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特許7239578磁気記憶素子、磁気ヘッド、磁気記憶装置、電子機器、及び磁気記憶素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】磁気記憶素子、磁気ヘッド、磁気記憶装置、電子機器、及び磁気記憶素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10B 61/00 20230101AFI20230307BHJP
   H10N 50/20 20230101ALI20230307BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020525508
(86)(22)【出願日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2019022598
(87)【国際公開番号】W WO2019244662
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2018116161
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕行
(72)【発明者】
【氏名】細見 政功
(72)【発明者】
【氏名】別所 和宏
(72)【発明者】
【氏名】肥後 豊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽
(72)【発明者】
【氏名】長谷 直基
(72)【発明者】
【氏名】大森 広之
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-059808(JP,A)
【文献】特開2016-015490(JP,A)
【文献】特開2007-096075(JP,A)
【文献】特開2005-203702(JP,A)
【文献】特開2017-183602(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0056285(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0035970(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0067367(US,A1)
【文献】国際公開第2017/169147(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 61/00
H10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が固定された固定層と、
磁化方向が反転可能な記憶層と、
前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、
からなる積層構造を備え、
前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、
前記固定層及び前記記憶層は、遷移金属元素としてFe及びCoを含み、
前記記憶層は、
B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む第1の領域を含み、
前記第1の領域は、
前記記憶層の前記非磁性層との界面近傍に、前記非磁性層と接するように位置し、
前記積層構造において、膜厚が0.2nm以上、2nm以下であり、
前記記憶層は、前記第1の領域が含む前記遷移金属元素及び前記含有元素を含む、
磁気記憶素子。
【請求項2】
前記固定層又は前記記憶層の含む、前記含有元素を除いた全元素に対して、前記遷移金属元素は80atm%以上含まれる、請求項1に記載の磁気記憶素子。
【請求項3】
前記第1の領域は、前記含有元素としてBを含有する、請求項1又は2に記載の磁気記憶素子。
【請求項4】
前記記憶層の前記非磁性層に対して反対側の面に設けられたキャップ層をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気記憶素子。
【請求項5】
前記記憶層は、
B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む第2の領域をさらに含み、
前記第2の領域は、
前記記憶層の前記キャップ層との界面側に位置する、
請求項に記載の磁気記憶素子。
【請求項6】
前記記憶層と前記キャップ層との間に設けられた酸化物層をさらに備える、請求項に記載の磁気記憶素子。
【請求項7】
前記第2の領域は、前記酸化物層と接するように位置する、請求項に記載の磁気記憶素子。
【請求項8】
前記固定層は、
B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む第3の領域をさらに含み、
前記第3の領域は、
前記固定層の前記非磁性層との界面側に位置する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気記憶素子。
【請求項9】
前記非磁性層は酸化マグネシウムからなる、請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気記憶素子。
【請求項10】
磁化方向が固定された固定層と、
磁化方向が反転可能な記憶層と、
前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、
からなる積層構造を備え、
前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、
前記固定層及び前記記憶層は、遷移金属元素としてFe及びCoを含み、
前記記憶層は、
B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を含み、
前記領域は、
前記記憶層の前記非磁性層との界面近傍に、前記非磁性層と接するように位置し、
前記積層構造において、膜厚が0.2nm以上、2nm以下であり、
前記記憶層は、前記領域が含む前記遷移金属元素及び前記含有元素を含む、
磁気ヘッド。
【請求項11】
情報を磁性体の磁化状態により保持する複数の磁気記憶素子を備え、
前記各磁気記憶素子は、
磁化方向が固定された固定層と、
磁化方向が反転可能な記憶層と、
前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、
からなる積層構造を有し、
前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、
前記固定層及び前記記憶層は、遷移金属元素としてFe及びCoを含み、
前記記憶層は、
B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を含み、
前記領域は、
前記記憶層の前記非磁性層との界面近傍に、前記非磁性層と接するように位置し、
前記積層構造において、膜厚が0.2nm以上、2nm以下であり、
前記記憶層は、前記領域が含む前記遷移金属元素及び前記含有元素を含む、
磁気記憶装置。
【請求項12】
情報を磁性体の磁化状態により保持する複数の磁気記憶素子を有する磁気記憶装置を備え、
前記各磁気記憶素子は、
磁化方向が固定された固定層と、
磁化方向が反転可能な記憶層と、
前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、
からなる積層構造を有し、
前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、
前記固定層及び前記記憶層は、遷移金属元素としてFe及びCoを含み、
前記記憶層は、
B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を含み、
前記領域は、
前記記憶層の前記非磁性層との界面近傍に、前記非磁性層と接するように位置し、
前記積層構造において、膜厚が0.2nm以上、2nm以下であり、
前記記憶層は、前記領域が含む前記遷移金属元素及び前記含有元素を含む、
電子機器。
【請求項13】
磁化方向が固定された固定層と、
磁化方向が反転可能な記憶層と、
前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、
からなる積層構造を備える、磁気記憶素子の製造方法であって、
前記固定層及び前記記憶層を、前記固定層及び前記記憶層が遷移金属元素としてFe及びCoを含むように成膜し、
前記記憶層を、
前記記憶層がB、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を含むように、
スパッタ法によって成膜する、
ことを含み、
前記領域は、
前記記憶層の前記非磁性層との界面近傍に、前記非磁性層と接するように位置し、
前記積層構造において、膜厚が0.2nm以上、2nm以下であり、
前記記憶層は、前記領域が含む前記遷移金属元素及び前記含有元素を含む、
磁気記憶素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記憶素子、磁気ヘッド、磁気記憶装置、電子機器、及び磁気記憶素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大容量サーバからモバイル端末に至るまで、各種情報機器の飛躍的な発展に伴い、これを構成するメモリやロジックなどの素子においても高集積化、高速化、低消費電力化等、さらなる高性能化が追求されている。特に不揮発性半導体メモリの進歩は著しく、例えば、大容量ファイルメモリとしてのフラッシュメモリは、ハードディスクドライブを駆逐する勢いで普及が進んでいる。一方、コードストレージ用途さらにはワーキングメモリへの適用を睨み、現在一般に用いられているNORフラッシュメモリ、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等を置き換えるべくFeRAM(Ferroelectric random access Memory)、MRAM(Magnetic Random Access Memory)、PCRAM(Phase-Change Random Access Memory)等の様々なタイプの半導体メモリの開発が進められている。なお、これらのうちの一部は既に実用化されている。
【0003】
上述したうちの1つであるMRAMは、MRAMの有する磁気記憶素子の磁性体の磁化状態を変化させる(磁化方向を反転させる)ことにより電気抵抗が変化することを利用して、情報の記憶を行う。従って、磁化状態の変化によって決定される上記磁気記憶素子の抵抗状態、詳細には、磁気記憶素子の電気抵抗の大小を判別することにより、記憶された情報を読み出すことができる。このようなMRAMは、高速動作が可能でありつつ、ほぼ無限(1015回以上)の書き換えが可能であり、さらには信頼性も高いことから、すでに産業オートメーションや航空機等の分野で使用されている。加えて、MRAMは、その高速動作と高い信頼性とから、今後コードストレージやワーキングメモリへの展開が期待されている。
【0004】
しかしながら、配線から発生する電流磁界によって磁化方向を反転させるMRAMは、磁化反転の効率が低いため、低消費電力化および大容量化には課題があった。これは、MRAMの記憶原理、すなわち、配線から発生する電流磁界により磁化方向を反転させるという方式に起因する本質的な課題である。そこで、スピントルク磁化反転を用いることで、電流磁界を用いずに磁化反転を生じさせるSTT-MRAM(Spin Transfer Torque-Magnetic Random Access Memory)(磁気記憶装置)が注目されている。
【0005】
STT-MRAMは、磁気記憶素子として、2つの磁性層と、これら磁性層に挟まれた絶縁層とを持つMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子(磁気記憶素子)を有している。なお、MTJ素子は、TMR(Tunneling Magneto Resistive)素子と呼ばれることもある。そして、STT-MRAMにおいては、磁化方向が固定された磁性層を通過したスピン偏極電子が、磁化方向が自由な磁性層(自由磁性層)に進入する際に、進入する磁性層の磁化方向にトルクを与える。この際、所定に閾値以上の電流を流すことにより自由磁性層の磁化方向を反転させることができ、0/1の書き換えは流す電流の極性を変えることによって行うことができる。そして、磁化方法の反転のための電流が0.1μm程度のスケールを持つMTJ素子においては、1mA以下となる。すなわち、このようなSTT-MRAMは、MTJ素子の体積を小さくするほど、磁性層の磁化反転に必要な電流量を小さくすることができる。さらに、STT-MRAMは、記憶のための電流磁界を発生させるための配線を設けることがないことから、MTJ素子の構造を単純化することが可能である。そのため、STT-MRAMは、高速動作が可能で、書き換え回数がほぼ無限であり、且つ、低消費電力化および大容量化が可能な不揮発メモリとして期待されている。
【0006】
STT-MRAMに用いられる強磁性体材料としては、様々な材料が検討されているが、一般的に、面内磁気異方性を有する材料よりも、垂直磁気異方性を有する材料の方がMTJ素子の低電力化、大容量化に適しているとされている。この理由としては、垂直磁化異方性を持つ材料においては、スピン偏極電子がスピントルク磁化反転の際に超えるべきエネルギバリアが低いことが挙げられる。さらに理由としては、垂直磁気異方性を持つ材料の有する高い磁気異方性が、大容量化のためにMTJ素子を微細化した場合、MTJ素子における記憶担体の熱安定性を保持するのに有利に働くことが挙げられる。
【0007】
このような垂直磁気異方性を持つ強磁性材料を持つMTJ素子を含むSTT-MRAMの製造を既存の半導体製造プロセスに適用させるためには、配線を形成する配線形成工程中等に印加される400度程度の熱負荷に対し、MTJ素子に含まれる強磁性体材料の磁気特性が安定であることが求められる。なお、MTJ素子に含まれる磁性体材料に関する従来技術としては、下記特許文献1に開示された、ボロン(B)を高濃度に含む磁性体材料や、下記特許文献2に開示された希土類元素とBとを含む磁性体材料等を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第8,852,760号明細書
【文献】特開2013-69788号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】S.Mangin et al. Nature materials,vol.5 March2006,p.210
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたBを高濃度に含む磁性体材料によりMTJ素子(磁気記憶素子)の磁性層を形成しようとする場合には、当該磁性層の成膜速度(スパッタリングレート)が著しく低い。従って、上記特許文献1に開示された磁性体材料を用いたSTT-MRAM(磁気記憶装置)は量産性が低いと言える。また、上記特許文献2に開示された希土類元素を含む強磁性体材料によりMTJ素子の磁性層を形成しようとする場合には、製造工程中に印加される400℃の程度の熱により希土類元素が拡散し、MTJ素子の磁気特性の劣化が生じることがある。
【0011】
そこで、本開示では、磁性層の熱処理による磁気特性の劣化を抑制しつつ、高い量産性を確保することが可能な、新規且つ改良された磁気記憶素子、磁気ヘッド、磁気記憶装置、電子機器、及び磁気記憶素子の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示によれば、磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が反転可能な記憶層と、前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層とからなる積層構造を備え、前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、前記固定層又は前記記憶層は、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を有する、磁気記憶素子が提供される。
【0013】
また、本開示によれば、磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が反転可能な記憶層と、前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層とからなる積層構造を備え、前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、前記固定層又は前記記憶層は、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を有する、磁気ヘッドが提供される。
【0014】
また、本開示によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する複数の磁気記憶素子を備え、前記各磁気記憶素子は、磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が反転可能な記憶層と、前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層とからなる積層構造を有し、前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、前記固定層又は前記記憶層は、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を有する、磁気記憶装置が提供される。
【0015】
また、本開示によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する複数の磁気記憶素子を有する磁気記憶装置を備え、前記各磁気記憶素子は、磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が反転可能な記憶層と、前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層とからなる積層構造を有し、前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、前記固定層又は前記記憶層は、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を有する、電子機器が提供される。
【0016】
さらに、本開示によれば、磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が反転可能な記憶層と、前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、からなる積層構造を備える、磁気記憶素子の製造方法であって、前記固定層又は前記記憶層を、前記固定層又は前記記憶層がB、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を有するように、スパッタ法によって成膜する、ことを含む、磁気記憶素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本開示によれば、磁性層の熱処理による磁気特性の劣化を抑制しつつ、高い量産性を確保することが可能な磁気記憶素子、磁気ヘッド、磁気記憶装置、電子機器、及び磁気記憶素子の製造方法を提供することができる。
【0018】
なお、上記の効果は必ずしも限定的なものではなく、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書に示されたいずれかの効果、または本明細書から把握され得る他の効果が奏されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】MTJ素子10の積層構造の一例を模式的に示す説明図である。
図2】本開示の実施形態に係るMTJ素子10の積層構造を示す模式図である。
図3】本開示の実施形態に係るMTJ素子10の製造方法における各工程を説明する断面図(その1)である。
図4】同実施形態に係るMTJ素子10の製造方法における各工程を説明する断面図(その2)である。
図5】同実施形態に係るMTJ素子10の製造方法における各工程を説明する断面図(その3)である。
図6】本開示の実施形態の変形例1に係るMTJ素子10aの積層構造を示す模式図である。
図7】本開示の実施形態の変形例2に係るMTJ素子10bの積層構造を示す模式図である。
図8】本発明者らの検討によって得られた、B濃度に対する熱処理後の保磁力(Hc)の関係を示したグラフである。
図9】本発明者らの検討によって得られた、B濃度に対する成膜速度の関係を示したグラフである。
図10】本発明者らの検討によって得られた、B濃度に対する熱処理後の保磁力(Hc)及び成膜速度の結果をまとめた表である。
図11】本開示の実施形態に係る磁気記憶装置1の一例を模式的に示す概略構成図(斜視図)である。
図12】本開示の実施形態に係る電子機器900の外観例を示した斜視図である。
図13】同実施形態に係る電子機器900の内部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
また、本明細書及び図面において、実質的に同一又は類似の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なる数字を付して区別する場合がある。ただし、実質的に同一又は類似の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。また、異なる実施形態の類似する構成要素については、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合がある。ただし、類似する構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。
【0022】
また、以下の説明で参照される図面は、本開示の一実施形態の説明とその理解を促すための図面であり、わかりやすくするために、図中に示される形状や寸法、比などは実際と異なる場合がある。さらに、図中に示される素子等は、以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。また、以下の説明においては、素子等の積層構造の上下方向は、素子が設けられた基板上の面を上とした場合の相対方向に対応し、実際の重力加速度に従った上下方向とは異なる場合がある。
【0023】
また、以下の説明においては、磁化方向(磁気モーメント)や磁気異方性について説明する際に、便宜的に「垂直方向」(膜面に対して垂直な方向、もしくは積層構造の積層方向)及び「面内方向」(膜面に対して平行な方向、もしくは積層構造の積層方向に対して垂直な方向)等の用語を用いる。ただし、これらの用語は、必ずしも磁化の厳密な方向を意味するものではない。例えば、「磁化方向が垂直方向である」や「垂直磁気異方性を有する」等の文言は、面内方向の磁化に比べて垂直方向の磁化が優位な状態であることを意味している。同様に、例えば、「磁化方向が面内方向である」や「面内磁気異方性を有する」等の文言は、垂直方向の磁化に比べて面内方向の磁化が優位な状態であることを意味している。
【0024】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.本開示に係る技術的背景
1.1.STT-MRAMの概要
1.2.MTJ素子の基本構造
1.3.書き込み及び読み出しの仕組みについて
1.4.面内磁化方式及び垂直磁化方式のSTT-MRAMについて
2.本開示の実施形態
2.1.MTJ素子の構造
2.2.MTJ素子の製造方法
2.3.変形例
2.3.1 変形例1
2.3.2 変形例2
3.実施例
3.1.保磁力の検討
3.2.成膜速度の検討
4.磁気記憶装置の構成例
5.電子機器の構成例
5.1.電子機器の外観例
5.2.電子機器の内部構成例
6.補足
【0025】
<<1.本開示に係る技術的背景>>
<1.1.STT-MRAMの概要>
まず、本開示の一実施形態を説明する前に、本開示に係る技術的背景について説明する。本開示に係る技術は、STT-MRAM(スピン注入型MRAM)に関するものである。
【0026】
先に説明したように、磁性体の磁化状態によって情報を記憶するMRAMは、高速動作が可能であり、ほぼ無限(1015回以上)の書き換えが可能であり、さらには信頼性も高いことから、すでに様々な分野で使用されている。このようなMRAMのうち、配線から発生する電流磁界にて磁性体の磁化を反転させるMRAMについては、磁化反転の方法に起因して、消費電力の低減、及び大容量化が難しい。これは、配線からの電流磁界を用いた磁化反転を利用するMRAMにおいては、磁性体の磁化を反転することができる強さの電流磁界を発生させるには、所定の閾値以上の電流が必要であり、書き込み時の消費電力が増加しやすいためである。さらに、配線からの電流磁界を用いた磁化反転を利用するMRAMにおいては、電流磁界を発生させる配線を磁気記憶素子ごとに設けることから、磁気記憶素子の小型化に限界がある。
【0027】
そこで、配線からの電流磁界を用いる以外の方法にて磁性体の磁化を反転するMRAMが検討されている。より具体的には、スピントルク磁化反転を用いて磁性体の磁化を反転させるSTT-MRAMが検討されている。STT-MRAMは、高速動作が可能で、且つ、書き換え回数がほぼ無限大であるというMRAMの利点を持ち、さらに、低消費電力化、大容量化を進めることができることから、大きな期待が寄せられている。
【0028】
詳細には、STT-MRAMは、磁気記憶素子として、2つの磁性層と、これら2つの磁性層に挟まれた絶縁層とを持つMTJ素子を有している。STT-MRAMは、当該MTJ素子において、ある方向に磁化方向が固定された一方の磁性層(固定磁化層)を通過するスピン偏極電子が、磁化方向が固定されていない他方の磁性層(自由磁化層)に進入する際に、他方の磁性層にトルクを与えること(これをスピン注入トルクと呼ぶ)を利用している。さらに詳細には、STT-MRAMにおいては、MTJ素子にある閾値以上の電流を流すことにより、上記他方の磁性層にトルクを与えて、当該磁性層の磁性方向を反転(磁化反転)させ、当該MTJ素子に情報を記憶させる。上述のようなスピントルク磁化反転を生じさせるために必要な電流の絶対値は、50nm程度のスケールのMTJ素子においては100μA以下となる。さらに、電流値は、MTJ素子の体積が小さくなるほど減少することから、MTJ素子のスケーリングにより電流を低減することが可能である。また、このようなSTT-MRAMにおいては、MTJ素子に情報を記憶させるための電流磁界を発生させるための配線が不要となるため、セル構造をシンプルにすることができるという利点もある。
【0029】
STT-MRAMの記憶素子としては、上記MTJ素子が用いられる。MTJ素子は、磁性体からなる固定層及び記憶層と、固定層と記憶層との間に設けられた非磁性層とを主に有する。そして、当該MTJ素子は、所定の方向に固定された磁気モーメントを有する磁性体(固定層)を通過したスピン偏極電子が、他の磁性体(記憶層)に進入する際に、他の磁性体の磁気モーメント(磁化方向)にトルクを与えることにより磁気モーメントの反転が生じることを利用して記憶を行う。詳細には、所定の閾値以上の電流が流れ、スピン偏極電子により所定の閾値以上のトルクが与えられた磁性体の磁気モーメントは、与えられたトルクと平行な方向に反転する。なお、磁気モーメントの反転方向は、磁性体に流す電流の極性を変更することで制御することができる。さらに、当該MTJ素子においては、固定層及び記憶層の磁気モーメントの方向が同じ方向である平行状態の方が、両者の磁気モーメントの方向が逆の方向である反平行状態に比べて、非磁性層における電気抵抗が低くなり、MTJ素子全体としての電気抵抗が低くなる。そこで、MTJ素子においては、磁気モーメントの状態(磁化状態)に起因する抵抗状態の違いを利用して1/0の情報の記憶がなされることとなる。
【0030】
上述のようなスピントルク磁化反転を生じさせるために必要な電流の絶対値は、0.1μm程度のスケールのMTJ素子で1mA以下となる。さらには、反転電流の全体値は、MTJ素子の体積が小さくなるほど減少する。なお、配線から発生する電流磁界を用いて磁性体の磁化方向を反転させる場合、磁化反転に必要な電流は、おおよそ数mA程度にもなる。従って、スピントルク磁化反転を用いたSTT-MRAMは、配線からの電流磁界による磁化反転を用いたMRAMに対して、書き込み時に必要な電流を極めて小さくすることができるため、低消費電力での動作が可能である。
【0031】
また、配線からの電流磁界による磁化反転を用いたMRAMでは、電流磁界を発生させるワード線等の配線が必要となるが、STT-MRAMでは、先に説明したように、このような配線が不要となる。そのため、STT-MRAMは、配線からの電流磁界による磁化反転を用いたMRAMに対して、MTJ素子をシンプルな構造とすることができ、MTJ素子の小型化が容易となるため、磁気メモリの更なる大容量化を実現することができる。
【0032】
以上のように、STT-MRAMは、情報の書き換えが高速、且つほぼ無制限に可能であるMRAMの特性を維持しつつ、低消費電力化および大容量化を図ることが可能である。
【0033】
<1.2.MTJ素子の基本構造>
次に、図1を参照して、スピントルク磁化反転を用いたSTT-MRAMのMTJ素子10の基本構造について説明する。図1は、MTJ素子10の積層構造の一例を模式的に示す説明図である。
【0034】
MTJ素子10は、1つの情報(1/0)を記憶する磁気記憶素子である。MTJ素子10の上下には、互いに直交するアドレス用の配線(すなわち、ワード線及びビット線)が設けられ、MTJ素子10は、これら配線の交点付近にてワード線及びビット線と接続される。なお、図1においては、これら配線の図示については省略している。
【0035】
図1に示すように、MTJ素子10は、下地層100の上に、所定の方向に磁気モーメント(磁化方向)が固定された固定層102と、非磁性層104と、磁気モーメントの向き(磁化方向)が可変、すなわち、反転可能な記憶層106と、キャップ層108とが順次積層されている構造を持つ。また、図1においては図示が省略されているが、MTJ素子10は、上部電極と下部電極とによって挟まれる。さらに、MTJ素子10の一方の端子は、選択トランジスタ(図示省略)を介して更なる他の配線(図示省略)及びワード線(図示省略)と電気的に接続され、MTJ素子10の他方の端子は、ビット線(図示省略)と電気的に接続される。これにより、選択トランジスタによって選択されたMTJ素子10において、ワード線及びビット線を介して、MTJ素子の下部電極と上部電極との間に電圧が印加され、当該MTJ素子10の記憶層106に対する情報の書き込み及び読み出しが行われる。
【0036】
固定層102は、強磁性体材料を含む磁性体によって形成され、高い保磁力等によって、磁気モーメントの方向が固定されている。非磁性層104は、各種の非磁性体等から形成され、固定層102と記憶層106との間に挟持されるように設けられる。記憶層106は、強磁性体材料を含む磁性体によって形成され、記憶する情報に対応して磁気モーメントの方向が変化する。さらに、下地層100及びキャップ層108は、電極、結晶配向性の制御膜、保護膜等として機能する。
【0037】
なお、図1では、MTJ素子10の積層構造として、記憶層106を基準として下方向に非磁性層104及び固定層102が積層された構造を示したが、MTJ素子10は、かかる構造に限定されない。例えば、MTJ素子10は、さらに他の層を含んでもよいし、固定層102と記憶層106との位置を入れ替えてもよい。
【0038】
<1.3.書き込み及び読み出しの仕組みについて>
続いて、MTJ素子10における情報の書き込み、及び読み出しの仕組みについて説明する。まずは、MTJ素子10における情報の書き込みの仕組みについて説明する。MTJ素子10では、記憶層106への情報の書き込みは、先に説明したように、スピントルク磁化反転を用いて行われる。
【0039】
ここで、スピントルク磁化反転の詳細について説明する。電子は、2種類のスピン角運動量をもつことが知られている。そこで、スピン角運動量を、仮に上向きのスピン角運動量と、下向きのスピン角運動量との2種類のスピン角運動量として定義する。非磁性体内部では、上向きのスピン角運動量と下向きのスピン角運動量とが同数であり、強磁性体内部では、これら両者の数に差がある。
【0040】
さらに、ここでは、MTJ素子10において、固定層102と記憶層106との磁気モーメントの向きが互いに異なる反平行状態にあり、この状態において、電子を固定層102から記憶層106へ進入させる場合について考える。
【0041】
電子が固定層102を通過した場合には、スピン偏極が生じ、すなわち、上向きのスピン角運動量と下向きのスピン角運動量との数に差が生じる。さらに、非磁性層104の厚さが十分に薄い場合には、このスピン偏極が緩和して通常の非磁性体における非偏極(上向きと下向きの電子の数が同数)状態になる前に、当該電子は、記憶層106に進入することができる。
【0042】
記憶層106では、スピン偏極の方向は進入した電子と逆になっている。従って、系全体のエネルギーを下げるために、進入した電子の一部は、反転、すなわちスピン角運動量の向きが変化する。この際、系全体ではスピン角運動量が保存されることから、反転した電子によるスピン角運動量の変化の合計と等価な反作用が記憶層106の磁気モーメント(磁化方向)に与えられる。
【0043】
電流、すなわち、単位時間に通過する電子の数が少ない場合には、向きを変える電子の総数も少ないために記憶層106の磁気モーメントに発生するスピン角運動量変化も小さい。一方、電流、すなわち、単位時間に通過する電子の数を多くすると、記憶層106の磁気モーメントに所望するスピン角運動量変化を単位時間内に与えることができる。スピン角運動量の時間変化はトルクであり、トルクが所定の閾値を超えると記憶層106の磁気モーメントは反転を開始し、180度反転した状態で安定となる。なお、記憶層106の磁気モーメントが180度反転した状態で安定となるのは、記憶層106を構成する磁性体に磁化容易軸が存在し、一軸異方性があるためである。上記のような仕組みにより、MTJ素子10は、反平行状態から、固定層102と記憶層106との磁気モーメントの向きが互いに同じとなる平行状態へと変化する。
【0044】
また、平行状態において、電流を逆に記憶層106から固定層102へ電子を侵入させるような向きで流した場合には、固定層102へ到達した際に固定層102で反射されて反転した電子が、記憶層106に進入する際に記憶層106にトルクを与える。従って、与えられたトルクにより、記憶層106の磁気モーメントは反転し、MTJ素子10は平行状態から反平行状態へと変化する。
【0045】
ただし、平行状態から反平行状態への反転を起こすための反転電流の電流量は、反平行状態から平行状態へと反転させる場合よりも多くなる。なお、平行状態から反平行状態への反転については、簡単に述べると、固定層102の磁気モーメントが固定されているために、固定層102での反転が難しく、系全体のスピン角運動量を保存するために記憶層106の磁気モーメントが反転するためである。このように、MTJ素子10における1/0の記憶は、固定層102から記憶層106に向かう方向又はその逆向きに、それぞれの極性に対応する所定の閾値以上の電流を流すことによって行われる。このように、MTJ素子10における記憶層106の磁気モーメントを反転させて、MTJ素子10の抵抗状態を変化させることにより、MTJ素子10における1/0の書き込みが行われる。
【0046】
次に、MTJ素子10における情報の読み出しの仕組みについて説明する。MTJ素子10においては、記憶層106からの情報の読み出しは、磁気抵抗効果を用いて行われる。詳細には、MTJ素子10を挟む下部電極(図示省略)と上部電極(図示省略)との間に電流を流した場合、固定層102と記憶層106との磁気モーメントの方向が互いに平行状態であるのか、反平行状態であるのかに基づいて、MTJ素子10の抵抗状態が変化する。そして、MTJ素子10の抵抗状態、すなわち、MTJ素子10が示す電気抵抗の大小を判別することによって、記憶層106に記憶された情報を読み出すことができる。
【0047】
<1.4.面内磁化方式及び垂直磁化方式のSTT-MRAMについて>
ところで、STT-MRAMにおいては、面内方向に磁気異方性を有する磁性体を用いた面内磁化方式のSTT-MRAMと、垂直方向に磁性異方性を有する磁性体を用いた垂直磁化方式のSTT-MRAMとがある。一般的には、面内磁化方式のSTT-MRAMよりも垂直磁化方式のSTT-MRAMの方が低電力化、大容量化に適しているとされている。これは、垂直磁化方式のSTT-MRAMの方が、スピントルク磁化反転の際に超えるべきエネルギバリアが低く、また垂直磁化膜の有する高い磁気異方性が大容量化により微細化した記憶担体の熱安定性を保持するのに有利なためである。
【0048】
詳細には、面内磁化方式のSTT-MRAMの反転電流をIc_paraとすると、以下のような数式(1)(2)で反転電流を表すことができる。
【0049】
【数1】
【0050】
また、垂直磁化方式のSTT-MRAMの反転電流をIc_perpとすると、以下のような数式(3)(4)で反転電流を表すことができる。
【0051】
【数2】
【0052】
上記式(1)から(4)においては、Aは定数、αはダンピング定数、Msは飽和磁化、Vは素子体積、g(0)p、g(π)pは、それぞれ平行状態、反平行状態時にスピントルクが相手の磁性層に伝達される効率に関係する係数、Hkは磁気異方性である(非特許文献1 参照)。
【0053】
ここで、同一の磁性体を持つ面内磁化方式のSTT-MRAMと垂直磁化方式のSTT-MRAMとにおける反転電流の検討にあたり、上記式(1)と上記式(3)とを比較し、上記式(2)と上記式(4)とを比較する。当該比較によれば、垂直磁化方式のSTT-MRAMの場合の(Hk-4πMs)は、面内磁化方式のSTT-MRAMの場合の(Hk+2πMs)に比べて小さい。従って、垂直磁化方式のSTT-MRAMのほうが、反転電流が小さく、書き込みの際の反転電流を低減させるという観点においては、適していることがわかる。
【0054】
<<2.本開示の実施形態>>
<2.1.MTJ素子の構造>
次に、本開示の実施形態に係るMTJ素子10の構造の詳細について、図2を参照して説明する。図2は、本開示の実施形態に係るMTJ素子10の積層構造を示す模式図である。なお、以下に説明する本実施形態に係るMTJ素子10は、垂直磁化方式のSTT-MRAMであるものとする。すなわち、当該MTJ素子10の積層構造に含まれる磁性層(詳細には、固定層102及び記憶層106、図2参照)の磁化方向が、膜面に対して垂直な方向、言い換えると上記積層構造の積層方向を持っているものとする。
【0055】
図2に示すように、本実施形態に係るMTJ素子(磁気記憶素子)10は、下地層100側から、下地層100と、固定層102と、非磁性層104と、記憶層106と、キャップ層108とが順次積層された積層構造を有する。なお、以下に説明するMTJ素子10においては、スピントルク磁化反転により、記憶層106の磁化方向は反転するが、固定層102の磁化方向配は反転しない、すなわち磁化方向が固定されているものとして説明する。また、非磁性層104は、固定層102と記憶層106とに挟持されているものとする。
【0056】
下地層100は、例えば数100μm程度の膜厚を持つシリコン基板(図示省略)上に設けられた、固定層102の結晶配向制御や上記基板に対する付着強度を向上させるための膜からなる。例えば、下地層100は、固定層102と結晶配向性又は磁気異方性が略一致する材料で形成されてもよい。詳細には、下地層100は、数nmの膜厚を持つTa(タンタル)膜と、数10nm程度のRu(ルテニウム)膜とからなる。なお、下地層100が膜厚100nm程度のCu等の金属材料からなる金属膜を持つ場合、当該金属膜は、MTJ素子10の下部電極(例えば、ワード線)として機能することも可能である。また、上記シリコン基板と下地層100との間に、膜厚100nm程度の熱酸化膜が設けられていてもよい。
【0057】
固定層102は、例えば1nm以上30nm以下の膜厚を持つ。固定層102は、例えば、図2に示されるように、下地層100側から、磁化固定層102aと、結合層102bと、参照層102cとが順次積層された構造を有する。参照層102cは、磁化方向が膜面垂直方向に固定された磁気モーメントを有する強磁性体材料から形成される。参照層102cは、MTJ素子10に記憶される情報の基準であるので、書き込みや記憶や読み出しによって磁化方向が変化しないことが求められるが、磁化方向が必ずしも特定の方向に固定されている必要はなく、記憶層106に比べて磁化方向が変化し難い特性を持てばよい。例えば、参照層102cは、記憶層106に比べて保磁力を大きくするか、膜厚を厚くするか、あるいは磁気ダンピング定数を大きくすることにより、記憶層106に比べて磁化方向が変化し難いこととなる。参照層102cは、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)からなる磁性遷移金属元素の遷移金属元素群から選択される少なくとも1つの元素を含む磁性膜からなる。すなわち、参照層102cは、常温で強磁性を示すFe、Co、Niのいずれか、もしくは、合金や金属間化合物を形成した場合に強磁性を示すMnを含む磁性膜からなる。また、上記磁性膜は、B及びC(炭素)のうちから選択された少なくとも1種以上の元素を含んでもよい。さらに具体的には、参照層102cは、例えば膜厚数nm程度であり、FeCoB、FeNiB、FeCoC、CoPt、FePt、CoMnSi、MnAl等の単一材料で形成されてもよいし、これらを組み合わせた材料で形成されてもよい。
【0058】
本実施形態においては、参照層102cの磁化方向を固定する場合には、CoPt、PtMn、IrMn等の反強磁性体材料からなる、膜厚数nm程度の磁化固定層102aを参照層102cに直接接触させてもよい。あるいは、本実施形態においては、上述の反強磁性体材料からなる磁化固定層102aをRu等の非磁性体材料からなる結合層102bを介して、参照層102cに磁気的に結合させ、参照層102cの磁化方向を間接的に固定しても良い。結合層102bは、例えば1nm程度の膜厚を持ち、Ruの他にも、Cr(クロム)、Cu(銅)、Re(レニウム)、Rh(ロジウム)、Os(オスニウム)、又はIr(イリジウム)等の非磁性の金属材料で形成されてもよい。
【0059】
上述のような磁気的結合を用いた磁化固定層102a、結合層102b、及び参照層102cからなる積層構造は、例えば、積層フェリピン構造とも称される。また、磁化固定層102a、結合層102b、及び参照層102cからなる積層フェリピン構造が記憶層106に対して下側(すなわち、下地層100側)に設けられる構造は、ボトムピン構造とも称され、積層フェリピン構造が記憶層106に対して上側(すなわち、キャップ層108側)に設けられる構造は、トップピン構造とも称される。なお、本実施形態においては、MTJ素子10は、ボトムピン構造、またはトップピン構造のいずれの構造であってもよい。
【0060】
本実施形態においては、上述のように固定層102が積層フェリピン構造になっていることから、固定層102の感度を外部磁界に対して鈍化させ、固定層102に起因する漏洩磁界を遮断するとともに、複数の磁性層の層間結合による、固定層102の垂直磁気異方性の強化を図ることが出来る。なお、このような固定層102の磁化方向の固定の手法は、固定層102が、記憶層106に対して下方にある場合であっても、上方にある場合であっても用いることができる。
【0061】
非磁性層104は、MgO等の絶縁材料で形成された層であり、例えば、0.3nm以上5nm以下の膜厚を有する。非磁性層104は、上述の材料の他にも、例えば、Al、AlN、SiO、Bi、MgF、CaF、SrTiO、AlLaO、Al-N-O等の各種の絶縁体、誘電体、半導体を用いて構成することもできる。
【0062】
さらに、本実施形態においては、非磁性層104をMgOで形成した場合には、磁気抵抗変化率(MR比)を高くすることができる。このようにMR比を高くすることにより、MTJ素子10におけるスピン注入の効率が向上することから、記憶層106の磁化方向を反転させるために求められる電流密度を低減することができる。また、本実施形態においては、中間層としての非磁性層104の材料を金属材料に置き換え、巨大磁気抵抗(GMR)効果によるスピン注入を行ってもよい。
【0063】
記憶層106は、磁化方向がMTJ素子10の積層構造の面に対して垂直方向(積層方向)において自由に変化する磁気モーメントを有する強磁性体から構成されている。詳細には、記憶層106は、参照層102cと同様に、Fe、Co、Ni、Mnからなる磁性遷移金属元素の元素群から選択される少なくとも1つの遷移金属元素を含む磁性膜からなる。また、上記磁性膜は、B及びCのうちから選択された少なくとも1種以上の元素を含んでもよい。さらに具体的には、記憶層106は、FeCoB、FeNiB、FeCoC、CoPt、FePt、CoMnSi、MnAl等の単一材料で形成されてもよいし、これらを組み合わせた材料で形成されてもよい。なお、記憶層106は、後述する含有元素を除いた全元素に対して80atm%以上の上記遷移金属元素を含むことが好ましい。さらに、記憶層106は、耐熱特性の劣化を避けるため、できるだけ希土類元素を含まないことが好ましい。また、記憶層106の膜厚は、例えば1nm以上10nm以下である。
【0064】
本実施形態において、特に、記憶層106における垂直磁化膜では、垂直磁化膜が受ける実効的な反磁界の大きさが飽和磁化量Msよりも小さくなるように、組成が調整されていることが好ましい。例えば、記憶層106の強磁性材料におけるCo-Fe-B組成を調整し、記憶層106が受ける実効的な反磁界の大きさを低くして、記憶層106の飽和磁化量Msよりも小さくなるようにする。このようにすることで、記憶層106の磁化方向は、膜面垂直方向を向くこととなる。
【0065】
そして、本実施形態においては、図2に示すように、記憶層106は、B、C、N(窒素)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、及びSi(シリコン)からなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む高濃度領域106aを有することができる。さらに、高濃度領域106aの上記含有元素の含有量は、75atm%以下であることが好ましく、70atm%以下であることがより好ましく、65atm%以下であることがさらに好ましい。なお、記憶層106の層全体が、上記含有元素を30atm%以上、80atm%以下含んでいてもよく、この場合、記憶層106が全体で高濃度領域106aであると言える。
【0066】
詳細には、図2に示すように、上記高濃度領域106aは、MTJ素子10の積層構造において、記憶層106の非磁性層104との界面側に位置する。高濃度領域106aは、積層構造の積層方向に沿って上記界面近傍(ここでは、積層方向に沿って、界面と、界面から5nm程度離れた高さまでの領域を近傍と呼ぶ。)に位置することが好ましく、上記界面により近い位置に位置することがより好ましい。さらに、本実施形態においては、高濃度領域106aは、非磁性層104と接していてもよく、もしくは、非磁性層104と離れた位置に位置していてもよい。
【0067】
また、上記高濃度領域106aは、上記積層構造において、膜厚が0.2nm以上2nm以下であることが好ましい。ただし、本実施形態においては、高濃度領域106aは、非磁性層104の上面を完全に覆うような層として、もしくは層状に設けられていなくてもよい。例えば、非磁性層104の上面は、高濃度領域106aが覆うように存在する被覆部と、高濃度領域106aに覆われていない非被覆部とが混在するようになっていてもよい。すなわち、本実施形態においては、高濃度領域106aは、記憶層106に点在するように設けられていてもよく、層として、もしくは層状に設けられていなくてもよい。
【0068】
また、高濃度領域106aは、記憶層106の他の領域と同様に、Fe、Co、Ni、Mnからなる磁性遷移金属元素の元素群から選択される少なくとも1つの遷移金属元素を含む。さらに、上記遷移金属元素は、高濃度領域106aの含む全元素からB、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される含有元素を除いた元素全体に対して、80atm%以上であることが好ましい。さらに、高濃度領域106aは、記憶層106の他の領域と同様に、耐熱特性の劣化を避けるため、できるだけ希土類元素を含まないことが好ましい。
【0069】
本実施形態においては、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上含有する高濃度領域106aを設けることにより、記憶層106が好適な磁気特性を有することができる。すなわち、本実施形態においては、上述のような高濃度領域106aを非磁性層104の界面近傍に設けることにより、製造工程における成膜時及び熱処理時の記憶層106の磁性膜の非晶質化が維持され、磁性膜の当該界面近傍に生じる膜面垂直方向の異方性磁界が増大するためであると考えられる。従って、本実施形態においては、高濃度領域106aは、積層構造の積層方向に沿って上記界面近傍に位置することが好ましい。詳細については後述するが、本発明者らの検討によると、製造工程の熱処理において400℃程度、量産工程を加味して500℃程度であることを鑑みると、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上含有することが好ましい。このようにすることで、400℃~500℃程度の熱処理を行っても、記憶層106は好適な磁気特性を維持することができる。
【0070】
また、本実施形態においては、MTJ素子10の量産にあたり、高い量産性を確保するために、成膜速度を高くすることが求められる。詳細については後述するが、本発明者らの検討によると、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を含有する高濃度領域106aを成膜する際、当該含有元素の濃度を高めると、成膜速度が著しく低下することが分かった。そこで、実効性のある成膜速度とするために、本発明者らの検討によれば、高濃度領域106aをB、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、80atm%以下含むように成膜することが好ましい。
【0071】
従って、本実施形態においては、高濃度領域106aは、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含むことが好ましい。このようにすることで、記憶層106の熱処理による磁気特性の劣化を抑制しつつ、MTJ素子10の高い量産性を確保することができる。
【0072】
そして、本実施形態においては、記憶層106が、記憶層106が受ける実効的な反磁界の大きさが記憶層106の飽和磁化量Msよりも小さくなるように構成されていることから、記憶層106が受ける反磁界の大きさが小さい。その結果、本実施形態においては、記憶層106の磁化方向を反転させるための書き込み電流量を低減することができる。これは、垂直磁気異方性を記憶層106が持つために、垂直磁化型STT-MRAMの反転電流の適用において反磁界の点で有利になるためである。
【0073】
さらに、本実施形態においては、記憶層106の飽和磁化量Msを低減しなくても書き込み電流量を低減することができるため、記憶層106の飽和磁化量Msを充分な量に設定し、記憶層106の熱安定性を確保することが可能になる。
【0074】
本実施形態においては、情報保持能力である記憶層106の熱安定性を充分に確保することができるため、特性バランスに優れたMTJ素子10を構成することができる。
【0075】
キャップ層108は、Ta等の各種金属材料、合金材料、酸化物材料等から形成される。当該キャップ層108は、MTJ素子10の製造中において各積層を保護し、さらに、ハードマスクとして機能するようにしてもよい。また、キャップ層108が金属材料で形成される場合、キャップ層108は、MTJ素子10の電極として機能することも可能である。また、キャップ層108の膜厚は、例えば、0.5nm以上50nm以下である。
【0076】
また、図2においては、図示されていないが、記憶層106とキャップ層108との間に、非磁性層や磁化固定層等が設けられてもよい。当該非磁性層は、上述の非磁性層104と同様に、AlやMgO等の酸化物層で形成することができる。また、当該磁化固定層は、CoFeB等の磁性材料から形成することができる。
【0077】
なお、本実施形態においては、記憶層106は、図2に示すように1つの層から形成されてもよく、複数の層が積層された構造であってもよい。
【0078】
なお、本実施形態においては、MTJ素子10は、このような構成に限定されるものではなく、他の構成であってもよく、例えば、積層方向において、固定層102と記憶層106との位置を入れ替えてもよく、さらに他の層を含んでいてもよい。
【0079】
そして、上述のMTJ素子10は、後述する磁気記憶装置1のように、マトリックス状に複数設けられていてもよく、さらに、MTJ素子10に接続される各種配線が設けられていてもよい。さらに、複数のMTJ素子10のうち、互いに隣り合うMTJ素子10の間には、絶縁膜(図示省略)が埋め込まれていてもよい。
【0080】
<2.2.MTJ素子の製造方法>
次に、図3から5を参照して、本開示の実施形態に係るMTJ素子10の製造方法について説明する。図3から図5は、本実施形態に係るMTJ素子10の製造方法における各工程を説明する断面図である。これら断面図は、MTJ素子10の積層構造の積層方向に沿ってMTJ素子10を切断した場合の断面に対応する。なお、以下に説明においては、高濃度領域106aは、含有元素としてBを含有するものとして説明する。また、以下に説明する本実施形態に係るMTJ素子10は、垂直磁化方式のSTT-MRAMであるものとする。すなわち、当該MTJ素子10の積層構造に含まれる磁性層(詳細には、固定層102及び記憶層106)の磁化方向が、膜面に対して垂直な方向、言い換えると上記積層構造の積層方向を持っているものとする。
【0081】
まずは、例えばシリコン基板(図示省略)上に、例えば数100nmの熱酸化膜(図示省略)を成膜する。そして、当該熱酸化膜上に、例えば、膜厚数nmのTa、Ru等の複数の金属膜(図示省略)からなる積層膜を成膜することで下地層100を成膜する。
【0082】
そして、当該下地層100の上に、例えば、膜厚数nmのCo-Pt膜等からなる磁化固定層102aと、膜厚数nmのRu膜等からなる結合層102bと、膜厚数nmのCo20Fe8030膜等からなる参照層102cとを順次積層させ、固定層102を成膜する。さらに、固定層102の上に、例えば、膜厚数nmのMgO膜等からなる非磁性層104を成膜する。このようにして、図3に示すような積層構造を得ることができる。
【0083】
次に、非磁性層104の上に、Co-Pt-B合金等からなるターゲットを用いて、例えば、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法もしくはRFマグネトロンスパッタ法)等を用いて記憶層106を成膜する。この際、所望の元素濃度を持つターゲットを用いて、Ar等の不活性ガス(流量数10~数100sccm)を用いて、数100W程度の成膜パワーの条件で、記憶層106における、上述の高濃度領域106a、及び、当該高濃度領域106a以外の他の領域を成膜する。すなわち、本実施形態においては、所望の元素濃度を持つターゲットを用いることにより、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む高濃度領域106aを有する記憶層106を成膜することができる。さらに、成膜後に、350℃~400℃程度の熱処理を行うことにより、高濃度領域106aの膜面垂直方向の異方性磁界を増大させる。なお、RFマグネトロンスパッタ法を用いた場合には、周波数は13.56MHzとなる。このようにして、図4に示すような積層構造を得ることができる。
【0084】
さらに、記憶層106の上に、Ta等の各種金属材料、合金材料、酸化物材料等を成膜し、キャップ層108を成膜する。このようにして、図5に示すような積層構造を得ることができる。
【0085】
なお、本実施形態においては、特段の断りが無い限りは、酸化物からなる層以外の層については、DCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜することが好ましく、各層の成膜後には、350℃~400℃程度の熱処理を行うことが好ましい。また、本実施形態においては、特段の断りが無い限りは、酸化物層は、RFマグネトロンスパッタ法、もしくは、DCマグネトロンスパッタ法を用いて金属層を成膜し、成膜後に、酸化処理(熱処理)を行い、成膜した金属層を酸化物層に変換することで形成することが好ましい。
【0086】
さらに、図示を省略するものの、所望のパターンを持つフォトマスク(図示省略)をキャップ層108上に形成する。そして、上記フォトマスクをマスクとして用いて、キャップ層108、記憶層106、非磁性層104、固定層102等に対して順次エッチングを行い、MTJ素子10を形成する。当該エッチングは、イオンビームエッチング(IBE)を用いても良いし、リアクティブイオンエッチング(RIE)を用いても良いし、それらを組み合わせても良い。
【0087】
このように、本実施形態に係る製造方法においては、下地層100からキャップ層108までを真空装置内で連続的に成膜し、その後、エッチング等によるパターニング加工を行うことにより、MTJ素子10を製造することができる。
【0088】
<2.3.変形例>
なお、上述した本開示の実施形態に係るMTJ素子10は、以下のように変形することもできる。以下に、本実施形態の変形例1及び2を、図6及び図7を参照して説明する。図6は、本実施形態の変形例1に係るMTJ素子10aの積層構造を示す模式図であり、図7は、本実施形態の変形例2に係るMTJ素子10bの積層構造を示す模式図である。
【0089】
(2.3.1 変形例1)
上述した本開示の実施形態においては、記憶層106に含まれる高濃度領域106aは、記憶層106と非磁性層104との界面近傍に設けていたが、本実施形態においてはこれに限定されるものではない。例えば、本変形例1においては、さらに、高濃度領域106bを、記憶層106と非磁性層104との界面側に設けてもよい。
【0090】
詳細には、本変形例1においては、図6に示すように、記憶層106は、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む高濃度領域106a及び高濃度領域106bを有する。さらに、高濃度領域106bの上記含有元素の含有量は、75atm%以下であることが好ましく、70atm%以下であることがより好ましく、65atm%以下であることがさらに好ましい。また、高濃度領域106aは、上述した本開示の実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0091】
本変形例1においては、図6に示すように、上記高濃度領域106bは、MTJ素子10aの積層構造において、記憶層106のキャップ層108との界面側に位置する。高濃度領域106bは、積層構造の積層方向に沿って上記界面近傍(ここでは、積層方向に沿って、界面と、界面から5nm程度離れた高さまでの領域を近傍と呼ぶ。)に位置することが好ましく、上記界面により近い位置に位置することがより好ましい。さらに、本変形例1においては、高濃度領域106bは、キャップ層108と離れた位置に位置していてもよい。本変形例1に係るMTJ素子10aは、記憶層106とキャップ層108との間に設けられた、MgO膜等からなる酸化物層(図示省略)をさらに有していることが好ましく、高濃度領域106bは、上記酸化物層と接する、もしくは、記憶層106と酸化物層との界面により近い位置に位置することが好ましい。
【0092】
なお、上記高濃度領域106bは、上述の高濃度領域106aと同様に、膜厚が0.2nm以上2nm以下であることが好ましい。ただし、本変形例1においては、高濃度領域106bは、上述の高濃度領域106aと同様に、層として、もしくは層状に設けられていなくてもよい。
【0093】
また、高濃度領域106bは、記憶層106の他の領域と同様に、Fe、Co、Ni、Mnからなる磁性遷移金属元素の元素群から選択される少なくとも1つの遷移金属元素を含む。さらに、上記遷移金属元素は、高濃度領域106aの含む全元素からB、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される含有元素を除いた元素全体に対して、80atm%以上であることが好ましい。さらに、高濃度領域106bは、記憶層106の他の領域と同様に、耐熱特性の劣化を避けるため、できるだけ希土類元素を含まないことが好ましい。
【0094】
本変形例1においても、上述した本開示の実施形態と同様に、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む高濃度領域106bを設けることにより、記憶層106の熱処理による磁気特性の劣化を抑制しつつ、MTJ素子10の高い量産性を確保することができる。なお、本変形例1においては、上述のような高濃度領域106bを上記酸化物層(図示省略)の界面近傍に設けることにより、製造工程における成膜時及び熱処理時の記憶層106の磁性膜の非晶質化が維持され、磁性膜の当該界面近傍に生じる膜面垂直方向の異方性磁界が増大すると考えられる。
【0095】
(2.3.2 変形例2)
上述した本開示の実施形態においては、記憶層106に高濃度領域106aを設けていたが、本実施形態においてはこれに限定されるものではない。例えば、本変形例2においては、高濃度領域102dを、固定層102に設けてもよい。
【0096】
詳細には、本変形例2においては、図7に示すように、固定層102は、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む高濃度領域106a及び高濃度領域102dを有する。さらに、高濃度領域102dの上記含有元素の含有量は、75atm%以下であることが好ましく、70atm%以下であることがより好ましく、65atm%以下であることがさらに好ましい。また、高濃度領域106aは、上述した本開示の実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0097】
本変形例2においては、図7に示すように、上記高濃度領域102dは、MTJ素子10bの積層構造において、固定層102(詳細には、参照層102c)の非磁性層104との界面側に位置する。高濃度領域102dは、積層構造の積層方向に沿って上記界面近傍(ここでは、積層方向に沿って、界面と、界面から5nm程度離れた高さまでの領域を近傍と呼ぶ。)に位置することが好ましく、上記界面により近い位置に位置することがより好ましい。さらに、本変形例2においては、高濃度領域102dは、非磁性層104と接していてもよく、もしくは、非磁性層104と離れた位置に位置していてもよい。
【0098】
なお、上記高濃度領域102dは、上述の高濃度領域106aと同様に、膜厚が0.2nm以上2nm以下であることが好ましい。ただし、本変形例2においては、高濃度領域102dは、上述の高濃度領域106aと同様に、層として、もしくは層状に設けられていなくてもよい。
【0099】
また、高濃度領域102dは、固定層102(詳細には、参照層102c)の他の領域と同様に、Fe、Co、Ni、Mnからなる磁性遷移金属元素の元素群から選択される少なくとも1つの遷移金属元素を含む。さらに、上記遷移金属元素は、高濃度領域102dの含む全元素からB、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される含有元素を除いた元素全体に対して、80atm%以上であることが好ましい。さらに、高濃度領域102dは、固定層102(詳細には、参照層102c)と同様に、耐熱特性の劣化を避けるため、できるだけ希土類元素を含まないことが好ましい。
【0100】
本変形例2においても、上述した本開示の実施形態と同様に、B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む高濃度領域102dを設けることにより、固定層102の熱処理による磁気特性の劣化を抑制しつつ、MTJ素子10bの高い量産性を確保することができる。
【0101】
なお、本変形例2に係る固定層102は、上述した本実施形態に係るMTJ素子10の製造方法における記憶層106の形成方法と同様に形成することができる。また、上記高濃度領域102dは、上記積層構造において、膜厚が0.2nm以上2nm以下であることが好ましい。また、固定層102の層全体が、上記含有元素を30atm%以上、80atm%以下含んでいてもよく、この場合、固定層102が全体で高濃度領域102dであると言える。
【0102】
<<3.実施例>>
以上、本開示の実施形態の詳細について説明した。次に、具体的な実施例を示しながら、本開示の実施形態の例についてより具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本開示の実施形態のあくまでも一例であって、本開示の実施形態が下記の例に限定されるものではない。
【0103】
<3.1.保磁力の検討>
まずは、本発明者らは、記憶層106のB(含有元素)濃度に対する熱処理後の保磁力(Hc)の関係を検討した。
【0104】
(実施例)
まず、膜厚725μmのシリコン基板上に、膜厚300nmの熱酸化膜を成膜した。そして、当該熱酸化膜上に、MTJ素子10の下部電極及び配線となる膜厚100nmのCu膜を成膜した。
【0105】
その後、上記Cu膜上に、下地層100、磁化固定層102a、結合層102b、参照層102c、非磁性層104、記憶層106、及びキャップ層108を順次積層した。具体的には、下地層100は、膜厚5nmのTa及び膜厚10nmのRuの積層膜にて形成し、磁化固定層102aは、膜厚2nmのCo-Pt膜にて形成し、結合層102bは、膜厚0.7nmのRu膜にて形成し、参照層102cは、膜厚1.2nmの(Co20Fe808030にて形成した。また、非磁性層104は、膜厚1nmのMgOで形成し、記憶層106は、膜厚1.6nmの(Co20Fe808030で形成し、キャップ層108は、膜厚5nmのTa膜で形成した。
【0106】
非磁性層104以外の各層は、DCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。また、非磁性層104は、DCマグネトロンスパッタ法又はRFマグネトロンスパッタ法を用いて金属膜を成膜した後、酸化チャンバ内で酸化することで形成した。また、上記の各層を成膜した後、350℃から400℃で熱処理を行った。なお、記憶層106の成膜は、室温、成膜パワー250~350W、Arガス流量10~100sccmの条件において行った。
【0107】
続いて、直径50nmの円柱状となるように、キャップ層108から下地層100の上までエッチング加工することにより、実施例に係るMTJ素子10を形成した。
【0108】
次に、スパッタ法を用いて、Al膜を厚さ100nm程度で成膜することで、隣り合うMTJ素子10の間を埋め込み、互いを電気的に絶縁した。その後、Cu膜等を用いて、MTJ素子10の上部電極及び配線を形成した。
【0109】
(比較例1)
続いて、比較例1について説明する。比較例1では、実施例と同様に、MTJ素子10を形成した。なお、比較例1においては、記憶層106を、膜厚1.6nmの(Co20Fe808010で形成した点で、上記実施例と異なる。
【0110】
(比較例2)
次に、比較例2について説明する。比較例2では、実施例と同様に、MTJ素子10を形成した。なお、比較例2においては、記憶層106は、膜厚1.6nmの(Co20Fe808020で形成した点で、上記実施例と異なる。
【0111】
そして、実施例、比較例1及び比較例2に係るMTJ素子10に対して、磁気光学カー効果(Magneto-Optical Kerr Effect;MOKE)測定を行い、記憶層106の垂直方向の保磁力(Hc)を測定した。当該測定によって得られた結果を図8に示す。図8は、本発明者らの検討によって得られた、B濃度に対する熱処理後(400℃)の保磁力(Hc)の関係を示したグラフである。なお、図8においては、横軸が記憶層106のBの濃度(atm%)であり、縦軸が保磁力(Hc)(Oe)を示す。
【0112】
図8から分かるように、記憶層106の垂直方向の保磁力(Hc)は、記憶層106中のBの濃度が増加するに従って増大し、Bの濃度が30atm%以上では、保磁力(Hc)は、100Oeを超え十分な垂直磁気異方性を持つことが分かった。
【0113】
図8に示す結果は、記憶層106にBを含有させることにより、製造工程における成膜時及び熱処理時の記憶層106の磁性膜の非晶質化が維持され、記憶層106の非磁性層104との界面近傍に生じる膜面垂直方向の異方性磁界が増大するためであると考えられる。
【0114】
<3.2.成膜速度の検討>
先に説明したように、Bを含有する高濃度領域106aを成膜する際、Bの濃度を高めると、成膜速度が著しく低下する。そこで、本発明者らは、記憶層106のB濃度に対する成膜速度の関係を検討した。
【0115】
成膜速度の検討においては、上述の実施例と同様に、MTJ素子10を形成した。ただし、当該検討においては、記憶層106を、成膜パワー350Wの条件の下、各種の濃度でBを含有するターゲットを用いて成膜した点で、上記実施例と異なる。
【0116】
当該検討によって得られた結果を図9に示す。図9は、本発明者らの検討によって得られた、B濃度に対する成膜速度(nm/sec)の関係を示したグラフである。なお、図9においては、横軸が記憶層106のBの濃度(atm%)であり、縦軸が成膜速度(nm/sec)を示す。
【0117】
図9から分かるように、記憶層106の成膜速度は、記憶層106中のBの濃度が増加するに従って著しく低下し、Bの濃度が80atm%以上では、量産が困難であることが分かった。
【0118】
以上の検討の結果をまとめたものを図10に示す。図10は、本発明者らの検討によって得られた、B濃度に対する熱処理後の保磁力(Hc)及び成膜速度の結果をまとめた表である。図10では、保磁力(Hc)が、100Oeを超えた結果を良品とし、また、量産において実効性のある成膜速度として1nm/100sec以上の成膜速度を良品とした。なお、図10においては、良品として判定した場合には、丸印で表示し、良品として判定しなかった場合にはバツ印で表示している。
【0119】
図10からわかるように、保磁力(Hc)の観点からも、成膜速度の観点からも、良品といえるのは、記憶層106のB濃度が30atm%以上、80atm%以下であることがわかった。
【0120】
以上のように、記憶層106は、含有元素としてBを、30atm%以上、80atm%以下含むことが好ましい。このようにすることで、記憶層106の熱処理による磁気特性の劣化を抑制しつつ、MTJ素子10の高い量産性を確保することができる。また、推定されるメカニズムを鑑みると、Bを、30atm%以上、80atm%以下含有する領域(高濃度領域106a)は、記憶層106と非磁性層104との界面近傍に設けることが好ましい。
【0121】
なお、上述のメカニズムを鑑みると、記憶層106が含有する含有元素は、Bに限定されるものではなく、Bと同様の挙動を示す、C、N、Al、Mg、及びSiの少なくともいずれか1つの元素であってもよいと考えられる。
【0122】
<<4.磁気記憶装置の構成例>>
以下に、図11を参照して、本開示の実施形態に係る磁気記憶装置1の構成例を説明する。図11は、本実施形態に係る磁気記憶装置1の一例を模式的に示す概略構成図(斜視図)である。
【0123】
本実施形態に係る磁気記憶装置1は、情報を磁性体の磁化方向により保持する記憶装置である。詳細には、図11に示されるように、本実施形態に係る磁気記憶装置1においては、互いに交差(直交)する2種類のアドレス配線(例えば、ビット線70及びワード線72)の交点付近に、本実施形態に係るMTJ素子10が複数個配置される。また、MTJ素子10の一方の端子は、ビット線70に電気的に接続され、MTJ素子10の他方の端子は、選択トランジスタ20に電気的に接続される。
【0124】
より具体的には、磁気記憶装置1においては、図11に示すように、シリコン基板等の半導体基体200の素子分離層206により分離された領域に、MTJ素子10を選択するための選択トランジスタ20が形成される。当該選択トランジスタ20は、ゲート電極(ワード線)72、ソース領域202及びドレイン領域204を有する。なお、図示する例では、1つのメモリセルは、MTJ素子10と、当該MTJ素子10を選択するための1つの選択トランジスタ20とを含むものとする。そして、磁気記憶装置1においては、半導体基板200上に複数のメモリセルが配列される。なお、図11においては、磁気記憶装置1のうち、4つのメモリセルに対応する部分を抜き出して示している。
【0125】
また、ゲート電極72は、図11中の奥行き方向に延設され、一方のアドレス配線(ワード線(第2の配線)72)を兼ねている。ドレイン領域204には、配線74が電気的に接続されており、ドレイン領域204は、当該配線74を介して適宜その電位を変更可能に構成されている。なお、図11に図示する例では、ドレイン領域204は、隣り合って配置される選択トランジスタ20に共通して形成されている。また、ソース領域202の上方に、MTJ素子10が配置される。さらに、MTJ素子10の上方に他方のアドレス配線であるビット線70が、ワード線72と直交する方向に延設される。また、ソース領域202とMTJ素子10との間、MTJ素子10とビット線70との間には、コンタクト層(図示省略)が設けられている。これらは、当該コンタクト層を介して、互いに電気的に接続される。
【0126】
また、MTJ素子10は、先に説明したように、それぞれの記憶層106の磁気モーメントをスピントルク磁化反転により反転させることにより、1/0の情報の書き込みを行うことができる。
【0127】
詳細には、磁気記憶装置1には、ワード線72及びビット線70に対して所望の電流を印加可能な電源回路(図示省略)が設けられている。情報の書き込み時には、上記電源回路は、書き込みを行いたい所望のメモリセルに対応するアドレス配線(すなわち、ワード線72及びビット線70)に電圧を印加し、MTJ素子10に電流を流す。一方、情報の読み出し時には、磁気記憶装置1は、上記電源回路によって読み出しを行いたい所望のメモリセルに対応するワード線72に電圧を印加し、ビット線70からMTJ素子10を通過して選択トランジスタ20まで流れる電流を検出する。TMR(トンネル磁気抵抗)効果により、MTJ素子10の記憶層106における磁気モーメントの方向に応じてMTJ素子10の電気抵抗が変化するため、検出された電流値の大きさに基づいて1/0の情報を読み出すことができる。このとき、読み出し時の電流は、書き込み時に流れる電流に比べてずっと小さいため、読み出し時にはMTJ素子10の記憶層106における磁気方向は変化しない。つまり、MTJ素子10は、非破壊での情報の読み出しが可能である。
【0128】
<<5.電子機器の構成例>>
続いて、図12及び図13を参照して、本実施形態に係る磁気記憶装置1を用いた電子機器について説明する。例えば、電子機器は、本実施形態に係るMTJ素子10をアレイ状に複数配列してなる磁気記憶装置1を大容量ファイルメモリ、コードストレージまたはワーキングメモリのいずれかとして用いる。
【0129】
<5.1.電子機器の外観例>
まず、図12を参照して、本実施形態に係る磁気記憶装置1を用いた電子機器900の外観について説明する。図12は、電子機器900の外観例を示した斜視図である。
【0130】
図12に示すように、電子機器900は、例えば、横長の扁平な形状に形成された外筐901の内外に各構成が配置された外観を有する。電子機器900は、例えば、ゲーム機器として用いられる機器であってもよい。
【0131】
外筐901の前面には、長手方向の中央部に表示パネル902が設けられる。また、表示パネル902の左右には、それぞれ周方向に離隔して配置された操作キー903、及び操作キー904が設けられる。また、外筐901の前面の下端部には、操作キー905が設けられる。操作キー903、904、905は、方向キー又は決定キー等として機能し、表示パネル902に表示されるメニュー項目の選択、およびゲームの進行等に用いられる。
【0132】
また、外筐901の上面には、外部機器を接続するための接続端子906、電力供給用の供給端子907、及び外部機器との赤外線通信を行う受光窓908等が設けられる。
【0133】
<5.2.電子機器の内部構成例>
次に、図13を参照して、電子機器900の内部構成について説明する。図13は、電子機器900の内部構成を示すブロック図である。
【0134】
図13に示すように、電子機器900は、CPU(Central Processing Unit)を含む演算処理部910と、各種情報を記憶する記憶部920と、電子機器900の各構成を制御する制御部930と、を備える。演算処理部910、及び制御部930には、例えば、図示しないバッテリー等から電力が供給される。
【0135】
演算処理部910は、各種情報の設定またはアプリケーションの選択をユーザに行わせるためのメニュー画面を生成する。また、演算処理部910は、ユーザによって選択されたアプリケーションを実行する。
【0136】
記憶部920は、ユーザにより設定された各種情報を保持する。記憶部920は、本実施形態に係る磁気記憶装置1を含んで構成される。
【0137】
制御部930は、入力受付部931、通信処理部933、および電力制御部935を有する。入力受付部931は、例えば、操作キー903、904、及び905の状態検出を行う。また、通信処理部933は、外部機器との間の通信処理を行う。さらに、電力制御部935は、電子機器900の各部に供給される電力の制御を行う。
【0138】
本実施形態によれば、記憶部920は、大容量化、および低消費電力化が可能である。したがって、本実施形態に係る磁気記憶装置1を用いた電子機器900は、少ない消費電力でより大量の情報を演算処理することが可能である。
【0139】
なお、本実施形態に係る磁気記憶装置1は、演算装置等を成す半導体回路とともに同一の半導体チップに搭載されて半導体装置(System-on-a-Chip:SoC)をなしてもよい。また、本実施形態に係る磁気記憶装置1は、上述のように記憶装置が搭載され得る各種の電気機器に実装されることができる。例えば、本実施形態に係る磁気記憶装置1は、ゲーム機器の他に、各種のモバイル機器(スマートフォン、タブレットPC(Personal Computer)等)、ノートPC、ウェアラブルデバイス、音楽機器、ビデオ機器、又はデジタルカメラ等の、各種の電子機器に、一時記憶のためのメモリとして、あるいはストレージとして搭載されることができる。
【0140】
<<6.補足>>
さらに、本開示の実施形態に係るMTJ素子10は、磁気記憶装置1を構成する磁気記憶素子であるとして説明したが、上記MTJ素子10は、このような磁気記憶装置1に適用することに限定されるものではない。例えば、上記MTJ素子10は、磁気ヘッドであることができ、当該磁気ヘッドを搭載したハードディスクドライブ、磁気センサ機器に適用することも可能である。
【0141】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0142】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0143】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(1)
磁化方向が固定された固定層と、
磁化方向が反転可能な記憶層と、
前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、
からなる積層構造を備え、
前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、
前記固定層又は前記記憶層は、
B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を有する、
磁気記憶素子。
(2)
前記固定層又は前記記憶層は、Fe、Co、Ni、Mnからなる遷移金属元素群から選択される少なくとも1つの遷移金属元素を含む、上記(1)に記載の磁気記憶素子。
(3)
前記固定層又は前記記憶層の含む、前記含有元素を除いた全元素に対して、前記遷移金属元素は80atm%以上含まれる、上記(2)に記載の磁気記憶素子。
(4)
前記領域は、前記含有元素としてBを含有する、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の磁気記憶素子。
(5)
前記領域は前記記憶層に含まれる、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の磁気記憶素子。
(6)
前記領域は、前記記憶層の前記非磁性層との界面側に位置する、上記(5)に記載の磁気記憶素子。
(7)
前記領域は、前記非磁性層と接するように位置する、上記(6)に記載の磁気記憶素子。
(8)
前記領域は、前記記憶層の前記非磁性層との界面近傍に位置する、上記(6)に記載の磁気記憶素子。
(9)
前記記憶層の前記非磁性層に対して反対側の面に設けられたキャップ層をさらに備える、上記(5)に記載の磁気記憶素子。
(10)
前記領域は、前記記憶層の前記キャップ層との界面側に位置する、上記(9)に記載の磁気記憶素子。
(11)
前記記憶層と前記キャップ層との間に設けられた酸化物層をさらに備える、上記(9)又は(10)に記載の磁気記憶素子。
(12)
前記領域は、前記酸化物層と接するように位置する、上記(11)に記載の磁気記憶素子。
(13)
前記領域は前記固定層に含まれる、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の磁気記憶素子。
(14)
前記領域は、前記固定層の前記非磁性層との界面側に位置する、上記(13)に記載の磁気記憶素子。
(15)
前記領域は、前記積層構造において、膜厚が0.2nm以上、2nm以下である、上記(1)~(14)のいずれか1つに記載の磁気記憶素子。
(16)
前記非磁性層は酸化マグネシウムからなる、上記(1)~(15)のいずれか1つに記載の磁気記憶素子。
(17)
磁化方向が固定された固定層と、
磁化方向が反転可能な記憶層と、
前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、
からなる積層構造を備え、
前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、
前記固定層又は前記記憶層は、
B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を有する、
磁気ヘッド。
(18)
情報を磁性体の磁化状態により保持する複数の磁気記憶素子を備え、
前記各磁気記憶素子は、
磁化方向が固定された固定層と、
磁化方向が反転可能な記憶層と、
前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、
からなる積層構造を有し、
前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、
前記固定層又は前記記憶層は、
B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を有する、
磁気記憶装置。
(19)
情報を磁性体の磁化状態により保持する複数の磁気記憶素子を有する磁気記憶装置を備え、
前記各磁気記憶素子は、
磁化方向が固定された固定層と、
磁化方向が反転可能な記憶層と、
前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、
からなる積層構造を有し、
前記磁化方向は、前記積層構造の積層方向に沿った方向を持ち、
前記固定層又は前記記憶層は、
B、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を有する、
電子機器。
(20)
磁化方向が固定された固定層と、
磁化方向が反転可能な記憶層と、
前記固定層と前記記憶層との間に挟持された非磁性層と、
からなる積層構造を備える、磁気記憶素子の製造方法であって、
前記固定層又は前記記憶層を、
前記固定層又は前記記憶層がB、C、N、Al、Mg、及びSiからなる元素群から選択される少なくとも1つの含有元素を、30atm%以上、80atm%以下含む領域を有するように、
スパッタ法によって成膜する、
ことを含む、磁気記憶素子の製造方法。
【符号の説明】
【0144】
1 磁気記憶装置
10、10a、10b MTJ素子
20 選択トランジスタ
70 ビット線
72 ワード線
100 下地層
102 固定層
102a 磁化固定層
102b 結合層
102c 参照層
102d、106a、106b 高濃度領域
104 非磁性層
106 記憶層
108 キャップ層
200 半導体基板
202 ソース領域
204 ドレイン領域
206 素子分離層
900 電子機器
901 外筐
902 表示パネル
903、904、905 操作キー
906 接続端子
907 供給端子
908 受光窓
910 演算処理部
920 記憶部
930 制御部
931 入力受付部
933 通信処理部
935 電力制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13