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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/142 20140101AFI20230307BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20230307BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20230307BHJP
   B23K 26/12 20140101ALI20230307BHJP
【FI】
B23K26/142
B23K26/064 Z
B23K26/21 A
B23K26/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018227491
(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公開番号】P2020089899
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】株式会社アイシン福井
(73)【特許権者】
【識別番号】391009833
【氏名又は名称】株式会社ナ・デックス
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】竹本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】宮本 一喜
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智章
(72)【発明者】
【氏名】住森 大地
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 博
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/145514(WO,A1)
【文献】特開昭62-107891(JP,A)
【文献】特開平02-290687(JP,A)
【文献】特開2017-177557(JP,A)
【文献】特開平4-82280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークが配置される低圧の内部空間を有するチャンバと、
前記ワークを溶接するレーザ光を照射するレーザ光照射部と、
前記レーザ光照射部からの前記レーザ光を透過可能なレーザ透過窓と、
前記レーザ透過窓よりも前記ワーク側に配置されるガス噴射ノズルとを備え、
前記ガス噴射ノズルは、前記レーザ光が通過する光路孔と、前記レーザ光の照射方向側でかつ光軸側に向けて、前記レーザ光による前記ワークの溶接の際に前記ワークから前記レーザ透過窓側に噴出する金属蒸気をシールドするための不活性ガスを前記光路孔内に噴射する噴射部とを含み、
前記噴射部は、前記レーザ光の前記照射方向側でかつ光軸側に向けて、前記レーザ光の光軸に対して所定の角度傾斜した方向に前記不活性ガスを噴射するように構成されており、
前記噴射部は、周状のスリット形状に形成されている、レーザ溶接装置。
【請求項2】
前記噴射部は、前記光路孔の内周面に沿って周状に設けられている、請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記スリット形状の前記噴射部は、全体にわたって、前記所定の角度と略同じ角度傾斜している、請求項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記ガス噴射ノズルに前記不活性ガスを導入する不活性ガス導入部をさらに備え、
前記ガス噴射ノズルは、前記周状の前記噴射部の外側に周状に設けられ、前記不活性ガス導入部から導入される前記不活性ガスが流れるバッファ空間をさらに含む、請求項またはに記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
前記不活性ガス導入部は、前記ガス噴射ノズルの外周部に略等角度間隔に複数配置されている、請求項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
前記光路孔は、全体にわたって、前記照射方向に沿って前記照射方向に直交する一定の断面形状を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項7】
前記光路孔の前記照射方向に直交する断面形状は、前記ガス噴射ノズルの配置位置における前記レーザ光のスポット径以上で前記レーザ透過窓の直径より小さい円形形状を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項8】
前記レーザ透過窓を透過した前記レーザ光が通過するとともに、前記チャンバと連通する筒状部をさらに備え、
前記レーザ透過窓および前記ガス噴射ノズルは、前記筒状部に配置されている、請求項1~のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項9】
前記筒状部は、前記レーザ透過窓が配置される第1筒状部と、前記レーザ光が通過する空間を有するとともに、前記第1筒状部の前記照射方向側に隣接する第2筒状部とを含み、
前記第2筒状部の前記照射方向の長さは、前記第1筒状部の前記照射方向の長さよりも長く、
前記ガス噴射ノズルは、前記第1筒状部の前記レーザ透過窓よりも前記チャンバ側に配置されている、請求項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項10】
前記チャンバ内の空気を排気して前記チャンバの前記内部空間を低圧にするポンプをさらに備え、
前記チャンバは、前記ポンプに接続される排気口を含み、
前記ガス噴射ノズルから前記排気口までの距離は、前記ガス噴射ノズルから前記レーザ透過窓までの距離よりも大きい、請求項に記載のレーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接装置に関し、特に、ワークが配置される低圧の内部空間を有するチャンバと、ワークを溶接するレーザ光を照射するレーザ光照射部とを備えるレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークが配置される低圧の内部空間を有するチャンバと、ワークを溶接するレーザ光を照射するレーザ光照射部とを備えるレーザ溶接装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、低真空雰囲気下で内部に配置されたワークの溶接が行われるチャンバと、ワークを溶接するレーザ光を照射するレーザ部(レーザ光照射部)とを備えるレーザ溶接装置が開示されている。上記特許文献1のレーザ溶接装置は、レーザ部とチャンバとの間に配置されるシールドガス筒を備えている。シールドガス筒は、シールドガス(不活性ガス)をシールドガス筒内に導入するシールドガス導入用孔と、シールドガス筒の光軸方向の入射側に配置される透過窓(レーザ透過窓)とを備えている。
【0004】
上記特許文献1のレーザ溶接装置では、シールドガス導入用孔から光軸方向にシールドガスをシールドガス筒内に流すとともに、レーザ部からのレーザ光がワークに照射される。そして、上記特許文献1のレーザ溶接装置では、ワークに照射されたレーザ光によりワークが溶融されることによって、ワークの溶接が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5234471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記特許文献1のレーザ溶接装置では、チャンバ内が低真空雰囲気であるので、レーザ光により溶融されたワークから噴出する金属蒸気が、シールドガス筒を通過して透過窓に向かう。この際、上記特許文献1のレーザ溶接装置では、シールドガス導入用孔から光軸方向に流れるシールドガスにより、ワークから噴出する金属蒸気が透過窓に到達して付着することが抑制される。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のレーザ溶接装置では、ワークから噴出する金属蒸気の勢いをさらに弱めて金属蒸気に対するシールド性をより安定させることにより、ワークから噴出する金属蒸気が透過窓(レーザ透過窓)に到達して付着することをより確実に抑制することが望まれている。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の1つの目的は、ワークの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓に付着することを効果的に抑制することが可能なレーザ溶接装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明者が鋭意検討した結果、ワークから噴出する金属蒸気に対して、レーザ光の照射方向側でかつ光軸側に向けて不活性ガスを噴射することにより、ワークから噴出する金属蒸気の勢いをさらに弱め、ワークの溶融時に金属蒸気が透過窓に付着することをより効果的に抑制することができるという新たな知見を得た。この発明の一の局面によるレーザ溶接装置は、この新たな知見を利用して、ワークの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓に付着することを抑制するものである。すなわち、本発明の一の局面におけるレーザ溶接装置は、ワークが配置される低圧の内部空間を有するチャンバと、ワークを溶接するレーザ光を照射するレーザ光照射部と、レーザ光照射部からのレーザ光を透過可能なレーザ透過窓と、レーザ透過窓よりもワーク側に配置されるガス噴射ノズルとを備え、ガス噴射ノズルは、レーザ光が通過する光路孔と、レーザ光の照射方向側でかつ光軸側に向けて、レーザ光によるワークの溶接の際にワークからレーザ透過窓側に噴出する金属蒸気をシールドするための不活性ガスを光路孔内に噴射する噴射部とを含み、噴射部は、レーザ光の照射方向側でかつ光軸側に向けて、レーザ光の光軸に対して所定の角度傾斜した方向に不活性ガスを噴射するように構成されており、噴射部は、周状のスリット形状に形成されている
【0010】
本発明の一の局面によるレーザ溶接装置では、上記のように、レーザ光が通過する光路孔と、レーザ光の照射方向側でかつ光軸側に向けて、レーザ光によるワークの溶接の際にワークからレーザ透過窓側に噴出する金属蒸気をシールドするための不活性ガスを光路孔内に噴射する噴射部とを含むガス噴射ノズルを設ける。これにより、ワークの溶接時にワークからレーザ透過窓に向かう金属蒸気に対して、噴射部からレーザ光の照射方向側でかつ光軸側に向けて噴射される不活性ガスを当てることにより、不活性ガスを充満させるだけの場合と異なり、ワークから噴出する金属蒸気の勢いを弱めて押し返すことができるので、ワークからレーザ透過窓に向かう金属蒸気を効果的に妨げることができる。また、レーザ光の光軸に対して略直角な方向に不活性ガスを噴射する場合と比較して、ワークからレーザ透過窓に向かう金属蒸気を押し返す力を大きくすることができる。これらの結果、ワークの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓に付着することを効果的に抑制することができる。また、光路孔内にレーザ光を通すことにより、レーザ光の照射を妨げることなく、ワークの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓に付着することを抑制することができる。
また、レーザ光の光軸に対して略平行な方向に不活性ガスを噴射すると異なり、光路孔を覆うガスシールドをより確実に形成することができる。この結果、ワークからレーザ透過窓に向かう金属蒸気を効果的に妨げることができるので、ワークの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓に付着することをより効果的に抑制することができる。
また、複数の孔を形成することにより噴射部を設ける場合と異なり、噴射部から光路孔内に隙間なく不活性ガスを噴射することができるので、光路孔内により均一なガスシールドを形成することができる。この結果、金属蒸気に対する不活性ガスのシールド性をより安定させることができる。
【0012】
上記一の局面によるレーザ溶接装置において、好ましくは、噴射部は、光路孔の内周面に沿って周状に設けられている。このように構成すれば、噴射部から光路孔内にバランスよく(均一に)不活性ガスを噴射することができるので、光路孔内に均一なガスシールドを形成することができる。この結果、金属蒸気に対する不活性ガスのシールド性を安定させることができる。
【0014】
上記一の局面によるレーザ溶接装置において、好ましくは、スリット形状の噴射部は、全体にわたって、所定の角度と略同じ角度傾斜している。このように構成すれば、噴射部の先端部のみを所定の角度と略同じ角度傾斜させて所定の角度傾斜した方向に不活性ガスを噴射する場合と異なり、圧力損失が増加するのを抑制することができる。つまり、噴射部内を通過する不活性ガスを円滑に流すことができるので、噴射部から噴射する不活性ガスの流速が低下することを抑制することができる。この結果、噴射部から噴射される不活性ガスの勢いが弱くなることを抑制することができるので、ワークからレーザ透過窓に向かう金属蒸気をより効果的に妨げることができる。
【0015】
上記一の局面によるレーザ溶接装置において、好ましくは、ガス噴射ノズルに不活性ガスを導入する不活性ガス導入部をさらに備え、ガス噴射ノズルは、周状の噴射部の外側に周状に設けられ、不活性ガス導入部から導入される不活性ガスが流れるバッファ空間をさらに含む。このように構成すれば、周状のバッファ空間により、噴射部から噴射する不活性ガスの流量を安定させることができるので、光路孔内により均一なガスシールドを形成することができる。
【0016】
上記バッファ空間を備えるレーザ溶接装置において、好ましくは、不活性ガス導入部は、ガス噴射ノズルの外周部に略等角度間隔に複数配置されている。このように構成すれば、バッファ空間内を流れる不活性ガスの量を安定させることができるので、光路孔内により一層均一なガスシールドを形成することができる。
【0017】
上記一の局面によるレーザ溶接装置おいて、好ましくは、光路孔は、全体にわたって、照射方向に沿って照射方向に直交する一定の断面形状を有する。このように構成すれば、光路孔が照射方向に沿って照射方向に直交する一定の断面形状を有していない場合と異なり、光路孔に噴射された不活性ガスの流速の変化を抑制することができる。また、光路孔に噴射された不活性ガスの流速が速くなる場合と異なり、光路孔内の不活性ガスの流れが乱流になりにくいので、光路孔内により均一なガスシールドを形成することができる。これらにより、ワークからレーザ透過窓に向かって噴出する金属蒸気に対する不活性ガスのシールド性を安定させることができる。
【0018】
上記一の局面によるレーザ溶接装置において、好ましくは、光路孔の照射方向に直交する断面形状は、ガス噴射ノズルの配置位置におけるレーザ光のスポット径以上でレーザ透過窓の直径より小さい円形形状を有する。このように構成すれば、光路孔内にレーザ光を通過させつつ、ワークからレーザ透過窓に向かって噴出する金属蒸気の光路孔の通過を抑制することができるので、ワークの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓に付着することをより一層抑制することができる。
【0019】
上記一の局面によるレーザ溶接装置において、好ましくは、レーザ透過窓を透過したレーザ光が通過するとともに、チャンバと連通する筒状部をさらに備え、レーザ透過窓およびガス噴射ノズルは、筒状部に配置されている。このように構成すれば、レーザ光が通過できる程度の内部寸法を有する筒状部にガス噴射ノズルを配置することができるので、ワークが配置される比較的大きな容積のチャンバにガス噴射ノズルを配置する場合に比べて、ガス噴射ノズルが大型化するのを抑制することができる。
【0020】
上記筒状部を備えるレーザ溶接装置において、好ましくは、筒状部は、レーザ透過窓が配置される第1筒状部と、レーザ光が通過する空間を有するとともに、第1筒状部の照射方向側に隣接する第2筒状部とを含み、第2筒状部の照射方向の長さは、第1筒状部の照射方向の長さよりも長く、ガス噴射ノズルは、第1筒状部のレーザ透過窓よりもチャンバ側に配置されている。このように構成すれば、第2筒状部内において不活性ガスを拡散させ、さらに、ガス噴射ノズルにより噴射される不活性ガスにより金属蒸気を妨げることができるので、ワークの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓に付着することをより確実に抑制することができる。
【0021】
この場合、チャンバ内の空気を排気してチャンバの内部空間を低圧にするポンプをさらに備え、チャンバは、ポンプに接続される排気口を含み、ガス噴射ノズルから排気口までの距離は、ガス噴射ノズルからレーザ透過窓までの距離よりも大きい。このように構成すれば、真空ポンプの排気により発生する負圧に起因して、噴射部から噴射される不活性ガスが乱れることを抑制することできる。この結果、噴射部から噴射される不活性ガスにより形成されるガスシールドのシールド性の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、上記のように、ワークの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓に付着することを効果的に抑制することが可能なレーザ溶接装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態によるレーザ溶接装置の全体を示した模式的な断面図である。
図2】第1実施形態によるレーザ溶接装置におけるチャンバと筒状部とを示した模式的な断面図である。
図3】第1実施形態によるレーザ溶接装置における第2筒状部の断面形状を示した模式的な断面図である。
図4】第1実施形態によるレーザ溶接装置における不活性ガス供給部を示した模式図である。
図5】第1実施形態によるレーザ溶接装置におけるガス噴射ノズルを示した断面図である。
図6】実施例に用いられたレーザ溶接装置を模式的に示した断面図である。
図7】実施例に用いられたレーザ溶接装置によるワークの溶接後のレーザ透過窓を示した図である。
図8】比較例に用いられたレーザ溶接装置を模式的に示した断面図である。
図9】比較例に用いられたレーザ溶接装置によるワークの溶接後のレーザ透過窓を示した図である。
図10】第2実施形態によるレーザ溶接装置におけるチャンバと筒状部とを示した模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0025】
[第1実施形態]
まず、図1図5を参照して、本発明の第1実施形態によるレーザ溶接装置1の構成について説明する。
【0026】
(レーザ溶接装置)
レーザ溶接装置1は、図1に示すように、エンジンからトランスミッションのシャフトに回転トルクを伝達するトルクコンバータ100(以下、ワークW)に対して、レーザ光Lによる溶接を行うように構成されている。具体的には、レーザ溶接装置1は、レーザ光照射部2と、チャンバ3と、脚部4と、筒状部5と、不活性ガス供給部6と、シャッタ7(図2参照)と、真空計8と、真空ポンプ9と、支持部10と、回転駆動機構11とを備えている。なお、真空ポンプ9は、特許請求の範囲の「ポンプ」の一例である。
【0027】
レーザ光照射部2は、ワークWを溶接するレーザ光Lを照射するように構成されている。ここで、レーザ光照射部2は、CO2レーザ、YAG(Yttrium Aluminium Garnet)レーザ、ファイバーレーザまたはディスクレーザなどの公知のレーザを使用する。具体的には、レーザ光照射部2は、レーザ光Lを発生させるレーザ発振機2aと、レーザ発振機2aにおいて発生したレーザ光Lの焦点を調節する光学系2bとを含んでいる。また、レーザ光照射部2は、長焦点(焦点距離F:約900[mm])である。なお、ワークWにおいて、レーザ光照射部2からのレーザ光Lが当たる個所を加工点Pとする。
【0028】
ここで、レーザ光照射部2において光学系2bから出射したレーザ光Lの光軸Aが延びる方向を光軸方向A1とする。また、光軸方向A1および上下方向A2に直交する方向を、幅方向A3とする。また、レーザ光照射部2において光学系2bから出射したレーザ光LのワークWに向かう方向を照射方向Eとする。
【0029】
チャンバ3は、図1および図2に示すように、内部にワークWを収容可能なように構成されている。具体的には、チャンバ3は、上壁部3aと、下壁部3bと、上壁部3aと下壁部3bとの間に設けられる側壁部3cと、上壁部3a、下壁部3bおよび側壁部3cに囲まれた内部空間3dとを含んでいる。側壁部3cは、レーザ光Lが通過する開口31aが形成された第1側壁部31と、光軸方向A1において第1側壁部31に対向する第2側壁部32とを有している。また、側壁部3cは、真空ポンプ9に接続される排気口12が形成された第3側壁部33と、幅方向A3において第3側壁部33に対向する第4側壁部34とを有している。ここで、チャンバ3は、アルミニウムなどの金属により形成されている。
【0030】
また、チャンバ3では、真空計8および真空ポンプ9を用いて内部空間3dの空気圧を調節することにより、内部空間3dが低真空雰囲気(約0.1kPa)に設定される。すなわち、チャンバ3は、ワークWが配置される低圧の内部空間3dを有している。
【0031】
脚部4は、上下方向A2に延びており、チャンバ3を下方側から支持する。脚部4では、上端部が下壁部3bの下端部に取り付けられ、下端部が床に取り付けられている。
【0032】
筒状部5は、レーザ光照射部2からのレーザ光Lが透過するとともに、チャンバ3と連通する。詳細には、筒状部5は、照射方向E側とは反対側に配置され、レーザ光Lを透過可能なレーザ透過窓20を有する第1筒状部50と、レーザ光Lが通過する空間60aを有するとともに、第1筒状部50の照射方向E側に隣接する第2筒状部60とを含んでいる。ここで、第1筒状部50は、レーザ光Lを通過させる空間50aを有している。第1筒状部50の空間50aは、チャンバ3の内部空間3dに第2筒状部60の空間60aを介して連通する。筒状部5には、第1筒状部50の空間50aと第2筒状部60の空間60aとを合わせた内部空間5aが形成されている。
【0033】
これにより、レーザ光照射部2からのレーザ光Lは、レーザ透過窓20、第1筒状部50の空間50a、第2筒状部60の空間60aおよびチャンバ3の内部空間3dの順に通過してワークWに到達する。
【0034】
不活性ガス供給部6は、筒状部5内に不活性ガス(窒素、アルゴン、二酸化炭素またはヘリウムなど)を供給するように構成されている。具体的には、不活性ガスを貯留する不活性ガス貯留部6aと、不活性ガス貯留部6aから供給された不活性ガスを筒状部5の内部空間5aに噴射するガス噴射ノズル6bとを含んでいる。
【0035】
シャッタ7は、レーザ透過窓20よりも光軸方向A1の出射側の内部空間5aを遮断するように構成されている。具体的には、シャッタ7は、幅方向A3に移動することにより、第1筒状部50のレーザ透過窓20からシャッタ7までの空間と、チャンバ3の内部空間3dとの連通または遮断を切替可能に構成されている。シャッタ7は、第1筒状部50に配置されている。
【0036】
真空計8は、電離真空計などの公知の真空計を使用する。真空ポンプ9は、ロータリ型真空ポンプなどの公知の真空ポンプを使用する。真空ポンプ9は、チャンバ3内の空気を排気してチャンバ3の内部空間3dを低圧にするように構成されている。
【0037】
支持部10は、上下方向A2に沿った回転軸線R回りにワークWを回転可能に支持するように構成されている。支持部10は、回転駆動機構11に接続されている。これにより、支持部10は、回転駆動機構11の駆動により回転軸線R回りに回転する。また、ワークWは、支持部10に取り付けられているので、支持部10の回転軸線R回りの回転に伴い回転する。
【0038】
回転駆動機構11は、支持部10を回転軸線R回りに回転させるように構成されている。具体的には、回転駆動機構11は、モータ11aと、一端部をモータ11aに架け、他端部を支持部10に架けるベルト11bと、支持部10を支持する軸受11cとを含んでいる。
【0039】
(第1筒状部)
図2および図3に示すように、上記した第1筒状部50は、光軸方向A1における出射側の端部53aに開口51を有する円筒形状を有している。すなわち、第1筒状部50の光軸方向A1に直交する断面形状は、円形形状を有している。ここで、第1筒状部50は、光軸方向A1から視て円形形状に形成され、光軸方向A1における入射側に設けられた端面部52と、端面部52の周縁部から光軸方向A1における出射側に突出する側周面部53とを有している。第1筒状部50の端面部52は、レーザ透過窓20が嵌め込まれる開口52aを有している。
【0040】
(第2筒状部)
また、上記した第2筒状部60は、光軸方向A1における出射側の端部に開口61を有する角筒形状を有している。すなわち、第2筒状部60の光軸方向A1に直交する断面形状は、矩形形状を有している。第2筒状部60は、上面部62と、下面部63と、上面部62と下面部63との間に設けられる側面部64とを含んでいる。第2筒状部60の側面部64は、光軸方向A1における入射側に設けられた端面部65と、幅方向A3における排気口12側に設けられる第1側面部64aと、第1側面部64aと幅方向A3において対向する第2側面部64bとを有している。第2筒状部60の端面部65は、第1筒状部50の空間50aと第2筒状部60の空間60aとを連通させる連通口65aを有している。また、第2筒状部60の照射方向Eの長さは、第1筒状部50の照射方向Eの長さよりも長い。
【0041】
(排気口)
上記した排気口12は、真空ポンプ9に接続されている。また、排気口12は、チャンバ3の第3側壁部33に形成されている。
【0042】
(不活性ガス供給部)
以下では、上記した不活性ガス供給部6についてより詳細に説明する。
【0043】
図4に示すように、不活性ガス供給部6は、上記した不活性ガス貯留部6aと、上記したガス噴射ノズル6bと、不活性ガス供給管6cと、流量計6dと、流量調節弁6eと、不活性ガス導入部6fとを含んでいる。
【0044】
不活性ガス供給管6cは、不活性ガス貯留部6aと不活性ガス導入部6fとを接続している。不活性ガス供給管6cは、不活性ガス貯留部6aから不活性ガス導入部6fへシールドガスとしての不活性ガスを供給する。流量計6dは、不活性ガス供給管6cを流れる不活性ガスの流量を計測する。流量調節弁6eは、流量計6dの計測値に基づいて弁の開閉を行なうことにより、不活性ガス供給管6cを流れる不活性ガスの流量を調節する。不活性ガス導入部6fは、不活性ガス供給管6cとガス噴射ノズル6bとを接続している。不活性ガス導入部6fは、不活性ガス供給管6cからガス噴射ノズル6bに不活性ガスを導入する。不活性ガス導入部6fは、ガス噴射ノズル6bの径方向のうちの内方向に沿って、不活性ガスをガス噴射ノズル6bに流す。
【0045】
不活性ガス導入部6fは、ガス噴射ノズル6bの外周部に略等角度間隔に複数配置されている。具体的には、不活性ガス導入部6fは、略90度間隔で複数(4個)配置されている。ここで、複数の不活性ガス導入部6fは、上下方向A2において下方向側に配置され、上方向側に向けて不活性ガスを流す第1導入部21と、上下方向A2において上方向側に配置され、下方向側に向けて不活性ガスを流す第2導入部22とを有している。複数の不活性ガス導入部6fは、幅方向A3において一方向側に配置され、他方向側に向けて不活性ガスを流す第3導入部23と、幅方向A3において他方向側に配置され、一方向側に向けて不活性ガスを流す第4導入部24とを有している。
【0046】
不活性ガス供給管6cは、不活性ガス貯留部6aと第1導入部21とを接続する第1供給部41と、第1供給部41から分岐して第3導入部23に接続される第2供給部42と、第1供給部41から分岐して第4導入部24に接続される第3供給部43とを有している。また、不活性ガス供給部6は、第3供給部43から分岐して第2導入部22に接続される第4供給部44とを有している。
【0047】
〈ガス噴射ノズル〉
以下では、上記したガス噴射ノズル6bについてより詳細に説明する。
【0048】
ガス噴射ノズル6bは、図2に示すように、レーザ透過窓20にワークWの加工点Pから噴出する金属蒸気のレーザ透過窓20への付着を遮るように構成されている。具体的には、ガス噴射ノズル6bは、第1筒状部50のレーザ透過窓20よりもチャンバ3側に配置されている。すなわち、ガス噴射ノズル6bは、第1筒状部50のレーザ透過窓20よりも照射方向E側の位置に不活性ガスを噴射可能な位置に配置されている。
【0049】
また、ガス噴射ノズル6bは、第1筒状部50のレーザ透過窓20よりも照射方向E側の位置に不活性ガスによるガスシールドを形成するように構成されている。具体的には、ガス噴射ノズル6bから排気口12までの距離L1は、ガス噴射ノズル6bからレーザ透過窓20までの距離L2よりも大きい。すなわち、ガス噴射ノズル6bは、噴射部162から噴射される不活性ガスにより形成されるガスシールドのシールド性に対する真空ポンプ9の排気による低下を抑制可能な位置に配置されている。
【0050】
第1実施形態のガス噴射ノズル6bは、図4および図5に示すように、レーザ光Lが通過する光路孔161と、レーザ光Lの照射方向E側でかつ光軸A側に向けて、不活性ガスを光路孔161内に噴射する噴射部162とを含んでいる。また、ガス噴射ノズル6bは、光路孔161の照射方向E側とは反対方向側に設けられる凹部163を含んでいる。なお、不活性ガスは、レーザ光LによるワークWの溶接の際にワークWからレーザ透過窓20側(図2参照)に噴出する金属蒸気をシールドするためのシールドガスである。
【0051】
光路孔161は、照射方向E側から視て円形形状に形成されている。光路孔161は、ガス噴射ノズル6bの照射方向E側から視たときの中心部分に配置されている。光路孔161は、照射方向Eに沿ってガス噴射ノズル6bを貫通している。光路孔161は、全体にわたって、照射方向Eに沿って照射方向Eに直交する一定の断面形状を有している。すなわち、光路孔161の照射方向Eに直交する断面形状は、ガス噴射ノズル6bの配置位置におけるレーザ光Lのスポット径R1以上でレーザ透過窓20の直径R2(図2参照)より小さい円形形状を有している。
【0052】
凹部163は、照射方向E側とは反対側から視て円形形状に形成されている。凹部163は、ガス噴射ノズル6bの照射方向E側とは反対側から視たときの中心部分に配置されている。凹部163は、照射方向E側とは反対側から視たとき光路孔161よりも大きい円形形状を有している。凹部163は、光路孔161に連通している。
【0053】
図5に示すように、噴射部162は、レーザ光Lの照射方向E側でかつ光軸A側に向けて、レーザ光Lの光軸Aに対して所定の角度θ傾斜した方向に不活性ガスを噴射するように構成されている。
【0054】
具体的には、噴射部162は、所定の角度θと略同じ角度傾斜している。すなわち、噴射部162は、レーザ光Lの光軸Aに対して所定の角度θ傾斜した方向に延びるスリット形状に形成されている。ここで、所定の角度θは、レーザ光Lの光軸Aに対して約30度以上約90度未満であることが好ましい。また、所定の角度θは、レーザ光Lの光軸Aに対して約30度以上約60度以下であることがより好ましい。
【0055】
また、噴射部162は、導入された不活性ガスの流速を大きくするように構成されている。具体的には、スリット形状の噴射部162は、微小なスリット幅Sを有している。スリット幅Sは、約0.3mm以上約0.7mm以下であることが好ましい。また、スリット幅Sは、約0.5mmであることがより好ましい。なお、光路孔161の直径は、約32mmである。
【0056】
このように、ガス噴射ノズル6bでは、噴射部162により所定の角度θかつ所定の流速に、不活性ガス導入部6fから導入される不活性ガスが整流される。
【0057】
噴射部162は、光路孔161内に噴射した不活性ガスにより形成されるガスシールドのシールド性を安定させるように構成されている。具体的には、噴射部162は、光路孔161の内周面161aに沿って周状に設けられている。すなわち、噴射部162は、周状のスリット形状に形成されている。ここで、スリット形状の噴射部162は、全体にわたって、所定の角度θと略同じ角度傾斜している。これにより、噴射部162により噴射された不活性ガスは、略円錐状のガスシールドを形成する。このように、噴射部162により光路孔161内に噴射した不活性ガスによって形成されるガスシールドは、光路孔161を覆う。
【0058】
図4および図5に示すように、ガス噴射ノズル6bは、周状の噴射部162の外側に周状に設けられ、不活性ガス導入部6fから導入される不活性ガスが流れるバッファ空間164を含んでいる。すなわち、バッファ空間164には、不活性ガス導入部6fから導入される不活性ガスが充満する。バッファ空間164は、噴射部162から噴射される不活性ガスの流量を安定させて、噴射部162から噴射される不活性ガスにより形成されるガスシールドのシールド性を安定させるように構成されている。
【0059】
これらにより、ガス噴射ノズル6bでは、噴射部162から噴射される不活性ガスの流量は、所定の流量になる。すなわち、所定の流量は、約4[L/min]以上約10[L/min]以下であることが好ましい。また、所定の流量は、約4[L/min]以上約6[L/min]以下であることがより好ましい。
【0060】
ガス噴射ノズル6bは、第1ノズル部材71と、第2ノズル部材72とに分けて設けられている。第1ノズル部材71は、照射方向E側に配置されている。第2ノズル部材72は、第1ノズル部材71の照射方向E側とは反対側に隣接している。上記した光路孔161は、第1ノズル部材71に形成された第1光路孔71aと、第2ノズル部材72に形成された第2光路孔72aとを合わせて形成されている。上記したスリット形状の噴射部162は、第1ノズル部材71と第2ノズル部材72との境界部分の隙間により形成されている。上記したバッファ空間164は、第1ノズル部材71に形成された第1バッファ空間71bと、第2ノズル部材72に形成された第2バッファ空間72bとを合わせて形成されている。
【0061】
ガス噴射ノズル6bは、第1ノズル71を第2ノズル72に取り付けることにより形成される隙間165を密閉する密閉材166を有している。隙間165は、スリット形状の噴射部162の延びる方向に沿った方向に延びている。密閉材166は、弾性材により形成されたOリングである。密閉材166は、ガス噴射ノズル6bの径方向において、バッファ空間164よりも外側に配置されている。これにより、ガス噴射ノズル6bでは、不活性ガスが隙間165を通過して漏れることを抑制することが可能である。
【0062】
このような構成のガス噴射ノズル6bは、アルミニウムなどの金属により形成されている。
【0063】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0064】
第1実施形態では、上記のように、レーザ光Lが通過する光路孔161と、レーザ光Lの照射方向E側でかつ光軸A側に向けて、レーザ光LによるワークWの溶接の際にワークWからレーザ透過窓20側に噴出する金属蒸気をシールドするための不活性ガスを光路孔161内に噴射する噴射部162とを含むガス噴射ノズル6bを設ける。これにより、ワークWの溶接時にワークWからレーザ透過窓20に向かう金属蒸気に対して、噴射部162からレーザ光Lの照射方向E側でかつ光軸A側に向けて噴射される不活性ガスを当てることにより、不活性ガスを充満させるだけの場合と異なり、ワークWからレーザ透過窓20に向かう金属蒸気を効果的に妨げることができる。また、レーザ光Lの光軸Aに対して略直角な方向に不活性ガスを噴射する場合と比較して、ワークWからレーザ透過窓20に向かう金属蒸気を押し返す力を大きくすることができる。これらの結果、ワークWの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓20に付着することを効果的に抑制することができる。また、光路孔161内にレーザ光Lを通すことにより、レーザ光Lの照射を妨げることなく、ワークWの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓20に付着することを抑制することができる。
【0065】
また、第1実施形態では、上記のように、噴射部162を、レーザ光Lの照射方向E側でかつ光軸A側に向けて、レーザ光Lの光軸Aに対して所定の角度θ傾斜した方向に不活性ガスを噴射するように構成する。これにより、レーザ光Lの光軸Aに対して略平行な方向に不活性ガスを噴射する場合と異なり、光路孔161を覆うガスシールドをより確実に形成することができる。これらの結果、ワークWからレーザ透過窓20に向かう金属蒸気を効果的に妨げることができるので、ワークWの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓20に付着することをより効果的に抑制することができる。
【0066】
また、第1実施形態では、上記のように、噴射部162を、光路孔161の内周面161aに沿って周状に設ける。これにより、噴射部162から光路孔161内にバランスよく(均一に)不活性ガスを噴射することができるので、光路孔161内に均一なガスシールドを形成することができる。この結果、金属蒸気に対する不活性ガスのシールド性を安定させることができる。
【0067】
また、第1実施形態では、上記のように、噴射部162を、周状のスリット形状に形成する。これにより、複数の孔を形成することにより噴射部162を設ける場合と異なり、噴射部162から光路孔161内に隙間なく不活性ガスを噴射することができるので、光路孔161内により均一なガスシールドを形成することができる。この結果、金属蒸気に対する不活性ガスのシールド性をより安定させることができる。
【0068】
また、第1実施形態では、上記のように、スリット形状の噴射部162を、全体にわたって、所定の角度θと略同じ角度傾斜させる。これにより、噴射部162の先端部のみを所定の角度θと略同じ角度傾斜させて所定の角度θ傾斜した方向に不活性ガスを噴射する場合と異なり、圧力損失が増加するのを抑制することができる。つまり、噴射部162内を通過する不活性ガスを円滑に流すことができるので、噴射部162から噴射する不活性ガスの流速が低下することを抑制することができる。この結果、噴射部162から噴射される不活性ガスの勢いが弱くなることを抑制することができるので、ワークWからレーザ透過窓20に向かう金属蒸気をより効果的に妨げることができる。
【0069】
また、第1実施形態では、上記のように、ガス噴射ノズル6bに、周状の噴射部162の外側に周状に設け、不活性ガス導入部6fから導入される不活性ガスが流れるバッファ空間164を設ける。これにより、周状のバッファ空間164により、噴射部162から噴射する不活性ガスの流量を安定させることができるので、光路孔161内により均一なガスシールドを形成することができる。
【0070】
また、第1実施形態では、上記のように、不活性ガス導入部6fを、ガス噴射ノズル6bの外周部に略等角度間隔に複数配置する。これにより、バッファ空間164内に滞留させる不活性ガスの量を安定させることができるので、光路孔161内により一層均一なガスシールドを形成することができる。
【0071】
また、第1実施形態では、上記のように、光路孔161を、全体にわたって、照射方向Eに沿って照射方向Eに直交する一定の断面形状により設ける。これにより、光路孔161が照射方向Eに沿って照射方向Eに直交する一定の断面形状を有していない場合と異なり、光路孔161に噴射された不活性ガスの流速の変化を抑制することができる。また、光路孔161に噴射された不活性ガスの流速が速くなる場合と異なり、光路孔161内の不活性ガスの流れが乱流になりにくいので、光路孔161内により均一なガスシールドを形成することができる。これらの結果、ワークWからレーザ透過窓20に向かって噴出する金属蒸気に対する不活性ガスのシールド性を安定させることができる。
【0072】
また、第1実施形態では、上記のように、光路孔161の照射方向Eに直交する断面形状を、ガス噴射ノズル6bの配置位置におけるレーザ光Lのスポット径R1以上でレーザ透過窓20の直径R2より小さい円形形状により設ける。これにより、光路孔161内にレーザ光Lを通過させつつ、ワークWからレーザ透過窓20に向かって噴出する金属蒸気の光路孔161の通過を抑制することができるので、ワークWの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓20に付着することをより一層抑制することができる。
【0073】
また、第1実施形態では、上記のように、レーザ透過窓20を透過したレーザ光Lが通過するとともに、チャンバ3と連通する筒状部5を設ける。レーザ透過窓20およびガス噴射ノズル6bを、筒状部5に配置する。これにより、レーザ光Lが通過できる程度の内部寸法を有する筒状部5にガス噴射ノズル6bを配置することができるので、ワークWが配置される比較的大きな容積のチャンバ3にガス噴射ノズル6bを配置する場合に比べて、ガス噴射ノズル6bが大型化するのを抑制することができる。
【0074】
また、第1実施形態では、上記のように、第2筒状部60の照射方向Eの長さを、第1筒状部50の照射方向Eの長さよりも長くする。ガス噴射ノズル6bを、第1筒状部50のレーザ透過窓20よりもチャンバ3側に配置する。これにより、第2筒状部60内において不活性ガスを拡散させ、さらに、ガス噴射ノズル6bから噴射される不活性ガスにより金属蒸気を妨げることができるので、ワークWの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓20に付着することをより確実に抑制することができる。
【0075】
また、第1実施形態では、上記のように、ガス噴射ノズル6bから排気口12までの距離L1を、ガス噴射ノズル6bからレーザ透過窓20までの距離L2よりも大きくする。これにより、真空ポンプ9の排気により発生する負圧に起因して、噴射部162から噴射される不活性ガスが乱れることを抑制することできる。この結果、噴射部162から噴射される不活性ガスにより形成されるガスシールドのシールド性の低下を抑制することができる。
【0076】
また、第1実施形態では、上記のように、噴射部162のスリット幅Sを適正な幅(約0.5mm)にすることにより、噴射部162から噴射される不活性ガスの流量を低減させることが可能である。
【0077】
(レーザ溶接装置を用いたワークの溶接の実験結果)
次に、図6図9を参照して、上記したレーザ溶接装置1および上記したレーザ溶接装置1の構成に変更を加えたレーザ溶接装置201を用いてワークWの溶接を行った際のレーザ透過窓20の汚れを示した実施例および比較例について説明する。
【0078】
〈実施例〉
実施例について、図6および図7を参照して説明する。実施例は、上記したレーザ溶接装置1を用いてワークWの溶接を行った際の実験結果である。
【0079】
図6に示すように、レーザ溶接装置1では、第1筒状部50内に配置されたガス噴射ノズル6bから噴射される不活性ガス(シールドガス)により、ワークWの加工点Pから噴出する金属蒸気が遮られている。
【0080】
実施例では、以下のような条件下で、レーザ溶接装置1によるワークW(トルクコンバータ100)の溶接を行った。噴射部162の所定の角度θは、レーザ光Lの光軸Aに対して60度である。噴射部162のスリット幅Sは、0.5mmである。噴射部162から噴射される不活性ガスの所定の流量は、5[L/min]である。チャンバ3の内部空間3dの圧力は、0.1[kPa]である。レーザ光照射部2の出力は、4.0[kW]である。レーザ光照射部2の焦点距離Fは、900[mm]である。不活性ガスは、窒素である。ガス噴射ノズル6bとレーザ透過窓20との距離は、50[mm]である。
【0081】
図7に示すように、実施例の実験結果では、金属蒸気による汚れがレーザ透過窓20に付着していない。この結果、筒状部5内においてガス噴射ノズル6bから噴射される不活性ガスにより形成されるガスシールドによって、ワークWから噴出した金属蒸気を効果的に妨げていることがわかる。
【0082】
〈比較例〉
比較例について、図8および図9を参照して説明する。比較例は、上記した実施例のレーザ溶接装置1とは構成が異なるレーザ溶接装置201を用いてワークWの溶接を行った際の実験結果である。
【0083】
図8に示すように、レーザ溶接装置201では、不活性ガス貯留部6aから供給される不活性ガス(シールドガス)を第1筒状部250内に充満させることにより、ワークWの加工点Pから噴出する金属蒸気が遮られている。
【0084】
比較例では、以下のような条件下で、レーザ溶接装置201によるワークW(トルクコンバータ100)の溶接を行った。不活性ガス貯留部6aから供給される不活性ガスの流量は、10[L/min]である。チャンバ203の内部空間203dの圧力は、0.1[kPa]である。レーザ光照射部202の出力は、4.0[kW]である。レーザ光照射部202の焦点距離Fは、250[mm]である。不活性ガスは、窒素である。
【0085】
図9に示すように、比較例の実験結果では、レーザ光照射部202によるワークWの溶接を1回行った後、金属蒸気による汚れがレーザ透過窓20に付着している。この結果、不活性ガス貯留部6aから供給される不活性ガスを第1筒状部250内に充満させるだけでは、ワークWから噴出した金属蒸気を効果的に妨げないことがわかる。
【0086】
[第2実施形態]
次に、図10を参照して、本発明の第2実施形態によるレーザ溶接装置301の構成について説明する。この第2実施形態のレーザ溶接装置301では、第1実施形態のレーザ溶接装置1とは異なり、排気口312を第2筒状部360に配置した例について説明する。なお、第1実施形態のレーザ溶接装置1と同様の構成については、同一の符号を付し説明を省略する。
【0087】
(排気口)
排気口312は、真空ポンプ9に接続され、第2筒状部360の第1側面部364aに形成されている。
【0088】
(ガス噴射ノズル)
ガス噴射ノズル6bは、第1筒状部50のレーザ透過窓20よりもチャンバ3側に配置されている。また、ガス噴射ノズル6bは、第1筒状部50のレーザ透過窓20よりも照射方向E側の位置に不活性ガスによるガスシールドを形成するように構成されている。具体的には、ガス噴射ノズル6bから排気口312までの距離L1は、ガス噴射ノズル6bからレーザ透過窓20までの距離L2よりも大きい。なお、第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0089】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0090】
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、ワークWの溶接時にワークWからレーザ透過窓20に向かう金属蒸気に対して、噴射部162からレーザ光Lの照射方向E側でかつ光軸A側に向けて噴射される不活性ガスを当てることにより、不活性ガスを筒状部5内に充満させているだけの場合と異なり、ワークWからレーザ透過窓20に向かう金属蒸気を効果的に妨げることができる。これにより、ワークWの溶接時に金属蒸気がレーザ透過窓20に付着することを抑制することができる。
【0091】
また、第2実施形態では、上記のように、排気口312を第2筒状部60に配置することにより、チャンバ3内に配置する場合と比較して、ワークWの加工点P近傍に不活性ガスが流入することを抑制することができる。この結果、加工点Pの真空度を安定させることが可能であるので、ワークWの溶接部分の品質を向上させることが可能である。なお、第2実施形態のその他の効果は、第1実施形態と同様である。
【0092】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0093】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、ワークWがトルクコンバータ100である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ワークWは、トルクコンバータ以外の機械構成品であってもよい。
【0094】
また、上記第1および第2実施形態では、レーザ光照射部2は、長焦点(焦点距離F:約900[mm])である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、レーザ光照射部は、約900[mm]を越える焦点距離を有していてもよい。
【0095】
第1および第2実施形態では、ガス噴射ノズル6bは、第1筒状部50のレーザ透過窓20よりもチャンバ3側に配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ガス噴射ノズルは、ガス噴射ノズルから排気口までの距離をガス噴射ノズルからレーザ透過窓までの距離よりも大きくできるのであれば、第2筒状部に配置してもよい。
【0096】
第1および第2実施形態では、噴射部162は、所定の角度θと略同じ角度傾斜している例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、噴射部の全体ではなく噴射部の先端部のみが、所定の角度と略同じ角度傾斜しているだけでもよい。
【0097】
上記第1および第2実施形態では、噴射部162は、スリット形状である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、噴射部は、複数の微小な孔により形成されてもよい。
【0098】
上記第1および第2実施形態では、不活性ガス導入部6fは、略90度間隔で4個配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、不活性ガス導入部は、1~3個または5個以上であってもよく、たとえば略180度間隔で不活性ガス導入部を2個配置してもよく、不活性ガス導入部を配置する角度と個数は限定されない。
【0099】
上記第1および第2実施形態では、光路孔161は、照射方向E側から視て略円形形状に形成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、光路孔は、レーザ光を妨げなければ、照射方向側から視て四角形などの多角形形状であってもよく、光路孔の照射方向側から視た形状は限定されない。
【符号の説明】
【0100】
1、201、301 レーザ溶接装置
2、202 レーザ光照射部
3、203 チャンバ
3d、203d 内部空間
5 筒状部
6b ガス噴射ノズル
6f 不活性ガス導入部
9 真空ポンプ(ポンプ)
12、312 排気口
20 レーザ透過窓
50 第1筒状部
60、360 第2筒状部
161 光路孔
162 噴射部
164 バッファ空間
A 光軸
θ 所定の角度
E 照射方向
L レーザ光
L1、L2 距離
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10