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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/56 20060101AFI20230307BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20230307BHJP
   B60T 8/171 20060101ALI20230307BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20230307BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
F16D65/56 A
B60T13/74 G
B60T8/171 A
F16D66/00 Z
B60T8/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020143311
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038692
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 絢子
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 知彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 皓俊
(72)【発明者】
【氏名】土方 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕紀
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-283198(JP,A)
【文献】国際公開第2010/108519(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B60T 13/00-13/74
B60T 7/12-8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪(92)と一体に回転する制動部材(15)と、
前記制動部材と当接可能に設けられる摩擦部材(23)と、
前記摩擦部材を前記制動部材に押し付ける方向または離間させる方向に移動させる駆動力を発生するアクチュエータ(35)と、
前記車輪の回転状態を検出する第1センサ部(41)と、
前記車輪の回転状態を検出するものであって、前記第1センサ部とは離間して設けられる第2センサ部(42)と、
前記第1センサ部の検出値である第1検出値および前記第2センサ部の検出値である第2検出値に基づき、制動トルクを演算するトルク演算部(52)、ならびに、前記第1検出値および前記第2検出値に基づき、前記アクチュエータを駆動することで前記制動部材と前記摩擦部材とのクリアランスを調整するクリアランス調整部(55)を有する制御部(50)と、
を備える電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記クリアランス調整部は、
車両走行中において、ブレーキ操作がされておらず、かつ、車速低下が検出された場合、前記制動部材と前記摩擦部材とが引きずり状態となる引きずり位置に前記摩擦部材を移動させる請求項1に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記クリアランス調整部は、
車両走行中において、ブレーキ操作がされておらず、かつ、車速維持または加速中である場合、前記制動部材と前記摩擦部材とが離間する非引きずり位置に前記摩擦部材を移動させる請求項1または2に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記第1センサ部および前記第2センサ部は、車輪速センサである請求項1~3のいずれか一項に記載の電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの回転運動をピストンの直線運動に変換し、パッドをディスクに押圧させて制動力を発生させる電動ブレーキ装置が知られている。例えば特許文献1では、車両が走行中、かつ、アクセルペダルオフの場合、パッドとディスクとのクリアランスが微小隙間位置となるようにモータを制御することで、ブレーキ初期応答性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-46082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、パッドとディスクのクリアランス測定に変位センサ等の別途のセンサが必要であり、構成が複雑になる虞がある。本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡素な構成でクリアランスを調整可能な電動ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電動ブレーキ装置は、制動部材(15)と、摩擦部材(23)と、アクチュエータ(35)と、第1センサ部(41)と、第2センサ部(42)と、制御部(50)と、を備える。制動部材は、車輪(92)と一体に回転する。摩擦部材は、制動部材と当接可能に設けられる。押圧部材は、摩擦部材を制動部材に押圧可能に設けられる。アクチュエータは、摩擦部材を制動部材に押し付ける方向または離間させる方向に移動させる駆動力を発生する。第1センサ部は、車輪の回転状態を検出する。第2センサ部は、車輪の回転状態を検出するものであって、第1センサ部とは離間して設けられる。
【0006】
制御部は、トルク演算部(52)、および、クリアランス調整部(55)を有する。トルク演算部は、第1センサ部の検出値である第1検出値および第2センサ部の検出値である第2検出値に基づき、制動トルクを演算する。クリアランス調整部は、第1検出値および第2検出値に基づき、アクチュエータを駆動することで制動部材と摩擦部材とのクリアランスを調整する。これにより、比較的簡素な構成にて、制動部材と摩擦部材とのクリアランスを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態による電動ブレーキ装置を示す断面図である。
図2】一実施形態による制動力発生部を示す断面図である。
図3】一実施形態による第1センサ部および第2センサ部の配置を説明する平面図である。
図4】一実施形態によるモータ印加電流とブレーキディスクの移動方向を説明するタイムチャートである。
図5】一実施形態において、制動トルクが発生していないときの第1検出信号および第2検出信号を説明する説明図である。
図6】一実施形態において、制動トルクが発生しているときの第1検出信号および第2検出信号を説明する説明図である。
図7】一実施形態によるブレーキディスクとブレーキパッドとのクリアランスを説明する説明図である。
図8】一実施形態によるクリアランスと制動トルクとの関係を説明する説明図である。
図9】一実施形態によるブレーキパッドの位置と検出信号との関係を説明するタイムチャートである。
図10】一実施形態によるクリアランス調整処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(一実施形態)
以下、本発明による電動ブレーキ装置を図面に基づいて説明する。一実施形態を図1図10に示す。図1に示すように、電動ブレーキ装置10は、ブレーキディスク15と、制動力発生部20と、制動力発生部20を駆動する動力を発生するアクチュエータであるモータ35と、回転状態検出部40と、を備える。
【0009】
ブレーキディスク15は、車軸91に設けられ、車輪92と一体に回転する。車軸91には、ハブベアリング93が設けられる。ハブベアリング93は、外輪94、内輪95およびボール96を有する。
【0010】
図1および図2に示すように、制動力発生部20は、キャリパ21、ピストン22、ブレーキパッド23、および、回転直動変換機構30等を有する。なお、図2において、制動力発生部20等は左右反転して記載している。ピストン22は、キャリパ21に設けられるシリンダ25内を摺動可能に設けられる。一対のブレーキパッド23は、ブレーキディスク15を挟んで両側に設けられる。一方のパッド231はピストン22側に設けられ、他方のパッド232はキャリパ21に保持される。パッド231がピストン22に押圧され、ブレーキパッド23にてブレーキディスク15を挟持することで、制動力が発生する。キャリパ21の一方側は、外輪94から径方向外側に延びるキャリパ支持部97に支持される。
【0011】
図2に示すように、回転直動変換機構30は、回転部材31および直動部材32等を有するねじ機構である。回転部材31は、第1軸部311、第2軸部312およびフランジ部313を有する。第1軸部311は、キャリパ21に回転可能に支持され、モータ35により回転駆動される。第2軸部312の外周には、雄ねじが形成される。
【0012】
直動部材32は、略円筒状に形成され、ピストン22の径方向内側において、軸方向に移動可能に設けられる。直動部材32の内周面には、第2軸部312の雄ねじと噛み合う雌ねじが形成される。
【0013】
モータ35を正方向に回転させると、直動部材32がピストン22の底部側に繰り出されることで、ピストン22がブレーキパッド23を押圧し、ブレーキパッド23によりブレーキディスク15が挟持される。また、モータ35を逆方向に回転させると、直動部材32がピストン22の底部から離間する方向に移動することで、ピストン22によるブレーキパッド23の押圧が解除され、ブレーキパッド23とブレーキディスク15が離間する。
【0014】
本実施形態では、モータ35を正方向に回転させるときの電流を正、逆方向に回転させるときの電流を負とする。なお、モータ35と第1軸部311との間には、減速機等を設けてもよい。モータ35は、図示しないブレーキペダルの踏込量等に応じて駆動される。
【0015】
図4に示すように、時刻x0から時刻x1において、モータ35に正方向の電流を印加すると、パッド231がブレーキディスク15に近づく方向(図中、「押付方向」と記載。)に移動する。時刻x1にて通電をオフにすると、パッド231は移動を停止し、位置が保持される。時刻x2にて、モータ35に負方向の電流を印加すると、パッド231はブレーキディスク15から離れる方向(図中、「離間方向」と記載。)に移動する。時刻x3にて通電をオフにすると、パッド231は移動を停止し、位置が保持される。図4では、横軸を時間、縦軸をモータ印加電流とした。
【0016】
図1に戻り、回転状態検出部40は、第1センサ部41、第2センサ部42、被検出部である磁気リング45、および、制御部50等を有する。磁気リング45は、内輪95側に設けられ、車軸91と一体に回転する。
【0017】
センサ部41、42は、外輪94側に設けられ、磁気リング45の回転による磁界の変化を検出する。これにより、車輪92の回転速度である車輪速を検出可能である。第1センサ部41の検出信号Sg1、および、第2センサ部42の検出信号Sg2は、制御部50に出力される。
【0018】
図3に示すように、キャリパ支持部97は、外輪94の径方向外側の2箇所から突出して形成される。キャリパ支持部97の個数や形状は異なっていてもよい。本実施形態では、キャリパ支持部97が比較的幅狭に形成されており、制動力を受けて変形する。ここで、制動力を受けて相対的に変形が大きい領域を変形領域Rt、制動力を受けて概ね変形しない領域を非変形領域Rnとする。本実施形態では、キャリパ支持部97の両端で規定されるキャリパ21側の領域を変形領域Rtとする。変形領域Rtおよび非変形領域Rnは、キャリパ支持部97の形状等に応じて設定される。
【0019】
第1センサ部41は非変形領域Rnに設けられ、第2センサ部42は変形領域Rtに設けられる。センサ部41、42は、制動トルクが生じることでセンサ間の相対距離の変化による信号出力変化が検出可能な程度、離間して設けられる。2つのセンサ部41、42の取付位置を離すことで、ハブベアリング93やキャリパ支持部97の剛性を確保可能である。
【0020】
図1に戻り、制御部50は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御部50における各処理は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
【0021】
制御部50は、機能ブロックとして、車輪速演算部51、トルク演算部52、および、駆動制御部55等を有する。車輪速演算部51は、検出信号Sg1、Sg2の少なくとも一方を用いて車輪速検出値spdを演算する。
【0022】
トルク演算部52は、検出信号Sg1、Sg2の位相差に基づき、制動トルク検出値Tを演算する。駆動制御部55は、図示しないブレーキペダルの踏込量を検出するストロークセンサの検出値、および、演算された制動トルク検出値T等に基づき、モータ35の駆動を制御することで制動力を制御する。
【0023】
検出信号Sg1、Sg2を図5および図6に基づいて説明する。図5および図6では、いずれも上段にセンサ部41、42を示しており、下段に検出信号Sg1、Sg2を示している。
【0024】
図5に示すように、センサ部41、42は、制動トルクが生じていない状態において、検出信号Sg1、Sg2が所定の位相差が生じるように設けられている。所定の位相差は0、すなわち位相差がなくてもよい。
【0025】
本実施形態では、第1センサ部41が制動トルクによる変形が生じにくい非変形領域Rnに設けられており、第2センサ部42が制動トルクによる変形が生じやすい変形領域Rtに設けられている。そのため、図6中の矢印A1で示すように、制動トルクによる負荷が発生したとき、第1センサ部41の変位は第2センサ部42の変位より十分に小さく、センサ部41、42間の相対距離が変化する。これにより、発生した負荷に応じ、検出信号Sg1、Sg2の位相差が変化する。本実施形態では、検出信号Sg1、Sg2の位相差の変化量に基づき、制動トルクを演算する。
【0026】
車両に搭載される電動ブレーキ装置10では、制動時の応答性確保のため、ブレーキディスク15とブレーキパッド23とのクリアランスd(図2参照)が狭く設定されている。そのため、走行中は引きずり状態が発生し、燃費の低下やパッド性能の低下の虞がある。
【0027】
そこで本実施形態では、通常の走行時には引きずり状態が発生しない位置にブレーキパッド23を移動させ、制動が発生する可能性がある場合には引きずり状態が発生する位置にブレーキパッドを移動させる。
【0028】
図7は、ブレーキパッド23とブレーキディスク15との位置関係を模式的に示している。図7では、一方のブレーキパッド231を図示しており、キャリパ21側のブレーキパッド232の図示を省略している。以下適宜、一方のブレーキパッド231を単に「ブレーキパッド23」と記載する。本実施形態では、基準位置から離間する側を正、押し付ける側を負と定義する。
【0029】
図7(a)は、ブレーキディスク15とブレーキパッド23とのクリアランスdが十分にあり、ブレーキパッド23は引きずりが生じない非引きずり位置にある状態を示している。図7(b)はブレーキディスク15とブレーキパッド23とが当接する基準位置である。図7(b)では、クリアランスd=0であるので、適宜「クリアランスゼロ位置」とする。
【0030】
図7(c)は、クリアランスd≒0の引きずり位置である。ブレーキパッド23が引きずり位置にある場合、ブレーキディスク15とブレーキパッド23との引きずり状態が発生する。引きずり状態にて走行すると、燃費が低下したり、パッド性能が低下したりする。図7(d)は、クリアランスd<0の制動位置である。ブレーキパッド23をブレーキディスク15に押し付けることで、制動力が発生する。図7等では、説明のため、ブレーキパッド23とブレーキディスク15とを重ねて記載した。
【0031】
図8は、クリアランスdと制動トルクとの関係を説明するものであって、横軸をクリアランスd、縦軸を発生する制動トルクとする。クリアランスdが正のとき、すなわちブレーキパッド23とブレーキディスク15とが離間しているとき、制動トルクは発生しない。クリアランスdが負のとき、すなわちブレーキパッド23が基準位置よりもブレーキディスク15側に押し付けられているとき、押し付け量に応じた制動トルクが発生する。ここで、引きずり状態となるブレーキパッド23の範囲を微小クリアランス領域とする。また、引きずり状態の目標制動トルクをT1、非引きずり状態の目標制動トルクをT0とする。
【0032】
図9(a)は、図5の下段と概ね同様であって、ブレーキパッド23が非引きずり位置にある場合、制動トルクが発生しておらず、検出信号Sg1、Sg2の位相差はセンサ部41、42の搭載位置に応じた所定の位相差となる。以下、制動トルクが発生しないときの位相差を初期値とする。
【0033】
図9(c)はブレーキパッド23が引きずり位置、図9(d)はブレーキパッド23が制動位置にある場合を示している。制動時の制動トルクは、引きずり時の制動トルクより大きいため、検出信号Sg1、Sg2の位相差は、引きずり時よりも制動時の方が大きくなる。図9では、図7および図8の位置関係と対応させるべく、クリアランスゼロ位置と対応する(b)を欠番とした。
【0034】
本実施形態では、2つの車輪速センサであるセンサ部41、42の検出信号Sg1、Sg2の位相差に基づき、引きずり状態か非ひきずり状態かの判別が可能である。そこで、センサ部41、42の検出信号Sg1、Sg2に基づき、走行中におけるクリアランス調整制御を行う。
【0035】
クリアランス調整処理を図10のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、制御部50において、所定の周期で実行される。以下、ステップS101の「ステップ」を省略し、単に記号「S」と記す。他のステップも同様である。
【0036】
S101では、制御部50は、車両走行中か否か判断する。走行中ではないと判断された場合(S101:NO)、S102以降の処理をスキップし、本処理を終了する。走行中であると判断された場合(S101:YES)、S102へ移行する。
【0037】
S102では、制御部50は、ブレーキ操作がオンか否か判断する。ここでは、ブレーキペダルスイッチの操作状態に基づいて判定する。ブレーキ操作がオンであると判断された場合(S102:YES)、S103へ移行し、ブレーキペダルの操作量に応じた制動位置へブレーキパッド23を移動させるように、モータ35の駆動を制御する。ブレーキ操作がオフであると判断された場合(S102:NO)、S104へ移行する。
【0038】
S104では、制御部50は、第1センサ部41の検出信号Sg1に基づき、車速が低下したか否か判断する。検出信号Sg1に替えて、第2センサ部42の検出信号Sg2を用いてもよいし、2つの検出信号Sg1、Sg2を用いてもよい。車速が低下していると判断された場合(S104:YES)、S107へ移行する。車速が低下していないと判断された場合(S104:NO)、S105へ移行する。
【0039】
S105では、制御部50は、制動トルク検出値Tが非引きずり目標制動トルクT0より大きいか否か判断する。制動トルク検出値Tが非引きずり目標制動トルクT0より大きいと判断された場合(S105:YES)、すなわちブレーキパッド23が引きずり位置にある場合、S106へ移行し、ブレーキパッド23がブレーキディスク15から離れる側へ移動するように、モータ35の駆動を制御する。そしてS105に戻る。制動トルク検出値Tが非引きずり目標制動トルクT0以下であると判断された場合(S105:NO)、すなわちブレーキパッド23が非引きずり位置にある場合、S101に戻る。なお、ブレーキパッド23が非引きずり位置にあると判定された後、所定の非引きずり保持位置までブレーキパッド23を移動させた後にS101へ戻るようにしてもよい。
【0040】
車速が低下していると判断された場合(S104:YES)に移行するS107では、制御部50は、制動トルク検出値Tが非引きずり目標制動トルクT0より大きいか否か判断する。制動トルク検出値Tが非引きずり目標制動トルクT0より大きいと判断された場合(S107:YES)、S109へ移行する。制動トルク検出値Tが非引きずり目標制動トルクT0以下であると判断された場合(S107:NO)、すなわちブレーキパッド23が非引きずり位置にあると判定された場合、S108へ移行し、ブレーキパッド23がブレーキディスク15に近づく側へ移動するように、モータ35の駆動を制御する。そしてS107へ戻る。
【0041】
S109では、制御部50は、制動トルク検出値Tが引きずり目標制動トルクT1より小さいか否か判断する。制動トルク検出値Tが引きずり目標制動トルクT1以上であると判断された場合(S109:NO)、すなわちブレーキパッド23が制動位置にある場合、S110へ移行し、引きずり状態とすべく、ブレーキパッド23がブレーキディスク15から離れる側へ移動するように、モータ35の駆動を制御する。そしてS109に戻る。制動トルク検出値Tが引きずり目標制動トルクT1より小さいと判断された場合(S109:YES)、すなわちT0<T<T1であって、ブレーキパッド23が微小クリアランス領域に位置している引きずり状態であるので、この状態を保持し、S101へ戻る。
【0042】
本実施形態では、ブレーキがオフであり、かつ、車速が低下している場合、ブレーキペダル操作による制動が行われる可能性があるとみなし、引きずり状態となる位置にブレーキパッド23を移動させておくことで、応答性を確保している。
【0043】
一方、車速が低下していない場合、すなわち定速走行中や加速中においては、直近での制動が行われる可能性が低いとみなし、引きずり状態が発生しない位置にブレーキパッド23を移動させる。これにより、燃費の低下やパッド性能の低下を抑制することができる。本実施形態では、2つの車輪速センサであるセンサ部41、42の検出信号Sg1、Sg2を用いており、ピストン22のストローク位置を検出する変位センサ等を用いることなく、比較的簡素な構成にてクリアランスdを調整可能である。
【0044】
また、クリアランス調整に用いる引きずり目標制動トルクT1および非引きずり目標制動トルクT0は、検出信号Sg1、Sg2に基づいて設定可能である。具体的には、車輪92の回転時にブレーキパッド23をブレーキディスク15から徐々に離していき、制動トルク検出値Tの時間変化をモニタリングすることで、引きずり目標制動トルクT1および非引きずり目標制動トルクT0を設定することができる(図8参照)。これにより、経時変化等が生じた場合であっても、適切な目標制動トルクT1および非引きずり目標制動トルクT0を設定し、クリアランス調整を行うことができる。
【0045】
また、制動トルク検出値Tの時間変化をモニタリングし、制動トルク検出値Tが目標制動トルクT0となる点を検出することで、クリアランスゼロ点を検出している、と捉えることもできる。制動トルク検出値Tに基づいて検出されたクリアランスゼロ点を基準とし、ブレーキディスク15とブレーキパッド23とのクリアランスdが所望の値となるように、モータ35の駆動を制御するようにしてもよい。
【0046】
以上説明したように、電動ブレーキ装置10は、ブレーキディスク15と、ブレーキパッド23と、モータ35と、第1センサ部41と、第2センサ部42と、制御部50と、を備える。ブレーキディスク15は、車輪92と一体に回転する。ブレーキパッド23は、ブレーキディスク15と当接可能に設けられる。モータ35は、ブレーキパッド23をブレーキディスク15に押し付ける方向または離間させる方向に移動させる駆動力を発生する。詳細には、モータ35は、押圧部材であるブレーキパッド23をブレーキディスク15に押圧可能に設けられるピストン22を駆動する駆動力を発生する。第1センサ部41は、車輪92の回転状態を検出する。第2センサ部42は、車輪92の回転状態を検出するものであって、第1センサ部41とは離間して設けられる。
【0047】
制御部50は、トルク演算部52、および、駆動制御部55を有する。トルク演算部52は、第1センサ部41の検出値である第1検出信号Sg1、および、第2センサ部42の検出値である第2検出信号Sg2に基づき、制動トルクを演算する。駆動制御部55は、第1検出信号Sg1および第2検出信号Sg2に基づき、モータ35を駆動することでブレーキディスク15とブレーキパッド23とのクリアランスdを調整する。具体的には、検出信号Sg1、Sg2に基づいて演算された制動トルクに基づいて、クリアランスdを調整する。これにより、比較的簡素な構成にて、ブレーキディスク15とブレーキパッド23とのクリアランス調整を行うことができる。
【0048】
駆動制御部55は、車両走行中において、ブレーキ操作がされておらず、かつ、車速低下が検出された場合、ブレーキディスク15とブレーキパッド23とが引きずり状態となる引きずり位置にブレーキパッド23を移動させる。車速が低下した場合、ドライバによりブレーキ操作される可能性があるため、引きずり状態となるようにブレーキパッド23を移動させ、微小クリアランスとしておくことで、ブレーキが操作されたときの応答性を向上可能である。
【0049】
駆動制御部55は、車両走行中において、ブレーキ操作がされておらず、かつ、車速維持または加速中である場合、ブレーキディスク15とブレーキパッド23とが離間する非引きずり位置にブレーキパッド23を移動させる。車速維持または加速中においては、ブレーキ操作される可能性が低いため、クリアランスを広くとり、ブレーキパッド23をブレーキディスクから離間させておくことで、引きずり状態で走行することによる燃費悪化やパッドの劣化を抑制することができる。
【0050】
第1センサ部41および第2センサ部42は、車輪速センサである。2つの車輪速センサを用いることで、車速および制動トルクに基づき、比較的簡素な構成にてブレーキディスク15とブレーキパッド23とのクリアランスを調整可能である。
【0051】
本実施形態では、ブレーキディスク15が「制動部材」、ブレーキパッド23が「摩擦部材」、モータ35が「アクチュエータ」、駆動制御部55が「クリアランス調整部」に対応する。また、第1検出信号Sg1が「第1検出値」、第2検出信号Sg2が「第2検出値」に対応する。
【0052】
(他の実施形態)
上記実施形態では、第1センサ部および第2センサ部の検出値は、それぞれ制御部に入力される。他の実施形態では、制御部の外部に信号合成回路を設けて検出信号Sg1、Sg2を合成し、合成信号が制御部に入力されるようにしてもよい。信号合成回路には、例えばOR回路やAND回路、XOR回路等を用いることができる。また、検出信号Sg1、Sg2は、矩形波換算したものを用いてもよい。例えば矩形波換算した検出信号Sg1、Sg2の合成信号では、制動トルクによる位相変化に応じてパルス幅が変化するため、パルス幅に基づいて制動トルクを演算可能である。また、合成信号の信号周期に基づいて車輪速を演算可能である。
【0053】
上記実施形態では、非変形領域および変形領域に1つずつのセンサ部が設けられる。他の実施形態では、非変形領域および変形領域の少なくとも一方に複数のセンサ部が設けられていてもよい。上記実施形態では、被検出部が磁気リングであり、センサ部は磁気センサである。他の実施形態では、センサ部は、車輪の回転を検出可能であればよく、例えば光学センサ等であってもよい。被検出部は、センサ部に応じたものを用いればよい。
【0054】
上記実施形態では、アクチュエータはモータである。他の実施形態では、アクチュエータはソレノイド等であってもよい。また、制動力発生部や回転直動変換機構の詳細は、上記実施形態とは異なっていてもよい。
【0055】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0056】
10・・・電動ブレーキ装置
15・・・ブレーキディスク(制動部材)
20・・・制動力発生部
23・・・ブレーキパッド(摩擦部材)
30・・・回転直動変換機構
35・・・モータ(アクチュエータ)
41・・・第1センサ部 42・・・第2センサ部
50・・・制御部
52・・・トルク演算部
55・・・駆動制御部(クリアランス調整部)
図1
図2
図3
図4
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図8
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図10