(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】硬質炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20230307BHJP
B01J 31/04 20060101ALI20230307BHJP
B01J 31/12 20060101ALI20230307BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20230307BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230307BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20230307BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20230307BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20230307BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20230307BHJP
【FI】
C01B32/05
B01J31/04 Z
B01J31/12 Z
C01G23/00 B
H01M4/587
H01M10/0525
H01M10/054
H01G11/06
H01G11/42
(21)【出願番号】P 2020512572
(86)(22)【出願日】2018-08-31
(86)【国際出願番号】 US2018049255
(87)【国際公開番号】W WO2019046813
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-29
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517286478
【氏名又は名称】ファラッドパワー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100086368
【氏名又は名称】萩原 誠
(72)【発明者】
【氏名】シャンタヌ ミトラ
(72)【発明者】
【氏名】ビノッド ナイル
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-073764(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0030525(US,A1)
【文献】J Polym Res,2010年,17,391-399,DOI: 10.1007/s10965-009-9325-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
B01J 21/00 - 38/74
C01G 23/00
H01M 4/587
H01M 10/0525
H01M 10/054
H01G 11/06
H01G 11/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラン環含有化合物から非非晶質硬質炭素を生成する方法であって、
a.酸性触媒を、4個の炭素原子と1個の酸素原子を含む5員環を含むフラン環化合物を特徴とする液体フラン環含有化合物と混合して混合物を形成する工程と、
b.該混合物を室温で浸漬し、さらに該混合物を空気中で25℃から200℃の温度範囲で加熱して硬質高分子重合固体を形成する工程と、そして
c.不活性雰囲気下で該硬質高分子重合固体を200℃から800℃に加熱し、炭化させて、X線回折技術により測定される3.6オングストロームより大きいd
002間隔を有することを特徴とする、非非晶質硬質炭素を得る工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記フラン環含有化合物が、フルフリルアルコール、フルフルアルデヒド、5-ヒドロキシメチルフルフラール、5-メチルフルフラール、およびポリフルフリルアルコールの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸性触媒がシュウ酸のpKa値以上のpKa値を有する有機酸の少なくともひとつであって、前記触媒は固体であるか、溶液を作るために脱イオン水に溶解される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記非非晶質硬質炭素が、1gm/ccより大きい密度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記非非晶質硬質炭素が、532nmレーザー光源を使用して測定された場合、そのラマンスペクトルに1300/cmから1360/cmの「D」帯域ピークを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、さらに、
d.不活性雰囲気下で1000℃から1100℃で焼成する工程と
を含む方法。
【請求項7】
前記非非晶質硬質炭素が、2から200m
2/gmのBET比表面積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記非非晶質硬質炭素が、Liイオン電池、Naイオン電池、Naイオンキャパシタ、およびLiイオンキャパシタ用の電極を構築するために使用され、Liイオン電池、Naイオン電池、Naイオンキャパシタ、およびLiイオンキャパシタは、C/10から100Cのレートで充電および放電されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記フラン環含有化合物がアセチルフランであって、前記酸性触媒がジクロロジメチルシランおよびテトラクロロシランの少なくともひとつである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
4個の炭素原子と1個の酸素原子を含む5員環を含むフラン環を特徴とするフラン環含有化合物から、X線回折法により測定して3.6オングストロームを超えるd
002間隔を有することを特徴とするケイ素含有非非晶質硬質炭素を製造する方法であって、
a.フラン環含有化合物を不溶性ケイ素含有材料および酸性触媒と混合して混合物を形成する工程と、
b.該混合物を室温で浸漬し、該混合物を室温から200℃までさらに加熱して、高分子固体を形成する工程と、そして
c.不活性雰囲気下で該高分子固体を200℃から800℃で加熱して炭化させ、ケイ素含有硬質炭素材料を形成する工程と、
を含む方法。
【請求項11】
フラン環含有化合物が、フルフリルアルコール、フルフルアルデヒド、5-ヒドロキシメチルフルフラール、5-メチルフルフラール、2-アセチルフランおよびポリフルフリルアルコールの少なくともひとつである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
酸性触媒がシュウ酸のpKa値より大きいpKa値を有する有機酸の少なくともひとつであって、触媒が固体であるか、溶液を作るために脱イオン水に溶解される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
不溶性ケイ素化合物が、粒子サイズが-325メッシュ以下の金属ケイ素粉末および粒子サイズが-325メッシュ以下のアルミノケイ酸塩の少なくともひとつであって、アルミノケイ酸塩がハロイサイトである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記ケイ素含有非非晶質硬質炭素が、エネルギー貯蔵デバイス用の電極を構築するために使用される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
4個の炭素原子と1個の酸素原子を含む5員環を含むフラン環を特徴とするフラン環含有化合物からリチウム含有非非晶質硬質炭素を製造する方法であって、
a.フラン環含有化合物を不溶性リチウム化合物および酸性触媒と混合する工程と、
b.該混合物を室温で浸漬し、さらに200℃の温度まで加熱して高分子個体を形成する工程と、そして
c.該高分子個体を不活性雰囲気下で200℃から800℃の温度範囲で加熱し、炭化させて非非晶質のリチウム含有硬質炭素を形成する工程と、
を含む方法。
【請求項16】
フラン環含有化合物が、フルフリルアルコール、フルフルアルデヒド、5-ヒドロキシメチルフルフラール、5-メチルフルフラール、2-アセチルフランおよびポリフルフリルアルコールの少なくともひとつである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記触媒が、シュウ酸のpKa値よりも大きいpKa値を有する有機酸のうちの少なくともひとつであり、直接または脱イオン水を含む溶液中にある、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記
不溶性リチウム化合物がLi
4Ti
5O
12である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記リチウム含有非非晶質硬質炭素が、リチウムイオン電池およびリチウムイオンキャパシタ用の電極を構築するために使用される、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2017年9月1日に出願された暫定米国出願番号第62/605903号の実用特許出願であり、2016年7月12日に出願された米国特許出願番号第15208336号と現在の米国特許第9916938号、および2016年8月19日に出願された米国出願15242113号と現在の米国特許第993812号、の一部継続出願であり、その利益を主張し、本出願の内容にはそれらの全体が組み込まれている。
【0002】
本開示は、一般に、リチウムイオン電池(LIB)、リチウムイオンキャパシタ(LIC)、および、ナトリウムイオン電池(NIB)などの新興技術のような再充電可能なエネルギー貯蔵装置の陽極として使用する炭素質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池(LIB)は1990年代初頭から使用されており、電極に新しい材料を使用することにより、電荷を蓄積する容量が着実に向上している。LIBの陽極で考慮されるさまざまな材料は、一般に、動作の機構に基づいて3つの広範な範疇に分類され得る:(a)挿入/脱挿入機構(炭素系材料と酸化チタン);(b)合金化/脱合金化機構(Si、Ge、Sn、Sbなどの金属を使用)、および(c)変換材料(金属酸化物/硫化物/窒化物)。LIBの陽極材料の主要な性能測定基準は次のとおりである:比容量(mAh/gm単位)-不可逆性(第1周期後に失われる)と可逆性、出力特性(例:急速充電)、サイクル寿命(劣化前の可逆容量の合計サイクル数)および密度(容積容量を決定する)。合金化/脱合金化機構群には、最高の比容量(例えば、4212 mAh/gmのSi容量)を示す金属が含まれ、充電中に樹状突起が形成され、通常、隔離板の破損と単電池の短絡、充放電周期中の体積膨張、短いサイクル寿命につながる(Goriparti, S.、他、2014年)。これらの安全上の問題により、LIBの陽極材料として前記群の材料を広く使用することはできない。
【0004】
全体として、挿入/脱挿入機構を使用する炭素材料は、性能特性の許容可能な組み合わせを示すため、今日最も人気のある陽極材料である。これらのうち、黒鉛は、理論上の最大容量は372 mAh/gmであり金属/合金よりも小さいが、他の特性(長いサイクル寿命、優れたクーロン効率と出力特性、など)により、LIB陽極の一般的な材料となっている。ただし、黒鉛の主な欠点は、比容量が比較的小さいこと(通常300から350 mAh/gm)であり、家電製品などの低電力装置により適しているが、xEV(全電気/ハイブリッド自動車)のような、より要求の厳しい高出力用途には向いていない。さらに、陽極材料の容量の改善により、より大容量の陽極の必要性が高まっている。黒鉛よりも容量値が大きい他の形態の炭素質材料、特に「硬質炭素」(HC)は、大きい可逆容量、優れた安全特性、および長いサイクル寿命の組み合わせにより、有望である。
【0005】
「硬質炭素」という用語は、「黒鉛化」されていない、すなわち、黒鉛の拡張3次元結晶構造を欠いているが、活性炭素のような非晶質ではない炭素材料を示す。微細構造的には、数層グラフェンの高さ以下で平面(グラフェン)寸法が10から40Åの微細黒鉛性断片の集まりである(Irisarri、E.、他、2015年)。これらの微細黒鉛性領域の形成は、2段階の炭素質前駆体の熱処理によって決定されることが示唆されている:(i)炭化中(500から800℃の範囲)に放出される揮発性化合物によって生じる多孔性、および(ii)その後の高温処理(900から1200℃)。これらの加熱段階で、炭素質前駆体が液相を通過する場合、微細黒鉛性断片は、後続の高温熱処理中に焼鈍しによって黒鉛のような秩序構造になり得え、半秩序構造に集合し整列し得ることが提唱されている(Tamashausky, A.V., 2006年)。あるいは、微細黒鉛性断片が互いに実質的に非整列のままである場合、硬質炭素構造が形成される。
【0006】
硬質炭素の黒鉛化の欠如の意味のひとつは、個々のグラフェン層間の平面間間隔(「c/2」、ここで「c」はグラフェン平面に垂直方向の格子パラメータであり、この平面間隔はX線回折(XRD)の研究で測定される)は、黒鉛のそれよりも大きくなる傾向があることである。具体的には、粉末X線回折パターンの対応するd002ピークは、黒鉛の約3.37オングストローム(Å)の非常に鋭いピークであり(Tianchan、J.、他、2017年)、2θ値26.5°に対応する(Cu Kαソースで測定した場合)。硬質炭素は、一般に3.6Å以上のd002間隔で測定されており、ピーク強度が小さく、ピーク幅が広い(強度に対する2θプロット上で数度の半値全幅(FWHM))。これは、リチウムイオンとナトリウムイオンの炭素陽極へのインターカレーション(挿入)の観点から重要である - というのは、d002間隔が大きいと、リチウムイオンを挿入する能力が大きくなるためである(Dai、S.、他、2011年)。さらに、新興のナトリウムイオン電池技術では、黒鉛はナトリウムイオンを挿入できないが、d002間隔が大きい硬質炭素は挿入でき得る。さらに、シェラーの方程式(Scherrer, P.、1918年)を使用して、d002ピークのピークの広がりを分析すると、平面グラフェン寸法の微結晶領域の大きさを推定できる。一方、スーパーキャパシタの電極やその他の液相および気相吸着用途に使用される活性炭素も非黒鉛性であるが、本質的に非晶質であり、XRDパターンが非常に異なる(つまり、d002ピークがない)。
【0007】
活性炭素、硬質炭素、黒鉛のXRDパターンの比較を
図1に示す(Cu K
α放射を使用)。黒鉛と硬質炭素の両方で最も顕著なピークは(002)ピークである。黒鉛(日本の大阪ガスケミカル(株)の「Gramax」ブランド)は、26.5°(2θ)を中心とする鋭いピークを持ち、これは3.37Åの「d」間隔に対応する(ここで、d
002間隔は、黒鉛構造を構成する黒鉛層の層間間隔、つまりc/2である)。活性炭素(日本の関西熱化学株式会社のMSP-20ブランド)について得られたXRDパターンは、(002)ピークをまったく示しさない。硬質炭素パターンは、本開示に記載の方法を使用して得られた材料からのものである。ピーク位置は24.3°の2θの角度にあり、3.37Åのd間隔に対応している。一方、3つすべての材料は、43°と45°の間に中心がある(101)面に対応するピークを示している。明らかに、XRDのd
002ピークの存在、形状、および位置は、硬質炭素の特性であり、これにより、黒鉛および非晶質活性炭素を明確に区別することもできる。
【0008】
硬質炭素材料のもうひとつの重要な特性は、炭素固体の分子振動と音響量子による単色光の散乱を測定するラマン分光法によって測定される。黒鉛のラマンスペクトルは、1355 cm-1(Dバンド)と1579 cm-1(Gバンド)で見られ得るふたつの主要なモードを示す - 532nmの光源放射に対して[Kondratowicz, I.、他、2015年]。1579 cm-1のピークは、面内C-C振動に対応する「G」黒鉛帯域であり;一方、約1355 cm-1のピークは、対称性が破れた場合にのみ存在するモードに対応する「D」無秩序帯域である(すなわち、硬質炭素の場合のように、構造に無秩序および格子欠陥がある場合である)。純粋な大量の黒鉛粉末の場合、DピークはGピークよりもはるかに小さくなる傾向がある。D帯域とG帯域の強度の比(ID/IG)は、材料の無秩序性または非黒鉛性の尺度として採用される(高比率 = より硬質炭素に近い、低比率 = より黒鉛に近い)。黒鉛のID/IGとともに、DおよびGピークのラマンシフトの典型的な値を表1に示す(Tianchan, J.、他、2017年)。硬質炭素のDおよびGピークは急峻ではなく明確に定義されたピークではない - これは、格子の不完全性と材料の異なる官能基の寄与があることを示している。より適切なID/IG比のためには、ピーク強度ではなく、そこで各ピークの積分面積を使用することがよい。硬質炭素のラマンスペクトルのデータの典型的な例も表1(Ajuria, J.、他、2017年)に示されており、D帯域とG帯域の強度比の大きな違いを強調している。
【0009】
【0010】
上記の説明から、ID/IG比が大きい(> 1)炭素は明らかに黒鉛性ではないが、XRDパターンにd002ピークが存在することから非晶質ではないことが示されている。したがって、これらふたつの組み合わせは、硬質炭素を特徴づけている。
【0011】
最後に、硬質炭素の比表面積(SSA)(m2/gm単位)も重要な特性である。科学文献には、LIBで使用されている陽極の表面積の役割に関するふたつの視点がある。一方では、最初の周期の直後に炭素と電解質の間に形成さる、いわゆる固体電解質界面(SEI)層にトラップされるリチウムイオンが少なくなるため、より小さい表面積(<10 m2/gm)が好ましいとされている。これは、高蓄積容量向けに最適化された高エネルギー装置にとって重要である。他方では、LIBとNIBでそれぞれリチウムおよびナトリウムイオンの輸送を促進するためには、いくぶん大きい表面積(> 100 m2/gm)が好ましいとされている。この側面では、高速充電用途向けに陽極が最適化される。したがって、小さいSSA値(<10 m2/gm)と大きいSSA値(> 100 m2/gm)の硬質炭素を両方製造できる柔軟な技術が望まれる。
【0012】
陽極用途の炭素の比表面積は、通常、BET法(Brunauer, S.、他、1938年)を使用したN2吸着等温線によって測定される。N2吸着は、多数の物理吸着モデルに基づいて、サイズが1 nmを超える細孔の、細孔径と細孔容積の推定値も提供する。これらの中で最も一般的なものは、NLDFT(非局所密度汎関数理論)である[Jagiello, J.、他、2013年]。
【0013】
市場に出回っている初期のHCのひとつは、日本の株式会社クレハが石油ピッチの前駆体材料から製造したものである(シミズ、K.、他、米国特許第7718307号)。この材料のd002間隔は3.55Åを超え、容量は最大481 mAh/gmである。 - 陽極として使用する場合(対電極:Li金属)。試験は、最大レートである1C(つまり、1時間で充電するために必要な電流値)で、2.5から4.2 Vの電圧範囲で充電および放電することによって実施された。この硬質炭素が高速充電用途に必要な、より大きいCレートに適しているかどうかに関する情報はない(例えば100Cまで、すなわち1時間の100分1で充電するために必要な電流値)。また、この炭素のBET表面積は2から約7 m2/gmの範囲であると報告されているが、この過程がより大きいSSA(高速充電用途に推奨される)のHCをもたらす可能性があるかどうかに関する情報はない。そのため、約2 m2/gmから100 m2/gmを超えるSSAを達成し得る、100Cの範囲で高速の充放電機能を実現できる、より柔軟な方法が望まれる。
【0014】
椰子殻のような天然資源(Iwaza, T.、2017年)もHCの製造に使用されている。椰子殻炭は、最初に炭化され、次に化学的に処理され、その後、HCl酸洗浄処理、そして最後に炭化水素/N2雰囲気下での化学蒸着(CVD)処理が行われた。LIB陽極用途では、最大530 mAh/gmの容量が測定されたが、このHCを椰子殻炭から製造する過程は複雑である。具体的には、HCl処理では、HCl雰囲気下で材料を加熱する必要がるが、そこで特別な機器と取り扱いが必要である。次に、炭化水素およびN2雰囲気下でCVD処理が実施される。これにより、また、製造過程に追加の工程と複雑さが追加される。より簡単なHCの形成工程が望まれる。
【0015】
HC合成に使用されるその他の前駆体材料には、糖(ぶどう糖、果糖、蔗糖)および類似の有機前駆体が含まれる。1100℃での糖の熱分解を用いて、NIB陽極用のHCが形成された[Ponrouch, A.、他、2012年]。1100℃での蔗糖の熱分解も、d002間隔が3.93Å、微細黒鉛性領域の厚さが2.9グラフェン層(平均)、BET比表面積が137 m2/gのHCの製造に使用されている[Luo, W.、他、2015年]。1050℃での蔗糖の真空熱分解(10 mTorr未満)もHCの製造に使用されている(Buiel, E.、1998年)。ただし、蔗糖の前駆体(C12H22O11)からのHCの理論上の最大収率は36 wt.%(重量パーセント)である。理論上の最大炭素収率がより高い前駆体材料が望ましい。
【0016】
フルフリルアルコール(C5H6O2)などのフラン環化合物(炭素原子4個と酸素原子1個からなる5原子の環を含む)は、理論上の炭素収率が61%を超え、HCの魅力的な前駆体である。ニシ、他(米国特許第4959281号)は、フルフリルアルコールを使用して、LIB陽極に適したd002間隔3.8ÅのHCを形成し、320 mAh/gmの可逆容量を実現している。フルフリルアルコールは、85%リン酸水溶液を使用して、フルフリルアルコール/リン酸混合物をぬるま湯で加熱することにより重合する。次に、1N NaOH溶液をこの粘性重合体に添加する(NaOH溶液の初期水浴温度や混合基準の詳細は提供されていない)。次に、十分なNaOH溶液を添加してpHを5にした後、未反応のフルフリルアルコールと過剰の水を真空蒸留で除去する。最初の加熱操作中に水の損失を防ぐ必要があるため、pHの維持が必要である(したがって、何らかの種類の還流装置を準備する必要がある)。さらに、粘性のある未反応の液体の除去は、特に還流装置が関与している場合、困難/複雑になり得て、しばしば不完全になる。その後、500℃で炭化し、1100℃で高温処理する。全体の工程は複雑である。より簡単な方法が望まれる。
【0017】
イモト、他(米国特許第5643426号、第56716732号)は、フルフリルアルコールを20 kPaの一定の低圧下で1200℃の温度まで加熱することにより、3.7Åを超えるd002間隔の難黒鉛化性HCを製造する方法を説明している。この炭素は、403 mAh/gの容量を有することが示された(LIB用途)。しかし、フルフリルアルコールから硬質炭素を製造するこの方法も、炭化中に20 kPaの真空を維持する必要があるため複雑になる - 大量のガスの放出を伴う工程は簡単ではない。井本および他の者は、また、通常の大気圧下で加熱処理を実施した場合、得られる炭素は最適ではない(容量が282 mAh/gmしかない)ため、工程の不可欠な部分として過圧が必要であることも示した。特別な圧力環境を必要としない、より簡単な方法が望まれる。
【0018】
アズマ、他(米国特許第5093216号)は、フルフリルアルコールを無水マレイン酸および水と混合し、温水浴で還流することにより加熱して、粘性重合体を得る工程を説明している。次に、この粘性液体を真空蒸留して未反応のフルフリルアルコールと水を除去し、濃縮リン酸溶液と混合する。次に、混合物をN2下で500℃で炭化し、その後1200℃の高温処理を行い、d002値が3.82Åを超え、密度値が1.55 gm/ccであり、リン含有量が1.4 wt.%の炭素を得た。LIBの単電池構成(LiCoO2ベースの陽極を使用)によるその後のテストの結果、80回の充放電周期で380 mAh/gmの容量を得た。大きなd002間隔(3.82Å)は、リンの存在に起因していた。Omaru、他(米国特許第5294498号)によって記述されたこの方法の変形形態では、リン酸と粘性重合体を混合し、1200℃でこの組み合わせを直接焼結している(炭化と高温工程を効果的に組み合わせて) - 容量とd002間隔について同様の結果が得られる。これらの両方の方法で、リンの存在は、d002間隔を広げ、その結果Liのインターカレーション能力を高めるために重要である -その結果、黒鉛が達成できる容量値よりも大きい容量値になるが、リンがインピーダンスや長期サイクル寿命などに、他の有害な影響を与えるかどうかは明らかではない。他の元素を追加せずにリチウムイオンを挿入することができる、大きなd002間隔の純粋なHCが望まれる。
【0019】
発明者らは、これまで、フルフリルアルコールなどのフラン官能基材料から表面積の大きい活性炭素を合成する工程を説明してきた(米国特許出願番号第15242113号、現在は米国特許第9975778号)。フルフリル官能基を含む液体出発原料を、有機酸(シュウ酸、酒石酸、マレイン酸の組み合わせ)などの触媒と、1から3 wt.%の範囲の導電性カーボン添加剤で重合する方法を説明する。重合は室温で行われ、その後の加熱工程で炭化および活性化を行い、表面積が約2500 m2/gmの活性炭素を得た。ここでは、活性炭素とは非常に異なる特性を有する硬質炭素の形成をもたらすこの方法の変形形態について説明する。最も著しい違いは、フルフリルアルコールに由来するHCについて測定された全体的な比表面積(3から約300m2/gmの間の値)である。これには、炭素の密度の大幅な増加も伴う(活性炭素の場合の約0.6 gm/ccからHCの場合の1.2 gm/ccを超える値まで)。
【0020】
最近、Siは理論上4200 mAh/gという大きい容量を持っている(Li4.4 Siにリチウム化された場合)ため、LIBの陽極容量をさらに向上させる添加剤を含むHC複合材料(具体的には、炭素/ケイ素(Si)複合材料)の開発にも大きな関心が寄せられている。単電池電圧の増加、高エネルギー密度、電解質への不溶性など、他の好ましい特性に加えてSiにはいくつかの欠点もある。主に、充放電工程中の陽極の体積変動(SiのLi4.4Siへのリチオ化により体積膨張が400%を超える)による大容量フェーディングがあり、ひび割れおよび最終的に導電率の損失につながる。これらの問題は、ケイ素濃度が10%から20%の炭素とケイ素の複合材料を使用することで軽減でき得る。
【0021】
これらのC/Si複合材料を実現するために、幾つかの調査が着手されており、それらは一般に3つの範疇に分類され得る:(i)これらの材料の一方のもう一方への堆積/成長(例えば、米国特許第8450012号に記載されているSiナノワイヤ上の炭素の化学蒸着;米国特許第9812699号に記載されている黒鉛基板上のSiナノワイヤの成長;(ii)Siナノ構造における固体炭素と黒鉛粒子の混合(例えば、米国特許第9553304号に記載されている、エッチングされたSiナノワイヤと炭素微粒子の混合;米国特許第9634315号に記載されている、グラフェンとSiナノ粒子の混合;そして、米国特許第9553303号に記載されている、黒鉛、炭素微粒子、およびSi粒子の混合);そして、(iii)高分子化学を用いて、Siが埋め込まれた炭素を合成する(例えば、米国特許出願番号第20130252082A1号に記載されているレゾルシノール/ホルムアルデヒド縮合反応を使用すると、SSAが100 m2/gmを超えるHCのみを得る)。HC/Si複合材料のより安全(ホルムアルデヒドなどの有害化学物質を使用しない)でより簡単(複雑な化学蒸着技術を用いない)な製造方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
ここに開示されたプロセスは、触媒を使用した、フルフリル官能基含有液体とも呼ばれるフラン環含有液体化学物質の室温重合を伴う。前駆体材料には、フルフリルアルコール、フルフルアルデヒド、5-ヒドロキシメチルフルフラール、5-メチルフルフラール、およびポリフルフリルアルコール(PFA)樹脂などの化合物を含む他のフルフリルアルコールが含まれる;一方、触媒には、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、安息香酸、ギ酸およびその他の有機酸が含まれる(これらはすべてシュウ酸よりも弱い)。別の実施形態においては、2-アセチルフランのようなより遅い重合性のフルフリル官能基含有前駆体は、より強い触媒(テトラクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシランまたはジクロロジメチルシランを含む基の少なくともひとつ)を使用して重合される。同様に、硝酸(HNO3)のような強酸を使用して、より遅い重合PFA樹脂が重合される。最初の重合した固体が得られたら、さらに200℃までの温度の空気下で加熱して、重合および架橋プロセスを完了する。この工程で使用される中間温度には、次のひとつ以上の加熱が含まれる:60℃、70℃、80℃、90℃および120℃。使用する温度に応じて、最終HCの特性は影響を受ける可能性があり、SSAが約2 m2/gmと非常に小さくなるか、SSA値が約100 m2/gm以上と大きくなる可能性がある。次に、重合した固体は、遅い温度上昇速度で800℃まで加熱され炭化される。温度上昇速度は5℃/minより遅く、理想的には2℃/minに近い値である。より速い温度上昇速度を使用し得るが、これには約360℃の中間焼成工程が伴う。最後に、不活性雰囲気下で1000℃を超える随意の焼成処理が適用される。加えて、炭化に続いて、炭素は高温のCO2または蒸気環境にさらされ、ある程度の多孔性が形成される。炭素はHCの種類であるため、この工程は、従来の活性化工程が軟炭素や活性化可能な炭素に及ぼす効果と同じ効果はない、すなわち、微細孔とメソ細孔を形成し、SSAは1000 m2/gmを超え、最大2500 m2/gmになる。代わりに、準微細孔(主に8Å以下の範囲)の増加を伴うSSAのわずかな増加(最大約200 m2/gm)のみが発生する。別の実施形態では、追加のCO2または蒸気処理が使用されない場合、炭化処理は高温焼成工程と組み合わされる。その後、炭素は、業界あるいはリチウムイオンおよびナトリウムイオン電池およびキャパシタ装置の分野で一般的な標準方式を使用して、陽極の製造に備えて、5から10μmの粒子サイズに粉砕される。
【0023】
別の実施形態において、前駆体フラン環化合物は、ケイ素含有材料(純粋なSi粒子またはSi化合物のいずれか)と混合され、次いで上記と同じ技術を使用して重合される。その後の炭化および焼成処理も上記同様。最終炭素は、HCの明確な特性を示している、すなわちXRDパターンに顕著なd002ピークがあり、ラマンスペクトルに大きな「D」帯域ピークがある。次に、このSi含有炭素は、業界で一般的な標準方式を使用して、LIBおよびNIBの陽極の製造に備えて、5から10μmの粒子サイズに粉砕される。
【0024】
さらに別の実施形態では、前駆体フラン環化合物をリチウム化合物(例えば、周知の陽極材料でもあるLi4Ti5O12(LTO))と混合し、次いで上記と同じ技術を使用して重合する。炭化と計算も上記のように行われる。最終的な材料は、HCとLTOの複合材料である。このLTO含有炭素は、業界で一般的な標準方式を使用した、LIBやNIBの陽極の製造準備として、5から10μmの粒子サイズに粉砕される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】黒鉛、活性炭素、硬質炭素の強度に対する2θ(10°から70°)のX線回折(XRD)プロット。
【
図2】室温重合フルフリルアルコール樹脂の熱重量分析(TGA)(100℃から900℃、温度上昇速度10℃/min)。
【
図3】実施例1から7の硬質炭素のXRDプロット。
【
図4(a)】実施例1および5の硬質炭素のラマン分光写真。
【
図4(b)】実施例2から4と6および7の硬質炭素のラマン分光写真。
【
図5】実施例1から8の硬質炭素のN
2等温線(BET測定による)。
【
図6(a)】実施例1の第1周期および第10周期の硬質炭素の周期的ボルタンモグラム。
【
図6(b)】最大100CまでのさまざまなCレートにおける実施例1の硬質炭素の容量に対するサイクル数。
【
図7(a)】実施例1と7の硬質炭素を使用したリチウムイオンキャパシタ構成の10Amp/gmの一般的な充放電周期。
【
図7(b)】同じ構成の1000回のサイクル寿命。
【
図8】最大100CまでのさまざまなCレートにおける実施例5の硬質炭素の容量に対するサイクル数。
【
図9】実施例7の硬質炭素のXRDプロット(硬質炭素と金属Siを示す)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料を本出願の実施または試験に使用され得るが、好ましい方法および材料をここで説明する。本明細書で言及されるすべての刊行物は、刊行物が引用されることに関連して方法および/または材料を開示および説明するために参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
本開示に記載の工程は、フラン環含有液体前駆体材料の室温重合(22から25℃)であり、その後、特別な還流や真空蒸留の準備なしで加熱して重合と架橋を完了する。前駆体液に溶解する触媒を使用することにより、重合が触媒される。触媒の範疇のひとつは、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、安息香酸、クエン酸、ギ酸などの弱有機酸の基である。これらの有機酸は、シュウ酸の酸解離定数(pKa値が1.23)よりも大きい酸解離定数値(pKa)を有することを特徴とする。発明者らは、これらの有機酸を粉末状(つまり、フラン環化合物に溶解する)、あるいは最初にDI水に溶解してからフラン環化合物と混合することにより使用した。この基に含まれるフラン環化合物は、フルフリルアルコール、フルフルアルデヒド、5-ヒドロキシメチルフルフラール、5-メチルフルフラール、およびポリフルフリルアルコール(PFA)樹脂である。触媒を含む前駆体フラン環を含む液体の比率は、一般に5 wt.%から12 wt.%の間である -特定のタイプの触媒に依存する(シュウ酸のみが使用される場合は重量%の下端に近くなるが、より弱い触媒の使用には重量%の上端が必要)。
【0028】
ある実施形態においては、440グラムのフルフリルアルコール(#W249106、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)を44グラムの有機酸触媒の組み合わせ(モル比1:1:1のシュウ酸、マレイン酸、酒石酸)と混合した。触媒が溶解したら、混合物を室温空気下で浸漬させる。ここでの目的は、難黒鉛化性炭素の形成を促進するような方法で前駆体を重合することである、すなわち、ID/IG比が大きいことを特徴とする微細黒鉛性結晶ドメインのみの形成を促進する(ラマン分光法による)。同時に、重合(およびその後の炭化工程)は、XRD測定でd002ピークが存在しないことからわかるように、結晶質炭素が形成されないことも保証する必要がある(3.6Åを超えるd002ピークは、黒鉛でも結晶質炭素でもない硬質炭素の存在の指標である)。
【0029】
この目的を達成するために、重合反応の進行を示すペースト状固体(反転したときに形状を保持)が得られるまで、混合物を室温で浸漬する。混合物の重量は、ゼロに近づきその時点でペースト状固体が形成されるまで、時間とともに減少する重量損失率とともに追跡された。この材料の熱重量分析(TGA)を
図2に示す(加熱速度は100℃から900℃まで10℃/min)。d(W)/dtに対する温度曲線を参照すると、200℃以下で変化が見られ、350℃と400℃の間で再び鋭いピークが見られる。200℃以下の反応は重合反応に関連しており、重合熱処理の終了として200℃を選択したことが示されている。室温での浸漬後に形成されたペースト状固体は、中温で追加の熱処理を受けた(最高200℃、すべて空気下で24時間)。次に、この段階で形成される硬質高分子固体が炭化される。
図2から、800℃に達した後にd(W)/dt曲線が平坦になることがわかる。これは、炭化に適した温度として選択される。
【0030】
この実施形態で説明される前駆体からのHCの形成を促進するために、個体に微結晶黒鉛性秩序の領域を形成する必要がある。一般的な理論によると、これは炭化熱処理を使用して適切な多孔性を生成することにより達成され得る(揮発性の出発有機化合物から)。その後、材料を整列させてより大きな微結晶領域を形成する高温熱処理を行う。この枠組みでは、初期の重合反応は、また、炭化および最終熱処理工程の基本構造を提供するため、重要である。そのため、固体を形成する初期重合反応は、後続の熱処理工程中の構造調整を容易にするために、典型的な軟活性炭素よりも高い黒鉛性秩序を有する必要がある。
【0031】
HCが確実に形成されるように、炭化熱処理は遅い加熱速度で実行され、800℃の最終炭化温度下で数時間保持する必要がある。発明者らは、その後、1000℃での最終的な高温焼成処理を実施した。加熱速度は一般に5℃/min未満とし、理想的には2℃/minとして、
図2のTGAデータに示されている反応が確実に完了するように、350℃から400℃の範囲でより遅くする。800℃までは、より速い加熱速度を用いることができるが、350℃から400℃の範囲で初期浸漬が必要である。炭化は不活性雰囲気下で行われる。1000℃の最終焼成工程も、不活性雰囲気下で行われる。
【0032】
上記の実施形態では、室温重合の後に、60℃から120℃の間のいくつかの中間温度で加熱し、続いてすべて空気下200℃で処理して、硬質高分子固体を形成した。窒素下、800℃で4時間炭化を実施した。高温焼成は使用しなかった。実施形態のXRD測定は、Cu Kα放射を伴う35kV、30mAで動作するマルバーン パナリティカルのX線回折装置、エンピリアンで行われた。XRDパターンは、23.65°に強いd002ピークを示し、3.76Åのd間隔に対応している。吸着ガスとしてN2を使用して、カンタクローム社製NOVAtouch(登録商標)LX2でBET測定を実施した。BET多点表面積および細孔容積(カンタクローム インスツルメンツ社製のTouchWinTMバージョン1.21ソフトウェアにより導出された炭素のスリット細孔のNLDFTモデルを使用)は、それぞれ89.8 m2/gmおよび0.0644 cc/gmとして得た(表2参照))。
【0033】
上記実施形態の変形形態では、フルフリルアルコール150mlを有機酸の組み合わせ(シュウ酸+マレイン酸+酒石酸、モル比1:1:1)14.7gと混合し、ペースト状固体が形成されるまで(重量損失率がゼロに近づくと同時に)混合物を室温で浸漬させた。この時点で、材料を空気下で120℃と200℃に加熱して、重合工程を完了した。まず360℃で加熱し、続いて800℃で4時間、そして1000℃で30分間加熱することにより炭化を実施した。この材料の密度は1.41 gm/cc、BET、表面積は3.89 m2/gm、細孔容積は0.0047 cc/gm(スリット型細孔のあるNLDFTモデル)と測定された。重合条件と炭化条件を変更することにより、最終HCの特性を変更できる可能性があり、同様のXRD特性を維持しながら、SSAを約90 m2/gmから3.9 m2/gmに劇的に削減できる。これらのデータを表2に示す。
【0034】
【0035】
議論されたふたつの実施形態は、フルフリルアルコール/有機酸触媒混合物からHCを生成する。これは、フルフリルアルコール/有機酸混合物から、高表面積活性炭素を製造するという以前の開示(米国特許第9458021号)とは次の点で方法論が異なる:(i)活性炭素の異体では、出発混合物に炭素微粒子のような導電性炭素粉末を追加する必要があるが、HC工程では必要ない;そして(ii)炭化に使用される熱処理が異なる。具体的には、HCでは、活性炭素よりも高い温度(800から1000℃)で、はるかに遅い炭化工程が必要となる。
【0036】
フルフリルアルコールに加えて、ポリフルフリルアルコール(PFA)樹脂のような他のフラン環含有化学物質も前駆体材料として使用でき得る。発明者らは、具体的には、Furolite(登録商標)(ベルギー、ヘールのTransFuran Chemicals社製)を使用した。発明者らは、次の酸触媒を用いて、このPFAの重合を評価した:シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、ギ酸、1.5M硝酸溶液。PFAはフルフリルアルコールよりも遅い重合材料であり、硝酸などのより強い酸性触媒で重合でき得る。発明者らは、また、乾燥粉末状ではなく、水に溶解した有機酸も評価した。PFAが粘性の液体であるため、触媒とPFAをよりよく混合するために前記を実施した(使用した異体の粘度は約2100cPである。)。過剰な水(例えば、水への溶解度が小さいシュウ酸の場合)は、後続の加熱行程で自然に除去された。いずれの場合も、5から12 wt.%の触媒を使用し、室温で24時間浸漬してから空気下で60℃から200℃温度に加熱することにより、発明者らはPFAの重合に成功した。
【0037】
ある実施形態において、PFA(Furolite、ベルギー、ヘールのTransFuran Chemicals社製)は、混合物を200℃まで加熱して、10 wt.%のギ酸を使用することにより重合された。次に、重合PFAを2つの異なる条件下で炭化した。(a)800℃で2時間(不活性雰囲気下);(b)800℃で4時間(不活性雰囲気下);その後、1000℃で30分間(再び不活性雰囲気下)。処理条件の違いの関数として表面積と細孔径を評価するために、BET測定が行われた。上記のふたつの炭素について得られた(カンタクローム インスツルメンツ社製の機器を用いて)BET多点表面積、細孔容積、および細孔径を表2に示す。さらに、炭化材料のかさ密度も測定され、結果を表3に示す。
【0038】
【0039】
上の表からわかるように、炭化後工程は表面積と細孔容積の発達に大きな影響を及ぼすが、細孔サイズ(窒素吸着剤で測定)は変わらない。また、遅い炭化工程による炭素の密度は、他のものよりも著しく大きく測定された。その結果、炭化処理のような加工条件の変更を使用して、本開示に記載の方法により製造された最終硬質炭素の密度、表面積および細孔容積を決定し得る。これは、最終用途、特に高速充電のLIB装置に対する大容量装置に関連する。上述のように、高速充電装置は、より大きなSEI形成による大きな第1周期の不可逆容量損失を犠牲にして、リチウムイオンのインターカレーション工程を促進するため、より大きな表面積の陽極用炭素材料の恩恵を受けるだろう。一方、表面積の小さい炭素は、SEIが小さいため、第1周期の損失(不可逆的)がはるかに小さくなる。いずれの場合も、ここで説明する方法を調整して、さまざまな表面積を有する硬質炭素を生成できる。
【0040】
ニシ、他(米国特許第4959281号)、イモト、他(米国特許第5643426号、56716732号)、およびアズマ、他(米国特許第5093216号)によって記載されている方法もフルフリルアルコールを利用しているが、本開示と前記特許に記載されている方法との間には大きな違いがある。具体的には:
・最も重要な違いは、本開示で説明する方法では、最初に室温でフルフリルアルコールを重合させて固体にする。これは、後続のすべての加熱工程で形成される材料の性質に影響を与えるため、重要である。他の特許に記載されている工程は、室温での浸漬は行わない。他の方法では、液体フルフリルアルコールを何らかの形で加熱するが、これは、重合中に発熱反応を起こし、大規模な工業環境では危険な場合がある。温和な室温工程では、熱暴走の危険性はない。
・本発明の手法は、真空蒸留工程を必要としない(米国特許第4,959,281号に記載ある)。本発明の手法は、H3PO4(有毒で危険な物質)を使用する米国特許第5,093,216号に記載されている方法とは異なり、弱い固体酸(有機酸)のみを使用している。本発明の手法は、初期のフルフリルアルコール前駆体を還流加熱する必要はない(米国特許第5,093,216号は、pHを維持するためのフルフリル樹脂水混合物の還流加熱を記載している)。本発明の手法では、固体が得られるまで、室温で長時間浸漬する(製造工程を単純に保つ)。
・本発明の手法では、黒鉛よりも大きなd002間隔を実現するためにリンを追加する必要はない(米国特許第5,093,216号および第4,959,281号にはリンの存在が必要)。本方法は、米国特許第5,716,732号に記載されているような、一定の低圧(約20 KPa)下での加熱を使用しない。
【0041】
別の実施形態では、フラン環含有化合物はアセチルフランである。この前駆体に使用される触媒には、テトラクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシランまたはジクロロジメチルシランが含まれる。特定の実施形態では、100mlのアセチルフラン(シグマ アルドリッチ社製)を25mlのジクロロジメチルシラン(シグマ アルドリッチ社製)と混合した。次いで、ペースト状の固体が得られるまで、混合物を室温で浸漬した。これを空気下で40℃、87℃、127℃および200℃に加熱して重合を完了させた。炭化は、最初に窒素下の360℃で4時間、重合した固体を浸漬し、続いて800℃で4時間浸漬することにより実施した。この実施形態は、以下の実施例5でさらに詳細に説明される。
【0042】
発明者らは、以前に、触媒としてジクロロジメチルシランを使用してアセチルフランを重合することにより高表面積活性炭素を製造する方法を開示している(米国特許第9458021号)。その場合、重合した固体を600℃で1時間、加熱速度を約10℃/minとして、炭化させた。本件においては、最初に360℃で4時間浸漬してから、800℃でさらに4時間保持することで炭化する。これに続いて、高温焼成処理が行われ、XRDパターンの明確なd002ピークと、約100 m2/gmの小さい表面積を有するHCが形成される。これらのHCのSi含有量は、PIXE(陽子誘起X線放射)測定により、0.24 wt.%の結果を得た。このSiは、炭素中にSiが埋め込まれたLIB陽極の性能に有害な影響はないと予想されるため、HCにとどまることが許容される(この材料のSiは、前述のC/Si複合材料のSiとは異なり、炭素中にシロキサンとして存在するためLiを挿入できない - 米国特許第9458021号)。
ケイ素含有硬質炭素:
【0043】
Siを含むHC複合材料も、ここで説明する方法から派生し得る。具体的には、ある実施形態では、シュウ酸(2.5gm)とマレイン酸(5gm)の混合物を8.7gmの金属Si粉末(325メッシュ未満、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)とともに100gmのPFAに添加した。この実施形態の変形形態では、PFAに添加される前に、同じ比率の有機酸が最初に脱イオン(DI)水に溶解された。どちらの場合も、室温で24時間浸漬した後、ペースト状の固体が形成された。その後、60℃から200℃の温度範囲で固体を加熱して重合反応を完了させることにより、さらなる処理を実施した。次に、重合した固体を炭化し、前出の実施形態で説明したように焼成した。最終的なケイ素含有量は、PIXE法により12 wt.%と測定された。PFAの代わりにフルフリルアルコールを使用して、同様のHC/Si複合材料を合成し得る。上記の方法は、HC / Si複合材料を製造する他の方法とは大幅に異なり、より簡単(SiまたはCのCVDに関与しない)で、固体Si粉末と液体フラン環化合物との混合(SiとCの固体を混合すると、成分のひとつが液体である場合に得られるレベルの均一な混合が得られないが、この場合はそうならない)を伴う。
【0044】
発明者らがSiの原料として使用した別の材料は、アルミノケイ酸塩粘土鉱物、ハロイサイトである。化学式がAl2Si2O5(OH)4.nH2Oの天然の粘土鉱物である。肉厚が約10nmのアルミノケイ酸塩シートのナノチューブ構造(直径が約10から50 nmの範囲)である。ハロイサイトのTGA研究では、450℃から700℃の間に主な重量損失が見られ、471℃のピークが構造水の除去に関連していることが示されている。700℃を超える温度では、重量損失は1050℃まで無視できるが、1002℃でムライトの核生成に関連する小さな吸熱ピークが見られる[Boordeepong, S.、他、2011年]。ハロイサイトを1000℃まで加熱するとき失われる総重量は、約15 wt.%である。また、固体リチウム硫黄電池用途の電解質充填剤として最近評価されたように、興味深い電気化学的特性も備えている(Lin, Y.、他、2017年)。また、これはLIB陽極材料として使用するために、フルフリルアルコールから多孔質炭素微粒子を形成するために使用されている(Subramaniyam, C.M.、他、2017年)。ここでは、ハロイサイトが最初にエッチングされてアルミナが除去され、数回の洗浄工程の後、得られた多孔性管状シリカがフルフリルアルコールと混合され、重合される。炭化後、残りの多孔質管状シリカをエッチング除去して、329 m2/gmのBET表面積を有する多孔性炭素微粒子を形成する。ここでの基本理念は、ハロイサイトを雛形として使用して、ハロイサイトのナノチューブ構造を模倣する炭素構造を形成することである。ハロイサイトをエッチングせずに直接HCに組み込むことにより、本発明の手法では非常に異なる取り組みを検討する。また、発明者ら手法では、フラン環前駆体化合物は室温で有機酸触媒を使用して重合され、Subramaniyam, C.M.、他、によって得られた多孔質炭素微粒子構造ではなく、小さい比表面積値(100 m2/g未満)の塊状硬質炭素の形成を保証する。
【0045】
本発明のある実施形態では、246 gmのPFA(Furolite、ベルギー、ヘールのTransFuran Chemicals社製)を、シュウ酸、マレイン酸および酒石酸の混合物(モル比1:1:1)21 gmおよび未処理のハロイサイト粉末(Dragonite(登録商標)、ニューヨーク州ニューヨークのアプライドミネラルズ社製)11 gmと混合した。ペースト状の固体が得られるまで、混合物を室温で浸漬した。この固体を空気下で60℃から200℃の中間温度で加熱して、重合反応を完了させた。次に、窒素下800℃で4時間加熱して炭化を実施した。360℃から800℃への加熱速度は3℃/min未満である。BET測定の結果、40.1 m2/gmの多点比表面積値を得た。対応する細孔容積は0.0216 cc/gmである。(炭素のスリット細孔を使用したNLDFTモデル)。このHCの密度は1.51 gm/ccと測定された。
【0046】
触媒の他の組み合わせもPFAとハロイサイトで使用されている。発明者らは、具体的には、15 gmの酒石酸を含むDI水溶液を使用して、139 gmのPFAと7 gmのハロイサイトを重合した。発明者らは、また、5 gmの乾燥シュウ酸粉末を使用して、142 gmのPFAと7 gmのハロイサイトを重合した。PFAの重合には、DI水溶液中のクエン酸、ギ酸、およびマレイン酸を含む他の組み合わせも成功裏に使用されている。
【0047】
ハロイサイトもフルフリルアルコールに成功裏に添加され、その後、有機酸の組み合わせを使用して重合された。ある実施形態では、105 gmのフルフリルアルコールを4.3 gmのハロイサイトと混合し、シュウ酸、マレイン酸および酒石酸の組み合わせを使用して重合させた。重合した固体を炭化し、XRD、ラマンおよびBET測定を使用して特性評価した(下記の実施例6を参照)。ラマンおよびBET測定(下記の実施例6を参照)。
【0048】
最後に、本開示に記載の方法で作られたHCは、Li4Ti5O12粉末(LTO)にも埋め込まれている。LTOは、約1.55 V(vs. Li/Li+)の高電位と、充放電周期中の体積変化が無視できることによる優れたサイクル寿命により、電気自動車市場を狙うLIBの有望な陽極材料である。発明者らは、ある実施形態で、23gmのLTO(MSE Supplys、Tucson AZ)を143gmのPFAに添加し、これを3.5gmのシュウ酸および7gmのマレイン酸と重合させた。LTOのd50粒子サイズは0.8から1.6 μmの範囲である。。室温で浸漬した後、60℃から200℃の中間温度で加熱することにより、重合を行なった。窒素下800℃で4時間加熱することにより、重合した固体を炭化した。別の実施形態では、105gmのフルフリルアルコールを17gmのLTOと混合し、4gmのシュウ酸および6gmのマレイン酸を使用して重合した。さらに別の実施形態では、触媒としてDI水溶液中のクエン酸を使用した。別の実施形態では、DI水溶液中のシュウ酸が、PFAとLTOの混合物を重合するための触媒として使用された。
【0049】
実施例1:この実施形態では、フルフリルアルコール(#W249106、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)150mlを、シュウ酸(#75688、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)、マレイン酸(#M0375、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)、およびL-(+)-酒石酸(#T109、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)を、重量比でそれぞれ1:1.29:1.66含む有機酸15gmと混合した。この混合物を、100 rpmで動作するオーバーヘッド型攪拌機を使用して1.5時間撹拌し、その後室温(22℃)に放置する。室温エージング中、混合物の重量を定期的に測定して、重量損失の挙動を追跡した。重量損失率がゼロに近づくと、混合物はペースト状の固体を形成した。その時点で、材料を空気下の120℃のオーブンに入れた。重量損失を再度監視し、重量損失速度がゼロに近づくと、オーブンの温度を200℃に上げた。再び、重量損失率がゼロに近づいた後、重合した硬い固体が形成された。次に、この材料を窒素下800℃で2時間保持することにより炭化させた。前記は、標準の石英管(直径50 mm)炉を用いて、5℃/minの加熱速度で実施された。最後に、1000℃で30分間高温熱処理を行い、硬質炭素を生成した。
【0050】
この方法で生成された硬質炭素は、X線回折(XRD)とラマン分光法を用いて特徴づけられた。XRDプロットは、Cu-Kα放射線(35 kVおよび30 mAで動作)を使用した連続走査モードで得た。
図3に、この材料の強度に対する2θ(10°から70°)のXRDプロットを示す(「実施例1」と表示)。d
002ピークは、3.90Åの間隔に対応する22.79°に見られる。ただし、d
002ピークの非対称形状は、d
002間隔がこの値よりも大きい微結晶領域が多いことを示唆している(4Å超 - 実施例1のd
002ピークの左脚)。43.79°にも小さなピークが見られる。さらに、シェラー方程式(= K.λ/β.cosθ)を使用して、d
002ピーク(半値全幅(FWHM))の測定値から、個々の結晶領域のサイズを推定し得る;ここで、Kは無次元の形状係数(通常は約0.9);λはX線の波長;βは(FWHM)からインストルメンタル ラインブロードニングを減じた値、そしてθはブラッグ角。d
002ピークのFWHMは7.960°で、微結晶寸法は1.06 nmになる。このXRDパターンは、23°(2θ値)付近のd
002ピークにより、この炭素は非晶質の高SSA活性炭素と黒鉛の両方から区別されることを示している。
【0051】
ラマン分光測定値を
図4(a)に示す。この測定値は、100 mWのレーザー出力で785 nmの励起波長を使用して、ラマン顕微鏡inVi(登録商標)(英国グロスターシャー州のレニショーPLC製)で記録された。D帯域とG帯域のピークの強度比は、それぞれのピークの下の解析的面積の比を用いて最もよく説明できる。この比率は1.78と測定され、黒鉛で得られた比率の0.113と比較された(Tianchan, J.、他、2017年)。
【0052】
77KのN
2吸着を使用して、この炭素のBET表面積測定も実施した。QUADRASORB evo(登録商標)Gas Sorption Surface Areaおよび細孔径分析装置を使用してテクスチャ評価を実施した。吸着測定が行われる前に、標本は250℃で少なくとも20時間ガス放出された。N
2等温線(吸着)を
図5に示す。多点BET表面積は110 m
2/gmと測定され、細孔容積は0.083 cc/gmと計算された(NLDFT理論を使用して、炭素中のスリット細孔を想定)。最後に、この材料のタップ密度(粉末形状)は1.25 gm/ccと測定された。
【0053】
【0054】
このHCは電気化学的性能についても試験された。電極製造のため、最初に、ボールミルで粉砕して平均サイズを20μmにした。次に、1M LiFP
6 EC:DMC電解液を用い、Li/Li+基準電極およびLi対電極を備えた3電極構成とした。サイクリックボルタンメトリーの結果、第1周期と第10周期を
図6(a)に示し、異なる充電レート(「C」レート)の容量に対する充放電周期を
図6(b)に示す。
図6(a)の第1周期は、SEI層の形成に関連すると考えられる0.6 V付近の反応を示している。
図6(b)から、第1周期の大きな不可逆損失が見られる(第1周期の容量1194 mAh/gmから)。これは、このHCで測定された比較的大きな表面積(110 m
2/gm)に起因している。ただし、
図6(b)からもわかるように、充電率が増加しても容量値が十分に維持されている - 100Cまで、このHCの部分で良好な高速充電の挙動が暗示される。最後に、この3電極構成から(市販の活性炭素の対電極と併せて)リチウムイオンキャパシタの性能も評価した。HC電極の特性は、質量負荷が1から1.5 mg/cm
2、厚さが40から60 μm、HCと活性炭素電極の質量比が1:1である。充電電流10アンペア/gmの典型的な充放電曲線を
図7(a)に示し、
図7(b)に1000回の長期間周期挙動(2.2Vから3.8V)を示す。また、このHCは、ナトリウムイオン電池およびキャパシタ用途のNa/Na+基準電極に対しても試験された。繰り返すが、第1周期の大きな損失(480 mAh/gmから)は、このHCのSSAに起因する。これらのデータを、
図6(b)にも示す。
【0055】
発明者らは、この実施例で、フルフリルアルコールを有機酸で重合し炭化熱処理を行うことによりd002間隔が3.6Å超の(XRDプロットで)非非晶質硬質炭素を合成した。さらに、この炭素から得られたラマンスペクトルは、非黒鉛性炭素の特性を示した。この方法で作られたHCは、リチウムイオンおよびナトリウムイオン電池およびキャパシタの陽極の構築に適している。
【0056】
実施例2:別の実施形態では、150mlのフルフリルアルコールを15gmのシュウ酸、マレイン酸および酒石酸と混合した(1:1:1のモル比で)。混合物を室温で浸漬させて、実施例1と同様に重合工程を開始した。重量損失率がゼロに近づくと、混合物はペースト状の固体を形成した。その後、空気下で60℃のオーブンで24時間加熱した。これに続いて、空気下120℃で24時間、さらに200℃でさらに24時間加熱して、硬質重合固体を形成した。次に、この材料を窒素下で800℃で4時間炭化した。約1.5℃/minの加熱速度が使用された。最後に、1000℃での焼成処理を30分間実施した。
【0057】
このHCのXRDプロットを
図3に示す。d
002ピークは、3.71Åの間隔に対応する23.97°に見られる。実施例1と同様に、d
002ピークの非対称形状は、d
002間隔がこの値よりも大きい微結晶領域が多いことを示唆している。このピークのFWHMは7.488°と測定されている。この材料のラマン分光測定値は、レニショー製のラマン顕微鏡inVia(532 nmレーザー光源)を使用して得た。
図4(b)にプロットを示す。ここでも、顕著なD帯域のピークが見らる - これは、非黒鉛性硬質炭素構造の存在を示している。D帯域とG帯域のピークの強度比は、ふたつのピークの解析的面積に基づき、1.75と算出された。
【0058】
カンタクローム社製NOVAtouch LX2計測器で測定した、N
2吸着等温線を
図5(吸着のみ)に示す。比表面積と細孔容積(NLDFT、スリット細孔)も得られた(データを表4に示す)。このHCに対して測定された表面積は2.018 m
2/gmであり、細孔容積は0.0022 cc/gmである。
【0059】
このHCと実施例1のHCの主な違いは、表面積の劇的な違いである(約110 m2/gmに対して約2 m2/gm)。これは、処理条件の変更、具体的には重合中の60℃での追加の加熱工程、より長い炭化およびより遅い加熱速度に起因している -実施例2の場合。XRD特性の変化は、実施例2の追加の熱処理でも観察され、d002間隔がより狭くなり、ピークがより急峻になる(FWHMがより小さくなる)。
【0060】
実施例2のSSA値が小さい場合、このHC用に形成されたLIB陽極は、このHCの表面積が非常に小さいことに関連するより小さいSEI層に起因して、第1周期の不可逆容量損失がはるかに小さくなると予想される。明らかに、初期の室温重合後の熱処理の媒介変数を制御することにより、これらのHCの、特にさまざまな熱処理から得られる比表面積を含む、最終特性を制御できる。
【0061】
実施例3:さらなる実施形態では、115gmのフルフリルアルコールを合計11.5gmのシュウ酸、マレイン酸および酒石酸と混合した(モル比1:1:1)。次に、11gmのフルフラール(#185914、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)を混合物に加えて撹拌した。これを、ペースト状の固体が形成されるまで室温で浸漬することにより重合させた。次に、これを60℃から200℃の範囲の中間温度で、すべて空気下で加熱して、硬質重合固体を形成した。次に、重合した固体を不活性雰囲気(窒素を使用)下で800℃まで4時間加熱して炭化した。
【0062】
この工程から形成された炭素も、前記と同じ器具(XRD、ラマンおよびBET)を使用して評価さた。XRDプロットを
図3に示す。ここで、d
002のピークは23.58°で、3.77Åの間隔に対応しており、硬質炭素の存在を示している。このピークの半値幅は7.92°と測定された。ラマンスペクトル(
図4(a))も大きなd帯域ピークを示しており、非黒鉛性硬質炭素の存在を示している。DピークとGピークの強度比(ピーク下の解析的面積)は2.15と算出された。BET試験のN
2等温線(吸着)を
図5に示す。このHCについて計算されたSSAは、6.76 m
2/gmであり、細孔容積は0.0042 cc/gm(NLDFT、スリット細孔)である。この実施例は、3.6Åを超えるXRD d
002ピークと大きなD帯域ピークで合成されたふたつのフラン環含有化合物(フルフリルアルコールとフルフラール)の組み合わせを示し、非非晶質硬質炭素と非黒鉛性硬質炭素の存在を示している。上記のHCの例は、比表面積が非常に小さく、高エネルギーのリチウムイオンおよびナトリウムイオン電池およびキャパシタに適している。
【0063】
実施例4:さらに別の実施形態において、100gmのポリフルフリルアルコール(Furolite、ベルギー、ヘールのTransFuran Chemicals社製)が10gmのギ酸と混合された。次に、混合物を室温で24時間浸漬した後、空気下で60℃から200℃の温度に加熱して、高分子固体材料を形成した。この高分子固体材料を、最初に360℃で加熱し、続いて不活性雰囲気下(窒素を使用)で800℃で2時間処理することで炭化した。XRDおよびラマンデータをそれぞれ
図3および4(b)に示し、特定の値を表4に示す。XRD測定は、3.79Åの間隔に対応する23.45°のd
002ピークを示している。FWHMは8.01°と測定される。これらのデータは、実施例3で取得したXRDデータと非常によく似ている。ラマンスペクトル(532 nmレーザーを使用)も、1337 cm
-1を中心とする顕著な大きなD帯域ピークを示している。曲線の下の積分面積の比率は1.85と測定された。BETデータから得たN
2等温線を
図5に示す。このHCについて測定された比表面積は6.71 m
2/gmであり、細孔容積は0.0071 cc/gm(NLDFT、スリット細孔)である。
【0064】
ここでは、本開示に記載の方法を使用して、非非晶質硬質炭素と非黒鉛性硬質炭素の存在を示しながら、PFAを前駆体材料として使用して、3.6Å超のXRD d002間隔と大きなラマンD帯域ピークを有する炭素を形成できることを示す。また、対応するBETデータは、6.7 m2/gmという非常に小さい表面積値を示しており、高エネルギーのリチウムイオンおよびナトリウムイオン電池およびキャパシタに適している。
【0065】
実施例5:さらに別の実施形態では、100mlの2-アセチルフラン- C
6H
6O
2 -(#W316318、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)を室温で25mlのジクロロジメチルシラン- C
2H
6Cl
2Si -(#440272、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)と混合し、60分間撹拌した。次いで、混合物を空気下で室温で浸漬させた。重量損失率がゼロに近づくと、材料を空気下で40℃で24時間、87℃で23時間、120℃で24時間、200℃で24時間加熱した。次に、空気下で360℃で4時間焼成した。非常に遅い加熱速度(この場合は1.25℃/min)が使用され、続いて窒素下で800℃で4時間炭化された。次に、炭化した材料を、950℃でCO
2下で100分間高温処理し、続いて窒素下で1025℃で60分間焼成した。XRD、ラマンおよびN
2等温線(BET)データをそれぞれ
図3、
図4(a)および
図5に示す。データを表4に示す。このHCは、PIXE(陽子誘起X線放射)法を使用して化学組成についても評価された。このHCには塩素は検出されないが、Siの濃度は0.24 at.%(原子パーセント)である。ラマンスペクトルは、785nmレーザーで収集された(実施例1と同様)。繰り返しになるが、XRDデータのd
002ピークの存在、および大きなD帯域ピークの存在は、非非晶質硬質炭素と非黒鉛性硬質炭素の特徴である。
【0066】
このHCは、Li/Li+およびNa/Na+基準電極に対する電気化学的性能を評価するために、3電極構成でも使用された(実施例1に示されたデータと同様)。実施例1に記載された方法が使用された。容量に対する充放電周期のプロット(最大100Cまでのさまざまな「C」レート)を
図8に示す。これらは、実施例1で得られた値と非常によく似ており、高速充電用途で良好な性能を示す - 最大100C、ただし、第1周期の大きなサイクル損失(Li/Li+の場合は971 mAh/gmから、Na/Na+の場合は420 mAh/gmから)も見られる。この不可逆的な損失は、このHCのSSAに起因する可能性がある。表4からわかるように、実施例1と5の比表面積の値は似ているが、XRDとラマンのデータには多少の差異がある。発明者らは、この実施例で、シラン基(特にジメチルジクロロシラン)に由来する強酸性触媒で重合することにより、アセチルフランから非非晶質硬質炭素を形成した。炭化処理(温度、時間、加熱速度)を制御することにより、このHCの特性も変更できる(フルフリルアルコールのHCと同様)。この中間表面積(約100 m
2/gm)のHCは、リチウムイオンおよびナトリウムイオン電池およびキャパシタの急速充電にも適している。
【0067】
実施例6:発明者らは、さらに別の実施形態で、室温で、4.3gmのハロイサイト(Dragonite、ニューヨーク州ニューヨークのアプライドミネラルズ社製)とともに、105gmのフルフリルアルコール(#W249106、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)と10.5gmのシュウ酸、マレイン酸および酒石酸の混合物(1:1:1モル比)を混合した。ハロイサイトは、構造水を除去するために、最初に空気下で750℃まで加熱された。前述のように、DTAデータは、ハロイサイトが450℃から700℃の温度範囲で重量損失(吸熱反応を伴う)を受けることを示している。その温度を超えると、それ以上の重量損失は無視できる。発明者らは、したがって、未処理のハロイサイトの最高処理温度として750℃を選択した。混合物を室温で浸漬させ、ペースト状の固体が形成されたら、空気下で60℃から200℃の中間温度で加熱して、硬質重合体を形成した。その後、この重合体材料をN
2下で800℃で4時間炭化した。XRD、ラマンおよびN
2等温線(BET)データを、それぞれ
図3、
図4(b)、および
図5に示す。データを表4にも示す。
【0068】
XRDデータには強いd002ピークが見られ、23.7°の2θ値は3.75Åのd間隔に対応している。XRDには他のピークは見られないが、これは、ハロイサイトの元のナノチューブ構造(いくつかの特徴的なピークを示す典型的なXRDパターン)が加熱プロファイル(最大1000℃)によって非晶状態状態に変化したことを意味する。ラマンスペクトルも強いD帯域ピークを示しており、非黒鉛性炭素の存在を示している。BET表面積は約20 m2/gmになったが、これは重合および炭化加熱プロファイルを制御することでさらに調整できる可能性がある。最後に、このHCのX線光電子分光法(XPS)による測定では、次の比率のAlとSiの存在が示された: Al2p - ピークは74.65 eV、1.85 at.%;そして、Si2p - ピークは103.39 eV、1.72 at.%。すべての主要な特性は前記の実施例の議論に類似しているため、このHCはリチウムイオンおよびナトリウムイオン電池およびキャパシタでも同様に機能すると予想される。
【0069】
実施例7:さらに別の実施形態では、HC/Si複合材料はPFAから合成される。具体的には、100gmのPFA(Furolite、ベルギー、ヘールのTransFuran Chemicals社製)を8.26gmの-325メッシュの金属ケイ素粉末(#215619、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)、5gmのマレイン酸および2.5gmのシュウ酸と混合した。ペースト状の固体が形成されるまで混合物を室温で浸漬させ、その後、空気下で60℃から200℃の温度で熱処理して、硬質高分子固体を形成させた。次に、重合体を窒素下で800℃で4時間炭化し、続いて同じく窒素下で1000℃で焼成処理を実施した。XRD、ラマンおよびN
2等温線(BET)データを、それぞれ
図9、
図4(b)、および
図5に示す。データを表4にも示す。さらに、このHCは、PIXE法(陽子誘起X線放射)を使用して、Si含有量について試験された。PIXE測定により、Si含有量は12.6 wt.%となった。
図9のXRDパターンは、Siの金属の存在を明確に示しているが、HCのd
002ピークも23.45°に見られ、3.79Åのd間隔に対応している。ラマンスペクトルのD帯域ピークは、また、この炭素の非黒鉛性を確認している。Si粉末を添加すると、BET比表面積は277 m
2/gmになる。ただし、ポリフルフリルアルコールは、依然として、重合され、炭化されてXRD d
002間隔が3.6Å超の非非晶質硬質炭素になる。
【0070】
実施例8:この実施形態では、105gmのフルフリルアルコール(#W249106、ミズーリ州セントルイスのシグマ アルドリッチ社製)を17gmのL
4Ti
5O
12(LTO、アリゾナ州ツーソンのMSEサプライ社製)、4gmのシュウ酸および6gmのマレイン酸と混合した。オーバーヘッド型攪拌機を使用して混合を行い、均一な混合物を確保した。ペースト状の固体が形成されるまで、混合物を室温で浸漬させた。次に、硬質高分子固体が形成されるまで、空気下で60℃から200℃の温度で加熱した。炭化は、窒素下で800℃で4時間加熱することにより行われた。この炭素のN
2等温線(BET)データを
図5に示す。このHCの131 m
2/gmの比表面積と0.0804 cc/gmの細孔容積が測定された。発明者らは、この実施例で、LTO材料が埋め込まれた非非晶質硬質炭素は、前駆体に分散したLTOの存在下で、有機酸触媒で重合することにより、フラン環化合物から合成できることを示した。
【0071】
発明者らは、本開示で、前駆体を含むフルフリル官能基から黒鉛化されていない硬質炭素を合成するプロセスを説明した。この工程では、最初に原料を混合して空気下で加熱し、その後不活性雰囲気下で高温加熱する。これは、フランベースの前駆体から硬質炭素を製造するための、前述の方法よりも全体的にはるかに簡単な工程である。発明者らは、さらに、フルフリルアルコールとフルフラールを含むフラン化合物の組み合わせも使用できることを示した。アセチルフランと同様に、ポリフルフリルアルコール樹脂もこの方法に適した前駆体である。発明者らは、また、SiとLTOの非非晶質硬質炭素も合成した - どちらもLIB陽極材料として優れている。発明者らは、XRDから得られた結果に基づいて、これらすべてのHCのd002ピークは一般に3.6Åを超えており、そのほとんどは3.7Åを超えている(活性炭素や黒鉛ではなく、硬質炭素に特有の特徴)ことを示した。ラマン分光法の結果から、すべての場合に、強力で顕著なD帯域ピークがあり、硬質炭素の存在も示していることが判った。BETの結果から、HCの最終的なBET表面積に影響を与える主要な処理パラメータを特定することができる。これらの媒介変数は、重合温度と炭化温度、および加熱速度として特定されている。発明者らは、最終的に、ここで説明した方法を使用して合成したHCがLIBやLICの陽極に適していることも示した。発明者らは、BET表面積が約100 m2/gmのHCのふたつの異体を試験して、大充電電流(最大100C)を使う場合に適した電気容量を見つけた。これは、これらの炭素が優れたサイクル寿命を含む高速充電用途に適していることを示している。発明者らは、また、異なる処理パラメータ(具体的には熱処理)を使用して、同じ材料から合成された2 m2/gmという小さいBET比表面積を持つHCを示した。これらのSSAの小さいHCは、実施例1で試験されたHCで示された第1周期の大きな不可逆損失を克服し得るので、高エネルギーLIB装置にも適している。
【0072】
発明者らは、さらに、Siが埋め込まれたHCを合成した(金属Si粉末の形態、およびSi化合物の形態 - ハロイサイト)。BET比表面積はHC/Si複合材料で増加したが、ラマンおよびXRDデータは、LIBやLIC装置でのエネルギー貯蔵用途の優れた可能性を依然として示している。発明者らは、最終的に、LTOが埋め込まれたHCも合成した。これも有望な陽極材料である。
【0073】
本出願は、本明細書に記載される特定の方法論または特定の組成物に限定されず、したがって、変化し得る。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、本出願の範囲は、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物によってのみ限定されるため、限定することを意図するものではないことも理解されたい。