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  • 特許-皮膚抗酸化能の判定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】皮膚抗酸化能の判定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230307BHJP
   G01N 21/63 20060101ALI20230307BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
A61B5/00 M
G01N21/63 ZDM
G01N33/50 Q
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019117359
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021004750
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】我部 有
(72)【発明者】
【氏名】飛石 恵
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 大樹
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0350342(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0270055(US,A1)
【文献】特開2005-169124(JP,A)
【文献】HAGENS, R., et al.,Non-invasive monitoring of oxidative skin stress by ultraweak photon emission measurement. II: biological validation on ultraviolet A-stressed skin,Skin Research and Technology,2008年02月,Vol.14, No.1,pp.112-120,<DOI: 10.1111/j.1600-0846.2007.00207.x>
【文献】PRASAD, A., et al.,Ultraweak photon emission induced by visible light and ultraviolet A radiation via photoactivated skin chromophores: in vivo charge coupled device imaging,Journal of Biomedical Optics,2012年08月14日,Vol.17,No.8,085004,<DOI: 10.1117/1.JBO.17.8.085004>
【文献】OU-YANG,The application of ultra-weak photon emission in dermatology,Journal of Photochemistry and Photobiology B:Biology,2014年10月05日,Vol.139,pp.63-70,<DOI: 10.1016/j.jphotobiol.2013.10.003>
【文献】岩佐 琥偉,小林 正樹,ヒト体表におけるバイオフォトン発光と遅延発光の分光的比較,2017年<第64回>応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集] The 64th JSAP Spring Meeting, 2017 [Extended Abstracts],公益社団法人応用物理学会,2017年03月01日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
A61B 10/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の皮膚に、波長が285nm~1mmの電磁波を照射し、該照射後に検出されるバイオフォトンの量を測定する工程を含む被験者の皮膚抗酸化能の判定方法であって、バイオフォトンの減衰曲線からパラメーターを算出して皮膚抗酸化能を判定する、方法。
【請求項2】
バイオフォトンの発光強度によりバイオフォトンの減衰曲線を算出する請求項1記載の方法。
【請求項3】
バイオフォトンの減衰曲線が、下記式(1)で表される請求項1又は2記載の方法。
【数1】
〔式中、A:ROS初期濃度、k:脂質酸化一次生成物の生成速度定数、k:脂質酸化二次生成物の生成速度定数、k:他の酸化生成物の生成速度定数、を示す。〕
【請求項4】
式(1)から算出されるパラメーターが、k/(A*k)である請求項3記載の方法。
【請求項5】
被験者のバイオフォトン強度から算出されたk/(A*k)を基準値と比較することにより皮膚抗酸化能を評価する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
電磁波照射が、A波とB波の混合紫外線の照射である請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
皮膚抗酸化能が、光老化に対する防御能である請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフォトンを利用した皮膚抗酸化能の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光曝露により皮膚は様々なダメージを受けている。特に紫外線領域(290~400nm)の光は、皮膚に有害な作用を及ぼし、短期間の曝露により引き起こされる紅斑や色素沈着形成、さらには長期間の曝露で引き起こされる光老化や発癌などに深く関与していることが知られている(非特許文献1、2)。
【0003】
この紫外線による障害から皮膚を防御・改善する技術として、サンスクリーン剤などを塗布する方法がある。紫外線が遮断されると、皮膚初期応答に重要な照射直後に産生する活性酸素種(ROS)やROSとの反応により生成する生体酸化物の産生は抑制される。一方で、紫外線照射後のROSやROSとの反応により生成する生体酸化物を制御することで、紫外線障害から皮膚を制御する方法も示唆されている。抗酸化剤などの皮膚への塗布がそれに相当する。
【0004】
これまでの培養細胞系での検討において、ROS産生を引き金にし、細胞外マトリックスの分解(光老化)、炎症の惹起、アポトーシスの誘導など様々な生体反応を誘発することは古くから知られているものの(非特許文献3)、ヒト皮膚に代表されるin vivoでのROSの詳細な役割や、時間軸に沿っておこるその後の皮膚障害との関連性は未だ不明な点が多い。その理由として、非侵襲的にROSや酸化ストレス、皮膚抗酸化能を評価する手法がほとんどないことが挙げられる。
【0005】
ヒト皮膚の酸化ストレス、抗酸化能を評価する方法としては、生検皮膚を用いた方法が存在するが侵襲的であるために汎用されるには至っていない。角層テープストリッピングによる酸化タンパク質や抗酸化物質の評価は低侵襲的ではあるが、角層のみの評価に留まり、皮膚内部の状態を反映しているとは言い難い(非特許文献4、5)。
【0006】
非侵襲的な評価方法として、ラマン分光法による皮膚中カロテノイド測定の報告が存在するが、単一の抗酸化物質の評価であり、これもまた皮膚全体の応答を反映しているとは言い難い(非特許文献6)。
【0007】
そのような中、非侵襲的に生体の酸化状態を評価できる技術として、生体微弱発光(バイオフォトン)の検出技術が注目されている。バイオフォトンとは、生物が生命活動に伴って放射している極めて弱い自発的発光である。その由来として、一重項酸素や励起カルボニル化合物類が推察されており、生体の酸化反応に起因した発光と考えられている。バイオフォトンは、植物、微生物、動物など様々な生物で観測され、ヒト皮膚においては、特に紫外線A波(UVA)を照射した後のバイオフォトンが計測されており、皮膚色の違いにより発光強度が異なること(非特許文献7)、抗酸化クリーム塗布により発光が低減されることが報告されている(非特許文献8)。
【0008】
しかしこれらの報告は、UVA照射直後から数分間の積算値で評価しており、刻々と変化する酸化ストレス応答の詳細を経時的に評価していない。紫外線照射直後に検出されるバイオフォトンはROSの生成量を表すことが示唆されているが、その発光強度の大きさから、その後に起こる脂質過酸化反応由来のシグナルを検出することはバイオフォトンの積算値からは困難である。また前述のとおりバイオフォトンは皮膚色に影響を受けるため、異なるヒト間や部位間での皮膚酸化ストレス、抗酸化能を積算値から正確に評価することは難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Photodermatol. Photoimmunol. Photomed. 18, 75-81 (2002)
【文献】Toxicology 189, 21-39 (2003)
【文献】J. Invest. Dermatol. 126, 2565-75 (2006)
【文献】Skin Res. Technol. 13, 84-90 (2007)
【文献】J. Invest. Dermatol. 110, 756-61 (1998)
【文献】J. Invest. Dermatol. 115, 441-48 (2000)
【文献】Photodermatol. Photoimmunol. Photomed. 25, 65-70 (2009)
【文献】Skin Pharmacol. Physiol. 24, 300-4 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、バイオフォトンを利用して、被験者の皮膚抗酸化能を非侵襲的に判定する技術を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ヒト皮膚に紫外線等の特定波長範囲内にある電磁波を照射してから検出されるバイオフォトンの減衰曲線から、皮膚抗酸化能に関わるパラメーターを算出し、それを指標として皮膚抗酸化能を高精度に評価できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、被験者の皮膚に波長が285nm~1mmの電磁波を照射し、該照射後に検出されるバイオフォトンの量を測定する工程を含む被験者の皮膚抗酸化能の判定方法であって、バイオフォトンの減衰曲線からパラメーターを算出して皮膚抗酸化能を判定する、方法に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非侵襲的で簡便かつ早期に被験者の皮膚抗酸化能や光老化に対する防御能を判定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】バイオフォトンの減衰曲線。
図2】紫外線照射後のROS生成後の連鎖反応を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法において皮膚に照射する、波長が285nm~1mmの電磁波としては、例えば紫外線、可視光線、赤外線を含む電磁波が挙げられ、好適には紫外領域に波長を有する光線が挙げられ、具体的には波長が285~320nmのUV-B波、または320~400nmのUV-A波が挙げられる。本発明ではA波とB波の混合紫外線が好ましく、光の強度の割合(A波/B波)が6~20であるのが好ましく、7~15であるのがより好ましく、8~12であるのが更に好ましい。
【0016】
照射する電磁波の強度は特に限定されないが、例えば、好ましくは10mW/cm以上、より好ましくは20mW/cm以上、より好ましくは30mW/cm以上であり、且つ好ましくは200mW/cm以下、より好ましくは170mW/cm以下、より好ましくは150mW/cm以下である。また、好ましくは10~200mW/cm、より好ましくは20~170mW/cm、より好ましくは30~150mW/cmである。なお、本発明において電磁波の強度とは、例えばUV-B波とUV-A波を合わせた波長領域(285~400nm)の紫外線の強度を意味する。
電磁波の強度は、市販されている計測器を用いて計測することが可能であり、Solarmeter Model 5.0 (UVA+B)(Solartech Inc.)、多目的分光放射計 MSR-7000N(オプトリサーチ社)などが挙げられる。
【0017】
また、照射時間は、照射する電磁波の強度によって異なるが、例えば5~120秒間が挙げられ、好ましくは5~60秒間、更に好ましくは5~45秒間である。
【0018】
照射電磁波強度と照射時間により決定される照射量(照射エネルギー)としては、好ましくは300~7000mJ/cmであり、より好ましくは500~6000mJ/cm、さらに好ましくは600~5000mJ/cmである。
【0019】
電磁波を照射するための照射装置は、上述した波長範囲の光を発することが可能な光源を備えていれば特に限定されず、光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、ウッドランプ、蛍光検査灯等が挙げられ、好ましくはキセノンランプである。
斯かる光源に、必要に応じて、目的とする波長範囲の電磁波を選択的に透過させるフィルターを組み合わせることにより、照射波長が調節される。
【0020】
電磁波照射が行われる被験者の皮膚部位としては、例えば、上腕内側部、前腕外側部、前腕内側部、上腕外側部、頸部、背部等の皮膚が挙げられるが、電磁波照射やバイオフォトン測定が容易である点から、前腕外側部又は上腕内側部が好ましい。
電磁波照射が行われる面積としては、特に限定されないが、例えば1~13cmが挙げられ、好ましくは1~8cmである。
【0021】
バイオフォトンの測定は、例えば照射直後から10分間、好ましくは照射直後から5分間、より好ましくは照射直後から4分間が挙げられる。
【0022】
バイオフォトンの検出は、極微弱なバイオフォトンの光エネルギーを電気エネルギーに変換して検出することが可能な高感度で低ノイズの光電子増倍管や高感度CCD等の検出部を備えた光学検出装置によって行われる。光学検出装置としては、例えば、光電子増倍管(シングルフォトンカウンティング用)を備えた微弱発光強度検出装置(例えばCLA-IDFsk、東北電子産業社製)や超高感度冷却CCDカメラを備えた検出装置(例えばCLA-IMG、東北電子産業社製)を挙げることができる。本発明では、光電子増倍管を備えた微弱発光強度検出装置が好ましく用いられる。検出される放射光の波長は検出装置の光電子増倍管により異なるが、前記装置では300~850nmのバイオフォトンが検出される。また、バイオフォトンの測定は、測定環境に由来する光の影響を極力抑えるため、可能な限り遮光された空間で実施されるのが好ましく、例えば暗室にて実施される。
すなわち、暗室にて、前記の電磁波照射装置を用いて測定部位に電磁波を照射し、次に微弱発光強度検出装置により電磁波照射部位から発するバイオフォトンを測定するのが好ましい。また、電磁波照射装置における電磁波放射部と微弱発光強度検出装置における検出部は別々であっても良いが、電磁波照射とバイオフォトンの検出が装置を付け替えることなく行えるという観点から、電磁波放射部(具体的には電磁波照射装置から伸びている光照射用のファイバー)と検出部を一体とし、光路の切り替えによって使用する装置が替えられる構造となっていることが好ましい。
【0023】
電磁波照射により発生したバイオフォトンは、予め電磁波照射前の安静時の発光強度を測定しておき、続いて電磁波照射後の所定期間内における発光強度を測定し、その値から安静時発光強度を引いた値を発光増分として算出できる。
【0024】
皮膚に電磁波照射した場合に発生するバイオフォトンは、電磁波照射直後に最大の発光強度を示し、その後発光は経時的に減衰する。そこで、電磁波照射後に発生するバイオフォトン強度の測定データを時間に対してプロットし、それに対して以下の式(1)で示される減衰曲線をフィッティングさせることで(例えば図1)、4種類の係数(A、k、k、k)を算出できる。
【0025】
【数1】
【0026】
〔式中、A:ROS初期濃度、k:脂質酸化一次生成物の生成速度定数、k:脂質酸化二次生成物の生成速度定数、k:他の酸化生成物の生成速度定数、を示す。〕
【0027】
式(1)の導入は、紫外線照射による生体酸化反応について述べられた文献(H. Masaki. J. Dermatol. Sci. 58, 85-90 (2010))を参考に立案した。具体的には、紫外線を浴びると、初めに活性酸素種やラジカル種が生成され、続いて脂質やタンパク質等の生体分子の酸化が進行することから(図2参照)、初期に生成する活性酸素種をA、脂質ヒドロペルオキシドに代表される脂質酸化の一次生成物をB、Bから生成される脂質酸化二次生成物をC、Aから生成されるタンパク質等の酸化生成物をDとみなし(下記反応式参照)、これらの反応を一次の反応速度定数(それぞれk、k、k)で規定し、濃度式は以下の通り算出される。
【0028】
【化1】
【0029】
【数2】
【0030】
電磁波照射後のAとBの濃度をそれぞれA、A*k/(k+k-k)*e-k2tとし、バイオフォトン強度は反応過程で発光が生じるAとBの濃度に反映されると考えられることに基づき、A+Bの濃度式(式(1))をバイオフォトンの測定データにフィッティングさせる。
【0031】
そして、後述の実施例に示されるように、4種類の係数について部位差(上腕内側、前腕外側)及び年間平均光曝露時間に基づいて群分けした低曝露群と高曝露群との群間差を調べたところ、k/(A*k)が露光部で高く(表1)、高曝露群で高い傾向が認められ(表2)、上腕内側と前腕外側の両部位で、直近4週間の曝露時間との間に、統計学的有意な正相関が認められた(表3)。
/(A*k)値が高いことは、電磁波照射による生体酸化反応において、脂質酸化の一次生成物Bが生成しにくいこと、もしくは二次生成物Cへと変換されやすいこと、すなわち一次生成物Bが蓄積しにくい状態であることを意味する。一次生成物Bが蓄積しにくい状態とはBの質的変化を指し、反応性が高い物質の割合が相対的に増え、次の二次生成物Cへの酸化反応が進みやすい状態であることを意味し、すなわち抗酸化能の低下に関連している。
従って、該k/(A*k)値は、皮膚酸化ストレス消去応答、すなわち皮膚抗酸化能を判定するための指標として利用することが可能である。ここで、「皮膚抗酸化能」とは、皮膚における酸化ストレスからの防御能を指す。また、該k/(A*k)値は経皮水分蒸散量と正相関が認められ、皮膚バリア機能との関連性を示した。皮膚バリア機能の低下は紫外線感受性を高めることが報告されている(M. Mildner. J. Invest. Dermatol. 130, 2286-94 (2010))ことから、該k/(A*k)値は、光老化に対する防御能を判定するための指標にもなり得ると云える。ここで、「光老化」とは、慢性的な日光照射、特に紫外線への曝露によって皮膚の内的な老化プロセスが加速されて起こる皮膚の変化を意味する。
【0032】
具体的な判定方法としては、例えば、年齢若しくは年代毎、性別毎、インドア派/アウトドア派で、予め本発明における電磁波照射後に検出されるバイオフォトン強度を測定して、基礎データとして取得しておき、それらから算出されたk/(A*k)値の平均値と標準偏差から、被験者の年齢(年代)、性別、インドア派/アウトドア派における偏差値を計算して、これら各種数値に基づいて皮膚抗酸化能判定の基準値を適宜設定することができる。例えば平均値を基準値として設定した場合、被験者のバイオフォトン強度から算出されたk/(A*k)値が平均値より低い場合、皮膚抗酸化能が高いと判定することができる。
または、皮膚抗酸化能が高い、やや皮膚抗酸化能が高い、標準、やや皮膚抗酸化能が低い、皮膚抗酸化能が低い等の皮膚抗酸化能の評価指標に関し、それらと偏差値範囲を関係づける適当な判定基準を作成し、それに基づいて被験者の偏差値から紫外線に対する被験者の皮膚抗酸化能を判定することもできる。基準値の設定に偏差値を用いる場合、例えば偏差値40、45、55、60それぞれに相当するk/(A*k)の値を基準値に設定し、これら複数の基準値に基づく数値範囲と上記の皮膚抗酸化能の評価を関係づける判定基準を作成することができる。
【0033】
上記による皮膚抗酸化能の判定方法は、非常に短時間で判定可能で、被験者への負担も少ない。本発明の判定方法により得られた皮膚抗酸化能に関する情報は、紫外線に対する物理的な防御対策やサンスクリーン等の紫外線防御用皮膚外用剤の塗布による紫外線対策に、紫外線防御用皮膚外用剤の購入時における製品選択や紫外線防御用皮膚外用剤の推奨販売における製品推奨の指標として、役立てることができる。また、紫外線以外に近赤外線照射や大気汚染物質も光老化に関連することから、近赤外線防御剤や大気汚染物質の付着防止剤等の評価にも役立てることができる。
本発明の皮膚抗酸化能の判定方法は、所謂人間の身体の各器官の構造又は機能を計測する等して人体から各種の資料を収集するための方法に該当し、上記の目的で使用される。すなわち、医療目的で人間の病状や健康状態等の身体状態又は精神状態を判断するものではない。斯かる意味において、本発明の皮膚抗酸化能の判定方法は、皮膚抗酸化能の測定方法或いは皮膚抗酸化能の検査方法とも表記し得る。
【実施例
【0034】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
被験者及び光曝露歴による群分け
被験者は20歳代健常女性43名とし、次のように群分けした。被験者が、一定の年齢範囲において太陽光に曝露されていた標準的な時間を、生活習慣や屋外レジャー活動に関するアンケート調査に基づいて推定し、実年齢を考慮して累積光曝露時間を計算した。なお、アンケートの質問項目は米国がんセンター公開の光曝露歴に関する質問票をもとに作成した(Arch. Dermatol. 144, 217-22 (2008))。次いで、被験者の年間平均光曝露時間を求め、その時間の長さに基づき、ほぼ均等となるよう低曝露群と高曝露群の2群に切り分けた。
また、直近4週間の標準的な平日/休日に太陽光に曝露している時間から、直近4週間の太陽光曝露時間を被験者ごとに算出した。
【0036】
試験方法
被験者は、上腕内側及び前腕外側を市販のメイク落としと洗顔料を用いて洗浄し、環境可変室(室温21±1℃、湿度50%RH)にて20分間馴化後、経皮水分蒸散量を測定した。次いで暗室にてバイオフォトン量の測定を行った。
【0037】
経皮水分蒸散量測定方法
経皮水分蒸散量は、MPA580(Courage+Khazaka社製)のTEWAメータープローブを用いて測定した。
【0038】
光源
光源は300W型のキセノン光源(MAX-302、朝日分光)に、WG-320フィルター(厚さ1mm、渋谷光学)を取り付けて使用した(紫外線A波(UVA)/紫外線B波(UVB)比:10.8)。
【0039】
バイオフォトン量測定方法
微弱発光強度検出装置(CLA-IDFsk、東北電子産業)を用いて、暗室中にて測定を行った。被験者は、10分間の暗室順化後、安静座位にて装置の検出部アタッチメントと測定部位(上腕内側または前腕外側)とを密着させた。なお該検出部アタッチメントには光源からの光照射用ファイバーが繋がって一体となっており、光路を切り替えることで紫外線照射とバイオフォトン検出が替えられる構造となっている。紫外線照射前に、安静時の発光強度を2分間計測した。続いて、紫外線照射(47.6mW/cm、30秒間、照射面積1.8cm)を行い、直後からの発光強度を4分間計測した。データは0.1秒毎に取得した。
【0040】
微弱発光の減衰曲線解析
得られた測定データを以下の式に、誤差の二乗が最小となるようにエクセル(マイクロソフト社製)を用いてフィッティングさせることにより、4種類の係数(A、k、k、k)を算出した。図1に測定データとそれにフィッテイングさせた減衰曲線の一例を示した。
【0041】
【数3】
【0042】
〔式中、A:ROS初期濃度、k:脂質酸化一次生成物の生成速度定数、k:脂質酸化二次生成物の生成速度定数、k:他の酸化生成物の生成速度定数、を示す。〕
【0043】
光曝露と関連するパラメーターの探索
4種類の係数について部位差(上腕内側、前腕外側)及び低曝露群と高曝露群との群間差を調べたところ、Aは露光部である前腕外側で有意に低下していたが、群間での差は認められなかった。光曝露量が多い場合(夏季)に、皮膚の抗酸化酵素活性が低下することが報告されていることから(J. Invest. Dermatol. 120, 434-39 (2003))、光曝露に関連して変化するパラメーターを探索した。その結果、k/(A*k)は露光部で高く(表1)、高曝露群で高い傾向が認められ、光曝露に関連した指標であることが推察された(表2)。さらに直近4週間の曝露時間との相関係数(R)を算出したところ、直近4週間の曝露時間と統計学的有意な正相関が上腕内側(R=0.330)、前腕外側(R=0.329)の両部位に認められた(表3)。またk/(A*k)は、経皮水分蒸散量との統計学的有意な正相関が上腕内側に認められ(表4)、皮膚バリア機能との関連性が示された。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
図1
図2