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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】光学フィルターを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20230307BHJP
【FI】
G02B5/28
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018045615
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2018156078
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】10 2017 105 642.4
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ ゲオアク ブラウネック
(72)【発明者】
【氏名】ディアク アピッツ
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-248116(JP,A)
【文献】特開2002-040237(JP,A)
【文献】特開2011-253078(JP,A)
【文献】特開2012-235411(JP,A)
【文献】特開2013-231965(JP,A)
【文献】特開2004-246263(JP,A)
【文献】特開2012-103277(JP,A)
【文献】特開2003-098297(JP,A)
【文献】特開2000-047027(JP,A)
【文献】特開2017-044797(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102116917(CN,A)
【文献】特開2008-158258(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0133208(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学フィルター(1)を製造する方法であって、前記光学フィルターは、少なくとも1つの光透過スペクトル範囲と少なくとも1つの遮光スペクトル範囲とを有するショートパスフィルター、ロングパスフィルターまたはバンドパスフィルターのいずれかであり、かつ少なくとも1,225平方ミリメートルの開口面積、少なくとも50ミリメートルの直径または少なくとも50ミリメートルの対角線を有しており、前記光透過スペクトル範囲内での前記光学フィルター(1)の平均透過率は、50%よりも高く、かつ前記遮光スペクトル範囲内での平均透過率は、5%未満であり、前記方法は、
- それぞれが対向する2つの主面(31)を有する基板(3)を含む複数の光学素子(2)を準備することと、
- 前記光学素子の少なくとも2つを所定の距離で保持するために、少なくとも1つのスペーサー(6)または表面隠蔽接着層を準備することと、
- 前記複数の光学素子(2)が互いに隣接して配置されるように、かつ少なくとも2つの隣接する光学素子が前記少なくとも1つのスペーサー(6)によって所定の距離でその間にキャビティ(7)を伴って保持されるように、前記複数の光学素子(2)を組み立てることと、
- 前記光学フィルター(1)の光学特性に関する少なくとも1つの検査特性を求め、前記少なくとも1つの検査特性を、前記複数の光学素子(2)を最適化して組み立てるために、かつ/または前記光学素子(2)の少なくとも1つに関して少なくとも1つの精緻化工程を実行するために使用すること
とを含む、光学フィルター(1)を製造する方法。
【請求項2】
請求項1記載の光学フィルター(1)を製造する方法であって、前記光学素子(2)の少なくとも1つの前記基板(3)の前記主面(31)の少なくとも1つをコーティング材料の層でコーティングすることを含む、前記方法。
【請求項3】
前記主面を、スパッタ堆積によってコーティングして、請求項2記載の光学フィルター(1)を製造する方法であって、
- 前記スパッタ堆積中に、コーティング材料の層の空間分布および/または厚さに影響を及ぼすために堆積マスクを使用すること、および/または
- 前記スパッタ堆積中に、コーティング材料の層の空間分布および/または厚さに影響を及ぼすために磁場を使用すること
を含む、前記方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)を製造する方法であって、
- 前記検査特性として透過波面の歪みを求めることを含み、前記透過波面の歪みは、前記光学フィルター(1)全体または前記複数の光学素子(2)の少なくとも1つのいずれかである光学系の少なくとも1つの試験波長に対して測定し、
- 前記透過波面の歪みは、前記光学系の光軸の方向において前記光学系を透過する試験波長の平面波の透過波面の計算領域にわたって規則的に分布された少なくとも1,000個の点についての差分の標準偏差として定義され、前記差分は、前記透過波面と、前記光軸に垂直で少なくとも1,000個の点の平均値に位置する平面との間の光軸の方向における距離を指定し、前記透過波面の前記計算領域は、前記光軸に垂直な平面領域を前記光軸に沿って前記透過波面上に投影したものであり、
- 前記求めた透過波面の歪みを、指定の品質基準と比較することを含み、前記指定の品質基準は、前記求めた透過波面の歪みが、前記少なくとも1つの試験波長の半分未満であることを規定する、前記方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)を製造する方法であって、
- 前記検査特性として特性波長の変動率を求めることを含み、前記特性波長の変動率は、前記光学フィルター(1)全体または前記複数の光学素子(2)の少なくとも1つのいずれかである光学系の開口面積にわたって測定し、
- 前記特性波長は、前記光透過スペクトル範囲の2つの間の遷移波長または前記光透過スペクトル範囲の1つの中心波長であり、前記遷移波長は、前記光透過スペクトル範囲と前記遮光スペクトル範囲との間の、前記光学系の透過率が
【数1】
である波長として定義され、
【数2】
は、前記光透過スペクトル範囲内での平均透過率であり、かつ
【数3】
は、前記遮光スペクトル範囲内での平均透過率であり、
- 前記特性波長の求めた変動率を、前記特性波長の求めた変動率が±0.25%未満であることを規定する指定の品質基準と比較することを含む、前記方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)を製造する方法であって、
- 前記検査特性としてエッジ急峻度を求めることを含み、前記エッジ急峻度は、前記光学フィルター(1)全体または前記複数の光学素子(2)の少なくとも1つのいずれかである光学系から測定し、
- 前記エッジ急峻度は、
【数4】
として定義され、
【数5】
は、前記遮光スペクトル範囲に面した前記光透過スペクトル範囲の境界波長であり、かつ
【数6】
は、前記光透過スペクトル範囲に面した前記遮光スペクトル範囲の境界波長であり、
- 前記求めたエッジ急峻度を、前記求めたエッジ急峻度が2%未満であることを規定する指定の品質基準と比較することを含む、前記方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)を製造する方法であって、
- 前記検査特性として透過スペクトルおよび/または反射スペクトルを求めることを含み、前記透過スペクトルおよび/または反射スペクトルは、前記光学フィルター(1)全体または前記複数の光学素子(2)の少なくとも1つのいずれかである光学系から測定し、
- 前記測定した透過スペクトルおよび/または反射スペクトルを、所定の品質基準と比較することを含む、前記方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)を製造する方法であって、
- 前記検査特性として層厚の空間変動率を求めることを含み、前記層厚の変動率は、前記光学素子(2)の少なくとも1つの前記基板(3)の前記主面(31)の少なくとも1つに堆積されたコーティング材料の層から求め、
- 前記求めた層厚の空間変動率を、指定の品質基準と比較することを含む、前記方法。
【請求項9】
請求項記載の光学フィルター(1)を製造する方法であって、
- 前記複数の光学素子の第1の光学素子の第1の検査特性を、前記複数の光学素子(2)を組み立てる前に求めることと、
- 前記複数の光学素子の第2の光学素子の第2の検査特性を、前記複数の光学素子(2)を組み立てる前に求めることと、
- 前記求めた第1の検査特性と前記求めた第2の検査特性とに基づいて、相対検査特性を計算することと、
- 前記計算した相対検査特性を、指定の品質基準と比較することと、
- 前記相対検査特性を、前記複数の光学素子(2)の前記第1の光学素子と前記第2の光学素子とを、前記第1の光学素子と前記第2の光学素子との最適化された幾何学的位置関係、前記光軸に対するそれらの相対回転角度および/または前記光軸に沿ったそれらの相対配向および/または相対距離を伴って組み立てるために使用すること
とを含む、前記方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)を製造する方法であって、
- 前記光学フィルター(1)全体または前記複数の光学素子(2)の少なくとも1つのいずれかである光学系の少なくとも1つの検査特性を、前記複数の光学素子(2)の少なくとも部分的な組立て後に求めることと、
- 前記求めた少なくとも1つの検査特性を、指定の品質基準と比較することと、
- 前記少なくとも1つの検査特性が前記指定の品質基準を満たすか否かの決定を下し、前記決定が否定的なものである場合、前記光学素子の少なくとも1つに関して少なくとも1つの精緻化工程を実行し、前記決定が否定的なものである場合、前記決定が肯定的なものになるまで、先行する工程を繰り返すこと
とを含む、前記方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)を製造する方法であって、前記光学素子の少なくとも1つに関して精緻化工程を実行することを含み、前記精緻化工程は、
- 前記少なくとも1つの光学素子を取り外すこと、
- 前記少なくとも1つの光学素子を研磨すること、および/または
- 前記堆積マスクを調整すること、および/または
- 前記磁場を調整すること、および/または
- スパッタ堆積によって前記少なくとも1つの光学素子の前記基板(3)の前記主面(31)の少なくとも1つを再コーティングすること、および/または
- 前記少なくとも1つの光学素子の配向を調整すること、および/または
- 前記光軸の周りの前記少なくとも1つの光学素子の回転角度を調整すること、および/または
- 前記光軸上の前記少なくとも1つの光学素子の位置を調整すること
を含む、前記方法。
【請求項12】
光学フィルター(1)であって、前記光学フィルター(1)が、少なくとも1つの光透過スペクトル範囲と少なくとも1つの遮光スペクトル範囲とを有するショートパスフィルター、ロングパスフィルターまたはバンドパスフィルターのいずれかであり、前記光学フィルター(1)が少なくとも2つの光学素子(2)を含み、前記2つの光学素子(2)はそれぞれが、対向する2つの主面(31)を有する基板(3)を含み、前記2つの光学素子(2)は、スペーサー(6)または表面隠蔽接着層により互いに隣接して配置されており、前記光学フィルター(1)が、以下の特徴の1つ以上によって特徴付けられる:
- 前記光学フィルター(1)は、少なくとも1,225平方ミリメートルの開口面積を有する、
- 少なくとも1つの試験波長に対する前記光学フィルター(1)の透過波面の歪み(TWD)は、前記少なくとも1つの試験波長の半分未満である、
- 前記光学フィルターの前記開口面積にわたる特性波長の変動率は、±0.25パーセント未満である、
前記光学フィルター(1)。
【請求項13】
請求項12記載の光学フィルター(1)であって、前記光学フィルター(1)の透過率が、前記少なくとも1つの光透過スペクトル範囲と前記少なくとも1つの遮光スペクトル範囲との間で、2%未満のエッジ急峻度を有する遷移領域を有する、前記光学フィルター(1)。
【請求項14】
請求項12または13記載の光学フィルター(1)であって、前記光学フィルター(1)が、複数の光学素子(2)と少なくとも1つのスペーサー(6)とを含み、前記光学素子(2)は、互いに隣接して、かつ少なくとも2つの隣接する光学素子が前記少なくとも1つのスペーサー(6)によって所定の距離でその間にキャビティ(7)を伴って保持されるように配置されている、前記光学フィルター(1)。
【請求項15】
請求項12から14までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)であって、前記主面(31)の少なくとも1つが、少なくとも1つの光学層(4)でコーティングされている、前記光学フィルター(1)。
【請求項16】
請求項12から15までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)であって、前記少なくとも1つの光学素子(2)の前記基板(3)が、光学ガラス、工業用ガラス、フィルターガラス、赤外材料または結晶である、前記光学フィルター(1)。
【請求項17】
請求項12から16までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)であって、少なくとも1つの光学素子(2)の前記基板(3)の前記主面の少なくとも1つが、平坦に、凸状または凹状に形成されている、前記光学フィルター(1)。
【請求項18】
請求項12から17までのいずれか1項記載の光学フィルター(1)であって、以下の特徴の少なくとも1つを有する、前記光学フィルター(1):
- 前記光学素子の少なくとも1つが研磨されたものである、および/または
- 堆積マスクが調整されている、および/または
- 磁場が調整されている、および/または
- 基板の主面の少なくとも1つが、スパッタ堆積によってコーティングされている、および/または
- 少なくとも1つの光学素子の配向が調整されている、および/または
- 光軸の周りの回転角度が調整されている、および/または
- 光軸上の位置が調整されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルター、特に、その光学特性が顧客指定の品質基準に適う顧客指定の製品としての光学フィルターを製造する分野に関する。本発明はさらに、一般的に光学フィルターに関する。
【0002】
光学フィルターは、ある一定の規準に従って放射線を選択するために使用される。例えば、光学的なショートパスフィルター、ロングパスフィルターまたはバンドパスフィルターは、典型的には互いに非常に異なる光透過率を有する少なくとも2つまたは3つのスペクトル範囲によって特徴付けられる。光透過率が非常に低いスペクトル範囲は、遮光範囲と呼ばれることがあり、光がフィルターを通過するのを妨げる一方で、光透過率がより高いスペクトル範囲は、フィルターを通過する入射光の波長を選択する。遮光スペクトル範囲と光透過スペクトル範囲との間では、透過率曲線の急峻な傾斜がしばしば所望されており、そのため高いエッジ急峻度が与えられる。
【0003】
さらに、光学フィルターの分光特性は、開口面積にわたって可能な限り一定に保たれること、すなわち、開口面積のあらゆる面積要素に対して一定のままであることが頻繁に所望されている。このような高い光学的均質性を達成することは、開口面積が増大するにつれて特に困難になる。
【0004】
光学フィルターの品質に関する更なる特徴的な値は、光学フィルターを通過したときに波面が受ける変化を説明する透過波面歪みである。透過波面歪みは、光学フィルターにおいて使用される光学素子の表面の精度と関係がある。したがって、大開口面積では、低い透過波面歪みを達成することもますます困難になる。
【0005】
その結果、波面の歪みが低く、エッジ急峻度が高い大口径の均質なフィルターを製造することは困難であることが知られている。さらに、光学フィルターの従来の大量生産の場合、光学特性の公差は、個別(各フィルターごと)に最適化されないことが多い。
【0006】
本発明の課題は、光学特性の公差が最小である光学フィルターの製造を可能にすることであり、特に、一つ一つの光学フィルターに個別に最適化された光学特性を有する光学フィルターを提供することである。
【0007】
本発明の1つの態様は、大開口面積、低い透過波面歪み、高いスペクトル均一性および/または高いエッジ急峻度を、特に同時にかつ顧客指定の品質基準に従って有する、光学フィルターを製造するための概念を提供することである。
【0008】
本発明の課題は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項に開示されている。
【0009】
本発明は、光学フィルター、それも特に、その光学特性が顧客指定の品質基準に適う顧客指定の製品としての光学フィルターを製造する方法を提供する。
【0010】
この方法は、少なくとも1つの光透過スペクトル範囲と少なくとも1つの遮光スペクトル範囲とを有するショートパスフィルター、ロングパスフィルターまたはバンドパスフィルターのいずれかである光学フィルターを製造するために適しており、光透過スペクトル範囲内での光学フィルターの平均透過率は、50%を超え、好ましくは70%を超え、特に好ましくは80%を超え、かつ遮光スペクトル範囲内での平均透過率は、5%未満である。
【0011】
光透過スペクトル範囲は、例えば、0.1ナノメートルよりも高く、好ましくは200ナノメートルよりも高く、かつ12,000ナノメートル未満、好ましくは10,000ナノメートル未満の幅を有することができる。
【0012】
光学フィルターを製造する方法は、少なくとも2つ(すなわち複数)の光学素子を提供することを含み、ここで、各光学素子は、2つの対向する主面を有する基板を含む。光学素子のサイズは、好ましくは、光学フィルターの開口面積に等しい(またはそれよりもわずかに大きい)。
【0013】
この方法はさらに、光学素子の少なくとも2つを、所定の距離、好ましくは1,000マイクロメートル未満の公差で保持するための少なくとも1つのスペーサーを準備することを含む。この距離は、特に、自由空間光学系における通常の距離よりも大きくてよい。スペーサーおよびエアギャップを使用する代わりに、表面隠蔽接着層も使用することができる。接着層を硬化する際、安定化のために、硬化後に除去することができる追加のスペーサーを使用することができる。
【0014】
このような場合、厚さむらだけでなく、構成要素の平坦度も役割を果たし得ることから、接着プロセス後、公差を保つために局所研磨プロセスが有利であり得る。
【0015】
この方法はさらに、複数の光学素子を、それらが互いに隣接して配置されるように、かつ少なくとも2つの隣接する光学素子が少なくとも1つのスペーサーによって所定の距離でその間にキャビティを伴ってしっかりと保持されるように組み立てることを含む。さらに、各光学素子の各主面の中心における面法線が、5度未満、好ましくは5分角未満の偏差で、光学フィルターの光軸と平行であるように組み立てることが好ましい。
【0016】
本発明との関わりにおいて、この方法はさらに、例えばフィルターまたはその構成要素の実験的測定によって、光学フィルターの光学特性に関する少なくとも1つの検査特性(Pruefeigenschaft)を求めることを含む。検査特性は、複数の光学素子を最適化して組み立てるために、かつ/または光学素子の少なくとも1つに関して少なくとも1つの精緻化工程(Verfeinerungsschritt)を実行するために役立てられる。
【0017】
特に従来の大量生産と比較した利点は、各フィルターが、例えば、実験的に測定された値に応じて個々に調整されることである。換言すると、すべてのフィルターが同じように組み立てられるわけではなく、むしろ、製造されるべき各フィルターについて、個々に最適化を行うことができる。このような顧客指定の手順は、フィルターの構成要素の製造または加工中に生じることがある公差および/または偏差の補償および/または減少を可能にする。
【0018】
この方法は、少なくとも1,225平方ミリメートルの開口面積、特に、少なくとも50ミリメートルの直径(例えば、開口面積が円形である場合)または少なくとも50ミリメートルの対角線(例えば、開口面積が正方形である場合)を有する光学フィルターを製造するために特に有利である。
【0019】
本発明の実施形態では、この方法はさらに、光学素子の少なくとも1つの基板の少なくとも1つの主面をコーティング材料の層でコーティングすることを含む。
【0020】
コーティングは、特に、スパッタ堆積によって行うことができる。その際、コーティング材料の層の空間分布および/または厚さに影響を及ぼすために、スパッタ堆積中に、場合によっては堆積マスクを使用することができる。
【0021】
それに、スパッタ堆積の場合、コーティング材料の層の空間分布および/または厚さに影響を及ぼすために、スパッタ堆積中に、任意に磁場を使用することができる。
【0022】
換言すると、特にマグネトロンスパッタ堆積(マグネトロンスパッタリング)を利用することができる。更なる好ましい可能性は、イオンビームスパッタ堆積(イオンビームスパッタリング)を利用することである。
【0023】
以下では、光学フィルターを個々に調整するために利用することができる実験的に測定可能ないくつかの検査特性について説明する。
【0024】
したがって、この方法は、本発明の1つの実施形態によれば、検査特性として透過波面歪み(TWD、英語:transmitted wavefront distortion)を求めることを含む。透過波面歪みは、光学フィルター全体またはその光学素子の少なくとも1つのいずれかである光学系を通過する少なくとも1つの試験波長、好ましくは632.8ナノメートルの放射に対して求められる。言い換えれば、検査特性としてのTWDは、完全に組み立てられた光学フィルターそれ自体または光学フィルターの少なくとも1つの光学素子を含む部分系のいずれかをもとにして測定される。
【0025】
好ましくは、透過波面歪みは、光学系の光軸の方向において光学系を透過する試験波長の平面波の透過波面の計算領域(以下でさらに詳述する)にわたって規則的にまたは統計的に分布された少なくとも1,000個の点についての差分(以下でさらに詳述する)の標準偏差として定義される。
【0026】
上述の差分は、透過波面と、光軸に垂直で少なくとも1,000個の点の平均値に位置する平面との間の光軸の方向における距離を指定する。
【0027】
上述の透過波面の計算領域は、光軸に垂直な平面領域(好ましくは直径25.4ミリメートルの円形領域)を光軸に沿って波面上に投影したものである。あるいは、計算領域は、開口面積にも対応し得る。
【0028】
透過波面歪みを、一連の計算領域、例えば、直径25.4ミリメートルの円形領域について測定し、そうして、全開口面積(または他の、特に顧客指定の面積、例えば、100×100もしくは80×30ミリメートルの面積もしくは100もしくは160ミリメートルの直径を有する面積)が一連の計算領域によってカバーされることが特に好ましいと規定され得る。
【0029】
好ましくは、本発明のこの実施形態は、求めた透過波面歪みを、指定の品質基準と比較することを含む。指定の品質基準は、特に、求めた透過波面歪みが、少なくとも1つの試験波長の半分未満、好ましくは1/4未満、さらに好ましくは1/8未満、特に好ましくは1/12未満であることを規定し得る。一連の計算領域の各計算領域に対してこの条件が満たされることが、このような一連のものを上記のように使用する場合、特に好ましいと規定され得る。
【0030】
本発明の別の実施形態によれば、この方法は、検査特性として特性波長の変動率(Schwankung einer charakteristischen Wellenlaenge)を求めることを含み、特性波長のこの変動率は、光学フィルター全体またはその光学素子の少なくとも1つのいずれかである光学系の開口面積にわたって測定される。言い換えれば、検査特性としての特性波長の変動率は、完全に組み立てられた光学フィルターそれ自体、または光学フィルターの少なくとも1つの光学素子を含む部分系のいずれかをもとにして求められる。
【0031】
好ましくは、特性波長は、光透過スペクトル範囲と遮光スペクトル範囲との間の、光学系の透過率が
【数1】
である波長として定義され、
【数2】
は、光透過スペクトル範囲内での平均透過率であり、かつ
【数3】
は、遮光スペクトル範囲内での平均透過率である。この場合、特性波長は、遷移波長、または換言するとエッジ位置である。特性波長は、特定のスペクトル範囲の中心波長、例えば、2つの遮光スペクトル範囲の間に光透過スペクトル範囲を含むバンドパスフィルターの光透過スペクトル範囲の中心波長であってもよい。この場合、特性波長は、特に、それぞれの2つの遷移波長の平均値として定義されていてよい。
【0032】
好ましくは、本発明のこの実施形態は、特性波長の求めた変動率を、特性波長の求めた変動率が±0.25%未満、好ましくは±0.15%未満であることを特に規定する指定の品質基準と比較することを含む。
【0033】
言い換えれば、この品質基準は、開口面積の異なる面積要素に対する特性波長の標準偏差が±0.25%未満、好ましくは±0.15%未満であることを要求する。
【0034】
本発明のさらに別の実施形態によれば、この方法は、検査特性としてエッジ急峻度を求めることを含む。このエッジ急峻度は、光学フィルター全体またはその光学素子の少なくとも1つのいずれかである光学系から測定される。
【0035】
好ましくは、このエッジ急峻度は、
【数4】
として定義され、
【数5】
は、遮光スペクトル範囲に面した光透過スペクトル範囲の境界波長であり、かつ
【数6】
は、光透過スペクトル範囲に面した遮光スペクトル範囲の境界波長である。
【0036】
例えば、ショートパスフィルターの場合、
【数7】
は、光透過スペクトル範囲の上限境界波長であってよく、
【数8】
は、遮光スペクトル範囲の下限境界波長であってよい。対照的に、ロングパスフィルターの場合、
【数9】
は、光透過スペクトル範囲の下限境界波長であってよく、
【数10】
は、遮光スペクトル範囲の上限境界波長であってよい。
【0037】
好ましくは、本発明のこの実施形態は、求めたエッジ急峻度を、求めたエッジ急峻度が2%未満、好ましくは0.7%未満であることを特に規定する指定の品質基準と比較することを含む。
【0038】
本発明のさらに別の実施形態によれば、この方法は、検査特性として透過スペクトルおよび/または反射スペクトルを求めることを含み、この透過スペクトルおよび/または反射スペクトルは、光学フィルター全体またはその光学素子の少なくとも1つのいずれかである光学系から測定される。
【0039】
好ましくは、本発明のこの実施形態は、求めた透過率および/または反射スペクトルを、指定の品質基準と比較することを含む。
【0040】
本発明のさらに別の実施形態によれば、この方法は、検査特性として層厚の空間変動率を求めることを含み、層厚のこの変動率は、光学素子の少なくとも1つの基板の主面に堆積されたコーティング材料の層から求められる。
【0041】
好ましくは、本発明のこの実施形態は、層厚のこの求めた空間変動率を、指定の品質基準と比較することを含む。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、この方法は、第1の光学素子の第1の検査特性を、好ましくは複数の光学素子を組み立てる前に求めることと、第2の光学素子の第2の検査特性を、同様に好ましくは複数の光学素子を組み立てる前に求めることとを含む。
【0043】
求めた第1の検査特性と求めた第2の検査特性とに基づいて、相対検査特性が計算され、好ましくは所定の品質基準と比較される。
【0044】
相対検査特性は、第1と第2の光学素子とを互いに最適化された幾何学的位置関係を伴って組み立てるために利用される。特に、光軸に対するそれらの相対回転角度および/または光軸に沿ったそれらの相対配向および/または相対距離は、相対検査特性に応じて調整することができる。
【0045】
本発明の更なる好ましい実施形態によれば、この方法は、光学フィルター全体またはその光学素子の少なくとも1つのいずれかの検査特性を、好ましくは複数の光学素子の少なくとも部分的な組立て後に求めることを含む。
【0046】
そのとき、求めた検査特性は、この検査特性に対する指定の品質基準と比較されることで、求めた検査特性が、指定の品質基準を満たすか否かの決定が下される。
【0047】
決定が否定的なものである場合、すなわち、品質基準に達しない、つまり、品質基準が満たされない場合、光学素子の少なくとも1つに関して少なくとも1つの精緻化工程(以下でさらに言及する)が実行される。さらに、精緻化後、決定が肯定的なものになるまで、検査特性、特に同じ特性を求め、それを品質基準と比較する工程を繰り返すことが好ましい。
【0048】
光学フィルター全体または既に少なくとも部分的に組み立てられた構成要素について検査特性が測定される場合、光学素子に関する精緻化工程の前に分解することができる。
【0049】
このプロセスは、有利には、光学フィルターの光学特性の反復改善を可能にする。
【0050】
本発明の1つの実施形態によれば、この方法は、光学素子の少なくとも1つに関して精緻化工程を実行することを含む。光学素子に関する精緻化工程は、まず光学素子を分解することを含み得る。精緻化工程はさらに、光学素子を研磨することを含み得る。
【0051】
スパッタ堆積が用いられる場合、精緻化工程は、堆積マスク、特に堆積マスクの形状の調整、および/または磁場、特に磁場の空間分布の調整を含み得る。精緻化工程はさらに、スパッタ堆積によって光学素子の基板の主面の少なくとも1つを再コーティングすることを含み得る。再コーティングは、特に、先行するコーティング上で実行することができ、コーティングの厚さの空間変動を補償することができる。
【0052】
光学素子の組立てに関して、精緻化工程はさらに、隣接する光学素子に対する少なくとも1つの光学素子の配向を調整すること、すなわち、光学素子の配向を逆にすること、および/または光軸の周りの光学素子の回転角度を調整すること、および/または光軸上の光学素子の位置を調整することを含み得る。
【0053】
本発明の利点は、特に、同時に複数の光学特性を同時に最適化することができることである。したがって、最適化され、検証された低い透過波面歪み、高いスペクトル均一性、高いエッジ急峻度、および大開口面積によって同時に特徴付けられる光学フィルターを製造することができる。そのうえ、低い透過波面歪みは、特に、例えば360ナノメートルから1,100ナノメートルまでの全スペクトル範囲において、単に1つの試験波長だけでなくそれ以上の試験波長で最適化され、検証され得る。
【0054】
本発明はさらに、少なくとも1つの光透過スペクトル範囲と少なくとも1つの遮光スペクトル範囲とを有するショートパスフィルター、ロングパスフィルターまたはバンドパスフィルターのいずれかである光学フィルターに関する。
【0055】
光学フィルターは、2つの対向する主面を有する基板を含む少なくとも1つの光学素子を含む。
【0056】
さらに、光学フィルターは、以下の特徴の1つ以上によって特徴付けられる:(i)光学フィルターは、少なくとも1,225平方ミリメートルの開口面積を有する;(ii)少なくとも1つの試験波長、好ましくは632.8ナノメートルに対する光学フィルターの透過波面歪み(TWD)は、試験波長の半分未満、好ましくは1/4未満、特に好ましくは1/8未満である;(iii)光学フィルターの開口面積にわたる特性波長の変動率は、±0.25パーセント未満、好ましくは±0.15パーセント未満である。
【0057】
光学フィルターの実施形態では、光学フィルターの透過率は、光透過スペクトル範囲と遮光スペクトル範囲との間で、2%未満、好ましくは0.7%未満のエッジ急峻度を有する遷移領域を有する。
【0058】
光学フィルターの更なる実施形態では、フィルターは、2つ以上の光学素子(すなわち複数の光学素子)と少なくとも1つのスペーサーとを含み、光学素子は、互いに隣接して、少なくとも2つの隣接する光学素子がスペーサーによって所定の距離でその間にキャビティを伴ってしっかりと保持されるように配置されている。好ましくは、光学素子の主面の中心における面法線は、5度未満、好ましくは5分角未満の偏差で、光学フィルターの光軸と平行である。
【0059】
光学フィルターの更なる実施形態では、主面の少なくとも1つは、少なくとも1つの光学層でコーティングされている。
【0060】
光学フィルターの更なる実施形態によれば、少なくとも1つの光学素子の基板は、光学ガラス(例えば、BK7、SCHOTT N-BK7、B270、D263E、石英ガラス)、工業用ガラス(例えば、Borofloat(登録商標)、Xensation(登録商標)Cover、AF32)、フィルターガラス(例えば、RG715、BG55)、赤外材料(例えば、ZnS、ZnSe、Ga、Si、カルコゲナイドガラス)、または結晶(例えば、サファイアまたはフッ化カルシウム)である。基板は、2つ以上の材料からなるサンドイッチであってもよい。
【0061】
光学フィルターの更なる実施形態では、少なくとも1つの光学素子の基板の主面の少なくとも1つは、平坦に、凸状または凹状に形成されている。
【0062】
下記では、本発明をより詳細に説明し、図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】コーティング層を有する光学素子の概略図を示す図である。
図2】複数の光学素子を含む光学フィルターの概略図を示す図である。
図3】光学素子およびスペーサーを含む光学フィルターの断面図を示す図である。
図4】本発明による光学バンドパスフィルターの開口上の5つの異なる位置における分光透過率曲線を示す図である。
図5】本発明による更なる光学バンドパスフィルターの開口上の5つの異なる位置における分光透過率曲線を示す図である。
図6】本発明による光学フィルターを透過した波面の25×25ミリメートルの領域内での測定の密度プロットを示す図であって、この測定は、透過波面歪みを求めるために適している。
図7】本発明による光学フィルターを透過した更なる波面の101×96ミリメートルの領域内での測定の密度プロットを示す図であって、この測定は、透過波面歪みを求めるために適している。
図8】本発明による光学フィルターを透過したさらに別の波面の25×25ミリメートルの領域内での測定の密度プロットを示す図であって、この測定は、透過波面歪みを求めるために適している。
図9】本発明による光学フィルターを透過したさらに別の波面の101×96ミリメートルの領域内での測定の密度プロットを示す図であって、この測定は、透過波面歪みを求めるために適している。
【0064】
好ましい実施形態の詳細な説明
図1aおよび図1bを参照すると、光学素子2は、2つの主面31を有する基板3を含む。この例では、光学素子2は、矩形に形成されており、主面31は、平坦である。主面31に垂直である面法線311は、光学素子2の光軸を定める。
【0065】
図1aを参照すると、光学素子2の主面31の1つは、光学層4でコーティングされている。この薄膜層は、基板2の屈折率および光学素子2を取り囲む大気または空気の屈折率とは異なる屈折率を有する。光学層4は、例えば、空気とガラスの境界での反射能を減少させる反射防止コーティングであってもよい。光学層4の厚さは、例えば、光学フィルター2の光透過スペクトル範囲内の波長の1/4であってよい。
【0066】
図1bを参照すると、主面31の1つは、二重層、すなわち2つの光学層4でコーティングされている。2つの光学層4は、異なる材料を含んでいてよく、異なる屈折率を有していてよい。このような二重層コーティングは、例えば、単一層によるコーティングと比較して反射率を減少させるために利用することができる。
【0067】
光学素子2の他方の主面31にも同様に光学層4がコーティングされている。当業者には分かるように、図示されたコーティングは、例としてのみ理解される。特に、光学素子2の一方の主面31または両方の主面31にずっと多くの数の層を適用することも所望され得る。
【0068】
図2を参照すると、光学フィルター1は、隣り合う形で配置された複数の光学素子2を含み、ここで、図2aでは、光学素子は、矩形の形状(例えば、少なくとも75ミリメートル、好ましくは少なくとも100ミリメートル、特に好ましくは少なくとも150ミリメートルの対角線を有する)を有し、図2bでは、光学素子は、円板形状(例えば、少なくとも75ミリメートル、好ましくは少なくとも100ミリメートル、特に好ましくは少なくとも150ミリメートルの直径を有する)である。
【0069】
光学素子2は、隣接する光学素子2の各ペア間にキャビティ7、すなわち隙間が形成されるように隣り合う形で配置されている。光学素子2の面法線31は、実質的に互いに平行であり(少なくとも、例えば30分角未満の狭い公差内で)光学フィルター1の光軸5を定める。
【0070】
光学フィルター1を光波が通過するとき、光波の波面は、例えば(理想的な場合には)光軸5に垂直であり、光軸5の方向に沿って伝搬し得る。
【0071】
光学フィルター1は、遮光スペクトル範囲と相接する光透過スペクトル範囲を有するショートパスフィルターまたはロングパスフィルターであってよく、ここで、光透過スペクトル範囲は、例えば、80%よりも高い平均透過率
【数11】
を有することができる一方で、遮光スペクトル範囲は、例えば、5%未満の平均透過率
【数12】
を有することができる。したがって、光透過スペクトル範囲内での高い透過率から遮光スペクトル範囲内での低い透過率へと向かう光学フィルター1の透過率の遷移部が存在する。透過率が平均値
【数13】
を取る波長は、遷移波長と呼ぶことができ、これは、ショートパスフィルターまたはロングパスフィルターのエッジ位置も定める。エッジ位置は、例えば、190~3,000ナノメートルの間隔内での値であり得る。
【0072】
光学フィルター1は、光透過スペクトル範囲の両側に位置する2つの遮光スペクトル範囲と相接する光透過スペクトル範囲を有するバンドパスフィルターであってもよい。バンドパスフィルターは、光透過スペクトル範囲の中心における中心波長によって特徴付けられることができる。中心波長は、例えば、200~3,000ナノメートルの間隔内での値を取ることができる。
【0073】
光学フィルター1の品質の1つの側面が、全自由開口にわたる特性波長、例えば中心波長または遷移波長などの変動率である。本発明との関わりの中で、このような変動率は、光学素子2および/またはそれらの配置に関する一連の精緻化工程を用いて減少させることができる。好ましい品質基準によれば、このような特性波長(例えば、バンドパスの場合の中心波長、またはショートパスもしくはロングパスの場合の遷移波長)の変動率が、全自由開口にわたって特性波長の±0.25%以下であることが規定されていてよい(peak-to-valleyの場合)。更なる好ましい品質基準によれば、このような特性波長の変動率が、25.4ミリメートルの各直径について特性波長の±0.1%以下であることが規定されていてよい(peak-to-valleyの場合)。
【0074】
実際のところ、光学素子2の主面31は、典型的には、表面上に1つ以上のコーティング層を適用した結果でもあり得る最小の凹凸を有する。これらの凹凸は、波面、例えば、光学フィルター1を通過する633ナノメートルの光波の歪み、すなわち、いわゆる透過波面歪み(TWD、英語:transmitted wavefront distortion)を引き起こす可能性がある。本発明との関わりにおいて、TWDは、(例えば、シャックハルトマンセンサーを用いて)測定することができ、さらに減少させることができ、それも光学素子2および/またはそれらの配置に関する一連の精緻化工程を用いて減少させることができる。
【0075】
したがって、光学フィルター1は、有利には、非常に低い透過波面歪みによって特徴付けられ、これは特に、直径100ミリメートルにわたって632.8ナノメートルの試験波長の半分未満であり得る(peak-to-valleyの場合)か、または特に、80×30ミリメートルの面積にわたって633ナノメートルで試験波長の1/4未満であり得る。好ましくは、光学フィルター1は、25ミリメートルの各直径について試験波長の1/8未満のTWDも有することができる。
【0076】
本発明の実施形態によれば、光学フィルター1および/または1つ以上の光学素子2のTWDを、試験スペクトル範囲、例えば360ナノメートルから1,100ナノメートル、好ましくは300ナノメートルから2,000ナノメートル、より好ましくは190ナノメートルから3,000ナノメートルに及ぶ範囲について調べる。このために、検査特性としてのTWDの測定(および精緻化工程)を、複数の試験波長について、例えば、試験スペクトル範囲にわたって広がっている10個の試験波長について実施することができる。
【0077】
図3を参照すると、光学素子2は、スペーサー6によって所定の距離で互いに隣接して保持される。スペーサー6は、例えば、図3aに示されるように、光学フィルター1用の筒状部として、または図3bに見られるように、2つの隣接する光学素子2ごとのスペーサー要素として形成されていてよい。スペーサー6は、光学フィルター1を組み立てるために、光学素子2がスペーサー6に隣り合う形で取り付けられるかまたはこれらに挿入されることができるように形成されていてよい。特に、光学フィルター1を再び分解できることが規定されていてよい。これには、光学フィルターまたはその構成要素の検査特性を、光学フィルター1が少なくとも部分的に組み立てられた状態で測定することができる一方で、それぞれの構成要素を分解した後に、例えば光学要素2に関する精緻化工程を実行することができるという利点がある。
【0078】
図4は、本発明による光学バンドパスフィルターの開口上の位置a、b、c、d、eについての5つの分光透過曲線11を示す。
【0079】
各位置a、b、c、d、eについて、バンドパスフィルターは、第1の遮光スペクトル範囲8、光透過スペクトル範囲9および第2の遮光スペクトル範囲10を含み、透過率は、遮光範囲8内の0.0003%未満の値から光透過範囲9内の92%(Tmax)よりも高い値に、そして再び遮光範囲10内の0.0003%未満の値に連続的に移行する。
【0080】
表14を参照すると、(特性波長としての)中心波長λは、(遮光範囲8と光透過範囲9との間の)第1の遷移波長と、(光透過範囲9と遮光範囲10との間の)と第2の遷移波長との平均値として測定することができる。これらの遷移波長の各々は、Tmax/2における波長によって示されていてよい。この場合、開口面積上の位置a、b、c、d、eについて、中心波長λは、開口面積全体にわたって0.1%の変動率を有する。
【0081】
半値全幅(FWHM、英語:full width at half maximum)は、第1の遷移波長と第2の遷移波長との差、すなわち、最大透過率が半分のときの光透過スペクトル範囲9の幅である。幅W1およびW2は、それぞれ最大透過率および最小透過率における光透過スペクトル範囲の幅である。
【0082】
図5は、本発明による更なる光学バンドパスフィルターの開口上の位置a、b、c、d、eについての5つの分光透過曲線11を示す。
【0083】
このバンドパスフィルターの場合、位置a、b、c、d、eについて、中心波長λは、開口面積全体にわたって0.06%の変動率を示す。
【0084】
図6は、本発明による光学バンドパスフィルターを透過した歪んだ波面14の25×25ミリメートル(x軸15およびy軸16)の領域内での測定の密度プロットを示す。z軸17は、フィルターの光軸に対応する。
【0085】
測定は、163×163ミリメートルの構成要素の全面積にわたって行った。25×25ミリメートルの表示面積は、163×163ミリメートルの全面積の一部であり、163×163ミリメートルの面積内の25×25ミリメートルのすべての領域から、それが最大の透過波面歪みに対応するように選択される。言い換えれば、163×163ミリメートルの領域内の25×25ミリメートルの他のすべての領域では、透過波面歪み(TWD)は、25×25ミリメートルのこの表示面積におけるTWD値よりも小さい。
【0086】
光学フィルターに入射する、この場合、λ=440ナノメートルの波長を有する光は、高度に平坦な波面によって特徴付けられることから、測定された透過波面14は、光学フィルターによってもたらされる波面歪み(波面誤差)を示す。
【0087】
透過波面歪み(TWD)は、z値の標準偏差として評価することができ、この場合、RMS=0.017マイクロメートルが生じる(RMS、英語:root mean square、二乗平均平方根)。TWDは、光学フィルターの開口上の25×25ミリメートルの各面積について、λ/10未満、好ましくはλ/12未満、特に好ましくはλ/15未満であることが所望され得る。この品質基準は、この場合に満たされる(λ/20=0.03マイクロメートルである一方で、参照波長は、MIL規格に従って633ナノメートルである)。参照波長(干渉計で使用されるHe-Neレーザーの波長であることが多い)は必ずしも測定波長である必要はないことに留意されたい。狭いバンドパスフィルターの場合、例えば、633ナノメートルの汎用的な波長は適していない場合がある。図示されたケースでは、透過波面歪みは、白色光シャックハルトマンセンサーを用いて測定した。
【0088】
あるいは、TWDは、z値の山と谷との差(P.V.英語:peal-valley)によっても特徴付けられることができ、この場合、P.V.=0.073マイクロメートルである。P.V.の差は、光学フィルターの開口上の25×25ミリメートルの各面積について、0.1マイクロメートル未満、好ましくは0.75マイクロメートル未満であることが所望され得る。
【0089】
図7は、本発明による光学バンドパスフィルターを透過した更なる歪んだ波面14の101×96ミリメートルの領域内での測定の密度プロットを示す図である。測定(図6と同じ実験に属する)は、163×163ミリメートルの同じ構成要素の全面積に基づいて実施した。しかしながら、この場合、最大のTWDに対応する解析領域が大きくなる。この場合、測定された面積は、9,000平方ミリメートルよりも高く、光学フィルターの開口に対応する。TWD(RMS=0.039マイクロメートル)は、λ/10未満であり、さらにはλ/15未満である(参照波長としてλ=633ナノメートルでλ/15=0.04マイクロメートル)。光学フィルターの開口面積のP.V.の差(0.178マイクロメートル)は、0.2マイクロメートル未満である。
【0090】
図8は、本発明による光学バンドフィルターを透過したさらに別の歪んだ波面14の25×25ミリメートルの領域内での測定の密度プロットを示す図である。測定は、分析された構成要素の全面積について新たに実施し、表示領域は、TWDが最大となるように選択した。TWD(RMS=0.022マイクロメートル)は、λ/10未満であり、λ/15未満であり、さらにはλ/20未満である(λ=633ナノメートルの場合にλ/20=0.03マイクロメートル)。P.V.の差(0.055マイクロメートル)は、さらには0.06マイクロメートル未満である。
【0091】
図9は、本発明による光学バンドパスフィルターを透過したさらに別の歪んだ波面14の101×96ミリメートルの領域内での測定の密度プロットを示す図である。図8と同じ実験に属する測定は、図8よりも大きい解析領域に基づいている。TWD(RMS=0.053マイクロメートル)は、λ/10未満である(参照波長としてλ=633ナノメートルでλ/10=0.06マイクロメートル)。P.V.の差(0.238マイクロメートル)は、0.3マイクロメートル未満であり、これは好ましい品質基準であり得る。
【符号の説明】
【0092】
1 光学フィルター、 2 光学素子、 3 基板、 4 光学層、 5 光軸、 6 スペーサー、 7 キャビティ、 8 第1の遮光スペクトル範囲、 9 光透過スペクトル範囲、 10 第2の遮光スペクトル範囲、 11 分光透過曲線、 14 歪んだ波面、 15 x軸、 16 y軸、 17 z軸、 31 主面、 311 面法線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9