(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】アンテナ構造体
(51)【国際特許分類】
H01Q 15/14 20060101AFI20230307BHJP
H01Q 15/23 20060101ALI20230307BHJP
H01Q 1/22 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
H01Q15/14
H01Q15/23
H01Q1/22 B
(21)【出願番号】P 2020060457
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000165848
【氏名又は名称】原田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100211052
【氏名又は名称】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】川田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍治
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 良平
(72)【発明者】
【氏名】山本 努
(72)【発明者】
【氏名】岡 慎吾
【審査官】佐々木 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-134287(JP,A)
【文献】特表2012-500544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取り付けられるアンテナ構造体であって、
対象波を送受信するために前記車両のルーフパネル上に設けられたアンテナ装置と、
前記対象波の1波長以上の距離だけ前記アンテナ装置に対して前記車両の後方側に離間して配置された絶縁性の外装部品と、
前記外装部品に設けられ、前記ルーフパネルに対して電気的に絶縁された面状の導体と、
を備え、
前記導体と前記ルーフパネルの後端面と
の間には、絶縁された領域が形成され、
前記車両の前後方向における前記絶縁された領域の長さは、前記対象波の0.3波長以上
である、アンテナ構造体。
【請求項2】
前記導体が、金属製の薄膜である、請求項1に記載のアンテナ構造体。
【請求項3】
前記導体が、前記外装部品の内部に設けられている、請求項1又は2に記載のアンテナ構造体。
【請求項4】
前記外装部品が、前記導体の上面を覆う上部を含み、前記上部の最大厚みが2mm以下である、請求項3に記載のアンテナ構造体。
【請求項5】
前記アンテナ装置が、前記ルーフパネル上に取り付けられたアンテナベースを含み、
前記車両の車幅方向において、前記導体の幅が、前記アンテナベースの幅よりも広く、前記外装部品の幅よりも狭い、請求項1~4の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項6】
前記車両の前後方向において、前記導体の長さが、前記外装部品の長さよりも短い、請求項1~5の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項7】
前記導体が、前記外装部品の前記車両の車幅方向における端部及び前記外装部品の前記車両の前後方向における端部から離間して配置されている、請求項1~6の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項8】
前記導体は、前記車両の車幅方向に延在する第1の縁部及び第2の縁部を有し、前記第1の縁部が前記第2の縁部よりも前記車両の前方側に配置され、前記第2の縁部の前記車幅方向における長さが前記第1の縁部の前記車幅方向における長さよりも短い、請求項1~4の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項9】
前記外装部品に設けられた別の導体を更に備え、
前記車両の前後方向において、前記導体と前記別の導体とが互いに離間して配置されている、請求項1~4の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項10】
前記外装部品が、樹脂製のリアスポイラである、請求項1~9の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項11】
前記導体が、メッシュ状に形成されている、請求項1~10の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項12】
前記導体と前記ルーフパネルとの間に前記外装部品の一部が介在している、請求項3又は4に記載のアンテナ構造体。
【請求項13】
前記絶縁された領域は、前記外装部品と前記ルーフパネルとの間に形成された空間と、前記空間と前記導体との間に配置された前記外装部品の一部とを含み、前記車両の前後方向における前記空間及び前記外装部品の一部の長さの合計が、前記対象波の0.3波長以上である、請求項1に記載のアンテナ構造体。
【請求項14】
車両に取り付けられるアンテナ構造体であって、
対象波を送受信するために前記車両のルーフパネル上に設けられたアンテナ装置と、
前記対象波の1波長以上の距離だけ前記アンテナ装置に対して前記車両の後方側に離間して配置された絶縁性の外装部品と、
前記外装部品内を伝搬する前記対象波のポインティングベクトルに乱れが生じる部分に対して少なくとも部分的に重なるように前記外装部品に設けられた導体と、
を備え、
前記導体と前記ルーフパネルの後端面と
の間には、絶縁された領域が形成され、
前記車両の前後方向における前記絶縁された領域の長さは、前記対象波の0.3波長以上
である、アンテナ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のルーフパネル上に取り付けられるアンテナ装置が知られている。例えば、下記特許文献1には、車両のルーフパネル上に設けられたアンテナベースと、アンテナベース上に設けられた複数のアンテナと、複数のアンテナを収容するアンテナケースと、複数のアンテナで受信された信号を車内に配置された電子機器へ送る同軸ケーブルと、を備えるアンテナ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなアンテナ装置は、車両デザインによって定められた位置に配置されるが、車両上の配置位置によってはアンテナ装置の性能に影響が及ぶことがある。例えば、外装部品であるリアスポイラを有する車両上にアンテナ装置が搭載される場合には、リアスポイラによって車両周辺の電界分布に乱れが生じ、アンテナ装置の利得が低下することがある。
【0005】
したがって、外装部品に起因するアンテナ装置の利得の低下を抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、車両に取り付けられるアンテナ構造体が提供される。このアンテナ構造体は、対象波を送受信するために車両のルーフパネル上に設けられたアンテナ装置と、対象波の1波長以上の距離だけアンテナ装置から車両の後方側に離間して配置された絶縁性の外装部品と、外装部品に設けられ、ルーフパネルに対して電気的に絶縁された面状の導体と、を備える。
【0007】
絶縁性の外装部品が車両に搭載されている場合には、外装部品を伝搬して誘電体の波長短縮の影響を受けた対象波と空間中を伝搬する対象波等とが複合的に影響し合うことでアンテナ装置周辺の電界分布に乱れが生じることがある。このような電界分布の乱れは、アンテナ装置の送受信性能を劣化させる原因となる。上述のアンテナ構造体では、外装部品に設けられ、ルーフパネルに対して電気的に絶縁された面状の導体がシールドとして機能することによって、外装部品を伝搬して誘電体の波長短縮の影響を受けた対象波と空間中を伝搬する対象波等との複合的な影響を抑制することができる。その結果、車両周辺の電界分布の乱れを抑制し、アンテナ装置の利得の低下を抑制することができる。
【0008】
一実施形態では、水平方向において導体とルーフパネルの後端面とが、対象波の0.3波長以上の距離だけ離間していていもよい。外装部品の設計上、導体の設置位置には制約が存在するため、導体の面積は小さいことが望ましい。この実施形態では、導体とルーフパネルの後端面との離間距離を0.3波長以上にすることにより、導体の面積を抑えつつアンテナ装置の利得の低下を抑制することができる。
【0009】
一実施形態では、導体が、金属製の薄膜であってもよい。金属製の薄膜を導体として用いることによって、コストの増加を抑えつつアンテナ装置の利得の低下を抑制することができる。
【0010】
一実施形態では、導体が、外装部品の内部に設けられていてもよい。導体を外装部品の内部に設けることで、導体による車両デザインへ影響を防止することができる。
【0011】
一実施形態では、外装部品が、導体の上面を覆う上部を含み、上部の最大厚みが2mm以下であってもよい。外装部品の上部の最大厚みを2mm以下にすることによって、外装部品による波長短縮の影響を受けた対象波と空間中を伝搬する対象波等との複合的な影響を小さくすることができ、その結果、車両周辺の電界分布に乱れが生じることを抑制することができる。
【0012】
一実施形態では、アンテナ装置が、ルーフパネル上に取り付けられたアンテナベースを含み、車両の車幅方向において、導体の幅が、アンテナベースの幅よりも広く、外装部品の幅よりも狭くてもよい。このような幅を有する導体を用いることにより、導体の面積を抑えつつアンテナ装置の利得の低下を抑制することができる。
【0013】
一実施形態では、車両の前後方向において、導体の長さが、外装部品の長さよりも短くてもよい。導体の長さを外装部品の長さよりも短くすることで、導体の面積を抑えつつアンテナ装置の利得の低下を抑制することができる。
【0014】
一実施形態では、導体が、外装部品の車両の車幅方向における端部及び外装部品の車両の前後方向における端部から離間して配置されていてもよい。この実施形態によれば、導体の面積を抑えつつアンテナ装置の利得の低下を抑制することができる。
【0015】
一実施形態では、導体は、車両の車幅方向に延在する第1の縁部及び第2の縁部を有し、第1の縁部が第2の縁部よりも車両の前方側に配置され、第2の縁部の車幅方向における長さが第1の縁部の車幅方向における長さよりも短くてもよい。第2の縁部の長さを第1の縁部の長さよりも短くすることによって、導体の面積を抑えつつアンテナ装置の利得の低下を抑制することができる。
【0016】
一実施形態のアンテナ構造体は、外装部品に設けられた別の導体を更に備え、車両の前後方向において、導体と別の導体とが互いに離間して配置されていてもよい。外装部品に複数の導体を設けることにより、導体の面積を抑えつつアンテナ装置の利得の低下を抑制することができる。
【0017】
一実施形態では、外装部品が、樹脂製のリアスポイラであってもよい。なお、導体が、メッシュ状に形成されていてもよい。
【0018】
一態様では、車両に取り付けられるアンテナ構造体が提供される。このアンテナ構造体は、対象波を送受信するために車両のルーフパネル上に設けられたアンテナ装置と、対象波の1波長以上の距離だけアンテナ装置に対して車両の後方側に離間して配置された絶縁性の外装部品と、外装部品内を伝搬する対象波のポインティングベクトルに乱れが生じる部分に対して少なくとも部分的に重なるように外装部品に設けられた導体と、を備える。
【0019】
ポインティングベクトルに乱れが生じる部分では、外装部品を伝搬して誘電体の波長短縮の影響を受けた対象波と空間中を伝搬する対象波等との間に複合的な影響が生じやすい。上述のアンテナ構造体では、導体によって対象波のポインティングベクトルに乱れが生じる部分に少なくとも部分的に重なることにより、外装部品の全体に重なるように導体を配置する場合と比較して、導体の面積を抑えつつアンテナ装置の利得の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様及び種々の実施形態によれば、外装部品に起因するアンテナ装置の利得の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態のアンテナ構造体が搭載された車両の側面図である。
【
図3】アンテナ装置の一部を破断して示す斜視図である。
【
図4】対象波のポインティングベクトルを示す図である。
【
図5】リアスポイラの周辺を拡大して示す側面図である。
【
図6】導体の平面形状の例を模式的に示す図である。
【
図7】導体の平面形状の例を模式的に示す図である。
【
図9】アンテナ装置の水平方向の放射パターンを示す図である。
【
図10】アンテナ装置の車両後方における利得を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0023】
図1は、一実施形態のアンテナ構造体10が搭載された車両1の側面図であり、
図2は、車両1の平面図である。アンテナ構造体10は、車両1に搭載され、目的の周波数帯域の電波(対象波)を送受信する。
図1及び
図2に示すように、アンテナ構造体10は、アンテナ装置12、リアスポイラ14及び導体16を備えている。
【0024】
アンテナ装置12は、対象波を送受信するための通信用アンテナであり、車両1のルーフパネル2上に設けられている。
図3は、アンテナ装置12の一部を破断して示す斜視図である。
図3に示すように、アンテナ装置12は、アンテナベース21、複数のアンテナ素子22a,22b,22c及びカバー23を備えている。
【0025】
アンテナベース21は、例えば金属製、合金製又は樹脂製の架台であり、ルーフパネル2上に固定されている。アンテナベース21は、複数のアンテナ素子22a,22b,22cを支持している。アンテナベース21には、複数のアンテナ素子22a,22b,22cに接続されたケーブル類を挿通させる開口部が形成されている。
【0026】
複数のアンテナ素子22a,22b,22cは、アンテナベース21上に設けられている。アンテナ素子22aは、例えば車車間通信又は路車間通信用のDSRC(Dedicated Short Range Communications)アンテナであり、例えば5.8GHzの帯域の電波を用いて双方向の無線通信を行う。アンテナ素子22aは、送受信される電波の1/4波長のアンテナ長を有するアンテナ素子である。アンテナ素子22bは、例えば衛星デジタルラジオ用のSXM(Sirius XM)アンテナである。アンテナ素子22cは、例えば測位情報を受信するGNSS(Global Navigation Satellite System)アンテナである。以下では、アンテナ素子22aによって送受信される5.8GHzの帯域の電波を対象波として説明する。
【0027】
複数のアンテナ素子22a,22b,22cは、アンテナベース21上に設けられた回路基板24a,24b,24cに対してそれぞれ電気的に接続されている。回路基板24a,24b,24cは、例えば電子回路を備えており、回路基板24a,24b,24cによって調整された信号は、アンテナベース21の開口部に挿通されたケーブル類を介して車両1内に設けられた機器に出力される。
【0028】
カバー23は、例えば樹脂によって構成され、アンテナベース21、複数のアンテナ素子22a,22b,22c及び回路基板24a,24b,24cを覆っている。カバー23は、例えば複数のねじによってアンテナベース21に固定されている。カバー23の縁は、パッド25に接することでカバー23の内部を密封する。
【0029】
図1を再び参照する。リアスポイラ14は、外装部品の一種であり、ルーフパネル2の後方に設けられている。リアスポイラ14は、絶縁性の材料、例えば樹脂によって構成されている。リアスポイラ14は、流線形の外形を有し、車両1の走行時に車両1周辺の空気流を整流する。ルーフパネル2の後端面2aとリアスポイラ14との間には僅かな隙間が形成されていてもよい。このような隙間が形成されていることにより、車両1のバックドア3の開閉が許容される。
【0030】
また、リアスポイラ14は、アンテナ装置12に対して対象波の1波長以上の距離だけ離間して配置されている。例えば、アンテナ装置12によって送受信される対象波が、5.8GHzの周波数帯の電波である場合には、アンテナ装置12とリアスポイラ14との間の距離D1は51.7mm以上に設定される(
図2参照)。なお、
図2に示す例では、リアスポイラ14は、上面視において略四角形状をなしており、車両1の前後方向において長さLsを有し、車両1の車幅方向において幅Wsを有している。
【0031】
このようなリアスポイラ14が車両1に搭載されると、車両1周辺には電界分布の乱れが生じることがある。
図4は、シミュレーションによって求められた車両1の周辺の対象波の進行方向を表すポインティングベクトルを表す図である。
図4に示すように、リアスポイラ14内を伝搬する対象波のポインティングベクトルの向きは、対象波の進行方向において周期的に変化しており、これによりリアスポイラ14内には、ポインティングベクトルに乱れが生じる部分(以下、「乱流部30」と称する。)が周期的に発生している。
【0032】
なお、乱流部30とは、後述する導体16がリアスポイラ14に設けられていないときに、リアスポイラ14と空間との境界において上向きのポインティングベクトルが発生する部分である。これらの乱流部30は、リアスポイラ14の誘電体による波長短縮やリアスポイラ14下方の車体を構成する金属体からの反射等の複合的な要因によって生じると考えられる。乱流部30が発生している場合には、車両1周辺の電界分布にも乱れが発生する。その結果、アンテナ装置12の放射パターンに乱れが生じ、アンテナ装置12の利得が低下する。
【0033】
このようなアンテナ装置12の利得の低下を抑制するために、
図5に示すように、リアスポイラ14には導体16が設けられている。導体16は、例えば面状をなす銅箔、アルミ箔といった金属製の薄膜である。
【0034】
図5に示すように、導体16は、リアスポイラ14の内部に配置されている。例えば、導体16は、リアスポイラ14のインナースポイラとアウタースポイラとの境界面に沿って設けられていてもよい。ここで、リアスポイラ14のうち導体16の上面を覆う部分を上部14aとし、リアスポイラ14のうち導体16よりも下方に配置された部分を下部14bとした場合に、上部14aの最大厚みTH(すなわち、リアスポイラ14の上面と導体16の上面との間の距離)は、例えば2mm以下に設定されていてもよい。上部14aの最大厚みTHを2mm以下にすることによって、リアスポイラ14内を伝搬する対象波と空間中の対象波との干渉を抑制することができる。
【0035】
この導体16は、ルーフパネル2に対して電気的に絶縁されている。水平方向における導体16とルーフパネル2の後端面2aと離間距離をD2としたときに、離間距離D2は、対象波の0.3波長以上に設定されていてもよい。例えば、対象波の波長が5.8GHzである場合には、離間距離D2は、15.5mm以上に設定される。導体16がルーフパネル2の後端面2aに対して離間して配置されることにより、導体16とルーフパネル2との間に樹脂製のリアスポイラ14が介在することになり、導体16がルーフパネル2に対して電気的に絶縁される。なお、水平方向における導体16とルーフパネル2の後端面2aとの離間距離D2は、4.5波長以下であってもよい。離間距離D2が4.5波長よりも大きくなると、アンテナ装置12の利得改善効果が低下するためである。
【0036】
ところで、リアスポイラ14の設計上、導体16の設置位置には制約が存在するので、導体16の面積は可能な限り小さいことが望ましい。そこで、導体16の面積を抑制しつつ電界分布の乱れを低減するために、導体16は、乱流部30に対して少なくとも部分的に重なるようにリアスポイラ14に設けられていてもよい。導体16は、種々の平面形状を有することができる。
図6及び
図7は、導体16の平面形状の例を模式的に示す平面図である。なお、説明の便宜上、
図6及び
図7では、リアスポイラ14の上部14aを省略して図示している。
【0037】
図6(a)は、導体16の平面形状の一例を示している。
図6(a)に示す導体16は、四角形の平面形状を有し、導体16の幅Wcは、車両1の車幅方向におけるリアスポイラ14の幅Wsと同じに形成され、導体16の長さLcは、車両1の前後方向におけるリアスポイラ14の長さLsよりも短く形成されている。導体16は、車両1の車幅方向に延在する第1の縁部17aと、第1の縁部17aの後方において車両1の車幅方向に延在する第2の縁部17bと、第1の縁部17aと第2の縁部17bとを接続する一対の第3の縁部17cとを有している。第1の縁部17aは、ルーフパネル2の後端面2aから距離D2だけ離間した位置に配置され、第2の縁部17bは、リアスポイラ14の後端部に沿って延在している。一対の第3の縁部17cは、リアスポイラ14の車幅方向の両端部に沿って延在している。すなわち、
図6(a)に示す導体16は、平面視においてリアスポイラ14の後部に重なるように配置されている。
【0038】
図6(b)は、導体16の平面形状の別の一例を示している。
図6(b)に示す導体16は、台形状の平面形状を有し、導体16の幅Wcは、リアスポイラ14の後端部に近づくにつれて徐々に狭くなるように形成され、導体16の長さLcは、車両1の前後方向におけるリアスポイラ14の長さLsよりも短く形成されている。導体16は、車両1の車幅方向に延在する第1の縁部17aと、第1の縁部17aの後方において車両1の車幅方向に延在する第2の縁部17bと、第1の縁部17aと第2の縁部17bとを接続する一対の第3の縁部17cとを有している。第1の縁部17aは、ルーフパネル2の後端面2aから距離D2だけ離間した位置に配置され、第2の縁部17bは、第1の縁部17aよりも短く、リアスポイラ14の後端部に沿って延在している。
【0039】
図7(a)は、導体16の平面形状の別の一例を示している。
図7(a)に示す導体16は、矩形状の平面形状を有し、導体16の幅Wcは、車両1の車幅方向におけるアンテナベース21の幅Waよりも広く、リアスポイラ14の幅Wsよりも短く形成され、導体16の長さLcは、車両1の前後方向におけるリアスポイラ14の長さLsよりも短く形成されている。すなわち、この導体16は、リアスポイラ14の車幅方向における両端部、及び、リアスポイラ14の前後方向における両端部に対して離間して配置されている。この導体16は、平面視において、乱流部30に部分的に重なるようにリアスポイラ14に取り付けられている。
【0040】
図7(b)は、導体16の平面形状の別の一例を示している。
図7(b)に示す導体16は、第1の導体16a及び第2の導体(別の導体)16bを含んでいる。第1の導体16a及び第2の導体16bの各々は、略帯状の平面形状を有し、第1の導体16a及び第2の導体16bの幅Wcは、車両1の車幅方向におけるリアスポイラ14の幅Wsと同じ幅に形成され、第1の導体16a及び第2の導体16bの長さLcは、車両1の前後方向におけるリアスポイラ14の長さLsよりも短く形成されている。これら第1の導体16a及び第2の導体16bは、平面視において2つの乱流部30に重なるように、車両1の前後方向に互いに離間して配置されている。
【0041】
図6及び
図7に示す導体16は、対象波のポインティングベクトルに乱れが生じる部分、すなわち乱流部30に対して少なくとも部分的に重なるようにリアスポイラ14の内部に設けられている。このように導体16を配置することによって、導体16の面積を抑えつつ、リアスポイラ14内を伝搬する対象波と空間中を伝搬する対象波との干渉を抑制して、車両1周辺の電界分布の乱れを緩和することができる。
【0042】
次いで、上記実施形態に係るアンテナ構造体10の作用効果について説明する。
図8(a)は、ルーフパネル2を模した鋼板上にアンテナ装置12を配置し、アンテナ素子22aに給電したときのアンテナ装置12の近傍に生じる電界分布を示した画像である。
図8(b)は、アンテナ装置12の後方にリアスポイラ14を模した厚さ4mmの樹脂製の板材32が配置し、アンテナ装置12のアンテナ素子22aに給電したときのアンテナ装置12の近傍に生じる電界分布を示した画像である。
図8(a)及び(b)に示す帯状の線の濃淡は、対象波の電界の振幅を表している。
【0043】
図8(a)に示すように、アンテナ装置12の後方に樹脂製の板材32が存在しない場合には、アンテナ装置12の周囲には滑らかな電界が形成される。一方、アンテナ装置12の後方に樹脂製の板材32が存在する場合には、板材32の上方において電界が大きく乱れている。このような電界の乱れは、板材32内を伝搬して波長短縮の影響を受けた対象波と空間中の対象波等とが相互に影響することで生じるものと考えられる。このような電界の乱れは、アンテナ装置12の利得を劣化させる原因となる。
【0044】
これに対し、上記実施形態のアンテナ構造体10では、ルーフパネル2に対して電気的に絶縁された導体16がリアスポイラ14に設けられている。この導体16はシールドとして機能することによって、リアスポイラ14を伝搬する対象波と空間中を伝搬する対象波との干渉を抑制することができる。その結果、車両1の周辺の電界分布の乱れを緩和し、アンテナ装置12の利得の低下を抑制することができる。
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明の作用効果についてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1~3では、簡略化した車両モデルに上述したアンテナ構造体10を搭載したと想定したときの、アンテナ装置12のアンテナ素子22aの水平面内の放射パターンのシミュレーション結果である。リアスポイラ14としては、1000mmの幅Wsを有し、250mmの長さLsを有する樹脂製のリアスポイラを用いた。
【0047】
実施例1では、
図6(a)に示す導体16のように、1000mmの幅Wcを有し230mmの長さLcを有する銅箔をルーフパネル2に対して20mm離間した位置に配置した。実施例2では、
図7(b)に示す第1の導体16a及び第2の導体16bのように、1000mmの幅Wcを有し、65mmの長さLcを有する2枚の銅箔を車両1の前後方向に離間して配置した。具体的には、ルーフパネル2に対して40mm離間した位置に第1の導体16aを配置し、第1の導体16aに対して車両1の後方に49mm離間した位置に第2の導体16bを配置した。実施例3では、
図7(a)に示す導体16のように、500mmの幅Wcを有し、125mmの長さLcを有する銅箔をルーフパネル2に対して110mm離間した位置に配置した。
【0048】
一方、比較例1では、リアスポイラ14が存在しない車両のルーフパネル2上にアンテナ装置12を搭載し、アンテナ素子22aの水平面内の放射パターンを測定した。比較例2では、リアスポイラ14に導体16を設けなかったこと以外は、実施例1~3と同じ条件でアンテナ素子22aの水平面内の放射パターンを測定した。比較例3では、平面視においてリアスポイラ14の全体と重なるように導体16を配置した状態でアンテナ素子22aの水平面内の放射パターンを測定した。
【0049】
図9は、実施例1~3及び比較例1~3によってシミュレーションによって解析したアンテナ素子22aの水平面における放射パターンを示している。なお、
図9では、車両1の前方を0°として表し、車両1の後方を180°として表している。
図10は、実施例1~3及び比較例1~3によって測定されたアンテナ素子22aの180°方向の利得を示している。
図10に示すように、実験例1によって測定されたアンテナ装置12の利得は、導体16を有さない比較例2によって測定されたアンテナ装置12の利得よりも大幅に高く、リアスポイラ14を備えていない比較例1によって測定されたアンテナ装置12の利得と比較しても同程度であることが確認された。また、実施例2及び実験例3では、実験例1及び比較例3よりも小さな面積の導体16を用いたが、導体16を有さない比較例2と比較して高い利得を得ることができることが確認された。
【0050】
以上、種々の実施形態に係るアンテナ構造体10について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。
【0051】
例えば、上記実施形態では、導体16として金属製の薄膜を利用しているが、導体16は金属製の薄膜に限定されるものではなく、導電性を有する他の面状体を用いてもよい。例えば、導体16は、平面状又は曲面状の金属プレートであってもよいし、導電性を有する塗料、プライマー及びゴム等であってもよい。また、導体16は、メッシュ状に形成されていてもよい。導体16が、メッシュ状に形成されている場合であっても、導体16をシールドとして機能させることができるので、アンテナ装置12の利得の低下を抑制することが可能である。
【0052】
また、上記実施形態では、対象波として車車間通信又は路車間通信用の5.8GHz帯の電波を利用する例について説明したが、他の周波数帯の電波を対象波として用いてもよい。また、一実施形態では、リアスポイラ14とは異なる絶縁性の外装部品に、導体16が設けられてもよい。リアスポイラ14とは異なる外装部品に導体16を設けた場合であっても、上記実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0053】
なお、上記実施形態では、導体16がリアスポイラ14の内部に配置されているが、導体16のリアスポイラ14の表面を覆うように配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…車両、2…ルーフパネル、2a…後端面、10…アンテナ構造体、12…アンテナ装置、14…リアスポイラ、14a…上部、16…導体、16a…第1の導体、16b…第2の導体、17a…第1の縁部、17b…第2の縁部、21…アンテナベース。