(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 287/00 20060101AFI20230307BHJP
C08L 51/00 20060101ALI20230307BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C08F287/00
C08L51/00
C08L33/06
(21)【出願番号】P 2019008796
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井本 慎也
(72)【発明者】
【氏名】山西 眸
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-504783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F,C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)と主鎖に環構造を有する単位(b2)を有するポリマー鎖(B)とを含有する樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、ポリマー鎖(A)及びポリマー鎖(B)を含む共重合体(P)を含有し、
前記ポリマー鎖(A)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と、芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)とを有し、
前記樹脂組成物
を厚さ160μmの未延伸フィルムに成形し、前記樹脂組成物のガラス転移温度+20℃で前記未延伸フィルムを自由端一軸延伸することによって測定された応力光学係数Crが-25.0×10
-11Pa
-1以上-4.0×10
-11Pa
-1以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物のガラス転移温度より4℃高い温度で、前記樹脂組成物から得られる未延伸フィルムを2倍の延伸倍率で自由端一軸延伸を行って得られる厚み40μmの延伸フィルムにおいて、未延伸方向のJIS P 8115に基づくMIT試験による耐折回数が10回以上である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物のガラス転移温度より4℃高い温度で、前記樹脂組成物から得られる未延伸フィルムを2倍の延伸倍率で自由端一軸延伸を行って得られる延伸フィルムにおいて、波長589nmの光に対する厚み40μmあたりの面内位相差Reが30nm以上である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
JIS K 7210 B法に準拠して、温度240℃、荷重10kgfで測定したメルトフローレートは10~40g/10分である請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに(メタ)アクリル系単量体由来の単位と主鎖に環構造を有する単位を有する(メタ)アクリル系重合体(Q)を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリマー鎖(B)が前記ポリマー鎖(A)の前記重合体ブロック(a1)にグラフトしている請求項
1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリマー鎖(B)は、さらに前記(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体由来の単位(b3)を有する請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含むフィルム。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を製造する製造方法であって、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマーの存在下で(メタ)アクリル系単量体を重合させ
ることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物及びその製造方法に関する。詳細には、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)と主鎖に環構造を有する単位(b2)を有するポリマー鎖(B)とを含有する樹脂組成物と、該樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムを延伸して得られる延伸フィルムが画像表示分野において幅広く使用されている。このような延伸フィルムの一種に、位相差フィルムがあり、位相差フィルムの一種に、負の位相差フィルムがある。負の位相差フィルムは、液晶表示装置(LCD)をはじめとする画像表示装置に広く使用されている。負の位相差フィルムとして、例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位、および芳香族マレイミド単位を構成単位として有する樹脂組成物を延伸して得られる延伸フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の樹脂組成物を延伸して得られる延伸フィルムの機械的強度はさらなる向上が求められていた。
【0005】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、機械的強度に優れた負の位相差フィルムを作製することができる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、樹脂組成物にジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)と主鎖に環構造を有する単位(b2)を有するポリマー鎖(B)とを含有することにより、機械的強度に優れる負の位相差フィルムを作製することができた。
すなわち、本発明は、以下の発明を含む。
【0007】
[1]ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)と主鎖に環構造を有する単位(b2)を有するポリマー鎖(B)とを含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の応力光学係数Crが-25.0×10-11Pa-1以上-4.0×10-11Pa-1以下であることを特徴とする樹脂組成物。
[2]前記樹脂組成物のガラス転移温度より4℃高い温度で、前記樹脂組成物から得られる未延伸フィルムを2倍の延伸倍率で自由端一軸延伸を行って得られる厚み40μmの延伸フィルムにおいて、未延伸方向のJIS P 8115に基づくMIT試験による耐折回数が10回以上である[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記樹脂組成物のガラス転移温度より4℃高い温度で、前記樹脂組成物から得られる未延伸フィルムを2倍の延伸倍率で自由端一軸延伸を行って得られる延伸フィルムにおいて、波長589nmの光に対する厚み40μmあたりの面内位相差Reが30nm以上である[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]JIS K 7210 B法に準拠して、温度240℃、荷重10kgfで測定したメルトフローレートは10~40g/10分である[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]さらに(メタ)アクリル系単量体由来の単位と主鎖に環構造を有する単位を有する(メタ)アクリル系重合体(Q)を含む[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記ポリマー鎖(A)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と、芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)とを有する[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記ポリマー鎖(B)が前記ポリマー鎖(A)の前記重合体ブロック(a1)にグラフトしている[6]に記載の樹脂組成物。
[8]前記ポリマー鎖(B)は、さらに前記(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体由来の単位(b3)を有する[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物を含むフィルム。
[10]ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマーの存在下で(メタ)アクリル系単量体を重合させた樹脂組成物の製造方法であって、前記樹脂組成物の応力光学係数Crが-25.0×10-11Pa-1以上-4.0×10-11Pa-1以下である樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)と主鎖に環構造を有する単位(b2)を有するポリマー鎖(B)とを含有することにより、機械的強度に優れた負の位相差フィルム(後述する厚さ方向位相差Rthが負であるフィルム)を作製することができる。また、上記樹脂組成物を用いてフィルムを作製したときに面内位相差Reを十分に大きくすると、色調補償、視野角補償などが優れた位相差フィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)と主鎖に環構造を有する単位(b2)を有するポリマー鎖(B)とを含有する。
【0010】
1.ポリマー鎖(A)
ポリマー鎖(A)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有している。樹脂組成物の機械的強度を向上する観点より、樹脂組成物中にポリマー鎖(A)が5~50質量%含まれることが好ましく、7~40質量%含まれることがより好ましく、10~30質量%含まれることがさらに好ましい。
【0011】
ジエン由来の単位を形成するジエンとしては、1,3-ブタジエン(別名:ブタジエン)、2-メチル-1,3-ブタジエン(別名:イソプレン)、1,3-ペンタジエン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-1,5-ヘキサジエン(別名:ジイソブテン)等のアルカジエンが好ましく用いられ、なかでも1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等の共役ジエンがより好ましい。
オレフィン由来の単位を形成するオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-テトラデセン、1-オクタデセン等のモノオレフィン(アルケンともいう)が好ましく用いられ、なかでも炭素-炭素二重結合がα位にあるアルケンであるα-オレフィンがより好ましい。これらジエンおよびオレフィンの炭素数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また20以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0012】
ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位は、ジエンおよび/またはオレフィンが重合することにより形成される単位として規定される。オレフィン由来の単位は、同じ構造が形成される限り、オレフィンの単独重合又は共重合によって実際に形成されるものに限らず、ジエン由来の単位が水素化されることによって形成されてもよい(なお、本明細書において、「単独重合又は共重合」であることを「単独/共重合」と表記し、「単独重合体又は共重合体」であることを「(単独/共)重合体」と表記することがある)。
【0013】
ポリマー鎖(A)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)を含むことが好ましく、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)とを有することがさらに好ましい。ソフト成分として機能する重合体ブロック(a1)及びハード成分として機能する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)を含むことによって機械的強度が高められ、こうした樹脂組成物は、高い機械的強度(例えば、耐衝撃性(落球強度))を有する。また、ポリマー鎖(B)を含むことによって透明性と耐熱性が高められており、こうしたポリマー鎖(A)及びポリマー鎖(B)を含む樹脂組成物は、高透明性と高い機械的強度(例えば、耐衝撃性(落球強度))を両立できる。なお、機械的強度は樹脂組成物の物性ではなく、樹脂組成物から形成されるフィルムなどの成形体の物性であるが、本明細書では単に「機械的強度」と称したり、「フィルムの機械的強度」と称することがある。
【0014】
ポリマー鎖(A)中、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の含有割合は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。上限は特に限定されず、例えば90質量%以下であることが好ましい。
【0015】
重合体ブロック(a1)のジエン由来の単位を形成するジエン、オレフィン由来の単位を形成するオレフィンとしては上記に挙げられたものであればよい。重合体ブロック(a1)には、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位として、ブタジエン由来の単位、イソプレン由来の単位、エチレン由来の単位、プロピレン由来の単位、1-ブテン由来の単位、およびイソブテン由来の単位から選ばれる少なくとも1種が含まれることが好ましい。
【0016】
重合体ブロック(a1)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体等のオレフィン(単独/共)重合体;ポリイソプレン、ポリブタジエン、イソプレン-ブタジエン共重合体等のジエン(単独/共)重合体;エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、イソブテン-イソプレン共重合体等のオレフィンとジエンの共重合体等が挙げられる。オレフィン(単独/共)重合体としてはα-オレフィン(単独/共)重合体が好ましく、ジエン(単独/共)重合体としては共役ジエン(単独/共)重合体が好ましく、オレフィンとジエンの共重合体としてはα-オレフィンと共役ジエンの共重合体が好ましい。これらの中でもポリイソプレン、イソブテン-イソプレン共重合体等のα-オレフィンと共役ジエンの共重合体や、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましい。
【0017】
重合体ブロック(a1)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に加え、さらに他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。他の不飽和単量体は、重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸およびそのエステル;ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン等;及び芳香族ビニル単量体等が挙げられる。
【0018】
芳香族ビニル単量体は、芳香環にビニル基が結合した化合物であれば特に限定されず、例えば、スチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、α-メチルスチレン、α-ヒドロキシメチルスチレン、α-ヒドロキシエチルスチレン等のスチレン系単量体;2-ビニルナフタレン等の多環芳香族炭化水素環ビニル単量体;N-ビニルカルバゾール、2-ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルチオフェン等の芳香族複素環ビニル単量体等が挙げられる。これらの中でも、スチレン系単量体が好ましい。スチレン系単量体には、スチレンのみならず、スチレンの重合性二重結合炭素またはベンゼン環に任意の置換基が結合したスチレン誘導体も含まれ、当該置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基等が挙げられる。スチレンに結合したアルキル基とアルコキシ基は、炭素数1~4が好ましく、炭素数1~2がより好ましく、スチレンに結合したアルキル基とアルコキシ基は、水素原子の少なくとも一部がヒドロキシ基またはハロゲン基で置換されていてもよい。なお、樹脂組成物の着色を低減する観点から、スチレン系単量体はアミノ基を有しないものが好ましい。さらに、スチレン系単量体は、スチレンの重合性二重結合炭素またはベンゼン環に置換基が結合していない無置換のスチレンであることが好ましい。
【0019】
重合体ブロック(a1)は、これら他の不飽和単量体とジエンおよび/またはオレフィンとの共重合体であってもよい。該他の不飽和単量体としては、芳香族ビニル単量体が好ましい。芳香族ビニル単量体とジエンおよび/またはオレフィンとの共重合体を重合体ブロック(a1)にすると、透明性を高めやすくなる。例えば、ポリマー鎖(A)とポリマー鎖(B)の屈折率差が大きい場合でも、透明性を高めることが容易になる。
【0020】
重合体ブロック(a1)が芳香族ビニル単量体由来の単位を有する場合、芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合は、重合体ブロック(a1)中、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、また50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。この場合、重合体ブロック(a1)中、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位と芳香族ビニル単量体由来の単位の合計の含有割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。重合体ブロック(a1)は、実質的にジエンおよび/またはオレフィン由来の単位と芳香族ビニル単量体由来の単位のみから構成されていてもよく、例えばこれらの単位の合計含有割合が99質量%以上であってもよい。
【0021】
重合体ブロック(a1)が、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に加えて他の不飽和単量体由来の単位を有するものである場合は、重合体ブロック(a1)は、これらの単量体のランダム共重合体であることが好ましい。
【0022】
なお、重合体ブロック(a1)はジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を主成分として含むことが好ましく、重合体ブロック(a1)100質量%中、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の含有割合が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。重合体ブロック(a1)は、実質的にジエンおよび/またはオレフィン由来の単位のみから構成されていてもよく、例えばジエンおよび/またはオレフィン由来の単位が99質量%以上であってもよい。
【0023】
ポリマー鎖(A)は、芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有していてもよい。該重合体ブロック(a2)を形成する芳香族ビニル単量体としては、上記の重合体ブロック(a1)で例示の芳香族ビニル単量体が挙げられるが、中でもスチレン系単量体が好ましい。
【0024】
重合体ブロック(a2)は、芳香族ビニル単量体由来の単位に加え、さらに他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。他の不飽和単量体は、重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸およびそのエステル;ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン等が挙げられる。重合体ブロック(a2)は、これら他の不飽和単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体(特にランダム共重合体)であってもよい。なお、重合体ブロック(a2)中のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の含有割合は1質量%以下であることが好ましく、重合体ブロック(a2)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有しないことが好ましい。
【0025】
重合体ブロック(a2)は芳香族ビニル単量体由来の単位を主成分として含むことが好ましい。具体的には、重合体ブロック(a2)中、芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。重合体ブロック(a2)は、実質的に芳香族ビニル単量体由来の単位のみから構成されていてもよく、例えば芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合が99質量%以上であってもよい。
【0026】
前記重合体ブロック(a1)と重合体ブロック(a2)から構成されるポリマー鎖(A)としては、例えば、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水添物(例えば、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン/ブチレン-スチレンブロック共重合体)、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水添物(例えば、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS))等が挙げられる。また、これらのブロック共重合体において、ブタジエンブロックがブタジエン/スチレンブロックになったものや、イソプレンブロックがイソプレン/スチレンブロックになったものが挙げられる。なお、前記表記において、各ブロックは「-」で区分され、各ブロック中の「/」の表記は、当該ブロックを構成する単量体単位を表す。
【0027】
ポリマー鎖(A)は、重合体ブロック(a1)の両側に重合体ブロック(a2)が結合したものであることが好ましい。これによりポリマー鎖(A)がエラストマーとして機能し、フィルムの機械的強度をより高めることができる。この場合、ポリマー鎖(A)は、トリブロック共重合体であってもよく、マルチブロック共重合体であってもよく、ラジアルブロック共重合体であってもよいが、ポリマー鎖(A)の特性制御が容易である点から、トリブロック共重合体であることが好ましい。このような共重合体としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体およびその水添物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物等が挙げられる。
【0028】
ポリマー鎖(A)中、重合体ブロック(a2)の含有割合は、0質量%(重合体ブロック(a1)のみからなる)でもよいが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、また55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。これにより、ポリマー鎖(A)がソフト成分とハード成分をバランス良く有するものとなり、フィルムの機械的強度を高めることが容易になる。同様の観点から、ポリマー鎖(A)中、重合体ブロック(a1)の含有割合は45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましく、また95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。また、ポリマー鎖(A)中、芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合は、0質量%でもよいが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、また55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
ポリマー鎖(A)の重量平均分子量は、0.1万以上が好ましく、0.5万以上がより好ましく、1万以上がさらに好ましく、3万以上がさらにより好ましく、また30万以下が好ましく、25万以下がより好ましく、20万以下がさらに好ましい。ポリマー鎖(A)の重量平均分子量をこのような範囲とすることで、フィルムの機械的強度を確保し、樹脂組成物の成形加工性を高めることが容易になる。
【0030】
2.ポリマー鎖(B)
ポリマー鎖(B)は、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)(以下、「(メタ)アクリル単位(b1)」と称する場合がある)と主鎖に環構造を有する単位(b2)(以下、「環構造単位(b2)」と称する場合がある)とを有している。ポリマー鎖(B)が環構造単位(b2)を有することで、フィルムの耐熱性を高めることができる。また、耐溶剤性、表面硬度、接着性、酸素や水蒸気のバリヤ性、各種の光学特性の向上も期待できる。樹脂組成物をフィルムやシートなどに成形した場合は、寸法安定性や形状安定性を高めることも可能となる。さらに、ポリマー鎖(B)を含む樹脂組成物から形成された未延伸フィルムを延伸することによって、ポリマー鎖(B)の環構造に由来して位相差を発現させることもできる。
【0031】
本明細書において(メタ)アクリル系単量体は、α位及び/またはβ位に水素原子かアルキル基(好ましくは、炭素数1~4のアルキル基)が結合したアクリル基を含む単量体の意味で使用し、該アルキル基は、水素原子の少なくとも一部が、ヒドロキシ基またはハロゲン基で置換されていてもよい。(メタ)アクリル系単量体は、好ましくはアクリル基又はメタクリル基を有する単量体を意味する。また(メタ)アクリル系単量体には(メタ)アクリル酸(すなわち遊離酸)およびその誘導体が含まれ、該誘導体には、エステル、塩、酸アミド等が含まれる。
【0032】
前記(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸のエステル結合の酸素原子に直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が結合した(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0033】
直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基は、C1-18アルキル基が好ましく、C1-12アルキル基がより好ましく、C1-6アルキル基がさらに好ましい。なお本明細書において、「C1-18」や「C1-12」との記載は、それぞれ「炭素数1~18」、「炭素数1~12」を意味する。
【0034】
環状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸シクロプロピル、(メタ)アクリル酸シクロブチル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキル;(メタ)アクリル酸イソボルニル等の架橋環式(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルのシクロアルキル基は、C3-20シクロアルキル基が好ましく、C4-12シクロアルキル基がより好ましく、C5-10シクロアルキル基がさらに好ましい。
【0035】
芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トリル、(メタ)アクリル酸キシリル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸ビナフチル、(メタ)アクリル酸アントリル等の(メタ)アクリル酸アリール;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキル;(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の(メタ)アクリル酸アリールオキシアルキル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アリールのアリール基は、C6-20アリール基が好ましく、C6-14アリール基がより好ましい。(メタ)アクリル酸アラルキルのアラルキル基は、C6-10アリールC1-4アルキル基が好ましい。(メタ)アクリル酸アリールオキシアルキルのアリールオキシアルキル基は、C6-10アリールオキシC1-4アルキル基が好ましく、フェノキシC1-4アルキル基がより好ましい。
【0036】
前記(メタ)アクリル酸エステルは、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン基、アルコキシ基、エポキシ基等の置換基を有していてもよい。特に直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、脂肪族炭化水素基がヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン基、アルコキシ基、エポキシ基等を有することが好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル等の(メタ)アクリル酸ハロゲン化アルキル;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル;(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸エポキシアルキル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸エポキシアルキルのアルキル基は、C1-12アルキル基が好ましく、C1-6アルキル基がより好ましい。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルのアルコキシアルキル基は、C1-12アルコキシC1-12アルキル基が好ましく、当該アルコキシ基はC1-6がより好ましく、当該アルキル基はC1-6がより好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル系単量体としては、後述するプロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体A、(メタ)アクリル系単量体Bなどで例示する単量体も含まれる。
【0038】
ポリマー鎖(B)の主鎖の環構造は、(メタ)アクリル系単量体の一部または全部を環構造内に含んでいてもよく、(メタ)アクリル系単量体とは別に導入された環構造であってもよい。このようにポリマー鎖の主鎖に環構造を形成するのに必要な成分(環構造形成用単量体ともいう)を(メタ)アクリル系単量体の一部または全部を環構造内に含ませる場合には、例えば、隣接する(メタ)アクリル単位(b1)の2個のカルボン酸基を酸無水物化、イミド化などによって連結すればよい。また隣接する(メタ)アクリル単位(b1)のうち一方がヒドロキシ基やアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する場合には、この一方の(メタ)アクリル単位(b1)のプロトン性水素原子含有基と他方の(メタ)アクリル単位(b1)のカルボン酸基とが縮合することでも、環構造を形成できる。環構造を(メタ)アクリル単位(b1)とは別に導入する場合は、例えば、(メタ)アクリル系単量体と、環構造内に重合性二重結合を有する単量体とを共重合すればよい。
【0039】
環構造は、4員環構造、5員環構造、6員環構造、7員環構造、8員環構造等のいずれでもよく、好ましくは5員環構造または6員環構造である。
【0040】
環構造としては、樹脂組成物の耐熱性の観点から、ラクトン環構造、ラクタム環構造、環状イミド構造(例えば、スクシンイミド構造、グルタルイミド構造等)、環状無水物構造(例えば、無水コハク酸構造、無水グルタル酸構造等)等が好ましく挙げられる。これらの環構造は、ポリマー鎖(B)の主鎖に1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。これらの中でも、環状イミド構造であることが好ましく、スクシンイミド構造であることがより好ましい。
【0041】
ポリマー鎖(B)が主鎖の環構造としてラクトン環構造又はラクタム環構造を有する場合、ラクトン環構造又はラクタム環構造の環員数は特に限定されず、例えば4員環から8員環のいずれかであればよい。なお、環構造の安定性に優れる点から、ラクトン環構造又はラクタム環構造は5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。
【0042】
ラクトン環構造としては、例えば特開2004-168882号公報に開示される構造等が挙げられるが、ラクトン環構造の導入が容易であること、具体的には、前駆体(ラクトン環化前の重合体)の重合収率が高いこと、前駆体の環化縮合反応におけるラクトン環含有率を高めることができること、(メタ)アクリレート由来の単位を有する重合体を前駆体にできることなどの理由から、下記式(1a)で表される構造が好ましく示される。またラクタム環構造としては、下記式(1b)で表される構造が好ましく示される。下記式(1a)又は下記式(1b)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。
【0043】
【0044】
式(1a)、式(1b)のR1、R2およびR3の置換基としては、炭化水素基等の有機残基が挙げられ、例えば、置換基を有していてもよいC1-20の炭化水素基等が挙げられる。当該炭化水素基としては、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のC1-20アルキル基(好ましくはC1-10のアルキル基であり、より好ましくはC1-6のアルキル基);エテニル基、プロペニル基等のC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10のアルケニル基であり、より好ましくはC2-6のアルケニル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-20シクロアルキル基(好ましくはC4-12のシクロアルキル基であり、より好ましくはC5-8のシクロアルキル基)等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のC6-20アリール基(好ましくはC6-14のアリール基であり、より好ましくはC6-10のアリール基);ベンジル基、フェニルエチル基等のC7-20アラルキル基(好ましくはC7-15のアラルキル基であり、より好ましくはC7-11のアラルキル基)等が挙げられる。これらの炭化水素基は酸素原子やハロゲン原子を含んでいてもよく、具体的には、炭化水素基の有する水素原子の1つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種類の基により置換されていてもよい。
【0045】
式(1a)のラクトン環構造又は式(1b)のラクタム環構造において、耐熱性に優れた樹脂組成物を得ることが容易な点から、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはC1-20アルキル基であり、R3は水素原子またはメチル基であることが好ましく、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、R3は水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
【0046】
ヒドロキシ基やアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体A由来の単位のプロトン性水素原子含有基と、該(メタ)アクリル系単量体A由来の単位に隣接する(メタ)アクリル酸エステル由来の単位のエステル基とを環化縮合することにより、ラクトン環構造及び/又はラクタム環構造をポリマー鎖(B)に導入することができる。重合成分として、ヒドロキシ基又はアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体Aは必須であり、(メタ)アクリル系単量体Bは前記単量体Aを包含する。単量体Bは単量体Aと一致していてもよいし、一致しなくてもよい。単量体Bが単量体Aと一致するときには、単量体Aの単独重合となる。
【0047】
プロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体Aとしてはヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体A1やアミノ基を有する(メタ)アクリル系単量体A2などが挙げられる。
【0048】
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体A1としては、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル(例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸t-ブチル)、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル(例えば、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸エチル)等が挙げられ、好ましくは、ヒドロキシアリル部位を有する単量体である2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸や2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルが挙げられる。特に好ましくは2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが示される。
【0049】
アミノ基を有する(メタ)アクリル系単量体A2としては、前記単量体A1のヒドロキシ基がアミノ基に変わった化合物が例示できる。ポリマー鎖(B)がラクトン環構造及び/またはラクタム環構造である場合、(メタ)アクリル系単量体Aが環構造形成用単量体となる。
【0050】
(メタ)アクリル系単量体Bとしては、ビニル基とエステル基またはカルボキシ基とを有する単量体が好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等)、(メタ)アクリル酸アリール(例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等)、2-(ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキル(例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル等の2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル等の2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル)等が挙げられる。
【0051】
ポリマー鎖(B)は、式(1a)又は式(1b)で表されるラクトン環構造又はラクタム構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0052】
ポリマー鎖(B)が主鎖の環構造として無水コハク酸構造(すなわち無水マレイン酸単量体に由来する構造)またはスクシンイミド構造(すなわちマレイミド単量体に由来する構造)を有する場合、無水コハク酸構造またはスクシンイミド構造としては、下記式(2)で表される構造が好ましく示される。下記式(2)において、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、R6は水素原子または置換基を表し、X1は酸素原子または窒素原子を表し、X1が酸素原子のときn1=0であり、X1が窒素原子のときn1=1である。
【0053】
【0054】
式(2)のR6の置換基としては、炭化水素基等の有機残基が挙げられ、例えば、置換基を有していてもよいC1-20の炭化水素基が挙げられる。当該炭化水素基としては、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のC1-20アルキル基(好ましくはC1-10のアルキル基であり、より好ましくはC1-6のアルキル基);エテニル基、プロペニル基等のC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10のアルケニル基であり、より好ましくはC2-6のアルケニル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-20シクロアルキル基(好ましくはC4-12のシクロアルキル基であり、より好ましくはC5-8のシクロアルキル基)等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のC6-20アリール基(好ましくはC6-14のアリール基であり、より好ましくはC6-10のアリール基);ベンジル基、フェニルエチル基等のC7-20アラルキル基(好ましくはC7-15のアラルキル基であり、より好ましくはC7-11のアラルキル基)等が挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。
【0055】
X1が酸素原子のとき、式(2)により示される環構造は無水コハク酸構造となる。無水コハク酸構造は、例えば、無水マレイン酸と(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸エステル等)とを共重合することによって、ポリマー鎖(B)に導入することができる。ポリマー鎖(B)が無水コハク酸構造を有する場合、無水マレイン酸が環構造形成用単量体となる。
【0056】
X1が窒素原子のとき、式(2)により示される環構造はスクシンイミド構造となる。スクシンイミド構造は、例えば、N-置換マレイミドと(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸エステル)とを共重合することによって、ポリマー鎖(B)に導入することができる。スクシンイミド構造としては、例えば、N位が無置換のスクシンイミド構造、N-メチルスクシンイミド構造、N-エチルスクシンイミド構造、N-シクロヘキシルスクシンイミド構造、N-フェニルスクシンイミド構造、N-ナフチルスクシンイミド構造、N-ベンジルスクシンイミド構造等が挙げられる。また、スクシンイミド構造を与えるマレイミドとしては、N位が無置換のマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-ベンジルマレイミド等を用いることができ、N-シクロヘキシルマレイミド及びN-フェニルマレイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。ポリマー鎖(B)がスクシンイミド構造を有する場合、N-置換マレイミドが環構造形成用単量体となる。
【0057】
X1が窒素原子であるスクシンイミド構造をポリマー鎖(B)が有する場合、耐熱性に優れた樹脂組成物を得ることが容易な点から、R4およびR5は水素原子であり、R6はC3-20シクロアルキル基またはC6-20芳香族基(アリール基、アラルキル基等)であることが好ましく、R4およびR5は水素原子であり、R6はシクロヘキシル基またはフェニル基であることがより好ましい。
【0058】
ポリマー鎖(B)は、式(2)で表される環構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0059】
ポリマー鎖(B)が主鎖の環構造としてグルタルイミド構造または無水グルタル酸構造を有する場合、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造としては、下記式(3)で表される構造が好ましく示される。下記式(3)において、R7およびR8は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表し、R9は水素原子または置換基を表し、X2は酸素原子または窒素原子を表し、X2が酸素原子のときn2=0であり、X2が窒素原子のときn2=1である。
【0060】
【0061】
式(3)中、R7およびR8のアルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソへキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等のC1-8アルキル基等が挙げられる。なお、耐熱性に優れた樹脂組成物を得ることが容易な点から、R7およびR8は、それぞれ独立して水素原子またはC1-4アルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。
【0062】
式(3)のR9の置換基としては、炭化水素基等の有機残基が挙げられ、例えば、置換基を有していてもよいC1-20の炭化水素基が挙げられる。当該炭化水素基としては、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のC1-20アルキル基(好ましくはC1-10のアルキル基であり、より好ましくはC1-6のアルキル基);エテニル基、プロペニル基等のC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10のアルケニル基であり、より好ましくはC2-6のアルケニル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-20シクロアルキル基(好ましくはC4-12のシクロアルキル基であり、より好ましくはC5-8のシクロアルキル基)等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のC6-20アリール基(好ましくはC6-14のアリール基であり、より好ましくはC6-10のアリール基);ベンジル基、フェニルエチル基等のC7-20アラルキル基(好ましくはC7-15のアラルキル基であり、より好ましくはC7-11のアラルキル基)等が挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、耐熱性に優れた樹脂組成物を得ることが容易な点から、R9は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基であることが好ましく、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、またはトリル基がより好ましい。
【0063】
X2が酸素原子のとき、式(3)により示される環構造は無水グルタル酸構造となる。無水グルタル酸構造は、例えば、隣接する(メタ)アクリル系単量体由来の単位の2個のカルボン酸基を酸無水物化することにより、ポリマー鎖(B)に導入することができる。
【0064】
X2が窒素原子のとき、式(3)により示される環構造はグルタルイミド構造となる。グルタルイミド構造は、例えば、隣接する(メタ)アクリル系単量体由来の単位の2個のカルボン酸基をイミド化したり、隣接する(メタ)アクリル酸アミド由来の単位のアミド基と(メタ)アクリル酸エステル由来の単位のエステル基とを環化縮合することにより、ポリマー鎖(B)に導入することができる。ポリマー鎖(B)がグルタルイミド構造を有する場合、(メタ)アクリル系単量体が環構造形成用単量体となる。
【0065】
式(3)の環構造において、X2が窒素原子であるグルタルイミド構造を有する場合、耐熱性に優れた樹脂組成物を得ることが容易な点から、R7およびR8はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、R9は、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、またはトリル基であることがさらに好ましく、R7およびR8はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、R9はシクロヘキシル基またはフェニル基であることが特に好ましい。
【0066】
ポリマー鎖(B)は、式(3)で表される環構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0067】
上記に説明した環構造のうち、樹脂組成物に良好な表面硬度、耐溶剤性、接着性、バリヤ特性、光学特性が付与される観点から、ポリマー鎖(B)の環構造単位(b2)は、ラクトン環構造および/またはスクシンイミド構造(マレイミド単量体由来の構造)を含むことが好ましく、スクシンイミド構造を含むことがより好ましい。
【0068】
ポリマー鎖(B)中の主鎖の環構造単位(b2)の含有割合は特に限定されないが、ポリマー鎖(B)中、環構造単位(b2)の含有割合は3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、また40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。このように主鎖の環構造単位(b2)の含有割合を調整することにより、耐熱性と機械的強度の両方をバランス良く付与することができる。なお、ここで説明した環構造単位(b2)の含有割合は、ポリマー鎖(B)の主鎖に含まれる環構造を有する単位の含有率を意味し、例えば上記式(1)~(3)で表される構造の含有割合を意味する。
【0069】
ポリマー鎖(B)は、前記(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体由来の単位(b3)をさらに有していてもよい。(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体は、重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;スチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、α-メチルスチレン、2-ビニルピリジン等の芳香族ビニル化合物;ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン等が挙げられる。例えば、ポリマー鎖(B)が芳香族ビニル単量体由来の単位を有していれば、樹脂組成物の屈折率や位相差特性を調整することが容易になる。芳香族ビニル単量体の詳細は、ポリマー鎖(A)の芳香族ビニル単量体の説明が参照される。なお、ポリマー鎖(B)が2種以上の単量体成分から形成されるものである場合、ポリマー鎖(B)はランダム共重合体であることが好ましい。
【0070】
前記(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体由来の単位(b3)は、ポリマー鎖(B)100質量部中、例えば、10~60質量部であることが好ましく、15~50質量部であることがより好ましく、20~40質量部であることがさらに好ましい。
【0071】
本発明の樹脂組成物は、ポリマー鎖(A)及びポリマー鎖(B)を含む共重合体(P)を含有することが好ましい。また、共重合体(P)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)と主鎖に環構造を有する単位(b2)を有するポリマー鎖(B)とを含有することがより好ましい。共重合体(P)において、ポリマー鎖(B)はポリマー鎖(A)にグラフトしていることが好ましく、ポリマー鎖(B)は、ポリマー鎖(A)の重合体ブロック(a1)にグラフトしていることがより好ましく、ポリマー鎖(B)が、重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に結合していることが最も好ましい。また、共重合体(P)に含まれるポリマー鎖(A)は、トリブロック共重合体であってもよく、マルチブロック共重合体であってもよく、ラジアルブロック共重合体であってもよいが、共重合体(P)中へのポリマー鎖(B)の導入のしやすさという観点からは、共重合体(P)に含まれるポリマー鎖(A)はトリブロック共重合体であることが好ましい。なお、国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による高分子科学の基本的術語の用語集によると、グラフト高分子とは、「ある高分子中に側鎖として主鎖に結合した1種または数種のブロックがあり、しかもこれらの側鎖が主鎖とは異なる構成(化学構造)上または配置上の特徴をもつ場合、この高分子をグラフト高分子という。」と説明されている。グラフト共重合体は、連鎖移動反応法、高分子開始剤法、カップリング法、マクロモノマー法、表面グラフト法等の公知の製造方法により得ることができ、これらの方法から1つのみを採用してもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらの方法の詳細は、日本化学会編、化学便覧(応用化学編)第6版を参考にできる。
【0072】
ポリマー鎖(B)が、重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に結合している場合、ポリマー鎖(B)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の主鎖の炭素原子に結合していてもよく、当該主鎖に置換基(側鎖)として結合した炭化水素基の炭素原子に結合していてもよい。ポリマー鎖(B)は、例えば、共重合体ブロック(a1)の主鎖のジエン由来の二重結合に結合してもよく、当該二重結合の隣接炭素原子に結合してもよい。あるいは、ポリマー鎖(B)は、共重合体ブロック(a1)の主鎖に置換基(側鎖)として結合したジエン由来の二重結合に結合したり、当該二重結合の隣接炭素原子に結合していてもよい。
【0073】
3.ポリマー鎖(A)及び共重合体(P)の製造方法
ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマー鎖(A)の製造方法は特に限定されておらず、公知の方法で製造すればよい。
【0074】
上述のとおり、本発明の樹脂組成物は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)と主鎖に環構造を有する単位(b2)を有するポリマー鎖(B)を有する共重合体(P)を含有することが好ましい。以下では、このような共重合体(P)の製造方法の一例を説明する。
【0075】
共重合体(P)は、ポリマー鎖(A)に、ポリマー鎖(B)を形成する単量体成分を付加重合することにより製造することが簡便である。従って、共重合体(P)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有する共重合体(以下、「原料共重合体(P1)」と称する)の存在下で、(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分を重合することによって得られるものが好ましい。なお本明細書において、「原料共重合体(P1)」を単に「共重合体(P1)」と称する場合がある。原料共重合体(P1)の詳細は、上記のポリマー鎖(A)の説明が参照される。
【0076】
共重合体(P)は、ポリマー鎖(B)が、ポリマー鎖(A)の重合体ブロック(a1)にグラフトしていることが好ましい。詳細には、ポリマー鎖(B)は、重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に結合していることが好ましい。この場合、ポリマー鎖(B)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の主鎖の炭素原子に結合していてもよく、当該主鎖に置換基(側鎖)として結合した炭化水素基の炭素原子に結合していてもよい。ポリマー鎖(B)は、例えば、共重合体ブロック(a1)の主鎖のジエン由来の二重結合に結合してもよく、当該二重結合の隣接炭素原子に結合してもよい。あるいは、ポリマー鎖(B)は、共重合体ブロック(a1)の主鎖に置換基(側鎖)として結合したジエン由来の二重結合に結合したり、当該二重結合の隣接炭素原子に結合していてもよい。
【0077】
原料共重合体(P1)としては、オレフィン性二重結合量が0.030mmol/g以上2.3mmol/g以下であるものを用いることが好ましい。オレフィン性二重結合量が0.030mmol/g以上の原料共重合体(P1)を用いることにより、透明性が高い共重合体(P)を得やすくなる。一方、オレフィン性二重結合量が2.3mmol/g以下の原料共重合体(P1)を用いることにより、ゲル化物の発生が少ない共重合体(P)を得やすくなる。共重合体(P1)のオレフィン性二重結合量は、0.040mmol/g以上がより好ましく、0.050mmol/g以上がさらに好ましく、また2.0mmol/g以下が特に好ましい。共重合体(P1)のオレフィン性二重結合量は1H-NMR測定またはヨウ素滴定法により求めることができる。
【0078】
共重合体(P)は、原料共重合体(P1)の存在下で、(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分を重合する工程(重合工程)を含む製造方法により得ることができる。重合工程で(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分が重合することによりポリマー鎖(B)が形成され、原料共重合体(P1)がポリマー鎖(A)を与え、これにより、ポリマー鎖(B)がポリマー鎖(A)の重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に結合した共重合体(P)が得られる。なお、原料共重合体(P1)は、例えば重合体ブロック(a1)を構成する単量体成分を重合して重合体ブロック(a1)を形成した後、重合体ブロック(a1)の存在下で重合体ブロック(a2)を構成する単量体成分を重合することにより、得ることができる。
【0079】
重合工程においてポリマー鎖(B)が重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に結合するようにする点から、重合工程では、原料共重合体(P1)の重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位が有する二重結合(オレフィン性二重結合)のビニル位、アリル位等活性が高い水素が引き抜かれるようにすることが好ましい。これにより当該箇所でラジカルが生成し、ポリマー鎖(B)を形成する単量体成分を付加重合させることができる。この際、上記に説明したように、原料共重合体(P1)が有するオレフィン性二重結合量を調整することにより、共重合体(P)の透明性を高めたり、ゲル化物の発生を抑えやすくなる。
【0080】
重合工程において、原料共重合体(P1)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。後者の場合、樹脂組成物の透明性や重量平均分子量、MFR、粘度などの物性を調整することが容易となる。
【0081】
ポリマー鎖(B)の形成に用いられる単量体成分には、(メタ)アクリル系単量体に加え、環構造単位を与える単量体として、環構造内に重合性二重結合を有する単量体等を使用することもできる。例えば、主鎖に環構造を有するポリマー鎖(B)を形成する場合は、環構造内に重合性二重結合を有する単量体を用いてもよく、重合工程の後で環構造形成工程を行うことにより環構造を形成可能な単量体を用いてもよい。また、それ以外の他の不飽和単量体を用いることもできる。これらの単量体成分の詳細は、上記のポリマー鎖(B)を形成する(メタ)アクリル系単量体、ポリマー鎖(B)の環構造を与える単量体、ポリマー鎖(B)を形成する他の不飽和単量体の説明が参照される。
【0082】
単量体成分の重合は、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の公知の重合法を用いて行うことができるが、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いれば、共重合体(P)への微小な異物の混入を抑えることができ、共重合体(P)を光学材料用途等に好適に適用しやすくなる。重合形式としては、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。重合の際、単量体成分は一括で仕込んでもよく、分割添加してもよい。
【0083】
重合の際の原料共重合体(P1)の使用量は、原料共重合体(P1)と単量体成分の合計100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、7質量部以上がよりさらに好ましく、9質量部以上が特に好ましく、12質量部以上が最も好ましく、また50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、35質量部以下がさらに好ましい。単量体成分の使用量は、原料共重合体(P1)と単量体成分の合計100質量部に対して、50質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、65質量部以上がさらに好ましく、また99質量部以下が好ましく、97質量部以下がより好ましく、95質量部以下がさらに好ましく、93質量部以下がさらにより好ましく、91質量部以下が特に好ましく、88質量部以下が最も好ましい。
【0084】
重合溶媒は、単量体成分の組成に応じて適宜選択でき、通常のラジカル重合反応で使用される有機溶媒を用いることができる。具体的には、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;クロロホルム;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
原料共重合体(P1)と単量体成分との重合反応は、重合触媒(重合開始剤)の存在下で行うことが好ましい。重合触媒としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)・二塩酸塩、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等のアゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩類;クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシオクトエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、t-アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート等の有機過酸化物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水素引き抜き力が強い有機過酸化物を用いることが好ましく、特にパーオキシカーボネート系の過酸化物を用いることが好ましい。重合触媒の使用量は、例えば、単量体成分100質量部に対して0.01~1質量部とすることが好ましい。
【0086】
反応液中の原料共重合体(P1)と単量体成分の合計濃度は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、また80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。反応液中の重合溶媒濃度は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、また97質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。重合反応中に、原料共重合体(P1)、単量体成分、重合触媒、反応溶媒等を適宜追加することも可能である。
【0087】
重合反応は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気または気流下で行うのが好ましい。残存単量体を少なくするために、重合開始剤としてアゾ系化合物と過酸化物を併用してもよい。反応温度は、50℃~200℃が好ましい。反応時間は、共重合反応の進行度合や、ゲル化物の生成の程度を見ながら適宜調整すればよく、例えば1時間~20時間行うことが好ましい。
【0088】
上記の重合工程により、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)を含むポリマー鎖(B)がポリマー鎖(A)に結合した共重合体(P)が得られる。重合工程において、単量体成分として、(メタ)アクリル系単量体と環構造内に重合性二重結合を有する単量体(例えば、無水マレイン酸やマレイミド)を用いる場合は、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)と環構造単位(b2)(無水コハク酸構造、スクシンイミド構造)を有するポリマー鎖(B)がポリマー鎖(A)に結合した共重合体(P)が得られる。
【0089】
一方、ポリマー鎖(B)の環構造単位(b2)として、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、またはグルタルイミド構造を有する共重合体(P)を得る場合は、重合工程に続いて環構造形成工程を行うことが好ましい。環構造形成工程では、重合工程で形成された(メタ)アクリル単位を有するポリマー鎖(B)の主鎖に環構造を形成する。具体的には、重合工程で形成された(メタ)アクリル単位を有するポリマー鎖(B)の隣接(メタ)アクリル単位の置換基同士を縮合反応させて、ポリマー鎖(B)の主鎖に環構造を形成する。環化縮合反応には、エステル化反応、酸無水物化反応、アミド化反応、イミド化反応等が含まれる。例えば、隣接する(メタ)アクリル単位の2個のカルボン酸基を酸無水物化することによって、無水グルタル酸構造を形成することができ、イミド化することによってグルタルイミド構造を形成することができる。また隣接する(メタ)アクリル単位のうち一方がヒドロキシル基やアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する場合には、この一方の(メタ)アクリル単位のプロトン性水素原子含有基と他方の(メタ)アクリル単位のカルボン酸基とを縮合することによって、ラクトン環構造及び/又はラクタム環構造を形成することができる。
【0090】
環構造形成工程において、隣接する(メタ)アクリル単位の縮合反応は、触媒(環化触媒)の存在下で行うことが好ましい。環化触媒としては、酸、塩基およびそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。酸、塩基およびそれらの塩は有機物であっても無機物であってもよく、特に限定されない。なかでも、環化反応の触媒としては、有機リン化合物を用いることが好ましい。有機リン化合物を環化触媒として用いることにより、環化縮合反応を効率的に行うことができるとともに、得られる共重合体(P)の着色を低減することができる。
【0091】
環化触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、アルキル(アリール)亜ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;アルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;アルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2-エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ-2-エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;モノ-、ジ-またはトリ-アルキル(アリール)ホスフィン;アルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化モノ-、ジ-またはトリ-アルキル(アリール)ホスフィン;ハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、触媒活性が高く、着色性が低いことから、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。環化触媒の使用量は、例えば、重合工程で得られた共重合体100質量部に対して0.001~1質量部とすることが好ましい。
【0092】
環構造形成工程における反応温度は、50℃~300℃が好ましい。反応時間は、環化縮合反応の進行度合を見ながら適宜調整すればよく、例えば5分~6時間行うことが好ましい。
【0093】
環構造形成工程は、加熱下で行うことが好ましい。この際、重合工程で得られた重合溶媒を含む重合溶液をそのまま加熱してもよいし、重合溶媒を脱揮した後に加熱してもよいし、これらの両方を組み合わせて行ってもよい。環化縮合反応に用いる反応器としては、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる装置、ベント付押出機等が挙げられる。
【0094】
環構造形成工程では、脱揮を行うことが好ましい。脱揮は、反応器内を真空ポンプ等で減圧することにより行うことができる。脱揮により、重合工程で用いられ環構造形成工程に持ち込まれた重合溶媒や、環化縮合反応により副生したアルコール等が除去され、得られる共重合体(P)中の残存揮発分を少なくすることができる。また、環化縮合反応で副生したアルコール等が除去されるため、反応平衡が生成側に傾き有利となる。さらに、脱揮により低分子量化合物が除去され、フィルム成形時のキャストロールの汚れや射出成形時のシルバーストリークスの発生を抑制することができる。
【0095】
脱揮をしながら環化縮合反応を行う場合、効率的に脱揮を行う点から、環化縮合反応を減圧下で行うことが好ましい。環化縮合反応での減圧は、例えば、絶対圧として90kPa以下とすることが好ましく、80kPa以下がより好ましく、70kPa以下がさらに好ましい。一方、減圧状態を実現するための設備が過剰仕様とならず、設備費を低く抑える点から、減圧する際の絶対圧は0.1kPa以上が好ましく、1kPa以上がより好ましい。なお、脱揮をせずに環化縮合反応を行う場合は、環化縮合反応は常圧下または加圧下で行ってもよい。
【0096】
ベント付押出機を用いる場合、押出機は、シリンダと、シリンダ内に設けられたスクリューとを有し、加熱手段を備えていることが好ましい。シリンダには、ベントが1つまたは複数設けられる。ベントは、押出機内の移送方向に対して、少なくとも原料投入部の下流側に設けられることが好ましく、原料投入部の上流側にも設けられてもよい。
【0097】
押出機内に供給された共重合体を、スクリューで混練しながら押出機の上流側から下流側へ移送される過程で環化縮合反応が進み、押出機の下流側から共重合体(P)が排出される。押出機の下流側にはダイスが設けられていることが好ましく、ダイスから共重合体(P)を吐出することにより、所定の形状(フィルム状や棒状)に成形することができる。例えば、棒状に成形された樹脂を細かく切断すれば、ペレットを製造することができる。
【0098】
環構造形成工程において環化縮合反応を環化触媒の存在下で行う場合、環化縮合反応の後またはその途中で失活剤を加えることが好ましい。例えば、共重合体(P)を含む樹脂組成物をペレット化したりフィルム化する際、当該樹脂組成物中に環化触媒が残存していると、環化縮合反応が起こることによってアルコール等が発生して、所望しない発泡が起こる可能性がある。しかし、環化縮合反応の後またはその途中で失活剤を加えることにより、このような発泡が防ぐことができる。
【0099】
失活剤としては、環化触媒を中和できる物質が好適に用いられる。例えば環化触媒が酸性物質である場合、失活剤としては塩基性物質を用いることができ、逆に環化触媒が塩基性物質である場合、失活剤としては酸性物質を用いることができる。なお上記に説明したように、環化触媒として有機リン化合物が好適に用いられ、当該化合物は酸性物質であることが多いことから、失活剤としては塩基性物質を用いることが好ましい。塩基性物質としては、環化縮合反応を停止する機能を有し得るものであれば特に限定されないが、例えば金属カルボン酸塩、金属錯体、金属酸化物などが用いられる。逆に、環化触媒として塩基性物質を用いる場合は、失活剤としては、上記に説明した環化触媒に使用可能な酸性物質を用いることができる。
【0100】
失活剤を加えるタイミングは、環化縮合反応の途中か、当該反応より後であって共重合体(P)を含む樹脂組成物をペレット化したりフィルム化する前であることが好ましい。例えば、溶融状態の樹脂組成物に失活剤を加えてもよく、溶媒に溶解した樹脂組成物に失活剤を加えてもよい。上記に説明したように押出機を用いて環化縮合反応を行う場合は、当該押出機において環化縮合反応が十分行われた後の位置に失活剤を添加するようにしてもよい。
【0101】
(メタ)アクリル系単量体の転化率が85%以上であることが好ましく、前記重合反応での各種モノマーの転化率がいずれも85%以上であることがより好ましく、いずれもが88%以上であることがさらに好ましく、いずれもが90%以上であることが特に好ましい。(メタ)アクリル系単量体やその他各種モノマーの転化率が85%より低い場合、単量体の回収を別途行う設備が新たに必要となったり、残存単量体が次工程などで望まない反応を引き起こし異物が発生するなど生産性を著しく損なうおそれがある。
【0102】
共重合体(P)の重量平均分子量は、0.2万以上が好ましく、0.5万以上がより好ましく、3万以上がさらに好ましく、また60万以下が好ましく、40万以下がより好ましく、30万以下がさらに好ましい。共重合体(P)の重量平均分子量をこのような範囲とすることで、共重合体(P)を含む樹脂組成物の成形加工性が向上する。
【0103】
共重合体(P)の重量平均分子量は、ポリマー鎖(A)の重量平均分子量の1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましく、1.3倍以上がさらに好ましく、また10倍以下が好ましく、7倍以下がより好ましく、5倍以下がさらに好ましい。これにより、樹脂組成物に、透明性と機械的強度の各特性をバランス良く付与することが容易になる。
【0104】
共重合体(P)の屈折率はポリマー鎖(A)の屈折率と近い値であることが好ましく、これにより樹脂組成物の透明性を確保しやすくなる。具体的には、共重合体(P)の屈折率とポリマー鎖(A)の屈折率との差が0.1未満であることが好ましく、0.05以下がより好ましく、0.02以下がさらに好ましい。同様の観点から、共重合体(P)中のポリマー鎖(A)の屈折率とポリマー鎖(B)の屈折率は近い値であることが好ましく、具体的には、ポリマー鎖(A)の屈折率とポリマー鎖(B)の屈折率との差が0.1未満であることが好ましく、0.05以下がより好ましく、0.02以下がさらに好ましい。
【0105】
樹脂組成物は、共重合体(P)を1種のみ含有するものであってもよく、2種以上含有するものであってもよい。また、上記に説明した共重合体(P)に加えて、他の重合体を含有するものであってもよい。この場合、樹脂組成物は、共重合体(P)を樹脂成分(マトリックス樹脂)として含むものであってもよく、他の重合体を樹脂成分(マトリックス樹脂)として含むものであってもよい。他の重合体としては、共重合体(P)との相溶性に優れる点から、(メタ)アクリル系重合体(Q)が好ましく用いられる。これにより、樹脂組成物の透明性や耐熱性を高めることが容易になる。
【0106】
(メタ)アクリル系重合体(Q)は、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するものであればよく、好ましくは、上記のポリマー鎖(B)で説明した(メタ)アクリル酸エステル由来の単位を有する。(メタ)アクリル系重合体(Q)は、上記のポリマー鎖(B)で説明した他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。(メタ)アクリル系重合体(Q)は、樹脂組成物中での共重合体(P)との相溶性を高める観点から、共重合体(P)のポリマー鎖(B)に含まれる(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)を有することがより好ましい。
【0107】
(メタ)アクリル系重合体(Q)は、環構造を有するものであることが好ましく、主鎖に環構造を有するものであることがより好ましい。これにより、樹脂組成物やそれから得られるフィルムの耐熱性を高めることができる。(メタ)アクリル系重合体(Q)の主鎖の環構造としては、ラクトン環構造、環状イミド構造(例えば、スクシンイミド構造、グルタルイミド構造等)、環状無水物構造(例えば、無水コハク酸構造、無水グルタル酸構造等)等が好ましく挙げられ、これらの環構造の詳細は、上記のポリマー鎖(B)の環構造に関する説明が参照される。なかでも、(メタ)アクリル系重合体(Q)は、共重合体(P)のポリマー鎖(B)が有する環構造と同じ環構造を主鎖に有することが好ましい。
【0108】
(メタ)アクリル系重合体(Q)は、(メタ)アクリル系単量体由来の単位と主鎖に環構造を有する単位を有することが好ましく、共重合体(P)のポリマー鎖(B)が有する(メタ)アクリル単位と同じ(メタ)アクリル単位を有するとともに、ポリマー鎖(B)が有する環構造単位と同じ環構造単位を有することがより好ましい。これにより(メタ)アクリル系重合体(Q)と共重合体(P)との相溶性が高まり、樹脂組成物やそれから得られるフィルムの透明性や耐熱性を高めることが容易になる。樹脂組成物の耐熱性をより高めることができる観点からは、(メタ)アクリル系重合体(Q)は、環状イミド構造を含む環構造単位を有することが好ましい。
【0109】
このような(メタ)アクリル系重合体(Q)は、共重合体(P)を重合生成する際に、(メタ)アクリル系重合体(Q)も一緒に重合生成することが簡便である。上記に説明した共重合体(P)の製造方法では、共重合体(P)とともに、共重合体(P)のポリマー鎖(B)に対応した(メタ)アクリル系重合体(Q)も同時に生成するが、この際、共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)を分離しないことにより、共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)を含む樹脂組成物を得ることができる。
【0110】
樹脂組成物の製造方法は、上記の方法に限定されず、共重合体(P)を単離して、別の重合体と混合して樹脂組成物としてもよい。また、上記の共重合体(P)の製造方法において、共重合体(P1)へのグラフト重合反応終了後に、さらに別の単量体を追加して重合反応を行い樹脂組成物を得てもよい。あるいは、上記の共重合体(P)の製造方法で得られた共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)の混合物に対して、さらに別の重合体(例えば、別の(メタ)アクリル系重合体)を加えて樹脂組成物としてもよい。他の重合体を加えて混合する場合は、溶融混練してもよく、この場合、例えばニーダーや多軸押出機などの一般的な装置を使用することができる。
【0111】
樹脂組成物は、上記に説明したとおり、(メタ)アクリル系重合体(Q)以外の重合体を含有していてもよく、そのような重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン重合体、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系重合体;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等のスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;シクロオレフィンポリマー;セルロース誘導体;ポリブタジエン系ゴム、(メタ)アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;等が挙げられる。
【0112】
樹脂組成物の製造方法では、上記に説明した重合工程または環構造形成工程に続いて、濾過工程を行うこともできる。濾過工程を行うことにより、樹脂組成物中の異物量を低減することができ、樹脂組成物を、高度な品質が求められる光学フィルム等への用途に好適に適用することができる。また、樹脂組成物からフィルムを成形した際に、表面凹凸や欠点が少なく透明性の高いフィルムを得やすくなる。濾過工程は、上記に説明した重合工程または環構造形成工程に引き続いて連続的に実施することができる。
【0113】
濾過に用いるフィルタとしては、従来公知のフィルタを使用することができ、特に制限されないが、例えば、リーフディスクフィルタ、キャンドルフィルタ、パックディスクフィルタ、円筒型フィルタ等を用いることができる。なかでも、有効濾過面積が大きいリーフディスクフィルタまたはキャンドルフィルタを用いることが好ましい。
【0114】
フィルタの濾過精度(孔径)は、通常は、例えば15μm以下であればよい。なお、樹脂組成物を光学フィルムなどの光学材料に使用する場合は、その光学的欠点低減の点から、濾過精度は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。濾過精度の下限は特に限定されず、例えば0.2μm以上である。
【0115】
樹脂組成物中の共重合体(P)の含有割合は特に限定されないが、樹脂組成物の固形分100質量%中、共重合体(P)の含有割合は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上がさらにより好ましい。これにより、フィルムの機械的強度を高めたり、樹脂組成物を加熱溶融した際の流動性を高めやすくなる。樹脂組成物中の共重合体(P)の含有割合の上限は特に限定されず、樹脂組成物は共重合体(P)のみから構成されていてもよく、樹脂組成物中、共重合体(P)の含有割合が90質量%以下であってもよく、70質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、または30質量%以下であってもよい。樹脂組成物の固形分量は、樹脂組成物が溶媒を含む場合は、溶媒を除く樹脂組成物の量を意味する。
【0116】
樹脂組成物の固形分100質量%中、共重合体(P)のポリマー鎖(A)の含有割合は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、12質量%以上がさらにより好ましく、また50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。樹脂組成物中のポリマー鎖(A)の含有割合が1質量%以上であれば、フィルムの機械的強度を高めたり、樹脂組成物を加熱溶融した際の流動性を高めやすくなる。
【0117】
樹脂組成物中の環構造単位の含有割合は特に限定されないが、樹脂組成物の固形分100質量%中、環構造単位の含有割合は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上がさらに好ましく、また60質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下がさらにより好ましい。このように環構造単位の含有割合を調整することにより、耐熱性と機械的強度の両方をバランス良く高めることが容易になる。なお、ここで説明した環構造単位の含有割合は、共重合体(P)のポリマー鎖(B)の主鎖に含まれる環構造単位と(メタ)アクリル系重合体(Q)の主鎖に含まれる環構造単位の合計含有割合を意味し、例えば、上記式(1)~(3)で表される構造の含有割合を意味する。
【0118】
樹脂組成物が(メタ)アクリル系重合体(Q)を含有する場合、樹脂組成物の固形分100質量%中、(メタ)アクリル系重合体(Q)の含有量は、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がさらにより好ましく、また99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましく、85質量%以下がさらにより好ましい。
【0119】
樹脂組成物の固形分100質量%中、共重合体(P)のポリマー鎖(B)と(メタ)アクリル系重合体(Q)の合計含有割合は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、また97質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、88質量%以下がさらに好ましい。これによりフィルムやシートなどに成形した際に透明性や機械的強度が調整しやすくなる。
【0120】
樹脂組成物の固形分100質量%中、共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)の合計含有割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましい。樹脂組成物中の共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)の含有割合の上限は特に限定されず、樹脂組成物は実質的に共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)のみから構成されていてもよく、例えば樹脂組成物の固形分100質量%中、共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)の合計含有割合が99質量%以上であってもよい。
【0121】
樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤等の位相差調整剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;等が挙げられる。樹脂組成物の固形分100質量%中の各添加剤の含有割合は、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~2質量%の範囲内である。
【0122】
4.面内位相差Re、厚さ方向位相差Rth、及び応力光学係数Crについて
以下では、面内位相差Re、厚さ方向位相差Rth、及び応力光学係数Crの説明を行う。
【0123】
<面内位相差Re、厚さ方向位相差Rth>
フィルムの面内位相差Reと厚さ方向の位相差Rthは、下記式から求めることができる。なお、フィルムの面内における遅相軸方向の屈折率をnx、フィルムの面内における進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとする。
面内位相差Re=(nx-ny)×d
厚さ方向位相差Rth=[(nx+ny)/2-nz]×d
【0124】
本発明の樹脂組成物のガラス転移温度より4℃高い温度で、前記樹脂組成物から得られる未延伸フィルムを2倍の延伸倍率で自由端一軸延伸を行って得られる延伸フィルムにおいて、波長589nmの光に対する厚み40μmあたりの面内位相差Reが30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。また、上記面内位相差Reは、400nm以下であることが好ましく、350nm以下であることがさらに好ましい。面内位相差Reが前記範囲であると、λ/2板やλ/4板など各種位相差フィルムに求められる十分な位相差を発現できる。
【0125】
位相差フィルムとしての基本特性を示すためには、前記樹脂組成物から得られるフィルムが所定の面内位相差Reを有することが必要となる。しかし、所定の面内位相差を有する場合、面内位相差Reの大きさ(絶対値)のみならず厚さ方向位相差Rthの大きさ(絶対値)も大きくなってしまいコントラストが低下しやすくなるところ、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(b1)と主鎖に環構造を有する単位(b2)を有するポリマー鎖(B)とを含有する本発明の樹脂組成物を用いてフィルムを作製すると厚さ方向位相差Rthの大きさ(絶対値)も小さく抑えて、コントラストの低下を抑制でき、視野角補償性を高くすることができる。
【0126】
本発明の樹脂組成物に含まれているジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有するポリマー鎖(A)は、軟質であって延伸などを施しても配向し難い一方で、本発明の樹脂組成物に含まれているポリマー鎖(B)と相分離して存在するため、正の形態複屈折を発現する。形態複屈折とは、分子よりはるかに大きく、光の波長より小さいサイズの構造が周期的にあるいは集団的にあるような材料が示す複屈折性のことであり、その大きさや形状に応じて正の複屈折の方向性や強さが決まり必ず正の値となる。
一方、本発明の(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)は、負の配向複屈折を示す。配向複屈折とは、一般に鎖状のポリマー(ポリマー鎖)の主鎖が配向することにより発現する複屈折のことである。
以上のように正の形態複屈折はポリマー鎖(A)の大きさや形状によって定まり、負の配向複屈折はポリマー鎖(B)の配向によって定まり、本発明の樹脂組成物を用いて作製されたフィルムではこれら正/負の複屈折を制御することが可能である。
【0127】
本発明の樹脂組成物のガラス転移温度より4℃高い温度で、前記樹脂組成物から得られる未延伸フィルムを2倍の延伸倍率で自由端一軸延伸を行って得られる延伸フィルムにおいて、波長589nmの光に対する厚み40μmあたりの厚さ方向位相差Rthは、負の値であり(上記延伸フィルムは負の位相差フィルムであり)、上記厚さ方向位相差Rthの絶対値が200nm以下であることが好ましく、170nm以下であることがより好ましく、140nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。ポリマー鎖(A)に起因する厚さ方向位相差Rthは正の値であり、ポリマー鎖(B)に起因する厚さ方向位相差Rthは負の値であるが、ポリマー鎖(B)に起因する厚さ方向位相差Rthの絶対値をポリマー鎖(A)に起因する厚さ方向位相差Rthよりも大きい値とすることができ、ポリマー鎖(A)に起因する厚さ方向位相差Rthを完全に打ち消すことができ、負の位相差フィルムとすることができる。厚さ方向位相差Rthが前記範囲であると、優れた視野角補償性を発揮できる。
【0128】
<応力光学係数Cr>
樹脂組成物において、応力光学係数Crは、-25.0×10-11Pa-1以上-4.0×10-11Pa-1以下であり、-20.0×10-11Pa-1以上-6.0×10-11Pa-1以下であることが好ましく、-15.0×10-11Pa-1以上-7.0×10-11Pa-1以下であることがより好ましく、-12.0×10-11Pa-1以上-8.0×10-11Pa-1以下であることがさらに好ましい。応力光学係数Crは、樹脂組成物のTg以上の温度で測定されるため、未延伸フィルムの延伸によってどの程度の位相差が当該フィルムに発現するかの指標となる。具体的には、応力光学係数Crとは、樹脂組成物を成形して得た未延伸フィルムを、そのTg以上の温度で延伸して位相差フィルムとし、その際、延伸のために未延伸フィルムに加える応力σを変化させたときの、応力σに対する得られた位相差フィルムの位相差の変化の傾きのことである。延伸フィルムを成形して応力光学係数Crを測定するが、応力光学係数Crは樹脂組成物固有の値であり、本発明の樹脂組成物の応力光学係数Crはポリマー鎖(B)によって左右される値である。樹脂組成物の応力光学係数Crが負の値であると、ポリマー鎖(B)に起因する位相差は負の値となり、負の位相差フィルムとすることができる。応力光学係数Crが上記の範囲であれば、λ/2板やλ/4板など各種位相差フィルムに求められる十分な位相差を発現できる。応力光学係数Crの値はフィルムの延伸倍率、延伸条件等には左右されない。樹脂組成物の応力光学係数Crは実施例に記載の方法により求める。
【0129】
5.樹脂組成物の物性
応力光学係数Cr以外の樹脂組成物の物性については以下のとおりである。
【0130】
<ガラス転移温度>
本発明の樹脂組成物は、110℃以上にガラス転移温度を有することが好ましい。これにより樹脂組成物の耐熱性を高めることができ、樹脂組成物を耐熱性が求められる用途、例えば画像表示装置等の用途への適用が可能となる。樹脂組成物は、好ましくは120℃以上の温度範囲にガラス転移温度を有する。当該ガラス転移温度の上限については、フィルム等への成形加工性を確保する点から、300℃未満が好ましく、200℃未満がより好ましく、180℃未満がさらに好ましい。
【0131】
樹脂組成物は、110℃以上および110℃未満にそれぞれガラス転移温度を有することが好ましい。なお、110℃以上のガラス転移温度を「高温側のガラス転移温度」と称し、110℃未満のガラス転移温度を「低温側のガラス転移温度」と称する。樹脂組成物は、高温側のガラス転移温度を複数有するものであってもよく、低温側のガラス転移温度を複数有するものであってもよい。樹脂組成物が高温側のガラス転移温度を有することにより、樹脂組成物の耐熱性が高まる。樹脂組成物が低温側のガラス転移温度を有することにより、樹脂組成物の機械的強度や耐衝撃性を高めることができる。樹脂組成物の高温側のガラス転移温度の好適範囲は上記に説明した通りである。樹脂組成物の低温側のガラス転移温度は、50℃未満が好ましく、30℃未満がより好ましく、10℃未満がさらに好ましく、また-100℃以上が好ましく、-90℃以上がより好ましく、-80℃以上がさらに好ましい。
【0132】
<重量平均分子量>
樹脂組成物の重量平均分子量は、0.2万以上が好ましく、0.5万以上がより好ましく、3万以上がさらに好ましく、5万以上がさらにより好ましく、10万以上が特に好ましく、また60万以下が好ましく、40万以下がより好ましく、30万以下がさらに好ましい。樹脂組成物の重量平均分子量をこのような範囲とすることで、樹脂組成物の成形加工性が向上する。樹脂組成物の重量平均分子量は、樹脂組成物をゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の値を意味し、樹脂組成物が共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)を含有する場合は、樹脂組成物の重量平均分子量は、これら複数種類の重合体の全体の重量平均分子量となる。
【0133】
<数平均分子量>
樹脂組成物の数平均分子量は、0.2万以上が好ましく、0.5万以上がより好ましく、1万以上がさらに好ましく、3万以上が特に好ましく、4万以上が最も好ましく、また40万以下が好ましく、30万以下がより好ましく、20万以下がさらに好ましく、10万以下が最も好ましい。樹脂組成物の数平均分子量をこのような範囲とすることで、樹脂組成物の成形加工性が向上する。樹脂組成物の数平均分子量は、樹脂組成物をゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の値を意味し、樹脂組成物が共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)を含有する場合は、樹脂組成物の数平均分子量は、これら複数種類の重合体の全体の数平均分子量となる。
【0134】
<メルトフローレート(MFR)>
本発明の樹脂組成物は、JIS K 7210 B法に準拠して、温度240℃、荷重10kgf(98N)で測定したメルトフローレートが10g/10分以上であることが好ましく、11g/10分以上であることがより好ましく、12g/10分以上がさらに好ましい。樹脂組成物がこのようなメルトフローレートを有していれば、樹脂組成物を加熱溶融した際の溶融粘度が低下し、成形加工性を高めることができる。また、成形加工に先立って樹脂組成物の溶融物をフィルタを通して異物を取り除く際などに、フィルタの圧損を低く抑えて、生産性を高めることができる。一方、溶融粘度が低すぎても、フィルム成形や延伸などの成形加工が困難となるおそれや、同一の機械で別の樹脂の成形加工をする場合に樹脂の置換性が悪くなる観点から、前記メルトフローレートは、40g/10分以下が好ましく、35g/10分以下がより好ましく、30g/10分以下がさらに好ましい。
【0135】
<クロロホルムに対する不溶分>
樹脂組成物はクロロホルムに対する不溶分が10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。この場合、樹脂組成物は含まれる異物の量が少ないものとなり、樹脂組成物からフィルムを形成する際に、表面凹凸や欠点が少なく、透明性の高いフィルムを容易に得ることができる。また、樹脂組成物から異物を取り除く際、異物除去用フィルタにかかる負荷が低減し、製造効率が向上する。樹脂組成物のクロロホルムに対する不溶分は、樹脂組成物1gをクロロホルム20gに加え、これを孔径0.5μmのテフロン(登録商標)製メンブレンフィルタで濾過し、メンブレンフィルタに捕集された不溶分の量を測定することにより求めることができる。
【0136】
6.本発明の樹脂組成物から形成されるフィルムの物性
本発明の樹脂組成物から形成されるフィルムの物性については以下のとおりである。
【0137】
本発明の樹脂組成物から形成されるフィルムは、波長589nmの光に対する厚み40μmあたりの面内位相差Reが30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。また、上記面内位相差Reは、400nm以下であることが好ましく、350nm以下であることがさらに好ましい。面内位相差Reが前記範囲であると、λ/2板やλ/4板など各種位相差フィルムに求められる十分な位相差を発現できる。
【0138】
本発明の樹脂組成物から形成されるフィルムは、波長589nmの光に対する厚み40μmあたりの厚さ方向位相差Rthは、負の値であり、上記厚さ方向位相差Rthの絶対値が200nm以下であることが好ましく、170nm以下であることがより好ましく、140nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。ポリマー鎖(A)に起因する厚さ方向位相差Rthは正の値であり、ポリマー鎖(B)に起因する厚さ方向位相差Rthは負の値であるが、ポリマー鎖(B)に起因する厚さ方向位相差Rthの絶対値をポリマー鎖(A)に起因する厚さ方向位相差Rthよりも大きい値とすることができ、ポリマー鎖(A)に起因する厚さ方向位相差Rthを完全に打ち消すことができ、負の位相差フィルムとすることができる。厚さ方向位相差Rthが前記範囲であると、優れた視野角補償性を発揮できる。
【0139】
<機械的強度>
本発明の樹脂組成物から形成されるフィルムは、フィルム長手方向と幅方向のJIS P 8115に基づくMIT試験による耐折回数のうち少ないほうの耐折回数が5回以上となることが好ましく、10回以上となることがより好ましく、100回以上となることがさらに好ましく、200回以上であることが特に好ましく、500回以上であることが最も好ましい。
本発明の樹脂組成物から形成されるフィルムは、フィルム長手方向と幅方向のJIS P 8115に基づくMIT試験による耐折回数のうち多いほうの耐折回数が250回以上となることが好ましく、700回以上となることがより好ましく、1000回以上であることがさらに好ましく、5000回以上となることが特に好ましく、10000回以上であることが最も好ましい。
【0140】
<厚み>
本発明の樹脂組成物から形成されるフィルムは、強度を高める点から、厚さが5μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。一方、フィルムの薄型化の観点から、厚さは350μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。フィルムの厚さは、例えば、ミツトヨ社製のデジマチックマイクロメーターを用いて測定することができる。
【0141】
<内部ヘイズ>
本発明の樹脂組成物から形成されるフィルムは、厚さ100μmあたりの内部ヘイズが5.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましく、2.0%以下がさらに好ましく、1.0%以下が特に好ましい。
【0142】
7.フィルムの成形方法
本発明の樹脂組成物は、公知の手法に従って成形することでフィルムにでき、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法等によりフィルムに成形することができる。これらの中でも、溶液キャスト法、溶融押出法が好ましい。その際、重合後ペレット化を経ずに、直接押出成形機等に供給してフィルム化を行ってもよい。
【0143】
溶液キャスト法を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーター等が挙げられる。
【0144】
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられる。溶融押出法によりフィルムを成形する場合は、延伸することにより延伸フィルムとしてもよい。延伸することで、フィルムの機械的強度をさらに向上させることができる。延伸フィルムを得るための延伸方法としては、従来公知の延伸方法が適用できる。例えば、自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;逐次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸等が挙げられるが、視野角補償性に優れた位相差フィルムとするためには、一軸延伸である(一軸延伸フィルムとする)ことが好ましく、自由端一軸延伸であることがより好ましい。未延伸フィルムをx軸方向に一軸延伸すると、所望の位相差を発現しつつ、視野角補償性に優れた位相差フィルムとすることができる。なお、延伸倍率、延伸温度、延伸速度等の延伸条件は、所望の機械的強度や位相差値に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0145】
延伸装置としては、例えば、ロール延伸機、テンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機等が挙げられ、これらいずれの装置を用いることができる。
【0146】
延伸フィルムを光学フィルムに適用する場合は、光学フィルムの光学特性および機械的特性を安定させるために、延伸後、必要に応じて熱処理(アニーリング)を施してもよい。
【0147】
8.光学フィルム
本発明の樹脂組成物は、透明性に優れることから、本発明の樹脂組成物からなるフィルムは光学フィルムとして好適に用いることができる。光学フィルムの用途は特に限定されないが、例えば、VAモードやIPSモードの液晶表示装置(LCD)をはじめ、各種モードのLCDの光学補償(色調補償、視野角補償)に使用できる。また、LCD以外にも、様々な画像表示装置、光学装置に好適に使用できる。
【0148】
上記光学フィルムは、偏光子の片面または両面に積層することで偏光子保護フィルムとしても使用できる。また表面に透明導電層を形成することで透明導電フィルムとしても使用できる。
【0149】
上記光学フィルム(例えば、位相差フィルム、偏光子保護フィルム、透明導電フィルム、光変換用フィルム)は、画像表示装置に好適に用いることができる。画像表示装置としては、例えば、液晶表示装置等が挙げられる。例えば液晶表示装置の場合、画像表示部が、液晶セル、偏光板、バックライト等の部材とともに、本発明の光学フィルムを有するように構成することができる。液晶表示装置以外の画像表示装置としては、例えば、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED)、QLED、マイクロLED等が挙げられる。
【実施例】
【0150】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下の説明では特に断らない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0151】
(1)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)
樹脂組成物の重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
-測定システム:東ソー社製、GPCシステムHLC-8220
-測定側カラム構成
ガードカラム:東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ-L
分離カラム:東ソー社製、TSKgel SuperHZM-M 2本直列接続
-リファレンス側カラム構成
リファレンスカラム:東ソー社製、TSKgel SuperH-RC
-展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業社製、特級)
-溶媒流量:0.6mL/分
-標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS-オリゴマーキット)
【0152】
(2)ガラス転移温度(Tg)
樹脂組成物のガラス転移温度は、JIS K 7121(2012)に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、サンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスにはα-アルミナを用いた。40℃未満のガラス転移温度は示差走査熱量計(ネッチ社製、DSC-3500)を用い、窒素ガス雰囲気下、サンプルを-100℃から60℃まで昇温(昇温速度10℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには空の容器を用いた。
【0153】
(3)モノマー転化率
モノマー転化率(反応率)は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC-2014)を用いて、重合反応液中の残存単量体量を測定することにより求めた。
【0154】
(4)応力光学係数Cr
樹脂組成物の応力光学係数Crは、測定波長を589nmとし、以下のようにして求めた。
【0155】
最初に、実施例で得られた樹脂組成物を250℃の熱プレスにより熱プレス成形して、当該重合体の未延伸フィルム(厚さ160μm)を得た。次に、作製した未延伸フィルムをサイズ20mm×60mmで切り出して、Cr評価用の試験片を得た。次に、試験片の一方の短辺に、延伸の際、当該試験片に1N/mm2以下の応力が加わる重量の錘を選択して取り付けた後、評価対象である重合体のTg+20℃に保持した定温乾燥機(アズワン製、DOV-450A)に収容し、1時間放置した。試験片を定温乾燥機に収容する際には、試験片の他方の短辺をチャックにより固定し、錘により試験片に加わった応力によって試験片がその長辺方向(鉛直方向)に自由端一軸延伸されるようにした。また、収容する際、試験片におけるチャック-錘間の距離を40mmとした。1時間の加熱延伸後、乾燥機のヒーターを切り、そのまま試験片を乾燥機内で自然に冷却した。オーブン内の温度が重合体のTg-40℃に達した時点で試験片(一軸延伸フィルム)を取り出し、取り出した試験片の厚さおよび波長589nmの光に対する面内位相差Reを測定して、当該試験片の面内複屈折Δnを算出した。これとは別に、錘の荷重によって延伸された後の試験片の断面積を求め、当該断面積と錘の荷重とから、フィルムに印加された応力σ(Pa)を計算した。錘の重量を変化させながら、それぞれの荷重についてΔnおよびσを求め、得られたσに対するΔnの傾きを最小二乗法により求めて、これを応力光学係数Cr(Pa-1)とした。面内位相差Reを測定する際の配向角が延伸方向(荷重印加方向)に対して0°近傍の場合、応力光学係数Crの符号は正となる。この場合、評価対象である重合体の配向複屈折は正である。一方、配向角が延伸方向に対して90°近傍の場合、応力光学係数Crの符号は負となる。この場合、評価対象である重合体の配向複屈折は負である。Crの絶対値が大きいほど、延伸による複屈折の発現性(位相差の発現性)が高い重合体である。
【0156】
(5)メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、メルトインデクサー(タカラ工業社製)を用いて、JIS K 7210(B法)に準拠して、温度240℃、荷重98N(10kgf)で測定した。
【0157】
(6)異物評価(濾過試験)
フィルタ濾過試験により樹脂組成物のゲル化評価を行った。異物評価は、実施例で得られた樹脂組成物をクロロホルムに溶解させ、0.1質量%クロロホルム溶液を作製し、これを、先端にフィルタ(GLサイエンス社製、クロマトディスク13N、孔径0.45μm)を取り付けたプラスチックシリンジを用いて濾過した。樹脂組成物のクロロホルム溶液を2mL全量濾過できれば○、途中でフィルタが詰まり、溶液が2mL濾過できなければ×と評価した。
【0158】
(7)フィルムの厚み
フィルムの厚みは、デジマチックマイクロメータ(ミツトヨ製)を用いて測定した。
【0159】
(8)厚さ40μm換算の位相差
実施例で作製した延伸フィルムの波長589nmの光に対する面内位相差Reおよび厚さ方向位相差Rthを、全自動複屈折計(王子計測機器社製「KOBRA-WR」)を用いて入射角40°の条件で測定した。具体的には、フィルムの面内における遅相軸方向の屈折率をnx、フィルムの面内における進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとして、下記式から面内位相差Reと厚さ方向位相差Rthをそれぞれ求めた。なお、下記の実施例では、フィルムの厚さdは40μmとして、面内位相差Re、厚さ方向の位相差Rthを求めた。
面内位相差Re=(nx-ny)×d
厚さ方向位相差Rth=[(nx+ny)/2-nz]×d
【0160】
(9)厚さ100μm換算の内部ヘイズ
石英セルに1,2,3,4-テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中に実施例で作製した未延伸フィルムを浸漬し、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-5000)を用いてヘイズを測定し、次式に従って厚さ100μmあたりの内部ヘイズを算出した:厚さ100μmあたりの内部ヘイズ(%)=得られた測定値(%)×(100μm/フィルムの厚さ(μm))。なお、測定は3枚のフィルムを用いて行い、その平均値から厚さ100μm換算の内部ヘイズを算出した。
【0161】
(10)MIT試験による耐折回数(MIT強度)
実施例で作製した延伸フィルムを90mm×15mmの大きさに切り出して試験片とし、MIT耐折度試験機(テスター産業社製、BE-201)を用いて、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で荷重200gfを加え、JIS P 8115(2001)に準拠してMIT耐折度試験回数を測定した。測定はフィルム延伸方向に折り曲げたときの耐折回数を5つのサンプルを用いて測定し、最大値と最小値を除いた3点の平均値をフィルム延伸方向に折り曲げたときの耐折回数とした。また、フィルム延伸方向に直交する方向(未延伸方向)に折り曲げたときの耐折回数もフィルム延伸方向に折り曲げたときの耐折回数と同様に算出した。
【0162】
<実施例1>
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応器に、SEBSトリブロック共重合体として旭化成社製タフテック(登録商標)P1083(オレフィン性二重結合量2.01mmol/g、スチレン単位含有量18.3質量%、屈折率1.500、重量平均分子量9.4万、数平均分子量6.4万)2.5部、旭化成社製タフテック(登録商標)H1517(オレフィン性二重結合量0.10mmol/g、スチレン単位含有量39質量%、屈折率1.523、重量平均分子量9.9万、数平均分子量7.5万)12.5部、メタクリル酸メチル(MMA)53.6部、n-ドデシルメルカプタン(nDM)0.03部、重合溶媒としてトルエン100部を仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させた。その後開始剤としてt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(化薬アクゾ社製、カヤカルボン(登録商標)Bic75)を0.05部加えるとともに、スチレン(St)21.2部と1部のトルエンに希釈した0.15部のt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートとを3時間かけて、10部のトルエンに溶解したN-シクロヘキシルマレイミド(CMI)10.2部を5時間かけて一定速度で滴下しながら105~110℃で溶液重合を行い、両方の滴下終了後さらに2時間熟成を行った。これにより、MMAとCMIとStから重合形成されたアクリル系共重合体と、当該共重合体鎖がSEBSトリブロック共重合体鎖のジエン/オレフィン由来の単位に結合したグラフト共重合体とを含む樹脂組成物が得られた。重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は92.1%、CMIの転化率は99.2%、Stの転化率は96.9%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:CMI:St=61.7:12.6:25.7であり、樹脂組成物中の環構造単位の含有率は10.7質量%であった。
次に得られた重合反応液を、リアベント数が1個、フォアベント数が2個のベントタイプスクリュー二軸押出機(孔径:15mm、L/D:45)内に樹脂換算で600g/hの処理速度で導入し、この押出機内で脱揮を行い、押し出すことにより、透明な樹脂組成物のペレットを得た。なお、二軸押出機の運転条件は、バレル温度260℃、回転数300rpm、減圧度13.3~400hPa(10~300mmHg)であった。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は14.7万、数平均分子量は6.6万、高温側のガラス転移温度は122℃、低温側のガラス転移温度は-62℃、MFRは22g/10分、屈折率は1.520であり、樹脂組成物中のスチレン単位含有量は27.1質量%、応力光学係数Crは-8.5×10-11Pa-1であった。そして、得られた樹脂組成物のゲル化評価を行ったところ、好適に濾過を行うことができた。
【0163】
<実施例2~5、比較例1、2>
SEBSトリブロック共重合体、メタクリル酸メチル(MMA)、N-シクロヘキシルマレイミド(CMI)、スチレン(St)の含有量を表1に記載の含有量とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製した。なお、実施例4ではCMIに代えて、N-フェニルマレイミド(PMI)を用いた。
【0164】
表1に記載のとおり、実施例2では、クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標)MD1537を用いており、MD1537は、オレフィン性二重結合量0.1mmol/g、スチレン単位含有量60質量%、屈折率1.54、重量平均分子量13.6万、数平均分子量10.6万である。実施例3では、クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標)A1536を用いており、A1536はオレフィン性二重結合量0.1mmol/g、スチレン単位含有量42質量%、屈折率1.52、重量平均分子量13.5万、数平均分子量10.1万である。実施例4では上述のタフテック(登録商標)P1083の他に2種類のSEBSトリブロック共重合体を用いており、H1051は、オレフィン性二重結合量0.38mmol/g、スチレン単位含有量39.9質量%、屈折率1.524、重量平均分子量25.5万、数平均分子量19.5万であり、H1043は、オレフィン性二重結合量0.3mmol/g、スチレン単位含有量65.6質量%、屈折率1.554、重量平均分子量14.1万、数平均分子量5.8万である。
【0165】
実施例2において、重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は90.5%、CMIの転化率は99.3%、Stの転化率は98.4%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:CMI:St=38.9:15.7:45.4であり、樹脂組成物中の環構造単位の含有率は11.8質量%であった。
【0166】
実施例3において、重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は92.0%、CMIの転化率は98.5%、Stの転化率は99.1%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:CMI:St=61.4:12.5:26.1であり、樹脂組成物中の環構造単位の含有率は10.6質量%であった。
【0167】
実施例4において、重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は91.1%、PMIの転化率は94.0%、Stの転化率は98.7%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:PMI:St=64.5:10.1:25.4であり、樹脂組成物中の環構造単位の含有率は8.6質量%であった。
【0168】
実施例5において、重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は90.1%、CMIの転化率は96.4%、Stの転化率は98.4%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:CMI:St=61.1:12.4:26.4であり、樹脂組成物中の環構造単位の含有率は9.3質量%であった。
【0169】
比較例1において、重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は94.0%、CMIの転化率は96.8%、Stの転化率は99.1%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:CMI:St=62.0:12.1:25.8であり、樹脂組成物中の環構造単位の含有率は12.1質量%であった。
【0170】
比較例2において、重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は93.6%、CMIの転化率は97.1%、Stの転化率は99.1%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:CMI:St=86.4:12.4:1.2であり、樹脂組成物中の環構造単位の含有率は12.4質量%であった。
【0171】
<実施例1-A>
実施例1で得られた樹脂組成物を250℃で熱プレス成形して、厚さ70μmの未延伸フィルムを作製した。得られた未延伸フィルムを100mm×110mmの大きさに切り出し試験片を作製した。恒温槽付オートグラフ(島津製作所社製、AG-X 1kN)を用い、チャック間距離を80mm、Tg+4℃の温度にて80mm/分の延伸速度で延伸倍率が2.5倍となるように試験片に対して自由端一軸延伸を行い、1分間のアニール後冷却することにより厚み40μmの延伸フィルムを得た。
【0172】
<実施例1-B~実施例5-C、比較例1-A~比較例2-B>
表1に記載の樹脂組成物を用いたこと、延伸倍率を表1に記載の倍率に変更し、実施例1-Aと同様にして、延伸フィルムを作製した。なお、延伸フィルムの膜厚が40μmとなるように未延伸フィルムの膜厚を調整した。
【0173】
実施例、比較例の結果を以下の表1で整理する。
【0174】