IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キリンホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ キリンビバレッジ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】カラメル色素配合炭酸飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20230307BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230307BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20230307BHJP
   A23L 2/58 20060101ALI20230307BHJP
   A23L 2/68 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/00 F
A23L2/54
A23L2/58
A23L2/68
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018241385
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2020099301
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391058381
【氏名又は名称】キリンビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 深保子
(72)【発明者】
【氏名】若林 英行
(72)【発明者】
【氏名】中村 友香里
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-042479(JP,A)
【文献】特開2017-063722(JP,A)
【文献】特許第6283446(JP,B1)
【文献】特開2015-136352(JP,A)
【文献】特開2013-081455(JP,A)
【文献】特開2017-042109(JP,A)
【文献】特開2017-205105(JP,A)
【文献】特開2015-130845(JP,A)
【文献】特開2017-104046(JP,A)
【文献】特開2015-092834(JP,A)
【文献】特開2017-112911(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169107(WO,A1)
【文献】特開2017-018085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12C
C12G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸、クエン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1の酸を酸度が0.01~0.1%となるように配合した、ケルセチン配糖体を0.001質量%以上0.10質量%以下含有するカラメル色素配合炭酸飲料。
【請求項2】
表色系でL値が28~96%である請求項1に記載のカラメル色素配合炭酸飲料。
【請求項3】
ケルセチン配糖体が酵素処理イソクエルシトリン及び酵素処理ルチンの少なくとも一方である請求項1又は2に記載のカラメル色素配合炭酸飲料。
【請求項4】
酵素処理イソクエルシトリンがα-グルコシルイソクエルシトリンである請求項3に記載のカラメル色素配合炭酸飲料。
【請求項5】
酵素処理ルチンがα-グルコシルルチンである請求項3又は4に記載のカラメル色素配合炭酸飲料。
【請求項6】
α-グルコシルルチンがα-モノグルコシルルチンである請求項5に記載のカラメル色素配合炭酸飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケルセチン配糖体を含有するカラメル色素配合炭酸飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ケルセチンは野菜、果物、茶等に豊富に含まれるフラボノイドであり、そのまま又は配糖体(例えば、ルチン、クエルシトリンなど)の形で、ソバ、エンジュ、リンゴ、茶、タマネギ等の種々の植物に含まれている。
【0003】
ケルセチンは、体脂肪低減作用、糖尿病改善作用、抗酸化活性、血小板の凝集抑制及び接着抑制作用、血管拡張作用、抗ガン作用等、多彩な生理機能をもつことが知られている(非特許文献1)。
【0004】
炭酸飲料は、特有の「炭酸感」を楽しむものであるが、炭酸飲料に配合された成分によってはその炭酸感が十分に感じられない場合がある。そこで、炭酸感を増強するために、辛み成分等の添加剤を配合する方法などが提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、炭酸感を高めるための添加剤に起因して炭酸飲料の呈味(例えば、酸味等)が変化する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-68749号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】抗肥満作用、薬理と治療、p123-131,vol.37,No.2,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、炭酸飲料にカラメル色素を加えると炭酸感が低下し、さらにケルセチン配糖体を配合することにより、より炭酸感が低下するという問題が生じることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、飲料自体の香味を損なうことなく、良好な炭酸感を知覚することのできるケルセチン配糖体を含有するカラメル色素配合炭酸飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ケルセチン配糖体を含有するカラメル色素配合炭酸飲料の炭酸感を増強する素材を検討した結果、リン酸、クエン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1の酸を特定の酸度範囲で配合することにより、良好な炭酸感が感じられることを見出した。また、本発明において添加されるリン酸、クエン酸及びリンゴ酸は飲料自体が有する呈味に影響を及ぼすことなく、好ましい炭酸刺激を付与できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の発明を提供する。
[1]リン酸、クエン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1の酸を酸度が0.01~0.1%となるように配合した、ケルセチン配糖体を0.10質量%以下含有するカラメル色素配合炭酸飲料。
[2]L表色系でL値が28~96%である[1]に記載のカラメル色素配合炭酸飲料。
[3]ケルセチン配糖体が酵素処理イソクエルシトリン及び酵素処理ルチンの少なくとも一方である[1]又は[2]に記載のカラメル色素配合炭酸飲料。
[4]酵素処理イソクエルシトリンがα-グルコシルイソクエルシトリンである[3]に記載のカラメル色素炭酸飲料。
[5]酵素処理ルチンがα-グルコシルルチンである[3]又は[4]に記載のカラメル色素配合炭酸飲料。
[6]α-グルコシルルチンがα-モノグルコシルルチンである[5]に記載のカラメル色素配合炭酸飲料。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカラメル色素配合炭酸飲料は、リン酸、クエン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1の酸を特定の酸度範囲で配合することにより、カラメル色素及びケルセチン配糖体による炭酸感の低下を抑制し、飲料自体の香味を損なうことなく、良好な炭酸感を知覚することができる。これにより、ケルセチン配糖体を配合した場合でも十分な炭酸感が感じられる炭酸飲料を提供することが可能となり、消費者の健康向上及びダイエット向上等に資することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様は、酸度が0.01~0.1となるようにリン酸、クエン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1の酸を配合した、ケルセチン配糖体を0.10質量%以下含有するカラメル色素配合炭酸飲料(以下、本発明の飲料とも略す)である。
【0013】
〈ケルセチン配糖体〉
本発明の飲料はケルセチン配糖体を有効成分として含有する。本発明において、「ケルセチン配糖体」は、ポリフェノールの一種であるケルセチンの配糖体を示し、これは下式(I)で表される。
【0014】
【化1】
【0015】
式(I)中、(X)nは糖鎖を表し、nは1以上の整数である。
【0016】
ここで、ケルセチンにグリコシド結合で結合するXで表される糖鎖を構成する糖としては、例えば、グルコース、ラムノース、ガラクトース、グルクロン酸等が挙げられ、特にグルコース及びラムノースが好ましい。また、nは1以上であれば特に制限されないが、好ましくは1~16、さらに好ましくは1~8である。nが2以上であるとき、X部分は1種類の糖鎖からなっていてもよく、複数の糖鎖からなっていてもよい。
【0017】
ケルセチン配糖体には、既存のケルセチン配糖体を酵素などで処理して糖転移させたものも含まれる。ケルセチン配糖体としては、具体的には例えば、ルチン、グルコシルルチン、クエルシトリン、イソクエルシトリンが挙げられる。
【0018】
本発明の一態様においては、ケルセチン配糖体に包含される一の化合物を単独で用いてもよいし、複数の化合物を混合して用いてもよい。ケルセチン配糖体の由来については特に制限されず、ケルセチン又はケルセチン配糖体を多く含む植物として、例えば、ソバ、エンジュ、ケッパー、リンゴ、茶、タマネギ、ブドウ、ブロッコリー、モロヘイヤ、ラズベリー、コケモモ、クランベリー、オプンティア、葉菜類、柑橘類等が挙げられる。
【0019】
また、ケルセチン配糖体は、天然由来の抽出物を、濃縮、精製糖の操作によってケルセチン配糖体濃度を高めたもの、例えば、ケルセチン配糖体含有抽出物の、濃縮物又は精製物を用いることができる。濃縮方法又は精製方法は、従来公知の方法を用いることができる。
【0020】
本発明の一態様においては、ケルセチン配糖体として、酵素処理イソクエルシトリン及び酵素処理ルチンの少なくとも一方を用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、組合せて用いてもよい。
【0021】
本発明において「酵素処理イソクエルシトリン」とは、下記式(II)において、グルコース残基数(n)が0であるイソクエルシトリンと、グルコース残基数(n)が1以上の整数(好ましくは1~15の整数、より好ましくは1~7の整数)であるイソクエルシトリン糖付加物の混合物をいう。本明細書中、ケルセチンにグルコースが1つ配合されたもの[式(II)においてn=0]をQG1、2つ配合されたもの(式Iにおいてn=1)をQG2、3つ配合されたもの[式(II)においてn=2]をQG3(以下、グルコースが一つ増すごとに、QG4、QG5、QG6・・・)と表記することがある。
【0022】
【化2】
【0023】
式(II)中、Glcはグルコース残基を示し、nは0又は1以上の整数を示す。
【0024】
酵素処理イソクエルシトリンは、市販されているものを用いてもよいし、イソクエルシトリン又はルチンの酵素処理により調製したものを用いてもよい。イソクエルシトリンは、例えば、国際公開第2005/030975号に記載されている方法、すなわち、ルチンを特定の可食性成分の存在下でナリンギナーゼ処理する方法によって製造することができる。さらに、国際公開第2005/030975号に記載されているように、イソクエルシトリンを糖転移酵素で処理することにより、α-グルコシルイソクエルシトリンを得ることができる。
【0025】
酵素処理イソクエルシトリンは、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ社製の商品名「サンメリン(登録商標)AO-3000」、「サンメリン(登録商標)パウダーC-10」などに主成分として含まれている。これら商品は、酵素処理イソクエルシトリンを10~90重量%含有する組成物である。
【0026】
本明細書において、「酵素処理ルチン」(「糖転移ルチン」と呼ばれることもある。)とは、α-グルコシルルチンを主成分として含む化合物である。α-グルコシルルチンは、下式(III)で表される構造を有する化合物、すなわちルチンが有するルチノース残基中のグルコース残基に、α1→4結合により1又は複数(2~20程度)のグルコースが結合した化合物である。
【0027】
本発明において、α-グルコシルルチンのうち、グルコースが1つだけ結合したものを「α-モノグルコシルルチン」と称し、グルコースが2つ以上結合したものを「α-ポリグルコシルルチン」と称する。
【0028】
つまり、下式(III)において、α-グルコシルルチンは一般的にnが1~20の化合物であり、α-モノグルコシルルチンはnが1の化合物であり、α-ポリグルコシルルチンは一般的にnが2~20の化合物である。
【0029】
【化3】
【0030】
α-モノグルコシルルチンであっても、α-グルコシルルチンについての一般的な作用効果は問題なく発揮され、α-モノグルコシルルチンの分子量はα-ポリグルコシルルチンの分子量よりも小さいため、単位質量あたりの分子数はα-モノグルコシルルチンの方が多くなり、作用効果の上で有利であると考えられる。したがって、α-グルコシルルチンの一部又は全部は、α-モノグルコシルルチンであることが好ましい。
【0031】
酵素処理ルチンは、α-グルコシル糖化合物(サイクロデキストリン、澱粉部分分解物など)の共存下で、ルチンに糖転移酵素(サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase、EC2.4.1.19)など、ルチンにグルコースを付加する機能を有する酵素)を作用させることにより得られる生成物(以下、第1酵素処理ルチンとも略す。)である。
【0032】
第1酵素処理ルチンは、結合したグルコースの個数が異なる様々なα-グルコシルルチン、すなわちα-モノグルコシルルチン及びそれ以外のα-グルコシルルチンからなる集合体と、未反応物であるルチンとを含有する組成物である。必要に応じて、例えば多孔性合成吸着材と適切な溶出液を用いて、第1酵素処理ルチンを精製することにより、糖供与体及びその他の不純物を除去し、さらにルチンの含有量を減らし、α-グルコシルルチンの純度を高めた第1酵素処理ルチン(α-グルコシルルチン精製物)が得られる。
【0033】
また、第1酵素処理ルチンを、α-1,4-グルコシド結合をグルコース単位で切断するグルコアミラーゼ活性を有する酵素、たとえばグルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)で処理し、複数のグルコースが付加されたα-グルコシルルチンにおいて、ルチン自体の(ルチノース残基中の)グルコース残基に直接付加されたグルコース残基を1つだけ残してそれ以外のグルコース残基を切断することにより、α-モノグルコシルルチンを多く含有する酵素処理ルチン(以下、第2酵素処理ルチンとも略す。)を得ることができる。この酵素処理によって、ケルセチン骨格に直接結合しているルチノース残基中のグルコース残基が、ケルセチン骨格から切断されることはない。
【0034】
α-グルコシルルチンは、例えば東洋精糖社製の商品名「αGルチンPS」、商品名「αGルチンP」、商品名「αGルチンH」などに主成分として含まれている。これら商品は、α-モノグルコシルルチンを10~90重量%含有する組成物である。
【0035】
前記組成物は、(i)上述した第1酵素処理ルチンを調製する、(ii)第1酵素処理ルチンを、グルコアミラーゼ活性を有する酵素で処理し、α-グルコシルルチンをほとんど全てα-モノグルコシルルチンに変換する、という手順により製造することができる。
【0036】
本発明の飲料におけるケルセチン配糖体の含有量は、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.015質量%以上である。また、炭酸感の低下を抑制する観点から、0.10質量%以下であり、好ましくは0.06質量%以下であり、より好ましくは0.045質量%以下であり、さらに好ましくは0.03質量%以下である。
【0037】
ケルセチン配糖体がα-グルコシルイソクエルシトリンである場合、本発明の飲料における含有量は、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.10質量%以下であり、より好ましくは0.06質量%以下である。
【0038】
ケルセチン配糖体がα-モノグルコシルルチンである場合、本発明の飲料における含有量は、好ましくは0.00075質量%以上であり、より好ましくは0.0075質量%以上であり、また、好ましくは0.075質量%以下であり、より好ましくは0.045質量%以下である。
【0039】
なお、本発明の飲料におけるケルセチン配糖体の成分は、HPLCのクロマトグラムによって確認することができ、各成分の含有量、又は特定の成分の純度はクロマトグラムのピーク面積から算出することができる。
【0040】
〈カラメル色素〉
本発明の飲料は、カラメル色素を含有する。カラメル色素とは、糖類を加熱重合して得られる高分子の褐色色素をいう。本発明のカラメル色素としては、食用に適する公知のカラメル色素を使用することができ、例えば、砂糖もしくはブドウ糖に代表される食用炭水化物を熱処理して得られるもの、又は酸もしくはアルカリを加えて食用炭水化物を熱処理して得られるもの等をカラメル色素として用いることができる。また、果汁や野菜汁に含まれる糖分をカラメル化して使用することもでき、この場合、加熱処理、酸やアルカリ処理などによって糖分をカラメル化することができる。
【0041】
カラメル色素は、製法によりクラスI、II、III、IVに分類される。本発明では、そのいずれを用いてもよく、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。安定性、入手の容易性の観点から、クラスIVのカラメル色素を用いることが好ましい。
【0042】
本発明の飲料中のカラメル色素の含有量は、便宜的にL*a*b*表色系のL値で規定することができる。L*a*b*表色系のL値が96%以下であることが好ましい。また、L値は28%以上であることが好ましく、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは45%以上である。このようなL*a*b*表色系で表すL値は、実施例において後述するように、分光測色計により測定できる。
【0043】
また、本発明の飲料におけるカラメル色素の含有量は濃度で特定することもできる。その場合、特に限定されるわけではないが、飲料中のカラメル色素の含有量は、0.01~0.5質量%(w/w)が好ましく、より好ましくは0.03~0.5質量%(w/w)、さらに好ましくは0.05~0.4質量%(w/w)とすることができる。飲料におけるカラメル色素の含有量を測定する方法は特に限定されないが、例えば、ガスクロマトグラフィー、HPLC等を用いて測定することができる。
【0044】
確認のために記載するが、例えば、上述したクラスI~IVの複数種類のカラメル色素が飲料に含まれている場合には、上記のカラメル色素の含有量は、全てのカラメル色素の含有量の合計を意味する。
【0045】
<リン酸、クエン酸及びリンゴ酸>
本発明の飲料は、リン酸、クエン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1の酸を酸度が0.01~0.1%となるように含有する。リン酸、クエン酸及びリンゴ酸は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
リン酸、クエン酸及びリンゴ酸は、市販されているものを入手し、使用することができるが、該酸を含有する他の原材料(例えば、調味料)を使用することで該酸の合計含有量を調整することもできる。
【0047】
本発明の飲料におけるリン酸、クエン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1の酸の含有量は、酸度が0.01~0.1%となる範囲であり、好ましくは0.02~0.08%、より好ましくは0.03~0.07%である。酸度を0.01%以上とすることにより、カラメル色素及びケルセチン配糖体を含有することによる炭酸感の低下を効果的に抑制できる。酸度を0.1%以下とすることにより、ほどよい酸味を保つことができる。
【0048】
本明細書における「酸度」はクエン酸相当酸度を示す。クエン酸相当酸度の測定は、滴定法により測定する電位差自動滴定装置AT-610(京都電子工業株式会社)を用い、クエン酸酸度メソッドにて測定する。手順としては200mLプラスチックビーカに、滴定量が10~11mlになるように試料を量りとり、純水で約160mlに希釈する。0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液を用いて滴定を行い、以下計算式でクエン酸相当酸度を算出する。
クエン酸相当酸度(クエン酸w/w%)=EP1×F×Cl×K1/Size
・EPl:滴定量(mL)
・F:滴定液のファクター(1.0042)
・Cl:濃度換算係数(6.4mg/mL)(0.1mo1/L NaOH溶液1mL=6.4mg クエン酸)
・Kl:単位換算係数(0.1)
・Size:試料採取量(g)
【0049】
〈炭酸飲料〉
本発明の飲料は炭酸飲料である。上述した量のリン酸、クエン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1の酸を添加することにより、カラメル色素及びケルセチン配糖体の含有による炭酸飲料の炭酸感の低下を効果的に抑制することができ、且つ炭酸飲料自体が有する味に影響を及ぼさないようにすることができる。ここで、本明細書において炭酸感とは、炭酸飲料の飲用時に、炭酸ガスの気泡により受ける舌の圧覚又は痛覚を通じて知覚される刺激(本明細書中、炭酸刺激と表記することもある)をいう。炭酸感の評価は、後述の実施例で示すように、専門パネルによる官能試験により行うことができる。
【0050】
本発明において、炭酸飲料は、炭酸ガス(二酸化炭素)を含有させた飲料である。炭酸ガスは、当業者に通常知られる方法を用いて飲料中に提供することができ、例えば、これらに限定されないが、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させてもよいし、カーボネーターなどのミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよい。あるいは、二酸化炭素を充填したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよいし、飲料と炭酸水とを混合してもよい。
【0051】
本発明の飲料の炭酸ガス圧は、特に限定されないが、温度20℃において、例えば0.1~0.5MPa、好ましくは0.15~0.45MPa、より好ましくは0.2~0.4MPaとすることができる。本発明において、飲料中の炭酸ガス圧は、例えば、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA-500Aを用いて測定することができる。試料温度を20℃にし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定すればよい。
【0052】
本発明の飲料としては、特に限定されないが、例えば、コーラ飲料等が挙げられる。なお、本発明の飲料は、非アルコール飲料であることが好ましい。ここで、非アルコール飲料とは、エタノールが1体積%(v/v)未満の飲料を意味する。
【0053】
〈その他の成分〉
本発明の飲料には、通常の飲料と同様、上記の成分以外に、その他各種添加剤等(例えば、高甘味度甘味料、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、品質安定剤等)を配合することができる。
【0054】
〈飲料の製造方法〉
本発明の飲料は、カラメル色素、ケルセチン配糖体並びにリン酸、クエン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1の酸を水に含有させ、これに炭酸ガスを加えて製造することができる。必要であれば、甘味料、酸味料及び香料等がさらに配合される。本発明の飲料の製造方法は、特に制限されることはなく、通常の方法を適用すればよい。特に限定されるわけではないが、以下に、本発明の炭酸飲料の製造方法の概略を示す。
【0055】
飲料水に適している水にカラメル色素、ケルセチン配糖体並びにリン酸、クエン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1の酸を加えて、飲料原液を調製する。必要に応じて、適量の高甘味度甘味料、酸味料、香料及び酸化防止剤等をさらに加えて、飲料原液を調製する。次いで、必要に応じ、脱気及び殺菌処理を行った後、冷却する。冷却した飲料原液に所定のガス圧(例えば、0.1~0.5MPa)となるように炭酸ガスを混入した後、容器に充填して容器詰飲料とする。炭酸ガスを混入させる方法としては、例えば1~5℃に冷却した飲料原液を、所定の炭酸ガス圧に保持されたタンク内に噴霧する方法が挙げられるが、特にこれに限定されない。
【0056】
本発明の炭酸飲料に使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などであり、これらに詰めた通常の形態で提供することができる。本発明の炭酸飲料の容量は、特に限定されないが、例えば280mL~2000mLであり、好ましくは450mL~1000mLである。
【0057】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の実施態様は本実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0058】
[評価方法]
(1)炭酸感評価
炭酸感は、訓練されたパネラー6名により下記基準の4段階評価法にて評価した。
炭酸飲料の炭酸感は、下記官能評価基準により評価した。
◎:炭酸感が非常に強い。
○:炭酸感が十分にある。
△:炭酸感が弱い。
×:炭酸感が不十分である。
【0059】
(2)酸味評価
◎:程よい酸味である。
○:やや良い酸味である。
△:酸味が強い、又は、弱い。
×:酸味が強すぎる、又は、弱すぎる。
【0060】
(3)酸度
酸度(クエン酸相当酸度)は、滴定法により測定する電位差自動滴定装置AT-610(京都電子工業株式会社)を用い、クエン酸酸度メソッドにて測定した。手順としては200mLプラスチックビーカに、滴定量が10~11mlになるように試料を量りとり、純水で約160mlに希釈した。0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液を用いて滴定を行い、以下計算式でクエン酸相当酸度を算出した。
クエン酸相当酸度(クエン酸w/w%)=EP1×F×Cl×K1/Size
・EPl:滴定量(mL)
・F:滴定液のファクター(1.0042)
・Cl:濃度換算係数(6.4mg/mL)(0.1mo1/L NaOH溶液1mL=6.4mg クエン酸)
・Kl:単位換算係数(0.1)
・Size:試料採取量(g)
【0061】
(4)L値
L値はミノルタ社製分光測色計CM-5を使用し、光路長1cmのセルを用いて透過光にて測定した。
【0062】
[参考例1]カラメル色素及びケルセチン配糖体添加による影響
(参考試料1-1)
香料 0.12質量%、アスパルテーム 0.02質量%、アセスルファムカリウム0.01質量%、スクラロース 0.006質量%を配合して、炭酸水を加えてガス圧0.3MPaの炭酸飲料を調製した。
【0063】
(参考試料1-2)
参考試料1-1に、カラメル色素IV(固形分含量40%以上) 0.2質量%を配合した以外は、参考試料1-1と同様にして炭酸飲料を調製した。
【0064】
(参考試料1-3)
参考試料1-2にケルセチン配糖体(東洋精糖社製αGルチンPS、α-モノグルコシルルチン含有率75%) 0.04質量%を配合した以外は、参考試料1-2と同様にして炭酸飲料を調製した。
【0065】
参考試料1-1~1-3の炭酸度を評価した結果、参考試料1-1と比較して参考試料1-2の炭酸度は低下し、参考試料1-3の炭酸度はより低下することがわかった。
【0066】
[試験例1]酸味料の検討
(試料1-1~1-5)
カラメル色素 0.2質量%、香料 0.12質量%、アスパルテーム 0.02質量%、アセスルファムカリウム0.01質量%、スクラロース 0.006質量%、ケルセチン配糖体として酵素処理ルチン(東洋精糖社製αGルチンPS、α-モノグルコシルルチン含有率75%) 0.04質量%、表1に記載の酸味料を各添加率(質量%)および酸度(%)にて配合して炭酸水を加え、ガス圧0.3MPaの炭酸飲料を調製した。
【0067】
得られた炭酸飲料(試料1-1~1-5)について、炭酸感を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、リン酸、クエン酸及びリンゴ酸を配合することにより、カラメル色素及びケルセチン配糖体による炭酸感の低下を抑制し、良好な炭酸感を知覚できることがわかった。
【0070】
[試験例2]酸度の検討
(試料2-1~2-6)
リン酸を表2に示す添加率(質量%)および酸度(%)で配合した以外は試料1-1と同様にして、調製した炭酸飲料について、炭酸感、酸味を評価した。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示すように、酸度が0.01~0.1%となるように酸味料を添加することにより、適度な酸味且つ良好な炭酸感が得られることがわかった。
【0073】
[試験例3]カラメル色素の影響の検討
(試料3-1~3-7)
表3に示す添加率でカラメル色素を配合した以外は試料1-1と同様にして調製した炭酸飲料について、L値、炭酸感を評価した。結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
L値が28~96%となるようにカラメル色素を配合した場合には、ケルセチン配糖体に加えてカラメル色素を配合した場合においても、酸味料を添加することにより炭酸感の低下を抑制し、良好な炭酸感を知覚できることがわかった。
【0076】
[試験例4]ケルセチン配糖体の配合量についての検討
(試料4-1~4-6)
表4に示す添加率でケルセチン配糖体(東洋精糖社製αGルチンPS、α-モノグルコシルルチン含有率75%)を配合した以外は試料1-1と同様にして調製した炭酸飲料について、炭酸感を評価した。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
表4に示すようにケルセチン配糖体の配合量を0.10質量%以下とすることにより、カラメル色素に加えてケルセチン配糖体を配合した場合においても、酸味料を添加することにより炭酸感の低下を効果的に抑制し、良好な炭酸感を知覚できることがわかった。
【0079】
[試験例5]ケルセチン配糖体の種類の検討
(試料5-1)
ケルセチン配糖体として三栄源エフ・エフ・アイ社製サンメリンAO-3000(酵素処理イソクエルシトリン含有率15%)を0.27%配合した以外は、試料1-1と同様にして調製した炭酸飲料について、炭酸感を評価した。結果を表5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
表5に示すように、ケルセチン配糖体の種類に関わらず、カラメル色素に加えてケルセチン配糖体を配合した場合において、酸味料を添加することにより炭酸感の低下を抑制し、良好な炭酸感を知覚できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の飲料は、体脂肪低減作用等の生理機能を有し、飲料自体の香味を損なうことなく、良好な炭酸感を知覚することのできるケルセチン配糖体を含有するカラメル色素配合炭酸飲料である。