(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】工作機械の工具の検査
(51)【国際特許分類】
G01N 29/07 20060101AFI20230307BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20230307BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
G01N29/07
B23Q17/09 C
G01N22/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021136870
(22)【出願日】2021-08-25
【審査請求日】2021-09-28
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591005615
【氏名又は名称】ジック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ウェーバー
(72)【発明者】
【氏名】キム フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルト クルム
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト シュレーダー
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-294150(JP,A)
【文献】特開2003-334744(JP,A)
【文献】特開2017-154199(JP,A)
【文献】実開平06-027051(JP,U)
【文献】特開昭60-006331(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01779949(EP,A1)
【文献】特開2010-167557(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014109399(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
B23Q 17/00-17/24
G01N 22/00-22/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械(24)の工具(28)を検査するためのセンサ(10)において、
高周波信号を発生させるための高周波発信器(12)と、受信した高周波信号から受信信号を生成するための高周波受信器(14)と、高周波信号を前記工具(28)内へ入力するとともに該信号を前記工具(28)から取り出すための結合ユニット(16)と、前記高周波発信器(12)から発信されてから前記高周波受信器(14)により再び受信された高周波信号の伝播時間を前記高周波受信器(14)の受信信号に基づいて測定するための制御及び評価ユニット(20)とを備えること
、及び
前記結合ユニット(16)が、前記高周波信号を前記工具(28)の工具受容部(26)内及び/又は前記工作機械(24)のシャフト(30)内へ入力するように構成されていること
を特徴とするセンサ(10)。
【請求項2】
前記伝播時間から得られる前記工具(28)の長さ情報を出力するための出力部(22)、及び/又は、前記伝播時間から得られる前記工具(28)の長さ情報を表示するための表示部を備えていることを特徴とする請求項1に記載のセンサ(10)。
【請求項3】
前記制御及び評価ユニット(20)が、測定された前記伝播時間を、予想される工具(28)において期待される伝播時間と比較し、特にその比較の結果を出力又は表示するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項4】
前記工具(28)が回転式の工具、特にドリルを備えていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のセンサ(10)。
【請求項5】
前記結合ユニット(16)が前記工具(28)及び/又は該工具(28)の工具受容部(26)の周囲を少なくとも部分的に囲む結合片を備えていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のセンサ(10)。
【請求項6】
前記制御及び評価ユニット(20)が、前記伝播時間の測定に際し、事前に記録された参照信号、特に、予想される工具(28)について記録された参照信号を考慮するように構成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のセンサ(10)。
【請求項7】
工具(28)と
、
前記工具(28)を検査するためのセンサ(10)であって、高周波信号を発生させるための高周波発信器(12)と、受信した高周波信号から受信信号を生成するための高周波受信器(14)と、高周波信号を前記工具(28)内へ入力するとともに該信号を前記工具(28)から取り出すための結合ユニット(16)と、前記高周波発信器(12)から発信されてから前記高周波受信器(14)により再び受信された高周波信号の伝播時間を前記高周波受信器(14)の受信信号に基づいて測定するための制御及び評価ユニット(20)とを備えるセンサ(10)と
を備える工作機械(24)
において、
前記工具(28)と該工具(28)の工具受容部(26)との間に絶縁材(36)を備えていること、又は
前記工具(28)の工具受容部(26)の周囲に工作機械(24)の残りの部分に対する絶縁材(36)を備えていること
を特徴とする工作機械(24)。
【請求項8】
工作機械(24)の工具(2
8)を検査するための方法において
、
結合箇所(16)において高周波信号が前記工具(28)内へ入力されるとともに該工具(28)から取り出され、該高周波信号が入力から取り出しまでの間に前記工具(28)の工具先端まで往復し、該工具先端までの前記高周波信号の伝播時間が測定されること
、及び
前記高周波信号が前記工具(28)の工具受容部(26)内及び/又は前記工作機械(24)のシャフト(30)内へ入力されること
を特徴とする方法。
【請求項9】
前記伝播時間の測定が前記工作機械(24)の通常の作業工程の間に実行されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記伝播時間の測定が、前記工具(28)が工作物の近くにない特定の作業段階、及び/又は、前記工具(28)が既知の環境にある特定の作業段階において行われること、そして特に前記既知の環境に対する参照信号が事前に記録され、前記伝播時間の測定の際に考慮されることを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記伝播時間の測定が、前記工具(28)が作業用材料と接触する作業段階、特に該工具(28)が作業用材料に浸される又は該材料を用いて処理される作業段階において行われることを特徴とする請求項8~10のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1又は12のプレアンブルに記載の、工作機械の工具を検査するためのセンサ及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の工作機械の例として旋盤及びフライス盤のような切削型の加工機械がある。これらには工具としてドリルが挟み込まれることが多い。工具の検査によりその変化、とりわけ欠陥が自動的に認識される。
【0003】
ドリルの破損や損傷を触覚センサ又は光センサで認識することが知られている。その検査工程のために別途測定ステーションに立ち寄る。従って、工具を使って作業を行ったアームは、作業ステップの後、まず測定ステーションまで移動して工具の測定を行ってからでなければ出発位置まで戻ることができない。この余分な処理ステップが機械のサイクル時間に負の影響を及ぼす。しかも、どんなセンサの構造でもその測定領域を含めて機械の加工空間の内部にスペースを必要とするが、このスペースは一方で非常に限られており、他方で有用な空間として加工対象の工作物のために取っておくべきものである。
【0004】
光学的な検査システムは困難な環境条件の下で働く。工作機械の内側にはドリルヘッドの表面にも工作物の表面にも切削堆積物があり、更には冷却剤及び潤滑剤の余りが残滓としてドリルに付着していたり、そのドリルや塗布圧によって加工室内にまき散らされていたりする。これらの妨害物が光学的な測定の精度及び信頼性に直接影響を及ぼす。
【0005】
特許文献1は工具管理用の光格子を開示している。非常に高速な工具管理を可能にするため、光格子の各光線を個別に活性化することができ、以て具体的な検査に適合させることができる。しかしこれではまだ光学的な検査システムの前述の欠点は克服されない。
【0006】
工具検査の別のアプローチとして原動機のエネルギー消費を測定するものがある。しかし、そのエネルギー消費を工具の状態と一義的に関連付けることは難しい。しかもエネルギー消費はたとえ工具に変化がなくても加工中に大きく変動する。
【0007】
工具検査とは全く別の応用分野からTDR測定原理(time domain reflectometry:時間領域反射率測定法)が知られている。TDR原理の最も古い応用の1つが大洋横断ケーブルの破損箇所の特定である。別の従来の利用分野として充填レベルの測定がある。TDR原理の基本は、電磁パルスの伝播時間の測定により例えばケーブルの破損といったケーブルの波動インピーダンスの不連続箇所や製品の境界面までの距離を測定することにある。従ってこれはレーダに似ており、その違いは、電磁波が自由空間に放射されるのではなく導体に沿って案内されるという点にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような背景の下、本発明の課題は工具の検査を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は請求項1又は12に記載の工作機械の工具を検査するためのセンサ及び方法により解決される。工作機械は、好ましくは冒頭で挙げた切削型の加工機械、特にCNC加工機である。工具を用いるロボットアーム、電気ドリルや充電式ドライバーのようなDIY用機械等、工具を用いる機械全般も工作機械と解釈できる。工具検査によって、何よりもまず、工具が損傷していないか、あるいはそれがまだ工作物の加工に適しているかを検査する。これは特に工具の破損と関係がある。もっとも、正しい工具が挟み込まれているか、あるいは工具が正しく挟み込まれているか等、他の検査も可能である。
【0011】
本発明の出発点となる基本思想は、工具内を進む高周波信号の伝播時間に基づいて工具を検査することにある。そのために、特にTDR測定原理に従って高周波パルスが用いられる。これは多重パルスでも他のパターンでもよい。センサは高周波信号を発信して再び捕らえるために高周波発信器と高周波受信器を備えている。高周波発信器と高周波受信器を一緒にしてトランシーバとして構成することができる。センサの結合ユニットが高周波信号を工具内へ入力するとともに、該工具内から戻ってくる高周波信号を取り出す。実施形態によっては、その結合を間接的なものにすること、即ちまず工具受容部といった他の要素に結合してもよい。高周波信号は高周波発信器から結合箇所まで進み、工具内で工具先端まで進んでから結合箇所まで戻り、そこから高周波受信器に達する。その際に測定される伝播時間から、高周波発信器から結合箇所まで及び結合箇所から高周波受信器までの信号路といった一定不変の部分、並びに結合箇所から工具先端と逆方向にある工具基部までの部分を、例えば較正により取り除くことができる。実施例によっては、工具先端までではなく工具の基部及び場合によっては機械の他の部分まで進んでから戻ってくる他の信号成分がある。これらは妨害成分であり、評価すべきは工具先端までの伝播時間である。
【0012】
本明細書及び特許請求の範囲には、高周波信号が工具内へ入力されるという文言や、該信号が工具内を進むという文言が出てくる。実際には高周波信号が工具の内部へ入り込むことは必須ではなく、むしろ重要なのは表面において一定の深さまで入り込む高周波信号であり、その深さはとりわけ周波数と工具の材料に依存し得る。このような言語表現上及び技術上の微妙な点は重要ではなく、工具の「上」又は「工具の表層内」の高周波信号も意味するものとする。
【0013】
本発明には、冒頭で述べた欠点が克服されるという利点がある。本発明による測定原理は工作機械の環境における汚染による典型的な妨害に対して光学的な検出よりも明らかに頑強性が高い。別体の測定ステーションが不要であるため、そのためのスペースも必要ない。本センサは通常の作業工程の間に工具を検査できるため、工作機械のサイクル時間を侵害しない。検査のための測定は例えば2つの作業箇所の間の移動経路上で行うことができる。また加工中に測定を行うことさえ考えられる。その場合、高周波信号が工具に沿って伝播し、工具が工作物に入り込んだ箇所においてインピーダンスの変化が生じたときに反射が生じるから、その反射を評価する。これにより、工作物の有無を検査するとともに、品質検査又は工程検査の意味で、工具が既に工作物にどの程度入り込んだかを少なくとも粗めに確認することさえできる。
【0014】
本センサは、伝播時間から得られる工具の長さ情報を出力するための出力部、及び/又は、伝播時間から得られる工具の長さ情報を表示するための表示部を備えていることが好ましい。このようにすれば、工具検査のための測定結果が外部で上位の制御装置又はユーザに利用可能になる。
【0015】
制御及び評価ユニットは、測定された伝播時間を、予想される工具において期待される伝播時間と比較し、特にその比較の結果を出力又は表示するように構成されていることが好ましい。この実施形態では工具に対する予想がセンサ自身に分かっており、単なる伝播時間情報の代わりに、又はそれに加えて検査結果を出力できる。この予想は工具の種類に関係しており、好ましくは無傷の工具にも関係している。比較は伝播時間そのもののレベルで行ってもよいし、その時間から導出される量(例えば工具の長さ)のレベルでもよい。検査結果は「問題なし(OK)」のような二値的なもの、あるいは欠陥/メンテナンス情報とすることができる。工作機械に停止信号を出力することで、工具が間違っている又は工具に欠陥があるときに機械を停止させたり、それどころか全く起動させなかったりすることが考えられる。
【0016】
前記工具は回転式の工具、特にドリルを備えていることが好ましい。これは工作機械において非常によくある応用事例である。
【0017】
結合ユニットは工具及び/又は工具の工具受容部の周囲を少なくとも部分的に囲む結合片を備えていることが好ましい。これは特にリング状又は部分リング状の結合片のことである。結合片のこのような成形は回転式の工具内への入力に非常に適している。
【0018】
結合ユニットは高周波信号を工具内に直接入力するように構成されていることが好ましい。これによりセンサが工具と直接的に結合接触した状態になる。ここでは伝導型、誘導型又は容量型の結合が考えられる。この結合形態によれば既存の工作機械内にセンサを後から装備することが非常に簡単である。高周波信号が工具の内部へ結合されるのか、むしろ単に工具の表面だけに結合されるのではないかという問いについては先に説明した通りである。
【0019】
結合ユニットは、高周波信号を工具の工具受容部内及び/又は工作機械のシャフト内へ入力するように構成されていることが好ましい。この実施形態では工具内への結合が工具受容部を介して単に間接的に行われる。このとき高周波信号は工具受容部から更に工具内へと進む。ドリルのような回転式工具の場合、工具受容部はシャフトに接続されており、同じように回転する。
【0020】
制御及び評価ユニットは、伝播時間の測定に際し、事前に記録された参照信号、特に、予想される工具について記録された参照信号を考慮するように構成されていることが好ましい。他方、予想される工具とは特に、正しく挟み込まれ、無傷であり、従って使用可能である正しい工具のことである。参照信号は例えば事前に制御及び評価ユニットの記憶部に保存される。参照信号に基づいて少なくとも主要な妨害の影響が分かる。これには、工具のうち拘束されていない部分と工具受容部に保持された部分との間の移行部におけるインピーダンスの跳び、工具を取り囲む機械部分による他の影響、そして例えば工具先端からの有効なエコーに加わる工具基部からのエコー等がある。参照信号ひいてはこれらの妨害の影響を考慮するために、例えば伝播時間の評価の前に受信信号から参照信号を減算することができる。参照信号は前処理されたものでもよく、例えば工具先端からの有効なエコーをその信号から除去しておくことができる。なぜなら、そうしなければ場合によっては駆動中に差分計算によって目的の測定効果までもが弱められてしまうからである。
【0021】
有利な発展形態では工具と本発明に係る工具検査用のセンサとを備える工作機械が提供される。この工作機械の考えられる形態は上述した通りである。センサは機械上に取り付けられることが好ましいが、いずれにせよセンサの結合ユニットが少なくとも間接的に工具と結合接触した状態で取り付けられるため、高周波信号が工具内へ入り込み、該工具から出てくることができる。
【0022】
工作機械は工具と該工具の工具受容部との間に絶縁材を備えていることが好ましい。この実施形態では結合ユニットが工具に直接結合する。なぜなら、高周波信号は絶縁材を超えて工具受容部から工具内に達することはできないからである。工具はTDRセンサのゾンデに相当する同軸導体の内部導体となり、工具受容部と機械の他の部分は外部導体となる。この実施形態では絶縁材、工具及びセンサを後から装備することができる。
【0023】
工作機械は工具の工具受容部の周囲に該工作機械の残りの部分に対する絶縁材を備えていることが好ましい。この実施形態では結合ユニットが工具受容部を介して単に間接的に工具と結合する。従って、工具受容部が工具に導電的に接続していることが前提となるが、いずれにせよ普通の工具受容部はそうなっている。ここでは、工具受容部とその延長にある工具を内部導体、機械の残りの部分を外部導体とした同軸導体が実現される。
【0024】
本発明に係る方法は、好ましくは本発明に係るセンサを用いて実行される。結合箇所において高周波信号が工具内へ入力されるとともに該工具から取り出され、その際、高周波信号は入力から取り出しまでの間に工具の工具先端まで往復し、該工具先端までの高周波信号の伝播時間が測定される。
【0025】
伝播時間の測定は工作機械の通常の作業工程の間に実行されることが好ましい。従って、検査を実行できるようにするために工具に特定の位置又は特定の運転状態を取らせる必要はなく、特にわざわざ測定ステーションまで運ばなくてもよい。
【0026】
伝播時間の測定は特定の作業段階において行われることが好ましい。工具を検査に適した状態にわざわざ移行させる必要はないが、それでも、もともと存在する工作機械の作業工程のうち特定の作業段階を検査に利用することが有利である。このような作業段階の1つは、工具が工作物の近くではなく、空間内でできる限り開けた場所にあり、その結果、測定に対する外部の影響がほとんどないときである。もっとも、周囲から測定に対して一定の影響があるような作業段階を選択することが逆に有利であることもあり得る。この場合、その影響はできるだけ明確に決まったもの、あるいは工具の検査を支援するようなものでさえある。この既知の環境に対する参照信号を記録しておき、伝播時間の測定の際に考慮することが考えられる。
【0027】
伝播時間の測定は、工具が作業用材料と接触する作業段階、特に工具が作業用材料に浸される又は該材料を用いて処理される作業段階において行われることが好ましい。これは工具を特定の環境で用いる作業段階の特別な事例である。作業用材料の例としては、工具を処理するもの、研ぎ直すもの、又はネジのように工具によって取り上げる対象物が挙げられる。特に好ましいのはその作業用材料が冷却剤や潤滑剤の場合である。このような作業用材料は工具の周囲の誘電定数を変化させる。これに応じて工具における高周波信号の伝播経路に沿ったインピーダンスが変化するため追加のエコーの発生が予想され、更には周囲の誘電特性の変化により全体的に高周波信号が遅延して伝播時間が長くなることが予想される。これにより、工具が予定通りの部位において冷却剤又は潤滑剤で濡れているか又は濡れたかを検査することができる。従って、場合によっては冷却剤又は潤滑剤の流れを監視する別のセンサ系をなくすこと、あるいは冷却剤又は潤滑剤が適正な部位に吹き付けられているか検査することができる。
【0028】
本発明に係る方法は、前記と同様のやり方で仕上げていくことが可能であり、それにより同様の効果を奏する。そのような効果をもたらす特徴は、例えば本願の独立請求項に続く従属請求項に模範的に記載されているが、それらに限られるものではない。
【0029】
以下、本発明について、更なる特徴及び利点をも考慮しつつ、模範的な実施形態に基づき、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】工作機械の工具を有する工具受容部とそれに結合された工具検査用センサの断面図。
【
図3】別の工具受容部と別の工具を示す
図2と同様の断面図。
【
図4】工具受容部を介して間接的に工具検査用センサを工具に結合した形態の概略図。
【
図5】
図4と同様の概略図であって、今度は工具に直接結合した形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は工具検査用センサ10のブロック図である。センサ10は高周波発信器12と高周波受信器14を備えている。これらを一緒にしてトランシーバとして構成することもできる。ここでは概略的にしか示されていない測定路18へ高周波信号を発信するとともにそこからその信号を受信するために、高周波発信器12と高周波受信器14が結合ユニット16と接続されている。制御及び評価ユニット20が高周波発信器12を通じて高周波信号、特に高周波パルスを発生させる。この信号は測定路18を伝って進んだ後、高周波受信器14により受信信号に変換されてから評価される。
【0032】
制御及び評価ユニット20はこのようにして高周波信号の伝播時間を測定し、それを用いて、それ自体公知である時間領域反射率測定法の原理あるいはTDR測定原理に従って測定路18の長さを測定する。その際、評価ステップを設けて、得られた伝播時間から内部での信号伝播時間の部分を除去したり、受信信号に含まれるノイズや測定路18の予定した端部から所望の通りに生じたものではない信号パルスに対処したりすることが考えられる。そのために、例えば事前に既知の環境において参照信号を記録しておき、評価の際にそれを考慮する。これは特に参照信号と各時点の受信信号との差分計算による。
【0033】
伝播時間又は該時間から導出される量を出力部22に出力すること及び/又は表示部に表示することができる。センサ10の役目は工具の検査であり、即ちここでは測定路18が少なくとも部分的に工具内部の信号路になっている。この場合、評価は更に1ステップ先へ進み、その伝播時間又は該時間から導出される量(例えば工具の長さ)が予想と一致しているかどうかを検査することができる。その場合、伝播時間の代わりに又はそれと一緒にその検査の結果が出力部22若しくは表示部に出力される。これは好ましくは、検査により工具の欠陥又は他に考えられるエラー状況(例えば、間違った工具が挟み込まれている、工具が正しく挟み込まれていない等)が見つかったかどうかを示す二値的な結果である。好ましい実施形態では、検査により工具が正常に認識されなかったら、工作機械の制御部に直接働きかけて機械の運転を停止又は拒否させる。
【0034】
センサ10にとっては工具内への高周波信号の入力及び工具からの高周波信号の取り出しが難しい課題となる。以下、これについて
図2~5を参照して本発明の他の有利な形態ともに説明する。
【0035】
図2は工具28が挟み込まれた工具受容部26を有する工作機械24の一部を非常に簡略に示した断面図である。工作機械24のうち他に図示されているのは、工具受容部26とそれに挟み込まれた工具28とを回転させるためのシャフト30とその軸受32、そしてケーシング34のごく一部のみである。工作機械24の他の複雑な部分は図示していない。なぜなら、これについては無数の変形の可能性があるが、それらは本発明の理解には役立たないからである。
【0036】
センサ10は結合ユニット16で工具受容部26に結合している。
図2では、工具受容部26とその延長にある工具28が内部導体となり、ケーシング34等の機械の他の部分が外部導体となるような同軸導体が暗に示されている。
図2では、センサの参照符号10により、
図1に模範的に示したセンサ10における移行部分をただ純粋に機能的に示している。物理的にセンサ10を実際に工作機械24に取り付けることはできるが、他の場所にあってもよい。
図2の工具受容部26と工具28が
図1の測定路18となる。高周波信号の経路のうち結合ユニット16及び工具受容部26を通る部分の固定的な伝播時間成分を較正又は他の評価により除去することで、工具28を通る正味の伝播時間を求めることができる。
【0037】
模範例として
図2のように少なくとも間接的に工具28に結合された
図1のセンサ10に基づき、本発明に係る工具検査について更に説明する。以下の記述では純粋な模範例として、挟み込まれた工具28が破損しているものとする。工具28が正しいかどうかや、工具受容部26におけるその位置及び接続が適切かどうかについての検査等、他の検査も全く同様の仕組みで行われる。
【0038】
挟み込まれた工具28が破損するとその長さが変化し、高周波信号の伝播時間の測定値が変化する。この測定情報は伝播時間、伝播時間の変化、長さ、長さの変化、又はそれらから導出される他の量として、好ましくは「正常」又は「欠陥」という内容の二値的な通知の形で伝えることができる。即ち、一方の二値状態は検査で異常がなかった場合、他方の二値状態は検査で異常があった場合を表す。
【0039】
これを実現するため、センサ10から工具受容部26内へ高周波信号が導入される。この信号は工具28の遠端で反射される。このとき工具受容部26と工具28はいわば同軸ケーブルの内部導体として機能する。反射された高周波信号が取り出され、センサ10内で検出され、受信信号に変換されて、その受信信号が更に評価される。ここで測定される伝播時間は工具28が破損していると短くなる。その場合、それを損傷の通知又は伝播時間の変化として出力することができる。
【0040】
結合ユニット16と工具受容部26の間の結合は、好ましくはリング状の形態で、又は少なくとも、リングと回転する工具受容部26との間で高周波に対応できる十分な結合を呈する部分リングで実現される。その場合、その結合は実施形態に応じて伝導型、誘導型又は容量型にすることができる。また、入力は、加工による削りくず、処理液又は他の妨害物がなるべく発生しない保護された領域で行うべきである。
【0041】
高周波信号は工具28の先端の方向だけでなく他の方向にも広がることが避けられない。高周波信号の一部は逆方向にシャフト30へと進む。そこではシャフト30の軸受32が全反射を伴う短絡を形成したり、シャフト30が
図2に暗に示したサイズよりも大きく、周囲の異なる材料を通過してインピーダンスの跳びが生じ、それが中間エコーを誘発したりする可能性がある。このような不所望の反射は工具28を通る高周波信号の経路上でも、例えば工具28が周囲の機械から外へ出る箇所において現れる。
【0042】
このような妨害及び他の妨害の影響により受信信号には工具28の先端から来る有用な信号以外の信号も現れる。しかし、他の反射箇所は少なくともある程度の駆動時間にわたって一定であるから、静的な妨害箇所を隠蔽する方法を適用できる。好ましくは、基準となる状況における受信信号を参照信号として記録して保存する。これは例えば工具28を挟み込んだ直後に行う。それが正しい工具28であり、損傷がなく、正しく挟み込まれていることは先に専門家が検査しておく。工具28が加工開始時には正常であると単純に想定される場合には専門家の検査を省略することもできる。工具28を用いたその後の測定の際にその参照信号が考慮される。例えば各時点での受信信号から参照信号を用いた差分計算により補正された受信信号が生成され、更に処理される。静的な妨害箇所の影響はこのようにして除去されるか、少なくとも低減される。
【0043】
好ましい実施形態では、高周波パルスが発信され、工具の先端からの有効なエコーの時間位置がその重心に基づいて又はエッジ部の評価により特定される。妨害の影響により他のエコーが入り込み、有効なエコーに重なったりその識別を困難にしたりする可能性がある。妨害エコーの影響は前述のように参照信号を用いて低減させることができる。加えて、特に妨害エコーと有効なエコーが時間的に分かれるように入力を実現することができる。
【0044】
伝播時間に関して期待される適切な挙動がセンサ10に分かっていれば、工具28を挟み込んで最初の測定を行ったところでもう、伝播時間測定により、工具28が正しく挟み込まれているか、あるいはそれが正しい工具であるかを確認することができる。任意の工具28を一義的に区別することはできない。なぜなら、例えば直径は伝播時間に全く又は全くと言っていいほど影響を及ぼさないからである。それでもなお、測定分解能の範囲内で、伝播時間に基づいて、間違った工具28や適切に挟み込まれていない工具28に関する多くのエラーが早々に認識されることで、工作機械24の信頼性が高まる。
【0045】
本発明の利点の1つは工具28の検査を通常の作業工程に統合することができることにある。検査のためにわざわざ工具28を特別な位置に置いたり、従来のように特別な測定ステーションまで運んだりする必要はない。それでも、通常の作業工程のうち特定の作業段階を検査に利用することが好ましい。例えば工具28が工作機械24の金属性囲繞物の近くにある場合、それを利用して、工具28が金属性囲繞物に対して好都合な位置にあるときに測定を行うことにより、周囲からの高周波の影響を遮断することができる。各対象物が工具28から可能な限り離れているような作業段階を検査に利用することが考えられる。
【0046】
工作機械24では、工具28を工具受容部26も含めて繰り返し液体(特に油)と接触させたり、その中に浸したりすることが普通である。例えば、工具28に冷却剤や潤滑剤が供給される。この液体は高周波信号の伝播速度を明瞭に低下させる。これにより、まずより低い時間的な要求で測定を改善することができる。更に、それと共に別の検査、つまり工具28が予定通りに冷却剤又は潤滑剤で処理されているかという検査を行うことが考えられる。
【0047】
図3は別の工具受容部26と別の工具28を示す
図2と同様の断面図である。これは、工作機械24、工具受容部26及びその工具28、並びにセンサ10の結合ユニット16の具体的な形態は単に模範的なものと理解すべきであり、変更可能である、ということを再度強調するものである。
図3ではテーパ又は斜角をつけた形態が特別に選ばれている。これは非常に少ない反射での高周波信号の入力を可能にするとともに、工具28及びその先端へ向かう所望の方向への信号の伝播を促進する。工具受容部26は例えばモールステーパ、スティープテーパ又は中空軸テーパとして形成することができるが、全体として本発明は特定の工具受容部26には限定されないし、様々な長さ、直径及びドリルヘッドを持つ特定の工具28にも限定されない。工具28はドリルである必要はなく、回転する必要もない。
【0048】
図4はシャフト30、工具受容部26及び工具28を有する工作機械24、並びにセンサ10の結合ユニット16を介した結合を抽象化して再度示している。ここまでの実施例で既に述べたように高周波信号が工具受容部26へ入力される。同様に、シャフト30への結合や工作機械24の可動部分又は回転する部分への結合も可能である。なぜなら、通常、金属製で導電性を持つ接続が工具受容部26まで存在しているからである。
【0049】
それでも、好ましくは、工作機械24の可動部分、つまり特に工具受容部26を有するシャフト30は、絶縁材36で工作機械24の他の部分から絶縁すべきである。そうすると、工具受容部26と工具28は所望の通り同軸系の内部導体となり、絶縁材36によってそれらから分離された周囲の機械部分は外部導体となる。このようにすればTDR測定法の普通のやり方で伝播時間を測定できる。
【0050】
図5は
図4と同様の抽象的な図で本発明の別の実施形態を示している。ここでは入力が工具受容部26を介して間接的にではなく工具28に直接的に成されている。工具28は絶縁材36で工具受容部26から絶縁されている。これにより、工具28を内部導体とし、工具受容部26とシャフト30及び周囲の機械部分とを外部導体として同軸系が同様に実現される。このようにするとある意味で工作機械24の伝動機構がより複雑になる。その代わり、工具管理のために本発明に係るセンサ10を後から装備することが容易になる。