IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 飯塚 貴嗣の特許一覧

<>
  • 特許-成膜装置、成膜ユニット及び成膜方法 図1
  • 特許-成膜装置、成膜ユニット及び成膜方法 図2
  • 特許-成膜装置、成膜ユニット及び成膜方法 図3
  • 特許-成膜装置、成膜ユニット及び成膜方法 図4
  • 特許-成膜装置、成膜ユニット及び成膜方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜ユニット及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20230307BHJP
   C23C 14/02 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C23C14/24 F
C23C14/02 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021549716
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041602
(87)【国際公開番号】W WO2022097286
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】519436389
【氏名又は名称】飯塚 貴嗣
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 貴嗣
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-011393(JP,A)
【文献】特開2013-147743(JP,A)
【文献】特開昭62-290867(JP,A)
【文献】特表2008-519163(JP,A)
【文献】特開2009-182140(JP,A)
【文献】特開平07-094412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
C23C 14/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
せん断加工を行うための孔を有する金型を成膜する成膜装置であって、
前記金型が収容されるチャンバーと、
前記チャンバー内に設けられ、前記金型を前記孔が上下方向に開口する状態で支える支持部と、
前記チャンバー内に設けられ、金属イオンが発生する蒸発面を有する蒸発源とを備え、
前記蒸発源は、前記蒸発面が向く所定方向に、前記金型の前記孔の内周面の一部が位置するように、前記所定方向が水平方向に対して傾く状態で設置されている、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記支持部に負の電圧を印加することで、前記金型に負の電圧を印加するバイアス電源と、
前記蒸発源に正の電圧を印加することで、前記蒸発面にアーク放電を生じさせて前記金属イオンを発生させる放電電源と、を更に備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記蒸発源は、
前記金型の前記孔の前記内周面の前記一部に前記金属イオンを衝突させて、前記内周面の前記一部の洗浄を行うボンバード工程と、洗浄後の前記内周面の前記一部に前記金属イオンを衝突させて、前記金属イオンで前記内周面を成膜する成膜工程とを行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記支持部は、鉛直方向に対して平行な軸周りに回転可能である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記支持部は、上下方向の位置を変更可能である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記蒸発源は、前記蒸発面が向く前記所定方向が変更可能である、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記チャンバーは、チャンバー本体と、前記チャンバー本体に着脱可能に取り付けられた扉と、を有し、
前記蒸発源は、前記扉に取り付けられている、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項8】
せん断加工を行うための孔を有する金型が前記孔が上下方向に開口する状態で収容されるチャンバー本体に着脱可能に取り付けられる扉と、
前記扉に設けられ、金属イオンが発生する蒸発面を有する蒸発源とを備え、
前記蒸発源は、水平方向に対して前記蒸発面が向く所定方向が傾く状態で設置されている、
ことを特徴とする成膜ユニット。
【請求項9】
せん断加工を行うための孔を有する金型を成膜する成膜方法であって、
前記孔が上下方向に開口するように、前記金型をチャンバー内に配置する配置工程と、
前記金型の前記孔の内周面にイオンを衝突させて、前記内周面を洗浄するボンバード工程と、
前記チャンバー内に設置された蒸発源から生じた金属イオンで前記内周面を成膜する成膜工程と、を備え、
前記蒸発源は、前記金属イオンが生じる蒸発面を有し、
前記蒸発面が向く所定方向に、前記金型の前記孔の前記内周面の一部が位置するように、前記所定方向が水平方向に対して傾く状態で設置されている、
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項10】
前記ボンバード工程は、前記蒸発源から生じる前記金属イオンを前記金型の前記孔の前記内周面に衝突させることで、前記内周面を洗浄する工程である、
ことを特徴とする請求項9に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜装置、成膜ユニット、及び成膜方法に関し、より詳しくは、孔を有する基材を成膜する成膜装置、成膜ユニット、及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プレス加工のときに用いられる金型等の基材を成膜する成膜装置が記載されている。
【0003】
この成膜装置は、基材が収容される真空チャンバと、真空チャンバの内壁面に設けられた蒸発源と、真空チャンバ内に収容された基材を上下軸心(上下方向に対して平行な軸心)周りに回転駆動するワークテーブルと、を備える。蒸発源は、蒸発源に取り付けられた蒸発材料を蒸発させ、そのときに発生した金属イオンを基材の表面に照射する。
【0004】
ところで、この成膜装置では、蒸発源は金属イオンを照射する照射面が水平方向に向いている。そのため、基材が有する孔の内周面を成膜するためには、例えば、照射面に対向する(言い換えると正対する)方向に孔の内周面の一部が位置するように基材を傾けて配置する必要がある。そして、孔の内周面を周方向の全長にわたって成膜するためには、基材の向きを何度も変える必要がある。このように基材の向きを何度も変えて内周面の成膜を行うと、内周面に形成される膜の厚みが周方向にわたって一定となりにくく、膜の密着性が安定しないおそれがある。
【0005】
また、基材を傾けて配置すると、基材の孔の内周面に金属イオンが衝突した初期段階において内周面から剥がれ落ちた酸化膜等の不純物が、内周面の他の部分に堆積しやすく、膜の密着性の低下の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国公開特許公報2014-114507号
【発明の概要】
【0007】
本開示は、基材が有する孔の内周面をコーティングする膜の密着性を向上させることができる成膜装置、成膜ユニット及び成膜方法を提案することを、目的とする。
【0008】
本開示に係る一態様の成膜装置は、孔を有する基材を成膜する成膜装置である。一態様の成膜装置は、前記基材が収容されるチャンバーと、前記チャンバー内に設けられ、前記基材を前記孔が上下方向に開口する状態で支える支持部と、前記チャンバー内に設けられ、金属イオンが発生する蒸発面を有する蒸発源とを備える。前記蒸発源は、前記蒸発面が向く所定方向に、前記基材の前記孔の内周面の一部が位置するように、前記所定方向が水平方向に対して傾く状態で設置されている。
【0009】
また、本開示に係る一態様の成膜ユニットは、孔を有する基材が収容されるチャンバー本体に着脱可能に取り付けられる扉と、前記扉に設けられ、金属イオンが発生する蒸発面を有する蒸発源とを備える。前記蒸発源は、前記蒸発面が向く所定方向が水平方向に対して傾く状態で設置されている。
【0010】
また、本開示に係る一態様の成膜方法は、孔を有する基材を成膜する成膜方法である。一態様の成膜方法は、配置工程と、ボンバード工程と、成膜工程と、を備える。配置工程では、前記孔が上下方向に開口するように、前記基材をチャンバー内に配置する。ボンバード工程では、前記基材の前記孔の内周面にイオンを衝突させて、前記内周面を洗浄する。成膜工程では、前記チャンバー内に設置された蒸発源から生じた金属イオンで前記内周面を成膜する。前記蒸発源は、前記金属イオンが生じる蒸発面を有し、前記蒸発面が向く所定方向に、前記基材の前記孔の前記内周面の一部が位置するように、前記所定方向が傾く状態で設置されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示に係る一実施形態の成膜装置を概略的に示す正面図である。
図2図2は、同上の成膜装置を概略的に示す平面図である。
図3図3は、図1の要部を拡大して示す正面図である。
図4図4Aから図4Dは、同上の成膜装置を用いて基材の孔の内周面を成膜する成膜方法を順に示す正面図である。
図5図5は、同上の成膜装置の変形例を概略的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
1.概要
図1及び図2に示す一実施形態の成膜装置1は、孔20を有する基材2を成膜する成膜装置である。成膜装置1は、基材2が収容されるチャンバー3と、チャンバー3内に設けられ、基材2を孔20が上下方向に開口する状態で支える支持部4と、チャンバー3内に設けられ、金属イオン50が発生する蒸発面520を有する蒸発源5とを備える。蒸発源5は、蒸発面520が向く所定方向D1に、基材2の孔20の内周面200の一部が位置するように、所定方向D1が水平方向に対して傾く状態で設置されている。
【0013】
また、一実施形態の成膜ユニット10は、孔20を有する基材2が収容されるチャンバー本体30に着脱可能に取り付けられる扉31(32)と、扉31(32)に設けられ、金属イオン50が発生する蒸発面520を有する蒸発源5とを備える。蒸発源5は、蒸発面520が向く所定方向D1が水平方向に対して傾く状態で設置されている。
【0014】
また、図4Aから図4Dに示す一実施形態の成膜方法は、孔20を有する基材2を成膜する成膜方法である。この成膜方法は、配置工程と、ボンバード工程と、成膜工程と、を備える。配置工程は、孔20が上下方向に開口するように、基材2をチャンバー3内に配置する。ボンバード工程は、基材2の孔20の内周面200にイオンを衝突させて、内周面200を洗浄する。成膜工程は、チャンバー3内に設置された蒸発源5から生じた金属イオン50で内周面200を成膜する。蒸発源5は、金属イオン50が生じる蒸発面520を有し、蒸発面520が向く所定方向D1に内周面200の一部が位置するように、所定方向D1が水平方向に対して傾く状態で設置されている。
【0015】
上記構成を備える一実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10及び成膜方法では、孔20が上下方向に開口する状態の基材2に対して、孔20の内周面200に金属イオン50を当てることができる。そのため、一実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10及び成膜方法では、成膜の過程において、金属イオン50等のイオンとの衝突によって内周面200から剥がれ落ちた酸化膜等の不純物が、内周面200の一部に堆積することを抑制できる。そのうえ、一実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10及び成膜方法では、不純物が取り除かれた状態の内周面200に対して、所定方向D1が水平方向に対して傾く状態で設置された蒸発源5から金属イオン50を当てることができる。そのため、一実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10及び成膜方法では、内周面200に対して金属イオン50を厚く当てやすくて、金属イオン50で形成される膜を内周面200に密着させやすい。したがって、一実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10及び成膜方法では、基材2が有する孔20の内周面200をコーティングする膜の密着性を向上させることができる。
【0016】
2.詳細
2-1.成膜装置
続いて、一実施形態の成膜装置1について更に詳しく説明する。成膜装置1は、物理的蒸着法(PVD(physical vapor deposition)法)を利用して、基材表面に薄膜を形成する装置である。本実施形態では、成膜装置1は、真空アーク放電により蒸発材料を蒸発させて基材表面を成膜するアークイオンプレーティング法を行う装置である。
【0017】
基材2は、プレス加工に用いられる金型であり、より詳しくは、せん断加工を行うための抜き型である。基材2は、上下方向に開口した孔20を有する。本実施形態では、孔20は、基材2を上下方向に貫通しており、上方と下方の両方に開口している。孔20の内周面200の下部には、下側の部分ほど孔20の開口面積が大きくなるように抜き勾配が付いている。孔20の平面視における形状は、円形、楕円形、多角形等である。
【0018】
成膜装置1は、チャンバー3、支持部4、及び蒸発源5に加えて、バイアス電源6、放電電源7、ガス供給装置(図示せず)、減圧装置(図示せず)、及びヒーター8を備える。
【0019】
チャンバー3は、図2に示すように、平面視において八角形の形状をした空洞を形成する筐体である。チャンバー3は、減圧装置によって内部を真空状態に減圧することが可能であり、真空状態の内部を気密に保持できる。
【0020】
チャンバー3は、チャンバー本体30と、チャンバー本体30に着脱可能に取り付けられた一対の扉31,32と、を備える。一対の扉31,32は対向している。一対の扉31,32の間にチャンバー本体30が位置する。一対の扉31,32のうち少なくとも一方を開くことで、チャンバー3の内部空間が露出する。
【0021】
本実施形態では、一対の扉31,32のそれぞれは、八角形の8つの辺のうちの連続する3つの辺を構成する3つの側壁310,320を有する。チャンバー本体30は、八角形の8つの辺のうち、対向する2つの辺を構成する二つの側壁300を有する。
【0022】
チャンバー3には、チャンバー3の内部にアルゴン等の不活性ガスを供給するガス供給装置と、チャンバー3の内部の空気を排出してチャンバー3の内部を真空状態まで減圧することができる減圧装置と、が接続されている。ガス供給装置と減圧装置は、例えば、チャンバー本体30の側壁300に接続される。なお、ガス供給装置は、不活性ガスに限らず、成膜に必要な他のガスを供給可能であってもよい。
【0023】
また、チャンバー3内には、チャンバー3の内部を加熱して、基材2の表面の水分等の付着物を蒸発させるヒーター8が設けられている。ヒーター8は、例えば、チャンバー本体30の二つの側壁300のそれぞれに取り付けられている。
【0024】
チャンバー本体30の底部には、ワークテーブル9が設けられている。ワークテーブル9は、平面視円形状の台である。ワークテーブル9は、チャンバー3の底部の略中心を通る鉛直な軸心周りに回転可能なテーブル本体90と、テーブル本体90に回転可能かつ昇降可能に設けられた複数の支持台91と、を有する。
【0025】
複数の支持台91のそれぞれは、平面視円形状の台であり、支持台91の平面視における略中心を通る鉛直な軸心周りに回転可能である。複数の支持台91は、テーブル本体90の軸心の周囲に、テーブル本体90の周方向に等間隔に配置されている。本実施形態では、ワークテーブル9は、6つの支持台91を備えている。ワークテーブル9は、テーブル本体90がその軸心周りに回転しつつ、複数の支持台91のそれぞれがその軸心周りに回転する。なお、テーブル本体90の回転と各支持台91の回転とは連動しなくてもよく、個別に制御されてもよい。
【0026】
支持台91には、複数の基材2を上下方向に離れた状態で保持する保持具(図示せず)を設置可能である。支持台91に保持具を設置することで、支持台91上には複数の基材2を上下方向に間隔をおいて設置することができる。これにより、複数の基材2のそれぞれを、テーブル本体90の軸心周りに回転させるとともに、各支持台91の軸心周りに回転させることができる。
【0027】
本実施形態では、図1に示すように、各支持台91は、テーブル本体90に対して昇降可能に設けられている。各支持台91は、例えば、利用者が制御装置を制御することによって、支持台91に載せた基材2が蒸発源5の蒸発面520に対向する(正対する)ように、各支持台91の上下位置が調整される。なお、支持台91の高さは、制御装置によって自動的に調整されてもよい。
【0028】
本実施形態では、支持部4は、支持台91である。なお、支持部4は、支持台91に設置される保持具であってもよいし、テーブル本体90であってもよい。
【0029】
ワークテーブル9には、ワークテーブル9に負の電圧を印加するバイアス電源6が接続されている。バイアス電源6がワークテーブル9に負の電圧を印加することで、ワークテーブル9の支持台91に支持された基材2に、負の電圧が印加される。
【0030】
蒸発源5は、チャンバー3内に設けられる。蒸発源5は、金属イオン50が発生する蒸発面520を有する。蒸発源5は、蒸発面520が向く所定方向D1に、基材2の孔20の内周面200の一部が位置するように、所定方向D1が水平方向に対して傾く状態で設置されている。
【0031】
より詳しくは、蒸発源5は、筐体51と、筐体51に着脱可能に装着される蒸発材料52と、を有する。筐体51は、蒸発材料52が装着される取付面510を有する。取付面510は、支持部4に支持された基材2に対向する(正対する)面である。筐体51は、取付面510が支持部4に支持された基材2に向くように、チャンバー3の側壁に取り付けられている。本実施形態では、取付面510は、斜め下方を向いている。
【0032】
蒸発材料52は、円板等の板状の部材である。蒸発材料52は、厚み方向の片側に、金属イオン50が発生する蒸発面520を有する。蒸発面520が向く所定方向D1とは、蒸発材料52の厚み方向のうち、蒸発面520が向く方向を意味する。蒸発面520が向く所定方向D1と、筐体51の取付面510が向く方向とは同じである。
【0033】
蒸発源5には、蒸発材料52の蒸発面520にアーク放電を生じさせる放電電源7が接続されている。蒸発源5には、放電電源7の正極が接続されている。放電電源7から蒸発源5に正の電圧が印加され、蒸発面520にアーク放電が生じることで、蒸発材料52が溶解、蒸発して、蒸発面520から金属イオン50の蒸気が発生する。
【0034】
本実施形態では、成膜装置1は、図1及び図2に示すように、複数(詳しくは8つ)の蒸発源5を備える。蒸発源5は、チャンバー3の一対の扉31,32のそれぞれに取り付けられており、チャンバー本体30には取り付けられていない。蒸発源5は、一対の扉31,32の三つの側壁310,320のうち、中間に位置する側壁310a,320aを除いた残りの二つの側壁310b,320bのそれぞれに、上下方向に間隔をおいて二つずつ取り付けられている。
【0035】
本実施形態では、各蒸発源5は、蒸発面520が向く所定方向D1が水平方向に対して15~30度の角度をなすように設置されており、蒸発面520が斜め下方を向いている。蒸発面520に対向する位置に、支持部4に支持された基材2が設置される。なお、各蒸発源5の設置角度は、適宜設定可能である。
【0036】
2-2.成膜ユニット
続いて、一実施形態の成膜ユニット10について更に詳しく説明する。成膜ユニット10は、上述した成膜装置1の一部を構成する。
【0037】
成膜ユニット10は、チャンバー本体30に着脱可能に取り付けられる扉31(32)と、扉31(32)に設けられ、金属イオン50が発生する蒸発面520を有する蒸発源5とを備える。蒸発源5は、蒸発面520が向く所定方向D1が水平方向に対して傾く状態で設置されている。
【0038】
本実施形態の成膜装置1は、二つの成膜ユニット10を備えている。二つの成膜ユニット10のうちの一方が扉31を有し、他方が扉32を有する。
【0039】
一方の成膜ユニット10は、扉31の二つの側壁310bのうちの一方の端部がチャンバー本体30の側壁300に、ヒンジを介して回転可能に接続されている。また、他方の成膜ユニット10は、扉32の二つの側壁320bのうちの一方がチャンバー本体30の側壁300に、ヒンジを介して回転可能に接続されている。二つの成膜ユニット10のそれぞれは、チャンバー本体30に対して着脱可能である。
【0040】
成膜ユニット10は、既設のチャンバー3の一対の扉の交換部品としても利用可能である。また、成膜ユニット10は、単体で販売可能である。
【0041】
2-3.成膜方法
続いて、上述した成膜装置1を用いて基材2の孔20の内周面200を成膜する成膜方法について詳しく説明する。
【0042】
成膜方法は、配置工程、減圧工程、加熱工程、ボンバード工程、及び成膜工程を備える。
【0043】
配置工程では、孔20が上下方向に開口するように、基材2をチャンバー3内に配置する。本実施形態の配置工程では、まず、チャンバー3の一対の扉31,32のうちの少なくとも一方を開いた後、ワークテーブル9の複数の支持台91のうちの少なくとも一つの支持台91の上に、孔20が上方に向けて開口するように、基材2を載せる。基材2を支持台91の上に載せたら、一対の扉31,32を閉じて、チャンバー3の内部空間を密閉状態とする。
【0044】
減圧工程では、減圧装置を用いてチャンバー3の内部の空気を排出し、チャンバー3の内部を真空状態とする。その後、ガス供給装置を用いてチャンバー3の内部にアルゴンガス等の不活性ガスや成膜に必要なガスを供給する。
【0045】
加熱工程では、ヒーター8によりチャンバー3の内部を加熱し、基材2の表面に付着している水分等の不純物を蒸発させる。
【0046】
ボンバード工程では、基材2の孔20の内周面200にイオンを衝突させて、内周面200を洗浄する。成膜工程では、チャンバー3内に設置された蒸発源5から生じた金属イオン50で内周面200を成膜する。ここで、蒸発源5は、金属イオン50が生じる蒸発面520を有し、蒸発面520が向く所定方向D1に内周面200の一部が位置するように、所定方向D1が水平方向に対して傾く状態で設置されている。
【0047】
本実施形態のボンバード工程は、蒸発源5から生じる金属イオン50を基材2の孔20の内周面200に衝突させることで、内周面200を洗浄する工程である。
【0048】
より詳しくは、本実施形態のボンバード工程及び成膜工程では、図3に示すように、蒸発源5の蒸発面520に対向する(正対する)位置に、基材2の孔20の内周面200の一部が位置するように、支持台91の上下位置を調整する。次いで、蒸発源5に放電電源7から正の電圧を印加し、蒸発材料52の蒸発面520にアーク放電を生じさせることで、蒸発面520から金属イオン50の蒸気を生じさせる。次いで、バイアス電源6からワークテーブル9に負の電圧を印加し、基材2に負の電圧を印加する。これにより、蒸発源5の蒸発材料52の蒸発面520から蒸発した金属イオン50が基材2に向けて高速で移動し、金属イオン50が基材2の孔20の内周面200の一部(詳しくは、内周面200のうち、蒸発面520に対向する(正対する)部分)に衝突する。
【0049】
ボンバード工程及び成膜工程では、ワークテーブル9のテーブル本体90と基材2を載せた支持台91とをそれぞれ回転させて、基材2を回転させる。これにより、基材2の孔20の内周面200のうち、蒸発源5から照射される金属イオン50の衝突する部分が変化して、基材2の孔20の内周面200の上部(例えば孔20の上端から5~10mmの範囲)が周方向の全長にわたって、金属イオン50が衝突する。
【0050】
蒸発源5から発生した金属イオン50が基材2の孔20の内周面200に衝突する工程のうちの初期段階がボンバード工程であり、初期段階以降の段階が成膜工程である。本実施形態のボンバード工程では、蒸発源5から発生した金属イオン50が内周面200に衝突することで、内周面200に付着した酸化膜等の不純物が剥ぎ落とされる。つまり、本実施形態のボンバード工程では、基材2の表面に金属イオン50を衝突させて洗浄を行うメタルイオンボンバードが行われる。ここで、基材2の孔20の内周面200の下部は、孔20の開口面積が下側ほど広くなるように抜き勾配が付いているため、内周面200の一部から剥がれ落ちた不純物は、内周面200の他の一部に堆積せず、支持台91上に落下する。
【0051】
本実施形態のボンバード工程では、回転する基材2の孔20の内周面200の上部に金属イオン50が衝突することで、図4A図4Bに示すように、内周面200の上部の酸化膜等の不純物F1が内周面200の周方向の全長にわたって剥がれ落ちる。
【0052】
本実施形態の成膜工程では、回転する基材2の孔20の不純物F1が除去された内周面200の上部に金属イオン50が衝突することで、図4C図4Dに示すように、内周面200の上部が周方向の全長にわたって金属イオン50で成膜される(言い換えると金属イオン50の膜F2が形成される)。なお、図4Aから図4Dでは、不純物F1及び膜F2について、模式的に図示している。
【0053】
内周面200のうち上部を除く残りの部分は、蒸発面520に対向(正対)していないため、金属イオン50が衝突しにくく、不純物F1の除去や金属イオン50による成膜が行われにくい。
【0054】
また、本実施形態の成膜方法によれば、蒸発面520から発生した金属イオン50が、基材2の孔20の内周面200だけでなく、基材2の上面及び外周面にも衝突するため、基材2の上面及び外周面に対してもボンバード工程と成膜工程を行うことができる。
【0055】
3.作用効果
以上説明した本実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10及び成膜方法では、孔20が上下方向に開口する状態の基材2に対して、孔20の内周面200に金属イオン50を当てることができる。そのため、成膜の一工程(詳しくはボンバード工程)において、イオン(金属イオン50)との衝突によって内周面200から剥がれ落ちた不純物が、内周面200の一部に堆積することを抑制できる。そのうえ、本実施形態の成膜装置1では、不純物が取り除かれた状態の内周面200に対して、所定方向D1が水平方向に対して傾く状態で設置された蒸発源5から金属イオン50を当てることができる。そのため、本実施形態の成膜装置1では、内周面200に対して金属イオン50を厚く当てやすくて、金属イオン50で形成される膜を内周面200に密着させやすい。したがって、本実施形態の成膜装置1では、基材2が有する孔20の内周面200をコーティングする膜の密着性を向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10、及び成膜方法では、基材2を支持する支持部4(支持台91)の上下位置の調整が可能であるため、蒸発源5の蒸発面520に対向(正対)した位置に、基材2の孔20の内周面200を配置しやすい。そのため、本実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10、及び成膜方法では、基材2の孔20の内周面200に対して、蒸発源5の蒸発面520で発生した金属イオン50を衝突させやすく、ボンバード工程及び成膜工程が効率良く行える。これにより、ボンバード工程及び成膜工程に必要な蒸発材料52の量を抑えることができる。
【0057】
また、本実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10、及び成膜方法では、支持台91が回転可能であるため、基材2が回転可能であり、蒸発源5で発生した金属イオン50を、基材2の孔20の内周面200に対して周方向の全長にわたって衝突させることができる。そのため、本実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10、及び成膜方法では、基材2の孔20の内周面200をコーティングする金属イオン50の膜厚を、内周面200の周方向の全長にわたって一定としやすく、膜の密着性が安定しやすい。
【0058】
また、本実施形態の成膜装置1、成膜ユニット10、及び成膜方法では、基材2の孔20の内周面200のうち上部のみ金属イオン50の膜が形成される。本実施形態では、基材2はプレス加工用の抜き型であるため、孔20の内周面200の上部をコーティングする膜の密着性が重要であり、孔20の内周面200の下部への膜の形成は不要である。
【0059】
4.変形例
続いて、上述した成膜装置1及び成膜方法の変形例について説明する。以下に説明する各変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0060】
成膜装置1は、物理的蒸着法(PVD法)を利用して、基材2の表面に薄膜を形成する装置であればよく、アークイオンプレーティング法以外の方法によって成膜を行う装置であってもよい。
【0061】
成膜装置1は、蒸発源5とは別にボンバード工程を行うボンバード装置を備えてもよい。ボンバード装置は、例えば、チャンバー3の内部空間にグロー放電を生じさせることで、不活性ガスをイオン化するカソード(陰電極)とアノード(陽電極)を有する。この場合、ボンバード装置によって不活性ガスのイオンを生じさせた状態で、バイアス電源6からワークテーブル9に負の電圧を印加し、基材2に負の電圧を印加することで、不活性ガスのイオンを基材2の内周面200に衝突させて、内周面200を洗浄する。不活性ガスのイオンによる内周面200の洗浄が終わった後、蒸発源5によって内周面200に金属イオン50による成膜を行う。
【0062】
成膜装置1は、蒸発源5の蒸発面520が向く所定方向D1に、基材2の孔20の内周面200の一部が位置するように、所定方向D1が水平方向に対して傾く状態で設置されたものであればよく、図1、2に示す構造に限定されない。例えば、成膜装置1は、バイアス電源6及び放電電源7を備えなくてもよい。成膜装置1は、アーク放電以外の方法で、蒸発面520から金属イオン50を発生させるものであってもよい。また、成膜装置1は、バイアス電源6で基材2に負の電圧を印加する方法以外の方法で、蒸発面520から基材2へと金属イオン50を向かわせるものであってもよい。
【0063】
支持部4は、鉛直方向に対して平行な軸周りに回転可能でなくてもよい。この場合、例えば、蒸発源5を、支持部4(基材2)の周囲を円軌道で移動するように設ければよい。
【0064】
また、支持部4は、上下方向の位置が変更可能でなくてもよい。この場合、例えば、蒸発源5を、上下方向に移動可能に設ければよい。
【0065】
また、蒸発源5は、図5に示す変形例のように、蒸発面520が向く所定方向D1が変更可能であってもよい。所定方向D1は、例えば、水平方向に対して-30度から+30度の範囲で変更可能である。この場合、例えば、蒸発源5は、角度の調整可能な支持機構を介してチャンバー3の側壁に取り付けられれる。支持機構による蒸発源5の角度調整は、例えば、利用者が制御装置を操作することで、自動的に行える。なお、支持機構は、利用者が手動で操作してもよい。
【0066】
また、成膜装置1は、扉31(32)に蒸発源5が取り付けられたものに限らず、チャンバー本体30に蒸発源5が取り付けられたものであってもよい。
【0067】
また、成膜装置1は、蒸発面520が向く所定方向D1が、水平方向に対して傾く状態に設置された蒸発源5に加えて、蒸発面520が水平方向を向く従来の蒸発源5を備えてもよい。
【0068】
また、成膜装置1は、上下に並ぶ二つの蒸発源5のうち、上側の蒸発源5を蒸発面520が斜め下方を向くように設置し、下側の蒸発源5を蒸発面520が斜め上方を向くように設置してもよい。この場合、支持台91に設置した保持部材によって保持された基材2の孔20の内周面200に対して、斜め上方と斜め下方の両方から金属イオン50を衝突させることができて、内周面200を上下方向にわたって成膜することができる。また、成膜装置1は、複数の蒸発源5の全てが、蒸発面520が斜め上方を向くように設置してもよい。
【0069】
5.まとめ
以上説明した実施形態及びその変形例のように、第一態様の成膜装置(1)は、下記の構成を備える。
【0070】
すなわち、第一態様の成膜装置(1)は、孔(20)を有する基材(2)を成膜する成膜装置である。成膜装置(1)は、基材(2)が収容されるチャンバー(3)と、チャンバー(3)内に設けられ、基材(2)を孔(20)が上下方向に開口する状態で支える支持部(4)と、チャンバー(3)内に設けられ、金属イオン(50)が発生する蒸発面(520)を有する蒸発源(5)とを備える。蒸発源(5)は、蒸発面(520)が向く所定方向(D1)に、基材(2)の孔(20)の内周面(200)の一部が位置するように、水平方向に対して所定方向(D1)が傾く状態で設置されている。
【0071】
上記構成を備える第一態様の成膜装置(1)では、孔(20)が上下方向に開口する状態の基材(2)に対して、孔(20)の内周面(200)に金属イオン(50)を当てることができる。そのため、第一態様の成膜装置(1)では、成膜の過程において、金属イオン(50)等のイオンとの衝突によって内周面(200)から剥がれ落ちた酸化膜等の不純物が、内周面(200)の一部に堆積することを抑制できる。そのうえ、第一態様の成膜装置(1)では、不純物が取り除かれた状態の内周面(200)に対して、水平方向に対して所定方向(D1)が傾く状態で設置された蒸発源(5)から金属イオン(50)を当てることができる。そのため、第一態様の成膜装置(1)では、内周面(200)に対して金属イオン(50)を厚く当てやすくて、金属イオン(50)で形成される膜を内周面(200)に密着させやすい。したがって、第一態様の成膜装置(1)では、基材(2)が有する孔(20)の内周面(200)をコーティングする膜の密着性を向上させることができる。
【0072】
また、上述した実施形態及びその変形例のように、第二態様の成膜装置(1)は、第一態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0073】
すなわち、第二態様の成膜装置(1)は、支持部(4)に負の電圧を印加することで、基材(2)に負の電圧を印加するバイアス電源(6)と、蒸発源(5)に正の電圧を印加することで、蒸発面(520)にアーク放電を生じさせて金属イオン(50)を発生させる放電電源(7)と、を更に備える。
【0074】
上記構成を備える第二態様の成膜装置(1)では、蒸発面(520)から発生した金属イオン(50)が基材(2)に向かって高速で移動しやすく、基材(2)の孔(20)の内周面(200)に金属イオン(50)を衝突させやすくて、内周面(200)に金属イオン(50)の膜を形成しやすい。
【0075】
また、上述した実施形態及びその変形例のように、第三態様の成膜装置(1)は、第二態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0076】
すなわち、第三態様の成膜装置(1)では、蒸発源(5)は、ボンバード工程と、成膜工程とを行う。ボンバード工程では、基材(2)の孔(20)の内周面(200)の一部に金属イオン(50)を衝突させて、内周面(200)の一部の洗浄を行う。成膜工程では、洗浄後の内周面(200)の一部に金属イオン(50)を衝突させて、金属イオン(50)で内周面(200)を成膜する。
【0077】
上記構成を備える第三態様の成膜装置(1)では、基材(2)の孔(20)の内周面(200)に金属イオン(50)を厚く衝突させやすいため、内周面(200)に付着した酸化膜等の不純物を除去しやすい。また、第三態様の成膜装置(1)では、蒸発源(5)とは別にボンバード工程を行うための装置を備える必要がないため、構造の簡素化が図れる。
【0078】
また、上述した実施形態及びその変形例のように、第四態様の成膜装置(1)は、第一から第三のいずれか一つの態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0079】
すなわち、第四態様の成膜装置(1)では、支持部(4)は、鉛直方向に対して平行な軸周りに回転可能である。
【0080】
上記構成を備える第四態様の成膜装置(1)では、支持部(4)に支持された基材(2)を鉛直方向に対して平行な軸周りに回転させることができるため、基材(2)の孔(20)の内周面(200)の周方向の全長に金属イオン(50)を当てやすい。そのため、第四態様の成膜装置(1)では、基材(2)の孔(20)の内周面(200)に形成される金属イオン(50)の膜厚が、内周面(200)の周方向の全長にわたって安定しやすい。
【0081】
また、上述した実施形態及びその変形例のように、第五態様の成膜装置(1)は、第一から第四のいずれか一つの態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0082】
すなわち、第五態様の成膜装置(1)では、支持部(4)は、上下方向の位置を変更可能である。
【0083】
上記構成を備える第五態様の成膜装置(1)では、支持部(4)に支持された基材(2)の上下方向の位置を変更することができるため、蒸発源(5)の蒸発面(520)に対向(正対)する位置へ基材(2)の孔(20)の内周面(200)を配置しやすくて、金属イオン(50)を内周面(200)に当てやすい。
【0084】
また、上述した実施形態の変形例のように、第六態様の成膜装置(1)は、第一から第五のいずれか一つの態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0085】
すなわち、第六態様の成膜装置(1)では、蒸発源(5)は、蒸発面(520)が向く所定方向(D1)が変更可能である。
【0086】
上記構成を備える第六態様の成膜装置(1)では、蒸発面(520)が向く所定方向(D1)を、基材(2)の孔(20)の内周面(200)の位置に合わせて適切な方向に変更することができるため、金属イオン(50)を内周面(200)に当てやすい。
【0087】
また、上述した実施形態の変形例のように、第七態様の成膜装置(1)は、第一から第六のいずれか一つの態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0088】
すなわち、第七態様の成膜装置(1)では、チャンバー(3)は、チャンバー本体(30)と、チャンバー本体(30)に着脱可能に取り付けられた扉(31,32)と、を有する。蒸発源(5)は、扉(31,32)に取り付けられている。
【0089】
上記構成を備える第七態様の成膜装置(1)では、蒸発源(5)が取り付けられた扉(31,32)をチャンバー本体(30)から取り外すことができるため、蒸発源(5)のメンテナンスや蒸発源(5)の取付角度を変更する作業が行いやすい。
【0090】
また、上述した実施形態及びその変形例のように、第八態様の成膜ユニット(10)は、下記の構成を備える。
【0091】
すなわち、第八態様の成膜ユニット(10)は、孔(20)を有する基材(2)が収容されるチャンバー本体(30)に着脱可能に取り付けられる扉(31,32)と、扉(31,32)に設けられ、金属イオン(50)が発生する蒸発面(520)を有する蒸発源(5)とを備える。蒸発源(5)は、蒸発面(520)が向く所定方向(D1)が水平方向に対して傾く状態で設置されている。
【0092】
上記構成を備える第八態様の成膜ユニット(10)では、チャンバー本体(30)に対して着脱可能であるため、例えば既設の成膜装置の扉の交換用部品として利用することができて、汎用性が高い。
【0093】
また、上述した実施形態及びその変形例のように、第九態様の成膜方法は、下記の構成を備える。
【0094】
すなわち、第九態様の成膜方法は、孔(20)を有する基材(2)を成膜する成膜方法である。第九態様の成膜方法は、配置工程と、ボンバード工程と、成膜工程とを備える。配置工程では、孔(20)が上下方向に開口するように、基材(2)をチャンバー(3)内に配置する。ボンバード工程では、基材(2)の孔(20)の内周面(200)にイオンを衝突させて、内周面(200)を洗浄する。成膜工程では、チャンバー(3)内に設置された蒸発源(5)から生じた金属イオン(50)で内周面(200)を成膜する。蒸発源(5)は、金属イオン(50)が生じる蒸発面(520)を有し、蒸発面(520)が向く所定方向(D1)に内周面(200)の一部が位置するように、水平方向に対して所定方向(D1)が傾く状態で設置されている。
【0095】
上記構成を備える第九態様の成膜方法では、孔(20)が上下方向に開口する状態の基材(2)に対して、孔(20)の内周面(200)にイオンを衝突させることができる。そのため、第九態様の成膜方法では、ボンバード工程において、イオンとの衝突によって内周面(200)から剥がれ落ちた不純物が、内周面(200)の一部に堆積することを抑制できる。そのうえ、第九態様の成膜方法では、不純物が取り除かれた状態の内周面(200)に対して、水平方向に対して所定方向(D1)が傾く状態で設置された蒸発源(5)から金属イオン(50)を当てることができる。そのため、第九態様の成膜方法では、内周面(200)に対して金属イオン(50)を厚く当てやすくて、金属イオン(50)で形成される膜を内周面(200)に密着させやすい。したがって、第九態様の成膜方法では、基材(2)が有する孔(20)の内周面(200)をコーティングする膜の密着性を向上させることができる。
【0096】
また、上述した実施形態及びその変形例のように、第十態様の成膜方法は、第九態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0097】
すなわち、第十態様の成膜方法では、ボンバード工程は、蒸発源(5)から生じる金属イオン(50)を基材(2)の孔(20)の内周面(200)に衝突させることで、内周面(200)を洗浄する工程である。
【0098】
上記構成を備える第十態様の成膜方法では、基材(2)の孔(20)の内周面(200)に金属イオン(50)を厚く衝突させやすいため、内周面(200)に付着した酸化膜等の不純物を除去しやすい。また、第十態様の成膜方法では、蒸発源(5)とは別にボンバード工程を行うための装置を備える必要がないため、成膜方法を実施する成膜装置(1)の構造の簡素化が図れる。
【0099】
以上、本開示を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本開示は上記の実施形態に限定されるものではなく、本開示の意図する範囲内であれば、適宜の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 成膜装置
2 基材
20 孔
200 内周面
3 チャンバー
30 チャンバー本体
31 扉
32 扉
4 支持部
5 蒸発源
50 金属イオン
52 蒸発材料
520 蒸発面
6 バイアス電源
7 放電電源
10 成膜ユニット
D1 所定方向
図1
図2
図3
図4
図5