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特許7239314樹脂積層体並びに該樹脂積層体を含む透明基板材料及び透明保護材料
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  • 特許-樹脂積層体並びに該樹脂積層体を含む透明基板材料及び透明保護材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】樹脂積層体並びに該樹脂積層体を含む透明基板材料及び透明保護材料
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20230307BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/36 102
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018237149
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2020097197
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】平林 正樹
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/084068(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/024553(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/178437(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/079867(WO,A1)
【文献】特開2018-114757(JP,A)
【文献】特開2014-198454(JP,A)
【文献】特開2018-020522(JP,A)
【文献】特開2016-155274(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094748(WO,A1)
【文献】特開昭55-102614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00
301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂を主成分とするポリカーボネート系樹脂(A)シートの少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂(B)を含む層が積層されてなり、
前記ポリカーボネート系樹脂(A)シートを構成するポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量が15,000~75,000であり、
前記熱可塑性樹脂(B)が、ビニル芳香族単量体単位を50~75質量%、環状酸無水物単量体単位を5~30質量%、及びメタクリル酸エステル単量体単位を5~35質量%含む共重合体(b1)と、アクリル樹脂(b2)とを含み、
前記熱可塑性樹脂(B)における共重合体(b1)と、アクリル樹脂(b2)との含有量の合計100質量部を基準として、共重合体(b1)の含有量が5~95質量部であり、アクリル樹脂(b2)の含有量が95~5質量部であり、
前記共重合体(b1)が、厚さ100μmの該共重合体(b1)からなる単層フィルムとした場合に、0.25mmφ以上0.60mmφ未満のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が20個未満/0.25m、且つ、0.60mmφ以上のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が10個未満/0.25mを満たす、樹脂積層体の製造方法であって、
前記共重合体(b1)の重合初期段階では、前記共重合体(b1)における環状酸無水物単量体単位の総重量100%に対して、環状酸無水物単量体の添加量を7%以下とし、かつ、重合段階では、前記共重合体(b1)における環状酸無水物単量体単位の総重量100%に対して、環状酸無水物単量体の分添速度を7%/時以下として、前記共重合体(b1)を調製する工程を含む、前記製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(B)が、共重合体(b1)と、アクリル樹脂(b2)とのポリマーアロイである、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記共重合体(b1)に含まれるビニル芳香族単量体単位が、スチレンである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記共重合体(b1)に含まれるメタクリル酸エステル単量体単位が、メタクリル酸エステルである、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記共重合体(b1)に含まれる環状酸無水物単量体単位が、無水マレイン酸である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂(B)を含む層の厚さが10~250μmであり、前記樹脂積層体の全体厚みが0.05~3.5mmの範囲である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂積層体の全体厚みに対する前記熱可塑性樹脂(B)を含む層の厚みの割合が30%未満である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記共重合体(b1)の重量平均分子量が5万~30万である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂(B)を含む層および前記ポリカーボネート系樹脂(A)シートの少なくとも一方が紫外線吸収剤を含有する、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂(B)を含む層の表面にハードコート層をさらに備える、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂積層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理および防汚処理のいずれか一つ以上が施されてなる、請求項1~10のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な基材材料や保護材料に好適に使用され、ポリカーボネート系樹脂シートと、少なくとも1種類の特定の共重合体及びアクリル樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを有する樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は表面硬度、透明性、耐擦傷性および耐候性などに優れる。一方、ポリカーボネート樹脂は耐衝撃性などに優れる。このことからアクリル樹脂層とポリカーボネート樹脂層を有する積層体は、表面硬度、透明性、耐擦傷性、耐候性および耐衝撃性などに優れ、自動車部品、家電製品、電子機器および携帯型情報端末の表示窓に用いられている。しかし、アクリル樹脂層とポリカーボネート樹脂層を有する積層体は、高温高湿下である屋外や車中で使用される場合に、反りが発生する問題を抱えている。
【0003】
上記の問題を解決すべく、特許文献1(特開2014-198454号公報)および特許文献2(国際公開第2015/133530号)ではビニル芳香族単量体単位、メタクリル酸エステル単量体単位、および環状酸無水物単量体単位を含む共重合体とアクリル樹脂とをポリマーアロイした樹脂組成物からなる表層とポリカーボネート樹脂からなる層とを備える積層体が報告されている。かかる積層体は、85℃85%の高温高湿下で反りを抑えることが報告されている。
【0004】
しかしながら、特許文献3(国際公開第2016/132743号)ではビニル芳香族単量体単位、メタクリル酸エステル単量体単位、および環状酸無水物単量体単位を含む共重合体とアクリル樹脂とをポリマーアロイした樹脂組成物は、滑剤を含有させて高温条件下で溶融成形を行うと、ゲルが生成し、製品の外観を損ねることが報告されている。
【0005】
他にも、上記共重合体の製造時に環状酸無水物単量体単位を多く含む共重合体(透明物)が生成され、その透明物を含む共重合体及びアクリル樹脂を含む表層とポリカーボネート樹脂とからなる積層体は、透明物に起因して、歪み欠陥や積層体の界面にスジ欠陥が発生し、外観不良となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-198454号公報
【文献】国際公開第2015/133530号
【文献】国際公開第2016/132743号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、透明な基材材料や保護材料に使用され、ポリカーボネート系樹脂シートと、少なくとも1種類の特定の共重合体及びアクリル樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを有し、高温高湿下に曝されても耐反り変形性に優れ、且つ、外観良好な樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の本発明により上記課題を解決できることを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
<1> ポリカーボネート樹脂を主成分とするポリカーボネート系樹脂(A)シートの少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂(B)を含む層が積層されてなる樹脂積層体であって、
前記熱可塑性樹脂(B)が、ビニル芳香族単量体単位を50~75質量%、環状酸無水物単量体単位を5~30質量%、及びメタクリル酸エステル単量体単位を5~35質量%含む共重合体(b1)と、アクリル樹脂(b2)とを含み、
前記共重合体(b1)が、厚さ100μmの該共重合体(b1)からなる単層フィルムとした場合に、0.25mmφ以上0.60mmφ未満のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が20個未満/0.25m、且つ、0.60mmφ以上のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が10個未満/0.25mを満たす、前記樹脂積層体である。
<2> 前記熱可塑性樹脂(B)における共重合体(b1)と、アクリル樹脂(b2)との含有量の合計100質量部を基準として、共重合体(b1)の含有量が5~95質量部であり、アクリル樹脂(b2)の含有量が95~5質量部である、上記<1>に記載の樹脂積層体である。
<3> 前記熱可塑性樹脂(B)が、共重合体(b1)と、アクリル樹脂(b2)とのポリマーアロイである、上記<1>または<2>に記載の樹脂積層体である。
<4> 前記共重合体(b1)に含まれるビニル芳香族単量体単位が、スチレンである、上記<1>~<3>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<5> 前記共重合体(b1)に含まれるメタクリル酸エステル単量体単位が、メタクリル酸エステルである、上記<1>~<4>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<6> 前記共重合体(b1)に含まれる環状酸無水物単量体単位が、無水マレイン酸である、上記<1>~<5>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<7> 前記熱可塑性樹脂(B)を含む層の厚さが10~250μmであり、前記樹脂積層体の全体厚みが0.05~3.5mmの範囲である、上記<1>~<6>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<8> 前記樹脂積層体の全体厚みに対する前記熱可塑性樹脂(B)を含む層の厚みの割合が30%未満である、上記<1>~<7>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<9> 前記共重合体(b1)の重量平均分子量(Mw)が5万~30万である、上記<1>~<8>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<10> 前記ポリカーボネート系樹脂(A)シートを構成するポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量が15,000~75,000である、上記<1>~<9>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<11> 前記熱可塑性樹脂(B)を含む層および前記ポリカーボネート系樹脂(A)シートの少なくとも一方が紫外線吸収剤を含有する、上記<1>~<10>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<12> 前記熱可塑性樹脂(B)を含む層の表面にハードコート層をさらに備える、上記<1>~<11>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<13> 前記樹脂積層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理および防汚処理のいずれか一つ以上が施されてなる、上記<1>~<12>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<14> 上記<1>~<13>のいずれかに記載の樹脂積層体を含む透明基板材料である。
<15> 上記<1>~<13>のいずれかに記載の樹脂積層体を含む透明保護材料である。
<16> 上記<1>~<13>のいずれかに記載の樹脂積層体を含むタッチパネル前面保護板である。
<17> 上記<1>~<13>のいずれかに記載の樹脂積層体を含む、OA機器用または携帯電子機器用の前面板である。
【0009】
本発明によれば、高温高湿下に曝されても耐反り変形性に優れ、且つ、外観良好な樹脂積層体が提供され、該樹脂積層体は透明基板材料や透明保護材料として用いることができる。具体的には携帯電話端末、携帯型電子遊具、携帯情報端末、モバイルPCといった携帯型のディスプレイデバイスや、ノート型PC、デスクトップ型PC液晶モニター、液晶テレビといった設置型のディスプレイデバイスなどにおいて、例えばこれらの機器を保護する前面板として、好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明における共重合体(b1)からなる単層フィルムにおける透明物の顕微鏡写真の例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について製造例や実施例等を例示して詳細に説明するが、本発明は例示される製造例や実施例等に限定されるものではなく、本発明の内容を大きく逸脱しない範囲であれば任意の方法に変更して行うこともできる。
【0012】
<ポリカーボネート系樹脂(A)>
本発明におけるポリカーボネート系樹脂(A)シートに使用されるポリカーボネート系樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂を主成分とするポリカーボネート系樹脂(A)である。ここで、「ポリカーボネート樹脂を主成分とする」とは、ポリカーボネート樹脂の含有量が50質量%を超えることを意味する。ポリカーボネート系樹脂(A)は、75質量%以上のポリカーボネート樹脂を含んでいるのが好ましく、90質量%以上のポリカーボネート樹脂を含んでいるのがより好ましく、実質的にポリカーボネート樹脂からなるのがさらに好ましい。ポリカーボネート系樹脂(A)は分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む。即ち、-[O-R-OCO]-単位(式中、Rが脂肪族基、芳香族基、又は脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つものを示す)を含むものであれば特に限定されるものではないが、特に下記式[1]の構造単位を含むポリカーボネートを使用することが好ましい。このようなポリカーボネートを使用することで、耐衝撃性に優れた樹脂積層体を得ることができる。
【化1】
具体的には、ポリカーボネート系樹脂(A)として、芳香族ポリカーボネート樹脂(例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社から市販されている、ユーピロンS-2000、ユーピロンS-1000、ユーピロンE-2000)等が使用可能である。
近年、前面板にも曲げ加工を行うような要望が増えていることから、ポリカーボネート系樹脂(A)は、下記一般式[2]で表わされる1価フェノールを末端停止剤として用いて合成することが好ましい。
【化2】
(式中、Rは、炭素数8~36のアルキル基、又は炭素数8~36のアルケニル基を表し、
~Rはそれぞれ水素、ハロゲン、又は置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基若しくは炭素数6~12のアリール基を表し、置換基は、ハロゲン、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~12のアリール基である。)
【0013】
一般式[2]の1価フェノールは、下記式[3]で表わされる1価フェノールであることがより好ましい。
【化3】
(式中、Rは、炭素数8~36のアルキル基、又は、炭素数8~36のアルケニル基を表す。)
【0014】
一般式[2]又は一般式[3]におけるRの炭素数は特定の数値範囲内であることがより好ましい。具体的には、Rの炭素数の上限値として36が好ましく、22がより好ましく、18が特に好ましい。また、Rの炭素数の下限値として、8が好ましく、12がより好ましい。
【0015】
一般式[2]又は一般式[3]で示される1価フェノール(末端停止剤)の中でも、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸2-ヘキシルデシルエステルのいずれかもしくは両方を末端停止剤として使用することが特に好ましい。
【0016】
として、例えば、炭素数16のアルキル基を有する1価フェノール(末端停止剤)を使用した場合、ガラス転移温度、溶融流動性、成形性、耐ドローダウン性、ポリカーボネート樹脂製造時の1価フェノールの溶剤溶解性が優れており、本発明に用いるポリカーボネート樹脂に使用する末端停止剤として、特に好ましい。
【0017】
一方、一般式[2]又は一般式[3]におけるRの炭素数が増加しすぎると、1価フェノール(末端停止剤)の有機溶剤溶解性が低下する傾向があり、ポリカーボネート樹脂製造時の生産性が低下することがある。
一例として、Rの炭素数が36以下であれば、ポリカーボネート樹脂を製造するにあたって生産性が高く、経済性も良い。Rの炭素数が22以下であれば、1価フェノールは、特に有機溶剤溶解性に優れており、ポリカーボネート樹脂を製造するにあたって生産性を非常に高くすることができ、経済性も向上する。
一般式[2]又は一般式[3]におけるRの炭素数が小さすぎると、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が十分に低い値とはならず、熱成形性が低下することがある。
【0018】
ポリカーボネート系樹脂(A)に含まれる他の樹脂としては、ポリエステル系樹脂がある。ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸を主成分として含んでいればよく、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分を含んでいてもよい。例えば、主成分であるエチレングリコール80~60(モル比率)に対して1,4-シクロヘキサンジメタノールを20~40(モル比率、合計100)含むグリコール成分とが重縮合してなるポリエステル系樹脂、所謂「PETG」が好ましい。また、ポリカーボネート系樹脂(A)には、エステル結合とカーボネート結合をポリマー骨格中に有するポリエステルカーボネート系樹脂が含まれていてもよい。
【0019】
本発明において、ポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量は、樹脂積層体の耐衝撃性および成形条件に影響する。つまり、重量平均分子量が小さすぎる場合は、樹脂積層体の耐衝撃性が低下するので好ましくない。重量平均分子量が高すぎる場合は、ポリカーボネート系樹脂(A)を含む樹脂層を積層させる時に過剰な熱源を必要とする場合があり、好ましくない。また成形法によっては高い温度が必要になるので、ポリカーボネート系樹脂(A)が高温にさらされることになり、その熱安定性に悪影響を及ぼすことがある。ポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量は、15,000~75,000が好ましく、20,000~70,000がより好ましい。さらに好ましくは25,000~65,000である。
【0020】
<ポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量の測定法>
ポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量は、特開2007-179018号公報の段落0061~0064の記載に基づいて測定することができる。測定法の詳細を以下に示す。
【表1】
【0021】
標準ポリマーとしてポリスチレン(PS)を使用して測定を行った後、ユニバーサルキャリブレーション法により、溶出時間とポリカーボネート(PC)の分子量との関係を求めて検量線とする。そして、PCの溶出曲線(クロマトグラム)を検量線の場合と同一の条件で測定し、溶出時間(分子量)とその溶出時間のピーク面積(分子数)とから各平均分子量を求める。分子量Miの分子数をNiとすると、重量平均分子量は、以下のように表される。また換算式は以下の式を使用した。
(重量平均分子量)
Mw=Σ(NiMi)/Σ(NiMi)
(換算式)
MPC=0.47822MPS1.01470
なお、MPCはPCの分子量、MPSはPSの分子量を示す。
【0022】
本発明に使用されるポリカーボネート系樹脂(A)の製造方法は、公知のホスゲン法(界面重合法)、エステル交換法(溶融法)等、使用するモノマーにより適宜選択できる。
【0023】
<熱可塑性樹脂(B)>
本発明に使用される熱可塑性樹脂(B)は、後述の共重合体(b1)と、アクリル樹脂(b2)とを含む。それぞれの構成要素について以下に説明する。
【0024】
<共重合体(b1)>
本発明による熱可塑性樹脂(B)に含まれる共重合体(b1)は、ビニル芳香族単量体単位を50~75質量%、好ましくは52~70質量%、より好ましくは53~67質量%、環状酸無水物単量体単位を5~30質量%、好ましくは10~30質量%、より好ましくは12~30質量%、およびメタクリル酸エステル単量体単位を5~35質量%、好ましくは10~30質量%、より好ましくは15~27質量%、含む三元共重合体である。共重合体(b1)として、2種類以上の共重合体を用いてもよい。
【0025】
共重合体(b1)は、ビニル芳香族単量体単位と、環状酸無水物単量体単位と、メタクリル酸エステル単量体単位とを含む三元共重合体であるが、アクリル樹脂(b2)を組み合わせて用いることで、共重合体(b1)のみを用いた場合よりも高温高湿下での形状安定性を有した樹脂積層体が得られる。
【0026】
共重合体(b1)のビニル芳香族単量体単位としては、特に限定されず、任意の公知のビニル芳香族単量体を用いる事が出来るが、入手の容易性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン等が挙げられる。これらの中でも、相溶性の観点からスチレンが特に好ましい。これらのビニル芳香族単量体は2種以上を混合してもよい。
【0027】
共重合体(b1)のメタクリル酸エステル単量体単位としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸および(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル及びメタクリル酸2エチルヘキシル等が挙げられる。その中でも、アクリル樹脂との相溶性の観点からメタクリル酸メチル(MMA)が好ましい。これらのアクリル化合物単量体は2種以上を混合してもよい。
【0028】
共重合体(b1)の環状酸無水物単量体単位としては、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等の酸無水物が挙げられ、アクリル樹脂との相溶性の観点から無水マレイン酸が好ましい。これらの不飽和ジカルボン酸無水物単量体は2種以上を混合してもよい。
【0029】
共重合体(b1)の重量平均分子量(Mw)は5万~30万であるのが好ましく、10万~20万であるのがより好ましい。重量平均分子量が5万~30万である場合において、共重合体(b1)の相溶性が良好である。なお、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)は、溶媒としてTHFやクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定を行うことができる。
【0030】
共重合体(b1)の製造方法としては、 重合様式においては特に限定はなく、溶液重合、塊状重合等公知の方法で製造できるが、溶液重合がより好ましい。溶液重合で用いる溶剤は、副生成物が出来難く、悪影響が少ないという観点から非重合性であることが好ましい。溶剤の種類としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン等のエーテル類、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素などが挙げられるが、単量体や共重合体の溶解度、溶剤回収のし易さの観点から、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。溶剤の添加量は、得られる共重合体量100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、より好ましくは30~80質量部である。10質量部以上であれば、反応速度および重合液粘度を制御する上で好適であり、100質量部以下であれば、所望の重量平均分子量(Mw)を得る上で好適である。
【0031】
重合プロセスは回分式重合法、半回分式重合法、連続重合法のいずれの方式であっても差し支えないが、所望の分子量範囲と透明性を得る上で回分式重合法が好適である。
【0032】
重合方法は特に限定されないが、簡潔プロセスによって生産性良く製造することが可能であるという観点から、好ましくはラジカル重合法である。重合開始剤としては特に限定されるものではないが、例えばジベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシアセテート、ジクミルパーオキサイド、エチル-3,3-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブチレート等の公知の有機過酸化物やアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスメチルプロピオニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル等の公知のアゾ化合物を用いることができる。これらの重合開始剤は2種以上を併用することも出来る。これらの中でも10時間半減期温度が、70~110℃である有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0033】
<透明物>
共重合体(b1)の製造時には、ビニル芳香族単量体と環状酸無水物単量体が重合しやすいため、重合初期から環状酸無水物単量体が多いと、環状酸無水物単量体単位を多く含む共重合体(透明物)が一部生成される。
環状酸無水物単量体の添加量は、重合初期段階では、共重合体の環状酸無水物単量体単位の総重量100%に対して、7%以下が好ましく、6%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。重合段階での環状酸無水物単量体の分添速度は、共重合体の環状酸無水物単量体単位の総重量100%に対して、7%/時以下が好ましく、6%/時以下がより好ましく、5%/時以下がさらに好ましい。
共重合体(b1)が、本発明で規定される外観不良原因透明物の数を満たすようになるには、重合時の環状酸無水物単量体の添加量及び分添速度を調整することが重要であり、上述したような添加量及び分添速度とすることにより、好適に本発明で規定される外観不良原因透明物の数を満たすようにすることができる。
【0034】
<歪み欠陥及び外観不良原因透明物>
本発明において、歪み欠陥とは、透明物または異物(コンタミ等)がフィルムまたは樹脂積層体の最表面にくることで、フィルムまたは樹脂積層体が凸状になる目視可能な外観不良を言い、上記歪み欠陥で、透明物が起因しているものを、外観不良原因透明物と言う。
外観不良原因透明物となる透明物のサイズは、10~200μmφである。
【0035】
<スジ欠陥及び外観不良原因透明物>
本発明において、スジ欠陥とは、透明物または異物(コンタミ等)が熱可塑性樹脂(B)とポリカーボネート系樹脂(A)シートの界面付近に存在することで、熱可塑性樹脂(B)とポリカーボネート系樹脂(A)シートに傷が入る目視可能な外観不良を言い、上記スジ欠陥で、透明物が起因しているものを、スジ不良原因透明物と言う。
スジ不良原因透明物となる透明物のサイズは、10~200μmφである。
【0036】
共重合体(b1)は、100μmの該共重合体(b1)からなる単層フィルムとした場合に、0.25mmφ以上0.60mmφ未満のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が20個未満/0.25m、且つ、0.60mmφ以上のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が10個未満/0.25mが好ましく、0.25mmφ以上0.60mmφ未満のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が10個未満/0.25m、且つ、0.60mmφ以上のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が5個未満/0.25mがより好ましい。上記のようにすることにより、外観に優れた樹脂積層体になる。外観不良原因透明物の数は、後述する実施例において記載した測定方法により測定することができる。
【0037】
<アクリル樹脂(b2)>
本発明で用いられるアクリル樹脂(b2)は、例えばアクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル等のビニル系単量体を単独重合したものが挙げられ、特に単量体単位として、メタクリル酸メチルが好ましい。また、前記単量体単位を2種類以上含んだ共重合体でもよい。
【0038】
本発明において、アクリル樹脂(b2)の重量平均分子量は、共重合体(b1)との混合(分散)のしやすさ、およびこれらのブレンド樹脂(B)の製造の容易さで決定される。つまり、アクリル樹脂(b2)の重量平均分子量が大きすぎると(b1)と(b2)の溶融粘度差が大きくなりすぎる為に、両者の混合(分散)が悪くなって前記樹脂(B)の透明性が悪化する、あるいは安定した溶融混練が継続できないといった不具合が起こり得る。逆に、アクリル樹脂(b2)の重量平均分子量が小さすぎると、樹脂(B)の強度が低下するので、合成樹脂積層板の耐衝撃性が低下するといった問題が発生し得る。アクリル樹脂(b2)の重量平均分子量は、5万~70万の範囲が好ましく、6万~55万の範囲がより好ましい。さらに好ましくは7万~50万の範囲である。なお、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)は、溶媒としてTHFやクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定を行うことができる。
【0039】
<熱可塑性樹脂(B)>
本発明において、共重合体(b1)とアクリル樹脂(b2)の質量比は、(b1)成分が5~95質量部に対して(b2)成分が95~5質量部であることが好ましい。より好ましくは、(b1)成分が25~80質量部に対して(b2)成分が75~20質量部である。更に好ましくは(b1)成分が40~75質量部に対して(b2)成分が60~25質量部である。この質量比内にすることにより、透明性を維持しつつ、高温高湿下に曝されても耐反り変形性に優れた熱可塑性樹脂(B)となる。
【0040】
<各種材料製造方法>
本発明の樹脂積層体の製造方法は、特に限定されない。例えば、個別に形成した熱可塑性樹脂層(B)と、ポリカーボネート系樹脂(A)シートとを積層して両者を加熱圧着する方法、個別に形成した熱可塑性樹脂層(B)とポリカーボネート系樹脂(A)シートとを積層して、両者を接着剤によって接着する方法、熱可塑性樹脂(B)層とポリカーボネート系樹脂(A)シートとを共押出成形する方法、予め形成しておいた熱可塑性樹脂(B)層を用いて、ポリカーボネート系樹脂(A)シートをインモールド成形して一体化する方法等が挙げられる。上記のうち、個別に形成した熱可塑性樹脂層(B)とポリカーボネート系樹脂(A)シートとを積層して、両者を接着剤によって接着する方法は、透明物による大きな欠陥が発生するが、製造コストや生産性の観点からは、共押出成形する方法が好ましい。
【0041】
本発明において、熱可塑性樹脂(B)の製造方法には特に制限はなく、必要な成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの混合機を用いて予め混合しておき、その後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダーなどの機械で溶融混練するといった公知の方法が適用できる。
【0042】
<樹脂積層体>
本発明において、熱可塑性樹脂(B)層の厚さは、樹脂積層体の表面硬度や耐衝撃性に影響する。つまり、熱可塑性樹脂(B)層の厚さが薄すぎると表面硬度が低くなり好ましくない。熱可塑性樹脂(B)層の厚さが大きすぎると耐衝撃性が悪くなり好ましくない。熱可塑性樹脂(B)層の厚さは10~250μmが好ましく、30~200μmがより好ましい。さらに好ましくは60~150μmである。
【0043】
本発明において、樹脂積層体(シート)の全体厚さと熱可塑性樹脂(B)層の厚さが、樹脂積層体の高温高湿な環境下における反りに影響する。つまり、全体厚さが薄く、熱可塑性樹脂(B)層の厚さが相対的に厚くなると高温高湿な環境下における反りが大きくなり、全体厚さが厚く、熱可塑性樹脂(B)層の厚さが相対的に薄くなると高温高湿な環境下における反りが小さくなる傾向がある。具体的には、ポリカーボネート系樹脂(A)シートと熱可塑性樹脂(B)層の合計厚みは好ましくは0.05~3.5mm、より好ましくは0.1~3.0mm、さらに好ましくは0.12~2.5mmであり、ポリカーボネート系樹脂(A)シートと熱可塑性樹脂(B)層の合計厚みに対する熱可塑性樹脂(B)層の割合は、好ましくは30%未満、より好ましくは25%未満、さらに好ましくは20%未満、特に好ましくは15%未満である。
【0044】
本発明の樹脂積層体は、熱可塑性樹脂(B)を含む層側において、0.25mmφ以上0.60mmφ未満のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が4個未満/0.25m、且つ、0.60mmφ以上のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が1個未満/0.25mが好ましい。上記のようにすることにより、外観に優れた樹脂積層体になる。外観不良原因透明物の数は、後述する実施例において記載した測定方法により測定することができる。
【0045】
<任意の添加剤>
本発明において、基材層を形成するポリカーボネート系樹脂(A)および/または表層を形成する熱可塑性樹脂(B)には、上述の主たる成分以外の成分を含めることができる。
【0046】
例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)および/または熱可塑性樹脂(B)には、紫外線吸収剤を混合して使用することができる。紫外線吸収剤の含有量が多過ぎると、成形法によっては過剰な紫外線吸収剤が高い温度がかかることによって飛散し、成形環境を汚染するため不具合を起こすことがある。このことから紫外線吸収剤の含有割合は0~5質量%が好ましく、0~3質量%がより好ましく、さらに好ましくは0~1質量%である。紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;サリチル酸フェニル、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート系紫外線吸収剤;ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケートなどのヒンダードアミン系紫外線吸収剤;2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジンなどのトリアジン系紫外線吸収剤などが挙げられる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。
【0047】
本発明において、基材層を形成するポリカーボネート系樹脂(A)および/または表層を形成する熱可塑性樹脂(B)には、上記紫外線吸収剤以外にも、各種添加剤を混合して使用することができる。そのような添加剤としては、例えば、抗酸化剤や抗着色剤、抗帯電剤、離型剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤、樹脂改質剤、相溶化剤、有機フィラーや無機フィラーといった強化材などが挙げられる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。
【0048】
<任意の処理>
本発明において、熱可塑性樹脂(B)層の表面、またはポリカーボネート系樹脂(A)シートの表面にハードコート処理を施してもよい。例えば、熱エネルギーおよび/または光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料を用いるハードコート処理によりハードコート層を形成する。熱エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、ポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などの熱硬化性樹脂組成物が挙げられる。また、光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、1官能および/または多官能であるアクリレートモノマーおよび/またはオリゴマーからなる樹脂組成物に光重合開始剤が加えられた光硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0049】
本発明における熱可塑性樹脂(B)層の表面、またはポリカーボネート系樹脂(A)シートの表面上に施す、光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、1,9-ノナンジオールジアクリレート20~60質量%と、1,9-ノナンジオールジアクリレートと共重合可能な2官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーならびに2官能以上の多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーおよび/または2官能以上の多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーおよび/または2官能以上の多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる化合物40~80質量%とからなる樹脂組成物の100質量部に、光重合開始剤が1~10質量部添加された光硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0050】
本発明におけるハードコート塗料を塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、メニスカスコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビートコート法、捌け法などが挙げられる。
【0051】
ハードコートの密着性を向上させる目的で、ハードコート前に塗布面の前処理を行うことがある。処理例として、サンドブラスト法、溶剤処理法、コロナ放電処理法、クロム酸処理法、火炎処理法、熱風処理法、オゾン処理法、紫外線処理法、樹脂組成物によるプライマー処理法などの公知の方法が挙げられる。
【0052】
本発明における熱可塑性樹脂(B)層、ポリカーボネート系樹脂(A)シート及びハードコート層の各材料、例えば、熱可塑性樹脂(B)およびポリカーボネート系樹脂(A)等は、フィルター処理によりろ過精製されることが好ましい。フィルターを通して生成あるいは積層することにより異物や欠点といった外観不良が少ない樹脂積層体を得ることができる。ろ過方法に特に制限はなく、溶融ろ過、溶液ろ過、あるいはその組み合わせ等を使うことができる。
【0053】
使用するフィルターに特に制限はなく、公知のものが使用でき、各材料の使用温度、粘度、ろ過精度により適宜選ばれる。フィルターの濾材としては、特に限定されないがポリプロピレン、コットン、ポリエステル、ビスコースレイヨンやグラスファイバーの不織布あるいはロービングヤーン巻物、フェノール樹脂含浸セルロース、金属繊維不織布焼結体、金属粉末焼結体、ブレーカープレート、あるいはこれらの組み合わせなど、いずれも使用可能である。特に耐熱性や耐久性、耐圧力性を考えると金属繊維不織布を焼結したタイプが好ましい。
【0054】
ろ過精度は、ポリカーボネート系樹脂(A)については、50μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。またハードコート剤のろ過精度は、樹脂積層体の最表層に塗布されることから、20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0055】
熱可塑性樹脂(B)とポリカーボネート系樹脂(A)のろ過については、例えば熱可塑性樹脂溶融ろ過に用いられているポリマーフィルターを使うことが好ましい。ポリマーフィルターは、その構造によりリーフディスクフィルター、キャンドルフィルター、パックディスクフィルター、円筒型フィルターなどに分類されるが、特に有効ろ過面積が大きいリーフディスクフィルターが好適である。
【0056】
本発明の樹脂積層体には、その片面または両面に耐指紋処理、反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理および防眩処理のいずれか一つ以上を施すことができる。反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理および防眩処理の方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、反射低減塗料を塗布する方法、誘電体薄膜を蒸着する方法、帯電防止塗料を塗布する方法などが挙げられる。
【実施例
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0058】
製造例で得られた共重合体の外観評価ならびに実施例および比較例で得られた樹脂積層体の外観評価は以下のように行った。
【0059】
<ポリカーボネート系樹脂(A-1)及びアクリル樹脂(b2-1)>
ポリカーボネート系樹脂(A-1)及びアクリル樹脂(b2-1)として、下記に示す材料を使用したが、これらに限定されるわけではない。
ポリカーボネート系樹脂(A-1):三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ユーピロンE-2000(重量平均分子量:34,000)
アクリル樹脂(b2-1):株式会社クラレ製メチルメタクリレート樹脂 パラペットHR-L、(メチルメタクリレート樹脂100%、重量平均分子量:90,000)
【0060】
<共重合体(b1-1)の製造例>
マレイン酸無水物が20質量%濃度となるようにメチルイソブチルケトンに溶解させた20%マレイン酸無水物溶液と、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートが2質量%となるようにメチルイソブチルケトンに希釈した2%t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート溶液とを事前に調製し、重合に使用した。
撹拌機を備えた120リットルのオートクレーブ中に、20%マレイン酸無水物溶液1.2kg(共重合体の環状酸無水物単量体単位の総重量100%に対して4.08%)、スチレン25.5kg、メチルメタクレリレート8.3kg、t-ドデシルメルカプタン30g、メチルイソブチルケトン2kgを仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら80分かけて87℃まで昇温した。
昇温後87℃を保持しながら、20%マレイン酸無水物溶液を1.2kg/時(共重合体の環状酸無水物単量体単位の総重量100%に対して4.08%/時)、および2%t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート溶液を188g/時の分添速度で各々連続的に16時間かけて添加し続けた。
その後、2%t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート溶液の分添を停止し、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを30g添加した。
20%マレイン酸無水物溶液は、そのまま1.2kg/時の分添速度を維持しながら、4.125℃/時の昇温速度で8時間かけて120℃まで昇温した。
20%マレイン酸無水物溶液の分添は、分添量が積算で28.2kg(共重合体の環状酸無水物単量体単位の総重量100%に対して95.92%)になった時点で停止した。昇温後、1時間120℃を保持して重合を終了させた。
重合液は、ギヤーポンプを用いて、脱気押出機手前のフィードラインに目開き100μmのポリマーフィルターを取り付けた二軸脱揮押出機に連続的にフィードし、メチルイソブチルケトンおよび微量の未反応モノマー等を脱揮処理して、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の共重合体(b1-1)を得た。得られた共重合体(b1-1)はスチレン:無水マレイン酸:MMAの質量比=65:15:20、重量平均分子量:180,000であった。
【0061】
<共重合体(c1-1)の製造例>
マレイン酸無水物が20質量%濃度となるようにメチルイソブチルケトンに溶解させた20%マレイン酸無水物溶液と、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートが2質量%となるようにメチルイソブチルケトンに希釈した2%t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート溶液とを事前に調製し、重合に使用した。
撹拌機を備えた120リットルのオートクレーブ中に、20%マレイン酸無水物溶液2.4kg(共重合体の環状酸無水物単量体単位の総重量100%に対して8.16%)、スチレン25.5kg、メチルメタクレリレート8.3kg、t-ドデシルメルカプタン30g、メチルイソブチルケトン2kgを仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて87℃まで昇温した。
昇温後87℃を保持しながら、20%マレイン酸無水物溶液を2.4kg/時(共重合体の環状酸無水物単量体単位の総重量100%に対して8.16%/時)、および2%t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート溶液を375g/時の分添速度で各々連続的に8時間かけて添加し続けた。
その後、2%t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート溶液の分添を停止し、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを30g添加した。
20%マレイン酸無水物溶液は、そのまま2.4kg/時の分添速度を維持しながら、8.25℃/時の昇温速度で4時間かけて120℃まで昇温した。
20%マレイン酸無水物溶液の分添は、分添量が積算で27kg(共重合体の環状酸無水物単量体単位の総重量100%に対して91.84%)になった時点で停止した。昇温後、1時間120℃を保持して重合を終了させた。
重合液は、ギヤーポンプを用いて、脱気押出機手前のフィードラインに目開き100μmのポリマーフィルターを取り付けた二軸脱揮押出機に連続的にフィードし、メチルイソブチルケトンおよび微量の未反応モノマー等を脱揮処理して、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の共重合体(c1-1)を得た。得られた共重合体(c1-1)はスチレン:無水マレイン酸:MMAの質量比=65:15:20、重量平均分子量:170,000であった。
【0062】
<共重合体(b1-1)及び共重合体(c1-1)の単層フィルム製造例>
ペレット形状の共重合体(b1-1)及び共重合体(c1-1)を90℃で2時間乾燥した後、40mmΦ単軸押出機、300mm幅のTダイ、及び押出機とTダイの間に目開き10μmのポリマーフィルターを用いて260℃で押出すことで得られたシート状の溶融樹脂をフレキシブルロールで圧着した後、冷却ロールで冷却し、幅250mm、厚さ100±5μmのフィルムを得た。このフィルムについて、以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0063】
(単層フィルム外観)
フィルムの中央部0.25m(幅250mm×1000mm)を目視にて、0.25mmφ以上0.60mmφ未満の歪み欠陥と、0.60mmφ以上の大きな歪み欠陥を探し、目視可能な上記歪み欠陥を顕微鏡で観察して、外観不良原因透明物の数をカウントした。透明物の顕微鏡写真の例を図1に示す。評価基準は、以下の通りである。
〇:0.25mmφ以上0.60mmφ未満のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が20個未満、且つ、0.60mmφ以上のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が10個未満のフィルム
×:上記範囲外のフィルム。
【0064】
【表2】
【0065】
製造例1〔ペレット(B11)の製造〕
上記の共重合体(b1-1)を75質量部と、メチルメタクリレート樹脂としてのパラペットHR-L(b2-1)25質量部との合計100質量部に対して、リン系添加剤PEP-36(株式会社ADEKA製)500ppm、およびステアリン酸モノグリセリド(製品名:H-100、理研ビタミン株式会社製)0.2質量%を加え、ブレンダーで20分混合後、目開き10μmのポリマーフィルターを取り付けたスクリュー径26mmの2軸押出機(東芝機械株式会社製、TEM-26SS、L/D≒40)を用い、シリンダー温度240℃で溶融混錬して、ストランド状に押出してペレタイザーでペレット化した。ペレットは安定して製造できた。
【0066】
比較製造例1〔ペレット(C11)の製造〕
上記の共重合体(c1-1)を75質量部と、メチルメタクリレート樹脂としてのパラペットHR-L(b2-1)25質量部との合計100質量部に対して、リン系添加剤PEP36(株式会社ADEKA製)500ppm、およびステアリン酸モノグリセリド(製品名:H-100、理研ビタミン株式会社製)0.2質量%を加え、製造例1と同様に混合、ペレット化を行った。ペレットは安定して製造できた。
【0067】
実施例1〔樹脂積層体(D11)の製造〕
軸径32mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結された650mm幅のTダイとを有する多層押出機に各押出機と連結したマルチマニホールドダイとを有する多層押出装置を用いて樹脂積層体を成形した。軸径32mmの単軸押出機に製造例1で得たペレット(B11)を連続的に導入し、シリンダー温度240℃、吐出量を2.1kg/hの条件で押し出した。また、軸径65mmの単軸押出機にポリカーボネート系樹脂(A-1)(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、製品名:ユーピロンE-2000)を連続的に導入し、シリンダー温度280℃、吐出量を30.0kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種2層の分配ピンを備え、温度270℃にしてペレット(B11)とポリカーボネート系樹脂(A-1)を導入し積層した。その先に連結された温度270℃のTダイでシート状に押し出し、上流側から温度130℃、140℃、180℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、ペレット(B11)とポリカーボネート系樹脂(A-1)の樹脂積層体(D11)を得た。得られた樹脂積層体(D11)の全体厚みは1000±50μm、表層厚みは60±5μmであった。この樹脂積層体について、以下の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0068】
比較例1〔樹脂積層体(E11)の製造〕
ペレット(B11)の代わりにペレット(C11)を使用した以外は、実施例1の樹脂積層体(D11)と同様にしてペレット(C11)とポリカーボネート系樹脂(A-1)の樹脂積層体(E11)を得た。得られた樹脂積層体(E11)の全体厚みは1000±50μm、表層厚みは60±5μmであった。この樹脂積層体について、以下の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0069】
(樹脂積層体の外観)
樹脂積層体における熱可塑性樹脂(B)を含む層側の中央部0.25m(幅500mm×500mm)を目視にて、0.25mmφ以上0.60mmφ未満の歪み欠陥と、0.60mmφ以上の大きな歪み欠陥を探し、目視可能な上記歪み欠陥を顕微鏡で観察して、外観不良原因透明物の数をカウントした。評価基準は、以下の通りである。
〇:0.25mmφ以上0.60mmφ未満のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が4個未満、0.60mmφ以上のサイズの歪み欠陥を有する外観不良原因透明物の数が1個未満、且つ、スジ欠陥の長さが0.25mm以上であるスジ不良原因透明物の数が1個以下の樹脂積層体
×:上記範囲外の樹脂積層体。
【0070】
(高温高湿環境下の反り試験)
樹脂積層体の中央付近から縦10cm、横6cmの試験片を切り出した。試験片を2点支持型のホルダーにセットして温度23℃、相対湿度50%に設定した環境試験機に24時間以上投入して状態調整した後、反りを測定した。このときの値を処理前反り量の値とした。次に試験片をホルダーにセットして温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に投入し、その状態で120時間保持した。さらに温度23℃、相対湿度50%に設定した環境試験機の中にホルダーごと移動し、その状態で4時間保持後に再度反りを測定した。このときの値を処理後反り量の値とした。反りの測定には、電動ステージ具備の3次元形状測定機を使用し、取り出した試験片を上に凸の状態で水平に静置し、1mm間隔でスキャンし、中央部の盛り上がりを反りとして計測した。処理前後の反り量の差、すなわち、(処理後反り量)-(処理前反り量)を反り変化量として評価した。その際、熱可塑性樹脂(B)層側が凸の場合は「-」符号、ポリカーボネート系樹脂(A)シート側が凸の場合は「+」符号で評価した。また、反り変化量の絶対値が700μm以下であれば、肉眼でほとんど反りが認識できなくなるため耐反り変形性に優れていると判断とした。
【0071】
【表3】
【0072】
以上のように、本発明の条件を満たす樹脂積層体とすることで、高温高湿下に曝されても耐反り変形性に優れ、且つ、外観良好という有利な効果を奏する。
即ち、共重合体(b1-1)とアクリル樹脂(b2-1)とを含む熱可塑性樹脂を使用した実施例1の樹脂積層体と、共重合体(c1-1)とアクリル樹脂(b2-1)とを含む熱可塑性樹脂を使用した比較例1の樹脂積層体とを比較すると、実施例1の樹脂積層体の方が外観が良好であった。
また、実施例1の樹脂積層体の方が高温高湿下の反り変化量が小さかった。
【0073】
以上のように、高温高湿下に曝されても耐反り変形性に優れ、且つ、外観良好な本発明による樹脂積層体は、ガラスの代替品として、透明基材材料や透明保護材料などとして好適に用いられ、特にタッチパネル前面保護板、OA機器用または携帯電子機器用の前面板として好適に用いることができる。
図1