(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】テント用ペグ
(51)【国際特許分類】
E04H 15/62 20060101AFI20230307BHJP
【FI】
E04H15/62 A
(21)【出願番号】P 2022118626
(22)【出願日】2022-07-26
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2021127882
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】393032125
【氏名又は名称】MCCアドバンスドモールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 元気
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 邦幸
(72)【発明者】
【氏名】西川 学
(72)【発明者】
【氏名】吉本 實
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-303062(JP,A)
【文献】特開2020-118019(JP,A)
【文献】実開平02-100446(JP,U)
【文献】特開2010-203223(JP,A)
【文献】実開平07-035645(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 15/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に
炭素繊維を含ませた材料からなり、曲げ弾性率が10000N/mm
2
以上であるテント用ペグ。
【請求項2】
ペグの軸線方向に軸心で切断した断面において、
JIS P 8208に規定されるパルプ-きょう雑物測定方法による測定で、ペグ先端から20mm以内に、
0.20mm
2
よりも大きな断面積の空壁が存在しない請求項1に記載のテント用ペグ。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂である請求項1又は2に記載のテント用ペグ。
【請求項4】
芳香族環をもつポリアミド系樹脂からなる
請求項3に記載のテント用ペグ。
【請求項5】
以下の試験系で引き抜き試験を行ったときのペグの引き抜き力が9kgf以上である請求項1又は2に記載のテント用ペグ。
(試験系)ペグを硬い地面に、その軸方向が地面表面に対して60°の交差角度をなすように向けて刺し込む。ペグの上部にワイヤーの端部を巻き付け、このワイヤーの他端部をペグの軸方向と直交する方向に引っ張ってペグに加わる荷重を測定し、ペグが地面から抜けたとき、ペグが破断し又は折れたときの荷重をペグの引き抜き力とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テントやタープのロープを地面に固定するためのテント用ペグ(以下、単に「ペグ」ともいう。)の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にテント用ペグは金属製のものが多い。テントの大きさによっては、一度に十数本のペグが必要になることがあり、その場合、金属製のペグの総重量は2kgを超え、キャンピングの際には、食糧などの荷物が多くあることと相まって運搬が意外に大変である。
【0003】
そのため、キャンピングの荷物の重量を少しでも減らしたいというニーズに対応するため、軽量化を狙った樹脂製のテント用ペグが利用されている(例えば特許文献1,2参照)。
また、炭素繊維素材からなるシートを削り出して製造されたペグ本体に合金製ペグキャップと合金製のペグ先を接合したペグも知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実公昭51-739号公報
【文献】特開平10-205174号公報
【文献】特開2020-118019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記軽量化を狙った樹脂製のテント用ペグは、強度が低く、硬い地面に打ち込もうとするとペグ全体が撓みやすく、打ち込みが難しいという問題があった。
また、単一の樹脂からなるものが多く、ロープを引っ掛けて引っ張ったときに、ロープに大きな荷重がかかると大きく撓み破断しやすいなどの問題もあった。
前記炭素繊維素材を用いたペグは、合金製のペグキャップとペグ先を接合する必要があり、ペグキャップとペグ先を別途接合する工程が必要なことや、廃棄時に分別する手間が発生する。
【0006】
本発明は従来の技術が有するこのような問題点に鑑み、軽量且つ高強度で低廉な価格で提供が可能な樹脂製のテント用ペグを開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者はテント用ペグの軽量化且つ高強度化について鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 熱可塑性樹脂に繊維状物を含ませた材料からなることを特徴とするテント用ペグ。
〔2〕 ペグの軸線方向に軸心で切断した断面において、
JIS P 8208に規定されるパルプ-きょう雑物測定方法による測定で、
ペグ先端から20mm以内に、0.20mm
2
よりも大きな断面積の空壁が存在しない前記〔1〕に記載のテント用ペグ。
〔3〕 繊維状物が炭素繊維である前記〔1〕又は〔2〕に記載のテント用ペグ。
〔4〕 熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂である前記〔1〕から〔3〕の何れかに記載のテント用ペグ。
〔5〕 芳香族環をもつポリアミド系樹脂からなる前記〔4〕に記載のテント用ペグ。
〔6〕 曲げ弾性率が10000N/mm2以上である前記〔1〕から〔5〕の何れかに記載のテント用ペグ。
〔7〕 以下の試験系で引き抜き試験を行ったときのペグの引き抜き力が9kgf以上である前記〔1〕から〔6〕の何れかに記載のテント用ペグ。
(試験系)ペグを硬い地面に、その軸方向が地面表面に対して60°の交差角度をなすように向けて刺し込む。ペグの上部にワイヤーの端部を巻き付け、このワイヤーの他端部をペグの軸方向と直交する方向に引っ張ってペグに加わる荷重を測定し、ペグが地面から抜けたとき、ペグが破断し又は折れたときの荷重をペグの引き抜き力とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軽量且つ高曲げ弾性率で、しかも低廉な価格のテント用ペグの提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態のテント用ペグの外観図である。
【
図2】実施例で行ったペグの曲げ試験の概略試験系を示した図である。
【
図3】実施例で行ったペグの引き抜き試験の概略試験系を示した図である。
【
図4】テントを張ったときにテントが受ける風圧とペグにかかる力の関係を示した、テントの平面図と側面図である。
【
図5】実施例9で3本のペグを切断した断面写真である。
【
図7】実施例10で3本のペグを切断した断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の好適な実施の形態について詳述するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で適宜変更して実施することが可能である。
【0012】
前述のとおり、本発明のテント用ペグは熱可塑性樹脂に繊維状物を含ませた材料からなる構成を有するものである。
かかる構成のテント用ペグは、ペグの曲げ弾性率が大きくなり、曲げ強度も高いものが得られることができ、また、コスト的にも炭素繊維シートを削り出すよりも安価に製造することが可能であり、金属製のものより軽く、しかも金属製のものと略同等の強度を具備することが可能である。
【0013】
テント用ペグの成形樹脂である熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテリイミド、ポリエーテルサルフォンなどの耐熱性の高いエンジニアリングプラスチックなどを用いることができる。特に加工コストの面と、機械的特性及び耐衝撃強度に優れている面とのバランスからポリアミド系樹脂が好ましい。
【0014】
上記ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができる。
具体的には、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーがあげられる。また、共重合ポリアミド系樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-P-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-P-フェニレン・3-4’ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、これらのポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものやメタキシリレンジアンモニウムアジペート等があげられる。
ポリアミド系樹脂でも、芳香族ポリアミド、直鎖型ポリアミドが好ましく、芳香族環を有するものであれば曲げ弾性率、曲げ強度が高く、さらに好ましい。
【0015】
熱可塑性樹脂に含有する繊維状物としては、炭素繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、アラミド繊維などを用いることができる。強度が高く、樹脂との密着性が良好な点で炭素繊維が好ましい。
炭素繊維としては、ポリアクリル繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油精製時の残渣であるピッチを原料とするピッチ系炭素繊維のいずれも使用できる。
炭素繊維の径については特に制限は無いが、通常平均繊維径1~30μmであり、好ましくは3~20μmであり、さらに好ましくは5~15μmである。
含有量としては、高ければ高いほど強度的には好ましく、熱可塑性樹脂の全量を100質量%とした場合に10質量%以上、さらには20質量%以上、よりさらには25質量%以上を含有していることが好ましい。なお、一般に60質量%を超えると、樹脂が溶融しても繊維の流動性が低くなり、成形が困難となりやすいので、60質量%以下、さらには50質量%以下、よりさらには45質量%以下の含有率であることが好ましい。
【0016】
本発明のテント用ペグは、射出成形金型に前記繊維状物を含む溶融した熱可塑性樹脂を射出充填し、金型内で溶融樹脂を冷却固化させることにより成形される。この場合、溶融樹脂を金型に充填するゲートが、ペグの軸方向に沿った頂部である先端部に配置(ダイレクトゲート)した方が、ペグの軸方向と直交する側部に配置(サイドゲート)した場合よりも、成形されたペグの曲げ特性が若干良くなる傾向がある。しかし、ダイレクトゲートでは、後述のようにペグの打ち込み試験で先端に割れが生じることがある。これはジェッティングによりペグの端部がもろくなったためと推察される。強度及び曲げ弾性の偏在をなくし、ペグ全体で強度及び曲げ弾性率を均等にするため、金型内に溶融樹脂が均等な速度で拡散させることができるサイドゲートを採用するのが好ましいと考えられる。
【0017】
本発明のテント用ペグについて図示した形態及び実施例に基づいてさらに詳述する。なお、以下に示す形態及び実施例は本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下に説明するものには限定されない。
【0018】
図1は本発明のテント用ペグの一実施形態であり、実施例で性能評価に用いたペグの外観を示している。
本発明のテント用ペグは、熱可塑性樹脂に繊維状物を含ませた溶融樹脂を射出成形金型内に射出充填し、冷却固化させて成形され、同図に示されるようにペグ1は、その先端部にロープを掛けるフック部11を備え、このフック11の下端から地面に突き刺す棒部12が突出した形状に形成してある。
【0019】
ペグ1の長さとしては、180mm以上、400mm以下であることが好ましい。180mm以上であればペグを片手で保持しながら先端部をハンマーで打撃する操作を容易、安全且つ確実に行える。400mm以下であれば地面に突き刺す棒部12が長くなりすぎず、ペグ1の打ち込み操作を容易に行うことが可能である。
前記棒部12の太さは、直径が7mm以上、15mm以下であることが好ましい。直径が7mm以上であれば、棒部12の曲げ強度を得ることができる。直径が15mm以下であれば、ペグ1をハンマーで打ち込む際の抵抗を抑えることができる。
棒部12の断面形状としては、丸円形状、楕円形状、四角形状、六角形状、八角形状等の多角形状、適宜な形状を採用することができる。楕円形状や六角以上の多角形状であれば、繊維状物が含有された熱可塑性樹脂を均一に射出成形することができ、ペグ1を固定した後の、ペグ1の軸方向への回転変位を抑制することができる。
【0020】
ペグ1の先端形状としては、棒部12から徐々に先細りをして、先細りの先端が曲率半径2mm以上、10mm以下であることが好ましい。先端の曲率半径が2mm以上であればペグ1をハンマーで打ち込む際に、先端が破損することを防止することができる。先端の曲率半径が10mm以下であれば、ペグ1をハンマーで打ち込む際に土に対する抵抗が大きくなりすぎず、容易に打ち込むことが可能である。
【0021】
ペグ1のフック部11の形状は、ロープや紐を引っ掛けることができるように、二股形状やロープや紐を結ぶことができるような孔を設けた形状に形成されていることが好ましい。
前記フック部11の幅は、棒部12の径に比して1.1倍以上、2.5倍以下の寸法に設定されていることが好ましい。1.1倍以上であればペグ1をハンマーで打ち込む際の操作が容易且つ確実であり、2.5倍以下であればペグ1の側方への張り出した部分が邪魔にならず、取り扱いに支障を来すことはない。
フック部11の長さとしては、ペグ1の長さ方向に10mm以上、40mm以下であることが好ましい。フック部11の長さが10mm以上であればロープや紐を係止した際に抜けを防止することができる。40mm以下であればペグ1を打ち込み過ぎによりフック部11が土に打設したとしてもフック部11での割れを抑制することが可能である。
図示した形態のペグ1は、フック部11の先端部の肉厚を厚く丸くして、ロープが抜け外れにくい形状とし、また、ペグ1を打設した際に、フック部11が地面にめり込みにくく、且つ折れにくい大きさに形成してある。また、フック部11のロープを通す孔の径は、ペグ1の棒部12の太さよりも若干大きな寸法となるように設定してある。
【0022】
以下の実施例では、
図1に示された形状であり、その全長(先端側が先細りする棒部12の他端部から前記先細りした先端部までの長さ)が280mm、棒部12の直径が9.315mmの寸法のペグ1を、成形材料を変えて成形し、その性能を評価した。なお、棒部12は実際には断面八角形であり、且つ先端が先細っていて全長が同じ太さではないが、弾性率等の評価値導出のため断面形状を直径が前記寸法の円形と想定して評価を行った。
【0023】
図2は、実施例で行った曲げ試験の概略試験系を示している。
曲げ試験では、試験機として万能材料試験機:AG-50kNXplus(株式会社島津製作所製)を用い、同図に示されるように、ペグ1をその中心部から軸方向両側に50mm離れた部分の下側をそれぞれ支持し、前記ペグ1の中心部に上方から負荷(同図中の白抜き矢符号)を加える三点(支点、荷重)曲げを実施して、ペグの曲げ弾性率と曲げ強度を導出した。試験速度は5mm/minに設定した。
曲げ弾性率は、〔得られたストローク(mm)-荷重(N)〕の曲線から荷重35N時と、60N時の応力と歪の値から計算した。なお、ペグ1の棒部12を直径が前記寸法の断面円形状として計算した。
また、曲げ強度は、ペグが破断した時の荷重から計算した。ペグ1の棒部12が断面円形状としたことは上記と同様である。
【0024】
図3は、実施例で行った引き抜き試験の概略試験系を示している。引き抜き試験は次のように実施した。
同図に示されるように、携帯三脚スタンド2:KT-10(タコマン株式会社製)のスタンド下部に滑車3を支持させ、この滑車3に外径φ6mmのハンディロープ4:R-511(クレモナ金剛打ロープ)を掛け回すとともに、このロープの一方の端部に、吊りはかりダイヤル式5:T-100の上部フックを接続し、さらに当該吊りはかり5の下部フックに、ペグ1のフック部11に締結した前記ハンディロープ4の端部を接続した。
硬い地面6に前記ペグ1の棒部12の先端部をあてがい、ペグ1の先端部を500gのハンマーで叩いて(同図中の黒色矢符)、ペグ1の棒部12を地面6に突き刺した。このとき、地面6に突き刺したペグ1の軸部(棒部12)と地面6との交差角度は60°となり、且つ吊りはかり5の下部フックに接続したロープ4がペグ1の軸方向に対して直交する方向に張られるようにして、フック11の下端部が地面に接する深さまで突き刺した。
そして、前記滑車3に掛け回したロープ4の他方の端部を鉛直下向きに荷重をかけ(
図3中の白抜き矢符)、ペグ1が地面から抜けたり、破断或いは折れたりした時の前記吊りはかり5のダイヤル式の数値を記録した。
【0025】
(実施例1)
図1に示されたペグを成形するための金型を作製し、これを射出成形機:ロゴショット100t(ファナック株式会社製)に取り付けた。
成形材料である繊維状物を含む熱可塑性樹脂としてKayronMAX S4240(三菱ケミカルアドバンスドマテリアル株式会社製、芳香族ポリアミド樹脂:PPA、炭素繊維含有量40wt%)を使用し、前記射出成型機を使用して溶融樹脂を前記金型内に射出充填してペグを成形した。
成形は、樹脂乾燥温度80℃:3時間以上、成形温度330℃、金型温度140℃、射出時間0.97秒、冷却時間30秒の成形条件で行った。なお、前記金型はそのゲートがペグの軸方向と直交する側部に配置(サイドゲート)されたものである。
【0026】
成形されたペグについて質量を測定し、さらに前述の曲げ試験と引き抜き試験を行って、曲げ弾性率、曲げ強度及び引き抜き力を測定した。これらの測定は、質量はN数2本(二本のペグ)、曲げ試験はN数3本(三本のペグ)、引き抜き試験はN数2本で実施し、平均値を測定値とした。
また、引き抜き試験においてハンマーで叩いてペグを地面に打ち込んだ際のペグの先端部の状態を目視で確認した。
測定結果と確認結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:24777N/mm2(24.8GPa)
・曲げ強度 :495N/mm2(495MPa)
・引き抜き力:60kgfで破断せず、地面から抜けることもなかった。
・質量:31.5g
・ペグの先端部の変形は確認されなかった。
【0027】
(実施例2)
成形材料としてKayronMAX S2330(三菱ケミカルアドバンスドマテリアル株式会社製、芳香族ポリアミド樹脂:PPA、炭素繊維含有量30wt%)を用いた以外は、実施例1と同じ金型、射出成形機及び成形条件で、ペグを成形した。
成形されたペグについて実施例1と同様な測定と確認を行った。結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:15551N/mm2(15.6GPa)
・曲げ強度 :420N/mm2(420MPa)
・引き抜き力:60kgfで破断
(引っ張る力が60kgfに達したときにペグが地面から抜けないまま破断)
・質量:28.8g
・ペグの先端部の変形は確認されなかった。
【0028】
(実施例3)
成形材料としてTLP-1060(東レ株式会社製、直鎖型ポリアミド樹脂:PA(6ナイロン)、炭素繊維含有量:30wt%)を用い、前記金型のゲートをペグの先端部(天端部)に配置(ダイレクトゲート)した以外は、実施例1と同じ金型、射出成形機及び成形条件でペグを成形した。
成形されたペグについて実施例1と同様な測定と確認を行った。結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:16090N/mm2(16.1GPa)
・曲げ強度 :389N/mm2(389MPa)
・引き抜き力:39kgfで破断
(引っ張る力が39kgfに達したときにペグが地面から抜けないまま破断)
・質量:28.3g
・ペグの先端部に割れの発生が確認された。
【0029】
(実施例4)
金型のゲートがサイドゲートの配置である以外、実施例3と同じ成形材料、金型、射出成形機及び成形条件でペグを成形した。
成形されたペグについて実施例1と同様な測定と確認を行った。結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:12547N/mm2(12.5GPa)
・曲げ強度 :366N/mm2(366MPa)
・引き抜き力:10kgfで破断
(引っ張る力が10kgfに達したときにペグが地面から完全に抜けないまま破断)
・質量:28.3g
・ペグの先端部の変形は確認されなかった。
【0030】
(実施例5)
成形材料しとしてパイロフィルNXMR-C40B(三菱ケミカル株式会社製、芳香族ポリアミド樹脂:PA(MXDA)、炭素繊維含有量40wt%)を用いるとともに、実施例1の成形金型でゲートの配置をダイレクトゲートにしたものと、実施例1と同じ射出成形機を用いてペグを成形した。
成形は、樹脂乾燥温度90℃:3時間以上、成形温度270℃、金型温度110℃、射出時間0.97秒、冷却時間30秒の成形条件で行った。
成形されたペグについて実施例1と同様な測定と確認を行った。結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:24407N/mm2(24.4GPa)
・曲げ強度 :547N/mm2(547MPa)
・引き抜き力:60kgfで破断せず、地面から抜けることもなかった。
・質量:31.5g
・ペグの先端部に割れの発生が確認された。
【0031】
(実施例6)
金型のゲートがサイドゲートの配置である以外、実施例5と同じ成形材料、金型、射出成形機及び成形条件でペグを成形した。
成形されたペグについて実施例1と同様な測定と確認を行った。結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:22784N/mm2(22.7GPa)
・曲げ強度 :531N/mm2(531MPa)
・引き抜き力:60kgfで破断せず、地面から抜けることもなかった。
・質量:31.5g
・ペグの先端部の変形は確認されなかった。
【0032】
(実施例7)
成形材料としてSEREEBO DSP201(帝人株式会社製、ポリカーボネート樹脂、炭素繊維含有量25wt%)を用い、実施例1と同じ金型、射出成形機を用いてペグを成形した。
成形は、樹脂乾燥温度120℃:3時間以上、成形温度300℃、金型温度110℃、射出時間0.97秒、冷却時間30秒の成形条件で行った。
成形されたペグについて実施例1と同様な測定と確認を行った。結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:13441N/mm2(13.4GPa)
・曲げ強度 :234N/mm2(234MPa)
・引き抜き力:10kgfで破断
(引っ張る力が10kgfに達したときにペグが地面から完全に抜けないまま破断)
・質量:29.4g
・ペグの先端部に割れの発生が確認された。
【0033】
(参考例)
成形材料としてAW3G6(BASFジャパン株式会社製、直鎖型ポリアミド樹脂:PA(66ナイロン)、ガラス繊維含有量30wt%)を用い、実施例1と同じ金型、射出成形機を用いてペグを成形した。
成形は、樹脂乾燥温度120℃:3時間以上、成形温度280℃、金型温度130℃、射出時間0.97秒、冷却時間30秒の成形条件で行った。
成形されたペグについて実施例1と同様な測定と確認を行った。結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:5382N/mm2(5.3GPa)
・曲げ強度 :248N/mm2(248MPa)
・引き抜き力:10kgfで破断
(引っ張る力が10kgfに達したときにペグが地面から完全に抜けないまま破断)
・質量:30.5g
・ペグの先端部の変形は確認されなかった。
【0034】
(比較例1)
成形材料としてUMG1001(テクノポリマー株式会社製、ABS樹脂、繊維状物の含有なし)を用い、実施例1と同じ金型、射出成形機を用いてペグを成形した。
成形は、樹脂乾燥温度80℃:3時間以上、成形温度220℃、金型温度80℃、射出時間1.8秒、冷却時間30秒の成形条件で行った。
成形されたペグについて実施例1と同様な測定と確認を行った。結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:1820N/mm2(1.8GPa)
・曲げ強度 :76N/mm2(76MPa)
・引き抜き力:ハンマーで叩いてもペグが撓んで地面に刺さらないため試験を実施できなかった。
・質量:23.8g
・ペグの先端部の変形は確認されなかった。
【0035】
前記各実施例
と参考例、比較例1の成形材料や測定結果を表1に示す。
【表1】
【0036】
また、市販のテント用ペグについて前記実施例と同様な試験を行った。
(比較例2)
PCフックペグ23cm(キャプテンスタッグ株式会社製、ABS樹脂、繊維状物の含有なし、全長230mm)について、前記実施例1と同じ曲げ試験、引き抜き試験、質量の測定を行った。結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:2370N/mm2(2.4GPa)
・曲げ強度 :99N/mm2(99MPa)
・引き抜き力:9kgfで破断
・質量:23.8g
【0037】
(比較例3)
ソリッドステーク30(スノーピーク社製、鉄製、全長300mm)について、前記実施例1と同じ引き抜き試験、質量の測定を行った。結果を以下に示す。なお、このペグは鉄製であり、樹脂製のペグよりも曲げ強度は大きな値を示すことが明らかなので曲げ試験は行わなかった。
・引き抜き力:60kgfで破断せず
・質量:179.1g
【0038】
(比較例4)
ユニフレーム海ペグ400(新越ワークス株式会社製、ポリアセタール樹脂、繊維状物の含有なし、全長400mm)について、前記実施例1と同じ曲げ試験、引き抜き試験、質量の測定を行った。結果を以下に示す。
・曲げ弾性率:1626N/mm2(1.6GPa)
・曲げ強度 :65N/mm2(65MPa)
・引き抜き力:ハンマーで叩いてもペグが撓んで地面に刺さらないため試験を実施できなかった。
・質量:87g
【0039】
【0040】
前記各実施例と比較例1の測定結果から、熱可塑性樹脂に繊維状物を含む材料を用いて、曲げ強度と曲げ弾性率がともに良好で高硬度のテント用ペグを射出成形により成形可能であることが確認できた。
また、前記各実施例のテント用ペグは、比較例2と比較例4の市販の樹脂製ペグよりも、曲げ強度及び曲げ弾性率が各段に大きいことが確認され、本発明により市販の樹脂製のペグよりも剛性及び曲げ弾性に優れた樹脂製のペグを作製できることが検証された。また、前記各実施例のテント用ペグの質量は、比較例3の鉄製ペグの1/5以下であり、本発明のテント用ペグがキャンピングの荷物の重量軽減に貢献することは明らかである。
前記各実施例のテント用ペグのうち、実施例1と実施例5、実施例6の、成形樹脂として芳香族ポリアミド樹脂に炭素繊維を含ませたものを用いて成形した態様が、曲げ強度と曲げ弾性率が極めて良好であり、引き抜き力の測定結果も良好であることが確認された。
また、ダイレクトゲートでは、ジェッティングを起こすため、先端部が割れやすい場合があったが、サイドゲートであれば先端強度の強いものが得られることが確認された。
【0041】
また、前記各実施例と比較例2から4の試験結果に基づけば、テント用ペグに求められる実用上の性能は以下のように考察することができる。
一般的に風速(V)と風圧(P)には下記のような関係式がある。
P=1/2ρV
2 (ρ:空気の密度)
ここで、気温15℃、大気圧1013.25hPaの時の空気の密度を1.225kg/m
3とすると、風が強いと感じる風速5~8m/secとすると、風圧は約15.3~39.2Pa=1.6~4kgf/m
2となる。
例えば、風速15m/sec以上であれば、風圧は約138Pa=14.1kgf/m
2以上、風速19m/sec以上であれば、風圧は約221Pa=22.6kgf/m
2、風速20m/sec以上であれば、風圧は約245Pa=25kgf/m
2となる。
仮に、
図4に示される形状及びサイスのテントがあり、4本のロープとペグで支柱が固定されている場合、テントの片方の側面に垂直に風を受けたとする。この側面の面積は5m
2なので、風速5~8m/secの場合、約8~20kgf程度の荷重を受けることとなる。このとき、2本のロープとペグでテントの支柱を支えるため、各ロープとペグには、4~10kgfの荷重がかかる。同様に風速が15m/secのときは、各ロープとペグにかかる荷重は35.3kgf、風速が19m/secのときは56.4kgf、20m/secのときには63.5kgfの荷重がそれぞれかかる。
これらのことと、前記各実施例及び比較例の試験結果から、
図4に示されるような4人から6人用の大きさのテントであれば、引き抜き力が9kgf程度までで、弾性率が5000N/mm
2 のペグであれば、風速8m/secまでの環境下で使用できると推測され、他方、引き抜き力が10kgf未満であると風速8m/sec以上では使用することができないと推測される。
実施例から、風速5~8m/secで安全に使用するには、引き抜き力約10kgf以上、弾性率が5000N/mm
2以上であれば良く、弾性率が10000N/mm
2以上で、引き抜き力10kgf以上あれば、さらに安全に使用することができると推測される。
同様に、引き抜きが35kgf、弾性率が15000N/mm
2以上であれば、風速15m/sec程度までは使用可能であり、引き抜き力が60kgf、弾性率が20000N/mm
2であれば、風速が19m/sec以上、20m/sec未満までは十分に使用可能であり、台風レベルの風速にも耐えられる実用性を備えると推測される。
【0042】
これらのことから、実用上は、テント用ペグは曲げ弾性率が5000N/mm2以上であれば使用時にペグが曲がることはないと考えられる。強風時の利用を考えると10000N/mm2以上であることが好ましく、15000N/mm2以上であることがさらに好ましく、強風時でも安心して使用することができる。
また、実用上は、テント用ペグは引き抜き力が9kgf以上であれば、使用時にペグが抜けることはないと考えられる。強風時の利用を考えると30kgf以上であることが好ましく、この大きさの引き抜き力が確保されれば、強風時でも十分に安心して利用することが可能である。
【0043】
(実施例9)
実施例5で得られたペグを三本用い(ペグ1、ペグ2、ペグ3)、各ペグをウォータージェット加工機で、
図1に示すAD-AD線に沿った切断ライン、つまりペグの軸心を通るように軸線方向に沿った位置で切断して縦に二分した。切断した各ペグの一側の切断半面と他側の切断半面であって、外径が細くなる先端部分の切断面を撮影した。撮影した画像を
図5に示す。
各ペグの切断面を観察したところ、同図に示されるように、成形時に溶融樹脂中に存在した気泡による
空壁があることが観察された。ここでの空壁とは、樹脂が充填されず空気により形成された
間隙をいう。
JIS P 8208に規定される、パルプ-きょう雑物測定方法に準拠し、同測定方法のきょう雑物測定図表を用いて、前記観察された空壁の大きさを測定した。測定は、ペグの先端部の先細りする境界から先端部まで、つまり、ペグの外形が縮径し始める部分から先端部までの20mmの範囲(
図6中のL20で示す範囲)で行った。
図6は
図5を模写した線図であり、同図中に前記測定の結果、断面積が0.3mm
2以上の
空壁に符号Vを付してある。
図6において、
空壁の大きさは、ペグ1の
空壁V11が2.0mm
2、
空壁V12が0.5mm
2、
空壁V13が1.0mm
2、ペグ2の
空壁V21が1.5mm
2、
空壁V22が1.0mm
2、ペグ3の
空壁V31が0.3mm
2、
空壁V32が0.3mm
2、
空壁V33が0.1mm
2であった。
【0044】
(実施例10)
実施例6で得られたペグを三本用い(ペグ4、ペグ5、ペグ6)、実施例9と同様にして各ペグを切断し、断面を撮影した。撮影した画像を
図7に、画像を模写した線図を
図8にそれぞれ示す。
また、実施例9と同様にして、断面に表出した空壁の大きさを測定した。その結果、測定された
空壁は断面積が0.2mm
2以下であり、それよりも大きなものはなかった。
【0045】
実施例9の断面観察によれば、ペグの先端部に断面積が0.3~2.0mm2の大きさの空壁が確認された。
前記表1に示すとおり、実施例5のペグはダイレクトゲート(流動長手方向と同一方向に樹脂を射出)方式で金型内部に樹脂を射出して成形したものである。このペグの先端部に前記大きさの空壁が確認されたのは、ジェッティングが発生して射出された樹脂が冷えてしまい、後から充填される樹脂と十分に混ざり合うことができずに、初期流入した樹脂と後から入ってきた樹脂の接触部に気泡ができやすくなり、この気泡が空壁になったと考えられる。
それに対して、実施例10の断面観察によれば、ペグの先端部から20mmの長さの範囲では最大で断面積が0.2mm2の空壁が確認されただけで、大きな空壁がほとんど確認されなかった。
前記表1に示すとおり、実施例6のペグはサイドゲート(流動長手方向と直行する方向に樹脂を射出)方式で金型内部に樹脂を射出して成形したものである。このペグの先端部に大きな空壁ができないのは、サイドゲート方式の場合は、ジェッティングが発生しにくく、ペグの先端まで気泡を巻き込むことなく、射出した樹脂を密に充填できるため、ペグの先端に大きな気泡が生じず、それによる大きな空壁ができなかったものと考えられる。
前述した、ダイレクトゲートでは、ジェッティングを起こすため、先端部が割れやすい場合があるが、サイドゲートであれば先端強度の強いものが得られることが、前記ペグの切断面の観察により確認された。
【符号の説明】
【0046】
1 テント用ペグ(ペグ)、11 フック部、12 棒部、2 携帯三脚スタンド、3 滑車、4 ハンディロープ、5 吊りはかり、6 地面、V 空壁