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特許7239490アクリル系ブロック共重合体及びそれを含む防曇膜
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  • 特許-アクリル系ブロック共重合体及びそれを含む防曇膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】アクリル系ブロック共重合体及びそれを含む防曇膜
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20230307BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C08F293/00
C09K3/18 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019561698
(86)(22)【出願日】2018-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2018047493
(87)【国際公開番号】W WO2019131597
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2017251591
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】西井 健太郎
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-525903(JP,A)
【文献】特開2012-236992(JP,A)
【文献】特開2017-203164(JP,A)
【文献】特開2017-125167(JP,A)
【文献】特開2017-154128(JP,A)
【文献】特開2014-047298(JP,A)
【文献】特表2011-507670(JP,A)
【文献】特開2017-008217(JP,A)
【文献】特表2006-500433(JP,A)
【文献】特開2009-175547(JP,A)
【文献】特開2017-179276(JP,A)
【文献】特開2006-083232(JP,A)
【文献】特開2017-177102(JP,A)
【文献】特開2004-203917(JP,A)
【文献】特開2015-010118(JP,A)
【文献】国際公開第2011/037254(WO,A1)
【文献】特開2018-145243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F251/00-283/00, 283/02-389/00, 291/00-297/08
C09K3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ブロック及び疎水性ブロックの繰り返しからなるブロック共重合体を含む防曇膜形成用樹脂組成物であって、
(1)疎水性ブロックを構成するモノマーの溶解度パラメータが10[cal/cm1/2未満であり、親水性ブロックを構成するモノマーの溶解度パラメータが10[cal/cm1/2以上であり、
(2)前記疎水性ブロックがガラス転移点50℃以下のアクリル系ポリマーであり、
(3)前記親水性ブロックがアクリルアミド系ポリマーであって、当該アクリルアミド系ポリマーが、下記一般式A:
【化3】
(但し、R、R及びRは、互いに同じ又は異なって、水素原子又は炭素数5以下のアルキル基を示す。)で表されるアクリルアミド系モノマーの重合体であり、
(4)親水性ブロック及び疎水性ブロックの比率が両者の合計100モル%基準で20:80~80:20であり、
(5)当該親水性ブロックによる親水部及び当該疎水性ブロックによる疎水部を含み、親水部と疎水部が交互に配置された交互ラメラ構造を有する防曇膜を形成するために用いられる、
ことを特徴とする防曇膜形成用樹脂組成物。
【請求項2】
有機溶媒を含み、かつ、性状が液状である、請求項1に記載の防曇膜形成用樹脂組成物。
【請求項3】
親水性ブロック及び疎水性ブロックの繰り返しからなるブロック共重合体を含む防曇膜であって、
(1)前記ブロック共重合体は、
(1-1)疎水性ブロックを構成するモノマーの溶解度パラメータが10[cal/cm1/2未満であり、親水性ブロックを構成するモノマーの溶解度パラメータが10[cal/cm1/2以上であり、
(1-2)前記疎水性ブロックがガラス転移点50℃以下のアクリル系ポリマーであり、
(1-3)前記親水性ブロックがアクリルアミド系ポリマーであって、当該アクリルアミド系ポリマーが、下記一般式A:
【化4】
(但し、R、R及びRは、互いに同じ又は異なって、水素原子又は炭素数5以下のアルキル基を示す。)で表されるアクリルアミド系モノマーの重合体であり、
(1-4)親水性ブロック及び疎水性ブロックの比率が両者の合計100モル%基準で20:80~80:20であるアクリル系ブロック共重合体であって、
(2)当該親水性ブロックによる親水部及び当該疎水性ブロックによる疎水部を含み、親水部と疎水部が交互に配置された交互ラメラ構造を有する防曇膜。
【請求項4】
請求項3に記載の防曇膜が物品の表面に形成されてなる防曇製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系ブロック共重合体及びそれを含む防曇膜に関する。
【背景技術】
【0002】
防曇膜(曇り防止膜)は、例えばa)建築構造物、自動車等の窓ガラス、b)浴室・洗面化粧台の鏡面、c)眼鏡、ゴーグル、フェイスマスク等のレンズ又はレンズカバー、d)各種照明、前照灯等の照明カバー、e)ディスプレー装置、モニター類等のカバー、f)保冷ショーケース等のガラス面又は透明樹脂面等のように、結露による曇り(光の乱反射)が生じ得る部位・部材に用いられている。
【0003】
防曇の原理としては、例えば1)表面の濡れを改質する方法、2)吸水作用による方法、3)撥水作用による方法、4)温度制御による方法等が知られている。この中でも、上記2)の吸水による方法は、防曇効果の持続性が高いという点で他の方法に比べて優れている。
吸水による方法では、基材表面上に親水性高分子膜をコーティングすることによって、当該膜表面で水分を吸収できる結果、その表面で水滴の形成を抑制することができる。その結果、持続的な防曇効果を発揮することができる。
【0004】
このような吸水タイプの防曇膜としては、これまで種々の高分子材料を用いたものが開発されている。例えば、物品と、前記物品上に形成された有機物及び無機酸化物を含む有機無機複合防曇膜と、を備え、前記有機物が吸水性樹脂を含み、前記無機酸化物がシリカを含み、前記有機無機複合防曇膜が前記吸水性樹脂を主成分とし、前記有機無機複合防曇膜が紫外線吸収剤及び/又は赤外線吸収剤をさらに含む、防曇膜つき物品が知られている(特許文献1)。
【0005】
また例えば、基体と、該基体表面に配設された架橋樹脂を含有する吸水層と、を有する防曇性物品であって、前記吸水層が金属酸化物微粒子を20~60質量%の割合で含有し、曇価が1%以下であることを特徴とする防曇性物品がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-108523
【文献】特開2014-148042
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の防曇膜は、初期性能としては所定の防曇性を発揮できるものの、経時的に防曇性が低下しやすいという問題がある。特に、吸水タイプの防曇膜は、親水性成分で構成されているところ、その親水性成分が防曇膜から離脱して性能低下を引き起こす。すなわち、親水性成分が防曇膜から脱落すると吸水性が低下し、防曇性を持続させることが困難となる。
【0008】
従って、本発明の主な目的は、優れた防曇性を持続的に発揮できる防曇膜及びそれを形成するためのアクリル系ブロック共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成からなる組成物を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記のアクリル系ブロック共重合体及びそれを含む防曇膜に係る。
1. 親水性ブロック及び疎水性ブロックの繰り返しからなるブロック共重合体であって

(1)疎水性ブロックを構成するモノマーの溶解度パラメータが10[cal/cm 1/2 未満であり、親水性ブロックを構成するモノマーの溶解度パラメータが10[cal/cm 1/2 以上であり、
(2)前記疎水性ブロックがガラス転移点50℃以下のアクリル系ポリマーである、
ことを特徴とするアクリル系ブロック共重合体。
2. 親水性ブロックがアクリルアミド系ポリマーである、前記項1に記載のアクリル系ブロック共重合体。
3. アクリルアミド系ポリマーが、下記一般式A:
【化1】
(但し、R、R及びRは、互いに同じ又は異なって、水素原子又は炭素数5以下のアルキル基を示す。)で表されるアクリルアミド系モノマーの重合体である、前記項2に記載のアクリル系ブロック共重合体。
4. 親水性ブロック及び疎水性ブロックの比率が両者の合計100モル%基準で20:80~80:20である、前記項1に記載のアクリル系ブロック共重合体。
5. 前記項1~4のいずれかに記載のアクリル系ブロック共重合体を含む防曇膜形成用樹脂組成物。
6. 有機溶媒を含み、かつ、性状が液状である、前記項5に記載の防曇膜形成用樹脂組成物。
7. 前記項1~4のいずれかに記載のアクリル系ブロック共重合体を含む防曇膜。
8. 親水性ブロックによる親水部及び疎水性ブロックによる疎水部を含む、請求項7に記載の防曇膜。
9. 前記項7又は8に記載の防曇膜が物品の表面に形成されてなる防曇製品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた防曇性を持続的に発揮できる防曇膜及びそれを形成するためのアクリル系ブロック共重合体を提供することができる。
【0012】
特に、本発明のアクリル系ブロック共重合体では、特定の疎水性ブロックと親水性ブロックが含まれているので、親水性ブロックによる親水部及び疎水性ブロックによる疎水部を含む防曇膜を好適に形成することができる。その結果として、本発明による防曇膜は、優れた吸水性を持続的に発揮することができる。その作用機序は定かではないが、特に親水部において優れた吸水性を発揮するので防曇膜表面の微細水滴を迅速に吸収するとともに、疎水部が親水部を支持する機能を有するので親水部が吸水により防曇膜から脱落することを効果的に抑制ないしは防止しているためと考えられる。
【0013】
このような特徴をもつ本発明のアクリル系ブロック共重合体及び防曇膜は、防曇性を要求される各種製品に好適に用いることができる。例えばa)建築構造物、自動車等の窓ガラス、b)浴室・洗面化粧台の鏡面、c)眼鏡、ゴーグル、フェイスマスク等のレンズ又はレンズカバー、d)各種照明、前照灯等の照明カバー、e)ディスプレー装置、モニター類等のカバー、f)保冷ショーケース等のガラス面又は透明樹脂面等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1における透過型電子顕微鏡の測定結果(倍率120000倍、明部:CHA、暗部:DMAA)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.アクリル系ブロック共重合体
本発明のアクリル系ブロック共重合体(本発明共重合体)は、親水性ブロック及び疎水性ブロックの繰り返しからなるブロック共重合体であって、
(1)疎水性ブロックを構成するモノマーの溶解度パラメータが10[cal/cm 1/2 未満であり、親水性ブロックを構成するモノマーの溶解度パラメータが10[cal/cm 1/2 以上であり、
(2)前記疎水性ブロックがガラス転移点50℃以下のアクリル系ポリマーである、
ことを特徴とする。
【0016】
なお、本発明では、以下において、特にことわりのない限り、アクリレート又はメタクリレートを「(メタ)アクリレート」と総称し、アクリル酸又はメタクリル酸を「(メタ)アクリル酸」と総称する。
【0017】
疎水性ブロック(ポリマー)を構成するモノマーは、溶解度パラメータ(以下「SP値」ともいう。)が10[cal/cm 1/2 未満であり、好ましくは9.8[cal/cm 1/2 以下であり、より好ましくは9.5[cal/cm 1/2 以下である。SP値の下限値は、限定的ではないが、通常は7[cal/cm 1/2 程度とすれば良い。
【0018】
本発明におけるSP値は、文献値又は実測値のいずれであっても良いが、両者が有意に異なる場合は実測値を採用することが望ましい。実測値は、公知の方法に従って実施することができる。例えば、試料(通常はポリマー)を20種類の溶媒(アセトン、メチルシクロヘキサン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、メタキシレンヘキサフルオライド、HFE-7100(ハイドロフルオロエーテル)、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコール、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、2-プロパノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、トルエン、ジヨードメタン、アセトフェノン、ベンズアルデヒド、酢酸、2-エチルヘキサノール、炭酸プロピレン、エタノール)に溶解するか否かの溶解性試験を実施し、試料を溶解させることができた溶媒のSP値からSP球(ハンセンの溶解球)を構成し、それに基づいてハンセン(Hansen)のSP値を(必要に応じて単位変換することによって)算出することができる。そのポリマーを構成するモノマーのSP値は、市販の計算ソフトにより求めることができる。
【0019】
このようなポリマーとしては、好ましくはアクリル系ポリマー(但し、アクリルアミド系ポリマーを除く。)を例示することができる。従って、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等をモノマーとするアクリル系ポリマー(特にホモポリマー)を好適に用いることができる。すなわち、本発明では、これらのモノマーの中から選ばれた1種のモノマーから疎水性ブロックが構成されていることが望ましい。
【0020】
また、疎水性ブロックとしてのアクリル系ポリマーは、そのガラス転移点(Tg)が50℃以下であることが好ましく、特に30℃以下であることがより好ましく、その中でも20℃以下であることが最も好ましい。これにより、よりいっそう高い吸水性を得ることができる。ガラス転移点の下限値は、特に制限されないが、一般的には-70℃程度(特に-65℃程度)とすれば良い。本発明において「疎水性ブロックとしてのアクリル系ポリマー」とは、その疎水性ブロックを構成するモノマーによってホモポリマーを形成したと想定した場合の当該ホモポリマーをいう。従って、本発明におけるガラス転移点は、当該ホモポリマーのガラス転移点(文献値)をいう。このため、例えば疎水性ブロックがシクロヘキシルアクリレートをモノマー単位として構成されている場合、その疎水性ブロックのガラス転移点は、シクロヘキシルアクリレートのホモポリマーのガラス転移点である15℃ということになる。なお、一般に、ホモポリマーのガラス転移点は、それを構成するモノマーのガラス転移点として表記されている。
【0021】
親水性ブロック(ポリマー)を構成するモノマーは、溶解度パラメータが10[cal/cm 1/2 以上であり、好ましくは10.2[cal/cm 1/2 以上であり、より好ましくは10.4[cal/cm 1/2 以上である。なお、SP値の上限値は、限定的ではないが、通常は13[cal/cm 1/2 程度とすれば良い。
【0022】
このようなポリマーとしては、例えばアクリルアミド系ポリマーを好適に用いることができる。従って、例えば下記一般式A:
【化2】
(但し、R、R及びRは、互いに同じ又は異なって、水素原子又は炭素数5以下のアルキル基を示す。)で表されるアクリルアミド系モノマーの重合体を好適に用いることができる。
【0023】
この中でも、R、R及びRは、互いに同じ又は異なって、水素原子又は炭素数2以下のアルキル基であるモノマーが好ましい。特に、Rは水素原子又はメチル基、R及びRは、互いに同じでメチル基又はエチル基であるモノマーがより好ましい。従って、例えばN,N-ジメチルアクリルアミド又はN,N-ジエチルアクリルアミドを親水性ブロックのポリマーを構成するモノマーとして好適に用いることができる。親水性ブロックにおいても、これらのモノマーの中から選ばれた1種のモノマーから構成されていることが望ましい。
【0024】
疎水性ブロック及び親水性ブロックの比率は、所望の防曇性等に応じて適宜設定することができる。例えば、疎水性ブロックを構成するモノマーと親水性ブロックを構成するモノマーの比率が、両者の合計100モル%基準で20:80~80:20となるように設定することが望ましく、さらに40:60~60:40となるように設定することがより望ましい。これにより、本発明のブロック共重合体において、親水性ブロックによる親水部及び疎水性ブロックによる疎水部を比較的均等に配列できる結果、いっそう優れた防曇性をより確実に持続させることが可能となる。
【0025】
また、本発明のブロック共重合では、反応性基をもたせることにより、例えば熱硬化、光硬化等の機能を付与することができる。反応性基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ホルミル基、カルボニル基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。これは、原料として、反応性基を有するモノマーを用いることによって製造することができる。
【0026】
反応性基は、疎水性ブロックを構成するモノマーとして導入しても良いし、あるいは親水性ブロックを構成するモノマーとして導入しても良い。この場合、疎水性ブロック又は親水性ブロックは、反応性基を有するモノマーの1種をモノマーユニットとするホモポリマーから構成されていることが望ましい。
【0027】
ただし、疎水性ブロックを構成するモノマーとして反応性基を導入する場合は、そのモノマーのSP値が10[cal/cm 1/2 未満であり、好ましくは9.8[cal/cm 1/2 以下であり、より好ましくは9.5[cal/cm 1/2 以下とする。SP値の下限値は、限定的ではないが、通常は7[cal/cm 1/2 程度とすれば良い。

【0028】
他方、親水性ブロックを構成するモノマーとして反応性基を導入する場合は、そのモノマーのSP値が10[cal/cm 1/2 以上であり、好ましくは10.2[cal/cm 1/2 以上であり、より好ましくは10.4[cal/cm 1/2 以上とする。SP値の上限値は、限定的ではないが、通常は13[cal/cm 1/2 程度とすれば良い。
【0029】
本発明のブロック共重合体の性状(形態)は、限定的ではないが、通常は液状(特にブロック共重合体が溶解してなる溶液)の形態をとることが好ましい。従って、この場合は、有機溶剤を使用すれば良い。有機溶剤としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。特に、本発明では、本発明のブロック共重合体を溶解できる有機溶剤(例えばケトン系溶媒及びエステル系溶媒の少なくとも1種)を好適に用いることができる。
【0030】
有機溶剤を用いる場合、有機溶剤の使用量は限定的ではなく、例えば固形分含有量が1~60重量%(特に5~40重量%)の範囲内において、用いるブロック共重合体の種類、所望の粘度等に応じて適宜設定すれば良い。
【0031】
2.アクリル系ブロック共重合体の製造方法
本発明のアクリル系ブロック共重合体の製造方法は、例えば(1)疎水性ブロック又は親水性ブロックを構成する第1ポリマーを調製する第1工程、(2)前記第1ポリマーの存在下において、親水性ブロック又は疎水性ブロックを構成する第2ポリマーを調製しながら、第1ポリマーと第2ポリマーから構成されるアクリル系ブロック共重合体を得る第2工程を含む方法によって製造することができる。
【0032】
本発明では、上記のように、a)疎水性ブロックを形成した後に親水性ブロックを形成する方法、b)親水性ブロックを形成した後に疎水性ブロックを形成する方法等のいずれも包含する。以下においては、上記a)の方法を代表例として説明するが、上記b)の方法も上記a)の方法に準じて(後記の第1工程及び第2工程の順序を逆にして)実施することができる。
【0033】
第1工程
第1工程では、疎水性ブロックを構成する第1ポリマーを調製する。疎水性ブロックを構成する第1ポリマーを調製する場合、第1ポリマーとしては、前記で示したようにアクリル系ポリマーを調製することが好ましい。従って、モノマー(原料)として、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等を好適に用いることができる。
【0034】
また、モノマーとして反応性基を有するモノマーを使用することもできる。例えば、反応性基として水酸基を1又は2以上有するモノマーを好適に用いることもできる。例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。水酸基を有するモノマーは、イソシアネート系化合物等の架橋剤を併用することにより、ブロック共重合体を架橋することができる結果、より高い膜強度を有する防曇膜を提供することが可能となる。その他の反応性基を有するモノマーも、本発明の効果を妨げない範囲内で適宜用いることができる。
【0035】
但し、反応性基を有するモノマーも、所定のSP値を満たすことが必要である。例えば、疎水性ブロックを構成する第1ポリマーを調製する場合は、反応性基を有するモノマーも、SP値が10[cal/cm 1/2 未満であるものを選定すれば良い。また、親水性ブロックを構成する第1ポリマーを調製する場合は、反応性基を有するモノマーも、SP値が10[cal/cm 3]1/2 以上であるものを選定すれば良い。
【0036】
上記の架橋剤を用いる場合、その架橋剤の種類は特に限定されないが、上記モノマーとして水酸基を有するものを使用する場合は、イソシアネート系化合物を好適に用いることができる。より具体的には、例えば2-イソシアナトエチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。これら架橋剤は、市販品を用いることもできる。
【0037】
モノマーの重合に際しては、液相中で実施することが好ましい。従って、溶媒として、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジエチルホルムアミド等のアミド系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。
【0038】
また、重合に際しては、必要に応じて重合開始剤(熱重合開始剤)、RAFT試薬等の公知の添加剤を配合することもできる。熱重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2’-アゾビスブチロニトリル等のアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等を用いることができる。RAFT試薬としては、例えば2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート等を用いることができる。
【0039】
液相中での反応条件としては、特に制限されないが、例えば反応温度は40~90℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。このようにして第1ポリマーを調製することができる。
【0040】
第2工程
第2工程では、前記第1ポリマーの存在下において、親水性ブロックを構成する第2ポリマーを調製しながら、第1ポリマーと第2ポリマーから構成されるアクリル系ブロック共重合体を得る。
【0041】
第2ポリマーとしては、前記で示したようにアクリルアミド系ポリマーを調製することが好ましい。従って、モノマーとして、前記の一般式Aで示されるモノマーを好適に用いることができる。特に、例えばN,N-ジメチルアクリルアミド又はN,N-ジエチルアクリルアミドを親水性ブロックのポリマーを構成するモノマー(原料)として好適に用いることができる。
【0042】
また、親水性ブロックを構成するモノマーとしても、疎水性ブロックを構成するモノマーと同様、反応性基を有するモノマー(特にアクリルアミド系モノマー)を本発明の効果を妨げない範囲内で適宜用いることができる。
【0043】
モノマーの重合に際しては、液相中で実施することが好ましい。従って、溶媒として、特に限定されず、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジエチルホルムアミド等のアミド系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。
【0044】
また、重合に際しては、必要に応じて重合開始剤(熱重合開始剤)、RAFT試薬等の公知の添加剤を配合することもできる。熱重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2’-アゾビスブチロニトリル等のアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等を用いることができる。RAFT試薬としては、例えば2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート等を用いることができる。
【0045】
液相中での反応条件としては、特に制限されないが、例えば反応温度は40~90℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0046】
反応終了後は、反応生成物であるアクリル系ブロック共重合体を回収すれば良い。回収方法は、特に限定されず、例えば(a)反応生成物を有機溶媒に溶解することにより溶液を調製する工程、(b)前記溶液に貧溶媒を混合することによりアクリル系ブロック共重合体の沈殿物を形成する工程、(c)固液分離により沈殿物を回収する工程を含む方法によって実施することができる。
【0047】
上記(a)では、反応生成物を有機溶媒に溶解することによって溶液を調製する。有機溶媒としては、反応生成物であるアクリル系ブロック共重合体が溶解できるものであれば限定されず、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。
【0048】
溶液の濃度は、特に限定されず、反応生成物の種類等に応じて、例えば1~60重量%程度(好ましくは5~40重量%)の範囲内で適宜設定することができる。
【0049】
上記(b)では、前記溶液に貧溶媒を混合することによりアクリル系ブロック共重合体の沈殿物を形成する。
【0050】
貧溶媒としては、反応で使用された溶媒(良溶媒)の種類等に応じて適宜選択すれば良い。例えば、エステル系溶媒、ケトン系溶媒等を溶媒として用いた場合は、貧溶媒として低極性溶媒(炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒等)等を用いることができる。また例えば、エーテル溶媒等を溶媒として用いた場合は、貧溶媒としてアルコール系溶媒等を用いることができる。
【0051】
貧溶媒の混合量は、限定的でなく、溶液中に含まれるアクリル系ブロック共重合体のほぼ全てが沈殿するのに十分な量とすれば良い。
【0052】
上記(c)では、固液分離により沈殿物を回収する。固液分離方法は、特に限定されず、例えば加圧ろ過、遠心分離等の公知の方法に従えば良い。得られたアクリル系ブロック共重合体は、必要に応じて乾燥処理等を実施しても良い。
【0053】
3.防曇膜
本発明は、アクリル系ブロック共重合体を含む防曇膜及びその防曇膜が物品表面に積層された防曇製品を包含する。
【0054】
本発明の防曇膜は、本発明のアクリル系ブロック共重合体を含むものである。特に、本発明のアクリル系ブロック共重合体は、自己組織化(相分離)する機能を有する。このため、アクリル系ブロック共重合体を用いて成膜化した際に、相分離した状態で膜形成する結果、親水性ブロックによる親水部及び疎水性ブロックによる疎水部を有する自己組織化膜が形成される。これによって、優れた防曇性を初期だけでなく、持続的に防曇性を発揮することができる。従って、このような効果が妨げられない限りは、他の成分が含まれていても良いが、通常は本発明のアクリル系ブロック共重合体が防曇膜中95~100重量%程度(特に99~100重量%)含まれていることが望ましい。
【0055】
親水性ブロックによる親水部及び疎水性ブロックによる疎水部からなる構造は、一般的には両者の体積割合等に応じて種々の形態をとるが、いずれであっても良い。例えば、a)球状の親水部(又は疎水部)が、疎水部(又は親水部)からなるマトリックスに分散した構造(球状構造)、b)円柱状の親水部(又は疎水部)が、疎水部(又は親水部)からなるマトリックスに分散した構造(円柱構造)、c)プレート状の親水部とプレート状の疎水部が交互に配置された構造(交互ラメラ構造)等を挙げることができる。これらの構造は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)による分析等で確認することができる。
【0056】
このような構造を有する本発明の防曇膜では、主として、疎水部はアクリル系ポリマー、親水部はアクリルアミド系ポリマーによって構成されている。親水部において、防曇膜表面に付着した微細な水滴を吸収することができるので、優れた防曇性を発揮することができる。疎水部においては、親水部を支持・固定する役割を果たすので、水分によって親水部が防曇膜から脱離することを効果的に抑制することができる結果、その優れた防曇性を持続させることが可能となる。
【0057】
特に、本発明の防曇膜では、アクリル系ポリマーを含む疎水部とアクリルアミド系ポリマーを含む親水部から構成される自己組織化膜(相分離膜)であるため、優れた防曇性を持続させることが可能になる。ランダム構造(均質な構造)では、親水部を構成するポリマー(アクリルアミド系ポリマー)の割合が多くならないと、所望の吸水性能を得ることができない。これに対し、相分離していると、アクリルアミド系ポリマーが(均一に細かく分散することなく)ある程度まとまって存在することになるため、モル比が比較的少なくても吸水性能が発現しやすくなる。本発明の防曇膜においても、相分離した構造を有するため、優れた吸水性を持続的に発揮することができる。
【0058】
他方、アクリルアミド系ポリマー(ホモポリマー)単独の膜では、初期の防曇性は発現するものの、アクリルアミド系ポリマーは水に溶けてしまうため、防曇性を持続させることができない。これに対し、本発明の防曇膜では、親水部と疎水部とが相分離した構造をとるため、親水部の脱落を疎水部が防ぐ役割を果たす結果、持続性に優れた防曇性を期待することができる。
【0059】
防曇膜の厚みは、通常は1~900μm(特に5~500μm)程度の範囲内において、用途、所望の防曇性等に応じて適宜設定することができるが、これに限定されない。
【0060】
本発明の防曇膜の形成方法は、特に限定的でなく、例えば本発明のアクリル系ブロック共重合体が溶媒に溶解した塗工液による塗膜を形成した後、乾燥する工程を含む方法によって実施することができる。
【0061】
塗工液の調製は、適当な溶媒に本発明のアクリル系ブロック共重合体を溶解又は分散させることによって実施することができる。溶媒としては、特に限定されず、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。
【0062】
塗工液の濃度は、用いるアクリル系ブロック共重合体の種類、所望の塗工液粘度等に応じて適宜設定することができるが、通常は1~60重量%程度(好ましくは5~40重量%)の範囲とすれば良い。
【0063】
塗膜の形成方法としては、特に制限されず、例えばa)支持体上に塗膜を形成した後、乾燥して得られた防曇膜を支持体から剥離することにより、単独の防曇膜を得る方法、b)防曇性を付与する対象となる物品表面に直接に塗膜を形成し、乾燥させる方法等が挙げられる。
【0064】
上記a)の方法では、防曇膜が単体で独立した状態にあるので、使用者によって任意の箇所に使用することができる。
【0065】
上記a)の方法による塗膜形成に際しては、塗膜が形成された支持体表面に予め離型剤を塗布しておくことにより、剥離が容易になる。また、剥離後の防曇膜は、その表面を保護するために両面又は片面に離型フィルムを積層しておくこともできる。
【0066】
上記支持体としては、限定的でなく、例えばガラス、セラミックス、金属、プラスチックス等のいずれであっても良い。また、支持体の表面形状も限定されず、例えば平面、曲面、凹凸面(粗面)等のいずれであっても良い。
【0067】
防曇膜を物品表面に付与する場合は、必要に応じて接着剤又は粘着剤を使用して貼着することもできる。
【0068】
上記b)の方法では、防曇膜を物品に直接付与できるので、製造工程等の簡略化等を図ることができる。
【0069】
上記b)の方法で対象となる物品は、特に制限されず、防曇性が要求される物品のいずれにも適用することができる。
【0070】
また、上記b)の方法では、物品表面と防曇膜との接着性を高めるために、物品表面に適当な接着剤又は粘着剤、あるいはプライマー等による処理を施しておいても良い。
【0071】
上記のように、支持体又は物品の表面に塗膜を形成する場合、その塗布方法も限定されず、例えば刷毛、ローラー、スプレー、ブレード、ディッピング等による各種の塗布方法を採用することができる。
【0072】
次いで、上記a),b)等の方法で形成された塗膜(未乾燥塗膜)を乾燥することによって防曇膜を得ることができる。この場合、乾燥は、加熱乾燥又は自然乾燥のいずれであっても良いが、特に室温付近(特に5~35℃)で比較的ゆっくり乾燥させることが好ましい。これにより、アクリル系ブロック共重合体が自己組織化(相分離)するのに十分な時間を確保することができる。その結果、前記のような球状構造、円柱構造、交互ラメラ構造等を有する防曇膜を得ることができる。しかも、防曇膜の形成において、熱アニール等の加熱処理は不要であるので、製造装置等の簡略化に寄与することもできる。
【0073】
このような防曇膜を物品表面に形成した防曇製品としては、従来の防曇製品と同様であり、例えばa)建築構造物、自動車等の窓ガラス、b)浴室・洗面化粧台の鏡面、c)眼鏡、ゴーグル、フェイスマスク等のレンズ又はレンズカバー、d)各種照明、前照灯等の照明カバー、d)ディスプレー装置、モニター類等のカバー、e)保冷ショーケース等のガラス面又は透明樹脂面等が挙げられる。
【実施例
【0074】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0075】
なお、実施例中(表1中)の記号は、それぞれ以下の化合物(モノマー)を示す。
CHA:シクロヘキシルアクリレート(アクリル酸シクロヘキシル)
DMMA:N,N-ジメチルアクリルアミド
HeA:ノルマルヘキシルアクリレート(アクリル酸ヘキシル)
HeMA:ノルマルヘキシルメタクリレート(メタクリル酸メチル)
BnA:ベンジルアクリレート(アクリル酸ベンジル)
BuMA:ノルマルブチルメタクリレート(メタクリル酸ブチル)、
MMA:メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)、
IBXA:イソボロニルアクリレート
FA-513AS:ジシクロペンタニルアクリレート
【0076】
実施例1
(1)ブロックコポリマーの合成
2口フラスコに第1成分モノマーとしてシクロヘキシルアクリレート(CHA)(7.71g,50mmol,)、RAFT試薬として2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート(0.35g,1.00mmol)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.12g,0.50mmol)、溶媒として酢酸エチル(7.71g)を入れ、反応混合物を窒素バブリングさせながら30分攪拌した。反応混合物を80℃まで昇温し、80℃で2時間撹拌した。1H-NMRで反応転換率が90%以上であることを確認した。その後、第2成分モノマーとしてN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)(4.95g,50mmol)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.12g,0.50mmol)、溶媒として酢酸エチル(4.95g)を入れ、反応混合物を80℃で2時間撹拌した。攪拌終了後、反応混合物を酢酸エチルで希釈し、貧溶媒であるノルマルヘキサンに滴下し、再沈操作を行った。得られた白色固体を減圧乾燥することによって、目的とするブロックコポリマー(CHA/DMAA=モル比50/50)を得た。
(2)ブロックコポリマー自己組織化膜の作製
前記(1)で得られたブロックコポリマーを酢酸エチルに溶解し、濃度5重量%の溶液を調製した。得られた溶液を離型剤が塗布されたシャーレに注ぎ、液高さが1cmとなるようにした。室温で24時間乾燥することにより、共重合体膜としてブロックコポリマーの自己組織化膜(膜厚:約500μm)を作製した。
(3)自己組織化膜の構造解析
前記(2)で得られた自己組織化膜の構造を透過型電子顕微鏡(TEM)(12万倍)で分析した。その結果を図1に示す。図1に示すように、CHAからなる疎水部(明部)とDMAAからなる親水部(暗部)が縞模様に交互に配置された交互ラメラ構造をとっていることが確認された。
【0077】
実施例2
CHA/DMAA=モル比25/75に変更した以外は、実施例1と同様にしてブロックコポリマー(CHA/DMAA=モル比25/75)を調製した後、それを用いて実施例1と同様にして共重合体膜を作製した。
【0078】
実施例3
CHA/DMAA=モル比75/25に変更した以外は、実施例1と同様にしてブロックコポリマー(CHA/DMAA=モル比75/25)を調製した後、それを用いて実施例1と同様にして共重合体膜を作製した。
【0079】
実施例4
CHAに代えてノルマルヘキシルアクリレート(HeA)を用いたほかは、実施例1と同様にしてブロックコポリマー(HeA/DMAA=モル比50/50)を調製した後、それを用いて実施例1と同様にして共重合体膜を作製した。
【0080】
実施例5
CHAに代えてノルマルヘキシルメタクリレート(HeMA)を用いたほかは、実施例1と同様にしてブロックコポリマー(HeMA/DMAA=モル比50/50)を調製した後、それを用いて実施例1と同様にして共重合体膜を作製した。
【0081】
実施例6
CHAに代えてベンジルアクリレート(BnA)を用いたほかは、実施例1と同様にしてブロックコポリマー (BnA/DMAA=モル比50/50)を調製した後、それを用いて実施例1と同様にして共重合体膜を作製した。
【0082】
実施例7
CHAに代えてノルマルブチルメタクリレート(BuMA)を用いたほかは、実施例1と同様にしてブロックコポリマー(BuMA/DMAA=モル比50/50)を調製した後、それを用いて実施例1と同様にして共重合体膜を作製した。
【0083】
比較例1
CHAに代えてメチルメタクリレート(MMA)を用いたほかは、実施例1と同様にしてブロックコポリマー(MMA/DMAA=モル比50/50)を調製した後、それを用いて実施例1と同様にして共重合体膜を作製した。
【0084】
比較例2
CHAに代えてイソボロニルアクリレート(IBXA)を用いたほかは、実施例1と同様にしてブロックコポリマー(IBXA/DMAA=モル比50/50)を調製した後、それを用いて実施例1と同様にして共重合体膜を作製した。
【0085】
比較例3
CHAに代えてジシクロペンタニルアクリレート(FA-513AS)を用いたほかは、実施例1と同様にしてブロックコポリマー(FA-513AS/DMAA=モル比50/50)を調製した後、それを用いて実施例1と同様にして共重合体膜を作製した。
【0086】
比較例4
CHAとDMMAとを同時に配合したほかは実施例1と同様にすることによりランダムコポリマー(CHA/DMAA=モル比50/50)を調製した後、それを用いて実施例1と同様にして共重合体膜を作製した。
【0087】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた共重合体膜について防曇性を評価した。防曇性の評価方法は、大気中(室温20℃)において、40℃の温水浴の水面から高さ1cmの位置に防曇塗膜試験片を共重合体膜が下向きになるように配置して共重合体膜に温水浴からの蒸気をあてた。
2分間経過後に共重合体膜上に曇りが形成されているかを目視により確認した。その結果として、共重合体膜表面に曇りが生じない場合を「○」と表記し、共重合体膜表面に曇りが生じる場合を「×」と表記した。その結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
なお、各ブロックを構成するポリマーのSP値(単位:[cal/cm 1/2 )は、以下のとおりである。
CHA:8.8
HeA:8.2
HeMA:8.3
BnA:9.5
BuMA:8.5
MMA:8.8
IBXA:8.3
FA-513AS:8.6
DMAA:10.5
【0090】
表1の結果からも明らかなように、実施例1~3のCHAとDMAAから成るブロック共重合体膜では、優れた防曇性が得られることがわかる。特に、図1からも明らかなように、本発明の防曇膜ではミクロ相分離(自己組織化)する膜を作製でき、それによって高い防曇性の持続性が期待できることがわかる。実施例4~7の共重合体膜では、CHAとDMAAの組み合わせ以外でも良好な防曇性を発現していることが確認できた。特に、低いガラス転移点(Tg)を有する場合、ミクロ相分離(自己組織化)する膜を確実に形成できる結果、良好な防曇性の発現に寄与することがわかる。これは、低いTg(室温付近)を有することにより防曇試験温度(室温付近)で非ガラス状態になり、水蒸気を吸収しやすい状態になったためと考えられる。
【0091】
これに対し、比較例1~3の共重合体膜では、CHA以外の高いTgを有する成分を使用したブロック共重合体膜であるため、所望の防曇性が得られないことがわかる。これは、高いTgにより疎水性及び結晶性が高くなり、その結果として吸水性が阻害されたため、防曇性が低下したと考えられる。
【0092】
また、比較例4の結果から明らかなように、たとえCHAとDMAAの組み合わせでもランダム構造では、所望の防曇性が得られないことがわかる。ランダム構造では、ミクロ相分離構造を有する自己組織化膜とならない。防曇性を得るためには、ミクロ相分離構造を有する自己組織化膜作製にはブロック構造が必要であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、ミクロ相分離構造を有するブロックコポリマー膜を製造することができるので、良好な防曇性が得られる結果、各種の物品に適用される防曇膜として利用することができる。
図1