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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】電極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20230307BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020062971
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021163591
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2021-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 「研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム」委託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504358517
【氏名又は名称】有限会社ケー・アンド・ダブル
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】湊 啓裕
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
(72)【発明者】
【氏名】花輪 洋宇
(72)【発明者】
【氏名】前新 奏
(72)【発明者】
【氏名】村重 隆太
(72)【発明者】
【氏名】直井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】直井 和子
(72)【発明者】
【氏名】岩間 悦郎
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-084449(JP,A)
【文献】特開2012-151037(JP,A)
【文献】特開2013-077517(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104916840(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0300446(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素材料の表面を基点に結晶化したリン酸バナジウムリチウムを含み、
前記リン酸バナジウムリチウムは、前記リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶の内部および表面に、リン酸マンガンリチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マグネシウムリチウム、リン酸コバルトリチウム、又はリン酸チタンリチウムの粒子が混在して混合体を形成し、
前記リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶は、Li (PO 結晶構造を有し、X線粉末回折法による回折パターンがLi (PO の結晶構造を表している電極材料。
【請求項2】
前記リン酸マンガンリチウム、前記リン酸鉄リチウム、前記リン酸マグネシウムリチウム、前記リン酸コバルトリチウム、又は前記リン酸チタンリチウムの粒子は、前記リン酸バナジウムリチウムのバナジウムに対して1~25mol%含まれている請求項1記載の電極材料。
【請求項3】
導電性炭素材料の表面を基点に結晶化したリン酸バナジウムリチウムを含み、
前記リン酸バナジウムリチウムは、前記リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶の内部および表面に、前記リン酸バナジウムリチウムの結晶と、リン酸マンガンリチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マグネシウムリチウム、リン酸コバルトリチウム、又はリン酸チタンリチウムの結晶とが存在し、
前記リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶は、Li (PO 結晶構造を有し、X線粉末回折法による回折パターンがLi (PO の結晶構造を表している電極材料。
【請求項4】
前記リン酸マンガンリチウム、前記リン酸鉄リチウム、前記リン酸マグネシウムリチウム、前記リン酸コバルトリチウム、又は前記リン酸チタンリチウムの結晶は、前記リン酸バナジウムリチウムのバナジウムに対して1~25mol%含まれている請求項3記載の電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池や電気化学キャパシタ等の蓄電デバイスに用いられる電極材料および電極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池や電気化学キャパシタ等の蓄電デバイスの電極としては、リチウムイオンを含む正極材料と導電助剤とを金属箔の表面に固着させた正極、及びリチウムイオンの脱挿入可能な負極材料と導電助剤とを金属箔の表面に固着させた負極が使用されている。近年、その電極材料としてナシコン構造(Na Super Ionic Conductor)を有するリン酸バナジウムリチウム(Li(PO)が注目されている。
【0003】
リン酸バナジウムリチウムは、Li/Li基準に対して3.8V~4.8Vで作動する。また、各電位プラトーに応じて最大で197mAh/gの大きな容量を示し得る。そして、リン酸バナジウムリチウムは、リチウムが三次元拡散可能な結晶構造を有し、高速充放電可能が可能である。PO結合を有するリン酸バナジウムリチウムは、熱安定性が高く、安全性に優れている。以上のことから、リン酸バナジウムリチウムの電極材料としての利用が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-52970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者等が、リン酸バナジウムリチウムについて研究を進めた結果、リン酸バナジウムリチウムは、大気中に含まれる水分により結晶構造が変化する可能性が指摘された。そして、この水分によるリン酸バナジウムリチウムの変化により、リン酸バナジウムリチウムを用いて製造された電極の性能特性に劣化が生じている可能性が考えられた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものである。その目的は、水分による結晶構造の変化を抑制可能な電極材料および電極材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
リン酸バナジウムリチウムを例えば湿度80%以上の高湿度環境に放置すると、放置前後でリン酸バナジウムリチウムのXRDスペクトルに変化が生じ、大気中の水分によりリン酸バナジウムリチウムの結晶構造が変化していることが推測された。そこで、発明者等は、リン酸バナジウムリチウムの水分への耐久性を高めるために鋭意検討を行い、リン酸バナジウムリチウムの製造工程において特定の金属塩を混合することで、リン酸バナジウムリチウムの結晶構造の変化を抑制できるという知見を得た。
【0008】
そこで、上記の目的を達成するため、本発明に係る電極材料は、導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、前記リン酸バナジウムリチウムは、金属酸化物との混合体である。
【0009】
前記リン酸バナジウムリチウムは、前記リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶の内部および表面に金属酸化物粒子が混在して混合体を形成していても良い。
【0010】
前記金属酸化物は、金属リン酸化物であっても良い。
【0011】
前記リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶の内部および表面に、前記リン酸バナジウムリチウムの結晶と前記金属リン酸化物の結晶とが存在していても良い。
【0012】
前記金属酸化物の金属は、マンガンまたは鉄であっても良い。
【0013】
前記金属酸化物の金属は、マグネシウムまたはコバルト、チタンであっても良い。
【0014】
前記金属酸化物は、前記リン酸バナジウムリチウムのバナジウムに対して1~25mol%含まれていても良い。
【0015】
前記金属酸化物は、リン酸マンガン酸化物、リン酸鉄酸化物、リン酸マグネシウム酸化物、リン酸コバルト酸化物、リン酸チタン酸化物であっても良い。
【0016】
また、本発明に係る電極材料の製造方法は、導電性炭素材料とリン酸バナジウムリチウムを結合させる結晶化工程を有し、前記結晶化工程において、金属塩が添加される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水分による結晶構造の変化を抑制可能な電極材料および電極材料の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】電極材料の製造手順を示すフローチャートである。
図2】電極材料の参考例のXRD(X線粉末回折法)による回折パターンを示すグラフである。
図3】実施例および比較例の電極材料のHRTEM像である。
図4】実施例および比較例の電極材料のXRDによる回折パターンを示すグラフである。
図5】実施例および比較例の電極材料のXRDによる回折パターンを示すグラフである。
図6】比較例の電極材料のXRDによる回折パターンを示すグラフである。
図7】実施例の電極材料のXRDによる回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[構成]
本実施形態の電極材料は、リン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料を含む。リン酸バナジウムリチウムは、一般式LixV(POで表されるナシコン構造を有する。リン酸バナジウムリチウムが、蓄電デバイスの電極材料として用いられた場合、充放電に伴うリチウムイオンの脱挿入により0≦x≦3、バナジウムイオンの原子価は3~5価となり得る。
【0020】
リン酸バナジウムリチウムは金属酸化物と混合体を形成し、導電性炭素材料に結合している。結合とは、リン酸バナジウムリチウムが導電性炭素材料の表面に物理的に接触していることに加え、リン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料とが電気的にもつながっており、導電性が高い状態を含む。例えば、導電性炭素材料の表面に、リン酸バナジウムリチウムが原子レベルで接合し、構造を共有化している状態を含む。
【0021】
リン酸バナジウムリチウムに混合される金属酸化物の金属としては、マンガンおよび鉄が好ましい。ただし、マグネシウムおよびコバルト、チタンを用いることも可能である。これらの金属酸化物が混合されたリン酸バナジウムリチウムは、水分による構造変化が抑制される。混合とは、母材となるリン酸バナジウムリチウムの結晶の内部および表面に別の結晶が取り込まれた状態で共存していることを意味する。
【0022】
以上のような電極材料は、第1に、錯形成反応、加水分解反応、酸化反応、重合反応、縮合反応等の液相反応においてリン酸バナジウムリチウムの前駆体を形成してから加熱、焼成することによって形成することができる。例えばペチーニ法を用いてリン酸源、導電性炭素材料、リチウム源、およびバナジウム源、および金属塩を混合後、焼成して電極材料を得て良い。
【0023】
ペチーニ法による材料源の混合においては、複数のカルボキシル基を有する有機化合物と複数の水酸基を有するアルコールが添加される。複数のカルボキシル基を有する有機化合物は、バナジウムイオンを含む水溶液に添加されることで金属錯体を形成する。この金属錯体に複数の水酸基を有するアルコールを添加することで、エステル反応により高分子化する。
【0024】
導電性炭素材料としては、カーボンナノチューブおよび中空シェル状の構造を有する導電性のカーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック(登録商標))が好適であるが、カーボンナノファイバ、アセチレンブラック等のカーボンブラック、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、メソポーラス炭素、ナノポーラス炭素、グラフェン、フラーレン又はこれらの複数の混合物も適用可能である。
【0025】
バナジウム源及びリン酸源としては、リン酸バナジウムリチウムの生成反応に加水分解を採用する場合にも、生成反応に錯形成反応を採用する場合にも金属の酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化合物、及びキレート化剤が挙げられる。具体的には、バナジウム源を、NHVOとすることができる。ただし、V、V、金属バナジウム、V、バナジウム(III)アセチルアセトネートおよびバナジウム(IV)オキシアセチルアセトナートであってもよい。
【0026】
リン酸源としては、HPOを用いることができる。ただし、NHPO、(NHHPO、PおよびLiPO等のPO含有化合物であってもよい。
【0027】
リチウム源としては、CHCOOLiが挙げられる。ただし、LiNO、LiCO、LiOH、LiOH・HO、LiCl、LiSOおよびLICであってもよい。
【0028】
リン酸バナジウムリチウムと混合体となる金属酸化物の材料源、すなわち金属塩は、Xαβγで表され、X=Li,Na,K,NHの何れかであり、M=Fe,Mn,Mg,Co,Tiの何れかであり、Y=PO,SO,NO,CO,OH,CHCOO,アルコキシ基、ハロゲンの何れかである。金属としては、MnおよびFeを好適に用いることができる。ただし、MgおよびCo、Tiを用いても、水分によるリン酸バナジウムリチウムの結晶構造変化を抑制することができる。金属塩の混合率は、バナジウムに対して1~25mol%、より好ましくは1~10mol%とすることが好ましい。25mol%を超えると、電極容量が低下するだけでなく抵抗が増加してしまうからである。
【0029】
リン酸バナジウムリチウムと混合体となる金属酸化物は、金属リン酸化物であってよい。金属リン酸化物の具体例としては、リン酸マンガン酸化物、リン酸鉄酸化物、リン酸マグネシウム酸化物、リン酸コバルト酸化物、リン酸チタン酸化物が挙げられる。以上より、結晶化工程においては金属塩として、酢酸マンガン、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、酢酸コバルト、チタンテトラブトキシド等を添加すればよい。
【0030】
複数のカルボキシル基を有する有機化合物としては、トリカルボン酸のクエン酸が挙げられるが、シュウ酸、マロン酸、コハク酸などのジカルボン酸、ポリアクリル酸のようなポリカルボン酸であってもよい。また、複数の水酸基を有するアルコールとしては、エチレングリコールが挙げられるが、プロピレングリコールなどの他の2価のアルコール、またはグリセリンなどの3価のアルコール、ポリビニルアルコールのようなポリアルコールであってもよい。
【0031】
[製造方法]
本実施形態の電極材料の製造方法は、以下の工程を有する。
(1)リン酸バナジウムリチウムと金属酸化物の混合体を導電性炭素材料に結合させる結晶化工程
【0032】
(1)結晶化工程
結晶化工程は、導電性炭素材料の表面に金属酸化物とリン酸バナジウムリチウムの混合体を結合させる工程である。以下に、図1を用いてペチーニ法による結晶化工程の一例を説明する。ただし、結晶化工程では導電性炭素材料と金属酸化物とリン酸バナジウムリチウムの混合体が結合されていればよく、その具体的な方法は下記に限定されない。
【0033】
すなわち、各材料源の混合の順番や、焼成の回数やタイミングは、適宜変更することができる。また、リン酸バナジウムリチウムの前駆体の形成に用いる液相反応は、錯形成反応に限定されず、加水分解反応、酸化反応、重合反応、縮合反応等の他の反応を用いることもできる。
【0034】
結晶化工程では、第1に、リン酸源と導電性炭素材料を水に加えて1回目のメカノケミカル処理を行う。なお、リン酸源に代わってバナジウム源を混合する構成としても良い。メカノケミカル処理は、旋回する反応容器等を用いてずり応力や遠心力等の機械的エネルギーを与える処理である。メカノケミカル処理は、超遠心力処理(Ultra-Centrifugal force processing method:以下、UC処理という)等、ずり応力、遠心力、その他の機械的エネルギーを加えることができればよい。要するに、機械的エネルギーによって、リン酸源またはバナジウム源と導電性炭素材料の分散液を得ることにより、導電性炭素材料にリン酸源またはバナジウム源を付着させ、導電性炭素材料の表面上にリン酸バナジウムリチウムの基点を生成できればよい。
【0035】
メカノケミカル処理では、旋回する反応器内で溶液にずり応力と遠心力とを印加する処理をする。反応器としては、外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器が好適に使用される。この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われる。これにより、短時間で反応が進行する。機械的エネルギーの満足する付与のためには、1500N(kgms-2)以上の遠心力を発生させることが望ましい。好ましくは60000N(kgms-2)以上である。
【0036】
そして、第2に、2回目のメカノケミカル処理を行い、導電性炭素材料の表面上に生成されたリン酸バナジウムリチウムの基礎を基点に、金属酸化物とリン酸バナジウムリチウムの混合体の前駆体を生成する。例えば、リン酸源と導電性炭素材料の分散液に対して、バナジウム源、複数のカルボキシル基を有する有機化合物、リチウム源、および金属塩を添加する。さらに、複数の水酸基を有するアルコールを添加し、2回目のメカノケミカル処理を行う。
【0037】
以上のようなメカノケミカル処理は、リチウム源、バナジウム源、リン酸源、金属塩、及び導電性炭素材料の微細化と高分散化処理を兼ねることもできる。リチウム源、バナジウム源及びリン酸源をメカノケミカル処理することで、錯形成反応、加水分解反応、重合反応、縮合反応等のリン酸バナジウムリチウム前駆体の生成促進、リン酸バナジウムリチウムと金属塩の混合促進、金属酸化物とリン酸バナジウムリチウムの混合体の前駆体と導電性炭素材料との結合促進、及び金属酸化物とリン酸バナジウムリチウムの混合体の前駆体のナノ粒子化、が図られる。
【0038】
なお、上記の例では、メカノケミカル処理を2回行う例を説明したが、微粒子化や高分散化を図る観点から、各材料源の混合後にメカノケミカル処理を加えて3回以上メカノケミカル処理を行う構成としても良い。また、リチウム源、バナジウム源、リン酸源、金属塩、及び導電性炭素材料、その他の材料源を一度に混合し、混合液に対して1回メカノケミカル処理を行う構成としても良い。
【0039】
第3に、溶液をエバポレーターにより濃縮および乾燥し、80~130℃で真空乾燥した後、大気中で50~300℃において、3~5時間予備焼成を行う。この予備焼成での熱処理により、導電性炭素材料以外の炭素を除去する。また、複数のカルボキシル基を有する有機化合物、複数の水酸基を有するアルコール、複数のカルボキシル基を有する有機化合物と、複数の水酸基を有するアルコールとのエステル化により形成されたポリマーを除去する。
【0040】
さらに、窒素雰囲気中で700~900℃において、5~120分間焼成を行う。この焼成で、凝集することなくリン酸バナジウムリチウムと金属酸化物の結晶化が同時に進行する。これによりリン酸バナジウムリチウムの結晶内に金属酸化物の結晶が混在した状態で、かつ導電性炭素材料の表面に結合した複合体粉末の電極材料が得られる。以上が、結晶化工程の処理である。
【0041】
[作用効果]
上記の通り、本実施形態の電極材料は、導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、リン酸バナジウムリチウムは、金属酸化物との混合体である。このように、導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムが金属酸化物との混合体であることにより、水分による構造変化を抑制することが可能となる。また、この金属酸化物が、金属リン酸化物である場合には、リン酸バナジウムリチウムの耐水性が向上すると考えられる。
【0042】
また、金属がマンガンまたは鉄である場合には、水分の影響が抑えられ、水分へのバナジウムの溶出がより効果的に抑制される。ただし、金属がマグネシウムまたはコバルト、チタンである場合でも、同様の効果を得ることができる。また、金属酸化物を、リン酸バナジウムリチウムのバナジウムに対して1~25mol%含まれている状態とすると、電極容量の低下や抵抗増加を生じさせるおそれがない。
【実施例
【0043】
実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
本実施例1では、下記に示す製造手順により、Mnとリン酸バナジウムリチウムの混合体とカーボンナノチューブ(以後、CNTという場合がある)の複合体からなる電極材料を生成した。
【0045】
リン酸バナジウムリチウムの材料源は、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、酢酸リチウム(CHCOOLi)、リン酸(HPO)である。CNTの平均繊維径は、15~30nmである。リン酸バナジウムリチウムの各材料源とCNTの重量比率は、70:30である。
【0046】
まず、蒸留水80gに、HPO1.584gと、CNT0.8gを加えた混合溶液を作成した。この混合液を80℃の環境下において、上記の反応器を用いてUC処理した。UC処理として、内筒を50m/sの回転速度で回転させて、5分間にわたって66000N(kgms-2)の遠心力を混合液に与えた。
【0047】
得られた混合液に対して、NHVO1.03gと、クエン酸1.77gと、CHCOOLi0.93gと、Mn(II)(OAc)・4水和物0.12g(バナジウムに対して5mol%)と、蒸留水20gを加えた。さらに、エチレングリコール2.29gと蒸留水10gを添加した。これより、Mnとリン酸バナジウムリチウムの材料源が混合される。また、バナジウムイオンとクエン酸、およびマンガンイオンとクエン酸とでそれぞれの金属錯体が形成され、さらにクエン酸は、エチレングリコールとのエステル反応によりポリマーを形成する。この高分子化反応により形成されたポリマーは、金属錯体の間に入り込むことによって、金属錯体を分散させるとともにその分散状態を維持する。以上のような混合液に対して、上記と同様の条件でUC処理を行った。
【0048】
そして、混合液をエバポレーターにより濃縮および乾燥し、80℃で真空乾燥した後、300℃にて5時間予備焼成を行った。その後、窒素雰囲気中で800℃、60分間焼成した。以上の結晶化工程により、マンガン酸化物(リン酸バナジウムリチウムのバナジウムに対して5mol%)とリン酸バナジウムリチウムの混合体がCNTの表面に結合された電極材料を得た。
【0049】
(実施例2)
実施例2の電極材料の製造方法は、上記実施例1と同様である。ただし、電極材料に対して、NHVO0.97gとMn(II)(OAc)・4水和物0.24g(バナジウムに対して10mol%)を添加して、マンガン酸化物(リン酸バナジウムリチウムのバナジウムに対して10mol%)を含む混合体がCNTの表面に結合された電極材料を得た。
【0050】
(実施例3)
実施例3の電極材料の製造方法は、上記実施例1と同様である。ただし、電極材料に対して、Mn(II)(OAc)・4水和物ではなくFe(II)SO0.14g(バナジウムに対して5mol%)を添加して、鉄酸化物(リン酸バナジウムリチウムのバナジウムに対して5mol%)を含む混合体がCNTの表面に結合された電極材料を得た。
【0051】
(実施例4)
実施例4の電極材料の製造方法は、上記実施例3と同様である。ただし、電極材料に対して、Fe(II)SO0.27g(バナジウムに対して10mol%)を添加して、鉄酸化物(リン酸バナジウムリチウムのバナジウムに対して10mol%)を含む混合体がCNTの表面に結合された電極材料を得た。
【0052】
(実施例5)
実施例5の電極材料の製造方法は、上記実施例1と同様である。ただし、電極材料に対して、Mn(II)(OAc)・4水和物ではなくMg(II)SO0.06g(バナジウムに対して5mol%)を添加して、マグネシウム酸化物(リン酸バナジウムリチウムのバナジウムに対して5mol%)を含む混合体がCNTの表面に結合された電極材料を得た。
【0053】
(実施例6)
実施例6の電極材料の製造方法は、上記実施例1と同様である。ただし、電極材料に対して、Mn(II)(OAc)・4水和物ではなくCo(II)(OAc)・4水和物0.12g(バナジウムに対して5mol%)を添加して、コバルト酸化物(リン酸バナジウムリチウムのバナジウムに対して5mol%)を含む混合体がCNTの表面に結合された電極材料を得た。
【0054】
(比較例1)
比較例1の電極材料の製造方法は、上記実施例1の結晶化工程と同様である。ただし、比較例1の電極材料についてはMn等の金属塩の添加を行っていない。
【0055】
(比較例2)
比較例1の電極材料を、室温20~25度において、湿度約0%の低湿度環境に6日間放置したものを、比較例2の電極材料とした。
【0056】
(比較例3)
比較例1の電極材料を、室温20~25度において、湿度約80%の高湿度環境に6日間放置したものを、比較例3の電極材料とした。
【0057】
<リン酸バナジウムリチウムの耐水性について>
上記比較例1~3を用いて、金属塩が混合されていないリン酸バナジウムリチウムの耐水性について検討を行った。すなわち、製造直後の電極材料である比較例1、低湿度放置後の電極材料である比較例2、高温放置後の電極材料である比較例3に対して、XRD(X線粉末回折法)による結晶構造の解析を行った。その結果を、図2に示す。
【0058】
図2からも明らかな通り、製造直後の比較例1では、回折パターンにおいて、リン酸バナジウムリチウムの特徴的なピークが2θ=21度、24度、29度付近に確認された。そして、低湿度放置後の比較例2においても、比較例1と同様のピークが確認された。この結果より、リン酸バナジウムリチウムと導電炭素材料を結合させた電極材料は、湿度0%付近の低湿度環境に放置したとしても、その結晶構造に変化が生じないことが確認された。
【0059】
一方、高湿度放置後の比較例3では、上記のリン酸バナジウムリチウムの特徴的なピークが消失していた。また、図中*やひし形のマークで示した通り、比較例1では確認されなかったピークが検出された。このうち*のピークについては、LiPO由来のピークであると推定されたが、ひし形のピークについては未知であった。この結果より、比較例3は、高湿度放置により、結晶構造に変化および分解が生じていることが確認された。すなわち、リン酸バナジウムリチウムは、大気中の水分の影響を受けやすく安定性が低いことが明らかとなった。
【0060】
<結晶構造の観察>
実施例1および2、比較例1について、高分解能透過電子顕微鏡により電極材料の結晶にフォーカスを当てたHRTEM像に撮像を行った。図3に、比較例1、実施例1および2のHRTEM像を示す。図3(a)~(c)は、撮像倍率40万倍のHRTEM像である。図3(a)は、金属塩が混合されていない電極材料である比較例1のHRTEM像である。図3(a)より、比較例1の電極材料においては、リン酸バナジウムリチウムの結晶のみが確認された。他の結晶は存在していなかった。
【0061】
図3(b)は、5mol%のMnが混合された実施例1のHRTEM像である。また、図3(c)は10mol%のMnが混合された実施例2のHRTEM像である。図3(b)および(c)に図中白線で示す通り、リン酸バナジウムリチウムの結晶に加え、他の結晶が存在していることが確認された。すなわち、実施例1および2の電極材料では、リン酸バナジウムリチウムと金属酸化物が異なる結晶で存在し、金属酸化物の結晶がリン酸バナジウムリチウムの結晶内に取り込まれている状態であることが分かった。図3(b)および(c)より、リン酸バナジウムと金属酸化物の混合体は、リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶の内部および表面に金属酸化物粒子が共存している状態であることが分かった。
【0062】
<結晶構造の解析>
比較例1、実施例1および2の電極材料について、XRD(X線粉末回折法)による結晶構造の解析を行った。図4(a)に、測定結果である回折パターンを、図4(b)~(d)に図4(a)の一部を拡大した回折パターンを示す。図4(a)および(b)に示す比較例1、実施例1および2の回折パターンではピーク位置等に変化は生じていなかった。
【0063】
例えば、リン酸バナジウムリチウムの結晶構造内のバナジウムが他の金属に置換(ドープ)されると、ピーク位置にズレが生じる。しかし、図4(b)でピーク位置のズレが確認されなかったことから、Mnの添加の有無によりリン酸バナジウムリチウムの結晶構造自体は変化が生じないことが確認できた。
【0064】
次に、図4(c)および(d)より、実施例1および2の回折パターンには、2θ=17度および35.5度付近に、リン酸マンガンリチウムのピークが検出された。実施例1および2の電極材料では、リン酸バナジウムリチウムとMnが混合されることにより、リン酸マンガンリチウムが形成されている可能性が高い。この結果からも、実施例1および2の電極材料では、リン酸マンガンリチウムの結晶がリン酸バナジウムリチウムの結晶内に取り込まれた状態で存在していると考えられた。すなわち、リン酸バナジウムと金属酸化物の混合体では、リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶の内部および表面に、金属リン酸化物の結晶が存在していることが明らかとなった。
【0065】
比較例1、実施例3および4の電極材料について、XRD(X線粉末回折法)による結晶構造の解析を行った。図5(a)に、測定結果である回折パターンを、図5(b)~(d)に図5(a)の一部を拡大した回折パターンを示す。図5(a)および(b)に示す比較例1、実施例3および4の回折パターンではピーク位置等に変化は生じていなかった。図4と同様に、図5(b)でもピーク位置のズレが確認されなかったことから、Feの添加の有無によりリン酸バナジウムリチウムの結晶構造自体は変化が生じないことが確認できた。
【0066】
次に、図5(c)および(d)より、実施例3および4の回折パターンには、2θ=17度および36度付近に、リン酸鉄リチウムのピークが検出された。実施例3および4の電極材料では、リン酸バナジウムリチウムとFeが混合されることにより、リン酸鉄リチウムが形成されている可能性が高い。この結果からも、実施例3および4の電極材料には、リン酸鉄リチウムの結晶がリン酸バナジウムリチウムの結晶内に取り込まれた状態で存在していると考えられた。すなわち、リン酸バナジウムと金属酸化物の混合体では、リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶の内部および表面に、金属リン酸化物の結晶が存在していることが明らかとなった。
【0067】
<リン酸バナジウムリチウムの耐水性評価方法>
リン酸バナジウムリチウムの耐水性を評価するための試験方法を検討し、下記の通りに試験を行うこととした。まず、製造直後の電極材料0.1gを蒸留水1ccに添加し、超音波処理により10分間攪拌した。その後、加熱装置を用いて、60度で47時間放置した。加熱処理後の混合液を濾過し、得られた粉末に対してXRD解析を行い、ろ液に対してICP発光分光分析を行いバナジウムの溶出量を測定した。XRD解析は、試験前の電極材料に対しても行い、試験後の結果と比較した。
【0068】
図6に、比較例1の電極材料について、試験前および試験後に行ったXRD解析の結果を示す。試験前の電極材料では、リン酸バナジウムリチウムの特徴的なピークが確認された。しかし、試験後の電極材料では、その特徴的なピークが消失し、CNT由来のピークのみが確認された。この結果により、比較例1のようなLi(PO)/CNTの電極材料は水分に弱く、本試験を行うとほぼすべてのリン酸バナジウムリチウムがろ液に溶解したことが確認された。
【0069】
図7(a)に実施例1の電極材料について、試験前および試験後に行ったXRD解析の結果を示す。また、図7(b)に実施例3の電極材料について、試験前および試験後に行ったXRD解析の結果を示す。実施例1および実施例3の電極材料では、試験前および試験後の電極材料で回折パターンのピーク値に大きな変化は生じなかった。この結果により、実施例1のMnが添加された電極材料および実施例3のFeが添加された電極材料は、水分の影響を受けにくく、本試験を行っても結晶構造に大きな変化が生じておらず、リン酸バナジウムリチウムのろ液への溶解が抑制されていることが確認された。
【0070】
次に、比較例1および実施例1および3の電極材料について、試験前および試験後に行ったICP発光分光分析の結果から求めたバナジウムの溶出量および溶出率を表1に示す。
【表1】
【0071】
表1より、金属酸化物が混合されていない比較例1では、添加したバナジウムに対して86.6%のバナジウムがろ液に溶出していた。一方、5mol%のMnが混合された実施例1では、添加したバナジウムに対して11.1%のバナジウムがろ液に溶出していた。また、5mol%のFeが混合された実施例3では、添加したバナジウムに対して15.0%のバナジウムがろ液に溶出していた。以上の結果より、金属酸化物が混合された電極材料は、水分の影響が抑えられ、水分へのバナジウムの溶出が抑制されていることが明らかとなった。
【0072】
<添加量の検討>
実施例2および4についても上記の耐水性を評価する試験を行い、実施例1~4について試験前および試験後に行ったICP発光分光分析の結果から求めたバナジウムの溶出量および溶出率を表2に示す。
【表2】
【0073】
表2より、5mol%のMnが混合された実施例1よりも、10mol%のMnが混合された実施例2の方が、バナジウムの溶出率が10.6%と低くなった。また、5mol%のFeが混合された実施例3よりも、10mol%のFeが混合された実施例4の方が、バナジウムの溶出率が11.7%と低くなった。これらの結果より、金属塩を5mol%以上添加することにより、効果的にリン酸バナジウムリチウムの耐水性を向上し得ることが確認された。また、金属酸化物の混合率を増加させると、その効果が高まる傾向にあることも分かった。
【0074】
<他の金属塩の検討>
実施例5および6についても上記の耐水性を評価する試験を行い、試験前および試験後に行ったICP発光分光分析の結果から求めたバナジウムの溶出量および溶出率を表3に示す。
【表3】
【0075】
表3より、5mol%のMgが混合された実施例5では、添加したバナジウムに対して43.5%のバナジウムがろ液に溶出していた。また、5mol%のCoが混合された実施例6では、添加したバナジウムに対して23.5%のバナジウムがろ液に溶出していた。5mol%のTiが混合された実施例7では、添加したバナジウムに対して35.1%のバナジウムがろ液に溶出していた。したがって、金属塩がMg、Co、またはTiの場合でも、金属塩が添加されていない比較例1と比較して、バナジウムの溶出が抑制されることが分かった。
【0076】
<セルの容量維持率>
実施例1、および比較例1の電極材料を、PVDFを用いて電極化し、対極にL12セル、電解液に1M LiPF/EC+DEC 1:1(in volume)を用いたフルセルを作成し、容量維持率を評価した。その結果、金属酸化物を有しない比較例1の容量維持率は81%、リン酸バナジウムリチウムに対して5mol%のマンガンを混合した実施例1の容量維持率は86%であった。
【0077】
この結果より、マンガンを混合した場合であっても、マンガンを混合しない電極材料と同等の充放電特性を有することが分かった。すなわち、マンガンの存在により、充放電特性に劣化が生じないことが確認された。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7