(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】複合体、造影剤、及びCXCR4関連疾患を治療又は診断するための医薬品
(51)【国際特許分類】
C07D 401/14 20060101AFI20230307BHJP
G01T 1/161 20060101ALI20230307BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230307BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230307BHJP
A61K 31/395 20060101ALI20230307BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20230307BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20230307BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230307BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230307BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230307BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C07D401/14
G01T1/161 D
A61P43/00 111
A61P35/00
A61K31/395
A61K33/34
A61K33/00
A61P37/02
A61P31/00
A61P9/00
A61P29/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021164751
(22)【出願日】2021-10-06
【審査請求日】2021-10-06
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】599171866
【氏名又は名称】行政院原子能委員會核能研究所
【住所又は居所原語表記】1000 Wenhua Rd.Jiaan Village,Longtan District,Taoyuan City 32546,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100185694
【氏名又は名称】山下 隆志
(72)【発明者】
【氏名】夏建忠
(72)【発明者】
【氏名】葉忠興
(72)【発明者】
【氏名】彭正良
(72)【発明者】
【氏名】陳俊堂
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0031640(US,A1)
【文献】特表2009-504788(JP,A)
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry,2019年,27(6),P.1130-1138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 401/
G01T 1/
A61K 31/
A61K 33/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(
II)で示す構造を有することを特徴とする、CXCR4に結合できる複合体。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の複合体に
、放射性金属核種又は非放射性金属
が標識されていることを特徴とする、
金属含有複合体。
【請求項3】
前記放射性金属は、インジウム-111、ルテチウム-177、ガリウム-68、ガリウム-67、イットリウム-90、又は銅-64であることを特徴とする、請求項
2に記載の
金属含有複合体。
【請求項4】
前記放射性金属は、インジウム-111であることを特徴とする、請求項
3に記載の
金属含有複合体。
【請求項5】
請求項
1に記載の複合体
又は請求項2~4のいずれか一項に記載の金属含有複合体と、造影賦形剤と、を含むことを特徴とする、造影剤。
【請求項6】
請求項1に記載の複合体
又は請求項2~4のいずれか一項に記載の金属含有複合体を含む、CXCR4関連疾患を治療又は診断するための医薬品
であって、前記CXCR4関連疾患は、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、精巣腫瘍、甲状腺がん、前立腺がん、咽頭がん、子宮頸がん、上咽頭がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胃がん、頭頸部がん、食道がん、直腸がん、膀胱がん、腎臓がん、肺がん、肝臓がん、脳腫瘍、悪性黒色腫、及び皮膚がんからなる群から選ばれるがんであることを特徴とする、CXCR4関連疾患を治療又は診断するための医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像分野、特にCXCR4に結合できる複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍は、公衆衛生の一つの大きな問題となっている。世界各地でがんの発生率が増加しており、世界中の政府が直面しなければならない問題である。近年では、医療技術と医学研究の進歩につれて、早期診断、治療によってがん患者数の増加を遅らせることにより治癒率及び生存率を高めつつあるが、まだ改善の余地がある。また、アテローム性動脈硬化症による心血管疾患は、世界一の死因となっており、死亡率を下げるための早期診断、治療が非常に重要である。
【0003】
CXCR4ケモカイン受容体は、人体のメカニズムにおいて重要な役割を果たし、成長と発達、血管新生、腫瘍の形成及び転移等に関連する。ある研究によると、CXCR4は、多くの種類の細胞で発現される。急性骨髄性白血病を例として説明すると、CXCR4発現細胞は、走化性であり、骨髄間質細胞に付着されるため、化学療法の効果を低下させる。また、肺がん、皮膚がん、乳がん、尿路上皮がん、神経膠腫等の他のがんについても同じ研究結果が確認される。さらに、他の疾患もCXCR4に関連している。例えば、アテローム性動脈硬化症は、体内の高脂血症による血管の炎症反応であり、CXCR4発現免疫細胞が多数蓄積される疾患である。このことから分かるように、病原性の過程においてCXCR4が重要な役割を果たしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の状況を鑑みて、CXCR4関連疾患を診断又は治療するための医薬品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの態様は、下記式(1)で示す構造を有する、CXCR4に結合できる複合体である。
【0006】
【化1】
式中、前記Xは、1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N’,N’’-三酢酸(1,4,7-triazacyclononane-N,N’,N’’-triacetic acid、NOTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic acid、DOTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(diethylenetriaminepentaacetic acid、DTPA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(1,4,8,11-tetraazacyclotetradecane-N,N’,N’’,N’’’-tetraacetic acid、TETA)、1,4,7-トリアザシクロノナンホスフィン酸(1,4,7-triazacyclononane phosphinic acid、TRAP)、エチレンジアミン四酢酸(Ethylenediaminetetraacetic acid、EDTA)からなる群から選ばれる金属イオンキレート剤である。
【化2】
【0007】
一つの実施形態において、前記Xは、キレート剤である。本発明の化合物の水溶性を調整するために、Nに結合する部分は、極性を向上させる構造で修飾されてもよい。
【0008】
一つの実施形態において、前記複合体は、下記構造を有する。
【化3】
【0009】
一つの実施形態において、前記の複合体は、前記式(1)で示す複合体に標識される放射性金属核種又は非放射性金属をさらに有する。具体的には、前記金属放射線核種は、インジウム-111、ルテチウム-177、ガリウム-68、ガリウム-67、イットリウム-90、又は銅-64等が挙げられる。非放射性金属イオンは、ガドリニウム(gadolinium)等が挙げられる。一つの実施例において、前記放射線金属核種は、インジウム-111である。
【0010】
本発明のもう一つの態様は、上記いずれかの実施形態の複合体と、造影賦形剤と、を含む造影剤である。
【0011】
本発明のさらにもう一つの態様は、CXCR4関連疾患を治療又は診断するための医薬品を製造するための、上記いずれかの実施形態の複合体の使用である。
【0012】
一つの実施形態において、前記疾患は、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、精巣腫瘍、甲状腺がん、前立腺がん、咽頭がん、子宮頸がん、上咽頭がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胃がん、頭頸部がん、食道がん、直腸がん、膀胱がん、腎臓がん、肺がん、肝臓がん、脳腫瘍、悪性黒色腫、及び皮膚がんからなる群から選ばれるがんである。
【0013】
一つの実施形態において、前記疾患は、自己免疫性疾患、感染性疾患、心血管疾患、又は炎症性疾患である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合体は、CXCR4受容体に結合できる。そのため、CXCR4受容体関連がん及びその他の関連疾患を診断又は治療するための医薬品として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の複合体の合成フローチャートである。
【
図5】本発明の複合体を使用する乳がん動物モデルのNanoSPECT/CT画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態及び実施例を説明するが、本発明は、それらに限定されない。
【0017】
本明細書に記載の専門用語は、当業者が理解する意味と同等の意味を有する。なお、本明細書に記載の名詞は、単数及び複数形を含む。
【0018】
前記「個体」又は「患者」は、本発明の複合体を使用する動物であり、好ましくは哺乳類であり、より好ましくはヒトである。
【0019】
前記「疾患」は、CXCR4発見細胞が前記疾患の病原性メカニズムに関連し、疾患又は症状の発生につながるCXCR4関連疾患である。例えば、前記「疾患」は、CXCR4を発見する腫瘍、又はCXCR4を発見するリンパ球、単核細胞、及びマクロファージによる疾患である。
【0020】
前記「がん」は、非固形腫瘍又は固形腫瘍であり、例えば、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、精巣腫瘍、甲状腺がん、前立腺がん、咽頭がん、子宮頸がん、上咽頭がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胃がん、頭頸部がん、食道がん、直腸がん、膀胱がん、腎臓がん、肺がん、肝臓がん、脳腫瘍、悪性黒色腫、又は皮膚がん等のCXCR4を発見する腫瘍が挙げられるが、それらに限定されない。
【0021】
本明細書において、「約」との用語は、数値又は範囲の±10%、±5%、±1%又は±0.5%を示し、即ち、実際の数値が誤差範囲内にあることを示す。実験例を除いで、本明細書に記載の範囲、数値、及び%は、いずれも「約」で修飾される。そのため、本明細書及び請求項に記載の数値又はパラメータは、おおよその数値であり、需要に応じて変更できる。
【0022】
従来技術の課題を解決するために、本発明は、CXCR4に結合できる複合体を提供する。本発明の複合体は、下記式(I)で示す構造を有する。
【化4】
式中、前記Xは、1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N’,N’’-三酢酸(1,4,7-triazacyclononane-N,N’,N’’-triacetic acid、NOTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic acid、DOTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(diethylenetriaminepentaacetic acid、DTPA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(1,4,8,11-tetraazacyclotetradecane-N,N’,N’’,N’’’-tetraacetic acid、TETA)、1,4,7-トリアザシクロノナンホスフィン酸(1,4,7-triazacyclononane phosphinic acid、TRAP)、エチレンジアミン四酢酸(Ethylenediaminetetraacetic acid、EDTA)からなる群から選ばれる金属イオンキレート剤である。
【化5】
【0023】
本発明の複合体の水溶性を調整するために、複合体の活性効果に影響しない範囲内で任意の化学的構造で修飾されてもよい。例えば、本発明の複合体におけるXキレート剤とNとの結合部分に任意の化学的構造を付加してもよい。
【0024】
バイオインフォマティクス分析によると、本発明の複合体の構造は、CXCR4の特殊な位置のアミノ酸に結合し、従来の小分子薬(例えば、AMD3100)と比較すると、CXCR4受容体との結合能がより強い。計算分析の結果から見ると、本発明の複合体の結合エネルギー(binding energy)がAMD3100よりはるかに低い。そのため、薬物の特異性を向上させる。また、本発明の複合体は、金属イオンキレート剤の構造を有するため、放射性金属イオン又は非放射性金属イオンで標識できる。そのため、SPECT/PET診断及び治療に適用するか、又はMRI造影剤として使用できる。
【0025】
本発明の一つの実施例において、腫瘍動物モデルの試験結果から分かるように、市販のCXCR4アンタゴニスト(例えば、AMD3100)と比べて、本発明の複合体は、腫瘍の蓄積量が明らかに高い。よって、本発明の化合物は、CXCR4関連疾患を診断又は治療するための医薬品としての利用可能性を確認できる。
【0026】
本発明の一つの態様において、本発明の複合体は、有効にCXCR4発見細胞に結合できるため、CXCR4関連がん又はその他の疾患(例えば、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫性疾患等)を有効に診断又は治療できる。
【0027】
以下、実施例を開示しながら本発明を説明するが、本発明は、それらに限定されない。
【実施例1】
【0028】
【0029】
式(II)で示す複合体は、RDD Lab, Inc.会社によって合成される。その合成工程を
図1に示し、生成物のNMR、HPLC及び質量分析結果を
図2~
図4に示す。そのうち、NMR分析データは、Aromatic H:7.2~8.4、N-CH2CH2-N H:2.2~2.7、C-CH2-C H:1.6、N-CH2-C H:3.7~3.8、N-CH2-ar. H:4.8。HPLCの結果から見ると、主成分のピーク時間が11.0minで、含有量(クロマトグラフィー純度)が97.52%(>95%)である。主成分の親分子のイオン質量分析は[M+H]+m/z=441であり、主成分の定義と合致する。
【実施例2】
【0030】
In-111を標識した本発明の複合体APD
【0031】
5~50ugの実施例1の複合体APD及び1~10mCi In-111(比活性度が50mCi/mL以上)を取って、75~95℃の酢酸緩衝液で15~30分間反応させることで、生成物であるIn-111を標識した複合体APDを得る。
【0032】
快速薄層クロマトグラフィー(Instant Thin Layer Chromatography、iTLC)を使用して放射性標識を分析したところ、放射性標識の効率が95%以上である。
【実施例3】
【0033】
本発明の複合体APDの結合効果の分析
【0034】
本実験例において、BIOVIAソフトウェアを利用して結合エネルギー(binding energy)分析を行う。本発明の複合体、対照薬物TIQ-15、及びCXCR4の特殊な位置のアミノ酸(TRP94、HIS113、TYR116、ASP97、ALA98及びILE185)に対してドッキングを行って、計算した結果を表1に示す。
【0035】
【0036】
結果から分かるように、本発明の複合体APDの結合エネルギーは、対照薬物よりはるかに低い。よって、本発明の複合体は、より優れた感度及び特異性を有し、CXCR4関連がん及びその他の関連疾患を診断するための医薬品として適している。
【実施例4】
【0037】
乳がん動物モデルを利用して本発明の放射性核種を標誌した複合体の効果を評価する
【0038】
本発明の複合体0.1~0.5mCiを取って、尾静脈注射によって乳がん腫瘍のマウスに注射し、生物に1~6時間分布した後、単一光子コンピュータ断層撮影(SPECT)で画像化する。
【0039】
本実験例の結果を
図5に示す。結果から分かるように、本発明の複合体を注射してから2時間後、腫瘍部位で明らかな薬物蓄積が認められる。
【0040】
以上、本発明の実施例を開示したが、本発明は、それらに限定されない。当業者が本発明の精神に基づいてなされた変更は、いずれも本発明に含む。