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特許7239561ミクロフィブリルセルロース繊維を含有する紙
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】ミクロフィブリルセルロース繊維を含有する紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20230307BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20230307BHJP
   D21H 19/36 20060101ALI20230307BHJP
   D21H 19/10 20060101ALI20230307BHJP
   D21H 19/72 20060101ALI20230307BHJP
   C08B 11/00 20060101ALI20230307BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H15/02
D21H19/36 Z
D21H19/10 Z
D21H19/72
C08B11/00
C08B15/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020511002
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013682
(87)【国際公開番号】W WO2019189611
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2018070236
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】外岡 遼
(72)【発明者】
【氏名】吉松 丈博
(72)【発明者】
【氏名】久永 悠生
(72)【発明者】
【氏名】神代 宗信
(72)【発明者】
【氏名】田上 敬介
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223042(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014255(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179717(WO,A1)
【文献】特開平11-140793(JP,A)
【文献】特開平10-251301(JP,A)
【文献】特開平06-136681(JP,A)
【文献】特開2016-094680(JP,A)
【文献】国際公開第2014/097929(WO,A1)
【文献】特開2010-106422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00- 1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00- 9/00
D21H11/00-27/42
D21J 1/00- 7/00
C08B 1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙が、平均繊維径が500nm以上の機械的処理化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維をパルプ100重量%に対して0.01~10重量%み、
坪量が40g/m 超である、紙。
【請求項2】
前記ミクロフィブリルセルロース繊維の繊維分析装置で測定した平均微細繊維率が4.0以上である、請求項1に記載の紙。
【請求項3】
前記ミクロフィブリルセルロース繊維のセルロースI型結晶化度が50%以上である1または2に記載の紙。
【請求項4】
前記化学変性がアニオン変性である請求項1~3のいずれかに記載の紙。
【請求項5】
顔料塗工層を備える請求項1~4のいずれかに記載の紙。
【請求項6】
クリア塗工層を備える請求項1~5のいずれかに記載の紙。
【請求項7】
JIS P 8111に従って23℃50±2%条件下で調湿した紙の含水率が10重量%以下である、請求項1~6のいずれかに記載の紙。
【請求項8】
セルロース原料を湿式粉砕して前記ミクロフィブリルセルロース繊維を調製する工程、および
前記ミクロフィブリルセルロース繊維を含む紙料を調製する工程、
を備える、請求項1~7のいずれかに記載の紙の製造方法。
【請求項9】
前記湿式粉砕の前にセルロース原料を化学変性する工程を備える、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミクロフィブリルセルロース繊維を含有する紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙は、印刷用紙や記録用紙等の情報記録媒体用途や包装用途等の種々の分野に使用されており、いずれの用途においても使用時や加工時に十分な強度を有することが求められている。紙の強度やこわさを改善することを目的として、例えば特許文献1には酸化パルプを添加した紙基材が、特許文献2には共処理されたミクロフィブリルセルロースおよび無機粒子組成物を含む紙製品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/097929号
【文献】特開2017-203243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では酸化パルプを用いるが、当該酸化パルプは紙料中での分散性が十分ではなく、紙の補強効果および透気抵抗も十分なレベルとはいえなかった。特許文献2では未変性パルプを無機粒子と共に機械的に処理して得たミクロフィブリルセルロースを使用する。しかし、当該ミクロフィブリルセルロースも紙料中での分散性が十分ではなく紙の補強効果および透気抵抗度も十分なレベルとはいえなかった。かかる事情を鑑み、本発明は、優れた強度および透気抵抗度を有する紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
化学変性したセルロースは、導入された官能基の静電的な反発により、未処理のセルロースと比較して効率的にセルロース繊維同士をほぐすことができる。そのため、化学変性セルロースを叩解すると、化学変性しないセルロースを叩解する場合に比べてフィブリル化や短繊維化が進んだミクロフィブリルセルロースが得られる。発明者らは、当該ミクロフィブリルセルロースは、紙料に添加した際に分散性が良好であり、かつ当該紙料から得た紙は優れた機械的強度を備え、さらに高い透気抵抗度を有することを見出した。すなわち、前記課題は以下の本発明によって解決される。
(1)平均繊維径が500nm以上の機械的処理化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を含む紙。
(2)前記ミクロフィブリルセルロース繊維の繊維分析装置で測定した平均微細繊維率が4.0以上である、(1)に記載の紙。
(3)前記ミクロフィブリルセルロース繊維のセルロースI型結晶化度が50%以上である(1)または(2)に記載の紙。
(4)前記化学変性がアニオン変性である(1)~(3)のいずれかに記載の紙。
(5)顔料塗工層を備える(1)~(4)のいずれかに記載の紙。
(6)クリア塗工層を備える(1)~(5)のいずれかに記載の紙。
(7)JIS P 8111に従って23℃50±2%条件下で調湿した紙の含水率が10重量%以下である、(1)~(6)のいずれかに記載の紙。
(8)セルロース原料を湿式粉砕して前記ミクロフィブリルセルロース繊維を調製する工程、および
前記ミクロフィブリルセルロース繊維を含む紙料を調製する工程、
を備える、(1)~(7)のいずれかに記載の紙の製造方法。
(9)前記湿式粉砕の前にセルロース原料を化学変性する工程を備える、(8)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によって優れた強度および透気抵抗度を有する紙を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】化学変性のみを施したパルプ(COOH量0.3mmol/g、c.s.f.573ml)を示す図
図2】化学変性の後にSDR叩解処理して得たMFC(COOH量0.3mmol/g、c.s.f.67ml)を示す図
【発明を実施するための態様】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X~Y」はその端値であるXおよびYを含む。
【0009】
1.ミクロフィブリルセルロース繊維を含有する紙
本発明の紙は原紙層を有し、1層以上の塗工層を有してもよい。塗工層は無機顔料および接着剤を含有する顔料塗工層でもよく、無機顔料を含有せずに接着剤を主体とするクリア塗工層でもよい。本発明の紙は、当該紙を構成するいずれかの層にミクロフィブリルセルロース繊維を含んでいればよい。例えば、ミクロフィブリルセルロース繊維は原紙層または顔料塗工層またはクリア塗工層に含有される。これらの層に関しては後述する。
【0010】
(1)ミクロフィブリルセルロース繊維
ミクロフィブリルセルロース繊維(以下「MFC」ともいう)とは、パルプ等のセルロース系原料をフィブリル化して得られる500nm以上の平均繊維径を有する繊維である。本発明のミクロフィブリルセルロースは繊維径が500nm未満となるまで繊維が微細化されたセルロースナノファイバーとは異なり、パルプ繊維の形状をある程度維持したまま効率的に繊維表面のフィブリル化が促進されるため、平均繊維径は500nm以上である。平均繊維径は1μmより大きいことが好ましく、2μm以上がより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。その上限は60μm以下が好ましい。本発明において平均繊維径とは長さ加重平均繊維径であり、当該繊維径はABB株式会社製ファイバーテスターで測定できる。MFCは、化学変性したセルロース系原料をビーターやディスパーザー、リファイナーなどで比較的弱く解繊または叩解などの機械的処理をすることで得られる。したがってMFCは、セルロース系原料を強く解繊処理して得られるシングルナノ~500nm未満程度の平均繊維径を有するセルロースナノファイバーと比較して繊維径が大きく、また繊維自体の微細化(内部フィブリル化)を抑制しながら効率的に繊維表面を毛羽立たせた(外部フィブリル化した)形状を有する。
【0011】
本発明で用いる機械的処理化学変性セルロース繊維(以下「機械的処理化学変性MFC」ともいう)は、パルプを化学変性した後に機械的処理を施す、あるいは機械的処理を施したパルプに化学変性を施して得たものであってよいが、フィブリル化効率の観点から前者で得られるものが好ましい。すなわち機械的処理化学変性MFCは、化学変性したセルロース系原料に比較的弱い解繊または叩解等の機械的処理を施してして得られるので、繊維間に存在する強固な水素結合が化学変性によって弱められ、化学変性を行わずに単に機械的に解繊または叩解処理しただけのMFCと比較して、繊維同士がほぐれやすく、繊維の損傷が少なく、かつ適度な内部フィブリル化および外部フィブリル化した形状を有する(図2参照)。さらに、機械的処理化学変性MFCを水に分散して得られた水分散体は、高い親水性、保水性、粘度を有する。
【0012】
上記のとおり、MFCはセルロース系原料とはフィブリル化の度合いが異なる。フィブリル化の度合いを定量化することは一般に容易ではないが、本発明においては、MFCの機械的処理前後の濾水度や保水度の変化量でフィブリル化度合を定量化することが可能であることを見出した。本発明のMFCは、機械的処理前のパルプの濾水度(F0)が10ml以上低下する程度に機械解繊または叩解して得たものであることが好ましい。すなわち、処理後の濾水度をFとすると、濾水度の差ΔF=F0-Fは10ml以上であることが好ましく、20ml以上であることがより好ましく、30ml以上であることがさらに好ましい。パルプの濾水度は変性の度合いによって異なるが、原料とするパルプの濾水度を基準とするため、このように定義することで化学変性の度合いに因らずフィブリル化度合いを特定できる。前述の通り、F0はパルプの変性の度合いによって異なるため、ΔFの上限を一義に定めることは困難であるが、処理後の濾水度Fは0mlより大きいことが好ましい。Fが0mlのMFCとするためには、強力な機械解繊を要するため、このように得られたMFCは平均繊維径が500nm未満(セルロースナノファイバー)となる可能性がある。また、濾水度が0mlのMFCを抄紙工程に多量に添加した場合、抄紙に供するパルプスラリーの水切れが悪化する恐れがある。本発明の機械的処理化学変性MFCの平均微細繊維率は、好ましくは4.0以上、より好ましくは4.5以上、さらに好ましくは5.0以上、最も好ましくは8.0以上である。平均微細繊維率は繊維分析装置で繊維を測定した際に「(平均)フィブリル化率(Mean fibril area)」、「平均微細繊維率」、「フィブリルエリア」などの項目として算出される値であって、主となる繊維のフィブリル化の程度の指標の一つである。例えばABB社製ファイバーテスターやファイバーテスタープラスで測定することができ、本願において平均微細繊維率は、好ましくはファイバーテスタープラスで測定された「Mean fibril area」と定義される。
【0013】
本発明の機械的処理化学変性MFCのカナダ標準濾水度の下限は限定されないが0mlより高いことが好ましい。当該濾水度の上限は500ml以下が好ましく、350ml以下がより好ましく、150ml以下がより好ましく、100ml以下が特に好ましい。一般的にシングルナノレベルまで解繊の進んだセルロースナノファイバーのカナダ標準濾水度は0mlである。
【0014】
本発明の機械的処理化学変性MFCのフィブリル化の度合いは、上述の通りパルプの保水度(H)の増加によっても定量化することができる。本発明の機械的処理化学変性MFCは、処理前のパルプの保水度(H0)と処理後のパルプの保水度(H)の差として定義される保水度差(ΔH=H0-H)が10%以上上昇する程度に機械解繊または叩解して得たものが好ましく、50%以上上昇する程度に機械解繊または叩解して得たものがより好ましい。化学変性MFCは、pHによってH型とNa型の比率が変化し、保水度が変化してしまう。そのため、保水度の測定は、解繊前後において同一pH条件下で行うことが好ましい。また、本発明の機械的処理化学変性MFCの保水度は好ましくは210%以上、より好ましくは250%以上、さらに好ましくは500%以上である。保水度が上記範囲であると、機械的処理化学変性MFCが十分にフィブリル化されており、本発明の効果を高いレベルで得ることができる。
【0015】
本発明の機械的処理化学変性MFCは、フィブリル化程度が弱い場合は、濾水度でフィブリル化度合いを評価することができるが、強くフィブリル化を行った場合、繊維のフィブリル化と同時に短繊維化も進むため、繊維がメッシュから抜けてしまい濾水度が見かけ上、上昇してしまう場合がある。このような場合、濾水度でフィブリル化の程度を正しく評価することができないため、保水度の変化率で評価することが好ましい。すなわち本発明の機械的処理化学変性MFCは、ΔFが10ml以上または、ΔHが10%以上となるように機械的処理を施した化学変性セルロースであることが好ましい。
【0016】
本発明の機械的処理化学変性MFCのセルロースI型結晶化度が高いとMFCの強度が高くなり、ひいてはこれを含有する紙の強度も向上する。この観点から前記セルロースI型結晶化度は、好ましくは40%以上、より好ましくは50以上である。当該セルロースI型結晶化度の上限は限定されないが、好ましくは90以下である。セルロースI型結晶化度はX線回折によって測定できる。例えば、機械的処理化学変性MFCを、液体窒素を用いて凍結乾燥し、これを圧縮し、錠剤型のペレットを作成する。その後、このサンプルをX線回折装置(PANalytical社製、XPert PRO MPD)で測定し、得られたグラフを、グラフ解析ソフトPeakFIt(Hulinks社製)によりピーク分離し、下記の回折角度を基準として結晶I型結晶化度を求めることができる。
結晶I型 :2θ=14.8°、16.8°、22.6°
結晶II型:2θ=12.1°、19.8°、22.0°
【0017】
1)セルロース系原料
セルロース系原料は、特に限定されないが、例えば、植物、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物に由来するものが挙げられる。植物由来のものとしては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)が挙げられる。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかまたは組合せであってもよいが、好ましくは植物または微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
【0018】
セルロース繊維の平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10~30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものの平均繊維径は50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製した原料を用いる場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、平均繊維径を50μm以下程度に調整することが好ましく、30μm以下程度とすることがより好ましい。以下、機械的処理化学変性MFCの製造方法について説明する。
【0019】
2)化学変性
化学変性とはセルロース系原料に官能基を導入することをいい、本発明においてはアニオン性基を導入することが好ましい。アニオン性基としてはカルボキシル基、カルボキシル基含有基、リン酸基、リン酸基含有基等の酸基が挙げられる。カルボキシル基含有基としては、-COOH基、-R-COOH(Rは炭素数が1~3のアルキレン基)、-O-R-COOH(Rは炭素数が1~3のアルキレン基)が挙げられる。リン酸基含有基としては、ポリリン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、ポリホスホン酸基等が挙げられる。これらの酸基は反応条件によっては、塩の形態(例えばカルボキシレート基(-COOM、Mは金属原子))で導入されることもある。本発明において化学変性は、酸化またはエーテル化が好ましい。以下、これらについて詳細に説明する。
【0020】
[酸化]
セルロース原料を酸化することによって酸化セルロースが得られる。酸化方法は特に限定されないが、一例として、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質との存在下で、酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。
【0021】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物である。ニトロキシルラジカルとしては例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下がさらに好ましい。従って、N-オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.02~0.5mmolがさらに好ましい。
【0022】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウム等が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。当該量の上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下がさらに好ましい。従って、臭化物およびヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0023】
酸化剤としては、特に限定されないが例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、これらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸またはその塩が好ましく、次亜塩素酸またはその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムがさらに好ましい。酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上がさらに好ましい。当該量の上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下がさらに好ましい。従って、酸化剤の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが特に好ましい。N-オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましく、上限は40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0024】
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても酸化反応は効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。当該温度の上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、反応温度は4~40℃が好ましく、15~30℃程度、すなわち室温であってもよい。反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。pHの上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8~12、より好ましくは10~11程度である。通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱いの容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。
【0025】
酸化における反応時間は、酸化の進行程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上であり、その上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5~6時間、例えば0.5~4時間程度である。酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0026】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾン酸化が挙げられる。この酸化反応により、セルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾン処理は通常、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより行われる。気体中のオゾン濃度は、50g/m3以上であることが好ましい。上限は、250g/m3以下であることが好ましく、220g/m3以下であることがより好ましい。従って、気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100重量%に対し、0.1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。オゾン添加量の上限は、通常30重量%以下である。従って、オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100重量%に対し、0.1~30重量%であることが好ましく、5~30重量%であることがより好ましい。オゾン処理温度は、通常0℃以上であり、好ましくは20℃以上であり、上限は通常50℃以下である。従って、オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、通常は1分以上であり、好ましくは30分以上であり、上限は通常360分以下である。従って、オゾン処理時間は、通常は1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件が上述の範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
【0027】
オゾン処理されたセルロースに対しさらに、酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。追酸化処理の方法としては例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、酸化剤溶液中にセルロース原料を浸漬させる方法が挙げられる。酸化MFCに含まれるカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、酸化剤の添加量、反応時間等の酸化条件をコントロールすることで調整できる。
【0028】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕
【0029】
このようにして測定した酸化セルロース中のカルボキシル基の量は、絶乾重量に対して、0.1mmol/g以上が好ましく、0.5mmol/g以上がより好ましく、0.8mmol/g以上がさらに好ましい。当該量の上限は、3.0mmol/g以下が好ましく、2.5mmol/g以下がより好ましく、2.0mmol/g以下がさらに好ましい。従って、当該量は0.1~3.0mmol/gが好ましく、0.5~2.5mmol/gがより好ましく、0.8~2.0mmol/gがさらに好ましい。
【0030】
[エーテル化]
エーテル化としては、カルボキシメチル(エーテル)化、メチル(エーテル)化、エチル(エーテル)化、シアノエチル(エーテル)化、ヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピル(エーテル)化、エチルヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピルメチル(エーテル)化などが挙げられる。この中から一例としてカルボキシメチル化の方法を以下に説明する。
【0031】
カルボキシメチル化により得られるカルボキシメチル化セルロースまたはMFC中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。当該置換度の上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.30がさらに好ましい。
【0032】
カルボキシメチル化方法は特に限定されないが、例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。当該反応には、通常、溶媒が使用される。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)およびこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は通常その下限は60重量%以上、その上限は95重量%以下であり、60~95重量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3重量倍である。当該量の上限は特に限定されないが20重量倍である。従って、溶媒の量は3~20重量倍であることが好ましい。
【0033】
マーセル化は通常、発底原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上がさらに好ましい。当該量の上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、マーセル化剤の使用量0.5~20倍モルが好ましく、1.0~10倍モルがより好ましく、1.5~5倍モルがさらに好ましい。
【0034】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上であり、上限は通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は通常0~70℃、好ましくは10~60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。当該時間の上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、反応時間は、通常は15分~8時間、好ましくは30分~7時間である。
【0035】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上がさらに好ましい。当該量の上限は、通常10.0倍モル以下であり、5モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、当該量は好ましくは0.05~10.0倍モルであり、より好ましくは0.5~5であり、さらに好ましくは0.8~3倍モルである。反応温度は通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30~90℃、好ましくは40~80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上であり、その上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常は30分~10時間であり、好ましくは1時間~4時間である。カルボキシメチル化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0036】
カルボキシメチル化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法による。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0037】
3)機械解繊または叩解
本工程では、化学変性セルロースを機械的に解繊または叩解し、平均繊維径を500nm以上とする。本発明において、機械的な解繊または叩解を「機械的処理」といい、原料であるセルロースの水分散体に対する機械的処理を「湿式粉砕」という。解繊または叩解処理は1回行ってもよいし、これらを単独でまたは組合せて複数回行ってもよい。複数回の場合それぞれの解繊または叩解の時期はいつでもよく、使用する装置は同一でも異なってもよい。
【0038】
解繊または叩解処理に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。
【0039】
解繊または叩解を化学変性パルプの水分散体に対して実施する場合、すなわち湿式粉砕を施す場合、水分散体中の化学変性パルプの濃度(固形分濃度)は、通常は0.1重量%以上が好ましく、0.2重量%以上がより好ましく、0.3重量%以上がさらに好ましい。これにより、化学変性セルロースの量に対する液量が適量となり効率的になる。当該濃度の上限は解繊または叩解を行うことができれば特に限定されないが、通常は90重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましく、40重量%以下がさらに好ましい。
【0040】
本工程により機械的処理化学変性MFCが得られる。機械的処理化学変性MFCの平均繊維径は、長さ加重平均繊維径にして500nm以上であり、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。平均繊維径の上限は60μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。平均繊維長は長さ加重平均繊維長にして300μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましく、800μm以上がさらに好ましい。平均繊維長の上限は、3000μm以下が好ましく、1500μm以下が好ましく、1100μm以下がさらに好ましい。本発明によれば、事前に原料パルプを化学変性しているため、機械解繊または叩解した際に、フィブリル化や短繊維化が進みやすい。また、本発明の機械的処理化学変性MFCは、CNFとは異なる。一般的にCNFは、強い解繊処理を行うため微細繊維化が進み、繊維幅の低下を伴うが、本発明の機械的処理化学変性MFCはCNFほどの強い解繊処理を行わず、比較的弱い解繊または叩解などのフィブリル化を促進する処理を施すため、繊維幅を維持したまま、繊維のフィブリル化や短繊維化が起こる。
【0041】
長さ加重平均繊維径および長さ加重平均繊維長は、ABB株式会社製ファイバーテスターやバルメット株式会社製フラクショネーターを用いて求められる。機械的処理化学変性MFCの平均アスペクト比は、10以上が好ましく、30以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、80以下がさらに好ましい。平均アスペクト比は、下記の式により算出できる。
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0042】
本工程で得た機械的処理酸化MFCにおけるカルボキシル基量は前述の酸化セルロースのカルボキシル基量と同じであることが好ましい。同様に本工程で得た、機械的処理カルボキシメチル化MFCのグルコース単位当たりの置換度は、それぞれカルボキシメチルセルロースの置換度と同じであることが好ましい。
【0043】
本発明の機械的処理化学変性MFCは、金属イオンを含んでいてもよく、その総量は0以上10mg/g未満であることが好ましい。当該金属イオンとしては、Ag、Au、Pt、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn、Cu等が挙げられるが、好ましくは2価以上の金属イオンである。前記金属イオンの含有量は、走査型電子顕微鏡像、および強酸による抽出液のICP発光分析で確認できる。すなわち、金属イオンは走査型電子顕微鏡像では存在を確認できず、一方でICP発光分析では金属を含有していることを確認できる。これに対して、例えば金属が還元されて金属粒子として存在している場合は、走査型顕微鏡像で金属粒子を確認することができる。本発明の機械的処理化学変性MFCは、紙の製造(抄紙や塗工など)の工程において、他の製紙用薬品と混合して使用される。製紙用薬品には、カチオンやアニオンなどの電荷を有する薬品が多数使用されており、系内の電荷のバランスが崩れると凝集などのトラブルが発生する恐れがあり、金属イオン含有量の高い機械的処理化学変性MFCを使用すると、系内の電荷バランスを崩してしまう恐れがある。そのため、製紙工程におけるトラブル低減のためにも、前記金属イオン含有量は10mg/g未満であることが好ましい。
【0044】
(2)紙
本発明の紙は、後述するとおり、原紙層に機械的処理化学変性MFCを含有してもよいし、塗工層に機械的処理化学変性MFCを含有してもよい。前者を「内添」、後者を「外添」ともいう。本発明の紙における機械的処理化学変性MFCの含有量は、全パルプ(機械的処理化学変性MFCとこれ以外のパルプの合計)中、好ましくは20重量%未満、より好ましくは10重量%以下である。機械的処理化学変性MFCの量が20重量%以上であると、内添の場合はパルプの水切れが悪化し操業性が悪化する恐れがあり、外添の場合も同様に、塗工液の乾燥効率が悪化する恐れがある。本発明の紙は洋紙、板紙、情報用紙、産業用紙、および段ボールなどの用途に使用することができる。
【0045】
(3)原紙層
原紙層とは紙のベースとなる層でありパルプを主成分として含む。本発明においては、原紙は単層でも多層でもよい。原紙層は機械的処理化学変性MFCを含むことが好ましい。多層の場合は原紙層のうち少なくともいずれか一層が前記MFCを含んでいればよく、全層が前記MFCを含有してもよい。前記MFCの含有量は各層のパルプ100重量部に対して1×10-4~10重量部であることが好ましく、3×10-4~1重量部であることがより好ましい。
【0046】
本発明で用いる原紙のパルプ原料は特に限定されず、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ、脱墨パルプ(DIP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、針葉樹クラフトパルプ(LKP)等の化学パルプ等を使用できる。脱墨(古紙)パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙由来のものを使用できる。
【0047】
原紙には公知の填料を添加できるが、板紙等の不透明度や白色度を求められない用途の場合は填料を添加しなくてもよい。填料を添加する場合、填料としては、重質炭酸カルシム、軽質炭酸カルシウム、クレー、シリカ、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸ナトリウムの鉱酸による中和で製造される非晶質シリカ等の無機填料や、尿素-ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂などの有機填料が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし併用してもよい。この中でも、中性抄紙やアルカリ抄紙における代表的な填料であり、高い不透明度が得られる炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムが好ましい。原紙中の填料の含有率は、原紙重量に対して、5~20重量%が好ましい。本発明においては紙中灰分が高くても紙力の低下が抑制されるため、原紙中の填料の含有率は10重量%以上であることがより好ましい。
【0048】
内添薬品として、嵩高剤、乾燥紙力向上剤、湿潤紙力向上剤、濾水性向上剤、染料、中性サイズ剤等を必要に応じて使用してもよい。
【0049】
原紙は、公知の抄紙方法で製造される。例えば、長網抄紙機、ギャップフォーマー型抄紙機、ハイブリッドフォーマー型抄紙機、オントップフォーマー型抄紙機、丸網抄紙機等を用いて行うことができるが、これらに限定されない。
【0050】
本発明の機械的処理化学変性MFCを原紙に添加する場合、パルプスラリーを調成する工程における任意の工程で添加してよいが、当該MFCの混合効率を向上させるために、パルプリファイナー工程またはミキシング工程で添加することが好ましい。ミキシング工程で前記MFCを添加する場合、填料や歩留剤等その他助剤と前記MFCを予め混合したものをパルプスラリーに添加してもよい。
【0051】
原紙の密度は好ましくは0.2g/cm3以上、より好ましくは0.4g/cm3以上である。本発明の紙は、機械的処理化学変性MFC表面に多数のフィブリルを有する。本発明の紙は、紙を構成するパルプ繊維の間に、フィブリル化された機械的処理化学変性MFCが存在することで、パルプ繊維間の結合点が増加し、その結果、紙力増強効果を発現していると考えられるため、パルプの繊維間距離の近い比較的高密度の紙において、より高い紙力増強効果が発現しうる。また、原紙の坪量は特に限定されないが、好ましくは20g/m2以上、より好ましくは30g/m2以上、さらに好ましくは40g/m2超である。
【0052】
(4)顔料塗工層
顔料塗工層とは白色顔料を主成分として含む層である。白色顔料としては、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、焼成カオリン、無定形シリカ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、プラスチックピグメント等の通常使用されている顔料が挙げられる。
【0053】
顔料塗工層は接着剤を含む。当該接着剤としては、酸化澱粉、陽性澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉等のエーテル化澱粉、デキストリン等の各種澱粉類、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス等が挙げられる。これらは単独、あるいは2種以上併用して用いることができ、澱粉系接着剤とスチレン-ブタジエン共重合体を併用することが好ましい。
【0054】
顔料塗工層は、一般の紙製造分野で使用される分散剤、増粘剤、消泡剤、着色剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤を含んでいてもよく、本発明の機械的処理化学変性MFCを顔料塗工層中に含有してもよい。顔料塗工層が前記MFCを含有する場合、その量は顔料100重量部に対して1×10-3~1重量部が好ましい。前記範囲の場合、塗工液の粘度を大幅に増大することなく、適度な保水性を持った顔料塗工液を得ることができる。
【0055】
顔料塗工層は、塗工液を公知の方法で原紙の片面あるいは両面に塗工して設けることができる。塗工液中の固形分濃度は、塗工適性の観点から、30~70重量%程度が好ましい。顔料塗工層は1層でもよく、2層でもよく、3層以上でもよい。複数の顔料塗工層が存在する場合、前記MFCはいずれの顔料塗工層に存在してもよい。顔料塗工層の塗工量は、用途によって適宜調整してよいが、印刷用塗工紙とする場合は片面あたりトータルで5g/m2以上であり、10g/m2以上であることが好ましい。上限は、30g/m2以下であることが好ましく、25g/m2以下であることが好ましい。
【0056】
(4)クリア塗工層
本発明の紙は、原紙の片面または両面にクリア(透明)塗工層を有していてもよい。原紙上にクリア塗工を施すことにより、原紙の表面強度や平滑性を向上させることができ、また、顔料塗工をする際の塗工性を向上させることができる。クリア塗工の量は、片面あたり固形分で0.1~1.0g/m2が好ましく、0.2~0.8g/m2がより好ましい。本発明においてクリア塗工とは、例えば、サイズプレス、ゲートロールコータ、プレメタリングサイズプレス、カーテンコータ、スプレーコータなどのコータ(塗工機)を使用して、澱粉、酸化澱粉などの各種澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子を主成分とする塗布液(表面処理液)を原紙上に塗布(サイズプレス)することをいう。本発明の機械的処理化学変性MFCをクリア塗工層中に含有してもよい。
【0057】
(5)特性
本発明の紙は、JIS P8111に従って23℃50±2%条件下で調湿した後の紙の含水率が10重量%以下であることが好ましい。機械的処理化学変性MFCは保水率が比較的高いので製紙工程において脱水や乾燥が困難になることがある。しかし前記MFCの量および変性基の量を調整して紙の含水率を前記範囲とすることで、製紙工程において脱水性や乾燥性を良好にすることができるので好ましい。また、当該含水率が10重量%以下である紙は十分な強度を有する。当該含水率が10重量%より高いと、パルプのセルロース繊維間に存在する水素結合が水によって妨げられ、紙の強度、特にこわさが低下する恐れがある。この観点から、当該含水率の下限値は限定されないが4重量%以上であることが好ましい。
【0058】
本発明の紙は、繊維径が比較的高くかつフィブリル化率が高い機械的処理化学変性MFCを含むので、優れた強度に加え、優れた透気抵抗度を有する。
【0059】
2.紙の製造方法
本発明の紙は、紙を構成する原紙、クリア塗工層、顔料塗工層のうちいずれか一層に機械的処理化学変性MFCを含有すればよい。高い強度向上効果を得るためには機械的処理化学変性MFCを含む紙料を調製する工程を経て製造されることが好ましく、高い透気抵抗度向上効果を得るためには、機械的処理化学変性MFCを含む塗工液を調製する工程を経て製造されることが好ましい。機械的処理化学変性MFCは前述のとおり、化学変性したセルロース原料を機械的に解繊または叩解して調製できる。紙料は公知の方法に準じて調製できる。例えばパルプを離解して得たスラリーに、前記MFC、填料、必要に応じて添加剤を添加して調製できる。また、塗工液は公知の方法に準じて調製でき、例えば澱粉などのバインダーに、前記MFCおよび必要に応じて添加剤を添加してしてもよく、さらに白色顔料を添加して顔料塗工液としてもよい。
【0060】
このようにして得た紙料用いて公知の方法で抄紙する、あるいはこのようにして得た塗工液を用いて原紙上に塗工を施すことで紙を製造することができる。前述のとおり、紙の表面にクリア塗工または顔料塗工層を設けることができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。
(1)評価
坪量:JIS P 8223:2006を参考とした。
紙厚および密度:JIS P 8118:2014に従った。
灰分:JIS P 8251:2003に従った。
カナダ標準濾水度(csf:ml):JIS P 8121-2:2012に従った。
透気抵抗度:JIS P8117:2009に従い、王研式平滑度・透気度試験機により測定した。
裂断長:JIS P 8113:1998に従った。
引張こわさ:ISO/DIS 1924-3に規定された方法で測定した。
ISO曲げこわさ:ISO 2493に従った。
MFC特性:MFCの特性は、実施例1、2はABB社製ファイバーテスタープラスで測定した。測定条件は以下のとおりである。
【0062】
ファイバーテスタープラス測定条件:0.05%となるように水中に分散したMFCを、定法に従って測定した。測定項目は、平均繊維長(Mean length)、平均繊維径(Mean width)、平均微細繊維率(Mean fibril area)、平均ファイン率(Mean fines)とした。
【0063】
(2)MFCの調製
[製造例1]NBKPからの機械的処理化学変性MFC調製1
定法に従いNBKP(日本製紙株式会社製)をTEMPO酸化処理し、表1に示すTEMPO酸化パルプA~Cを製造した。得られたTEMPO酸化パルプを水に分散し3重量%の分散液とし、リファイナーで処理した。目標c.s.f.、平均微細繊維率に合わせて、リファイナーのクリアランス、処理回数などの処理条件を変更し、機械的処理化学変性MFCを得た。これらの物性を表1に示す。また、得られたMFCの特性を表2および3に示す。
【0064】
[製造例2]NBKPからの機械的処理化学変性MFC調製2
定法に従いNBKP(日本製紙株式会社製)をTEMPO酸化処理し、COOH基量がそれぞれ1.37であるTEMPO酸化パルプD(pH7.2のCSF 554ml)を得た。得られたTEMPO酸化パルプを水に分散し、4重量%の分散液とし、リファイナーで処理した。リファイナーの処理回数を変更し、機械的処理化学変性MFC-Dを得た。これらのMFC特性を表4に示す。機械的処理化学変性MFC-Dは微細繊維化が進みすぎたため、適正なc.s.f.の測定はできなかった。
【0065】
【表1】
【0066】
[実施例1-1]
96重量%のLBKP(日本製紙株式会社製、c.s.f.400ml)、4重量%の機械的処理化学変性MFC-A(c.s.f.67ml、COOH基量0.30mmol/g)を混合して混合パルプとした。当該混合パルプの合計量に対し、1.5重量%の硫酸バンド、0.025重量%のポリエチレンイミン、0.6重量%のポリアクリルアミド、0.2重量%のサイズ剤を添加して固形分濃度0.35重量%のパルプスラリーを調製した。得られたパルプスラリーを用いて坪量50g/m2の手抄きシートを製造して評価した。手抄きは、JIS P 8222に従って実施した。
【0067】
[実施例1-2]
機械的処理化学変性MFC-Aの代わりに機械的処理化学変性MFC-B(c.s.f.54ml、COOH基量0.58mmol/g)を用いた以外は、実施例1-1と同様にして手抄きシートを製造して評価した。
【0068】
[比較例1、2]
機械的処理化学変性MFCの代わりに、機械的処理をしていないTEMPO酸化パルプA(COOH基量0.30mmol/g、c.s.f.573ml)およびTEMPO酸化パルプB(COOH基量0.58mmol/g、c.s.f.364ml)を用いた以外は、実施例1-1と同様に手抄きシートを製造して評価した。
【0069】
[比較例3]
TEMPO酸化パルプAの代わりに未変性MFC(NBKP、COOH基量0mmol/g、c.s.f.450ml)を用いた以外は、比較例1と同様に手抄きシートを製造して評価した。
【0070】
[比較例4]
100重量%のLBKP(c.s.f.400ml)に対し、1.5重量%の硫酸バンド、0.025重量%のポリエチレンイミン、0.6重量%ポリアクリルアミド、0.2重量%サイズ剤を添加して固形分濃度0.35重量%のパルプスラリーを調製した。得られたパルプスラリーを用いて坪量50g/m2の手抄きシートを製造して評価した。これらの結果を表2に示す。
【0071】
[実施例2-1~2-3]
LBKPの代わりに雑誌古紙系未脱墨パルプ(日本製紙株式会社製、c.s.f.350ml)を用い、機械的処理化学変性MFC-Aの添加量を0.01重量%、1.0重量%、10重量%とそれぞれ変更した以外は、実施例1-1と同様にして手抄きシートを製造して評価した。
【0072】
[比較例5]
坪量を43.6g/m2に変更した以外は比較例4と同様にして手抄きシートを製造して評価した。これらの結果を表3に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
表2および3から、本発明の紙は優れた強度および透気抵抗度を有することが明らかである。
【0076】
[実施例3-1~3-2、比較例7]
96重量%のLBKP(日本製紙株式会社製、c.s.f.400ml)、4重量%の、リファイナーパス回数の異なる機械的処理化学変性MFC-D(COOH基量1.37mmol/g)をそれぞれ混合して混合パルプとした。当該混合パルプの合計量に対し、1.5重量%の硫酸バンド、0.025重量%のポリエチレンイミン、0.6重量%のポリアクリルアミド、0.2重量%のサイズ剤を添加して固形分濃度0.35重量%のパルプスラリーを調製した。得られたパルプスラリーを用いて目標坪量50g/m2の手抄きシートを製造して評価した。手抄きは、JIS P 8222に従って実施した。比較例7で用いたMFCは機械的処理化学変性MFCではない。これらの結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
表4から、機械的処理化学変性MFCを含有する紙は裂断長および透気抵抗度が高く、MFCのフィブリル化率が高い程紙は高い裂断長および透気抵抗度を有していた。
【0079】
[比較例6]
機械的処理化学変性MFCを用いなかった以外は、実施例3-1と同様にして手抄きシートを製造して評価した。
図1
図2