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特許7239810モールドパウダー及び高Mn鋼の連続鋳造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】モールドパウダー及び高Mn鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20230308BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
B22D11/108 F
B22D11/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019013920
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020121320
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】中谷 枝里香
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正典
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108479954(CN,A)
【文献】特開2001-353561(JP,A)
【文献】特開2012-030248(JP,A)
【文献】特開2012-030247(JP,A)
【文献】特開2003-290888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOとCaOを主成分として含み、
CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.60以上0.9未満であり、
Alの含有量は12.0~25.0質量%であり(ただし、Alの含有量が15質量%以下の場合を除く)、
LiO、NaO、MgO、B及びFの含有量の合計は5.0~15.0質量%であり、
MnOの含有量は0.5質量%以下であり、
1300℃における粘度が1.0~10Pa・sであることを特徴とするモールドパウダー。
【請求項2】
SiOとCaOを主成分として含み、
CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.60以上1.0未満であり、
Alの含有量は12.0~25.0質量%であり(ただし、Alの含有量が15質量%以下の場合を除く)、
LiO、NaO、MgO、B及びFの含有量の合計は5.0~15.0質量%であり、
MnOの含有量は0.5質量%以下であり、
1300℃における粘度が1.0~10Pa・sであることを特徴とするモールドパウダー(ただし、ZrOの含有量が3~15質量%の場合を除く)。
【請求項3】
Mnの含有量が10~30質量%である高Mn鋼の連続鋳造において、鋳型内の溶鋼表
面に、請求項1又は2に記載のモールドパウダーを添加することを特徴とする高Mn鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドパウダー及び高Mn鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
〔鋼の連続鋳造とモールドパウダー〕
鋼の連続鋳造とは、溶鋼を連続鋳造機の鋳型に流し込んで冷却、固化しながら、固化した凝固殻を鋳型の下方向から引き抜くことを連続的に行うことにより、鋼を連続的に鋳造することをいう。鋳型内の溶鋼の表面には、粉末状又は顆粒状のモールドパウダーが添加される。モールドパウダーは溶鋼の熱によって溶融し(以下、モールドパウダーが溶融している状態のものをパウダースラグという)、鋳型と凝固殻との間に流入し、フィルム(スラグフィルム)に変化する。モールドパウダーの主な役割は(1)溶鋼表面の保温及び酸化防止、(2)溶鋼から浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化、(3)鋳型/凝固殻間の潤滑の保持、(4)凝固殻から鋳型への熱伝導の抑制及び凝固殻の冷却の均一化等である。
【0003】
モールドパウダーの化学組成は一般にCaOとSiOを主成分として含み、Al、LiO、NaO、MgO、F、C等が付加される。SiO、Alはパウダースラグの粘度を高める成分であり、LiO、NaO、F、CaO、MgO等はパウダースラグの粘度を低くする成分である。
【0004】
モールドパウダーの原料は基材原料、シリカ原料、フラックス原料及び/又はその他の原料で構成される。基材原料としては、例えば、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、リンスラグ、高炉スラグ、ダイカルシウムシリケート、炭酸カルシウム、石灰石、生石灰、セメント類等が挙げられ、主成分のCaOとSiOを供給する。シリカ原料としては、例えば、パーライト、フライアッシュ、珪砂、長石、珪石粉、珪藻土、ガラス粉、シリカフラワー等が挙げられ、モールドパウダーの質量比(CaO/SiO)を調整する。フラックス原料としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、氷晶石、蛍石、ホウ酸、ホウ砂、コレマナイト等が挙げられ、モールドパウダーの溶融特性を調整する。その他の原料としては、例えば、炭素原料、マグネシア、アルミナ等が挙げられる。炭素原料としては、例えば、コークス、グラファイト、カーボンブラック等が挙げられ、モールドパウダーの溶融速度を調整する。
【0005】
なお、モールドパウダーは溶鋼温度まで加熱すると分解、酸化等の化学反応を生じるため、化学組成は加熱前後で変動する。そこで、本明細書は、モールドパウダーの化学組成を、FとC以外の成分については酸化物換算での質量%で表し、Fについては単体換算での質量%で表し、Cについては炭素原料として添加されるものは単体換算での質量%で表し、炭素原料として添加されるもの以外のC(炭酸カルシウムのC等)は消失するものとする。
【0006】
〔モールドパウダーの粘度と質量比(CaO/SiO)〕
パウダースラグの粘度が低くなると、鋳型と凝固殻との間に流入するパウダースラグが不均一になるため凝固殻の冷却が不均一になり、さらに、パウダースラグの液滴が溶鋼中に離脱して巻き込まれ、鋳片の表面品質が悪化する。そこで、特許文献1は、鋼の連続鋳造において小断面サイズの丸鋳片でもブレークアウト等の操業トラブルを発生させず、表面欠陥のない健全な品質の鋳片を得るためのモールドパウダーとして、1573Kにおける粘度が0.8Pa・s以上であり、質量比(CaO/SiO)が0.3~1.5であり、結晶化温度が1273K以上であることを特徴とするモールドパウダーを開示する。
【0007】
特許文献2は、連続鋳造機の腐食と排水中のフッ素濃度を低減するためのモールドパウダーとして、化学組成が、SiO:25~70重量%、CaO:10~50重量%、MgO:20重量%以下、F:0~2重量%(不可避不純物)の範囲内にあり、1300℃での粘度が4ポイズ以上であるモールドパウダーを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-239352号公報
【文献】WO00/033992
【文献】特開2013-006188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
〔高Mn鋼の連続鋳造〕
ところで、Mnの含有量が10~30質量%である高Mn鋼は鋳造時にオーステナイト単相で凝固を完了し、粗大なオーステナイト柱状粒が形成される。この粒界が割れの起点や伝播経路となり、さらに800℃以下では脆化するため、熱間加工性が低下する。したがって、高Mn鋼は割れ感受性が高く、縦割れ、表面きず、へこみ等の欠陥が発生しやすい。
【0010】
そこで、高Mn鋼の鋳片表面の品質向上とパウダースラグの巻き込み抑制を目的として、特許文献1、2が開示する高粘度のモールドパウダーを適用すると、次の問題があった。すなわち、高Mn鋼を連続鋳造する場合、鋼中のMnとパウダースラグ中のSiOとの酸化還元反応によってMnOが生成され、パウダースラグ中に拡散し、パウダースラグ中のSiOは減少する(以下、組成変動という)。ここで、MnOはパウダースラグの粘度を低くする成分である。つまり、組成変動はパウダースラグの粘度を高めるSiOを減少させ、パウダースラグの粘度を低くするMnOを増加させるため、パウダースラグの粘度を低くする。このように、連続鋳造中の組成変動が大きいとモールドパウダーの粘度、凝固点、結晶化温度等の変動が大きくなるため、連続鋳造を安定的に行うことが困難になる。特許文献1、2のモールドパウダーはいずれも質量比(CaO/SiO)が小さな範囲を含み、SiOの含有量が比較的多いため、組成変動が比較的大きくなり、パウダースラグの粘度を高く維持することが困難であるという問題があった。
【0011】
この問題に対し、特許文献3は、MnOを所定量含有することによって、溶鋼との反応を抑制して安定操業を可能にするとともに良好な表面品質の連続鋳造鋳片を製造することができる連続鋳造用モールドフラックス(モールドパウダーと同義)を開示する。しかし、Mn原料は健康有害性を否定できないため、モールドパウダー中に配合した場合、粉じん等へのばく露による作業者への健康影響が懸念される。
【0012】
本発明のいくつかの態様は上記実状を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高Mn鋼の連続鋳造においてMnOを含有しなくてもパウダースラグの組成変動を抑制し、パウダースラグの高い粘度を維持することができるモールドパウダーを提供すること及び連続鋳造を安定的に行い、良好な表面品質を有する鋳片を得ることができる高Mn鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の一の態様は、SiOとCaOを主成分として含み、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.60以上1.0未満であり、Alの含有量は12.0~25.0質量%であり、LiO、NaO、MgO、B及びFの含有量の合計は3.0~15.0質量%であり、MnOの含有量は0.5質量%以下であり、1300℃における粘度が1.0~10Pa・sであることを特徴とするモールドパウダーに関する。
【0014】
モールドパウダーは、SiOとCaOを主成分として含み、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.60以上1.0未満であり、Alの含有量は12.0~25.0質量%であり、LiO、NaO、MgO、B及びFの含有量の合計は3.0~15.0質量%であり、1300℃における粘度が1.0~10Pa・sであることから、MnOの含有量が0.5質量%以下であっても、高Mn鋼の連続鋳造においてパウダースラグの組成変動を抑制することができ、パウダースラグの高い粘度を維持することができる。
【0015】
(2)本発明の一の態様では、質量比(CaO/SiO)は0.60以上0.90未満であることが好ましい。パウダースラグの高い粘度を維持しやすいからである。
【0016】
(3)本発明の他の態様は、Mnの含有量が10~30質量%である高Mn鋼の連続鋳造において、鋳型内の溶鋼表面に、本発明の一の態様のモールドパウダーを添加することを特徴とする高Mn鋼の連続鋳造方法に関する。
【0017】
高Mn鋼の連続鋳造において、鋳型内の溶鋼表面に、本発明の一の態様のモールドパウダーを添加すると、パウダースラグの組成変動を抑制することができ、パウダースラグの高い粘度を維持することができる。したがって、連続鋳造を安定的に行うことができ、良好な表面品質を有する鋳片を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0019】
本実施形態のモールドパウダーは、SiOとCaOを主成分として含み、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.60以上1.0未満であり、Alの含有量は12.0~25.0質量%であり、LiO、NaO、MgO、B及びFの含有量の合計は3.0~15.0質量%であり、MnOの含有量は0.5質量%以下であり、1300℃における粘度が1.0~10Pa・sである。
【0020】
〔質量比(CaO/SiO)〕
モールドパウダーはSiOとCaOを主成分として含有する。CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.60以上1.0未満であり、好ましくは0.60以上0.90未満であり、さらに好ましくは0.70以上0.90未満である。質量比(CaO/SiO)が0.60未満の場合、モールドパウダー中のSiOの含有量が比較的多いため、高Mn鋼中のMnとの酸化還元反応によってMnOが生成され、パウダースラグ中に拡散し、パウダースラグの組成変動が大きくなる。このため、パウダースラグの粘度、凝固点、結晶化温度等の特性がモールドパウダー設計時から大きく変動し、連続鋳造を安定的に行うことが困難であるだけでなく、鋳片品質を悪化させる。一方、質量比(CaO/SiO)が1.0より大きい場合、モールドパウダー中のSiOの含有量が比較的少ないため、パウダースラグの粘度を高く維持することが困難である。
【0021】
〔1300℃における粘度〕
モールドパウダーの1300℃における粘度は1.0~10Pa・sであり、より好ましくは1.5~8.0Pa・sである。モールドパウダーの1300℃における粘度が1.0Pa・sより低い場合、パウダースラグの粘度を高く維持することが困難である。また、パウダースラグの粘度が組成変動によって1300℃で0.80Pa・sより低くなると、鋳型と凝固殻との間に流入するパウダースラグが不均一になるため凝固殻の冷却が不均一になり、さらに、パウダースラグの液滴が溶鋼中に離脱して巻き込まれ、鋳片の表面品質が悪化する。一方、モールドパウダーの1300℃における粘度が10Pa・sより高い場合、鋳型と凝固殻との間に流入するパウダースラグが不足し、焼き付きや拘束性ブレークアウトを引き起こす可能性が高くなる。
【0022】
〔Al
Alはパウダースラグの粘度を高める成分である。既に述べたように、パウダースラグの粘度を高くするためには質量比(CaO/SiO)を小さくすることが効果的であるが、モールドパウダー中のSiOの含有量が多くなると、高Mn鋼の場合、溶鋼中のMnとの酸化還元反応が促進されるため、組成変動が大きくなり、パウダースラグの粘度が大きく変動する。これに対し、AlはMnによって還元されないので、高Mn鋼の場合であってもパウダースラグの組成変動が小さく、粘度を高く維持することができる。モールドパウダー中のAlの含有量は5.0~25.0質量%であり、好ましくは12.0~25.0質量%であり、より好ましくは12.0~23.0質量%であり、さらに好ましくは14.0~23.0質量%である。モールドパウダー中のAlの含有量が5.0質量%より少ない場合、モールドパウダーの1300℃における粘度を1.0Pa・s以上にすることと高Mn鋼の連続鋳造において組成変動を抑制することによって高粘度を維持することの両立は困難である。一方、モールドパウダー中のAlの含有量が25.0質量%より多い場合、パウダースラグの粘度が高くなりすぎ、鋳型と凝固殻との間の潤滑を保持できない。
【0023】
〔LiO、NaO、MgO、B及びF〕
モールドパウダー中のLiO、NaO、MgO、B及びFの含有量の合計は3.0~15.0質量%が好ましく、より好ましくは5.0~13.0質量%である。モールドパウダー中のLiO、NaO、MgO、B及びFの含有量の合計が3.0質量%より少ない場合、モールドパウダーは溶融しにくく、モールドパウダーの役割を果たせない。一方、モールドパウダー中のLiO、NaO、MgO、B及びFの含有量の合計が15.0質量%より多い場合、これらの成分はパウダースラグの粘度を低くすることから、モールドパウダーの1300℃における粘度を1.0Pa・s以上にすることが困難である。
【0024】
〔MnO〕
モールドパウダー中のMnOは不可避不純物としてのみ含まれ、含有量は0.5質量%以下である。
【0025】
〔モールドパウダーの原料〕
本実施形態のモールドパウダーの原料は基材原料、シリカ原料、フラックス原料及び/又はその他の原料で構成される。基材原料としては、例えば、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、リンスラグ、高炉スラグ、ダイカルシウムシリケート、炭酸カルシウム、石灰石、生石灰、セメント類等が挙げられる。シリカ原料としては、例えば、パーライト、フライアッシュ、珪砂、長石、珪石粉、珪藻土、ガラス粉、シリカフラワー等が挙げられる。フラックス原料としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、氷晶石、蛍石、ホウ酸、ホウ砂、コレマナイト等が挙げられる。その他の原料としては、炭素原料、マグネシア、アルミナ等が挙げられる。炭素原料としては、例えば、コークス、グラファイト、カーボンブラック等が挙げられる。モールドパウダーの形態としては、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒等が挙げられる。
【実施例
【0026】
以下に実施例を示し、本実施形態のモールドパウダーを詳細に説明する。
【0027】
表1に、実施例1~14に供されたモールドパウダーの設計時の化学組成と、高Mn鋼の連続鋳造に用いられ、組成変動後のモールドパウダーの化学組成と、高Mn鋼の連続鋳造の評価結果を示し、表2に比較例を示す。
【表1】
【表2】
【0028】
〔評価方法〕
モールドパウダーの粘度は、白金球引き上げ法により測定した。すなわち、モールドパウダーを1300℃に加熱し、溶融状態の120gのパウダースラグ中に直径10mmの白金球を吊り下げ、8.5mm/sの速さで引き上げた際の抵抗力を測定し、ストークスの式を用いて粘度(η)(単位:Pa・s)を求めた。組成変動後の粘度は、高Mn鋼の連続鋳造後に採取したモールドパウダー(スラグフィルム片)を組成分析し、その組成に合わせて調合したモールドパウダーを使用して測定した。
【0029】
モールドパウダーの粘度の評価は、設計時は1.5≦η≦8.0の場合は◎、1.0≦η<1.5又は8.0<η≦10の場合は○、それ以外の場合は×とし、組成変動後は、1.5≦η≦8.0の場合は◎、0.8≦η<1.5の場合は○、それ以外の場合は×とした。
【0030】
操業面の評価は、ブレークアウト予知やモールドパウダーの溶融不良がなく、操業上の問題がない場合は◎、モールドパウダーの溶融不良は発生するが操業上大きな問題とならない場合は○、ブレークアウト予知の発報や操業上問題となるようなモールドパウダーの溶融不良が発生する場合は×とした。
【0031】
鋳片品質の評価は、鋳片に縦割れ、表面きず、へこみ等の欠陥が見られない場合は◎、欠陥がそのまま圧延しても問題ない程度の場合は○、鋳片に品質上問題となるような欠陥が発生している場合は×とした。
【0032】
総合評価は、粘度、操業面、鋳片品質が全て◎と評価された場合は◎、粘度、操業面、鋳片品質のいずれかが○以上と評価された場合は○、粘度、操業面、鋳片品質のいずれか一つでも×と評価された場合は×とした。
【0033】
〔評価結果〕
実施例1~14は、いずれも組成変動前後の粘度は良好であり、安定した操業を行うことができ、鋳片の品質も良好であった。質量比(CaO/SiO)は0.60以上1.0未満であり、Alの含有量は5.0~25.0質量%であり、LiO、NaO、MgO、B及びFの含有量の合計が3.0~15.0質量%であるため、パウダースラグの組成変動と粘度の変動が小さく、いずれのモールドパウダーも組成変動後に1300℃において0.8Pa・s以上の高粘度を維持することができたと考えられる。実施例1、3、8、11の総合評価が◎であることから、Alの含有量は14.0~23.0質量%が特に好ましいと考えられる。
【0034】
比較例1は、組成変動後の粘度の低下や操業の不安定さ、鋳片品質の悪化が認められた。質量比(CaO/SiO)が0.60より小さいため、パウダースラグの組成変動が大きく、パウダースラグの粘度の変動が大きくなったと考えられる。
【0035】
比較例2は、組成変動後の粘度の低下や鋳片品質の悪化が認められた。質量比(CaO/SiO)が1.0より大きいため、組成変動後のパウダースラグの粘度が低くなりすぎたと考えられる。このため、鋳型/鋳片間へのパウダースラグの流入が不均一になり、凝固殻の冷却速度が不均一になったと考えられる。さらに、パウダースラグの液滴が溶鋼中に離脱して巻き込まれたと考えられる。
【0036】
比較例3は、組成変動前後の粘度の低下や鋳片品質の悪化が認められた。Alの含有量が5.0質量%より少ないため、パウダースラグの粘度が低くなりすぎたと考えられる。このため、鋳型/鋳片間へのパウダースラグの流入が不均一になり、凝固殻の冷却速度が不均一になったと考えられる。さらに、パウダースラグの液滴が溶鋼中に離脱して巻き込まれたと考えられる。
【0037】
比較例4は、組成変動前の粘度の上昇や操業の不安定さが認められた。Alの含有量が25.0質量%より多いため、パウダースラグの粘度が高くなりすぎ、鋳型/鋳片間の潤滑を保持できなかったと考えられる。
【0038】
比較例5は、操業の不安定さが認められた。LiO、NaO、MgO、B、Fの含有量の合計が3.0質量%より少ないため、モールドパウダーの十分な溶融特性を確保できなかったと考えられる。
【0039】
比較例6は、組成変動前後の粘度の低下や鋳片品質の悪化が認められた。LiO、NaO、MgO、B、Fの含有量の合計が15.0質量%より多いため、パウダースラグの粘度が低くなりすぎたと考えられる。このため、鋳型/鋳片間へのパウダースラグの流入が不均一になり、凝固殻の冷却速度が不均一になったと考えられる。さらに、パウダースラグの液滴が溶鋼中に離脱して巻き込まれたと考えられる。
【0040】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の製造装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。