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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】X線検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/044 20180101AFI20230307BHJP
   G01N 23/087 20180101ALI20230307BHJP
【FI】
G01N23/044
G01N23/087
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018158130
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020034278
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】598123150
【氏名又は名称】セメス株式会社
【氏名又は名称原語表記】SEMES CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】77,4sandan 5-gil,Jiksan-eup,Seobuk-gu,Cheonan-si,Chungcheongnam-do,331-814 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】田村 恵美
(72)【発明者】
【氏名】パク ゾンソン
(72)【発明者】
【氏名】パク ピルギュ
【審査官】谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-042131(JP,A)
【文献】特開2017-156328(JP,A)
【文献】特開2009-036660(JP,A)
【文献】特開2006-162335(JP,A)
【文献】特開平11-108857(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0363544(US,A1)
【文献】特開昭62-284250(JP,A)
【文献】特開平04-099908(JP,A)
【文献】特開2007-085835(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0149296(US,A1)
【文献】渡邊 恵美、ほか,陽極の熱膨張時における自動焦点追従機構搭載X線CT装置の有効性,日本放射線技術学会雑誌,2002年,第58巻、第5号,pp. 679-685,doi:10.6009/jjrt.KJ00001364427
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 ー G01N 23/2276
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を照射するX線管と、
被検査物が載置される載置面を有するステージと、
前記ステージに配設された校正用ファントムと、
前記ステージを挟んで前記X線管と対向する位置の周辺、且つ、前記X線を入射する検出面が前記X線管から照射されるX線の軸線方向に対して斜めに配置されたX線検出器と、
前記X線検出器により撮影した前記校正用ファントムの断面画像を生成し、前記断面画像における前記校正用ファントムの位置を検出し、その検出した前記校正用ファントムの位置に基づいて前記X線の焦点位置を調整する第1の処理と、前記X線検出器により撮影した前記被検査物の立体画像を生成する第2の処理と、を実施する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第2の処理において前記X線検出器を半周以上回転させて取得した複数の撮影データを再構成して前記被検査物の立体画像を生成し、前記第1の処理において前記校正用ファントムの撮影データを取得し、取得した撮影データを再構成して生成した前記校正用ファントムの立体画像のうちの1つの断面を前記断面画像とし、
前記制御部は、前記第1の処理を実施した後、前記第2の処理を実施し、前記第2の処理の実施後にさらに第2の処理を行う時には、該第2の処理を実施する前に前記第1の処理を再び実施し、
前記第1の処理では、その直後に実施する第2の処理で取得する前記被検査物の撮影データより少ない数の前記校正用ファントムの撮影データを取得するX線検査装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記断面画像において検出した前記校正用ファントムの位置と基準位置との差に基づいて前記X線の焦点位置を調整する、請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項3】
前記X線管と前記ステージとの間に挿脱自在に配置され、前記X線のうち特定の波長域を吸収するフィルタを備え、
前記制御部は、前記第1の処理において前記フィルタを前記X線管と前記ステージとの間から抜脱し、前記第2の処理において前記フィルタを前記X線管と前記ステージとの間に挿入する、請求項1又は2に記載のX線検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線検査装置は、様々な分野で利用されている。X線検査装置は、被検査物として例えば半導体ウェハに形成された半導体チップの構造を検査するために用いられる。(例えば、特許文献1を参照)。X線検査装置は、半導体チップを透過したX線を検出器にて検出し、被検査物におけるX線の吸収量に基づいて、半導体チップの断層画像や3D画像のデータを生成し、半導体チップの構造を検査する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-156328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、X線管は、ターゲットに電子を照射してX線を発生させる。ターゲットに照射される多くの電子は熱に変換され、照射される僅かな電子がX線に変換される。X線管では、ターゲットにおける発熱により、発生するX線の焦点位置の位置ずれが生じる。X線管の温度は、複数の被検査物を検査する間も変動する。
【0005】
上記のように、半導体チップの等の微細な構造を有する被検査物を検査するX線検査装置では、大きな拡大率により被検査物を撮影して検査する。大きな拡大率は、X線検出器に対して被検査物をX線の焦点位置に近づけることにより得られる。このため、X線の焦点位置のずれは、検査における拡大率や被検査物内の検査位置に影響し、被検査物の検査を阻害する要因となる。
【0006】
X線管の温度をセンサにより検出し、その検出結果に基づいてX線管の位置を補正する方法が考えられる。しかしながら、温度測定することが難しく、温度と焦点位置との相関関係も明確ではないので、温度からX線管の位置を補正することは難しい。また、温度センサを設けると、X線管の周りの部分が大きくなり、被検査物をX線管に近づけることや被検査物の移動等が阻害される。
【0007】
本開示の目的は、X線の焦点位置の変動抑制を可能としたX線検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の一形態によるX線検査装置は、X線を照射するX線管と、被検査物が載置される載置面を有するステージと、前記ステージに配設された校正用ファントムと、前記ステージを挟んで前記X線管と対向する位置の周辺、且つ、前記X線を入射する検出面が前記X線管から照射されるX線の軸線方向に対して斜めに配置されたX線検出器と、前記X線検出器により撮影した前記校正用ファントムの断面画像を生成し、前記断面画像における前記校正用ファントムの位置を検出し、その検出した前記校正用ファントムの位置に基づいて前記X線の焦点位置を調整する第1の処理と、前記X線検出器により撮影した前記被検査物の立体画像を生成する第2の処理と、を実施する制御部と、を備えた。
【0009】
上記のX線検査装置において、前記制御部は、前記断面画像において検出した前記校正用ファントムの位置と基準位置との差に基づいて前記X線の焦点位置を調整することが好ましい。
【0010】
上記のX線検査装置において、前記制御部は、前記第2の処理において前記X線検出器を半周以上回転させて取得した複数の撮影データを再構成して前記被検査物の立体画像を生成し、前記第1の処理において前記被検査物の撮影データより少ない数の前記校正用ファントムの撮影データを取得し、取得した撮影データを再構成して生成した前記校正用ファントムの立体画像のうちの1つの断面を前記断面画像とすることが好ましい。
【0011】
上記のX線検査装置において、前記制御部は、前記第1の処理を実施した後、前記第2の処理を実施することが好ましい。
上記のX線検査装置において、前記制御部は、前記第2の処理を1回実施する毎に前記第1の処理を実施することが好ましい。
【0012】
上記のX線検査装置において、前記制御部は、前記第2の処理を複数回実施する毎に前記第1の処理を実施することが好ましい。
上記のX線検査装置において、前記X線管と前記ステージとの間に挿脱自在に配置され、前記X線のうち特定の波長域を吸収するフィルタを備え、前記制御部は、前記第1の処理において前記フィルタを前記X線管と前記ステージとの間から抜脱し、前記第2の処理において前記フィルタを前記X線管と前記ステージとの間に挿入することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一形態によれば、X線の焦点位置の変動抑制を可能としたX線検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】X線検査装置の概略構成図。
図2】遮蔽板の概略斜視図。
図3】ステージ、被検査物、校正用ファントムを示す概略平面図。
図4A】X線管、被検査物、X線検出器を示す概略図。
図4B】X線管の焦点位置の変化による焦点-被検査物の距離の変化を示す説明図。
図5A】X線管、被検査物、X線検出器を示す概略図。
図5B】X線管の焦点位置の変化による被検査物の透過位置の変化を示す説明図。
図6】校正用ファントムの概略斜視図。
図7】撮影空間を示す概略斜視図。
図8】(a)(b)は、撮影空間の一部の断面を示す説明図。
図9】撮影された断面におけるCT値を示す説明図。
図10】X線管の温度変化示す説明図。
図11】X線検査装置の処理フローを示す説明図。
図12】比較例の処理フローを示す説明図。
図13】変更例の処理フローを示す説明図。
図14】X線のスペクトルの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、一実施形態を説明する。
なお、添付図面は、理解を容易にするために構成要素を拡大して示している場合がある。構成要素の寸法比率は実際のものと、または別の図面中のものと異なる場合がある。
【0016】
図1は、X線検査装置1の概略構成図である。この図1においてXYZ直交座標系を設定し、その座標系を用いて動作を説明する。図1には、X軸、Y軸、Z軸の各軸と、各軸を中心とする回転方向(軸回り、周方向)を矢印にて示す。また、各部材について、移動可能な方向について実線にて示している。
【0017】
図1に示すように、X線検査装置1は、照射ボックス(「照射BOX」と表記)10と、制御部としてのコントロール部50とを有している。
照射ボックス10には、ステージ11、X線管12、変位計13、X線検出器14,15、回転ステージ16、支持アーム17、遮蔽ユニット20を有している。
【0018】
コントロール部50は、モータ制御部51,52,53,54、X線管制御部55、変位測定部56、画像処理部57を有している。
ステージ11は、被検査物70が載置される載置面11aを有し、水平方向(X軸方向及びY軸方向)に移動自在なXYステージである。ステージ11は、アクチュエータとしてのモータを含むステージ移動機構(図示略)を有し、そのステージ移動機構により載置面11aと平行な水平方向に移動する。コントロール部50のモータ制御部51は、ステージ11のモータを制御する。これにより、X線検査装置1は、載置面11aに載置された被検査物70を所定の検査対象位置へと導く。
【0019】
ステージ11の材料としては、X線に対して透過性を有するものを用いることができる。なお、ステージ11は、上述した水平方向(X軸方向及びY軸方向)の他、Z軸方向(載置面11aに対する垂直方向、上下方向)に移動可能としてもよい。また、ステージ11は、Z軸回り(周方向)に回転可能としてもよい。
【0020】
被検査物70は、例えば、ステージ11に載置された対象物の内の一部とすることができる。対象物は、例えば半導体チップが形成されたウェハである。
図3に示すように、被検査物70としてのウェハはダイシング前のものであり、複数の半導体チップ71を含む。各半導体チップ71が被検査物(評価サンプル)70である。X線検査装置1は、このような被検査物70の構造を検査するために利用される。なお、1回の検査処理(データ収集及び再構成処理)では、被検査物70(半導体チップ71)の一部分のみが検査対象となる場合があり、1つの被検査物70(1つの半導体チップ71)が複数回処理されることもある。
【0021】
X線管12は、ステージ11の上方に配置されている。X線管12は、被検査物70にX線を照射する。X線管12としては、特に限定されるものではなく、X線検査において従来使用されているものを用いることができる。コントロール部50のX線管制御部55は、X線管12におけるX線の発生・停止を制御する。
【0022】
X線管12は、移動機構18に接続されている。移動機構18は、アクチュエータとしてのモータを含む。X線管12は、移動機構18によりZ軸方向に移動可能に支持される。モータ制御部53は、移動機構18のモータを制御する。このモータ制御部53と移動機構により、X線管12のZ軸方向の位置が変更される。
【0023】
変位計13は、被検査物70の上面までの距離を測定するために用いられる。変位計13としては、例えば被検査物70までの距離を非接触にて測定するレーザ変位計を用いることができる。コントロール部50の変位測定部56は、変位計13により、被検査物70の上面までの距離を測定する。この変位計13による測定結果に基づいて、モータ制御部53は、X線管12と遮蔽ユニット20との距離を指定距離とする。X線管12のX軸方向の位置は、拡大率に応じて変更される。拡大率は、X線の焦点(発生箇所)からX線検出器14,15までの距離を、焦点から被検査物70までの距離で除した値で表される。
【0024】
X線検出器14は、ステージ11を挟んでX線管12と対向する位置に配置されている。例えば、X線検出器14は、ステージ11の直下に位置する回転ステージ16の面上に配置されている。このX線検出器14は、その検出面がX線管12から照射されるX線の軸方向(Z軸方向)に対して垂直となるように配置されている。
【0025】
X線検出器15は、ステージ11を挟んでX線管12と対向する位置の周辺に配置されている。例えば、X線検出器15は、回転ステージ16に第1端部(基端)が固定された支持アーム17の第2端部(先端)に取着されている。また、X線検出器15は、その検出面がX線管12から出射されるX線の軸線方向(Z軸方向)に対して斜めとなるように配設されている。詳述すると、X線検出器15は、被検査物70を斜めに通過したX線が検出面に対して垂直に入射するように配設されている。
【0026】
回転ステージ16は、Z軸回り(周方向)に回転自在なθステージである。回転ステージ16は、アクチュエータとしてのモータを含む回転機構(図示略)を有している。コントロール部50のモータ制御部54は、回転機構のモータを制御し、X線検出器14,15を周方向に回転させる。
【0027】
X線検出器14,15は、例えば平板状の検出器(FPD:Flat Panel Detector)である。この検出器としては、例えば、間接変換型の検出器や直接変換型の検出器を用いることができる。間接変換型の検出器は、X線をシンチレータ(Scintillator)で他の波長の光に変換し、その光をアレイ状のフォトダイオードやCCD(Charge-coupled Device)で電荷に変換することによりX線を検出する。直接変換型の検出器は、X線を変換部(例えばアモルファスセレン(a-Se)等の半導体)で電荷に変換することによりX線を検出する。
【0028】
本実施形態のX線検査装置1は、遮蔽ユニット20を有している。遮蔽ユニット20は、ステージ11とX線管12との間に配設されている。遮蔽ユニット20は、フィルタ21と遮蔽板22とを含む。なお、遮蔽ユニット20は省略されてもよい。
【0029】
フィルタ21は、X線に含まれる所定の波長域を吸収(カット)するものである。X線は、連続的な波長域を含む。X線は、被検査物70の特性劣化を招く場合がある。例えば、半導体メモリのような半導体チップでは、X線の吸収により半導体シリコンが電荷を蓄積し、半導体メモリの内部に形成されたトランジスタのしきい値電圧を変化させるおそれがある。このため、本実施形態のX線検査装置1は、フィルタ21により被検査物70に不要なX線を吸収することで、被検査物70の特性劣化を抑えてX線検査を行うことができる。
【0030】
なお、フィルタ21は、複数枚のフィルタ板を含むものとしてもよい。互いに異なる波長域のX線を吸収するフィルタ板を用意し、選択した1又は複数のフィルタ板にX線を透過させることで、被検査物70に照射するX線の波長域を変更することができる。
【0031】
図2に示すように、遮蔽板22は、例えば概略矩形平板状に形成されている。なお、遮蔽板22の形状は適宜変更されてもよい。遮蔽板22は、コリメータ部31と、コリメータ部31から立設された枠状の壁部32とを有している。遮蔽板22の材料としては、X線が通過し難い金属材料、例えば鉛(Pb)等を用いることができる。
【0032】
コリメータ部31は、略矩形平板状に形成され、複数の孔部31Xを有している。孔部31Xは、所望の位置に設けられ、X線を通過させる。この孔部31Xを通過したX線は、図1に示す被検査物70に照射される。X線は、被検査物70を透過してX線検出器14,15に入射する。
【0033】
図1図3及び図6に示すように、ステージ11には、校正用ファントム80が配設されている。図3及び図6に示すように、校正用ファントム80は、円柱状である。ステージ11には、複数(本実施形態では5個)の校正用ファントム80が設けられている。なお、少なくとも1つの校正用ファントム80がステージ11に搭載されていればよい。本実施形態において、校正用ファントム80は、ベース板81に固定され、そのベース板81を介してステージ11に固定される。
【0034】
校正用ファントム80の材料は、例えば、金(Au)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)等の金属、又はこれらの合金を用いることができる。なお、校正用ファントム80の材料としては、X線による投影画像を取得できればよく、上述した金属以外の材料を用いることができる。
【0035】
校正用ファントム80の大きさは、当該X線検査装置1の解像度(倍率)、高さ方向(図1のZ方向)の被検査物70の構造に応じて、検出可能な大きさに設定されている。例えば、X線検査装置1の解像度を10μmとした場合、校正用ファントム80の大きさ(円柱の径と高さ)は、10~30μmであることが好ましい。大きさが解像度未満であると校正用ファントム80を検出することができなくなる。大きさが大きすぎると、中心の決定精度が低下する。
【0036】
図3に示すように、複数の校正用ファントム80は、X方向とY方向とに配列されている。このように配列された複数の校正用ファントム80は、高さ方向(Z方向)の検出精度を向上させ、またステージ11の回転の検出を可能とする。なお、複数の校正用ファントム80の大きさは互いに同じである必要はなく、異なる大きさの校正用ファントムが混在して配設されていてもよい。
【0037】
図4Aに示すように、X線管12は、ターゲット12Tを有し、ターゲット12Tに電子を照射してX線61を発生させる。X線61は、その発生位置(焦点)F1から放射状に広がる。X線検出器15は、複数の検出素子を有し、それらの検出素子は二次元配列されている。被検査物70を通過しX線検出器15に照射されるX線61により、被検査物70の内部状態を撮影する。X線61が放射状に広がることにより、被検査物70の一部分をX線検出器15にて撮影する。従って、被検査物70を測定するときの拡大率は、X線61の発生位置F1から被検査物70までの距離Lwと、X線61の発生位置F1からX線検出器15までの距離Ldとの比Ld/Lwとなる。
【0038】
ターゲット12Tに照射される電子のうちの多くの電子(例えば99.9%)は熱に変換され、僅かな電子(例えば0.1%)はX線に変換される。変換された熱により、ターゲット12T及びX線管12が熱膨張し、X線の焦点F1の位置が変動する。
【0039】
図4Bは、熱によるターゲット12Tの位置(焦点F1)の変化を示す。図4Bにおいて、実線にて示すターゲット12Tは、破線にて示すターゲット12Tに対して、図において上下方向(図1のZ方向)に位置が変化している。このような位置の変化は、焦点F1と被検査物70との間の距離Lwを変化させる。例えば、図4Bにおいて破線にて示すターゲット12Taにて発生するX線61aが被検査物70を通過するとき、そのX線61aの焦点F1aと被検査物70との間の距離Lwaとする。同様に、実線にて示すターゲット12Tbにて発生するX線61bが被検査物70を通過するとき、そのX線61bの焦点F1bと被検査物70との間の距離Lwbとする。この場合、距離Lwaに対して距離Lwbは短い。この距離Lwbにより、被検査物70を撮影したデータにおける拡大率が大きく変化する。図4Bに示すX線61a,61bは、図4Aに示すように、X線検出器15に入射するX線の中心軸を示す。被検査物70において、X線61a,61bが通過する部分が検査の対象となる領域である。従って、被検査物70において、X線61aにより検査する領域と、X線61bにより検査する領域とが、X線管12の温度変化により異なる。
【0040】
図5Aに示すように、X線管12に対して被検査物70とX線検出器15とを回転駆動し、被検査物70の所望の領域をX線61aが通過させ、被検査物70の検査する領域の1周分のデータを取得する。図4Bに示すように、X線管12のターゲット12Tbの位置(焦点F1の位置)が変化すると、そのターゲット12Tbから照射されるX線61bの通過する領域が変化する。この状態で、被検査物70の1周分のデータを取得する。この場合、図5Bに示すように、X線61bの通過する領域の位置が変化する。つまり、ターゲット12Tbの位置(焦点F1の位置)が変化すると、1周の間で異なる領域のデータを取得することになる。
【0041】
このため、本実施形態のX線検査装置1では、図1図3及び図6に示す校正用ファントム80を用いて、X線管12の焦点F1の位置を調整する。
コントロール部50は、校正用ファントム80を撮影し、校正用ファントム80の立体画像を生成する。そして、コントロール部50は、生成した立体画像における校正用ファントム80の位置ずれ量を検出し、その位置ずれ量によりX線管12の焦点F1の位置を調整する。
【0042】
図7は、X線検出器15により得られる立体(3D)画像90を示す。図1に示すコントロール部50の画像処理部57は、X線検出器15により、校正用ファントム80の立体(3D)画像90を得る。詳述すると、モータ制御部54は、X線検出器15を周方向に回転させる。モータ制御部51,52は、X線検出器15の回転に同期して、X線管12から出射されるX線が校正用ファントム80を透過するように、ステージ11等の位置を制御する。画像処理部57は、X線検出器15により多方向から校正用ファントム80を撮影した複数の画像を得る。そして、画像処理部57は、複数の画像に基づいて、再構成演算処理を行い、校正用ファントム80の立体(3D)画像90を作成する。
【0043】
次に、コントロール部50の画像処理部57は、作成した立体(3D)画像90において、校正用ファントム80が含まれる1つのXZ平面91を抽出する。抽出するXZ平面91の座標は、断面画像91であり、例えば、校正用ファントム80の配設により予め設定される。また、X線検出器14を用いて座標を得ることもできる。校正用ファントム80に対して垂直にX線を照射することで、図1に示すX線検出器14により、校正用ファントム80の垂直(2D)画像が得られる。この垂直(2D)画像は、XY平面を示すものであり、校正用ファントム80の位置(Y座標)を得ることができる。このY座標により、校正用ファントム80を含む1つのXZ平面91を抽出できる。
【0044】
図8(a)及び図8(b)は、抽出したXZ平面91を示す。図8(a)及び図8(b)に示すように、XZ平面91において、所定の高さ(図において上下方向であってZ方向)に校正用ファントム80の画像が含まれる。
【0045】
図8(a)は、校正用ファントム80に対してX線管12のターゲット12Tが所望の位置(例えば、図4Bに破線にて示す位置)にある場合を示す。基準位置TRを破線にて示す。図8(b)は、校正用ファントム80に対してX線管12のターゲット12Tが所望の位置からずれた位置(例えば、図4B実線にて示す位置)にある場合を示す。この場合、校正用ファントム80の画像の位置は、基準位置TRから上下方向にずれる。この基準位置TRからのずれ量を算出する。この基準位置TRに対するずれ量は、X線管12の焦点F1のずれ量に対応する。
【0046】
ずれ量の算出は、例えば、XZ平面91に含まれる校正用ファントム80の画像の中心の高さと基準位置TRとの差として求められる。校正用ファントム80の中心高さは、XZ平面91に含まれる各画素の画素値、例えば、CT値を用いることができる。撮影された校正用ファントム80の画像は、XZ平面91の画像において、各ピクセルの値(CT値)により表現される。
【0047】
図9は、図8(b)に示すXZ平面91の画像の画素値を、X方向に積分した結果を示す。図9において、横軸はXZ平面91のZ方向の位置、縦軸はCT値の積分値である。積分により得られた曲線L1のピーク位置は、図8(b)に示す校正用ファントム80の中心位置を示す。従って、曲線L1のピーク位置T80と、基準位置TRとの差を求め、その差(高さ)からX線管12の焦点F1のずれ量を得ることができる。
【0048】
図10は、X線管12の焦点F1の位置変化を示す。図10において、横軸は運転開始からの経過時間Tであり、縦軸は、焦点F1の位置変化を示す。位置変化は、例えば、運転開始時における焦点F1の位置を基準とする変化量を示す。X線検査装置1を始動してから所定時間までは変化量が大きく、また所定時間経過後も焦点F1の位置は変動する。
【0049】
ここで、比較例のX線検査装置における処理フローを図12に従って説明する。比較例のX線検査装置は、校正用ファントムを備えていないものである。
先ず、ウオームアップ[warm-up]を行う(ステップ201)。ウオームアップの時間は、例えば1時間である。次に、ステージを移動させ、被検査物(サンプル)を視野中心に配置する[move stage(sample)](ステップ202)。視野中心は、X線検出器にてX線を受ける領域(視野)の中心位置である。次に、X線を照射し、被検査物(サンプル)の1周分のデータを取得する[daq:data acquisition(sample)](ステップ203)。そして、取得した1周分のデータにより、被検査物のデータ(立体画像)を再構成する[reconstruction](ステップ204)。そして、次の被検査物に対する処理を行うべく、ステップ202に移行する。この比較例による処理では、X線の焦点の位置ずれが発生し、サンプルによって拡大率が異なる、つまり再構成により得られる立体画像に差が生じる場合がある。
【0050】
次に、本実施形態のX線検査装置1における処理フローを図11に従って詳述する。
先ず、ウオームアップ[warm-up]を行う(ステップ101)。ウオームアップの時間は、図10に示すように、焦点F1の変動に応じて、その変動が少なくなるまでに要する時間に設定され、例えば1時間である。
【0051】
次に、ステージ11を移動させ、校正用ファントム80を視野中心に配置する[move stage(height phantom)](ステップ102)。視野中心は、X線検出器15にてX線を受ける領域(視野)の中心位置である。
【0052】
次に、X線を照射し、ステージ11及びX線検出器15を1周旋回させ、校正用ファントム80のデータを取得する[daq:data acquisition(height phantom)](ステップ103)。データは、例えば図1に示すステージ11及びX線検出器15を所定の角度毎に回転させ、X線を照射してX線検出器15に入射したX線のデータである。所定の角度は、1周を所定数に分割した角度である。
【0053】
なお、評価サンプルである被検査物70のデータを取得するときの分割数よりも、校正用ファントム80に対する分割数を小さくしてもよい。被検査物70のデータを取得するときの分割数は、被検査物70の構造によって設定され、例えば60~240である。校正用ファントム80は、その位置(高さ)を測定できれば良く、立体画像において形状が判る必要はない。このため、校正用ファントム80のデータを取得する際の1周の分割数を、被検査物70のデータを取得する際の分割数より小さくすることで、データを取得する時間を短縮できる。校正用ファントム80のデータを取得する際の分割数は、例えば、4~16とすることができる。なお、校正用ファントム80について、1周のデータを取得する必要はなく、例えば半周の間でデータを取得するようにしてもよい。
【0054】
上記のように取得した校正用ファントム80のデータを再構成し、立体画像のデータを得る[reconstruction](ステップ104)。そして、再構成したデータから、X線管12の焦点F1の位置の補正データを算出する[calibration of tube position(z-offset)](ステップ105)。補正データは、校正用ファントム80の中心位置(高さ)を算出し、その中心位置と焦点F1の基準位置(基準高さ)との差(ずれ量)を算出する。このずれ量により、X線管12の焦点F1の位置の補正データを算出する。そして、算出した補正データにより、X線管12を移動させる[move tube](ステップ106)。ステップ102~106により、X線管12の焦点F1の位置を調整する第1の処理を実施する。
【0055】
次に、ステージ11を移動させ、被検査物70を視野中心に配置する[move stage(sample)](ステップ107)。
次に、X線を照射し、ステージ11及びX線検出器15を1周旋回させ、被検査物70のデータを取得する[daq:data acquisition(sample)](ステップ108)。データは、例えば図1に示すステージ11及びX線検出器15を所定の角度毎に回転させ、X線を照射してX線検出器15に入射したX線のデータである。所定の角度は、1周を所定数に分割した角度である。分割数は、例えば60~4000とすることができる。
【0056】
上記のように取得した被検査物70のデータを再構成し、被検査物70の立体画像のデータを得る[reconstruction](ステップ109)。ステップ107~ステップ109により、被検査物70の立体画像を生成する第2の処理を実施する。上述した比較例では、この第2の処理のみが繰り返し実施される。
【0057】
そして、ステップ102に移行する。つまり、本実施形態のX線検査装置1は、1つの被検査物70のデータを取得する毎に、校正用ファントム80を用いてX線管12の焦点F1の位置を調整する。このような処理により、X線管12の焦点F1と被検査物70との間の距離Lwを一定に保つことができる。
【0058】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)X線検査装置1は、X線を照射するX線管12と、被検査物70が載置される載置面11aを有するステージ11と、ステージ11に配設された校正用ファントム80と、X線検出器15とを有している。X線検出器15は、ステージ11を挟んでX線管12と対向する位置の周辺、且つ、X線を入射する検出面15aがX線管12から照射されるX線の軸線方向に対して斜めに配置されている。コントロール部50は、X線検出器15により撮影した校正用ファントム80の断面画像91を生成し、断面画像91における校正用ファントム80の位置を検出する。そして、検出した校正用ファントム80の位置に基づいてX線の焦点F1の位置を調整する第1の処理と、X線検出器15により撮影した被検査物70の立体画像を生成する第2の処理と、を実施する。
【0059】
従って、本実施形態のX線検査装置1では、X線管12の焦点F1と被検査物70との間の距離Lwを一定に保つことができ、安定して被検査物70の立体画像を得ることができる。
【0060】
(2)コントロール部50は、X線検出器15を1周させて取得した複数の撮影データを再構成して被検査物70の立体画像を生成する。また、コントロール部50は、被検査物70の撮影データより少ない数の校正用ファントム80の撮影データを取得し、取得した撮影データを再構成して生成した校正用ファントム80の立体画像90のうちの1つの断面を断面画像91とする。これにより、校正用ファントム80のデータを取得する時間を短縮し、被検査物70の測定スループットの低下を抑制できる。
【0061】
(3)コントロール部50は、第1の処理、つまりX線管12の位置(焦点F1の位置)を調整した後、第2の処理、つまり被検査物70の立体画像を取得する。これにより、被検査物70に対する焦点F1の位置を調整して焦点F1と被検査物70との間の距離Lwを一定に保つことができる。
【0062】
(5)コントロール部50は、第2の処理を1回実施する毎に第1の処理を実施する。これにより、被検査物70に対する焦点F1の位置を調整して焦点F1と被検査物70との間の距離Lwを一定に保つことができる。
【0063】
(変更例)
尚、上記実施形態は、以下の態様で実施してもよい。
・上記実施形態における処理を適宜変更してもよい。
【0064】
図13は、変更例の処理フローを示す。この変更例において、ステップ111~118は、上述の実施形態の処理フローにおけるステップ101~108(図11参照)と同じである。ステップ119において、取得した被検査物70のデータを再構成し、被検査物70の立体画像のデータを得る[reconstruction]。そして、カウント値iをカウントアップ(+1)し、カウント値iと所定の個数値n(例えば、n=10)とを比較する。そして、カウント値iが個数値n以下(i≦n)の場合、ステップ117に移行する。ステップ117において、次の被検査物70を視野中心に移動させる。そして、その被検査物70のデータを取得し(ステップ118)、被検査物70の立体画像のデータを生成する(ステップ119)。
【0065】
一方、カウント値iが個数値nより大きい(i>n)の場合、ステップ119からステップ112に移行する。これにより、ステップ112~116の処理を行うことで、X線管12の焦点F1の位置を調整する。つまり、図13に示す処理フローは、個数値nの被検査物70のデータを取得する毎に、X線管12の焦点F1の位置調整を1回行う。X線管12の焦点F1の位置変動が少ない場合に、このように処理を行うことで、X線管12の調整に係る時間を短縮できる。
【0066】
なお、個数値nは、適宜変更することができる。また、個数値nをX線管12の補正量(ずれ量)に応じて変更してもよい。例えば、ずれ量が小さい場合には個数値nを大きくし、X線管12の調整に係る時間を更に短縮できる。一方、ずれ量が大きい場合には個数値nを小さくすることで、X線管12の焦点F1の位置を調整し、X線管12と被検査物70との間の距離Lwを一定に保つことができる。
【0067】
・上記実施形態に対し、校正用ファントム80のデータを取得する際に、フィルタ21を外す、つまりフィルタ21を通過させずにX線を校正用ファントム80に照射するようにしてもよい。図14に示すように、X線は、連続的な波長域を含む。フィルタ21は、X線に含まれる所定の波長域(図14において、破線より低い波長域)を吸収(カット)する。フィルタ21を外すことで、校正用ファントム80に照射されるX線の線量が増加するため、少ない回数(分割数)で必要なデータを取得できる。これにより、校正用ファントム80のデータ取得に係る時間をより短縮し、被検査物70の測定スループットを向上できる。
【0068】
・上記実施形態では、被検査物70は半導体デバイスとしたが、その他の物を被検査物としてもよい。
【符号の説明】
【0069】
11…ステージ、12…X線管、12T…ターゲット、14,15…X線検出器、50…コントロール部、70…被検査物、80…校正用ファントム、F1…焦点。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14