(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂のための活性エステル硬化剤化合物、該化合物を含む難燃剤組成物、および該組成物からの製造品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20230307BHJP
C08G 63/133 20060101ALI20230307BHJP
C08G 63/692 20060101ALI20230307BHJP
C09K 21/14 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C08L67/02
C08G63/133
C08G63/692
C09K21/14
(21)【出願番号】P 2019528698
(86)(22)【出願日】2017-11-20
(86)【国際出願番号】 US2017062550
(87)【国際公開番号】W WO2018102177
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-10-29
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518168155
【氏名又は名称】アイシーエル‐アイピー・アメリカ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ICL‐IP AMERICA INC.
【住所又は居所原語表記】769 OLD SAW MILL RIVER ROAD, 4TH FLOOR, TARRYTOWN, NY 10591, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ピオトロウスキー,アンドリュー,エム
(72)【発明者】
【氏名】ジルバーマン,ジョーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,メン
(72)【発明者】
【氏名】グラズ,エラン
(72)【発明者】
【氏名】レヴチク,セルゲイ
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-094603(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0233524(US,A1)
【文献】特開2004-161805(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103304793(CN,A)
【文献】特開昭61-078832(JP,A)
【文献】特表2019-502011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
C08G 63/133
C08G 63/692
C09K 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
同時に難燃剤かつエポキシ樹脂のための硬化剤であり、重量平均分子量が1,000~20,000であ
り、固有粘度が0.02dl/g~0.25dl/gである式(I)のリン含有芳香族ポリエステルであって、該式(I)が、
【化1】
であり、
式中、Xは、必要に応じて置換されてもよい、6個~12個の炭素原子を含有する二価芳香族炭化水素基であり、;Yは、
【化2】
であり、
式中、Zは、共有結合、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-CH(CH
3)-および-CH
2-からなる群から選択され、a=0~2であり、b=0~2であり、かつ、aとbとは同時に0ではなく、
式中、Yの各構造の波線は、Yが前記一般式(I)において架橋するO原子に対する結合を示す;
R
1は、
【化3】
から選択され、
R
2は-C(=O)R
3であり、かつ
R
3は、炭素原子が1個~4個のアルキル基から選択され、nは1~40である、リン含有芳香族ポリエステルと、
(B)溶媒と、を含
む、組成物。
【請求項2】
前記溶媒(B)が、銅クラッド積層体調製において使用される溶媒である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
R
1が、
【化4】
であり、
かつ、Xが、炭素原子が6個までであるアルキル基またはアルコキシ基により必要に応じて置換される、炭素原子が6個~12個である二価芳香族炭化水素基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
Xが、炭素原子が6個までであるアルキル基またはアルコキシ基により必要に応じて置換される、炭素原子が6個~12個である二価芳香族炭化水素基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
R
1が、
【化5】
であ
る、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
nが1
~40である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
nが2
~40である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
nが2
~20である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
nが3
~20である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記溶媒(B)が、メチルエチルケトン、アセトン、1-メトキシ-2-プロパノール、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ
、プロピレングリコールメチルエーテルおよびその酢酸エステル、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
同時に難燃剤かつエポキシ樹脂のための硬化剤であり、重量平均分子量が1,000~20,000であ
り、固有粘度が0.02dl/g~0.25dl/gである下記式(I)のリン含有芳香族ポリエステルを含む難燃剤組成物であって、
【化6】
式中、Xは、必要に応じて置換されてもよい、6個~12個の炭素原子を含有する二価芳香族炭化水素基であり、;Yは、
【化7】
であり、
式中、Zは、共有結合、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-CH(CH
3)-および-CH
2-からなる群から選択され、a=0~2であり、b=0~2であり、かつ、aとbとは同時に0ではなく、
式中、Yの各構造の波線は、Yが前記一般式(I)において架橋するO原子に対する結合を示す;
R
1は、
【化8】
から選択され、
R
2は-C(=O)R
3であり、かつ
R
3は、炭素原子が1個~4個のアルキル基から選択され、
nは1~40であ
る、難燃剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤の分野に関するものであり、具体的には、エレクトロニクス用途(例えば、プリント回路基板など)のためのリン含有難燃剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂が、とりわけ、その化学的耐性、機械的強度および電気的特性のために、産業用電子機器および消費者用電子機器の両方で広範囲に使用されている。例えば、熱硬化性樹脂が、保護膜、接着性材料および/または絶縁性材料(例えば、層間絶縁膜など)として電子機器において使用され得る。これらの用途のために有用であるためには、前記熱硬化性樹脂は取り扱いを容易にし、かつ、ある特定の物理的特性、熱的特性、電気絶縁特性および耐湿性を有しなければならない。例えば、低い誘電正接を有し、一方で、十分に低い誘電率を維持する熱硬化性樹脂は、増大した信号速度および信号周波数を必要とする状況ではとりわけ、エレクトロニクス用途のための特性の望ましい組合せを有することができる。
【0003】
しかしながら、熱硬化性樹脂は可燃性であり得る。そのようなものとして、種々の取り組みが、所望のレベルの耐燃性を熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂など)に与えるために行われてきており、この場合、そのような取り組みでは、ハロゲン非含有難燃剤化合物またはハロゲン含有難燃剤化合物のどちらかを用いることが伴っている。しかしながら、ハロゲン化化合物は現在、さらなる監視を受けており、また、入手可能である前記様々な非ハロゲン化化合物は、許容され得る特性を提供するように配合することが困難である。エレクトロニクス用途のための特性の好適な組合せを依然として維持しながら、所望のレベルの難燃性および許容され得る特性(例えば、高いガラス転移温度(Tg)および大きい熱安定性など)を熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂など)に与えることが望ましいであろう。
【0004】
エレクトロニクス産業における難燃剤についての最大使用が、PWB(プリント配線基板)のためである。
【0005】
そのような基板は、ガラス布に樹脂および硬化剤の溶液を含浸させ、次いで乾燥工程を行い、続いて、初期硬化(B段階)、次いでプレス機におけるその最終硬化を行うことによって製造されることが最も多い。
【0006】
補強材をワニス溶液により均一にコーティングすることが、良好な特性を有する均一な積層体を得るために非常に重要である。前記補強材を非常に粘性のワニスによりコーティングすることは困難であるか、または不可能である。加えて、ワニス成分が、産業界によって一般に使用される溶媒(例えば、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、および他の一般に使用されている有機溶媒など)に溶解することが非常に重要である。外来の毒性溶媒(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)など)の使用はあまり望ましくなく、また、毒性が懸念されるために、近い将来には受け入れられなくなるかもしれない。
【0007】
そのため、PWB用途で使用される難燃剤がMEKまたは他の有機溶媒において十分なレベルで可溶性であること、そして、ワニスの粘度が許容限界内にあることが、決定的に重要である。
【0008】
場合によっては、不溶性の添加剤タイプの難燃剤を前記ワニスにおける懸濁物として使用することが可能である。
【0009】
しかしながら、添加剤タイプの難燃剤は、硬化した樹脂に対する負の影響(例えば、可塑剤として作用することによってTgを低下させることなど)を有してはならないので、この取り組みは限定的である。前記添加剤タイプの難燃剤はまた、はんだ付け温度よりも高い温度では、このプロセスの期間中における層間剥離を防止するために、固体のままでなければならない。このことは言い換えると、前記添加剤タイプの難燃剤は融点が290℃を超えることになる。加えて、固体の添加型難燃剤は、硬化したマトリックスに効果的に分散されるために、2ミクロン以下の非常に小さい粒子サイズにまで非常に均一に粉砕されなければならない。
【0010】
したがって、反応性かつ可溶性の難燃剤をPWB用のワニスにおいて使用することが、反応性の難燃剤は架橋プロセスの期間中に樹脂の一部となるので好ましい。ポリマーである難燃剤が、毒性が低く、かつ、環境への影響が最も小さいので、最も好ましい。しかしながら、残念なことに、ほとんどのポリマーは、限定的な溶解性をエポキシ積層体の調製において一般に使用される有機溶剤において有する。そのうえ、前記ポリマー溶液は一般に、ワニスの取り扱いを極めて困難にする高い粘度を有する。
【0011】
ポリマー型難燃剤のある使用が、特開昭61-136519号公報、特開昭61-055115号公報および特開昭61-078832号公報に記載されている。これらの日本国特許において報告されるポリマーは、DOPO-HQ(10-(2’,5’-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド)とイソフタル酸との間での重縮合を、1:0.8~1:1.2のモル比を使用して、触媒としてジメチルスズマレアートを用い、重縮合終了時には0.1torrに到達するが、真空中において280℃~340℃もの高い温度で行うことによって調製される。そのようにして得られる最終生成物は、重合度が40を超える高分子量ポリエステルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開昭61-136519号公報
【文献】特開昭61-055115号公報
【文献】特開昭61-078832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
下記の比較例1において示されるように、これらの日本国特許に記載されるそのようなポリマーは、メチルエチルケトン(MEK)、または、DMFを除いて多くの他の有機溶媒において可溶性ではない。しかしながら、前記高極性溶媒DMFについてさえ、そのようなポリマーの並外れて大きい粘度のために、低いポリマー濃度の溶液のみが効果的に調製され得るだけであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本明細書における本発明者らは予想外にも、MEK、およびエポキシ積層体の調製において一般に使用される他の有機溶媒における優れた溶解性を有するポリマー型の反応性難燃剤(A)(すなわち、本明細書中に記載される一般式(I)の難燃剤)を発見した。本発明の前記ポリマー型難燃剤の溶液は、ワニス調製のために要求される濃度における許容され得る粘度を有しており、例えば、Brookfield粘度計によってMEKにおける70wt%溶液について求められる場合、25℃において約200cP~約3,000cPの粘度、好ましくは約700cP~約2,000cPの粘度を有する。限定されない一例において、前記ポリマーは、DOPO-HQ(10-(2’,5’-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド)およびイソフタル酸から調製することができ、CAS登録番号105430-15-7を有する。日本国特許に記載される前記高分子量ポリマーは、エポキシ産業において一般に用いられる有機溶媒(例えば、MEKなど)において可溶性でなく、また、DMFにおけるそれらの低濃度溶液でさえ、ワニス調製のためには粘度が(3,000cP超と)高すぎる。
【0015】
驚くべきことに、本明細書における本発明者らは、DOPO-HQおよびイソフタル酸から製造される前記ポリマーの溶解性が、その分子量を重縮合期間中に厳密に制御することによって劇的に改善され得ることを見出している。
【0016】
有機溶媒において可溶性であるため、そのようなポリマー(一般式(I)のポリマー)は、これまで使用されている前記ポリマー型難燃剤からはるかに改善される。驚くべきことに、例えば、MEKにおいて可溶性である前記ポリマーは、1~約40の間の重合度に相当する約1,000~約20,000の重量平均分子量(Mw)を有することが見出された。好ましくは、本明細書中における式(I)の前記ポリマーのMwは約1,100~約15,000であり、最も好ましくは約1,200~約5,000である。分子量が約20,000を超える前記ポリマーは、熱硬化性樹脂を配合するために使用される一般的な溶媒(例えば、MEK)において可溶性ではない。重量平均分子量が1,000未満である前記ポリマーは、そのような低分子量ポリマーを使用するときにはガラス転移温度(Tg)が有意に低下している下記の実施例5~6において示されるように、劣った特性を硬化したエポキシ積層体においてもたらしている。
【0017】
したがって、難燃剤として、かつ、熱硬化性樹脂のための、例えば、エポキシ樹脂などのための活性エステル硬化剤として同時に機能し得る化合物を提供することが、本発明の特徴であり、なお、そのような硬化したエポキシ樹脂は、大きい耐熱性および熱安定性、大きい接着力、低い吸水度、低い誘電正接、ならびに同時に、十分に低い誘電率を与えながら、エレクトロニクス用途において用いることができる。多くのリン含有難燃剤は、高極性ヒドロキシル基の形成を伴ってエポキシ樹脂と反応することが知られている。このため、良好な電気的特性を硬化生成物において達成することが困難である。加えて、エポキシ樹脂のための前記公知の難燃剤のほとんどが単官能性または二官能性であり、したがって、これにより、硬化した樹脂の架橋密度が損なわれ、このことが最終的には、低下したガラス転移温度において反映される。
【0018】
本明細書中に記載される溶媒(B)は、熱硬化性配合物において、または、エポキシ積層体の製造において、例えば、プリント配線基板の製造などにおいて一般に使用される溶媒が可能であり、メチルエチルケトン、アセトン、1-メトキシ-2-プロパノール、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、トルエン、キシレン、プロピレングリコールメチルエーテルおよびその酢酸エステル、ならびにこれらの組合せからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態において、前記溶媒(B)はDMFを溶液の40重量%未満の少量成分として、より具体的には溶液の20重量%未満の少量成分として含むことができる。
【0019】
一実施形態において、本明細書中に記載される組成物は、約10重量パーセント~約80重量パーセント、より具体的には約20重量パーセント~約70重量パーセントの量で存在するポリマー(I)を含むことができ、前記溶媒(B)は、約20重量パーセント~約90重量パーセント、より具体的には約30重量パーセント~約80重量パーセントの量で存在することができる。
【0020】
本発明は、多官能性の硬化剤として使用され、これにより、非常に満足できる難燃性特徴、機械的特徴および電気的特徴の組合せを硬化生成物においてもたらすリン含有難燃剤を提供する。加えて、本発明のポリマーは、産業界で使用される一般的な溶媒(例えば、MEKなど)において可溶性である。これらの化合物は、重合度が1~約40であり、好ましくは約2~約20であるリン含有芳香族ポリエステルである。重合度が約40よりも大きいポリマーは、限定的な溶解性をエポキシ産業で一般に用いられる有機溶媒において有する。加えて、低濃度溶液でさえ、意図された使用のためには粘度が高すぎる。このことはすべて、そのような高分子量ポリマーをエポキシ積層体の製造のために使用することを著しく妨げている。
【0021】
本発明の前記ポリマー型難燃剤(すなわち、式(I)の化合物)が硬化剤として使用されるときには、硬化反応期間中における望ましくないヒドロキシル基の形成を軽減させることが可能である。加えて、本発明の前記硬化剤の使用では、これらの硬化剤が、分子あたり多くの反応性エステル基を有する多官能性の硬化剤として作用するので、エポキシ樹脂硬化品の架橋密度を増大させることができる。その使用の結果として、ガラス転移温度が高く(例えば、約170℃~約230℃)、当該材料は電気絶縁性材料として有用である。加えて、本発明の硬化剤は、ワニス溶液を使用して、補強材(例えば、ガラス繊維など)に容易に塗布することができる。
【0022】
本発明は本明細書においてさらに、優れた難燃性、機械的特性および電気的特性を示す、前記リン含有難燃性多官能性硬化剤化合物(すなわち、式(I)の化合物)を含有するエポキシ樹脂組成物を提供する。
【0023】
限定されない一実施形態において、表現「活性エステル硬化剤化合物」は、「エポキシ樹脂のための硬化剤」、「エポキシ硬化剤」、「エポキシのための硬化剤」、「エポキシ樹脂硬化剤」および「硬化剤」などと交換可能に使用され得ることが、本明細書中において理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本明細書中における一実施形態において、一般式(I):
【化1】
を有する化合物であって、重量平均分子量が1,000~20,000である化合物が提供され、上記式(I)において、Xは、6個~約12個の炭素原子を含有する二価芳香族炭化水素基であり、これには、芳香族環に結合する置換基(例えば、6個までの炭素原子を含有するアルキル基またはアルコキシル基など)を必要に応じて含んでもよいフェニレン基、ナフタレン基、ビフェニレン基などの限定されない例が含まれ、あるいはXは、炭素原子が1個~8個である二価の線状もしくは分岐型のアルキレン基、または、炭素原子が2個~約8個である二価の線状もしくは分岐型のアルケニレン基である;
Yは、
【化2】
であり、
式中、Zは、共有結合、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-CH(CH
3)-および-CH
2-からなる群から選択され、a=0~2であり、b=0~2であり、
かつ、aとbとは同時に0ではなく、
式中、Yの各構造の波線は、Yが前記一般式(I)において架橋するO原子に対する結合を示す;
R
1は、H、炭素原子が1個~約4個であるアルキル基、フェニル、ナフチル、
【化3】
であり、
R
2はHまたは-C(=O)R
3であり、かつ、R
3は、炭素原子が1個~4個のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ならびに、フェノール基、o-クレゾール基、m-クレゾール基、p-クレゾール基、α-ナフトール基およびβ-ナフトール基の1つから選択される芳香族フェノール基から選択され、ただし、R
2がHであるとき、R
1は、フェニルまたはナフチルであることができない;
nは1~約40である。
【0026】
本明細書中における限定されない一実施形態において、前記リン含有難燃性多官能性硬化剤は、前記一般式(I)の異なる構造体の混合物を含むことができ、例えば、前記混合物は、少なくとも50wt%の前記一般式(I)の構造体を含むことができ、好ましくは70wt%超の前記一般式(I)の構造体が、Yが上記の成分(i)および成分(ii)から選ばれるように存在し、前記一般式(I)の残る異なる構造体が、Yが上記の成分(iii)から選ばれるように存在する。
【0027】
本発明の前記リン含有芳香族ポリエステルの重量平均分子量Mwは1,000~約20,000の範囲内であることが好ましい。この分子量範囲について、MEKおよび他の好適な有機溶媒における溶解性が、ポリマー粒子のいかなる部分的な沈殿を伴うことなく良好である。加えて、この分子量範囲は、エポキシ積層体の調製のために好適であるMEK溶液の粘度を提供することができる。本発明の前記リン含有芳香族ポリエステルの固有粘度は好ましくは0.02dl/g以上かつ0.25dl/g以下であり、より好ましくは0.05dl/g以上かつ0.20dl/g以下である。低分子量すぎることから生じる過度に低い固有粘度は、硬化生成物の熱的特性における低下を引き起こすと考えられる。一方、過度に高い固有粘度は、大きい粘度のために、硬化生成物の不十分な流動性をもたらし、その成形性を低下させる。
【0028】
前記固有粘度がこの範囲内にある本発明の前記ポリマー型多官能性硬化剤はMEKにおいて70wt%まで溶解することができる。これらの70wt%溶液は、1ヶ月の期間にわたって固形物を何ら沈殿させることなく、室温において均質で、透明で、かつ、安定である。
【実施例】
【0029】
本発明の前記リン含有芳香族ポリエステルのMEKにおける溶解性を下記の手順によって評価した。50%および70%の濃度を有するMEKにおける前記ポリマーの混合物をスクリュー瓶において調製し、60℃で4時間の期間にわたって振とう機で保った。
【0030】
完全な溶解が達成されたとき、前記透明な混合物を室温にまで冷却し、1ヶ月の期間にわたって貯蔵した。この期間中、沈殿は全く認められなかった。前記ポリマーの固有粘度を、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)におけるポリマー溶液を25℃で使用することによって、20g/dLの濃度で、Cannon-Fenske粘度計により求めた。前記ポリマーの溶融粘度の測定を分析実施例1において記載した。
【0031】
本発明の前記ポリマー型多官能性硬化剤は、溶媒を何ら用いることなく200℃未満で融解し、軟化するため、熱加工の利点を有する。
【0032】
前記リン含有芳香族ポリエステルは一般には、多価フェノールおよび多価カルボン酸から調製される。本発明の前記リン含有芳香族ポリエステルはエステル交換反応によって調製される場合がある。エステル交換反応の一例として、前記芳香族ポリエステルが、多価フェノールを無水酢酸によってアセチル化し、続いて、当該アセチル化フェノールを多価カルボン酸により酸分解する工程によって得られるエステル交換反応が挙げられる。本発明の前記ポリマーを調製する別の方法が、前記多価酸のクロルアンヒドリド(chloranhydride)を多価アルコールと反応させ、続いて当該ヒドロキシル末端基をアセチル化することによる方法である。ポリエステルを製造するための他の一般的な方法が本発明の前記ポリマーの調製のために適用され得ることが、当業者によって理解されるであろう。
【0033】
本明細書中における限定されない一実施形態において、本明細書中に記載される前記一般式(I)の前記化合物の前記活性エステル硬化剤を製造する前記方法は、下記の一般的な反応機構を含み得る:
【化4】
式中、Ac=アセチル部分
【0034】
この反応は、どのような溶媒であれ、さらなる溶媒の使用を必要としない。無水酢酸が溶媒および試薬の両方である。無水酢酸は、DOPO-HQに対して1モル過剰~10モル過剰の間で使用され、最も好ましくは2モル過剰~5モル過剰で使用される。前記反応は、170℃~260℃で、最も好ましくは190℃~240℃で、1時間~16時間の期間にわたって、最も好ましくは5時間~8時間の期間にわたって実施される。
【0035】
GPC-装置および操作条件
ポンプ送液システム:HPモデル1100
検出器: RI:Knauer 2300/2400
UV:HPモデル1100
カラム: PLgel、Agilent、300*8.0mm、50A+100A+
500A(PLgel 300*7.5)+1000A
カラム温度: 60℃
溶媒: 調製実施例1についてはTHF、調製実施例2~4および比較例1についてはDMF
流速: 0.8ml/分
注入量: 30μl
【0036】
調製実施例1
機械式撹拌機、温度計および窒素導入口を備える1Lの四つ口フラスコに、DOPO-HQ(293.9g、0.9mol)および無水酢酸(367.2g、3.6mol)を仕込んだ。最初のスラリーが140℃で30分後に透明になり、当該溶液を、さらに2時間、さらに加熱還流した。その後、イソフタル酸(100g、0.6mol)および0.04gの酢酸カリウムを加え、反応混合物を220℃に加熱した。この時点で、真空を適用して、過剰な無水酢酸と、形成された酢酸との両方を反応域からより効率的に除き、このようにして重縮合を促進させた。温度を230℃に上げた。この期間中、真空が30mbarであった。得られた非常に粘性の液状生成物をアルミニウムプレートの上に注いだ。定量的収率で得られた最終的な固体生成物は色が明褐色であり、4%のDOPO-HQモノアセタートおよびDOPO-HQアセタートイソフタラート、10%の未反応DOPO-HQジアセタート、ならびに86%のオリゴマーを含有した(HPLC面積%)。前記生成物におけるリン含有量が6.8%であった。THFにおけるGPC分析は1250g/molの重量平均Mwおよび750g/molの数平均Mnを示した(
図1)。DMFにおける前記生成物の固有粘度が0.17dL/gであった。前記生成物はMEKにおける優れた溶解性を有した。70%までのそのようにして調製された前記ポリマー状DOPO-HQイソフタラートが55℃でMEKに溶解して、透明な溶液を与えた。沈殿が、室温にまで冷却したとき、1ヶ月の期間にわたって全く認められなかった。
【0037】
調製実施例2
機械式撹拌機、温度計および窒素導入口を備える0.25Lの四つ口フラスコに、DOPO(21.6g、0.1mol)、ベンゾキノン(10.3g、0.095mol)および酢酸(50ml)を仕込んだ。前記フラスコを加熱して、還流させ、その温度で3時間維持して、前記溶媒におけるDOPO-HQのスラリーを得た。次に、無水酢酸(30.6g、0.3mol)を導入し、続いて140℃にまで加熱した。前記酢酸の一部を前記加熱期間中に留去した。最初のスラリーが140℃で30分後に透明になり、当該溶液を、さらに2時間、さらに加熱還流した。その後、イソフタル酸(10g、0.06mol)および0.01gの酢酸カリウムを加え、反応混合物を220℃に加熱した。この時点で、30mbarの真空を適用して、過剰な無水酢酸と、形成された酢酸との両方を反応域からより効率的に除いた。得られた非常に粘性の液状生成物をアルミニウムプレートの上に注いだ。定量的収率で得られた最終的な固体生成物は色が褐色であり、3%のDOPO-HQモノアセタートおよびDOPO-HQアセタートイソフタラート、6%の未反応DOPO-HQジアセタート、ならびに91%のオリゴマーを含有した(HPLC面積%)。前記生成物におけるリン含有量が6.7%であった。DMFにおける前記生成物のGPC分析は12760g/molのMwおよび5207g/molのMnを示した(
図2)。前記生成物はMEKにおける優れた溶解性を有した。70%までのそのようにして調製された前記ポリマー状DOPO-HQイソフタラートが55℃でMEKに溶解して、透明な溶液を与えた。沈殿が、室温にまで冷却したとき、1ヶ月の期間にわたって全く認められなかった。
【0038】
調製実施例3
機械式撹拌機、温度計および窒素導入口を備える0.25Lの四つ口フラスコに、DOPO-HQジアセタート(122g、0.3mol)を仕込み、170℃に加熱して、完全に融解させた。イソフタル酸(33g、0.2mol)および0.2gの酢酸カリウムを加え、反応混合物を、真空を伴うことなく280℃で2時間加熱し、そして30mbarの真空とともに1時間加熱した。その期間中、形成された酢酸を除き、このようにして重縮合を促進させた。
得られた非常に粘性の液状生成物をアルミニウムプレートの上に注いだ。定量的収率で得られた最終的な固体生成物は色が褐色であり、4%のDOPO-HQモノアセタートおよびDOPO-HQアセタートイソフタラート、5%の未反応DOPO-HQジアセタート、ならびに91%のオリゴマーを含有した(HPLC面積%)。DMFにおける前記生成物のGPC分析は14201g/molのMwおよび5028g/molのMnを示した(
図3)。前記生成物はMEKにおける優れた溶解性を有した。60%までのそのようにして調製された前記ポリマー状DOPO-HQイソフタラートが55℃でMEKに溶解して、透明な溶液を与えた。沈殿が、室温にまで冷却したとき、1ヶ月の期間にわたって全く認められなかった。
【0039】
調製実施例4
機械式撹拌機、温度計および窒素導入口を備える0.25Lの四つ口フラスコに、DOPO-HQジアセタート(49g、0.12mol)を仕込み、170℃に加熱して、完全に融解させた。イソフタル酸(19.2g、0.116mol)および0.1gの酢酸カリウムを加え、反応混合物を、真空を伴うことなく230℃で1時間加熱し、そして30mbarの真空とともに1時間加熱した。この期間中、形成された酢酸を除いた。得られた非常に粘性の液状生成物をアルミニウムプレートの上に注いだ。定量的収率で得られた最終的な固体生成物は色が明褐色であり、9%のDOPO-HQモノアセタートおよびDOPO-HQアセタートイソフタラート、3.7%の未反応DOPO-HQジアセタート、ならびに87.3%のオリゴマーを含有した(HPLC面積%)。DMFにおける前記生成物のGPC分析は19880g/molのMwおよび6700g/molのMnを示した。60%までのそのようにして調製された前記ポリマー状DOPO-HQイソフタラートが55℃でMEKに溶解して、透明な溶液を与えた。
【0040】
比較例1
機械式撹拌機、温度計および窒素導入口を備える0.25Lの四つ口フラスコに、DOPO-HQジアセタート(106g、0.26mol)を仕込み、170℃に加熱して、完全に融解させた。イソフタル酸(43g、0.26mol)および0.3gの酢酸カリウムを加え、反応混合物を、真空を伴うことなく2時間、そして30mbarの真空とともに1時間、280℃で加熱した。反応が継続するにつれ、前記混合物はより粘性になった。反応の全期間中、形成された酢酸を反応域から留去して、重縮合を促進させた。得られた非常に粘性の高温の液状生成物を、前記フラスコにおける固化を回避するためにアルミニウムプレートの上に速やかに注いだ。最終的な固体の明褐色生成物が定量的収率で得られた。前記生成物は、2.8%のDOPO-HQモノアセタートおよびDOPO-HQアセタートイソフタラート、2.2%の未反応DOPO-HQジアセタート、ならびに95%の高分子量オリゴマーを含有した(HPLC面積%)。前記生成物におけるリン含有量が5.4%であった。DMFにおけるGPC分析は32610g/molのMwおよび13360g/molのMnを示した(
図4)。前記生成物は3時間の期間にわたって60℃でMEKに溶解しなかった。DMFにおける前記生成物の固有粘度が0.32dL/gであった。
【0041】
分析例1
SSスピンドル#31を備えるBrookfield DV-II+Pro粘度計を使用して、ポリマー状DOPO-HQイソフタラートの溶融粘度を測定した。約15グラムのポリマー状DOPO-HQイソフタラートを使い捨て型チャンバーにおいて融解させ、測定温度で平衡化させた。粘度読み取りを200℃から225℃まで行った。速度を、10%を超えるトルクを得るために2RPM~30RPMの間で保った。MEKにおいて可溶性であるポリマー状DOPO-HQイソフタラート(例えば、調製実施例1~4から製造されるサンプルなど)は、溶融粘度が200℃において25000cP~625000cPである。MEKにおいて不溶性であるポリマー状DOPO-HQイソフタラート(例えば、比較例1から製造されるサンプルなど)は、軟化点が200℃を超えており、その溶融粘度が測定されない。
【0042】
積層体実施例5~6
実施例1で合成される前記ポリエステルと、低分子量のDOPO-HQジアセタートとを、エポキシ積層体用途のための共硬化剤として詳しく調べた。フェノールノボラックと一緒での上記化合物を使用して、多官能性エポキシ樹脂のDEN438およびEPON164を硬化させた。材料情報のすべてが表1に列挙される。固体含有量を、MEK/Dowanol(80/20)の溶媒混合物を加えることにより66.67%で維持した。2.4%~2.7%のリン含有量を有するワニス配合物をそれらから調製した。組成物の内容が表2に示される。
【0043】
【0044】
【0045】