6週目、8週目、10週目、12週目、14週目、16週目、18週目、及び20週目に全動物から採血した。採血ごとに血清を分離し、γ1-cyno em67 ELISAを使用して抗IgE EMPD抗体価の決定を行った。プラセボ治療した動物は、検出可能な抗IgE EMPD抗体価が皆無であった(図19)。しかし、配列番号125または配列番号126のいずれかによる3回の免疫付与を受けた動物はすべて、IgE EMPD Bエピトープに対して検出可能なIgG抗体価を示し、8~12週目にピーク力価が得られた(図19)。このような特異的反応性は、20週間の試験全体を通じて維持された。加えて、免疫された動物はすべて、20週間にわたって特異的IgM及びIgA抗体価を示した(図20)。
【0247】
d.血清IgEレベルの測定
0週目、3週目、6週目、8週目、10週目、12週目、14週目、16週目、18週目、及び20週目に全動物から採血した。採血ごとに血清を分離し、定量的マカクIgE ELISAを使用して血清IgEの測定を行った。プラセボ群での基礎IgEレベルは、生存局面の期間中に変化した。配列番号125を投与した群で観察されたIgEの減少は統計的に有意であったが、配列番号126を投与した群でも監視期間中にIgE減少の傾向を示した(図19)。
【0248】
e.結果
代用モデルにおいて、IgE EMPDペプチド免疫原が、成体カニクイザルの血清試料の自己mIgEに対する免疫原性及び血清IgE濃度に与える効果を評価した。本概念実証試験では、各群4匹の動物にCpG ODNとMontanide(商標)ISA 51との混合物をプラセボ対照として投与し、8匹の成体カニクイザル(n=群あたり4匹)には、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)で独自の免疫刺激性複合体(ISC)に複合化し、Montanide(商標)ISA 51アジュバントで製剤化した300μgのマカクIgE EMPDペプチド免疫原、配列番号125または126のいずれかで0週目、3週目、及び6週目に免疫付与した。配列番号125及び126はそれぞれ、ヒトIgE EMPD免疫原、配列番号93及び88の対応物である。CpG ODN/Montanide(商標)ISA 51製剤を用いた2つのマカク由来免疫原は、全動物において強力な抗IgE EMPD IgG抗体反応をもたらした(図19)。さらに、全動物がIgE EMPDに対するIgM抗体及びIgA抗体を発現した(図20)。マカクの基礎血清IgEの減少傾向も観察された(図21)。注射部位の副作用は認められなかった。本試験は、UBITh(登録商標)T細胞エピトープが増強された、自己由来の配列である合成IgE EMPDペプチド免疫原(配列番号125及び126)が、強力な抗IgE EMPD抗体反応を誘発して、IgE生成の抑制及びマカクの基礎血清IgEレベルの減少傾向をもたらすことを実証した。
【0249】
f.結論
20週間にわたりIgE EMPDペプチド免疫原(配列番号125及び126)またはプラセボ対照を筋肉内経路でカニクイザルに3回注射した。動物は全体的に良好な忍容性を示し、免疫寛容が破壊された。免疫されたマカクはすべて、IgE EMPD構築物の対応するB細胞エピトープに対する強力かつ持続的なIgG(最大10)及びIgA(最大10)抗体価の発現と共に、一過性の特異的IgM抗体を発現した。あらゆる応答者に基礎IgEレベルの減少が観察された。これらの結果は、抗体が膜結合型IgEを発現するB細胞を標的とし、引き続きIgE生成を抑制させるという抗IgE-EMPD抗体の作用モードを裏付けている。
【0250】
【表1】
【0251】
【表2】
【0252】
【表3】
【0253】
【表4】
【0254】
【表5】
【0255】
【表6】
【0256】
【表7】
【0257】
【表8】
【0258】
【表9】
【0259】
【表10】
【0260】
【表11】
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図19
図20
図21
【配列表】
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