(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】ハイドロタルサイト粒子及びその製造方法、並びにそれからなる樹脂安定剤及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C01F 7/785 20220101AFI20230307BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20230307BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C01F7/785
C08K3/26
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2019563013
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2018046380
(87)【国際公開番号】W WO2019131281
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2017247552
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】角屋 浩司
(72)【発明者】
【氏名】安永 温子
(72)【発明者】
【氏名】信貴 庸克
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-103854(JP,A)
【文献】国際公開第2013/069742(WO,A1)
【文献】特表2004-531448(JP,A)
【文献】特公昭50-030039(JP,B1)
【文献】特公昭46-002280(JP,B1)
【文献】特開2005-060164(JP,A)
【文献】特開平03-047874(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026379(WO,A1)
【文献】特表2013-533907(JP,A)
【文献】特表平10-503465(JP,A)
【文献】中国特許第1168659(CN,C)
【文献】国際公開第2008/129034(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0212014(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/785
C08K 3/26
C08L 101/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化アルミニウムをアルカリ溶液で溶解し、アルミン酸塩溶液を調製する第1工程、
前記第1工程で得られたアルミン酸塩溶液と炭酸ガスとを反応させ
、アルミニウム化合物を析出させる第2工程、
前記第2工程で得られ
たアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とを混合して一次反応させ、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を調製する第3工程、及び
前記第3工程で得られた反応物を水熱反応させ、ハイドロタルサイト粒子を合成する第4工程
を含むことを特徴とする、ハイドロタルサイト粒子の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記第4工程で得られたハイドロタルサイト粒子に対して表面処理を行う第5工程を含む、請求項1に記載のハイドロタルサイト粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程におけ
るアルミニウム化合物は、擬ベーマイトである、請求項1又は2に記載のハイドロタルサイト粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程におけ
るアルミニウム化合物は、X線回折パターンにおける2θ/θ=38°の回折ピークから求めた結晶子サイズが35Å以下である、請求項1~3のいずれか1つに記載のハイドロタルサイト粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程におけ
るアルミニウム化合物は、BET比表面積が100m
2/g~350m
2/gである、請求項1~4のいずれか1つに記載のハイドロタルサイト粒子の製造方法。
【請求項6】
X線回折パターンにおける結晶面(015)の回折ピークの強度と半値幅との比(強度/半値幅)が、4000cps/degree以上であ
り、
式:
[(Mg
2+
)
1-x
(Al
3+
)
x
(OH)
2
][(CO
3
2-
)
x/2
・mH
2
O]
(式中、0<x<1であり、0≦m<1である)
で表わされるものであることを特徴とする、ハイドロタルサイト粒子。
【請求項7】
BET比表面積が8m
2/g~18m
2/gである、請求項6に記載のハイドロタルサイト粒子。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のハイドロタルサイト粒子からなる、樹脂安定剤。
【請求項9】
樹脂と、請求項6又は7に記載のハイドロタルサイト粒子とを含有してなる、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロタルサイト粒子及びその製造方法、並びに、該ハイドロタルサイト粒子からなる樹脂安定剤及び該ハイドロタルサイト粒子を含有してなる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロタルサイトは、一般式:[M2+
1-xM3+
x(OH)2][An-
x/n・mH2O](式中、M2+は2価の金属イオン、M3+は3価の金属イオン、An-
x/nは層間陰イオンを示し、0<x<1であり、nはAの価数、0≦m<1である)で表される化合物の1つであり、触媒、医薬品、樹脂用添加剤等として広く利用されている。
【0003】
従来、その使用目的に応じた特性を有するハイドロタルサイトを効率的に得るための方法や、該方法によって得られるハイドロタルサイトが種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定割合のアルミニウム類とアルカリとからなるアルミニウム溶液に、アルミニウムに対して特定量の炭酸化合物を添加すると共に、アルミニウムに対して特定量のマグネシウム塩を添加して反応させる方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、マグネシウム化合物及び/又は亜鉛化合物とアルミニウム化合物とを原料とし、該原料のうち水酸化物等とカルボン酸基含有化合物とを含有しており、特定範囲の固形分濃度を有するスラリーを調製し、これを特定範囲の平均2次粒子径となるように湿式粉砕して残りの原料を添加した後、水熱処理する方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、アルカリ金属塩を含有せず、少なくとも湿式粉砕された水酸化アルミニウムである3価金属化合物とマグネシウム化合物を含む2価金属化合物とを含む混合懸濁液を反応させる方法が開示されている。
【0007】
特許文献4には、Is=tanθ2/tanθ1(θ1は特定範囲の面間隔のX線回折ピークにおけるピーク垂線と挟角側ピーク接線とがなす角度、θ2は該ピークにおけるピーク垂線と広角側ピーク接線とがなす角度)で定義される積層不整指数(Is)が特定値以上であるハイドロタルサイト類、及びこれを含む樹脂用配合剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-048712号公報
【文献】特開2013-103854号公報
【文献】特開2004-099391号公報
【文献】特開平06-136179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示の方法では、アルミニウム溶液に炭酸化合物とマグネシウム塩とを同時に添加して反応させただけであるので、ハイドロタルサイトの粒子を充分に成長させることができない。このような粒子径が比較的小さいハイドロタルサイトは、比表面積が大きくなり、樹脂に添加した際にハイドロタルサイトが有する塩基性の影響が大きくなって、樹脂組成物の初期着色性が悪くなるという点や、粒子径が小さいと凝集しやすく、樹脂中で分散不良を起こすという点で、例えば樹脂添加剤としては不適切である。
【0010】
特許文献2及び3に開示の方法では、水酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物に炭酸ガスを接触させることなく、マグネシウム化合物と反応させているので、反応系において、ハイドロタルサイトの合成に重要な役割を担うとされる炭酸イオンが不足し、種晶の生成が不充分となる。その結果、粒子径等の物性や特性が統一されたハイドロタルサイトを容易に得ることが困難となる。
【0011】
特許文献4に開示のハイドロタルサイト類は、その特定のX線回折ピークが非対称で、X線回折学的に特徴的な微細構造を有するものであり、これを含む樹脂用配合剤は、樹脂との乾式ブレンドが容易な良好な流動性を有する。しかしながら、該樹脂用配合剤を用いても、樹脂の耐熱性は未だ不充分であり、着色が抑制され難いという点で、特に塩化ビニル系樹脂用の配合剤としては不適切である。
【0012】
このように、充分に優れた耐熱性、透明性、流動性等を、同時に樹脂に付与することができるハイドロタルサイト、及びこのようなハイドロタルサイトを効率よく製造することができる方法は、未だ見出されていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るハイドロタルサイト粒子の製造方法は、
水酸化アルミニウムをアルカリ溶液で溶解し、アルミン酸塩溶液を調製する第1工程、
前記第1工程で得られたアルミン酸塩溶液と炭酸ガスとを反応させ、低結晶性アルミニウム化合物を析出させる第2工程、
前記第2工程で得られた低結晶性アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とを混合して一次反応させ、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を調製する第3工程、及び
前記第3工程で得られた反応物を水熱反応させ、ハイドロタルサイト粒子を合成する第4工程
を含む
ことを特徴とする。
【0014】
前記製造方法において、以下の(a)~(d)が好ましい。
(a)さらに、前記第4工程で得られたハイドロタルサイト粒子に対して表面処理を行う第5工程を含むこと。
(b)前記第2工程における低結晶性アルミニウム化合物は、擬ベーマイトであること。
(c)前記第2工程における低結晶性アルミニウム化合物は、X線回折パターンにおける2θ/θ=38°の回折ピークから求めた結晶子サイズが35Å以下であること。
(d)前記第2工程における低結晶性アルミニウム化合物は、BET比表面積が100m2/g~350m2/gであること。
【0015】
本発明に係るハイドロタルサイト粒子は、
X線回折パターンにおける結晶面(015)の回折ピークの強度と半値幅との比(強度/半値幅)が、4000cps/degree以上である
ことを特徴とする。
【0016】
前記ハイドロタルサイト粒子において、好ましくは、BET比表面積が8m2/g~18m2/gである。
【0017】
本発明に係る樹脂安定剤は、前記ハイドロタルサイト粒子からなるものである。
【0018】
本発明に係る樹脂組成物は、樹脂と、前記ハイドロタルサイト粒子とを含有してなるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法により、優れた耐熱性、透明性、流動性等を同時に樹脂に付与することができ、例えば樹脂安定剤として有用なハイドロタルサイト粒子を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は、本発明の一実施態様において、真空凍結乾燥処理を行った低結晶性アルミニウム化合物のX線回折パターンであり、
図1(b)は、該低結晶性アルミニウム化合物の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例1における、通常の乾燥処理を行った低結晶性アルミニウム化合物のX線回折パターンである。
【
図3】
図3(a)は、本発明の実施例1及び比較例1における、ハイドロタルサイト粒子のX線回折パターンであり、
図3(b)は、該X線回折パターンにおける回折ピークの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<ハイドロタルサイト粒子の製造方法>
本発明の一実施態様に係るハイドロタルサイト粒子の製造方法について説明する。
【0022】
本発明の一実施態様に係るハイドロタルサイト粒子の製造方法には、少なくとも、以下の4つの工程が含まれる。
第1工程:水酸化アルミニウムをアルカリ溶液で溶解し、アルミン酸塩溶液を調製する工程。
第2工程:前記第1工程で得られたアルミン酸塩溶液と炭酸ガスとを反応させ、低結晶性アルミニウム化合物を析出させる工程。
第3工程:前記第2工程で得られた低結晶性アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とを混合して一次反応させ、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を調製する工程。
第4工程:前記第3工程で得られた反応物を水熱反応させ、ハイドロタルサイト粒子を合成する工程。
【0023】
なお、本発明の製造方法は、必要に応じてこれら4つの工程以外のその他の工程を含むことができる。必要に応じて行われるその他の工程については、後に説明する。
【0024】
(第1工程:アルミン酸塩溶液の調製)
第1工程では、水酸化アルミニウムとアルカリ溶液とから、アルミン酸塩溶液を調製する。
【0025】
第1工程で用いられる水酸化アルミニウムには、例えば、γ型Al(OH)3のギブサイト又はハイドラーギライト、α型Al(OH)3のバイヤライト、β型Al(OH)3のノルトストランド石、γ型Al(OOH)のベーマイト、α型Al(OOH)のダイアスポア等があるが、特に限定はない。またアルカリ溶液も、水酸化アルミニウムを溶解させることができる限り、特に限定はない。該アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上を同時に用いることができる。これらの中では、水酸化アルミニウムが溶解し易く、取扱い性が良好である点で、水酸化ナトリウム溶液が好ましい。
【0026】
アルミン酸塩溶液を調製する際の水酸化アルミニウムとアルカリ溶液との割合は、アルカリ溶液/水酸化アルミニウム(モル比)が1.3~1.7、さらには1.4~1.6となるように調整することが好ましい。両成分の割合が前記下限値未満である場合、容易に、水酸化アルミニウムをアルカリ溶液に充分に溶解させることが困難となる恐れがある。両成分の割合が前記上限値を超える場合、次の第2工程で析出させる低結晶性アルミニウム化合物の量が不充分となる恐れがある。
【0027】
例えば、モル比が前記範囲内となるように調整した水酸化アルミニウム及びアルカリ溶液を、約100℃~130℃に加温して、約0.5時間~6時間撹拌することにより、例えばアルミン酸ソーダ溶液、アルミン酸カリウム溶液等のアルミン酸塩溶液を得ることができる。該撹拌の手段には特に限定がなく、例えば、汎用のスターラー、ミキサー等を用いることができる。
【0028】
(第2工程:低結晶性アルミニウム化合物の析出)
第2工程では、前記第1工程で得られたアルミン酸塩溶液と炭酸ガスとを反応させ、低結晶性アルミニウム化合物を析出させる。本発明の製造方法では、この第2工程における低結晶性アルミニウム化合物の析出が大きな特徴の1つであり、次の第3工程での種晶の生成及び最適化の基盤となる。
【0029】
アルミン酸塩溶液に炭酸ガスを接触させると、アルミン酸塩溶液と分散した炭酸ガスの気泡とが反応する気液界面反応が起こり、気泡界面に低結晶性アルミニウム化合物が析出する。
【0030】
アルミン酸塩溶液に炭酸ガスを接触させる際の条件は、前記気液界面反応が充分に起こり、所望の低結晶性アルミニウム化合物が析出するように適宜調整することが好ましい。例えば、アルミン酸塩溶液の濃度を、約0.05mol/L~3mol/L、さらには約0.2mol/L~1.6mol/Lに調整し、約5℃~70℃、さらには約25℃~65℃に保ちながら、炭酸ガスを、約0.5L/分~1.0L/分、さらには約0.6L/分~0.9L/分の通気量で、約50分間~150分間、さらには約50分間~120分間、特に約60分間~105分間に亘って通気することが好ましい。特に、アルミン酸塩溶液の濃度や温度が前記範囲を外れる場合や、炭酸ガスの通気量や通気時間が前記範囲を外れる場合には、ドーソナイトの粗大粒子が生成し、最終的に得られるハイドロタルサイト粒子を樹脂に添加した際に、樹脂組成物の透明性が低下する恐れがあるので、これらアルミン酸塩溶液の濃度や温度及び炭酸ガスの通気量や通気時間を、各々前記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0031】
ここで、反応系における全炭酸中の各炭酸根(CO2、HCO3
-、及びCO3
2-)の比率は、反応系のpHによって変化する。アルミン酸塩溶液と炭酸ガスとの反応系のpHは、7.0~9.0、さらには7.5~8.5であることが好ましい。pHがこの範囲である場合、後述するように、次の第3工程において炭酸イオン(CO3
2-)へと変換される炭酸根である重炭酸イオン(HCO3
-)を充分に確保することができる。
【0032】
このようにアルミン酸塩溶液と炭酸ガスとを反応させることによって気泡界面に析出した低結晶性アルミニウム化合物の特性を評価する際には、水洗、乾燥等の前処理を行うことが好ましい。例えば、乾燥処理は、約50℃~110℃、さらには約60℃~105℃で行うことができる。また、このような前処理を行う場合、析出した低結晶性アルミニウム化合物に付着した炭酸成分の量(全炭酸濃度)は、0.3重量%~1.6重量%、さらには0.4重量%~1.5重量%であることが好ましい。
【0033】
なお、本明細書において、反応系や化合物中の各炭酸根(CO2、HCO3
-、及びCO3
2-)の総量、すなわち「炭酸成分の量」を、「全炭酸濃度」ともいう。
【0034】
低結晶性アルミニウム化合物は、反応溶液から取り出して通常の乾燥工程を行った場合、結晶性が高くなる場合があるため、低結晶性アルミニウム化合物の特性をより明確に評価するために、一例として、低結晶性アルミニウム化合物に対して真空凍結乾燥処理を行ってもよい。低結晶性アルミニウム化合物を前処理する場合は、乾燥により炭酸成分が揮発することを考慮すると、該真空凍結乾燥処理を行うことが望ましい。該真空凍結乾燥処理の条件に特に限定はなく、例えば、約-45℃で予備凍結を行い、約0.01Torr~1Torrの気圧で、約12時間に亘って一次乾燥を行った後、約25℃まで昇温し、二次乾燥を行うことが好ましい。
【0035】
一例として、アルミン酸塩溶液と炭酸ガスとを反応させ、析出した低結晶性アルミニウム化合物に真空凍結乾燥処理を行った場合の低結晶性アルミニウム化合物について、X線回折測定(以下、XRD測定という)を行い、X線回折パターンを得た。また該真空凍結乾燥処理を行った場合の低結晶性アルミニウム化合物の走査型電子顕微鏡写真を撮影した。これらの結果を
図1に示す。
図1(a)(b)は、アルミン酸塩溶液と炭酸ガスとを70分間反応させて真空凍結乾燥処理を行った場合の結果である。
図1(a)に示すように、低結晶性アルミニウム化合物が得られていることが分かる。また
図1(b)に示すように、得られた低結晶性アルミニウム化合物は微細な粒子であることが分かる。
【0036】
前記のとおり、気泡界面に析出した低結晶性アルミニウム化合物は、結晶性が非常に低く、非晶質に近いアルミニウム化合物である。該低結晶性アルミニウム化合物としては、例えば、ほぼ非晶質の擬ベーマイト(ベーマイトゲル)等が挙げられる。
【0037】
析出した低結晶性アルミニウム化合物についてXRD測定を行い、得られたX線回折パターンにおける所定の回折ピークから、その結晶子サイズを求めることができる。例えば、X線回折パターンにおける2θ/θ=38°の回折ピークから求めた結晶子サイズが35Å以下、さらには30Å以下の低結晶性アルミニウム化合物は、次の第3工程におけるマグネシウム化合物との一次反応が良好に進行する点で好ましい。なお、該一次反応に使用される炭酸成分を担持させるためには、微粒子かつ一定の形状を保持することが好ましいが、結晶子サイズが小さすぎると形状を保持することが困難であるという点で、該低結晶性アルミニウム化合物の結晶子サイズは3Å以上であることが好ましい。
【0038】
なお、前記X線回折パターンにおける2θ/θ=38°の回折ピークから求めた結晶子サイズは、例えば、析出した低結晶性アルミニウム化合物に対して約105℃で乾燥処理を行った場合に得ることができる。また、該乾燥処理の代わりに、低結晶性アルミニウム化合物に対して前記真空凍結乾燥処理を行った場合には、例えば25Åから20Åというように、結晶子サイズをさらに小さくすることができる。
【0039】
低結晶性アルミニウム化合物は、BET比表面積が100m2/g~350m2/g、さらには120m2/g~300m2/gであることが好ましい。低結晶性アルミニウム化合物の表面には、用いた炭酸ガス由来の炭酸成分が付着していると考えられるが、BET比表面積が前記下限値未満である場合、低結晶性アルミニウム化合物が、一定の形状を保持することが困難となり、付着する炭酸成分の量が不充分となる恐れがある。BET比表面積が前記上限値を超える場合、次の第3工程におけるマグネシウム化合物との一次反応が良好に進行しない恐れがある。
【0040】
なお、次の第3工程におけるマグネシウム化合物との反応性及び作業性を考慮して、低結晶性アルミニウム化合物を、例えばスラリー状に調整しておくことが好ましい。スラリー状に調整する際の媒体には特に限定がなく、例えば、水や、低結晶性アルミニウム化合物に悪影響を与えない水以外の液体媒体等を用いることができる。
【0041】
(第3工程:ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物の調製)
第3工程では、前記第2工程で得られた低結晶性アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とを混合して一次反応させ、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を調製する。この第3工程では、該低結晶性アルミニウム化合物に基づいて種晶が生成され、次の第4工程におけるハイドロタルサイト粒子の合成に向けて、該種晶が最適化される。
【0042】
第3工程で用いられるマグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上を同時に用いることができる。これらの中では、低結晶性アルミニウム化合物と反応し易く、取扱い性が良好である点で、酸化マグネシウムが好ましい。なお、マグネシウム化合物は粉末状や微粒子状で用いてもよいが、低結晶性アルミニウム化合物との反応性及び作業性を考慮して、例えばスラリー状に調整しておくことが好ましい。スラリー状に調整する際の媒体には特に限定がなく、例えば、水や、マグネシウム化合物に悪影響を与えない水以外の液体媒体等を用いることができる。
【0043】
一次反応系における低結晶性アルミニウム化合物とマグネシウム化合物との割合は、目的とするハイドロタルサイト粒子のMg/Al(モル比)が2.0~5.7、さらには2.0~3.0となるように調整することが好ましい。Mg/Al(モル比)が前記範囲内となるようにすると共に、後述するように一次反応系の全炭素濃度やハイドロタルサイト核粒子を含む反応物のBET比表面積を適宜調整することにより、種晶の最適化がなされる。
【0044】
例えば、AlとMgとのモル比が前記範囲内となるように調整した低結晶性アルミニウム化合物及びマグネシウム化合物を、約20℃~80℃に加温して、約0.5時間~2時間撹拌混合して一次反応させることにより、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を得ることができる。
【0045】
ここで、前記のとおり、反応系における全炭酸中の各炭酸根(CO2、HCO3
-、及びCO3
2-)の比率は、反応系のpHによって変化する。前記一次反応系のpHは、9.5~11.0、さらには9.7~10.5であることが好ましい。pHがこの範囲である場合、次の第4工程におけるハイドロタルサイト粒子の合成に必要な炭酸根である炭酸イオン(CO3
2-)を充分に確保することができる。なお、得られる反応物に含まれるハイドロタルサイト核粒子に付着した炭酸成分の量(全炭酸濃度)は、2.0重量%~4.5重量%、さらには2.3重量%~4.2重量%であることが好ましい。
【0046】
ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物は、BET比表面積が80m2/g~150m2/g、さらには90m2/g~130m2/gであることが好ましい。ハイドロタルサイト核粒子の表面には炭酸成分が付着していると考えられるが、BET比表面積が前記下限値未満である場合、ハイドロタルサイト粒子の成長に必要な炭酸成分の量を確保することが困難となる恐れがある。BET比表面積が前記上限値を超える場合、次の第4工程における水熱反応によるハイドロタルサイト粒子の合成が良好に進行しない恐れがある。
【0047】
(第4工程:ハイドロタルサイト粒子の合成)
第4工程では、前記第3工程で得られた反応物を水熱反応させ、ハイドロタルサイト粒子を合成する。該水熱反応により粒子の成長が促進され、目的とするハイドロタルサイト粒子が得られる。
【0048】
前記反応物の水熱反応は、特に限定はないが、例えばオートクレーブ等の耐熱容器中において行うことが好ましい。水熱反応の際の反応温度には特に限定はないが、約120℃~250℃、さらには約130℃~240℃に調整することが好ましく、反応時間にも特に限定はないが、約2時間~10時間、さらには約4時間~8時間であることが好ましい。また、前記耐熱容器内の圧力にも特に限定はないが、約0.1MPa~10MPa、さらには約0.5MPa~8MPaに調整することが好ましい。
【0049】
このように、前記第1工程~第4工程を順に行うことにより、後述するとおり、目的とするハイドロタルサイト粒子を得ることができるが、本発明の製造方法では、さらに以下の工程を行うこともできる。
【0050】
(第5工程:ハイドロタルサイト粒子の表面処理)
第5工程では、前記第4工程で得られたハイドロタルサイト粒子に対して表面処理を行う。該表面処理を行うことにより、ハイドロタルサイト粒子の分散性をより向上させることができる。
【0051】
前記表面処理に用いる表面処理剤には特に限定がなく、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸、これら高級脂肪酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の高級脂肪酸金属塩(金属石ケン)等の高級脂肪酸類;ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコールの硫酸エステル塩、ポリエチレングリコールエーテルの硫酸エステル塩、アミド結合硫酸エステル塩、エーテル結合スルホン酸塩、エステル結合スルホネート、アミド結合アルキルアリールスルホン酸塩、エーテル結合アルキルアリールスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤;オルトリン酸とオレイルアルコール、ステアリルアルコール等とのモノ又はジエステル又はこれらの混合物で、これらの酸型、アルカリ金属塩、アミン塩等のリン酸エステル;ビニルエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタンカップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウムカップリング剤等のカップリング剤等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上を同時に用いることができる。これらの中では、ハイドロタルサイト粒子の分散性を向上させる効果が大きく、取扱い性に優れる点で、ステアリン酸が好ましい。
【0052】
前記表面処理剤の量は、該表面処理剤を用いることによる効果を効率よく得るには、ハイドロタルサイト粒子100質量部に対して、約0.1~10質量部、さらには約0.5~8質量部であることが好ましい。
【0053】
表面処理の方法には特に限定がなく、従来の湿式法、乾式法等の通常の処理方法を適宜採用することができる。例えば湿式法を採用する場合は、ハイドロタルサイト粒子を含有するスラリーに、前記表面処理剤を液状、エマルジョン状で添加して攪拌し、必要に応じて、例えば約100℃までの温度に加熱して充分に混合した後、ハイドロタルサイト粒子を濾過、水洗、及び乾燥すればよい。例えば乾式法を採用する場合は、ハイドロタルサイト粒子をヘンシェルミキサー等の混合機にて充分に攪拌しながら、前記表面処理剤を液状、エマルジョン状、固形状で添加し、加熱又は非加熱下で充分に混合すればよい。
【0054】
(ろ過工程、水洗工程、乾燥工程及び粉砕工程)
本発明の製造方法では、前記第4工程又は前記第5工程の後に、ろ過工程、水洗工程、乾燥工程及び粉砕工程を順に行うことが好ましい。
【0055】
第4工程での水熱反応によって得られたハイドロタルサイト粒子又は第5工程での表面処理が施されたハイドロタルサイト粒子をろ過し、ハイドロタルサイト粒子を含む固形物(ケーキ)とろ液とを分離する。次いで回収した固形物を1回又は複数回水洗した後、ろ別した固形分を回収する。次いで回収した固形分をオーブン等の乾燥機で乾燥させた後、固形分を乾式粉砕すればよい。
【0056】
<ハイドロタルサイト粒子>
例えば前記各工程を経て得られる、本発明の一実施態様に係るハイドロタルサイト粒子についてXRD測定を行うと、得られるX線回折パターンにおいて特徴的な回折ピークが認められる。
【0057】
従来の各種ハイドロタルサイトの場合、それらのX線回折パターンはほぼ同等であるが、本発明のハイドロタルサイト粒子のX線回折パターンは、従来のものとは異なる。具体的には、本発明のハイドロタルサイト粒子は、2θ/θ=30°~50°のピーク形状に特徴があり、結晶面(012)、(015)、及び(018)において、各々の回折ピークが従来のハイドロタルサイトの回折ピークと大きく異なる。この差異は結晶性の差異であり、本発明のハイドロタルサイト粒子は、従来のハイドロタルサイトと比較して、結晶面(012)、(015)、及び(018)の結晶性が高く、この結晶性の高さは、Mg-Alの規則的な配列に基づくと考えられる。従来のハイドロタルサイトのこれらの結晶面においては、長距離秩序は存在するものの、短距離秩序は低い。これに対して、本発明のハイドロタルサイト粒子のこれらの結晶面においては、長距離秩序が存在するのは勿論のこと、短距離秩序が高く、このことから、本発明のハイドロタルサイト粒子は結晶性が高いと判断される。
【0058】
なお、各種ハイドロタルサイトにおいて、結晶面(003)と(006)との距離は、MgとAlとの比(Mg/Al)に依存していることから、ほとんど差異がないが、本発明のハイドロタルサイト粒子は、結晶成長が充分になされたものであるので、従来のハイドロタルサイトと比較して、1粒子中の結晶面(003)と(006)とのユニット数が多く、後述するように、例えば塩化ビニル系樹脂に充分に優れた耐熱性や透明性を付与し得る樹脂安定剤とすることができる。
【0059】
本発明のハイドロタルサイト粒子は、前記結晶面(012)、(015)、及び(018)のうち、結晶面(015)の回折ピークの強度と半値幅との比(強度/半値幅)が、4000cps/degree以上、好ましくは5000cps/degree以上であるので、優れた耐熱性、透明性、流動性等を同時に樹脂に付与することができる。なお、強度と半値幅との比が大きいほど、ハイドロタルサイト粒子の結晶性が高く、例えば樹脂に添加した際に、樹脂組成物の透明性が向上するが、該強度と半値幅との比が大き過ぎると、ハイドロタルサイト粒子が成長し過ぎて反応性が低下する恐れがあるという点から、該強度と半値幅との比は、15000cps/degree以下であることが好ましい。
【0060】
本発明のハイドロタルサイト粒子は、BET比表面積が8m2/g~18m2/g、さらには10m2/g~15m2/gであることが好ましい。BET比表面積はハイドロタルサイト粒子の反応性の指標となるものであり、該BET比表面積が小さ過ぎると、反応性が低くなってしまう。逆にBET比表面積が大き過ぎると、反応性(塩基性)が高過ぎて、樹脂に添加した際に樹脂の劣化の要因となる。また、BET比表面積が大きいことは、粒子サイズが小さいことを意味しており、粒子サイズが小さ過ぎるハイドロタルサイト粒子は、凝集性が高いため、樹脂中で分散不良を起こす。よって、ハイドロタルサイト粒子のBET比表面積は前記範囲であることが好ましい。
【0061】
本発明のハイドロタルサイト粒子の具体例としては、例えば、以下の式(1):
(Mg2+)1-p(Al3+)p(OH)2(CO3
2-)p/2・qH2O (1)
(式中、pは、好ましくは0.15≦p≦0.33、さらに好ましくは0.20≦p≦0.33であり、qは、好ましくは0≦q<1である)で表わされるものが好適に挙げられる。
【0062】
<樹脂安定剤>
本発明の樹脂安定剤は、前記ハイドロタルサイト粒子からなるものである。該樹脂安定剤は、その成分全てが該ハイドロタルサイト粒子であってもよく、ハイドロタルサイト粒子と共に、一般に樹脂用の熱安定剤として用いられている化合物が配合されたものであってもよい。
【0063】
前記一般に樹脂用の熱安定剤として用いられている化合物には特に限定がないが、例えば、ステアリン酸系金属石鹸、ヒドロキシステアリン酸系金属石鹸、ラウリン酸系金属石鹸、ブチル安息香酸系金属石鹸、リン酸エステル系金属石鹸等の金属石鹸;三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛等の無機鉛化合物;ジメチルスズメルカプト系化合物、ジオクチルスズメルカプト系化合物、ジオクチルスズラウレート系化合物等の有機スズ化合物等があげられ、これらは単独で、又は2種以上を同時に用いることができる。
【0064】
ハイドロタルサイト粒子と共に、一般に樹脂用の熱安定剤として用いることができる化合物を配合する場合は、目的に応じて、ハイドロタルサイト粒子と該化合物との割合を適宜調整することが好ましい。
【0065】
本発明の樹脂安定剤を適用する樹脂には特に限定がなく、通常の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0066】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン、ポリ(4-メチルペンテン-1)等のC2~C8オレフィン(α-オレフィン)重合体又は共重合体、これらC2~C8オレフィンとジエンとの共重合体等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン、ABS樹脂、AAS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂等のスチレン系樹脂;エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-塩化ビニル-酢酸ビニルグラフト共重合体、塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-プロピレン共重合体等の塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。本発明の樹脂安定剤は、特に該塩化ビニル系樹脂用の安定剤として有用であり、塩化ビニル系樹脂に優れた耐熱性及び透明性を付与することができる。
【0067】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。
【0068】
本発明の樹脂安定剤を樹脂に配合する場合、その量は、樹脂の種類等に応じて適宜調整することが好ましいが、例えば、樹脂100質量部に対して約0.01質量部~50質量部、さらには約0.1質量部~40質量部であることが好ましい。
【0069】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、少なくとも、樹脂と、前記ハイドロタルサイト粒子とを含有するものである。
【0070】
前記樹脂には特に限定がなく、例えば、前記樹脂安定剤を適用することができる樹脂として例示した、通常の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0071】
樹脂組成物中のハイドロタルサイト粒子の量は、該ハイドロタルサイト粒子を配合したことによる耐熱性、透明性、流動性等の向上効果が充分に発揮される限り特に限定はなく、例えば樹脂100質量部に対して約0.01質量部~50質量部、さらには約0.1質量部~40質量部であることが好ましい。
【0072】
樹脂組成物の調製方法には特に限定がなく、通常の方法にて、ハイドロタルサイト粒子と、必要に応じて他の添加剤とを、樹脂に均一に配合すればよい。例えば、リボンブレンダー、高速ミキサー、ニーダー等の公知の混合手段を用いてハイドロタルサイト粒子を樹脂に配合する方法、ハイドロタルサイト粒子の懸濁液を重合後のスラリーに添加した後、攪拌及び混合し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0073】
本発明の樹脂組成物が必要に応じて含有してもよい前記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、顔料、発泡剤、可塑剤、充填剤、補強剤、難燃剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、前記ハイドロタルサイト粒子以外の熱安定剤、水等が挙げられる。
【0074】
前記ハイドロタルサイト粒子が配合された本発明の樹脂組成物は、特に耐熱性、透明性、流動性等に優れる。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明のハイドロタルサイト粒子及びその製造方法、並びにそれからなる樹脂安定剤及び樹脂組成物をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
実施例1:ハイドロタルサイト粒子の合成
2L容のステンレス容器にて、48%水酸化ナトリウム溶液(関東化学(株)製、鹿特級)1110mLに、水酸化アルミニウム粉末(関東化学(株)製、鹿特級)730gを投入し、124℃で1時間撹拌してアルミン酸ソーダ溶液を得た(第1工程)。
【0077】
次いで、前記アルミン酸ソーダ溶液を80℃まで冷却した後、全量が1500mLとなるようにイオン交換水を投入した。
【0078】
1L容のステンレス容器に、前記アルミン酸ソーダ溶液96mLを分取した後、全量が730mLとなるように純水を投入し(アルミン酸ソーダ溶液の濃度:0.8mol/L)、25℃に保ちながら撹拌して、炭酸ガスを0.7L/分の通気量で60分間に亘って通気し、調整済水酸化アルミニウムスラリー(低結晶性アルミニウム化合物=擬ベーマイト)を得た(第2工程)。
【0079】
別途、純水327mLに酸化マグネシウム粉末(関東化学(株)製、特級)49.5gを添加し、1時間撹拌して酸化マグネシウムスラリーを得た。
【0080】
1.5L容のステンレス容器にて、純水257mLに、前記酸化マグネシウムスラリー及び調整済水酸化アルミニウムスラリーを投入し、55℃で90分間攪拌して一次反応させ、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を得た(第3工程)。
【0081】
その後、前記反応物に純水を加えて全量を1Lとし、これを2L容のオートクレーブに入れ、160℃で7時間水熱合成を行い、ハイドロタルサイト粒子スラリーを得た(第4工程)。
【0082】
得られたハイドロタルサイト粒子スラリーを95℃に保持しながら、ステアリン酸4.3g(ハイドロタルサイト粒子100質量部に対して3質量部)を加えて粒子の表面処理を行った(第5工程)。これをろ過及び洗浄した後、100℃で乾燥してハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。得られたハイドロタルサイト粒子の元素分析を行った結果、Mg/Al(モル比)=2.1であった。
【0083】
実施例2:ハイドロタルサイト粒子の合成
2L容のステンレス容器にて、48%水酸化ナトリウム溶液(関東化学(株)製、鹿特級)1110mLに、水酸化アルミニウム粉末(関東化学(株)製、鹿特級)730gを投入し、124℃で1時間撹拌してアルミン酸ソーダ溶液を得た(第1工程)。
【0084】
次いで、前記アルミン酸ソーダ溶液を80℃まで冷却した後、全量が1500mLとなるようにイオン交換水を投入した。
【0085】
1L容のステンレス容器に、前記アルミン酸ソーダ溶液96mLを分取した後、全量が730mLになるように純水を投入し(アルミン酸ソーダ溶液の濃度:0.8mol/L)、30℃に保ちながら撹拌して、炭酸ガスを0.7L/分の通気量で90分間に亘って通気し、調整済水酸化アルミニウムスラリー(低結晶性アルミニウム化合物=擬ベーマイト)を得た(第2工程)。
【0086】
別途、純水327mLに酸化マグネシウム粉末(関東化学(株)製、特級)49.5gを添加し、1時間撹拌して酸化マグネシウムスラリーを得た。
【0087】
1.5L容のステンレス容器にて、純水257mLに、前記酸化マグネシウムスラリー及び調整済水酸化アルミニウムスラリーを投入し、55℃で90分間攪拌して一次反応させ、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を得た(第3工程)。
【0088】
その後、前記反応物に純水を加えて全量を1Lとし、これを2L容のオートクレーブに入れ、160℃で7時間水熱合成を行い、ハイドロタルサイト粒子スラリーを得た(第4工程)。
【0089】
得られたハイドロタルサイト粒子スラリーを95℃に保持しながら、ステアリン酸4.3g(ハイドロタルサイト粒子100質量部に対して3質量部)を加えて粒子の表面処理を行った(第5工程)。これをろ過及び洗浄した後、100℃で乾燥してハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。
【0090】
実施例3:ハイドロタルサイト粒子の合成
2L容のステンレス容器にて、48%水酸化ナトリウム溶液(関東化学(株)製、鹿特級)1110mLに、水酸化アルミニウム粉末(関東化学(株)製、鹿特級)730gを投入し、124℃で1時間撹拌してアルミン酸ソーダ溶液を得た(第1工程)。
【0091】
次いで、前記アルミン酸ソーダ溶液を80℃まで冷却した後、全量が1500mLとなるようにイオン交換水を投入した。
【0092】
1L容のステンレス容器に、前記アルミン酸ソーダ溶液96mLを分取した後、全量が730mLになるように純水を投入し(アルミン酸ソーダ溶液の濃度:0.8mol/L)、60℃に保ちながら撹拌して、炭酸ガスを0.7L/分の通気量で60分間に亘って通気し、調整済水酸化アルミニウムスラリー(低結晶性アルミニウム化合物=擬ベーマイト)を得た(第2工程)。
【0093】
別途、純水327mLに酸化マグネシウム粉末(関東化学(株)製、特級)49.5gを添加し、1時間撹拌して酸化マグネシウムスラリーを得た。
【0094】
1.5L容のステンレス容器にて、純水257mLに、前記酸化マグネシウムスラリー及び調整済水酸化アルミニウムスラリーを投入し、55℃で90分間攪拌して一次反応させ、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を得た(第3工程)。
【0095】
その後、前記反応物に純水を加えて全量を1Lとし、これを2L容のオートクレーブに入れ、160℃で7時間水熱合成を行い、ハイドロタルサイト粒子スラリーを得た(第4工程)。
【0096】
得られたハイドロタルサイト粒子スラリーを95℃に保持しながら、ステアリン酸4.3g(ハイドロタルサイト粒子100質量部に対して3質量部)を加えて粒子の表面処理を行った(第5工程)。これをろ過及び洗浄した後、100℃で乾燥してハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。
【0097】
実施例4:ハイドロタルサイト粒子の合成
2L容のステンレス容器にて、48%水酸化ナトリウム溶液(関東化学(株)製、鹿特級)1110mLに、水酸化アルミニウム粉末(関東化学(株)製、鹿特級)730gを投入し、124℃で1時間撹拌してアルミン酸ソーダ溶液を得た(第1工程)。
【0098】
次いで、前記アルミン酸ソーダ溶液を80℃まで冷却した後、全量が1500mLとなるようにイオン交換水を投入した。
【0099】
1L容のステンレス容器に、前記アルミン酸ソーダ溶液96mLを分取した後、全量が730mLになるように純水を投入し(アルミン酸ソーダ溶液の濃度:0.8mol/L)、60℃に保ちながら撹拌して、炭酸ガスを0.7L/分の通気量で150分間に亘って通気し、調整済水酸化アルミニウムスラリー(低結晶性アルミニウム化合物=擬ベーマイト)を得た(第2工程)。
【0100】
別途、純水327mLに酸化マグネシウム粉末(関東化学(株)製、特級)49.5gを添加し、1時間撹拌して酸化マグネシウムスラリーを得た。
【0101】
1.5L容のステンレス容器にて、純水257mLに、前記酸化マグネシウムスラリー及び調整済水酸化アルミニウムスラリーを投入し、55℃で90分間攪拌して一次反応させ、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を得た(第3工程)。
【0102】
その後、前記反応物に純水を加えて全量を1Lとし、これを2L容のオートクレーブに入れ、160℃で7時間水熱合成を行い、ハイドロタルサイト粒子スラリーを得た(第4工程)。
【0103】
得られたハイドロタルサイト粒子スラリーを95℃に保持しながら、ステアリン酸4.3g(ハイドロタルサイト粒子100質量部に対して3質量部)を加えて粒子の表面処理を行った(第5工程)。これをろ過及び洗浄した後、100℃で乾燥してハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。
【0104】
実施例5:ハイドロタルサイト粒子の合成
2L容のステンレス容器にて、48%水酸化ナトリウム溶液(関東化学(株)製、鹿特級)1110mLに、水酸化アルミニウム粉末(関東化学(株)製、鹿特級)730gを投入し、124℃で1時間撹拌してアルミン酸ソーダ溶液を得た(第1工程)。
【0105】
次いで、前記アルミン酸ソーダ溶液を80℃まで冷却した後、全量が1500mLとなるようにイオン交換水を投入した。
【0106】
1L容のステンレス容器に、前記アルミン酸ソーダ溶液192mLを分取した後、全量が730mLになるように純水を投入し(アルミン酸ソーダ溶液の濃度:1.6mol/L)、30℃に保ちながら撹拌して、炭酸ガスを0.7L/分の通気量で90分間に亘って通気し、調整済水酸化アルミニウムスラリー(低結晶性アルミニウム化合物=擬ベーマイト)を得た(第2工程)。
【0107】
別途、純水327mLに酸化マグネシウム粉末(関東化学(株)製、特級)49.5gを添加し、1時間撹拌して酸化マグネシウムスラリーを得た。
【0108】
1.5L容のステンレス容器にて、純水257mLに、前記酸化マグネシウムスラリー及び調整済水酸化アルミニウムスラリーを投入し、55℃で90分間攪拌して一次反応させ、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を得た(第3工程)。
【0109】
その後、前記反応物に純水を加えて全量を1Lとし、これを2L容のオートクレーブに入れ、160℃で7時間水熱合成を行い、ハイドロタルサイト粒子スラリーを得た(第4工程)。
【0110】
得られたハイドロタルサイト粒子スラリーを95℃に保持しながら、ステアリン酸4.3g(ハイドロタルサイト粒子100質量部に対して3質量部)を加えて粒子の表面処理を行った(第5工程)。これをろ過及び洗浄した後、100℃で乾燥してハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。
【0111】
実施例6:ハイドロタルサイト粒子の合成
2L容のステンレス容器にて、48%水酸化ナトリウム溶液(関東化学(株)製、鹿特級)1110mLに、水酸化アルミニウム粉末(関東化学(株)製、鹿特級)730gを投入し、124℃で1時間撹拌してアルミン酸ソーダ溶液を得た(第1工程)。
【0112】
次いで、前記アルミン酸ソーダ溶液を80℃まで冷却した後、全量が1500mLとなるようにイオン交換水を投入した。
【0113】
1L容のステンレス容器に、前記アルミン酸ソーダ溶液96mLを分取した後、全量が730mLになるように純水を投入し(アルミン酸ソーダ溶液の濃度:0.8mol/L)、30℃に保ちながら撹拌して、炭酸ガスを1.0L/分の通気量で90分間に亘って通気し、調整済水酸化アルミニウムスラリー(低結晶性アルミニウム化合物=擬ベーマイト)を得た(第2工程)。
【0114】
別途、純水327mLに酸化マグネシウム粉末(関東化学(株)製、特級)49.5gを添加し、1時間撹拌して酸化マグネシウムスラリーを得た。
【0115】
1.5L容のステンレス容器にて、純水257mLに、前記酸化マグネシウムスラリー及び調整済水酸化アルミニウムスラリーを投入し、55℃で90分間攪拌して一次反応させ、ハイドロタルサイト核粒子を含む反応物を得た(第3工程)。
【0116】
その後、前記反応物に純水を加えて全量を1Lとし、これを2L容のオートクレーブに入れ、160℃で7時間水熱合成を行い、ハイドロタルサイト粒子スラリーを得た(第4工程)。
【0117】
得られたハイドロタルサイト粒子スラリーを95℃に保持しながら、ステアリン酸4.3g(ハイドロタルサイト粒子100質量部に対して3質量部)を加えて粒子の表面処理を行った(第5工程)。これをろ過及び洗浄した後、100℃で乾燥してハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。
【0118】
比較例1:ハイドロタルサイト粒子の合成
特開2003-048712号公報に記載の実施例1の方法に準拠して、ハイドロタルサイト粒子の合成を行った。
【0119】
金属アルミニウム90gを150g/LのNaOH溶液3Lに溶解した。この溶液にMgOを399g添加した後、Na2CO3を174g添加し、95℃で撹拌しながら6時間反応させ、ハイドロタルサイト粒子スラリーを得た。
【0120】
得られたハイドロタルサイト粒子スラリーを95℃に保持しながら、ステアリン酸30g(ハイドロタルサイト粒子100質量部に対して3質量部)を加えて粒子の表面処理を行った。次いで、冷却、ろ過、及び洗浄を行って固形物を得た後、この固形物を100℃で乾燥してハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。
【0121】
比較例2:ハイドロタルサイト粒子の合成
前記比較例1において、ハイドロタルサイト粒子スラリーを得る際の95℃、6時間の反応条件を、170℃、6時間の水熱反応条件に変更したほかは、比較例1と同様にしてハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。
【0122】
比較例3:ハイドロタルサイト粒子の合成
特開2013-103854号公報に記載の実施例1の方法に準拠して、ハイドロタルサイト粒子の合成を行った。
【0123】
5L容の容器に、水酸化マグネシウム(d50=4.0μm)447.3g及び水酸化アルミニウム(d50=8.0μm)299.2gを入れ、全量が3Lになるように水を添加し、10分間攪拌することによりスラリーを調製した。得られたスラリーは、d50=10μm、d90=75μmであった。次いで、ダイノーミルMULTILAB(湿式粉砕装置)を用い、粉砕中にスラリー温度が40℃を超えないように冷却ユニットにて制御しながら、スラリーを18分間(滞留時間)湿式粉砕処理した。その結果スラリーは、d50=1.0μm、d90=3.5μm、スラリー粘度=5000cPとなった。その後、粉砕処理したスラリー2Lに、水酸化マグネシウムに1モルに対して1/2モルとなるように炭酸水素ナトリウムを添加し、全体が8Lになるように水で調整して10分間攪拌した。このスラリー3Lをオートクレーブに移し、170℃で2時間水熱反応を行ってハイドロタルサイト粒子スラリーを得た。
【0124】
得られたハイドロタルサイト粒子スラリーを95℃に保持しながら、ステアリン酸6.8g(ハイドロタルサイト粒子100質量部に対して3質量部)を加えて粒子の表面処理を行った。次いで、固体をろ過によりろ別した後、ろ過ケーキを35℃、9Lのイオン交換水で水洗した。ろ過ケーキをさらに100mLのイオン交換水で水洗し、この水洗水の導電率を測定した。その結果、水洗水の導電率は50μS/sm(25℃)であった。得られた水洗ケーキを100℃で24時間乾燥し、粉砕してハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。
【0125】
比較例4:ハイドロタルサイト粒子の合成
特開2004-099391号公報に記載の実施例4の方法に準拠して、ハイドロタルサイト粒子の合成を行った。
【0126】
水酸化マグネシウム(神島化学(株)製、#200)0.425mol、ギブサイト型水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製、H-42M)0.2mol、及びイオン交換水400mLを、5mmアルミナボール600mLと共に1.5L容のポットミルにて湿式粉砕し、平均粒径を0.4μmに調整した。次に、得られた混合懸濁液をボール洗浄水と共に2000mL容のステンレススチール製ビーカー(反応容器)に移し替え、全量を約1000mLとした。反応容器上部をラップで覆い、撹拌しながら95℃に昇温後、反応容器上部の空間に、0.01mol/時間の供給量で炭酸ガスを供給した。16時間後に反応系のpHが9.6に低下し、ほぼ安定した時点で反応終了とした。この懸濁液をオートクレーブに移し、170℃で6時間水熱処理を行ってハイドロタルサイト粒子スラリーを得た。
【0127】
得られたハイドロタルサイト粒子スラリーを95℃に保持しながら、ステアリン酸1.4g(ハイドロタルサイト粒子100質量部に対して3質量部)を加えて粒子の表面処理を行った。次いで、ろ過、水洗、及び蒸発乾固し、サンプルミルにて粉砕してハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。
【0128】
比較例5:ハイドロタルサイト粒子の合成
特開平06-136179号公報に記載の実施例1の方法に準拠して、ハイドロタルサイト粒子の合成を行った。
【0129】
水酸化ナトリウム39.17gと炭酸ナトリウム11.16gとを、攪拌しながら水1Lに加え、これを40℃に加温した。次いで、Mg/Alのモル比が2.0、NH3/Alのモル比が0.35となるように、塩化マグネウム(MgOとして19.7%)61.28g及び塩化アルミニウム(Al2O3として20.5%)37.33gと、塩化アンモニウム(NH3として31.5%)2.84gとを蒸留水500mLに加え、水溶液Aを調製した。この水溶液Aを、先の水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウムの反応系に徐々に注加した。注加終了後の反応系のpHは10.2であった。さらに、攪拌しながら90℃で約20時間反応を行ってハイドロタルサイト粒子スラリーを得た。
【0130】
得られたハイドロタルサイト粒子スラリーにステアリン酸1.1g加え、攪拌しながら粒子の表面処理を行った。得られた反応懸濁液をろ過及び水洗後、70℃で乾燥させ、次いで、小型のサンプルミルにて粉砕してハイドロタルサイト粒子の固形生成物を得た。
【0131】
試験例:ハイドロタルサイト粒子の評価
実施例1~6及び比較例1~5で得られたハイドロタルサイト粒子について、以下の方法で評価を行った。その結果を後の表1に示す。なお表1には、第2工程における反応系のアルミン酸塩溶液の濃度及び温度、炭酸ガスの通気量及び通気時間、及びpH、並びに第3工程における一次反応系のpHも併せて示す。
【0132】
(I)物性測定
[XRD測定]
X線回折装置((株)リガク製、MiniFlex600)を使用し、電圧40KV、電流15mA、測定範囲2θ/θ=3°~90°の条件にて測定を行い、X線回折パターンを得た。
(1)低結晶性アルミニウム化合物の結晶子サイズ
X線回折パターンにおける2θ/θ=38°の回折ピークを用い、結晶子サイズを求めた。
(2)ハイドロタルサイト粒子の結晶面(015)の回折ピークの強度と半値幅との比
X線回折パターンにおける結晶面(015)の回折ピークの相対強度D(015)と、該回折ピークの半値全幅(full width at half maximum、FWHM)FWHM(015)との比(015)比率を、以下の計算式に基づいて求めた。
(015)比率=D(015)/FWHM(015)
【0133】
[BET比表面積]
JIS Z 8830にて規定の方法に準拠して測定した。
【0134】
[元素分析]
Mg/Al(モル比)は、ICP発光分析装置((株)パーキンエルマー製、Optima-8300)を使用して測定した。前処理として、ハイドロタルサイト粒子を計量し、塩酸と混合した後、加熱溶解を行って試料溶液を得た。その後、得られた試料溶液を、イオン交換水を使用して所定の濃度に希釈し、検量線法を用いて測定値を得た。
【0135】
[全炭酸濃度]
炭素・硫黄分析装置((株)HORIBA製、EMIA-920V)を使用した。るつぼにハイドロタルサイト粒子を計量し、助燃剤であるタングステン粉((株)HORIBA製)及び鉄粉(キシダ化学(株)製)を混合した後、高周波誘導過熱炉にて完全燃焼させ、発生したガスから水分を除去し、赤外線ガス分析計に導入して測定値を得て、この値を全炭酸濃度とした。
【0136】
(II)特性評価
ポリ塩化ビニル(重合度:1000)100質量部に対して、ジオクチルフタレート50質量部、ステアリン酸亜鉛0.5質量部、及びハイドロタルサイト粒子2質量部を添加し、均一に混合して樹脂組成物を調製した。
【0137】
得られた樹脂組成物を160℃のロールで5分間混練し、成形してシートを作製した。作製したシートを用い、各々以下に示す方法でオーブン耐熱性、プレス耐熱性、及び透明性を評価した。
【0138】
[ギアオーブン試験によるオーブン耐熱性]
前記シートを、ギアオーブン内にて180℃の雰囲気下に60分間曝露した。曝露後のシートの変色を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:変色が見られなかった。
○:ごく僅かに変色が見られた。
△:若干変色が見られた。
×:変色が見られた。
××:著しい変色が見られた。
【0139】
[プレス耐熱性]
前記シートを、170℃のプレスにて20分間プレスした。プレス後のシートの変色を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:変色が見られなかった。
○:ごく僅かに変色が見られた。
△:若干変色が見られた。
×:変色が見られた。
××:著しい変色が見られた。
【0140】
[透明性]
前記シートを、170℃のプレスにて5分間プレスした。プレス後のシートの透明性(HAZE値)を、JIS K 7136にて規定の方法に準拠して測定した。
【0141】
なお実施例1において、前記第2工程で得られた低結晶性アルミニウム化合物に対して、約105℃で通常の乾燥処理を行った後、前記[XRD測定]の方法に従ってXRD測定を行い、X線回折パターンを得た。その結果を
図2に示す。
【0142】
さらに実施例1及び比較例1において、最終的に得られたハイドロタルサイト粒子について、前記[XRD測定]の方法に従ってXRD測定を行い、X線回折パターンを得た。その結果を
図3(a)に示す。また、該X線回折パターンにおける結晶面(012)、(015)、及び(018)の回折ピークの拡大図を
図3(b)に示す。
【0143】
【0144】
表1に示すように、実施例1~6で得られたハイドロタルサイト粒子は、いずれも本発明の製造方法における第1工程~第4工程を順に行って得られたものであり、
図3の実施例1の結果に代表されるように、結晶面(012)、(015)、及び(018)の回折ピークがシャープで、いずれも(015)比率が4000cps/degree以上と大きい。また、これらのハイドロタルサイト粒子は、いずれもBET比表面積が8m
2/g~18m
2/gと小さい。そして、これらのハイドロタルサイト粒子を配合して得られた樹脂組成物は、いずれもオーブン耐熱性、プレス耐熱性、及び透明性に優れている。
【0145】
一方、比較例1~5で得られたハイドロタルサイト粒子は、いずれも従来の製造方法によって得られたものであり、
図3の比較例1の結果に代表されるように、結晶面(012)、(015)、及び(018)の回折ピークがブロードで、いずれも(015)比率が4000cps/degree未満と小さい。そして、これらのハイドロタルサイト粒子を配合して得られた樹脂組成物は、オーブン耐熱性、プレス耐熱性、及び透明性のいずれも、実施例1~6の樹脂組成物に比べて劣るものである。比較例3のハイドロタルサイト粒子は、(015)比率が比較例1~5の中では比較的大きく、該ハイドロタルサイト粒子を配合して得られた樹脂組成物は、オーブン耐熱性及びプレス耐熱性が良好であるものの、透明性は不充分である。
【0146】
なお、実施例1~6及び比較例5で得られたハイドロタルサイト粒子について、特開平06-136179号公報に記載の、以下の式:
Is=tanθ2/tanθ1
(式中、θ1は、面間隔2.49Å~2.05ÅのX線回折ピークにおけるピーク垂線と挟角側ピーク接線とがなす角度、θ2は、該ピークにおけるピーク垂線と広角側ピーク接線とがなす角度である)で定義される積層不整指数(Is)を求めた。その結果、比較例5で得られたハイドロタルサイト粒子の結晶面(015)の積層不整指数(Is)は、2を超えたのに対して、実施例1~6で得られたハイドロタルサイト粒子では、いずれも1.2未満であった。これにより、比較例5で得られたハイドロタルサイト粒子の回折ピークは極めて非対称なピークであるが、実施例1~6で得られたハイドロタルサイト粒子の回折ピークは対称に近いピークであり、実施例1~6で得られたハイドロタルサイト粒子は比較例5で得られたハイドロタルサイト粒子と全く異なるものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明のハイドロタルサイト粒子は、例えば樹脂安定剤等の樹脂用の添加剤として有用である。