(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】乳牛の飼料給与方法
(51)【国際特許分類】
A23K 10/30 20160101AFI20230308BHJP
A23K 50/10 20160101ALI20230308BHJP
【FI】
A23K10/30
A23K50/10
(21)【出願番号】P 2022032291
(22)【出願日】2022-03-03
【審査請求日】2022-03-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522084326
【氏名又は名称】門坂 隆晴
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100221006
【氏名又は名称】金澤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】門坂 隆晴
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-082961(JP,A)
【文献】登録実用新案第3122140(JP,U)
【文献】特開2009-22258(JP,A)
【文献】特許第3413169(JP,B1)
【文献】特開2017-169451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/30
A23K 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾乳期間中に、サイレージや繊維質飼料などの粗飼料と、配合飼料とを混合して調整した混合飼料を給与すること、
乾乳期間中に、タンパク質分解酵素を含むパイナップル由来飼料を給与すること、
前記タンパク質分解酵素は、酵素活性度が1日あたり600GDU以上となるように給与することで、分娩後における尿pHの上昇が抑制されることを特徴とする乳牛の飼料給与方法。
【請求項2】
前記タンパク質分解酵素は、酵素活性度が1日あたり600GDU~2400GDUとなるように給与することを特徴とする、
請求項1に記載の乳牛の飼料給与方法。
【請求項3】
前記タンパク質分解酵素は、酵素活性度が1日あたり2400GDU以上となるように給与することを特徴とする、
請求項1に記載の乳牛の飼料給与方法。
【請求項4】
前記パイナップル由来飼料を、前記混合飼料に均一になるように混ぜて給与する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の乳牛の飼料給与方法。
【請求項5】
前記混合飼料は、前記粗飼料がグラスサイレージ及びコーンサイレージが含まれる粗飼料であり、これを前記配合飼料と混合して調製した混合飼料である、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の乳牛の飼料給与方法。
【請求項6】
前記パイナップル由来飼料は、パイナップル粕を主原料として、カシューナッツ殻、酵素処理パイナップル根茎副産物を混合したものである、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の乳牛の飼料給与方法。
【請求項7】
前記乾乳期間の後期に前記混合飼料に加えて、乾乳期用配合飼料をトップドレスで給与する、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の乳牛の飼料給与方法。
【請求項8】
前記乾乳期間の後期は、前記乾乳期間の前期よりも前記混合飼料の給与量を少なくする、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の乳牛の飼料給与方法。
【請求項9】
前記混合飼料は、朝夕2回に分けて給与する、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の乳牛の飼料給与方法。
【請求項10】
水、塩、乾草は、自由採食とする、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の乳牛の飼料給与方法。
【請求項11】
スタンチョンが設置されたフリーパンで飼養し、飼料給与時にはスタンチョンをかけて他の牛の飼料が盗食をするのを防止する、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の乳牛の飼料給与方法。
【請求項12】
乾乳期間中に乳牛に給与することで、分娩後における尿pHの上昇が抑制される飼料であり、
サイレージや繊維質飼料などの粗飼料と、配合飼料とを混合して調製した混合飼料と、タンパク質分解酵素を含むパイナップル由来飼料とを含み、
前記タンパク質分解酵素が、乳牛の1日あたりの飼料に、酵素活性度が600GDU以上となる分量が含まれていることを特徴とする、乳牛用飼料。
【請求項13】
前記タンパク質分解酵素が、乳牛の1日あたりの飼料に、酵素活性度が600GDU~2400GDUとなる分量が含まれていることを特徴とする、
請求項12に記載の乳牛用飼料。
【請求項14】
前記タンパク質分解酵素が、乳牛の1日あたりの飼料に、酵素活性度が2400GDU以上となる分量が含まれていることを特徴とする、
請求項12に記載の乳牛用飼料。
【請求項15】
前記混合飼料は、前記粗飼料がグラスサイレージ及びコーンサイレージが含まれる粗飼料であり、これを配合飼料と混合して調製した混合飼料である、
請求項12乃至14のいずれか1項に記載の乳牛用飼料。
【請求項16】
前記パイナップル由来飼料は、パイナップル粕を主原料として、カシューナッツ殻、酵素処理パイナップル根茎副産物を混合したものである、
請求項12乃至15のいずれか1項に記載の乳牛用飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳牛の飼料給与方法及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳牛の飼料給与方法はいろいろ提案されている。例えば特許文献1では、分娩直前から分娩後30日以内に発症しやすい乳牛の乳熱(起立不能)や低カルシウム血症を予防するための、飼養管理の方法を提案している。
【0003】
一般に、イオンバランスに注意した飼料給与を行うが、イオンバランスが適切であるかどうかは、尿pH値を測り、確認される。尿pH値が、体内のイオンバランス(血液pH)の目安となるからである。尿pH値が8台で高産次の牛であれば、分娩後低カルシウム血症になる可能性があり、尿pH値を低くしたいという要求がある。
【0004】
一方、本願の発明者は、以前から牛乳や乳牛の飼育方法、飼料などの研究を行っており、例えば睡眠を誘導する牛乳などの機能性を有する牛乳や乳牛用の飼料を開発している(特許文献2、3参照)。今般、上記の課題についても、これを解決すべく、乳牛用の飼料の研究を進めていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-022258号公報
【文献】特開2016-082961号公報
【文献】特開2017-169451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そして、本願の発明者は、タンパク質分解酵素を含む飼料が、尿pH値に影響があることに注目し研究を重ねたところ、タンパク質分解酵素を含むパイナップル由来飼料を、乾乳期間中の一定期間において、一定の方法で乳牛に給与することで、分娩後において尿pH値の上昇抑制に大きく貢献することを見いだし、本発明をなしたものである。
【0007】
本発明は、分娩後においても、尿pH値の上昇が抑制される乳牛の飼料給与方法並びに乳牛用飼料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の態様の乳牛の飼料給与方法は、乾乳期間中に、サイレージや繊維質飼料などの粗飼料と、配合飼料とを混合して調整した混合飼料を給与すること、乾乳期間中に、タンパク質分解酵素を含むパイナップル由来飼料を給与すること、前記タンパク質分解酵素は、酵素活性度が1日あたり600GDU以上となるように給与することで、分娩後における尿pHの上昇が抑制されることを特徴とする。
【0009】
ここで、GDUはゼラチン消化単位である。このようにすれば、乾乳期間中に、タンパク質分解酵素の酵素活性度が所定分量以上含むようにパイナップル由来飼料を給与することで、分娩後においても、尿pH値上昇を抑制することができる。なお、配合飼料には、例えばビタミンなどの栄養が調整された乾乳期用の配合飼料などを用いることができる。
【0010】
また、この乳牛の飼料給与方法において、前記タンパク質分解酵素は、酵素活性度が1日あたり600GDU~2400GDUとなるように給与することが望ましい。このようにすれば、尿pH値上昇をさらに抑制することができる。
【0011】
また、この乳牛の飼料給与方法において、前記タンパク質分解酵素は、酵素活性度が1日あたり2400GDU以上となるように給与することが望ましい。このようにすれば、尿pH値上昇をさらに抑制することができる。
【0012】
また、この乳牛の飼料給与方法は、前記パイナップル由来飼料を、前記混合飼料に均一になるように混ぜて給与することを特徴とする。このようにすれば、混合飼料とパイナップル由来飼料が均一に混ざり合うことで、乳牛の喫食がよくなり、効果的である。
【0013】
また、この乳牛の飼料給与方法において、前記混合飼料は、前記粗飼料がグラスサイレージ及びコーンサイレージが含まれる粗飼料であり、これを前記配合飼料と混合して調製した混合飼料であることが望ましい。
【0014】
また、この乳牛の飼料給与方法は、前記パイナップル由来飼料は、パイナップル粕を主原料として、カシューナッツ殻、酵素処理パイナップル根茎副産物を混合したものであることが望ましい。
【0015】
また、この乳牛の飼料給与方法は、前記乾乳期間の後期に前記混合飼料に加えて、乾乳牛用配合飼料をトップドレスで給与することが望ましい。
【0016】
また、この乳牛の飼料給与方法は、前記乾乳期間の後期が、前記乾乳期間の前期よりも前記混合飼料の給与量を少なくすることが望ましい。このようにすれば、尿pH値上昇を抑制することに好適である。
【0017】
また、この乳牛の飼料給与方法は、前記混合飼料を朝夕2回に分けて給与すること、水、塩、乾草を自由採食とすることが望ましい。
【0018】
また、この乳牛の飼料給与方法は、スタンチョンが設置されたフリーパンで飼養し、飼料給与時にはスタンチョンをかけて他の牛の飼料の盗食をするのを防止する、ことが望ましい。
【0019】
本発明の一の態様の乳牛用飼料は、乾乳期間中に乳牛に給与することで、分娩後における尿pHの上昇が抑制される飼料であり、サイレージや繊維質飼料などの粗飼料と、配合飼料とを混合して調製した混合飼料と、タンパク質分解酵素を含むパイナップル由来飼料とを含み、前記タンパク質分解酵素が、乳牛の1日あたりの飼料に、酵素活性度が600GDU以上となる分量が含まれていることを特徴とする。
【0020】
このようにすれば、乾乳期間中に給与する飼料に、タンパク質分解酵素の酵素活性度が所定分量以上含むようにパイナップル由来飼料を含めることで、分娩後においても、尿pH値上昇を抑制することができる。
【0021】
また、この乳牛用飼料は、前記タンパク質分解酵素が、乳牛の1日あたりの飼料に、酵素活性度が600GDU~2400GDUとなる分量が含まれていることが望ましい。
【0022】
また、この乳牛用飼料は、前記タンパク質分解酵素が、乳牛の1日あたりの飼料に、酵素活性度が2400GDU以上となる分量が含まれていることが望ましい。
【0023】
また、この乳牛用飼料は、前記混合飼料は、前記粗飼料がグラスサイレージ及びコーンサイレージが含まれる粗飼料であり、これを前記配合飼料と混合して調製した混合飼料であることが望ましい。
【0024】
また、この乳牛用飼料は、前記パイナップル由来飼料が、パイナップル粕を主原料として、カシューナッツ殻、酵素処理パイナップル根茎副産物を混合したものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、分娩後においても、尿pH値上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る方法で飼料を給与したことによる試験結果を示す図である。
【
図2】本発明に係る方法で飼料を給与したことによる試験結果を示す図である。
【
図3】本発明に係る方法で飼料を給与したことによる試験結果を示す図である。
【
図4】本発明に係る方法で飼料を給与したことによる試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<実施形態>
以下、本発明に係る実施の形態を説明する。
本発明の一実施形態に係る乳牛の飼料給与方法は、乾乳期間中に、所定の乳牛用飼料を給与するものである。
【0028】
本実施形態の一例として、この乳牛用飼料は、グラスサイレージ及びコーンサイレージを含む粗飼料と、ビタミンなどの栄養が調整された乾乳期用の配合飼料とを混合して調製した混合飼料を給与し、タンパク質分解酵素を含むパイナップル由来飼料を、混合飼料内に均一になるように混ぜて給与し、タンパク質分解酵素は、酵素活性度が1日あたり600GDU~2400GDUとなるようにしたものである。なお、粗飼料や配合飼料は、その他の粗飼料や配合飼料を用いることもでき、GDUはゼラチン消化単位である。
【0029】
また、この乳牛用飼料に含まれるパイナップル由来飼料は、パイナップル粕を主原料として、カシューナッツ殻、酵素処理パイナップル根茎副産物を混合したものである。
【0030】
なお、乾乳期間とは、搾乳を始めて280日~300日たったら搾乳を止め、次の分娩に備えて所定期間乳牛を休ませる期間のことを言う。本実施形態においては、乾乳期間を分娩の8週前から分娩日までとし、乾乳前期を分娩予定日の8~3週前まで、乾乳後期を分娩予定日の3週前から分娩日までとして飼料を給与した。
【0031】
この場合、乳牛用飼料を、1日朝夕2回に分けて給与するが、乾乳後期は、乾乳前期よりも混合飼料の給与量を少なくしている。具体的には、一例として、乾乳前期を16kg/日、乾乳後期を10kg/日給与した。
【0032】
そして、乾乳後期には、混合飼料に加えて、乾乳牛用配合飼料をトップドレスで給与した。
【0033】
また、水、塩、乾草は、自由採食とし、スタンチョンが設置されたフリーパンで飼養し、飼料給与時にはスタンチョンをかけて他の牛の飼料を、盗食をするのを防止する。
【0034】
以上のようにして、本実施形態の乳牛用飼料を用いた乳牛の飼料給与方法によれば、タンパク質分解酵素の酵素活性度が1日あたり600GDU~2400GDUとなるようにしたパイナップル由来飼料が含まれる乳牛用飼料を、乾乳期間中に給与することで、乳牛の分娩後においても尿pH値上昇を抑制することができる。
【0035】
<効果試験>
次に、上記の乳牛用飼料及び乳牛の給与方法による効果を確認するために、酵素活性度の異なる3種類のパイナップル粕を乾乳牛に給与し、分娩前後の栄養代謝状態や尿pH値などにどのように影響を与えるかについて試験した。
【0036】
なお、飼料成分については、パイナップル粕、TMR調製に使用する配合飼料は、試験期間中に1回成分分析を行った。試験期間中、おおよそ2週間に1回の頻度で給与されたTMRの一部を採取し分析した。また、TMRの設計が変更した場合、使用するサイレージや乾草の調整日または収穫日が変更した場合にも、その都度成分分析を行った。そして、試験方法は次の通りである。
【0037】
(試験牛)
乾乳牛20頭を平均産次、BCS(ボディコンディションスコア)、分娩時期にばらつきのないよう群分けし、分娩予定日8週前から分娩後3週目まで調査を行った。
【0038】
(処理区)
5頭×4処理
・パインA区:パイナップル粕A(酵素活性度120,000GDU/18kg袋、1日600GDU/100g)を給与
・パインB区:パイナップル粕B(酵素活性度240,000GDU/18kg袋、1日1200GDU/100g)を給与
・パインC区:パイナップル粕C(酵素活性度480,000GDU/18kg袋、1日2400GDU/100g)を給与
・対照区:無処理
【0039】
ここで、パイナップル粕A,B,Cは、パイナップル由来飼料「パインMix-Up」(株式会社近藤榮一商店製)に、2400GDU/gのブロメラインを、50g(パインA区)、100g(パインB区)、200g(パインC区)それぞれを添加したものである。なお、GDUとは ゼラチン消化単位である。
【0040】
パインA区: 50g×2400GDU/g=120,000GDU/袋
パインB区:100g×2400GDU/g=240,000GDU/袋
パインC区:200g×2400GDU/g=480,000GDU/袋
【0041】
・飼料は、朝夕2回(午前5時頃と午後3時半頃)に分けて給与した。
・試験牛は、スタンチョンが設置されたフリーパンで飼養し、飼料給与時にはスタンチョンをかけて他の牛の飼料を盗食できないようにした。
・乾乳期間中に、グラスサイレージ及びコーンサイレージと、乾乳期用配合飼料を混合して調製した混合飼料(TMR)を、乾乳前期(分娩予定日8~3週前まで)は16kg/日、乾乳後期(分娩予定日3週前から分娩日まで)は10kg/日給与した。
【0042】
・乾乳後期には、前記TMRに加えて、乾乳期用配合飼料を分量が4kg/日となるよう、トップドレスで給与し、パイン区の牛には、パイン区ごとに酵素活性度の異なるパイナップル由来飼料(パイナップル粕を主原料として、カシューナッツ殻、酵素処理パイナップル根茎副産物を混合したもの)100g/日、TMR内に均一になるよう手で混ぜて給与した。
・水、塩(鉱塩セレニクス)、乾草は、対照区、パイン区ともに自由採食とした。
【0043】
【0044】
【0045】
・BCS、RFSについて
週1回、朝10時頃にBCSとRFS(ルーメンフィルスコア)のチェックを行った結果を表1にBCS,RFS、尿pH値をしめす。BCSにおいて、分娩時に対照区と比較してパインB区が低い傾向にあった。分娩後3週目のBCSは,対照区と比較してパインA,B区で低いスコアであった。RFSに差はなかった。
【0046】
・尿pH値について
分娩予定日8週前,3週前、1週前、分娩後0週目及び1週目に、簡易pHメータを用いて尿pH値を測定した。その結果を表1に示す。
【0047】
対照区の平均尿pH値が乾乳時から分娩1週間前までの期間中にやや上昇しているのに対し、どのパイン区も、維持若しくはやや減少していることから、少なくとも乾乳期中のブロメラインを含むパイナップル由来飼料の給与は、尿pH値の上昇を抑制する効果があると認められる。特に、パインC区において効果が大きくなっている。
【0048】
・血液性状及び乳量
分娩予定日8週前(乾乳時)、3週前、1週前、分娩後0週目及び1週目に採血し、TP、BUN,総コレステロール(Tーcho)、ケトン体分画、NEFA,Ca,P、Mg、AST、γーGTP、血糖を分析した。また、初乳の乳量とBrix値を記録した。
【0049】
図1~4に血液性状及び乳量の推移を示す。なお、パインC区では、分娩後試験牛の1頭が安楽殺となったので、分娩後の統計処理では4頭分のデータを用いている。
【0050】
分娩後3週目の血中Ca濃度は、対照区と比較してパインC区の値が高かった。また、3週目の血中P濃度は、対照区と比較してパインA区で低い傾向にあった。また、乳量に差は見られなかった。
【0051】
血中Ca濃度は、分娩後3週目で、パインC区で高い値を示すことから、ブロメラインを含むパイナップル由来飼料給与には、Caイオン分泌経路をブロックする(つまり、乳中に移行するCaを減少させ、血中Ca濃度の低下を抑制する)ことが認められた。
【0052】
よって、パインA区~C区を乾乳牛に給与することで、パインを含まない対照区では乾乳時から乾乳時にかけて尿pHが上昇しているところ、パインA区~C区では乾乳時から乾乳時にかけて尿pHの上昇が抑制されており、分娩後においても、尿pH値の上昇が抑制された。特に、パインC区では、尿pH値の上昇を抑制する効果がより大きく、分娩後の血中Ca濃度の低下を防ぐことも認められる。
【0053】
なお、乾乳期から分娩後3週まで、低Ca血症、ケートシス、入熱、第四胃変異、後産停滞、子宮炎の発生を観察したが、パイン区間には、分娩後の低Ca血症の発症率等に差はみられなかった。
【0054】
また、パインC区で最も効果的であることから、酵素活性度がより高くなるようタンパク質分解酵素を含むパイナップル由来飼料の分量をさらに増加させた飼料とすることで、尿pH値の上昇をさらに抑制することが予測される。ただし、パイナップル由来飼料を増加させすぎると、飼料の味が大きく変化したり、乳牛用飼料全体の栄養バランスが崩れるたりするため、最大でも6kg程度が上限と考えられる。
【0055】
以上の試験結果から、上記した乳牛用飼料を用いた乳牛の飼料給与方法を行うことで、タンパク質分解酵素の酵素活性度が1日あたり600GDU以上となるようにしたパイナップル由来飼料が含まれる乳牛用飼料を、乾乳期間中に給与することで、乳牛の分娩後においても尿pH値上昇を抑制することができることが示された。
【0056】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲に含まれる。
【要約】
【課題】 分娩後においても、乳牛の尿pH値の上昇を抑制する。
【解決手段】 乾乳期間中に、サイレージや繊維質飼料などの粗飼料と、配合飼料とを混合して調整した混合飼料を給与すること、タンパク質分解酵素を含むパイナップル由来飼料を給与すること、前記タンパク質分解酵素は、酵素活性度が1日あたり600GDU以上となるように給与することを特徴とする乳牛の飼料給与方法。また、パイナップル粕を主原料として、カシューナッツ殻、酵素処理パイナップル根茎副産物を混合したパイナップル由来飼料を、前記混合飼料内に均一になるように混ぜて給与する。
【選択図】
図4