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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】ポリクロメータシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/36 20060101AFI20230307BHJP
   G01J 3/06 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
G01J3/36
G01J3/06
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020529277
(86)(22)【出願日】2018-05-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 IB2018053020
(87)【国際公開番号】W WO2019106443
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】2017904837
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】ケント,ショーン
(72)【発明者】
【氏名】バック,リンゼイ
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016124980(DE,A1)
【文献】特開平07-301560(JP,A)
【文献】特開昭61-056921(JP,A)
【文献】特表2015-503764(JP,A)
【文献】特開2008-233248(JP,A)
【文献】特表2015-535342(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0262713(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 3/52
G01N 21/00 - G01N 21/61
G02B 5/18
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を画定する光学素子と、
前記開口を介して光を受光し、実質的に平行にされた光を反射するコリメーションミラーであって、該コリメーションミラーの前記反射面は、以下の式によって記述され、
【数1】
であり、ここで、zは光軸に沿った高さであり、xは前記第1の軸に沿った位置であり、yは前記第2の軸に沿った位置である、コリメーションミラーと、
前記コリメーションミラーから受光される前記実質的に平行にされた光を、異なる波長に対して異なる量だけ分散させ、第1の軸及び第2の軸に沿って離隔した光の異なる波長を有する交差分散光を提供するように各々構成された少なくとも第1の分散光学構成要素及び第2の分散光学構成要素と、
前記交差分散光を2Dアレイ検出器上に合焦させて、前記検出器の複数のそれぞれの領域において前記開口の複数の開口像を提供するように位置決めされた焦点ミラーであって、前記複数の開口像の各々は、前記交差分散光のそれぞれの波長に関連している、焦点ミラーと
を備えるポリクロメータシステムであって、
前記コリメーションミラーは、前記第1の軸及び前記第2の軸に沿った前記交差分散光の前記複数の波長にわたって、該ポリクロメータシステムの光学収差の影響を緩和し、それによって、前記第1の軸及び前記第2の軸に沿った前記複数の波長に関連した前記複数の開口像の分解能を最適化するように構成された反射面を有する自由曲面ミラーである、ポリクロメータシステム。
【請求項2】
開口を画定する光学素子と、
前記開口を介して光を受光し、実質的に平行にされた光を反射するコリメーションミラーであって、該コリメーションミラーの前記反射面は、以下の式によって記述され、
【数2】
であり、ここで、zは光軸に沿った高さであり、xは前記第1の軸に沿った位置であり、yは前記第2の軸に沿った位置である、コリメーションミラーと、
前記コリメーションミラーから受光される前記実質的に平行にされた光を、異なる波長に対して異なる量だけ分散させ、第1の軸及び第2の軸に沿って離隔した光の異なる波長を有する交差分散光を提供するように各々構成された第1の分散光学構成要素及び第2の分散光学構成要素であって、該第2の分散光学構成要素は前記第1の分散光学構成要素からの光を受光するように構成される、第1の分散光学構成要素及び第2の分散光学構成要素と、
前記第2の分散光学構成要素から受光した前記交差分散光を、2Dアレイ検出器上に合焦させて、前記検出器の複数のそれぞれの領域において前記開口の複数の開口像を提供するように位置決めされた焦点ミラーであって、前記複数の開口像の各々は、前記交差分散光のそれぞれの波長に関連している、焦点ミラーと
を備えるポリクロメータシステムであって、
前記コリメーションミラー及び前記焦点ミラーの一方又は双方は、前記第1の軸及び前記第2の軸に沿った前記交差分散光の前記複数の波長にわたって、該ポリクロメータシステムの光学収差の影響を緩和し、それによって、前記第1の軸及び前記第2の軸に沿った前記複数の波長に関連した前記複数の開口像の分解能を最適化するように構成された反射面を有する自由曲面ミラーである、ポリクロメータシステム。
【請求項3】
前記開口と前記コリメーションミラーの間に、該コリメーションミラーの反射面の面積を画定するマスクを更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記第2の光学分散素子は、前記第2の軸が前記第1の軸に対して実質的に直交するように前記第1の光学分散素子に対して方位付けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項5】
前記第1の分散光学構成要素は、前記コリメーションミラーから平行にされた光を受光し、該実質的に平行にされた光を、異なる波長に対して異なる量だけ前記第1の軸に沿って分散させて分散光を提供するように構成され、
前記第2の分散光学構成要素は、前記分散光を、異なる波長に対して異なる量だけ前記第2の軸に沿って更に分散させて前記交差分散光を提供するように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項6】
前記第1の分散光学素子は、前記光を、前記第1の軸に沿って、重なる次数を有する分散スペクトルに分離するように構成され、前記第2の分散光学素子は、前記光を、前記第2の軸に沿って、異なる次数スペクトルに分離するように構成されている、請求項1~5のいずれか1項のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項7】
前記第2の分散光学素子は、前記光を、前記第2の軸に沿って、重なる次数を有する分散スペクトルに分離するように構成され、前記第1の分散光学素子は、前記光を、前記第1の軸に沿って、異なる次数スペクトルに分離するように構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項8】
前記第1の分散光学構成要素は回折格子を含み、前記第2の分散光学構成要素はプリズムを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項9】
前記第2の分散光学構成要素は回折格子を含み、前記第1の分散光学構成要素はプリズムを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項10】
前記第1の分散光学構成要素は第1の回折格子を含み、前記第2の分散光学構成要素は第2の回折格子を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項11】
前記コリメーションミラーは自由曲面ミラーであり、前記焦点ミラーは、(i)球凹面ミラー、(ii)トーリック凹面ミラー、及び(iii)放物凹面ミラーのうちのいずれか1つである、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項12】
前記焦点ミラーは自由曲面ミラーであり、前記コリメーションミラーは、(i)球凹面ミラー、(ii)トーリック凹面ミラー、及び(iii)放物凹面ミラーのうちのいずれか1つである、請求項1、又は請求項1に直接的または間接的に従属する請求項3~10のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項13】
前記コリメーションミラー及び前記焦点ミラーの一方又は双方の前記反射面は、多項式によって記述される、請求項1~12のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項14】
前記第2の分散光学構成要素は、前記交差分散光を前記第1の分散光学構成要素に提供するように更に構成され、前記第1の分散光学構成要素は、前記波長を前記第1の軸に沿って更に分散させ、該更なる交差分散光を前記焦点ミラーに提供するように構成されている、請求項1、又は請求項1に直接的または間接的に従属する請求項3~13のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のポリクロメータシステムの自由曲面ミラーの反射面を最適化する方法であって、
(i)前記自由曲面ミラーの前記反射面のモデルを初期化することと、
(ii)光の2つ以上の波長において開口像をシミュレーションすることと、
(iii)前記ポリクロメータシステムのシミュレーションされた検出器の検出器面に対する前記開口像のロケーションを求めることと、
(iv)前記開口像が前記検出器面上に位置していないとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデルを調整して、前記反射面の形状を調整することと、
(v)前記開口像が前記検出器面上に位置しているとの判断に応じて、前記光の2つ以上の波長における前記開口像の1つ以上の特徴を求めることと、
(vi)前記開口像の前記1つ以上の特徴と基準像の1つ以上のそれぞれの特徴との比較に基づいてメリット値を計算することと、
(vii)前記メリット値が閾値を越えているとの判断に応じて、ステップ(iv)~(vi)を繰り返すことと、
(viii)前記メリット値が閾値未満であるとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面は最適化されていると判断することと
を含む方法。
【請求項16】
前記反射面の前記モデルを調整することは、前記モデルの項の1つ以上の係数を調整することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記モデルを初期化することは、前記反射面が球面ミラーを近似するように前記モデルの項の係数を選択することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記自由曲面ミラーの反射面のモデルを初期化することは、前記第1の自由曲面ミラーの第1の反射面の第1のモデルを初期化することと、前記第2の自由曲面ミラーの第2の反射面の第2のモデルを初期化することとを含み、前記反射面の前記モデルを調整することは、前記第1の反射面の前記第1のモデルの項の1つ以上の係数及び/又は前記第2の反射面の前記第2のモデルの項の1つ以上の係数を調整することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記モデルに対する所定の数の調整が行われたとの判断、及び/又は、前記シミュレーションが開始されて以降、所定の期間が経過したとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面が最適化されていると判断することを含む、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
シミュレーションモデルに従って前記ポリクロメータシステムをシミュレーションすることを更に含み、
前記シミュレーションされるモデルは、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデルと、前記ポリクロメータシステムの他の構成要素を表す1つ以上のモデルとを含む、請求項15~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記開口像のうちの少なくとも1つが前記検出器面上に位置していないとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデル及び/又はポリクロメータシステムの前記他の構成要素の前記1つ以上のモデルの自由パラメータを調整することを更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記メリット値が前記閾値を越えているとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデル及び/又は前記ポリクロメータシステムの前記他の構成要素の前記1つ以上のモデルの自由パラメータを調整することを更に含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記基準像はターゲット像を含む、請求項15~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記ターゲット像は、前記ポリクロメータシステムの前記検出器の第1の軸に沿って延びる交差分散光の複数の波長範囲列の波長分解能が最適化されているとともに、前記ポリクロメータシステムの前記検出器の第2の軸に沿った交差分散光の次数分解能が最適化されているときに前記ポリクロメータシステムによって生成される像を示す、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記光の2つ以上の波長における前記開口像の1つ以上の特徴を求めることは、
(i)前記像の1つ以上の寸法と、(ii)前記像における光の強度と、(iii)前記検出器面上の前記像のロケーションとのうちの任意の1つ以上を求めることを含む、請求項15~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
ポリクロメータシステムの自由曲面ミラーを製造する方法であって、
請求項15~25のいずれか1項に記載の方法を実行して、前記自由曲面ミラーの反射面の最適化された形状を求めることと、
前記求められた最適化形状に従って前記自由曲面ミラーを製造することと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、包括的には、ポリクロメータ又はポリクロメータシステムに関し、より具体的には、分光計又は分光法の光学系において用いられるポリクロメータ又はポリクロメータシステムに関する。本開示は、そのようなポリクロメータシステムの自由曲面ミラー(freeform mirror:フリーフォームミラー)の最適化された形状を求める方法にも関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
幾つかの実施形態は、開口を画定する光学素子と、前記開口を介して光を受光し、実質的に平行にされた光を反射するコリメーションミラーと、前記コリメーションミラーから受光される前記実質的に平行にされた光を、異なる波長に対して異なる量だけ分散させ、第1の軸及び第2の軸に沿って離隔した光の異なる波長を有する交差分散光を提供するように各々構成された少なくとも第1の分散光学構成要素及び第2の分散光学構成要素と、前記交差分散光を2Dアレイ検出器上に合焦させて、前記検出器の複数のそれぞれの領域において前記開口の複数の開口像を提供するように位置決めされた焦点ミラーであって、前記複数の開口像の各々は、前記交差分散光のそれぞれの波長に関連している、焦点ミラーとを備えるポリクロメータシステムであって、前記コリメーションミラー及び前記焦点ミラーの一方又は双方は、前記第1の軸及び前記第2の軸に沿った前記交差分散光の前記複数の波長にわたって、該ポリクロメータシステムの光学収差の影響を緩和し、それによって、前記第1の軸及び前記第2の軸に沿った前記複数の波長に関連した前記複数の開口像の分解能を最適化するように構成された反射面を有する自由曲面ミラーである、ポリクロメータシステムに関する。
【0003】
幾つかの実施形態では、前記第2の光学分散素子は、前記第2の軸が前記第1の軸に対して実質的に垂直となるように前記第1の光学分散素子に対して方位付けられている。
【0004】
幾つかの実施形態では、前記第1の分散光学構成要素は、前記コリメーションミラーから平行にされた光を受光し、該実質的に平行にされた光を、異なる波長に対して異なる量だけ前記第1の軸に沿って分散させて分散光を提供するように構成され、前記第2の分散光学構成要素は、前記分散光を、異なる波長に対して異なる量だけ前記第2の軸に沿って更に分散させて前記交差分散光を提供するように構成されている。
【0005】
幾つかの実施形態では、前記第1の分散光学素子は、前記光を、前記第1の軸に沿って、重なる次数を有する分散スペクトルに分離するように構成され、前記第2の分散光学素子は、前記光を、前記第2の軸に沿って、異なる次数スペクトルに分離するように構成されている。他の実施形態では、前記第2の分散光学素子は、前記光を、前記第2の軸に沿って、重なる次数を有する分散スペクトルに分離するように構成され、前記第1の分散光学素子は、前記光を、前記第1の軸に沿って、異なる次数スペクトルに分離するように構成されている。
【0006】
幾つかの実施形態では、前記第1の分散光学構成要素は回折格子を含み、前記第2の分散光学構成要素はプリズムを含む。他の実施形態では、前記第2の分散光学構成要素は回折格子を含み、前記第1の分散光学構成要素はプリズムを含む。他の実施形態では、前記第1の分散光学構成要素は第1の回折格子を含み、前記第2の分散光学構成要素は第2の回折格子を含む。
【0007】
幾つかの実施形態では、前記コリメーションミラーは自由曲面ミラーであり、前記焦点ミラーは、(i)球凹面ミラー、(ii)トーリック凹面ミラー(toric concave mirror)、及び(iii)放物凹面ミラーのうちのいずれか1つである。幾つかの実施形態では、前記焦点ミラーは自由曲面ミラーであり、前記コリメーションミラーは、(i)球凹面ミラー、(ii)トーリック凹面ミラー、及び(iii)放物凹面ミラーのうちのいずれか1つである。
【0008】
幾つかの実施形態では、前記コリメーションミラー及び前記焦点ミラーの一方又は双方の前記反射面は、多項式によって記述される。前記コリメーションミラーの前記反射面は、以下の式によって記述することができ、
【数1】
であり、ここで、zは光軸に沿った高さであり、xは第1の軸に沿った位置であり、yは前記第2の軸に沿った位置である。
【0009】
幾つかの実施形態では、前記第2の分散光学構成要素は、前記交差分散光を前記第1の分散光学構成要素に提供するように更に構成され、前記第1の分散光学構成要素は、前記波長を前記第1の軸に沿って更に分散させ、該更なる交差分散光を前記焦点ミラーに提供するように構成されている。
【0010】
幾つかの実施形態は、ポリクロメータシステムの自由曲面ミラーの反射面を最適化する方法であって、
(i)前記自由曲面ミラーの前記反射面のモデルを初期化することと、
(ii)光の2つ以上の波長において開口像をシミュレーションすることと、
(iii)前記ポリクロメータシステムのシミュレーションされた検出器の検出器面に対する前記開口像のロケーションを求めることと、
(iv)前記開口像が前記検出器面上に位置していないとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデルを調整して、前記反射面の形状を調整することと、
(v)前記開口像が前記検出器面上に位置しているとの判断に応じて、前記光の2つ以上の波長における前記開口像の1つ以上の特徴を求めることと、
(vi)前記開口像の前記1つ以上の特徴と基準像の1つ以上のそれぞれの特徴との比較に基づいてメリット値を計算することと、
(vii)前記メリット値が閾値を越えているとの判断に応じて、ステップ(iv)~(vi)を繰り返すことと、
(viii)前記メリット値が閾値未満であるとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面は最適化されていると判断することと
を含む方法に関する。
【0011】
幾つかの実施形態では、前記光の2つ以上の波長における前記開口像の1つ以上の特徴を求めることは、
(i)前記像の1つ以上の寸法と、(ii)前記像における光の強度と、(iii)前記検出器面上の前記像のロケーションとのうちの任意の1つ以上を求めることを含む。
【0012】
幾つかの実施形態では、前記基準像はターゲット像を含む。
【0013】
幾つかの実施形態では、前記反射面の前記モデルを調整することは、前記モデルの項の1つ以上の係数を調整することを含む。前記モデルを初期化することは、前記反射面が球面ミラーを近似するように前記モデルの項の係数を選択することを含むことができる。
【0014】
幾つかの実施形態では、前記自由曲面ミラーの反射面のモデルを初期化することは、前記第1の自由曲面ミラーの第1の反射面の第1のモデルを初期化することと、前記第2の自由曲面ミラーの第2の反射面の第2のモデルを初期化することとを含むことができ、前記反射面の前記モデルを調整することは、前記第1の反射面の前記第1のモデルの項の1つ以上の係数及び/又は前記第2の反射面の前記第2のモデルの項の1つ以上の係数を調整することを含むことができる。
【0015】
幾つかの実施形態では、前記方法は、前記モデルに対する所定の数の調整が行われたとの判断、及び/又は、前記シミュレーションが開始されて以降、所定の期間が経過したとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面が最適化されていると判断することを含む。
【0016】
幾つかの実施形態では、前記方法は、シミュレーションモデルに従って前記ポリクロメータシステムをシミュレーションすることを更に含み、前記シミュレーションされるモデルは、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデルと、前記ポリクロメータシステムの他の構成要素を表す1つ以上のモデルとを含む。
【0017】
幾つかの実施形態では、前記方法は、前記開口像のうちの少なくとも1つが前記検出器面上に位置していないとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデル及び/又はポリクロメータシステムの前記他の構成要素の前記1つ以上のモデルの自由パラメータを調整することを更に含む。前記方法は、前記メリット値が閾値未満であるとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデル及び/又は前記ポリクロメータシステムの前記他の構成要素の前記1つ以上のモデルの自由パラメータを調整することも更に含むことができる。
【0018】
幾つかの実施形態では、前記ターゲット像は、前記ポリクロメータシステムの前記検出器の第1の軸に沿って延びる交差分散光の複数の波長範囲列の波長分解能が最適化されているとともに、前記ポリクロメータシステムの前記検出器の第2の軸に沿った交差分散光の次数分解能が最適化されているときに前記ポリクロメータシステムによって生成される像を示す。
【0019】
幾つかの実施形態は、ポリクロメータシステムの自由曲面ミラーを製造する方法であって、
開示される実施形態のうちのいずれか1つの方法を実行して、前記自由曲面ミラーの反射面の最適化された形状を求めることと、
前記求められた最適化形状に従って前記自由曲面ミラーを製造することと
を含む方法に関する。
【0020】
本明細書を通して、「含んでいる、含む(comprising)」の文言、又は「含む(comprises)」若しくは「含んでいる(comprising)」等の変化形は、示される要素、整数若しくはステップ、又は要素若しくは整数若しくはステップの群を含むことを含意するが、任意の他の要素若しくは整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群を排除しないと理解される。
【0021】
本明細書に含まれている、文書、行為、材料、デバイス、物品等のいずれの議論も、これらの事物のうちの任意の又は全ての事物が、従来技術の基礎の一部を形成すること、又は、添付の請求項の各々の優先日以前に存在したために本開示に関連する分野において共通の一般的知識(common general knowledge)であることを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0022】
以下、実施形態について、以下に簡単に記載する添付図面を参照して、例として更に詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】幾つかの実施形態によるポリクロメータシステムの概略図である。
図2図1のポリクロメータシステムによって生成される複数のスペクトルの概略図である。
図3a】幾つかの実施形態によるポリクロメータシステムの上面図及び関連した光線図である。
図3b図3aのポリクロメータシステムの斜視図及び関連した光線図である。
図4a図1のポリクロメータシステムのコリメーションミラーの正面図である。
図4b図4aのコリメーションミラーの誇張された側面図である。
図5図4a及び図4bのコリメーションミラーの反射面の、球面からのずれのプロットである。
図6a図1のポリクロメータシステムによって生成される光の相対的に短い波長に関連した開口像を示す図である。
図6b】第1の軸に沿った図6aの開口像の強度プロファイルを示す図である。
図7a図1のポリクロメータシステムによって生成される光の相対的に長い波長に関連した開口像を示す図である。
図7b】第1の軸に沿った図7aの開口像の強度プロファイルを示す図である。
図8a】放物反射面を有するコリメーションミラーと、放物反射面を有する焦点ミラーとを備えるポリクロメータシステムによって生成される光の相対的に短い波長に関連した開口像である。
図8b】第1の軸に沿った図8aの開口像の強度プロファイルを示す図である。
図9a】放物反射面を有するコリメーションミラーと、放物反射面を有する焦点ミラーとを備えるポリクロメータシステムによって生成される光の相対的に長い波長に関連した開口像である。
図9b】第1の軸に沿った図9aの開口像の強度プロファイルを示す図である。
図10】幾つかの実施形態による、ポリクロメータ又はポリクロメータシステムの自由曲面ミラーの最適化された形状を求める方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
記載されている実施形態は、包括的には、ポリクロメータ又はポリクロメータシステムに関し、より具体的には、分光法の分光計光学系において用いられるポリクロメータ又はポリクロメータシステムに関する。幾つかの実施形態は、そのようなポリクロメータの自由曲面ミラーの最適化された形状を求める方法にも関する。
【0025】
化学サンプルが活性化されたときに放出する光は、通常、強度スペクトルのピーク(輝線)として見られる複数の離散的な異なる特性波長の光を含む。分光化学分析は、分光計を用いてこの放出光のスペクトルを生成及び分析することを含む。スペクトルを生成するために、分光計は、光学素子システムを用いて、異なる波長を検出器の異なる部分に分散させることができる。この光学素子システムは、例えば、分光器又はポリクロメータを備えることができる。これらの分光器及びポリクロメータは、本明細書では区別なく用いられる。ポリクロメータは、波長範囲を検出、測定及び/又は記録することができるように、入射スリット又は入射開口を通して多波長光を受け取り、プリズム及び/又は回折格子等の分散素子を用いてこの光を1つ以上の異なる波長範囲に分離し、複数の開口像を1つ以上の検出器上に合焦させる光学デバイスである。ポリクロメータは、通常、1次元又は2次元のアレイ検出器によって検出される単一の波長列を生成する。しかしながら、エシェル分光計等の非常に高い分解能の分光計は、2次元アレイ検出器を照射する複数の波長列を生成することによって、広範囲の波長の測定を検出器上で同時に可能にするように設計されている。
【0026】
一方、ポリクロメータは、多くの光学系と同様に、コマ収差及び球面収差等の光学収差を欠点として有する傾向がある。検出器の中心に向けて(すなわち、理想的な光線経路軸に沿って)合焦される波長については、適度な精度の開口像を検出器上に投影することができるが、収差の結果、検出器の中心から離れて合焦される波長については、より多くの光学的歪み又は光学的スメアを有する開口像(光パッチ)が実現される。そのような光学収差の結果、多くの既存のポリクロメータは、必要とされるスペクトル分解能を達成するために、長い焦点距離及び高いF数を有する。したがって、従来のミラー形状によると、ポリクロメータを小さくすることができる範囲が、光学収差の許容できる範囲に制限される傾向がある。
【0027】
一方、歪んだ開口像に関連した光パッチは、検出器面のX軸(波長軸)及びY軸(次数軸)の双方に沿って拡散する傾向があり、これが不十分な分解能の一因になることが本発明者らによって認識されている。特に、光パッチは、X軸に沿って延びる交差分散光の複数の波長範囲列を含み、光はこれらの列に沿って拡散する(不十分な波長分解能の一因になる)とともに、これらの列に直交してY軸に沿って拡散する(不十分な次数分解能の一因になる)。したがって、検出器が複数の検出ピクセルラインを備え、各ラインがそれぞれの波長範囲列に対応するように配置されている場合、光は、検出器のピクセル列の各ピクセルの上部(top)及び下部(bottom)から抜け落ちる(fall off)場合があり、光がY軸に沿って拡散したときは別の次数列からの光と重なり合う場合がある。
【0028】
記載されている実施形態は、ポリクロメータシステムの光学収差の影響を緩和するように構成された反射面を有する少なくとも1つの自由曲面ミラーを備えるポリクロメータシステム及びポリクロメータシステムを設計する方法に関する。例えば、このポリクロメータシステムのコリメーションミラー及び焦点ミラーの一方又は双方は、自由曲面ミラーを含むことができる。幾つかの実施形態では、少なくとも1つの自由曲面ミラーは、交差分散光の複数の波長範囲列の波長分解能を最適化するように構成されている。各列は、ポリクロメータシステムの検出器の第1の軸に沿って延びる。幾つかの実施形態では、少なくとも1つの自由曲面ミラーは、ポリクロメータシステムの検出器の第2の軸に沿った交差分散光の次数分解能を最適化するように更に構成されている。第2の軸は、第1の軸に直交するものとすることができる。
【0029】
より詳細には、ポリクロメータシステムのコリメーションミラー及び焦点ミラーのいずれか又は双方の自由曲面ミラーの反射面は、生成される開口像の分解能を検出器のX軸及びY軸の双方に沿って最適化するように構成又は成形することができる。したがって、検出器のより小さなエリア(例えば、光検出ピクセル)上でより多くの光を捕捉することができ、それによって、ポリクロメータシステムの感度、及び、記載されているポリクロメータシステムを備える分光計等の機器の感度を高めることができる。例えば、少ない光ほど、ピクセル上により密に合焦されるので、検出器のピクセルの各々の上部及び下部から抜け落ちる。さらに、次数間の重なり(すなわち、或る波長列からの光が近傍の波長列上に拡散する)が削減され、それによって、波長の誤検出の可能性が軽減される。ピクセル上に合焦される光の量を増加させることによって、信号対雑音比が増加され、機器の検出限界が改善される。さらに、そのような感度の増大は、異なる波長におけるピークからの重なり又は異なる次数のスペクトルからの重なり(次数間干渉)等のスペクトル干渉を解決する能力が改善されたポリクロメータシステム及び/又は分光計を提供することができることを意味する。
【0030】
図1を参照すると、幾つかの実施形態による分光法のポリクロメータ又はポリクロメータシステム100が示されている。ポリクロメータシステム100は、開口111を画定する光学素子110と、コリメーションミラー120と、第1の軸(図示せず)に沿って光の異なる波長を分散させるように構成された第1の分散光学素子130と、第1の軸と異なる第2の軸(図示せず)に沿って光の異なる波長を分散させるように構成された第2の分散光学素子132と、焦点ミラー140とを備える。幾つかの実施形態では、ポリクロメータシステム100は、検出器面151を有する検出器150を更に備える。
【0031】
光学素子110は、光源101からの光が開口111を通って進むことができるように光源101に対して配置されている。
【0032】
コリメーションミラー120は、光源101において生成された光102を開口111を介して受光し、実質的に平行にされた光を反射するように光学素子110に対して位置決めされている。幾つかの実施形態では、コリメーションミラー120は、中心軸(図示せず)の回りに回転非対称とすることができる反射面121を備える。したがって、コリメーションミラー120は、自由曲面ミラーを含むことができる。
【0033】
幾つかの実施形態では、コリメーションミラー120は、例えば、反射面121の前方に位置決めされたマスク(図3aの322)に関連付けられている。マスク322は、コリメーションミラー120によって受光される光102の入射角を制限するマスク開口(図示せず)を画定する。コリメーションミラー120及び第1の分散光学素子130は、第1の分散光学素子130がコリメーションミラー120によって反射された光103を受光することができるように互いに位置決めされている。マスク322は、コリメーションミラー120の反射面121の面積に影響を及ぼすことによって、開口像における光の強度に影響を及ぼすことができ、ポリクロメータシステムの光学収差に影響を与えることができる。マスク開口が小さいほど、反射面121の面積はより小さくなり、これによって、より大きなマスク開口が用いられた場合と比較して、全体的な曲率をより小さくすることができる。したがって、全体的な曲率を小さくすることによって、光学収差を低減することができる。
【0034】
第1の分散光学素子130は、第1の軸に沿って光103を分散させ、分散光104を提供するように構成されている。幾つかの実施形態では、第1の分散光学素子130は、異なる波長に対して異なる量だけ光の角度を変化させるように構成されている。分散光104は、実質的に平行にすることができる。すなわち、第1の分散光学素子130は、コリメーションミラーによって反射された光103のコリメーションに実質的に影響を及ぼすことなく、異なる波長に対して異なる量だけ光の角度を変化させることができる。第1の分散光学素子130及び第2の分散光学素子132は、第2の分散光学素子132が第1の分散光学素子130からの分散光104を受光することができるように互いに位置決めされている。
【0035】
第2の分散光学素子132は、受光された分散光104を第2の軸(図示せず)に沿って交差分散させ、第1の軸及び第2の軸に沿って離隔した交差分散光105を提供するように構成されている。例えば、第2の分散光学素子132は、受光された分散光104を、分散光104が第1の分散光学素子130によって分散された方向と名目上(nominally)「交差」する異なる方向に分散させるように構成することができる。幾つかの実施形態では、第2の分散光学素子132は、受光された分散光104の角度を、異なる波長に対して異なる量だけ変化させるように構成されている。交差分散光105は、実質的に平行にすることができる。すなわち、第2の分散光学素子132は、第1の分散光学素子130から受光された分散光104のコリメーションに実質的に影響を及ぼすことなく、異なる波長に対して異なる量だけ光の角度を変化させることができる。幾つかの実施形態では、第1の軸及び第2の軸は互いに直行する。例えば、第2の分散光学素子132は、第1の軸及び第2の軸が互いに実質的に直行するように第1の分散光学素子130に対して方位付けることができる。
【0036】
このように、幾つかの実施形態では、第1の分散光学素子130が、重なる次数を有する分散スペクトルに光を分離し、第2の分散光学素子132が、この光を、第2の軸に沿って異なる次数スペクトルに分離する。一方、他の実施形態では、第2の分散光学素子132が、第1の軸に沿って重なる次数を有する分散スペクトルに光を分離し、第1の分散光学素子130が、この光を第2の軸に沿って異なる次数スペクトルに分離する。例えば、第1の分散光学素子130は、第2の軸(次数軸)に沿って光103を分散させるように構成することができ、第2の分散光学素子132は、分散光104を第1の軸(波長軸に沿って分散させて交差分散光105を提供するように構成することができる。
【0037】
第1の分散光学素子130又は第2の分散光学素子132のいずれかが、分散されるが重なるスペクトルを生成し、第1の分散光学素子130及び第2の分散光学素子132の他方が、それらの重なりを異なる方向(例えば、第2の軸)に分離する。
【0038】
図1を再度参照すると、焦点ミラー140及び第2の分散光学素子132は、焦点ミラー140が交差分散光105を受光することができるように互いに位置決めされている。
【0039】
図3a及び図3bに示すように、幾つかの実施形態では、交差分散光105を第2の分散光学素子132から第1の分散光学素子130に更に提供し、波長を第1の軸に沿って更に分散させるように、第2の分散光学素子132及び第1の分散光学素子130が互いに位置決めされる。この実施形態では、第1の分散光学素子130は、その後、更なる交差分散光を焦点ミラー140に提供する。
【0040】
幾つかの実施形態では、第1の分散光学素子130又は第2の分散光学素子132は、屈折の結果として光の異なる波長を分散させる。例えば、第1の分散光学素子130又は第2の分散光学素子132は、プリズムを含むことができる。プリズムは、光の可視波長を分散させる石英ガラスから形成することができる。分光法の対象となる波長が紫外線波長及び/又は赤外線波長を含む場合には、例えば、フッ化カルシウム(CaF)又はフッ化バリウム(BaF)からプリズムを製造することができる。
【0041】
幾つかの実施形態では、第1の分散光学素子130又は第2の分散光学素子132は、回折の結果として光の異なる波長又は別々の波長を分散させる。例えば、第1の分散光学素子130又は第2の分散光学素子132は、エシェル格子等の回折格子を含むことができる。エシェル格子は、相対的に大きな入射角の回折に最適化された相対的に低密度の格子線を備えることができる。
【0042】
幾つかの実施形態では、第1の分散光学素子130及び/又は第2の分散光学素子132は、複数のプリズム又は回折格子を含むことができる。
【0043】
図2に示すように、第1の分散光学素子130及び第2の分散光学素子132は、コリメータ120から受光された光103を、検出器150内に投影される異なる波長範囲を有する1つ以上のスペクトル260に効果的に分離する。例えば、図2に示すように、第2の分散光学素子132及び第1の分散光学素子130は、複数のスペクトル260の各スペクトル261が第2の軸272に沿って互いに分離されるとともに、各スペクトル261内の波長が第1の軸271に沿って分離されるように方位付けることができる。各スペクトル261は、異なる回折次数によって特徴付けることができる。
【0044】
焦点ミラー140は、交差分散光105を反射して合焦させるとともに、合焦光106を検出器150に提供するように構成されている。幾つかの実施形態では、焦点ミラー140は、交差分散光105を検出器150の検出器面151上に合焦させて、複数のスペクトル260を提供するように構成されている。幾つかの実施形態では、検出器150は、検出器面151が焦点ミラー140の焦平面に位置付けられるように焦点ミラー140に対して位置決めされている。幾つかの実施形態では、検出器面151は、第1の軸及び第2の軸に沿って延在する。
【0045】
幾つかの実施形態では、焦点ミラー140は、凹面かつ放物面である反射面141を備える。他の実施形態では、焦点ミラー140は、凹面かつ球面である反射面141を備える。他の実施形態では、焦点ミラー140は、凹面かつトーリックである反射面141を備える。幾つかの実施形態では、焦点ミラー140は自由曲面ミラーである。幾つかの実施形態では、焦点ミラー140は、球面焦点ミラーを含む。有利には、球面焦点ミラーは、X-Y位置決め誤差の影響を受けにくく、この誤差は、焦点ミラーを、設計された必要な球曲面位置と一致するように傾ける又は斜めにするすることによって補正することができ、それによって、製造及び調整を比較的容易にすることができる。球面焦点ミラーの更なる利点は、半径許容誤差の影響を受けにくいということである。なぜならば、これらの誤差は、ミラーを設計された球曲面位置と一致するように検出器に対して接近又は離遠させることによって補正することができるからである。これによって、焦点ミラーを比較的安価にすることができる。
【0046】
したがって、幾つかの実施形態では、焦点ミラー140及びコリメートミラー120の一方又は双方は自由曲面ミラーである。幾つかの実施形態では、コリメートミラー120の反射面121は、球凹面ミラー又は放物凹面ミラー又はトーリック凹面ミラーを備え、焦点ミラー140は自由曲面ミラーである。幾つかの実施形態では、焦点ミラー140の反射面141は、球凹面ミラー又は放物凹面ミラー又はトーリック凹面ミラーを備え、コリメートミラー120は自由曲面ミラーである。幾つかの実施形態では、コリメートミラー120及び焦点ミラー140の双方が自由曲面ミラーである。
【0047】
図1図3a及び図3bを参照すると、使用中、光学素子110の開口111を通ってシステム100に入る光源101からの光は、コリメーションミラー120によって平行又は実質的に平行にされる。第1の分散光学素子130及び第2の分散光学素子132は、この平行にされた光を、異なる波長に対して異なる量だけ屈曲又は分散させて交差分散光105を生成し、焦点ミラー140は、交差分散光105を検出器150の検出器面151上に合焦させて、光学素子110の開口111の像を各波長の光のパッチとして生成する。例えば、システム100によって受光される光の第1の波長は、検出器面151のそれぞれの第1のエリア352上に合焦させることができ、システム100によって受光される光の第2の波長は、検出器面151のそれぞれの第2のエリア353上に合焦させることができる。
【0048】
ポリクロメータシステム100は、理想的な光軸上をシステムの長手に進み、検出器面151の幾何学的中心に開口像として合焦されるように配置することができる単一の離散的な波長を有する。他の全ての波長の開口像は、検出器面151の中心からオフセットされる。理想的な光軸に相対的に近接してシステム100内を進む波長の場合、第1の分散光学素子130及び第2の分散光学素子132の屈折角及び回折角は、それぞれ相対的に小さい。したがって、理想的な光軸に相対的に近接した波長を反射し合焦させるのに用いられる焦点ミラー140の領域は、互いに、及び/又は、理想的な光軸上の波長を反射し合焦させるのに用いられる焦点ミラー140の領域と実質的に重なる。システム100内を進むあらゆる波長は、合焦した状態の実質的に収差がない開口像を検出器面151上に生成する異なる(微妙にしか異ならない場合もあるが)焦点ミラー形状要件を有し、焦点ミラー140によって受光されるあらゆる波長からの光105の全ての異なる入射角に同時に適切であるとすることができる数学的に完全な解は存在しない。したがって、理想的な光軸経路に従う波長からの光は、相対的に合焦された開口像652(図6a)を検出器面151上に生成することができるが、他の波長に関連した開口像は、合焦度が低下した開口像又はピンぼけの開口像又は収差を有する開口像を生成する場合がある。その結果、焦点ミラー140によって反射された光は、光学収差を欠点として有する場合がある。さらに、複数の異なる波長の各々における光学収差は、異なる波長が焦点ミラー140の異なる領域によって反射される結果、変化し得る。したがって、ポリクロメータシステム100を備える分光計の分解能は、異なる波長範囲にわたって変化する場合がある。
【0049】
ポリクロメータシステム100の分解能は、光の異なる波長を、検出器面151の異なるエリア上に投影される光として互いにどの程度良好に区別(分解)することができるのかによって部分的に決まり、したがって、複数の異なる波長の各々の光の光学収差に依存する。相対的に低い光学収差を有するポリクロメータシステム100は、検出器面151上に投影される開口像の隣接するエリアを明確に分離することによって相対的に高い分解能の分光法を実施することを可能にするのに有利である。波長の分散は、それによって、隣接する波長の検出光(輝線)を区別することを支援する。不十分な分解能は、或る輝線を近傍の輝線又はそれ以外の近い輝線から分離又は区別する能力に影響を及ぼす。不十分な分解能は、輝線の検出限界も低下させる場合がある。なぜならば、輝線からの光エネルギーは、検出器ピクセルのより大きな範囲にわたって拡散され、輝線のピーク強度(又は信号対雑音)が減少するからである。
【0050】
幾つかの実施形態では、ポリクロメータシステム100のコリメーションミラー120は、コリメーションミラー120、焦点ミラー140及び/又はポリクロメータシステム100の他の任意の構成要素等のポリクロメータシステム100の光学収差の影響を緩和するように構成された反射面を有する自由曲面ミラーを含む。例えば、コリメーションミラー120は、焦点ミラー140の球面収差等の光学収差のうちの少なくとも幾つかを事前に補正し、それによって、より合焦度の高い開口像を検出器上に投影することを可能にするように構成することができる。幾つかの実施形態では、コリメーションミラー120の反射面121は、形状が非放物面かつ非球面である中心軸423を通る断面(図4b)を有する。幾つかの実施形態では、コリメーションミラー120の反射面121は、開口111から受光される光102のコリメーションを最適化するように成形される。反射面121の最適化された形状は、光軸(図示せず)から軸外の光102のコリメートを支援することができる。
【0051】
幾つかの実施形態では、ポリクロメータシステム100の焦点ミラー140は、コリメーションミラー120、焦点ミラー140及び/又はポリクロメータシステム100の他の任意の構成要素等のポリクロメータシステム100の光学収差の影響を緩和するように構成された反射面を有する自由曲面ミラーを含む。
【0052】
特に、コリメーションミラー120及び/又は焦点ミラー140の自由曲面ミラーの反射面は、第1の軸及び第2の軸に沿った交差分散光の複数の波長にわたってポリクロメータシステムの光学収差の影響を緩和し、それによって、第1の軸及び第2の軸の双方に沿った複数の波長に関連した複数の開口像の分解能を最適化するように構成又は成形される。したがって、記載されているポリクロメータシステム100を用いることによって、ピクセルごとにより多くの光を検出器150によって捕捉することができ、それによって、ポリクロメータシステム100の感度を高めることができ、したがって、記載されているポリクロメータシステム100を備える分光計等の機器の感度を高めることができる。少ない光ほど、検出器上の各ピクセルアレイの上部ピクセル及び下部ピクセルから抜け落ちる傾向があり、それによって、例えば、信号対雑音比を高めることによって、ピクセル上に合焦される光の量が増加し、したがって、検出限界が改善される。
【0053】
このように、記載されている実施形態は、コリメーションミラー及び焦点ミラーの一方又は双方が、第1の軸及び第2の軸に沿った交差分散光の複数の波長にわたってポリクロメータシステムの光学収差の影響を緩和し、それによって、第1の軸及び第2の軸に沿った複数の波長に関連した複数の開口像の分解能を最適化するように構成された反射面を有する自由曲面ミラーである、ポリクロメータシステムに関する。
【0054】
幾つかの場合には、波長範囲全体にわたってポリクロメータシステム100の分解能を改善又は最適化することが可能でない場合がある。それでもなお、波長範囲の幾つかの部分範囲又は特定の波長は、他のものよりも重要である場合がある。したがって、コリメーションミラー120及び/又は焦点ミラー140は、選択された部分範囲又は特定の波長の分解能を改善するように成形することができる。分解能に対するコリメーションミラー120の影響については、以下の例によって更に論述する。
【0055】
図5を参照すると、中心軸423を中心とする球面からのコリメーションミラー120の反射面121のずれの一例示のプロットが示されている。このずれは、中心軸423の回りに非対称である表面580によって表されている。図示するように、表面580は、実質的に鞍形であり、任意の所与の点における球面からのずれのサイズは、20ミクロンまでとすることができる。したがって、反射面121は、肉眼では球面ミラーと区別不能とすることができる。ただし、他の実施形態では、球面からのずれは20ミクロンよりも大きくすることができることが理解されるであろう。
【0056】
図5のコリメーションミラー120の反射面121は、反射面121の位置座標x、y及び高さ座標zの間の関係を表す多項式関数によって記述される。ただし、コリメーションミラー120の反射面121及び/又は焦点ミラー140の反射面141は、従来のX-Y多項式、ゼルニケ(Zernike)多項式、Q多項式、チェビシェフ(Chebyshev)多項式、ルジャンドル(Legendre)多項式、フォーブズ(Forbes)多項式、又は他の任意の適した数学モデルを用いて規定することができることが理解されるであろう。
【0057】
1つの実施形態では、多項式関数は、以下の形を取ることができる。
【数2】
であり、ここで、zは光軸に沿った高さであり、xは第1の軸371に沿った位置であり、yは第2の軸372に沿った位置である。この多項式関数の適した係数の一例を以下の表1に具体的に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
幾つかの実施形態は、ポリクロメータシステム100の1つ以上のそれぞれの自由曲面ミラーの1つ以上の反射面の最適化された形状を求める方法1000に関する。例えば、自由曲面ミラーは、ポリクロメータシステム100のコリメーションミラー120及び/又は焦点ミラー140として用いることができる。
【0060】
幾つかの実施形態では、方法1000は、コンピューティングシステム(図示せず)によって実施されるコンピュータ実施方法とすることができる。例えば、このコンピューティングシステム(図示せず)は、プロセッサ(図示せず)と、このプロセッサによって実行されるとコンピューティングシステムに方法1000を実行させるコンピュータコード又は命令を含むメモリ(図示せず)とを備えることができる。
【0061】
方法1000は、ポリクロメータシステム100の数学モデルに従ってポリクロメータシステム100をシミュレーションすることを含む。ポリクロメータシステム100のモデルは、自由曲面ミラーの反射面のモデルと、ポリクロメータシステム100の他の構成要素を表す1つ以上のモデルとを含むことができる。例えば、ポリクロメータシステム100は、Zemax, LLC社によるOpticsStudio(登録商標)16等の光学シミュレーションプログラムを用いてシミュレーションすることができる。
【0062】
一般に、方法1000は、自由曲面ミラーの反射面を表すモデルの係数と、自由曲面ミラーを含むことができるポリクロメータシステムの構成要素のうちの少なくとも幾つかの自由パラメータとを徐々に調整して、自由曲面ミラーの表面及び位置を最適化し、それによって、光学収差の影響及び/又は像歪みを低減する。特に、幾つかの実施形態では、本方法は、自由曲面ミラーが、各列がポリクロメータシステムの検出器の第1の軸に沿って延びる交差分散光の複数の波長範囲列の波長分解能を最適化するとともに、ポリクロメータシステムの検出器の第2の軸に沿った交差分散光の次数分解能を最適化するように構成されるように、ポリクロメータシステムの自由曲面ミラーの最適化された形状を提供する。
【0063】
方法1000は、1010において、自由曲面ミラーの反射面の数学モデル等のモデルを初期化することを含む。幾つかの実施形態では、自由曲面ミラーの反射面を初期化することは、反射面が球面ミラーを近似するように、数学モデルにおける項の係数の値を選択することを含む。幾つかの実施形態では、数学モデルは、低次項及び1つ以上の高次項を含む多項式関数である。多項式関数の低次項によってベース曲率(base curvature)及び/又は円錐定数を定義することができる。シミュレーションの反射面を初期化することは、高次項についてゼロ値の係数を割り当てることを含むことができる。
【0064】
ポリクロメータシステム100が、例えば、コリメータ及び焦点ミラーにそれぞれ対応する2つの自由曲面ミラーを備える幾つかの実施形態では、本方法は、1010において、第1の自由曲面ミラー(コリメータとして用いられる)の第1の反射面の第1のモデルを初期化することと、第2の自由曲面ミラー(焦点ミラーとして用いられる)の第2の反射面の第2のモデルを初期化することとを含む。
【0065】
方法1000は、1020において、光の2つ以上の波長の各々の開口像をシミュレーションすることを更に含む。
【0066】
1030において、方法1000は、光の波長のうちの2つ以上の各々の開口像のロケーションを求めることを含む。
【0067】
1035において、本方法は、光の2つ以上の波長の(シミュレーションされた)開口像のロケーションが検出器面151上に位置しているか否かを判断することを含む。したがって、開口像のロケーションは、シミュレーションされたポリクロメータシステムにおける検出器150の検出器面151に対して求められる。
【0068】
1040において、光の2つ以上の波長の開口像のロケーションが検出器面151上に位置していないとの判断に応じて、反射面の形状(又は曲率)を調整するために、自由曲面ミラーの反射面のモデルが調整される。幾つかの実施形態では、自由曲面ミラーの反射面のモデルを調整することは、モデルの項の1つ以上の係数を調整することを含む。例えば、多項式関数の高次項のうちの1つ以上を変更して、コリメータ又は焦点ミラーとしての使用に適した反射面を近似することができる。2つの自由曲面ミラーが最適化されている実施形態では、自由曲面ミラーの反射面のモデルを調整することは、第1の反射面の第1のモデルの1つ以上の係数及び/又は第2の反射面の第2のモデルの1つ以上の係数を調整することを含む。
【0069】
幾つかの実施形態では、本方法は、開口像のうちの少なくとも1つが検出器面151上に位置していないとの判断に応じて、1045において、他の光学構成要素の互いに対する及び/又は自由曲面ミラーに対する回転及び変位等の、ポリクロメータシステムの構成要素のうちの少なくとも幾つかの自由パラメータを調整することを含む。
【0070】
1050において、光の2つ以上の波長の(シミュレーションされた)開口像のロケーションが検出器上に位置しているとの判断に応じて、光の2つ以上の波長の開口像の特性又は特徴が求められる。これらの特性又は特徴は、開口像の1つ以上の寸法、開口像における光の強度、及び検出器面151上の開口像のロケーションのうちの任意の1つ以上を含むことができる。
【0071】
例えば、1つ以上の寸法は、第1の軸371及び第2の軸372の一方又は双方にわたる開口像の半値全幅強度(FWHM:Full-Width at Half Maximum intensity)を含むことができる。例えば、台形開口111の場合、開口像は、幅が約25ミクロン及び高さが約50ミクロンの方形として成形することができる。
【0072】
1060において、本方法は、求められた特性又は特徴をターゲット像又は基準像の対応する特性又は特徴と比較することに基づいて、メリット関数に従ってメリット値を計算することを含む。
【0073】
幾つかの実施形態では、メリット関数は、シミュレーションされた開口像の求められた寸法とターゲット像の寸法との比較によって定義される。例えば、シミュレーションされた開口像の寸法(複数の場合もある)が、倍率によって拡大縮小されたターゲット像の寸法(複数の場合もある)に近いほど、メリット値を削減することができる。この倍率は、ポリクロメータシステム100が、開口111に対して開口像の寸法を拡大縮小する1つ以上のパワードミラー(powered mirror)を備えることを表す。幾つかの実施形態では、倍率の値は1とすることができ、その場合、開口像の寸法は開口111の寸法と一致する。
【0074】
メリット値は、シミュレーションされた開口像の寸法とターゲット像の寸法との間の差の尺度とすることができる。例えば、メリット値は、1つ又は2つの軸にわたるシミュレーションされた開口像のFWHMとターゲット像のFWHMとの間の差の尺度とすることができる。或いは、メリット値は、1つ又は2つの軸にわたるシミュレーションされた開口像のFWHMとターゲット像のFWHMとの間の比の尺度とすることができる。
【0075】
幾つかの実施形態では、メリット関数は、開口像内に含まれるシミュレーションされた強度とターゲット像の強度との比較によって定義される。例えば、シミュレーションされた開口強度が像の強度値に近いほど、メリット値を削減することができる。メリット値は、シミュレーションされた開口像強度とターゲット像強度との間の差の尺度、又は、シミュレーションされた開口像パワー(power)とターゲット像との間の差の尺度とすることができる。或いは、メリット値は、シミュレーションされた開口像強度とターゲット像強度との間の比の尺度とすることができる。
【0076】
幾つかの実施形態では、メリット関数は、2つ以上の波長のシミュレーションされた開口ロケーションとこれらの2つ以上の波長のターゲット像ロケーションとの比較によって定義される。例えば、例えば、シミュレーションされた開口像のロケーションがターゲット像のロケーションに近いほど、メリット値を削減することができる。メリット値は、シミュレーションされた開口像ロケーションとターゲット像ロケーションとの間の差の尺度とすることができる。例えば、メリット値は、1つ又は2つの寸法にわたるシミュレーションされた開口像の像ロケーションとターゲット像の像ロケーションとの間の差の尺度とすることができる。或いは、メリット値は、1つ又は2つの寸法にわたるシミュレーションされた開口像の像ロケーションとターゲット像の像ロケーションとの間の比の尺度とすることができる。
【0077】
幾つかの実施形態では、ターゲット像は、ポリクロメータシステム100を用いて検出器上に生成される所望の開口像の寸法を表す。例えば、ターゲット像は、ポリクロメータシステムの検出器の第1の軸371に沿って延びる交差分散光の複数の波長範囲列の波長分解能が最適化されているとともに、ポリクロメータシステムの検出器の第2の軸372に沿った交差分散光の次数分解能が最適化されているときにポリクロメータシステムによって生成される像を示すことができる。ターゲット像は、光学収差及び/又は像歪みが存在しない場合、又は、光学収差及び/又は像歪みの量が理論上最小である場合の理論上の開口像を表すことができる。
【0078】
幾つかの実施形態では、メリット関数は、シミュレーションされた開口像と基準像との比較に基づいている。この基準像は、初期化されたモデルのシミュレーションされた開口像とすることができる。メリット関数は、例えば、シミュレーションされた開口像の寸法(複数の場合もある)が基準像の寸法(複数の場合もある)と比較して削減されるときにメリット値が削減されるように、シミュレーションされた開口像と基準像との比較によって定義することができる。幾つかの実施形態では、シミュレーションされた開口像の強度が、基準像のそれぞれの強度と比較して増加されるときに、メリット値を削減することができる。幾つかの実施形態では、シミュレーションされた開口像のロケーションが基準像のロケーションにより近いとき、メリット値を削減することができる。
【0079】
幾つかの実施形態では、基準像は動的な像であり、方法1000は、特定の方法で基準像の特性又は特徴を調整して自由曲面ミラーを適応させ又はカスタマイズすることを含むことができる。例えば、UV波長が可視波長よりも重要であると判断された場合、方法100は、基準像の特性又は特徴を調整して、可視波長に対する自由曲面ミラーの応答特性を犠牲にしてUV波長に対する自由曲面ミラーの改善された応答を示す基準像を生成することを含むことができる。
【0080】
1065において、本方法は、メリット値を閾値と比較することを含む。幾つかの実施形態では、この比較は、メリット値が閾値よりも大きいか否かを判断することを含む。
【0081】
メリット値が閾値よりも大きいことに応じて、方法1000は、1040において、自由曲面ミラーの反射面のモデルの係数を再度調整して反射面の形状(又は曲率)を調整すること、及び/又は、1045において、ポリクロメータシステム内の構成要素(自由曲面ミラー(複数の場合もある)を含むことができる)のうちの少なくとも幾つかの追加の自由パラメータを調整することを含む。幾つかの実施形態では、メリット値が閾値に等しい場合には、モデル及び/又は追加の自由パラメータは調整される。
【0082】
1080において、メリット値が閾値未満であることに応じて、方法1000は、自由曲面ミラーの反射面の形状が最適化されていると判断することを含む。幾つかの実施形態では、メリット値が閾値に等しい場合には、形状は最適化されていると判断される。
【0083】
幾つかの実施形態では、例えば、シミュレーションが開始されてから所定の期間が経過した後及び/又は所定の数の調整が行われた後に、自由曲面ミラーのモデルの係数に対する調整及び/又はポリクロメータシステム100の少なくとも幾つかの自由パラメータに対する調整が、メリット値を閾値又は目標値未満に更に削減するには効果的でないことに応じて、方法1000は、自由曲面ミラーの反射面がポリクロメータシステム100に対して最適化されていると判断することを含む。例えば、自由曲面ミラーのモデルに対する更なる調整が、メリット値を更に削減するには実質的に効果的でなく、メリット値が収束したと判断することができ、モデルが、開口像上の光学収差及び/又は像歪みの影響が初期化された自由曲面ミラー(複数の場合もある)と比較して削減されている局所的に最適化された自由曲面ミラーを表すと判断することができる。
【0084】
幾つかの実施形態は、ポリクロメータシステムの自由曲面ミラーの反射面の最適化された形状を求める方法1000を実行することと、求められた最適化形状に従って自由曲面ミラーを製造することとを含む、ポリクロメータシステム100の自由曲面ミラーを製造する方法に関する。
【0085】
図6a及び図6b並びに図7a及び図7bを参照すると、検出器150の検出器面151のそれぞれのエリア352、353上に投影された開口像の例652、753と、関連した強度プロファイルとが示されている。開口像は、Zemax, LLC社によるOpticsStudio(登録商標)16等の光学シミュレーションソフトウェアを用いてミュレーションされたものである。
【0086】
図6a及び図6bを参照すると、開口像652は、システム100を用いて約213.857nmの波長を有する光についてシミュレーションされたものである。光学素子110は台形開口111を備え、コリメーションミラー120は、表1における係数に従って多項式によって記述される反射面121を備え、焦点ミラー140は球形反射面141を備える。
【0087】
開口像は、検出器面151上に投影された、システム100の光学素子110の台形開口111の像である。開口像の形状は、例えば、球面焦点ミラー140に起因した球面収差及び/又は第1の分散光学素子130及び第2の分散光学素子132に起因した像せん断(image shearing)等のシステム100の光学収差及び/又は像歪みに起因して、開口111の台形形状の正確な複製ではない。開口111の台形形状の角度は、検出器150において方形の成形像を生成するシステム100のせん断歪みと一致するように設計されたものである。シミュレーションは、約213.857nm波長の光について、第1の軸371に沿って開口像の中心を通る光強度プロファイル690の半値全幅(FWHM)692が、システム100が放物反射面を有するコリメーションミラー120と、放物反射面を有する焦点ミラーとを備える場合に生成される開口像852(図8a)の中心を通る光強度プロファイル890(図8b)のシミュレーションされたFWHM892と類似していることを示している。例えば、2つのFWHMの間の差は、約3%の場合がある。一方、第2の軸372に沿った開口像の中心を通る光強度プロファイルのFWHMは、システム100が放物反射面を有するコリメーションミラー120と、放物反射面を有する焦点ミラー140とを備える場合に生成されるシミュレーションされたFWHMよりも約30%小さい。幾つかの実施形態では、第2の軸372に沿った開口像の中心を通る213.857nmにおける光強度プロファイルのFWHMは、システム100が放物反射面を有するコリメーションミラー120と、放物反射面を有する焦点ミラー140とを備える場合に生成されるシミュレーションされたFWHMよりも約35%小さい。
【0088】
図7a及び図7bを参照すると、開口像753は、システム100を用いて約766.491nmの波長を有する光についてシミュレーションされたものである。光学素子110は台形開口111を備え、コリメーションミラー120は、表1における係数に従って多項式によって記述される反射面121を備え、焦点ミラー140は球形反射面141を備える。
【0089】
開口像753は、システム100の理想的な光軸(図示せず)から離れて検出器面151上に投影された、ポリクロメータシステムの光学素子110の台形開口111の像に対応する。開口像753の形状は、コマ収差等の光学収差に起因して、開口111の台形形状ではない。一方、シミュレーションは、約766.491nm波長の光について、第1の軸371に沿った開口像753の中心を通る光強度プロファイル790の半値全幅(FWHM)792が、システム100が放物反射面を有するコリメーションミラー120と、放物反射面を有する焦点ミラーとを備えるときに生成される開口像953(図9a)の中心を通る光強度プロファイル990(図9b)のシミュレーションされたFWHM992よりも小さいことを示している。例えば、2つのFWHMの間の差は、約25%の場合がある。第2の軸372に沿った開口像の中心を通る光強度プロファイルのFWHMは、システム100が放物反射面を有するコリメーションミラー120と、放物反射面を有する焦点ミラー140とを備える場合に生成されるシミュレーションされたFWHMよりも約25%小さい。幾つかの実施形態では、第2の軸372に沿った開口像の中心を通る766.491nmにおける光強度プロファイルのFWHMは、システム100が放物反射面を有するコリメーションミラー120と、放物反射面を有する焦点ミラー140とを備える場合に生成されるシミュレーションされたFWHMよりも約3%小さい。
【0090】
コリメーションミラー120の反射面121の形状及び/又は自由曲面焦点ミラー140の反射面141の形状は、所定の波長範囲にわたる可能な限り多くの波長にわたってシステム100の分解能を高めるように最適化することができる。例えば、波長範囲は、165nm~800nmとすることができる。
【0091】
コリメーションミラー120の反射面121の形状及び/又は焦点ミラー140の反射面141の形状を最適化することによってシステム100の分解能を高めることにより、検出器150によって検出される光の強度を高めることができ、それによって、ポリクロメータシステム100を備える分光計の信号対雑音及び検出効率を高めることができる。光学素子110の開口111のサイズを削減することによっても、ポリクロメータシステム100の分解能を高めることができるが、光強度も減少され、したがって、信号対雑音比も低減され得る。
【0092】
自由曲面コリメーションミラー120及び/又は自由曲面焦点ミラー140を用いてポリクロメータシステム100の光学収差を制御することによって、システム100の全体的な物理サイズを削減することを可能にすることができる。ポリクロメータシステム100の焦点距離を削減することができ、その結果、光学収差の悪化に起因した分解能の低下を伴うことなく、より短い光路長、より小さい光学構成要素、及び光学構成要素間のより大きい反射角を得ることができる。
【0093】
幾つかの実施形態では、旋盤又はミルのシングルポイントダイヤモンド旋削型コンピュータ数値制御(CNC:Computer Numerical Control)を用いて、コリメーションミラー120を金属材料から製造して、最適化された反射面121を作製することができ、及び/又は、焦点ミラー140を金属材料から製造して、反射面141を作製することができる。他の実施形態では、コリメーションミラー120及び/又は焦点ミラー140は、コリメートミラー120の反射面121の最終形状及び/又は焦点ミラー140の反射面141の最終形状を研磨するのに用いられる磁気粘弾性流体研磨プロセスを用いてガラス材料から製造することができる。複写成形又は射出成形を用いて、コリメーションミラー120及び/又は自由曲面焦点ミラー140を製造することもできる。
【0094】
コリメーションミラー120の反射面121及び/又は焦点ミラー140の反射面141は、たるみ誤差(sag error)及び傾斜誤差(slope error)等の特定の許容範囲内で製造することができる。たるみ誤差は、最適化された設計からの反射面121のずれである。幾つかの実施形態では、たるみ誤差の許容範囲は、反射面121上のあらゆる点において基準波長の4分の1未満とすることができる。例えば、632.8nmの基準波長に対するたるみ誤差を指定することができ、したがって、約160nm未満を指定することができる。傾斜誤差は、特定の距離にわたる反射面121と最適化された表面との間のずれである。幾つかの実施形態では、傾斜誤差は、表面にわたって1cm当たり基準波長を15で割ったもの未満、すなわち、(632.8nmの基準波長に対して)約42nm/cm未満とすることができる。
【0095】
当業者には、本開示の広い全体的な範囲から逸脱することなく、上述した実施形態に対して多数の変形及び/又は変更を行うことができることが理解されよう。したがって、本実施形態は、全ての点において、限定的ではなく例示的なものとしてみなされるべきである。
なお、出願当初の特許請求の範囲の記載は以下の通りである。
請求項1:
開口を画定する光学素子と、
前記開口を介して光を受光し、実質的に平行にされた光を反射するコリメーションミラーと、
前記コリメーションミラーから受光される前記実質的に平行にされた光を、異なる波長に対して異なる量だけ分散させ、第1の軸及び第2の軸に沿って離隔した光の異なる波長を有する交差分散光を提供するように各々構成された少なくとも第1の分散光学構成要素及び第2の分散光学構成要素と、
前記交差分散光を2Dアレイ検出器上に合焦させて、前記検出器の複数のそれぞれの領域において前記開口の複数の開口像を提供するように位置決めされた焦点ミラーであって、前記複数の開口像の各々は、前記交差分散光のそれぞれの波長に関連している、焦点ミラーと
を備えるポリクロメータシステムであって、
前記コリメーションミラー及び前記焦点ミラーの一方又は双方は、前記第1の軸及び前記第2の軸に沿った前記交差分散光の前記複数の波長にわたって、該ポリクロメータシステムの光学収差の影響を緩和し、それによって、前記第1の軸及び前記第2の軸に沿った前記複数の波長に関連した前記複数の開口像の分解能を最適化するように構成された反射面を有する自由曲面ミラーである、ポリクロメータシステム。
請求項2:
前記第2の光学分散素子は、前記第2の軸が前記第1の軸に対して実質的に直交するように前記第1の光学分散素子に対して方位付けられている、請求項1に記載のポリクロメータシステム。
請求項3:
前記第1の分散光学構成要素は、前記コリメーションミラーから平行にされた光を受光し、該実質的に平行にされた光を、異なる波長に対して異なる量だけ前記第1の軸に沿って分散させて分散光を提供するように構成され、
前記第2の分散光学構成要素は、前記分散光を、異なる波長に対して異なる量だけ前記第2の軸に沿って更に分散させて前記交差分散光を提供するように構成されている、請求項1又は2に記載のポリクロメータシステム。
請求項4:
前記第1の分散光学素子は、前記光を、前記第1の軸に沿って、重なる次数を有する分散スペクトルに分離するように構成され、前記第2の分散光学素子は、前記光を、前記第2の軸に沿って、異なる次数スペクトルに分離するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
請求項5:
前記第2の分散光学素子は、前記光を、前記第2の軸に沿って、重なる次数を有する分散スペクトルに分離するように構成され、前記第1の分散光学素子は、前記光を、前記第1の軸に沿って、異なる次数スペクトルに分離するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
請求項6:
前記第1の分散光学構成要素は回折格子を含み、前記第2の分散光学構成要素はプリズムを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
請求項7:
前記第2の分散光学構成要素は回折格子を含み、前記第1の分散光学構成要素はプリズムを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
請求項8:
前記第1の分散光学構成要素は第1の回折格子を含み、前記第2の分散光学構成要素は第2の回折格子を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
請求項9:
前記コリメーションミラーは自由曲面ミラーであり、前記焦点ミラーは、(i)球凹面ミラー、(ii)トーリック凹面ミラー、及び(iii)放物凹面ミラーのうちのいずれか1つである、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
請求項10:
前記焦点ミラーは自由曲面ミラーであり、前記コリメーションミラーは、(i)球凹面ミラー、(ii)トーリック凹面ミラー、及び(iii)放物凹面ミラーのうちのいずれか1つである、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
請求項11:
前記コリメーションミラー及び前記焦点ミラーの一方又は双方の前記反射面は、多項式によって記述される、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
請求項12:
前記コリメーションミラーの前記反射面は、以下の式によって記述され、
【数3】
であり、ここで、zは光軸に沿った高さであり、xは第1の軸に沿った位置であり、yは前記第2の軸に沿った位置である、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
請求項13:
前記第2の分散光学構成要素は、前記交差分散光を前記第1の分散光学構成要素に提供するように更に構成され、前記第1の分散光学構成要素は、前記波長を前記第1の軸に沿って更に分散させ、該更なる交差分散光を前記焦点ミラーに提供するように構成されている、請求項1~12のいずれか1項に記載のポリクロメータシステム。
請求項14:
ポリクロメータシステムの自由曲面ミラーの反射面を最適化する方法であって、
(i)前記自由曲面ミラーの前記反射面のモデルを初期化することと、
(ii)光の2つ以上の波長において開口像をシミュレーションすることと、
(iii)前記ポリクロメータシステムのシミュレーションされた検出器の検出器面に対する前記開口像のロケーションを求めることと、
(iv)前記開口像が前記検出器面上に位置していないとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデルを調整して、前記反射面の形状を調整することと、
(v)前記開口像が前記検出器面上に位置しているとの判断に応じて、前記光の2つ以上の波長における前記開口像の1つ以上の特徴を求めることと、
(vi)前記開口像の前記1つ以上の特徴と基準像の1つ以上のそれぞれの特徴との比較に基づいてメリット値を計算することと、
(vii)前記メリット値が閾値を越えているとの判断に応じて、ステップ(iv)~(vi)を繰り返すことと、
(viii)前記メリット値が閾値未満であるとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面は最適化されていると判断することと
を含む方法。
請求項15:
前記反射面の前記モデルを調整することは、前記モデルの項の1つ以上の係数を調整することを含む、請求項14に記載の方法。
請求項16:
前記モデルを初期化することは、前記反射面が球面ミラーを近似するように前記モデルの項の係数を選択することを含む、請求項15に記載の方法。
請求項17:
前記自由曲面ミラーの反射面のモデルを初期化することは、前記第1の自由曲面ミラーの第1の反射面の第1のモデルを初期化することと、前記第2の自由曲面ミラーの第2の反射面の第2のモデルを初期化することとを含み、前記反射面の前記モデルを調整することは、前記第1の反射面の前記第1のモデルの項の1つ以上の係数及び/又は前記第2の反射面の前記第2のモデルの項の1つ以上の係数を調整することを含む、請求項14に記載の方法。
請求項18:
前記モデルに対する所定の数の調整が行われたとの判断、及び/又は、前記シミュレーションが開始されて以降、所定の期間が経過したとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面が最適化されていると判断することを含む、請求項14~17のいずれか1項に記載の方法。
請求項19:
シミュレーションモデルに従って前記ポリクロメータシステムをシミュレーションすることを更に含み、
前記シミュレーションされるモデルは、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデルと、前記ポリクロメータシステムの他の構成要素を表す1つ以上のモデルとを含む、請求項14~18のいずれか1項に記載の方法。
請求項20:
前記開口像のうちの少なくとも1つが前記検出器面上に位置していないとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデル及び/又はポリクロメータシステムの前記他の構成要素の前記1つ以上のモデルの自由パラメータを調整することを更に含む、請求項19に記載の方法。
請求項21:
前記メリット値が前記閾値を越えているとの判断に応じて、前記自由曲面ミラーの前記反射面の前記モデル及び/又は前記ポリクロメータシステムの前記他の構成要素の前記1つ以上のモデルの自由パラメータを調整することを更に含む、請求項19又は20に記載の方法。
請求項22:
前記基準像はターゲット像を含む、請求項14~21のいずれか1項に記載の方法。
請求項23:
前記ターゲット像は、前記ポリクロメータシステムの前記検出器の第1の軸に沿って延びる交差分散光の複数の波長範囲列の波長分解能が最適化されているとともに、前記ポリクロメータシステムの前記検出器の第2の軸に沿った交差分散光の次数分解能が最適化されているときに前記ポリクロメータシステムによって生成される像を示す、請求項22に記載の方法。
請求項24:
前記光の2つ以上の波長における前記開口像の1つ以上の特徴を求めることは、
(i)前記像の1つ以上の寸法と、(ii)前記像における光の強度と、(iii)前記検出器面上の前記像のロケーションとのうちの任意の1つ以上を求めることを含む、請求項14~23のいずれか1項に記載の方法。
請求項25:
ポリクロメータシステムの自由曲面ミラーを製造する方法であって、
請求項14~24のいずれか1項に記載の方法を実行して、前記自由曲面ミラーの反射面の最適化された形状を求めることと、
前記求められた最適化形状に従って前記自由曲面ミラーを製造することと
を含む方法。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6a
図6b
図7a
図7b
図8a
図8b
図9a
図9b
図10