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特許7239205新規宿主細胞及びそれを用いた目的タンパク質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】新規宿主細胞及びそれを用いた目的タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20230307BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230307BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20230307BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20230307BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12N1/15
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/00 C
C12N15/63 Z
C12N15/31
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021064674
(22)【出願日】2021-04-06
(62)【分割の表示】P 2016172841の分割
【原出願日】2016-09-05
(65)【公開番号】P2021101733
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-04-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業]「国際基準に適合した次世代抗体医薬等の製造技術のうち高生産宿主構築の効率化基盤技術の開発に係るもの」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 純
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】西 輝之
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/066685(WO,A1)
【文献】特開2016-146789(JP,A)
【文献】J Cell Biol, 2001 Oct 29, vol. 155, no. 3, pp. 355-367
【文献】J Biol Chem, 2004 Apr 2, vol. 279, no. 14, pp. 14256-14263
【文献】F2QS89 (F2QS89_KOMPC) SubName: Putative membrane protein hydrolase activity, UniProt History [online], 06-JUL-2016 uploaded, UniProt,URL: https://www.uniprot.org/uniprot/F2QS89.txt?version=28,URL: https://www.uniprot.org/uniprot/F2QS89?version=*
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq/UniProt
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(d)のいずれかの遺伝子が不活性化され、
目的タンパク質をコードする塩基配列を含有するベクターを含み、
酵母、細菌、真菌、又は昆虫細胞である宿主細胞:
(a)配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子、
(b)配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子によりコードされるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードし、配列番号3に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
(c)配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子によりコードされるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードし、配列番号3に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
(d)配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子によりコードされるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードし、配列番号4に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子。
【請求項2】
前記遺伝子の不活化前と比較して目的タンパク質の生産量が増加している、
請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項3】
前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と90%以上の配列同一性を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと90%以上の配列同一性を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含有するベクターで形質転換して得られる請求項1または2に記載の宿主細胞。
【請求項4】
酵母が、メタノール資化性酵母、分裂酵母、又は出芽酵母である、請求項1~のいずれかに記載の宿主細胞。
【請求項5】
メタノール資化性酵母がコマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母である、請求項に記載の宿主細胞。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の宿主細胞を培養する工程、及び培養液から目的タンパク質を回収する工程を含む、目的タンパク質の製造方法。
【請求項7】
目的タンパク質が異種タンパク質である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
培養工程において、グルコース、グリセロール、及びメタノールからなる群から選択される一以上の炭素源を含む培養液を用いる、請求項6又は7に記載の方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の遺伝子を不活性化することにより目的タンパク質の生産性が向上した新規宿主細胞、遺伝子を不活性化するためのベクター、該新規宿主細胞を用いた目的タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療及び診断用途に活用するための抗体、酵素、及びサイトカイン等の産業上有用なバイオマテリアルの生産には、遺伝子組換え法が広く用いられている。遺伝子組換え法によって目的タンパク質を生産するための宿主としては、ニワトリ等の動物、CHO等の動物細胞、カイコ等の昆虫、sf9等の昆虫細胞、並びに酵母、大腸菌、及び放線菌等の微生物が用いられている。宿主生物の中でも酵母は、安価な培地で大規模かつ高密度での培養が可能であるため、目的タンパク質を低コストで生産することができること、シグナルペプチド等を利用すれば培養液中への分泌発現も可能なため目的タンパク質の精製過程も容易となること、及び真核生物であるため糖鎖付加等の翻訳後修飾も可能であることから非常に有益であり、様々な研究が行われている。酵母において種々の目的タンパク質に対応できる革新的な生産技術を開発することができれば、生産性の劇的向上によるコスト競争力の強化に加え、幅広い産業展開が期待できる。
【0003】
酵母の一種であるコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)はタンパク質発現能力に優れ、工業生産上有利である安価な炭素源を活用できるメタノール資化性酵母である。例えば、非特許文献1には、コマガタエラ・パストリスを用いて、緑色蛍光タンパク質、ヒト血清アルブミン、B型肝炎ウイルス表面抗原、ヒトインシュリン、及び一本鎖抗体等の外来タンパク質を生産する方法が報告されている。酵母において外来タンパク質を生産する場合、その生産性の向上のために、シグナル配列の付加、強力なプロモーターの利用、コドン改変、シャペロン遺伝子の共発現、転写因子遺伝子の共発現、宿主酵母由来のプロテアーゼ遺伝子の不活性化、及び培養条件の検討等様々な試みがなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】FEMS Microbiology Reviews 24 (2000) 45-66.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、目的タンパク質の生産性を向上させる新たな手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、コマガタエラ属酵母の染色体DNAの塩基配列の網羅的解析により、新規タンパク質を同定した。そして、該新規タンパク質をコードする遺伝子を不活性化することで、宿主細胞において目的タンパク質の分泌量が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
【0007】
以下の(a)~(d)のいずれかの遺伝子が不活性化された宿主細胞:
(a)配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号5に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号9に示す塩基配列を含む遺伝子、及び/又は配列番号11に示す塩基配列を含む遺伝子、
(b)配列番号1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
配列番号3に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
配列番号5に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
配列番号7に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
配列番号9に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、及び/又は
配列番号11に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
(c)配列番号1に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
配列番号3に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
配列番号5に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
配列番号7に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
配列番号9に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、及び/又は
配列番号11に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、
配列番号4に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、
配列番号6に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、
配列番号8に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、
配列番号10に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び/又は
配列番号12に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子。
【0008】
前記宿主細胞は、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列を含有するベクターで形質転換して得られることが好ましい。
【0009】
前記宿主細胞において、前記ベクターが、前記塩基配列の上流または下流に目的タンパク質をコードする塩基配列を含有することが好ましい。
【0010】
前記宿主細胞が、目的タンパク質をコードする塩基配列を含有するベクターを含むことが好ましい。
【0011】
前記宿主細胞が、酵母、細菌、真菌、昆虫細胞、動物細胞、又は植物細胞であることが好ましい。
【0012】
前記酵母が、メタノール資化性酵母、分裂酵母、又は出芽酵母であることが好ましい。
【0013】
前記メタノール資化性酵母がコマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記宿主細胞を培養する工程、及び培養液から目的タンパク質を回収する工程を含む、目的タンパク質の製造方法に関する。
【0015】
前記目的タンパク質が異種タンパク質であることが好ましい。
【0016】
前記培養工程において、グルコース、グリセロール、及びメタノールからなる群から選択される一以上の炭素源を含む培養液を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に記載の遺伝子を不活性化することにより、コマガタエラ属酵母を宿主として用いる目的タンパク質の効率的な生産方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、好ましい実施形態を用いて詳細に説明する。
【0019】
一態様において、本発明は、以下の(a)~(d)のいずれかの遺伝子が不活性化された宿主細胞:
(a)配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号5に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号9に示す塩基配列を含む遺伝子、及び/又は配列番号11に示す塩基配列を含む遺伝子、
(b)配列番号1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
配列番号3に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
配列番号5に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
配列番号7に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
配列番号9に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、及び/又は
配列番号11に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
(c)配列番号1に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
配列番号3に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
配列番号5に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
配列番号7に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
配列番号9に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、及び/又は
配列番号11に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、
配列番号4に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、
配列番号6に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、
配列番号8に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、
配列番号10に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び/又は
配列番号12に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、に関する。
【0020】
本発明において、2つの核酸がストリンジェントな条件下でハイブリダイズするとは、例えば以下の意味である。例えば、核酸Xを固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaCl存在下、65℃で核酸Yとハイブリダイゼーションを行った後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより、核酸Yがフィルター上に結合した核酸として取得できる場合に、核酸Yを「核酸Xとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸」と言うことができる。或いは核酸Xと核酸Yとが「ストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズする」ということができる。核酸Yは、前記フィルターを、好ましくは65℃で0.5倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは65℃で0.1倍濃度のSSC溶液で洗浄することによりフィルター上に結合した核酸として取得できる核酸である。基準となる核酸Xは、コロニー又はプラーク由来の核酸Xであってよい。
【0021】
本発明において塩基配列やアミノ酸配列の配列同一性は、当業者に周知の方法、配列解析ソフトウェア等を使用して求めることができる。例えば、BLASTアルゴリズムのblastnプログラムやblastpプログラム、FASTAアルゴリズムのfastaプログラムが挙げられる。本発明において、ある評価対象塩基配列の、塩基配列Xとの「配列同一性」とは、塩基配列Xと評価対象塩基配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだ塩基配列において同一部位に同一の塩基が出現する頻度を%で表示した値である。本発明において、ある評価対象アミノ酸配列の、アミノ酸配列Xとの「配列同一性」とは、アミノ酸配列Xと評価対象アミノ酸配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだアミノ酸配列において同一部位に同一のアミノ酸が出現する頻度を%で表示した値である。前記遺伝子と配列番号1、3 、5、7、9、及び/又は11に示す塩基配列との配列同一性は、85%以上であり、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
【0022】
本発明において「核酸」とは、「ポリヌクレオチド」と呼ぶこともでき、DNA又はRNAを指し、典型的にはDNAを指す。
【0023】
本発明において「アミノ酸配列をコードする塩基配列」とは、アミノ酸配列からなるポリペプチドに対してコドン表に基づいて設計された塩基配列を指し、該塩基配列は、転写及び翻訳によってポリペプチドの生成をもたらす。
【0024】
本発明において、「ポリペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合したものを指し、タンパク質の他、ペプチドやオリゴペプチドと呼ばれる鎖長の短いものが含まれる。
【0025】
本発明において「不活性化」とは、遺伝子の機能が失われている状態、または機能が減少している状態を指し、当該遺伝子の転写産物であるmRNAや翻訳産物であるポリペプチドの発現量が低下している状態やmRNAやタンパク質として正常に機能しない状態も包含する。なお、mRNAの発現量はリアルタイムPCR法、RNA-Seq法、ノーザンハイブリダイゼーション又はDNAアレイを利用したハイブリダイゼーション法等を用いて定量することができ、ポリペプチドの発現量は、ポリペプチドを認識する抗体やポリペプチドと結合性を有する染色化合物等を用いて定量することができる。また、上記に挙げた定量方法以外にも、当業者で用いられている従来法であってもよい。
【0026】
遺伝子を不活性化させる手段としては、薬剤や紫外線を用いたDNA変異処理、PCRを用いた部分特異的変異導入、RNAi、プロテアーゼ、相同組み換え等を利用することができる。遺伝子を不活性化させる場合は、当該遺伝子のORF内の塩基配列の改変(欠失、置換、付加、挿入)、及び/又はプロモーター領域、エンハンサー領域、ターミネーター領域などの転写開始または停止を制御する領域内の塩基配列の改変(欠失、置換、付加、挿入)により行う。なお、前記欠失、置換、付加、挿入を行う部位や、欠失、置換、付加、挿入される塩基配列は、当該遺伝子の正常な機能が欠損し得る限り、特に限定されない。不活性化させる遺伝子は、宿主細胞の染色体上の遺伝子であってもよく、宿主細胞の染色体外の遺伝子であってもよい。このうち、染色体上の遺伝子を不活性化させることが好ましい。
【0027】
本発明における「塩基配列の改変」とは、相同組換えを利用した遺伝子の挿入や部位特異的変異導入の手法を使用して実施することができる。例えば、遺伝子上流プロモーターのより活性の低いプロモーターへの置換や、宿主細胞に適していないコドンへの改変等、また、欠失させたい遺伝子の上流配列、選択マーカー遺伝子配列及び欠失させたい遺伝子の下流配列を連結させたベクターの導入などが挙げられる。
【0028】
本発明において発現量低下の度合は、目的タンパク質の生産性が向上すれば特に限定されないが、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上低下していることが好ましい。なお、発現量が低下していなくとも、上述のとおり、遺伝子産物の正常な機能が欠損し得る限り、不活性化することができることは、当業者であれば周知であるから、発現量の低下の度合は、あくまで不活性化の判断基準の1つにすぎない。
【0029】
本明細書において、「宿主細胞」とは、ベクターが導入され形質転換される細胞をいい、「宿主」又は「形質転換体」と呼ばれる。本明細書では形質転換前及び後の宿主細胞を単に「細胞」と呼ぶ場合がある。宿主として用いる細胞はベクターを導入することの出来る細胞であれば特に限定されない。
【0030】
「配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号5に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号9に示す塩基配列を含む遺伝子、及び/又は配列番号11に示す塩基配列を含む遺伝子」は、コマガタエラ・パストリスの4本の染色体DNAの塩基配列(ATCC76273株:ACCESSION No. FR839628~FR839631(J. Biotechnol. 154 (4), 312-320 (2011))、及びGS115株:ACCESSION No. FN392319~FN392322(Nat. Biotechnol. 27 (6), 561-566 (2009)))の網羅的解析により見出された。具体的には、本発明者は、不活性化によって目的タンパク質の生産性が向上するポリペプチド、及びそのアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを探索した。その結果、下記のポリヌクレオチドを見出した。
【0031】
ATCC76273株において配列番号2で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA39734)で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号1で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
ATCC76273株において配列番号4で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA38267)で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号3で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
ATCC76273株において配列番号6で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA37956)で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号5で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
ATCC76273株において配列番号8で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA37582)で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号7で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
ATCC76273株において配列番号10で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA39503)で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号9で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
ATCC76273株において配列番号12で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA38927)で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号11で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0032】
後述する実施例において、本発明者らは上記の塩基配列からなる遺伝子を不活性化させるベクターを宿主に導入し、目的タンパク質の生産性が向上することを確認している。
【0033】
配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号5に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号9に示す塩基配列を含む遺伝子、及び/又は配列番号11に示す塩基配列を含む遺伝子、若しくはそれらの改変型遺伝子は、単独で不活性化されていてもよく、一つの宿主細胞で複数の遺伝子が不活性化されていてもよい。前記遺伝子の複数が不活性化される場合には、不活性化される遺伝子の個数は、2個、3個、4個、5個、6個が挙げられる。複数の遺伝子が不活性化される具体例としては、配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子、及び配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子、又はそれらの改変型遺伝子の不活性化、配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子、及び配列番号5に示す塩基配列を含む遺伝子、又はそれらの改変型遺伝子の不活性化、配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子、及び配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子、又はそれらの改変型遺伝子の不活性化、配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号5に示す塩基配列を含む遺伝子、及び配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子、又はそれらの改変型遺伝子の不活性化が挙げられる。
【0034】
本明細書において、宿主細胞からのタンパク質の生産量の増加は、親細胞又は野生型株におけるタンパク質の生産量に対して、例えば1.01倍、1.02倍、1.03倍、1.04倍、1.05倍、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、又は5倍以上、また100倍、90倍、80倍、70倍、60倍、50倍、40倍、30倍、20倍、10倍、9倍、8倍、7倍、6倍、又は5倍以下であってよい。タンパク質を分泌生産する場合、細胞からの全タンパク質の分泌量は、細胞の培養上清等を用いて、当業者に公知の方法、例えばBladford法、Lowry法、及びBCA法等により容易に決定することができる。細胞からの特定のタンパク質の分泌量は、細胞の培養上清等を用いて、ELISA法等により容易に決定することができる。
【0035】
本明細書において、「親細胞」、「野生型株」、又は「導入前の宿主細胞」とは、上記(a)~(d)のいずれかに示す塩基配列を含む遺伝子の発現を変化させるような処理を施していない宿主細胞又は株を意味する。したがって、本明細書に記載の「親細胞」、「野生型株」、又は「導入前の宿主細胞」には、上記(a)~(d)のいずれかに示す塩基配列を含む遺伝子以外の遺伝子を改変した宿主細胞又は株も含まれる。
【0036】
配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号3に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号5に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子、配列番号9に示す塩基配列を含む遺伝子、及び/又は配列番号11に示す塩基配列を含む遺伝子を不活性化する例として、後述する実施例のように、当該遺伝子の上流に位置するプロモーターの相補配列と100%の配列同一性を有する塩基配列、及び当該遺伝子の下流に位置するターミネーターの相補配列と100%の配列同一性を有する塩基配列を、プライマー1~46を用いてPCR産物として調製し、該PCR産物をベクターとしてコマガタエラ属酵母に形質転換する方法が挙げられる。
【0037】
「配列番号2に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、配列番号4に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、配列番号6に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、配列番号8に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、配列番号10に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び/又は配列番号12に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子」とは、配列番号2、4、6、8、10、12に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドに基づきコドン表を参照して設計される塩基配列からなる遺伝子、及びそれらの組み合わせのことを指す。配列番号2、4、6、8、10、12に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドに基づきコドン表を参照して設計される塩基配列からなる遺伝子としては、例えば、それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11に示す遺伝子が挙げられる。そして、当該遺伝子を不活性化させることで、目的タンパク質の生産量を向上することができる。前記配列同一性は、85%以上であり、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
【0038】
本発明の宿主細胞は、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有するベクターを形質転換することにより得られることが好ましい。
【0039】
本発明は、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有するベクターを形質転換することで、宿主細胞の染色体上における前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子を不活性化させることができる。また、ベクターは、各々の相同領域を有する塩基配列をすべて組み込んだベクターを用いても良いし、各々の相同領域を有する塩基配列を、それぞれ1つずつ組み込んだベクターを用いても良い。
【0040】
本発明のベクターは環状ベクター、直鎖状ベクター、プラスミド、人工染色体等であることができる。
【0041】
本発明においてベクターとは人為的に構築された核酸分子である。本発明のベクターを構成する核酸分子は、通常DNA、好ましくは二本鎖DNAであり、環状であっても、直鎖状であってもよい。本発明のベクターは、通常は、所定の塩基配列(上述した前記(a)~(d)のいずれかの塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列、或いは、これらの塩基配列のうち複数が連結(適当な長さの他の塩基配列を介して連結する場合を含む)した塩基配列)に加えて、1つ以上の制限酵素認識部位を含むクローニングサイト、Clontech社のIn-FusionクローニングシステムやNew England Biolabs社のGibson Assemblyシステム等を利用するためのオーバーラップ領域、内在性遺伝子の塩基配列、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、選択マーカー遺伝子(栄養要求性相補遺伝子、薬剤耐性遺伝子など)の塩基配列等を含むことができる。直鎖状ベクターの例としては、URA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子、ARG4遺伝子等の栄養要求性相補遺伝子やG418耐性遺伝子、Zeocin(商標)耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、Clone NAT耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子の塩基配列を有するPCR産物、または環状ベクターやプラスミドを適当な制限酵素によって切断し、直鎖状としたものなどが挙げられる。プラスミドの例としては、YEpベクター、YRpベクター、YCpベクター、pPICHOLI(http://www.mobitec.com/cms/products/bio/04_vector_sys/p_picholi_shuttle_vector.html)、pHIP(Journal of General Microbioiogy (1992), 138, 2405-2416. Chromosomal targeting of replicating plasmids in the yeast Hansenula polymorpha)、pHRP(pHIPについて挙げた前記文献参照)、pHARS(Molecular and General Genetics MGG February 1986, Volume 202, Issue 2, pp 302-308, Transformation of the methylotrophic yeast Hansenula polymorpha by autonomous replication and integration vectors)、大腸菌由来プラスミドベクター(pUC18、pUC19、pBR322、pBluescript、pQE)、枯草菌由来プラスミドベクター(pHY300PLK、pMTLBS72)等を使用することができる。人工染色体の例としては、一般に、セントロメアDNA配列、テロメアDNA配列、自律複製配列(ARS)を含む人工染色体ベクターを指し、酵母であれば酵母人工染色体(YACベクター)などが挙げられ、Saccharomyces cerevisiaeやSchizosaccharomyces pombeなどにおいて開発されている。コマガタエラ・パストリスにおいては国際公開第2016/088824号に記載されているセントロメアDNA配列を用いることによって人工染色体を構築することができる。
【0042】
本発明において「形質転換」とは、上記ベクターを細胞に導入することを指す。ベクターを宿主細胞へ導入する方法、すなわち形質転換法は公知の方法を適宜用いることができ、例えば宿主として酵母細胞を用いる場合、エレクトロポレーション法、酢酸リチウム法、スフェロプラスト法等が挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。例えば、コマガタエラ・パストリスの形質転換法としては、High efficiency transformation by electroporation of Pichia pastoris pretreated with lithiumacetate and dithiothreitol(Biotechniques. 2004 Jan;36(1):152-4.)に記載されているエレクトロポレーション法が一般的である。
【0043】
本発明において、ベクターをコマガタエラ属酵母に形質転換する場合、栄養要求性相補遺伝子または薬剤耐性遺伝子などの選択マーカー遺伝子を用いることが好ましい。選択マーカーは特に限定されないが、コマガタエラ属酵母であれば、URA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子、ARG4遺伝子などの栄養要求性相補遺伝子であれば、それぞれウラシル、ロイシン、アデニン、ヒスチジン、アルギニンの栄養要求性株において原栄養株表現型の回復により形質転換体を選択することができる。また、G418耐性遺伝子、Zeocin(商標)耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、Clone NAT耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子であれば、それぞれG418、Zeocin(商標)、ハイグロマイシン、Clone NAT、ブラストサイジンSを含む培地上における耐性により形質転換体を選択することができる。なお、酵母宿主を作製するときに用いる栄養要求性選択マーカーは、宿主において該選択マーカーが破壊されていない場合は、用いることができない。この場合、宿主において該選択マーカーを破壊すればよく、方法は当業者には公知の方法を用いることができる。
【0044】
本発明において、ベクターを染色体に組み込む場合、本実施例のように染色体の相同領域を同時に有するDNAとして作製することが好ましい。染色体上へのベクターの組み込みの方法は、相同領域を利用しない非特異的な組み込みでもよいし、1箇所の相同領域を利用した組み込みでもよいし、2箇所の相同領域を利用したダブルクロスオーバー型の組み込みでもよい。
【0045】
本発明において、相同領域を利用した組み込みの場合、例えば本実施例のように、選択マーカー遺伝子配列の両末端に相同領域が来るようにして形質転換を行うことが出来る。例えば、遺伝子欠失させたい場合、選択マーカー遺伝子の上流に欠失させたい遺伝子のプロモーター、下流には欠失させたい遺伝子のターミネーターを連結させたベクターを利用して組み込むことが出来る。
【0046】
本発明において、染色体あたりのベクターのコピー数は特に限定されない。また、染色体上にベクターが組み込まれている位置は、本発明の遺伝子が不活性化されている限り、特に限定されない。なお、2コピー以上のベクターが組み込まれている形質転換体の組み込み位置については、同じ位置に複数が組み込まれている状態でもよいし、異なる位置に1コピー以上ずつ組み込まれている状態でもよい。
【0047】
本発明の「相同領域を有する塩基配列」とは、目的とする塩基配列の少なくとも一部の塩基配列を有し、50%以上の配列同一性を有する塩基配列であればよく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上、よりさらに好ましくは90%以上、より特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%である。また、該相同領域を有する塩基配列の長さは、目的とする塩基配列と相同領域を有する20bp以上の塩基配列であれば、相同組み換えすることができるため特に限定されないが、具体的には、目的とする塩基配列の長さの0.1%以上が好ましく、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、3.5%以上、4%以上、4.5%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、6.5%以上、7%以上、7.5%以上、8%以上、8.5%以上、9%以上、9.5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、100%が好ましい。
【0048】
本発明の「(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーター」とは、染色体上で(a)~(d)のいずれかの遺伝子の上流に存在し、該遺伝子産物の発現量を調整する塩基配列であり、具体的には、(a)~(d)のいずれかの遺伝子の開始コドンより上流の5000bpまでの塩基配列を指す。
【0049】
本発明の「(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーター」とは、染色体上で(a)~(d)のいずれかの遺伝子の下流に存在し、該遺伝子産物の発現量を調整する塩基配列であり、具体的には、(a)~(d)のいずれかの遺伝子の終始コドンより下流の5000bpまでの塩基配列を指す。
【0050】
本発明の宿主細胞は、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有し、該塩基配列の上流または下流に目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含有するベクターを形質転換することにより得られることが好ましい。
【0051】
前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列の上流又は下流に目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列が配置されたベクターを形質転換することで、目的タンパク質の生産性が向上した宿主細胞を得ることができる。さらに、各々の相同領域を有する塩基配列を含有したベクターに、該塩基配列の上流及び/又は下流に目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を配置することで、形質転換の操作性を向上させることができる。
【0052】
本発明において「目的タンパク質」とは、本発明のベクターが導入された細胞が生産するタンパク質であって、宿主の内在性タンパク質であってもよいし、異種タンパク質であってもよい。目的タンパク質の例として、微生物由来の酵素類、多細胞生物である動物や植物が産生するタンパク質等が挙げられる。例えば、フィターゼ、プロテインA、プロテインG、プロテインL、アミラーゼ、グルコシダーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、グルタミナーゼ、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼ、オキシダーゼ、ラクターゼ、キシラナーゼ、トリプシン、ペクチナーゼ、イソメラーゼ、フィブロイン、及び蛍光タンパク質等が挙げられるが、これらに限定はされない。グルコシダーゼの具体例としてはBGL1が挙げられる。蛍光タンパク質の具体例としてはmUkG1が挙げられる。特に、ヒト及び/又は動物治療用タンパク質が好ましい。
【0053】
ヒト及び/又は動物治療用タンパク質として、具体的には、B型肝炎ウイルス表面抗原、ヒルジン、抗体、ヒト抗体、部分抗体、ヒト部分抗体、血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、上皮成長因子、ヒト上皮成長因子、インシュリン、成長ホルモン、エリスロポエチン、インターフェロン、血液凝固第VIII因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポエチン、IL-1、IL-6、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、レプチン、及び幹細胞成長因子(SCF)等が挙げられる。
【0054】
ここで「抗体」とは、L鎖とH鎖の各2本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合して構成されるヘテロテトラマータンパク質のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。
【0055】
ここで「部分抗体」とは、Fab型抗体、(Fab)2型抗体、scFv型抗体、diabody型抗体や、これらの誘導体等のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。Fab型抗体とは、抗体のL鎖とFd鎖がS-S結合で結合したヘテロマータンパク質、又は抗体のL鎖とFd鎖がS-S結合を含まず会合したヘテロマータンパク質のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。部分抗体の具体例としては、抗リゾチウム一本鎖抗体が挙げられる。
【0056】
上記目的タンパク質を構成するアミノ酸は天然のものでもよいし、非天然のものでもよいし、修飾を受けていてもよい。また、タンパク質のアミノ酸配列は、人為的な改変が施されていてもよいし、de-novoで設計されたものでもよい。
【0057】
本発明の宿主細胞は、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有するベクターと、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含有するベクターとを形質転換することにより得られることが好ましい。
【0058】
前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有するベクターと、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含有するベクターとを形質転換することで、目的タンパク質の生産性が向上した宿主細胞を得ることができる。さらに、不活性化するベクターと目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含有するベクターを別にすることで、該目的タンパク質をコードする塩基配列を含有するベクターを前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子の位置以外に1コピー以上導入して発現量を増大させること、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列が1コピー以上存在するプラスミドや人工染色体を導入して発現量を増大させること、また、育種改良において前記(a)~(d)のいずれかに記載の遺伝子の不活性化に用いた栄養要求性相補遺伝子または薬剤耐性遺伝子の破壊時に目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列も同時に破壊させてしまうことを防ぐため、効率よく目的タンパク質の生産性を向上させることができる。
【0059】
本発明において、「発現」とは、ポリペプチドの生成をもたらす塩基配列の転写及び翻訳を指す。また、その発現は外部刺激や生育条件等に依存せずにほぼ一定の状態でもよいし、依存してもよい。発現を駆動するプロモーターは、ポリペプチドをコードする塩基配列の発現を駆動するプロモーターであれば特に限定されない。
【0060】
宿主細胞の生物種は特に限定されないが、酵母、細菌、真菌、昆虫細胞、動物細胞、及び植物細胞等が挙げられ、酵母が好ましく、メタノール資化性酵母、分裂酵母、出芽酵母がより好ましく、メタノール資化性酵母がさらに好ましい。一般に、メタノール資化性酵母は、唯一の炭素源としてメタノールを利用して培養可能な酵母と定義されるが、本来メタノール資化性酵母であったが、人為的な改変あるいは変異によりメタノール資化性能を喪失した酵母も、本発明におけるメタノール資化性酵母に包含される。
【0061】
メタノール資化性酵母としては、ピキア(Pichia)属、オガタエア(Ogataea)属、キャンディダ(Candida)属、トルロプシス(Torulopsis)属、コマガタエラ(Komagataella)属等に属する酵母が挙げられる。ピキア(Pichia)属ではピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、オガタエア(Ogataea)属ではオガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)、オガタエア・ミヌータ(Ogataea minuta)、キャンディダ(Candida)属ではキャンディダ・ボイディニ(Candida boidinii)、コマガタエラ(Komagataella)属ではコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)等が好ましい例として挙げられる。
【0062】
上記のメタノール資化性酵母のなかでも、コマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母が特に好ましい。
【0063】
コマガタエラ(Komagataella)属酵母としては、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)が好ましい。コマガタエラ・パストリス及びコマガタエラ・ファフィはどちらもピキア・パストリス(Pichia pastoris)の別名を有する。
【0064】
具体的に宿主として使用できる菌株として、コマガタエラ・パストリスATCC76273(Y-11430、CBS7435)、コマガタエラ・パストリスX-33等の株が挙げられる。これらの菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションやサーモフィッシャーサイエンティフィック社等から入手することができる。
【0065】
オガタエア(Ogataea)属酵母としては、オガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)が好ましい。これら3つは近縁種であり、いずれも、別名ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、又は別名ピキア・アングスタ(Pichia angusta)でも表される。
【0066】
具体的に使用できる菌株として、オガタエア・アングスタNCYC495(ATCC14754)、オガタエア・ポリモルファ8V(ATCC34438)、オガタエア・パラポリモルファDL-1(ATCC26012)等の菌株が挙げられる。これらの菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション等から入手することができる。
【0067】
また、本発明においては、これらコマガタエラ属酵母やオガタエア属酵母の菌株からの誘導株も使用でき、例えばヒスチジン要求性であればコマガタエラ・パストリスGS115株(サーモフィッシャーサイエンティフィック社より入手可能)、ロイシン要求性株であれば、NCYC495由来のBY4329、8V由来のBY5242、DL-1由来のBY5243(これらはNational BioResource Projectから分譲可能)等が挙げられる。本発明においては、これらの菌株からの誘導株等も使用できる。
【0068】
一態様において、本発明は、上記に記載の細胞を培養する工程、培養液から目的タンパク質を回収する工程を含む、目的タンパク質の製造方法に関する。
【0069】
ここで、「培養液」とは、培養上清のほか、培養細胞、培養菌体、又は細胞もしくは菌体の破砕物を意味する。よって、本発明の形質転換酵母を用いて目的タンパク質を製造する方法としては、上記に記載の細胞を培養し、その菌体中に蓄積させる方法、又は培養上清中に分泌して蓄積させる方法が挙げられ、好ましくは培養上清中に分泌して蓄積させる方法が挙げられる。
【0070】
細胞の培養条件は特に限定されず、細胞に応じて適宜選択すればよい。該培養においては、細胞が資化しうる栄養源を含む培地であれば何でも使用できる。該栄養源としては、グルコース、シュークロース、マルトース等の糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸等の有機酸類、メタノール、エタノール、グリセロール等のアルコール類、パラフィン等の炭化水素類、大豆油、菜種油等の油類、又はこれらの混合物等の炭素源、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチープリカー等の窒素源、更に、その他の無機塩、ビタミン類等の栄養源を適宜混合・配合した通常の培地を用いることができる。また、培養はバッチ培養や連続培養のいずれでも可能である。
【0071】
本発明の好ましい態様として、酵母にコマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母を用いた場合、上記炭素源は、グルコース、グリセロール、メタノールの1種でもよく、又は2種以上であってもよい。また、これらの炭素源は培養初期から存在していてもよいし、培養途中に添加してもよい。
【0072】
本発明のベクターを細胞に導入することによって得られた形質転換体を培養することで宿主中又は培養液中に目的タンパク質を蓄積させ、回収することができる。目的タンパク質の回収方法については、公知の精製法を適当に組み合わせて用いることができる。例えば、まず、当該形質転換酵母を適当な培地で培養し、培養液の遠心分離、あるいは、濾過処理により培養上清から菌体を除く。得られた培養上清を、塩析(硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿等)、溶媒沈殿(アセトン又はエタノール等による蛋白質分画沈殿法)、透析、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、限外濾過等の手法を単独で、又は組み合わせて用いることにより、該培養上清から目的タンパク質を回収する。
【0073】
細胞の培養は通常一般の条件により行なうことができ、例えば、酵母の場合、pH2.5~10.0、温度範囲10℃~48℃の範囲で、好気的に10時間~10日間培養することにより行うことができる。
【0074】
回収された目的タンパク質は、そのまま使用することもできるが、その後PEG化等の薬理学的な変化をもたらす修飾、酵素やアイソトープ等の機能を付加する修飾を加えて使用することもできる。また、各種の製剤化処理を使用してもよい。
【0075】
分泌性でない目的タンパク質を菌体外に分泌させる場合には、該目的タンパク質遺伝子の5'末端にシグナル配列をコードする塩基配列を導入すればよい。シグナル配列をコードする塩基配列は、酵母が分泌発現できるシグナル配列をコードする塩基配列であれば特に限定されないが、サッカロマイセス・セレビシエのMating Factor α(MFα)やオガタエア・アングスタの酸性ホスファターゼ(PHO1)、コマガタエラ・パストリスの酸性ホスファターゼ(PHO1)、サッカロマイセス・セレビシエのインベルターゼ(SUC2)、サッカロマイセス・セレビシエのPLB1、牛血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、及び免疫グロブリンのシグナル配列をコードする塩基配列等が挙げられる。
【0076】
本明細書において、生産量を増加させる「目的タンパク質」は、宿主の内在性タンパク質であってもよいし、異種タンパク質又は外来タンパク質であってもよい。本明細書において、「内在性タンパク質」とは、遺伝子改変を行っていない宿主細胞が培養の間に産生するタンパク質をいう。これに対し、本明細書において「異種タンパク質」又は「外来タンパク質」とは、遺伝子改変を行っていない宿主細胞が通常発現しないか、あるいは発現してもその発現量又は生産量が十分でないタンパク質をいう。
【0077】
目的タンパク質を発現させるプロモーターは、選択した炭素源にて発現が起こりうるプロモーターを適切に使用すればよく、特に限定されない。
【0078】
炭素源がメタノールの場合、ポリペプチドを発現させるプロモーターは、AOX1プロモーター、AOX2プロモーター、CATプロモーター、DHASプロモーター、FDHプロモーター、FMDプロモーター、GAPプロモーター、MOXプロモーター等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0079】
炭素源がグルコースやグリセロールの場合、ポリペプチドを発現させるプロモーターは、GAPプロモーター、TEFプロモーター、LEU2プロモーター、URA3プロモーター、ADEプロモーター、ADH1プロモーター、PGK1プロモーター等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0080】
ここで、「プロモーター」とは、上記の所定の塩基配列の上流に位置する塩基配列領域をいい、RNAポリメラーゼのほか、転写の促進や抑制に関わる様々な転写調節因子が該領域に結合又は作用することによって鋳型である上記の所定の塩基配列を読み取って相補的なRNAを合成(転写)する。
【0081】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例
【0082】
<実施例1:ベクターの調製に用いた各種遺伝子の調製>
以下の実施例において用いた組換えDNA技術に関する詳細な操作方法等は、次の成書に記載されている:Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)。
【0083】
また、以下の実施例において、酵母の形質転換に用いるプラスミドは、構築したベクターを大腸菌E.coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に導入し、得られた形質転換体を培養して増幅することによって調製した。プラスミド保持株からのプラスミドの調製は、FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて行った。
【0084】
ベクターの構築において利用したAOX1プロモーター(配列番号71)、AOX1ターミネーター(配列番号72)、GAPプロモーター(配列番号73)、CCA38473ターミネーター(配列番号74)はコマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体DNA(塩基配列はEMBL (The European Molecular Biology Laboratory) ACCESSION No. FR839628~FR839631に記載)混合物をテンプレートにしてPCRで調製した。AOX1プロモーターはプライマー59(配列番号77)及びプライマー60(配列番号78)、AOX1ターミネーターはプライマー61(配列番号79)及びプライマー62(配列番号80)、GAPプロモーターはプライマー63(配列番号81)及びプライマー64(配列番号82)、CCA38473ターミネーターはプライマー65(配列番号83)及びプライマー66(配列番号84)、を用いてPCRで調製した。
【0085】
ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号75)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたG418耐性遺伝子(配列番号76)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたハイグロマイシン耐性遺伝子(配列番号92)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたClone NAT耐性遺伝子(配列番号93)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたブラストサイジンS耐性遺伝子(配列番号94)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、Mating Factorαプレプロシグナル配列が付与された抗リゾチウム一本鎖抗体遺伝子(配列番号89)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、Mating Factorαプレプロシグナル配列が付与されたBGL1遺伝子(配列番号90)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、Mating Factorαプレプロシグナル配列が付与されたmUkG1遺伝子(配列番号91)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。
【0086】
PCRにはPrime STAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)等を用い、反応条件は添付のマニュアルに記載の方法で行った。染色体DNAの調製は、コマガタエラ・パストリスATCC76273株からカネカ 簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)等を用いて、これに記載の条件で実施した。
【0087】
<実施例2:抗リゾチウム一本鎖抗体発現ベクター、BGL1発現ベクター、mUkG1発現ベクターの構築>
HindIII-BamHI-BglII-XbaI-EcoRIのマルチクローニングサイトをもつ遺伝子断片(配列番号95)を全合成し、これをpUC19(タカラバイオ社製、Code No. 3219)のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC-1を構築した。
【0088】
また、AOX1プロモーター(配列番号71)の両側にBamHI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー59(配列番号77)及び60(配列番号78)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理後にpUC-1のBamHIサイトに挿入して、pUC-Paoxを構築した。
【0089】
また、GAPプロモーター(配列番号73)の両側にBamHI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー63(配列番号81)及び64(配列番号82)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理後にpUC-1のBamHIサイトに挿入して、pUC-Pgapを構築した。
【0090】
次に、プロモーターで制御されたG418耐性遺伝子(配列番号76)の両側にEcoRI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー69(配列番号87)及び70(配列番号88)を用いたPCRにより調製し、EcoRI処理後にpUC-PaoxまたはpUC-PgapのEcoRIサイトに挿入して、pUC-PaoxG418またはpUC-PgapG418を構築した。
【0091】
次に、CCA38473ターミネーター(配列番号74)にXbaIとSpeI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー65(配列番号83)及び66(配列番号84)を用いたPCRにより調製し、XbaIとSpeI処理後にpUC-PaoxG418またはpUC-PgapG418のXbaIサイトに挿入して、pUC-PaoxT38473G418またはpUC-PgapT38473G418を構築した。
【0092】
次に、AOX1ターミネーター(配列番号72)の両側にXbaI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー61(配列番号79)及び62(配列番号80)を用いたPCRにより調製し、XbaI処理後にpUC-PaoxT38473またはpUC-PgapT38473G418のXbaIサイトに挿入して、pUC-PaoxTaoxT38473G418またはpUC-PgapTaoxT38473G418を構築した。
【0093】
次に、Mating Factorαプレプロシグナル配列が付与された抗リゾチウム一本鎖抗体遺伝子(配列番号89)の両側にBglII認識配列を付加した核酸断片を、プライマー67(配列番号85)及び68(配列番号86)を用いたPCRにより調製し、BglII処理後にpUC-PaoxTaoxT38473G418またはpUC-PgapTaoxT38473G418のBglIIサイトに挿入して、pUC-PaoxscFvTaoxT38473G418またはpUC-PgapscFvTaoxT38473G418を構築した。このpUC-PaoxscFvTaoxT38473G418は、抗リゾチウム一本鎖抗体がAOX1プロモーター制御下で発現するように設計されている。このpUC-PgapscFvTaoxT38473G418は、抗リゾチウム一本鎖抗体がGAPプロモーター制御下で発現するように設計されている。
【0094】
次に、Mating Factorαプレプロシグナル配列が付与されたBGL1遺伝子(配列番号90)の両側にBglII認識配列を付加した核酸断片を、プライマー67(配列番号85)及び71(配列番号96)を用いたPCRにより調製し、BglII処理後にpUC-PaoxTaoxT38473G418のBglIIサイトに挿入して、pUC-PaoxBGL1TaoxT38473G418を構築した。このpUC-PaoxBGL1TaoxT38473G418は、BGL1がAOX1プロモーター制御下で発現するように設計されている。
【0095】
次に、Mating Factorαプレプロシグナル配列が付与されたmUkG1遺伝子(配列番号91)の両側にBglII認識配列を付加した核酸断片を、プライマー67(配列番号85)及び72(配列番号97)を用いたPCRにより調製し、BglII処理後にpUC-PaoxTaoxT38473G418のBglIIサイトに挿入して、pUC-PaoxmUkG1TaoxT38473G418を構築した。このpUC-PaoxmUkG1TaoxT38473G418は、mUkG1がAOX1プロモーター制御下で発現するように設計されている。
【0096】
<実施例3:配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示す塩基配列からなる遺伝子の不活性化用ベクターの構築>
各遺伝子の上流配列(プロモーター)をコマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体DNA混合物をテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターID、不活性化させるポリペプチドのACCESSION No.、ポリペプチドのアミノ酸配列、ポリペプチドをコードする塩基配列、核酸断片の増幅に用いたプライマー(Fw及びRe)の番号及び配列を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
次に、各遺伝子の下流配列(ターミネーター)をコマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体DNA混合物をテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターID、不活性化させるポリペプチドのACCESSION No.、核酸断片の増幅に用いたプライマー(Fw及びRe)の番号及び配列を表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
次に、薬剤耐性遺伝子として、プロモーターで制御されたハイグロマイシン耐性遺伝子(配列番号92)、プロモーターで制御されたClone NAT耐性遺伝子(配列番号93)、プロモーターで制御されたブラストサイジンS耐性遺伝子(配列番号94)、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号75)をテンプレートにして、両側にオーバーラップPCRのための遺伝子上流配列及び下流配列の相同領域を付加した遺伝子断片を、PCRで調製した。ベクターID、不活性化させるポリペプチドのACCESSION No.、核酸断片の増幅に用いたプライマー(Fw及びRe)の番号及び配列、テンプレートを表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
次に、上記で得られた上流核酸断片、下流核酸断片、遺伝子断片をベクターIDごとに混合し、その混合物をテンプレートとして、両側に形質転換のための遺伝子上流配列及び下流配列の相同領域を更に付加した遺伝子断片を、オーバーラップPCRで調製した。ベクターID、不活性化させるポリペプチドのACCESSION No.、核酸断片の増幅に用いたプライマー(Fw及びRe)の番号及び配列を表4に示す。
【0103】
【表4】
【0104】
本ベクターはコマガタエラ・パストリスATCC76273株の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示す塩基配列からなる遺伝子の上流塩基配列(プロモーター)及び下流塩基配列(ターミネーター)を相同領域として、プロモーターで制御された薬剤耐性遺伝子の両側に付加されたベクターであり、宿主細胞に形質転換することで配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化されるように設計されている。
【0105】
<実施例4:形質転換酵母の取得>
実施例2で構築した抗リゾチウム一本鎖抗体発現ベクターpUC-PaoxscFvTaoxT38473G418またはpUC-PgapscFvTaoxT38473G418、BGL1発現ベクターpUC-PaoxBGL1TaoxT38473G418、mUkG1発現ベクターpUC-PaoxmUkG1TaoxT38473G418を用いて、以下のようにコマガタエラ・パストリスを形質転換した。
【0106】
コマガタエラ・パストリスATCC76273株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1~1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
【0107】
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0108】
実施例2で構築した抗リゾチウム一本鎖抗体発現ベクターpUC-PaoxscFvTaoxT38473G418またはpUC-PgapscFvTaoxT38473G418を用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、pUC-PaoxscFvTaoxT38473G418またはpUC-PgapscFvTaoxT38473G418を取得した。本プラスミドを制限酵素処理により直鎖状にした。
【0109】
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-PaoxscFvTaoxT38473G418溶液1μlまたはpUC-PgapscFvTaoxT38473G418溶液1μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清961μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDG418選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.05% G418二硫酸塩(ナカライテスク社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母を取得した。
【0110】
同様にして、BGL1発現ベクターpUC-PaoxBGL1TaoxT38473G418を用いてBGL1発現酵母を、mUkG1発現ベクターpUC-PaoxmUkG1TaoxT38473G418を用いてmUkG1発現酵母を取得した。
【0111】
続いて、実施例3で構築した配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示す塩基配列からなる遺伝子の不活性化用ベクター(CCA39734_Hyg、CCA38267_Hyg、CCA37956_Hyg、CCA37582_Hyg、CCA39503_Hyg、CCA38927_Hyg)を用いて、以下のように抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母、BGL1発現酵母、mUkG1発現酵母を形質転換した。
【0112】
抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母、BGL1発現酵母、mUkG1発現酵母を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1~1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
【0113】
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0114】
このコンピテントセル溶液60μlと実施例3で構築した配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示す塩基配列からなる遺伝子の不活性化用ベクター(CCA39734_Hyg、CCA38267_Hyg、CCA37956_Hyg、CCA37582_Hyg、CCA39503_Hyg、CCA38927_Hyg)3μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製)に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清963μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDHyg選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、100mg/L ハイグロマイシンB(和光純薬社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母、BGL1発現酵母、mUkG1発現酵母を取得した。
【0115】
続いて、実施例3で構築した配列番号1、配列番号5、配列番号7、配列番号9に示す塩基配列からなる遺伝子の不活性化用ベクター(CCA39734_NAT、CCA37956_bsd、CCA37582_Zeo、CCA39503_bsd)を用いて、以下のように抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母、BGL1発現酵母、mUkG1発現酵母を更に形質転換した。
【0116】
上記と同様に配列番号3に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母、BGL1発現酵母、mUkG1発現酵母を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1~1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
【0117】
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0118】
このコンピテントセル溶液60μlと実施例3で構築した配列番号1、配列番号5、配列番号7、配列番号9に示す塩基配列からなる遺伝子の不活性化用ベクター(CCA39734_NAT、CCA37956_bsd、CCA37582_Zeo、CCA39503_bsd)3μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清963μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDNAT選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、100mg/L clone NAT(Werner BioAgent社製))またはYPDbsd選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、500mg/LブラストサイジンS(和光純薬社製))またはYPDZeo選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、100mg/L Zeocin(商標)(InvivoGen社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、配列番号1、配列番号5、配列番号7、配列番号9に示す塩基配列からなる遺伝子が更に不活性化された抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母、BGL1発現酵母、mUkG1発現酵母を取得した。
【0119】
表5に、取得した形質転換酵母を形質転換酵母ID、用いた発現ベクター、用いた遺伝子の不活性化用ベクターで纏めて示す。
【0120】
【表5】
【0121】
<実施例5:遺伝子不活性化の確認>
実施例4で取得した形質転換酵母の染色体DNAをカネカ簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)を用いて調製した。調製した染色体DNA混合物をテンプレートにして遺伝子不活性化の確認をPCRで行った。形質転換に用いた遺伝子の不活性化用ベクターのID、核酸断片の増幅に用いたプライマー(Fw及びRe)の番号及び配列を表6に示す。
【0122】
【表6】
【0123】
遺伝子不活性化の確認は増幅核酸断片の断片長や内部配列の配列解析等にて行った。その結果、実施例4で取得した形質転換酵母の全てにおいて、所望の遺伝子が不活性化されていることを確認した。
【0124】
<実施例6:形質転換酵母の培養>
実施例4で得られた抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母(AOXscFv_1~7)を2mlのBMGY培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、2% Glycerol)に接種し、これを30℃、170rpm、24時間振盪培養後、前培養液を得た。続いて前培養液の菌体濃度をOD600にて測定し、初期OD600が0.5となるように25mlのBMMY培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、2% Methanol)に接種し、これを30℃、170rpm、48時間振盪培養後、遠心分離(12000rpm、5分、4℃)により培養上清を回収した。
【0125】
実施例4で得られた抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母(AOXscFv_1~5、AOXscFv_8~10)、BGL1発現酵母(AOXBGL1_1~5)、mUkG1発現酵母(AOXmUkG1_1~4)を2mlのBMGY培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、2% Glycerol)に接種し、これを30℃、170rpm、24時間振盪培養後、前培養液を得た。2mlのBMMY培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、2% Methanol)に前培養液を200μl植継ぎ、これを30℃、170rpm、72時間振盪培養後、遠心分離(12000rpm、5分、4℃)により培養上清を回収した。
【0126】
実施例4で得られた抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母(GAPscFv_1~5)を2mlのBMGY培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、2% Glycerol)に接種し、これを30℃、170rpm、24時間振盪培養後、前培養液を得た。2mlのBMGY培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、2% Glycerol)に前培養液を200μl植継ぎ、これを30℃、170rpm、72時間振盪培養後、遠心分離(12000rpm、5分、4℃)により培養上清を回収した。
【0127】
<実施例7:ELISA法による抗リゾチウム一本鎖抗体の分泌量の測定>
実施例6で得られた培養上清への抗リゾチウム一本鎖抗体分泌発現量は、サンドイッチELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)法により以下に示す方法で行った。
【0128】
ELISA用プレート(Coaster Assay Plate, 96well Clear, EasywashTM(コーニング社製))に固定化バッファー(8g/L 塩化ナトリウム、0.2g/L 塩化カリウム、1.15g/L リン酸一水素ナトリウム(無水)、0.2g/L リン酸二水素カリウム(無水)、1mM 塩化マグネシウム)にて1μM/mLとなるように溶解したリゾチウム(和光純薬社製)を各ウェル50μlずつ添加し、終夜4℃でインキュベートした。インキュベート後、ウェル中の溶液を除去し、イムノブロック(大日本住友製薬社製)200μlでブロッキングし、室温で1時間静置した。PBSTバッファー(8g/L 塩化ナトリウム、0.2g/L 塩化カリウム、1.15g/L リン酸一水素ナトリウム(無水)、0.2g/L リン酸二水素カリウム(無水)、0.1% Tween20)で3回洗浄後、系列希釈した標準抗リゾチウム一本鎖抗体と希釈した培養上清を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応した。PBSTバッファーで3回洗浄後、PBSTバッファーにて120,000倍希釈した二次抗体溶液(二次抗体:Anti-6X His tag antibody (HRP)(アブカム社製))を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応させた。PBSTバッファーで3回洗浄後、50μlのTMB-1 Component Microwell Peroxidase Substrate SureBlue(KPL社製)を添加し、室温で3分静置した。50μlのTMB Stop Solution(KPL社製)を添加して反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(Envison;パーキンエルマー社製)で450nmの吸光度を測定した。培養上清中の抗リゾチウム一本鎖抗体の定量は、標準抗リゾチウム一本鎖抗体の検量線を用いて行った。この方法により得られた抗リゾチウム一本鎖抗体分泌発現量と各々の菌体濃度(OD660)を表7~9に示した。
【0129】
表7は実施例4で得られた抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母(AOXscFv_1~7)を実施例6の通り25mlのBMMY培地で培養した培養上清の抗リゾチウム一本鎖抗体の分泌発現量の結果を示す。表8は実施例4で得られた抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母(AOXscFv_1~5、AOXscFv_8~10)を実施例6の通り2mlのBMMY培地で培養した培養上清の抗リゾチウム一本鎖抗体の分泌発現量の結果を示す。表9は実施例4で得られた抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母(GAPscFv_1~5)を実施例6の通り2mlのBMGY培地で培養した培養上清の抗リゾチウム一本鎖抗体の分泌発現量の結果を示す。
【0130】
その結果、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示す塩基配列からなる遺伝子を不活性化した株(AOX1scFv_2~7)の抗リゾチウム抗体分泌発現量は、不活性化していない株(AOX1scFv_1)と比較して、約1.2倍~2倍増加した(表7)。配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7に示す塩基配列からなる遺伝子を更に不活性化した株(AOX1scFv_8~10)は、不活性化した遺伝子が増えるごとに抗リゾチウム一本鎖抗体の分泌発現量が増加した(表8)。また配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7に示す塩基配列からなる遺伝子をすべて不活性化した株(AOX1scFv_10)は、不活性化していない株(AOX1scFv_1)と比較して、分泌発現量が約3倍増加した(表8)。抗リゾチウム一本鎖抗体がGAPプロモーター制御下で発現する株においても、不活性化していない株(GAPscFv_1)と比較して、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7に示す塩基配列からなる遺伝子を不活性化した株(GAPscFv_2~5)において、上記と同様に、抗リゾチウム一本鎖抗体の分泌発現量が増加した(表9)。
【0131】
【表7】
【0132】
【表8】
【0133】
【表9】
【0134】
<実施例8:pNPGを発色基質とした比色分析によるBGL1の分泌量の測定>
実施例6で得られた培養上清へのBGL1分泌発現量は、pNitrophenyl-β-D-glucopyranoside(pNPG)を発色基質とした比色分析法により以下に示す方法で行った。
【0135】
96ウェルプレート(アッセイプレート(中結合能)(IWAKI社製))に基質溶液(50mM クエン酸緩衝液(pH 5.0)、2mM pNPG)を各ウェルに97.5μlずつ添加後、培養上清2.5μlを加えて25℃にて10分間反応した。3M炭酸ナトリウム水溶液を100μl添加して反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(Envision;パーキンエルマー社製)で405nmの吸光度を測定した。この方法により得られた吸光度と各々の菌体濃度(OD660)を表10に示した。各吸光度は、BGL1遺伝子を持たない野生型株の吸光度にて補正した。
【0136】
その結果、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7に示す塩基配列からなる遺伝子を不活性化した株(AOXBGL1_2~5)は、不活性化していない株(AOX1scFv_1)と比較して、不活性化した遺伝子が増えるごとに吸光度が増加していた。吸光度はBGL1の酵素活性の指標であり、すべての酵母で同じ配列のBGL1遺伝子を使用していることから、吸光度の増加は、BGL1の分泌発現量の増加を示している。
【0137】
【表10】
【0138】
<実施例9:培養上清の蛍光強度測定によるmUkG1の分泌量の測定>
実施例6で得られた培養上清へのmUkG1分泌発現量は、培養上清の蛍光分析法により以下に示す方法で行った。
黒色96ウェルプレート(マイクロフルオロ1ブラック(IWAKI社製))の各ウェルに実施例6で得られた培養上清150μlを添加し、マイクロプレートリーダー(Envision;パーキンエルマー社製)で蛍光強度(励起波長485nm 蛍光波長510nm)を測定した。この方法により得られた相対蛍光強度と各々の菌体濃度(OD660)を表11に示した。相対蛍光強度は、mUkG1遺伝子を持たない野生型株の蛍光強度で補正し、mUkG1発現酵母株(AOXmUkG1_1)の蛍光強度を1として算出した。
【0139】
その結果、配列番号1、配列番号3に示す塩基配列からなる遺伝子を不活性化した株(AOXmUkG1_2~3)は、不活性化していない株(AOXmUkG1_1)と比較して、相対蛍光強度が増加していた。更に、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7に示す塩基配列からなる遺伝子をすべて不活性化した株(AOXmUkG1_4)は、配列番号1または配列番号3に示す塩基配列からなる遺伝子を不活性化した株(AOXmUkG1_2または3)よりも相対蛍光強度は高く、不活性化してない株(AOXmUkG1_1)と比較して、2倍の蛍光強度を示した。緑色蛍光タンパク質mUkG1は、タンパク質の分子数と蛍光強度が相関していることから、蛍光強度の増加は分泌発現量の増加を示している。
【0140】
【表11】
【配列表】
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